弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告訴訟代理人弁護士田島順の上告理由について。
 しかし、原判決は、本件控訴の申立を第一審判決言渡前すなわち控訴権発生前の
ものであるとの理由で控訴を不適法として却下したものであるから、原判決が第一
審判決の手続上の適否につき判断をしなかつたからと言つて原判決に手続違反の違
法あるものとはいえない。そして、上告は、原判決に法令の違背あることを理由と
するときに限つて許されるものであるから、第一審判決の言渡手続に違法ありとす
る所論は、適法な上告理由として採ることはできない。しかのみならず、当事者の
双方が出頭した口頭弁論期日において、その弁論を終結し判決言渡期日を指定して
これを出頭した当事者双方に告知した後、該言渡期日開始後裁判所において言渡期
日変更の決定を為し、これを言渡したときは、期日には當事者出頭すべきものであ
るが故に、その言渡は民訴二〇四条第一項所定の相當と認める告知方法を執つたも
のといえるから、右期日変更告知の際當事者の一方又は双方が出頭しなかつた場合
でもその期日変更決定の効力を生ずるものと解するを相當とする。そして本件第一
審においては、昭和二三年六月一〇日の口頭弁論期日に當事者双方出頭の上口頭弁
論を終結し判決言渡期日を同年六月二四日午前一〇時と指定告知し同日午前一〇時
口頭弁論期日を開始し、判決言渡を同年七月八日午前一〇時に延期する旨告げ該七
月八日午前一〇時口頭弁論期日を開始して第一審判決の言渡をしたものであるから、
右期日変更告知の際上告人が出頭せず又は期日の呼出を受けなかつたときでもその
告知は、その効力を生ずるものといえる。従つて右変更期日における第一審判決言
渡手続に違法ありともいえない。それ故、所論は、採ることができない。
 よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。
 裁判官眞野毅の少数意見は、次のとおりである。
 原判決は、本件控訴が第一審判決言渡前に提起されたことを捕えて、控訴を不適
法として却下した。多数意見はただ簡軍にこれを是認している。この点を職権をも
つて調査するに、「控訴権は第一審における終局判決の言渡あつて始めて発生する
ものと解すべきである」こと、従つてまた第一審判決の言渡前になした控訴は不適
法であることは、一応原判決の言つているとおりである。しかしながら、第一審判
決の言渡前になされた控訴は不適法であるが、その不適法として却下されない間に、
第一審判決の言渡があつた場合には、別の総合的な觀点から問題を考察することを
要するものと思う。すなわち、かかる場合には控訴提起に内在する瑕疵はここに全
く治癒せられ、その後はこの点に関しては適法な控訴の提起があつたと同様に取扱
うべきものだと、わたくしは考えるのである。ます理論上から言つても、第一審判
決の言渡がないのに控訴が提起せられその後も依然言渡がない状態の下においては、
控訴審は控訴を不適法として却下する外に途はなく、またそれが正しいのであるが、
未だ却下されない間にその後第一審判決の言渡しがあつて控訴の審理をするに適す
る客觀的情態が補完せられ充実するに至つた場合においては、控訴提起の當時に存
在した瑕疵を理由とし、控訴を不適法として却下するのはすでに適當でなく、むし
ろかかる瑕疵は治癒せられ、控訴は適法化するに至つたものと解するのが理論上妥
當である。原審及び多数意見は、この点においていつまでも部分的な管見に捉われ
單に控訴提起當時だけに存在した瑕疵に眼がくらみ、その後に生じた第一審判決の
言渡という事態の発展における全過程を総体として見得なかつた誤りがある。次に
実際上から言つても、訴訟當事者が折角手数と費用をかけて提起した控訴が單に前
述の理由だけで不適法として却下さるべきものとし、従つてまた飽くまで控訴の審
理をうけようとする當事者は、さらに新しく手数と費用をかけて第二の控訴を適法
の期間内に提起するを要するものとすることは、いかにも非現実的であり當事者に
対し不必要に酷であり、人間生活における無駄と浪費を不必要に強制するの感があ
る。原審及び多数意見は、この点において形式論理による觀念的な物の見方をした
だけで、毫も事の実際に適するリァリステイツクな考え方をしていないのは大きな
誤りであると言わねばならぬ。元来訴訟法は、訴訟における手続を定める方法論に
過ぎないものであつて、訴訟の中核はどこまでも実体法的目的の究明にあるのであ
る。だから、手続法的方法論における瑕疵の故をもつて、た易く実体法的目的の究
明を壓殺、排除することは、愼重の上にも愼重を期し努めて避けなければならぬと
ころである。なぜならば、それはともすれば物の主客を逆さまにし、事の本末を顛
倒する結果を招来し、法の哲理、法本来の根本義に背反するに至るからである。な
お前述のわたくしの見解に対しては、健訟(濫控訴)の幣を助長するおそれがある
と言う反対論を稱える者があるかも知れない。しかし、それは全く無意味である。
なぜならば、いまだ第一審判決の言渡がなく、黒白、勝敗が決せられない以前には、
自ら好んで濫控訴を提起するの愚を敢てする者は通常ないからである。第一審判決
の言渡前の控訴提起なぞ言うものは、およそ何かの言い違いか、何かの聞き違いか、
何かの見違いか、何かの思い違いか、何かの取扱い違いか、兎も角何らかの間違い
が原因で起るだけのものであつて完全な意識の下に頻繁に起るものとは到底考えら
れない。
 さて、本件の上告理由においては、上述の点を論じてはいないが、職権調査によ
り原判決には前記違法が存するから、破棄して本件を原裁判所に差戻すのを相當と
する。
 この判決は裁判官眞野毅の少数意見を除き裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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