弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
上告代理人鈴木清二の上告理由について。
 原判決は、昭和三一年一二月一三日、上告人の妻であるDが、上告人において同
日株式会社L銀行本店から振出をうけた支払人同銀行本店、金額一〇〇〇万円、受
取人被上告銀行板橋支店(以下、板橋支店という。)なる記名式銀行小切手一通を
持参して本件第一回の無記名定期預金をしたものであることを認めながら、(1)E
と板橋支店との間には同年一〇月下旬から定期預金を担保とする手形割引の取引が
あつたこと、(2)Eは、同年一一月頃板橋支店次長Fに対し、近いうちに一〇〇〇
万円位の預金をする旨話していたこと、(3)Eは、同年一二月一三日Gに対し、同
日、一〇〇〇万円、期限三か月の定期預金をすることにしたので、事務員を赴かせ
る旨電話をし、自己の名刺に、一〇〇〇万円を事務員に持参させるからよろしく、
と記入して、Dに手渡し、同人を自己の事務員に仕立てて板橋支店に赴かせたこと、
(4)Dは、本件第一回の無記名定期預金の預入手続をする際、その事務を担当した
Gに対し、上告人の妻であることは告げず、Gが「Eさんの使いの方ですね」と念
を押したところ、「はい」と答えて、前記小切手をGに交付し、所定の印鑑票に「
E之印」と刻した印鑑を押捺し、預金契約に必要な手続をしていること、(5)Gは、
終始、DをEの使者として遇し、金額一〇〇〇万円の無記名定期預金証書を作成し
てDに交付する際に、「Eによろしく」と挨拶したにもかかわらず、Dは何ら異議
を述べなかつたこと、(6)同日夕刻、Eは、右無記名定期預金証書および印鑑を持
参のうえ、板橋支店に赴き、Gに対し、無記名定期預金をしたからよろしく、と挨
拶したこと等の事実を認定し、右事実からすれば、Eが本件第一回の無記名定期預
金契約の預金者は自己である旨の意思表示をし、被上告銀行においてこれを承諾し
たものというべきであるとし、さらに、原判決は、(7)上告人は、昭和三一年一一
月下旬、貸金業とその仲介を目的とする株式会社H相談所(以下、Hという。)の
設立者Iから、Hに対する一〇〇〇万円の融資の依頼をうけたが、その際もIから
上告人において銀行に対し一〇〇〇万円の定期預金をし、これを見返りとしてHが
銀行から手形割引をうければ、上告人としては、銀行利息とHからの利息をうけら
れる旨提案されたこと、(8)そこで、上告人は、同年一二月一〇日板橋支店長Jに
対し、上告人が一〇〇〇万円の定期預金をすればこれを見合いにHに対する手形割
引が可能かどうかを尋ねたところ、同人から、上告人が定期預金をしたのではHの
手形割引をすることはできないが、HはEの名前で板橋支店と取引があるから、E
の定期預金として預け入れるのであれば手形割引が可能である旨の説明をうけてい
たこと、(9)上告人は、Dが本件第一回の無記名定期預金の預入手続をするにつき、
同人がEの事務員として板橋支店に赴くことを承諾していたこと、(10)本件第一
回無記名定期預金がされた後、上告人はHから利息の支払をうけていたこと等の事
実を認定したうえ、上告人は、Hの金融の便宜のため、Eの預金として本件第一回
の無記名定期預金をすることを承諾していたものと認めるべきであるとし、これを
前提に、本件第一回および第二回の預替によつて各成立したK工業株式会社名義の
記名式定期預金一口の預金者は同社であり、また、その他の三口の無記名定期預金
の預金者はEであると判断している。
 ところで、無記名定期預金契約において、当該預金の出捐者が、自ら預入行為を
した場合はもとより、他の者に金銭を交付し無記名定期預金をすることを依頼し、
この者が預入行為をした場合であつても、預入行為者が右金銭を横領し自己の預金
とする意図で無記名定期預金をしたなどの特段の事情の認められないかぎり、出捐
者をもつて無記名定期預金の預金者と解すべきであることは、当裁判所の確定した
判例であり(昭和二九年(オ)第四八五号同三二年一二月一九日第一小法廷判決・
民集一一巻一三号二二七八頁、昭和三一年(オ)第三七号同三五年三月八日第三小
法廷判決・裁判集民事四〇号一七七頁)、いまこれを変更する要はない。けだし、
無記名定期預金契約が締結されたにすぎない段階においては、銀行は預金者が何人
であるかにつき格別利害関係を有するものではないから、出捐者の利益保護の観点
から、右のような特段の事情のないかぎり、出捐者を預金者と認めるのが相当であ
り、銀行が、無記名定期預金債権に担保の設定をうけ、または、右債権を受働債権
として相殺をする予定のもとに、新たに貸付をする場合においては、預金者を定め、
その者に対し貸付をし、これによつて生じた貸金債権を自働債権として無記名定期
預金債務と相殺がされるに至つたとき等は、実質的には、無記名定期預金の期限前
払戻と同視することができるから、銀行は、銀行が預金者と定めた者(以下、表見
預金者という。)が真実の預金者と異なるとしても、銀行として尽くすべき相当な
注意を用いた以上、民法四七八条の類推適用、あるいは、無記名定期預金契約上存
する免責規定によつて、表見預金者に対する賃金債権と無記名定期預金債務との相
殺等をもつて真実の預金者に対抗しうるものと解するのが相当であり、かく解する
ことによつて、真実の預金者と銀行との利害の調整がはかられうるからである。
 叙上の見地に立つて本件をみるに、原判決の認定した前記(1)ないし(6)の事実
は、Eが本件第一回の無記名定期預金につき預金者は自己であるかのような行動を
とつたことを示すものではあるが、いまだこれらの事実をもつて、Eが、本件第一
回の無記名定期預金をする際、上告人の出捐した一〇〇〇万円を横領し、自己の預
金とする意思を有していたなど前記特段の事情があるとまではいえない。また、原
判決は、前記(7)ないし(10)の事実から、上告人はEに対しEの預金として本件
第一回の無記名定期預金をすることを承諾した旨判示している。しかしながら、右
各(7)ないし(10)の事実からは、上告人はEに対し名義上のみ預金者をEとする
ことを承諾していたものとみることができないわけではなく、かりに、真実預金者
をEとすることの承諾がされたと認めるためには、上告人がEに対し一〇〇〇万円
の返還を求めうることが前提とならなければならないから、原審としては、上告人
とEとの間に一〇〇〇万円の返還の合意がいかなる法律関係のもとにされたか、さ
らに、上告人とHとの間にいかなる法律関係があつたかを審理判断すべきものであ
る。そして、上告人を本件第一回の無記名定期預金ならびにこれを前提とする本件
第一回および第二回の預替によつて成立した各定期預金の真実の預金者と認めるべ
きであるとすれば、さらに、被上告銀行の抗弁について審理判断すべきものであり、
被上告銀行の相殺の抗弁については、板橋支店が、右各定期預金を担保とし、もし
くは、この各定期預金債権を受働債権として相殺することを予定して、EまたはK
工業株式会社との間に手形割引等の銀行取引をするにあたり、板橋支店が銀行とし
て尽くすべき相当の注意を用いてEまたはK工業株式会社を預金者と確定したかど
うか、すなわち、板橋支店が、前記(6)のようにEから定期預金証書の呈示をうけ
ながら、その後の取引をするにあたり、何ゆえに定期預金証書の占有取得の方法を
とらなかつたかなどの点について審理し、右抗弁の成否につき判断すべきものであ
る。
 しかるに、原判決は、右の諸点について何ら審理判断することなく、本件第一回
の無記名定期預金ならびに本件第一回および第二回の預替によつて成立した各定期
預金の預金者は上告人とは認められないと判断し、結局、上告人の主位的請求およ
び予備的請求を排斥したものである。それゆえ、原判決には、叙上の諸点について
審理不尽、理由不備の違法があるというべきである。論旨は理由があり、原判決は
破棄を免れない。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
 裁判官下村三郎は退官につき評議に関与しない。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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