弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、被告が愛労委昭和四〇年(不)第四号(申立人原告CBC合唱団労働組合、被
申立人中部日本放送株式会社)同(不)第五号(申立人原告CBC管弦楽団労働組
合、被申立人中部日本放送株式会社)各不当労働行為救済申立事件につき昭和四一
年二月一九日付でなした各命令は、いずれもこれを取消す。
二、訴訟費用中補助参加によつて生じた分は補助参加人の負担とし、その余は被告
の負担とする。
       事   実
第一、当事者双方の申立
 昭和四一年(行ウ)第九号事件原告CBC合唱団労働組合(以下「原告合唱団労
組」という。)、同第一〇号事件原告CBC管弦楽団労働組合(以下「原告楽団労
組」という。)は「主文第一項と同旨又び訴訟費用は右(行ウ)第九、一〇号事件
被告愛知県地方労働委員会(以下「被告」という。)の負担とする。」との判決を
求め、
被告は、本案前の申立として、「本件各訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担と
する。」との判決、本案につき「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負
担とする。」との判決を求めた。
第二、原告らの主張
一、原告合唱団労組は、昭和三九年五月一日にCBC合唱団員により結成され、原
告楽団労組は、同年五月一九日にCBC管弦楽団員により結成された。原告らは組
合結成以来、使用者である中部日本放送株式会社(昭和四一年(行ウ)第九、一〇
号事件被告補助参加人、以下「参加人」又は「会社」という。)に団体交渉を申し
入れたが、参加人はこれに応じないので、原告らは、昭和四〇年三月三〇日被告に
対し、参加人を相手取り、それぞれ参加人が原告らのなす団体交渉申入れに応じて
団体交渉をなすこと、並びに参加人がそれについての非を認める陳謝文の交付、掲
示及び公告をなすことを求める不当労働行為救済命令申立(愛労委昭和四〇年
(不)第四、五号事件)をした。
二、ところが被告は、原告らの右各申立に対し昭和四一年二月一九日付を以つてそ
れぞれ「本件救済申立はこれを棄却する。」旨の命令(以下「本件命令」とい
う。)をなし、右各命令書は、同月二〇日原告らに送達された。
右命令の理由は別紙その一記載のとおりであり、その要旨は、原告らの労組員と参
加人との間には、使用従属関係があるとは認められないから、参加人は労働組合法
第七条の使用者にあたらない。従つて不当労働行為の成立する余地はないというに
ある。
三、しかし、原告らの構成員である合唱団員及び楽団員と参加人との間には使用従
属の関係が存することは明らかであり、これら各団員は労働組合法の適用を受ける
労働者であることは明白である。
四、以下にその理由を詳論する。
(一) 労働組合の結成
 原告合唱団労組は、昭和三九年五月一五日上部組合である日本民間放送労働組合
連合会(以下「民放労連」という。)に加入し、昭和四一年七月現在二三名の組合
員を有し、原告楽団労組は、昭和三九年八月二〇日民放労連に加入し、昭和四一年
七月現在二二名の組合員を有する。
 参加人は、昭和三九年三月二五日合唱団員中女子五名に対し再契約拒否をした
が、このことが、一年前から醸成されていた組合結成の気運を具体化する直接の契
機となり、組合が結成されたのである。
 かくて結成された組合は、合唱団労組については(1)前記五名の解雇の撤回、
(2)契約内容の改善、(3)合唱団の存続、(4)賃金労働条件の改善の四点に
つき参加人に団体交渉を申入れ、楽団労組も同旨の団体交渉を申入れていたのであ
る。
(二) 参加人と各団員との契約関係の実態
1参加人は、各団員に対し毎月二三日参加人社員(以下「社員」という。)と同様
に人事課で給与の支払をなし、昭和四〇年三月までは、本給として毎月一定額が給
与明細書に記載されていた。同年四月以降はこれを契約金出演料と訂正して、あた
かも賃金でないような表示をするようになつたが、その実質は、従前どおり賃金で
あることに変りはなかつた。
 しかも、参加人は、右賃金から所得税の源泉徴収、健康保険料、失業保険料、共
済会々費、共済会借入返済金、社内預金、団体加入生命保険料等を社員と同様差し
引いていた。
 各団員は、社員と同様参加人の諸施設を利用していたし、社員運動会のような行
事には芸能部員として参加していた。社員に配布される会社社内報も各団員に配布
されていた。
 女子合唱団員の出産時には、九〇日の産前産後の有給休暇が与えられていたし、
退職金、有給休暇等の制度もあつた。
 このように各団員は社員と全く同様な扱いを受けて来たのであり、専属契約、優
先契約、自由契約と推移した各団員と参加人との契約形式は全く形式的なものにす
ぎず、その労務提供の仕方その他の実態から見ると、右のような契約上の推移にも
かかわらず、参加人と各団員との間には使用従属関係が存するのである。
 労働法上は契約形態がどのようなものであれ、被用者が有形無形の経済的利益を
得て、一定の労働条件のもとに、使用者に対し肉体的精神的労務を提供する関係に
あれば、労働法上保護すべき労使関係とみるべきである。
 被告の本件命令のように雇傭契約の当事者でなければ労使関係とはみられないと
いうことになると、使用者が一方的に雇傭契約の内容を変更さえすれば、労働者を
労働諸法規の保護から排除できることになる。
2なお昭和四〇年度の自由出演契約なる契約については次のとおり主張する。
もともと、原告らの構成員であるCBC合唱団員、楽団員と参加人との出演契約
は、当初の契約が一年毎に新規に更新されるというものではなく、期限の定めない
契約なのであり、一年毎の新規の契約書の作成調印は、参加人が一方的に決定した
契約金、出演料を確認する意味をもつにすぎないのである。
 ところが、参加人は昭和四〇年に至り、合唱団員及び楽団員に対し、自由出演契
約なる契約書を提示し、その内容の十分な説明もせず、基本的な契約関係は従来と
全く変らないことを強調し、契約内容について深く検討の機会を与えないまま、即
時に契約締結を承諾することを要求した。そこで右各団員は、やむなく右契約書に
署名捺印をした次第である。
 かような自由出演契約締結の経緯からすれば、右契約は当初の期限の定めのない
出演契約に包含されている基本的な契約関係に何らの法的な変更を加えたものでは
ないと解するのが相当である。
 自由出演契約が、もし参加人の出演指定に対し出演するか否かの諾否が右各団員
の全く自由に任かされている契約であるとすれば、常時出演指定を拒否することも
自由な筈であるが、このような契約によつて参加人の演唱演奏という必要な芸術的
労働力を随時確保することができるであろうか。
 従つて自由出演契約が、もし従来の出演契約に包含されている基本的な契約関係
に法的な変更を加えた、別言すれば、異質な契約であるとすれば、どのような点が
変更されたのか(異質になつたのか)理解することができないから、自由出演契約
は法的には成立していないとみるべきであり、仮に成立していたとしてもその効力
を生ずるに由ない契約という外はない。但し「自由出演契約」と称する契約書に記
載された契約金、出演料額については、従来の新規契約書の調印のときと同じく、
参加人の一方的に決定した契約金、出演料額を確認する意味をもつことになる。
 これを要するに、自由出演契約と題する契約に形式上は変更されたにかかわら
ず、当初の期限の定めのない出演契約が実態としても法的にも継続していると解す
るのが相当である。
(三) 原告らが団体交渉を求める必要性と緊急性
 原告合唱団労組は昭和三九年五月一日以降、原告楽団労組は同年五月一九日以降
それぞれ参加人に対し団体交渉を要求して来たが参加人はこれに応じない。
 参加人の右団体交渉拒否は、労働組合に対する強烈な嫌悪感以外の何ものでもな
い。
原告らの申入れた団体交渉事項は本人のみならず家族の生活がかかつておりその必
要性及び緊急性の度合は極めて強い。
(四) 芸能員労働者に対する圧迫の実情
 民間放送は昭和二六年CBCラジオが開設され、それ以後急速に各地で開局され
た。
劇団、楽団、合唱団等の芸能団は民間放送発足とともに、各局共にいつせいに作ら
れ、いずれもその局のイメージアツプのために大きな貢献をした。
 原告らの構成員で作られた合唱団、管弦楽団も参加人の事業の発展について重要
な役割を果した。
 ところが、昭和三五年ごろからラジオ、テレビを通じて放送番組をネツトワーク
により、中央キー局から発信する方式(中央集約化方式)が行なわれるようにな
り、民放産業規模の機械化、自動化による合理化が急速に進行し、昭和四〇年に至
り民放各局共に新入社員の採用を縮減し、下請導入の方針をとるようになつた。
 こうした企業の合理化は芸能員労働者の地位、生活に対する重大な脅威となつて
くることは自然の成行である。そこで芸能員労働者は地位の安定と一般社員と同一
の労働条件を求めて、つぎつぎに労働組合の結成をはかるようになつた。
 ところが、このような芸能員労働者の当然の要求、とくに労働組合を結成し、団
体交渉を要求したことに対し、民放会社はいつせいに組合破壊の攻撃を激しく加え
た。(最初の組合結成は昭和三一年のCBC劇団労働組合であるが、参加人は劇団
員全員解雇の措置でこれに対抗し、抗争の結果解雇は撤回されたが、契約形式は改
悪された。)
 しかし、芸能員労働者の前記のような切実な要求にもとづいて、昭和三三年NH
K芸能員労組、同三六年大阪ABCアンサンブル労組、ラジオ中国芸能員労組、同
三七年から三八年にかけてTBS楽団労組とKBC劇団労組、同三九年原告ら労組
がそれぞれ結成されるに至つた。
 このような相つぐ労働組合の結成に対し、民放各社は各種の攻撃を行なつて来
た。
 本件において、参加人が原告らに対し、団体交渉に応ぜず、組合員との契約を一
方的に改悪したのは、原告ら組合の結成と活動を嫌悪し、敵視して行つた組合破壊
策である。
五、被告の本案前の主張に対しては、次のとおり争う。
 労働委員会のなす命令は、それが認容であれ、棄却であれ、いずれも講学上命令
的行政行為といわれるものにあたり、等しく行政処分であることは明らかである。
 そして、労働者又は労働組合は、右行政処分である棄却命令の取消を求める法律
上の利益を有する。
 けだし、労働委員会は、不当労働行為の存することを認定したときは、救済を与
えなければならない法律上の義務があり、労働者又は労働組合は、この場合救済を
受けるべき法律上の地位を有するわけである。従つて、労働委員会が違法に救済を
拒否する処分をしたときは、労働者又は労働組合は、この法律上の地位、利益を害
されたことになるからである。
 もつとも、昭和三七年の改正前の労働組合法では第二七条六項、一一項の規定の
解釈をめぐつて争いがあつたことは周知のとおりであるが、現行労働組合法は、第
二七条一一項において、第七項(使用者が地方労働委員会の命令に対し再審査の申
立をしたときは、中央労働委員会の命令に対してのみ取消の訴えを提起できる)の
規定は、労働組合又は労働者が行政事件訴訟法の定めるところにより提起する取消
の訴えについて準用すると明定した。これにより現行法の下では、労働委員会の棄
却命令に対し取消訴訟を提起できることは一点の疑も存しないのである。
第三、被告の主張
一、本案前の主張
 本訴は行政事件訴訟法第三条所定の抗告訴訟のうちの「処分取消しの訴え」と解
されるが、本件命令は申立人の救済申立を棄却したものであつて行政庁の処分とは
言えないから、本訴は権利保護の資格に欠けるというべきである。
 仮に、本件命令が行政庁の処分にあたるとしても、本件命令の効力を直接原告ら
が受けるとは言えない。即ち不当労働行為の救済命令は、行政権の発動により使用
者に対しこれに従うべき公法上の義務を課し、使用者がこれに従わないときは過料
を課することによつて間接強制による実効を期する制度であり、従つて救済命令の
効力をうくべき相手方は使用者に限られている。
 救済申立人は、申立によつて地方労働委員会の使用者に対する行政処分の発動を
促すにすぎないのである。
 この理は、棄却命令についても同様であり、棄却命令は使用者に対し行政権の発
動をしないということを明らかにしたにとどまり、命令の相手方も使用者であり、
申立人ではない。従つて原告らは、本件命令の取消を求めるにつき法律上の利益を
有しない。
二、本案についての主張
(一) 原告ら主張の請求原因事実中第一項の事実は原告らがその主張のとおりの
救済命令申立をしたことは認める。その余は知らない。
 同第二項の事実は認める。
 同第三、四項の主張は争う。
(二) 原告らの主張の要旨は、原告らの構成員である合唱団員及び楽団員と参加
人との間に使用従属関係が存在するにかかわらず、これを否定した本件各棄却命令
は、その点において事実を誤認し、判断を誤つたものであるというに帰着するが、
本件各棄却命令の理由は別紙その一のとおりであり、合唱団員、楽団員共に企業内
の組織に組み入れられておらず、使用者の一般的指揮権に服するものとは認め難
い。そして原告ら組合の構成員と参加人との間には、出演発注に対し、諾否自由の
立場においてこれを受諾したときに始めて出演義務が発生するという程度のゆるや
かな関係のあることは認められるが、使用従属関係があるとは認められない。従つ
て原告ら組合と参加人との間では参加人は労働組合法第七条にいう使用者たりえ
ず、不当労働行為の成立する余地はないから、原告ら組合の本件申立は失当として
棄却すべきであるとの判断の下に本件棄却命令をしたのであつて、右各命令はもと
より正当である。
第四、参加人の主張
一、本案前の主張
原告ら労組の構成員は、被告主張のとおり労働組合法第三条、労働基準法第九条に
いう労働者ではないから、原告らは労働組合たる資格を有していない。
 従つて原告らは、参加人に対し団体交渉請求権を有せず、被告のした本件処分の
取消を求める法律上の利益を有しない。
 仮に右主張が理由ないとしても、後述するとおり原告合唱団労組の構成員と参加
人との契約は、すべて昭和四一年三月末日を以つて終了しているのであり、これら
の者と参加人との間には団体交渉をなすべき対象となる事項は何ら存しない。
 従つて原告合唱団労組は本件処分の取消を求める法律上の利益を欠くというべき
である。
二、本案についての主張
別紙その二のとおり
第五、証拠(省略)
       理   由
一、原告らが昭和四〇年三月三〇日参加人を相手として原告ら主張のとおりの不当
労働行為救済命令申立をなし、被告が昭和四一年二月一九日右各申立を棄却する命
令をなし、右各命令書は同月二〇日原告らに送達されたこと、右命令の理由は別紙
その一のとおりであり、要するに、原告ら労組の構成員と参加人との間には、使用
従属関係があるとは認められず、参加人は労組法第七条の使用者にあたらないとい
うにあつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、よつて、先ず本訴の適否につき判断する。
 不当労働行為救済申立事件についてなす労働委員会の審決は、その内容が認容た
ると、棄却又は却下たるとをとわず、等しく行政機関である労働委員会のなす行政
処分であると解すべきである。すなわち、労働委員会は、不当労働行為の存するこ
とが認定されるならば、常に必ずなんらかの救済を与えなければならない法律上の
義務を負い、不当労働行為が存するのにかかわらず、何んらの救済をもしないこと
は許されないものと解すべきである。この見地からすれば不当労働行為が存するの
に、救済申立を棄却又は却下する労働委員会の審決は行政事件訴訟法第三条に規定
する抗告訴訟の対象となる行政処分であることは明らかである。そして現行労組法
の下にあつては、労働者又は労働組合は、地方労働委員会の申立棄却又は却下の命
令に対し中央労働委員会に再審査の申立をしないときは、直接取消を求める行政訴
訟を提起できることは法文上も明白である。
 被告は、原告らは、本件命令の取消を求める法律上の利益がない旨主張する。し
かし、本件命令が行政処分であることは前述のとおりであり、もし不当労働行為が
存在するにかかわらず、その救済申立を棄却又は却下するならば、それは行政庁の
違法な行政処分に外ならず、原告らは救済を受けるべき法律上の地位、利益を害さ
れたことになるから、取消を求める法律上の利益を有することは明らかである。
三、参加人は、原告らの構成員は労組法第三条、労基法第九条にいう労働者ではな
いから、原告らは、労組法第二条にいう労働組合の資格を有せず、従つて団体交渉
請求権を有しない旨主張する。
 しかし、後述するとおり、原告らの構成員は労組法第三条にいう労働者にあたる
と解され、従つて、これらの者によつて組織されている原告らは、労組法第二条の
労働組合たる資格を有するものと認められるから、参加人の右主張は採用できな
い。
四、参加人は、原告合唱団労組の構成員と参加人との契約は、すべて昭和四一年三
月末日限り終了しているから、原告合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上
の利益を有しない旨主張する。
 元来、団体交渉権は、労働者の団結体がその対抗する相手方である使用者に対し
てのみ主張し得る権利であるから当該使用者との間に具体的に労働関係を有する労
働者の団結体がこれを有することは言うまでもない。しかし当該使用者に対し団体
交渉権の主体たり得るものは、それに止まらず、当該使用者に対しいわゆる対向的
労働関係を有する労働者の団結体、別言すれば労使関係の可能性を有する労働者の
団結体もすべてこれに含まれると解するのが相当である。
 けだし、労働権保護のためには、現存する労働関係のみならず、労働関係への結
びつき、ないしそれからの離脱に対しても、共に団結力による自主的解決を認める
必要があるからである。
 そして、参加人と原告合唱団労組の構成員との間の契約関係は、使用従属の関係
と目すべきことは後述のとおりであり、右契約関係が現に消滅しているか、存続し
ているかについては、別件(当庁昭和四二年(ワ)第二、〇九三号事件)において
係争中であることは当裁判所に顕著である。
 このように、労使関係の存否につき労使に争いが存するときは、労使の対向関係
は未だ確定的に失われていないのであるから、かかる労働者の組織する組合である
原告合唱団労組は、当然に団体交渉権の主体たり得るものと解するのが相当であ
る。
 してみると、原告合唱団労組は、本件命令の取消を求める法律上の利益を有する
ことは明らかである。
五、よつて、進んで本案につき考察する。
(一) 当裁判所の結論を先に示すと次のとおりである。すなわち、原告らの構成
員である各団員(以下、これを「演唱契約者」ないし「演奏契約者」という。)と
参加人との間の契約関係は、本件命令のなされた昭和四一年二月一九日の時点にお
いては、すべて自由出演契約と称せられる出演契約であり、これは民法の典型契約
である雇傭契約と目し得るかどうかは別として、その出演の実態に照らすと、専属
出演契約時代に存していた使用従属の関係は自由出演契約においても、なお同質的
に存続しており、その限りにおいて右各契約者は労組法第三条にいう労働者と認め
られる。
 従つて、これらの者の組織する労働組合である原告らは、当然に団体交渉権の主
体たり得るものと解される。また右各契約者と参加人との間には労使の対向関係が
存するものと認められるから、参加人は、労組法第七条二号にいう使用者にあたる
と解される。
 従つて、参加人が、同条同号にいう使用者にあたらないことを理由に原告らの各
不当労働行為救済申立を棄却した本件各命令は、失当であるから取消すべきもので
ある。
 以下にその理由を詳述する。
(二) 戦後民間放送局の開局に伴い、放送出演を目的とする放送出演契約という
新らしい契約形態が発生したことは、顕著な事実である。そして証人a、同bの各
証言によれば、右放送出演契約は、一般に、当初は、専属出演契約であり、ついで
回数出演契約、優先出演契約、自由出演契約と順次契約形態が推移していることが
認められる。かかる放送出演契約に基づいて演唱ないし演奏技能を提供する者が、
労組法の保護を受ける労働者であるか否かを決するためには、単に出演契約書の文
言のみの考察に止まることなく、これと併せて、契約締結時の実際の経緯、契約当
事者の契約内容に対する理解の仕方ないし出演の実態、及び従前の契約関係との対
比等諸般の事情を総合して判断することが肝要である。
 そして、右のような諸般の事情を総合して契約文言の上からは、民法の典型契約
である雇傭契約とは目し得ず、形式的にはいわゆる諾否自由で対等の地位に立つも
のと考えられるにかかわらず、実質的には、経済的弱者として相手方による労働条
件の一方的決定を甘受せざるを得ない状態にあると認められる場合は、使用従属関
係にあるものとして労組法の保護を受ける労働者と認めるのが相当である。
 以下この見地に立つて考察を進める。
(三) 演唱契約者について
(1) 専属契約時代
 成立に争のない乙第一号証の二、四ないし六、第三号証の二、第四号証の三二な
いし三四、三六、三八、三九、証人c、同dの各証言、右c証人の証言により成立
を認めうる乙第五号証の四を総合すると、次の事実が認められる。
(イ) 参加人は、昭和二九年一一月約一二名者との専属出演契約(以下「専属契
約」という。)を結び、これら契約者をCBC合唱団と呼称し、演唱者として出演
させた。専属契約書の文言は次のとおりである。
 昭和二九年当初においては、「音楽演唱者として会社の発注する放送並びに放送
附帯業務に出演することを約諾する。」ことを契約内容とし、その就業規準は、会
社の芸能員就業規則によるものとし、別にこれを定めること、右規準に従つてなす
就業に対する報酬としては、保証出演料と超過出演料の二種とし、契約期間は一カ
年、期間満了一カ月前に何れか一方より解約又は更新の申入をなさないときは、自
動的に継続延長するというものであつた。
 ついで、昭和三一年に至つて、契約期間については、会社から一カ月前に更新の
申入をしないときは、自動的に解約になると改められ、更に昭和三三年には、報酬
は、月割契約金と保証出演料(月間の標準就業指定時間単位を一一〇時間と定め、
これに対し支払われる出演料)及び超過出演料(月間の右標準指定時間をこえたと
きに一時間単位で支払われる出演料)の三種とされ、昭和三五年には、「疾病、出
産、冠婚、葬祭等特別の事由によらないで会社の出演指定にかかわらず、出演しな
いときは、当該月の契約金の一部又は全部を支給しないことができる」との条項が
附加された。
(ロ) 芸能員就業規則は、昭和二八年一一月一日から劇団員、効果団員、楽団員
を対象に既に制定、施行されていたが、演唱契約者を対象とする特別の規則は制定
されず、事実上右芸能員就業規則が準用されていた。右規則の内容は大要次のとお
りである。
 すなわち、発注を受けたときは、速かに受注確認の署名をすること、所定のバツ
チをつけ、身分証明書を所持すること、受注業務に出演できないときは、予め事由
を附して届出ること、傷病により四日以上受注できないときは、診断書を提出する
こと、就業指定を拒否し又は他所において類似業務に従事したり、又は、会社の許
諾なくして他社出演(会社以外の放送並びに放送関係業務に出演することをい
う。)することは禁止されていること、就業指定に対しては正当事由なき限り拒否
できないこと、その他休日、休業、賞与、慰労金についての規定がある外に、安全
保健衛生については、社員の職員就業規則の必要部分が準用されること、業務上の
死亡、負傷についても、社員の職員災害補償規定が準用されること、冠婚葬祭につ
いては会社厚生共済会の必要部分が準用されること等が規定されていた。
(ハ) これら演唱契約者は、当初採用されるに際しテストを受けたが、採用以来
昭和三七年度を除いて毎年契約期間が満了するに際し、毎年技能テストが実施され
ており、テスト不合格を理由に再契約を拒否されたものは、昭和三四年、同三八年
に各一名、昭和三九年に五名であつた。右以外の者は、自発的に再契約を希望しな
いものを除いて、毎年契約が更新されており、専属契約が後記の自由出演契約に切
り変つた昭和四〇年三月現在でみると、昭和三二年に当初の契約をしてから八年間
も更新を継続されている者もいた。(更新継続年数の内訳は八年一名、七年、六年
各二名、五年三名、四年四名、三年三名、二年一名、一年六名である。)
(ニ) 出演並びに報酬額の実態は次のとおりである。すなわち、先ず出演の発注
は、原則として一週間前に(場合により二四時間前に)演奏指定伝票によつてなさ
れ、これが合唱団控室の掲示板に掲示されると、各自必ず確認のチエツクをする。
出演は右指定伝票により指定される時間、場所、指揮者に従つて出演する。
 出演報酬は、昭和三九年度で月割契約金は平均九、〇〇〇円ないし一〇、〇〇〇
円、出演料は平均一五、〇〇〇円ないし二〇、〇〇〇円であり、出演時間は月平均
六〇ないし七〇時間であつた。(契約者の一人であるeについてみると、昭和三七
年六月の出演時間は一〇三時間、出勤日数二二日、昭和三八年六月の出演時間は五
四時間、出勤日数一九日、昭和三九年六月の出演時間六九時間、出勤日数一五日、
昭和四〇年三月出演時間七七時間、出勤日数一七日である。但し出演時間は出演の
ための正規の練習時間を含むものである。)
 他社出演は許可ある場合の外は禁止されており、他所出演(個人でアルバイトと
して家庭教師や学校の講師をすること)は当初は許可制であり、ついで届出制に変
つたが、他社出演については、許可を受けて出演した例は極めて僅少であり、他所
出演は、いわゆる副業の域を出でず、それによる収入は、演唱契約者としての報酬
を上廻ることは決してなく、むしろその不足分を補う程度のものであつた。
 以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠は存しない。
 なお証人cの証言、右証言により成立を認め得る乙第五号証の五、丙第五号証の
五の一によれば、参加人には専属契約時代に出演内規なる文書が存したことが認め
られるが、右c証人の証言によれば、右文書は参加人芸能部長の個人的なメモ的文
書であつて、公表されたものでないことが認められるから、演唱契約者の就業規準
が、右文書どおりに規律されていたものと認定することは困難である。
 従つて右文書の存在は前記認定を左右するに足りる資料とはなし難い。
(ホ) 以上(イ)ないし(ニ)に認定した事実に、証人fの証言、原告合唱団労
組代表者本人尋問の結果、これらにより成立を認め得る甲第五七、第六〇、第六九
号証、第七〇号証の一により認められる演唱契約者も、社員バツチ(通常の職員と
は色は異るがデザインは同じ)、名刺、身分証明書(昭和三六年までは当社職員で
あることを証明するとの文言が、翌年から合唱契約者であることを証明するとの文
言が記載されていた。)が参加人から交付され、健康保険、厚生共済会にも加入し
ていることを総合すれば、専属契約は、仕事の完成を目的とする請負ないしこれに
類似する契約とは認め難く、契約金、保証出演料は、固定給ないし生活給的要素を
保持していると解され、かつ発注に対しては、原則としてこれを拒否することが許
されないため、常時待機を余儀なくされるから、事実上就労時間の定めはなくと
も、時間的に拘束され、参加人の一般的労務指揮の支配下に常時あるものと解され
るから、演唱契約者と参加人との間の契約関係は、雇傭契約関係とみることがで
き、使用従属関係が存すると解するのが相当である。(昭和三四年七月七日付の労
働省解釈例規基収二一四五号も同様な見解であることは、証人aの証言、右証言に
より成立を認めうる甲第一〇一号証により認められる。)
 従つて、専属契約時代の演唱契約者は、労組法の保護を受ける労働者であつたこ
とは明らかである。
 なお、契約期間は一カ年であつたが、テスト不合格を理由に再契約を拒否された
七名の者を除いてその余の契約者が反覆して更新を継続して来たことは、前述した
とおりである。このような契約更新の実態に照らすと、契約者が期間満了後も、使
用者である参加人において契約を更新して、雇傭を継続するものと期待することは
当然の成行であり、かく期待することに合理性が認められるから、使用者の更新拒
絶は実質上解雇と同視すべきである。
 従つて、使用者が契約の更新を拒絶するについては、解雇と同一法理により、相
当な事由の存在を要すると解すべきである。
 専属契約時代における演唱契約者の労働関係上の地位は、以上に述べたようなも
のとして理解さるべきである。
(2) 自由契約時代
(イ) 前顕乙第一号証の五、六、成立に争のない乙第四号の三五、第五号証の
三、証人cの証言によれば、次の事実が認められる。
 昭和四〇年四月一日から、専属契約期間の満了する一六名の演唱契約者と参加人
との間に別紙その三のとおりの契約(以下「自由契約」という。)が結ばれた。
 右契約は、契約書によれば、報酬は契約金(年額、月割払)と出演料の二本立と
し、出演によつて生じた著作権、複製権は会社に属するものとし、会社名を使用し
てする他社出演は会社の許可を受けることを要し、期間は一カ年となつており、芸
能員就業規則によるとの文言はなくなつていた。
 他に右認定に反する証拠は存しない。
 右事実によれば、自由契約の契約文言上からは、他社出演、他所出演は全くの自
由となり、参加人の発注に対する諾否も自由となつたものと解される。
 然し右契約書の冒頭には、「会社の放送並びにその附帯する事業に出演すること
を次の条件で契約する。」と記載されており、もし出演に対する発注の諾否が、全
くの自由となつたときは、常に他社出演等を理由に拒否するという事態も生ずるこ
とになるわけであるが、このような事態の発生は、本契約書の冒頭の右文言から考
えて、契約当事者である参加人ないし契約者の予想していないことがらに属するこ
とは明らかである。
参加人側も、演唱契約者側も、自由契約における本質的契約関係を、諾否自由な関
係とは考えていなかつたことは前顕乙第一号証の四、六に明らかである。すなわ
ち、前顕乙第一号証の六(地労委における証人c審問調書)によれば、参加人芸能
部長cは、自由契約における出演発注に対する拒否は、法的には契約違反を構成し
ないが、道義的には非難さるべきことがらであり、拒否はできないと考える。度重
なる出演発注に対する拒否は、次年度の再契約締結のとき当然考慮される旨、右審
問の際供述していたことが認められ、前顕乙第一号証の四(同じくe審問調書)に
よれば、演唱契約者のこの点の理解の仕方も全く同じであつて、事実上は発注に対
し応諾義務があると考えていたことが認められる。
 右説示するところに反する前顕乙第一号証の五、六、証人c、同dの各証言部分
はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
 このように、契約文言にかかわらず、参加人の発注に対し契約者は事実上これを
拒否できないというのであるから、自由契約を文字通り諾否自由な契約関係と解す
ることはできない道理である。(前顕丁第三号証によれば、自由契約になつてから
発注を拒否された事例は一年間に三件のみであつたことが認められる。)
(ロ) 前顕乙第一号証の二、五、六、成立に争のない乙第四号証の一ないし三
〇、証人c、同f、同gの各証言、原告合唱団労組代表者本人尋問の結果によれ
ば、自由契約が結ばれた経緯は次のとおりであることが認められる。
 演唱契約者は、昭和三九年五月原告合唱団労組を結成し、夏季手当、失業保険の
適用、掲示板、書記局の設置貸与方、その他の就業条件について、参加人に団体交
渉を申入れ、かつ五名の再契約締結拒否の撤回方を要求し、参加人との間に再三話
し合いが行なわれたが、参加人は、再契約拒否の撤回要求及び契約条件の改善の二
点については組合との話し合いを拒否し、かつ既に契約者の地位を失つている五名
(前記昭和三九年において再契約を拒否されたもの)が、もし組合員の中に含まれ
るなら、そういう組合とは話し合うわけにはいかないとの見解を原告合唱団労組に
示した。右以外の組合の申入事項については事実上の話し合いが行なわれた。
 かくて、昭和四〇年三月の契約更新期を迎えたが、参加人は、演唱契約者全員に
技能テストを行ない、全員合格と認め、同年二月二三日その旨を全員に通知し、か
つ同月二七日付で新規契約を結びたいので来社を求める旨の通知をした。
 組合の切なる要求により、再契約のための面接は、六人一組で行なわれることに
なり、同年三月三、四日ごろ三グループに分けて面接が行なわれた。
 この面接において、始めて前記契約書が各演唱契約者に提示された。右契約書の
金額欄には各契約者別にペンで具体的金額が記入されていた。(h、契約金、年額
三三六、〇〇〇円、出演料一時間当り一〇〇円、三〇分未満は一時間に切上げ、期
間一カ年、i、契約金三〇六、〇〇〇円、出演料一時間当り八〇円、j、契約金三
九六、〇〇〇円、出演料一時間当り一二〇円、f、契約金四〇二、〇〇〇円、出演
料一時間当り一〇〇円等であつた。)右年額契約金は、専属契約時代の契約金と保
証出演料の合計にほぼ見合う金額であつた。
 右のような契約書を提示された演唱契約者は、従来の専属契約といかなる差異が
あるかと質問したところ、参加人側は、実際の発注指定、出演の仕方、その他の取
り扱いは従来と少しも変らない。但し発注がないときには他所、他社の出演は全く
自由である。もし他に出演することが定まつたときは、あらかじめ届出れば、その
日時には会社は発注指定はしないと説明した。
 そこで各演唱契約者は、契約書の文言を面接の場でメモにとり、即時に調印する
ことを避け、契約者全員がその対策を協議した。これより先原告合唱団労組は、従
前の専属契約を基本として、より一層専属性(雇傭的性格)を強めた契約にするよ
う参加人に要求していたこともあつて、各演唱契約者は、提示された契約書は、社
外出演が自由となり、芸能員就業規則の適用が外されているなど、雇傭契約の色彩
が非常に薄くされているとの印象を受けたため、新契約書に署名捺印することをた
めらつた。しかし、調印を拒否する者に対しては、再契約しないとの参加人の強い
意向の前に、やむなく不本意ながら調印することに決め、そのころ全員が右契約書
に調印するに至つた。
 そして、原告合唱団労組は、昭和四〇年三月二七日付で「参加人が、専属契約を
破棄し、一方的に自由契約を押しつけて来たこと、及び契約更新についての団交を
拒否されたことに対し、不満であること、並びに今後共契約内容の改善のために斗
う」旨の声明書を参加人に提出した。
 以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 原告合唱団労組は、右自由契約は不成立ないし無効であり、演唱契約者と参加人
との間には、専属契約がいぜんとして存続している旨主張するけれども、自由契約
が結ばれるに至つた経緯は先に認定したとおりであるとしても、最終的には、演唱
契約者は自由契約を結ぶことを承諾したのであるから、他に特段の主張立証のない
本件では自由契約を不成立ないし無効とすべきいわれは存しないものというべく、
この点に関する原告合唱団労組の主張は採用できない。
 しかし、自由契約が結ばれるに至つた前記経緯に徴すれば、右契約の文言、契約
金の具体的金額などは、すべて参加人が一方的に決定し、演唱契約者の希望は全く
考慮されず、契約者は、参加人から再契約の締結を拒否されることをおそれ、やむ
なく自由契約を結ぶことに合意したものであることは明白である。
(ハ) 自由契約時代の出演の実態
 前顕乙第一号証の五、六、成立に争いのない丁第三号証の一、二、証人cの証言
によれば、専属契約であつた昭和三九年度における演唱契約者の一カ月平均の出演
時間は前記のとおり六〇ないし七〇時間あつたものが、昭和四〇年四月以降におい
ては一カ月平均三、四時間となり、出演時間が急激に減少したこと、これは、演唱
契約者が従来レギユラーとして出演していたターミナルサロン及びエプロン大学が
昭和四〇年一月ないし三月にかけて放送を打切られたためであること、以上の事実
が認められる。
 然し右のような出演時間の急激な減少は、全く演唱契約者の予想していなかつた
事態であり、これら契約者は、参加人の発注を常時期待していたであらうことは容
易に推測できる。これに加えて、先に説示したとおり、参加人の発注に対しては、
原則として拒否できないという基本的な契約関係は、専属契約時代と同質的に存続
していたとすれば、演唱契約者の社外出演ないし他所出演は、当然に制約を受ける
ことになる(会社の発注と競合すれば社外出演ができなくなるし、会社の発注を期
待しこれに出演しようとする限りにおいて発注が予想される時間帯における社外出
演はできるだけ避けるようになる。)。
 従つて、発注の量がいかに減少したとしても、現実に発注された特定の日時、特
定の時間以外の時間の全部が常に演唱契約者の自由なる処分に委ねられていると見
ることは困難である。
 なお、証人c、同fの各証言によれば、自由契約時代においても、健康保険、厚
生年金、厚生共済会に加入が認められており、社員手帳も昭和四〇年末までは交付
されていたことが認められる。
(ニ) 以上(イ)ないし(ハ)に認定した諸事実を総合して考察すると、自由契
約においても、専属契約における基本的な契約関係は事実上保持され、社外出演の
自由はその限りにおいて自ら制約を受けており、また、出演は、本人に限り代替出
演は認められず、しかも発注は、参加人が一方的に決定した番組、日時、場所に従
つて出演するを要し、契約の締結は専属契約と同じく附従契約であり、契約金は専
属契約時代の契約金と保証出演料に見合う額であつて、出来高払賃金制における固
定給的要素が保有されている、と考えられる。
 してみると、演唱契約者は、参加人が一方的に決定した契約内容に基づいて年間
を通じ芸術的労働力の提供者として、参加人が、一方的に指定した日時、場所、番
組内容に従い、制作担当者の指揮監督の下に、参加人に芸術的労働力を提供し、そ
の対価として一定の報酬を受けているものであり、その限りにおいて参加人に従属
する労働者であると解するのが相当である。
 但し自由契約なる出演契約が、専属契約と全く同一であるとは解せられないか
ら、専属契約が雇傭契約であつたように、自由契約も雇傭契約であると解すべきか
否かについては疑問の余地の存することは否定できない。
 しかし、労組法の保護を受ける労働者であるかどうかは、必ずしもその者が雇傭
契約関係にあるかどうかによつて定まるものではないことは先に述べたとおりであ
る。
(ホ) ところで、証人dの証言によれば、参加人は、演唱契約者全員に対し、契
約期間の終了する昭和四一年三月末日を以つて契約を終了させ、再契約の締結はし
ない旨を通告したことが認められ、参加人の右措置に対し演唱契約者は、再契約締
結拒否は実質上解雇であるとなし、現に別件で係争中であることは前述したとおり
である。
 してみると、演唱契約者と参加人との間には、いわゆる労使の対抗関係(労使関
係の可能性)が存するものというべきであるから、これらの者の組織する労働組合
である原告合唱団労組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、参加人は右相手
方としての労組法第七条二号にいう使用者にあたると解するのが相当である。
(ヘ) してみると、これと異る見解に立つて、右原告の救済申立を、「参加人は
労組法第七条二号の使用者には、あたらない。」との理由で棄却した本件命令(昭
和四〇年(不)第四号)は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから
取消すべきである。
(四) 演奏契約者について
(1) 成立に争いのない丙第一号証の三ないし五、第三号証の三、第四号証の二
〇、二一の一、二、二二の一ないし六、二四ないし二六、証人cの証言によれば、
次の事実が認められる。
(イ) 参加人は、昭和二六年九月開局に伴い、当初は約一二名の者と専属契約を
結び、これら契約者をCBC管弦楽団と呼称し、演奏者として出演させた。専属契
約書の文言は、
演唱契約者のそれと殆んど同じであつた。当初の契約書には早出手当、長時間手
当、時間外手当等の各種手当支給条項、賞与、慰労金に関する支給条項があつた
が、昭和二七年度契約から右手当、慰労金の条項は削除された。
 契約期間満了の際の取り扱いは、昭和三一年度までは、当事者いずれか一方から
一カ月前に解約又は更新の申入をしないときは、自動的に継続延長になる旨規定さ
れていたのが、昭和三八年度から、期間満了一カ月前に更新の申入が当事者いずれ
か一方からなされないときは、自動的に解約になるとあらためられた。
 出演報酬は保証出演料と、超過出演料の二種とされ、月間の標準就業指定時間は
一〇〇時間と定められていた。
 芸能員就業規則は当初の演奏契約者全員に配布されていたが、右規則の外に施行
内規、契約書以外の細則と題する文書も存していた。
 これら演奏契約者は、当初採用されるに際してはテストを受けたが、毎年の契約
更新期には技能テストは実施されておらず、又再契約の締結を拒否された事例はな
く、自発的に再契約を希望しない者を除いて、全員が毎年契約を更新されており、
専属契約が後記の優先契約に切り変つた昭和三九年七月現在でみると、昭和二六年
の当初の契約から一三年間も更新を継続されている者は六名もいた。(更新継続年
数の内訳は一三年六名、一二年二名、一一年一名、一〇年二名、七年三名、六年六
名、五年一名、三年二名であつた。)
(ロ) 出演並びに報酬の実態は次のとおりである。
 出演の発注及び応諾の仕方は、演唱契約者と同一である。出演報酬は、昭和三九
年度で出演料の平均月額は四〇、〇〇〇円ないし五〇、〇〇〇円であつた。
 昭和三七年ないし昭和三九年九月までの平均出演時間は、月平均約五〇時間(k
の例をみると、昭和三七年六月七六時間、出勤日数一六日、昭和三八年六月五六時
間、出勤日数一〇日、昭和三九年六月三八時間、出勤日数九日)であつた。
 他社出演、他所出演についての取扱い、その状況は演唱契約者の場合と殆んど同
じである。
 以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
 なお専属契約時代において参加人には出演内規なる文書が存したこと、しかし右
文書は参加人芸能部長cの個人的なメモの域を出でず、演奏契約者の就業規準が、
右内規どおりに規律されていたとは認められないことは、先に説示したとおりであ
る。
(ハ) 以上(イ)(ロ)に認定した事実に、前顕甲第五七、第六〇、第六九、前
顕丙第一号証の三、証人lの証言、右証言により成立を認めうる甲第七〇号証の
二、原告楽団労組代表者本人尋問の結果により認められる、演奏契約者も演唱契約
者と同様な社員バツチ、名刺、身分証明書を参加人から交付され、健康保険、厚生
共済会にも加入していたことを総合して考察すれば、演唱契約者について説示した
と同じ理由により演奏契約者と参加人との契約関係は、雇傭契約関係にあるとみる
ことができるから、使用従属関係が存するものと解するのが相当である。
 従つて、専属契約時代の演奏契約者は、労組法の保護を受ける労働者であつたこ
とは明らかである。
 なお、専属契約において、使用者である参加人のなす更新拒絶は実質上解雇と同
視され、更新拒絶については相当な事由の存在を要すると解すべきことは、演唱契
約者について説示したところと同一である。
(2) 優先契約及び自由契約時代
(イ) 前顕丙第一号証の三、成立に争いのない丙第五号証の三の一ないし二四、
四の一ないし一八、六の一ないし五、証人cの証言、原告楽団労組代表者本人尋問
の結果によれば、演奏契約者は、昭和三九年七月から昭和四〇年九月までの間に、
専属契約から優先契約に、ついで自由契約に切り変えられ、同年一〇月に至つて、
全員が自由契約を締結するに至つた。
 優先契約は、契約書(丙第五号証の三の一ないし二四、)によれば、報酬は保証
出演料と超過出演料の二種とされ、芸能員就業規則の適用はなく「会社の指定する
場所で指示する者の指揮に従つて会社の発注する放送並びに放送附帯業務に優先的
に出演することを約諾する」旨の条項が存した。自由契約書の文言は、演唱契約者
と全く同一である。
 以上の事実が認められる。
 右事実によれば、自由契約は、契約文言上からは、他所出演、他社出演は全く自
由となり、発注に対する諾否も自由となつたこと、優先契約は、発注と他社出演と
が同一時間に競合したときは発注に対する出演義務が優先するというもので、その
限りにおいて契約文言上諾否の自由が制約を受けていること、以上のような契約関
係として理解される。
 しかし、前顕乙第一号証の四、六、証人l、同mの証言によれば、参加人も、演
奏契約者も、優先ないし自由契約における本質的な契約関係を諾否自由な関係とは
考えておらず、発注があれば原則として拒否できないと考えていたことが認められ
る。この点については演唱契約者について説示したところと同一である。
 このように、契約文言にかかわらず、発注に対し契約者は事実上これを拒否でき
ないというのであるから、自由契約を文字通り諾否自由な契約関係と解することは
できない道理である。
(ロ) 前顕丙第一号証の三ないし五、成立に争いのない丙第一号証の二、第三号
証の二、三、第四号証の一ないし一八、証人l、同c、同d、同mの各証言、原告
楽団労組代表者尋問の結果によれば、自由契約が締結に至るまでの経緯は、次のと
おりであることが認められる。
 演奏契約者は、昭和三九年五月一九日全員二四名を以つて楽団労組を結成した。
同年七月二四日演奏契約者(当時は専属契約)三名について、契約更新期が到来し
たので、楽団労組は再契約の締結につき団体交渉を申入れ、かつ契約書案文の事前
提示を要求したが、参加人は、契約は個別に交渉すべきものであるとして、右要求
を拒否した。そこで同年八月三一日に、楽団労組は、組合員の契約更新その他の労
働条件は、団体交渉により結ばれることを要求する文書を参加人に提出した。(こ
れより先同年六月末ごろc芸能部長は、楽団控室において、演奏契約者全員に対
し、優先契約につき、芸能員就業規則の適用は外されるが、専属契約の重要な契約
部分は実体としては残すから安心するようにとの説明をした。)楽団労組からの前
記団体交渉申入れは、参加人から拒否されたが、契約の締結、契約内容の改善に関
することがらを除くその余の事項に対する話し合は事実上参加人と楽団労組との間
に行なわれていた。
 昭和四〇年二月一五日に至つて楽団労組は契約改善についての団体交渉を要求す
る文書を参加人に提出し、組合案として専属契約を基本とする契約案文を示し、契
約日の統一と、右案文どおりに契約内容を変更するよう要求したが、これに対する
参加人の態度は従前と同じであつた。
 自由契約を締結するに際しても、参加人側から、優先契約についてなされた説明
と同旨の説明がなされた外、発注がないときは、他社、他所の出演は自由である。
もし他に出演が定まつたときは、あらかじめその旨届出れば、参加人はその日時に
は発注しないとの説明がなされた。
右優先、自由各契約の調印は契約者毎に個別になされたが、各契約者は、もし調印
を拒否すれば、再契約を拒否されることを虞れ、不本意ながら全員調印したが、楽
団労組は右契約に不満である旨を参加人に表明していた。
 優先、自由両契約を通じ、契約書の金額欄は、あらかじめ参加人において書き込
まれていた。(例えば自由契約においては、昭和四〇年八月n契約金年額五二二、
〇〇〇円、出演料単価一時間一〇〇円、o契約金年額五五八、〇〇〇円、出演料単
価同じ、l契約金年額四三二、〇〇〇円、出演料単価同じ、m契約金年額四六二、
〇〇〇円、出演料単価同じ)これら契約金は演唱契約者と同様従前の専属契約にお
ける保証出演料、超過出演料の合計額に見合う額であつた。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
(ハ) 原告楽団労組は、右自由契約は不成立ないし無効である旨主張するけれど
も、その理由のないことは、演唱契約者について説示したところと同一である。
しかし、自由契約が結ばれるに至つた前記経緯に徴すれば、右契約の文言、契約金
の具体的金額などは、すべて参加人が一方的に決定し、演奏契約者の希望は全く考
慮されず、契約者は新規契約の締結を参加人が拒否することを心配し、不本意なが
ら自由契約を結ぶことに合意したものであることは明白である。
(ニ) 前顕丙第一号証の四、第四号証の二六、証人dの証言、原告楽団労組代表
者本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
 演奏契約者の昭和四〇年度の平均出演時間は一カ月平均九時間となり、専属契約
時代に比し急激に出演時間が減少した。(kについてみると、昭和三九年七月ない
し一二月までの平均出演時間は一カ月約四〇ないし五〇時間、平均出勤日数約一二
日であつたが、昭和四〇年一月一二・五時間、出勤日数三日、二月一六・五時間、
出勤日数六日、三月三七・五時間、出勤日数五日、四月九時間、出勤日数三日、五
月一五時間、出勤日数二日となつている。)このように出演が減少したのは、昭和
四〇年八月現在で出演番組が一週間にレギユラー一本、ドラマの伴奏一、二回とい
う程度であり、専属契約時代に比し出演番組そのものが減少したためである。
 なお、優先、自由両契約を通じ、演奏契約者の他社出演は、一、二例を数える程
度で極めて僅少であり、相当数の演奏契約者は夜分にキヤバレー、ナイトクラブ等
にアルバイトとして稼働しているが、その報酬は参加人との契約による報酬の不足
分を補う程度のものであつた。
 他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 然し、右のような出演時間の急激な減少は、全く演奏契約者の予想していなかつ
た事態であり、これら契約者は、参加人の発注を常時期待していたであらうこと
は、容易に推測できる。これに加えて、先に説示したとおり、参加人の発注に対し
ては、原則として拒否できないという基本的な契約関係は、専属契約時代と同質的
に存続しているとすれば、演奏契約者の社外ないし他所出演は当然に制約を受ける
ことになるから、発注の量がいかに減少したとしても、現実に発注された特定の
日、特定の時間以外の時間の全部が常に演奏契約者の自由なる処分に委ねられてい
ると見ることの困難なことは演唱契約者について説示したところと同一である。
 なお、前顕丙第一号証の四、証人c、同lの各証言によれば、自由契約時代にお
いても、本件命令のなされる以前においては厚生年金、厚生共済会に加入が認めら
れており、社員手帳も交付されていたこと、健康保険、失業保険の適用もなされて
いたことが認められる。
(ホ) 以上(イ)ないし(ニ)に認定した事実を総合して考察すると演奏契約者
も、参加人が一方的に決定した契約内容に基づいて、年間を通じ芸術的労働力の提
供者として、参加人が一方的に指定した日時、場所、番組内容に従い、制作担当者
の指揮監督の下に、参加人に芸術的労働力を提供し、その対価として一定の報酬を
受けているものであり、その限りにおいて参加人に従属する労働者であると解する
のが相当であり、その詳細は演唱契約者について説示したところと全く同一であ
る。
 してみると、演奏契約者と参加人との間にはいわゆる労使の具体的労働対向関係
が存するというべきであるから、これらの者の組織する労働組合である原告楽団労
組は、団体交渉権の主体たりうるものであり、参加人は、右相手方としての労組法
第七条二号にいう使用者にあたると解するのが相当であるから、これと異る見解の
下に、右原告の救済申立を「参加人は、労組法第七条二号の使用者にあたらない」
との理由で棄却した本件命令(昭和四〇年(不)第五号)は、その余の点につき判
断するまでもなく失当であるから取消すべきである。
六、以上の次第であるから、被告が昭和四一年二月一九日付でなした本件各命令を
取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して
主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 角田清 鶴巻克怒)
別紙 その一
当委員会の判断(昭和四〇年(不)第四号)
 合唱団員と被申立人会社との間の使用従属関係について当委員会は、上記第1、
3に掲げる証拠を総合して次のとおり判断する。
ア 出演契約の締結について
 合唱団員が被申立人会社と平均契約年次四、五年の継続的関係にあり昭和四〇年
三月末日かぎり全員自由出演契約になつたことが認められる。この間の契約はいず
れも芸能員の特殊性を考慮した一年期限付のものであつて、期限が到来すれば特別
に試験を行ない、当事者合意の上更改が行なわれているので一般的意味における単
なる更新とは同視できない。
 なお、被申立人会社の需要度の変化により、合唱団員に対して業務上の必要性が
極めて乏しい状態になつたことが認められる。
 このことは、契約形式の如何にかかわらず、以前よりその傾向が見受けられ、現
在にいたつている。
 契約締結の形式が附従契約的な色彩を有するとしても問題はその契約の内容であ
る。
イ 出演について
 合唱団員は、出演発注を拒否することができるか否かについて、自由出演契約の
契約書前文では「会社の放送ならびに放送に附帯する業務に出演することを次の条
件で約諾する」と規定され、一見、常に出演義務があるかのごとき規定がなされて
いるが、これは同契約第1項から第5項までの条件で契約したことを明らかにした
に止まり、具体的な出演義務を規定したものではない。
 合唱団員は、自由に会社の発注に対し諾否をきめることができるのであつて、具
体的な出演義務は発注に応諾して始めて生ずる。この意味で合唱団員には厳密な意
味での拘束時間というものはない。したがつて被申立人会社は合唱団員を対象に自
由な企画をすることができないことが認められる。
 ただ、出演発注を実際に断れば次年度契約更改のとき考慮さるべき事由となるで
あろうということは考えられるが、これは契約存続期間中の問題ではなく、契約中
は発注に応じなくとも契約金の減額をされる等の不利益をうけることはない。した
がつてこれは契約外の問題と考えるべきである。
 被申立人会社は、合唱団員が他所出演等により発注に応じられないことがあらか
じめ判つているときには届出を期待し、その期間は発注しない取扱いであるから、
合唱団員は常時待機する必要があるとは認められない。
 合唱団員が、会社の出演発注に応諾すれば、出演に際して演唱効果の統一上担当
プロデユーサーおよびその指定する指揮者の指図を受けるが、これは使用者の労働
力の一般的指揮権によるものとはその性質を異にしている。
 なお、実態上この発注に応じた時間も一か月中にせいぜい八時間位であり、一般
に以前からきわめて短いことが認められる。
ウ 出演報酬について
 契約金は月額にして最高四四、〇〇〇円、最低二一、〇〇〇円であり、出演料は
一時間単位八〇円から一二〇円である。したがつて契約金は、一見、保障固定給の
ように見えるがこれは芸能界の慣行により契約金の名称を用いながら、著作権、複
製権等の謝礼を加味した実質上出演料と認められる。そのようになつているのは、
契約上の出演料がこれまた被申立人会社の従来の慣行により少額であり、かつ、合
唱団員の出演時間が近時激減の傾向にあり、それのみでは出演報酬に値するもので
はない点等にかんがみ、急激の変化をきたさないためにとられた過渡的な便宜的措
置にすぎないことが認められる。
 さらに、契約変遷の推移ならびに合唱団員が会社の出演発注についてその都度諾
否を決めうることおよび出演を拒否したり、申立人組合のいう争議行為(ストライ
キ)をしてもなお契約金の支払額に変更がないこと等をあわせ考えるとこの契約金
は賃金とは認め難い。
エ その他
 一般職員と合唱団員の勤務態様および身分上の取扱いについて次の表に示すよう
な差異があり、申立人組合のあげている事項は便宜的なものであつて、きわめて特
殊な契約形態であることが認められる。
一般職員と合唱団員との差異一覧表
<18032-001>
<18032-002>
結論
 以上の点を総合判断すれば、合唱団員は企業内の組織に組み入れられておらず、
使用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものとは認め難い。よつて申立人組
合の構成員と被申立人会社との間には、出演発注に対し諾否自由の立場においてこ
れを受諾したときに始めて出演義務が発生するという程度のゆるやかな関係のある
ことは認められるが、労働者と使用者との間の使用従属関係があるとは認められな
い。
 したがつて、申立人組合と被申立人会社との間では、被申立人会社は労働組合法
第七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はない。
 よつて、その余の事実を判断するまでもなく、申立人組合の本件申立は失当であ
り、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令す
る。
当委員会の判断(昭和四〇年(不)第五号)
 本件申立は不当労働行為の成否の前提として、楽団員と被申立人会社との間の使
用従属関係に関する争いがあるので、この点について当委員会は、上記第1、3に
掲げる証拠を総合して、次のとおり判断する。
ア 出演契約の締結について
 楽団員は被申立人会社と平均契約年次一〇年の継続的関係にあり、昭和三九年度
中に優先出演契約となつたが、その後昭和四〇年三月より審問終結までの間に全員
漸次自由出演契約となつたことが認められる。この間の契約はいずれも芸能員の特
殊性を考慮した一年期限付のものであつて、期限が到来すれば技能および熟練度を
考慮し、当事者合意の上更改が行なわれているので、一般的意味における単なる更
新とは同視できない。
 なお、被申立人会社の需要度の変化により、近時楽団員に対し業務上の必要性が
減少していることが認められる。
 このことは契約形式の如何にかかわらず、すでに従前よりその傾向が見受けら
れ、現在にいたつている。
 契約締結の形式が附従契約的な色彩を有するとしても、問題は、その契約の内容
である。
イ 出演について
 楽団員は出演発注を拒否することができるか否かについて、自由出演契約の契約
書前文では、「会社の放送ならびに放送に附帯する業務に出演することを次の条件
で約諾する」と規定され、一見、常に出演義務があるかのごとき規定がなされてい
るが、これは同契約第1項から第5項までの条件で契約したことを明らかにしたに
止まり、具体的な出演義務を規定したものではない。
 楽団員は自由に会社の発注に対し諾否をきめることができるのであつて、具体的
な出演義務は発注に応諾して始めて生ずる。この意味で楽団員には厳密な意味での
拘束時間というものはない。したがつて被申立人会社は、楽団員を対象に自由な企
画をすることができないことが認められる。ただ、出演発注を実際に断れば次年度
の契約更改のとき考慮さるべき事由となるであろうということは考えられるが、こ
れは契約存続期間中の問題ではなく、契約中は発注に応じなくとも契約金の減額を
される等の不利益をうけることはない。したがつてこれは契約外の問題と考えるべ
きである。
 被申立人会社は、楽団員が他所出演等により発注に応じられないことがあらかじ
め判つているときには、届出を期待し、その期間は発注しない取扱いであるから、
楽団員は常時待機する必要があるとは認められない。
 実態上このことは、昭和三九年度の優先出演契約のときからほとんど同様であつ
たことが認められる。
 楽団員が、会社の出演発注に応諾すれば、出演に際して、演奏効果の統一上担当
プロデユーサーおよびその指定する指揮者の指図を受けるが、これは使用者の労働
力の一般的指揮権によるものとはその性質を異にしている。
 なお、実態上出演日数、出演時間は昭和三八年頃より激減し、甲第二六号証の一
楽団員の例ではあるが、同四〇年一月から五月迄の間に、出演日数は一か月につ
き、最高は二月中に六日、最低は、五月中に二日、平均すれば四日ということでも
明らかなように、一般に拘束日数がきわめて少ないことが認められる。
ウ 出演報酬について
 自由出演契約の契約金は月割にして、最高六四、五〇〇円、最低三四、五〇〇円
であり、出演料は一時間当り一〇〇円である。したがつて契約金は、一見、保障固
定給のようにみえるが、これは、芸能界の慣行により契約金の名称を用いながら、
著作権、複製権等の謝礼を加味した実質上の出演料と認められる。
 そのようになつているのは、契約上の出演料がこれまた被申立人会社の従来の慣
行により少額であり、かつ、楽団員の出演時間が近時激減の傾向にあり、それのみ
では出演報酬に値するものではない点等にかんがみ、急激の変化をきたさないため
にとられた過渡的な便宜的措置にすぎないことが認められる。
 さらに、契約変遷の推移ならびに楽団員が会社の出演発注についてその都度諾否
を決めうること、および出演発注を拒否したり、申立人組合のいう争議行為(スト
ライキ)をしても、なお契約金の支払額に変更がないこと等をあわせ考えると、こ
の契約金は、賃金とは認め難い。
エ その他
 一般職員と楽団員の勤務態様および身分上の取扱いについて次の表に示すような
差異があり、申立人組合のあげている事項は便宜的なものであつて、きわめて特殊
な契約形態であることが認められる。
一般職員と楽団員との差異一覧表
<18032-003>
結論
 以上の点を総合判断すれば、楽団員は企業内の組織に組み入れられておらず、使
用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものとは認め難い。よつて申立人組合
の構成員と被申立人会社との間には、出演発注に対し諾否自由の立場において、こ
れを受諾したときに始めて出演義務が発生する、という程度のゆるやかな関係のあ
ることは認められるが、労働者と使用者との間の使用従属関係があるとは認められ
ない。
 したがつて、申立人組合と被申立人会社との間では、被申立人会社は労働組合法
第七条にいう使用者たりえず、不当労働行為の成立する余地はない。
 よつて、その余の事実を判断するまでもなく、申立人組合の本件申立は失当であ
り、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条により主文のとおり命令す
る。
別紙 その二
第一 当事者について
一、参加人の概要について
(1) 会社は昭和二五年一二月一五日に設立され(現在資本金一〇億円)
 放送法による一般放送事業者の放送事業
 前項に関連附帯する一切の業務
 を営むことを目的とする株式会社である。(昭和四二年五月二五日定款改正によ
り事業目的の記載方法を変更)
(2) 従業員数は(昭和四五年三月一日現在)
 職員(通常の雇傭契約で会社職員就業規則の適用あるもの)七〇三人(役員局長
を含む。)
 嘱託(特定の業務の嘱託を受け職員就業規則の一部のみ適用あるもの)四五人
 でその合計は七四八人である。
(3) 会社は前記(1)記載のとおりの業務を経営するため、名古屋市<以下略
>に本社を置き、東京ならびに大阪に支社を、豊橋、高山に放送局を、一宮、岐
阜、津、四日市、伊勢に支局を、大垣、多治見、伊賀上野に通信部を、浜松に営業
所を、ニユーヨークに駐在事務所を、それぞれ置き、名古屋市<以下略>にラジオ
送信所、名古屋市<以下略>所在のテレビ塔にテレビ送信所を設け、かつ豊橋、高
山をはじめ合計二四ケ所にラジオ・テレビの放送所を設けているものである。
二、会社における芸能契約者の変遷について
(一) 演奏契約者
<18032-004>
<18032-005>
(二) 演唱契約者
<18032-006>
三、会社における芸能契約者の現在の状況(昭和四五年八月一日現在)前述の芸能
契約者中
(イ)演唱契約者 〇人(昭和四一年四月一日以降なし)
(ロ)演奏契約者 二〇人、自由契約
四、原告組合について
(一) 原告合唱団労組
 会社は、合唱団労組が昭和三九年五月一日結成された旨の通知を受けているが、
組合員数は結成時会社と契約ある演唱契約者十八名及び会社と契約のない者五名計
二三名、現在僅か四名(会社と契約関係存しない。)である。又、会社従業員は、
昭和二七年三月九日中部日本放送労働組合を結成し、現在会社従業員中約四二〇名
が加入している。なお、会社と右合唱団労組と称する団体との間には労働協約とい
うべきものは全然存していない。
(二) 原告楽団労組
 会社は、楽団労組が昭和三九年五月一九日結成された旨の通知を受けているが、
組合員数は結成当時二四名、現在僅か七名である。なお、合唱団労組の場合と同
様、会社と楽団労組との間には労働協約というべきものは全然存在していない。
第二 会社に於ける演唱契約者、演奏契約者の契約の変遷について
一、会社が芸能契約者を必要とした理由、およびその後の需要度の変化について
(一) 放送開始当時の事情並に芸能契約者を必要とした理由
 会社は当時の定款による営業目的である一般放送及び電視放送の事業を東海三
県、及び静岡県、滋賀県の一部をエリヤとして営んで来ているが、会社設立の翌年
である昭和二六年九月一日より一般放送(ラジオ)のみを行い、昭和三一年一二月
より電視放送(テレビ)も併せて行なつてきているものである。
 昭和二六年会社が一般放送(ラジオ)を実施した当時、民法は会社の他には大阪
に新日本放送一社のみであつた。
 当時は放送素材(テープ・レコード)も中継設備も未発達であつたので番組の交
流は少く、ラジオ放送時間約一七時間のうち録音テープで賄われ得るのは僅か約三
時間で、それ以外の約一四時間は総て自社制作番組で埋めなければならなかつた。
 これ等の諸事情と当時のラジオ番組はラジオドラマが優位を占めていたので、そ
の制作のために演技者(声優)・効果音(擬音)及びこれの伴奏音楽を必要とした
こと、又民放としては歌謡曲の伴奏、コマーシヤルソング、番組のテーマ音楽等の
必要もあつた。加うるに名古屋市に於ては競合するNHK名古屋中央放送局(C
K)に、名古屋放送劇団・名古屋放送効果団・名古屋放送管弦楽団があつて活躍し
ていたので、之に対応する意味からも会社は演技契約者・効果契約者・演奏契約者
が必要であると思考したのである。
(二) 芸能契約者の需要度の変化
(イ) 訴外演技契約者について
 昭和二七年一一月会社は約一〇名の演技者とはじめて契約したのであるが、その
後ラジオ・テレビのドラマ番組の自社制作が変遷するとともに、演技契約者の番組
出演は昭和三四・三五年の年間一人平均約二〇〇本程度の需要を頂点として年々そ
の需要は減少し、昭和四三年以降に於ては、年間を通じて一人平均二〇本程度の番
組出演となり需要は激減しているのである。
(ロ) 訴外効果契約者について
 開局当時の擬音・効果音の需要に応じて、昭和二七年九月一日三名と一年を期間
とする専属契約を締結した。その後ドラマ制作の増加とともに二九年に二名、三二
年に二名、三三年に五名とそれぞれ新しく一カ年契約し、三三年七月時には専属効
果契約者は一二名となつた。しかし、効果契約者は、録音技術の進歩・放送素材の
増加によつて、旧来の擬音による効果音の需要は昭和三五年頃から次第に少なくな
り、三七年頃には仕事の内容もプロデユーサーやミキサーと同一になつたので、従
来の擬音の仕事は全くなくなつた。そこで会社は当時の契約者一一名を昭和三八年
六月一日職員として雇傭契約を為し以後効果契約者は一人も存していないのであ
る。
(ハ) 演奏契約者について
 前述の如く会社は演奏契約者を必要とすると考えたので、放送開始六カ月前頃か
ら管弦楽団の編成を行ない、昭和二六年五月には作曲家であり指揮者でもあるp氏
を審査員長として、一般から公募して技能テストを行つた。この公募テストに合格
した者は一人のみであつたので、同年六月から、直接個々の演奏者と交渉して放送
開始までに九人と契約した。従つて技能を中心とする契約であるから当初より会社
の通常の従業員の契約とは異なり一年の契約期間であつて、熟練の度を見て新たに
契約をするという方式を取つたのである。現在の契約者数は第一の二の(一)の通
り二〇名である。
 演奏契約者の需要度の変遷については、開局の昭和二六年九月から昭和二八年頃
までは月間平均一人当り一二〇時間を超える需要があり、その後昭和三二年頃まで
は約一〇〇時間の需要があつたが、昭和三五年六四・七時間、三六年五七・二、三
七年五一・四、三八年三二・八、三九年三〇・二、四〇年一八・九、四一年二三・
八、四二年二〇・一、四三年二四・七、四四年二三・四時間と変化している。
 このことは昭和三二年頃までは、ラジオドラマ番組、歌謡歌手の伴奏等の需要が
多かつたが、テレビ時代になるにつれてラジオに於ける需要が減少した。しかもテ
レビでは自主制作が少ないため需要がのびなかつたことを示している。
(ニ) 演唱契約者について
 昭和二九年当時における民間放送の実状についていえば、前述の通り当時はテレ
ビはなくラジオだけであり、未だいわゆるネツトワークもないため、他局から番組
を受けることも、又制作設備の未整備・放送素材不足の関係より代理店から番組の
提供を受けることも困難であつたため、番組の殆んどを自社で制作せざるを得ない
状態であつた。
 一方、合唱音楽は当時他に娯楽物も少ないため、社会一般からもその娯楽性を認
められ、かつ当時の合唱ばやりの風潮により相当程度の聴取率があつたので(当時
NHK名古屋中央放送局には既に合唱音楽をする契約者があり「花のコーラス」な
る番組で相当高い聴取率を有していた。)、スポンサーも合唱番組の制作費を負担
することに吝さかでなかつた。
 そこで会社も、合唱番組として一五分程度の番組を週間一、二本制作し、更には
ドラマ、バラエテイ等のバツクミユージツクとして合唱を必要とするものに出演さ
せることを目的として、昭和二九年一一月一日いわゆる演唱契約を結んだものであ
る。
 従つて、かゝる芸術的技能を中心とする契約であるから当初より会社の通常の従
業員の契約とは異り一年の契約期間で、この間の技能の習練、熟練の度を見て新た
に契約をすると云う方式を取つたのである。
 その後、演唱契約者は徐々にその数を増加すると共に昭和三一年以降は東京学芸
大学教授q氏の指導を受けるに至つて合唱の技能に一層の熟練度を加え、山形大学
教授r氏他の指導も受け定期演奏を行う程度に至つた。
 しかしながら同演唱契約者の場合主としてクラシツクの専門教育を受け、番組出
演もクラシツクものが殆んどであり、その聴取率も一般のポピユラー番組より低調
であるため勢いスポンサーが敬遠した。一方、クラシツクの合唱番組を継続して放
送する場合にも東京の二期会、東京混成、日本合唱協会等の一流コーラスが東芝、
ビクター、コロムビア等のレコード会社の専属となるに及びレコード素材が豊富に
割安に供給されて、演唱契約者らの出演の場がその番組制作、編成上にも必要度が
自然減少にならざるを得なくなつた。
 更に昭和二八年一二月三重県にラジオ三重、昭和二九年一一月岐阜県に岐阜放送
がラジオ放送を開始した。放送エリア内にラジオの競争会社を迎え、加うるに昭和
三一年一二月会社は名古屋で最初のテレビ放送を開始したことによつて、ラジオ放
送番組はテレビ放送に対応してその編成内容もテレビ放送に競合しないラジオの特
性を発揮する内容に変化してきた。同時に視聴者の番組選択及び嗜好傾向が変化
し、これを提供するスポンサーの需要もその取捨選択が激しくなり、合唱音楽とし
ての独立番組は全く成立しなくなつた。特にテレビ放送においては合唱そのものの
舞台が静的なもので動きがなく、シヨー的魅力が出ないのでラジオ以上にその必要
度がなくなつている。従つてこの様に激しい必要条件の変遷によつて好むと好まざ
るとに拘わらず、当初の必要度は今日全く影をひそめてしまうに至つた。従つて会
社は、これら諸般の事情を慎重に検討した結果、次年度の新契約を行なうことがむ
しろ折角の特殊技能をもつ音楽演唱者の芸能力を埋没させてしまうことになる点を
考慮し、昭和四一年四月以降は新契約を行なわないことに決定し、その旨を昭和四
一年二月二三日演唱契約者全員に個々に通知したのである。
 従つて昭和四一年四月一日以降会社には演唱契約者は一人も存在していないので
ある。
二、演唱契約者の契約の推移について
 演唱契約者との契約は会社の発注する放送ならびに放送付帯業務につき契約者が
有する歌唱技能を提供し以つてその出演の完成を主体とするものであつて、通常の
労務の提供を内容とする雇傭契約とははなはだしく趣きを異にするものである。
 その契約の内容の変遷を見るに次の通りである。
(イ) 第一回の契約について
 その契約を昭和二九年の当初に於て見ると、「音楽合唱者として会社の発注する
放送並びに放送附帯業務に出演する」ことを契約内容とし、その報酬としては、
「保証出演料」と「超過出演料」の二種としている。更に契約の期間は一カ年とし
期間満了一カ月前に何れか一方より解約又は更新の申入をなさざるときは自動的に
継続延長することとなつていた。
 而して演唱契約者とはその期間毎に新たに契約をして来た。
(ロ) 会社における演唱契約者の契約業務その他の担当者の変遷
    年  月  日 契約業務担当部課 業務担当者
<18032-007>
(ハ) 昭和三〇年度以降昭和三九年度までのいわゆる専属契約時代の契約形式の
変遷とその実態
 昭和三〇年度(昭和三〇年一一月一日~昭和三一年三月三一日)は前年度と同じ
であつたが、昭和三一年度よりは演唱契約者の技能者としての資格を重んじ、その
契約内容を次の如く変更した。先ず「音楽演唱者として、会社の発注する放送並に
放送付帯業務に出演する」こととし、「契約期間については会社より期間満了一カ
月前に更新の申し出をなさざるときは自動的に解約となる」となつた。
 昭和三三年度においては、その契約に際し技能者としての独立性を重んじ次の通
りその契約内容を変更した。
「会社がその支払う報酬を、一、月割契約金、二、保証出演料、三、超過出演料」
の三種とした。
 昭和三五年度の契約においては演唱契約者との契約の特殊性にかんがみ、次の事
項を契約内容として加えた。即ち、演唱契約者が「疾病、出産、冠婚葬祭等特別の
事由によらないで、会社の出演指定に拘らず出演をしない場合は、会社は当該月の
契約金の一部又は全部を支給しないことが出来るものとする」と云う条項で、結局
演唱契約者の芸能者としての技能提供契約である趣旨を明確にしたものである。
 そして、会社は実情に合わず適用していない「芸能員就業規則」に代るものとし
て出演上の心得に類するものを、「出演内規」として昭和三九年以来作成していた
(それ以前は、芸能部長の手許における手控)が、これも契約者に周知適用せず、
結局、「就業基準」的なものがなくとも何ら演唱契約において不都合はないと契約
当事者双方ともに了解していたのであつて、演唱契約者が第三者との間に先約を持
つ場合会社において出演指定を差し控える(契約者側からの事前出演拒否)など、
事実上、自由契約の扱いをしていたのが実態であつた。しかも、昭和三九年度にお
いて、会社からの発注件数三、四五五件のうち、何らの連絡も理由もなく無断で応
諾拒否が行なわれた回数が八二件に達している事実があり、会社もこれを認容し、
何らこれに対する措置もとらなかつたのであつて、これによつても実態において諾
否自由が公然化していたこと明白である。従つて、社外出演も、契約上明らかに自
由な昭和四〇年度のみならず、昭和三九年度においても実際上無断社外出演自由が
当然化していた(会社の発注に契約者が待機することもなかつた。)のである。
 これを要するに、昭和三九年度の演唱契約は形式上は専属契約の形式を採つては
いたが、通常の雇傭契約の本質である労働の従属性(労働力処分の使用者への一
任)は極めて乏しく、実質諾否自由、社外出演自由の自由契約に外ならぬ内容であ
ることを契約当事者双方とも当然のこととしていたのであつた。
 又、文面上とはいえ、専属の形式が採られていたのは、契約者等が自らの技能を
「CBC」という名に頼り、「CBC」に関連している芸能者であるとして他へ標
榜したいという強い希望を有していた心情を汲み、従来から温情的に冠して来た名
のみの「専属」であつたのであり、このようなことは芸能界の特殊な事情からは決
して珍しいことではなかつたのである。
(ニ) 新しい演唱契約締結に際してはその都度技能試験を行ない契約適格者のみ
契約対象者としていたことについて
 会社は毎年技能試験を実施し、その結果合格した契約適格者と契約交渉を行なつ
て合意に達した者と一年間の契約を結んで来たのである。
 尚、昭和三七年度の新契約に際しては、一般からの応募者に対する技能テストを
昭和三七年三月四日ならびに三月一一日に行なつたのであるが、昭和三六年度の契
約者で三七年度新契約を希望する者に対しては、この年のみ次の如き技能テストを
行なつたものである。
 即ち、昭和三六年の第一六回文部省芸術祭にCBCが参加出品したs作詩・t作
曲CBC合唱団出演の「冬のもてこし春だから」が音楽部門合唱曲コンクールにお
いて芸術祭賞を受賞した(作品の良し悪しが対象であつて演奏した合唱団の巧拙が
対象ではない。これは例えばサン・レモ音楽祭なども同じである。)ことを記念し
て、昭和三七年三月一日前記受賞を記念する第七回CBC合唱団演奏会を愛知県文
化講堂で行なうことになり、これにそなえて当時指揮者のq氏(受賞曲の指揮者で
あり、技能テストの毎年の審査委員長でもある。)を迎えて集中練習を行なつた。
この練習を通じて各契約者の技能がよく分り、q氏より次年度新契約を希望する契
約者全員が会社の求める一定技能水準に達しているとの報告を受けたので新契約希
望者全員を契約適格者として、契約交渉を行なつたのである。
(ホ) 自由契約への推移の経緯及びその実施について
 昭和四〇年度の契約においては契約書を前記の如き実態に合わせ、演唱者として
の技能を重んじ、その自由性と独立性を尊重して、昭和四〇年度契約書記載のとお
りの契約内容に変更した。
 この契約により、演唱契約者と第三者との演唱契約は契約書の文面上全く自由と
なり、即ち演唱契約者が他社他所へ出演する自由、会社から契約者に出される出演
発注の諾否自由が何れも明確化された契約となつたのである。従つて当該契約者が
第三者に出演する先約を有する場合は勿論、その他事由の如何を問わず、会社の発
注に対し応諾を拒否する自由を契約者が有する契約となつたのである。
 即ち、会社と契約者との間には、契約者が会社に対し諾否自由の立場においてそ
の技能をもつて会社の発注業務に出演しこれを完成するという自由な協力関係があ
つたにすぎず、労働力の処分が使用者に委ねられていた事実はなく、労働者と使用
者との間の使用従属関係があつたとは到底云い得ないのであつた。
(ヘ) 自由な契約の本質について
(1) 「自由な契約」「自由契約」「自由出演契約」といろいろ称されている
が、いずれも本件においては同義語として使用されて居り、その本質は契約の変遷
において、その実態を詳細に論じて居るうちに示されているのであつて、これをま
とめてみるとつぎの通りである。
(2) 自由契約とは一般的労働関係における労働契約・雇傭契約と異なり、従属
的関係と通常いわれる使用者の指揮に服するという関係が全くないか、又はきわめ
てゆるやかな枠の内において、契約者自らの意思でその義務履行が行なわれるとい
う点が大きな違いとなつているものである。
(3) 契約理論上から請負・委任・雇傭等の各契約要素が混在する一種の無名契
約であるが、出演者がその有する芸術的技能を自由な環境において、注文された番
組という芸術作品の或るパートに自主的判断のもとにこれを受諾して初めて、その
作品完成という枠の中において提供しその作品を完成するものであるが故に、強い
ていえば「請負」的要素が一番多く顕れているといえるのである。
(4) 西欧諸国においてもいわゆる芸術的技能・アルチザン的技能提供につき、
自由なる協力者として契約する場合が多く、これを自由協力契約とか、自由な契約
とか称し、その特色は人的従属性が稀薄であることである。即ち
(a) 使用者の命令の拘束性が薄い
(b) 固定労働時間の拘束性が少ない
(c) 日々一定時に勤務する法的義務がない
(d) 他に給与を得て仕事をすることが自由である
(e) 休暇が全く自由である
 等がその特徴的な点であつて結局使用者はこの自由協力契約者に対し、その提供
する芸能力をその契約者の明白な合意の下に一定の枠(例えば定つた番組編成)内
においてのみ使用し得るもので、確定的な使用、利用の権限を有しないのである。
(5) 以上述べたところが「自由な契約」の本質であつて、会社が昭和四〇年度
より演唱契約者(後述の演奏契約者にも)との契約に採用した自由契約もまた、こ
の本質的特徴を有する契約に外ならない。
(6) 原告らは、CBC演唱契約者、CBC演奏契約者と、会社との間のいわゆ
る「自由出演契約」「自由契約」は法的には、成立していないと主張している。
然しながら、理論的にいうならば、法律行為である契約の成立要件は当事者、意思
表示、目的の三者であり、右「自由出演契約」が右三要素を具備していたことは、
疑いのないところであり、原告の主張も又「自由出演契約」が右三要素を欠いてい
るとの主張とは考えられず、原告は契約の不成立といいながら、結局は右自由出演
契約の無効を主張しているものと云わざるを得ない。
 ところで、自ら、契約書に署名捺印した各契約者等が、当該契約は無効である旨
主張する為には、右契約が、契約の効力発生要件である(1)の当事者が権利能力
を有していること。(2)契約内容が可能な確定し得べきものであり、かつ、適
法、社会的妥当性を有していること。(3)意思表示の内容が当事者の意思と齟齬
しないこと、という三要件のいずれかが欠如していた旨を指摘しなければならな
い。
 然るに原告は、右効力要件の欠如については、何ら主張することなく漠然と契約
書における出演義務内容が不明確であるとか、契約締結の状況からして、自由出演
契約が無効であるとか、一種のムード的な主張に終始しており、法的吟味を加える
余地の存しない主張である。
(ト) 昭和四一年二月一九日の時点における会社の演唱契約者数および契約態様
 昭和四一年二月一九日現在に於ける演唱契約者は一五人でその契約は前述の趣旨
の自由出演契約であつた。
(チ) 演唱契約者と会社の一般職員との差異
 演唱契約の本質から、これら演唱契約者は音楽演唱(合唱)なる特別な技能をも
つて会社と個々に一年間の期限でその都度個々の契約者の技能の程度による新らし
い契約条件をもつて契約を結んだ特異な存在であり、会社の一般職員とこれら演唱
契約者との間には次表の通りの明確な差異が存し、企業内の組織にも組み入れられ
ておらず、使用者の労働力に対する一般的指揮権に服するものではなかつたのであ
る。
一般職員と演唱契約者との差異
<18032-009>
<18032-010>
(但し職員就業規則とあるは、会社の昭和四一年五月一日改正以前の職員就業規則
の意である。)
三、演奏契約者の契約の推移について
 演奏契約者との契約は、会社の発注する放送ならびに放送附帯業務につき契約者
が有する器楽演奏技能を提供し、以つてその出演を完成することを主体とするもの
であつて、通常の労務提供を内容とする雇傭契約とは甚しく趣きを異にするもので
ある。
 その契約の内容の変遷を見るに次の通りである。
(イ) 第一回の契約について
 昭和二六年度においては、「音楽演奏者として会社の発注する放送及び放送付帯
業務に出演する」ことを契約内容とし、その報酬は保証出演料、超過出演料の二種
と定め、かつ契約期間は一カ年とし期間満了一カ月前に何れか一方より解約又は更
新の申し出をなさざるときは自動的に継続延長することとなつていた。而して右演
奏契約者とはその期間毎に新たに契約をして来たのである。
(ロ) 会社に於ける演奏契約者の契約業務その他の担当者の変遷
<18032-011>
〃 四四年一一月一日 事業局庶務課   事業局付部長扱 c
(ハ) 昭和二七年度以降昭和三八年度までのいわゆる専属契約時代の契約形式の
変遷とその実態
 昭和二七年度以降昭和三八年度までのいわゆる専属契約時代の契約内容の変遷と
しては
 昭和三三年度に、演奏契約者の技能者としての性格を重んじ、その契約内容を次
の如く変更した。先ず、「音楽演奏者として、会社の発注する放送ならびに放送付
帯業務に出演する」こととし、契約期間については「期間満了一カ月以上前にいづ
れか一方から更新の申入れをなさない場合は自動的に解約となる」となつた。
 昭和三八年度までの契約は、形式上は専属的契約であつたのであるが、しかしそ
の実態としては、個々の演奏契約者が会社に無断で第三者との間に演奏契約を結び
出演する傾向にあつたのであり、かつ又会社もこれを黙認する形であつたので、む
しろ優先出演契約というべき契約であつた。
 なお、新しい契約締結にはその都度一年の成績により適格者を決めて契約をなし
ている。
(ニ) 優先契約時代の契約形式とその実態
 昭和三九年度においては、演奏契約者の技能者としての自由性を重んじ、専属的
契約(注1)を優先出演契約(注2)に改め、報酬を出演料として、一〇〇時間単
位までは月額として支払い、その単位を超える者については追加出演料を支払うこ
とに改めた。また契約期間については、自動的に解約となる条項および専属的契約
には存在した就業規準に関する条項を、いずれも廃止した。
(注1) 一般に専属契約といえば、当該専属契約者は一切第三者との間に出演契
約を結ばないことをその本質とするものと考えられるが、会社と演奏契約者との契
約関係においては、当該演奏契約者が第三者との間に演奏出演契約を結ぶことを排
除するものではなく、当該契約者から会社に対し届出があればこれを許可すること
をその内容としていたのであり、これ即ち、専属的契約という所以である。
(注2) 優先出演契約とは、第三者への出演は自由であるが、第三者のための出
演契約と会社からの出演発注とが競合する場合、会社への出演を優先とするとのい
われである。
(ホ) 自由契約への推移の経緯およびその実施について
 昭和三九年度においては形式は会社からの出演発注を優先させる優先契約であつ
たのであるが、しかしその実態としては、すでに昭和三九年より以前から、演奏契
約者が第三者との間に先約を持つ場合会社において出演発注を差し控えるなど、実
際上優先契約より自由な扱いをしていたのである。即ちこの実態に形式を合わせる
べく昭和四〇年度になつて、ようやく契約形式を会社が自由契約と称している、演
奏者としての技能を重んじ、その自由性と自主性を更に尊重した会社の発注に対し
て諾否自由の形式の契約としたのである。
 ここにおいて、演奏契約者の第三者との演奏契約は全く自由となり会社からの出
演発注に対し諾否が契約者の自由な自主性によつて為し得る契約となつたのであ
る。
 なお、参考として訴外演技契約者について述べれば、昭和三七年四月から八名、
同三八年四月からは全員一九名が他社出演の全く自由な契約(他社出演の届出があ
れば会社はその日時には発注出来ない。)となつており、昭和四〇年には発注に対
して諾否自由の自由契約になつていたのである。
(ヘ) 自由な契約の本質について
 演唱契約について述べたところ(第二の二の(ヘ))と同じである。
(ト) 昭和四一年二月一九日の時点における会社の演奏契約者の数及び契約の態

 昭和四一年二月一九日の愛知県地方労働委員会の命令時に於ける演奏契約者は二
四名であり、その時の契約形式は全員自由出演契約であつた。
(チ) 演奏契約者と会社の一般職員との差異
 演奏契約の本質から、これら演奏契約者は音楽演奏なる特別な技能をもつて会社
と個々に一年間の期限でその都度新らしい契約条件を以て契約を結んだ特異な存在
であるのであり、会社の一般職員とこれら演奏契約者との間には、次の表のとおり
の明確な差異が存し、企業内の組織にも組み入れられておらず、使用者の労働力に
対する一般的指揮権に服するものではないのである。
原告ら組合員と称する者と会社職員との間には次のとおりの差異が存在した。
<18032-012>
(但し職員就業規則とあるは会社の昭和四一年五月一日改正以前の職員就業規則の
意である)
第三 結論
一、以上の契約の変遷等より次のことが明らかとなる。
(1) 出演契約の締結は一年毎に行なわれ、演唱契約にあつては毎年度にq氏等
によつて行なわれる公正厳格なテストに合格した者と会社との間に締結され、又演
奏契約については毎年度その前年の演奏成績による基準に合つた者とのみ行なわれ
ていたものである。
(2) 専属(演奏契約者には優先も存していたが)契約の時代よりつよい契約者
の要求におされ、会社は漸次専属のわくをゆるめ、社外出演が許可から届出へと変
化し、昭和三七・八年頃は社外出演は自由という状況であつたことが明白である。
 而して昭和四〇年度より会社が採用した自由契約はこの現実を直視し実情に適合
した契約であつて、会社の番組制作に対する自由なる協力につき合意を求める契約
であつて既に欧米諸国においていわゆる「マスコミ」界で行なわれているものであ
る。この契約によれば、会社の出演発注に対し演唱・演奏契約者は自由に諾否をき
めることが出来るもので、具体的な出演義務は発注に応諾して始めて生ずる。従つ
て、契約者にはいわゆる「拘束時間」というものは存在しない。よつて、会社は演
唱契約者の全員出演を対象として自由な企画をすることはできないと愛知県地方労
働委員会が決定で認めていることはまた当然である。
 又、出演発注に応諾しなくとも会社はこれにより契約金の減額はなしていない。
 又、専属時代においても契約者が他所他社出演等により会社よりの出演発注に応
じられないときは、予め届出があれば会社は出演発注しない取扱を為しているの
で、契約者は常時待機する必要は全然認められないのである。
契約者が会社の出演発注に応諾すれば、会社の制作する番組に対するその出演は番
組の完成に付き必要とする音楽効果を最高に発揮する為め、統一的調和保持上担当
プロデユーサー・音楽指揮者が指図を為すことはあるがこれは使用者の労働力の一
般的指揮権によるものとはその性質を異にしているのである。
(3) 出演報酬は契約金と出演料としてあるが、契約金は芸能界の慣行により契
約金の名称ではあるが、著作権、複製権等の謝礼金を加味した実質上出演料と解す
るのが相当である。かくしているのは契約上の出演料が会社の従来の慣行から少額
であること、契約者の出演の少いことからそれのみでは出演報酬に値していない点
等に鑑み急激の変化を来たさぬ為めの過渡的な便宜措置にすぎないことも容易に、
察知し得るところである。
 これ等の諸点に出演発注に応じなくとも又争議行為をして契約金の支払額に変更
がないこと等を併せ考えると、到底契約金は賃金とは認め難いのである。
(4) 会社の一般職員と演唱・演奏契約者との勤務態様および身分上の取扱につ
いて前述したとおりの相違が存し、契約者の出演契約はきわめて特殊な契約形態で
ある。
二、以上の明白となつた事実を綜合判断すると、演唱契約者・演奏契約者は会社企
業の組織内に組入れられておらないものといわなくてはならない。
 従つて使用者たる会社の労働力に対する一般的指揮権に服するものでないことも
また明白である。
 よつて、契約者と会社との間の関係は出演発注に対し諾否自由の立場において、
之を受諾したときに始めて具体的出演義務が発生するという如き特殊なまことにゆ
るやかな関係であつて、いわゆる従属的労働関係が存するとは到底いい得ないもの
である。
三、かかる観点よりすれば、演唱・演奏の契約者は労基法第九条労組法第三条所定
の「労働者」とさえ称し得ぬものである。
四、従つて、愛知県地方労働委員会の決定は正しい事実の把握の上に立つ公正な判
断であつて、原告の主張は全く理由がないので早急に棄却さるべきである。
第四、昭和四一年二月一九日(本件地労委決定日)以降に於ける演唱契約者および
演奏契約者と会社との関係等に付き付加陳述する。
一、演奏契約者とは右時点以後は、その契約期間が終了すると、昭和四二年度より
定期に行なう技能評価及び日常評価に基き為されている契約適格性の判断により適
格あるものと新契約を自由契約により行ない現在に至つている。その契約人員の変
遷は次の通りである。
<18032-013>
 なお、右契約者の中に指揮を為す契約者(演奏も兼ねる)一人(u)を含んでい
る。
 又、右二〇人中一三人は原告ら組合に加盟していない契約者である。
二、演唱契約者は昭和四一年三月末日の期間満了を以て契約関係は全て終了し、会
社は次の事情から新しく契約をこれらの人々とは締結せず、従つて、昭和四一年四
月一日以降会社には演唱契約者は存在していないのである。
 即ち契約を新しく結ばなかつた事情とは、昭和四〇年度に至り「ターミナル・サ
ロン」のスポンサーであつた名古屋鉄道株式会社および名鉄百貨店が制作費の面か
ら合唱をレコードに切り替え、「エプロン大学」の新スポンサーである三洋電機が
従前のスポンサーであつた「寿がきや」のイメージの残存を嫌つて番組の名称・内
容の変更を強く要望したため、番組の内容及び名称の変更を余儀なくされ、結局、
演唱契約者の出演はなくなつてしまつたものである。会社としても、右スポンサー
に対し従前同様合唱を使用してくれるよう極力説得努力したのであるが、右の如き
理由により番組内容の変更をせざるを得なくなつたものである。
 企画局としても、演唱契約者が右二つの番組に使用し得ないとしても、「カトレ
ヤミユージツク」の如く従前は合唱を使用しなかつた番組に使用できないものかと
極力努力したのであるが、スポンサー関係および社内の編成、営業、制作の各局・
部においても合唱番組は視聴率が非常に低いこと、娯楽性に欠け、特に若い人の嗜
好に合わないこと、更に製作費が高いこと等を理由にして問題にされなかつたもの
である。
 結局、企画局芸能部の努力にも拘らず、当時の社会事情によつてテレビ・ラジオ
において合唱音楽を必要とする需要度が甚しく減少したことにより、演唱契約者の
出演時間数がこれに比例して急減したものである。かかる趨勢は単にCBCのみな
らず、かつて演唱契約者を有していた民間放送数社においても、その需要度がなく
なり、放送番組から逐年姿を消して行つた。即ち、東北放送、朝日放送では昭和三
六年、九州朝日放送は昭和三八年、中国放送が昭和三九年いずれもその契約を打ち
切るに至る等、昭和四一年において演唱契約者を有する民間放送者はCBCとアー
ル・ケー・ビー毎日放送における僅か二名の演唱契約者を残すのみとなつた。
 又、従前華々しく演唱活動をなして来たNHK名古屋中央放送局においても、昭
和四四年三月契約を打ち切り現在演唱契約者は一人も存在しないこと等がこれを如
実に物語つているのである。
 又、企画局芸能部としてはその事業活動面において演唱契約者の演唱活動を生か
さんものと考え種々の企画をなし或いは各学校方面における模範演唱、或いは会
社、工場等の職場における模範演唱等も種々相手方と交渉したのであるが、費用関
係或いは原告等の演唱のポピユラー性のないこと等から全て頓座して了つたのであ
る。
 又此の間、演唱契約者の技能になんとか大衆性をもたせるため、ポピユラー音楽
的なものをやり得るようその演唱範囲の拡張にもq氏自ら努力され、会社もそれを
支援したのであるが、遂にそのレパートリーの中にポピユラー性を持たせることが
出来なかつた。
 かくて、昭和四〇年度においては演唱契約者の出演は殆んどなくなり、その必要
性は皆無というも過言でない状況になつた。この為め会社は前記の諸般の事情を慎
重に検討した結果、新しく契約を締結することは、かえつて演唱契約者の演唱芸能
力をなすことなく埋没させて了うことになると判断して、新しく契約を締結しなか
つたものである。
別紙 その三
 契約書 昭和四〇年
 私は中部日本放送株式会社(以下会社という)と会社の放送並びに放送に附帯す
る事業に出演することを次の条件で契約します。
(1) 契約金と出演料は次の通りです。
(イ) 契約金として年額金 円也でその支払いは月割とします。
(ロ) 出演料は一時間あたり単価金 円の割合いで出演時間の算定は三〇分単位
とし、三〇分未満は切りあげます。
(2) 出演によつて生じたすべての著作権及び複製権は会社に属します。
(3) 会社名を使用して社外出演をする場合は会社の許可をうけることとしま
す。
(4) この契約の有効期間は昭和 年 月 日から昭和 年 月 日までとしま
す。
(5) 契約期間中であつても正当な理由があるときは、どちらからでも一カ月の
予告期間をおいてこの契約を解約することができます。但し相手方に契約違反の事
実があるときは直ちに解約ができるものとします。
昭和 年 月 日
住所
氏名
中部日本放送株式会社
代表取締役 v殿

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