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平成一一年(ワ)第八〇八〇号特許権侵害差止等請求事件
(口頭弁論終結日 平成一二年七月一〇日)
          判      決
       原       告      【A】
       右訴訟代理人弁護士      小林雅人
       被       告      富安株式会社
       右代表者代表取締役      【B】
       右訴訟代理人弁護士      岡田 宰
       同              広津佳子
       右補佐人弁理士      【C】
       同              【D】
          主      文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第一 請求
 一 被告は、別紙物件目録一記載のダブルセーフティー缶蓋を輸入し、譲渡し、
貸し渡し、譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
 二 被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年四月二〇
日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
   原告は、引きちぎりタブを有する食品又は飲料の容器(いわゆるプルトップ
容器)に用いる金属製の缶蓋を輸入し販売する被告の行為が、原告の有する特許権
を侵害すると主張して、被告に対し、右缶蓋の輸入、販売等の差止め及び損害賠償
の支払を求めた。
 一 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
  1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件
発明」という。)を有する。
   (一) 特許番号     特許第一七六二九四五号
   (二) 発明の名称    開口縁の安全な容器蓋及びその製造方法
   (三) 出 願 日    昭和六三年一二月二七日
   (四) 公 告 日    平成四年九月四日
   (五) 登 録 日    平成五年五月二八日
(六) 特許請求の範囲(請求項一) 開口片を区画する裂開案内線の外側に
裂開案内線の形成面から上側へ曲げられたループ部を形成し、該ループ部の裂開案
内線側への帰還部分を裂開案内線の形成面から離隔させると共に、同帰還部分を裂
開案内線より内側において更に外側へ曲げた巻締め側の蓋板面と、
 前記裂開案内線の内側に裂開案内線の形成面から下側へ曲げられたルー
プ部を形成し、該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線の形成面から
離隔させると共に、同帰還部分を裂開案内線より外側において更に内側へ曲げた開
口片側の蓋板面とからなり、
 引きちぎり用タブの先端爪部を裂開案内線またはその近傍に位置させて
該引きちぎり用タブを開口片相当部分に取付けた開口縁の安全な容器蓋。
  2 本件発明を構成要件に分説すると、以下のとおりとなる。
   (a)開口片を区画する裂開案内線の外側に
   (b)裂開案内線の形成面から上側へ曲げられたループ部を形成し、
   (c)該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線の形成面から離
隔させると共に、
   (d)同帰還部分を裂開案内線より内側において更に外側へ曲げた巻締め側
の蓋板面と、
   (e)前記裂開案内線の内側に裂開案内線の形成面から下側へ曲げられたル
ープ部を形成し、
   (f)該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線の形成面から離
隔させると共に、
   (g)同帰還部分を裂開案内線より外側において更に内側へ曲げた開口片側
の蓋板面とからなり、
   (h)引きちぎり用タブの先端爪部を裂開案内線またはその近傍に位置させ
て該引きちぎり用タブを開口片相当部分に取付けた
   (i)開口縁の安全な容器蓋。
  3 被告は、遅くとも平成八年ころから、業として、ダブルセーフティー缶蓋
(以下「被告物件」という。)を販売している。輸入については争いがある。
 なお、被告物件について、原告は、別紙物件目録一記載のとおりである
と、被告は、別紙物件目録二記載のとおりであると、それぞれ主張する。
 二 争点
  1 被告物件の構成
  (原告の主張)
 被告物件の構成は以下のとおりである。
   (A)分離線1の外側に連続している板面である容器壁端に接続される部分
と、分離線1の内側に連続している板面である中央パネル部とから構成されている
こと。
   (B)容器壁端に接続される部分には、分離線1の外側でありかつ同分離線
1の形成面2の上側に、板面を曲げて構成した折り重なり部3が形成されているこ
と。
   (C)容器壁端に接続される部分の折り重なり部3の分離線1側への帰還部
分である鼻端部4が分離線1の形成面2から隔離されていること。
   (D)容器壁端に接続される部分の鼻端部4は、分離線1の位置より内側に
おいて外側へ曲げられていること。
   (E)中央パネル部には、分離線1の内側でありかつ同分離線1の形成面2
の下側に、板面を曲げて構成したパネル折り重なり部8を形成していること。
   (F)中央パネル部のパネル折り重なり部8の分離線1側への鼻端部9が、
分離線1の形成面から隔離されていること。
   (G)中央パネル部の鼻端部9は、分離線1の位置より外側において内側に
曲げられていること。
   (H)中央パネル部には、引きタブ15が、その先端爪部が分離線1まで達す
るように、又は分離線1の近傍に位置するように取り付けられていること。
   (I)以上のような構成を有することを特徴とする簡易閉鎖蓋。
  (被告の主張)
    被告物件の構成は、以下のとおりである。
   (A′)分離線1の外側に連続している板面である容器壁端に接続される部
分と、分離線1の内側に連続している板面である中央パネル部とから構成されてい
ること。
   (B′)容器壁端に接続される部分には、分離線1の外側でありかつ同分離
線1の形成面の上側に、板面を曲げて構成したループ部3が形成されていること。
   (C′)容器壁端に接続される部分のループ部3の分離線1側への帰還部分
である鼻端部4が分離線1の形成面から隔離されていること。
   (D′)容器壁端に接続される部分の鼻端部4は、分離線1の位置より内側
において外側へ曲げられていること。
   (E′)中央パネル部には、分離線1の内側でありかつ同分離線1の形成面
の下側に、板面を曲げて構成したパネル折り重なり部8を形成していること。
   (F′)中央パネル部のパネル折り重なり部8の分離線1側への鼻端部9
が、分離線1の形成面に実質的に隣接していること。
   (G′)中央パネル部の鼻端部9は、分離線1の下において内側に曲げられ
ていること。
   (H′)中央パネル部には、引きタブが、その鼻端部が分離線1まで達する
ように取り付けられていること。
   (I′)以上のような構成を有することを特徴とする簡易閉鎖蓋。
  2 構成要件eの充足性
    被告物件における「パネル折り重なり部8」は、本件発明の構成要件eに
おける「ループ部」に当たるか。
  (原告の主張)
    パネル折り重なり部8については、隙間が生じないよう加工することも可
能であるのに、被告物件において、右の部分は、隙間のあるループ状に加工されて
いる。
    被告物件の構成Eは、構成要件eを充足する。
  (被告の主張)
    本件明細書の記載及び無効審判請求事件における原告の主張を参酌する
と、構成要件eの「ループ部」は、緩衝機能を有するよう、緩やかな曲げ加工によ
るループ形状を形成するものであることが必要である。
    被告物件において、パネル折り重なり部8は、緩やかな曲げ加工によるル
ープ形状を形成していないから、被告物件の構成E′は、構成要件eを充足しな
い。
  3 構成要件fの充足性
    被告物件において、パネル折り重なり部8の分離線1側への鼻端部は、分
離線1の形成面から隔離されているか。
  (原告の主張)
 本件発明において、開口片側の蓋板面のループ部の裂開案内線側への帰還
部分が裂開案内線の形成面から離隔されるのは、補修ニスをループ内部に完全に塗
布し得るようにするためである。
 被告物件において、鼻端部9と分離線1の形成面2との間には、全周にわ
たってわずかな隙間が存在し、部分的には広い隙間も存在するから、補修ニスの塗
布は十分可能であり、被告物件は、本件発明の作用効果を有する。
 なお、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には、実施例として、「一般
に、補修ニスが進入するための最小限の隙間として〇・三ミリメートル以上必要と
される」との記載があるが、これは〇・三ミリメートル未満の隙間を本件発明の技
術的範囲から除外する趣旨ではない。
 したがって、被告物件の構成Fは、構成要件fを充足する。
  (被告の主張)
 本件発明においては、開口片側の蓋板面のループ部の裂開案内線側への帰
還部分を、裂開案内線の形成面から離隔させることが必要である。ところで、本件
明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載を参酌すると、「離隔」させるとは、単に
開口しているだけでは足りず、約〇・三ミリメートル以上の隙間のあることが必要
であると解される。
 これに対し、被告物件においては、パネル折り重なり部8の分離線1側へ
の鼻端部9と分離線1の形成面との間には、加工の際の金属の跳ね返りによって生
じた〇・〇一ミリメートル程度の隙間しかなく、両者は実質的に接しており隔離さ
れていない。また、隔離されている部分があるとしても鼻端部9の一部にすぎず、
全周にわたって隔離されてはいない。
 したがって、被告物件は、構成要件fを充足しない。
  4 構成要件gの充足性
    被告物件において、中央パネル部の鼻端部9が内側に曲げられる位置は、
分離線1の位置よりも外側か。
  (原告の主張)
 サンプル検査によれば、被告物件については、全周ではないが、その一部
において鼻端部9が分離線1の外側に膨出していることが認められる。
 したがって、被告物件は、構成要件gを充足する。
  (被告の主張)
 被告物件においては、中央パネル部の鼻端部9は、分離線1の下において
内側に曲げられ、分離線1の位置よりも外側には膨出していない。仮に、サンプル
検査の結果、外側に膨出している部分があったとしても、鼻端部9の一部にすぎ
ず、全周にわたって膨出しているわけではない。
 したがって、被告物件は、構成要件gを充足しない。
  5 損害
  (原告の主張)
    被告は、平成一〇年中に少なくとも一〇〇〇万枚の被告物件を輸入して販
売し、その平均販売単価は一枚一〇円を下らない。また、本件発明について、原告
が被告に実施許諾する際の合理的な実施料率は、販売額の一〇パーセントを下らな
いから、原告は、平成一〇年中において、合理的な実施料額に相当する一〇〇〇万
円の損害を被った。
    よって、原告は、被告に対し、これまでに受け取るべき実施料総額に相当
する損害金の一部として、金一〇〇〇万円の支払を求める。
  (被告の主張)
    否認する。
第三 当裁判所の判断
 一 構成要件fの充足性
 先ず、構成要件fの属否の点から判断する。
  1 構成要件fにおける「離隔」の意義について
 構成要件fは、「該ループ部の裂開案内線側への帰還部分を裂開案内線の
形成面から離隔させる」ことである。
 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載、本件特許無効審判手続にお
ける経緯及び出願当時における公知例等を参酌すると、右「離隔させる」について
は、以下のとおり解すべきである。すなわち、裂開案内線形成面と帰還部分との間
は、①ループの内側を含む容器蓋全体に、一般的な手段によって補修ニスを塗布す
ることを可能とする程度に間隔が設けられ、また、②衝撃を受けた時に、ループ部
が衝撃を裂開案内線に直接伝えることなく変形して、衝撃を吸収することができる
程度に間隔が設けられることが必要であるというべきである。さらに、③実施例の
記載に照らすならば、約〇・三ミリメートルよりも著しく接近している場合には、
離隔していないと解するのが相当である。
 その理由を、以下詳細に述べる。
(一) 出願前の公知例としては、特公昭六一年二七一二九号公報(乙四)及
び米国特許第四、一一六、三六一号明細書(乙五)が存在する。乙四には、巻締め
側において、ループが間隔を設けて形成され、鼻端部の位置も内側に突出している
が(この点は、本件発明と同じである。)、中央パネル側においては、折り畳まれ
ている形状のものが開示されている。他方、乙五には、中央パネル側のみに、ルー
プが間隔を設けて、形成された形状のものが開示されている。
(二) 補修ニスの塗布に関する事項として、「発明の詳細な説明」欄には、
帰還部分を裂開案内線の形成面から離隔させることの作用効果について、「両ルー
プ部の帰還部分は裂開案内線の形成面から離隔せしめられているため、この容器蓋
を形成した後に補修ニスを噴霧すると、補修ニスが各離隔部分からループ部分内部
へ容易に侵入し、裂開案内線の形成面の両面へ補修ニスが完全に塗布されることに
なる。」(公報一〇欄二九行から三三行)と、さらに「本実施例に係る容器蓋は、
(中略)ループ部3の帰還部分4と裂開案内線1の形成面2の間、及びループ部8
の帰還部分9と裂開案内線1の形成面2の間にそれぞれ隙間5、10が構成されてい
るため、補修ニスの塗布工程において各ループ部3、8の内側(裂開案内線の形成
面の表裏を含む)に補修ニスが完全に塗布され得る。一般に、補修ニスが侵入する
ための最小限の隙間としては約〇・三㎜以上必要とされるが、本実施例における容
器蓋ではこれを容易に実現できる。」(公報一〇欄二行から一二行)と記載されて
いる。
 そうすると、裂開案内線形成面と帰還部分との間は、ループの内側を含
む容器蓋全体に、一般的な手段によって補修ニスを塗布することを可能とする程度
に間隔が設けられることが必要であるということができる。
(三) 耐衝撃性に関する事項として、次の記載がある。すなわち、
(1) 「発明の詳細な説明」欄には、「裂開前の状態においては、裂開案内
線が両ループ部で構成されるS字状部分の中央に位置することになり、容器が落下
して容器蓋に衝撃的内圧がかかってもそのS字状部分で衝撃エネルギーが吸収さ
れ、裂開案内線の裂断が防止できる。」(公報五欄一八行から二二行)と、さら
に、「容器の落下等によって生じる衝撃力や衝撃圧を裂開案内線に直接作用させな
い緩衝構造が採用されているため、耐衝撃性に強い容器を実現することができ
る。」(公報一〇欄二二行から二五行)と記載されている。
(2) さらに、耐衝撃性に関して、本件特許の無効審判請求事件の答弁書
(乙三)において、原告は、右公知例との相違について、次のように強調してい
る。
① 「裂開案内線1の形成面2に対してループ部3の帰還部分4とルー
プ部8の帰還部分9のなす各間隔A、Cは、容器蓋の完成後に補修ニスが裂開案内
線1の形成面2の表裏面を含む各ループ部の3、8の内側面に完全に塗布されるこ
とを保証すると共に、各ループ部3、8の帰還部分4、9が裂開案内線1の形成面
2に当接していないことにより、容器の落下等によって生じる衝撃力や衝撃圧を裂
開案内線1に直接作用させない緩衝構造を実現している。」
   ② 「本件特許発明では、一枚の素材金属板に対してリジッドな折り畳
み加工を行なわずに緩やかな曲げ加工によるループ部3、8を構成してダブルセイ
フティ機能を有した容器蓋を実現しており、各構成要素が相関的に作用しあって、
安全性の向上を図ると共に、補修ニスの塗布の完全化と衝撃圧等に対する緩衝構造
による裂開案内線1の防護を合理的に実現している。」
   ③ 「開示されている技術(注・引用例)は、それぞれパネル折り重な
り部が文字どおりパネルが三層状に折り重なったリジッドな構成部分になってお
り、容器蓋に対する衝撃圧等は、パネル折り重なり部を介して直接的に分離線42へ
作用するために緩衝構造になっていない。即ち、緩衝構造は本件特許発明のような
緩やかな曲げ加工による両ループ部3、8を構成して隙間5、10を設けておくこと
で実現できるものであり、一方のみがループとして構成されていても緩衝機能は発
現されず」
   ④ 「ここで強調されるべきは、本件特許発明における隙間5、10の間
隔A、Cが単に補修ニスの塗布性を考慮しただけのものではなく、緩衝構造を構成
して裂開案内線1の防護をも可能にしており、開口片側のループ部8と隙間10の間
隔Cの構成部分は両効果を合理的に実現している点にある。また、前記のようにル
ープ部8は開口時に裂開部を帰還部分9の内側へ繰り込み易くして高い安全性を実
現するという相乗的な効果を有しており、それは(中略)リジッドなパネル折り重
なり部では得られない効果である。」
(3) なお、無効審判における審決では、帰還部分を前記裂開案内線の形成
面から離隔させる構成が、引用発明等のいずれにも開示ないし示唆がないこと、耐
衝撃性を得るべく、引用発明等を結びつける必然性がないことを理由として、本件
発明の進歩性を肯定している。
 そうすると、裂開案内線形成面と帰還部分との間は、衝撃を受けた時
に、ループ部が衝撃を裂開案内線に直接伝えることなく変形して、衝撃を吸収する
ことができる程度に間隔が設けられることが必要であるというべきである。
  2 被告物件の形状及び構成要件との対比
(一) 証拠(甲六、一〇、一二ないし一六、一八ないし三一、三三、枝番号
の表記は省略する。以下同じ。)によれば、サンプルとして検査された開口前の被
告物件の形状は、次のとおりと認められる。
(1) 被告物件における鼻端部9と分離線の形成面との間には、間隙がな
く、完全に当接しているものが存在するが、一方、間隙が僅かに認められるものも
存在する。
(2) 被告物件のうち、間隙が認められるものにおける離間距離について
は、必ずしも明らかではないが、断面の板厚が〇・二一ミリメートルであるのに対
し、鼻端部9と分離線の形成面との距離がその二〇分の一ないし一〇分の一程度で
あることに照らすならば、おおむね〇・〇一ないし〇・〇二ミリメートル程度であ
ると推認される。
(3) 他方、鼻端部4(構成要件cを充足することに争いがない。)と分離
線の形成面との離間距離は、おおむね板厚の二ないし二・五倍程度であるので、
〇・四ないし〇・五ミリメートルであり、鼻端部9と分離線の形成面との離間距離
とは大きく異なる。
(4) また、明細書に記載されているように、分離線の形成面から約〇・三
ミリメートル以上隔離されているといえるためには、板厚のおおむね一・五倍以上
の間隔が存することが必要であるが、被告物件中にそのようなものは全く認められ
ない。
(二) 以上のとおり、被告物件においては、鼻端部9が分離線の形成面に当
接しているか、あるいはその間に極めて狭い間隙の認められるものしか存在しな
い。右間隙は、①ループの内側を含む容器蓋全体に、一般的な手段によって補修ニ
スを塗布することを可能とする程度ではなく、また、②衝撃を受けた時に、ループ
部が衝撃を裂開案内線に直接伝えることを緩らげるように変形することによって、
衝撃を吸収することができる程度ではないことが明らかであるから、被告物件は、
本件発明の構成fを充足しない。
 なお、原告は、鼻端部9と分離線の形成面との間には、全周にわたって
わずかな隙間が存在し、部分的には広い隙間も存在するから、補修ニスの塗布は可
能である旨主張する。しかし、構成要件fにおける「隔離」の意義は、前記のとお
り、補修ニスの塗布の関係のみならず、耐衝撃性の関係でも必要とされるものであ
ること、本件明細書の実施例の欄に、「補修ニスが侵入するための最小限の隙間と
しては約〇・三ミリメートル以上必要とされる」旨記載されていることをも考慮す
ると、原告の右主張は採用することができない。
 二 構成要件eの充足性
 次いで、構成要件eの属否の点を判断する。
  1 構成要件eにおける「ループ部」の意義について
 構成要件eは、「前記裂開案内線の内側に裂開案内線の形成面から下側へ
曲げられたループ部を形成し」というものである。
 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載、及び本件特許無効審判手続
における経緯を参酌すると、右「ループ部」は、①緩やかな曲げ加工によって形成
されたループ形状を備えた、衝撃を吸収し得る構造を有することを要し、さらに、
②裂開案内線の形成面の上下に、同様の構造を有する構成要件bに係るループ部3
とともに、S字状に配置されることを要するものを指すというべきである。
 その理由を、以下詳細に述べる。
(一) 開口縁の安全性に関する事項として、「発明の詳細な説明」欄には、
「引きちぎり用タブで裂開案内線に沿って裂開して開口片を除去した場合に、巻締
め側の開口縁が裂開案内線の外側に形成されているループ部の帰還部分より外側に
位置し、また開口片側の開口縁が裂開案内線の内側に形成されているループ部の帰
還部分より内側に位置することになり、双方の開口縁はそれぞれ各帰還部分からの
曲げ曲面の外側及び内側になって安全性が確保される。」(公報五欄九行から一七
行)と、また、「引きちぎり用タブ15を引き上げると、(中略)その際に、ループ
部3側の裂開部20は帰還部分4側へ押付けられ、またループ部8側の裂開部21は帰
還部分9側へ押付けられることになる。従って、各ループ部3、8はそれぞれ若干
潰れる変形を受けて、裂開部20がループ部3の帰還部分4の外側へ近接した状態と
なり、また裂開部21がループ部8の帰還部分9の内側へ近接した状態となって、容
器6の開口がなされる。(中略)この結果、開口後の巻締め側の蓋板面に残存する
開口縁22と開口片側の蓋板面に残存する開口縁23は、それぞれ裂開部20が曲面であ
る帰還部分4の外側に、裂開部21が曲面である帰還部分9の内側に隣接した形態と
なり、各開口縁22、23に触れても安全性が保証される。」(公報七欄二七行から八
欄一〇行)と、さらに、「容器の開口後に、巻締め側に残存する開口縁と開口片側
に生じる開口縁が双方とも極めて安全な形態で構成でき、容器側の開口縁や配置さ
れた開口片によって損傷を負うような危険性を完全に解消することができる。」
(公報一〇欄一七行から二一行)と、記載されている。
(二) 耐衝撃性に関する事項として、次の記載がある。すなわち、
(1) 「発明の詳細な説明」欄には、「裂開前の状態においては、裂開案内
線が両ループ部で構成されるS字状部分の中央に位置することになり、容器が落下
して容器蓋に衝撃的内圧がかかってもそのS字状部分で衝撃エネルギーが吸収さ
れ、裂開案内線の裂断が防止できる。」(公報五欄一八行から二二行)と、「裂開
案内線1が両ループ部3、8の中間に構成されているため、衝撃的内圧を両ループ
部3、8が吸収し、容器6の落下の際等に裂開案内線1が裂開してしまうような不
都合を解消できる」(公報八欄一一行から一五行)と、記載されている。
   (2) 本件特許の無効審判請求事件の答弁書(乙三)において、前記公知例
との相違を強調して、原告は、「本件特許発明では、一枚の素材金属板に対してリ
ジッドな折り畳み加工を行なわずに緩やかな曲げ加工によるループ部3、8を構成
してダブルセイフティ機能を有した容器蓋を実現しており、各構成要素が相関的に
作用しあって、安全性の向上を図ると共に、(中略)衝撃圧等に対する緩衝構造に
よる裂開案内線1の防護を合理的に実現している。」と、また、「開示されている
技術(引用例)は、それぞれパネル折り重なり部が文字どおりパネルが三層状に折
り重なったリジッドな構成部分になっており、容器蓋に対する衝撃圧等は、パネル
折り重なり部を介して直接的に分離線42へ作用するために緩衝構造になっていな
い。即ち、緩衝構造は本件特許発明のような緩やかな曲げ加工による両ループ部
3、8を構成して隙間5、10を設けておくことで実現できるものであり、一方のみ
がループとして構成されていても緩衝機能は発現されず」と述べている。
(三) そうすると、①本件発明においては、引きちぎり用タブで裂開案内線
に沿って裂開して開口片を除去した場合に、巻締め側及び開口片側の各裂開部は、
それぞれ帰還部分の側に押し付けられ、各ループ部は、それぞれ若干潰れる変形を
受けて、巻締め側の裂開部が曲面である帰還部分の外側に、開口片側の裂開部が曲
面である帰還部分の内側に、それぞれ隣接した状態となって開口し、帰還部分が開
口縁より張り出していることと相まって、開口縁に触れても安全性が保証されると
していること、さらに、②本件発明は、容器蓋に衝撃的内圧がかかった場合に、裂
開案内線の裂断を防止することをもその課題とし、これを解決するための手段とし
て、巻締め側と開口片側の双方にループ部を形成し、その中央部分に裂開案内線を
位置させるS字状の形状とすることによって、落下等によって生じる衝撃エネルギ
ーを右のS字状部分で吸収しようとされていること、③原告は、無効審判請求事件
において、本件発明における緩衝機能は、ループ部3及びループ部8の双方につい
て、リジッドな折り畳み加工を行わず緩やかな曲げ加工を行うことによるものであ
り、裂開案内線の形成面の上方又は下方のいずれかにループ部が形成されたのでは
足りない旨を強調していることに照らすならば、本件発明の構成要件eにおける
「ループ部」は、緩やかな曲げ加工されたループ形状を有し、衝撃を吸収し得る構
造を備えたものであることが必要であり、さらに、構成要件bにおけるループ部と
ともに、裂開案内線の形成面の上下に、S字状に配置されたものであることが必要
であるというべきである。
  2 被告物件の形状及び構成要件との対比
   (一) 前掲各証拠によれば、サンプルとして検査された開口前の被告物件の
形状は、次のとおりと認められる。
    (1) 分離線の形成面の上側(リム側)にある折り重なり部3については、
緩やかな曲げ加工が施されており、分離線の形成面と折り重なり部3から鼻端部4
に至る板面との間には、ほとんどのサンプルにおいて、板厚の約二倍程度の間隙が
形成されている。
    (2) これに対し、分離線の形成面の下側(パネル側)にあるパネル折り重
なり部8については、折り重なり部3に比してはるかに鋭角的な折り加工が施され
ており、分離線の形成面と、折り重なり部8から鼻端部9に至る板面との間の間隙
も、板厚の数分の一程度である。
   (二) 以上のとおり、被告物件におけるパネル折り重なり部8は、鋭角的な
折り加工が施されており、緩やかな曲げ加工がされたループ形状を呈しているとい
うことはできず、また、変形して、衝撃を吸収する構造を有するとはいえず、さら
に、分離線の形成面の上側にある折り重なり部3とともにS字状に配置されたもの
ということもできないから、被告物件は、本件発明の構成要件eを充足しない。
     なお、原告は、パネル折り重なり部8に僅かな隙間が存在することを理
由に、被告物件は構成要件eを充足する旨主張する。しかし、パネルの折り加工が
右のとおり鋭角的になされており、分離線の形成面と、折り重なり部8から鼻端部
9に至る板面との間の隙間も、前記のとおり僅かなものである以上、パネル折り重
なり部8が、変形可能性、衝撃吸収性を有するに至ると認めることはできず、原告
の右主張は採用できない。
 三 結論
   以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいず
れも理由がない。
    東京地方裁判所民事第二九部
         裁判長裁判官      飯村敏明
            裁判官      八木貴美子
            裁判官      谷 有恒
(別紙)
物件目録一第1図第2図第3図
物件目録二第1図、第2図第3図

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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