弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人林紀子ほか及び上告補助参加代理人水嶋晃ほかの各上告受理申立て理
由について
1本件は,被上告人の新幹線鉄道事業本部東京運転所(以下「東京運転所」と
いう。)の科長において上告補助参加人の組合員に対する脱退勧奨等を行ったこと
が被上告人の不当労働行為(労働組合法7条3号)に当たるとして,上告人が被上
告人に対し救済命令を発したところ,被上告人が,本件救済命令には不当労働行為
該当性に関する認定判断に誤りがあるとして,その取消しを求めている事案であ
る。
2原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,昭和62年4月1日,日本国有鉄道改革法に基づき,日本国
有鉄道が経営していた旅客鉄道事業のうち,主として東海地方における事業を引き
継いで設立された会社である。被上告人は,東京都に新幹線の運行業務を統括する
新幹線鉄道事業本部を置き,東京運転所はその現業機関として東京駅と新大阪駅間
の新幹線の運転業務等を分掌していた。
東京運転所の平成3年9月1日当時の人員は,現場長である所長1名のほか,助
役21名,事務員10名,乗務員432名の合計464名であった。東京運転所の
助役は,所長を補佐する現場管理者とされ,総務科,営業科,運転科及び指導科の
いずれかに属し,各科の助役の中の1名が科長に指定されていた。科長は,助役の
1人として自らその業務に携わりつつ,各科に所属する助役の中の責任者として,
他の助役の業務をとりまとめ,必要に応じて他の助役に指示を与える業務を行って
いた。
東京運転所所属の従業員の人事は,所長と新幹線鉄道事業本部運輸営業部が作成
した案に基づき,同事業本部管理部人事課が適宜これに変更を加えるという形で行
われており,所長には個々の従業員の能力,適性及び日常の勤務状況を把握するこ
とが求められていた。
東京運転所においては,所長のみが労働組合の組合員資格を有しないものとされ
ていた。
(2)被上告人は,その従業員で組織するB労働組合(以下「B労組」とい
う。)との間で,平成2年6月8日,安定した労使関係の下で協力体制を築いてい
くべきことなどをうたった「国鉄改革の完遂に向けて」と題する共同宣言を締結し
た。
一方,B労組が当時加盟していたC労働組合総連合会(以下「C総連」とい
う。)は,同月開催された定期大会において,ストライキ権の確立とストライキ指
令権のC総連への委譲について加盟の各労働組合内における討議を深めるよう問題
を提起した。これを受けて,B労組においても討議が重ねられたが,B労組内で
は,次第に,ストライキ権をめぐるC総連の運動方針を支持する中央執行委員長D
(以下「D委員長」という。)を中心としたグループ(以下「D派」という。)と
これに反対するグループとの対立が激しくなり,結局,同3年8月11日,D派の
組合員約1200名がB労組を脱退して上告補助参加人を結成するに至った。
そのような状況の中で,「東京地区の運転・車両所を愛する有志一同」という名
義によりB労組の組合員に対し新しい組合に加入せずにB労組にとどまることを呼
び掛ける文書が,同年7月31日付け及び同年8月6日付けで作成され,組合員宅
に送付された。当時B労組の組合員であり,東京運転所の指導科長であったE(以
下「E科長」という。)は,上記有志一同の代表者の1人となっていた。
B労組の組合員数は,同年9月ころにおいて約1万4600名であり,上告補助
参加人の組合員数を大きく上回っていた。しかし,東京運転所においては,D委員
長が同運転所の分会出身であったこともあってD派の組合員が多く,上告補助参加
人に加入した組合員が283名いたのに対し,B労組にとどまった組合員は約10
0名であった。
以上のように,B労組から脱退した者らが上告補助参加人を結成し,両者が対立
する状況において,被上告人は,労使協調路線を維持しようとするB労組に対して
好意的であった。
(3)平成3年8月19日ころの東京運転所におけるB労組から上告補助参加人
への加入状況はいまだ流動的であり,態度を明らかにしていない者もいた。E科長
は,同日,東京運転所に勤務していた上告補助参加人の組合員であるF(以下
「F」という。)ほか1名を誘い,同日午後6時過ぎころから午後8時ころまでの
間,JR神田駅近くの居酒屋において,ビールを飲みながら話をした。その際,E
科長は,Fに対し,東京運転所内のB労組と上告補助参加人の組合員数について
「東京運転所はD委員長の出身職場なので,十分組織のことは分かるが,何とかフ
ィフティー・フィフティーにならないものか。協力してくれないか。」などと述
べ,また,東京運転所に所属する上告補助参加人の組合員に対する被上告人の働き
掛けについて「会社が当たることにとやかく言わないでくれ。」,「会社による誘
導をのんでくれ。」などと述べた。そして,Fがこれを拒否したところ,E科長
は,Fに対し,「やばいよ。」,「もしそういうことだったら,あなたは本当に職
場にいられなくなるよ。」などと述べた(以下,E科長のFに対するこれらの一連
の発言を「Fに対する本件発言」という。)。なお,E科長とFは高校の先輩後輩
の関係であり,時々一緒に酒を飲みに行く仲であった。
(4)東京運転所に勤務していた上告補助参加人の組合員であるG(以下「G」
という。)は,平成3年8月22日,乗務明けで待機室において休んでいたとこ
ろ,E科長から昼過ぎに電話をする旨告げられた。E科長は,同日午後1時ころ,
Gの自宅に電話をかけ,そのような電話をかけることが越権行為であることは十分
承知の上であるとしながら,労使協調で被上告人もよくなってきているのでそれを
だめにするようなことは残念であるなどとして,「これからは若くて優秀な人に職
場で頑張ってほしい。」,「情や雰囲気に流されないでよく考えてほしい。」,
「残ったとしても決して1人ではありません。皆が付いています。」,「25日ま
でに返事が欲しい。」,「科長,助役はみんなそうですので,よい返事を待ってい
ます。」などと述べた(以下,E科長のGに対するこれらの一連の発言を「Gに対
する本件発言」といい,Fに対する本件発言と併せて「本件各発言」という。)。
3原審は,上記事実関係の下において,要旨次のとおり説示し,上告人が本件
救済命令においてE科長の本件各発言が被上告人の不当労働行為(労働組合法7条
3号)に当たるとしたのは誤りであるとして,本件救済命令を取り消した。
(1)E科長のFに対する本件発言は,被上告人との協調路線を採るB労組の組
合員としてその拡大に努めたということであって,結果的にその方向性が被上告人
のものと符合していただけである。E科長の職場での地位を考慮しても,結果とし
てその発言内容が被上告人の意向にかなうところがあったからといって,Fに対す
る本件発言が被上告人の意向を受けたものとは認められない。また,E科長が多少
被上告人の威を借りる形で人事制裁的な発言をしたとしても,それだけで直ちに,
Fに対する本件発言が被上告人の意向を受けた行為であるとまではいえない。
(2)E科長のGに対する本件発言は,E科長が自己の所属するB労組の組合員
数をできるだけ多くしたいと考えて行ったものと見るのが自然かつ合理的であっ
て,E科長の職場での地位を考慮しても,Gに対する本件発言が被上告人の意向を
受けたものと認めることはできない。
(3)したがって,E科長の本件各発言をもって被上告人の不当労働行為である
と認めることはできない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者
が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には,使用者との間
で具体的な意思の連絡がなくとも,当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と
評価することができるものである。
これを本件についてみると,前記事実関係によれば,東京運転所の助役は,科長
を含めて,組合員資格を有し,使用者の利益代表者とはされていないが,現場長で
ある所長を補佐する立場にある者であり,特に科長は,各科に所属する助役の中の
責任者として他の助役の業務をとりまとめ,必要に応じて他の助役に指示を与える
業務を行っていたというのであるから,E科長は,使用者の利益代表者に近接する
職制上の地位にあったものということができる。そして,前記事実関係によれば,
B労組から脱退した者らが上告補助参加人を結成し,両者が対立する状況におい
て,被上告人は労使協調路線を維持しようとするB労組に対して好意的であったと
ころ,E科長によるF及びGに対する働き掛けがされた時期は上記の組合分裂が起
きた直後であり,上記働き掛けがB労組の組合活動として行われた側面を有するこ
とは否定できないとしても,本件各発言には,「会社が当たることにとやかく言わ
ないでくれ。」,「会社による誘導をのんでくれ。」,「もしそういうことだった
ら,あなたは本当に職場にいられなくなるよ。」(以上はFに対する発言),「科
長,助役はみんなそうですので,よい返事を待っています。」(Gに対する発言)
など,被上告人の意向に沿って上司としての立場からされた発言と見ざるを得ない
ものが含まれているのである。
以上のような事情の下においては,E科長の本件各発言は,B労組の組合員とし
ての発言であるとか,相手方との個人的な関係からの発言であることが明らかであ
るなどの特段の事情のない限り,被上告人の意を体してされたものと認めるのが相
当である。そして,そのように認められるのであれば,E科長の本件各発言は,被
上告人の不当労働行為と評価することができるものである。
5以上と異なり,上記特段の事情が存在することについて首肯すべき説示をす
ることなく,本件各発言をもって被上告人の不当労働行為であると認めることはで
きないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があ
るというべきである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄
を免れない。そして,上記特段の事情の存否について審理を尽くさせるため,本件
を原審に差し戻すのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官津野修裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官
古田佑紀)

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