弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金七千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金百円を一日に換算した期間被
告人を労役場に留置する。
     被告人に対し公職選挙法第二五二条第一項の規定を適用しない。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人及び弁護人諌山博の各控訴趣意は同人等の各提出にかかる控訴趣意書に記
載のとおりであるから、ここに之を引用する。
 被告人及び諌山弁護人の各控訴趣意第一点(事実の誤認又は法令の適用の誤)に
対する判断
 先づ、原判示(1)のビラの頒布について、
 論旨は本件ビラは「予て早期単独講和、日本の再軍備、外国軍隊の駐屯を唱え第
三次世界大戦の火付役を自ら買つて出ようとするA党その他の国内保守派は、今次
の地方選挙に際し、ますます露骨になる人民的デマ、民主勢力への中傷政策の遂行
と、労働者を中心とする愛国勢力の分裂撹乱を強化しつゝあつた情勢下に、日本の
真の民主化、自主権の恢復、全世界との平和親善を目標とし、そのために全国の労
働者を中心に、農民、智識人、学生、進歩的市民に、反帝国主義、反フアツシヨ、
反戦の独立と平和の一大民主民族戦線の結成強化は革新政党としては最高にして唯
一の正しい当面の政策であり、絶対不可欠の任務であつたので、今次の地方選挙に
おいて、具体的政策上の統一を見ていた他候補との戦線の統一は急務中の急務であ
つたに拘らず、佐賀市においては、三人の県議定員に対して十三人の立候補者があ
り、保守、進歩共に無原則の濫立という態で、かくては革新陣営からの各候補共倒
れのおそれがおるのみならず、惹いては、労働者階級を中心とする進歩的民主勢力
の戦線の分裂を露呈しつゝあつた。そこで、B党は、その一拠点佐賀市において当
面の戦線統一と将来の禍根を絶つため予て政策上平和と独立の点で一致を見、且つ
A党候補C氏と同じ教育者出身であるDを推すE党と共同戦線を張るべくC氏の立
候補を辞退せるD候補に統一支持することとなつた」趣旨を記載したのが、その全
容であつて、政党の当然なさねばならず、且つなしつつある日常不断の政治的信
念、政策を弘布する文書乃至は事に当つての所信の表明をそのまま報道するニユー
スであり、特定の候補、者に当選をなさせることを目的としたものではないという
のであるが、選挙運動のために使用する文書は苟も選挙運動のために使用されるも
のであれば、それを使用することが主たる目的であろうと又は附随の目的であ<要旨
第一>ろうと総て公職選挙法第一四二条第一項によつて之が頒布を禁ずる趣旨であ
る。従つて「政党その他の団体等</要旨第一>が日常不断の政治活動として文書に
よりその政治上の主義、政策を宣布し又は時局に関する批判を表明すろこと等を主
たる目的としたものであつても之に附随して、特定選挙における特定候補者に当選
を得べく投票を得るに付直接又は間接に有利な行為換言すれば当選を得るためにす
る意思を直接又は間接に表示し掲載するときはその文書は選挙運動のために使用し
たものであつて、かゝる文書を頒分することは前記法条に違反するものとしなけれ
ばならぬ。そこで原判決挙示の証拠に徴すると被告人は昭和二六年四月三〇日施行
の佐賀県議会議員選挙に際し、原判示日時場所において選挙人であるF外数十名の
事務机の上に「Kニュース号外一九五、四、二七」と題して「世界平和と日本民族
独立のために革新陣営から県議を一名だけは送るためにC(共産)立候補を辞退
す」との見出しの下に、B党佐賀地区委員会は二七日C公認候補を辞退させるとと
もに次の如き声明を発した「すぐる佐賀市長選挙において優勢を誇つたA党すいせ
んのG氏はH党のすいせんするI氏に敗退した(中略)われわれはこの勝利の上に
たつて更に知事、県議戦を闘う、佐賀市から売国A党を叩き出さなければならな
い。しかるに佐賀市の県議戦の現状はどうか三名の定員に対し保守九、革新四名と
見られている。われわれはこの中から革新候補を一人だけは是非共当選させなけれ
ばならないが革新候補を乱立したままで闘つては自民両党に独占されることは火を
みるより明かである。(中略)そこでわれわれとしてはC氏をあくまで押したてて
共に相争うおろかさをすて、同じく教育者出身であるD候補(E党すいせん)に勤
労市民を一本に結集させることが勝利の唯一の道であることを確信しこの際C候補
を辞退させるのである。われわれは佐賀市の労働者農民勤労市民一切の愛国者が世
界の佐久平和と日本民族の完全独立のために佐賀市民の安全と幸福のため、全面講
和と再軍備反対、戦にのぞむD候補に結束するよう全力を注ぐものである」と記載
した「ビラ」を原判示(2)の「ビラ」と共に合計百枚位を配布して頒布した事実
を認めることができるので、仮令所論の如くビラ配付の主たる目的がB党が日常不
断に唱導して来た全面講和と再軍備反対という政治上の主義政策の促進実現のため
に革新陣営との共同戦線の結成強化を一般民衆の間に宣布徹底せしめることにあつ
たにせよ、革新陣営から出た立候補者の共倒れをさけ同陣営から県議一名だけは送
るために自党公認候補者Cを辞退させ、政策を同じくするE党推薦の立候補者Dを
当選せしむべく全力を注ぐというのであるから、旁々被告人はD候補に当選を得し
めるために、このビラを前示数十名の選挙人に配付することにより選挙人に訴え志
を同じくする者の同候補への投票を期待したものと言わざるを得ない。して見る
と、本件ビラは選挙運動のために使用する文書であるというに妨げなく、之が通常
葉書でないことは一見明瞭であるから、原判決が被告人の本件ビラの頒布行為を公
職選挙法第一四二条違反に問擬したことは相当であつてこの点は理由がない。又被
告人は原判示(1)のビラは「J協議会佐賀準備会」が同協議会発足の昭和二六年
一月中旬以降全面講和と再軍備反対の趣旨を強調し民衆に対する宣伝教育の任を負
うて発行する「Kニユース」という題号を待つ同会の機関紙であつて、同機関紙の
記者がB党公認県議候補者C氏の立候補辞退のニユースをそのまま又は編集者にお
いて多少評論を加えて即刻号外を以て佐賀市内に報道したもので民主報道機関の当
然のニユース提供に過ぎないからこの報道及び評論の自由は同法第一四八条第一項
の明文上許容するところであり、憲法第二一条によつても保障されてお<要旨第二>
るのであると主張する。しかし一般に新聞紙又は雑誌とは、一般民衆に頒布するこ
とを目的とし且つ一定の題</要旨第二>号を以て定期的に発行されるものをいうの
であるから、仮に所論のように原判示(1)のビラが「Kニユース」という一定の
題号を有する週刊発行の前記「J協議会佐賀県準備会」の機聞紙で一般民衆に対す
る全面講和と再軍備反対の趣旨宣伝教育のため頒布されるものであるとすれば、一
応新聞紙というのに妨げないのであるが、公職選挙法第一四八条第一項にいう新聞
紙又は雑誌は同条第二項に「販売業者」という文言を使つている点から考えると、
有料で頒布されるものでなければならないのであつて、本件の全面講和ニュースの
如く選挙目標のために発行し無料で頒布されたようなものは、同条にいう新聞紙又
は雑誌の中に<要旨第三>含まれないものと解するの外はないから、本件の場合は同
法条の保護を受けないと言わなければならね。そし</要旨第三>て選挙運動は、で
きる丈自由且つ活溌に行われ以て選挙人をして誰が最も適した候補者であるかを知
らしめることが要請せられるであろうが、反面に又選挙運動は公平且つ均等に行わ
れなければ、金力又は権力ある者が有利な条件の下における無制限な運動により、
容易に当選し、金力はなくとも識見裕かにして、選挙人の真に代表たるにふさわし
い人物が当選し難いという傾向を馴致するであろう。これでは公平で正しい選挙と
は言えないから、政治の代議制度を認める以上、選挙の公正な施行ということは、
公共の福祉というべきである。従つて、憲法第二一条による言論出版その他の表現
の自由の保障も、選挙運動に関する限り、ある程度之を制限することは、同法第一
二条第一三条の容認するところであつて、表現の自由の無制限なることを前提とす
る所論には到底賛同することができない。以上の次第で、原判決には所論のような
事実の誤認や、法令の適用の誤はないから、論旨は総て理由がない。
 次に原判示(2)のビラの頒布について、
 成る程本件押収に係るB党佐賀県委員名義の知事と県議の「選挙で戦争と売国の
A党を叩き出せ」と題する「ビラ」を見ると、所論のように専ら知事及び県議の選
挙においてB党が兼て唱導して来た全面講和と民族独立の声を反映させなければな
らないという政治上の意見を述べたまでであつて、特定候補者の落選をねらい、又
は特定候補者の当選を意図したものではなく、従つて、選挙運動に使用する文書と
は言えないようではあるが、その末尾記載の「全面講和で知事県議を当選させろ」
という文書及び被告人自陳の如く原判示佐賀県知事選挙に立候補したL及び同県議
会議員選挙に立候補したE党推薦のDが、何れも政見上全面講和の点において、B
党の政策と一致していたことと、原判決挙示の証拠により認められるように被告人
により選挙の切迫した時期に、このビラが選挙運動用文書である原判示(1)のビ
ラの頒布と同一機会に同一場所において、右選挙の多数選挙人に頒布せられた事蹟
とを考え合せると、被告人はこのビラの配付により佐賀県知事候補者Lの氏名こそ
表示していないが暗に自己所属のB党と主義政見を同じくする同候補者に当選を得
しめるため、佐賀市役所勤務の多数選挙人に同候補者への投票方を呼びかけたもの
と認めざるを得ない。して見ると、本件ビラも亦原判示(イ)のビラと同じく選挙
運動のために使用する文書と言うに妨げない。そうして選挙運動に関する限り法律
による言論表現の自由のある程度の制限が憲法上許容せらるることは、原判示
(イ)のビラ頒布について説示したところで自ら了解せらるるであろうから、ここ
に再説しない。それ故論旨は総て理由がない。
 控訴趣意第二点(量刑の不当)について
 記録を検討し犯罪の動機、態様、性質等諸般の情状を考慮するときは原判決の科
刑は重きに過ぎ、量刑不当てあるから、論旨は理田がある。そこで、刑事訴訟法第
三九七条に従い、原判決を破棄した上更に同法第四〇〇条但書を適用して、次のよ
うに自ら判決する。
 原判決挙示の証拠によれば、原判示犯罪事実は総て認めるに足りるので、該事実
並に証拠をここに引用することにし、該事実に対する法令の適用を示せば、左の通
りである。
 公職選挙法第一四二条第一項第二四三条第三号(所定刑中罰金選択)刑法第一八
条(換刑処分に付)、公職選挙法第二五二条第三項第一項(選挙権被選挙権の不停
止に付)刑事訴訟法第一八一条第一項(訴訟費用に付)
 仍て主文のように判決する。
 (裁判長判事 筒井義彦 判事 川井立夫 判事 桜木繁次)

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