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平成26年1月29日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成25年(ネ)第10055号損害賠償請求控訴事件
原審・東京地方裁判所平成20年(ワ)第38602号
口頭弁論終結日平成25年12月5日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間
を30日と定める。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,10億円及びこれに対する平成21年1月1
6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本判決の略称は,原判決に従う。
1本件は,発明の名称を「無線アクセス通信システムおよび呼トラヒックの
伝送方法」とする特許権を有する控訴人が,移動電話通信サービスの提供を行う被
控訴人に対し,被控訴人の通信システムは控訴人の特許発明の技術的範囲に属する
と主張して,民法709条,特許法102条3項に基づき,損害賠償として10億
円及びこれに対する平成21年1月16日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,本件補正は,本件当初明細書等の全ての記載を総合することにより
導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである
とは認められないから,旧特許法41条所定の「明細書又は図面に記載した事項の
範囲内」においてするものということはできず,要旨変更に該当し,旧特許法40
条により本件出願は本件補正書が提出された平成8年7月31日にされたものとみ
なされるとした上で,本件発明1は,本件特許の対応米国特許である乙6文献の特
許請求の範囲の請求項6に記載された発明と同一であり,本件発明2は,同請求項
6に記載された発明及び同請求項21に記載された発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものというべきであるのみならず,本件発明はいわゆるサ
ポート要件及び実施可能要件を充足しないから,本件発明に係る特許はいずれも特
許無効審判により無効にされるべきものと認められ,特許法104条の3第1項に
より,控訴人は被控訴人に対し本件特許権を行使することができないと判断して,
控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。
2前提事実
原判決12頁19行目の次に,改行して次のとおり加えるほかは,原判決の
「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
「本件特許に係る審決取消訴訟
被控訴人は,平成22年12月2日,本件発明にかかる特許について,特許無
効審判を請求した。
特許庁は,平成23年7月27日,「特許第2588498号の請求項6及び請
求項11に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決をしたため,控訴人
は,同審決の取消しを求める審決取消訴訟(平成23年(行ケ)第10401号)
を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成25年1月17日,控訴人の請求を棄却する旨の
判決(以下「審決取消訴訟判決」という。)をした(乙69)。」
3争点
原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用す
る。
第3争点に関する当事者の主張
争点(本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとみ
とめられるか)の「ア無効理由1(要旨変更による出願日繰下げを前提とする新
規性・進歩性の欠如)」について,次のとおり当審における当事者の主張を付加す
るほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを
引用する。
1当審における控訴人の主張
構成要件F2の「出口」「入口」の意義について
ア原判決は,本件発明の要旨認定において,「交換システム」「送信」「受信」
という文言以外については,当業者の理解や技術常識,構成要件の文脈を一切考慮
していない。しかし,特許請求の範囲や明細書・図面が当業者に向けられたもので
あることからすれば,発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明や図面
に記載された発明の技術内容を理解した上で,当該技術分野の技術常識に照らし,
出願当時の当業者が特許請求の範囲の記載をどのように理解するかを考慮すること
が当然の前提となる。
イ「送信」という動作は,機械においてプロセッサ等の頭脳による一定の制
御を要する。当業者は,「交換システム」が「送信」の主体として記載されている
場合,交換システムが内部のソフトウェア・ハードウェアの処理によって「送信」
を行うものであると理解しても,「交換システムの出口」のような,頭脳を有しな
い,出線の一点が送信の具体的な主体であるとは考えない。
したがって,当業者は,「交換システムが送信する」「交換システムから送信さ
れる」「交換システムで受信」との文言について,「交換システムの出口(外部との
境界点)から送信する」「交換システムの入口(外部との境界点)で受信」するこ
とを意味すると第一義的に理解することはあり得ない。
ウ「受信」という用語は,「どこで」受信するかについて,それ自体,何ら限
定していないから,その点を厳密に特定するためには,前後の文脈,文の背景ない
し前提又は用いた者の真意等を確認する必要があるところ,通常は,情報を少なく
とも情報として認識した時点から「受信」したと評価されるのであって,受信側の
「入口」(外部との境界点)を情報が通過したことだけをもって「受信」したとい
うことはない。
携帯電話で音声データを「受信」したという場合,携帯電話のアンテナは外部
から来る無数の信号を捉えているが,それらの信号の中から復調可能なデータが受
信された場合に限り,当該携帯電話で「受信」されたというのが通常である。
しかも,構成要件F2は,「交換システムから送信される時刻の前の所定のウィ
ンドウ時間内に…受信」と明確に規定しており,当業者が「受信」の厳密な意味を
理解しようとする場合,受信が望まれる「所定のウィンドウ時間」がいかなるもの
かについての検討が不可避となる。
したがって,「交換システムで受信」という文言に接した当業者が,「交換シス
テムの入口」が受信場所になるなどと第一義的に理解することはあり得ない。
エ構成要件F2の課題は,「不規則な受信と規則的な送信」が伴う場所におい
て存在するから,当業者は,トラヒックが「決定論的」に送られるボコーダ以降の
場所,特に交換システムの「出口」のような,全く本件発明の課題が生じ得ないよ
うな場所での制御を構成要件F2が規定するものではないことを自然に理解するも
のである。
また,バッファは,常に交換システムの内部に設置されるものである。
さらに,「個々の呼のトラヒック」についてされる送信時刻の制御は,「複数の呼
のトラヒック」が既に多重化されている交換システムの出口では行うことができな
いし,エコー・キャンセラーの後の「出口」においてトラヒックの送信時刻制御を
行うこともできないから,当業者が本件発明の特許請求の範囲の記載に接した場合,
構成要件F2が規定する制御が「出口」における制御を含むと理解するとは考え難
い。
以上のとおり,当業者の理解や技術常識を考慮すれば,構成要件F2について,
交換システムの「出口」「入口」などという要旨認定が成り立つ余地はない。
オ原判決は,構成要件F2の制御はマルチプレクサの前に行う必要があると
の控訴人の主張について,交換システムが必ずマルチプレクサを備えるものである
ことは特許請求の範囲に記載されておらず,マルチプレクサが必要な場合も,交換
システムの出口から送信する時刻を制御することがおよそ不可能であるという前提
が正しいと認めるに足りる的確な証拠もなく,内部における送信時刻の制御しかあ
り得ないということには結びつかないとする。
しかしながら,当業者の技術常識を特許請求の範囲に記載する必要はない。ま
た,原判決は,マルチプレクサを有しない交換システムがあり得ると想定している
ようであるが,本件発明の出願当時の技術水準において,全く多重化を行わない非
効率な交換システムを実際の通信システムに用いるなどということはあり得ない。
したがって,原判決の認定は誤りである。
原判決特有の理由部分について
ア原判決は,審決取消訴訟判決とは異なり,構成要件F2が構成要件Cの
「交換システム」を受けており,「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成
要件Bの「通信リンク」と同列に扱われていることも理由とする。
しかしながら,「同列」であることが原判決における結論の理由となることにつ
いて,原判決は具体的に明らかにしていない。また,構成要件F2が構成要件Cの
「交換システム」を受けているという点も,原判決の「入口」「出口」に関する解
釈を正当化する理由とはならない。
イ原判決は,当業者の観点からすれば,本件構成は,第一義的には交換シス
テムの出入口における送受信の制御を意味するものと解されるとしても,交換シス
テムの内部における送受信の制御という動作をも含んでいると解するのが相当であ
るとする。
しかしながら,構成要件F2において,原判決のような「出口」「入口」におけ
る制御を前提とする解釈を採用した場合,本件発明の目的を達成できない以上,
「出口」「入口」における制御を前提とする解釈と,「内部手段」における制御とい
う解釈は併存し得ず,両方の解釈があり得ると考えた当業者は,いずれが合理的な
解釈であるかについて,本件当初明細書等を参酌して確定しなければならない。
「出口」「入口」における制御という解釈を先に確定した後に,これと両立し得な
い「内部手段」における制御という解釈がさらに含まれるかという点についてのみ,
一義的明確性を検討し,本件当初明細書等を参酌する原判決の判断手法は,当業者
が採用しない不合理な解釈である。
予備的主張について
控訴人は,予備的主張として,仮に構成要件F2における制御対象が「交換シス
テムの出口から送信する時刻」であるとしても,パケットが所定のウィンドウ時間
内に交換システムで受信されるように,PCMサンプルを当該交換システムの出口
から送信する時刻を制御する構成は,プロセッサ602が送信時刻を制御する構成
の記載により,本件当初明細書等に開示されていると主張した。
原判決は,控訴人の上記予備的主張について,ボコーダ以降における着信先への
「送信」の時刻の変化が「125μ秒毎」に「一定」という枠を外れて送信タイミ
ングを合目的的に任意に変更できるものではないとして,これを排斥している。
しかしながら,所定のウィンドウ時間内にパケットが受信されることを実現す
るために,「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」ことも,「合目
的的な制御」ということができる。
また,構成要件F2は,送信時刻を任意の単位で制御することを要求していな
いから,125μ秒毎に一定という枠内で送信タイミングを変更することも,構成
要件F2の「制御」に該当する。
したがって,原判決の認定は誤りである。
原判決が認定するとおり,当業者が構成要件F2について,交換システム
の「内部手段」からの送受信を規定していると解釈することがあり得る以上,本件
明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載を理解し,当業者の理解や技術常識を考
慮の上,構成要件F2について正しい要旨認定を行えば,構成要件F2において,
交換システムの「内部手段」が「送信」「受信」の主体であると解されることは明
らかである。
仮に,構成要件F2について,交換システムの「入口」「出口」からの送受信を
規定しているとの要旨認定がされたとしても,控訴人の予備的主張には理由がある。
したがって,「所定のウィンドウ時間内に交換システムの内部手段で受信」し,
「交換システムの内部手段が送信する時刻を制御する」構成は本件当初明細書等に
記載されているということができるから,本件補正が要旨の変更に該当するもので
はなく,本件出願の出願日は本件補正書が提出された日に繰り下がるということは
ないから,本件発明に係る特許はいずれも特許無効審判により無効にされるべきも
のと認めることはできない。
よって,原判決の判断は誤りであって,本件特許権の侵害に基づく損害賠償を
求める控訴人の請求は認容されるべきである。
2当審における控訴人の主張に対する被控訴人の主張
構成要件F2の「出口」「入口」の意義について
ア構成要件F2における「交換システムから送信」「交換システムで受信」が,
それぞれ「交換システムの出口から外への送信」「交換システムの入口での外から
の受信」を意味することは,特許請求の範囲の記載から一義的に把握可能である。
控訴人の主張は,特許請求の範囲の記載を越えて,本件明細書等の発明の詳細
な説明や図面だけに記載された構成要素を付加して発明の要旨を認定するものであ
るのみならず,特許請求の範囲の記載とも矛盾するから,誤りである。
イ構成要件F2における「交換システムから送信される時刻」「交換システム
が送信する時刻」は,制御の対象として記載されている。「交換システム」「交換シ
ステムから送信される」等の文言は,制御の対象となる「時刻」を修飾しているに
すぎず,制御の主体は,構成要件Fの冒頭の「当該第2の手段」である。送信のタ
イミングの決定等を行う「頭脳」が,当該決定に従った制御の行われる出口にある
必要がないことは文言上明らかであるし,当業者がそのようなシステムを構築する
ことに何らの支障もないから,控訴人の主張は誤りである。
ウ構成要件F2は,「交換システムで受信」と定めるものであって,「受信」と
いう用語の意味内容が問題となるわけではない。
また,「所定のウィンドウ時間」は,「交換システムから送信される時刻」に基
づいて,これよりも時間的に「前」に設けられるべき時間的な基準(比較対象)で
しかなく,場所的な限定を伴うものではないから,「所定のウィンドウ時間」から
「受信の場所」を限定することはできない。控訴人の主張は誤りである。
エ控訴人は,構成要件F2の課題は「不規則な受信と規則的な送信」が伴う
場所において存在するなどと主張するが,当該主張は,本件明細書等の実施例にの
み開示されているボコーダ604に基づく解釈であって,失当である。交換システ
ムを構成する膨大な部品ないし回路の中から,特許請求の範囲に記載されていない
回路にすぎないボコーダを特定し,当該回路に基づく解釈を当業者に強いるのは,
特許請求の範囲の公示機能を無視するものである。バッファについても,構成要件
F2における「交換システムからの送信」において,バッファの存在は要件とされ
ていない。エコー・キャンセラーやマルチプレクサについても同様である。
原判決特有の理由部分について
控訴人は,原判決は「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成要件Bの
「通信リンク」と同列に扱われていることも理由とするが,「同列」の具体的意味
を明らかにしていないなどと主張する。
しかしながら,原判決は,交換システムが一定の形状や構造を有する実体を有
することにおいて,構成要件Aのセルや構成要件Bの通信リンクと同列に扱われて
いると判示しているのであって,「同列」の具体的な意味は明らかである。
また,控訴人は,構成要件F2において,原判決のような「出口」「入口」とい
う解釈を採用した場合,本件発明の目的を達成できない以上,「出口」「入口」とい
う解釈と,「内部手段」という解釈は併存し得ず,両方の解釈があり得ると考えた
当業者は,いずれが合理的な解釈かについて,本件当初明細書等を参酌することに
より確定しなければならないなどと主張するが,「交換システムから送信」等の文
言を「交換システムの内部機器から他の内部機器への送信」を規定すると解釈する
ことが許されない以上,控訴人の上記主張はその前提自体を欠くというべきである。
予備的主張について
控訴人は,予備的主張として,主位的主張におけるいわゆる直接的制御とは異な
り,いわば間接的制御が本件当初明細書等に開示されていると主張する。
しかしながら,控訴人が主張する「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻
を制御する」とは,ボコーダより前に行われた送信時刻の制御に伴う結果として送
信タイミングが変更されることを意味するにすぎず,当該変更によって実現しよう
とする目的を伴わないものであって,目的を達成するための操作とはいえないから,
「制御」に該当するものではない。
また,控訴人の予備的主張は,ボコーダ以降の回路において,入トラヒックの
処理に要する時間が常に一定であり,入トラヒックの送信時刻を変化させる事象が
生じないことを当然の前提とするものであるが,本件当初明細書等及び本件明細書
等には,控訴人が主張するような,トラヒックのボコーダへの送信時刻が遅らされ
た場合,当該トラヒックのボコーダ又はそれ以降の回路等からの送信時刻も自ずと
同じだけ遅れることについての記載は一切存在しないから,控訴人の当該主張は,
その前提自体を欠くものである。
以上のとおり,本件補正が要旨の変更に該当するとした原判決に誤りはな
い。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却すべきものと判断
する。その理由は,原判決85頁6行目冒頭から86頁末行まで,及び99頁12
行目の「交換システムの出入口における」から同頁14行目の「解されるものの」
までを削除し,次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか
は,原判決の「事実及び理由」の第4の1ないし4のとおりであるから,これを引
用する。
2当審における控訴人の主張に対する判断
構成要件F2の「出口」「入口」の意義について
ア控訴人は,発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明や図面に
記載された発明の技術内容を理解した上で,当該技術分野の技術常識に照らし,出
願当時の当業者が特許請求の範囲の記載をどのように理解するかを考慮することが
当然の前提となるところ,当業者は,「交換システム」が「送信」の主体として記
載されている場合,「交換システムの出口」のような頭脳を有しない,出線の一点
が送信の具体的な主体であるとは考えないから,「交換システムが送信する」「交換
システムから送信される」「交換システムで受信」との文言について,「交換システ
ムの出口(外部との境界点)から送信する」「交換システムの入口(外部との境界
点)で受信」することを意味すると,当業者が第一義的に理解することはあり得な
いし,「受信」についても,当業者が「受信」の厳密な意味を理解しようとする場
合,受信が望まれる「所定のウィンドウ時間」がいかなるものかについての検討が
不可避となるから,「交換システムで受信」という文言に接した当業者が,「交換シ
ステムの入口」が受信場所になるなどと第一義的に理解することはあり得ないなど
と主張する。
しかしながら,引用にかかる原判決第4の1アないしオのとおり,本件発明
の特許請求の範囲の記載の「交換システム」という文言は,これらの機能を担う手
段が一定の形状や構造を有する実体を伴う意義を有すること,本件発明における
「送信」及び「受信」という文言も,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」とい
う意義を当然に含んでいるということができることなどからすると,「交換システ
ム」による「送信」及び「受信」とは,「交換システム」の内部手段と区別された
外への出口及び外からの入口において行われることを示すことは明らかであって,
本件特許の出願人が,「送信」及び「受信」の主体を,あえて「交換システム」で
あるとした以上,上記解釈が技術常識を無視したものということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,当業者はトラヒックが「決定論的」に送られるボコーダ以降の
場所のような,全く本件発明の課題が生じ得ないような場所での制御を構成要件F
2が規定するものではないことを自然に理解すること,バッファは常に交換システ
ムの内部に設置されるものであること,「個々の呼のトラヒック」についてされる
送信時刻の制御は,「複数の呼のトラヒック」が既に多重化されている交換システ
ムの出口では行うことができないし,エコー・キャンセラーの後の「出口」におい
ても同様に制御を行うことはできないことから,当業者は構成要件F2が規定する
制御が「出口」における制御を含むと理解するとは考え難いなどと主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,本件発明の特許請求の範囲の記載が,送
信時刻について,交換システムのいずれの部分における送信時刻であるかについて
限定していないことを前提とするものであるが,本件発明では,「交換システム」
が備える「第2の手段」において,入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システ
ムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの
入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を
制御するものであると認められること,本件発明の特許請求の範囲の記載において,
バッファ,エコー・キャンセラー及びマルチプレクサが必須の構成であるとはされ
ていないことからすると,控訴人の主張はその前提を欠き理由がないというべきで
ある。
原判決特有の理由部分について
ア控訴人は,原判決は構成要件F2が構成要件Cの「交換システム」を受け
ており,「交換システム」が構成要件Aの「セル」や構成要件Bの「通信リンク」
と同列に扱われていることも理由とするが,「同列」であることが原判決における
結論の理由となることについて明らかにしていないなどと主張する。
しかしながら,引用にかかる原判決第4の1エは,本件発明の「無線電話通
信システム」が備える「複数のセル」「複数の通信リンク」「交換システム」につい
て,特許請求の範囲の記載では,いずれも内部機器等の具体的構成を限定するもの
ではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていること
を説示するものであることは,その文脈上,明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
イ控訴人は,原判決第4の1カについて,「出口」「入口」における制御と
いう解釈を先に確定した後に,これと両立し得ない「内部手段」における制御とい
う解釈がさらに含まれるかという点についてのみ,一義的明確性を検討し,本件当
初明細書等を参酌する原判決の判断手法は,当業者が採用しない不合理な解釈であ
るなどと主張する。
しかしながら,原判決第4の1カについて触れるまでもなく,本件発明の
「交換システム」による「送信」及び「受信」が,「交換システム」の内部手段と
区別された外への出口及び外からの入口において行われることを示すことは,引用
にかかる原判決第4の1アないしオのとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
予備的主張について
控訴人は,パケットが所定のウィンドウ時間内に交換システムで受信されるよ
うに,PCMサンプルを当該交換システムの出口から送信する時刻を制御する構成
は,プロセッサ602が送信時刻を制御する構成の記載により,本件当初明細書等
に開示されているし,所定のウィンドウ時間内にパケットが受信されることを実現
するために,「125μ秒毎に一定という枠内で送信時刻を制御する」ことも,「合
目的的な制御」ということができるから,控訴人の間接的制御に係る原判決の判断
は誤りであるなどと主張する。
しかしながら,本件当初明細書等におけるプロセッサからボコーダに送信される
時刻に関する制御は,当該制御の後において,プロセッサから交換システムの出口
までの間に多数の処理回路が存在しており,プロセッサからボコーダに送信される
時刻から,交換システムの出口までの時間が一定である旨の記載は存在しないから,
交換システムの出口から送信する時刻を制御するものとはいえず,交換システムの
内部手段から他の内部手段への送信に係るものというべきである。
そうすると,交換システムから着信先への送信に係る時刻の変化は,プロセッサ
からボコーダに送信される時刻を制御することによって生じた変化に対応するもの
ではないから,「交換システム」の「出口」における時刻の変化は,プロセッサに
おける制御の結果ではないし,当該時刻の変化が生じることをもって,間接的に制
御されているということもできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
以上のとおり,本件補正が要旨の変更に該当するとした原判決に誤りはな
い。
したがって,本件補正が要旨の変更には該当しないことを前提として,本件発
明に係る特許がいずれも特許無効審判により無効にされるべきものと認めることは
できないとの控訴人の主張は,その前提自体を欠くというべきである。
3結論
よって,控訴人の本訴請求は理由がなく,原判決は相当であって,本件控訴は
理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官田中芳樹
裁判官荒井章光
(別紙)
当事者目録
控訴人ハイポイントエスアーエールエル
訴訟代理人弁護士片山英二
同服部誠
同岡本尚美
訴訟復代理人弁護士黒田薫
訴訟代理人弁理士小林純子
同黒川恵
補佐人弁理士相田義明
被控訴人KDDI株式会社
訴訟代理人弁護士居幸一
同渡辺光
補佐人弁理士那須威夫
同谷口信行
同工藤嘉晃
被控訴人補助参加人株式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士城山康文
同﨑地康文
被控訴人補助参加人モトローラソリューションズ
インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士窪田英一郎
同柿内瑞絵
同乾裕介
同今井優仁
同野口洋高
同中岡起代子
同熊谷郁
補佐人弁理士矢作隆行
以上

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