弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人鶴田英夫が陳述した控訴の趣意は同人提出の同趣意書並びに同補充申立書
に記載の通りであるから、ここにこれを引用する。
 第一点について。
 所論は法人税逋脱犯の成立時期は納期満了の時であるとの見解に立ち、本件法人
税の納期満了の日時は、昭和二十三年七月三十一日であるのに、原判決は被告人の
経理面における不正操作に加え右納期の後である同年八月三十一日の門司税務署長
に対する虚偽の確定申告をも含めて法人税法第四十八条に所謂詐偽その他の不正行
為ありたるものとし、即ち明らかに犯罪既遂後の右申告をも右犯罪行為の一部と解
しているのみならず、これに先行する前示不正操作についてもその時期が右納期た
る七月三十一日以前の行為であるか否か確定していないのは審理不尽又は理由不備
の違法があるというのである。
 しかしながら申告納税制度の下における通脱犯成立の時期に付いては該制度の趣
旨に従い、各場合に応じて<要旨第一>之を決定すべきであつて所論の如く一律に所
謂納期説を採ることはできないと思われる。即ち納期前に虚偽の確定申
告をした場合には納期の到来によつて犯罪は成立するが納期経過後申告のあつた場
合においては右申告の時に犯罪が成立するものと解するを相当とする。即ち法人税
法第四十八条の罪は納期到来と申告の二事実の合致によつて直ちに成立すると同時
に右の合致なくしては成立し得ないものと解するを正当とする。従つて弁護人のこ
れと反対の見解に立脚する論旨は総て採用し難い。
 <要旨第二>次ぎに脱税の目的を以て先づ不正簿記その他経理面における不正操作
をなしこれを根拠として虚偽の確定申告をした場合には前者は対外行為
である右申告の為めにする対内的準備行為と見るべきであり仮にそれ自体も法人税
法第四十八条に所謂不正行為と解すべきだとしても最終の目的である虚偽の確定申
告が既になされた以上これと合して一連の不正行為と見るべきであるから判決には
最後の申告の時期を記載すれば足り、これに先行する前不各行為の時期を掲げる必
要は全くない。
 従つて右原判決に右時刻を明記しなかつたからと云つて所論の如き違法はない。
 同第二、三、四点に付いて。
 原判決は逋脱犯も一種の目的犯でわることは之を認めているのであつて、判文中
「およそ逋脱犯成立の主観的要件である逋脱の認識については」とあるのは逋脱の
目的の認識に付いてはの意味であり、その認識の程度は当審もまた原判決と同様正
当所得額に対する正当課税額に比し寡少税額の賦課をうける認識の存在を以て足る
と解する。
 しかして被告人に右程度の目的認識のあつたことは原判決挙示の証拠を綜合して
優に之を認め得るし他に右認定を覆すに足る証拠もないからして所論第二、三、四
点もまた理由がない。
 第五点について。
 法人税法第四十八条に所謂不正行為とは詐偽の外いやしくも逋脱を可能ならしむ
るに足る一切の不正行為を指すものと解するを正当とすべく従つて本論旨もまた理
由がない。
 第六点について。
 記録に現われている一切の犯情に鑑みるときは原判決の刑は相当だと思われる。
従つて本論旨も又理由がない。
 右の通り本件控訴は理由がないので刑事訴訟湧第三百九十六条により主文の通り
判決する。
 (裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 青木亮忠)

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