弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添附した弁護人大久保弘武作成名義控訴趣意書と題す
る別紙記載のとおりであつてこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 論旨第一点について。
 記録を調査するに、原判決がその現由において、判示第五の事実として、『同年
五月二十八日頃の夜浜松市a町bA方に至り同人に対しさきに騙取したB名義のC
株式会社発行契約給付金額三万円の日掛無尽契約証書一通及びBの印鑑を抵当とし
て金一万五千円を借受けたが、翌日右A方に至り右一万五千円を返済する意思はな
いのに同人に対し「今から銀行へ行つことの証書で金を下して来て返すから」と嘘
を申向けて同人をしてその旨誤信させて即時同所で右通帳及び印鑑を交付させて之
を騙取し』との事実を認定判示していることは、所論のとおりであつて、所論は、
被告人の右の所為は、さきに騙取した物件の事後処分行為であつて、新たな犯罪を
構成するものではない旨を主張するので、案ずるに、他人を欺罔して財物を騙取し
た後、他の第三者から金銭を借り受けるに際し、該貸金債権の担保に供するため、
右騙取した物件をその情を秘して貸主に交付する行為は、前の詐欺罪における賍物
の処分行為として同罪のうちに包含され、新たに別罪を構成しないと解すべきこと
は、論を待たないところであるが、既に、右担保に供した後において<要旨>は、該
物件は、右貸金債権の担保物件として、貸主の占有に属するものであるから、更
に、右貸主を欺罔して該物件の交付を受ける行為は、前の詐欺罪の被害法益
とは別な新たな財産上の法益を侵害するものというべく、従つて、前の詐欺罪とは
別個に、新たな詐欺罪を構成するものと解するのが相当である。今本件についてこ
れをみるに、原審判決書の記載、並びに、原判決が右判示事実認定の証拠として挙
げている被告人に対する司法警察員及び検察官作成の各供述調書中の記載、D、
E、Aに対する司法警察員作成の各供述調書中の記載等をそう合するときは、右原
判示第五のB名義C株式会社発行契約給付金額三万円の日掛無尽契約証書一通及び
「B」と刻した印顆一個は、被告人が、昭和二十七年五月二十八日ごろ、右原判示
第五の犯行に先だち、その所有者であるDを欺罔してこれを騙取したものであるこ
と、並びに、右原判示Aは、その情を知らずに、原判示のように、同日ごろ、被告
人に対し、金一万五千円を貸し付けるに際し、その債権の担保としてこれを受け取
つておいたところ、その翌日、被告人のために、原判示のような方法でこれを騙取
されたものであることが認められるのであるから、被告人が、前示のように、Dを
欺罔して騙取した右日掛無尽契約証書及び印顆を金一万五千円の貸金債権の担保と
して前示Aに交付した行為は、右Dに対する詐欺罪における賍物の処分行為として
同罪のうちに包含され、新たな犯罪を構成しないものと認むべきことは、まことに
所論のとおりであるが、しかし、前示のように、既に、債権の担保に供した後にお
いて、該担保権に基ずき右物件を占有しているAに対し、虚偽の事実を申し向けて
これを欺罔した上、同人より該物件の交付を受けた被告人の所為は、前示Dに対し
て犯した罪の被害法益とは別な財産上の法益を不法に侵害したものとして、前の罪
とは別個に、新たな詐欺罪を構成するものといわなければならない。してみれば、
原判決が前示のように、被告人の右所為が詐欺罪を構成するものとして有罪の認定
をしたことは相当であつて、原判決には、所論のような審理の不尽、ないしは、罪
とならない事実を有罪と認定した違法があるものということはできないから、論旨
は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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