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平成28年4月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第33834号意匠権侵害に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年2月26日
判決
原告株式会社伊藤製作所
同訴訟代理人弁護士高橋賢一
同訴訟代理人弁理士吉井雅栄
同吉井剛
被告株式会社ヒロニチ
同訴訟代理人弁護士中尾正士
同中尾文治
同補佐人弁理士古田剛啓
同田村善光
主文
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,譲渡し,貸し渡し,
又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,134万5624円及びこれに対する平成27
年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
仮執行宣言を除き,主文同旨
第2事案の概要
1本件は,「バリケード用錘」に係る意匠権(第1276221号。以下,「本
件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)の意匠権
者である原告が,被告が製造,販売及び貸渡しをしている別紙被告製品目録記
載の製品(以下「被告製品」といい,被告製品に係る意匠を「被告意匠」とい
う。)が本件意匠に類似しており,その製造・販売等が本件意匠権を侵害する
と主張して,被告に対し,意匠法37条1項,2項に基づき被告製品の製造,
譲渡,貸渡し及び譲渡・貸渡しのための展示の差止め並びに廃棄を求めるとと
もに,民法709条及び意匠法39条2項に基づき損害賠償金134万562
4円(予備的に同条3項に基づき損害賠償金32万8879円)及びこれに対
する不法行為の後の日である平成27年1月20日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案
である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア原告は,建築・土木工事関連の設備・備品・金物の製造・販売などを主
な業務とする株式会社である。
イ被告は,土木・舗装工事及び工事・道路保安用品の販売・レンタル(リ
ース)などを主な業務とする株式会社である。
(2)本件意匠権
ア原告は,次の意匠登録に係る本件意匠権を保有している(本件意匠権の
意匠公報を別紙3として末尾に添付する。)。
意匠に係る物品バリケード用錘
出願日平成17年8月24日
出願番号意願2005-24413号
登録日平成18年5月26日
登録番号意匠登録第1276221号
イ原告は,本件意匠権の関連意匠である次の意匠権(以下,同関連意匠に係
る登録意匠を「本件関連意匠」という。)を保有している。(甲3,4)
意匠に係る物品バリケード用錘
出願日平成17年(2005年)8月24日
出願番号意願2005-24429号
登録日平成18年5月26日
登録番号意匠登録第1276481号
(3)被告製品
被告は,平成25年4月24日から,被告製品を製造し,販売し,貸し渡
し,又は譲渡若しくは販売の申出を行っている。
(4)本件意匠出願前の先行文献の存在
ア平成14年6月10日に発行された意匠登録第1143287号(平成
13年5月14日出願,平成14年4月12日登録)の意匠公報(乙2)
記載の意匠(以下,同公報に記載された意匠を「乙2意匠」といい,同公
報を「乙2公報」という。乙2公報を別紙4として末尾に添付する。)
イ平成14年6月10日に発行された意匠登録第1143285号(平成
13年5月14日出願,平成14年4月12日登録)の意匠公報(乙12)
記載の意匠(以下,同公報に記載された意匠を「乙12意匠」といい,同
公報を「乙12文献」という。)
ウ平成2年11月13日に公開された公開実用新案公報平2-13611
6号(平成元年4月14日出願,乙14)記載の意匠(以下,同公報に記
載された意匠を「乙14意匠」といい,同公報を「乙14文献」という。)
3争点
(1)本件意匠と被告意匠の類否
(2)無効の抗弁の成否
(3)差止めの要否
(4)原告の損害発生の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(本件意匠と被告意匠の類否)について
〔原告の主張〕
(1)本件意匠
本件意匠は,別紙意匠公報添付の図記載のとおり,次の形態を有している
(以下,各形態を「a」ないし「g」ということがある。)。
a本体全体の形状は,およそ正面視若干縦長の長方形の薄板状形状である。
b本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下方
に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,本体全体の形状は,
前述のとおりおよそ正面視若干縦長の長方形の薄板状形状であるが,前記
切欠部により正面視逆U字状を呈している形状である。
c前記左右の脚部間の前記切欠部の上端部に,工事用の単管バリケード(意
匠公報の【使用状態を示す参考図】にみられる形状のバリケード)下部に
地面に水平方向に架設された単管パイプが配するようにして単管パイプに
被嵌載置した際,この単管パイプの両側下方に前記脚部が垂下する形状で
ある。
d前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置に,正面視横長の長方
形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央にこの本体上面
を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部を,この本体上部
に一体形成している形状である。
e前記本体上部中央に設けた前記持ち運び用横長取手は,本体上面と面一
(つらいち)であって,かつ,この本体の板厚よりやや幅狭に形成してい
る形状である。
f正面の表面は,凸部がなく平坦面である。
g背面の表面は,凹部がなく平坦面である。
(2)被告意匠
被告意匠は,別紙被告製品図面記載のとおり,次の形態を有している(以
下,各形態を「a’」ないし「g’」ということがある。)。
a’本体全体の形状は,およそ正面視正方形の薄板状形状である。
b’本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下
方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,本体全体の形
状は,前述のとおりおよそ正面視正方形の薄板状形状であるが,前記切
欠部により正面視逆U字状を呈している形状である。
c’前記左右の脚部間の切欠部の上端部に,工事用バリケードに架設した
単管パイプが配するようにして単管パイプに被嵌載置した際,この単管
パイプの両側下方に前記脚部が垂下する形状である。
d’前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置に,正面視横長の長
方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央にこの本体
上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部を,この本
体上部に一体形成している形状である。
e’前記持ち運び用横長取手は,本体上面と面一であって,かつ,この本
体の板厚よりやや幅狭に形成している形状である。
f’正面の表面四隅に重合時位置決めの係合用の凸部がある。
g’背面の表面四隅に別体の前記凸部が嵌り込む重合時位置決め係合用の
凹部がある。
(3)本件意匠との対比
ア共通点
本件意匠の要部は,形態a,b,c,d及びeである。そして,本件意
匠と被告意匠は,次の点で共通しているから,要部について同一又は類似
している。
①方形のおよそ薄板状形状である点(a)
②本体下部中央から上部中央にかけて有する縦長の切欠部を有し,上部
から下方に伸びる左右脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,全
体形状が正面視逆U字状である点(b)
③左右の脚部間の切欠部の上端部に,工事用バリケードに架設した単管
パイプが配するようにして単管パイプに被嵌載置した際,この単管パイ
プの両側下方に前記脚部が垂下する形状である点(c)
④前記切欠部の上端部と前記本体の上面との中間位置に,正面視横長の
長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央にこの本
体上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部を,この
本体上部に一体形成している形状である点(d)
⑤持ち運び用横長取手の上面は,いずれも前記本体の上面であって(上
面が本体上面と面一であって),かつ,本体の板厚よりやや幅狭とした形
状である点(e)
イ差異点
本件意匠と被告意匠は,次の差異点があるが,いずれも微差である。
①本件意匠がおよそ正面視縦長の長方形形状であるのに対し,被告意匠
がおよそ正面視正方形形状である点(a,b)
②本件意匠が,正面の表面は,凸部がなく平坦面であるのに対し,被告
意匠が,正面の表面四隅に重合時位置決めの係合用の凸部がある点(f)
③本件意匠が,背面の表面は,凹部がなく平坦面であるのに対し,被告
意匠が,背面の表面四隅に別体の前記凸部が嵌り込む重合時位置決め係
合用の凹部がある点(g)
ウ以上のように,被告意匠は,本件意匠の特徴(要部)を全て備えており,
本件意匠の特徴をそのまま踏襲している。本件意匠の創作,すなわち意匠
上の特徴を踏まえて全体観察すれば,被告意匠は明らかに本件意匠と美感
が共通し,創作同一性の範囲にあるといえ,形態が類似している。
また,被告製品の用途・機能は,たとえ他に用途があるとしても本件意
匠と全く同一であるから,物品も同一である。
したがって,被告意匠と本件意匠は,形態が類似し,物品が同一である
から,類似しているというべきであり,被告製品を製造・販売する行為は
本件意匠権を侵害する。
(4)被告の主張に対する反論
ア被告は,乙2意匠及び乙12意匠をもって,本件意匠の要部を限定して
とらえようとする。しかし,乙2意匠及び乙12意匠は,全体形状が本件
意匠とは全く異なるから,これらをもって本件意匠の要部が原告の主張す
る要部(形態aないしe)ではないということはできない。乙2公報及び
乙12文献を見ても,本体の形状が薄板状形状であることが公知であると
はいえないし,本体上面と面一の横長取手が公知であるともいえないのに
もかかわらず,被告は,本件意匠におけるそれらの新規な形態を無視して,
本件意匠の要部が,これらの新規な形態ではなく,左右の脚部が(正方形
より)少し長いということ,本体形状の表面が平坦面であること,及び横
長取手の根本の段差がなめらかであることであると主張するが,この被告
の主張は明らかに誤りである。
イそして,被告意匠は,あらゆる公知意匠に比して本件意匠の要部である
形態aないしeをすべて備えている。
被告は,正方形か長方形かという相違は微差ではないと主張するが,本
件意匠と被告意匠はいずれも方形であり,長方形であるか正方形であるか
は縦横寸法の差でしかない。被告意匠は,正方形であることで左右の脚部
が本件意匠と比して少し短くなり,この点は機能上意味を持ち注目される
ものであるとしても,全体観察すれば微差にすぎない。
また,被告は,本件意匠は表裏共に平坦面であるのに対し,被告意匠に
は四隅に凸部や凹部があるという相違について,被告製品の凹部及び凸部
は,水平に積み重ねてもずれないように嵌合するために設けられたもので
あり,微差ではないと主張する。しかし,凹部及び凸部が機能上意味を持
つことにより注目される部分であるとしても,全体観察すればやはり微差
にすぎない。
さらに,被告は,被告意匠は薄板状ではないと主張するが,被告意匠の
縦横寸法と比較しての厚みの程度は本件意匠と同等である。
そして,被告は,本件意匠は,本体板厚と横長取手部分の厚さの違いに
よる段差が看取できない傾斜面となっているのに対し,被告製品は,厚さ
の違いによる段差が明らかに看取できる形状であるという相違があると主
張するが,被告が指摘する点は横長取手の両端部の極めて局部の表面形状
の相違点であり,段差が傾斜面をもって緩やかに形成されているか,90
度近いはっきりとした段差になっているかの相違であって,しかも横長取
手の両端部での局部的なわずかな相違にすぎないから,本件意匠との対比
においては明らかに微差である。
したがって,本件意匠の要部(aないしe)を備えた被告意匠は,明ら
かに本件意匠に類似しており,本件意匠権に抵触する。
〔被告の主張〕
(1)本件意匠
原告の主張する本件意匠の形態のうち,a及びbについて,本体全体の縦
長の程度が若干であることは争う。本件意匠の形態は,明らかな縦長の長方
形である。
本件意匠が,cないしgの形態を有することは認めるが,加えて次の形態
も有する。
「本体全体に面取りがされており,また,表面,側面,上面及び背面全てに
凹凸が全くなく,さらに,横長取手は本体板厚よりも幅狭に形成しているに
もかかわらず正面視及び背面視した際に段差が看て取れない,全体として一
枚の平坦な薄板のような形状である。」
(2)被告意匠
a’本体全体の形状が,正面視正方形の板状形状であることは認め,その余
は否認ないし争う。
被告意匠は,正面視及び背面視した形状が正方形であり,また厚みがあ
り薄板状ではない。
b’本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下方
に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,本体全体の形状が,
正面視正方形の板状であることは認め,その余は否認ないし争う。
被告意匠は,正面視及び背面視した形状が正方形であり,また厚みがあ
り薄板状ではない。
c’認める。
d’認める。
e’否認ないし争う。
被告意匠は,本体と横長取手との間の形状は,正面視及び背面視した場
合に,厚さの違いによる段差が明らかに看取できる形状である。
f’認める。
g’認める。
(3)本件意匠との対比
ア共通点
原告の主張する共通点のうち,薄板状であることについては否認する。
被告意匠は薄板状ではない。
また,後記ウのとおり,aないしeは本件意匠の要部ではない。
イ差異点
(ア)前記〔原告の主張〕(3)イにおいて原告が主張する①ないし③の差異点
があることは認めるが,長方形か正方形かという相違は取引者・需要者
において微差ではない。また,被告意匠の凸部及び凹部は,水平に積み
重ねてもずれないように嵌合するために設けられたものであるところ,
表面に突起があることは取引者・需要者の注意を惹きやすい部分である
から,バリケード用錘の表面の凸部及び凹部の有無は,バリケード用錘
の取引者・需要者において微差ではない。
(イ)上記に加えて,次の差異点がある。
④本件意匠は形状が薄板状であるのに対し,被告意匠は厚みがあり薄
板状ではない点(a,b)
⑤本件意匠は,本体の板厚と横長取手上面の厚さの違いによる段差が
看取できない傾斜面となっているのに対し,被告意匠は,厚さの違い
による段差が明らかに看取できる形状であるという点(e)
⑥本件意匠は,全ての角が面取りされているのに対し,被告意匠は,
本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部に位置する角が面取
りされていない点
ウ被告の主張
(ア)意匠の類否判断は,両意匠の構成を全体的に観察したうえ,取引者,
需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠
が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠
が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
そして,意匠の要部は,意匠に係る物品の性質,目的,用途,使用態
様等を考慮するほか,その意匠の各部が公然知られた意匠に係るものと
同一の意匠に係る部位であるか,新規な創作の意匠に係る部位であるか
等を斟酌して,認定すべきである。
(イ)そこで,本件意匠の要部の認定にあたっては,次の①ないし③を考慮
すべきである。
①取引者・需要者
バリケード用錘の取引者・需要者は,主として,工事現場等で稼働
する建設業者や警備業者等の工事現場関係者である。また,バリケー
ド用錘の製造者も,取引者・需要者に当たる。
②物品の性質,目的,用途,使用態様等
本件意匠の用途は,単管バリケード専用の錘であり,その使用態様
は,単管パイプの上へ置くことに限定される。その目的ないし機能は,
通行人の接触等により,単管バリケードへ外部から力が加わっても容
易に動くことが無いようにすることである。
③公知事実
本件意匠の出願前に公知であった乙2意匠によれば,本体下部中央
から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下方に伸びる脚
部が前記切欠部の左右に設けられ,前記切欠部により正面視逆U字状
を呈している構成は存在した。
また,本件意匠の出願前に公知であった乙12意匠によれば,本体
下部中央から上部中央にかけてある縦長の切欠部の上端部と本体の
上面の中間位置に,本体上部に一体形成している正面視横長の長方形
形状の開口部があり,その横長取手の上面は本体上面と面一であり,
本体の板厚よりやや幅狭とする構成は存在した。
(ウ)結論
以上からすると,bないしeの形態は新規な創作の意匠に係る部位で
はない。そして,本件意匠が単管パイプに被嵌載置して使用するバリケ
ード用錘であることに照らすと,長方形であって脚部が長いことや本体
の厚さは,その重量感や安定感に影響するものであるから,取引者・需
要者の注意を惹く部分であるといえる。また,面取りされた凹凸がない
形状は,本件意匠全体が一枚の平坦な薄板であるかのようなシンプルで
洗練された独特の美感を看者に与える。
したがって,本件意匠の要部は,「正面視が縦長の長方形であり厚さ
が薄板状であること」及び「本体全体に面取りがされており,また,正
面,側面,上面及び背面全てに凹凸が全くなく,さらに,横長取手は本
体板厚よりも幅狭に形成しているにもかかわらず正面視及び背面視し
た際に段差が看て取れない,全体として一枚の平坦な薄板のような形状
であること」である。
そして,本件意匠と被告意匠は,上記要部がいずれも共通しておらず,
取引者・需要者において異なる美感を生じさせるものであるから,類似
していない。
2争点(2)(無効の抗弁の成否)について
〔被告の主張〕
(1)本件意匠の構成は,意匠登録出願前に公然知られた乙2意匠の構成と共通
しており,また,当業者であれば乙2意匠から容易に創作できた構成である
から,本件意匠権に無効理由があることは明らかである。
(2)乙2意匠の構成
乙2意匠の構成は次のとおりである。なお,乙2公報によると乙2意匠の
意匠に係る物品は「移動柵用重し」となっているが,同公報の「意匠に係る
物品の説明」に記載されているとおり,この「移動柵」は工事現場等の危険
な場所に人や車両が侵入するのを防止するために使用するものであり,単管
バリケードを意味することは明らかである。
a2本体全体の形状が,およそ正面視若干横長の長方形の上部2隅を面取
りした,中空の直方体であること
b2本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下
方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,前記切欠部によ
り正面視逆U字状を呈している形状であること
c2前記左右の脚部間の前記切欠部の上端部に,単管バリケードに架設し
た単管パイプが配するようにして単管パイプに被嵌載置した際,この単管
パイプの両側下方に前記脚部が垂下する形状であること
d2前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置に,正面視横長の長
方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央に持ち運び用
横長取手及び前記横長手入れ部を,本体上部に一体形成している形状であ
ること
e2横長手入れ部は,本体板厚よりも幅狭であること
f2取手の横に,内部に注水するためのキャップが付いていること
g2正面の表面は,凸部がなく平坦面であること
h2背面の表面は,凹部がなく平坦面であること
(3)本件意匠と乙2意匠の共通点及び相違点
ア共通点
(ア)本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下
方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,前記切欠部
により正面視逆U字状を呈している形状であること
(イ)前記左右の脚部間の前記切欠部の上端部に,単管バリケードに架設し
た単管パイプが配するようにして単管パイプに被嵌載置した際,この
単管パイプの両側下方に前記脚部が垂下する形状であること
(ウ)前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置に,正面視横長の長
方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央に持ち運
び用横長取手及び前記横長手入れ部を,本体上部に一体形成している
形状であること
(エ)横長手入れ部は,本体板厚よりも幅狭であること
(オ)正面の表面は,凸部がなく平坦面であること
(カ)背面の表面は,凹部がなく平坦面であること
(キ)角が全て面取りされていること
イ相違点
(ア)本件意匠は,正面視が若干縦長の長方形であるのに対し,乙2意匠は,
正面視が若干横長の長方形の上部2隅を面取りした形状であること
(イ)乙2意匠は中空の直方体であるが,本件意匠はそのような限定がない
こと
(ウ)側面図を比べた場合,本件意匠の方が,乙2意匠と比べて,薄いこと
(エ)本件意匠は,本体上部中央に設けた持ち運び用横長取手の上面が,本
体上面と面一であるのに対し,乙2意匠は,本体上面と面一ではない
こと
(オ)本件意匠は,取手の横に注水のためのキャップが存在しないのに対
し,乙2意匠は,取手の横に,注水のためのキャップが付いているこ

(カ)本体意匠は,横長取手が本体板厚よりも幅狭に形成しているにもかか
わらず正面視及び背面視しても横長取手と本体正面の間に段差が看取
できないのに対し,乙2意匠は,横長取手と本体正面の間に段差が看
取できること
(4)新規性及び進歩性がないこと
ア相違点(ア)の正面視の形状の相違について,乙14文献のように,正面視
が若干縦長の長方形を形状とするバリケード用錘は公知であったのであ
り,本件意匠の新規性を構成するものではない。
イ相違点(イ)の中空であること及び(オ)のキャップについて,これらは乙2
意匠が,錘として使用するためには内部に注水をする必要があることによ
るものだが,乙14文献のようにコンクリート製のバリケード固定用ウエ
イト(錘)は公知であったのであり,本体を中空にせず,また注水のキャ
ップを付けないことは,本件意匠の新規性を構成するものではない。
ウ相違点(ウ)について,側面図の厚さの違いは,構成比率の若干の違いにす
ぎず,本件意匠の進歩性を構成するものではない。
エ相違点(エ)について,乙12文献にあるように,持ち運び用横長取手の上
面が本体上面と面一である意匠は公知であり,本件意匠の新規性を構成す
るものではない。
オ相違点(カ)について,厚みに違いが生じている箇所について,段差を生じ
させずに斜面とする構成は,常套的な形態処理であり,格別の創作的な困
難性が見出せるものではなく,本件意匠の進歩性を構成するものではない。
(5)結論
以上の通り,本件意匠の構成は新規性及び進歩性を欠くから,意匠法41
条及び特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件意匠権
に係る権利を行使できない。
〔原告の主張〕
(1)被告の主張は争う。
本件意匠の構成は,乙2意匠とは全く異なるものであり,また,乙2意匠
に基づいて容易に創作ができたものではないから,本件意匠権に無効理由は
ない。
(2)乙2意匠において示されている形態,すなわち,「本体下部中央から上部中
央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下方に伸びる脚部が前記切欠部が
左右に設けられ,前記切欠部により正面視逆U字状を呈しているという形態」
は,横長の取手を上部に有し,この取手を利用して持ち運び,この切欠部を
取付箇所に被嵌して重しとして使用する形態を示すものにほかならず,乙2
意匠からは,単にこの横長取手を含めた前記基本的な形態が公知であること
が認められるにすぎない。
そして,乙2意匠の本体は,分厚いタンク形状であり,薄板状ではないし,
横長取手の形状も本件意匠とは全く異なる。したがって,乙2意匠は,本件
意匠とは明らかに非類似であるし,全体形状が全く異なるものであって創作
非容易性の引用意匠にもなり得ない。
また,乙12意匠の本体も,本件意匠と全く異なり薄板状ではなく異形な
(特殊形状といっても良いほどの)分厚いタンク形状であり,横長取手の形
状もやはり全く異なる。この横長取手の上面は,片側上面と面一ではあるが,
反対側上面と取手の上面の間には大きな段差があり,面一ではない。したが
って,乙12意匠も本件意匠とは明らかに非類似であり,全体形状が全く異
なるものであって創作非容易性の引用意匠にもなり得ない。
(3)このように,乙2意匠は,単に単管パイプの上方から被嵌状態に載置する
ための中央切欠部を有し,かつ上部に横長取手が突出している錘にすぎない。
そして,本件意匠の特徴となる「切欠部の上端部と本体上面との中間位置
に,正面視横長の長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部
中央にこの本体上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部
を,この本体上部に一体形成している形状である」点も,「本体上部中央に設
けた持ち運び用横長取手の上面が,本体上面と面一であって,かつ,この本
体の板厚よりやや幅狭に形成している形状である」点も,乙2公報,乙12
文献及び乙14文献には何ら開示されていない。そうすると,前記特徴とな
る形態を全く備えていない乙2意匠に,乙12文献や乙14文献を組み合わ
せたとしても,本件意匠を容易に創作することはできない。
よって,本件意匠権は,何ら無効理由を有していないから,被告による無
効の抗弁には理由がない。
3争点(3)(差止めの要否)について
〔原告の主張〕
被告は,本件意匠権の権利範囲に属する被告製品を正当な権限なく製造,販
売及び貸渡しをして原告の本件意匠権を侵害しているのであるから,原告は被
告に対し,意匠法37条に基づく差止請求権を有する。
そして,被告は,今もなお被告製品の販売及び貸渡しを中止しておらず,本
件訴訟における和解交渉において被告製品の在庫品を改造するといいながらも,
その改造案は,単にバネ材を付設するとか,側面にわずかに浅溝を形成する程
度の変更に留まるものであったことからしても,被告が被告製品の販売及び貸
渡しを継続する意思を有していることは明らかである。
したがって,本件において差止めの必要性があることは明らかである。
〔被告の主張〕
争う。
4争点(4)(原告の損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
(1)主位的請求(意匠法39条2項に基づく請求)
ア被告製品の販売売上(454万0850円)
被告は,別紙1のとおり,平成25年4月24日から平成27年7月2
1日までの間に,被告製品を2175個販売しており,その売上額は45
4万0850円である。
イ経費(331万5226円)
被告製品の販売売上に伴う経費は,以下のとおり,331万5226円
である。
(ア)被告製品の仕入額
被告は,別紙2のとおり,平成25年4月22日から平成27年1月
23日まで5回にわたり,被告製品(品名:ガードブロック又はマルチ
ブロック)を合計6600個仕入れ,その仕入総額は828万円であっ
たと主張しているが,これについて原告は争わない。
そして,原告は,被告製品2175個の販売を対象として損害賠償請
求をしているところ,被告製品2175個の仕入額は,次のとおり,2
72万8636円である。
828万円×(2175個÷6600個)≒272万8636円
(イ)前記仕入額以外の経費
別紙2のとおり,被告は,前記仕入額の他に,メッキケース,金型及
び鉄製パレットの代金を支払っており,これらの合計金額は,178万
円である。
そして,被告が仕入れた被告製品6600個のうち,販売したのは2
175個であるので,上記178万円から限界利益を算出するための経
費として計上される金額(販売分に相当するメッキケース,金型及び鉄
製パレットの分担額)は,次のとおり,58万6590円である。
178万円×(2175個÷6600個)≒58万6590円
(ウ)前記(ア)及び(イ)を合計すると,被告製品の限界利益の算出のための経
費は,次のとおり,331万5226円である。
272万8636円+58万6590円=331万5226円
ウ被告の利益
被告の利益を,販売売上額から経費額を控除して算出すると,次のとお
り,122万5624円である。
454万0850円-331万5226円=122万5624円
エ原告の損害額
以上から,意匠法39条2項により,原告の受けた損害額は,122万
5624円を下らない。
(2)予備的請求(意匠法39条3項に基づく請求)
本件意匠権の実施料率は,平成4年度ないし平成10年度における同種意
匠権の実施料率の平均値が4.6%であることから,少なくとも被告製品の販
売売上額の4.6%とするのが相当である。
したがって,次の計算により,原告は20万8879円の損害を受けたと
いえる。
454万0850円×4.6%≒20万8879円
(3)弁護士費用
原告は,被告の侵害行為により本件訴え提起を余儀なくされたのであって,
弁護士費用のうち12万円が被告の侵害行為と相当因果関係のある損害とい
える。
(4)合計額
原告は,被告に対し,本件意匠権侵害に基づく損害金122万5624円
及び弁護士費用12万円の合計134万5624円及びこれに対する平成2
7年1月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金(予備的に,20万8879円と前記弁護士
費用12万円の合計32万8879円及びこれに対する平成27年1月20
日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の各
支払を求める。
(5)被告の主張に対する反論
被告は,原告が本件意匠権を実施していないことを理由に本件に意匠法3
9条2項の適用がない旨主張する。
しかし,原告は,平成19年から平成26年11月20日現在まで,「鋳
物バリウエイト」を販売しているところ,これは本件関連意匠に係る製品で
あるから,本件には意匠法39条2項の適用があるというべきである。
〔被告の主張〕
(1)意匠法39条2項に基づく請求について
ア意匠法39条2項が適用されるためにはその前提として,原告が本件意
匠権を実施している事実が必要であり,当該事実について原告が主張立証
責任を負う。
この点,原告は,訴状において本件意匠権を実施していると主張し,そ
の裏付けとして「鋳物バリウエイト年度別出荷数」と題する書面(甲7)
を提出したが,これには「鋳物バリウエイト」としか記載されておらず,
また,原告のカタログ等(乙16,17)には本件関連意匠に係る製品し
か記載されていないことから,原告が,本件意匠に係る製品を製造,販売
していることに係る証拠がない。そして,本件関連意匠に係る意匠権と,
本件意匠に係る意匠権は,別個独立した権利であるから,本件関連意匠に
係る意匠を実施していることをもって,本件意匠権を実施していることに
はならない。
そうすると,本件には意匠法39条2項を適用できない。
イ仮に本件に意匠法39条2項が適用されるとしても,経費の額について
は争う。
原告は,仕入額以外の経費(金型,メッキケース及び鉄製パレットの代
金)について,被告が実際に支出した額178万円に,仕入個数と販売個
数の割合(2175個÷6600個)を乗じて,仕入額以外の経費が58
万6590円であると主張する。
しかし,限界利益の算定において,どの経費を差し引くことができるか
という問題は,侵害品の製造販売と相当因果関係のある費用は何かという
問題である。そして,被告は,上記178万円を支出しなければ,被告製
品を製造することができず,また輸送することができなかったから,17
8万円の全額が,侵害品の製造販売と相当因果関係がある費用に当たる。
したがって,仕入額以外の経費の額は178万円であるから,経費の総
額は450万8636円である。
(2)意匠法39条3項に基づく請求について
実施料率については争う。
原告が主張する実施料率は,統計資料に基づくもので,本件意匠に係る物
品の目的や用途等を全く考慮していないものであり,妥当でない。実施料率
の算定は,本件意匠に係る物品の目的や用途等を踏まえ,商品の売上げに当
該意匠権がどの程度寄与しているのかを検討した上で決せられるべきもので
ある。
本件において,本件意匠に係る物品は,工事現場等で用いられるバリケー
ド用の錘で,工事バリケードの下部という目立たない場所に設置されるもの
であり,需要者の選択においてデザインが影響する度合いは高くない。
したがって,実施料率は3%が妥当である。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(本件意匠と被告意匠の類否)について
(1)登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を
通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),
この類否の判断は,両意匠の構成を全体的に観察した上,意匠に係る物品の
性質,用途,使用態様を考慮し,更には公知意匠にない新規な創作部分の存
否等を参酌して,当該意匠に係る物品の看者となる取引者及び需要者が視覚
を通じて最も注意を惹きやすい部分(要部)を把握し,この部分を中心に対
比して認定された共通点と差異点を総合して,両意匠が全体として美感を共
通にするか否かによって判断するのが相当である。
上記を前提として,本件意匠及び被告意匠が類似するといえるか検討する。
(2)本件意匠
ア本件意匠の意匠公報によれば,本件意匠は,バリケード用錘に係るもの
であり,本件意匠に係る物品は,バリケードに架設した単管パイプに被嵌
状態に設置して使用するバリケード用錘であると認められる。
イ本件意匠の意匠公報によれば,本件意匠の構成は次のとおりと認められ
る。
A本体全体の形状は,正面視において縦長の長方形の薄板状形状である。
B正面視において,本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を
有し,上部から下方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状
で,前記切欠部により両脚部の間が正面視において逆U字状を呈してい
る。その切欠部の幅は全体の幅の約3割である。
C前記左右の脚部間の前記切欠部の上端部に,工事用の単管バリケード
の下部に地面に水平方向に架設された単管パイプが配するようにして単
管パイプに被嵌載置した際,この単管パイプの両側下方に前記脚部が垂
下する形状である。
D前記切欠部の上端部と本体上面との中間位置に,正面視において横長
の長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央に本体
上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部が,この本
体上部に一体形成されている。
E前記持ち運び用横長取手は,正面視においてその上面が本体上面と面
一,すなわち,二つの面の間に段差がない状態であって,かつ,この本
体の板厚よりやや幅狭に形成されている。
F正面視及び平面視において,正面の表面には,凸部がなく平坦面であ
る。
G背面視及び平面視において,背面の表面は,凹部がなく平坦面である。
H本体全体に全ての角において面取りがされており,正面視及び背面視
において,本体板厚と前記持ち運び用横長取手の厚さの違いによる段差
が看取できない形状である。
(3)被告意匠
ア証拠(甲8,9)によれば,被告製品は,バリケードの単管パイプに掛
けたり,三脚,フェンス,看板などの足元に重石として設置する錘であり,
バリケードに架設した単管パイプに被嵌状態に設置して使用することがで
きるものと認められる。
イ別紙被告製品図面によれば,被告意匠の構成は次のとおりである。
A’本体全体の形状は,正面視においてほぼ正方形の薄板状形状である。
B’正面視において,本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を
有し,上部から下方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状
で,前記切欠部により両脚部の間が逆U字状を呈している。その切欠部
の幅は全体の幅の約3割である。
C’前記左右の脚部間の切欠部の上端部に,工事用バリケードに架設した
単管パイプが配するようにして単管パイプに被嵌載置した際,この単管
パイプの両側下方に前記脚部が垂下する形状である。
D’前記切欠部の上端部と本体上面との中間位置に,正面視において横長
の長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央に本体
上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部が,この本
体上部に一体形成されている。
E’前記持ち運び用横長取手は,正面視においてその上面が本体上面と面
一,すなわち,二つの面の間に段差がない状態であって,かつ,本体の
板厚よりやや幅狭に形成されている。
F’正面視及び平面視において,正面の表面は基本的に平坦面であるが,
正面の表面四隅に重合時位置決めの係合用のボタン状の小さな凸部が
ある。
G’背面視において,背面の表面は基本的に平坦面であるが,背面の表面
四隅に別体の前記凸部が嵌り込む重合時位置決め係合用の小さな凹部
がある。
H’正面視及び背面視において,外周面の四つ角は面取りされているが,
本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部の下部角が面取りさ
れていない形状であり,また,本体板厚と前記持ち運び用横長取手の厚
さの違いによる段差が看取できる。
(4)本件意匠の要部認定
ア次に,前記(1)の判断基準に基づき,本件意匠の要部を検討する。
(ア)意匠に係る物品の性質,用途,使用態様
前記(2)アのとおり,本件意匠に係る物品はバリケード用錘であり,単
管バリケード下部の単管パイプに被嵌載置して使用するものである。ま
た,本件意匠に係る物品は,その比重の重い材質により形成することで
錘として機能するものと認められる。
したがって,本件意匠の需要者は,上記のようなバリケードを使用す
る者及びそのようなバリケードに使用する錘の取引にかかわる者と認め
るのが相当である。
(イ)公知意匠
被告は,本件意匠出願前の公知意匠として,乙2,乙12及び乙14
意匠を提出している。
乙2公報には,移動柵の単管やスタンド等に取り付ける重しに関し,
合成樹脂製の成形中空体であって,内部に注水することで重量を増加す
る物品に係る乙2意匠が開示されているところ,その構成態様は,本体
下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下部に伸
びる脚部が同切欠部の左右に設けられたもので,正面視逆U字状の形状
を有しているが,その切欠部の幅は全体の幅の約8分の1であって,乙
2意匠の全体形状は,正面視において,上部左右に大きな面取りがある
台形状であり,その上部中央には横長の持ち運び用取手が設置され,そ
の左隣には,円筒形のキャップを冠した注水口が設けられており,中空
体部分は,側面視において,上部の取手の厚みと比較して約5倍以上の
厚みがある形状である。
乙12文献には,移動柵の単管やスタンド等に取り付ける重しに関し,
合成樹脂製の成形中空体であって,内部に注水することで重量を増加す
る物品に係る乙12意匠が開示されているところ,前記縦長の切欠部の
上端部と本体上面との中間位置に,正面視において横長の長方形形状の
開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央に本体上面を上面とす
る持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部を,この本体上部に一体形
成している形状であるが,乙12意匠の全体形状は,縦長の立方体状の
二つのタンクを正面視その上部においてブリッジ状のやや幅の狭い部材
及びその上部中央に設置された横長の持ち運び用取手によって連結され
た形状であって,正面視において,その切欠部の幅は全体の幅の約6分
の1であり,上部の取手の左隣には,円筒形のキャップを冠した注水口
が設けられており,中空体部分は,側面視及び平面視において,上部の
取手の厚みと比較して約6倍の厚みがある形状である。
乙14文献には,バリケードの下部パイプをまたいで押さえるように
したバリケード固定用の重しで,コンクリート等の比重の重い材料によ
り構成される物品に係る乙14意匠が開示されている。
その他,乙第3ないし乙第11号証にも,移動柵の単管やスタンド等
に取り付ける重しに関し,合成樹脂製の成形中空体であって,内部に注
水することで重量を増加する物品に係る意匠が開示されているところ,
それらの全体形状は,円筒形若しくは縦長の立方体状の二つのタンクを
正面視その上部においてブリッジ状のやや幅の狭い部材及びその上部中
央に設置された横長若しくはアーチ状の持ち運び用取手によって連結さ
れた形状(乙3ないし6),乙2意匠と同様に,本体下部中央から上部
中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下部に伸びる脚部が同切欠
部の左右に設けられたもので,正面視逆U字状の形状を有しているが,
その切欠部の幅は,全体の底辺の幅の約7分の1から約9分の1であっ
て,全体形状が,正面視において,下底が長い台形状のもの(乙7),
上底が長い台形状のもの(乙8),左右両側が円弧上に湾曲したもの(乙
9),凸型のもの(乙10)又はπ型のもの(乙11)であり,いずれ
の意匠にもその上部中央には横長の持ち運び用取手が設置され,その左
隣には,円筒形のキャップを冠した注水口が設けられており,中空体部
分は,側面視及び平面視において,上部の取手の厚みと比較して約5倍
以上の厚みがある形状である。
イ前記(2)及び上記アによれば,本件意匠の要部は次のとおりと認められる。
(ア)本件意匠に係る物品がバリケード用錘であり,単管バリケードに架設
した単管パイプに被嵌載置して使用するものであることからすると,取
引時及び使用時のいずれにおいても,外観の全体が,取引者・需要者の
注意を惹くといえる。
(イ)この点に関して被告は,「正面視が縦長の長方形であり厚さが薄板状
であること」及び「本体全体に面取りがされており,また,正面,側面,
上面及び背面全てに凹凸が全くなく,さらに,横長取手は本体板厚より
も幅挟に形成しているにもかかわらず正面視及び背面視した際に段差が
看て取れない,全体として一枚の平坦な薄板のような形状であること」
の2点が要部であると主張する。
しかし,本件において示された公知意匠の形態は,上記ア(イ)のとおり,
いずれも,合成樹脂製の成形中空体で内部に注水することで重量を増加
するものであって,その全体形状はいわばポリタンク形状であって,正
面視における形状も,台形状のもの,左右両側が円弧上に湾曲したもの,
凸型のもの,π型のものなどさまざまであり,長方形若しくは正方形を
含め方形状のものは存在しないこと,正面視において,中央部にある切
欠部の幅は全体の幅の約7分の1から約9分の1であって,3割(3分
の1ないし4分の1)程度のものは存在しないこと,上部には円筒形の
キャップを冠した注水口が設けられ,本体上面にほぼ独立して設置され
た横長の取手があり,側面視及び平面視において,本体中空体は,上部
の取手の厚みと比較して約5倍以上の厚みのある形状であって,本件意
匠のように,およそ正面視において方形の薄板状であって,かつ本体下
部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下方に伸び
る脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,前記切欠部により両脚
部の間が正面視において逆U字状を呈しており,その切欠部の幅は全体
の幅の約3割であり,前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置
に,正面視において横長の長方形形状の開口部を設けて,持ち運び用横
長取手及び前記横長手入れ部が,この本体上部に一体形成されており,
持ち運び用横長取手は,その上面が前記本体の上面と面一であって,か
つ,本体の板厚よりやや幅狭とした形状であるものは開示されていない。
そうすると,看者が上記公知文献記載の意匠から受ける美感は,本件意
匠から受ける美感とは相当に異なるから,上記公知文献を考慮してもな
お,上記各形状を本件意匠の要部として認定することが相当である。
もっとも,本件意匠の面取り部分は,本件意匠に係る物品の全体の大
きさに比べ,極めて小さい部位に関するものであるところ,バリケード
の単管パイプに被嵌載置するという物品の用途及び使用態様からしてそ
の細部の形状が取引者・需要者の注意をことさらに惹くということはで
きないから,本件意匠において角部が小さく面取りされていることや,
そのために持ち運び用横長取手部分と本体部分の厚さが異なるにもかか
わらず正面視及び背面視した際にその間の段差が看て取れないことは,
看者に対し強い印象を与えるということはできず,取引者・需要者の注
意を惹く特徴であるとはいえないから,要部として認定することは相当
ではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)以上から,本件意匠の要部は,本体全体の形状が正面視において方形
の薄板状形状であり,本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部
を有し,上部から下方に伸びる脚部が前記切欠部の左右に設けられた形
状で,前記切欠部により両脚部の間が正面視において逆U字状を呈して
おり,その切欠部の幅は全体の幅の3割弱であり,前記切欠部の上端部
と前記本体上面との中間位置に,正面視において横長の長方形形状の開
口部を設けて,持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部が,この本体
上部に一体形成されており,持ち運び用横長取手は,その上面が前記本
体の上面と面一であって,かつ,本体の板厚よりやや幅狭とした形状で
あると認められる。
(5)対比
ア共通点
本件意匠と被告意匠は,次の各点で共通する。
①方形のおよそ薄板状形状である点
②本体下部中央から上部中央にかけて有する縦長の切欠部を有し,上部
から下方に伸びる左右脚部が前記切欠部の左右に設けられた形状で,全
体形状が正面視逆U字状であり,その切欠部の幅は全体の幅の約3割で
ある点
③前記切欠部の上端部と前記本体の上面との中間位置に,正面視におい
て横長の長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設けて,本体上部中央
にこの本体上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横長手入れ部
を,この本体上部に一体形成している形状である点
④持ち運び用横長取手は,その上面が前記本体の上面と面一であって,
かつ,本体の板厚よりやや幅狭とした形状である点
イ差異点
本件意匠と被告意匠は,次の各点で相違する。
①本件意匠が,正面視において縦長の長方形形状であるのに対し,被告
意匠が,およそ正方形形状である点
②本件意匠は,正面・背面の表面に凸部・凹部がなく平坦面であるのに
対し,被告意匠は,正面の表面四隅に重合時位置決めの係合用のボタン
状の小さな凸部があり,背面の表面四隅に別体の前記凸部が嵌り込む重
合時位置決め係合用の小さな凹部がある点
③本件意匠は,正面視及び背面視において,本体部分の板厚と持ち運び
用横長取手部分の厚さの違いによる段差が看取できない傾斜面となって
いるのに対し,被告製品は,厚さの違いによる段差が明らかに看取でき
る形状となっている点
④本件意匠は,全ての角部分が面取りされているのに対し,被告製品で
は,正面視及び背面視において,外周面の四つ角は面取りされているが,
本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部の下部角が面取りされ
ていない点
ウ被告の主張に対する判断の補足
被告は,被告意匠は厚みがあり薄板状ではない点において本件意匠と異
なる旨主張するが,本件意匠は,右側面図における縦横比からすると,板
の厚さに比べて正面及び背面の長辺の長さが5ないし6倍であるところ,
被告意匠は,別紙被告製品図面の右側面図及び左側面図における縦横比か
らすると,板の厚さに比べて正面及び背面の縦の長さが5ないし6倍であ
り,その比率は同等である。そして,本件意匠の本体形状が薄板状である
ことについては当事者間に争いがない。そうすると,被告意匠の本体形状
についても,薄板状であると認めるのが相当である。
エ共通点及び差異点の検討
前記(4)及び上記アに照らすと,本件意匠と被告意匠は,本件意匠の要部
について全て形状が実質的に同一である。
そこで,上記イの差異点①について検討するに,意匠公報の正面図をみ
ると,本件意匠は正面視縦長の長方形ではあるが,その縦横比はおよそ4
対3であり,極端な縦長ではない。そして,単管パイプに被嵌載置して使
用するという本件意匠に係る物品であるバリケード用錘の用途及び使用態
様に照らすと,縦横比およそ4対3の長方形であるか,正方形であるかと
いう差異は,それを使用する取引者・需要者をして美感を異にするほどの
差異であるということはできない。
そして,差異点②ないし④については,いずれも細部における差異にす
ぎず,本件意匠と被告意匠に,取引者及び需要者をして美感を異にするほ
どの差異があるということはできない。
以上を総合すると,本件意匠と被告意匠とは,取引者及び需要者が視覚
を通じて最も注意を惹きやすい部分である要部の形状が実質的に同一であ
る以上,上記の差異点を考慮しても,両意匠は全体として美感を共通にす
るというべきであるから,本件意匠と被告意匠の形態は類似すると認める
のが相当である。
(6)物品の類否
被告製品及び本件意匠に係る物品は,いずれも,バリケード用錘であり,
単管バリケード下部の単管パイプに被嵌載置して使用するものであるから,
同一の物品である。
(7)まとめ
したがって,本件意匠と被告意匠は,物品が同一で,形態が類似するか
ら,被告意匠は本件意匠に類似する。
2争点(2)(無効の抗弁の成否)について
(1)被告は,本件意匠は,乙2意匠と同一であるか又は乙2意匠に乙12意匠
及び乙14意匠を組み合わせることで容易に創作できた意匠であるから,新
規性又は進歩性を欠くと主張する。
しかしながら,前記1(4)で認定したとおり,乙2意匠は,移動柵の単管や
スタンド等に取り付ける重しに関し,合成樹脂製の成形中空体であって,内
部に注水することで重量を増加する物品に係る意匠であって,その構成態様
は,本体下部中央から上部中央にかけて縦長の切欠部を有し,上部から下部
に伸びる脚部が同切欠部の左右に設けられたもので,正面視逆U字状の形状
を有しているが,その切欠部の幅は全体の幅の約8分の1であって,その全
体形状は,正面視において,上部左右に大きな面取りがある台形状であり,
その上部中央には横長の持ち運び用取手が設置され,その左隣には,円筒形
のキャップを冠した注水口が設けられており,中空体部分は,側面視及び平
面視において,上部の取手の厚みと比較して約5倍以上の厚みがある形状で
あり,また,乙12意匠は,移動柵の単管やスタンド等に取り付ける重しに
関し,合成樹脂製の成形中空体であって,内部に注水することで重量を増加
する物品に係る意匠であって,前記縦長の切欠部の上端部と本体上面との中
間位置に,正面視において横長の長方形形状の開口部(横長手入れ部)を設
けて,本体上部中央に本体上面を上面とする持ち運び用横長取手及び前記横
長手入れ部を,この本体上部に一体形成している形状であるが,その全体形
状は,縦長の立方体状の二つのタンクを正面視その上部においてブリッジ状
のやや幅の狭い部材及びその上部中央に設置された横長の持ち運び用取手に
よって連結された形状であって,正面視において,その切欠部の幅は全体の
幅の約6分の1であり,上部の取手の左隣には,円筒形のキャップを冠した
注水口が設けられており,中空体部分は,側面視及び平面視において,上部
の取手の厚みと比較して約6倍の厚みがある形状であるのに対し,本件意匠
は,正面視においてやや縦長の長方形の薄板状であって,かつ本体下部中央
から上部中央にかけて存在する縦長の切欠部の幅は全体の幅の約3割であり,
持ち運び用横長取手は前記切欠部の上端部と前記本体上面との中間位置にお
いて本体上部に一体形成されており,持ち運び用横長取手は,その上面が前
記本体の上面と面一であって,かつ,本体の板厚よりやや幅狭とした形状で
あるという基本的構成態様を有していると認められるところ,乙2意匠とは
そもそもこの基本的な構成態様において形状が全く異なっているから,バリ
ケード用錘の取引者及び需要者に与える美感も全く異なっていると認められ
るものである。
したがって,本件意匠と乙2意匠の共通点及び差異点を詳細に対比するま
でもなく,本件意匠は乙2意匠と実質的に同一であるとは認められず,また,
乙2意匠に乙12意匠を組み合わせたとしても,本件意匠を容易に創作でき
たと認めることはできない。
(2)この点に関して被告は,乙12意匠は,持ち運び用横長取手上面と本体上
面が面一であると主張するが,乙12意匠は本体上面に注水用のキャップが
存在しているために,キャップ部分に当たる本体上面が,キャップの高さ分
低い位置に形成されており,持ち運び用横長取手上面と本体上面が面一にな
っているとはいえないから,被告の上記主張は採用することはできない。
(3)また,被告は,正面視が縦長の長方形形状は,乙14文献に開示されてい
ると主張するが,乙14意匠は,単管バリケード固定用ウエイトに係るもの
であるが,同ウエイトは,単管パイプに掛けて錘とするものではなく,同ウ
エイト本体の下面に臨ませて跨溝を形成し,単管パイプを跨ぐように接地し
て置いて使用するもので,本件意匠に係る物品とは使用態様が異なる上,そ
の形状は,側面図において横の長さ(本体の厚さ)の方が縦の長さ(本体の
高さ)よりも大きく極めて厚いものであって,本件意匠とは全体の形状が大
きく異なる。そうすると,乙2意匠に乙14文献の正面視が縦長の長方形形
状である点のみを組み合わせる動機があるとはいえないし,これらを組み合
わせたとしても,本件意匠を容易に創作できると認めることができない。
したがって,乙2意匠に乙12意匠及び乙14意匠を組み合わせることに
よって,本件意匠が容易に創作できるとはいえない。
(4)よって,本件意匠について新規性及び進歩性を欠くという被告の主張には
理由がないから,本件意匠は登録意匠無効審判において無効とされるべきも
のとは認められず,被告の無効の抗弁は成立しない。
3争点(3)(差止めの要否)について
被告が,現在も被告製品の販売及び貸渡し等をしていることについて当事者
間に争いがなく,差止めの必要性があることは明らかである。
4争点(4)(原告の損害発生の有無及びその額)について
(1)意匠法39条2項の適用の可否
意匠法39条2項は,意匠権者が故意または過失により自己の意匠権を侵
害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合にお
いて,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の
額は,意匠権者が受けた損害の額と推定する旨規定する。
被告は,原告が本件意匠権を実施していないから,同条項の適用はないと
主張する。しかし,意匠法39条2項には意匠権者が当該意匠権を実施して
いることを要する旨の文言は存在しないこと,同項は,損害額の立証の困難
性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照
らすと,同項を適用するに当たって殊更厳格な要件を課すことは妥当ではな
いことなどを総合すれば,意匠権者が当該意匠権を実施していることは,同
項を適用するための要件とはいえない。そして,意匠権者に,侵害者による
意匠権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には,意匠法39条2項の適用が認められると解すべきである。
本件についてみると,証拠(甲7,乙16,17)によれば,原告は,本
件意匠権の関連意匠である本件関連意匠の実施品を販売していることが認め
られるから,原告は,被告製品と競合する製品を販売しているといえる。そ
うすると,被告の侵害行為がなければ,原告の製品がより販売等できたとい
うことができるので,原告には,被告による侵害行為(被告製品の製造・販
売等)がなければ利益が得られたであろうという事情があると認められる。
したがって,本件において,原告の損害の算定につき,意匠法39条2項
が適用できる。
そこで,次に,被告が,本件意匠権を侵害する行為により受けた利益の額
を検討する。
(2)被告の利益額
ア売上額
被告が,平成25年4月24日から平成27年7月21日までの間に,
被告製品を2175個販売したこと及びその売上額が454万0850円
であることについて,当事者間に争いがない。
イ経費
(ア)被告が,被告製品(別紙2の品名「別注ガードブロックGBH-93
0ブルー」,「マルチブロックブルーGBH930ブルー」及び「マ
ルチブロックGBH930Ⅱ」)の製造元に対し,被告製品6600個
の代金として,合計828万円を支払ったことについては当事者間に争
いがない。原告は,上記を前提として,被告が,被告製品2175個を
購入するために支払った額が272万8636円であると主張するが,
被告はこれについて明らかに争わない。
そうすると,被告が,被告製品2175個を製造元から購入するため
に要した額(仕入額)は272万8636円であると認めるのが相当で
ある。
(イ)被告は,被告の利益額の算定に当たり,上記(ア)の他に,金型,メッ
キケース及び鉄製パレットの購入代金合計178万円を経費として売上
額から控除するべきであると主張し,原告は,上記178万円は被告製
品6600個を製造するために要した費用であるから,そのうち217
5個を製造するために要した額を割合計算により算出して,売上額から
控除すべきであると主張する。
そこで検討するに,被告が,別紙2記載のとおり,被告製品を製造す
るための金型代として50万円を,運搬等するためのメッキケース及び
鉄製パレットの代金として合計128万円を,それぞれ支出したことに
ついては当事者間に争いがない。
そして,金型は被告製品を製造するために必要なものであり,他の製
品に転用することはできないと推認されるから,被告は,被告製品66
00個を製造するために50万円を支出したといえる。もっとも,被告
は,原告が損害賠償請求の対象とした2175個の被告製品のためだけ
に上記金型代を支出したものではないから,その全額について,被告が
被告製品2175個を販売するための経費に当たるとして売上額から控
除することは相当とはいえず,被告が,被告製品2175個を製造する
ために要した金型に係る経費としては,金型代金を6600分の217
5で割合計算した額を売上額から控除することが相当である。
次に,メッキケース及び鉄製パレットは,被告製品を運搬するために
必要なものであるものの,被告製品以外の製品の運搬にも使用できるも
のと推認されるから,被告がメッキケース及び鉄製パレットを購入する
ために要した額の全額を,経費として売上額から控除することは相当で
はない。もっとも,原告が,メッキケース及び鉄製パレットの代金につ
いても,6600分の2175の割合で計算した額の限度で経費として
控除することを認めていることから,メッキケース及び鉄製パレットを
購入するために要した128万円についても,その全額が被告製品66
00個を販売するために要した経費であると認めた上で,そのうちの被
告製品2175個の販売に要した額を割合計算した額を売上額から控除
することが相当である。
そして,金型,メッキケース及び鉄製パレットの購入代金を割合計算
すると,次のとおり,58万6590円となる。
178万円×(2175個÷6600個)
=58万6590円(1円未満切り捨て)
ウ被告の利益額
以上から,被告の利益額は122万5624円であり,原告は同額の損
害を受けたと推定される。
(3)弁護士費用
本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,本件の事実経緯等に照
らし,原告の請求する12万円と認めるのが相当である。
(4)合計額
原告の損害額は合計134万5624円である。
5結論
以上によれば,原告の予備的請求について判断するまでもなく,原告の請求
には全部理由があるから全部認容することとし,主文第2項に係る仮執行宣言
は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
勝又来未子
裁判官今井弘晃は填補のため署名押印できない。
裁判長裁判官
東海林保
別紙
被告製品目録
商品名「マルチブロック」又は「MULTIBLOCK」
ただし,別紙被告製品図面のとおりの形態をした鋳物製ブロック
別紙被告製品図面
斜視図
正面図
背面図
平面図
底面図
右側面図
左側面図
(別紙1,別紙3及び別紙4は省略)

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