弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告が中九州観光株式会社に対してなして昭和四六年度から昭和四八年度まで各一
〇〇万円合計三〇〇万円のゴルフ場補助金交付処分を取消す。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の事実上の陳述
一 請求原因
1 被告は、福岡県大牟田市<以下略>中九州観光株式会社(代表者代表取締役 
A。以下、訴外会社という。)に対し、中九州カントリークラブゴルフ場(以下、
本件ゴルフ場という。)につき昭和四六年度から昭和四八年度まで各一〇〇万は合
計三〇〇万円の補助金を交付する旨の処分(以下、本件補助金交付処分という。)
をなした。
2 しかしながら、本件補助金交付処分は、何らの法令にも基づかない違法なもの
であるから、原告は被告に対し、地方自治法二四二条の二、一項二号により右処分
の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁
(本件補助金交付処分の適法性)
本件補助金交付処分は、地方自治法二三二条の二に基づいて行なわれたものである
が、次の理由により、「公益上必要がある場合」に該当するので、適法なものであ
る。
1 訴外会社はその経営する本件ゴルフ場を創設したことにより、<地名略>およ
び不特定多数の同町民に対し、次のような利益をもたらしている。すなわち、第一
に、本件ゴルフ場は、事務員等として二〇名、キヤデイとして平日は一日平均五〇
名(休日は同六〇名)、芝整備等の人夫として一日平均一五名の従業員を雇用して
いるが、<地名略>民がその約九割を占めている等、同町民に同町内において働ら
く場を提供し、もつて、町内産業を振興し、同町の人口が流出するのを防止するこ
とに寄与している。第二に、本件ゴルフ場が<地名略>にあることにより、同町は
訴外会社から昭和四六年度は九三万六〇〇〇円、昭和四七年度は九七万七〇〇〇
円、昭和四八年度は一一四万九〇〇〇円(見込み)の固定資産税の納付をうけるほ
か、熊本県から昭和四六年度は一四六万二〇〇〇円、昭和四七年度は二五一万八〇
〇〇円、昭和四八年度は六〇〇万円(見込み)の娯楽施設利用税交付金の交付を受
けることができる等、<地名略>財政が豊かになるという利益がある。第三に、訴
外会社は、肥料・燃料等の物資を<地名略>の業者より購入するので、右業者らは
相当の利益をえている。第四に、本件ゴルフ場は、<地名略>民の健全な娯楽施設
として、また美しい町づくりに役立つている。
2 加えて、被告が本件ゴルフ場を<地名略>に誘致するについては、次のような
事情があつた。すなわち、本件ゴルフ場の敷地は、もともと<地名略>を計画・推
進主体、同町土地改良区を事業主体とし、栗園造成を目的とする団体営パイロツト
事業の用地であり、右事業は昭和四四年五月熊本県知事の認可を得て、その用地買
収も終つたのであるが、その後大雨があつて右用地に近接する造成地が崩壊し、下
流の田畑に被害を及ぼしたことから、前記事業につき災害補償契約の事前締結等が
問題となり、結局同年八月右事業は中止のやむなきに至つた。そこで、被告は善後
策として<地名略>出身者であるAに前記事業用地にゴルフ場を建設することを依
頼し、同人がそれを応諾したため、<地名略>は窮状を脱した。
また、昭和四六年夏、本件ゴルフ場に水害が発生し、訴外会社に特別の出資があつ
た。
3 そこで、被告は、前記1および2の事情を考慮したうえ、<地名略>における
産業の振興を図る目的で、<地名略>工場設置奨励条例の精神に則り、本件補助金
交付処分を行なつた。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は争う。本件補助金交付処分は、<地名略>工場設置奨励条例に基づいて
行なわれたものであるが、本来本件ゴルフ場に右条例を適用することはできないの
であるから、右処分は違法である。仮に、本件補助金交付処分が地方自治法二三二
条の二に基づいて行なわれ、また被告主張の事実が認められたとしても、訴外会社
は営利を目的とする私企業で、本件ゴルフ場も私的利益追求のため建設したもので
あり、それにより<地名略>のうける若干の利益は、右経営に伴う一結果にすぎな
いのであるから、本件補助金交付処分は公益上必要がある場合にあたらず、違法と
いうべきである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 1そこで、本件補助金交付処分がいかなる法令に基づいて行なわれたかについ
て検討するに、成立に争いない甲第一号証、乙第三号証、証人Bの証言によつて真
正に成立したと認める乙第六号証、同証人および証人Cの各証言によれば、本件補
助金交付処分は地方自治法二三二条の二に基づいて行なわれたことが認められ、他
に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 そこで、本件補助金交付処分が<地名略>の公益上必要な場合に該当するかど
うかについて検討する。
(一) 前掲甲第一号証、乙第三号証、第六号証、原本の存在および成立に争いな
い甲第三、第四号証、証人Aおよび同Cの各証言により真正に成立したと認める乙
第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第八号証の一、二、一四
ないし一八、証人B、同A、同Cの各証言および原告本人の供述を総合すると、次
の事実が認められる。
(1) 訴外会社はその経営する本件ゴルフ場により、<地名略>および同町民に
対し、直接、間接に次のような利益をもたらしている。すなわち、第一に、<地名
略>には未開発地が多いうえ、本件ゴルフ場のある臼間山は、シラス地帯で利用価
値が少ないだけでなく、これを開発するには水害防止などに多額の費用を要する等
土地開発にはもともと不適であつたが、訴外会社によりゴルフ場用地として開発が
なされた結果、同町に災害防止を兼ねた健全な娯楽産業の実現をみた。第二に、本
件ゴルフ場は、事務員等として約二〇名、キヤデーとして平日は一日平均約五〇名
(休日は同約六〇名)、芝整備等の人夫として一日平均約一五名の従業員を雇用し
ているが、その八割が<地名略>民である等、相当多数の町民に稼動場所を提供し
て同町の人口が流出するのを防止する利益をもたらしている。第三に、訴外会社は
<地名略>に対し、昭和四六年度は九三万六〇〇〇円、昭和四七年度は九七万七〇
〇〇円、昭和四八年度は約一〇〇万円の固定資産税を納付したほか、訴外会社がゴ
ルフ場を経営し、熊本県へ娯楽施設利用税を納付したことに伴い、熊本県から<地
名略>に対し、昭和四六年度は一四六万二〇〇〇円、昭和四七年度は二五一万八〇
〇〇円、昭和四八年度は約六二〇万円、昭和四九年度第一期は約三四〇万円(第四
期まである。)の娯楽施設利用税交付金が交付され、しかもこれらが年々増加する
ことが予想される等して、<地名略>の自主財源が増加し、町財政が豊かになると
いう利益をもたらしている。第四に、<地名略>外から多数のゴルフ場利用者が来
町し、同町内の商店等を利用するだけでなく、訴外会社が肥料・食料品等の物資を
原則として<地名略>の業者から購入するため、それから恩恵をうける業者がいる
とともに、同町に活気を与えている。
(2) 加えて、被告が本件ゴルフ場を<地名略>に誘致するについては次のよう
な事情があつた。すなわち、本件ゴルフ場の敷地は、もともと<地名略>を計画・
推進主体、同町土地改良区(理事長は被告が兼務することになつている。)を事業
主体とし、栗園造成を目的とする団体営パイロツト事業の用地であり、右事業は、
昭和四四年五月熊本県知事の認可を得て、その用地買収も終つた。ところが、同年
七月<地名略>に集中豪雨があつた際、右用地に近接する造成地が崩壊し、下流の
田畑が土砂で埋没するという災害が発生したことから、前記事業につき災害補償契
約の事前締結および災害防止施設が問題となり、結局同年八月右事業は中止のやむ
なきに至つた。そのような動きの中で、被告は善後策として<地名略>の土地開発
のため、Aに対し前記事業用地に防災施設をしたうえゴルフ場を建設するよう依頼
したところ、<地名略>出身者で、かねてから同町のために役立ちたいと考えてい
たAは、同町の協力を条件に右依頼を承諾した。
そこで、Aは訴外会社を設立し、本件ゴルフ場は昭和四五年一一月ころ完成した
が、その間<地名略>と訴外会社は地元民立ち会いのもとに、「被告は、ゴルフ場
の建設並びに建設後の運営に関し、地方自治法および<地名略>の条例に違背しな
い範囲で積極的に協力する。訴外会社は、防災施設について地元代表者と協議して
万全を期し、もし災害が発生した場合は罹災者の納得のゆく補償と復旧工事を行な
う。ゴルフ場の建設工事および完成後の運営に必要な労働力は町内住民を使用す
る。」旨の協約を締結した。ところが、臼間山はシラス地帯でもともと雨に弱いこ
ともあつて、昭和四五年に二回ゴルフ場に水害が起きた他、昭和四六年六、七月こ
ろにも水害が起こり、右各年とも訴外会社に四〇〇〇万円位の災害復旧費の負担を
余儀なくさせた。
(3) ところで、<地名略>には、「<地名略>における工鉱業の発達を推進す
るため、<地名略>に工場(営利を目的として、物品の製造、加工若しくは修理を
する施設)を新設し、又は増設する者に対し、町税の課税免除若しくは不均一課
税、補助金の交付、又は便宜の供与を行ない、もつて本町産業の振興を図ることを
目的とする」<地名略>工場設置奨励条例が施行されており、同条例によれば、被
告は、一定の工場を有する者に対し、三か年間、固定資産税の課税を免除したり、
当該年度において賦課された固定資産税の一〇〇分の五〇に相当する額を限度とし
て補助金を交付することになつている。
しかるところ、本件ゴルフ場は右条例の適用をうける「工場」ではないから、被告
は、訴外会社に同条例を適用することはできないものであるけれども、訴外会社の
経営する本件ゴルフ場は前記(1)のとおり、右条例の適用を受ける工場以上に<
地名略>および同町民に寄与貢献していることおよび前記(2)の事情も加味し
て、訴外会社に対し、地方自治法二三二条の二の規定を適用し、前記条例の例にな
らつて三年間固定資産税の免除をするのと実質的に同じ扱いをするため、訴外会社
が<地名略>へ納付すべき固定資産税相当額にほぼ匹敵する年一〇〇万円の補助金
を昭和四六年度から三年間訴外会社に対し交付することを決めた。
(4) かくして、被告は訴外会社に対し、昭和四六年度分の補助金一〇〇万円に
ついては、昭和四七年三月一六日<地名略>議会を経て、同年四月五日これを支出
し、ついで昭和四七年度分の補助金一〇〇万円については、昭和四八年三月二〇日
同町議会の議決を経て、同年四月一八日これを支出し、さらに昭和四八年度分の補
助金一〇〇万円については、同年六月二一日同町議会の議決を経て、同年九月四日
これを支出した。
以上の事実を認めることができる。
(二) ところで、地方自治法二三二条の二は、地方公共団体は、その公益上必要
がある場合においては、寄附又は補助をすることができる旨定めているが、その内
容を具体的に定めていないから、地方公共団体が同条の規定の趣旨に従つて、右交
付処分が住民にもたらすであろう利益、程度等諸般の事情を勘案して判断すべきこ
とになるが、その判断につき著しい不公正もしくは法令違背が伴わない限り、これ
を尊重することが地方自治の精神に合致する所以というべきである。
右の観点から、本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、訴外会社はゴ
ルフ場という娯楽施設を営む営利企業にすぎないものではあるが、企業の少ない<
地名略>の、しかも利用価値の乏しい山地に災害防止のため相当の出捐をして同町
に新たに有力な産業を興し、もつて<地名略>内に多数の同町民の稼働場所を提供
して同町の人口の流出を防止することに役立つており、また固定資産税および娯楽
施設利用税交付金等により<地名略>財政を著しく豊かにし、かつ将来もその蓋然
性が高いこと等、同町および不特定多数の同町民に寄与貢献しており、しかも、そ
の程度は<地名略>工場設置奨励条例の適用をうける工場よりも大きいものと考え
られ、さらに補助金の支出金額は三年間で計三〇〇万円であり、同条例にほぼ準じ
ていることが認められる。
してみれば、被告が訴外会社を助成し、ひいては<地名略>の産業の振興を図る目
的で、右条例の例にならつてなした本件補助金交付処分は、地方自治法二三二条の
二の規定する公益上の必要性を満たすものというべきである。
三 以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴
訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 糟谷忠男 中野辰二 山口 博)

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