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平成29年6月28日判決言渡
平成28年(行ケ)第10276号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年4月26日
判決
原告X
訴訟代理人弁護士浜田治雄
被告株式会社新潮社
訴訟代理人弁護士吉村仁
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2014-300300号事件について平成28年11月15
日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,「Crest」の欧文字を標準文字で横書きしてなる以下の商標
(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
登録番号:第4283547号
出願日:平成10年4月3日
登録日:平成11年6月11日
指定商品:第16類「印刷物」
(2)原告は,平成26年4月24日,特許庁に対し,本件商標は,審判請求
前3年間にその指定商品について使用された事実が認められないから,商標
法50条1項の規定によりその登録を取り消すべきものであるとして,本件
商標の商標登録取消審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請求」とい
う。),同年5月16日,本件審判請求の登録がされた(甲106)。
特許庁は,本件審判請求につき,取消2014-300300号事件とし
て審理した上で,平成28年11月15日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,
原告に送達された。
(3)原告は,平成28年12月26日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2本件審決の理由
本件審決の理由は別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,以下のとお
りである。
(1)被告は,平成25年8月ころ,別紙記載の使用商標A-2を,①被告発行
の書籍の中表紙,奥付及び帯に付し,また,②被告発行の書籍の広告チラシに
付してこれを頒布したことが認められる。
上記①は,商標法2条3項1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行
為」に該当し,また,上記②は,同項8号の「商品の広告に標章を付して頒布
する行為」に該当する。
(2)使用商標A-2の構成中,「BOOKS」の文字は,商品が「書籍」であ
ることを表示するにすぎず,また,「Shinchosha」の文字は,我が
国において著名な出版社である被告の名称の略称のローマ字表記であること
からすると,階段ピラミッド状に配された「CREST」の文字部分と「BO
OKS」の文字を含む図形部分及び被告の名称の略称表記部分とは分離して
把握され,「CREST」の文字部分は,独立して自他商品の識別標識として
の機能を発揮する部分といえる。
そうすると,「CREST」の文字と本件商標とは,大文字と小文字に差異
があるものの,綴りは同一であり,また,「クレスト」の称呼及び「波頭」の
観念も同一であるから,使用商標A-2は,本件商標と社会通念上同一と認
められる商標というのが相当である。
(3)上記(1)の「書籍」は,本件商標の指定商品「印刷物」に含まれる商品であ
る。
(4)したがって,被告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内におい
て,商標権者が取消請求に係る指定商品「印刷物」に含まれる商品について本
件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことを証明したものである
から,本件商標の商標登録は,商標法50条の規定に基づき取り消すべきも
のではない。
3取消事由
商標法50条所定の登録商標の使用を認めた判断の誤り
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)本件商標と使用商標A-2が社会通念上同一の商標であるとした判断の
誤り
ア使用商標A-2は,被告が発行する「新潮クレスト・ブックス」という名
称の書籍のシリーズに使用されているところ,この「新潮クレスト・ブック
ス」の名称のうち,「新潮」は被告の略称として知られたものであるとして
も,被告自らが,そのホームページ(甲59)等で,「クレスト・ブックス」
を一体として使用していることからすれば,取引者・需要者からは,「クレ
スト・ブックス」で一つの商標であるとして理解され認識されるものであ
る。
したがって,使用商標A-2も,その構成文字から,新潮社の「クレスト
・ブックス」として理解され認識されるものであるから,「CREST」の
文字部分が,独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮するものと
はいえない。
イまた,使用商標A-2は,文字だけでなく図形をも構成要素としており,
文字と図形の結合商標であるところ,文字と図形がまとまりよく混然一体
となって一つの商標を形作っているものである。すなわち,欧文字は,通常
は横書きされ,稀に縦書きされることもあるところ,使用商標A-2の場
合,「E」の文字を頂点に左から,「C」,「R」,「E」と順番に右斜め
上に向かって配され,「E」の次は「S」,「T」と順番に右斜め下に向か
って配されるという特異な配列となっており,このような特異な配列は,
階段ピラミッド状の図形が存在することによるものであって,当該図形が
なければこのような配列はあり得ない。また,階段ピラミッド状の図形部
分は,「CREST」の文字が有する「波頭,最高峰」といった意味合いを
視覚化するためにデザインされたものと考えられる。このように,「CRE
ST」の各文字は,階段ピラミッド状の図形と一体化した不可分の構成と
なっており,図形も含めた全体から,「階段ピラミッドのCREST」とい
う一つの商標として把握されるものといえる。
したがって,使用商標A-2から「CREST」の文字のみを抽出し,独
立して自他商品の識別標識としての機能を発揮する部分ととらえることは
できない。
ウ以上によれば,使用商標A-2から「CREST」の文字部分のみを抽出
し,これと本件商標とを比較して,両者を社会通念上同一の商標であると
した本件審決の判断は誤りである。
(2)使用商標A-2以外にも本件商標と社会通念上同一の商標の使用は認め
られないこと
被告は,使用商標A-2以外にも本件商標と社会通念上同一といえる商標
を使用している旨主張するが,以下に述べるとおり,その主張は失当である。
ア使用商標A-1等について
被告は,別紙記載の使用商標A-1及び使用商標A-3の使用をもって,
本件商標と社会通念上同一の商標の使用である旨主張する。
しかし,これらの商標が本件商標と社会通念上同一の商標といえな
いことは,使用商標A-2の場合と同様である。
また,被告は,使用商標A-1及びA-2の使用は,別紙記載の使用
商標AAの使用と把握することもできる旨主張するが,これらの商
標では,文字部分と図形部分が結合しており,切り離せないもので
あるから,被告の主張は失当である。
イ使用商標B-1等について
被告は,別紙記載の使用商標B-1,使用商標B-2及び使用商標Cの
使用をもって,本件商標と社会通念上同一の商標の使用である旨主張する。
しかし,これらの商標のうち,「新潮」が被告の略称として知られたもの
であるとしても,被告自らが,そのホームページ等で,「クレスト・ブック
ス」を一体として使用していることからすれば,取引者・需要者からは,
「クレスト・ブックス」で一つの商標であるとして理解され認識されるも
のであり,「クレスト」の文字部分が,独立して自他商品の識別標識として
の機能を発揮するものとはいえないから,これらの商標は,「Crest」
の文字からなる本件商標と社会通念上同一の商標とはいえない。
ウ使用商標D等について
被告は,別紙記載の使用商標Dの使用をもって,本件商標と社会通念上
同一の商標の使用である旨主張する。
しかし,使用商標Dは,同一書体の「SHINCHO」,「CREST」,
「BOOKS」の文字を三段に表記したものであり,これからは,「シンチ
ョウクレストブックス」の称呼が生じ,また,「SHINCHO」が被告の
略称として知られたものであることを踏まえても,「SHINCHO」の
「CRESTBOOKS」との認識が生じるものであるから,使用商標
Dは,「Crest」の文字からなる本件商標と社会通念上同一の商標とは
いえない。
また,被告は,使用商標Dの使用は,別紙記載の使用商標DD及び
使用商標DDDの使用と把握することもできる旨主張するが,使用
商標Dは,全体が一体の商標として把握されるものであるから,被
告の主張は失当である。
エ使用商標E等について
被告は,別紙記載の使用商標Eの使用をもって,本件商標と社会通念上
同一の商標の使用である旨主張する。
しかし,使用商標Eは,同一書体で同一の大きさの「ShinchoC
restBooks」の文字を一連に表記したものであり,これからは,
「シンチョウクレストブックス」の称呼が生じ,また,「Shincho」
が被告の略称として知られたものであることを踏まえても,「Shinc
ho」の「CrestBooks」との認識が生じるものであるから,使
用商標Eは,「Crest」の文字からなる本件商標と社会通念上同一の商
標とはいえない。
また,被告は,使用商標Eの使用は,別紙記載の使用商標EEの使
用と把握することもできる旨主張するが,使用商標Eは,全体が一
体の商標として把握されるものであるから,被告の主張は失当であ
る。
2被告の主張
(1)本件商標と使用商標A-2が社会通念上同一の商標であること
ア使用商標A-2のうち,「Shinchosha」の文字部分が,我が国
において著名な出版社の一社である被告の会社名の略称であり,取引者・
需要者もそのように認識することは明らかである。
また,「BOOKS」の文字部分は,それが使用された商品である「書籍」
自体を表す普通名詞,又は,出版業界において,「一連の連続もの」,「シ
リーズもの」を意味する用語にすぎない。
したがって,使用商標A-2において,「CREST」の文字に「Shi
nchosha」や「BOOKS」の文字が付加されていたとしても,「C
rest」の文字からなる本件商標と社会通念上同一であるといえるから,
本件審決の判断に誤りはない。
イ原告は,使用商標A-2においては,「CREST」の各文字が階段ピラ
ミッド状の図形と一体化した不可分の構成となっているから,「CRES
T」の文字のみを独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮する部
分ととらえることはできない旨主張する。
しかし,そもそも,「文字」と「図形」では,商標として質的に異なるの
であるから,原則として,両者は分離・分断して把握されるものであり,こ
れらを常に一体として見なければならないのは,例外的な場合に限られる
ものといえる。しかるところ,使用商標A-2のうち,「CREST」の文
字部分からは,「クレスト」の称呼及び「波頭,最高峰」といった観念が明
らかに生じるのに対し,その図形部分からは,何ら具体的な称呼や観念が
生ずることはなく,両者の間には,称呼上又は観念上の結合性は何ら存在
しないのであるから,これらを一体化した不可分の構成と見なければなら
ないものではない。
また,原告は,使用商標A-2における「CREST」の文字の配列を
「特異な配列」であるとし,それは図形が存在することによるものである
から,「CREST」の文字と図形は,一体化した不可分の構成である旨主
張する。
しかし,使用商標A-2における「CREST」の文字の配列は,「E」
を頂点として「への字状」に文字を配列したものにすぎず,そのような配列
は,文字商標の表示技法としてありふれたものである(乙10~12(枝番
を含む。))から,「CREST」の文字と図形が一体化した不可分の構成
であることの根拠とはならない。
以上のとおり,使用商標A-2のうち,「CREST」の文字部分と
図形部分に幾ばくかの構成上の関連性があるとしても,外観におい
ては他に関連性を阻害する要因があり,観念と称呼においては何ら
の関連性もないことからすれば,使用商標A-2に接する取引者・
需要者は,「CREST」の文字部分は,図形部分とは何らの関連も
ないことを理解し,これを独立した自他商品識別標識として認識す
るというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(2)使用商標A-2以外にも,本件商標と社会通念上同一の商標を使用してい
ること
以下に述べるとおり,被告は,使用商標A-2以外にも,本件商標と社会通
念上同一といえる商標を,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内にお
いて,本件審判請求に係る指定商品「印刷物」に含まれる商品について使用し
ているから,これらの事実からしても,本件審決に誤りはない。
ア使用商標A-1等
被告は,使用商標A-1,A-3及びAAを,本件審判請求の登録前3年
以内に,被告発行の書籍自体に付し,又は,当該書籍の広告に付して,これ
を使用している(甲61~67(枝番を含む。),乙13)。なお,使用商
標A-1及びA-2において,「CREST」の文字部分と図形部分を
分離して把握し得ることからすれば,これらの商標の使用は,使用
商標AAの使用と把握することもできる。
そして,これらの商標が本件商標と社会通念上同一の商標といえ
ることは,使用商標A-2の場合と同様である。
イ使用商標B-1等
被告は,使用商標B-1,B-2及びCを,本件審判請求の登録前3年
以内に,被告発行の書籍自体に付し,又は,当該書籍の広告に付して,こ
れを使用している(甲61~67(枝番を含む。),乙13)。
そして,これらの商標における「新潮」の文字部分は,我が国において著
名な出版社の一社である被告の会社名の略称であり,また,「ブックス」の
文字部分は,それが使用された商品である「書籍」自体を表す普通名詞,又
は,出版業界において,「一連の連続もの」,「シリーズもの」を意味する
用語にすぎないことからすると,これらの商標は,「Crest」の文字か
らなる本件商標と社会通念上同一の商標といえる。
ウ使用商標D等
(ア)被告は,使用商標Dを,本件審判請求の登録前3年以内に,被告発
行の書籍の広告に付して,これを使用している(甲65,乙13)。な
お,使用商標Dの使用は,使用商標DD又はDDDの使用と把握す
ることもできる。
(イ)使用商標Dにおける「SHINCHO」の文字部分は,我が国におい
て著名な出版社の一社である被告の会社名の略称であり,また,使用商
標D及びDDDにおける「BOOKS」の文字部分は,それが使用された
商品である「書籍」自体を表す普通名詞,又は,出版業界において,「一
連の連続もの」,「シリーズもの」を意味する用語にすぎないことからす
ると,これらの商標は,「Crest」の文字からなる本件商標と社会通
念上同一の商標といえる。
また,使用商標DDと本件商標とは,「書体のみに変更を加えた同一の
文字からなる商標」であるから,社会通念上同一の商標といえる。
エ使用商標E等
(ア)被告は,使用商標Eを,本件審判請求の登録前3年以内に,被告発行
の書籍の広告に付して,これを使用している(乙13)。なお,使用商標
Eの使用は,使用商標EEの使用と把握することもできる。
(イ)英語では,複数の単語の連続が通しで把握される場合は,冒
頭の単語の最初の文字のみを大文字で表記するところ,使用商標
Eでは,「Shincho」,「Crest」,「Books」の各
単語がいずれも最初の文字を大文字で表記しており,かつ,3語
の間には各々半文字分の空間が存在していることから,外観上,
3つの独立した語が寄り添って一行に配置されているものであ
ると把握される。
また,「Shincho」の語は,被告の名称の略称(名詞)で
あり,「Crest」及び「Books」もいずれも名詞であっ
て,これらの間に,形容詞と名詞(修飾語と被修飾語)といった
文法上の関連性はなく,観念上のつながりもないことからして
も,使用商標Eは,3つの独立した語が寄り添って一行に配置さ
れているものであると把握される。
更に,3つの語から生じる「シンチョウ」「クレスト」「ブック
ス」の各称呼からも,これらを一連・一体の称呼とする理由は何
ら見出せず,称呼上も,使用商標Eは,3つの独立した語が寄り
添って一行に配置されているものであると把握される。
このように,使用商標Eは,外観,観念,称呼のいずれの点か
らしても,3つの独立した語が寄り添って一行に配置されている
ものであると把握されるところ,このうち,「Shincho」の
文字部分は,我が国において著名な出版社の一社である被告の会社名の
略称であり,また,「Books」の文字部分は,それが使用された商
品である「書籍」自体を表す普通名詞,又は,出版業界において,「一
連の連続もの」,「シリーズもの」を意味する用語にすぎないことから
すると,使用商標Eは,「Crest」の文字からなる本件商標と社会
通念上同一の商標といえる。
また,使用商標EEと本件商標とが同一の商標であることは明らかで
ある。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標
の商標権者である被告が,本件審判請求に係る指定商品である「印刷物」に含ま
れる商品について,本件商標と社会通念上同一といえる商標の使用をしている
ことが認められるものといえるので,本件商標の商標登録は商標法50条の規
定に基づき取り消すべきものではないとした本件審決の結論に誤りはなく,本
件審決には,これを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下
のとおりである。
1被告による商標使用の事実について
(1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア被告は,書籍及び雑誌の出版等を業とする株式会社であり,我が国にお
いて著名な出版社である。
被告は,平成10年5月から,海外の小説やノンフィクション作品等を
翻訳した書籍のシリーズ(以下「本件シリーズ」という。)を,「新潮クレ
スト・ブックス」という名称の下で出版,販売している(甲59,66の1
及び2,67の1及び2,乙13)。
イ次のとおり,被告が出版した本件シリーズに属する書籍又はその包装に,
使用商標B-1が付されている。
(ア)被告が平成25年10月25日に発行した「小説のように」と題す
る書籍(アリス・マンロー著)の帯(書籍表面の下の部分を覆うように巻
かれた帯状の紙)に,使用商標B-1が付されている(甲61の1~3)。
(イ)被告が平成25年8月20日に発行した「終わりの感覚」と題する
書籍(ジュリアン・バーンズ著)の帯に,使用商標B-1が付されている
(甲62の1~3)。
(ウ)被告が平成25年8月25日に発行した「美しい子ども」と題する
書籍(松家仁之編)の内表紙及び帯に,使用商標B-1が付されている(
甲63の1~3)。
ウ次のとおり,本件シリーズに属する書籍に関する広告に,使用商標B-
1が付されている。
(ア)平成24年9月ころに印刷,頒布された,本件シリーズに属する複
数の書籍の概要等を紹介する広告チラシ(販売される書籍に挟み込まれ
て頒布されるもの)の表紙に,使用商標B-1が付されている(甲64)。
(イ)平成25年8月ころに印刷,頒布された,本件シリーズに属する複
数の書籍の概要等を紹介する広告チラシ(販売される書籍に挟み込まれ
て頒布されるもの)の表紙に,使用商標B-1が付されている(甲65)。
(ウ)平成23年から平成24年ころに印刷,頒布された,本件シリーズ
に属する複数の書籍の概要等を紹介する小冊子(書店の店頭等で頒布さ
れるもの)の表紙に,使用商標B-1が付されている(甲66の1及び2
)。
(エ)平成24年から平成25年ころに印刷,頒布された,本件シリーズ
に属する複数の書籍の概要等を紹介する小冊子(書店の店頭等で頒布さ
れるもの)の表紙に,使用商標B-1が付されている(甲67の1及び2
)。
(2)以上の認定事実によれば,本件商標の商標権者である被告は,本件審判請
求の登録(平成26年5月16日)の前3年以内に,日本国内において,本件
シリーズに属する書籍又はその包装に使用商標B-1を付すとともに,本件
シリーズに属する書籍に関する広告に使用商標B-1を付してこれを頒布す
ることにより,使用商標B-1を使用(商標法2条3項1号及び8号)してい
ることが認められる。
2商品の同一性について
上記1のとおり,使用商標B-1が使用されている商品は,本件シリーズに
属する「書籍」であり,これが,本件商標の指定商品である「印刷物」に含まれ
ることは明らかである。
3商標の同一性について
商標法50条1項においては,使用の対象となる商標について,「登録商標
(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びロー
マ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる
商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会
通念上同一と認められる商標を含む。…)」と規定されており,「登録商標と
社会通念上同一と認められる商標」も含むものとされている。
そこで,使用商標B-1が,本件商標と「社会通念上同一と認められる商標」
といえるか否かについて検討する。
(1)本件商標は,「Crest」の欧文字を標準文字で横書きしてなる商標で
あるところ,「crest」の語は,「(ものの)頂上,山頂,波頭」などの
意味を有する英語として認識されるものであるから,本件商標からは,通常
の英語読みに従った「クレスト」の称呼が生じるとともに,その英語の意味に
従った「(ものの)頂上,山頂,波頭」などの観念が生じるものといえる。
(2)他方,使用商標B-1は,「新潮クレスト・ブックス」の漢字及び片仮名
を横書きで一連表記してなるものであるところ,「新潮」の文字と「クレスト
・ブックス」の文字は,漢字と片仮名という文字種の違いから,明確に区別し
て認識されるものである。また,「クレスト」の文字と「ブックス」の文字に
ついても,その間が「・」によって区切られていることに加え,後述のとおり,
「ブックス」の語が「書籍」を表す英語の片仮名表記として明確に認識される
ことからすると,同様に区別して認識されるものといえる。してみると,使用
商標B-1は,「新潮」,「クレスト」及び「ブックス」の3つの独立した語
が組み合わされて表記された商標として認識されるものといえる。
そこで,以上を前提に,使用商標B-1を「書籍」についての商品識別標識
として見てみると,まず,「新潮」の漢字部分は,我が国における著名な出版
社である被告の略称として広く知られているものであり,「書籍」に使用され
た使用商標B-1に接した取引者・需要者は,「新潮」の漢字部分を,当該書
籍を発行する出版社が被告であることを表示するものにすぎないと認識する
から,この「新潮」の漢字部分は,商標の同一性という観点からは重要性を持
たない部分といえる。
次に,使用商標B-1のうち,「ブックス」の片仮名部分は,「本,書籍」
を意味する英語「book」の複数形を片仮名表記したものであることが明
らかである。また,「書籍」の出版の分野においては,特定のシリーズに属す
る書籍群に,特定のブランド名と「ブックス(books)」の語を合わせた,
「○○ブックス(books)」の名称を付けて出版,販売することが一般的
に行われていることが認められる(甲10,12,14,16,18,20,
22,23,80~82,84~87,89,91,92,94~99,10
1~104(枝番を含む。))。してみると,「書籍」に使用された使用商標B
-1に接した取引者・需要者は,「ブックス」の片仮名部分を,これが付され
た商品が「書籍」であること,あるいは,その商品が「特定のシリーズに属す
る書籍」であることを表示するものとして認識するといえるから,これも商
標の同一性という観点からは重要性を持たない部分であるといえる。
他方,「クレスト」の片仮名部分は,「(ものの)頂上,山頂,波頭」など
の意味を有する英語「crest」を片仮名表記したものとして認識され,そ
の意味に従った観念を生じるものといえるところ,このような「クレスト」の
語は,「書籍」との関係で特段の結びつきを有するものではないから,「書籍」
に係る商品識別標識としての機能を果たし得るものであり,商標の同一性を
基礎づける中核的部分といえる。
この点,原告は,被告自らがそのホームページ等で「クレスト・ブックス」
を一体として使用していることを理由に挙げ,取引者・需要者からは,「クレ
スト・ブックス」で一つの商標として理解され認識される旨主張する。しか
し,「書籍」に関する広告等において,「クレスト・ブックス」が一連表記さ
れていたとしても,これに接した取引者・需要者からは,「クレスト」と「ブ
ックス」が独立した語として認識され,そのうち,特に「クレスト」の部分が
独立して自他商品の識別標識の機能を発揮する部分として認識されることは
上記で述べたとおりであるから,原告の主張は採用できない。
(3)以上のとおり,使用商標B-1のうち,商標の同一性を基礎づける中核的
部分として把握される「クレスト」の片仮名部分を,本件商標と比較すると,
両者は,片仮名と欧文字という文字種の違いからくる外観上の相違はあるも
のの,「クレスト」の称呼及び「(ものの)頂上,山頂,波頭」などの観念を
いずれも共通にするものであることからすると,使用商標B-1は,本件商
標と社会通念上同一の商標であると認めるのが相当である。
4結論
以上によれば,使用商標A-2及び被告主張の他の使用商標について検討す
るまでもなく,本件商標の商標権者である被告は,本件審判請求の登録前3年
以内に,日本国内において,本件審判請求に係る指定商品に含まれる商品につ
いて,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることが認
められる。
したがって,本件商標について,商標法50条所定の登録商標の使用を認め,
その登録は同条の規定に基づき取り消すべきものではないとした本件審決の結
論に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
大西勝滋
裁判官
杉浦正樹
(別紙)
使用商標A-1
使用商標A-2
使用商標A-3
(別紙)
使用商標B-1
使用商標B-2
使用商標C
使用商標D

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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