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裁判例


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○ 主文
原告に対する公正取引委員会昭和五二年(有)第三号事件につき、被告が昭和五六
年七月一日にした審決を取り消す。右事件を被告に差し一失す。訴訟費用は、被告
の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
主文第一、第三項と同旨。
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 主張
一 原告の請求原因
1 原告は、肩書地に本店を置き、精米機、混米機、石抜撰穀機など食料加工機の
製造、販売を主たる業とする会社である。
2 被告は、昭和五二年五月二日、原告を被審人として、私的独占の禁止及び公正
取引の確保に関する法律(以下、独占禁止法という。)違反の疑いがあるとの理由
で同法四九条により審判開始決定をし、公正取引委員会昭和五二年(判)第三号事
件として審判手続を進め、昭和五六年七月一日、別紙審決書写しのとおりの審決
(以下、本件審決という。)をし、本件審決書の謄本が同月三日原告に到着した。
3 しかし、本件審決には、以下の違法があるから、取消しを免れない。
(一) 本件審決が、本件審決主文掲記の特約店契約(以下、本件特約店契約とい
う。)の趣旨を、原告製造の防音型精米機、混米機及び石抜撰穀機(以下、東洋特
約製品という。)と競合する他社の製品をすべて排除するものと認め、また、食糧
加工機販売業者(以下、販売業者という。)のうち原告との間に本件特約店契約を
締結した者(以下、特約店という。)が持約店以外の販売業者に東洋特約製品を販
売することを禁止する旨の条項(以下、転売禁止の拘束条項という。)を正当な理
由のないものと認めたのは、実質的証拠を欠くものである。
(1) (「競合品」の解釈の誤り)
本件審決は、本件特約店契約の趣旨を、東洋特約製品と競合する他社の製品一般を
排除するものと解し、そのように認定しているが、本件特約店契約の趣旨は、東洋
特約製品の後記工業所有権を侵害する他社製品のみを排除しようとするものであ
る。このことは、本件特約店契約締結に当たつて販売業者にも周知徹底されている
ことが関係各証拠から認められるから、本件審決の右認定は、実質的証拠を欠くも
のである。
すなわち、訴外A及び同財団法人雑賀技術研究所(以下、雑賀研究所という。)
は、かねて防音型精米機を完成させていたものの、従米右訴外人らの開発、発明に
よる製品について他の業者による類似製品の製造、販売が行われるという多くの工
業所有権侵害事件が発生し、訴訟によつてはその侵害防止の実効を期し得ない状況
にあつたので、右防音型精米機の商品化については消極的であつたが、原告の要請
により、昭和五一年に至り、原告に対し、その販売に当たつて工業所有権防衛のた
めの有効適切な措置を講ずることを条件に、右防音型精米機の製造、販売を認める
に至つた。そのため、原告は、そのころ、販売業者との間に東洋特約製品の工業所
有権を侵害する他社製品の取扱い禁止を内容とする特約店契約を締結するため、取
扱い禁止商品を「侵害品」と表現した特約店契約文案を用意し、その後原告の東京
営業所長Bの意見具申により、これを「競合品」の表現に改めて本件特約店契約を
締結するに至つたのである。
また、本件特約店契約において、「競合品」なる表現を「東洋特約製品の工業所有
権を侵害する他社製品」の意味で使用するものであることについては、原告は、販
売業者に対して十分その趣旨を説明し、了解を得て本件特約店契約を締結してい
る。すなわち、A及び原告代表者Cは、昭和五一年一一月二日及び三日の防音型精
米機の実演発表会の席上、販売業者に対し、本件特約店契約の目的が、東洋特約製
品の工業所有権に対する侵害の防止にあること及び「競合品」なる表現は「東洋特
約製品の工業所有権を侵害する他社製品」を意味することについて詳細な説明を行
つている。更に、原告は、右発表会に出席しなかつた販売業者である訴外Dの要請
に応じ、同人に対し、右特約店契約の目的及び「競合品」なる表現について同様の
説明をした文書を作成交付している。事実、特約店は、本件特約店契約締結後も、
非防音型他社製精米機を販売しており、原告はこれに対し異議を唱えたことはな
い。
(2) (転売禁止の拘束条項の正当性)
次に、本件審決は、本件特約店契約の転売禁止の拘束条項が、正当な理由のないも
のであると認定しているが、右転売禁止の拘束条項は、東洋特約製品がいわゆる
「おとり商品」化すること又はこれの模造品が出現することの危険を防止すること
を目的とするものであることが関係各証拠から認められるのであるから、本件審決
の右認定は、実質的証拠を欠くものである。
食糧加工機製造販売業界においては、工業所有権によつて保護されている有力商品
が、しばしば「おとり商品」化される実態にある。すなわち、販売業者中には、入
手した原告の製品に手を加えて性能を低下させたうえ、顧客に対し、これと自己の
推奨品を比較させて販売したり、原告の製品につき虚偽の説明をしたり、極めて安
値を付けて安物のイメージを与えたりするといつた行為に出る者が少なくない。ま
た、食糧加工機製造販売業界においては、模造品の出現を予測しておかなければな
らないことが常態になつているが、メーカーが他社製品を入手し模造品を製造しよ
うとするときは、販売業者を介してこれを行う事例が多く見うけられるところか
ら、本件特約店契約はこれらを防止する目的で締結されたものである。事実、原告
の防音型精米機に関する工業所有権の出願は昭和五一年一〇月三一日にされたので
あるが、発表と同時にそれが競争メーカーに入手分折されて模造品が製造販売され
た場合は、後に特許権を獲得しても、もはや侵害差止を求められなくなる危険があ
つた。
(二) 本件審決は、食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小精米用食糧加工機
(三馬力以上五〇馬力以下の精米機、混米機及び処理能力毎時三〇俵以下の石抜撰
穀機)を米穀小売業者に供給するという独立の取引の場があるものとし、原告が、
右取引の場において、昭和五一年度の販売高では、精米磯については国内総販売高
の約二八パーセント、混米機については約七〇パーセント、石抜撰穀機については
約五二パーセントを占め、いずれも業界第一位のシエアを有するものと認め、この
ことのみから、原告が業界において有力な地位を有するものと認定し、よつて本件
特約店契約が公正競争阻害性を有するものと認めているが、右認定は、次のような
理由から、実質的証拠を欠くものである。
(1) (取引の場の設定の誤り)
食糧加工機製造業者は、小精米用食糧加工機を販売業者を通じて米穀小売業者に供
給しているのみならず、販売業者を通じて、又は直接に、大型精米工場に対しても
これを供給している。すなわち、大型精米工場では、五〇馬力以下の精米機を数個
連座で設置し大型精米装置として使用しており、また、混米機及び処理能力毎時三
〇俵以下の石抜撰穀機も、現にこれを使用している。したがつて、食糧加工機製造
業者にとつては、大型精米工場及び米穀小売業者を含めた精米用食糧加工機の需要
者全体に対し製品を供給するという取引の場のみが実在しているのであつて、小精
米用食糧加工機を販売業者を通して米穀小売業者に供給するという取引の場に局限
して食糧加工機製造業者の有力者性を把握しようとする本件審決の認定は不合理で
あり、ひいては、本件特約店契約が公正競争阻害性を有するものとした本件審決の
認定は、実質的証拠を欠くものである。
(2) (原告の販売シエア認定の誤り)
仮に、食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小精米用食糧加工機を米穀小売業者
に供給するという独立乃取引の場の存在を認め得るとしても本件審決の原告の精米
機の販売高のシエアに関する前記の認定は、実質的証拠を欠くものである。
すなわち、本件審決は、原告ら食糧加工機製造業者らから被告に対して報告された
右精米機の昭和五一年度の販売高を集計して右シエアを算出したものであるとこ
ろ、原告は、右報告に当たり、誤つて、大型精米工場向けの精米機の販売高と米穀
小売業者向けの精米機の販売高を合わせた販売高二億二、一二九万一、〇〇〇円
を、原告の三馬力以上五〇馬力以下の精米機の販売高として報告した。したがつ
て、原告の右シエアの正しい算出は、右二億二、一二九万一、〇〇〇円から大型精
米工場向けの精米機の販売高を控除した額に基づいてしなければならず、これを控
除しないでした右報告に基づく本件審決のこの点の認定は、実質的証拠を欠くもの
である。
(3) (有力者性の認定の誤り)
小精米用食糧加工機を販売業者を通じて米穀小売業者に供給するという独立の取引
の場が存在し、その場における事業者の有力者性を把握し得るとしても、右小精米
用食糧加工機の販売シエアのみから事業者の有力者性を把握するのは妥当でない。
すなわち、全国の大型精米工場の大部分は、全国農業協同組合連合会(以下、全農
連という。)及び全国食糧事業協同組合連合会(以下、全糧連という。)の傘下に
あるが、全農連及び全糧連の傘下にない米穀販売業者の取扱い米穀数量比率はおお
よそ一四から一五パーセントであり、これからおおよその全農連及び全糧連傘下の
大型精米工場のシエアとその傘下にない大型精米工場のシエアを把握することがで
きる。そして、右大型精米工場の大型精米装置の受注単価は、普通は数千万円以
上、時には一億円以上になり、また、大型精米工場は、大型精米装置本機以外の補
助的機器類を食糧加工機製造業者から販売業者を通じて仕入れることがある。更
に、大型精米工場については、食糧加工機製造業者がその建設を請負い、販売業者
にこれを下請けさせることがある。このように、大型精米工場における大型精米装
置関連の取引をすることは、食糧加工機製造業者及び販売業者にとつて極めて重要
なものである。ところで、訴外株式会社佐竹製作所(以下、佐竹製作所という。)
は、全農連及び全糧連傘下の大型精米工場に対し、全農連及び全糧連を通じてほぼ
独占に近い状態で大型精米装置を販売供給しているが、この大型精米装置に関する
取引を武器として、販売業者に対しても多大の影響力を有しており、右小精米用食
糧加工機を販売業者を通じて米穀小売業者に供給するという取引の場における取引
についても重大な影響を与え得る地位を有している。したがつて、前記取引の場に
おける事業者の有力者性を把握するについては、右大型精米工場向けの取引におい
て有力な地位を有している業者の存在を無視することはできず、佐竹製作所の存在
は、無視できない。
(4) (原告の工業所有権の存在を考慮しなかつた誤り)
原告が本件特約店契約を締結し得ているのは、原告が小精米用食糧加工機を販売業
者を通して米穀小売業者に供給するという独立の取引の場において高い販売シエア
を有しているからではなく、東洋特約製品が工業所有権に保護された一種の独占商
品であるからである。
すなわち、原告は、別表(1)の各工業所有権の実施権を有している。まず、雑賀
研究所の有する噴風度自在精穀機なる実用新案権(別表(1)(1)ーへ)は、能
率的、効果的精米に資するものであり、更に、同研究所の有する精穀機の自動停止
装置なる特許権(別表(1)(1)ーロ)は、精米作業の無人化に資するものであ
つて、他社製品に比して、原告の製品に対する需要度を高める要因となつている。
また、原告は、昭和五一年において防音型精米機に関する特許権二件と実用新案権
一件(別表(1)(1)ーハ、ニ、ト)を出願するに至り、かつ、現在のところ、
「防音化」という点においては、原告の製品と競合しうる他社の製品は出現してい
ない。また、雑賀研究所は攪拌式混米機の意匠権(別表(1)(2))を有してい
るが、一般には能率面、製法面で攪拌式の方が落下式より優つているといわれてお
り、このため、原告の製品に対する需要度は他社に比して高いのである。更に、A
の有する撰穀機における選別板及び載置筐一体駆動装置なる特許権(別表(1)
(3)ーイ)は、風の強弱と無関係に、すなわち、難しい調節を要せず、完全に撰
穀できる技術であり、同人はその他工業所有権八件(別表(1)(3))を有して
いる。
原告が本件特約店契約を締結し得ているのは、まさに、東洋特約製品がこれらの各
工業所有権によつて保護された優良な製品であり、そのため、東洋特約製品に対す
る販売業者の需要度が他社製品に対するそれより格段に高いことに起因するものな
のである。
(三) 仮に、本件審決のいう取引の場において、原告が右認定のシエアを有し、
有力者性が認められるとしても、本件審決は、右取引の場において原告が右シエア
を有することのみから、直ちに本件特約店契約の公正競争阻害性を肯定しているも
のであつて、市場機構が備えているその他の経済的要因について何ら審理判断する
ことなく、本件特約店契約の公正競争阻害性を認定したものとして、実質的証拠を
欠くものである。
(1) (佐竹製作所の存在を無視した誤り)
そもそも、精米用食糧加工機の製造販売市場におけるシエア又は総合的事業力の観
点からすれば、原告をはるかにしのぐ有力な事業者が存在する。
右市場における競争者の数とそれぞれの販売実績をみると、精米機については、製
造業者の数は、本件審決認定の一〇社ではなく一一社であり、原告の昭和五一年度
における販売実績は、大型精米工場向けのものを含めて、二億二、一二九万一、〇
〇〇円であり、佐竹製作所のそれは約二二億円であるから、原告の右販売実績は佐
竹製作所のそれの一〇パーセント程度にすぎない。混米機については、製造業者の
数は、本件審決認定の三社ではなく四社であり、原告の昭和五一年度における販売
実績は、大型精米工場向けのものを含めて、七、〇八七万七、〇〇〇円であるが、
本件審決においては、他三社の販売実績は明らかではないので、市場における原告
の地位を論ずることはできない。石抜撰穀機については、製造業者の数は五社であ
るが、原告の昭和五一年度における販売実績は、大型精米工場向けのものを含め
て、九、五八七万九、〇〇〇円であるが、本件審決においては、他四社の販売実績
は明らかではないので、市場における原告の地位を論ずることはできない。
ところで、食糧加工機は、大型精米工場向けとそれ以外向けのものとで異つた製品
が生産され販売されるわけではなく、したがつて、食糧加工機の製造販売市場は、
農家用のものを除くと、一個の市場を形成しているとみるべきであり、本来、そこ
ではすべての製造業者が競争を行う関係にあり、しかも、この市場においては、佐
竹製作所が米穀卸売業者に対する取引の分野で圧倒的なシエアを有している。すな
わち、佐竹製作所は、全農連及び全糧連系の米穀卸売業者に対して約九〇パーセン
ト、全米商運協同組合(以下、全米商連という。)系の米穀卸売業者に対して約五
〇パーセントのシエアを有している。そして、佐竹製作所は、その企業規模からみ
て、米穀小売業者向け食糧加工機の製造販売の分野においても、いつでも原告を含
む製造業者に対抗し競争するだけの能力を有している。
したがつて、佐竹製作所の存在を無視して、原告の地位はもちろん、本件特約店契
約の公正競争阻害性の有無を論ずることはできない。
(2) (東洋特約製品の工業所有権の存在を考慮しなかつた誤り)
本件特約店契約の対象たる東洋特約製品に関する経済的諸条件についてみれば、精
米用食糧加工機の製造販売市場にあつては、工業所有権による製品の差別化が当該
製品の需要の拡大を生み、かつ、当該製品の製造販売主体の市場における地位を強
化する要因となつている。
ところが、精米用食糧加工機の製造販売業界における競争は、このような正当な技
術の開発という形態においてだけではなく、工業所有権を侵害する製品の製造販売
という形においても、多く行われてきたのである。東洋特約製品の工業所有権に対
する侵害につき、裁判上の手続となつたものだけでも、別表(2)のとおりであ
る。
したがつて、精米用食糧加工機製遣販売の市場にあつては、工業所有権の維持、保
全が公正な競争を行うために不可欠な秩序要因となつているのであり、本件特約店
契約の公正競争阻害性の有無を認定判断するについても、この点を無視することは
許されない。
(四) (過剰処分としての違法)
本件審決による行政処分には、必要最小限度を越えた過剰処分としての違法があ
る。
本件審決は、本件特約店契約自体の破棄を命じているが、「本件特約店契約の趣旨
が単に工業所有権を侵害する侵害品の排除にあるのではなく、一般に被審人と競争
関係に立つ他社の製造する競合品の取扱いを禁止することである以上、もつぱら侵
害品の排除を前提とする工業所有権防衛の行為であるとの主張は認められない。」
としていることからすると、本件特約店契約の趣旨が真に東洋特約製品の工業所有
権を侵害する他社の製品の排除にあるのであればそれは、正当なものと認め得ると
いうことをその前提としているはずである。そうだとすれば、本件特約店契約は、
単にその文言が契約の本旨にそぐわないものである点において不適当なものである
にすぎないものというべきである。したがつて、これに対する必要最小限度の行政
処分としては、例えば、本件特約店契約中に、その目的を東洋特約製品の工業所有
権を侵害する他社の製品の排除に限定するに適した文字の挿入を命ずることだけで
十分であり、本件特約店契約自体の破棄をまで命ずる必要はない。
4 よつて、本件審決の取消しを求める。
二 被告の答弁
請求原因1及び2の事実は認める。
同3・(一)の事実は争う。契約の内容の確定については、契約書に記載された文
言を客観的、合理的に解釈することを第一義とすべきであつて、契約文言をはなれ
て契約締結の動機ないし目的又は契約締結当時の付随的説明等を第一とすべきでは
ない。本件特約店契約書の文言からは、本件特約店契約が原告主張の東洋特約製品
の工業所有権を侵害する他社製品のみを排除する趣旨内容のものと解することはで
きない。原告が本件特約店契約を締結するに際し、販売業者らに対し、「競合品」
とは東洋特約製品の工業所有権を侵害する他社製品をいう趣旨であるとの点につい
て十分説明をしたとは認められないし、また、右趣旨であるとすれば、原告が本件
特約店契約締結に当たり、広く「競合品」を排除する旨を明示している本件特約店
契約書を使用したことは甚だ奇異であつて理解できないところである。本件特約店
契約は、東洋特約製品の工業所有権を侵害する他社製品のみの排除を趣旨とすると
いうよりは、一般的に東洋特約製品と競合する製品の排除を趣旨とするものであ
る。本件審決は、本件特約店契約書の文言の解釈に加えて、本件特約店契約締結当
時の状況等についても検討のうえ、そのように解したのである。
同3・(二)及び(三)の事実は争う。精米機、混米機及び石抜撰穀機には、主と
して米穀小売業者によつて使用される小精米用食糧加工機のほか、大型精米工場に
設置して使用される大型精米装置及び農家で使用される自家用精米機があり、右小
精米用食糧加工機の大部分は、食糧加工機製造業者から販売業者を経て米穀小売業
者に供給されるのに対し、大型精米装置の大部分は、全農連又は全糧連を経て大型
精米工場に供給され、また、自家用精米機の大部分は、農機具販売業者又は各都道
府県農業協同組合を経て農家に供給されている。販売業者の取り扱つている食糧加
工機の大部分が小精米用食糧加工機である。大型精米工場の精米装置の大部分は、
連座した数台の五〇馬力以下の精米機を直列に組み合わせ、その工程に応じた作業
をする構造になつているので、一般的には大型精米工場向け精米機等と米穀小売業
者向け精米機等とは別のものであると認めるのが相当である。したがつて、食糧加
工機製造業者が食糧加工機を販売業者に販売するという取引の場における食糧加工
機製造業者の地位を把握するには、小精米用食糧加工機についての販売比率による
のが妥当である。
仮に、原告の小精米用食糧加工機の販売比率の認定の基礎となつた資料に多少の誤
差があつたとしても、原告が小精米用食糧加工機製造業者の間で有力な地位にある
ことは十分認定し得る。また、原告が本件取引を実行し得ている理由が幾つかある
としても、原告が小精米用食糧加工機製造業者の間で有力な地位にあることがその
重要な理由である。
本件審決は、原告の小精米用食糧加工機の販売業者に対する販売シエア、本件特約
店契約締結の際の状況及びその後の事情等を総合評価し、かつ、本件特約店契約が
専ら東洋特約製品の工業所有権防衛の目的でなされたものとは認められないことか
ら、本件特約店契約に公正競争阻害性があるとしたのであつて、その判断に誤りは
ない。
同3・(四)の事実は争う。本件特約店契約は、その条項の一部が違法であると
か、文言の一部に不適切なものがあるといつたものではなく、本件特約店契約自体
が、特約店に対し東洋特約製品と競合する他社の製品を取り扱わせないこと及び特
約店以外の販売業者に東洋特約製品を販売させないことを目的として締結された点
において、独占禁止法に違反するのであり、本件特約店契約自体の破棄を命ずるこ
とは当然の処分である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告が、肩書地に本店を置き、精米機、混米機、石抜撰穀機など食糧加工機の
製造、販売を主たる業とする会社であること、被告が、昭和五二年五月二日、原告
を被審人として、独占禁止法違反の疑いがあるとの理由で同法四九条により審判開
始決定をし、公正取引委員会昭和五二年(判)第三号事件として審判手続を進め、
昭和五六年七月一日別紙審決書写しのとおりの審決をし、本件審決書の謄本が同月
三日原告に到達したことは、当事者間に争いがない。
二 1 まず、原告は、本件審決が、本件特約店契約は、東洋特約製品と競合する
他社の製品をすべて排除するものであると認めたのは、実質的証拠を欠くと主張す
る。
本件審決挙示の査第三ないし第七号証、第九ないし第二〇号証、第二九ないに第三
一号証及び審判の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和五一年一一月二日及び「三日
の両日、和歌山市所在の原告会社本店及び新和歌浦観光ホテルにおける原告の防音
型精米機の実演発表会の席上で、販売業者らに対し、原告との間に、「東洋特約製
品と競合する他社の製品を取り扱わないこと、原告との間に本件特約店契約を締結
した販売業者以外の販売業者に東洋特約製品を販売しないこと。」を内容とする本
件特約店契約を締結した特約店に対してのみ原告製遣の防音型精米機を販売する旨
を告げ、以後、逐次、七九名の販売業者と本件特約店契約を締結した事実を認定す
ることができる。
原告は、本件特約店契約は、「東洋特約製品と競合する他社の製品を取り扱わない
こと」の文言を有するものではあるが、従来、他の食糧加工機製造業者らが東洋特
約製品の工業所有権を侵害する製品を製造、販売し、そのため原告らは右工業所有
権防衛のため幾多の訴訟を提起し勝訴の判決を得てきたが実効がなかつたこと、A
及び雑賀研究所から右工業所有権防衛のため有効、適切な措置を講ずるよう要請さ
れていたこと、原告の会社内部において、本件特約店契約締結に際し、あらかじ
め、「競合品」なる文言を東洋特約製品の工業所有権を侵害する他社製品すなわち
「侵害品」を意味するものとして検討していたこと、原告代表者らが右実演発表会
の席上及び本件特約店契約締結の際に販売業者らに対し本件特約店契約の趣旨は東
洋特約製品の工業所有権を侵害する他社製品を排除することにある旨を説明しなこ
と、原告は右実演発表会に出席していなかつた販売業者に対しても同様の説明をし
たことの事実があるから、本件特約店契約における「競合品」なる文言の趣旨は、
東洋特約製品の工業所有権を侵害する他社の製品を意味するものであり、これを東
洋特約製品と競合する他社製品のすべてを意味するものと解すべきではない、と主
張する。
しかしながら、仮に右のような原告主張の事実が認められるとしても、そもそも、
「競合品」なる文言を工業所有権侵害品を意味するものと解するのは、文言の一般
的用法に合わないものであり、また、原告主張の右事実は、本件特約店契約締結の
動機または目的にとどまるにすぎないものと考えられる。
したがつて、右のような契約締結の動機または目的が契約に用いられた文言に優先
して契約内容を確定すべき事情となるものではないとし、右契約に用いられた文言
にそつて本件特約店契約を一般的に東洋特約製品と競合する他社製品の排除を趣旨
とするものであるとした本件審決の認定に、不合理な点があるものとすることはで
きない。
また、原告は、特約店は、本件特約店契約締結以後においても、引続き、防音型精
米機以外の他社製品を取り扱つており、原告はこれに対し異議を唱えたことはない
から、本件特約店契約における右競合品なる文言は、東洋特約製品の工業所有権を
侵害する他社の製品を意味するものであり、これを一般的に東洋特約製品と競合す
る他社製品を意味するものと解すべきではないと主張する。
しかしながら、仮に、右のような原告主張の事実が認められたとしても、それは、
右特約店が本件特約店契約に違反する行為をしているのを原告が事実上看過してい
るにすぎないと見る余地も十分にあるから、これによつて本件特約店契約の趣旨、
内容に関する本件審決の認定が合理性を欠くこととなるものではない。
2 次に、原告は、本件特約店契約中の転売禁止の拘束条項は、東洋特約製品がい
わゆる「おとり商品」化すること又はこれの模造品が出現することの危険の防止を
目的とするものであつて、これを正当の理由がないものとした本件審決の認定は、
実質的証拠を欠くものであると主張する。
確かに、審第八号証、第一〇ないし第二〇号証、第二八号証、第三一号証、第三三
号証の一、二、第三八号証の一ないし四、第四二号証、参考人宇津呂雄章の第六回
審判、同Aの第七回審判、同Cの第八、第九回審判における各陳述によれば、A及
び雑賀研究所は、つとに、その有する精米用食糧加工機の工業所有権につき他製造
業者との間でその侵害排除のだめの訴詮等を繰り返していたこと、原告は、かねて
販売業者らからも東洋特約製品の模造品が出まわることについて対策を求められて
いたことを認ぬるに十分であるが、このことをもつてしても、本件特約店契約の転
売禁止の拘束条項の趣旨を東洋特約製品が「おとり商品」化すること又はこれの模
造品が出現することの危険の防止の目的に局限されたものと当然に解さなければな
らない理由は見出せず、むしろ、本件特約店契約において用いられている文言等前
掲本件審決挙示の証拠によつて認められる事実からは、やはり本件特約店契約にお
ける転売禁止の拘束条項は、一般的に特約店から東洋特約製品が特約店以外の販売
業者に出まわることのないようにしたものと解するのが相当である。
そうすると、本件特約店契約の転売禁止の拘束条項の趣旨が東洋特約製品が「おと
り商品」化すること又はこれの模造品が出現することの危険の防止の目的に局限さ
れたものであることを前提とする原告の主張は理由がない。
三 原告は、本件審決が、食糧加工機製造業者が精米用食糧加工機の需要者全体に
対し製品を供給するという取引の場より更に局限された食糧加工機製造業者が販売
業者を通じて小精米用食糧加工機を米穀小売業者に供給するという独立の取引の場
があるものと認定しているのは、実質的証拠を欠くものであると主張する。
本件審決は、査第二、第八、第九、第一六、第二一、第二七、第二八号証、審第五
号証、参考人Cの第八回及び第九回審判、同Eの第四回審判、同Fの第一一回及び
第一二回審判における各陳述に基づき、食糧加工機製造業者が三馬力以上五〇馬力
以下の精米機、混米機、毎時処理能力三〇俵以下の石抜撰穀機を販売業者を通じて
米穀小売業者に供給するという独立の取引の場が存する旨を認定しているものであ
るところ、前掲挙示の証拠から、精米機、混米機及び石抜撰穀機には、(1)主と
して米穀小売業者によつて使用される小精米用食糧加工機、(2)大型精米工場に
設置して使用される大型精米装置及び、(3)農家で使用される自家精米機がある
が、そのうち小精米用食糧加工機の大部分が食糧加工機製造業者から販売業者を経
て米穀小売業者に供給され、大型精米装置の大部分が全農連又は全糧連を経て大型
精米工場に供給され、自家用精米機の大部分が農機具販売業者又は各都道府県農業
協同組合を経て農家に供給されていること、混米機の大部分が米穀小売業者で使用
されるものであつて、大型精米工場においてほほとんど使用されていないこと、毎
時処理能力三〇俵以下の石抜撰穀機は米穀小売業者で使用されるものであることが
認められ、このように或る市場の中において、更に、流通する商品、流通経路、流
通主体等の特性に基づいて、それぞれ、対象市場を区分し類型化することができる
取引の場があるときは、ここに更に局限された独立の取引の場が存在すると認める
のが相当であるから、本件審決が前記食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小精
米用食糧加工機を米穀小売業者に対して供給するという独立の取引の場の存在を認
めたことは不合理なものということはできない。
原告は、大型精米工場における大型精米装置は、五〇馬力以下の精米機を数個連座
で設置して五〇馬力以上の精米装置としたり又は五〇馬力以下の精米装置としたり
しているものであり、また、大型精米工場においても混米機及び処理能力毎時三〇
俵以下の石抜撰穀機を使用しており、原告ら食糧加工機製造業者はこれら大型精米
工場において使用される五〇馬力以下の精米機、混米機、処理能力毎時三〇俵以下
の石抜撰穀機を販売業者を通じて大型精米工場に供給しているから、本件審決の認
める独立の取引の場は存在しない旨主張する。
しかし、本件審決は、これらの事実を否定しているのではなく、ただ、それが比較
的小部分を占めるにすぎないと認めたうえ、これらの事実の存在にもかかわらず、
なお前記のような独立の取引の場が存在するものと認定しているものであることが
明らかであり、審第九〇号証、参考人Eの第四回審判における陳述によれば、大型
精米工場に対する食糧加工機の供給は、佐竹製作所がその大部分を全農連及び全糧
連を経てしており、その余の部分はその他の食糧加工機製造業者が販売業者を経て
しているものの、その例は少ないものであることが認められるから、食糧加工機製
造業者が小精米用食糧加工機を販売業者を通じて大型精米工場に供給していること
があるとしても、直ちにこのことをもつて、本件審決のこの点の認定が合理性を欠
くこととなるものとはいえず、ひいては、実質的証拠を欠くものとすることはでき
ない。
四 また原告は、仮に、食糧加工機製造業者が販売業者を通して小精米用食糧加工
機を米穀小売業者に供給するという独立の取引の場の存在が認め得るとしても、右
取引の場において原告製造の精米機の販売高が国内の総販売高の約二八パーセント
のシエアを占めているとした本件審決の認定は、原告の誤つた報告に基づくもので
あつて、実質的証拠を欠くものであると主張する。
本件審決は、右取引の場における原告の販売シエアについて、査第二号証(原告の
昭和五二年三月一一日付報告書)、同第八号証(審査官G外三名の昭和五二年三月
一八日付報告書)に基づき、昭和五一年度における全国の食糧加工機製造業者一〇
名の三馬力以上五〇馬力以下の精米機の販売総額は八億〇、六一八万四、〇〇〇円
であり、そのうち原告の販売額は二億二、一二九万一、〇〇〇円であるから、全体
の約二八パーセントを占め、業界第一位の地位にあることを認定し、このことを理
由に原告が右取引の場において有力な地位を有する業者であるとの事実を認定して
いることが明らかであるところ、他方、審第九〇号証(とう精工場の現況)、同第
九五号証の四(小売価格表)、参考人Cの第八回及び第九回審判における陳述によ
れば、原告は、被告から昭和五一年度における三馬力以上五〇馬力以下の精米機の
販売額の報告を求められたところ、大型精米工場向けの五〇馬カ以下の精米機の販
売額と米穀小売業者向けの五〇馬力以下の精米機の販売額とを合算した額を前記二
億二、一二九万一、〇〇〇円として報告したことが認められ、右認定に反する証拠
はない。
そうすると、本件審決が前記取引の場において原告が三馬力以上五〇馬カ以下の精
米機の販売につき約二八パーセントのシエアを占めるものと認定したのは、そのシ
エアを過大に認定した結果となつているといわなければならない。原告の右シエア
を正確に認めるためには、原告の右販売額から大型精米工場向けの五〇馬力以下の
精米機の販売額を控除した残額を求め、更に全国の他の製造業者一〇社の同様な数
額を求め、これに基づいてシエアを算出、認定しなければならない理である。結
局、本件審決は、前記昭和五一年度における原告を含めた全国の食糧加工機製造業
者の三馬力以上五〇馬力以下の精米機の販売総額のうち大型精米工場向けのものを
控除した額及び原告の右精米機の販売額のうち同じく大型精米工場向けのものを控
除した額を明らかにする証拠が存しないにもかかわらず、原告の右取引の場におけ
るそのシエアを約二八パーセントと認定し、これを理由としで、原告が右取引の場
において有力な地位を有する業者であるとの事実を認定しているのであるから、こ
の点に関する認定は、実質的証拠を欠くものといわざるをえない。
被告は、仮に、原告の小精米用食糧加工機の販売比率の認定の基礎となつた資料に
多少の誤差があるとしても、原告が小精米用食糧加工機製造業者の間で有力な地位
にあることは十分に認定し得ると主張しており、確かに前記三においても説示した
とおり、佐竹製作所を除く原告ら食糧加工機製造業者が販売業者を通じて精米機を
大型精米工場に供給するという例は、さほど数多くないものであることが認められ
る。しかしながら、前記のとおり食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小精米用
食糧加工機を米穀小売業者に対して供給するという取引の場において、原告製造の
精米機の販売高が国内の総販売高に対して占める正確な比率を明らかにする証拠が
存しない以上、右の正確な比率を前提とした場合に、被告が右取引の場における原
告の地位等に関してどのような認定、判断をするであろうかは、当裁判所において
にわかにこれを予測し難いものといわざるを得ず、被告の右主張を容れることはで
きない。
五 なお、原告は、本件審決のいう取引の場において原告が有力な地位を有する業
者であるということのみから、市場機構が備えているその他の経済的要因について
何ら審理判断することなく、本件特約店契約の公正競争阻害性を肯定した本件審決
の認定は、実質的証拠を欠くものであると主張する。
いわゆる排他条件付取引が正当な理由がないものとして昭和二八年公正取引委員会
告示第一一号不公正な取引方法七に該当するといい得るためには、それが行為者と
競争者との間における公正な競争を阻害するおそれがあると認められることが必要
であり、したがつて、本件特約店契約が右の不公正な取引方法七に該当するために
は、原告の右契約の締結行為によつて、食糧加工機製造業者が販売業者を通じて小
精米用食糧加工機を米穀小売業者に供給するという取引の場における公正な競争が
阻害されるおそれがあると認められることが必要であるところ、右の会正競争阻害
性の有無は、結局のところ、行為者のする排他条件付取引によつて行為者と競争関
係にある事業者の利用しうる流通経路がどの程度閉鎖的な状態におがれることとな
るかによつて決定されるべきであり、一般に一定の取引の分野において有力な立場
にある事業者がその製品について販売業者の中の相当数の者との間で排他条件付取
引を行う場合には、その取引には原則的に公正競争阻害性が認められるものとみて
差し支えないであろう。しかし、また、右のような場合であつても、一定の取引の
分野の市場構造の特殊性等からして、すでに各販売業者が事実上特定の事業者の系
列に組み込まれており、その事業者の製品だけしか取り扱わないという事態になつ
ているなど特段の事情が認められる場合は、排他条件付取引に公正競争阻害性が認
められないとされる余地が生ずるものと解される。したがつて、排他条件付取引に
公正競争阻害性が認められるか否かを判断するに当たつては、行為者及びその競争
者の製造する製品を取り扱う販売業者がどの程度存在し、販売業者の各事業者への
系列化の実情がどのようなものになつているかといつた点が重要な判断資料となる
ものというべきである。
これを本件についでみるに、本件審決は、原告が昭和五一年一一月二日から昭和五
二年三月一一日までの間に全国の販売業者二四〇名のうち七九名との間で本件特約
店契約を締結したこと及び原告が前記取引の場において有力な地位にある者である
ことから、右の排他条件付取引には公正競争阻害性が認められると判断しているの
であるが、本件審決が全国の販売業者の数が二四〇名であるどの事実をいかなる証
拠に基づいて認定したのかは、被告から当裁判所に送付された事件記録を精査して
みても明らかでない。すなわち、本件審決が右認定の根拠として挙示する査第二号
証、第五ないし第七号証、第一一号証、第一三号証、第一五ないし第二〇号証、第
二九ないし第三一号証からは、右の事実を認めることができず、かえつて、審第四
号証、第八四号証、参考人Fの第一一回審判における陳述、同Hの第一四回審判に
北ける陳述をみると、そこに現れた全国の販売業者の数はおおよそ一〇〇名とする
ものから二、〇〇〇名とするものまで区々に分かれており、とうていこれを確定す
ることができない。また、これら各販売業者の各事業者への系列化の実情の点につ
いても、例えば審第七八、第七九号証、第九八、第九九号証、参考人Aの第七回審
判における陳述、同Hの第一四回審判における陳述によれば、少くとも、原告と競
争関係にある佐竹製作所、訴外株式会社丸七製作所、同中島造機株式会社等におい
てはすでに相当数の販売業者をいわゆる専売店として自己の系列に組み込んでいる
ことが窺えるなど、本件で問題とされている取引の場においては、各販売業者の特
定の事業者への系列化がかなりの程度まで進んでいるのではないかと推認できる余
地さえも認められる。
そうすると、仮に、本件審決のいう取引の場において原告が有力な地位を有する業
者であるとの本件審決の前記の認定判断が合理性を有するとした場合においても、
更に、本件審決は、右の全国の販売業者の数やその各事業者への系列化の実情の点
を認定判断するのに必要な的確な証拠を収集することなく、たやすく本件特約店契
約の締結行為について公正競争阻害性の存在を肯定したものであり、この点におい
ても審決の基礎となつた事実を立証する実質的証拠を欠く違法なものといわざるを
得ない。
六 よつて、原告申出にかかる前掲各証拠の取調べの要否の点を含めて、その余の
点について判断するまでもなく、本件審決はこれを取り消すべく、原告の本件取引
の場における販売業者向けの小精米用食糧加工機の販売高によるシエア、全国にお
ける販売業者の数及び競争者による各販売業者の系列化の実情の点につき、更に審
判をさせる必要があるから、独占禁止法八三条により本事件を被告に差し戻すこと
とし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文
のとおり判決する。
(裁判官 矢口洪一 岡垣 皇 磯部 喬 塩谷 雄 涌井紀夫)
別紙
昭和五二年(判)第三号
(原裁判等の表示)
審  決
和歌山市<地名略>
被 番 人                          株式会社東洋
製米機製作所
右代表者代表取締役                      C
右代理人弁護士                        村下 武司
同   同                          宇津呂雄章
同   同                          板谷  洋
同   同                          橘高 郁文
同   同                          柏木 義憲
公正取引委員会は、右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する
法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、公正取引委員会の審査及
び審判に関する規則(以下「規則」という。)第六六条の規定により審判官Iから
提出された事件記録及び規則第六八条の規定により被審人から提出された異議の申
立書に基づいて別紙審決案を調査し、次のとおり審決する。
○ 主文
一 被審人株式会社東洋精米機製作所は、同社の製造に係る防音型精米機、混米機
及び石抜撰穀機(以下「東洋特約製品」という。)の販売について、取引先販売業
者との間で締結している「特約店契約」を破棄しなければならない。
二 被審人は、前記「特約店契約」第二条に基づき、取引先販売業者から受け取
り、保管している約束手形を、各振出人に返還しなければならない。
三 被審人は、第一項に基づいて採つた措置を東洋特約製品の取引先販売業者に周
知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、当委
員会の承認を受けなければならない。
四 被審人は、前三項に基づいて採つた措置を速やかに当委員会に報告しなければ
ならない。
○ 理由
一 当委員会の認定した事実、証拠、被審人の主張に対する判断及び法令の適用
は、いずれも別紙審決案と同一であるから、これを引用する。ただし、同審決案の
理由中「第三被審人の主張に対する判断二(二)ロ本件特約店契約の及ぼす影響に
ついての主張に対する判断」のうち、「本件特約店契約の締結を拒んだため、被審
人の製品を販売できなくなつた者もあり」との記載の事実(二六ページ)を立証す
る証拠として、査第一八号証及び査第二三号証を追加する。
二 よつて、被審人に対し、独占禁止法第五四条第一項の規定により、主文のとお
り審決する。
昭和五六年七月一日
公正取引委員会
委員長  J
委 員  K
委 員  L
委 員  M
委 員  N
(別紙)
昭和五二年(判)第三号
審決案
○ 主文(前記審決の主文と同一につき省略)
○ 理由
第一 事実
一 (一)被番人は、肩書地に本店を置き、精米機、混米機、石抜撰穀機等食糧加
工機の製造業を営むものである。
(二) 被番人は、その製品の大部分を食糧加工機販売業者(以下「販売業者」と
いう。)を通じて、米穀小売業者に供給している。
(三) 被審人の昭和五一年における製品の販売高は、三馬力以上五〇馬力以下の
動力用の精米機については、国内における同精米機の総販売高の約二八パーセン
ト、混米機については、同じく約七〇パーセント及び一時間当たりの処理能カが三
〇俵以下の石抜撰穀機については、同じく約五二パーセントをそれぞれ占め、いず
れも業界第一位である。
しかして、前記の食糧加工機は、いずれもその大部分が、米穀小売業者によつて使
用されるものである。
二 (一)被番人は、昭和五一年一一月二日及び翌三日の両日、同社及び和歌山市
所在の新和歌浦観光ホテルで自社製品である防音型精米機の実演発表会を開催した
が、その際、販売業者に対し、被審人との間に次の事項を内容とする「特約店契
約」を締結した者(以下「特約店」という。)に対してのみ防音型精米機を販売す
る旨を告知した。
イ 特約店は、東洋特約製品と競合する他社の製品を取り扱わないこと。
ロ 特約店は、特約店以外の販売業者に、東洋特約製品を販売しないこと。
ハ この契約の保証として、特約店において約束手形を被審人に預けるなど前二項
の実効の確保に関する事項
(二) 被審人は、右実演発表会以降、販売業者との間に、逐次「特約店契約」の
締結を進め、昭和五二年三月一一日現在、全国の販売業者約二四〇名のうち、七九
名の者と同契約を締結し、これに基づき取引している。
第二 証拠(省略)
第三 被審人の主張に対する判断
一 被審人の業界における地位について
(一) 被審人の主張の要旨
審査官は、食糧加工機である精米機、混米機及び石抜撰穀機の製造業界における取
引ないし競争の場の中に、更に、「米穀小売業者向け製品」なるものの取引ないし
競争の場があることを前提として、その分野における被審人の販売比率を問題に
し、被審人は業界第一位であるとしているが、そもそも食糧加工機製造業界におい
ては、「米穀小売業者向け製品」の販売という独立の取引分野はなく、ただあるの
は、大型精米工場及び米穀小売業者を含めた食糧加工機の需要者全体に対する製品
の販売としての取引分野だけであり、その観点から見る限り、食糧加工機製造業者
の販売の分野では他社が圧倒的販売比率をもつており、被審人は同業界ではむしろ
弱小な製造業者にすぎないものであつて、決して有力な製造業者ではない。
(二) 右主張に対する審判官の判断
本審判にあいては、食糧加工機製造業者である被審人が防音型精米機、混米機及び
石抜撰穀機を販売業者に対し販売するに当たつて行つた行為が、不公正な取引方法
に該当し、独占禁止法第一九条に違反するか否かが問擬されているのであるから、
食糧加工機製造業者が、防音型精米機、混米機及び石抜撰穀機を販売業者に販売す
るという取引の場において、公正な競争が阻害されるおそれがあるか否かが問題で
あつて、当該取引の場が一定の取引分野を形成するかどうかは問題ではない。した
がつて、本件においては、被審人の製品が全食糧加工機製造業者の製品の中で占め
る販売比率を厳密に論ずることはもともと不必要である。ただ、食糧加工機を販売
業者に販売するという取引の場における被審人のおおよその地位をは握すること
は、本件行為の競争に及ぼす影響等を明らかにするために役立つことなので、その
点につき検討を加えることとする。
精米機、混米機及び石抜撰穀機には、主として米穀小売業者によつて使用されるも
の(以下「小精米用食糧加工機」と総称する。)のほか、大型精米工場に設置して
使用される大型精米装置及び農家で使用される自家用精米機がある。そして、小精
米用食糧加工機は、その大部分が販売業者を経て米穀小売業者に販売されるのに対
し、大型精米装置は、その大部分が全国食糧事業協同組合連合会又は全国農業協同
組合連合会を経て大型精米工場に販売され、また、農家で使用される自家用精米機
はその大部分が農機具販売業者又は各都道府県農業協同組合を経て農家に販売され
ている(査第九号証、査第一六号証の各供述調書、参考人Eの第四回審判、参考人
Cの第八回及び第九回審判並びに参考人Fの第一一回及び第一二回審判における各
陳述)。したがつて、食糧加工機製造業者が食糧加工機を販売業者に販売するとい
う取引の場における被審人の地位をは握するには、小精米用食糧加工機についての
販売比率によるのがもつとも妥当である。
ところで、株式会社佐竹製作所監査役Oからの昭和五二年二月二二日付け供述聴取
報告書(査第二一号証)によれば、米穀小売業者が使用する精米機は通常三馬力以
上三〇馬力位までのものであることが認められ、更に、食糧庁編さんにかかる昭和
五〇年七月一日現在の「とう精工場の現況」の抜粋(審第五号証)によれば、米穀
小売業者の使用する食糧加工機は、精米機については三馬力以上五〇馬力未満のも
のが大部分を占めることが認められる。また、被審人の昭和五二年三月一一日付け
報告書(査第二号証)によれば、被審人において製造する精米機はすべて五〇馬力
以下のものであることが明らかであり、かつ、審査官G外三名の昭和五二年三月一
八日付け報告書(査第八号証)によれば、三馬力以上五〇馬力以下の精米機を製造
する業者は、被審人を含めて一〇社であり、昭和五一年における右一〇社の同精米
機の国内販売総額は、八億〇六一八万四〇〇〇円であり、そのうち、被審人の製造
にかかる精米機の販売額は二億二一二九万一〇〇〇円で、全体の約二八パーセント
を占め、業界第一位であることが認められる。
混米機は、前掲査第二一号証及び参考人Fの第一一回審判期日における供述を総合
すれば、米穀小売業者が主としで使用するものであつて、大型精米工場においでは
ほとんど使用されないものであることが認められる。
そこで、混米機の販売状況をみると、前掲査第八号証によれば、国内で混米機を製
造する業者は、被審人を含めて三社であり、昭和五一年における右三社の混米機の
国内販売総額は一億〇〇五八万八〇〇〇円であり、そのうち、被審人の製造にかか
る混米機の販売額は七〇八七万七〇〇〇円で、全体の約七〇パーセントを占め、業
界第一位であることが認められる。
石抜撰穀機は、前掲査第二一号証及び査第八号証によれば、米穀小売業者において
は主として一時間当たりの処理能力が三〇俵以下のものが使用される実情にあると
ころ、それに該当する石抜撰穀機の製造業者は被審人を含めて五社であり、昭和五
一年における右五社の国内販売総額は合計一億八四一七万四〇〇〇円であり、この
うち、被審人の製造にかかる同石抜撰穀機の販売額は九五八七万九〇〇〇円で、全
体の約五二パーセントを占め、業界第一位であることが認められる。
被審人は、前記査第二一号証及びFの供述は被審人会社と競争関係にある会社の関
係者による供述であつて信用がおけないとしているが、その内容は、食糧加工機の
設置状況という客観的な事実についてのものであつて、殊更歪曲して供述するよう
な事柄ではないので、その供述は措信できる。
また、被審人は査第八号証について、同証は、審査官の審査部長に対する報告書に
すぎず、証拠価値が低いとしているが、同証は、各製造業者からの報告に基づいて
作成されたものであり、その内容は販売金額に関するもので誤りの入る余地がない
ので、十分に措信できる。なお、被審人も同証拠の採用を認めており、また、審判
の過程においても、同証拠の証明力について争つていない。結局、前掲各証拠の信
憑性に関する被審人の主張は採用し難い。
以上検討したとおり、被審人は小精米用食糧加工機の有力な製造業者であることを
認めることができる。なお、前掲審第五号証の原本の写しである審第九〇号証のな
かには、昭和五〇年七月一日現在の全国における全精米機の銘柄別設置状況が設置
数の多いものから順に示されているが、「佐竹」が八、〇五〇「毛利」が四、三五
五に続いて、第三位に「東洋」の銘柄で表示される被審人の製品が、三、七六二と
なつており、これだけをみても、被審人の業界における地位が、決して同人の主張
するほど弱小ではないことをうかがうことができるのである。
以上のとおりであるから、被審人の主張は採用できない。
二 本件特約店契約について
(一) 被審入の主張の要旨
イ 本件特約店契約の趣旨及びその正当性についての主張の要旨
(イ) およそ契約の成立には書面の作成を要しないのであるから、仮に契約書を
作成した場合であつても、契約書上の記載内容はたんに契約内容を推測させる一つ
の資料となるにすぎず、当該契約書のみをもつて契約内容を判断すべきではなく、
当事者の契約締結の目的、契約締結に至るまでの経緯その他諸般の事情を考慮して
判断すべきである。
しかるところ、本件特約店契約は、被審人としては、従来から他の食糧加工機製造
業者が被審人の工業所有権を侵害する製品を製造販売することが多かつた実情にか
んがみ、これらの侵害品を排除することを目的とするものであり、しかも、販売業
者を集めて開催した防音型精米機の実演発表会の機会等において、被審人会社の代
表者から口頭で本件特約店契約の趣旨は工業所有権を侵害する他社の侵害品の取扱
いを禁止することにあり、侵害品以外の他社製品は何ら禁止の対象にならない旨明
確に説明している。
本件特約店契約の契約書には、特約店が被審人の製造にかかる東洋特約製品と競合
する他社製品の取扱いを禁止する旨の表現のある条項(第一条)があるが、これは
前記の目的及び口頭説明に照らして明らかなとおり、広く被審人の製品と競合する
他社製品を排除する趣旨ではなく、被審人の工業所有権を侵害する他社の侵害品の
みを排除する趣旨に解すべきものである。
更に、同契約書には、特約店が、特約店以外の販売業者に、東洋特約製品を販売す
ることを禁止する旨の表現のある条項がある(第五条)が、これは、被審人の工業
所有権を侵害することを常習とする他の製造業者に、東洋特約製品が入手されるこ
とを困難ならしめるためとともに、悪質な競争業者が東洋特約製品を入手してこれ
を殊更性能が悪くなるように改造した上、需要者に一時的に使用させ、故意にその
評価を下げさせることによつて、反射的に自社製品を優良なものとみせかけるため
の手段、すなわち、おとり商品に使われることを防ぐためのものである。
(ロ) 以上のとおり、本件特約店契約を締結することは、被審人として、同業他
社の不正に対する当然の防衛行為であつて、公正な競争を阻害するものではない
し、ひいては、正当な理由のあることである。
ロ 本件特約店契約の及ぼす影響についての主張の要旨
本件特約店契約の相手方は、もともとがほとんど被審人の製品の専売店であつたも
のばかりであり、したがつて、この契約によつて現実の取引関係に特段の影響を及
ぼしたわけでもない。
(二) 被審人の主張に対する審判官の判断
イ 本件特約店契約の趣旨及びその正当性についての主張に対する判断
(イ) 契約が書面によつてなされている場合、契約の内容の確定に当たつては、
書面に記載された文言を客観的、合理的に解釈することを第一義的に考えるべきで
あつて、契約書の文言をはなれて契約締結の動機ないし目的あるいは契約締結の際
の付随的説明等がそれに優先するものでないことは論ずるまでもないところであ
る。
そこで、本件特約店契約の内容について検討すると、まず、本件契約書の第一条に
は、「甲一(注)、被審人)の製造にかかる防音型精米機、コンマイ機及び石抜撰
穀機)それらを以下特約製品という。)に限つて、乙((注)、特約販売業者)は
甲の特約製品と競合する他社製品を取扱わぬこと。なお、上記の競合品とは、防音
構造を有する他社精米機とコンマイ機及び石抜撰穀機の一切である。」と明示され
ているところ、この契約文言からは、被審人の工業所有権を侵害する製品のみを排
除する旨の契約内容とはいかにしても解し得ない。
前記実演発表会等において被審人会社の代表者が口頭で説明したか否かについて
は、その実演発表会に出席した販売業者又は代理出席した者からその結果報告を聞
いた販売業者等の審査官に対する供述調書には、被審人の主張に沿う口頭説明があ
つた旨の供述記載はなく、むしろ、その際は広く同業他社の競合品の取扱いを禁止
する旨の説明をうけた旨の供述記載しかない(査第一一号証ないし査第一八号
証)。審判廷における被審人側申請の参考人によつてはしめて、右実演発表会で
は、侵害品の排除のことが説明された旨の供述がなされたが、その供述内容を子細
に検討すると、右説明は前記契約書の解釈として行われたというよりも、被審人側
がこの契約の締結を進めるにいたつた動機を明らかにするためのものであつたと認
められる(参考人P及び同Qの第一九回審判における各陳述)。もし、被審人の主
張するような侵害品のみの排除の契約であるならば、広く競合品を排除する旨を明
言している契約書をそのまま使用することは奇異なことであつて、理解し難いこと
といわなければならない。しかも、それが三〇〇万円の約束手形を保証に取つてま
での重要な商取引であることを考えると、右主張は全く合理性をもつものではな
い。
次に、本件契約書第五条には、「乙は、甲と特約店契約を結んでいない乙の同業者
及びサブデイーラーに対し、特約製品を卸売してはならない。」と書かれていて、
特約店に対し、東洋特約製品を特約店以外の販売業者に販売しないことを義務づけ
ているのである。被審人は、第五条を前記のとおり、特約製品がおとり商品として
使用されることを防止するための条項であると主張し、それを前提として、第一条
の読み方も単なる競合品の排除ではなく、工業所有権を侵害する侵害品のみの排除
の趣旨に読みとるべきであると主張するのであるが、それは、契約書の文言とは余
りにもかけ離れた解釈であり、到底認められるものではない。
そして、一つの契約書の中に前記第一条と第五条とが書き並べられていることに着
目しながら右二箇条を併せ読むと、本契約は、被審人としては、特約店に対して東
洋特約製品と競合する他社製品を一切取り扱わせないこととし、かつ、その特約店
から東洋特約製品が特約店以外の販売店に出回ることもないようにしたものである
ことが明らかである。
本件審査の段階で提出命令により提出された株式会社東洋精米機製作所の用箋に書
かれたメモ(査第三〇号証)及びそのメモの筆者であるBの昭和五二年三月一日付
け審査官に対する供述調書(査第三一号証)を総合すれば、本件特約店契約の締結
の推進を図つていた昭和五一年一一月四日当時、被審人は、同業他社が三か月後に
は新型を出す予定なので、その前に早く販売店との間に特約店契約を結ぶ必要があ
るとの方針を打ち出していたこと、したがつて、それは工業所有権を侵害すること
になるかどうか予測のつかない段階でのことであると認められることから、この契
約は侵害品の排除を意図したというよりも、一般的に競合品を排除するためのもの
であつたことが明らかである。
前記供述人Bは、その後審判廷に参考人として出頭し、前記供述調書の内容につき
自己の供述したこととは相違する記載がなされている旨を申し述べるなどして、そ
の信憑性を否定するような発言をしている(第一八回審判速記録)が、同人が作成
したことに争いのない前記査第三〇号証の記載自体かなり理解し易い表現であり、
査第三一号証の供述調書は単にそれを説明したにすぎないもので作為の入る余地の
ないものであり、十分措信できる。
以上の理由によつて、結局、本件特約店契約は工業所有権侵害品の排除ではなく、
一般に同業他社の競合品の取扱いを禁止するものであることは明らかである。
(ロ) 前記のとおり、本件特約店契約の趣旨が単に工業所有権を侵害する侵害品
の排除にあるのではなく、一般に被審人と競争関係に立つ他社の製造する競合品の
取扱いを禁止することである以上、もつぱら侵害品の排除を前提とする工業所有権
防衛の行為であるとの主張は認められない。ひいては、工業所有権の防衛を理由と
して本件特約店契約が公正な競争を阻害するものではないとする主張及びそのよう
な行為に出ることについて正当な理由があるとの主張は、いずれも認めることがで
きない。
以上のとおりであるから、被審人の主張は採用できない。
ロ 本件特約店契約の及ぼす影響についての主張に対する判断
被審人は、この契約によつて現実の取引関係に特段の影響を及ぼしたわけではない
と主張するが、販売業者が事実として被審人の製品のみを販売しているということ
と、契約上の義務として被審人の製品のみしか販売できないということとは、自ら
異なるものである。前者はあくまで販売業者の自由な意思による選択の結果であ
り、後者は自由な意思の拘束の結果なのであるから、公正競争阻害性の観点からみ
たとき、その評価は質的に異ならざるを得ない。すなわち、仮に他の製造業者が優
れた競争製品を開発し、販売業者がこれを販売しようとするとき、前者であれば、
これを併売するかあるいはその製品の販売に切り換えることは、販売業者の自由で
あるのに対し、後者であればその自由が認められないのであるから、競争に与える
影響は重大であるといわざるを得ない。加えて、本件契約を締結した七九名のうち
二四名は、他の製造業者とも取引があつた販売業者であり、それらの者は本件特約
店契約締結後は、同契約に基づき他社製品の販売をやめる(査第一三号証、査第一
五号証ないし査第一八号証及び査第二〇号証)など直接その影響を受けており、ま
た、反対に、従来被審人と取り引きしていたにもかかわらず、本件特約店契約の締
結を拒んだため、被審人の製品を販売できなくなつた者もあり(査第一四号証の供
述記載)、本件特約店契約締結前と締結後とでは販売業者との取引関係に実際上変
動があつたことは明らかである。
以上のとおりであるから、被審人の主張は採用できない。
第四 法令の適用
前記事実によれば、被審人は東洋特約製品の販売に当たり、正当な理由がないの
に、特約店が自己の競争者から防音型精米機、混米機及び石抜撰穀機を購入しない
ことを条件として、当該特約店と取引しているものであり、これは、不公正な取引
方法(昭和二八年公正取引委員会告示第一一号)の七に該当し、また、正当な理由
がないのに、特約店とこれから東洋特約製品の供給を受ける者との取引を拘束する
条件をつけて、当該特約店と取引しているものであり、これは、前記不公正な取引
方法の八に該当し、いずれも、独占禁止法第一九条の規定に違反するものである。
よつて、被審人に対し、独占禁止法第五四条第一項の規定により主文のとおり審決
することが相当であると思料する。
昭和五六年三月五日
公正取引委員会事務局
審判官 I

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