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裁判例


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○ 主文
一 控訴人ら(附帯被控訴人ら)の本件控訴を棄却する。
二 ただし、原判決を変更し(原判決主文第二項1の部分は、附帯控訴に基づき変
更する。)、控訴人ら(附帯被控訴人ら)の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、第二審とも、控訴人ら(附帯被控訴人ら)の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の申立
一 控訴人ら(附帯被控訴人ら。以下控訴人らという。)は、当審において、請求
の趣旨を一部訂正し、従来の第一次請求(売払期日を昭和三五年三月三一日とし、
売払いの対価を買収対価を相当する価格で売払いを求める請求)を請求せず、ま
た、別紙土地目録第一四記載の土地中、稲沢市<以下略>田二九平方メートルにつ
いての訴を取り下げた上、「原判決を変更し、一次的に、被控訴人(附帯控訴人。
以下被控訴人という。)は、別紙土地目録第一ないし第一九記載の控訴人ら及び選
定者らに対し、それぞれ控訴人ら及び選定者らの名の記載された土地につき、各個
別に、同目録記載の買収対価に相当する価格で売り払え。二次的に、被控訂人は、
同目録記載の控訴人ら及び選定者らに対し、それぞれ控訴人ら及び選定者らの記載
された土地につき、各個別に、一平方メートル当り、田については金五九円八八銭
四厘、畑については金二三円八七銭の割合による価格で売り払え。被控訴人の附帯
控訴を棄却する。訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。」との
判決を求めた。
二 被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。附帯控訴として、原判決中、被控訴
人敗訴部分を取り消す。控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、第二審と
も、控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者双方の事実上、法律上の主張、証拠の援用・提出・認否については、
左記のほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(ただ
し、原判決六枚目表九行目「第三号」とあるのは「第二号」の誤記と認めて訂正す
る。なお、控訴人らは、別紙土地目録第三の土地中、アカタ三、三〇九の土地の地
目を畑と主張しているが、田の誤りと認める。)。
一 控訴人らは、つぎのとおり述べた。
控訴人Aは、昭和五〇年三月二日死亡し、その妻B、長男Cが遺産相続し、本件売
払請求権を承継取得し、かつ本訴の選定者となつた。本件土地については、稲沢土
地区画整理事業の仮換地指定を受け、その事業の工事がほぼ完成した昭和三五年三
月に、しからずとするも、昭和四五年一一月二四日本件土地が市街化区域内の土地
と指定されたので、右同日ないしはおそくとも、農地法施行令第一六条の改止がな
された昭和四六年二月一三日に、控訴人らは売払請求権を取得し、かつまた、当事
者間に売払契約が成立し、これにより、被控訴人は本件土地の売払義務を負うに至
り、その売払手続をしなければならない。そして、農地法八〇条による売払いは、
私法上の行為であり、これは民法上の買戻条件付土地売買による買戻と同一の性質
を有するものであつて、同条所定の該当地となつた時点に、控訴人らの売払申込の
有無に関係なく、同条所定の価格で売払義務が発生するのである。本件土地の買収
対価は、別紙土地目録記載のとおりである。よつて、控訴人らは、本訴において、
同目録記載の買収対価に相当する価格による売払いを、また、これが容れられなけ
れば、農地の法定最高小作料に一一を剰じて算出した一平方メートル当り田につい
ては金五九円八八銭四厘、畑については金二三円八七銭の割合による価格での売払
いを求めるものであり、国有農地等の売払いに関する特別措置法(以下特別措置法
という。)二条による代金での売払いを求めるものではない。被控訴人は、本件土
地の売払いは、右特別措置法所定の価格によるべきであると主張するが、同法律は
事後立法であり、また、憲法二九条、一四条に違反する。ゆえに、控訴人らに、そ
の主張どおりの価格による売払いを請求することができる。
なお、被控訴人は、附帯控訴により、原判決中、本件土地の売払い手続認容部分の
取消を求めているが、本件土地は、農地法八〇条一項にいう不要地認定がなされて
おり、同条二項により売払いをなすべきものであることは、明らかであるから、右
取消を求める附帯控訴は理由がない。
二 被控訴代理人は、つぎのとおり述べた。
控訴人Aの死亡、相続関係、本件土地の買収対価が控訴人ら主張のとおりであるこ
と及び本件土地が控訴人ら主張の年月日に市街化区域に指定されたことは、いずれ
も認めるが、控訴人ら主張の見解は争う。本件土地の売払手続は、まず土地の評価
を行ない、これに基づき、売払価格を決定し、これを記載した売払通知書を交付す
ることによつてなされるが、右売払価格は、国有農地等の売払いに関する特別措置
法施行令(以下特別措置法施行令という。)に定められた価格によるべきものであ
る。しかして、控訴人らは、売払価格は買収対価に相当する価格ないしは一平方メ
ートル当り田について金五九円八八銭四厘、畑について金二三円八七銭とすべきで
あるとし、本訴において、右価格による売払いを求めるものであり、右特別措置法
施行令による価格によつては売払いを求めず、売払いの申込をしないと主張してい
るのであるから、特別措置法が適用される本件では、控訴人らの請求は棄却される
べきである。しかして、売払いを命じた原判決が確認すると、本件土地の売払契約
が成立することになるが、右のとおり、控訴人らの請求は棄却されるべきであるか
ら、被控訴人は、控訴人らの請求の一部を認容した部分につき、附帯控訴し、右認
容部分の棄却を求める。
○ 理由
控訴人らは、原審において、一次的請求として、土地区画整理事業のほぼ完成した
昭和三五年三月三一日を売払期日とする買収対価に相当する価格による売払いを、
二次的請求として買収対価に相当する価格による売払いを、三次的請求として買収
土地の法定小作料に一一を剰じて算出した価格による売払いをそれぞれ求めたが、
一次、二次請求を却下され、三次請求につき対価の点を除き売払いを求める部分が
認容されて、その余の対価の部分が棄却され、当審において、右一次請求なせず、
二次、三次請求を維持している。ところで、買収農地につき、改正前の農地法八〇
条所定の買収農地を自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が客観
的に生じれば、旧所有者は、右規定によつて、売払請求権を取得するのであり、た
だ、その売払価格は特別措置法、同法施行令の適用の対象になる場合は右法令によ
り、また、ならない場合は改正前の農地法八〇条二項の規定により、買収対価相当
額が定まるのであり、そのいずれが適用されるかにより、自ら決定されるのである
から、売払請求権は本来一個であり、売払価格の算定の根拠を異にすることによ
り、その個数が複数となるものではない。したがつて、控訴人らの請求である本件
売払手続、すなわち、国に対する売払いについての承諾を求める請求権もまた本来
一個である。控訴人らが原審において、これを一次ないし三次請求とし、当審にお
いて、右二次、三次請求を維持していても請求原因は同一であり、単に売払価格を
二段階に構成した上、申立を二個としただけであつて、訴訟上の請求は一個であ
り、数個あるものではないから、これらを合わせて一個の請求として審理判決すべ
きである。ゆえに、原判決が一次、二次請求を却下し、三次請求の本案につき判断
しているが、それは申立について判断したに止まり、結局一個の売払請求につき判
断しているものと理解すべきであるから、以下この見地に立つて判断する。
被控訴人は、本訴請求は控訴人らが訴訟外で買受申込をすることについて、何ら法
律上の障害がないから、訴の利益を欠き、不適法であると主張する。この点につい
ての当裁判所の判断は、原審と同様被控訴人の主張は理由がないとするものであつ
て、その理由は原判決理由中に説示するところ(原判決一五枚目裏六行目から一六
枚目表四行目までと同一であるから、ここにこれを引用する。
よつて、控訴人らの本件売払請求の当否について判断する。なお、原判決は、控訴
人らの一次ないし三次請求中、一次、二次請求を却下し、三次請求につき本案判決
をしているが、前述のとおり、右は一個の請求と見るべきところ、原判決は三次請
求につき本案に立ち入つて判断しているから、当審においても、本訴請求の本案に
ついて判断し得るものである。
本件土地が控訴人ら主張の所有者らの各所有に属していたところ、被控訴人が昭和
二二年一〇月二日から昭和二三年三月二日までに、本件土地を自作農創設特別措置
法三条により買収し、売渡処分のなされることなく今日に至り、この間、控訴人ら
主張のとおり、前記所有者らの一部の者が死亡し、その主張のとおりの者が遺産相
続して、それぞれの権利を承継取得し、本訴の選定者となつたこと、建設大臣が昭
和二八年二月一六日稲沢町(現稲沢市)都市計画事業稲沢土地区画整理施行区域決
定をなし、同年八月二六日稲沢土地区画整理を施行すべきことを命じたこと、本件
土地中、稲沢市<以下略>の田、<以下略>の畑、<以下略>の田、<以下略>の
畑、<以下略>の畑、<以下略>の田の一部、<以下略>及び<以下略>の各田に
つき、京都農地事務局長が整理施行区域に編入することを承認したことについて
は、当事者間に争いがない。しかし、本件土地中、その余の土地については、右編
入することの承認の有無については何らの立証もなく、また、昭和三五年三月末右
土地区画整理事業がほぼ完成したとの事実について何らの立証もない。ゆえに、昭
和三五年三月に改正前の農地法八〇条所定の自作農の創設等の目的に供しないこと
を相当とする事実が客観的に生じたとの控訴人らの主張は理由がない。しかし、昭
和四五年一一月二四日本件土地が市街化区域に指定されたことについては、当事者
間に争いがないところ、右事実によれば、本件土地は右市街化区域に指定された昭
和四五年一一月二四日に改正前の農地法八〇条にいう買収農地を自作農の創設等の
目的に供しないことを相当とする事実が客観的に生じたものということができ、し
たがつて、これにより、本件土地の買収前の所有者またはその一般承継人である控
訴人らは本件土地の売払請求権を取得したということができる。そして、控訴人ら
は、本訴において、被控訴人に対し、右売払請求に対する承諾の意思表示を求めて
いるものであることは、控訴人らの主張に照らして明らかである。
ところで、昭和四六年四月二六日制定、同年五月二五日施行の特別措置法二条は、
「国有農地等の売払いの対価は適正な価格によるものとし、政令で定めるところに
より算定した額とする。」と定め、同年五月二二日制定、同月二五日施行の同法施
行令一条は、「右売払いの対価は、その売払いに係る土地等の対価に一〇分の七を
剰じて算出する。」と定め、かつ特別措置法付則二項は、「この法律はこの法律の
施行の日以後に農地法八〇条二項の規定により売払いを受けた土地等に適用す
る。」と定めているから、本訴で求める本件土地の売払いについては、右特別措置
法の適用があるものといわなければならない。控訴人らは、買収農地の売払いにつ
いては、農地法八〇条一項の認定の対象となる状況が客観的に生じたとき、当然に
売払(売買)契約が成立すると主張するが、そのように解すべき根拠はなく、売払
いの申込とこれに応ずる意思表示の合致があつて売払契約が成立するものであるこ
とは明らかであるから、控訴人らのこの主張は理由がない。
控訴人らは、売払いの対価は、農地法八〇条一項の認定の対象となる状況が客観的
に生じた時期の法定価格によるべきであると主張する。しかし、改正前の農地法八
〇条二項にいう買収対価相当額は、売払いの申込と承諾によつて売払契約が成立し
た時点を基準として定められるべきであり、売払請求権発生時を基準とすべきでは
ない。その時点では、単にその時点での法定の価格をもつて買い受けることができ
るという期待があるにすぎない。前記特別措置法付則二項によれば、本件について
は、同法の適用されることは明らかであるから、控訴人らのこの主張は理由がな
い。
また、控訴人らは、買収対価相当額によるべきでないとしても、法定小作料に一一
を剰じて算出した価格によるべきであると主張するが、右特別措置法によれば、本
件売払いについては、同法による対価をもつてなされること明らかである。この主
張は理由がない。
控訴人らは、特別措置法は不公平な事後立法であり、かつ憲法二九条、一四条に違
反するから、無効であると主張する。右主張の趣旨は、控訴人らは特別措置法施行
前に売払請求権を取得するに至つたのであるから、事後の立法により、控訴人ら主
張の価格による売払いの利益を奪うことはできないというべきところ、特別措置法
によれば、控訴人らの右既得の利益を奪う結果となり、それはまた、憲法二九条の
精神に反し、かつまた、すでに売払いを受けた旧所有者との間に不合理な差別を生
じ、憲法一四条にも違反するというにあると思料されるので、この点について判断
する。
憲法二九条違反の主張について判断するのに、自創法三条に基づく農地の買収は、
自作農の創設、農業生産力の発展、農村の民主化の目的達成のため、正当な補償の
もとになされたのであるから、買収地が自作地として売り渡すことを適当としない
事情が発生して買収の目的が消滅したとしても、これにより、法律上当然に旧所有
者に買収地を返還しなければならないものではない。しかしながら、買収が行われ
た後、当該買収地につき、その買収目的となつた公共の用に供しないことを相当と
する事実が生じた場合には、これを旧所有者に回復させる権利を保障する制度を認
めることは、立法政策上妥当なものであり、改正前の農地法八〇条の買収農地売払
制度も、この趣旨で設けられたものにほかならない。そうとすれば、売払いの価格
も、必ずしも買収時の対価でなければならないとする法律上の要請はないといわな
ければならず、それはひとつに立法政策上の問題である。しかして、その後の社会
経済事情の変動、特に地価の著しい高騰等に照らし、売払価格を依然として買収時
の対価によることとすれば、それ自体不当不合理であるところから、右社会経済事
情の変動に応じ、対価を変更するとすることに立法上の制約はなく、これに改正を
加えて相当な価格とすべきものとすることも、立法政策上是認できるのである。こ
の見地からすれば、特別措置法、同法施行令において売払価格を買収地の時価に一
〇分の七を剰じて算出すべきむねを定めて、これによらしめることとしても、憲法
二九条に違反することにならない。控訴人らのこの主張は理由がない。
控訴人らは、特別措置法の如き事後立法の適用は許されないと主張する。本件土地
が昭和四五年一一月二四日市街化区域に指定された結果、買収農地を自作農の創設
等の目的に供しないことを相当とする事実が客観的に生じこの時点において、控訴
人らが売払請求権を取得したことは、控訴人ら主張のとおりである。しかし、前説
示のとおり、改正前の農地法八〇条二項にいう買収対価相当額は、売払いの申込と
承諾によつて売払契約が成立した時点を基準として定められるべきであつて、売払
請求権成立時を基準とすべきものではない。その時点では、単にその時点での法定
の価格(買収対価相当額)をもつて買い受けることができるという期待があつたに
すぎない。ゆえに、事後の立法によつて、控訴人らの買収対価相当額による売払請
求権を奪う結果にはならない。のみならず、前述のとおり、社会経済事情の変動に
より、買収時の対価をもつて売払いの価格とすることは、これまた、変動後の事情
に著しくそぐわず、正常な一般社会経済取引を乱すことは明らかである。法も社会
経済事情を無視してはあり得ず、もし買収時の対価をもつて売払いの価格とするな
らば、そのことの方が不合理な結果を招来するといわなければならない。叙上のこ
とを勘案すれば、特別措置法の制定施行は、むしろ右の不合理を避け、適正合理的
な売払いの対価を定めて現下の諸状勢に適応させるためのものであつて、立法政策
上許容されるものというべきである。控訴人らのこの主張は理由がない。
控訴人らは、特別措置法により売払対価を定めることは、憲法一四条に違反すると
主張する。しかし、前説示の如く、特別措置法の制定施行が立法政策上許されるも
のであるかぎり、同一の法律関係につき、その制定施行の前後により、異なる効果
を生じることがあつても、やむを得ないことといわなければならず、それは何らの
合理的理由に基づかない差別、不平等ではない。控訴人らのこの主張は理由がな
い。
以上の理由により、本件土地の売払いについては、特別措置法の適用があり、同法
及び同法施行令の定めるところにより、その対価が定められるべきところ、控訴人
らは、その主張自体によれば、本訴において、改正前の農地法八〇条二項に規定す
る買収対価相当額ないしは法定小作料に一一を剰じて算定した価格による売払を求
めて、被控訴人にその承諾をすべきことを訴求するものであり、特別措置法、同法
施行令の適用価格による売払いを求めるものではないことが明らかである。してみ
ると、本件について、改正前の農地法八〇条二項による買収対価相当額ないしは法
定小作料に一一を剰じて算定した価格による売払いが許されないこと前説示のとお
りであるから、控訴人らの請求は、結局理由がないことに帰する。
なお、控訴人らは、特別措置法により売払いの対価が決められるとしても、これと
買収対価相当額との差額は、控訴人らの被つた損害であり、本訴において、右損害
賠償請求権を自働債権として、特別措置法による売払いの対価と対当額で相殺する
むねの意思表示をするから、結局買収対価相当額による売払を求め得られると主張
する。しかし、本訴は買収農地の売払を求めて被控訴人の承諾を求める請求なので
あるから、売払価格に特別措置法施行令の規定により自ら定まり、控訴人らの相殺
の意思表示により、売払価格自体が左右されるものではない。売払価格が定まり、
その代金支払の段階において、相殺すべき自働債権があれば、これを主張して精算
されるべきであるから、この主張自体無意味であり、理由がないといわざるを得な
い。
しかして、原判決は、前記三次請求について、価格を定める部分を除き、控訴人ら
の請求を認容しているところ、この部分について、控訴人らは控訴していないの
で、被控訴人の右部分の取消及び棄却を求める附帯控訴は理由がある。
以上の理由により、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人
の附帯控訴は理由があるから、これに基づき、原判決中控訴人らの請求を一部認容
した部分を取り消して、右部分の請求を棄却し、なお控訴人らの請求の趣旨の訂正
(原審での一次請求の取下げ)があり、本訴は一個の請求と見るべきであること前
述のとおりであるから、原判決を本判決主文のとおり変更するものとし、民事訴訟
法三八四条、三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柏木賢吉 夏目仲次 菅本宣太郎)
(別紙省略)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一、原告らの第一次および第二次請求にこれを却下する。
二、原告らの第三次請求。
1 被告は別紙土地目録第一ないし第一九記載の選定者らに対し、それぞれ各選定
者の名の記載された土地について、各個別に売払う手続をなすこと。
2 原告らのその他の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その他を被告の、各負担とす
る。
○ 事実
第一、当事者の申立
(原告ら)
一、第一次的請求の趣旨
被告は、原告Dに対し、別紙土地目録第一の土地を、原告Eに対し同第二の土地
を、原告Aに対し同第三の土地を、原告Fに対し同第四の土地を、Gに対し同第五
の土地を、Hに対し同第六の土地を、Iに対し同第七の土地を、養源院に対し同第
八の土地を、萬徳寺に対し同第九の土地を、臨江寺に対し同第一〇の土地を、Jに
対し同第一一の土地を、正明寺に対し同第一二の土地を、K、L、M、Nならびに
Oに対し同第一三の土地を、P、Q、RならびにSに対し同第一四の土地を、地蔵
寺に対し同第一五の土地を、観音寺に対し同第一六の土地を、Tに対し同第一七の
土地を、Uに対し同第一八の土地を、Vに対し同第一九の土地を、それぞれ売払期
日を昭和三五年三月三一日とし、売払の対価を買収対価に相当する価格で売払え。
二、第二次的請求の趣旨
被告は、原告Dに対し、別紙土地目録第一の土地を、原告Eに対し同第二の土地
を、原告Aに対し同第三の土地を、原告Fに対し同第四の土地を、Gに対し同第五
の土地を、Hに対し同第六の土地を、Iに対し同第七の土地を、養源院に対し同第
八の土地を、萬徳寺に対し同第九の土地を、臨江寺に対し同第一〇の土地を、Jに
対し同第一一の土地を、正明寺に対し同第一二の土地を、K、L、M、Nならびに
Oに対し同第一三の土地を、P、Q、RならびにSに対し同第一四の土地を、地蔵
寺に対し同第一五の土地を、観音寺に対し同第一六の土地を、Tに対し同第一七の
土地を、Uに対し同第一八の土地を、Vに対し同第一九の土地を、それぞれ売払の
対価を、買収対価に相当する価格で売払え。
三、第三次的請求の趣旨
被告は、原告Dに対し、別紙土地目録第一の土地を、原告Eに対し同第二の土地
を、原告Aに対し同第三の土地を、原告Fに対し同第四の土地を、Gに対し同第五
の土地を、Hに対し同第六の土地を、Iに対し同第七の土地を、養源院に対し同第
八の土地を、萬徳寺に対し同第九の土地を、臨江寺に対し同第一〇の土地を、Jに
対し同第一一の土地を、正明寺に対し同第一二の土地を、K、L、M、Nならびに
Oに対し同第一三の土地を、P、Q、RならびにSに対し同第一四の土地を、地蔵
寺に対し同第一五の土地を、観音寺に対し同第一六の土地を、Tに対し同第一七の
土地を、Uに対し同第一八の土地を、Vに対し同第一九の土地を、それぞれ売払の
対価を、一平方メートルあたり、田の場合は五九円八八銭四厘、畑の場合は二三円
八七銭として売払え。
四、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一、本案前の申立
1 原告らの請求を却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
二、本案に対する申立
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
(原告らの請求原因)
一、もと本件土地目録第一の土地は原告Dが、同第二の土地は原告Eが、同第三の
土地は原告告Aの被相続人Aが、同第四の土地は原告Fが、同第五の土地はGが、
同第六の土地はHの被相続人Wが、同第七の土地はIが、同第八の土地は養源院
が、同第九の土地は萬徳寺が、同第一〇の土地は臨江寺(旧称臨江庵)が、同第一
一の土地はJの被相続人Xが、同第一二の土地は正明寺が、同第一三の土地はK、
L、M、NおよびOの被相続人Yが、同第一四の土地はP、Q、RおよびSの被相
続人Zが、同第一五の土地は地蔵寺が、同第一六の土地は観音寺が、同第一七の土
地はTが、同第一八の土地はUが、同第一九の土地はVがそれぞれ所有していたと
ころ、昭和二二年一〇月二日から同二三年三月二日までの間に、自作農創設特別措
置法第三条によつて、国に買収されたされたまま、売渡処分されることなく、今日
に至つている。
この間において、先代Aが死亡したので原告Aが、Wが死亡したので、Hが、Xが
死亡したのでJが、服部敏之が死亡したのでK、L、、M、NおよびOがZが死亡
したのでP、Q、RおよびSが、それぞれの権利を相続により取得した。
二、建設大臣は、昭和二八年二月一六日、内閣の認可を得て本件土地を包含する稲
沢土地区画整理事業地区につき、都市計画事業として土地区画整理を施行すべき区
域であると決定した(旧都市計画法第三条)。
三、建設大臣は、昭和二八年八月二六日旧都市計画法第一三条第一項但書の規定に
より、稲沢土地区画整理事業施行計画区域の土地区画整理を施行すべきことを命
じ、豊林大臣は、京都農地事務局長名をもつて本件土地を右土地区画整理事業地区
へ編入することを承認した。
本件土地が稲沢土地区画整理事業地区へ編入承認の有無に関係なく本件土地は土地
区画整理事業の仮換地指定処分により約三割の減歩負担を賦課せられ本件土地の従
来の面積の約七割の面積部分しか使用収益することが出来ない状況となり残余の三
割の部分地は道路公園等に転用使用せられるようになつているにもかゝわらず農地
保護の責に任ずる農林大臣、愛知県知事、稲沢市農業委員会等の農地行政諸機関は
農地としての許容減歩たる二割以内の仮換地減歩とする処置(土地改良法第五三条
第一項第三号参照)をこうずることなく、十数年の長期間放置していることは本件
土地が農業上の利用増進の用に供しないことを相当とする土地であると認定されて
いるものである。
四、右の結果、稲沢土地区画整理は、本件土地につき約三割の換地減歩負担を賦課
する土地区画整理導業として施行され、昭和三五年三月三一日頃には、その土地区
画整理事業の工事もほぼ完成した。本件土地の右の状況は、農地法施行令第一六条
第一項第五号に該当していたことは明白である。
五、従つて、被告には本件土地は遅くとも昭和三五年三月三一日には農地法第八〇
条第二項の規定により原告らに売払義務が生じていた。
六、よつて、原告らはそれぞれ本件土地につき、第一次的請求の趣旨のとおりの判
決を求め、売払期日を昭和三五年三月三一日とすることが不適去とすれば予備的に
第二次的請求の趣旨のとおりの判決を求める。
七、仮りに本件土地売払の対価を本件土地の買収価格に相当する価格とすることが
不相当であるとすれば、その価格は次の価格とすることが相当である。すなわち、
1 従来より農地法上の買収および売渡の対価は買収等の土地の最高の法定小作料
に一一を乗じた価格と法定されていた。
2 現在の稲沢市内の法定最高小作料は、昭和四三年度より一平方メートルあたり
田の場合は五円四四銭四厘、畑の場合は二円一七銭であつた。
3 よつて本件土地の売払対価は、一平方メートルにつき田の場合は五九円八八銭
四厘、畑の場合は二三円八七銭をもつて相当とする。
八、よつて、原告らは、仮りに第一次的請求および第二次的請求が認容されない場
合は第三次的請求の趣旨のとおりの判決を求める。
(被告の本案前の抗弁)
一、本件土地が現在農地法施行令(以下「令」という)第一六条第一項第五号に該
当しているとすれば、原告らは訴訟外で買受け申込をすることについて何ら法律上
の障害はないのであるから、本件土地の売払いを求める本訴請求は訴の利益を欠く
ものである。
二、(第一次的請求について)
給付訴訟においては、過去の行為の給付を求めることは認められないのであるか
ら、売払期日を過去の日時たる昭和三五年三月三一日とする売払を請求する第一次
的請求は権利保護の資格を欠き不適法である。
(請求原因に対する被告の認否)
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、同第二項の事実中、建設大臣が、昭和二八年二月一六日稲沢町都市計画事業稲
沢土地区画整理施行区域決定をなしたことは認める。
三、同第三項の事実中、建設大臣が昭和二八年八月二六日稲沢土地区画整理施行命
令をなしたことおよび本件土地のうち、稲沢市<以下略>の田、<以下略>の畑、
<以下略>の田、<以下略>の畑、<以下略>の畑、<以下略>の一部、<以下略
>および<以下略>の各田につき、京都農地事務局長が整理施行区域に編入するこ
とを承認したことは認めるが、その他の土地については知らない。
なお、本件土地の位置は稲沢都市計画図の中にある。
四、同第四項の事実中、本件土地の仮換地の指定されたことは認めるが、土地区画
整理事業の工事が昭和三五年三月三一日頃にはほぼ完成していたとの点は否認す
る。同事業は現に施行中で、なお未了である。
その他は争う。
五、同第五項の主張は争う。
六、同第六項は争う。
七、同第七項の主張は争う。
1 農地法の一部を改正する法律(昭和四五年法律第五六号、以下「改正法」とい
う)による改正前の農地法(以下「旧法」という)第九条に基づく小作地の買収お
よび同法第三六条に基づく当該農地の売渡にかゝる対価は、同法第一二条第一項お
よび第三九条第二項により、小作料の最高額に一一を乗じて算出することとされて
いた。
2 原告ら主張の法定小作料とは、旧法第二一条に規定する小作料の最高額のこと
を指すものと思料するが(右小作料の一部については改正法付則第八項でなお旧法
二一条の効力が有するものとされた)、右改正前の農地法第二一条の稲沢市内にお
ける農地の法定最高小作料は、田二級一〇アールあたり五、四四四円(一平方メー
トルあたり五円四四銭四厘)、畑一級一〇アールあたり二、一七〇円(一平方メー
トルあたり二円一七銭)である。
3 農地法施行令第一六条第一項第五号に該当する土地は、該土地は都市的な区域
内に存在するときであるから、たとえ当該土地の現状が農地であつても、いずれ宅
地化または都市的な土地の利用に供されることになる。従つて当該土地の売払対価
にあたつて、地目を農地として評価するのは当を得ない。なお、この点について
は、措置法施行令第一条に規定する「時価」の判定につき、同令第一条第二項の規
定に基づく協議により定められた「国有農地等売払評価基準」によれば、評価上の
地目は「宅地または宅地見込地とするものとする」(3、地目の決定欄)とされて
いる。
よつて、仮に原告らの主張のとおり本件土地が農地法施行令第一六条第一項第五号
に該当するとした場合、その評価上の地目は、宅地または宅地見込地とするもので
ある。
(原告らの相殺の主張)
仮りに、本件土地の売払いにつき特別措置法が適用されるとすれば、本件土地の売
払の対価は同法所定の時価の七割となる。ところで本件土地は同法が施行される十
数年前に原告らに売払う義務が生じていたにも拘わらず、今日に至つた。もし農林
大臣が同法施行前に本件土地を原告らに売払つていたとすれば、その対価は買収対
価相当額であるから、原告らは農林大臣の職務懈怠により右の差額について損害を
こうむつたことになる。よつて原告らは被告に対し国家賠償法第一条第一項により
同額の損害賠償請求権を有する。
そこで、原告らは右債権をもつて特別措置法所定の対価に対し、対等額をもつて相
殺する。
よつて、いずれにしても、被告は原告らに対し、本件土地をその買収対価に相当す
る価格をもつて売払わなければならない。
原告らが本件訴提起まで本件土地の買受け申込を為さなかつたことは認めるが、そ
れは、農林大臣の内部通達で買受申込があつても受付けない趣旨の通達が出されて
いたからである。
(相殺の主張に対する被告の認否)
農林大臣の職務懈怠を否認する。
本件土地につき、農林大臣が旧所有者たる原告らからの買受け申込に応じ、これを
承諾する義務を負担することが明瞭となつたのは、昭和四六年二月一三日(同年政
令第一三号農地法施行令の一部を改正する政令の施行の日)以降である。
原告らから本件土地について訴外で買受け申込が為されたことはなく、本件訴の提
起(昭和四六年四月二一日)により初めて為された。
また農林大臣は、事務的な準備ができないから売払手続をしないようにとの通達を
出したが、買受けの申込を受付けるなとの通達は出していない。
(原告らの法律上の主張)
一、自創法によつて買収された農地が自作農の創設等の目的に供しないことを相当
とする事実が客観的に生じた場合は農林大臣は自動的に旧所有者に当該農地を私法
上の義務として売払わなければならず(昭和四六年一月二〇日最高裁判所大法延判
決)、その売渡しの実質的な時期は、当該農地が自作農の創設等の用に供しないこ
とを相当とする事実が客観的に生じた時期である。従つて売払の対価は右売払義務
発生の時期の法定価格によるほかはない。そうとすれば、措置法は、既に(旧)農
地法第八〇条第二項の規定により原告らに本件土地を買収の対価の相当する価格を
もつて売払うことが確定している本件土地には法律の不遡及の原則により適用でき
ない。
二、仮りに確定している権利義務を法律をもつて遡及して変更することが適法とし
ても、
1 既に農地法第八〇条により売払済みの土地に対しても措置法と経済上同一の結
果となる措置を講ずる。
2 農地法(自創法を含む)により売渡処分された農地の転用に際しても措置法と
同様の措置を講ずる。
3 旧法時代に発効している家督財産は新憲法施行後に被家督相続人の死亡があつ
た場合は当該死亡者の遺産相続人らの遺産相続財産の一部とみなす。
等の措置が講じられない限り措置法は不公平な立法であり無効である。
(原告らの法律上の主張に対する被告の反論)
農地法(以下単に「法」という)第七八条第一項の規定により農林大臣が管理する
土地、立木、工作物または権利(以下「土地等」という)につき法第八〇条第二項
により売払う場合の売払の対価は、従前は同項の後段の定めによることとされてい
たところ、昭和四六年五月二五日施行の措置法附則第四項で農地法の一部が改正さ
れ、法第八〇条第二項後段は削除され、更に同法附則第二項により、同法施行後に
農地法第八〇条第二項の規定により売払いを受けた土地等については措置法を適用
するとされた。
そして、措置法第二条によれば法第八〇条第二項の規定により土地等を売払う場合
の売払いの対価は、「適正な価格によるものとし政令で定めるところにより算出し
た額とする」とされ、これを受けた「国有農地等の売払いに関する特別措置法施行
令(昭和四六年政令第一五七号)」(以下単に「措置法施行令」という)の第一条
によれば、その対価はその売払いに係る土地等の時価に十分の七を乗じて算出する
ものとされている。
従つて、仮に原告ら主張のとおり、本件土地が農地法施行令第一六条第一項第五号
に該当するとした場合、その売払いの対価は時価の十分の七に相当することは明ら
かである。
自創法によつて買収された農地につき、自作農創設の目的に供することが不適当と
なつた農地につき旧所有者に買受けの機会を優先的に認めていることや、その買受
価額を買収対価に相当する価額としていたことは立法政策の問題であつて憲法上の
要請ではない。
買受価額についても、経済事情の変動に応じて必要の修正を加えることが立法政策
上妥当であり特別措置法によつて右の買受価額の改正がなされたものである。右の
改正は、買受価額を適正な価額として政令で定めることとし、かかる委任により、
国有農地等の売払に関する特別措置法施行令はその第一条において、時価の七割に
相当する額としたのであるから、旧所有者の買受請求権の行使を困難ならしめるも
のではなく、従前の経緯に鑑み、妥当な立法措置である。
農地法第八〇条第二項の売払は私法上の売買であるから、売渡価格は売買契約の成
立時において定められ、契約成立時における法定価額によるべきである。
旧所有者の当該農地についての買受請求権が客観的に生じた時点においては、その
当時法定されていた買受価額(買収対価相当額)をもつて買受けることができると
いう期待はありうるとしても、それはあくまで事実上のものにすぎず、法律上売払
が当該価額によらなければならないとする法律上の地位ないし権利が与えられたと
解すべきではない。
従つて、特別措置法施行前に自作農創設等の目的に供しないことが相当となつてい
た土地について、同法を適用することに何らの妨げはない。
二、証拠関係(省略)
○ 理由
第一、訴の適法性について。
一、被告は、本件土地が現在農地法施行令(以下「令」という)第一六条第一項第
五号に該当しているとすれば、原告らは訴訟外で買受け申込をすることについて何
ら法律上の障害はないのであるから、本件土地の売払いを求める本訴請求は訴の利
益を欠く旨主張するが、本件当事者間において本件土地が右条項に該当するか否
か、売払対価につき右令の適用があるか否かにつき争があり、そのため当事者間に
売払い契約が成立しない以上、原告らが被告に対して原告らからの買受け申込に応
じ、これを承諾する意思表示を求める訴の利益を有することは明白である。
二、また、被告は給付訴訟においては過去の行為の給付を求めることは認められな
いから、売払期日を過去の日時たる昭和三五年三月三一日とする売払いを請求する
第一次的請求は権利保護の資格を欠き不適法である旨主張するが、原告らは右日時
に為すべきであつた被告の承諾義務が未だ為されていないから現在その給付を求め
ている趣旨と解せられるので、原告らは第二次的請求について訴の利益を有すると
いわねばならない。
三、ところで、原告らは第一次的および第二次的請求においていずれも買収対価を
特定しないで売払価格を一般的、抽象的に定めて請求しているが、売払価格まで具
体的に決定することを裁判所の裁量に委ねている法の規定がなく、従つて民事訴訟
において売払価格の決定を求めるためには、その価格を各土地毎に特定して請求す
べきであるから、原告らの第一次的および第二次的請求は不適法として却下しなけ
ればならない。
第二、原告らの第三次的請求について。
一、請求原因第一項の事実全部、同第二項の事実中建設大臣が昭和二八年二月一六
日稲沢町(現在稲沢市)都市計画事業稲沢土地区画整理施行区域決定をなしたこ
と、同第三項の事実中同年八月二六日稲沢土地区画整理施行命令をなしたこと、な
らびに同第四項の事実中本件各土地についていずれも仮換地の指定がなされている
ことについては当事者間に争いがない。
二、本件各土地がすべて昭和四五年一一月二四日市街化区域に指定された範囲内に
あることは、真正に成立したことにつき争のない甲第一号証および被告主張におい
て引用する稲沢都市計画図(本件記録編綴)には本件各土地の位置がいずれも市街
化区域内にあることを総合して認められる。
三、真正に成立したことにつき当事者間に争のない乙第二号証(農林省農地局長昭
和四六年一〇月八日附46農地B第一九二四号の東海農政局長宛「国有農地等売払
事務処理要領について」)によると、農林大臣は昭和四六年一〇月八日すでに、
「第一、不要地認定について農地法施行令第一六条第一項第五号に該当する土地は
すみやかに不要地認定を行なうものとする。第二、売払いの準備手続、第三、同令
第一七条の通知書の交付、ただし、旧所有者等から買受申込書が提出されていると
きは、この通知書の送付を省略してさしつかえない。第四、売払いには、農地法施
行規則第五〇条第二項の規定による売払通知書を交付しなければならぬ。」など詳
細な事務処理手続ができていることが認められる。
本件訴訟が昭和四六年四月二一日提起されたことは当事者間に争なく、たとえ原告
が本件土地について、農地法施行規則第五〇条第一項の規定による買受申込書を提
出していないことを自認している事実があつても、右事務処理要領によれば被告は
すみやかに本件各土地につき右不要認定をなし、売払通知書を原告らに交付する等
の売払手続をしなければならないものというべきである。
そうして、本訴が被告に右売払い手続を命ずることの請求を含んでいることは明白
である。
しかし、本訴の提起により買受の申込をしても、国が前述の売払手続により承諾の
意思表示をなすことにより売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずるのであ
つて、原告らは被告に対し本訴において売払いの意思表示を求めているのであるか
ら、右意思表示のない限り売払代金債権が発生せず、その売払代金額の決定もでき
ないし、しかも、裁判所は国の決定した売払価格を事後審査してその価格が相当か
否かを判断すべきものであるから、原告ら主張の売払価格を認容することはできな
い。
四、よつて、原告らの第三次的請求は、その他の点を判断するまでもなく、被告が
各原告に対し、農地法第八〇条第一項、同法施行令第一六条第一項第五号に基き各
原告主張の本件各土地を売払う手続をしなければならない程度においてこれを認容
し、その他を失当としてこれを排斥する。
従つて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九三条、第九二条ならびに第八九条を適
用して、主文のとおり判決する。
(別紙省略)

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