弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、有罪部分を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     但し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
     押収にかかる腕時計九個(証第一号乃至第三号、第五号乃至第八号)
は、これを没収する。
     被告人から金二一三、三〇九円を追徴する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人松井昌次作成名義の控訴趣意書記載のとおり、事実誤
認の主張であるから、ここにこれを引用する。
 所論は要するに、原判決は被告人から金一、一一二、九八三円を追徴し、その理
由として、うち金九四四、九〇〇円については、被告人がAから同額の販売代金を
受領したが、これを没収することができないから、刑法第一九条第一項第三号第二
項第一九条の二により、その価額を追徴する旨説示しているところ、右代金は原判
示第一の如く、被告人がB外一名から、販売の委託を受けた密輸入時計の代金とし
て受領したものであるから、当然委託者に帰属し、被告人が犯罪行為によつて得た
ものではない。却つて被告人の受領当時以降、犯人以外の者に属するものである。
然らば右金銭は、本来没収し得ないものであり、従つてその価額は、追徴し得ない
ものであるのに拘らず、これを追徴した原判決は、これ等没収追徴の要件事実を誤
認したものとして、破棄を免れない、と言うのである。
 よつて先ず、所論委託販売代金が被告人の受領時において、被告人と委託者との
いずれに属するかを考察するに、記録を精査しても、本件委託販売が被告人の名を
以てなされたものか、或は委託者を代理してなされたものか、必ずしも明らかでな
い。およそ物品の委託販売が委託者を代理してなされた場合においては、その代金
は受託者が相手方から受領すると同時に、委託者に帰属すること当然であるが、受
託者の名を以てなされた場合においても、その代金を一旦受託者の所有に帰せしめ
ることは、むしろ例外に属し(商法第五五一条第五五二条第二項参照、民法第六四
六条第二項もこの解釈の妨げとならない)、特約又は特殊事情のない限り、その代
金は受託者の受領と同時に、当然委託者に帰属するものと解すべきものである(昭
二八、四、一六最高裁判決、集七巻九一五頁参照)。而して本件においては、委託
販売代金を被告人が受領すると同時に、一旦これを被告人の所有に帰せしめること
の特約も特殊事情も、これを認め得べき証拠がないから、その委託販売が被告人の
名を以てなされたと、委託者を代理してなされたとを問わず、被告人受領の代金
は、当然委託者に属す<要旨>るものと言わなければならない。よつて被告人の受領
時における本件委託販売代金が刑法第一九条の没収要件に該当するか否かを
検討するに、原判決挙示の証拠によれば、右代金は同条第一項第三号に所謂犯罪行
為によつて得た(占有取得)ものに該当し、而もその委託者B、Cの両名が被告人
の犯行の共犯者と目すべき者であるから、犯人以外の者に属しないものと言わなけ
ればならない。然らば被告人の受領直後における本件委託販売代金は、一応刑法第
一九条所定の没収要件に該当したものと言うべきであり、これと反対の見解に立つ
所論は、採用し得ないものである。併しながら、右代金は共犯者の所有に属するも
のであつても、起訴を受けない第三者所有の財産であるから、これを没収し、或は
その価額を追徴するについては、特に憲法第二九条第三一条に違背しないかを考慮
しなければならない。すなわち、第三者の財産は、共犯者の財産として、刑法第一
九条の没収要件に該当する場合においても、更に憲法第三一条に従い、当該第三者
に訴訟告知、聴問の機会を与えなければ、他人(例えば本件被告人)に科すべき附
加刑としても、これを没収し得ないものと解すべきである(昭三七、一一、二八。
同、一二、一二。同、一二、一九各最高裁大法廷判決参照)から、本件委託販売代
金を没収することが、憲法第二九条に違反すると否とを問わず、同法第三一条違反
として、許されないものと言わなければならない。而してその没収が違憲であると
きは、右没収に代る追徴もまた、権衡上違憲であるとの解釈が当然成立し得る(前
記最高裁判決参照)のであるから、本件委託販売代金の価額を追徴した原判決は、
追徴に関する法令の解釈適用を誤り、それが判決に影響を及ぼすこと明らかである
から、到底破棄を免れない。
 なお職権を以て調査するに、原判決は法令の適用として、押収にかかる腕時計一
〇個(証第一号乃至第八号)は、いずれも本件犯行にかかる貨物であるから、関税
法第一一八条第一項により、これを没収すべく、なお判示第一別表(1)(2)
(3)(4)(15)、第二の事実にかかる貨物(そのうち、右没収物を除く趣
旨)は、没収することができないから、同条第二項により、その価額を追徴する旨
説示し、その旨主文で宣言しているが、右没収及び追徴中、証第四号の腕時計一個
を没収し、且つ右別表(1)(2)(3)(4)(15)の犯行にかかる貨物の価
額を追徴する点は、違法である。すなわちこれ等貨物を対象とする犯行は、いずれ
も被告人が関税逋脱品である他人所有の腕時計を委託販売して、処分の媒介をした
ものであること、原判示のとおりであるから、その貨物は本来関税法第一一八条第
一項により、これを没収すべきものであるところ、記録によれば、前記証第四号の
腕時計一個は、原判決別表第一4の犯行にかかる貨物の一部であつて、現にその買
受人Dの所有に属していること及び同人は右貨物の没収追徴関係につき、訴訟告
知、聴問の機会を与えられていないことが明らかであるから、上来説示するところ
と同一理由により、手続上、本件被告人に対する附加刑として、右証第四号の腕時
計一個を没収することも、或はまたその価額を追徴することも、ともに許されない
ものと言わなければならない。次に叙上の押収物件以外の貨物(原判決別表第一1
2341517の犯行にかかるもの)については、その買受人であるE及びDにお
いて、被告人不知の間に、各自これを他に転売し、現にその所有者が不明である
か、或はこれが分明していても、右貨物が関税法上の犯則物件であることにつき、
善意者であるか、又は悪意者であつても、訴訟告知、聴問の機会を与えられていな
い等のため、法律上又は事実上、没収不能となつたものであることが、記録上明ら
かである。然らば関税法第一一八条第二項により、本件被告人から、その価額を追
徴しなければならないようでもあるが、これを仔細に検討すれば、右没収不能の原
因は、被告人の責に帰すべき事由に当らないばかりでなく、当該貨物に代るべき利
益を、いささかも被告人に遺していないから、それが形式上同項の要件に該当する
という一事を以て、その価額を追徴することは、憲法第二九条に違反し、許されな
いものと言わなければならない。従つて右関税法第一一八条第二項の規定を合憲的
に解釈するとすれば、本件の如き没収不能の原因が同項に所謂「犯人」の責に帰し
得ない事由に当り、且つ当該貨物に代るべき利益を「犯人」に遺さない場合におい
ては、むしろ同項の適用がないものと解すべきである。而してこの点については、
右「犯人」が当該貨物の所有者でない場合には、追徴を科すべきでないと解する見
解があり、当裁判所これに必ずしも左袒し得ないが、同項の適用を合憲的に制限し
ようとする右見解の趣旨は、これを理解し得るのである。
 これを要するに、原判決別表第一12341517の各犯行にかかる貨物中、押
収物件以外のものについては、関税法第一一八条第二項により、その価額を追徴す
ることが許されないばかりでなく、刑法第一九条の二の追徴要件にも当らないか
ら、同条によりこれを追徴することもできないものである。然るに原判決は敢えて
前記証第四号の押収品を没収し、且つ原判決別表第一12341517の各犯行に
かかる貨物中、没収品以外のものの価額を追徴しているのであつて、これは没収及
び追徴に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、原判決はこの点においても、
破棄を免れない。
 よつて本件控訴は、結局において理由があるから、刑事訴訟法第三九七条第一項
第三八〇条に則り、原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所
において更に判決をする。
 原審が証拠により、適法に認定した原判示罪となるべき事実を法律に照らせば、
被告人の原判示各所為は、いずれも関税法第一一二条第一項に該当するから、所定
刑中懲役刑を各選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七
条本文第一〇条に則り、犯情により、最も重いと認める原判決別表第一16の罪の
刑に、法定の加重をした刑期範囲内において、被告人を懲役一年に処し、更に同法
第二五条第一項を適用して、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予す
る。なお押収にかかる腕時計九個(証第一号乃至第三号、第五号乃至第八号)は、
原判示の如く、本件犯行にかかる貨物であり、而も本件記録によれば、その所有者
Dは、これが悪意の有償取得につき起訴され、第一、二審を経て、目下上告中であ
ることが明らかであるから、同人はこれ等貨物の没収追徴につき、すでに聴問を受
けているものであること、同人はその第一審において、右貨物に対する没収の言渡
を受けたが、目下その裁判は未確定であること、を各認定し得るから、関税法第一
一八条第一項により、本件被告人に対する附加刑として、右押収品を没収すべきで
あり、更に原判示第二(別表第二)の保管犯にかかる各貨物については、原判決挙
示の証拠によれば、右保管当時、被告人の所有物であつたが、その後被告人から他
人へと順次有償で譲渡され、押収にかかる腕時計二個(証第八号)の外、これを没
収することができない(没収不能の原因は、前叙の如く、現所有者の不明、善意取
得、悪意取得者に対する聴問の機会を与えていないこと等である)こと明らかであ
るから、同条第二項により、右押収品以外の貨物の犯行当時の価額合計金二一三、
三〇九円(原判決別表第二の鑑定価額すなわち、記録第二冊第四四丁以下の犯則物
件鑑定書(10)記載の「関税法第一一八条の追徴額」は、現品を見ないで調書等
を総合して推定による鑑定をしたのであるが、叙上の証拠上認め得る実際上の取引
価額は、右鑑定額よりも平均一割方以上、上廻つていることに鑑み、右鑑定額の一
割引として本件貨物の犯行時における価額を算出した)を追徴する(なお以上の没
収及び追徴の対象とならない貨物及び委託販売代金につき、没収も追徴もなし得な
いことは、原判決破棄の理由として、上来説示するとおりである)。
 以上の理由により、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山田義盛 判事 堀端弘士 判事 立沢秀三)

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