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平成18年(ネ)第10072号肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求控訴
事件(原審・東京地裁平成17年(ワ)第11826号)
口頭弁論終結日平成19年12月18日
判決
当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2別紙当事者目録記載の各被控訴人は,それぞれ対応する別紙関係目録記載の
各控訴人との間において,プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードについ
て,同各控訴人の氏名,肖像を第三者に対し使用許諾する権限を有しないこと
を確認する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
【以下,略称は原判決の例による。】
1控訴人らは,いずれも現役のプロ野球選手であり,我が国のプロ野球12球
団に所属する日本人選手全員と一部の外国人選手とで構成される労働組合であ
る日本プロ野球選手会(以下「選手会」という。)に加入しており,同人らは
700名以上の選手会会員選手の総意に基づくものとして,本件訴訟を提起し
ている。なお,一審当時の原告であったE)は,当審における審理途中で訴え
を取り下げた。
被控訴人らは,いずれも野球競技の興業等を目的とする株式会社であり,被
控訴人巨人軍・同ヤクルト・同ベイスターズ・同ドラゴンズ・同タイガース及
び同カープはセントラル野球連盟(以下「セ・リーグ」という。)を,被控訴
人ファイターズ・同ライオンズ・同マリーンズ・同オリックスは,訴外株式会
社楽天野球団(楽天),同福岡ソフトバンクホークス株式会社(ソフトバン
ク)とともに,パシフィック野球連盟(以下「パ・リーグ」という。)を,そ
れぞれ構成している。なお,楽天球団とソフトバンク球団は,平成14年以降
に野球界に参入した球団であるとして,本件訴訟の当事者(被告)とされてい
ない。
2控訴人らを含む各選手は,被控訴人らのプロ野球球団に入団するに際し,各
球団と個別に野球選手契約を締結するが,同契約は,セ・リーグ,パ・リーグ
及びこれらを構成する上記プロ野球12球団で締結された日本プロフェッショ
ナル野球協約(以下「野球協約」という。)第45条及び第46条において統
一契約書によるとされていることから,参稼報酬額と特約条項を除き,各選手
・球団で同一内容となっている。そして,上記統一契約書の内容は,選手の氏
名及び肖像等の使用に関する第16条は昭和26年の制定以来変更がなく,各
選手と各球団との間で毎年更新される前記野球選手契約においても,その氏名
及び肖像等の使用に関する部分は統一契約書16条と同一であって,各年毎の
変更はない。
因みに,統一契約書の第16条の内容は次のとおりである(原文はたて書
き。乙51)。
「第16条(写真と出演)球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレビ
ジョンに撮影されることを承諾する。なお,選手はこのような写真出演等
にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団が宣伝目的
のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し立てないことを
承認する。※(加入)(1項)
なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な分配金を
受けることができる。※(2項)
さらに選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,テレビジョ
ンのプログラムに参加し,写真の撮影を認め,新聞雑誌の記事を書き,こ
れを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。※(3項)」
(ただし,原文に(1項)(2項)(3項)の表示はなく,説明の便のため
付したもの)
3ところで,プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カード(カルビー株式会社
「プロ野球カード」とベースボール・マガジン社「BBMベースボールカー
ド」)において,選手の氏名及び肖像が使用されているが,これらの使用を許
諾しているのは所属のプロ野球球団であって選手ではないところ,平成12年
11月17日付けで選手会が社団法人日本野球機構(以下「野球機構」とい
う。プロ野球12球団がその会員となっている。)に対し,選手の肖像等の権
利管理は以後選手会が行う旨の通知をしたこと等から,選手の肖像等の使用に
関する権利の帰属について選手と球団との間に争いが生じるようになった。
4本件訴訟は,プロ野球選手である控訴人(一審原告)らが,所属の球団であ
る各被控訴人(一審被告)らに対し,プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カー
ドについて,平成17年12月から平成18年1月にかけて更新された平成1
8年度の各選手契約に基づき,各被控訴人らが第三者に対して各控訴人らの氏
名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないことの確認を求めた事案である。
一審の東京地裁において争点とされたのは,(1)野球選手契約に用いられる
統一契約書16条に相当する契約条項(「本件契約条項」)により,選手らの
氏名及び肖像の商業的利用権(パブリシティ権)が球団に譲渡され又は独占的
に使用許諾されたか,(2)本件契約条項による契約は不合理な附合契約であり
民法90条に違反し無効であるか,(3)本件契約条項は私的独占の禁止及び公
正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)2条9項5号に基
づく一般指定14項の優越的地位の濫用又は13項の拘束条件付取引に当たる
行為であって公序良俗に反するか,であった。
これにつき原審の東京地裁は,平成18年8月1日,(1)本件契約条項によ
り,選手が球団に氏名及び肖像の使用を独占的に許諾したと解される,(2)本
件契約条項は不合理な内容の附合契約とはいえず民法90条に違反しない,
(3)本件契約条項は独占禁止法2条9項5号に基づく一般指定14項,13項
にも当たらないから公序良俗に反することはない等として,控訴人らの請求を
いずれも棄却した。そこで,一審原告たる控訴人らは,これを不服として本件
控訴を提起した。
5当審においては,前記争点のほか,本件契約条項が独占禁止法2条9項1号
に基づく一般指定1項2号の共同の取引拒絶に該当し無効であるかどうかも争
点とされた。
第3当事者の主張
1当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中
の「第2事案の概要等」及び「第3争点に関する当事者の主張」記載のと
おりであるから,これを引用する(ただし,「原告」とあるのを「控訴人」
と,「被告」とあるのを「被控訴人」と読み替え,「原告E)」とあるを
「E)」と訂正する。)。
2当審における控訴人らの主張
(1)本件契約条項の解釈(争点(1))について
ア原判決の誤り
原判決の本件契約条項の解釈は,契約に際しての内心的効果意思(下記
「(ア)」),外形的意思表示の認定(下記「(イ)」)の観点から誤りであ
る。
(ア)契約に際しての内心的効果意思
a内心的効果意思の探究姿勢の欠如あるいは認定の誤り
(a)内心的効果意思の探究の必要性
一般的な契約(意思表示)の解釈の手法としては,まずもって,
統一契約書に基づく選手契約が,当該選手と球団との間で契約が締
結された当時の,控訴人ら(「選手ら」という場合には控訴人らを
含む。)の内心的効果意思の探究が必要である。
(b)選手らの内心的効果意思
選手契約は毎年締結されるものであり,本件訴訟において控訴人
らが対象としている選手契約は,平成17年の12月から平成18
年1月にかけてのいわゆるシーズンオフ時に締結されたものである
ところ,これが締結された当時の選手らの内心的効果意思を具体的
に探究すると,その背景として以下の事情を考慮すべきである。
・社団法人日本野球機構(「野球機構」)が,選手らへの事前通知
もなく,選手の肖像等の使用に関して,平成12年4月から3年も
の長期にわたるプロ野球ゲームの独占的使用許諾契約をコナミ株式
会社との間で締結し,平成12年開幕時にコナミ株式会社以外の
ゲームメーカーによる野球ゲームが発売されなくなるという事態が
発生したことを契機に,球団側に肖像権の管理を委ねることは問題
なのではないかとの気運が高まった。
・それを受けて,平成12年7月22日の労働組合日本プロ野球選
手会の臨時大会において,控訴人らを含む選手会会員選手が,その
総意で,それまで球団側によって事実上管理されていた,プロ野球
カードや,プロ野球ゲームなどに対する選手の肖像等の使用(包括
的使用)に関する権利管理を,以後選手会が「肖像等に関する権利
に基づく使用許諾に関する委任状」(甲2)の書式に基づく,選手
の肖像権管理の委任を受けることによって管理することを決議し
た。
・これに基づいて,平成12年9月から11月にかけて,控訴人ら
を含む当時の選手会会員選手が,上記委任状を個別に選手会に提出
し,包括的使用に関する肖像権管理を委任した。
・これを受けて,平成12年11月17日付けで,選手会が,会員
選手の委任に基づいて,コナミ株式会社及び野球機構に対して,今
後は包括的使用に関して会員選手は選手会を通じて肖像権を行使す
る旨を明確に意思表示した(甲6,甲7)。
・その後も,平成14年8月の別件訴訟提起に至るまで,労使交渉
の場などにおいて,選手会は,統一契約書16条の解釈について,
プロ野球カード,プロ野球ゲームなどの商業的利用に関する球団へ
の利用許諾は含まれないものであることを一貫して主張してきた
(甲38,選手会ホームページ)。
・平成14年8月の別件訴訟提起後も現在に至るまで,一貫して同
様の主張を続けている。
・また,平成13年以降に入団した選手についても,春のキャンプ
における選手会への加入手続時において,肖像権に関する説明を行
った上で,上記委任状の提出を個別に受けていること。
(c)上記事情のもとに,控訴人らを含む選手会会員選手は,すべ
て,平成12年11月17日付け通知書(甲6,甲7)に明示的に
表示された意思,すなわち包括的使用に関する肖像権の管理は,選
手会に委任するものであって,球団には委任しないという意思J)
と,毎年選手契約を更新している。
さらに,現在の選手は,日本の統一契約書16条の「宣伝目的」
と同一の内容であるメジャーリーグの統一契約書(甲37)に関す
る米国判決(甲14)や韓国プロ野球の統一契約書に関する韓国裁
判所の判決(甲36)により,「宣伝目的」には選手の氏名及び肖
像の商品化目的使用が含まれないと考えていること,米国メジャー
リーグでは商品化目的使用に関しては選手の自由な意思によって肖
像権が行使されており,その多くをメジャーリーグの選手会(ML
BPA)が管理していること,財団法人日本オリンピック委員会
(JOC)のシンボルアスリート制度によりオリンピック候補選手
が肖像権をJOCに管理委託するか否かは選手の自由な意思に委ね
られていること(甲26)等の事実を知った上で,選手会に,包括
的使用に関する権利行使を委任している。
このように,選手らは,球団にもはや包括的使用に関する肖像権
管理を委任しないということを平成12年以降に明示した上で,そ
れに伴って生じる統一契約書16条の解釈に関する争いについての
交渉,訴訟等を選手会に委任した上で,毎年,統一契約書に基づく
選手契約を締結しているのであるから,当該選手契約を締結した選
手らは,商品化目的使用に関しては,球団の意思ではなく,選手の
自由な意思によって肖像権を行使するとの意思(内心的効果意思)
を有していることが明らかである。
そして,選手らは,これを平成12年以降,選手会を通じて,上
記事情記載のとおり明示的な意思表示として,積極的に外部に表明
している。
b選手らの内心的効果意思に関する原判決の認定とその誤り
(a)このように,原判決は,控訴人らが問題とするところの現在有
効な統一契約書に基づく選手契約(平成17年12月から平成18
年1月にかけて締結されたもの)に関する控訴人らの具体的意思を
検討することなく,統一契約書の制定経緯,運用実態を重視して結
論を導くという問題を有している。
(b)この点に関し,原判決は,昭和26年当時から平成12年に選
手会ないし選手らの一部の者が異論を唱えるようになるまでは,選
手側から明示的な異議はなかったこと(原判決87頁12行目)
や,その後,コナミ株式会社に対して提起したプロ野球ゲームソフ
トの販売差止訴訟(別件訴訟)を取り下げたこと(原判決85頁1
3行目),プロ野球ゲームソフトやプロ野球カードのメーカーに対
して,選手らの氏名及び肖像の使用差止を求めていないこと(原判
決85頁16行目以降)等を「原告らの態度」として取り上げ,あ
たかも選手らは,現在においても,肖像権を球団側が管理するとい
う運用実態に従うとの意思表示をしているかのような記述をしてい
る。しかしこれは,平成12年11月17日付けの上記通知書以
来,労使交渉の場や本件訴訟の場において控訴人らを含む選手らが
明示してきている意思表示に反するものである。
(c)そもそも,平成12年までは,選手側から明示的な異議はなか
ったといっても,平成12年以降は確実に異議を述べているのであ
って,平成12年11月17日付け通知書においても,球団からの
分配金は「損害賠償金の一部として受領するものであることを付言
いたします」とまで明白に述べているのであるから(甲6),これ
らを無視して異議はなかったと認定することは,法律行為の解釈と
して妥当でない。
(d)また,プロ野球ゲームソフトやプロ野球カードのメーカーに対
して,選手らの氏名及び肖像の使用差止めを求めていないというこ
とは,控訴人らを含む選手らが実現したいことの内容が,コナミ株
式会社の独占契約によって幅広い種類のゲームが販売されなくなる
という事態が生じたことをきっかけとして,もはやそのようなこと
が二度と起こらないように,球団ではなく選手らが自ら肖像権を選
手会で管理しようということであって,ゲーム使用を差し止めるこ
とにあるわけではなく,差止めによってゲームが出なくなることは
本来望んでいないからである。差止め請求をしていないということ
を根拠に,球団側が管理するという運用実態に従う意思表示をして
いるかのように認定することは,選手らの意思表示の解釈としてあ
りえない。
(イ)外形的意思表示としての統一契約書16条の文言の客観的な意味の
認定の誤り
a原判決は,控訴人らを対象とする選手契約が締結された時点におけ
る統一契約書16条の文言に表示されている客観的な意思表示,すな
わち外形的意思表示の解釈という意味においても誤っている。これ
を,以下の4点(「b」ないし「e」)に分けて述べる。
b控訴人らがそれまでの慣習によらない意思を明示しているのに,慣
習,運用実態を顧慮して,契約の解釈を行っている誤り
慣習を根拠に意思表示を解釈する場合は,当事者がその慣習による
という意思を有している必要がある(民法92条)ところ,大審院大
正3年10月27日判決(民録20号818頁)におけるとおり,事
実たる慣習によるべき意思をもってなすべき地位にあって取引する者
が,反対の意思を表示した場合は,当該事実たる慣習に従う意思を有
するものとは推定されないことが判例となっている。
前述のとおり,選手らは,平成12年に,従来の肖像権を球団側が
管理するという運用実態には従わず,選手会を通じて包括的使用に関
する肖像権を行使する意思を表示して以来(甲6,7),労使交渉の
場,本件訴訟を通じて,一貫して当該運用実態に従わないことを主張
し続けているのであるから,原判決のように,それまでの慣習や,運
用実態を参酌して契約(意思表示)の解釈を行うことは,法令(民法
92条)や,上記判例に違反する。
c平成17年ないし平成18年に締結された契約の解釈であるのにも
かかわらず,昭和26年当時の統一契約書の制定経緯(起草者意思)
を考慮している誤り
(a)本件で探究されなければならない契約当事者の意思(真意)
は,控訴人らが問題としている選手契約,すなわち平成17年12
月ないし平成18年1月に締結された契約における意思(真意)で
ある。
しかるに,原判決は,昭和26年当時の統一契約書16条の制定
経緯を詳細に述べて,これをもとに平成17年のシーズンオフに締
結された選手契約上の契約当事者の意思を認定している。もし,現
在問題となっている契約が,昭和26年当時のプロ野球選手と球団
との間のものであれば,上記認定姿勢は正しいともいえるが,それ
から60年近くも経ち,プロ野球ゲームの登場など,選手の肖像を
使った商品化が活発になり,ビジネスも近代化した現在において,
昭和26年当時の選手と現在の選手の意思が同じである必然性は全
くないばかりか,控訴人らを含む現在の選手らは,前述のようにこ
れまでの慣行に明示的に反対の意思を表明しているのであるから,
昭和26年当時の統一契約書の制定経緯(起草者意思)を考慮する
ことは,現在の契約の解釈の姿勢として誤りである。
つまり,原判決は,昭和26年における統一契約書制定経緯を検
討して,本件で問題となっている契約当事者の意思を認定している
が,かかる昭和26年当時の制定経緯を詳細に検討しても,昭和2
6年当時の選手の意思表示の内容の根拠にはなりこそすれ,それか
ら約60年経った現在における,選手契約の意思表示の解釈の根拠
にはなりえない。昭和26年当時の選手は,当時は存在しなかった
選手会に対して,権利管理を委任する意思を表示していなかったの
に対し,現在の選手は,そのような意思を明示的に表示しており,
意思表示を解釈するに当たって考慮すべき経緯,事情は明らかに異
なる。意思表示の主体も,その意思表示に関連して行っている行動
にも明らかに違いがあるのに,昭和26年当時の文言解釈を持ち出
して,現在の意思表示の解釈をしても意味がない。
(b)さらにいえば,原判決の認定は,起草者意思の考慮としても妥
当とは言えない。
すなわち,原判決は,「統一契約書が制定される以前から,球団
ないし日本野球連盟が他社に所属選手の氏名及び肖像を商品に使用
すること(商業的使用ないし商品化型使用)を許諾することが行わ
れていた」との実務慣行を認定しており,統一契約書16条は「か
かる実務慣行のあることを前提にして起案されたと解される」(原
判決86頁8行~9行)と判断しているが,根拠に乏しい。なぜな
ら,もし起草者がかかる実務慣行を前提にしていたのであれば,統
一契約書16条において,むしろ,それを含んだ形での,よりはっ
きりとした疑いのない文言で,そのような商品化使用の形態を含め
る文言を起草したはずであり,それは十分に可能であったはずであ
る。
つまり,原判決が認定しているように,統一契約書16条は,
「メジャーリーグの大リーグ契約条項を参考にして起案されたも
の」であり,米国統一契約書3条c項のpublicitypurposesには,
選手の氏名や肖像を商品化目的使用することが含まれないと解釈さ
れていることからすれば(原判決94頁(C判決。甲14),も
し,日本において選手の氏名及び肖像を商品に利用することの許諾
が行われていたという実務慣行を反映して契約書を起草するのであ
れば,商品化目的使用が含まれないpublicitypurposesを直訳する
のではなく,むしろ商品化目的使用を含むような別の文言を用いる
ことも十分可能であり,かつそうすべきであった。それにもかかわ
らず,統一契約書が制定された際,あえて米国統一契約書の
publicitypurposesをそのまま「宣伝目的」と訳し,日本の統一契
約書として制定したことを考えれば,むしろ,仮に日本において選
手の氏名及び肖像を商品に利用することの許諾が行われていたとい
う実務慣行が存在していたという前提に立つとしても,それを知り
ながらあえてそれを取り込まなかったとも解釈でき,取り込まなか
ったこと自体が不自然というべきである。
d相手方又は一般社会によってどのように理解されるか,という観点
から「宣伝目的」という意思表示の客観的意味を確定すべきなのに,
およそ国語的な意味を超えて拡大解釈してしまっている誤り
上記のように,統一契約書16条の客観的意味の確定に当たって,
慣行,運用実態や,統一契約書の制定経緯を考慮することが許されな
いとすれば,原則通り,統一契約書16条の文言が示す表示を相手方
又は一般社会がどう理解するかという,客観的,国語的な意味内容こ
そが重要となる。表示の客観的意味の確定に当たっては,当事者の用
いた表示手段が,当該事情のもとで,慣習・取引慣行や条理に従って
判断した場合に,相手方又は一般社会によってどのように理解される
か,を標準としなければならないとされており,過去の運用実態によ
らないことを選手らが明示している本件では,過去の運用実態を除外
した形で,「相手方又は一般社会によってどのように理解されるか」
を判断しなければならない。
この点,統一契約書16条1文の「宣伝目的」は,通常の国語的な
意味であれば,文字通り「宣伝」のためと解釈され,通常それ以上に
「販売目的」であるかのように解釈されたり,「公益目的」「慈善活
動目的」であるかのように解釈されることは国語的な解釈としてあり
得ない。しかし,原判決が「宣伝目的」の解釈として示しているのは
「広く球団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的」というもの
であり,そうであれば,宣伝目的,販売目的はおろか,プロ野球の知
名度向上に資するものである限り,公益活動,慈善活動や,ひいて
は,「選挙活動目的」なども含まれることになり,例えば特定の球団
のオーナーが選挙に出馬する場合に無断で選手の肖像を使うことさえ
可能になってしまう。
本件で問題となっている「宣伝目的」に,「商品化目的」が含まれ
るかという点についても,少なくとも,現在の契約が締結された平成
17年のシーズンオフの時点では,Jリーグの例,メジャーリーグの
例,韓国プロ野球の例にみられるように,「宣伝目的」と「商品化目
的」が違うものを指し示す概念として区別されていることは明らかで
あり,双方が違う概念であるということは,現在では当然の認識にな
っている。原判決のように,肖像権の宣伝目的使用と商品化目的使用
について,両者を明確に区別することは難しい(原判決90頁下2
行)という理由で,「宣伝目的」を「広く球団ないしプロ野球の知名
度の向上に資する目的」などというように極端に広く認定することは
許されない。
なお,原判決は,統一契約書16条1項の「いかなる方法でそれら
を利用しても」との文言が肖像権の利用態様について限定していない
ことをも根拠として,「宣伝目的」の広い解釈を導いている(原判決
87頁)が,利用手段と利用目的は別個の概念であり,利用手段に限
定がないからといって,利用目的も広範に解釈されることにはならな
い。
さらに,原判決は,統一契約書16条1項には,球団が第三者に対
して使用許諾することも含まれると解釈しているが,これも明らかに
問題がある。すなわち,統一契約書16条1項の文言では,明らかに
「球団が」「それらを利用しても,異議を申し立てないことを承認す
る」と書いているのであって,これに明確に反して,第三者に対する
使用許諾権限が含まれると認定することは,契約の解釈として逸脱し
ている。
eいわゆる「不明確条項解釈準則」に照らしての誤り
また,原判決の認定に対しては,契約の解釈について複数の解釈可
能性が残る場合の解釈方法として,判例でも採用されている法理であ
って講学上「不明確条項解釈準則」と呼ばれている準則との関係での
誤りを,あわせて指摘できる。
講学上「不明確条項解釈準則」とは,「法律行為・契約あるいは約
款の解釈の際に,他の解釈方法によっては明確な結論が得られず,複
数の解釈可能性が残る場合に,一定の基準に従い一方当事者に有利
に,したがって他方当事者の負担でそれらの解釈可能性のひとつを選
択する準則」とされており,具体的には,「解釈の際に疑いが残る場
合,その契約文言を用いた当事者に不利に解釈しなければならない」
(「表現使用者に不利に」型不明確条項解釈準則),「債務の大小あ
るいはその他の義務の軽重に疑いがある場合,より小さい債務,ある
いはより軽い義務が負わされているものと解釈すべきである」(「義
務者に有利に」型不明確条項解釈準則)などがあるとされている。
最高裁判所第二小法廷平成13年4月20日判決(平成10年
(オ)第897号事件)補足意見においては,約款の解釈について,
「本件約款が,保険契約と保険事故一般に関する知識と経験において
圧倒的に優位に立つ保険者側において一方的に作成された上,保険契
約者側に提供される性質のものであることを考えると,約款の解釈に
疑義がある場合には,作成者の責任を重視して解釈する方が当事者間
の衡平に資する」と指摘されている(なお,同日判決された平成12
年(受)第458号事件においても同様の指摘がある)。これも上記
の「表現使用者に不利に」型準則を採用したものと評価できる。
上記法理を本件について当てはめてみると,そもそも,「統一契約
書条項の追加,変更ならびに廃止にかんする事項」は,「実行委員会
において審議すべき事項」とされ(野球協約17条1項5号),実行
委員会は「この組織に属する連盟会長各1名と,それぞれの連盟を構
成する球団を代表する球団役員各1名を委員として構成する」(野球
協約13条)とされているため,その作成は基本的に選手の関与な
く,球団側によって一方的に行われるものである。また,野球協約1
7条1項5号の「実行委員会において審議すべき事項」には,野球協
約そのものも含まれているため,野球協約についても選手らはその作
成に関与することができない。加えて,野球協約47条には,1項に
おいて,「統一契約書の条項は,契約当事者の合意によっても変更す
ることはできない。」と定められており,野球協約の規定ならびに統
一契約書の条項は,選手らの意思によって変更することが認められて
いない。つまり統一契約書における「表現使用者」は,球団側であ
る。
そして,上記のような性質から,野球協約や統一契約書は,一般に
約款と同様の性質を有する附合契約であることが指摘されており(甲
22,23),約款については,上記に照らしても,明らかに「表現
使用者に不利に」準則を採用すべき事例といえる。
とすれば,球団側の主張する解釈内容を全面的に肯定している原判
決は,判例においても認められている不明確条項解釈準則に反するも
のと評価できる。
なお,これに対して,原審における球団側の主張からすれば,参稼
報酬の点は自由な交渉によるものであるため,統一契約書は約款ある
いは附合契約ではないとの反論が考えられるが,仮にその前提に立つ
としても,そもそも,「表現使用者に不利に」型不明確条項解釈準則
は,約款によらない契約の場合であっても,契約文言を用いた当事者
に契約内容の不明確さを生み出したことに対する過失ないし帰責事由
が存在した場合は適用されるものであると評価され,そうである以
上,約款によらない契約であっても当事者間の力関係から相手方当事
者に契約内容の形成に関与する余地がなかった場合といえる本件に,
まさに当てはまるものであるといえる。
イ追加主張
控訴人らは,本件契約条項の解釈について,上記にならい,以下のとお
り契約当事者である控訴人らと被控訴人らのそれぞれの内心的効果意思を
主観的事情と称して(下記「(ア)」),本件契約条項における外形的な意
思表示内容を客観的事情と称して(下記「(イ)」),それぞれ以下のとお
り主張する。
(ア)主観的事情
a球団による肖像権管理につき,本件契約条項に法的根拠があるとい
う共通認識は,選手と球団との双方ともにないこと
(a)球団は,長期間にわたり球団が選手の肖像権管理を行ってき
た。しかし,そのような肖像権管理が本件契約条項に基づくもので
あるという認識は,平成12年11月のプロ野球選手会による自主
管理通知(甲6)の以前,以後の,いずれの段階でも,球団と選手
の間には存在しなかった。
(b)上記自主管理通知以後の認識
控訴人らを含む,選手会に所属する現役日本人選手は,選手契約
締結時における本件契約条項についての認識について,本件契約条
項に基づいて球団が商品化目的で肖像権を使用許諾する権利を有し
ているとは認識していないことを陳述している(甲39ないし6
6,73ないし90等,控訴人古田敦也本人尋問,控訴人宮本慎也
本人尋問)。
したがって,控訴人らを含む選手は,本件契約条項に基づき球団
が商品化目的で肖像権を使用許諾する権利を有していないことを明
確に認識している。
なお,控訴人ら選手は,以前は,本件契約条項に基づき球団が肖
像権を管理しているという認識をしたにもかかわらず,自主管理通
知(甲6)を通じて,これを変更したものではない。
すなわち,控訴人ら選手(特に自主管理通知以前に入団している
控訴人古田敦也や控訴人宮本慎也)は,当初は,旧来より続いてき
た,本件契約条項と結び付かない形での球団による肖像権の管理実
態に触れ,特に本件契約条項に基づいて球団が肖像権を管理してい
るという認識をもっていなかった(甲65,66)。
このような認識の中で,球団による肖像権管理において,例え
ば,平成4年から開始されたゲームソフトの実名使用に関して,球
団がゲームメーカーから金銭を受け取りながら数年間選手に分配し
ていなかったこと(甲19)などが,一部の選手から問題ではない
かという指摘が上がり,また,平成8年からの12球団での統一的
な使用料分配開始後も,選手の取り分が2割あるいは3割しかな
く,球団に著しく有利な,公平とはいえない分配率を定めていたこ
と(甲20,21)など,肖像権管理において最も重要である肖像
権料の分配について多大な問題があると認識し始めた。そこで,控
訴人ら選手は,肖像権に関する法的関係を正確に把握したいと感
じ,選手会として弁護士を雇い,本件契約条項の詳細な調査を依頼
し,その回答に伴い,球団による肖像権の管理は本件契約条項に基
づくものではないとの明確な認識を持つにいたった(甲65,6
6)。
なお,その後も,野球カードの肖像権料について,被控訴人ベイ
スターズが昭和48年から30年間にわたって分配していなかった
こと(甲65,76ないし78)など,肖像権料の分配についての
問題点が明らかになった。
このような中,実際の市場におけるゲームソフトの販売が減少す
るという異常事態を招くことになった,コナミ株式会社の独占契約
という,著しく不合理かつ,選手の意思を無視した契約内容を球団
が一方的に結んだという問題(平成12年のコナミ問題)が生じた
ことによって,控訴人ら選手は,球団による肖像権の管理に関する
強い問題意識を持つに至り,平成12年7月の選手会臨時大会にお
いて肖像権を自主管理することなどを決議し,平成12年11月1
7日,野球機構に対して,自主管理通知(甲6)を行った。
また,時代を同じくして,平成4年に開幕した日本プロサッカー
リーグ(Jリーグ)において,肖像権の取扱いに関して,選手の意
思が反映される形となっていたこと(甲9,10)や,オリンピッ
ク選手の肖像権をJOCが一方的に管理していた制度が問題とさ
れ,肖像権管理に関して選手の意思が反映される制度に改められて
いったという時代背景(甲26)も手伝い,選手は,肖像権は選手
の権利であり,自らの意思に基づいて管理することができるもので
あるという認識が広まっていった。
したがって,控訴人ら選手は,特に本件契約条項に基づいて球団
が肖像権を管理しているという認識をもっていなかった中で,球団
による肖像権管理の問題点を認識し,肖像権の権利意識を高める中
で,本件契約条項に基づき球団が商品化目的で肖像権を使用許諾す
る権利を有していないことを明確に認識したのであって,本件契約
条項に関する従前の認識を変更したものではない。
(c)自主管理通知以前の認識
控訴人ら選手は,球団から,本件契約条項に基づいて球団が肖像
権を管理していることの説明を受けたことはなく,本件契約条項に
基づき球団が選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を
有するとは認識していなかった。
この点,控訴人らを含む選手は,その所属球団に対する入団以
来,球団から本件契約条項に基づいて球団が肖像権を管理している
ことの説明を受けたことはないことを陳述している(甲53ないし
66,73ないし甲90,控訴人古田敦也本人尋問,控訴人宮本慎
也本人尋問)。
また,自主管理通知(甲6)以前は,そもそも球団でさえも,本
件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していたと認識していなか
ったと思われ,それゆえ選手らに対して,本件契約条項に基づき球
団が肖像権を管理していたという説明を行うこともできなかったと
考えられる。
すなわち,球団が,本件契約条項に基づき肖像権を管理している
と明確に主張し始めたのは,それまでの肖像権管理と本件契約条項
の関連性を否定した自主管理通知(甲6)に対する回答(甲98)
以来である。それまで球団は,肖像権の取扱いに関する協議の場を
含めて,本件契約条項に基づき球団が選手の氏名・肖像を商品化目
的に使用許諾する権利を有するとの見解を表明したことはなく,ま
た,本件契約条項に基づき球団が選手の氏名・肖像を商品化目的に
使用許諾する権利を有するとの認識を持っていたとの証拠も見られ
ないことから,そもそも球団でさえも,本件契約条項に基づき球団
が肖像権を管理していたと認識していなかったと考えるのが素直で
ある。
加えて,ゲームソフトにおける肖像権使用料の分配率に関する協
議の際,機構委員は,「商標権については機構が,肖像権の方は選
手会が直接ソフトメーカーと交渉すればよい」(平成8年第2回選
手関係委員会議事録,甲20)などと発言し,本件契約条項に基づ
き球団が肖像権を管理しているという被控訴人ら球団の見解と真っ
向から対立する発言を行っていた。このような発言は,球団が肖像
権の管理を行っている根拠が本件契約条項にあることを認識してい
た上での発言とは考えられず,球団も本件契約条項に基づき球団が
肖像権を管理しているとは認識していなかった一つの事例である。
また,同じ協議の際,選手会からの「すると選手もメーカーと契
約できるということか」との問いに対して,機構委員は,「個人の
資格なら可能であっても○○球団の××選手となると問題である
し,球団の帽子やユニフォームの着用はできない」(平成8年第2
回選手関係委員会議事録4頁12行目13行目,甲20)とも発言
している。被控訴人ら球団の見解に立つのであれば,選手の肖像権
は一律球団が管理することになり,たとえ「個人の資格」であって
も,メーカーとは契約できないはずであるから,上記機構委員の発
言は,球団が肖像権の管理を行っている根拠が本件契約条項にある
ことを認識していた上での発言とは考えられず,これもまた,球団
も本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理しているとは認識して
いなかった一つの事例といえる。
そして,球団が,本件契約条項に基づいて肖像権を管理していた
ことを明確に認識していたのであれば,本件契約条項2項により
「適当な分配金」が支払われるはずである。しかしながら,ゲーム
ソフトにおいて平成4年から選手の氏名の使用が開始されたものの
(甲69),その肖像権使用料が当初分配されていなかった(甲1
8)ことや,被控訴人ベイスターズのように昭和48年から平成1
6年まで選手に対して野球カードの肖像権使用料を支払ってこなか
った事例も存在する(甲65,77など)。このような本件契約条
項と明らかに反する事実が存在することからすれば,球団が本件契
約条項に基づき肖像権を管理していると認識しているとは到底思え
ない状況にあった。
なお,球団が本件契約条項に関する明確な解釈を選手に対して通
知した(甲98)時期より後であっても,球団が肖像権の管理を行
っている根拠が本件契約条項にあることを認識していたことと矛盾
する発言,行動をしている。
例えば,被控訴人巨人軍は,平成13年2月21日,読売ジャイ
アンツ選手会とミーティングを持った際(乙110の1),肖像権
問題に関して,選手に対して,球団が本件契約条項に基づき肖像権
を管理していることを説明したと主張しており,Bがその前日作成
したメモ(乙110の2)には,「簡単に言えばユニフォーム姿の
選手の肖像については,球団が権利を持っていて,宣伝などに使っ
てもいいことになっている」と記載されている。しかしながら,B
が,本件契約条項に基づいて球団が肖像権を一律管理しているとい
う球団の見解を明確に認識していたのであれば,この際,「ユニフ
ォーム姿の選手の肖像」などと限定をつける必要はなく,Bが本件
契約条項の解釈について明確に認識していたかどうかを疑わせる。
また,Bは選手に対する説明について,Bが作成したメモの「宣伝
など」に商品化が含まれるかという質問に対して,「当然含まれる
という理解で話をしました」「・・宣伝などという中に商品化も含
まれるという理解で,説明をしました。」「その後,収益があった
場合の分配率について定めていますので,それは当然商品のことも
含まれているという風に理解してもらっています」と回答し,最終
的に,具体的な言葉で「宣伝など」に商品化が含まれるとは説明し
ていないことが明らかになっている(証人B)。
したがって,被控訴人巨人軍も,本件契約条項に基づき肖像権を
管理することを明確に認識できていなかったし,また,その説明を
受けた選手も本件契約条項に基づき球団が商品化目的で肖像を使用
することができるとは認識できていなかったのである。
また,被控訴人マリーンズは,所属選手がプロ野球選手のトレー
ディングカード入りラムネ菓子に関与した際,商品の広告に関与し
たケースとして本件契約条項3項の問題であることを明言している
(乙84)。しかし,このトレーディングカード入りラムネ菓子
は,野球カード付ポテトチップスであるカルビー社の野球チップス
と同様に,選手の肖像を商品のノベルティに利用する場合である。
本件契約条項に基づき球団が商品化目的で肖像権を使用許諾できる
権利を有しているのであれば,このラムネ菓子の問題は本件契約条
項1項の問題である。このように被控訴人マリーンズは,本件契約
条項1項の正確な解釈,運用を認識できていなかった。とすれば,
この時期にいたっても,未だ12球団において,正確かつ統一的な
本件契約条項の解釈を認識できておらず,被控訴人マリーンズの上
記見解の表明は,肖像権の管理における本件契約条項に対する意識
が希薄であった事実を示すものであるといえる。
b肖像権管理に関する各球団内での共通認識の欠如
(a)被控訴人巨人軍
α控訴人ら選手の認識
被控訴人巨人軍に所属する控訴人高橋由伸及び控訴人阿部慎之
助,(訴外)Cは,選手契約締結時において,本件契約条項に基
づいて被控訴人巨人軍が選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許
諾する権利を有しているとは認識していないことを陳述している
(甲73,74,106)。
また,その他の被控訴人巨人軍に所属する選手も,平成18年
11月10日,読売ジャイアンツ選手会長であった控訴人高橋由
伸を通じて,平成19年に向けての選手契約締結に当たり,本件
契約条項に基づいて被控訴人巨人軍が選手の氏名・肖像を商品化
目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していないことを
通知している(甲48)。
さらに,控訴人高橋由伸及び控訴人阿部慎之助,Cは,被控訴
人巨人軍への入団以来,被控訴人巨人軍から本件契約条項に基づ
いて被控訴人巨人軍が肖像権を管理していることの説明を受けた
ことはないとも陳述しており(甲73,74,106),本件契
約条項に基づいて被控訴人巨人軍が選手の氏名・肖像を商品化目
的に使用許諾する権利を有しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
この点,被控訴人巨人軍は,球団担当者の発言や陳述書(乙7
4,76,106,107),関連する「平成6年ころに作成さ
れた「お知らせ」という文書や平成12年初めに作成された「わ
かる野球協約」という文書」(乙76),「統一契約書の抜粋」
(乙108の1,2),球団OBらの認識(乙87,92,9
3,100),S)選手800号記念メダル事件における仮処分
命令申請書の記載(乙99の15)などにより,選手に対して,
球団見解を説明してきたため,選手は本件契約条項に基づき球団
が肖像権を管理していると認識していると主張する。
しかし,Dの陳述書(乙76)には,本件契約条項に基づいて
球団が肖像権を管理している旨を説明したという明確な記述はな
く,球団による説明の事実は明らかになっていない。また,陳述
書に添付される参考資料「お知らせ」や「わかる野球協約」につ
いては,ゲームソフトや野球カードに関して,本件契約条項1項
に基づいて球団が肖像権を管理していることは,一切記載されて
いないし,所属選手に対して配布された事実も明らかでない(甲
74)。S)選手800号記念メダル事件における仮処分命令申
請書の記載については,その該当当事者であるS)選手が「統一
契約書の条項の解釈や運用等に関して議論になったこともありま
せんでした。」と陳述しており(乙87),そもそも本件契約条
項について正確に認識していたのか定かでないし,S)選手以外
の選手が当該申請書の記載を読んだ可能性は極めて低く,当時の
選手が本件契約条項に基づき球団が管理していることを認識して
いたことを裏付けるものではない。
また,大家重夫「肖像権」(新日本法規出版株式会社・昭和5
4年5月9日発行)に,「読売巨人軍は,選手の肖像権について
権利をもっている。根拠は,統一契約書様式第一六条である」と
の記載がなされている(甲120,乙74)が,そもそもこの記
述では,球団が選手の肖像権のどの部分について権利を有してい
るのかは定かではないし,単に1学者が自身の見解を述べたに過
ぎないものとも解釈しうる。また,この書籍において,被控訴人
巨人軍のEが,大家重夫の「S)選手と個人的に知り合いだから
といって,その肖像を撮って商品に使うことはできない,そうい
うことは選手はみな承知しているわけですね」との問いに対し
て,「そうです」と回答している部分がある(乙74)が,この
E自体が,事実上球団が肖像権を管理していることからこのよう
な発言を行っているのか,本件契約条項を明確に認識していたの
かは全く定かではないし,球団による管理が疑問なく当然とされ
ていた時代についての発言であることからすれば,控訴人ら選手
の認識を左右するものではない。
Bの陳述書(乙106)については,選手から球団グッズの作
成依頼があったこと(乙111の1の2)やインターネットオー
クションへの対応(乙112の1,2)その他写真撮影の制限
(乙110の1,乙112の1,2)を要請してきたことをもっ
て,被控訴人巨人軍が肖像権を管理していることを選手が認めて
いる旨が記載されているものの,球団グッズに関する肖像権を球
団が管理することは選手らも特に反対しておらず(甲84,8
5,87),グッズの作成やインターネットオークションへの対
応を球団に依頼したとしても,本件契約条項により球団が選手の
肖像権一切を管理することを承諾していることにはならず,まし
てや本件で問題となっているゲームソフトや野球カードについ
て,本件契約条項により球団が選手の肖像権を管理していること
を認めていることにはならない。写真撮影の制限(乙110の
1,112の1,2)については,練習所やキャンプ中の宿舎の
管理権限を被控訴人巨人軍が有しているから選手は被控訴人巨人
軍に依頼しているにすぎず,そもそも被控訴人巨人軍による肖像
権の管理と何ら関係のない事実である。さらに,Bは,証人尋問
の中で,平成13年の春のキャンプ選手会との話合いの際,「肖
像権の管理というのは,統一契約書16条に基づいて球団が行っ
ていること」を選手に伝えたと証言している(証人B,乙110
の2)が,あくまで肖像権問題の記載があるのは,話合いが行わ
れた2月21日の前日にBが作成したメモにすぎず,実際の話合
いの際に,Bがどのように話したのかは明確にはなっていない。
この点,この話合いに出席していた,当時被控訴人巨人軍に所属
していたFは,Bの説明内容について,「被控訴人巨人軍から統
一契約書の条文を示して,その条文を根拠に球団が肖像権を管理
しているとの説明はなかったと思います」と陳述しており(甲1
07),Bが本件契約条項の解釈を説明したわけではなかったこ
とが明らかになっている。そして,Bが肖像権問題について説明
を行おうと思った経緯は,Bも認めているとおり,「選手会から
包括的な肖像権の使用は選手会で管理したいという旨の通知が日
本野球機構のほうに届いておりました。それを受けて説明してお
く必要があるだろうということで準備したものです」(証人B)
とあり,選手は既に自主管理通知(甲6)により,本件契約条項
に基づいて球団が肖像権を管理する権限がないことを明確にして
いたのであるから,Bからこのような説明があったとしても,何
ら選手の認識に変化が生じることはない。
加えて,Gの陳述書(乙107)においては,新人研修会の
際,「肖像権に関しても,「統一契約書の抜粋」のページに16
条が引用してある通り,選手に音読させました。さらに私は「肖
像権は球団が管理しています」ということも説明しました。」と
記載されているものの,そもそもこの「統一契約書の抜粋」は,
統一契約書の条文がそのまま記載されているにすぎず,その解釈
や運用実態との関連性について何ら言及はされていない(乙10
8の1,2)のであるから,選手は具体的にゲームソフトや野球
カードに関して,被控訴人巨人軍が本件契約条項に基づいて肖像
権を管理していることを認識しえない。さらには,「この肖像権
については,現在,選手会と解釈の違いがあります。選手会の見
解については,選手会に聞いて下さい」(乙108の1)と記載
されており,Gは,新人研修会において,被控訴人巨人軍の見解
を単に球団の見解として説明したにすぎず,選手会の見解を認識
する余地が十分にあることが明らかになっていることからすれ
ば,選手が被控訴人巨人軍の見解どおりに本件契約条項を解釈し
ているとする証拠としては著しく不十分である。そして,新人研
修会に参加した被控訴人巨人軍に所属するCは,新人研修会の後
に,選手会から肖像権問題に関する説明を受け,選手会の説明に
納得し,本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理するものでは
ないことを明確に認識していることを陳述している(甲10
6)。さらに,Gは,以前,入団2年目であった当時被控訴人巨
人軍に所属していたFに対し,統一契約書には,選手にとって
「不利なことは書いていないから読まなくていい」などと発言し
ており(甲107),このような発言を行っていた姿勢からすれ
ば,新人研修会において,Gが,本件契約条項について,どれだ
け正確に説明していたかは疑問を差し挟まざるを得ない。
以上からすれば,被控訴人巨人軍は,少なくとも,控訴人ら選
手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約条項
に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による肖像
権管理について,本件契約条項が法的根拠であるという共通認識
は存在しなかった。
(b)被控訴人ヤクルトにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人ヤクルトに所属する控訴人宮本慎也及び控訴人古田敦
也,(訴外)Iは,選手契約締結時において,本件契約条項に基
づいて被控訴人ヤクルトが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用
許諾する権利を有しているとは認識していないことを陳述してい
る(甲65,66,75,控訴人宮本慎也本人尋問,控訴人古田
敦也本人尋問)。
また,その他の被控訴人ヤクルトに所属する選手も,平成18
年11月10日,被控訴人ヤクルト選手会長であったIを通じ
て,2007年〔平成19年〕シーズンに向けての選手契約締結
に当たり,本件契約条項に基づいて被控訴人ヤクルトが選手の氏
名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識
していないことを通知している(甲47)。
さらに,被控訴人ヤクルトに所属するIは,被控訴人ヤクルト
への入団以来,被控訴人ヤクルトから本件契約条項に基づいて被
控訴人ヤクルトが肖像権を管理していることの説明を受けたこと
はないとも陳述しており(甲75),本件契約条項に基づいて,
被控訴人ヤクルトが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾す
る権利を有しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人ヤクルトは,選手契約書のコピーを配布してきたこ
と,コマーシャル契約が本件契約条項の規律を受けるものである
ことを説明してきたこと(乙77),球団OBの認識(乙90)
などにより,選手に対して球団見解を説明してきたため,選手は
本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していると認識してい
ると主張する。
しかし,そもそも12球団の多くの球団において,平成13年
以降統一契約書のコピーが配布され始めたのは,平成12年に統
一契約書の年俸に関する表記をNPBが勝手に「(税込)」と消
費税を含んで表示する形に変更したことから,12球団の全体の
選手会でこれが問題になったためである(甲85,89,11
3)。実際,控訴人古田敦也が所持しているコピーのうち,平成
12年度以前の契約書のコピーは,期日内において,裁判官に直
接検証いただいたとおり,すべて同質の用紙であり,いずれも用
紙の質の経年劣化に差異は存在しないのであり(甲96の1~1
5),平成13年からコピーが配布された事実を示している。
以上により,被控訴人ヤクルトのJ(乙77),K(乙11
7)の1993年から統一契約書の正本あるいはコピーを渡して
いたとの陳述は,何ら信用できないものである。
また,選手が球団と別途締結しているコマーシャル契約など
は,本件契約条項3項の「商品の広告に関与」する場合に球団に
承諾が必要であることを示すものにすぎず,本件契約条項1項の
文言解釈について,球団,選手の認識を明確にしたものではな
い。
球団OBの陳述書(乙90)についても,陳述したL自身も
「毎年の契約更改は球団事務所で行いましたが,…この時は選手
の氏名や肖像についての話などは出たこともありません。」と述
べている(乙90)ことからすれば,過去に本件契約条項に関す
る球団見解に関する説明が行われたとはおよそ考え難い。
以上からすれば,被控訴人ヤクルトは,少なくとも,控訴人ら
選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約条
項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,したがって,
球団による肖像権管理が本件契約条項に基づくものであるという
共通認識(共通の法意識)は存在しなかったものである。
(c)被控訴人ベイスターズにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人ベイスターズに所属する控訴人鈴木尚典,控訴人三浦
大輔及び控訴人相川亮二は,選手契約締結時において,本件契約
条項に基づいて被控訴人ベイスターズが選手の氏名・肖像を商品
化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していないこと
を陳述している(甲76ないし78)。
また,その他の被控訴人ベイスターズに所属する選手も,平成
18年11月10日,被控訴人ベイスターズ選手会長であった控
訴人相川亮二を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約
締結に当たり,本件契約条項に基づいて被控訴人ベイスターズが
商品化目的で肖像権を使用許諾する権利を有しているとは認識し
ていないことを通知している(甲50)。
さらに,控訴人鈴木尚典,控訴人三浦大輔及び控訴人相川亮二
は,被控訴人ベイスターズへの入団以来,被控訴人ベイスターズ
から本件契約条項に基づいて被控訴人ベイスターズが肖像権を管
理していることの説明を受けたことはないとも陳述しており(甲
76ないし78),本件契約条項に基づいて被控訴人ベイスター
ズが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有して
いるとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人ベイスターズは,横浜ベイスターズ選手会との間の覚
書(乙78,118)や,本件契約条項に言及した広告出演契約
書の写し(乙78),選手OBの認識(乙101)などにより,
選手に対して球団見解を説明してきたため,選手は本件契約条項
に基づき球団が肖像権を管理していると認識していると主張す
る。
まず,被控訴人ベイスターズと横浜ベイスターズ選手会との間
の協力金に関する覚書(乙78)については,そもそも覚書の記
載内容自体,「甲主催の行事」と行事が前提とされ,野球ゲーム
ソフトや野球カードに関する本件契約条項の球団見解とは何ら関
係のないものであり,また,控訴人鈴木尚典,控訴人三浦大輔及
び控訴人相川亮二という歴代の選手会長が述べるとおり(甲76
ないし78),当該覚書締結時に本件契約条項に関する球団見解
は明確に示されていなかった。
本件契約条項に言及した広告出演契約書(乙78)について
も,そもそも本件契約条項3項の問題であり,同1項に関する球
団の認識を示したものではないし,選手自身がサインしておら
ず,控訴人鈴木尚典,控訴人三浦大輔及び控訴人相川亮二がその
ような広告出演契約書のコピーをもらったことがなければ,CM
出演の際に本件契約条項の説明を受けたこともないと陳述してい
る(甲76ないし78)ことからすれば,選手への契約書の配布
あるいは内容の説明があったのかすら疑われる。
また,球団OBMの陳述書についても(乙101),本件契約
条項の条文解釈が示されたなどの記述はないことからすれば,球
団が本件契約条項の球団の見解を明らかにしたことを示すもので
はない。
以上からすれば,被控訴人ベイスターズは,少なくとも,控訴
人ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契
約条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団によ
る肖像権管理は,本件契約条項が法的根拠であるという共通認識
はなかったのである。
(d)被控訴人ドラゴンズにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人ドラゴンズに所属する控訴人井端弘和は,選手契約締
結時において,本件契約条項に基づいて被控訴人ドラゴンズが選
手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有していると
は認識していないことを陳述している(甲80)。
また,その他の被控訴人ドラゴンズに所属する選手も,平成1
8年11月10日,被控訴人ドラゴンズ選手会長であったNを通
じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結に当たり,本
件契約条項に基づいて被控訴人ドラゴンズが選手の氏名・肖像を
商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していない
ことを通知している(甲46)。
さらに,控訴人井端弘和及び(訴外)N,(訴外)Oは,被控
訴人ドラゴンズへの入団以来,被控訴人ドラゴンズから本件契約
条項に基づいて被控訴人ドラゴンズが肖像権を管理していること
の説明を受けたことはないとも陳述しており(甲79ないし8
1,109),本件契約条項に基づいて,被控訴人ドラゴンズが
選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有している
とは認識していない。
β被控訴人ら球団の主張への反論
被控訴人ドラゴンズは,球団担当者の陳述書(乙23,43,
79,119),関連する「肖像権配分率」という一覧表(乙7
9),「選手肖像の管理及び分配について詳しく説明した文書」
などにより,選手に対して球団見解を説明してきたため,選手は
本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していると認識してい
ると主張する。
しかしながら,Pの陳述書(乙79)は虚偽の内容を含むもの
であり(甲79),担当者Qの陳述書(乙23,43)は,相反
する内容を記載する。そもそもこのような球団担当者の陳述書
(乙23,43,79,119)の信用性自体が疑わしいものと
もいえ,球団が選手に対して,本件契約条項に基づいて球団が肖
像権を管理していることを説明していたかどうかは定かではない
上に,控訴人井端弘和,N,Oともに,被控訴人ドラゴンズか
ら,本件契約条項に基づいて球団側が選手の肖像権を管理してい
るというような説明を受けたこともないと陳述している(甲79
ないし81,109)。
また,被控訴人ドラゴンズのいう「選手肖像の管理及び分配に
ついて詳しく説明した文書」とはそもそも何なのか立証されては
おらず,「肖像権配分率」という一覧表(乙79)にはその使用
が本件契約条項に基づくものであるとの記載は一切ないのである
から,選手がこの記載から,本件契約条項に基づき球団が選手の
氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有すると認識する
ことができるものではない。
以上からすれば,被控訴人ドラゴンズは,少なくとも,控訴人
ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約
条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による
肖像権管理が本件契約条項に基づくものであるという共通認識は
なかったものである。
(e)被控訴人タイガースにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人被控訴人タイガースに所属する控訴人今岡誠は,選手
契約締結時において,本件契約条項に基づいて被控訴人タイガー
スが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有して
いるとは認識していないことを陳述している(甲82)。
また,その他の被控訴人タイガースに所属する選手も,平成1
8年11月10日,被控訴人タイガース選手会長であった控訴人
赤星憲広を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結
に当たり,本件契約条項に基づいて被控訴人タイガースが選手の
氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認
識していないことを通知している(甲40)。
さらに,控訴人今岡誠及び控訴人赤星憲広は,被控訴人タイ
ガースへの入団以来,被控訴人タイガースから本件契約条項に基
づいて被控訴人タイガースが肖像権を管理していることの説明を
受けたことはないとも陳述している(甲82,83,110)。
以上により,被控訴人タイガースに所属する控訴人ら選手は,
本件契約条項に基づいて被控訴人タイガースが選手の氏名・肖像
を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していな
い。
β被控訴人ら球団の主張への反論
被控訴人タイガースは,球団担当者の陳述書(乙80,12
0),「商標・肖像権に関する使用許諾基準」(乙80),「肖
像権のしおり」(乙80),「野球協約要項」(乙120),顧
問弁護士による若手研修会における説明(乙120),R選手と
の「契約書」(乙98),被控訴人タイガースOBであるS,
T,Uの陳述書(乙95ないし97)などにより,選手に対し
て,球団見解を説明してきたため,選手は本件契約条項に基づき
球団が肖像権を管理していると認識していると主張する。
しかし「商標・肖像権に関する使用許諾基準」(乙80)は,
その記載から,球団内部の内規として作成されたものであること
は明らかであり,そもそも本基準の記載には本件契約条項に言及
する部分もなく,選手に配布された事実は何ら立証されていない
ことからすれば,選手に対して,本件契約条項に関する球団見解
を示したものともいえない。
また,「肖像権のしおり」(乙80)に関しても,「昭和56
年度」との記載がされるものの,選手に配布されていたかは何ら
立証されていない。この点,昭和56年シーズンから被控訴人タ
イガースに入団し,昭和61年まで在籍したVは,この「昭和5
6年度」とされる「肖像権のしおり」を含め,肖像権の取り扱い
を定めた冊子を受け取ったことはないと陳述しており(甲11
8),また,「肖像権のしおり」11頁以降に記載されている球
団登録選手の肖像権使用契約(昭和56年度)についても締結さ
れた事実は明らかになっていないのであるから,「肖像権のしお
り」の内容について,選手に対する説明があったのかも定かでは
ないのである。仮に選手に配布されていたとしても,昭和48年
から発売が開始している野球カード(乙2)に関する肖像権の使
用については,一切その記載はなく,野球カードに関して球団が
肖像権を管理していたことを説明した事実は全く見当たらない。
もちろん,控訴人今岡誠や控訴人赤星憲広は,「肖像権のしお
り」を含め,「肖像権のしおり」と似たような冊子を受け取った
こともなければ,被控訴人タイガースから選手の肖像の使用につ
いて,説明を受けたこともないと陳述しており(甲82,8
3),いずれにしろ,控訴人ら選手に対して,本件契約条項によ
り球団が肖像権を管理していることを説明したことを裏付けるも
のではない。
さらに,若手研修会の際,配布されたとされる「野球協約要
項」は,「二十,選手契約による選手の義務」として,「(5)
球団の命ずる写真,映画,テレビに出演すること」と記載されて
いるに過ぎず,本件契約条項に基づいて球団が選手の肖像権を管
理していることについては何ら記載がないことから,選手がその
旨を認識することは不可能である。また,上記「肖像権のしお
り」と同様に,控訴人今岡誠や控訴人赤星憲広は,被控訴人タイ
ガースから選手の肖像の使用について,説明を受けたこともない
と陳述しており(甲82,83),いずれにしろ,控訴人ら選手
に対して,本件契約条項により球団が肖像権を管理していること
を説明したことを裏付けるものではない。
さらに,本件と最も関連するのは,現役選手である控訴人今岡
誠や控訴人赤星憲広に対する説明の有無であるにもかかわらず,
昭和56年度の「肖像権のしおり」や昭和47年の「野球協約要
項(選手用)」であり,それ以後の資料が何ら提出されないこと
からすれば,これ以降に肖像権に関する説明を行ったことを裏付
ける資料はないとも考えられる。
また,若手研修会における顧問弁護士の説明についても,X]
弁護士の書面中,肖像権に関する記述は一切ないし,選手に配布
したとされるのは,野球協約と統一契約書の抜粋のコピーにすぎ
ないことからすれば,本件契約条項の文言解釈等を説明した事実
は明らかになっておらず,被控訴人タイガースが選手に対して,
本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していたことを説明し
ていたことを基礎付ける証拠としては不十分である。
そして,R選手との「契約書」(乙98)についても,比較的
解釈が明確な本件契約条項3項について記載されたものであり,
本件契約条項1項に関する球団の見解を明らかにするものでもな
ければ,選手全員に配布することを予定しているものでもないた
め,選手に対して,本件契約条項により肖像権を管理しているこ
とを説明していたことを基礎付ける資料とはいえない。
この点,Wの陳述書(乙120)には,R選手の「契約書」
(乙98)が「商品化権を含む肖像の管理権すべてこの契約の対
象となっています」と記載されているものの,この記載には何の
根拠も示されておらず,むしろ,契約書中,商品化権が契約内容
に含まれることをうかがわせる記載は全くなく,契約書の各論に
おいて記載されている内容は,「テレビ・ラジオ出演,サイン会
等への出席」(同契約書第2条)とか「テレビコマーシャル契
約,アドバイザー契約等」(同契約書第3条)とかいうように,
R選手のメディア出演に関する事項に限定されていることからす
れば,契約書の客観的記載からして,商品化権は含まれず,選手
の広告等への出演を念頭においたものと捉えるのが合理的であ
る。また,Wの陳述書には,「カルビー株式会社が製造・販売す
るスナック菓子の野球カードに使用するR選手の写真についての
肖像権料を,この契約の規定が示すとおり,当球団が有限会社オ
フィスRに支払ったことを示す記録もあります」との記載もある
が,そもそもそのような記録は本件訴訟に提出されておらず,事
実か否かは定かではないし,また,R選手が,節税対策のため,
肖像権料の支払先を単にオフィスRと指定したにすぎないことも
十分に考えられることからすれば,この「契約書」(乙98)に
基づいてオフィスRに支払われたということは,立証されていな
い。
さらに,球団OBの陳述に関しても,控訴人ら選手の認識とは
関連性が小さく,Wの陳述書(乙120)では,OB選手の記憶
は,「十分正確で具体性がある」と記載されている。しかしなが
ら,ここで具体的かどうかを判断すべきなのは,本件契約条項に
基づき球団が肖像権を選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾
する権利を有するということを球団が説明しており,各選手が認
識していたことについての具体性である。この点,R選手の陳述
書(乙94)においては,単に「統一契約書に基づいている」と
しか記載されておらず,その条文内容や解釈について,球団が説
明を行ったことやR選手が認識していたことなどは一切記述がさ
れておらず,具体性に乏しい。また,S選手の陳述書(乙95)
においても,契約更改とは「別の機会に,統一選手契約に基づい
て球団が私の肖像権を管理していることについて,説明を受けた
と思います」としか記載されておらず,その条文内容や解釈につ
いて,球団が説明を行ったことやS選手が実際認識していたこと
などは一切記述がされておらず,また,S選手自身説明を受けた
とされる機会を特定できていない。同様に,T選手の陳述書(乙
96)においても,単に「肖像権の管理が統一選手契約に基づく
ものである」と記載されているのみであり,その条文内容や解釈
について,球団が説明を行ったことやT選手が認識していたこと
などは一切記述がされておらず,具体性に乏しい。
以上からすれば,被控訴人タイガースは,少なくとも,控訴人
ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約
条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による
肖像権管理が,本件契約条項に基づくものであるという共通認識
はなかった。
(f)被控訴人カープにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人カープに所属した控訴人新井貴浩は,選手契約締結時
において,本件契約条項に基づいて被控訴人カープが選手の氏名
・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識し
ていないことを陳述している(甲84)。
また,その他の被控訴人カープに所属する選手も,平成18年
11月10日,被控訴人カープ選手会長であった控訴人黒田博樹
を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結に当た
り,本件契約条項に基づいて被控訴人カープが選手の氏名・肖像
を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していな
いことを通知している(甲49)。
さらに,控訴人新井貴浩は,被控訴人カープへの入団以来,被
控訴人カープから本件契約条項に基づいて被控訴人カープが肖像
権を管理していることの説明を受けたことはないとも陳述してお
り(甲84),本件契約条項に基づいて被控訴人カープが選手の
氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認
識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人カープは,ゲームソフトに関して,「選手肖像使用に
対する対価支払いを行ってきた」こと(乙81),被控訴人カー
プOBであるXの認識(乙89)などにより,選手に対して球団
見解を説明してきたため,選手は本件契約条項に基づき球団が肖
像権を管理していると認識していると主張する。
しかしながら,ゲームソフトに関する対価の支払を行ったこと
は,金銭の支払の事実を示すものにすぎず,また,球団OBの陳
述に関しても,本件契約条項3項について指摘するのみで,とも
に,本件契約条項1項に基づき被控訴人カープが肖像権を管理し
ていることの説明を行った事実を示すものではない。むしろOB
のXも「私が広島東洋カープに入団した当時,球団側から統一選
手契約の各条項を詳細に説明を受けたことはありません」と,控
訴人新井貴浩の,被控訴人カープから本件契約条項1項に基づい
て球団側が商品化に関する選手の肖像権を管理しているというよ
うな説明を受けたことはないとの陳述(甲84)と一致する陳述
を行っている。
以上からすれば,被控訴人カープは,少なくとも,控訴人ら選
手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約条項
に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による肖像
権管理が本件契約条項に基づくものであるという共通認識はなか
った。
(g)被控訴人ファイターズにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人ファイターズに所属する控訴人金子誠は,選手契約締
結時において,本件契約条項に基づいて被控訴人ファイターズが
選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有している
とは認識していないことを陳述している(甲85,117)。
さらに,その他の被控訴人ファイターズに所属する選手も,平
成18年11月10日,被控訴人ファイターズ選手会長であった
控訴人金子誠を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約
締結に当たり,本件契約条項に基づいて被控訴人ファイターズが
選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有している
とは認識していないことを通知している(甲43)。
また,控訴人金子誠は,被控訴人ファイターズへの入団以来,
被控訴人ファイターズから本件契約条項に基づいて被控訴人ファ
イターズが肖像権を管理していることの説明を受けたことはない
とも陳述しており(甲85,117),本件契約条項に基づいて
被控訴人ファイターズが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許
諾する権利を有しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人ファイターズは,分配金の支払の際に渡す明細書の記
載(乙46),被控訴人ファイターズ所属選手の広告出演契約書
の規定(乙82),球団OBであるY,Zの認識(乙88,9
1)などにより,球団見解を説明してきたため,選手は本件契約
条項に基づき球団が肖像権を管理していると認識していると主張
する。
しかし,明細書の記載については,単に肖像権料とされる金額
が記載されているにすぎず,また,広告出演契約書についても,
本件契約条項3項に関する契約にすぎず,ともに,本件契約条項
1項の解釈を明らかにするものではないし,球団OBの陳述に関
しても,既に反論したことに尽きている。なお,肖像権料の支払
についても,その明細には特に本件契約条項に言及している部分
がないが,これは被控訴人ファイターズが,本件契約条項2項に
基づいて分配を行っているという意識が低かったことを示すもの
である。
また,A)の陳述書(乙122)によれば,肖像権の取扱いに
ついて,春のキャンプ時に選手全員とミーティングをもった旨が
記載されているものの,特にこのミーティングにおいて,12球
団電波・肖像委員会の元座長とされるC)がどのような説明を行
ったのか全く定かではない。むしろ,同陳述書に記載されてい
る,B)選手からの「選手への肖像権料の支払」についての質問
は,単に被控訴人ファイターズの分配率への質問にすぎず,本件
契約条項の解釈を説明する必要のある質問ではない。とすれば,
特に本件契約条項に基づいて球団が肖像権を管理しているという
説明を行った事実は明らかになっていない。これに対して,控訴
人金子誠は,当初から,被控訴人ファイターズから本件契約条項
に基づいて球団が肖像権を管理しているということの説明はなか
った旨陳述しており(甲85),さらに,A)の陳述書(乙12
2)が提出された後も,繰り返し同じことを陳述している(甲1
17)。確かにC)は12球団電波・肖像委員会の元座長であっ
たようであるが,そのC)から報告を受けた機構委員が,「商標
権については機構が,肖像権の方は選手会が直接ソフトメーカー
と交渉すればよい」,(選手がメーカーと契約できるかという質
問に対して)「個人の資格なら可能」と被控訴人らが主張する本
件契約条項と明らかに矛盾する発言していた事実(甲20)から
すれば,12球団電波・肖像委員会の認識もそもそもあいまいだ
った可能性もあり,その座長であったC)が被控訴人ファイター
ズのミーティングにおいて,本件契約条項に関する正確な説明を
行っていたかどうかも疑われる。
以上からすれば,被控訴人ファイターズは,少なくとも,控訴
人ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契
約条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団によ
る肖像権管理が本件契約条項に基づくものであるという共通認識
はなかった。
(h)被控訴人ライオンズにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人ライオンズに所属するD)は,選手契約締結時におい
て,本件契約条項に基づいて被控訴人ライオンズが選手の氏名・
肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識して
いないことを陳述している(甲86)。
また,その他の被控訴人ライオンズに所属する選手も,平成1
8年11月10日,被控訴人ライオンズ選手会長であったE)を
通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結に当たり,
本件契約条項に基づいて被控訴人ライオンズが選手の氏名・肖像
を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していな
いことを通知している(甲41)。
さらに,D)は,被控訴人ライオンズへの入団以来,被控訴人
ライオンズから本件契約条項に基づいて被控訴人ライオンズが肖
像権を管理していることの説明を受けたことはないとも陳述して
おり(甲86,112),本件契約条項に基づいて被控訴人ライ
オンズが選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有
しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人ライオンズは,特に平成19年シーズンに向けての契
約更改時から,「選手に対して直接口頭で,統一選手契約書16
条の内容を説明し,選手の理解を得ている」ことなどにより,球
団見解を説明してきたため,選手は本件契約条項に基づき球団が
肖像権を管理していると認識していると主張する。
しかし,D)が陳述するように,平成19年シーズンに向けて
の契約更改がなされる以前の平成18年11月に,被控訴人ライ
オンズに所属する選手は,当時の被控訴人ライオンズ選手会長で
あるE)を通じて,本件契約条項に基づき球団が商品化目的で使
用許諾する権利がないことを通知していた(甲41)ため,被控
訴人ライオンズから被控訴人らが主張する見解が示されたにすぎ
ない。そして,実際の契約更改の場でも,D)は,被控訴人ライ
オンズの説明が球団の見解にすぎないことを確認の上,選手の認
識が違うことを改めて表明しており,何ら球団の見解を受け入れ
る意思表示を行っているものではない(甲112)。
また,F)の陳述書(乙123)には,「新人選手に関して
は,入団発表時に統一契約書のコピーとともに野球協約も渡して
おり,内容についてよく理解するように指導しております」と記
載されているものの,D)が若い選手に確認したところ,「説明
を受けたという選手と受けていないという選手が混在していまし
た」とのことであり,被控訴人ライオンズが統一的に新人選手に
対して説明しているのではなく,単に口頭で場当たり的に説明し
ているにすぎない事実が明らかになっている。いずれにしろ,控
訴人ら選手は,自主管理通知(甲6)を通じてその認識を明確に
しており,被控訴人ライオンズが自主管理通知以後の現在におい
て球団の見解を説明していたとしても,何ら選手の認識に影響を
及ぼすものではない。
以上からすれば,被控訴人ライオンズは,少なくとも,控訴人
らを含む選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本
件契約条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団
による肖像権管理が,本件契約条項に基づくものであるという共
通認識はなかった。
(i)被控訴人マリーンズにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人マリーンズに所属するG)は,選手契約締結時におい
て,本件契約条項に基づいて被控訴人マリーンズが選手の氏名・
肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識して
いないことを陳述している(甲87)。
また,その他の被控訴人マリーンズに所属する選手も,平成1
8年11月10日,被控訴人マリーンズ選手会長であった控訴人
小林雅英を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結
に当たり,本件契約条項に基づいて被控訴人マリーンズが選手の
氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認
識していないことを通知している(甲39)。
さらに,G)は,被控訴人マリーンズへの入団以来,被控訴人
マリーンズから本件契約条項に基づいて被控訴人マリーンズが肖
像権を管理していることの説明を受けたことはないとも陳述して
おり(甲87,116),また,控訴人小林雅英も,フェイス社
のラムネ菓子問題の際,被控訴人マリーンズから本件契約条項に
基づいて被控訴人マリーンズが肖像権を管理していることの説明
を受けたことはないとも陳述しており(甲88),本件契約条項
に基づいて被控訴人マリーンズが商品化目的で肖像権を使用許諾
する権利を有しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人マリーンズは,「肖像権,著作権の取り扱い内規」,
「球団・選手の肖像権使用料に対する分配比率の件」,「平成7
年度球団・選手肖像権使用料配分表」などにより,球団見解を説
明してきたため,選手は本件契約条項に基づき球団が肖像権を管
理していると認識していると主張する。
しかし,この「肖像権,著作権の取り扱い内規」にも,「球団
・選手の肖像権使用料に対する分配比率の件」及び「平成7年度
球団・選手肖像権使用料配分表」にも,本件契約条項の文言に関
する言及は一切ないのであるから,本件契約条項に関する球団見
解を明確に示したものとはいえない。
そして,これらの資料についても,球団が本件契約条項をあま
り意識していなかったことが裏付けられるのである。すなわち,
被控訴人ら球団が主張するように,本件契約条項に基づいて球団
が肖像権を管理していたのであれば,本件契約条項2項による分
配が明らかになるように本件契約条項に言及する記述があってし
かるべきである。にもかかわらず,何ら記述がなく,むしろ対価
の分配率等の記述ばかりであるのは,被控訴人マリーンズの担当
者も特に本件契約条項に意識が向いていなかったからであると考
えられるのである。このような被控訴人マリーンズが選手に対し
て,積極的に本件契約条項について説明しているのかは疑問であ
るし,実際,Mの陳述書(乙125)において,Mは,「内規の
内容について逐一細かくまでは説明していません」と,本件契約
条項についての球団の見解などの説明を行っていないと陳述して
いる。この陳述は,G)の,本件契約条項に基づき,球団側が選
手の肖像権を管理しているというような説明を受けたこともない
との陳述(甲87)や,上記内規を詳しく説明されていない旨の
陳述(甲116)に合致し,球団が本件契約条項の詳細について
明確に説明を行っていないことを裏付けるものである。
以上からすれば,被控訴人マリーンズは,少なくとも,控訴人
ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約
条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による
肖像権管理が本件契約条項に基づくものであるという共通認識は
なかった。
(j)被控訴人オリックスにおける認識
α控訴人ら選手の認識
被控訴人オリックスに所属する控訴人川越英隆は,選手契約締
結時において,本件契約条項に基づいて被控訴人オリックスが選
手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有していると
は認識していないことを陳述している(甲89)。
また,被控訴人オリックスに所属したH)は,選手契約締結時
において,本件契約条項に基づいて被控訴人オリックスを含む日
本の球団が選手の氏名・肖像を商品化目的に使用許諾する権利を
有しているとは認識していないことを陳述している(甲90)。
その他の被控訴人オリックスに所属する選手も,平成18年11
月10日,被控訴人オリックス選手会長であった控訴人川越英隆
を通じて,平成19年シーズンに向けての選手契約締結に当た
り,本件契約条項に基づいて被控訴人オリックスが選手の氏名・
肖像を商品化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識して
いないことを通知している(甲44)。
さらに,控訴人川越英隆は,被控訴人オリックスへの入団以
来,被控訴人オリックスから本件契約条項に基づいて被控訴人オ
リックスが肖像権を管理していることの説明を受けたことはない
とも陳述しており(甲89),また,被控訴人オリックスに所属
したH)は,被控訴人オリックスを含む日本の球団から本件契約
条項に基づいて被控訴人オリックスが肖像権を管理していること
の説明を受けたことはないとも陳述しており(甲90),本件契
約条項に基づいて被控訴人オリックスが選手の氏名・肖像を商品
化目的に使用許諾する権利を有しているとは認識していない。
β被控訴人ら主張への反論
被控訴人オリックスは,I)選手のアドバイザリー契約書等に
おける記載(乙85),「肖像権使用許諾明細」(乙49),
「分配マニュアル」の配布,ホームページ開設依頼書(乙85)
の提出の事実などにより,球団見解を説明してきたため,選手は
本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していると認識してい
ると主張する。
しかし,I)選手のアドバイザリー契約書における記載(乙8
5)やホームページ開設承認願書(乙85)は,他の球団で繰り
返し述べてきたことと同様,本件契約条項3項の問題である。ま
た,「肖像権使用許諾明細」(乙49)は,単に分配金額が記載
されているものにすぎない。「分配マニュアル」の内容について
は何ら立証されていない。よって,これらの資料は,何ら本件契
約条項に基づいて球団が肖像権を管理する旨を説明していたこと
を示すものではない。
また,分配の根拠を示した資料(乙85)に,「肖像権分配の
根拠」として本件契約条項の条文文言の記載があるものの,この
条文のどこがどういう根拠となっているのかも明確になっておら
ず,これまで主張したような,統一契約書に基づいて球団が肖像
権を管理しているというような包括的な内容にすぎず,何ら被控
訴人らが主張する球団の見解を説明するものとはいえない。
以上からすれば,被控訴人オリックスは,少なくとも,控訴人
ら選手に対しては,自主管理通知(甲6)に至るまで,本件契約
条項に関する球団見解を明確に説明したことはなく,球団による
肖像権管理が本件契約条項に基づくものであるという共通認識は
なかった。
(k)上記によれば各個別の球団においても,球団は,選手に対し
て,本件契約条項に関する球団見解を明確に説明してきたことはな
かったといえる。そうすると,球団による肖像権管理が,本件契約
条項に基づくものであるという共通認識(共通の法意識)はなかっ
たものである。
cゲームソフトの肖像権管理に関する共通認識の欠如
(a)ゲームソフトの肖像権管理が本件契約条項に基づくものである
という説明の欠如
控訴人ら選手は,その所属球団に対する入団以来,球団から本件
契約条項に基づいて球団がゲームソフトを含む商品化目的で選手の
氏名・肖像を使用許諾する権利を有していることの説明を受けたこ
とはないことを陳述している(甲53ないし66,73ないし9
0,控訴人古田敦也本人尋問,控訴人宮本慎也本人尋問)。
上記事実は,選手会と野球機構の間で幾度か協議の場が持たれた
(甲18ないし21)ものの,その場では分配の統一や分配率の協
議が行われているものにすぎず,本件契約条項に基づき野球ゲーム
ソフトについて選手の氏名・肖像を使用許諾する権利を球団が有し
ていることを明らかにしたものはないことからも裏付けられる。
(b)球団側もゲームソフトの肖像権管理が本件契約条項に基づくも
のであると認識していなかったことを示す事実
以下の①ないし④の事実から,球団側さえもゲームソフトの肖像
権管理が本件契約条項に基づくものと認識していなかったといえ
る。
①選手会との協議の場における発言
前述のとおり,選手会と野球機構の間での協議の場において,
球団側の機構委員が,「商標権については機構が,肖像権の方は
選手会が直接ソフトメーカーと交渉すればよい」,(選手もメー
カーと契約できるということかという質問に対して「個人の資格
なら可能」(甲20)などと発言し,本件契約条項に基づく球団
の管理を完全に矛盾する発言を行っていた。このような発言は,
本件契約条項により球団が肖像権を管理していることを明確に認
識していたのであれば,出てくるはずのない発言であり,球団
も,本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していることを明
確に認識できていなかったことを示すものである。
②本件契約条項2項による分配を行っていなかったこと
ゲームソフトに関して,本件契約条項1項に基づいて球団が肖
像権を管理していたのであれば,本件契約条項2項により「適当
な分配金」が支払われるはずであるところ,野球機構からの正式
なライセンスが開始された平成4年から当初一定期間,ゲームソ
フトの肖像権使用料が分配されておらず,「適当な分配金」が支
払われているとは言いがたい状況にあった。このような事実も,
本件契約条項により球団が肖像権を管理していることを明確に認
識していたのであれば,出てくるはずのない事実であり,球団
も,本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理していることを明
確に認識できていなかったことを示すものである。
③ゲームソフトの肖像権管理開始時のゲームは「氏名」のみの使
用しか認められなかったにもかかわらず,本件契約条項1項に
「氏名」を盛り込むなどの修正対応を行っていないこと
ゲームソフトの肖像権管理開始時(平成4年)のゲームでは,
選手の氏名のみが使用されていただけであった(甲69)。もし
本件契約条項に意識が向いていたのであれば,本件契約条項には
「氏名」という文言がないため,本件契約条項において「氏名」
が含まれるのか否かについて疑問を持つのが通常であり,球団が
選手の「氏名」を利用する根拠を明確にするため,本件契約条項
の変更を行うべきところである。しかしながら,結論としては,
本件契約条項には何ら変更は加えられておらず,この事実からし
ても,球団は,本件契約条項に基づき球団が肖像権を管理してい
ることを明確に認識できていなかったと考えられる。
④ゲームソフトにおける選手の氏名肖像の使用を,文言上本件契
約条項1項に基礎づけることは困難と考えられるにもかかわら
ず,長期間一切の修正を行っていないこと
また,ゲームソフトに関しては,その後,平成8年から統一的
な分配が開始したり,また,平成12年頃からは,リアル系ゲー
ムソフトの登場により選手の肖像の使用範囲が拡大し,肖像権の
管理に関して対価の支払方法や肖像の使用範囲が変更しているこ
とから,本件契約条項について何らかの変更が必要なのではない
かと考えてしかるべきであるところ,この点についても,結論と
しては,何ら変更する措置はとられなかったのである。この事実
からしても,球団は,特に本件契約条項に基づき球団が肖像権を
管理していることを明確に認識できていなかったことがうかがわ
れる。
(c)このようにゲームソフトの使用態様などの大きな変更にもかか
わらず,本件契約条項が一切変更されていない事実からすれば,球
団が本件契約条項に意識が向いていなかったことがうかがわれ,球
団は,本件契約条項に基づいてゲームソフトの商品化を目的として
球団が選手の氏名・肖像を使用許諾できる権利を有すると認識して
いなかったと考えられる。
d野球カードの肖像権管理に関する共通認識の欠如
(a)野球カードの肖像権管理が本件契約条項に基づくものであると
いう説明の欠如
上記野球ゲームと同様,控訴人ら選手は,その所属球団に対する
入団以来,球団から本件契約条項に基づいて球団が野球カードを含
む商品化目的で選手の氏名・肖像を使用許諾する権利を有している
ことの説明を受けたことはないことを陳述している。
(b)球団側も野球カードの肖像権管理が本件契約条項に基づくもの
であると認識していなかったことを示す事実
上記野球ゲームとは一部異なる以下の4点の事実から,球団側さ
えも野球カードの肖像権管理が本件契約条項に基づくものと認識し
ていなかったことが認められる。
①野球カードに関しては,昭和48年から各球団によるカルビー
社へのライセンスが始まったが,当時の読売興業株式会社東京読
売巨人軍(後の被控訴人巨人軍)とカルビー社の契約書(乙99
の10の1)においては,販売促進目的と商品化目的が明確に分
けられていた。具体的には,当該契約書において,選手の肖像写
真を印刷した肖像写真印刷カードを,小麦粉あられの販売促進用
カードとして使用することは許諾されていたものの(第2条1
項),商品化することは禁じられており(第3条),販売促進目
的と商品化目的が明確に分けられていた。
このような契約を締結した被控訴人巨人軍が,本件契約条項に
基づいて球団が肖像権を管理していることを意識していたのであ
れば,本件契約条項にはあくまで球団の「宣伝目的」としか書い
ていないため,このような販売促進用の商品を製造する場合に
は,この条文によってライセンサーである選手から適切な許諾を
受けられているのかどうか,慎重な検討をしなければならないは
ずのものである。また,少なくとも文言上,球団の「宣伝目的」
とは異なる事案なのであるから,本件契約条項の「宣伝目的」の
改正を試みる必要が感じられてしかるべきであった。
しかしながら,野球カードに関するライセンス実態が始まった
昭和48年前後において,このような「宣伝目的」の文言が修正
されることもなく,上記のような悩みの跡はうかがわれない。こ
のような事実は,単に,本件契約条項を何も意識せずに,各球団
が個別に自由にカードメーカーに対してライセンスを開始した証
拠であると考えられる。
②野球カードに関して,本件契約条項に基づいて球団が肖像権を
管理していたことを明確に認識していたのであれば,本件契約条
項2項により「適当な分配金」が支払われるはずである。
しかしながら,被控訴人ベイスターズにおいては,昭和48年
の野球カードの発売以来平成16年まで30年間にわたって,野
球カードに関する肖像権使用料を分配していなかった。このよう
な事実は,本件契約条項2項が完全に無視されている実態であ
り,被控訴人ベイスターズが,野球カードに関し本件契約条項に
基づいて球団が肖像権を管理していたことを明確に認識していな
かったことを示すものである。
③他の球団の態度として,昭和48年から平成16年に至る30
年間の間に,例えば電波肖像委員会などで,各球団における肖像
権の管理実態の調査,意見交換を行うことはあったと考えられる
し,結論的に本件契約条項に何ら変更がなかったことからすれ
ば,他の球団は,被控訴人ベイスターズが分配を行っていなかっ
たことを知った上で,放置していたのであり,それこそ,全球団
において本件契約条項2項への意識が低かったことを示すもので
ある。
④また,分配していた球団の中でも,ベースボールマガジン社の
BBMベースボールカードについて,選手の取り分が多い球団
(例えば,被控訴人巨人軍〔8割〕,同カープ〔6割〕,同オリ
ックス〔7割5分〕など)もあれば,球団取り分が多い球団(例
えば,同ベイスターズ〔8割〕,同ファイターズ〔7割〕,同マ
リーンズ〔8割〕)もあるなど,大差があり,また,選手取り分
と球団取り分が同等という球団もあった(被控訴人ヤクルト,同
ドラゴンズ,同タイガース,同ライオンズ)(乙5ないし乙1
4)。この点,平成8年にゲームソフトにおける統一的な分配が
始まった際にも,各球団が,本件契約条項に基づいて球団が肖像
権を管理していることを明確に認識していたのであれば,ゲーム
ソフトと同様に12球団で行われていた野球カードについても,
本件契約条項2項の「適当な分配金」とは何なのかを考え,統一
的な分配を行う必要があるのではないかとの疑問を生じてもよい
といえる。
しかし,それ以降現在に至るまで,野球カードに関する肖像権
使用料は各球団においてバラバラのままであり,本件契約条項が
統一契約書であることへの配慮が全くみられないのである。
(c)以上の事実からすれば,野球カードに関しても,球団は野球
カードに関して本件契約条項に基づいて管理していたという認識は
ないと考えられる。
(イ)客観的事情
a本件契約条項の文言
本件契約条項1項の文言を素直に読めば,球団がその所属する選手
に指示をした場合,選手は写真撮影・映画撮影・テレビ撮影に応じる
こと(以上第1文),選手が応じた当該写真等の肖像権,著作権等が
球団に帰属し,また,球団が当該写真等を宣伝目的のために利用でき
る旨(以上第2文)定めるのみであり,選手が,その肖像権を,所属
する球団に譲渡したとは記載されていないし,所属する球団に対し
て,本件野球カードのようないわゆる「商品化」使用についての許諾
をしたとも記載されていない。
b「氏名」の解釈
本件契約条項に「氏名」が明示されていないのは,そもそも本件契
約条項が氏名の使用を念頭においていなかったと考えられる。本件契
約条項が撮影された写真,映画,テレビジョンを念頭においたもので
あり,撮影することができない氏名については本件契約条項では想定
していなかったためと考えるのが素直な考えである。そして,「氏
名」の文言がなく,また,本件契約条項において「氏名」の使用が念
頭におかれていなかったことからすれば,氏名の使用の必要性が高い
商品化目的での氏名の使用も当然に含まれなかったと考えられる。
c「指示」の解釈
「球団が指示する場合」とあえて明記されていることからすれば,
この「指示」とは具体的な指示を指し,被控訴人ら球団が主張するよ
うな一般的指示は含まれないと考えるべきである。本件契約条項はわ
ざわざ「球団が指示する場合」を定めている。あえてこのような「指
示」が規定されている趣旨は,試合中や試合の前後にテレビ放映のた
めに選手が撮影されることや,新聞,雑誌等の取材に協力して写真撮
影されること,球団のポスター,カレンダー,コマーシャル・フィル
ム等の製作のために選手が撮影されることがあり,それに向けた選手
の協力を得るために,選手に個別的に指示を出す必要があるからであ
る。
しかしながら,野球カードの製造に主に使用されている,契約業者
などからの提供写真やプレー中の写真は,球団が特に選手に対して指
示を行わずに撮影されたものであるから,「球団が指示する場合」に
は該当しない。
また,平成4年から販売が開始された当初のゲームソフトにおいて
は氏名しか用いられていなかったところ,「氏名」に対しては,そも
そも指示を観念できないため,これらのゲームソフトにおいては指示
があったとは認められない。ゲームソフトにおいては,その後,氏名
だけでなく,J)投手のトルネード投法を描写したCGや,リアル系
ゲームソフトと呼ばれるゲームソフトにおいては,選手の顔,身体,
プレースタイル等を正確に描写したCGが用いられてきた。これらの
CGは,ゲームソフトメーカーが自ら作成するものであり,選手が球
団の指示に基づいて撮影されるわけではないので,そもそも「指示」
に基づくコンテンツとはいえない。
d「写真・映画・テレビジョン」の解釈
本件契約条項においては明確に「写真,映画,テレビジョン」と限
定列挙されている。これは昭和26年当時の主要な媒体をさすもので
あり,それ以上に例示列挙と考える理由はない。また,昭和26年当
時発売されていたとされる「新野球いろはかるた」や「新野球かる
た」「メンコ」など(乙15)は,全て選手の姿を描いた「絵」であ
る。もし本件契約条項がこのような商品化を念頭に置いていたのであ
れば,本件契約条項において「写真,映画,テレビジョン」と限定す
ることは不自然である。その点からすれば,上記のような商品はそも
そも本件契約条項が念頭に置いていなかったと考えられる。
e「宣伝目的」の解釈
「宣伝目的」とは,客観的,国語的意味であれば,文字とおり「宣
伝」のためと解釈され,通常それ以上に「販売目的」であるかのよう
に解釈されることは国語的な解釈としてはあり得ない。そして,「宣
伝目的」での利用とは,球団のポスター,カレンダー,コマーシャル
・フィルム等のような球団の宣伝目的のために利用することを指す。
本件契約条項のモデルとなったのは米国メジャーリーグの統一契約
書3条(c)であり,米国では日本でいう「宣伝目的」に相当する
「publicitypurposes」が文字通り「宣伝目的」と解釈され,当該文
言の解釈が問題となった(C対ギャラン社事件においても,商品化目
的は含まないとする解釈が確定している。また,本件契約条項をその
まま模倣した韓国(甲119)でも商品化が含まれないという解釈が
とられ,日本のサッカーのJリーグの選手契約における肖像権の取扱
いを定めたJリーグ規約97条及び136条(甲9,10)において
も,広告宣伝と商品化は明確に区別して規定されている。
f「肖像権,著作権等のすべて」の解釈
「このような写真出演等にかんする肖像権,著作権等のすべて」と
は,「撮影された」写真等に関するすべての権利と解される。本件契
約条項のモデルとなった米国統一契約書3条(c)においては,
「allrightsinsuchpictures」と記載されていることからすれば,
この「肖像権のすべて」とは,あくまで「撮影された写真等」につい
ての肖像権である。
g「いかなる方法」の解釈
「いかなる方法で」とは,あくまで利用方法に限定がないことを示
すものにすぎない。本件契約条項の文言上,「宣伝目的」との限定が
あることからすれば,「いかなる方法で」とは,目的について定めた
ものではなく,利用方法に限定がないことを示すものであると解釈す
ることが素直である。なお,原判決も,「いかなる方法で」利用する
場合であっても,「宣伝目的」であることを要すると判断している。
h本件契約条項2項の分配金規定との関係
本件契約条項2項は本件契約条項1項を受けて,対価の分配を定め
ているが,分配の対象となるのは,本件契約条項2項の文言上は「こ
れによって」としか定められていないことからすれば,本件契約条項
1項に定める,①球団が指示する場合,写真,映画,テレビジョンに
撮影されること,②このような写真等が宣伝目的で利用されることで
ある。被控訴人らは,本件契約条項2項における対価の分配規定こ
そ,本件契約条項1項において商品化が認められている証左であると
主張するが,本件契約条項2項は,商品化のような明らかに選手に対
して分配金の支払義務が生じる利用形態ではなく,肖像権の使用か微
妙な場面についての規定だからこそ,「なお」書きとされたものと考
えられる。商品化がそもそも含まれるのであれば,このような「な
お」書きになどする必要がなかったのであるから,被控訴人らの批判
は当たらない。
i本件契約条項3項の不作為義務との関係
「商品の広告に関与」する場合には,球団の承諾が必要なことが定め
られているが,そもそも被控訴人らが主張するように,本件契約条項
1項に基づいて,球団が肖像権を管理しているのであれば,このよう
な条文は不要だったはずである。とすれば,この3項の存在は,1項
が球団の宣伝に関する規定であり,それ以外の第三者の広告に関与す
る場合には別の規制を課す必要があったことを裏付けるものである。
このことは,1項では「宣伝」と3項では「広告」と別の用語が用い
られていることからも明らかである。
また,1項に基づき球団が肖像権を管理しているのであれば,「商
品の広告に関与」することだけでなく,商品化自体も禁止することも
考えられるところ,そのような文言となっていないのは,1項に基づ
き球団が商品化目的で肖像権を使用する権利を有していると考えられ
ていないからである。
j第三者への使用許諾権限の有無
原判決は,本件契約条項1項について「球団が第三者に対して使用
許諾することも含まれる」(88頁1行~2行)としているが,本件
契約条項1項の文言を見る限り,球団が第三者に肖像権の使用許諾す
る権限を定めたものとはおよそ解釈しえない。条文文言上はあくまで
「球団が…利用しても」とのみ記載されていること,また,球団の宣
伝のための条項であるという性質上使用主体は球団のみで十分と考え
られることから,ここにいう「球団」に,球団以外のものを含めて解
釈することはできない。
k統一契約書制定当時の昭和26年に販売されていた商品は,肖像権
のライセンスといえるものではなく,本件契約条項も商品化を念頭に
置いたものではなかった。原判決は,「統一契約書が制定される以前
から,球団ないし日本野球連盟が他社に所属選手の氏名及び肖像を商
品に使用すること(商業的使用ないし商品化型使用)を許諾すること
が行われていたから,本件契約条項に相当する当初の規定も,かかる
実務慣行のあることを前提にして起案されたものと解される」と認定
しているが(原判決86頁5行~9行),誤りである。実際は,統一
契約書制定時である昭和26年当時は,選手の氏名及び肖像を商品に
使用すること(商業的使用ないし商品化型使用)は行われていなかっ
たものと考えられる。
上記のことは選手の氏名・肖像のライセンスの一形態である野球
カードの歴史について記載した書籍の記載から裏付けられる。すなわ
ち「常識を破壊!これが正しいスポーツカードの集め方」(報知新聞
社刊。1998年。甲121)の記載によれば,1950年代後半か
ら商品化されていた「写真メンコ」が,1960年代半ば(昭和40
年頃)から急速に発行量が少なくなり,その理由として「写真メンコ
を発行する際に肖像権の承認を球団から取る必要が生じたためではな
いかといわれています。それまでは雑誌などから写真をコピーして着
色して商品化したものも多数発行されていたのですが,承認料を支払
えないメーカーは次々に市場から撤退していったのでしょう」と記載
されている。
この事実に,被控訴人巨人軍が初めてパブリシティ権のライセンス
を行ったのが,1962年(昭和37年)と考えられること(乙99
の5),1960年代当時は,我が国でもパブリシティ権という概念
になじみがなかったと思われることを総合すると,統一契約書制定当
時である昭和26年ころには,当時商品化されていた,めんこ,かる
た,ブロマイドについては,肖像権使用料が支払われていなかった可
能性が高い。このような実態からすれば,統一契約書制定当時の昭和
26年に販売されていた商品は,肖像権のライセンスといえるもので
はなく,本件契約条項も商品化を念頭に置いたものではなかったもの
と考えられる。むしろ,前述した,取材協力費などを受け取った場合
について定める規定であったと考えられる。
また,肖像権は本来的には選手の権利であり,これはJOC(日本
オリンピック委員会)による肖像権の一括管理の廃止(甲26),欧
州プロサッカー選手契約においても原則として選手個人は自己の権利
を自ら利用できることが確認されていること(甲115)等にみられ
る近時の世界的傾向に合致するものである。
(2)本件契約条項が不合理な附合契約に当たるか(争点(2))について
ア(ア)原判決は,統一契約書16条は民法90条により無効であるとの原
告らの主張は理由がないと結論付けているが,その主な理由は以下の①
ないし④のとおりである。
①「氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することも不可能とはい
え」ず,選手の意思に基づく肖像権の行使の可能性があること(原判
決106頁下2行~下1行)
②各球団においては,「選手の肖像等を使用許諾するに際し」,「使
用を許諾された商品に選手の意向が可及的に反映されるよう配慮
し」,プロ野球ゲームソフトに関しても,プロ野球カードに関しても
「使用料を分配する実務が確立」しており,また,選手らが球団と個
別に又は集団で交渉することにより,球団と選手らとの間の使用料の
分配率の増額変更を実現する余地もあり得」,選手に肖像権が帰属す
ることを前提に配慮されていること(原判決107頁8行~108頁
3行)
③「本件契約条項の定めは,球団が多大な投資を行って自己及び所属
選手の顧客吸引力を向上させている状況に適合し,投資に見合った利
益の確保ができるよう,かかる顧客吸引力が低下して球団又は所属選
手の商品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手の氏名及び肖像
の使用態様を管理するという球団側の合理的な必要性を満たし,交渉
窓口を一元化してライセンシーの便宜を図り,ひいて選手の氏名及び
肖像の使用の促進を図るものであるから,各球団において本件契約条
項を適用し,これに従った運用を行うことには,一定の合理性があ
る」こと(原判決108頁9行~17行)
④独占禁止法違反も認められないこと(原判決111頁~112頁)
(イ)しかしながら,争点(2)では,統一契約書16条により選手の意思
に基づく肖像権の自由な行使が,実質的に否定されていることの合理性
が問題となっているものであるところ,原判決は,上記①,②に関する
事実認定に誤りがあり,③については合理性を基礎付ける理由として妥
当なものとはいえないものである。以下個別に論じる。
イ氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することは不可能であること
(上記①に関し)
原判決は,統一契約書に特約条項を挿入した事例があることから,氏名
及び肖像の利用に関する特約を締結することも不可能とはいえず,選手の
意思に基づく肖像権の行使の可能性があることを一つの理由としている
が,これは大きな事実誤認である。
まず,原審において,被控訴人らが統一契約書の特約として主張してい
るのは,あくまで第3条の参稼報酬に関する特約であり(乙53),ま
た,原判決においては,肖像権に関する特約を締結した事例はないと認定
している(原判決99頁下3行)。それにもかかわらず,なぜ,氏名及び
肖像の利用に関する特約を締結することも不可能とはいえないとの結論が
導かれるのか,原判決は明確な理由を示していない。
次に,原判決は,球団と選手は統一契約書を用いて選手契約を締結する
ことが要求され,参稼報酬及び特約条項を除いては,当事者の合意によっ
ても約定の内容を変更することができないと認定している(原判決99頁
下7行~下4行)が,この認定自体が誤りである。野球協約47条には,
1項において,「統一契約書の条項は,契約当事者の合意によっても変更
することはできない。」と定められ,2項においては,「ただし,この協
約の規定ならびに統一契約書の条項に反しない範囲内で,統一契約書に特
約事項を記入することを妨げない。」と定められており,この野球協約の
規定によれば,特約はあくまで,野球協約の規定ならびに統一契約書の条
項に反しないことが条件である。原判決は,特約条項に何ら条件がない形
で認定しており,重大な事実誤認をしている。
つまり,控訴人らを含むプロ野球選手は,統一契約書16条についての
特約を締結することは不可能である。原判決において認定されているとお
り,肖像権に関する特約を締結した事例がないことは,むしろこれを裏付
けるものである。
以上のことからすれば,選手の氏名及び肖像の利用に関して特約を締結
することはできないのであり,原判決の事実認定には誤りがある。
なお,原判決は,統一契約書16条の有効性に問題があることを指摘す
る早稲田大学のK)教授の論文(甲22)につき,統一契約書16条が肖
像権を球団側に帰属させるものではなく,球団側に独占的使用許諾権を与
えるものにすぎないため,前提を欠くと判断しているが,これは同論文の
趣旨をあやまってとらえた判断である。なぜなら,同論文が指摘している
点は,球団への譲渡であるにせよ,独占的使用許諾権の付与であるにせ
よ,選手の自由な意思による肖像権の権利行使が否定されていることの問
題性なのであって,独占的使用許諾権の付与であっても,選手の自由な意
思による肖像権の権利行使が否定されている以上,この論文の指摘はなお
当てはまるといえるからである。
ウ金銭が支払われたとしても本質的問題は依然として残存していること
(上記②に関し)
次に原判決は,使用料を分配する実務が確立しているから問題がないか
のような認定をしているが,妥当でない。上記の通り,争点(2)は,選手
には統一契約書16条の変更可能性がなく,統一契約書16条により選手
の意思に基づく肖像権の自由な行使が否定されていることの合理性が問題
となっており,たとえ金銭の支払がなされたとしても,選手の意思に基づ
く肖像権の自由な行使が認められない以上,問題は何ら解決されていない
からである。
さらに,球団側は選手の氏名及び肖像の利用について選手の意向が可及
的に反映されるよう配慮していると認定されているが,本来肖像権は選手
に帰属するのであるから,選手の意向が反映されるのは当然であり,むし
ろ現在の球団側の管理では,選手の意向が全く確認されず選手の氏名及び
肖像が使用されている場面は多々あることが見落とされていることが問題
である。
よって,たとえ金銭的な支払がなされていても,統一契約書16条によ
り選手の意思に基づく肖像権の自由な行使が否定されていることに何ら変
わりはないのであるから,統一契約書16条は,著しく不公正な内容の条
項として,民法90条に違反し無効というべきである。
エ球団側が肖像権を管理すべき理由には合理性はないこと(上記③に関
し)
さらに,原判決は,前記のとおり「本件契約条項の定めは,球団が多大
な投資を行って自己及び所属選手の顧客吸引力を向上させている状況に適
合し,投資に見合った利益の確保ができるよう,かかる顧客吸引力が低下
して球団又は所属選手の商品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手
の氏名及び肖像の使用態様を管理するという球団側の合理的な必要性を満
たし,交渉窓口を一元化してライセンシーの便宜を図り,ひいて選手の氏
名及び肖像の使用の促進を図るものであるから,各球団において本件契約
条項を適用し,是に従った運用を行うことには,一定の合理性がある」こ
とを理由として,統一契約書16条が民法90条に反しないとの結論を導
いている。
しかしながら,原判決が認めるこのような理由は,本来選手に帰属し,
選手の自由な意思決定によって行使できるはずの肖像権を,何ら選手の承
諾なく,球団側が管理することの合理的理由とはなりえない。
すなわち,選手の中には,そもそも入団前から著名な選手も多く,その
ような選手については,およそ球団の莫大な投資により肖像権の価値が生
じたとはいえないし,そもそも肖像権は,その価値の拡大に貢献した者に
対し,何らかの補償ましてや管理権を付与することを認めるものではな
く,個人の人格に根ざして認められる権利である。
さらに,窓口の一本化という意味においても,例えば劇場用映画を利用
する場合は,著作権法上,映画の著作権者,原作の著作権者,脚本の著作
権者,音楽の著作権者から利用許諾を得なければならないとされている関
係上,たとえば,映画の著作物については映画会社から,音楽の著作物に
ついては社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)から,脚本の著作
物については協同組合日本脚本家連盟(日脚連)からというように,別個
の主体から利用許諾を得た上で,利用行為を行う実務が確立している。肖
像権については選手ないし選手会から,商標権については球団ないし野球
機構から利用許諾を得るという実務になるとしても,劇場用映画の例を考
えれば,何ら不合理なことではない。たしかに,利用者にとっては,窓口
が一本化した方がいいということは抽象的にはいえるものの,だからとい
って,権利者の意向に反して,窓口を一本化することを強制する根拠はど
こにもない。ちなみに,野球カードについては,現状でも,メーカーが1
2球団それぞれから別個に利用許諾を取得する実務となっており,窓口一
本化のメリットは全く実現していない。
以上のとおり,原判決が③に掲げる理由は,本来選手に帰属し,選手の
自由な意思決定によって行使できるはずの肖像権を,何ら選手の承諾な
く,球団側が管理することの合理的理由とはなりえない。これらの理由
は,選手に帰属すべき肖像権は,選手の意思に従って行使されるべきであ
るとの原則を覆す理由にはならないのであるから,原判決の判断には誤り
がある。
(3)本件契約条項が独占禁止法違反となるか(争点(3))について
争点(3)(原判決にいう争点(2)イ)の独占禁止法に対する原判決の判断に
対する控訴人らの主張は以下のとおりである。なお,控訴人らは,当審にお
いて,下記エ記載の共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項5号に基づく一般
指定1項2号)について主張を追加したことから,下記の独占禁止法の適用
に関する総論(下記「ア」)部分の主張において,共同の取引拒絶に関する
点に係わる部分も補充して主張する。
ア総論
(ア)独禁法の規制対象
独禁法は,主として事業者又は事業者団体の行為に適用されるもので
あるから,独禁法が適用されるか否かは,問題とされる行為を行う者が
事業者又は事業者団体といえるかによる。従って,本件契約条項を制定
した主体が「事業者」又は「事業者団体」であれば独禁法が適用される
ことになる(行為者の取引相手が事業者・事業者団体であるか否かは,
基本的には関係がない。甲91・L)意見書1頁)。
(イ)球団の事業者性,日本プロフェッショナル野球組織(NPB)の事
業者団体性
本件契約条項に基づく選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為
は,①NPBを構成する各球団の共同行為であるとも捉えられうるし,
②12球団の組合的集合体であるNPBの行為によるもので,NPBが
各球団にそれを遵守させているとも捉えられうる。
まず,NPBを構成する各球団が「商業,工業,金融業その他の事業
を行う者」(独禁法2条1項)として「事業者」であることに疑いはな
い。
また,セ・パ両リーグと構成12球団が野球協約を締結し,その下に
結成された法人格なき団体であるNPB及び野球機構も,「事業者とし
ての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結
合体または連合体」(法人格の有無,団体の名称,営利性なども問わな
い)であることから,事業者団体に該当する。
したがって,本件契約条項に基づく選手の氏名及び肖像の使用・管理
の制限行為には,独禁法が適用される。なお,本件契約条項の制定が球
団の行為であるとすれば,「事業者」の行為として,その不公正取引は
独禁法19条の問題となり,NPBが制定し各球団にそれを遵守させて
いると捉えれば,「事業者団体」の行為として,その不公正取引は8条
1項5号の問題となるが,いずれにせよ,独禁法が適用されることに問
題はない。
(ウ)相手方としての「選手」の事業者性
ただし,以下に検討する,本件で問題となる不公正取引の中には,共
同の取引拒絶(一般指定1項)があり,これについては,要件上,行為
者の取引の相手方や当該行為が向けられる者が事業者であること,つま
り,取引拒絶(ボイコット)される者も「事業者」である必要がある。
本件で共同の取引拒絶の相手方として考えられる者は,個々のプロ野
球選手又は選手会である。この点,独禁法が適用される「事業者」と
は,「商業,工業,金融業その他事業を行う者」と定義されているが
(同法2条1項),この「事業」とは,「なんらかの経済的利益の供給
に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動」をいうものとされて
いる(最高裁判所平成元年12月14日第一小法廷判決・民集43巻1
2号2078頁)。プロ野球選手は,球団に対して,野球選手としての
特殊な技能を試合に参稼して提供するという「経済的利益の供給」を
し,球団から参稼報酬という「反対給付を受け」ているのであるから,
「事業」を行う者として「事業者」に当たる(甲25)。野球ゲーム,
野球カードとの関係でも,控訴人ら選手は各球団の著名選手であって,
自己の氏名や肖像等を野球ゲーム,野球カード等に商業的に利用してい
る者であり,所属球団から一定の対価を反覆継続して受け取っているの
であるから,その意味でも控訴人らを含む選手は独禁法上,事業者であ
るということができる(甲91・L)意見書3頁)。
また,選手会も,会員選手からの委任を受け,ファンタジーベース
ボール等のゲームに使用される会員選手の肖像に関する第三者への使用
許諾(ライセンス)業務を,対価を得て反復継続して行っていることか
ら,独禁法上,事業者と評価される(甲91・L)意見書3頁,甲92
・M)意見書3頁)。
従って,下記エにおいて述べる共同の取引拒絶との関係でも,独禁法
が適用されることに問題はない。
イ独占禁止法2条9項5号に基づく一般指定14項該当性(優越的地位の
濫用)
(ア)優越的地位の有無は,「取引先転換の容易性」があるか否かで決定
するのが通常であるところ,控訴人ら選手は,所属球団との野球選手契
約の期間が終了した後も,所属球団にその身分を拘束され(野球協約6
8条),野球協約の定めに従ってFA資格を取得しない限り(野球協約
196条),選手自らの意思で他球団に移籍できず,控訴人ら選手に
「取引先転換の容易性」は全くなく,被控訴人らを含む球団が控訴人ら
を含む選手に対して優越的地位に当たることは明らかである(原判決1
11頁11行目)。
(イ)公正競争阻害性が認められること
「正常な商慣習に照らして不当に」利用するとは,一般に,取引上の
優越的地位がなければ行われなかったであろうことが合理的に認められ
れば足りると考えられるところ,控訴人らを含む選手は,球団の承諾な
く,①その肖像を自ら商業目的に使用すること,②その肖像を第三者に
使用許諾すること,③肖像使用の管理を選手会やマネジメント会社に委
託することをすべて禁止され,また,④選手会はNPBよりも低率の使
用料を提案しているにもかかわらず,ゲームソフトメーカーは選手会と
使用許諾契約を締結するという選択を阻害されており,このような取引
条件は,「通常付せられる取引条件」ではなく,これ以外の選択肢を全
く与えない(野球協約47条)ことは,明らかに「正常な商慣習に照ら
して不当」なものである。
a通常付せられる取引条件でないこと
また,このような取扱いが「通常付せられる取引条件」でないという
ことは,(1)我が国のJOCにおける取扱い(甲26),(2)米国のメジ
ャーリーグ(MLB),プロアメリカンフットボールリーグ(NF
L),プロホッケーリーグ(NHL)などでの取扱い,(3)欧州サッ
カーにおける取扱い(甲115)に照らしても明らかである。
長らく問題視されていたJOCによる肖像権の一括管理の制度は法律
的に無理があるとの理由により廃止され(甲26),また,同じプロ野
球である米国のメジャーリーグでも,選手は,コンピュータゲームソフ
トや野球カードのような使用については,メジャーリーグ選手会(ML
BPA)にその肖像の管理を委託し,それ以外の氏名及び肖像の使用に
ついては自ら又はマネジメント会社等に委託して管理している(甲9
4)。また,米国メジャーリーグにおけるような管理方法は,同じく米
国でメジャースポーツとされている米国プロアメリカンフットボール
リーグ(NFL),米国プロホッケーリーグ(NHL)などでも採用さ
れている(甲97)。欧州サッカーにおいても,原則として,選手個人
は自己の権利を自ら利用することができるものであることが確認されて
いる(欧州各国のサッカー協会の上位団体である欧州サッカー連盟
(UEFA)と,プロサッカー選手の世界的な選手会である(FIFPro)とが
合意した「ヨーロッパ・プロサッカー選手契約の最低必要条件」に記載
されている。甲115)。
このように,世界的には,20世紀後半におけるスポーツビジネスの進
展と,スポーツ選手らの世界的な権利意識の高まりの中で,世界の各ス
ポーツ団体が,それぞれ所属するスポーツ選手の肖像権の取扱いについ
て,本来肖像権はスポーツ選手個人のものであるという認識に立った上
で,選手の肖像権を尊重する取扱いを行うようになってきている傾向に
あることから考えれば,むしろ,選手に肖像権管理の主導権を持たせる
方が「通常付せられる取引条件」といえる。
bこれまでの慣習との関係
なお,優越的地位にある者の行為の不当性を判断する際の「正常な商
慣習」とは,公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習
をいい,委託者の行為が,現に存在する商慣習に合致していることの一
事をもって,直ちに正当化されるものではない。したがって,NPBな
いし被控訴人らを含む球団が,長い間,肖像権の独占を「慣習」として
行ってきたことによって,NPB及び被控訴人らを含む球団の行為が正
当化されるものではない(甲92・M)陳述書8頁)。
c行為要件
本件契約条項に基づく選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為
は,氏名及び肖像の「独占的使用許諾権」(選手に一切の使用権限を認
めない球団の独占的な権利)の提供という意味では,一般指定14項2
号「継続して取引する相手方に対し,自己のために金銭,役務その他の
経済上の利益を提供させること」に該当し,そうでなくても3号「相手
方に不利益となるように取引条件を設定し,又は変更すること」,又は
4号「前三号に該当する行為のほか,取引の条件又は実施について相手
方に不利益を与えること」に該当する。
ウ一般指定13項該当性(拘束条件付取引)
一般に,拘束条件付取引の公正競争阻害性は,自由競争の侵害(競争の
減殺)に求められ,その不当性判断にあっては,「価格が維持されるおそ
れ(価格維持効果)」の有無,「競争者の取引の機会が減少し,他に代わ
り得る取引先を容易に見出すことができなくなるおそれ(市場閉鎖効
果)」の有無,の検討が必要とされる(甲92・M)意見書5頁)。そし
て,本件契約条項に基づく選手の氏名及び肖像の使用・管理の制限行為に
より,以下のとおり,「市場閉鎖効果」「価格維持効果」が認められる。
(ア)選手会はプロ野球選手のパブリシティ権に関し,これまでに数度,
構成選手からの管理委託に基づいて第三者(ゲームソフトメーカー)に
対し使用許諾(ライセンス)を行っていたことがある。しかし,その
後,球団側から選手会のライセンスを受けるのなら球団の商標ライセン
スは出さないという圧力がかかるようになり,この圧力は,球団と選手
会の双方からライセンスを受けてビジネスをしようと模索していたゲー
ムソフトメーカーに向けられている。そしてゲームメーカー側は,球団
側との関係を悪化させられないとの実務上の判断から,次第に選手会か
らのライセンス取得をあきらめざるを得ず,その結果,選手会ライセン
スゲームが次々に姿を消し,選手会はかかるライセンスの管理業務がで
きなくなっている(甲95・N)陳述書5頁)。これが「市場閉鎖効果」
である。
(イ)これにより,選手らは,手数料を10%とする選手会と取引でき
ず,これを20%とする野球機構(NPB)と取引せざるを得なくなっ
ている。これは「価格維持効果」である。すなわち野球機構は,株式会
社ピービーエスへの業務委託料とあわせて,合計20%の手数料を徴収
しているのに対して(乙105),選手会は管理手数料を10%として
おり(甲105),野球機構は選手会に比べて2倍の手数料を徴収して
いることが明らかとなっている。つまり,選手の側から見れば,管理手
数料が半額である選手会に委託したくても,球団側からそれを禁止され
ている結果,それを行うことができない。
エ本件契約条項が独占禁止法2条9項5号に基づく一般指定1項2号の共
同の取引拒絶に該当するか(当審における新たな主張)
(ア)一般指定1項2号の共同の取引拒絶の要件
一般指定1項にいう共同の取引拒絶は,以下のように規定されてい
る。
「正当な理由がないのに,自己と競争関係にある他の事業者(以下,
「競争者」という。)と共同して,次の各号のいずれかに掲げる行為
をすること。
一ある事業者に対し取引を拒絶し又は取引に係る商品若しくは役務
の数量若しくは内容を制限すること。
二他の事業者に前号に該当する行為をさせること。」
そして,本件で問題になるのは,統一契約書16条に基づいて被控訴
人ら球団が控訴人ら選手をして,選手会(あるいは他の管理会社等)に
選手の氏名肖像のライセンスをさせず,あるいはその管理委託をさせな
いようにしているかどうかであるから,本件においては,一般指定1項
2号に該当するかが問題となる。
(イ)独占禁止法適用の可否
そこで,一般指定1項2号の共同の取引拒絶の規定が適用されるため
には,まず,①問題となる行為を行う者が事業者であること,つまり統
一契約書16条に基づいて選手の氏名肖像を独占的に使用許諾させ,こ
れを第三者にライセンスする球団が事業者であることのみならず,複数
の球団が傘下の選手をして,選手会に対して,ボイコットさせているか
が問題であるから,②選手会が被拒絶者として事業者であること,③取
引を拒絶させられる選手が事業者であることが必要である。
この点,独占禁止法上,事業者とは「商業,工業,金融業その他の事
業を行う者をいう」(同法2条1項)。ここにいう「事業」とは「なん
らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反覆継続して受ける経済活
動」をいい,「その主体の法的性格は問うところでない」とされる(前
記最判平成元年12月14日)。そして,①日本プロフェショナル野球
協約27条(乙51)によれば,球団は「発行済み資本総額1億円以上
の,日本国国法による株式会社でなければならない」とされ,選手から
その氏名肖像の使用を独占的に許諾され,他の野球カード会社,野球
ゲームソフト会社等にライセンスし,これらから対価を反覆継続して受
けているのであるから,球団が「事業者」であることは明らかである。
次に,独占禁止法上,選手の氏名,肖像の第三者へのライセンスとい
う活動を,対価を得て反覆継続して行う限り,どのような者が行うので
あれ,その主体は事業者であると解される。そして,②第三者にライセ
ンスを行っているのは労働組合としての選手会であるものの,選手会は
これまでファンタジーベースボール等のライセンスを第三者に対して行
うなど,上記第三者へのライセンスという活動を対価を得て反覆継続し
て行っており,選手会は,独占禁止法上,「事業者」と評価される。
そして,③選手自身についても,自己の氏名や肖像等を商業的に利用
し,野球ゲームソフトや野球カード等に使用させる目的で,自己の氏
名,肖像を他の者にライセンスして対価を受けるとすれば,そのような
関係が反復継続する限り,当該選手は独占禁止法上,「事業者」とみて
差し支えない。
以上のことから,本件において問題となっている行為を行う被控訴人
ら各球団は「事業者」に該当し,選手会及び控訴人である選手も本件で
問題となる行為との関係では「事業者」に該当するため,一般指定1項
2号が適用されることとなる。
(ウ)独占禁止法違反の有無
a独占禁止法違反の要件について
次に,一般指定1項2号に該当するかについては,①競争関係にあ
る複数の事業者が共同すること,②正当な理由がないこと,③他の事
業者に,ある事業者に対して取引拒絶(商品・サービスの数量・内容を
制限することを含む)に該当する行為をさせること,の要件を充たす
必要がある。
なお,一般指定1項は「正当な理由がないのに」という公正競争阻
害性についての表現がとられており,このような「正当な理由がない
のに」は,当該行為類型が原則として公正競争阻害性を有すること,
ただ例外的に公正競争阻害性がない場合もなくはないことを表わす趣
旨で用いられているものである。すなわち,一定の行為類型に該当す
ることが認められれば,行為者の合計市場シェアや対市場効果のいか
んにかかわらず,原則として公正競争阻害性が認められるという趣旨
であり,原則違法の行為類型に用いられる表現であるということであ
る。ただし,このことは「あからさまなボイコット」,すなわち,正
当化事由が全く存在しないボイコットについて妥当することであっ
て,行為の外形上はボイコットに当たるが,正当化事由のありうるも
のについては,個別ケースごとに違法性判断が求められる。
b①の要件については,被控訴人らは,プロ野球の試合(興行)を実
施し,入場料・放送権料等を受けること,あるいは所属選手の氏名,
肖像を野球ゲームソフト,野球カードの製造業者等にライセンスする
ことについて相互に競争関係にある事業者である。球団は,セ・パ両
リーグの会合やNPBの会議等において,選手の氏名や肖像を各球団
もしくは野球機構が管理し,他の事業者にライセンスすることを申し
合わせていると考えられるから,「共同して」の要件も充足する。ま
た③の要件も,事業者である被控訴人ら選手をして,同じく事業者で
ある選手会(あるいは他の管理会社等)に対して選手の氏名,肖像の
ライセンスをさせず,あるいはその管理委託等をさせないようにして
いるのであるから,この要件も充足する。このように本件で問題とな
る行為は,外形上はボイコットに該当するため,次に正当化事由につ
いて検討する。
c正当な理由がないこと
正当な理由によって共同ボイコットが違法でないか否かの判断枠組
みについては,東京地方裁判所判決平成9年4月9日(エアソフトガ
ン事件)判決において判示されている。判決によれば,「本件自主基
準設定の目的が,競争政策の観点から見て是認しうるものであり,か
つ,基準の内容及び実施方法が右自主基準の設定目的を達成するため
に合理的なものである場合には,正当な理由があり,不公正な取引方
法に該当せず,独占禁止法に反しないことになる余地があるというべ
きである」として,自主基準について,(1)目的の正当性,(2)内容の
合理性,(3)実施方法の相当性の観点から正当な理由によって共同ボ
イコットが違法でないか否かを検討している。そして,この判断枠組
みによれば,統一契約書16条により,球団が各球団所属選手をして
選手会との取引を拒絶させ,各球団に選手の氏名肖像を独占的にライ
センスさせて一元的に管理し,第三者に使用許諾していることは,
(1)その目的の正当性,(2)内容の合理性,(3)実施方法の相当性のい
ずれからも疑問であるといわざるを得ない。
まず,(1)は独占禁止法の目的(同法1条)からみて,行為の目的
が正当といえるかという基準であり,競争を促進することにより一般
消費者の利益と国民経済の民主的で健全な発達を確保するという独占
禁止法の目的から是認される目的である必要がある。
この点,被控訴人らが主張している目的は,前述のように,(a)球
団の投資の回収,(b)球団にとって好ましくない態様での肖像等の使
用の防止,(d)ライセンシーの便宜(一元的管理)と思われる((c)
分配金の支払は,原審において,元来,統一契約書16条の合理性を
根拠づける理由として主張されたものであり,一般指定1項の公正競
争阻害性がないことの根拠とはなり得ないと考えられるから,cは目
的の主張とはいえない)。
これらのうち,(a)球団の投資の回収及び(b)球団にとって好まし
くない態様での肖像等の使用の防止は,あくまで各球団にとっての必
要性・合理性にすぎず,独占禁止法1条に定める独占禁止法の目的か
ら正当な目的と是認されるものとはいえない。また,(d)ライセン
シーの便宜(一元的管理の必要性)についても,あくまで野球機構が
一元管理を行っている野球ゲームソフトについてのみの理由にすぎな
いのであるから,12球団別々にライセンスを行っている野球カード
の合理性を基礎づけるものにはならない。また,肖像権と同性質の知
的財産権である著作権については,平成13年10月から「著作権等
管理事業法」が施行され,むしろ一元的管理ならざる管理を促進する
国家政策がとられている。すなわち著作権の管理事業については,そ
れまで施行されていた「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(い
わゆる仲介業務法)が許可制を採用していたために,音楽著作権の管
理事業者が,社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)のみに限
定され,管理事業に競争が働いていなかったものであるが,著作権等
管理事業法は,そのような許可制を廃止し,登録制にすることによっ
て,著作権の管理事業に関する新規参入を容易にし,複数の管理事業
者による競争が行われることで,著作物等の権利者及び利用者双方の
利益を増進させようという趣旨で平成13年から施行されたものであ
る。このように,著作権や著作隣接権についても,もはや国家レベル
で「一元的管理」どころか「複数管理」による競争を促進することが
立法として行われており,そのような現在においては,むしろ,既存
の有力な「著作権等管理事業者が,権利者と管理委託契約等を結ぶ
際,当該権利者が現在持つ,又は将来持つことになる著作権法上のす
べての権利を管理委託契約の対象とすることを条件とすること」は,
新規参入を不当に阻害し,競争を実質的に制限する場合には独占禁止
法上問題となるのである。とすれば,著作権におけるライセンシーの
便宜は,複数の管理事業者が公正かつ自由に競争する中で図られると
いうのが現行法の立場であると考えられる。とすれば,ライセンシー
の便宜自体も,独占禁止法1条に定める独占禁止法の目的から正当な
目的と是認されるものとはいえない。
また(2)内容の合理性も,被控訴人らが主張するところの商業化目
的であると宣伝目的であるとを問わず,すべて統一契約書16条によ
って選手の氏名肖像は被控訴人らに独占的にライセンスされることを
内容とするものであるとすれば,そのように独占的包括的なライセン
スが上記の目的を達成する上で必要であり合理的であるかは疑問があ
る。つまり,仮に独占禁止法の目的から是認されるものであるとして
も,球団の選手への投資は,球団の本来的,中心的事業である興行
(試合)の入場料収入等で回収するのが本筋であって,それとは別
の,選手固有の財産権である肖像権について,球団による管理を強制
することによって回収すべき筋合いのものではない。また球団にとっ
て好ましくないライセンス先,態様でのライセンス等の防止も,選手
契約等において,選手が選手会に使用許諾あるいは管理委託する際
に,禁止されるライセンス先,態様等を規定すれば対応可能な問題で
ある。選手の氏名肖像を所属球団に独占的にライセンスさせるという
方法よりも,より制限的でない他の手段があるのであれば,そちらを
選択する方が望ましいであろう。とすれば,本件で問題となっている
行為は,上記の目的を達成する上で必要であり合理的なものとはいえ
ない。
さらに,(3)実施方法の相当性も,球団が所属選手の氏名,肖像を
使用するに当たって,ライセンス先の選定に選手の意向をどの程度反
映させたかは疑問である(平成11年に野球機構が野球ゲームソフト
に使用させる目的でコナミに独占的にライセンスを与えた際には,選
手の意向を全く考慮されていなかった)。選手の氏名,肖像等の使用
は,選手個人の思想,信条や信念への考慮なしになされてはならない
ものであって,従来の実施方法は,この点が決定的に欠けているので
はないかさえ思われる。また選手への対価の支払についても,そもそ
もゲームソフトについて,メーカーから対価を受領していながら,一
切選手への分配を行っていなかった時期があることが認められる他,
例えば,被控訴人ベイスターズは,野球カードについて平成16年ま
で一切対価の支払を行ってこなかったこと,また,被控訴人カープ
が,平成16年まで球団グッズについて肖像権に関する分配を一切行
っていなかったこと(現物支給という実質的に対価の支払と認められ
ない支給しかしてこなかった)が認められる。このように被控訴人ら
の氏名,肖像のライセンス,選手への対価の支払という実施方法も相
当とはいえない。
d小括
以上のことから,被控訴人らが統一契約書16条に基づいて,所属
選手をして,控訴人らをして選手会に対してパブリシティ権の取引を
拒絶させていることは,正当な理由なくこれを行っているものである
から,一般指定1項2号の共同の取引拒絶に該当し,独占禁止法19
条に違反するものである。
(エ)統一契約書16条の有効性(原判決について)
独占禁止法19条に違反した契約の私法上の効力について,原判決
は,「その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として,
同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきでは
ない」(109頁下1行~110頁1行)と判示し,その理由として最
高裁昭和48年(オ)第1113号同52年6月20日第二小法廷判決
の判断内容を掲げている。
しかしながら,上記最高裁判決後の下級審判決においては,この最高
裁判決にしたがって,独占禁止法違反とした行為については,公序良俗
に反するとして,その効力を否定するものが多く見られる。例えば,取
引上の地位の格差のある事業者間で,20年間他の業者から書籍・雑誌
の仕入を禁止された契約条項が旧一般指定10(優越的地位の濫用)に
該当し,「その違法の程度は重く,公序良俗に違反し,私法上無効とい
うべきもの」としたあさひ書籍販売事件判決(東京地方裁判所判決昭和
56年9月30日),建設工事用仮設足場機材製造業者が製造委託先事
業者に対して,類似製品を自己の競争者に供給することを禁止し,違反
した場合には違反製品の販売価格に販売数量を乗じた額の10倍の損害
賠償を請求することができるとの契約条項を設けて,損害賠償請求した
事案で,契約条項は,自己の取引上の地位が相手方より優越しているこ
とを利用して設定したものであり,「健全な取引秩序を乱し,かつ,公
正な商慣習の育成を阻害するものとして公序に反し(独占禁止法19
条,2条9項,一般指定14項〔取引上の優越的地位の濫用〕),民法
90条により無効となる」とした日本機電事件判決(大阪地方裁判所判
決平成元年6月5日判タ734号241頁)が端的に民法90条の公序
良俗に反するとして無効としている。
他方,借手の窮状に乗じて,不良債権の引受を条件として行った貸付
契約が,両者を一体とみて旧一般指定10に該当し,独占禁止法に違反
するとしつつ,「民法90条の観点からは,必ずしも,本件各契約を一
体として画一的に全部有効か無効かのいずれかに断定しなければならな
いものではなく,本件各契約締結の趣旨目的とその内容,それが当事者
双方に与えている利益,不利益,その他本件各契約が前記のとおり独占
禁止法に違反した契約であると認められること等諸般の事情を総合考慮
して,有効,無効,その範囲程度を判断しうるものと解するを相当とす
る」とし,引受契約を民法90条に照らして無効とし,消費貸借契約に
ついては,実質貸付額と約定利息及び約定遅延利息を定めた限度で有効
と解した品川信用組合事件判決〔東京地方裁判所判決昭和59年10月
25日〕),あるいは,やや古い事件であるが,独占禁止法に違反して
なされた株式取得の効力につき,「かような違法の法律行為が任意に実
行せられて,取得を禁止せられた者が株式を取得してしまった後には」
「控訴人等(違法な株式取得者―筆者注記)が株主でないものとすれ
ば,第三者に対する意外な影響を生ずるは勿論…取引の安全を害するこ
と甚しい」とした白木屋事件判決(東京高等裁判所判決昭和28年12
月1日下級裁判所民事裁判例集4巻12号1791頁)などがある。
以上の裁判例から考えるに,公正かつ自由な取引秩序の公序としての
重要性が増大しつつある現在,独占禁止法に反する契約条項は,原則と
して無効とすることが妥当である。
なお,独占禁止法に違反する契約条項を無効とすることにより,生じ
ることのある弊害(取引の安全,法的安定性)という観点から,無効の
範囲を一定の範囲に制限すべきという考えもあり得るところであり,本
件においても,これまでの球団による事実上の管理が比較的長期間にわ
たるものであったことに照らして考えれば,例えば,統一契約書16条
に基づいて球団と選手の間で既に履行されたパブリシティ権の使用許諾
と対価の支払は有効とし,それ以外の将来にわたる部分に限定して無効
とするという考え方もありうる。
(オ)まとめ
以上のことからすれば,被控訴人ら球団が,統一契約書16条に基づ
き,共同して,各所属選手をして,選手会に対し,パブリシティ権の使
用許諾をしないようにさせている行為は,一般指定1項2号に該当し,
独占禁止法19条に違反するものであり,無効である。
3当審における被控訴人らの主張
(1)本件契約条項の解釈について
ア原判決の誤り(控訴人らの主張(1),ア)に対し
控訴人らは,契約の解釈の手法として①契約当事者の内心的効果意思
(意思表示の主観的意味)の探究,②外形的な意思表示内容(意思表示の
客観的意味)の探究の2つが存在し,まずは契約当事者がどのような内心
的効果意思をもっていたかを探究することが重要とされ,内心的効果意思
の探究によっても,契約当事者共通の主観的意味を確定できない場合に,
はじめて表示の客観的意味を確定する必要が生じることになるが,その表
示の客観的意味の確定に当たっては,当事者の用いた表示手段が当該事情
のもとで,慣習・取引慣行や条理に従って判断した場合に,相手方又は一
般社会によってどのように理解されるかを標準としなければならないと主
張する。
以上のような契約解釈の手法が,学説としてあることについては否定し
ないが,裁判所における証拠による事実認定と,その事実に基づく法律判
断は,契約解釈についていえば,裁判所が証拠によって認定した契約に関
する主観的事情及び客観的事情を総合考慮して行う原判決のような手法が
一般的であり,かつその内容も正当であって,この解釈の方が主観的事情
と客観的事情を段階的に別々に考慮して結論を導くより,両者を総合的に
考慮することができる点で優れている。
したがって,このような原判決の解釈手法を前提としない控訴人らの主
張は,本来反論する必要のないものであるが,念のため反論する。
(ア)内心的効果意思の探究姿勢の欠如あるいは認定の誤りに対し
多数当事者間の,しかも長く継続的に更新されてきた,かかる統一契
約書の条項についての内心的効果意思を探究するためには,当初の個々
人の具体的な意思を検討するよりは,その制定経緯・運用実態を検討す
ることが最も有効であることは明らかであって,原判決もこのような認
定方法を正当に採用しているものであり,その方法に誤りはない。
少なくとも,平成12年までは,球団が,氏名肖像を商業的に使用す
ることについて疑いを持つ者はいなかったのであり,統一契約書でいう
「宣伝目的」は,球団ないしプロ野球の人気を向上させる目的をいい,
氏名・肖像の商業的な利用を含むものであるという理解に異論をもつ選
手はいなかったものと合理的に理解されるところ,ある契約当事者が,
同一の契約文言について,突然,従前と異なる意味合いのものであると
いう主張をし始めたとしても,「共通の主観的意味」が共通しないもの
になった,とはいえない。したがって,本件では,契約について主観的
意味が共通していたものと解される。
また,少なくとも表示の客観的意味は,そのような一方的主張により
変わるものでもない。
(イ)外形的意思表示としての統一契約書16条の文言(表示)の客観的
な意味の認定の誤りに対し
a控訴人らは,原判決には慣習によらない意思を明示しているのに慣
習,運用実態を顧慮して契約の解釈を行っている誤りがあると主張
する。
しかし,既に解釈が確定している契約文言の内容によらない旨を
一方的に宣言しても,意思表示の客観的意味が変更される理由はな
い。慣習によらない意思を明示した場合にその慣習に従って契約の
解釈をしてはならないのは,本来「当事者の取決めのない事項」に
ついてである。そこでいう「慣習」は,「当事者の取決めのない事
項」について,世の中でどのようなしきたりがあるか,という問題
であるのに対し,本件では,当事者間に明文の取決めがあって,し
かも,その取決めに関する長年にわたる共通の理解及びそれに基づ
く実務慣行があったのであるから,本来民法92条が問題になる場
面ではない。
b控訴人らは,原判決には平成17年ないし平成18年に締結され
た契約の解釈であるにもかかわらず,昭和26年当時の統一契約書
の制定経緯(起草者意思)を考慮している誤りがあると主張する。
しかし,控訴人らがよって立つ考え方によれば,ここで問題にす
べきは,表示の客観的意味であり,契約当事者の内心の真意ではな
い。統一契約書の文言において,表示の客観的意味を明らかにする
ためには,統一契約書の制定当時の経緯を検討するのはむしろ当然
である。
また,原判決85頁下2行から86頁2行も述べるように,昭和
26年「当時,我が国においては,そもそも『パブリシティ』(選
手の氏名及び肖像が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に
支配する財産的権利)という概念及びその用語になじみがなく」,
「商品化目的」かどうかというような分類をする発想に乏しかった
のであるから,この文言を用いるべきとするのは理由がない。
また,控訴人らは,「宣伝目的」を削除すべきであったとする
が,「氏名及び肖像の商品化型利用の場合においても,球団等の知
名度の向上に役立ち,顧客吸引と同時に広告宣伝としての効果を発
揮している場合がある」(原判決90頁下2行~91頁1行)ので
あって,「球団等の知名度の向上に役立つ」ようにする目的で選手
の肖像等を利用することができる(球団等の知名度の向上に役立た
ない肖像の使用はしない),とするのも合理的な契約条項の定め方
であって,「宣伝目的」を削除すればよかったという控訴人らの主
張は理由がない。
さらに,実務慣行をあえて取り込まなかったと解釈しうるとの点
については,原判決のいうとおり,「統一契約書が制定された昭和
26年当時,選手の氏名及び肖像の利用の方法について,専ら宣伝
のために用いる方法と,商品に付して顧客吸引に利用する方法とを
明確に峻別されていたとは考え難く,『宣伝目的』から選手の氏名
及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用の目的を除外したとする
事情を認めることはでき」ず,「本件契約条項は,その後のパブリ
シティ利用に対する理解の変化にもかかわらず,その内容が変更さ
れないまま,球団と所属選手との間で毎年同一内容で締結し直され
(更改),今日に至っているものであ」(86頁9行~17行)
り,統一契約書制定の前後を問わず,球団側が選手の肖像等につ
き,商品化目的であるものもないものも,使用許諾を行ってきたの
であって,「各球団においては,本件契約条項に基づいて,各球団
が所属選手の氏名及び肖像の使用を第三者に許諾し得るとの理解の
下に,古くは被告巨人軍の昭和36年の例にもあるとおり,長期間
にわたり,野球ゲームソフト及び本件野球カードを始めとする種々
の商品につき,所属選手の氏名及び肖像の使用許諾を行ってきたも
のである」(原判決86頁18行~22行)。したがって,実務慣
行を知りながらあえてそれを取り込まなかったという,控訴人らの
解釈を採る余地はない。
c控訴人らは,原判決には相手方又は一般社会によってどのように
理解されるかという観点から「宣伝目的」という意思表示の客観的
意味を確定すべきなのに,およそ国語的な意味を超えて拡大解釈し
てしまっている誤りがあると主張する。
しかし,「球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用
しても」(統一契約書16条1項)という場合,この「宣伝目的」
は,文言上は,球団の知名度を向上させる目的と理解することは自
然であり,また,野球は複数の球団が存在しなければ成り立たない
以上,「球団の宣伝目的」という場合,その存立基盤であるプロ野
球の知名度を向上させる目的を含む,と解することもまた自然であ
る。そして,そのような解釈のもと,昭和26年(1951年)以
降もそれ以前も,平成12年(2000年)にいたるまでの約50
年間,球団が,商品化ないし商業化と評価できる利用態様で,選手
の氏名肖像等を使用し続けてきたのであり,それについて,契約当
事者を含め,球界関係者から何らの異論もなかったものである(こ
の解釈に基づく運用,すなわち,球団が利用許諾して,その対価を
選手らに分配するという運用は,現在に至るまで実質的な変更もな
く続いている。)。このような契約文言についての自然な解釈及び
長年にわたるその解釈の維持こそが,表示の客観的な解釈で最も重
視されるべき事情であり,そのような事情を無視して,契約文言を
変更することなく,単に,「慣習によらない意思を明示している」
といっても,何の説得力もない。「当事者の用いた表示手段が,当
該事情のもとで,慣習・取引慣行や条理に従って判断した場合に,
相手方又は一般社会によってどのように理解されるか」を考えた場
合,球団が選手の使用許諾権限を有するという前提で,50年以上
契約実務が行われており,その契約実務が契約文言の解釈として合
理的である以上,そのような前提で契約の解釈をせざるをえないの
であって,それにもかかわらず,「宣伝目的」は商品化目的は含ま
ない,と主張しても,意味がない。
控訴人らは,原判決によれば,「特定の球団のオーナーが選挙に
出馬する場合に無断で選手の肖像を使うことさえ可能になってしま
う」などという極端な例を挙げているが,これは,専ら選手の名声
を,有権者の興味を惹くために利用しているのであって,「広く球
団ないしプロ野球の知名度の向上に資する目的」ではない(また,
このような使用目的は,統一契約書制定当時に予定されていたもの
ではない。)。これに対し,「本件野球カードは,長い歴史があ
り,一般の消費者が容易に入手することができる身近な商品であ
り,また,野球ゲームソフトも消費者が応援する球団の選手の立場
になってプロ野球を疑似体験し得るものであって,いずれも被告ら
球団ないしプロ野球の知名度の向上に役立っていることは明らかで
ある」(原判決89頁下9行~下5行)のであって,これらと選挙
の出馬を同一に論じることは意味がない。
また,控訴人らは,本件契約にいう「宣伝目的」に,「商品化目
的」が含まれるかどうかという点について,日本商品化権協会の
「商品化権に関する標準契約書」(甲30),Jリーグの例(甲
9,甲10),メジャーリーグの例(甲14,甲15),韓国プロ
野球の例(甲36)の例を挙げているが,「商品化」かどうかは,
肖像等の利用目的というより,統一契約書16条にいう「利用」
「方法」というべきであるが,それを措くとしても,これらの本件
とは何ら関係がない他の資料を見るよりも,長年にわたり多数当事
者により利用されてきた本件統一契約書そのものがどのように解釈
され,どのように運用されてきたかのほうが,契約解釈にとって
は,はるかに重要である。特に,統一的な契約書の場合,多数がひ
とつの契約書式によるのであるから,そのうちのある者が,条文の
内容につき独自の解釈をもっていたとしても,それにより,契約内
容が変更されるはずがない(メジャーリーグ,Jリーグ,韓国の例
が参考にならないことは,原判決91頁以下で説明されてい
る。)。
また,控訴人らは,原判決が,統一契約書16条1項の「いかな
る方法でそれらを利用しても」との文言を,「宣伝目的」の解釈の
ひとつの考慮要素としたこと(原判決87頁)に関し,「利用手段
と利用目的は別個の概念」であると主張するが,「球団が宣伝目的
のためにいかなる方法でそれを利用しても,異議を申し立てない」
という文言の場合は,「宣伝目的のために○○の方法で」という,
方法に限定を付した場合と異なり,目的をあえて限定した趣旨は読
み取りにくいのであって,原判決がこれを「宣伝目的」の解釈の根
拠のひとつとして挙げたことは妥当である。
さらに,控訴人らは,原判決が「いかなる方法で」という文言に
関し,「球団が第三者に対して使用許諾することも含まれる」と判
断したことについて異論をとなえているが,①「いかなる方法で」
という以上,第三者を通じて使用することも含むと解することは,
文言解釈として可能であること,②統一契約書制定前の例をみて
も,使用許諾がされていたこと,③被控訴人ら(球団)は,野球
チームをもち,野球の興行を主催することが主たる業務である以
上,選手の肖像等を利用する場合,当然第三者に使用許諾すること
が中心となると考えられること,④統一契約書制定後,控訴人らが
署名捺印するまでの統一契約書の運用をみても,第三者に対し使用
許諾する形態で,選手の肖像等を利用するのが主たる形態であった
こと,等を考慮すれば,原判決の判断は,適切なものである。
d控訴人は,原判決にはいわゆる「不明確条項解釈準則」に照らし
ての誤りがあると主張する。
しかし,この準則には,日本法において法令上の根拠はない。ま
た,そもそも,統一契約書16条については,制定以降約50年以
上にわたり,選手会の代理人が平成12年に異議をとなえるまで,
商品化の利用形態であるか否かを問わず,球団に選手の肖像等の使
用許諾権限があるものと解されてきたのであり,同条が,このよう
な解釈を変えて,あえて球団に不利に解さなければならない「不明
確」な条項であるとは考えられない。
イ追加主張(控訴人らの主張(1)イ)に対し
(ア)主観的事情(イ(ア))につき
a控訴人らの解釈は長年の使用実績を否定するもので不自然である。
すなわち,統一契約書16条1項の規定は,球団が,広く商業目的
で,選手の氏名・肖像の使用許諾を行うことを根拠付けるものであ
り,プロ野球カードやプロ野球ゲームソフトについての被控訴人らに
よる管理が「事実上」のものにすぎないという控訴人らの主張につい
ては,被控訴人ら球団が半世紀以上にわたり積み重ねてきた商品化事
業のすべてについて,法律上の権限がないことになるという非常識な
解釈である。
つまり統一契約書16条は,球団の宣伝目的である限り,「いかな
る方法」でも選手の肖像を使用することができることを定めたもので
あり,野球カード及びゲームソフトもその対象になることは既に主張
したとおりであるが,野球カード及びゲームソフトがその対象でない
と仮定すると,逆にすべての商品がその対象でないことになってしま
う。これが正しいとすると,前記のとおり,被控訴人らは,メンコ,
カルタをはじめ,ゆかたその他種々の商品について,選手の氏名・肖
像を使用許諾し,そこから金銭の利益を受けたときは,選手に分配金
を支払ってきたが,これらの使用許諾は,すべて法律上の根拠がなか
ったことになり,また,選手に支払った金員は,法律上の原因がなか
ったことになってしまう。このような,半世紀にわたる歴史を否定す
るような解釈が正当であることはありえない。選手と球団の契約は,
極めて例外的なケースを除けば,統一契約書による選手契約しかな
く,その16条が,上記のような長年にわたる使用許諾を基礎付ける
役割を果たしてきたものである。
b統一契約書は一方当事者中の個々人の内容の不知により内容が変わ
るものではない。
すなわち,リーグを形成する多数(現在は2リーグ12球団)の球
団と多数(現在は約840人)の選手とが,選手契約を締結する場
合,リーグを存立させるためにも,また,リーグ内外で公正な競争を
行うためにも,球団と選手間との取扱いを一定範囲において統一的に
する必要があり,本件統一契約書も,このような要請から,多数の当
事者間の法律関係を統一的に取り扱うことを目的としたものである。
契約当事者間の法律関係の統一的な取扱いを目的とするこのような
契約においては,一方当事者の個々人の意思がどのようなものであろ
うと,また,一方当事者のうちの個々人のある者が契約の文言あるい
は解釈について不知であったとしても,文言の制定時の事情を踏ま
え,その意味するところが確立された契約の客観的解釈からはずれた
解釈を行うことはできない。特に,本件統一契約書に関しては,当事
者間の合意があっても,統一契約書の内容に反する特約はすることが
できないとされているのであるから(統一契約書29条,野球協約4
7条1項及び2項),より強い理由により,そのようにいうことがで
きる。
したがって,本件統一契約の契約当事者が,条文を読んだことがな
かったり,あるいは,内容について正解しないことがあったりしたと
しても,これにより,本件統一契約書の意味内容が変わることはあり
えない。
また,控訴人らが条文の内容を変更したいのであれば,交渉等を通
じ合意により条文を変更すべきであり,一方的な意思の通知により,
契約の条文の内容を変更することはできない。
(イ)統一契約書16条の合理性
統一契約書16条が合理的であることについては,原審において主張
し,原判決でも明確に認められたところであるが,契約の解釈に関連す
る部分につき控訴人らにより主張されている点について補足する。
a球団が選手の肖像等の使用許諾権限を有することの合理性
選手の氏名・肖像は,通常,球団のマークとともに使用された場合
に,その価値が最大化する(例えば,球団のユニフォームを着用しな
い場合には通常のファンに認識されないような選手であっても,ユニ
フォームとともにであれば,商品化の対象になりうる。)。そして球
団が,全所属選手の氏名・肖像について使用許諾権限を有していれ
ば,顧客(スポンサー)等のニーズに合わせて各選手を起用すること
により,極めて効果的な商品化事業を行うことができる。さらに球団
は,営業部門を有し,商品化事業をする能力を有しており,また実際
にも,球団のマークについて商業的な使用許諾をする機会も多い。し
たがって,統一契約書16条により球団が選手の氏名・肖像について
も使用許諾権限を有すること自体,極めて合理性が高い。
そして,このような球団の商標等と選手の肖像等の一元的な取扱い
を可能にすることにより,球団の名称・商標及び選手の氏名・肖像の
両方を使用することを希望するライセンシーは,球団とのみ交渉すれ
ばよいことになり,ライセンシーの便宜をはかることもできる(ライ
センシーの便宜)。
また,選手のパブリシティ価値は,球団の莫大な投資の上に生じて
おり,選手のパブリシティ価値には,球団のパブリシティ価値も反映
されている(このことは,前記のとおり,人気球団の選手のほうが一
般的にパブリシティ価値が高いことからも明らかである。)。したが
って,球団が選手の氏名・肖像の使用許諾により生じる収入から,利
益を受けることも極めて合理的である。
以上に対しては,選手の意に沿わない使用方法がされることは不当
であるという批判がありうるが,少なくとも,プロ野球カードやゲー
ムソフトにおいては,そのような使用方法は,ほとんど考えられな
い。考えられるとすれば,気に入らない写真を使われる程度のことで
あろうが,それは契約の解釈・有効性に影響するような大きな問題で
はないし,しかも,球団は自らの所属選手のイメージを悪くするよう
な写真を使うことは球団の不利益になることであり,実際には,球団
は,選手の希望に沿うように行動しているから,そのような懸念は杞
憂にすぎない。万一選手の人格を害するような使用方法が採られれ
ば,それ自体で債務不履行や不法行為が成立しうるし,権利(使用許
諾権)の濫用にも当たるといえる。したがって,選手の意に沿わない
使用方法がされうるから,球団が選手の氏名・肖像の使用許諾権限を
有するのは不当である旨の主張は理由がない。このような主張は,競
争秩序の維持とは直接関係がなく,独禁法違反の主張としても意味は
ない。
また,控訴人らが受けている分配金がない,あるいは,少なすぎる
という趣旨の反論もあるが,これも適当な分配金を受け取っていない
ことを主張立証して,契約上の請求をすれば足りることであり,球団
が使用許諾権を有していること自体が不合理であることを示すもので
はない。
以上のとおり,球団が,選手の氏名肖像の使用許諾権限を有するこ
と自体は,極めて合理的なことであることは明らかである。このよう
な内容の取決めが,不当であるとか,独占禁止法や公序良俗違反にな
るということはありえない。
b球団が選手の肖像等の独占的使用許諾権限を有することの合理性
このような使用許諾権限を独占的なものとすることにも,高度の合
理性がある。
すなわち,プロ野球関連の商品化事業を考える場合,球団のパブリ
シティ権と選手のパブリシティ権とを総合させたうえで,統一的なラ
イセンス・ポリシーに基づき,ライセンスを行うことが極めて望まし
い。もし,各選手にパブリシティ権の行使を認めると,統一的なライ
センス・ポリシーがとれない結果,利益が最大化しないことになるほ
か,利益相反に似た問題も生じることになる。例えば,各選手も使用
許諾権限を有するとなると,同じ球団の3番打者と4番打者が,ライ
バルメーカーの製品に登場するという危険が存するし,また,プロ野
球ゲームソフトに,3番打者は出るが,4番打者は出ない,というよ
うなおそれも存する。
また,球団は,球団のイメージにそぐわないものについては,選手
の氏名・肖像を使用許諾しないように極力努めている。各選手が,そ
の氏名・肖像につき使用許諾権限を有するとなると,球団・選手のイ
メージに反する商品が市場に出回るおそれがあるが,一旦球団(ひい
ては野球界全体)のイメージが悪くなると,野球は人気商売であるこ
とから,極めて深刻な打撃を与えることも考えられ,このイメージ保
持の点は,プロ野球の死活問題である。したがって,球団が使用許諾
権限を独占するということには高度の合理性が認められる。このよう
な内容の取決めが,不当であるとか独占禁止法や公序良俗違反になる
ということは考えられない。
(ウ)選手も統一契約書により,選手の氏名・肖像の権利については球団
が独占的に行使するものと考えていたこと
上記において,個々の選手の具体的な認識により確立された客観的な
契約の解釈が変更されることはない旨主張した。ただし,念のため指摘
しておくと,統一契約書を読むことすらせず,統一契約書の条文につい
て理解していなかった選手がいたとしても,選手会のO)元会長やP)
元副会長のように意識の高い選手は,球団が統一契約書の規定により選
手の氏名・肖像をゲームソフトに使用する権限を有していると認識して
いた。
すなわち,「1996年第2回選手関係委員会」議事録(甲20)の
3頁「3.その他」の項では,「①『ゲームソフト・許諾料の分配率』
については機構委員と選手会執行部との間に現状認識のズレがあり,以
下のやり取りがあって冒頭実線枠内に記載の通りの暫定的な結論となっ
た。」「選手会・ソフトのどの部分が商標権に属し,どの部分で肖像権
が発生するのか,は難しい問題であるし,協約(統一契約書16条・写
真と出演)にも『球団を通して行え』となっている。…」との記載が存
在する。このように,ゲームソフトについても,統一契約書により球団
を通じてしか第三者に使用許諾しなければならないことを,選手会側は
明確に指摘している。
また,平成7年(1995年)3月20日に開催された「1995年
第1回選手関係委員会・日本プロ野球選手会会合」の議事録(乙73)
の5枚目「B.新たな事項」「①明確,かつ厳正な肖像権の取扱い」に
おいては,「統一契約書16条(写真と出演)には,球団が宣伝目的の
ために選手の『肖像』を利用し,『これによって利益を受けるとき,選
手は適当な分配金を受けることができる』と明記されているが,『実態
は球団によって取扱いがマチマチである。また,用具のアドバイザリー
契約についても,選手の意向を無視して球団が勝手にやっているケース
がある。是非,是正して戴きたい』(Q)事務局長),『肖像権料をも
らえることを知らない選手がいたのはショックだった。契約書にある適
当なという表現は曖昧である。統一した内容(分配のパーセンテージ)
を決めて欲しい』(R)会長)等々の要望が選手会から出た。」との記
載が存在し,ここでも選手会側自身(なお,「R)会長」とは,被控訴
人阪神タイガースに所属したO)元選手のことである)が統一契約書1
6条を分配金の根拠として捉えている事実が明確にされている。
さらに,選手会の副会長であったP)の陳述書(乙100)では,こ
の辺の事情につき,「私自身は,選手時代に,統一契約書によって,肖
像権は,球団がもっていることを当然知っていました。自分の名前や肖
像を使った商品について,球団が許諾した会社が作って売ることは当然
だと思っていました。1990年代,選手会は,球団・野球機構側との
交渉で,肖像権料のパーセンテージ(分配率)を上げる交渉をしていま
した。『肖像権はあんたたち(球団)が持っているのは認めている。だ
から,もっとパーセンテージを上げろよ。』ということですので,他の
選手会の役員も,当然,肖像権は,球団のものと考えていたと思いま
す。」と述べている。
(エ)各球団毎の主張につき
a被控訴人巨人軍
(a)球団による説明を受けていないという主張に対し
被控訴人巨人軍においては,選手に対して統一契約書の説明を行
い,選手が統一契約書の内容について理解するように努めてきてい
る。現実には多くの選手が選手の氏名,肖像を巡る球団の取扱いに
ついて理解をしているものと考えられる。
また,そもそも,控訴人らを含む一般的なプロ野球選手は,野球
のプレー技術向上とその成果である年俸の問題に対して意識を集中
しており,肖像権について球団による管理に問題を感じている選手
は現実には存在しないものである。
この点に関し控訴人らは「…球団の選手会役員たる控訴人阿部慎
之介ですら,このような『わかる野球協約』等をもらった記憶はな
いと述べており…,その他多くの選手も同様の認識でいる」とも主
張しているが,これらは,球団が説明を怠ったことを意味するもの
ではなく,むしろ前述したように,控訴人ら選手が実際には球団に
よる肖像権管理に対し問題意識を持ったことがないことを示すにす
ぎない。選手らの肖像権(パブリシティ権)を球団において管理す
ることは選手にとってあまりにも当然のことと考えられ,したがっ
て,球団側から選手に対して説明が行われても,特段意識すること
がない選手も中には存在することを示しているにすぎない。
(b)S)選手メダル事件
さらに,被控訴人巨人軍が統一契約書16条に基づき選手肖像に
ついての権限を有していることは,S)選手メダル800号事件に
おいて端的に示されており,また,かかる取扱いを選手自身が容認
していたことも明らかとされている。
すなわち,同事件の仮処分命令申請書(乙99の15)において
は,申請の理由中に「統一契約様式第16条は…(注・統一契約書
16条の条文を引用)…と規定していることから,球団は支配下選
手の肖像権氏名権の営業行為の管理を野球協約により委任されてい
る」とされ,球団が選手肖像についての権限を有していることが明
らかとされている。
(c)「お知らせ」「わかる野球協約」
被控訴人巨人軍が,これらの資料も用いて,球団が,選手の氏名
及び肖像についての権限を有することを選手に説明してきた。
控訴人らは,「お知らせ」「わかる野球協約」に記載されている
事項について,「球団の行為ではなくすべて選手の行為であり,…
本来統一契約書16条3項に定められている事項についての記載に
すぎない…」と主張しているが,そもそも,16条3項と1項と
を,完全に区別して論じること自体が意味のない主張である。
さらに,これらの説明資料の具体的内容を検討しても,例えば
「お知らせ」とする資料の前文においては,「テレビCM,キャラ
クターグッズ等に対して…」と記載され,控訴人らが主張するとこ
ろの「商品化型利用」に該当する「キャラクターグッズ」も「テレ
ビCM」と並列して記載されており,さらに「新聞の広告,TV番
組,ポスター等への写真,映像使用」としているところ,「等」と
されていることからもわかるように,あくまで「新聞の広告,TV
番組,ポスター」は代表的な使用例であって,球団ではそれ以外の
使用態様もあることを想定して,わざわざ「等」と入れているもの
である。これらの点にかんがみても,球団側が控訴人らの主張する
ような商品化型利用と広告宣伝型利用とを区別して第三者に許諾を
なしていたわけでないことが明らかである。
また,控訴人らは,「権利意識や条文解釈等の正確な認識をする
ための前提が整っていなかった」とも主張するが,一方当事者が契
約文言についての認識を変更したからといって,契約の客観的意義
が変わるわけではないことについては,被控訴人らが既に述べたと
おりである。
b被控訴人ヤクルト
(a)統一契約書の交付の事実
被控訴人ヤクルトにおいて,平成5年時点において既に,統一契
約書を一部選手に渡す慣行となっていたことはK陳述書(乙11
7)に記載のとおりである。
控訴人らは,被控訴人ヤクルトは,少なくとも控訴人らを含む現
在のプロ野球選手に対して,平成12年以前から現在に至るまで,
統一契約書16条1項に関する球団見解を明確に説明し,これを選
手との間で共通認識としたことはなかったと主張する。しかし統一
契約書を平成5年時点において既に手渡していたことは前述のとお
りであるし,控訴人らは,本件訴訟及び原判決を通して統一選手契
約書16条の文言の意義が明らかとされているにも関わらず,なお
従前の文言のまま球団との間で契約を締結しているものである。球
団見解が明確にされていないという控訴人ら主張は理由がない。
(b)コマーシャル契約,マネジメント契約等についての主張に対す
る反論
控訴人らは,被控訴人ヤクルト所属選手がかつて契約したコマー
シャル契約やマネジメント契約における記載について,選手がCM
に出演する場合には球団の承諾を得なければならないとするという
統一契約書16条3項の文言を明らかにしたものにすぎず,上記コ
マーシャル契約に関する点と同様,本件での本質的問題ではないと
主張しているが,このように16条3項を1項との関係で単独で採
り上げる控訴人ら主張に理由がない。
すなわち,被控訴人ヤクルトと選手との間におけるマネジメント
契約では,「選手契約における選手の肖像権等の使用に関する規定
として,統一契約書16条が引用」されるとともに「同条が球団と
選手との関係を規律すると同時に,球団と当該マネジメント会社と
の間も規律する」ということが謳われ,さらに,「契約金は契約先
から球団に直接支払われた後に,球団の取り分を控除して選手に支
払われることが規定」されているものである。かかる規定は,控訴
人らが主張するような選手と球団間を規律する統一契約書16条3
項のみで説明できるものではなく,当然,球団が選手の肖像に関し
て権利を有するものとする統一契約書16条1項及び2項の存在に
よって初めて説明が可能なものである。
c被控訴人ベイスターズ
(a)覚書(乙78)の内容
被控訴人らが説明してきているとおり,被控訴人ベイスターズ
(その前身である大洋ホエールズを含む)及びその選手会との間で
作成されている覚書は,統一契約書16条に明確に触れた上で,金
銭の分配について触れているものであり,まさに分配金の根拠が統
一契約書16条2項にあることを示す資料である。
すなわち,同覚書では,第2条で
「乙(判決注:横浜ベイスターズ選手会)は,統一契約書第15
条及び第16条の精神を尊重し甲主催の行事に協力する。又,
甲は乙の主催行事運営費として協力金を支払う。」
とされており,かかる協力金は統一契約書16条2項における「分
配金」としての性質を有するものである。
そして,「ファン感謝デー」「野球教室等」へ選手が協力するに
当たっては,当然に,選手の氏名・肖像等が使用されることを前提
としているものであるから,統一契約書16条に基づき,これらの
イベントを被控訴人ベイスターズが催すことができるのは,とりも
なおさず,同条に基づき選手の肖像に関する権利が被控訴人ベイス
ターズに帰属しているからに他ならない。しかも,16条において
肖像権が帰属することの根拠となる条文は,16条1項しか存在し
ない。
控訴人らは,覚書の内容について「基本収益事業という枠組みに
入ってこないものばかりが挙げられている」とするが,いずれにせ
よ,被控訴人ベイスターズ所属選手が「統一契約書…第16条の精
神を尊重し甲主催の行事に協力…」することへの見返りとして「協
力金」が支払われているのであり,統一契約書16条2項の「分配
金」が支払われているといえる。
したがって,被控訴人ベイスターズにおける「覚書」は,球団が
選手の氏名・肖像の使用許諾をなし,それによって収益を得た場合
には分配金を選手に対して支払うという取扱いが統一契約書16条
に根拠を有することを示すものである。
(b)広告出演契約書についての主張に対する反論
平成12年11月1日付けの「広告出演契約書」においては,第
1条2項で「丙は,丁の肖像権がセントラル野球連盟通用選手契約
…第16条に基づき丙に属することを保証する。」として被控訴人
ベイスターズが統一契約書16条に基づき選手肖像権を有すること
が確認され,しかも,「乙は丙に,出演料として金…円…を…振込
み支払う」とされ,第三者が被控訴人ベイスターズに対して出演料
を支払うことが定められている。その上で,被控訴人ベイスターズ
は受領した出演料のうち選手取分を当該選手に対して支払ってお
り,かかる取扱いは,統一契約書16条1項により球団が選手の氏
名・肖像についての権利を有し,同2項により選手に対して「分配
金」を支払うという理解と明らかに整合するものである。
(c)統一契約書16条についての説明
また,控訴人らは,CM出演などの際に球団の担当者から統一契
約書を示されて統一契約書16条の説明を受けたことについても,
控訴人鈴木尚典・控訴人三浦大輔・控訴人相川亮二のいずれもその
ような経験はないと陳述している(甲76~78)と主張するが,
甲76ないし78はいずれも同様の文章で,「横浜球団から,統一
契約書16条に基づいて,球団側が選手の肖像権を管理していると
いうような説明を受けたこともありません。毎年の契約更改の際に
も,そのような説明がされたことはありません。」旨が記載されて
いるにすぎず,鈴木選手と三浦選手の陳述書に至っては「私が横浜
球団に入団した当初から,球団グッズ等選手の肖像等を使用したも
のが販売されており,グッズ等に関する金銭が支払われていること
も認識していましたが,そのことが統一契約書16条によって定め
られているものだとは思っていませんでした…」(甲76の1頁6
行~9行,甲77の1頁6行~11行)というくだりまで全く同一
である。
d被控訴人ドラゴンズ
(a)陳述書の信用性についての控訴人ら主張に対する反論
控訴人らは,「選手個人に分配を開始した理由及び時期につい
て」被控訴人らの提出した陳述書の内容に食い違いが存すると主張
するが,平成19年6月12日付け陳述書(乙119)において被
控訴人ドラゴンズ広報部長であるPが説明しているとおり,「当球
団が,個々の選手に直接肖像権使用料を支払うようになったのは,
平成13年度分,すなわち平成13年6月27日業者から振り込ま
れてきたものからですが,これについては,当球団の内部事情によ
り,実際の選手への支払い時期は平成14年2月28日となって
(いる)」にすぎず,控訴人らが指摘するような食い違いが生じて
いるわけではない。いずれにせよ,控訴人らが指摘する部分は,本
件訴訟との関係で本質的な部分ではなく,この点が陳述書自体の信
用性に影響するものではない。
また,O選手に対して説明が行われていることは,被控訴人ドラ
ゴンズの広報部長Pの陳述(乙119)のとおりである。
さらに,「肖像権配分率」表の分配時期についても,仮に控訴人
らによったとして,いずれにせよ平成12年以前に配布されていた
ことに違いはないものであるから,肖像権配分について被控訴人ド
ラゴンズが選手に対して平成12年以前から説明されていたという
事実自体に影響を及ぼすものではない。
(b)甲79ないし81(選手側陳述書)に対し
また,控訴人らは,「控訴人井端弘和,N,Oともに,中日球団
から,統一契約書16条に基づいて,球団側が選手の肖像権を管理
しているというような説明を受けたこともなく,毎年の契約更改の
際にも,そのような説明がされたことはないと陳述している」と主
張するが,これらについても,結局は全員全く同じ文章で「中日球
団から,統一契約書16条に基づいて,球団側が選手の肖像権を管
理しているというような説明を受けたこともありません…毎年の契
約更改の際にも,そのような説明がされたことはありません」(甲
79の1頁6行~8行,甲80の1頁8行~11行,甲81の1頁
7行~9行)との記載が存在するにすぎない。
e被控訴人タイガース
(a)「商標・肖像権に関する使用許諾基準」につき
被控訴人タイガースにおいては,上記使用許諾基準に基づき選手
の氏名・肖像の使用許諾業務と分配金の支払とを長年行っており,
選手の氏名・肖像についての権利が球団に帰属することと,氏名・
肖像の使用についての対価から選手に分配金が渡されることが明ら
かとされている。
使用許諾基準に付属している「球団登録選手の肖像権使用契約」
では,
「甲と乙との間に甲の製造,販売する商品について,乙の肖像使
用料金を…該当選手に支払う…
①サインボール,色紙等に使用するサイン…
②パネル,ポスター等の写真印刷…
③その他,開発する商品についても…」(第1条)
とされており,控訴人らが主張するところの広告宣伝型使用と商品
化型使用について何らの区別もなされていない。また,上記の商品
類は統一契約書16条3項のみでは説明ができないものであるにも
関わらず,球団が選手の氏名肖像についての権利を有することを当
然の前提として覚書が作成されている。
仮に,使用許諾基準が「球団内部の内規として作成された」もの
であるとしても,かかる基準にのっとって被控訴人タイガースが運
用を行ってきたこと自体で,球団が選手の氏名肖像についての権利
を保有し,その対価として選手には分配金が支払われてきている事
実は疑いないものである。
そして,かかる取り扱いが,統一契約書16条1項及び2項の定
めるところに合致することも明らかである。
(b)「肖像権のしおり」につき
さらに,被控訴人タイガースが昭和56年頃に作成した「肖像権
のしおり」には,「皆様が選手契約をされた時点で,下記の通り,
プロ野球選手統一契約書第16条の規定により,肖像権等を球団に
拘束される事になります。」との記載が明確に存在し,平成12年
以前は統一契約書16条の規定が根拠となって,球団が選手の肖像
権に関する権利を有していることを明確に示していたことは,控訴
人側でも争いようがない事実である。
また,被控訴人タイガースだけが,勝手にこのような解釈をとっ
ていたことは考え難く,かかる認識は,当然プロ野球球団全体の認
識であったものと考えられる。
これに対して,控訴人らは,「この冊子の存在をもって,控訴人
らに対して影響ある形で,統一契約書16条に関する球団見解を示
したとは到底いえない」と主張するが,重要な点は,本冊子が控訴
人らに影響を与えたか否かではなく,統一契約書16条の意味が過
去に球団により示された事実が存在するかどうかであり,控訴人ら
の主張には理由がない。また,控訴人らが内心で契約文言の理解を
変えたところで,契約自体の意味内容が変わるものでないことも当
然である。
(c)R選手及び有限会社オフィスRと被控訴人タイガースとの間の
契約書(乙98)につき
統一契約書16条に基づき,球団が選手の氏名,肖像についての
権利を有し,その使用許諾に対する対価の分配金を支払っていたこ
とは,被控訴人らが乙98として提出した契約書の内容からも明ら
かである。
これに対して控訴人らは,同契約書が「R選手のメディア出演に
関する事項に限定され,むしろR選手の氏名肖像を商品化目的で使
用する場合,プロ野球ゲームソフトやプロ野球カードに使用する場
合については,何ら言及がない。」とし,「統一契約書16条3項
についてこれを順守することを受けて規定されているもの」と主張
するが,その理解は正しくない。
すなわち,まず,同契約書においては
「乙の写真出演等に関する肖像権,著作権等についてつぎのとお
り契約を締結する。」(前文)
「甲,乙及び丙は,甲が,セントラル野球連盟通用野球選手契約
書に規定のとおり,乙の写真出演等に関する肖像権,著作権等
のすべてを保有する…」(第1条)
というとおり,本契約の対象が,広くR選手の写真出演等に関する
肖像権,著作権等であることが明らかであり,さらに,
「テレビ・ラジオ出演,サイン会等」(第2条)
「テレビコマーシャル契約,アドバイザー契約等の特別企画」
(第3条)
との記載が存在し,「等」・「等の特別企画」として球団が有する
選手の肖像等に関する権限が,控訴人らのいうところの宣伝広告型
のみの狭い範囲に限定されるものではないことが明らかにされてい
る。
また,「(同契約書は)統一契約書16条3項についてこれを順
守することを受けて規定されている」との主張についても,このよ
うに統一契約書16条3項と1項とを完全に峻別する見解が誤りで
あることは,被控訴人らがこれまで述べてきたとおりである。
(d)球団OBの陳述書についての主張につき
また,控訴人らは,被控訴人らが提出した被控訴人タイガースの
球団OBの陳述書について,内容の具体性に乏しく,統一契約書1
6条の意味内容について説明を受けた事実を伺わせるものではない
と主張する。
しかしながら,被控訴人タイガース総務部長のWの陳述書(乙1
20)において説明されているとおり,「こうした表現は,説明を
受けた正確な日時や言い回しに関して鮮明に覚えているわけではな
いという意味にすぎ(ず)」,例えば,「S氏は昭和59年の若手
研修会に参加して統一契約書について説明を受けている事実が確認
できて(いる)」ものである。
f被控訴人カープ
(a)球団グッズの現物支給についての反論
T)の陳述書(乙81)において,球団が製作した選手グッズに
関する現物支給が行われるに至った経緯について「…当球団におい
て行っていた現物支給は,選手側のニーズと当球団側の事情が丁度
上手くかみ合ったため行われていた取り扱いであり…選手も皆喜ん
でくれていました。」(7頁,5行~8行)とされているとおり,
被控訴人カープにおいて一時期行われていた選手グッズの現物支給
(それも,あくまで,球団が企画・制作・販売するグッズのみであ
る)は,選手側の希望も考慮して行われてきたものであって,実質
的に「分配金」の役割を果たしてきた。
これに対して,控訴人らは,球団グッズに関する分配を行ってこ
なかったという例を見ても,選手の肖像権の管理について一方的な
管理を続けてきたのは球団であると主張するが,上述のとおり現物
支給は,選手自身の要望・便宜を考えた上で行ってきたものであ
り,「分配金」の支払に十分代わるものである。
選手自身が自身の選手グッズを欲していることは,例えば,被控
訴人巨人軍の「選手会要望事項」(乙111の1)において,「グ
ッズの件だが,巨人軍の選手なのだから,一,二軍関係なく全員の
グッズを出して欲しい。今は人気選手が中心になっている。身内の
人から『選手のグッズが欲しい』と言われることもある。全部のグ
ッズは難しいができるものもあると思う。」とされていることから
も裏付けられている。
(b)球団見解の明確化
また,控訴人らは,「平成12年以前から現在に至るまで,統一
契約書16条1項に関する球団見解を明確に説明したこともなく」
と主張しているが,少なくとも,直近では,平成18年11月21
日付け書状(乙54)によって球団見解は明確にされており,控訴
人らの主張に理由はない。
g被控訴人ファイターズ
(a)広告出演契約書につき
控訴人らは,被控訴人らが,陳述書添付資料として提出した平成
16年1月1日付広告出演契約書(乙82,添付資料1)について
「…この契約自体,そもそも選手は当事者として入っておらず,捺
印もしていないものである。」とするが,選手は,この契約に基づ
いて広告に出演しているわけであるから,当然,球団と第三者との
間で肖像権についての契約が締結されている事実を認識しているは
ずである。また,かかる契約に基づき出演料を受け取っていること
も理解しているはずである。捺印については,統一契約書16条に
基づき球団に選手氏名肖像の使用許諾権限が存在するため,選手が
わざわざ捺印する必要が存在しないので行われていないだけであ
る。むしろ,広告出演した選手がこのような状況を黙認している状
況こそ,選手は氏名肖像についての権利の球団への帰属を認めてい
ることを裏付けているものである。
さらに,上記契約書の第4条においては,
「日本ハムは,本契約期間中,…の出演した広告及び…の肖像
(日本ハムが了解した似顔絵を含む),音声,氏名(サイン
を含む),略歴等を,…が媒体の種類・数・使用頻度を制約
されずに次の各用途に使用することを承諾する。…
ア.…プレミアム・ノベルティ(テレホンカード等のプリペイ
ドカード,CD-ROM,フィギュア類を含む)…」
として,控訴人らがいうところの,商品化型使用と同様の使用形態
が定められており,商品化型使用と広告宣伝型使用とを峻別するこ
とが困難であることを裏付けている。
(b)OB及び選手の陳述書につき
また,控訴人らは,「日本ハム球団は,控訴人らを含む現在のプ
ロ野球選手に対して,平成12年以前から現在に至るまで,統一契
約書16条に関する球団見解を明確に示したことはなかった」と主
張するが,被控訴人ファイターズの取締役チーム統括本部長である
A)が陳述したように,春のキャンプ等を通じて球団側は選手に対
して球団の見解を示しており(乙122,2頁4行~23行参
照),かかる主張も理由がない。
h被控訴人ライオンズ
(a)被控訴人ライオンズによる説明につき
控訴人らは,「2007年の契約更改時における球団見解の説明
についても,D)は,D)本人に対して,そのような説明はなかっ
た,他の選手からもそのようなことがあったとは聞いていないと述
べている」と主張するが,F)球団本部長の陳述書(乙123)に
おいて「2006年12月14日(木),2007年度契約更改の
2回目の交渉において,選手契約の締結に至っています。その際,
統一契約書にD)選手が署名捺印したものを,球団側がコピーし,
そのコピーを手渡した上で特に第16条を示して,『ここに記載さ
れているとおり,選手の肖像についての権利は球団が保有し,選手
の肖像を利用した商品を球団が作る場合には分配金が年に2回支払
われます』と確認しております。契約交渉の席には,U)社長(当
時),V)球団代表(当時),W)編成本部長(当時),及びX)
業務部業務課課長代理(書記として)が出席しており,V)球団代
表からD)選手に対して上記の内容を間違いなく伝えておりま
す。」として,相当具体的に記述されているとおりである。かかる
陳述からは,「選手契約や権利事項に対する意識が極めて高い選
手」であっても肖像権について問題を感じているわけではないこと
が裏付けられる。
(b)球団見解との相違につき
また,控訴人らは,「…説明があったとしても,それは球団見解
の一方的な通知に過ぎず,既に西武球団に所属する選手が有してい
る統一契約書16条に関する明確な認識とは相容れない」と主張す
るが,この点についても,選手が主観的にいかなる認識を有してい
るかが重要なのではなく,あくまで,契約書文言の客観的意味が問
題となることはこれまで述べてきたとおりである。
i被控訴人マリーンズ
(a)「肖像権,著作権の取り扱い内規」につき
「肖像権,著作権の取り扱い内規」では,「4.対価範囲につい
て」において,「(8)その他,球団が必要に応じ指定した事
項」と包括的な記載がなされており,対象を,控訴人らが主張す
るところの宣伝広告型使用に限っているわけではなく,「商品化
の範囲に含まれるようなものではない」という主張には根拠がな
い。
(b)フェイス社のトレーディングカード事件につき
また,控訴人らは,フェイス社のトレーディングカード事件の際
に被控訴人マリーンズが統一契約書16条1項に書状中で言及し
なかったことを捉えて「このような球団の姿勢は,むしろ選手に
商品化に関する許諾権が依然として存在し,その一部を選手会に
管理委任することを前提として認めたとさえ解釈しうるもの」と
主張している。
この点については,平成19年6月15日付けの被控訴人マリー
ンズ総務部部長Y)の陳述書において説明されているとおり,
「統一選手契約書16条1項をめぐる問題は,フェイス問題が発
生した当時すでにゲームソフトに関連して裁判で係争中であった
ため,当球団のみが当球団選手会と肖像権問題について話し合っ
ても,当球団選手会を困らせるだけではないかと考えておりまし
た。そこで,肖像権問題は,最終的に裁判を通して結論が出され
る問題であるということも考えて,フェイス問題についての交渉
の場では,統一選手契約書16条についてあまり深く突っ込んだ
議論まではしていなかった」(乙124,2頁下から7行~3頁
1行)ものであり,被控訴人マリーンズとしては,控訴人らに配
慮して,書状においては統一契約書16条3項のみへの言及を行
なったものにすぎない。
また,「宣伝目的」「商品化型」という区別については,両者を
画然と区別することは難しく互いに排斥し合うというような関係
にあるものではないことは原判決でも指摘されるとおりであり
(原判決90頁下6行~91頁14行),かかる点を措いても,
トレーディングカード入りラムネ菓子におけるトレーディング
カードは,トレーディングカードという商品であると同時に,ラ
ムネ菓子の宣伝広告としての性質も有するものであるから,16
条3項違反の主張をしたことは特段不合理なことではない。
j被控訴人オリックス
(a)I)選手のアドバイザリー契約書につき
被控訴人オリックスにおいては,I)選手のアドバイサリー契
約書などからも明らかなように,選手の肖像についての権利を球
団が有し,球団が金銭の利益を受けた場合には選手に分配金を払
うという取り扱いが統一契約書16条に基づく取り扱いであるこ
とを明確に示している。
これに対し控訴人らは,「『分配』という表現にとらわれて統一
契約書16条2項を意味しているものであると考えるとすれば,
統一契約書16条2項が,3項ではなく,1項を前提とする条文
であることから考えて,この記載は統一契約書16条3項につい
て2項による分配を協議するという誤った解釈を記載したものと
いうことになり,」と主張している。
しかし,かかる控訴人らの主張は,明らかに契約書の素直な読み
方に反し成り立ち得ない。わざわざ契約書において「統一契約書
16条により」と明示している以上,契約書の「金額については
…分配」との文言は当然統一契約書16条の「分配」を意味する
はずであり,それ以外の意味に読みとることは通常あり得ないも
のである。
(b)分配根拠を示した資料につき
さらに,控訴人らは,分配の根拠を示した資料についても「オリ
ックス球団の一方的な見解を整理したものにすぎないものであ
り,I)選手自身に配布されたものかどうかも不明である。」と
主張する。
しかし同資料中の「※放送出演料については,オリックス球団で
はいただいておりません。」という記載からして,資料は単なる
被控訴人オリックスの内部資料ではなく,外部の見せるべき相手
(当然,I)選手である)を想定していることは明らかである。
しかも,グッズ,野球カードという,控訴人ら主張によれば明ら
かに「商品化型利用」に含まれるものも「Ⅰ.オリックス・ブ
ルーウェーブにおける肖像権分配方法」の中に含まれているもの
である。かかる事実は,統一契約書16条が,控訴人の主張する
ような,宣伝型,商品化型利用を細かく分けたものではないこと
を裏付けている。
控訴人らは,上記に加えて「同資料には,統一契約書の条文が原
文のまま掲載されているが,原文以上に解釈が示されているわけ
ではなく,これについてもそれほど大きな意味をもつものとは言
えない。」としているが,同資料では,標題を「Ⅱ.肖像権分配
の根拠」として明確に統一契約書16条が示されているものであ
って,通常の注意力をもって読めば,分配金の根拠が統一契約書
16条であり,その中でも「球団が金銭の利益を受けるとき,選
手は適当な分配金を受けることができる」とする第2項であるこ
とは明確である。
そして,統一契約書16条は,I)選手に限らず原則として全選
手につき同一文言で締結されているものであるから,当然,全選
手に対して同様の解釈(統一契約書16条2項に基づき金銭の分
配が行なわれている)が妥当するものである。
(2)本件契約条項が不合理な附合契約に当たるとの主張に対し
原判決が正当に指摘するように,プロ野球の野球選手契約において統一的
な取扱いがされているのは,球団の間で資金力に強弱のある状況の下で,プ
ロ野球の発展と球団及び個人の利益の保護ないし助長を図る点にあるが(野
球協約3条),プロ野球全体の発展のためには一定程度の集合的処理が望ま
しいのであって,本件契約条項の定めは,球団が多大な投資を行って自己及
び所属選手の顧客吸引力を向上させている状況に適合し,投資に見合った利
益の確保ができるよう,かかる顧客吸引力が低下して球団又は所属選手の商
品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手の氏名及び肖像の使用態様を
管理するという球団側の合理的な必要性を満たし,交渉窓口を一元化してラ
イセンシーの便宜を図り,ひいて選手の氏名及び肖像の使用の促進を図るも
のであるから,各球団において本件契約条項を適用し,これに従った運用を
行うことには,一定の合理性がある。そうであるところ,統一契約書16条
は,適当な分配金を支払うことを球団に義務付けており,実際に,被控訴人
らは,多額の分配金を控訴人らに対し支払っている。そして,被控訴人らが
控訴人らの肖像を使用許諾するに当たっては,写真の選定等につき,できる
限り控訴人らの意向を反映するように努力している。
したがって,統一契約書16条は,民法90条にいう公序良俗に反するも
のではない。
(3)本件契約条項が独占禁止法違反となるとの主張に関し
一般に,プロ野球選手は,独占禁止法の対象にならないと解されており,
公正取引委員会も同様の見解を表明しているが,念のために以下のとおり反
論する。
ア独占禁止法と契約の私法上の効力との関係
独占禁止法に違反する契約であっても,その効力がただちに無効となる
わけではなく,裁判例上も,様々な要素が考慮され,禁止規定の趣旨,違
反行為の違法性の程度,取引の安全などの諸要素等を考慮した上で結論が
出されている。しかも,日本法上の無効は契約当事者にとって,抗弁とな
るほかにも,原則として遡及効を生じ契約当事者は無効を前提として原状
回復を求めうるものであり,また,第三者も無効を主張できるものであ
る。このように,日本法上の無効は,比較法的にみてかなり強い効力を有
することから,独占禁止法違反の契約をただちに即無効とすることは法的
安定性の観点からも妥当でなく,裁判例の趨勢のとおり,あくまでも個別
具体的に事案を検討した上で,独占禁止法違反行為の私法上の効力は決定
されるべきものである。
この点については,原判決も正しく判示しており,「独占禁止法に違反
した契約の私法上の効力については,その契約が公序良俗に反するとされ
るような場合は格別として,同条が強行法規であるからとの理由で直ちに
無効であると解すべきではない。けだし,独占禁止法は,公正かつ自由な
競争経済秩序を維持していくことによって一般消費者の利益を確保すると
ともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするもの
であり,同法20条は,専門的機関である公正取引委員会をして,取引行
為につき同法19条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し,そ
の違法状態の具体的かつ妥当な収拾,排除を図るに適した内容の勧告,差
止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによって,同法の目的を
達成することを予定しているのであるから,同法条の趣旨にかんがみる
と,同法19条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力に
ついてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難い
からである(最高裁昭和48年(オ)第1113号同52年6月20日第
二小法廷判決・民集31巻4号449頁)」(原判決109頁下2行~1
10頁12行)とされているとおりである。
そして,統一契約書16条の規定が,公序良俗に反するものでないこと
は原審判決によって詳細に論じられているところである。
イ一般指定14項に該当するとの主張につき
(ア)被控訴人ら球団が控訴人ら選手に対し優越的地位に立つものではな
いこと
FA制度の存在により実績のある有力選手については,相応の交渉力
を有する場合もあるから(FA権を行使され,他球団に移籍された場
合,同等の選手が獲得できる仕組みにはなっておらず,実際同等の選手
が獲得できた例は見当たらない。),球団が,控訴人らに対して,優越
的な地位にある,ということはない。
(イ)公正競争阻害性を有しないこと
(少なくa統一契約書16条に基づき,選手の肖像等の経済的支配権
をすべて球団に帰属させる取扱いは,合理的でとも独占的使用許諾権)
あり,独禁法上の公正競争阻害性を有しない。
(a)球団の莫大な投資及びリスク負担
統一契約書16条1項が球団と選手間の約束としてきわめて合理
的なものであることについては,第1に,選手の肖像権の価値は,
球団がプロ野球組織の一員として莫大な投資をし,かつ多大なリス
クを負担している結果として生じたものであるという事実を挙げる
ことができる。肖像権も,このような球団,プロフェッショナル野
球組織,野球機構といったものの上に(これらの共同作用として)
はじめて成立するものであるし,乙86(Z)の陳述書)に示され
るとおり,選手のパブリシティ価値は,球団のパブリシティ価値の
反映である面が強いのであって,経営的に黒字になっている球団は
むしろ例外的な少数球団にすぎない。選手の肖像権の価値は,この
ような球団の犠牲の上で生じているのである。
(b)使用の管理
さらに,仮に,選手に自由にその肖像等の利用を許すとするなら
ば,球団にとって好ましくないような態様でその肖像が利用され,
球団ひいてはプロ野球自体のイメージを損なうおそれがあることが
挙げられる。この点は,ファンの人気に支えられるプロ野球の死活
問題である。
(c)分配金の支払
さらに,統一契約書16条2項にしたがい,肖像の利用により球
団が利益を得たときには,選手に配分されることになっており,こ
の配分も実行されてきている。
(d)肖像等の使用の促進(ライセンシーの便宜)
なお,付け加えるに,統一契約書16条の規定の合理性の根拠と
して,仮に,各選手に肖像等の使用を自由に委ねるとすると,ライ
センシーである各業者は,選手一人一人に個別に許諾を得なければ
ならないことになり,不都合である。
bM)意見書に対する反論
これに対して,控訴人らが控訴審で提出した慶応義塾大学産業研究
所のM)准教授の意見書(甲92)では,「…各プロ野球球団がその
所属プロ野球選手との契約締結に際し,プロ野球球団に所属選手のパ
ブリシティ権の独占的許諾を求めることを内容とする条件を付し,当
該所属プロ野球選手はかかる条件に従うことを余儀なくされている。
…プロ野球球団が優越的な地位にあったがゆえに課すことができ,か
つ,対等な当事者間における取引ならばおよそ考えられない条件…プ
ロ野球選手の側から言えば,自己のパブリシティ権の使用許諾につき
日本プロ野球選手会…等と取引する自由を,統一契約書16条により
制限ないし抑圧されている」「優越的地位の濫用の評価にあっては,
取引の相手方(プロ野球選手)のパブリシティ権の使用(野球ゲーム
ソフトや野球カード)への関与や金銭的な利益の授受といった利益に
よって即,不当性が排除されるわけではない。」とされている。
しかしながら,優越的地位の濫用における「濫用」とは,「取引当
事者間で経済的合理性から乖離した過大な不均衡,すなわち著しい取
引の不公正,の受入れを余儀なくされること」を意味するものである
から,本件訴訟でも優越的地位の濫用該当性判断に当たっては,まず
パブリシティ権によって発生した経済的利益の配分につき著しく不公
正な行為が行われているか否かを検討し,「経済的合理性から乖離し
た過大な不均衡」が生じているかを決すべきである。
そして,かかる観点からみると,被控訴人らが原審から一貫して主
張・立証し,また,原判決も正しく認定しているとおり,被控訴人ら
球団から所属選手に対しては統一契約書16条2項の規定に基づき適
正な利益の配分がなされてきており,経済的利益の配分につき著しく
不公正な行為が行われているとはいえない。
さらに,選手の活動如何でプロ野球全体の人気に大きな影響を与え
る可能性があることから,共同事業体内部において球団と選手との関
係や選手の活動に対する統一的な制限・制約を課す必要が生じること
になるというプロ野球の共同事業としての性質にかんがみると,球団
における選手の肖像等の統一的管理についても一定の合理性が認めら
れるものである。
以上のとおりであるから,統一契約書16条の規定が,優越的地位
の濫用に該当するとの控訴人主張は理由がない。
ウ一般指定13項に該当するとの主張につき
(ア)原判決が判示するとおり,「本件契約条項は不合理とはいい難く,
相手方(選手)の事業活動を不当に拘束する条件であるとまではいうこ
とができない」(原判決112頁5行~7行)ものであるから,統一契
約書16条の規定が拘束条件付取引(一般指定13項)に該当するとの
控訴人らの主張は理由がない。
(イ)M)意見書に対する反論
これに対して,控訴人らの提出するM)准教授の意見書(甲92)で
は,「相手方たる所属のプロ野球選手との取引において拘束する条件を
付して取引した結果,少なくともプロ野球選手のパブリシティ権の管理
受託業務及び第三者への使用許諾(ライセンス)業務においてプロ野球
球団と競合関係に立つ日本プロ野球選手会の『取引の機会が減少し,他
に代わり得る取引先を容易に見出すことができなくなるおそれ』が生じ
たものと評価することができる。」(6頁14行~18行)としてい
る。
しかしながら,この点は被控訴人らの提出する(A教授意見書(乙1
28,11頁4行~8行)にもあるとおり,一般指定13項は,各取引
条件などについて価格維持のおそれがある場合に公正競争阻害性が認め
られるときが大半を占めているものである。
そして,「本件契約条項の定めは,球団が多大な投資を行って自己及
び所属選手の顧客吸引力を向上させている状況に適合し,投資に見合っ
た利益の確保ができるよう,かかる顧客吸引力が低下して球団又は所属
選手の商品価値が低下する事態の発生を防止すべく選手の氏名及び肖像
の使用態様を管理する」「交渉窓口を一元化してライセンシーの便宜を
図り,ひいて選手の氏名及び肖像の使用の促進を図る」(原判決108
頁9行~15行)という統一契約書16条の趣旨目的にかんがみても明
らかなように,統一契約書16条は,球団の選手の取引条件について価
格を維持させるおそれが存するものではないし,現に,球団によって価
格維持行為が行われた例は存在しない。
かかる点を措いたとしても,プロ野球という共同事業体の性質や,プ
ロ野球というブランドイメージの統一的管理の関係上,球団が排他的に
管理することに合理性が認められるものである(乙128,11頁14
行~20行)。
上記のM)准教授の意見は,このようなプロ野球という事業の特殊性
を見誤ったものであって,理由がないものである。
エ一般指定1項2号に該当するとの主張(当審における新たな主張)につ

(ア)「自己と競争関係にある他の事業者」の要件に該当しない
そもそも,選手のパブリシティ権について,被控訴人ら各球団には
「競争関係」が存在しない。
選手のパブリシティ権の性質を考えると,各選手のパブリシティの価
値は,各選手の実力,人気,ルックス等によって,選手個々人につき全
く別々に決まるユニークなものである。たとえば,平凡な成績で人気,
ルックスもさほどでないプロ野球選手Aがそのパブリシティ権をいかに
安く売り込んだからといって,実力,人気,ルックスも絶大なB選手の
パブリシティの価値に些かの影響も与えるものではない。このような,
プロ野球選手のパブリシティ権という財産権のユニークな性質にかんが
みると,各球団は,所属選手のパブリシティを他の球団との競争関係に
立った上で売り込むという関係に立つものではなく,したがって,各球
団間には「同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務…」(独占禁止
法2条4項)にいう「競争」関係が存在しないものである。特に,プロ
野球ゲームソフトについては,全球団の全選手を対象にして使用許諾し
た場合に,その使用価値が最大化するので,実際にも,野球機構を通じ
て一元的に氏名・肖像の管理がされており,各球団が氏名・肖像のライ
センスについて競争関係に立たないことは明らかである。野球カードに
ついても同様であり,大多数のカードは,12球団が対象となるもので
あって,各球団が氏名・肖像のライセンスについて競争関係に立つもの
ではない。
以上のとおりであるから,そもそも,被控訴人ら球団は,選手のパブ
リシティ権について「競争関係にある…事業者」に該当しないから,控
訴人らによる共同の取引拒絶に当たるとする主張は理由がない。
(イ)本件における正当化理由
のみならず,以下のとおり,統一契約書16条の規定には「正当な理
由」が認められる。
a目的の正当性
この点については,被控訴人らの提出する(A教授意見書(乙12
8)にあるとおり,「統一契約書16条は,プロ野球という共同事業
を維持・発展するため,その人気の低下を防止するために細心の注意
を払わなければならないという事業上の要請に基づき,球団にとって
望ましくない態様でパブリシティ権が許諾されることを未然に防止す
るという観点から設けられたものである。このように選手のパブリシ
ティ権の利用は,それによって所属球団ひいてはプロ野球全体の事業
の人気や社会的評価に影響が生じることは論を待たないから,これを
球団側が,自ら一元的に管理するという契約形態を取ったとしても,
共同事業としてのプロ野球の維持・発展という観点から見て著しく不
合理であるとも,相当性を欠くともいえない。むしろ,プロ野球事業
の経営面を一手に担う球団側が,この種の管理を行うことには,合理
性,相当性が積極的に認められる」ものである。そして,統一契約書
16条の存在により,球団及び選手のブランドイメージを保護し「共
同事業体としてのプロ野球全体の人気の低下を防止」することが可能
となり,「利用者から見ても,パブリシティ権が統一的に管理されて
いれば,その許諾を得るための交渉のコストを大幅に低減できる…利
用者は,同時に,球団のロゴや名称の利用に関しても許諾を得ること
ができることから,球団が一元管理することには一定の合理性…」を
有するものであるから,目的の正当性が認められる(8頁下8行~9
頁10行)。
なお,最高裁平成10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻
9号1866頁(資生堂東京販売事件)は,ブランドイメージ保護を
独占禁止法上の正当化理由として考慮しており,本件でも,プロ野球
事業全体の人気や社会的評価を保護しようとする統一契約書16条の
目的は正当なものと判断されるべきである。
b内容の合理性・実施方法の相当性
(a)プロ野球という共同事業の性質上,一元管理が合理的であるこ

さらに,統一契約書16条は,選手が「適当な分配金」を得るこ
とができると定めており,球団は現実に選手に対し得られた利益を
分配してきている点でも合理性は十分に認められる。
(b)全球団がおおむね16条に基づく経済的利益の分配を行ってき
たこと,分配比率についても相当性・合理性が認められること,さ
らに,各球団において実際に選手の氏名・肖像を利用する際にはで
きる限り選手の意見を聴取し,その意思を尊重していることにかん
がみても,実施方法は相当なものである。
また,管理方法についてみても,50年以上にわたる球団の管理
の中で,球団側における選手パブリシティ権の管理能力を問われる
ような問題は,特に発生していない。
控訴人らが指摘するコナミ事件についてみても,パブリシティ権
に関する経済的利益は選手に対して充分に回収・分配されていたこ
と,相当多数のサブライセンスが行われていたこと,再許諾の遅延
・拒絶行為が仮に存在したとしてもそれはコナミが行ったものであ
って被控訴人ら球団自体が行ったものではないこと,コナミとの独
占契約は既に失効している上,ここ数年は特に問題のない件を除き
全て利用許諾がなされていることなどから,被控訴人らによる管理
が不相当とであるとはいえないものである。
c以上のとおりであるから,統一契約書16条には正当化理由が存在
し,独禁法に違反するものではない。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由がない
と判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほか原判決の記載を引用
する。
2本件における事実関係
証拠(甲1ないし121,乙1ないし131,証人B,控訴人本人古田敦
也,同宮本慎也)及び弁論の全趣旨によれば,本件における基礎的事実関係
は,以下のとおりであることが認められる。
(1)控訴人らは,本件口頭弁論終結時(平成19年12月18日)現在,い
ずれも現役のプロ野球選手である。同人らはいずれも,我が国のプロ野球1
2球団に所属する日本人選手と一部の外国人選手とで構成される労働組合で
ある日本プロ野球選手会(選手会)に加入している。
(2)一方,被控訴人らはいずれも野球競技の興業等を目的とする株式会社で
あり,被控訴人巨人軍・同ヤクルト・同ベイスターズ・同ドラゴンズ・同タ
イガース及び同カープはセントラル野球連盟(セ・リーグ)を,被控訴人フ
ァイターズ・同ライオンズ・同マリーンズ・同オリックスは,訴外楽天,同
ソフトバンクとともに,パシフィック野球連盟(パ・リーグ)を,それぞれ
構成している。
また社団法人日本野球機構(野球機構)は,我が国における野球水準を高
める等を目的として昭和23年3月1日に設立された社団法人であって,被
控訴人ら又はその前身を含むプロ野球12球団がその会員となっている(乙
52)。
そして,セントラル野球連盟(セ・リーグ)及びその構成6球団とパシフ
ィック野球連盟(パ・リーグ)及びその構成6球団は,昭和26年〔195
1年〕6月21日発効の合意により日本プロフェッショナル野球協約(野球
協約)を締結しており,同協約1条に基づき,法人格なき社団である日本プ
ロフェッショナル野球組織(NPB)が設立されている(乙51等)。
(3)選手は,契約により所属球団に入団し,球団との間で選手契約を締結す
ることになるが,前記野球協約45条によれば,球団と選手との間に締結さ
れる選手契約条項は統一様式契約書(統一契約書)による,とされているこ
とから,参稼報酬額(いわゆる年俸)等のごく一部の例外を除き,その契約
条項は各選手・各球団・各年度とも同一である(本件訴訟で争点とされてい
る選手の肖像等の扱いに関する部分は,全選手・全年度につき同一であ
る)。そして各選手契約は,翌年の参稼報酬額の改定のため,毎年12月か
ら1月にかけて更新されるが,上記のとおり,選手の肖像等の扱いに関する
部分の変更はない。
(4)上記にいう野球協約,統一契約書及び控訴人古田敦也の平成15年〔2
003年〕12月13日付け選手契約書の要部は,次のとおりである。
ア野球協約(乙51。ただし,原文は縦書きであり,平成18年〔200
6年〕2月1日当時のもの)
「第1章総則
第1条(組織および協約の当事者)セントラル野球連盟およびその構成
球団(以下それぞれの連盟および球団を単に「連盟」および「球団」
という)は,以下に記す協約を締結し,かつ日本プロフェッショナル
野球組織を構成する。
〔1980(昭和55年).3.31改正〕
第2条(協約の名称)この協約を日本プロフェッショナル野球協約とい
う。
第3条(協約の目的)この協約の目的は次の通りである。この組織を構
成する団体および個人は不断の努力を通じてこの目的達成を目指すも
のとする。
(1)わが国の野球を不朽の国技にし,野球が社会の文化的公共財とな
るよう努めることによって,野球の権威および技術にたいする国民
の信頼を確保する。
〔2002(平成14年).7.9改正〕
(2)わが国におけるプロフェッショナル野球を飛躍的に発展させ,も
って世界選手権を争う。
(3)この組織に属する団体および個人の利益を保護助長する。
第4条(組織の機関)この組織の機関として,コミッショナー,コミッ
ショナー事務局,各連盟会長および連盟事務局をおく。
〔1980(昭和55年).3.31改正〕
〈略〉
第3章実行委員会
第13条(構成)実行委員会はこの組織に属する連盟会長各1名と,そ
れぞれの連盟を構成する球団を代表する球団役員各1名を委員として
構成する。〔1975(昭和50年).3.25第2項削除〕
〔実行委員会の構成に関する実行委議決事項〕実行委員会に球団を代
表して出席する者は,球団役員に限り,委員を含め1球団2名以内と
する。委員以外の出席者は,意見を述べることはできるが,議決権を
有しないこととする。〔1982(昭和57年).3.19実行委議
決,7.24オーナー会議承認〕
〈略〉
第17条(審議事項)実行委員会において審議すべき事項は左の通り
とする。
(1)コミッショナーの選任。
(2)コミッショナー代行機関の設置。
(3)地域権の設定または変更,および球団呼称,専用球場の変更。
〔2002(平成14年).10.9追加〕
(4)この組織の参加資格の取得,変更,譲渡,停止または喪失にかん
する事項。ただし,コミッショナーまたは連盟会長が行なう参加資
格にかんする制裁処分はこの限りではない。
〔2002(平成14年).7.9改正〕
(5)野球協約,これに附随する諸規程および選手統一様式契約書条項
の追加,変更ならびに廃止にかんする事項。
(6)野球その他の体育団体または社会事業にたいするこの組織の協力
にかんする事項。
(7)日本選手権シリーズ試合,オールスター試合または慈善のため行
なわれる試合にかんする事項。
(8)両連盟の年度連盟選手権試合にかんする事項。
(9)日本国内で行なわれる外国チームとの試合にかんする事項。
(10)日本国内で行なわれる外国のプロ野球チーム同士の試合にかんす
る事項。
〔1980(昭和55年).3.31本号追加〕
(11)両連盟の年度連盟選手権試合に用いられる諸規則にかんする事
項。
(12)その他,コミッショナーが必要と認めた事項。
第1号,第2号,第3号および第4号に記載されている事項,ならび
に第5号および第12号のうち重要な事項については,オーナー会
議の承認を得なければならない。
〔2002(平成14年).7.9改正〕
第18条(専門委員会)実行委員会は,必要に応じ専門委員会を設置
し,各種事項を審議させることができる。
専門委員会の委員は実行委員会が委嘱する。
第19条(特別委員会)実行委員会の審議事項中,選手契約に関係ある
事項については特別委員会の議決を経て,これを実行委員会に上程す
る。
特別委員会は両連盟会長,両連盟の球団代表委員各2名および両連盟
の選手代表委員各2名計10名をもって構成する。
特別委員会は,実行委員会議長が議長となり,議長が必要と認めたと
き随時招集される。
特別委員会は委員総数の4分の3をもって定足数とし,委員は球団代
表委員の場合は所属する連盟の他の球団代表,選手代表委員の場合は
所属する連盟の他の選手代表委員の代理出席を認める。
議案の可決は出席委員数の4分の3以上の賛成を必要とし,議長は委
員としてのみ表決に加わる。
〔1975(昭和50年).3.25本条追加〕
〈略〉
第8章選手契約
第45条(統一契約書)球団と選手との間に締結される選手契約条項
は,統一様式契約書(以下「統一契約書」という)による。
ただし,球団と監督ならびにコーチとの間の契約条項は,これらが選
手を兼ねる場合を除き,統一契約書によらない。
第46条(統一契約書の様式)統一契約書の様式は実行委員会が定め
る。
第47条(特約条項)統一契約書の条項は,契約当事者の合意によって
も変更することはできない。
ただし,この協約の規定ならびに統一契約書の条項に反しない範囲内
で,統一契約書に特約条項を記入することを妨げない。
第48条(違反条項)この協約の規定に違反する特約条項および統一契
約書に記入されていない特約条項は無効とする。
〔1980(昭和55年).3.31改正〕
第49条(契約更新)球団はこの協約の保留条項にもとづいて契約を保
留された選手と,その保留期間中に,次年度の選手契約を締結する交
渉権をもつ。
第50条(対面契約)球団と選手が初めて選手契約を締結する場合,球
団役員,またはスカウトとしてコミッショナー事務局に登録された球
団職員と選手とが,対面して契約しなければならない。
また,選手が未成年の場合,法定代理人の同意がなければならない。
〈略〉
第52条(支配下選手)選手契約を締結した球団は,所属連盟会長に統
一契約書を提出し,その年度の選手契約の承認を申請しなければなら
ない。
ただし,次年度の選手契約は,その年度の支配下選手についてはその
年の12月1日から,またその他の選手についてはその年度の連盟選
手権試合終了の翌日から,選手契約の承認を申請することができる。
連盟会長が選手契約を承認したときは,契約承認番号を登録し,その
選手がその球団の支配下選手となったことをただちに公示するととも
に,コミッショナーへ通告しなければならない。
〔1973(昭和48年).9.14改正〕
第53条(契約の効力)支配下選手の公示手続きを完了したとき,選手
契約の効力が発生する。また,選手は年度連盟選手権試合およびその
他の試合に出場することができる。
〈略〉
第58条(自由契約選手)選手契約が無条件で解除され,またはこの協
約の規定により解除されたと見做された選手あるいは保留期間中球団
の保留権が喪失しまたはこれを放棄された選手はその選手,球団,所
属連盟会長のいずれかの申請にもとづいて,コミッショナーが自由契
約選手として公示した後,いずれの球団とも自由に選手契約を締結す
ることができる。
〔1980(昭和55年).3.31改正〕
〈略〉
第9章保留選手
第66条(保留の手続き)球団は毎年11月30日以前に,所属連盟会
長へその年度の支配下選手のうち次年度選手契約締結の権利を保留す
る選手(以下,契約保留選手という),任意引退選手,制限選手,資
格停止選手,失格選手を全保留選手とし,全保留選手名簿を提出する
ものとする。
契約保留選手の数は70名を超えてはならない。
すでに次年度支配下選手の公示のあった選手は契約保留選手の数に含
まれる。
ただし,第57条の2(選手救済措置)が適用されたときは,契約保
留選手の数を80名までとする。〔1973(昭和48年).9.1
4,1991(平成3年).12.26,1998(平成10年).
11.18,2002(平成14年).7.9改正〕
〈略〉
第68条(保留の効力)保留球団は,全保留選手名簿に記載される契約
保留選手,任意引退選手,制限選手,資格停止選手,失格選手にたい
し,保留権を持つ。
全保留選手は,外国のいかなるプロフェッショナル野球組織の球団を
も含め,他の球団と選手契約にかんする交渉を行ない,または他の球
団のために試合あるいは合同練習等,全ての野球活動をすることは禁
止される。
ただし,保留球団の同意のある場合,その選手の費用負担によりその
球団の合同練習に参加することができる。
失格選手は,外国のいかなるプロフェッショナル野球組織であろうと
も,それに関与する仕事に就くことができない。
制限選手,資格停止選手,有期または無期の失格選手は,この協約の
第78条(1)にもとづき復帰するまではウエイバーにかけ,選手契
約を無条件で解除することができない。
〔1973(昭和48年).9.14,1998(平成10年).1
1.18改正〕
第69条(保留されない選手)支配下選手が契約保留選手名簿に記載さ
れないとき,その選手契約は無条件解除されたものと見做され,コミ
ッショナーが12月2日に自由契約選手として公示する。
〔1998(平成10年).11.18改正〕
第70条(球団の契約更新拒否)契約保留選手が,全保留選手名簿公示
の年度の翌年1月10日以後この協約の第92条(参稼報酬の減額制
限)に規定する参稼報酬減額制限額以上減額した参稼報酬を契約条件
として選手契約の更新を申し入れ,球団がこれを拒否した場合,球団
はその選手にたいする保留権を喪失し,その選手はコミッショナーに
自由契約選手指名を請求することができる。
〔1973(昭和48年).9.14,1975(昭和50年).1
2.22,1998(平成10年).11.18改正〕
第71条(契約保留手当)契約保留選手にたいする保留が翌年1月10
日以後におよぶときは,1月10日から第74条(契約保留期間の終
了)に規定する保留期間の終了,または第94条(参稼報酬調停)に
よる参稼報酬調停申請の日まで,その選手の前年度の参稼報酬の36
5分の1の25パーセントを1日分として,契約保留手当が経過日数
につき日割計算で1か月ごとに支払われる。
なお,選手契約が締結されたとき,既に支払われた契約保留手当を参
稼報酬より差引くものとする。
〔1973(昭和48年).9.14,1998(平成10年).1
1.18改正〕
〈略〉
第73条(保留を侵す球団)全保留選手が,他の球団から契約にかんす
る交渉を受け,または契約を締結し,そのために保留球団との公式交
渉を拒否する疑いのある場合,保留球団は他の球団およびその選手を
相手とし,所属連盟会長に事実の調査を文書により請求を行った上
で,コミッショナーへ提訴することができる。
連盟会長は事実を調査し,これにたいする意見をコミッショナーに送
付しなければならない。
違反の事実が確認されたとき,コミッショナーは違反球団ならびに違
反選手にたいして制裁金を科し,かつ,その球団とその選手との契約
を永久に禁止し,その交渉に関係した球団の役職員にたいして,その
善意を挙証しない限り適当な期間その職務を停止させる。
〔1998(平成10年).11.18改正〕
第74条(契約保留期間の終了)
(1)契約保留が全保留選手名簿公示の年度の翌々年1月9日まで継続
されたとき,その選手は資格停止選手となる。
(2)球団が契約保留選手の保留権を喪失,あるいは放棄した場合,契
約保留期間は終了する。
球団が保留権を放棄したときは,球団はその選手を全保留選手名簿
から削除し,コミッショナーに自由契約選手指名の公示を申請する
ものとする。
〔1973(昭和48年).9.14,1998(平成10年).1
1.18改正〕
〈略〉
第22章フリーエージェント
第196条(FAの定義)日本プロフェッショナル野球組織にフリー
エージェント(以下FAという)制度を設ける。FAとは,同組織が
定める資格条件を満たした選手のうち,いずれの球団とも選手契約を
締結できる権利を有する選手をいう。
第197条(資格取得条件)
(1)選手は入団して初めて出場選手登録された後,その日数がセント
ラル野球連盟およびパシフィック野球連盟の同じ年度連盟選手権試
合期間中(以下シーズンという)に145日を満たし,これが9
シーズンに達したときに,FAとなる資格(以下FA資格という)
を取得する。
〔1997(平成9年).10.7,2001(平成13年).9.
21,2003(平成15年).7.7,2004(平成16
年).7.26改正〕
(2)出場選手登録日数が同年度中に145日に満たないシーズンがあ
る場合は,それらのシーズンの出場選手登録日数をすべて合算し,
145日に達したものを1シーズンとして計算する。
〔2004(平成16年).7.26改正〕
〈略〉
第200条(資格取得の反復)FA宣言選手は,その後日本プロフェッ
ショナル野球組織に所属するいずれかの球団で選手として稼働して,
1シーズン出場選手登録145日を満たし,これが4シーズンに達し
たときに,FA資格を反復して取得できるものとする。この場合にお
いて,出場選手登録日数が不足するシーズンがあるときの扱いは,本
協約第197条第2号の規定に準ずる。
〔1997(平成9年).2001(平成13年).9.21,200
4(平成16年).7.26改正〕
〈略〉
第205条(球団の補償)日本プロフェッショナル野球組織に所属する
他の球団に在籍していたFA宣言選手と選手契約を締結した球団は,
当該選手の旧球団にたいし金銭および選手を補償しなければならな
い。
(1)金銭による補償は,当該FA宣言選手が最初のFAの権利行使の
場合は旧球団と契約した統一契約書に明記された前参稼報酬年額の
80%,反復のFAの権利行使の場合は旧球団と契約した統一契約
書に明記された前参稼報酬年額の40%とする。
〔2000(平成12年).7.17,2001(平成13年).
9.21,2003(平成15年).7.7改正〕
(2)選手による補償は,当該FA宣言選手と選手契約した球団が保有
する支配下選手のうち,外国人選手および同球団が任意に定めた2
8名を除いた選手名簿から旧球団が当該FA宣言選手1名につき各
1名を選び,獲得することができる。前記の選手名簿の旧球団への
提示はFA宣言選手との選手契約締結がコミッショナーから公示さ
れた日から2週間以内に行う。選手による補償が重複した場合は,
当該FA宣言選手と選手契約した球団と同一連盟の球団が他の連盟
の球団に優先する。また同一連盟内においては,当該年度連盟選手
権試合の勝率の逆順をもって,球団の優先順位とする。〔2000
(平成12年).7.17,2003(平成15年).7.7改
正〕
ただし,旧球団が選手による補償を求めない場合は,前記1号の
金額に50%を加算した金額の補償をもって,選手による補償にか
えることができる。
補償例△最初のFAに対するもの人的補償あり=旧年俸の80
%人的補償なし=旧年俸の120%
△反復のFAに対するもの人的補償あり=旧年俸の40
%人的補償なし=旧年俸の60%
(3)前記1号,2号すべての補償は,コミッショナーから当該選手の
契約締結の公示が行われた後,40日以内に完了しなければならな
い。ただし,金銭による補償については,旧球団の同意がある場合
は,期間を延長することができる。
(4)FA宣言選手がFA宣言した年の翌々年の11月30日まで日本
プロフェッショナル野球組織に所属するいずれの球団とも選手契約
を締結せず,FA宣言した年の翌々年の12月1日以降,日本プロ
フェッショナル野球組織に所属するいずれかの球団と選手契約を締
結した場合,そのFA宣言選手と契約した球団は旧球団にたいして
の補償を必要としない。〔2000(平成12年).7.17追
加〕
〔注1〕前記2号の規定により,指名された選手はこれを拒否する
ことはできない。拒否した場合は,同選手は資格停止選手となり,
旧球団への補償は前記2号のただし書きを準用する。〔1998
(平成10年).11.18改正〕
〔注2〕FA宣言選手がFA宣言した年の翌々年の11月30日ま
でに日本プロフェッショナル野球組織に所属するいずれかの球団と
選手契約を締結したときは,その球団は当該FA宣言選手の旧球団
にたいして前記1号および2号の補償を必要とする。〔2000
(平成12年).7.17改正〕
〈略〉
第206条(球団の獲得選手数)球団がFA宣言選手のうち直前シー
ズンまでは日本プロフェッショナル野球組織に所属する他の球団
に在籍していた選手と次年度の選手契約を締結できるのは2名ま
でとする。
ただし,公示されたFA宣言選手数が21名から30名の年度
は3名まで,同31名から40名の年度では4名まで,同41名
以上の年度では5名まで選手契約を締結することができる。〔2
000(平成12年).7.17改正〕
〈以下略〉」
イ統一契約書様式(乙51。ただし,原文は縦書きで,平成18年〔20
06年〕2月1日当時のもの)
「〔球団会社名〕はプロフェッショナル球団であって,他の友好球団
と提携して…野球連盟を構成し,…野球連盟およびその構成球団と
ともに日本プロフェッショナル野球協約およびこれに附随する諸規
程に署名調印している。これらの野球協約ないし規程の目的は球団
と選手,球団と球団,連盟と連盟の関係を規律して,わが国のプロ
フェッショナル野球を利益ある産業とするとともに,不朽の国技と
することを契約者双方堅く信奉する。
第1条(契約当事者)〔球団会社名〕(以下「球団」という。)と〔選
手名〕(以下「選手」という。)とを,本契約の当事者として以下の
各条項を含む…年度野球選手契約を締結する。
第2条(目的)選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能によ
る稼働を球団のために行なうことを,本契約の目的として球団は契約
を申し込み,選手はこの申し込みを承諾する。
第3条(参稼報酬)球団は選手にたいし,選手の2月1日から11月3
0日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金…円(消費税及び地
方消費税…円)を次の方法で支払う。
契約が2月1日以後に締結された場合,2月1日から契約締結の前
日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1を減額する。〔19
72(昭和47年).7.14改正,消費税を明記2000(平成1
2年).9.12〕
第4条(野球活動)選手は…年度の球団のトレーニング,非公式試合,
年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し,年度連盟
選手権試合に選手権を獲得したときは日本選手権シリーズに参稼し,
また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼すること
を承諾する。
第5条(非公式試合の報酬)選手が年度連盟選手権試合終了の日から本
契約満了の日までの期間に球団の非公式試合に参稼するとき,球団は
その試合による純利益金の40パーセントを超えない報酬を参稼全員
に割り当て,選手はその分配金を受け取る。
第6条(支払の限界)選手は実費支弁の場合を除き本契約に約定された
以外の報酬をその名目のいかんを問わず球団が支払わないことを承諾
する。ただし,日本プロフェッショナル野球協約において認容される
場合はこの限りでない。
第7条(事故減額)選手がコミッショナーまたは連盟会長の制裁,ある
いは本契約にもとづく稼働に直接原因しない傷病等,自己の責に帰す
べき事由によって野球活動を休止する場合,球団は野球活動休止1日
につき第3条の参稼報酬の300分の1を減額することができる。た
だし,傷病による休止が引き続き40日を超えない場合はこの限りで
ない。
第8条(用具)野球試合およびトレーニングに要する野球用具のうち,
球団はボールを負担し,また常に2種類のユニフォーム(ジャンパー
を含み靴を除く)を選手に貸与する。選手はその他の必要なすべての
用具を自弁する。
第9条(費用の負担)選手が球団のために旅行する期間,球団はその交
通費,食費,宿泊料を負担する。
第10条(治療費)選手が本契約にもどつく稼働に直接原因する傷害ま
たは病気に罹り医師の治療を必要とするとき,球団はその費用を負担
する。
第11条(傷害補償)選手が本契約にもとづく稼働に直接原因して死亡
した場合,球団は補償金5000万円を法の定める選手の相続人に支
払う。
また,選手が負傷し,あるいは疾病にかかり後遺障害がある場合,6
000万円を限度としてその程度に応じ補償金を選手に支払う。
身体障害の程度を14等級に区分し,その補償金額を次の通りとす
る。
第1級6,000万円第2級5,400万円第3級4,
800万円
第4級4,200万円第5級3,600万円第6級3,
000万円
第7級2,520万円第8級2,120万円第9級1,6
40万円
第10級1,200万円第11級920万円第12級6
00万円
第13級440万円第14級240万円
等級は労働基準法規則第40条「障害補償における障害の等級」に規
定された等級と同じ。
〔1975(昭和50年).3.25,1980(昭和55年).2.
13,1985(昭和60年).1.25,5.13,1991(平
成3年).10.31,1995(平成7年).1.24,199
6(平成8年).1.16改正〕
第12条(健康診断)選手は野球活動を妨げ害するような肉体的,また
は精神的欠陥を持たないことを表明し,球団の要求があれば健康診断
書を提出することを承諾する。選手が診断書の提出を拒否するとき,
球団は選手の契約違反と見做し適当な処置をとることができる。
第13条(能力の表明)選手は野球選手として特殊の技能を所有するこ
とを表明する。本契約がこのような特殊の技能にかかわる故,本契約
の故なき破棄は相手方にたいして重大な損害を与えるものであり,そ
の損害賠償の請求に応じる義務のあることを選手と球団は承認する。
第14条(トレーニングの怠慢)選手が球団のトレーニングまたは非公
式試合の参稼に際し,球団の指示に従わず監督の満足を得るに足るコ
ンディションを整え得ないとき,球団の要求によりこれを調整しなけ
ればならない。この場合すべての費用を選手が負担することを承諾す
る。
第15条(振興事業)選手は野球本来の稼働のほか,球団および日本プ
ロフェッショナル野球組織の行なう振興活動に協力することを承諾す
る。
第16条(写真と出演)球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレ
ビジョンに撮影されることを承諾する。なお,選手はこのような写真
出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団
が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し
立てないことを承認する。
なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な分配
金を受けることができる。
さらに選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,テレビ
ジョンのプログラムに参加し,写真の撮影を認め,新聞雑誌の記事を
書き,これを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。
第17条(模範行為)選手は野球選手として勤勉誠実に稼働し,最善の
健康を保持し,また日本プロフェッショナル野球協約,これに附随す
る諸規程ならびに球団の諸規則を遵守し,かつ個人行動とフェアプレ
イとスポーツマンシップとにおいて日本国民の模範たるべく努力する
ことを誓約する。
第18条(利害関係)選手は日本プロフェッショナル野球協約に認容さ
れる場合のほか,日本プロフェッショナル野球組織に所属するいずれ
かの球団にたいし,直接または間接に株式を持ち,あるいは金銭的利
害関係を持っていないこと,また今後持たないことを誓約する。
第19条(試合参稼制限)選手は本契約期間中,球団以外のいかなる個
人または団体のためにも野球試合に参稼しないことを承諾する。
ただし,コミッショナーが許可した場合はこの限りでない。
第20条(他種のスポーツ)選手は相撲,柔道,拳闘,レスリングその
他のプロフェッショナル・スポーツと稼働について契約しないことを
承諾し,また球団が同意しない限り,蹴球,籠球,ホッケー,軟式野
球その他のスポーツのいかなる試合にも出場しないことを承諾する。
第21条(契約の譲渡)選手は球団が選手契約による球団の権利義務譲
渡のため,日本プロフェッショナル野球協約に従い本契約を参稼期間
中および契約保留期間中,日本プロフェッショナル野球組織に属する
いずれかの球団へ譲渡できることを承諾する。
第22条(報酬不変)本契約が譲渡されたとき本契約書第3条に約定さ
れた参稼報酬は契約譲渡によって,その金額を変更されることはな
い。
第23条(出頭)選手は球団から契約譲渡の通知を受けた場所が,譲り
受け球団の本拠地から鉄道による最短距離が1000キロメートル以
内の場合は,通知を受けた日から4日以内に譲り受け球団の事務所へ
出頭することを承諾する。なおその距離が1000キロメートル以上
の場合は300キロメートルを増すごとに1日が追加される。
もし選手が,その日限に出頭を怠ったときは,1日遅れるごとに第3
条の参稼報酬の金額の300分の1に相当する金額の報酬を受ける権
利を喪うことを承諾する。
第24条(移転費)本契約が譲渡されたため選手が転居した場合,球団
は選手にたいして次の移転費を支払う。
移転費は京浜地域内および阪神地域内の移転については50万円,そ
の他の地域間の移転については100万円とし,選手が妻帯者でない
場合は各その半額とする。ただし埼玉県,千葉県は京浜地域と見做
す。〔1975(昭和50年),6.28,1979(昭和54
年).2.8,1979(昭和54年).9.4,1985(昭和6
0年).1.25改正〕
第25条(選手による契約解除)選手は次の場合解約通知書をもって,
本契約を解除することができる。
(1)本契約による参稼報酬,その他の支払いが約定日から14日を超
えて履行されない場合。
(2)球団が選手の所属するチームを正当な理由なく,年度連盟選手権
試合に引き続き6試合以上出場させることができなかった場合。
第26条(球団による契約解除)球団は次の場合所属する連盟会長の承
認を得て,本契約を解除することができる。
(1)選手が本契約の契約条項,日本プロフェッショナル野球協約,こ
れに附随する諸規程,球団および球団の所属する連盟の諸規則に違
反し,または違反したと見做された場合。
(2)選手が球団の一員たるに充分な技術能力の発揮を故意に怠った場
合。
第27条(ウエイバー)球団が参稼期間中,球団の都合,または選手の
傷病のため本契約を解除しようとするときは,日本プロフェッショナ
ル野球協約に規定されたウエイバーの手続きを採った後でなければ解
約することはできない。
ウエイバーの手続きは次の通りとする。
(1)球団は所属連盟会長へ,ウエイバーの公示を請求しなければなら
ない。
(2)連盟会長から全球団にウエイバーが公示されたとき,これらの球
団は本契約の譲渡を申し込むことができる。申し込み優先順位,な
らびに契約譲渡金は日本プロフェッショナル野球協約による。
(3)連盟会長はウエイバーが公示されたことを選手へすみやかに通告
する。
(4)選手がウエイバー手続きによる移籍を拒否した場合は,資格停止
選手となる。
(5)すべての球団が譲渡を申し込まないときは,日本プロフェッショ
ナル野球協約に従い本契約が解除される。
第28条(解約と報酬)本契約が解除された場合は,稼働期間中1日に
つき,第3条に約定された参稼報酬の金額の300分の1に相当する
金額が報酬として支払われ,かつ選手の居住地までの旅費が支払われ
る。ただし,本契約が球団の都合,または本契約にもとづく稼働に直
接原因する選手の傷病によって解約されたときは,選手は参稼報酬の
全額を受け取ることができる。
第29条(協約と裁決)球団と選手は野球選手の行動および選手と球団
との関係にかんする日本プロフェッショナル野球協約およびこれに附
随する諸規程を諒承し,かつこれに従うことを承諾し,さらに日本プ
ロフェッショナル野球協約により選任されたコミッショナー,および
球団所属連盟会長の指令と裁決に服することを承諾する。
第30条(紛争)球団と選手はその間における紛争の最終処理を,コミ
ッショナーに一任することを承諾する。また,球団と選手は,日本プ
ロフェッショナル野球協約の規定に従い,提訴しなければならないこ
とを承認する。
第31条(契約の更新)球団が選手と次年度の選手契約の締結を希望す
るときは,本契約を更新することができる。
(1)球団は,日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きによ
り,球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り,明後
年1月9日まで本契約を更新する権利を保留する。
次年度契約における参稼報酬の金額は,選手の同意がない限り,
本契約書第3条の参稼報酬の金額から,同参稼報酬の金額が1億円
を超えている場合は40パーセント,同参稼報酬の金額が1億円以
下の場合は25パーセントに相当する金額を超えて減額されること
はない。
(2)選手が明年1月10日以後,本契約書第3条の参稼報酬の金額か
ら,同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は40パーセン
ト,同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントを超え
て減額した次年度参稼報酬の金額で本契約の更新を申し入れ,球団
がこの条件を拒否した場合,球団は本契約を更新する権利を喪失す
る。
〔1972(昭和47年).7.14,1973(昭和48年).9.
14,1975(昭和50年).12.22.1991(平成3
年).10.31,1996(平成8年).11.21,2005
(平成17年).12.1改正〕
第32条(参稼報酬調停)前条により契約の保留が行われ,選手と球団
が次年度の契約条件のうち,参稼報酬の金額にかんして合意に達しな
い場合,所属連盟会長にたいし,参稼報酬にかんし,日本プロフェッ
ショナル野球協約による調停を求めることができる。
第33条(保留手当)前々条による保留が明年1月10日以後におよぶ
ときは,本契約第3条に約定された報酬の365分の1の25パーセ
ントを1日の手当として,明年1月10日以後の経過日数につき,1
か月ごとに,球団はこれを選手に支払う。〔1973(昭和48
年).9.14改正〕
第34条(承認)本契約は球団の所属連盟会長の承認によって,その効
力を発生する。なお球団の所属連盟会長によって本契約の承認が拒否
された場合,本契約は無効となる。
第35条(任意引退選手)選手が参稼期間中または契約保留期間中,引
退を希望する場合,所属球団にたいし引退したい理由を記入した申請
書を提出する。球団は,当該選手が提出した申請書に球団としての意
見書を添付し,所属連盟会長に提出する。さらに連盟会長は,当該選
手にたいする連盟会長としての意見書を添付し,コミッショナーに提
出する。その選手の引退が正当なものであるとコミッショナーが判断
する場合,その選手の引退申請は日本プロフェッショナル野球協約の
第78条(1)の復帰条件を付して受理され,コミッショナーによって
任意引退選手として公示され,選手契約は解除される。
〔1998(平成10年).11.18追加〕」
ウ控訴人古田敦也と被控訴人ヤクルト間の平成15年〔2003年〕12
月13日付け選手契約書(甲96の15。原文も横書き)
「2004年度
セントラル野球連盟通用野球選手契約書
(日本プロフェッショナル野球組織統一様式)
株式会社ヤクルト球団はプロフェッショナル球団であって,他の友好
球団と提携してセントラル野球連盟を構成し,パシフィック野球連盟
およびその構成球団とともに日本プロフェッショナル野球協約および
これに附随する諸規程に署名調印している。これらの野球協約ないし
規程の目的は球団と選手,球団と球団,連盟と連盟の関係を規律し
て,わが国のプロフェッショナル野球を利益ある産業とするととも
に,不朽の国技とすることを契約者双方堅く信奉する。
第1条(契約当事者)
株式会社ヤクルト球団(以下「球団」という)と古田敦也(以下
「選手」という。)とを,本契約の当事者として以下の各条項を含む
2004年度野球選手契約を締結する。
第2条(目的)
選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球
団のために行なうことを,本契約の目的として球団は契約を申し込
み,選手はこの申し込みを承諾する。
第3条(参稼報酬)
球団は選手にたいし,選手の2月1日から11月30日までの間の
稼働にたいする参稼報酬として金…円(消費税及び地方消費税…円を
含む)を次の方法で支払う。上記金額の相当額を1月より12月
迄毎月27日に支払う。契約が2月1日以後に締結された場合,2月
1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の
1を減額する。
別にインセンティブ契約有り。
(第4条~第30条は,前記統一契約書と同文)
第31条(契約の更新)
球団が選手と次年度の選手契約の締結を希望するときは,本契約を
更新することができる。
①球団は,日本プロフェッショナル野球協約に規定する手続きによ
り,球団が契約更新の権利を放棄する意志を表示しない限り,明後年
1月9日まで本契約を更新する権利を保留する。
次年度契約における参稼報酬の金額は,選手の同意がない限り,本
契約書第3条の参稼報酬の金額から,同参稼報酬の金額が1億円を超
えている場合は30パーセント,同参稼報酬の金額が1億円以下の場
合は25パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。
②選手が明年1月10日以後,本契約書第3条の参稼報酬の金額か
ら,同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は30パーセント,
同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントを超えて減額
した次年度参稼報酬の金額で本契約の更新を申し入れ,球団がこの条
件を拒否した場合,球団は本契約を更新する権利を喪失する。
(第32条~第35条は,前記統一契約書と同文)」
(5)前記(4)イにいう統一契約書様式が定められた昭和26年より以前の,選
手の氏名・肖像等の商品等への使用の状況は,次のとおりである(乙15,
財団法人野球体育博物館学芸部学芸員(Dの平成17年9月28日付け陳述
書)。
昭和23年ころ,原色版印刷社は,「YAKYUいろはKARUTA新
野球かるた」を発売した。これは,「よく打って,(Eたちまち人気者」な
どと書かれた札と,対応する選手のユニフォーム姿やプレー中の肖像画の札
とが組み合わされたものであり,(F(金星),(G(阪神),(H(巨
人)など複数球団にわたる44名の野球選手の氏名(上記(Eのほか,文字
かるたの札には「(K」「(J」「(G」「(I」「(H」らが記載されて
いる)及び肖像が使用され,一つの箱に収められて商品として販売されてい
た。
昭和24年頃に販売されていた「メンコ」には,(L(阪神),(H(巨
人),(M(中日)ほかの氏名及び肖像画が付されたものがある。そして,
昭和24年頃に発売されたブロマイド写真は,(N(南海)選手が観客のい
ない球場においてユニフォームを着用して投球をしている全身像の写真であ
り,その氏名が付されている。裏面には「無断複写厳禁版権所有日本野球連
盟」との記載がされている。また昭和26年に集英社が「おもしろブック」
の新年号を発売したところ,その付録として,(L(阪神),(O(松
竹),(H(巨人)ら複数球団にわたる40名の選手の氏名及び肖像画が使
用された「新野球かるた」が付けられた。
(6)ア一方,米国における選手契約の実情として,選手の肖像に関する利益
について定めた米国メジャーリーグ統一契約書3条(c)(大リーグ契約条
項)は,昭和22年〔1947年〕に初めて球団が試合のテレビ放映権を
販売するのに伴って設けられた規定であり,同項の内容は現在に至るまで
変更されていない。
そして,その内容は,次のとおりである(甲37,弁論の全趣旨。原判
決60頁9行~61頁3行)。
ThePlayeragreesthathispicturemaybetakenforstill「
photographs,motionpicturesortelevisionatsuchtimesastheClub
maydesignateandagreesthatallrightsinsuchpicturesshall
belongtotheClubandmaybeusedbytheClubforpublicity
purposesinanymanneritdesires.
ThePlayerfurtheragreesthatduringtheplayingseasonhewill
notmakepublicappearances,participateinradioortelevision
programsorpermithispicturetobetakenorwriteorsponsor
newspaperormagazinearticlesorsponsorcommercialproducts
withoutthewrittenconsentoftheClub,whichshallnotbewithheld
exceptinthereasonableinterestsoftheClubor
」professionalbaseball.
(日本語訳)「選手は,球団が指示する場合,写真,映画若しくはテレ
ビジョンに撮影されることを承諾し,そのような写真に関するすべての
権利が球団に属し,球団がそれらをパブリシティの目的のために球団が
望むあらゆる方法で使用できることを承諾する。
さらに選手は,シーズン期間中,球団の書面による同意なく,公衆の
面前に出演し,ラジオ若しくはテレビジョンのプログラムに参加し,写
真撮影を認め,新聞若しくは雑誌の記事を書き,これらを後援し,又は
商品の宣伝をしないことを承諾する。ただし,球団は,このような同意
を合理的な理由なく拒絶してはならない。」
イなお,その後における米国メジャーリーグにおける選手の肖像に関する
扱いは,大リーグ契約条項は球団に対して選手の肖像を写真・映画及びテ
レビに撮影し,それらを宣伝目的のために利用する権利を与えている規定
にすぎず,選手は,自己の氏名及び肖像を商業的に利用する権利を球団に
譲渡しておらず,球団は選手の許諾なく氏名及び肖像を商業的に利用した
り他人にその利用を許諾したりすることはできないとされている(甲14
〔1995年(平成7年)7月26日米国ニューヨーク郡裁判所判決〕,
甲15〔(Pの平成15年8月7日付け陳述書等〕)。
(7)昭和26年〔1951年〕に日本において制定された前記(4)イの統一様
式契約書は,米国における選手契約の実情を参考にして起草されたものであ
り,統一様式契約書16条にいう「写真と出演」に関する部分も,上記(6)
の大リーグ契約条項の英文「」を「宣伝目的」と翻訳しpublicitypurposes
たものと推認される。
(8)そして,統一様式契約書が制定された昭和26年以降の,選手の氏名・
肖像等を使用した商品等の販売状況は,次のとおりである(乙99の1の1
~99の21の2)。
昭和30年にスポーツ用品商である株式会社ゼネラルサクライと被控訴
人巨人軍との間で商品販売宣伝用のカードに選手((Q選手,(R選手,
(S捕手)のユニフォーム姿の写真及びサインを使用することが許諾され,
頒布された。また昭和36年,被控訴人巨人軍は,荒庄商店(契約で「乙」
と略称されている),東京ゆかた株式会社と,巨人軍選手15名の名を使用
したゆかたの製造販売に関する契約を締結したが,その4項には,「四.ゆ
かた販売の際に使用する各選手の写真等の手配は一切乙がなすものとする」
と記載がある。
そして被控訴人巨人軍は,昭和38年,株式会社東洋エージエンシーとの
間で,選手の写真・サイン等を使用した広告宣伝に関する専属代理店とする
契約を締結するとともに,同社との間で支配下選手のブロマイドの製造販売
に関する契約を締結し,これを受け,株式会社東洋エージエンシーは,昭和
39年松井ボタンとの間で,被控訴人巨人軍所属の(T,S)選手の写真,
絵柄等を使用したメダルを製造販売することについての契約を締結した。
その後被控訴人巨人軍は,昭和39年に至り大阪繊維工業株式会社との間
で(T選手・S)選手の図柄をメリヤス及び布帛製品・シャツ上下・腹巻パ
ジャマに使用することについての契約を,興国化学工業株式会社との間で
(T選手・S)選手ほか1名の選手のモデル写真を使用した履物製品(運動
靴,長靴等)の販売についての契約を,小茂田商店との間で玩具(パズル)
に(T選手・S)選手のモデル写真を使用することについての契約を,大正
製薬株式会社との間でS)選手を宣伝用・印刷媒体・テレビCMその他にモ
デルとして使用することについての契約を,それぞれ締結した。
また昭和47年,被控訴人巨人軍(甲)とカルビー製菓株式会社(後に
「カルビー株式会社」と改称)(乙)は,巨人軍の選手の肖像等を使用した
販売促進用カード(カルビープロ野球カード)を小麦粉あられの販売に際し
て使用することに関しての契約を締結したが,その契約条項の第7条(印刷
肖像写真使用上の心得)には,「乙は別紙目録記載の甲の支配下選手が日本
プロ野球界において名誉と伝統に輝やく読売巨人軍を代表する選手であるこ
とを認識し,球団および各選手の名誉と信用を傷つけることがないよう細心
の注意を払って本件印刷肖像写真を使用しなければならない。」との記載が
ある。
同じく昭和47年,被控訴人巨人軍(甲)と株式会社サクライ(乙)は,
運動用具品の宣伝広告物・スポーツ新聞等に(T選手・S)選手のモデル写
真及びサインを使用することについての契約を締結したが,その契約条項第
4条には,「乙は本契約に基づく使用に関し,甲及び(T,S)両選手の声
価及びイメージを損傷するような行為又は改変を行わないこと」との記載が
ある。
昭和52年には株式会社タカラと被控訴人巨人軍(甲)は,株式会社タカ
ラ(乙)が製造販売するプロ野球ゲームについて,選手の名称等を使用する
ことについての契約を締結した(乙99の20)。その契約条項第6条に
は,「甲は,乙が甲の使用商標を使用するにあたり,甲及び支配下各選手の
名誉と信用を傷つけたり,社会的.教育的に悪影響を及ぼすが如き扱いをし
た場合,ないしは甲に対して著しく信用を損う発言。行為があったときは,
甲は催告を要せず直ちに本契約を解除することができる」との記載がある。
また昭和53年にはS)選手の800号ホームラン達成を記念して,被控
訴人巨人軍公認のもとに,フランクリン・ミント株式会社から,S)選手の
氏名,肖像を刻印した記念メダルが発売された。
そして,S)選手の800号ホームラン達成時には,球団はフランクリン
・ミント社に対してS)選手の肖像,氏名を使用した「S)ホームラン通算
800号公式記念メダル」の製造販売を許諾していたところ,球団の許可を
受けずにS)選手の氏名・肖像を使用した記念メダルを発売した業者(株式
会社和光)に対し,球団(読売興業株式会社東京読売巨人軍)とS)選手が
共同してその製造販売等を差止めを求める仮処分を東京地方裁判所に申請し
たことがある。
さらに昭和63年8月には,被控訴人巨人軍は株式会社バップとの間で巨
人軍の選手の氏名をファミリーコンピュータによるプロ野球ゲームソフトに
使用するについて契約を締結し,同被控訴人は昭和63年9月にこの「スー
パーリアルベースボール」に氏名を使用するに当たっての使用料を領収し
た。
株式会社タカラが平成6年に製造販売した「プロ野球カードゲーム」の読
売ジャイアンツ1994年版には,選手30名の試合中,練習中等の写真を
使用したカード等が箱に収められ(乙99の19,102の1),この各選
手のカード(乙102の2の1ないし3)・付属の野球場盤(乙102の
5)とさいころ等を使用してゲームをすることが予定されていたところ,そ
の遊び方説明書(乙102の4)には,「ルール説明では,基本ゲームは紅
白対抗戦,バッティング競争は同チーム内の選手カードという形式で進めて
いますが,他球団の選手カードを使用することにより,オールスター戦,公
式戦,オープン戦なども展開することができ,よりいっそう楽しむことがで
きます。」と記載されている(乙102の1ないし5)。
なお,株式会社タカラから平成8年〔1996年〕版のオリックスブルー
ウエーブ・阪神タイガースのプロ野球カードゲームが販売されており,そこ
にはI)選手・(U選手のプレー中の写真を使用したカードが在中している
(乙99の19)。また各球団は,球団毎に,選手の肖像や氏名の入ったテ
レホンカード,下敷,アクセサリー,ユニフォーム,ティーシャツ,グロー
ブ等のグッズを販売している。被控訴人巨人軍においては,選手の申出に応
じて,ファンサービス用に,無償で監督,選手の肖像,氏名の入ったカード
を作成,配布したことがある。
(9)選手の肖像等の商品等への使用に関する選手・選手会と球団・野球機構
との間の交渉の経緯は,次のとおりである。
ア選手会と野球機構等との交渉
(ア)平成7年〔1995年〕3月20日,選手会(日本プロ野球選手
会)〔O)選手会会長,(V巨人軍選手会会長,(W巨人副会長,(X
オリックス会長出席〕と野球機構選手関係委員〔選手関係委員会委員ら
出席〕との間で,事務局〔(Yコミッショナー事務局長ら〕及び選手会
事務局〔Q)事務局長ら〕を陪席者として開かれた第1回選手関係委員
会・日本プロ野球選手会会合において,選手会からの要望のうち,新た
な事項として明確かつ厳正な肖像権の取扱いについて議題として採り上
げられた。そこにおいて,統一契約書第16条(写真と出演)には,球
団が宣伝目的のために選手の「肖像」を利用し,これによって利益を受
けるときは選手は適当な分配金を受けることができると明記されている
とした上で,分配金については球団によって取扱いがまちまちであり,
用具のアドバイザリー契約についても選手の意向を無視して球団が勝手
に行っているケースがあり是正してほしいとの要望がQ)選手会事務局
長から出され,また選手会のR)会長は,肖像権料をもらえることを知
らない選手がいたのはショックだった,契約書にある適当なという表現
は曖昧であり統一した分配のパーセンテージを決めてほしいと要望した
(乙73)。
平成7年〔1995年〕5月29日に開かれた第2回選手関係委員会
・日本プロ野球選手会会合〔出席者野球機構選手関係委員会委員のほ
か,O)選手会会長,(Z同副会長,(Xオリックス会長,古田敦也ヤ
クルト副会長ら,陪席者として(Yコミッショナー事務局長ら〕におい
て,選手会側から出された肖像権料の分配率について12球団で統一し
てほしいとの要望に対し,野球機構側は,同年6月7日の実務者会議で
歩調を合わせる方向で検討すると回答した(甲18)。
平成8年〔1996年〕1月16日に開かれた第1回選手関係委員会
〔出席者野球機構選手関係委員のほか,A]選手会会長,B]同副会
長ら,陪席者として(Yコミッショナー事務局長ら〕において,上記平
成7年6月7日の野球機構の実務者会議の結果を踏まえ,ゲームソフト
における肖像権料についての球団と選手個人との分配率についての話合
いがされたが,結論は出なかった(甲19)。その席上,選手会から,
野球機構に肖像権問題を扱う実務者会議がありそこでの取り決め内容を
教えてほしいと要望があったのに対し,野球機構委員から,日本ハム球
団取締役営業部長を座長とする電波肖像権委員会において肖像権使用料
の分配について検討しているところ,球団により配分率にばらつきがあ
り,本年度からは配分の基準を決め,12球団が足並みをそろえること
を検討しているとの回答があった。これに対し選手会A]会長からは,
歩調を合わせるのはよいが,分配率が問題であるとし,一方,機構側委
員からは,ゲームソフト等の肖像権料は何もしないで自動的に入ってき
たのではなく担当者がメーカーと何度も折衝しかちとったものだとの説
明がされた。A]会長はこれに対し,分配率は選手会と話し合って決め
てもらいたい旨の意見を述べた(甲19)。
平成8年〔1996年〕3月18日に開かれた第2回選手関係委員会
〔出席者野球機構選手関係委員会のほか,A]選手会会長ら,陪席者
としてC]コミッショナー事務局総務・広報部部長ら〕において,ゲー
ムソフト・許諾料の分配率について話合いがされ,選手会から選手8・
球団2の割合で支払ってほしいとの意見が出された。そこでの話合いで
は,機構委員から配分が少ないというのであれば商標権については機構
が,肖像権の方は選手会が直接ソフトメーカーと交渉すればよいとの意
見が出たのに対し,選手会側からはソフトのどの部分が商標権に属し,
どの部分で肖像権が発生するのかは難しい問題であるし,協約(統一契
約書第16条・写真と出演)にも「球団を通して行え」となっている,
ソフトを買う少年達にとっては選手の比重が大きいのではないか,また
球団8・選手2の分配率の根拠は何かとの質問・意見が出た。機構委員
からは,ゲームソフトの許諾料は機構の知的所有権の対価である,1人
1人の選手では成立しないが選手にも権利があるから当然分配はする旨
の回答がされた。その際,機構委員からは,ゲームソフトは7,8年前
に登場したところ,最近まで選手の実名を使わず,もじり名を使ってい
たので,野球機構が各メーカーにロイヤリティを支払うよう求めた上で
実名使用をするよう指導してきた努力によるものであるとの説明,また
肖像権使用料の分配率についても,球団によるばらつきが10%以内に
収まるよう検討している旨が説明された(甲20)。
平成11年〔1999年〕8月9日に開かれた第3回選手関係委員会
〔出席者控訴人古田敦也選手会会長〔当時〕,P)副会長,野球機構
選手会委員ら,陪席者として(Yコミッショナー事務局長〕において肖
像権料の配分について話し合われ,球団8・選手2の分配率がその後球
団7・選手3になっていたところ,これをさらに選手側の取り分を10
%増やし,球団6・選手4とすることで12球団で合意したことが野球
機構選手委員会委員長から発表され,選手会との間でその通り変更する
ことが合意事項として確認された(甲21)。ただし,上記球団の割合
には,球団が有する商標権等の使用の対価も含まれている。
(イ)その後,平成11年終わりころから,選手会として,選手の肖像権
問題に関して弁護士に委任して調査を始めた。そうしたところ,野球機
構が,コナミ株式会社に平成12年4月から平成15年3月までの3年
間,プロ野球ゲームに関する選手名及び球団名の使用に関する独占的ラ
イセンスを付与したことがあった(甲65)。この件に関し選手会から
野球機構等に関して抗議がなされ,また下記のとおり選手が訴訟を提起
するなどのことがあった。また,上記独占的ライセンスにおいては,コ
ナミ株式会社において,他社に対し特段の合理的な理由がない限りサブ
ライセンス(再許諾)をすることが前提となっていたところ,これが円
滑になされなかったなどしたため,公正取引委員会からコナミ株式会社
・野球機構に対し,平成15年4月に警告・注意等がされた(甲38,
114)。
上記コナミの事件をきっかけとして,高橋由伸ら35名のプロ野球選
手は選手会に対し,「肖像等に関する権利に基づく使用許諾に関する委
任状」と題する書面を作成して提出した(甲2)。同委任状には,その
選手の氏名・肖像等の商品又は役務への使用のうち,複数の選手の肖像
等が使用される場合(ただし当該複数の選手が全て同一の球団に所属し
ている場合を除く)等を肖像等の「包括的使用」とし,その許諾につい
ては選手会に委任することとし,所属の球団等を通して行わない旨が記
載されている。
選手会は,平成12年11月17日,上記包括的使用についての選手
の肖像等の使用許諾については選手会が行う旨を野球機構に通知した
(甲6)。その中で,今後野球機構から球団を通して選手に分配される
肖像権使用料に関しては,損害賠償金の一部として受領するものである
とし,選手においてもこれら肖像権使用料については損害賠償金の一部
として受領しているとの認識であるとしている。
その後,野球機構代理人からの回答として,平成13年1月18日付
けで,野球機構は,本件契約条項(統一契約書16条と同じ)に基づき
球団が有する選手の肖像・氏名に関する権利につき委託を受け株式会社
コナミに対しゲームソフトに対しこれを使用することを許諾したもので
あるなどとする通知がされた(甲98)。また,このときの選手会との
交渉において,分配金についてそれまでの球団6・選手4の比率につい
て,これを5対5にすることなどが野球機構側から提案された(甲10
2)。なお,この分配率を選手側に有利に変更する提案については,他
の条件との関係で選手側が拒否し,実現していない(甲65~66)。
(ウ)選手会は,平成13年3月から,野球ゲーム(ファンタジーベース
ボール)に関し,これを運営するファンタジー・スポーツジャパン社・
スポーツナビゲーション社に選手の肖像権ライセンスを行い,これに関
し,選手会は,平成13年7月21日の選手会臨時大会において,ライ
センス料を10%とする旨を決議した。
家庭用テレビゲーム機向けの野球ゲームソフトに関しては,株式会社
スクウェアが平成14年〔2002年〕に発売した「日米間プロ野球フ
ァイナルリーグ」に,また平成14年にメディアカイト社のパソコン
ゲームソフト「野球道21」にも選手の肖像に関するライセンスを行っ
た(甲93)。選手会が得た肖像使用料は,選手会大会の決議に基づ
き,一部を選手会の活動資金に充てた後,各選手に分配している。使用
料徴収・分配に関する事務は,選手会事務局とTWIインタラクティブ
・インク社とが共同で行っている。なお,現在の選手会からのライセン
ス先は,1社のみとなっている(甲95)。
野球機構は,平成13年12月27日付けで,株式会社スクウェアに
対し,上記ゲームの制作発表会の開催に関して警告をする旨の内容証明
郵便を送付した。
(エ)平成14年8月26日付けで,古田敦也選手会長〔当時〕のほか当
時の各球団選手会会長13名は,コナミ株式会社に対して野球ゲームソ
フトの販売の差止めを,野球機構及びコナミ株式会社に対し選手らの上
記原告となった選手らの氏名・肖像等の使用許諾を第三者に行う権限を
有しないことの確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(平成1
4年(ワ)第18466号,甲8等)が,その後,コナミ株式会社に対す
る上記訴えを取り下げた。
(オ)平成15年3月,株式会社フェイスが,各球団の許諾を受けず選手
会のみから許諾を受けて,選手会所属プロ野球選手の氏名及び肖像を使
用したプロ野球選手トレーディングカード入りラムネ菓子を販売しよう
と計画したところ,野球機構及び12球団が,これが選手が本件契約条
項により負う義務の不履行をさせる行為として積極的債権侵害の不法行
為を構成する可能性が高いとして警告を行ったことがあった(甲2
9)。この件に関しては,被控訴人マリーンズにおいても,所属選手と
の間で,平成15年3月ないし4月に複数回の話合いの機会がもたれ,
マリーンズ所属のY]選手らも上記株式会社フェイスに対する肖像等に
関する許諾を撤回した(甲88,乙84,124)。
(カ)また,控訴人古田敦也は,訴外D]選手〔楽天野球団所属〕ととも
に平成17年〔2005年〕2月ないし5月に放映されたスカイパーフ
ェクTVのテレビコマーシャルに,「『LOVEBASEBALL』
をテーマに,スカイパーフェクTV!と球界を盛り上げます。日本プロ
野球選手会は,2005年の改革元年を共に盛り上げるパートナーとし
て,スカイパーフェクTV!と連携することが決定!」として球団の事
前の承認を受けることなく出演した。これについては球団からの要請を
受けて,その後球団を通して広告出演契約を締結することとなった(乙
77)。
(キ)選手会及びその会員であるプロ野球選手らは,平成18年11月1
0日付け「次年度の統一契約書の締結について」と題する書面におい
て,次年度の選手契約の締結に際しては,本件契約条項1項に規定する
「宣伝目的」には球団の宣伝以外の商業的使用目的は含まれないという
前提で契約をするもので,選手に独占的な使用許諾権限が存するという
考えに基づき契約すること,複数球団にまたがる選手の肖像等を使用す
る場合に関する管理については選手会を通じて行うこととしているの
で,これを明確なものとする選手と球団との覚書の締結を申し入れると
し,この書面を,各球団選手会会長は各球団代表に送付し,またその写
しを野球機構コミッショナー事務局長に送付した(甲39ないし5
2)。
これに対し,各球団からは,各球団選手会会長に対し,いずれも平成
18年〔2006年〕11月21日付けで,原判決により本件契約条項
の合理性が認められ,「宣伝目的」についても「商業的な使用目的」を
除外する趣旨でないことが確認されており,各球団選手会を通じての使
用許諾の前提を明確なものとする覚書を締結しなければならない理由は
ないとする通知をした(乙54ないし72)。
これに対し高橋由伸らのほか選手会所属の選手753名は,平成18
年10月から平成19年4月にかけて,商品に関する部分につき複数球
団にまたがる選手を使用する包括使用の場合については,選手会を通じ
て管理することとして平成12年11月17日に野球機構に通知した,
本件契約条項には商業的利用は含まれないし,球団からはそのような説
明もなく,これが含まれるとの認識のもとに球団と統一契約書を締結し
ているものでもない,とする内容の当裁判所あての陳述書を作成提出し
た(全選手につき同一内容。甲53ないし64)。
(ク)一方,かつて選手会会長をしていた巨人軍OBのE]元選手は,選
手会会長としても肖像権の管理については統一契約書に基づき球団が管
理するものと認識していたとし(乙92),また巨人軍・ベイスターズ
OBのP)元選手は,平成2年〔1990年〕ころから選手会の役員を
務めていたところ,肖像権は統一契約書により球団が持っており,選手
会役員として他の選手に対し平成2年ころから,統一契約書をしっかり
読み,必ず写しをもらうように指導していたとしている,また,そのこ
ろ選手会としても,各球団や野球機構との交渉において,肖像権に関し
ては球団が統一契約書によりこれを持つことを前提とし,分配率を選手
側に有利にしてほしいとの認識であったとしている(乙100)。
イゲームソフトメーカーへの選手実名使用許諾等の経緯
(ア)プロ野球を題材にしたゲームは昭和58年ころから発売されていた
ところ,ゲームソフトメーカーは,昭和63年ころまでは実在する球団
や選手の氏名等をもじって(例えば「F]」選手を「シロマティ」と表
示するなど)使用した上で,複数球団が登場して対戦するプロ野球ゲー
ムを制作,販売していた。そうしたところ,昭和63年,株式会社バッ
プは,初めて被控訴人ら12球団から個別に球団名・選手指名等の独占
的使用許諾を受けて,ゲームにおいて実際の球団名・選手名等を使用し
た「スーパーリアルベースボール’88」を発売した。その際の氏名の
使用に関する株式会社バップとの契約による収入の一部について,巨人
軍においては選手に分配された(乙40,75,99の21の2)。
(イ)その後,野球ゲームに関しては,平成2年から各球団から委任を受
けた野球機構が統一的に管理していたところもじり名がゲームに使用さ
れることなどによるプロ野球全体のイメージ低下に対する懸念等から,
選手の氏名・肖像等の使用許諾を受けるようソフトメーカーに働き掛け
ることとし,株式会社バップは,野球機構との独占的使用許諾契約を解
消した上,平成2年から平成7年ころまでの間,各ゲームソフトメー
カーとの仲介を行った(乙16)。
(ウ)例えば,ナムコ株式会社が平成3年12月に発売したプロ野球ゲー
ムである「ファミスタ92」では,当時被控訴人ドラゴンズ所属のG]
選手を「G]」と,当時近鉄バファローズのJ)選手を「おも」と表記
していたのに対し,翌平成4年12月発売の「ファミスタ93」では,
実名が使用され,それぞれ「G]」「J)」と表示されるなどしてい
る。また,株式会社ジャレコが平成3年11月に発売したゲームソフト
「スーパープロフェッショナルベースボール」では,同様に巨人軍所属
のH]選手を「H]」と表示していたものを,平成4年8月に発売され
た「スーパープロフェッショナルベースボールⅡ」においては巨人軍所
属のI]投手を「I]」と実名で表示している。これらは,野球機構が
平成4年から,各ゲームソフトメーカーに対し選手の実名使用の許諾を
開始したためである(甲69)。
(エ)ところで,株式会社バップ及び株式会社ピービーエスは,野球機構
と業務委託契約を締結し,ゲームソフト会社と野球機構間の選手氏名・
肖像等使用許諾契約締結の仲介業務を専属的に行うとともに,肖像等の
使用料について株式会社バップが各ゲームソフトメーカーから回収し,
各球団に対して支払を行っている(乙16,105)。
具体的には,野球機構,バップ,ピービーエスは,「球団名,球団
マーク等使用許諾に関する業務委託契約書」を締結しているところ,そ
の要旨は次のとおりである(乙105の添付資料2)。
「社団法人日本野球機構(以下,「甲」という)は,株式会社バップ
(以下,「乙」という)及び株式会社ピービーエス(以下「丙」とい
う)と,甲に加盟するセントラル野球連盟及びパシフィック野球連盟
を構成する12球団の球団名,選手名,球団マーク,球団ユニフォー
ム,ペットマーク,似顔絵,写真,動画等(ただし,似顔絵,写真,
動画等のうち,別に著作者が権利を有するものを除く)(以下,「本
件デザイン」という)をゲームメーカー(以下「メーカー」という)
に使用許諾する業務に関し,次の通り契約を締結する。
第1条(乙への業務)
甲は乙にメーカーからの許諾使用料の回収及び丙が作成する業
務報告書に基づいて甲,12球団,丙への振込業務を委託する。

第3条(丙の業務)
甲は丙に下記業務を委託する。
(1)甲とメーカーとが締結する「球団名,球団マーク等使用許
諾契約書」(以下,「基本契約」という。)の原案作成及
び作成上の意見の申述業務
(2)基本契約に則り甲が遂行する業務の代行業務

③メーカーが制作するゲーム内容,パッケージ,解説書の点
検及び許可業務
(3)メーカーとの交渉業務
(4)新規メーカーとの契約交渉業務
(5)甲,乙及び12球団に対する甲所定の書式による業務報告
書作成,送付業務
(6)メーカーからの製品サンプルの受領,内容確認,甲,乙及
び12球団への送付業務
(7)メーカーに対する球団資料の提供業務

第4条(丙の義務)
1.…
2.丙は甲がゲーム会社に許諾した球団名,球団マーク等の使用
状況等を調査,点検し許諾条件に違反する使用例があった場合
には速やかに甲に報告するとともに甲の指示により当該ゲーム
会社に対し警告を発し,または使用の中止を申し入れるものと
する。

第7条(報酬)
第1条の乙の業務に対する業務委託料は総許諾料の3.0%と
する。
第2条の丙の業務に対する業務委託料は総許諾料の5.5%と
する。

第9条(分配手続)
乙は各四半期の翌々月の末日までに前条による許諾使用料を回
収し,その翌月15日までに,許諾使用料の11.5%を甲に機
構管理手数料として,許諾使用料の80%の12分の1を各球団
に,また許諾使用料の5.5%を丙に,それぞれの指定する銀行
口座に振り込むものとする。

第11条(権利侵害者の摘発義務)
甲,乙,丙は本件デザインの権利についての啓蒙に努め,権利
侵害者の摘発及び排除活動を行なうものとする。
…」
(オ)また,上記のとおりゲームソフトメーカーが野球ゲームソフトを制
作・販売するに当たっては,野球機構との間で使用許諾契約を締結して
いるところ,そのひな形である「球団名,球団マーク等使用許諾契約
書」と題する使用許諾契約の内容(乙105の添付資料1)には,野球
機構を甲・ゲームソフトメーカーを乙として,次の内容が記載されてい
る。
「第1条(許諾マーク等)
本契約書において「許諾マーク等」とは以下のものをいう。

③セ・リーグおよびパ・リーグの各構成球団であるプロ野球12
球団のそれぞれが指定する態様,ロゴによる各球団の名称,略
称,マーク,ペットマーク,球団旗,選手名,ユニホーム等。
④セ・リーグおよびパ・リーグの各構成球団であるプロ野球12
球団のそれぞれが統一契約書16条に基づき権利を有する選手
の肖像等。ただし,選手の写真,似顔絵,動画の素材提供,協
力費については別途覚書を締結するものとする。

第6条(申請書および承認書)
1.乙は,本契約に基づき新たに制作するゲームソフトのタイト
ルおよび適合機種ごとに当該製品のタイトル名,適合機器,内
容,価格,発売時期,販売予定個数,最低保証金額等を記載し
た,甲所定の「ゲームソフト新規製造申請書」を甲に提出する
ものとする。

5.甲は,申請書の内容を審査し,甲のイメージを損なうことが
なく,また,社会的・教育的に悪影響をおよぼす恐れがないと
判断した場合には,すみやかに承認書を発行するものとする。

第9条(許諾料)
乙は,甲に対し本契約第2条の許諾の対価として次の許諾料を支
払うものとする。

第15条(品質保持)
1.…
2.乙は,ゲームソフト等の製造および販促媒体の制作にあたっ
ては,甲,セ・リーグ,パ・リーグ,プロ野球12球団の品
位,イメージ,信用を損なわないように配慮するものとする。
また,プロ野球12球団および全選手を合理的な範囲で平等か
つ公平に使用するよう,細心の注意を払うものとする。
3.甲はゲームソフト等の制作における乙の創作性を尊重し,前
項に規定する品位,イメージ,信用を保持するようゲームソフ
ト等又は販促媒体等の変更を求めることができる。
第16条(発売前承認)
1.乙は前条の規定にしたがい,ゲームソフト等の発売に先立ち
ゲームソフト等の本体及び販促媒体のサンプルならびに当該
ゲームの素材となった選手の一覧表を提出し甲の承認を求める
ものとする。

第20条(甲の事務委任)
甲は本契約にしたがい甲が行う事務の一部を甲が指定する第三者
に委任することができる。この場合,甲は乙に対し書面により委任
した第三者の住所,名称,責任者を通知するものとする。」
(カ)上記のとおり,ゲームメーカーから振り込まれる使用許諾料には,
選手の氏名・肖像等のほか,球団の名称・マーク・ユニフォーム等に対
する使用許諾料も含まれているところ,総使用許諾料からバップらの業
務委託料を差し引いた後の球団対選手の分配率は,以下のとおりであ
る。
平成8年〔1996年〕第1四半期球団8・選手2
平成8年〔1996年〕第2四半期
-平成11年〔1999年〕第2四半期球団7・選手3
平成11年〔1999年〕第3四半期ー現在球団6・選手4
これによると,平成11年以降は,上記業務委託料を差し引いた後の
選手分配率が使用許諾料総額に占める割合は32%となる。
平成8年度ないし平成17年度において,株式会社バップが回収し各
球団に支払った選手の氏名及び肖像等の使用料のうち1球団当たりの金
額は,原判決別表「野球ゲームソフト使用料実績表」の「1球団当たり
の選手への配分額総額(円)」欄記載のとおり1球団当たり約600万
円ないし約2000万円となっている。
また,過去5年間に株式会社バップが各ゲームメーカーから回収し,
各球団に支払った12球団分の選手分配分総額(上記のとおり,使用許
諾料総額の32%)は以下のとおりである(乙105)。
平成14年〔2002年〕度105,268,596円
平成15年〔2003年〕度240,452,592円
平成16年〔2004年〕度160,134,288円
平成17年〔2005年〕度160,183,260円
平成18年〔2006年〕度186,231,132円
(キ)一方,野球ゲームに関して,平成12年11月に上記選手会が野球
機構に対して選手肖像の包括的使用については選手会が管理する旨の管
理通知を行うまでは,選手会ないし各選手に対しては選手の肖像権に関
するゲームソフトメーカーから野球機構,球団等への収入資料の交付等
の情報提供は行われておらず,上記選手会による管理通知の後,はじめ
て選手会に対してプロ野球ゲームに関する管理資料が交付された。
そこにおいて選手会としては初めて,野球機構から選手会に対する球
団6・選手4の割合で分配されているとの説明について,その分配前に
野球機構及び管理外注先である株式会社バップ等が10%ずつ(判決注
:甲65に記載された控訴人古田敦也の認識のまま)を差し引いた後に
上記球団6・選手4の分配がされていた事実を選手会として認識するに
至った(甲6,65)。
ウゲームソフト肖像権使用料の球団から選手への支払
各球団における取扱いの詳細は,以下のとおりである。
(ア)被控訴人カープにおいては,平成7年〔1995年〕から,ゲーム
ソフトの肖像権使用料の選手への支払について選手との間で取り決めを
行い,選手への支払を行っている(乙45,81)。
(イ)被控訴人ベイスターズにおいては,平成7年〔1995年〕から
ゲームソフトの肖像権使用料の選手への分配を行っている(乙42)。
(ウ)被控訴人ドラゴンズにおいては,平成8年〔1996年〕からゲー
ムソフトについて選手に対する分配金を支払っている。当初,ドラゴン
ズにおいては,球団選手会との話合いにより,各選手への分配金をまと
めて選手会に対して支払っていたが,平成13年〔2001年〕に,当
時の選手会長であったO選手との話合いにより,各選手への直接支払う
こととなった(乙43)。
(エ)平成8年からは,多くの球団において支払明細を選手へ通知の上,
選手への分配金の支払がされている(乙40ないし49等)。
球団から各選手に交付される明細には,例えば「平成11年1~4
月度肖像権支払明細書」として,「契約先」として「㈱バップ」,
「内容」として「ゲームソフト」,「内訳」として「H10.10.1
~H10.12.31」,「金額」として選手に支払われる金額が記載
されたものなどがある(乙41,被控訴人ヤクルトの場合)。
エ野球ゲームソフトの変遷等
(ア)プロ野球を題材にした野球ゲームソフトは,昭和58年12月に任
天堂から発売された「ベースボール」がその最初であり,その後各社か
ら販売されているところ,選手の肖像等を使用した映像に関しては,
ゲーム機の性能面の問題もあり,選手個人の顔や体型等を真似て使用し
たものはなく,ユニフォーム等に違いはあってもキャラクターとしては
人間の体型をゲーム用に著しくデフォルメしたものであり,同一であっ
た。
その後,元近鉄バファローズのJ)投手のトルネード投法,元オリッ
クスブルーウエーブのI)選手の振り子打法等の特徴的なプレイフォー
ム等に関しては,それぞれ平成5年,平成7年ころからこれを映像でも
再現した物が登場するようになったが,それでも映像上選手個人の顔の
見分けがつくほどのものではなかった。
平成12年3月に高い情報処理能力を有するプレイステイション2
(PS2)が発売されたことから,平成12年9月に株式会社スクウェ
アから発売された「劇空間プロ野球」においては,選手の顔,体型,バ
ッティングフォーム等のプレイスタイルがかなりの程度再現されてい
る。
(イ)その後,コナミから平成13年〔2001年〕11月にPS2用
ゲームソフトとして「プロ野球JAPAN2001」が発売され,そこ
においても選手の氏名が使用され,顔,体型,プレイフォーム等が詳
細,鮮明に再現されている。その後のコナミからのPS2用のゲームソ
フトの発売状況は下記のとおりであり,これらにおいても選手の氏名,
肖像等が使用されていることにつき同様である(甲69,71)。

平成14年7月「THEBASEBALL2002バトル
ボールパーク宣言」
平成15年3月「THEBASEBALL2003バトル
ボールパーク宣言パーフェクトプロ野球」
平成15年9月「THEBASEBALL2003バトル
ボールパーク宣言パーフェクトプロ野球秋
季号」
平成16年3月「プロ野球スピリッツ2004」
平成16年9月「プロ野球スピリッツ2004クライマックス」
平成17年4月「プロ野球スピリッツ2」
平成18年4月「プロ野球スピリッツ3」
(ウ)また,ナムコからは,平成14年〔2002年〕3月に,PS2用
ゲームソフト「熱チュー!プロ野球2002」が発売され,そこにおい
ても選手の実名が使用され,選手の顔,体型,プレイスタイル等が写実
的・詳細に再現されている。その後のナムコからのPS2用ゲームソフ
トの発売状況は下記のとおりであり,これらにおいても選手の氏名,肖
像等が同様に使用されている(甲69,71)。

平成15年4月「熱チュー!プロ野球2003」
平成15年10月「熱チュー!プロ野球2003秋のナイター
祭り」
平成16年3月「熱チュー!プロ野球2004」
平成17年4月「ベースボールライブ2005」
平成18年4月「プロ野球熱スタ2006」
(エ)なお,平成2年〔1990年〕以降,野球機構から許諾を受けた
ゲームソフトメーカー数,販売タイトル数は下記のとおりである(乙1
6)。

・平成2年~平成4年株式会社アスキー発売のファミコンゲーム「ベ
ストプレープロ野球’90」ほか16社,33タイトル。
・平成5年株式会社ナムコ発売のスーパーファミコンゲーム「スー
パーファミスタ2」ほか10社,16タイトル。
・平成6年株式会社ナムコ発売のスーパーファミコンゲーム「スー
パーファミスタ3」ほか8社,12タイトル。
・平成7年株式会社インテック発売のPCエンジンロム「ザ・プロ野
球super’95」ほか13社,23タイトル。
・平成8年コナミ株式会社発売のスーパーファミコンゲーム「実況パ
ワフルプロ野球’3」ほか13社,21タイトル。
・平成9年コナミ株式会社発売のスーパーファミコンゲーム「実況パ
ワフルプロ野球3’97春」ほか8社,17タイトル。
・平成10年株式会社スクウェア発売のプレイステーション用ゲーム
「スーパーライブスタジアム」ほか10社,22タイトル。
・平成11年株式会社セガ・エンタープライゼズ発売のサターン用
ゲーム「サタコレグレイティスト98」ほか11社,22タイトル。
・平成12年株式会社エポック発売のゲームボーイ用ゲーム「ポケッ
トリーグ」ほか14社,22タイトル。
・平成13年コナミ株式会社発売のプレイステーション用ゲーム
「ベースボールシミュレーションIDプロ野球」ほか7社,17タイト
ル。
・平成14年株式会社エニックス発売のプレイステーション2用ゲー
ム「オレが監督だ!Vol2」ほか7社,17タイトル。
・平成15年株式会社コナミOSA発売のプレイステーション用ゲー
ム「実況パワフルプロ野球プレミアム版」ほか10社,24タイトル。
・平成16年株式会社コナミスタジオ発売のプレイステーション2用
ゲーム「実況パワフルプロ野球11」ほか7社,16タイトル。
・平成17年コナミ株式会社発売のプレイステーション2用ゲーム
「実況パワフルプロ野球12」ほか6社,18タイトル。
(オ)そして,平成19年2月時点において発売されている主なゲームソ
フトとしては,いずれもPS2用ゲームソフトである,コナミの上記
「プロ野球スピリッツ3」,「実況パワフルプロ野球13決定版」,ナ
ムコの上記「プロ野球熱スタ2006」など,複数ある(甲69,7
1)。
オカルビープロ野球カード(本件野球カード1)
カルビー株式会社のプロ野球カード(本件野球カード1)については,
株式会社エス・ピー・エヌが各球団とカルビーとの窓口になっており(乙
116),被控訴人巨人軍の場合,同じ読売グループの報知新聞社から選
手のプレー中の写真の提供を受け,株式会社エス・ピー・エヌの担当者が
プリントアウトしたプレー中の写真を球団に持参ないし電子メールに添付
して送付し,球団職員がこれを点検する場合もある。そして,カルビー株
式会社においては,写真を選別するに当たり,プロ野球チップスの主たる
購買層である子供がプロ野球に対するあこがれを抱くことができるように
するため,いわゆる珍プレーについてはカード化を厳禁するなど,選手の
人格を傷つけることがない写真を選別している(乙2)。
また,被控訴人巨人軍においては,選手の正面写真については,球団の
宣伝活動に使用するために宮崎キャンプで撮影される正面写真につき球団
の専属カメラマンが宮崎キャンプの際に撮影したものがカルビーに対して
提供される(乙75)。
なお,カルビー株式会社(乙)と各球団(甲)との間で,選手の肖像等
を使用するに当たり締結される契約書には,以下の契約条項がある(乙
4)。
「第3条(遵守)
乙は本件商標等を使用した契約商品の製造・販売および肖像等を使
用した写真カードの頒布を行うにあたり,次の各号を遵守しなければ
ならない。
①乙は本件商標等につき社会的,教育的に悪影響を及ぼすような扱い
方をしないこと。
②乙は肖像等につき甲および甲の支配下登録選手のイメージを毀損す
るような使用を行なわないこと。
…」
カベースボール・マガジン社の野球カード(本件野球カード2)
ベースボール・マガジン社の野球カード(本件野球カード2)について
は,下記(10)記載のとおりである。なお,ベースボール・マガジン社にお
いて,各球団に使用の了解を得るため写真を交付したところ,球団から,
選手の好みを理由として写真を変えてほしいとの要望を受けることもあっ
た。
なお,ベースボール・マガジン社(乙)と各球団(甲)とで本件野球
カード2に選手の肖像等を使用するに当たり締結する契約書の契約条項に
は,以下の条項がある(乙3)。
「第五条乙は,本商品を販売・宣伝するに際しては,球団及び支配下
の監督・コーチ・選手のイメージを傷つけないよう十分配慮し,その
内容に関しては甲乙が事前に協議して決定するものとする。」
(10)野球ゲーム,野球カード等に使用される写真,映像等及び本件契約条項
についての各球団の対応の経緯は次のとおりである。
ア被控訴人巨人軍
(ア)球団からの使用許諾
a野球カード
ベースボールマガジン社のプロ野球カード(本件野球カード2)に
ついては,プレー中の写真につき,同社はスポーツ関係の週刊誌を発
行していることから専属のカメラマンがプロ野球のすべての試合を撮
影しており,カードに使用するプレー中の写真についても自社が撮影
したものを使用している。カードとして使用したい写真につき球団担
当者のもとに持参して確認を受け,使用している。また,カルビーに
対するものと同じく,選手の正面写真については球団から提供を受け
ている。
カルビー社,ベースボールマガジン社のいずれも,カード等の発売
前にプロ野球カードの見本用のカードが入れられたフォルダーと,各
選手用に配布するためのものを各選手一人当たり50枚ほどを球団に
送付し,球団はこれを選手に渡している。
肖像権使用料については,給与袋に入れられた明細書に氏名,カル
ビー社,ベースボールマガジン社等と明記されている。
b野球ゲームソフトに使用される動画
動画の使用を希望するゲームメーカーは,球団あてに肖像権につい
ての使用申請をする。使用申請は,株式会社ピービーエスが取り次い
でおり,原則として,株式会社ピービーエスを経由して,球団にゲー
ムメーカーの申請内容が書面により連絡される。
上記申請がされると,ゲームメーカーの担当者から球団あてに連絡
があり,球団からは通常,動画の素材は,日本テレビから入手するよ
う指示される。被控訴人巨人軍主催ゲームは,主として関係会社であ
る日本テレビが放映し,録画していることにより,日本テレビのコン
テンツ事業局で保管がされている。日本テレビでは,ゲームメーカー
に試合中の動画を使用させるに当たり契約を締結しており,その契約
書には,球団の商標,選手の肖像については球団から使用許諾を受け
るべき旨が明記されている。
そして,ゲームメーカーは,動画を編集したオープニングの映像に
おいて,どの選手が,どのようなシーン(投げる,守る,打つ,走る
など)について,何秒使用されているかを球団に報告をするととも
に,ゲームの見本を球団に送る。
選手への報告は,選手に肖像権使用料を支払する際に給与袋に入れ
られた明細書に氏名,肖像が使用されたゲームメーカーの名前や分配
金の金額が記載されている。
c野球ゲームソフトに使用される写真
ゲームソフトに使用される写真には,①正面写真と②プレー中の写
真とがあり,それぞれにつき以下のとおりである。
(a)正面写真
正面写真を使用したプロ野球ゲームソフトの最近の例としては,平
成17年7月ころに「プレイステーション2」用としてセガから発
売された「プロ野球チームをつくろう!3」において,球団に対し
正面写真の使用申請があった。このようなゲームでは,正面写真自
体を,ゲーム中の選手紹介で使用されることもあり,また正面写真
の顔の輪郭などをゲーム中のプレーヤーの顔に取り込んで,より実
際の選手の顔に近いものにするために使用することもある。
ゲームソフトメーカーに提供される正面写真は,球団の専属カメラ
マンが宮崎キャンプで3日間くらいかけて撮影し,例年写真撮影の
前日に,球団の広報部の担当者が,全体写真,ランニングしている
写真,顔写真及び日本テレビのプロモーション用のための写真撮影
をキャンプ第1クールに撮らせてもらう旨の説明をしている。正面
写真を撮影するときは,真剣な顔をしたのもの,笑顔のものなど,
複数のタイプを撮る。
この宮崎キャンプで撮影した正面写真は,各新聞社に報道用に提供
されるほか,スポーツ紙が発行する選手名鑑などにも掲載される。
選手名鑑に掲載されるときは,報道用とは異なるので,肖像権使用
料の支払がなされる。
(b)プレー中の写真
プレー中の写真については,平成18年4月ころに「プレイステー
ション2」や「Xbox360」(マイクロソフト社販売のゲーム
機)用としてコナミから発売された「プロ野球スピリッツ3」にお
いて,正面写真の使用申請のほかにプレー中の写真の使用申請もあ
った。プレー中の写真は,ゲーム自体に使用するのではなく,パッ
ケージに使用された。
プレー中の写真は,球団の専属カメラマンが,球団の試合すべてに
ついて写真を撮影おり,これを球団が保管している。
d肖像権の使用申請等
写真の使用申請についても,動画と同様,球団とゲームメーカーと
の間の窓口をしている株式会社ピービーエスが球団に書面で連絡する
ほか,ゲームメーカーが直接連絡することもある。
写真の使用申請がされると,正面写真については,球団の専属カメ
ラマンが宮崎キャンプのときに撮影した写真をCDに焼いて,ゲーム
メーカーの担当者に提供する。また,プレー中の写真については,球
団の専属カメラマンが試合ごとに撮影した写真の中から,ゲームメー
カーに選ばせるが,ゲームメーカーの担当者が球団に来て業者用の専
用の端末から,適当なカットを選ぶので,球団担当者がどのようなカ
ットを選んだかを確認した後,CDに焼く。ゲームメーカーは,ゲー
ムの見本を球団に送付する。球団から選手への報告は,肖像権使用料
の支払の際に給与袋に入れられた明細書に氏名,肖像が使用された
ゲームメーカーの名前が記載される(乙75,証人B)。
(イ)球団による分配金の支払等
被控訴人巨人軍からの氏名・肖像の使用許諾料の選手への分配金の支
払は,(T選手(昭和33年入団),S)選手(昭和34年入団)が現
役の当時からなされていた。昭和47年のカルビー株式会社とのプロ野
球カードの契約においては,契約金の内金50パーセントの支払につい
て,79パーセントが支配下選手に支払われ,21パーセントが当球団
の取り分とすることが予定されており,当時から,肖像を主として使用
するものについては,選手80パーセント,球団20パーセントの原則
が貫かれていた。
(ウ)選手への説明
被控訴人巨人軍において,平成6年1月以前に作成された「お知ら
せ」と題する書面には,「選手各位殿」として,「テレビCM,キャラ
クターグッズ等に対して,日頃からご理解,ご協力をいただき,感謝申
し上げます。今年も,プロ野球界全体の振興と,チーム・選手のイメー
ジアップを目指して,新しい感性で企画・開発・営業に取り組んでまい
ります。新しいシーズンを迎えるにあたり,出演料の配分等,球団の方
針,規程を改めてお知らせいたします。」とし,「(1)CMへの出
演」,「(2)新聞の広告,TV番組,ポスター等への写真,映像使
用」,「(3)スポーツ用具メーカーとのアドバイザリー」として,い
ずれもこれら肖像権使用料の分配については,「選手80%」,「球団
20%」であることが明記されている。
また,平成7年12月18日付けの「お知らせ」と題する書面には,
「選手各位殿」「本日は入団おめでとうございます。貴殿のプロ野球選
手としての成功をこころよりお祈りいたします。さて,巨人軍はプロ野
球界全体の振興と,チーム・選手のイメージアップを目指して,新しい
感性で企画・開発・営業に取り組んでおります。プロ野球生活のスター
トを迎えられるにあたり,出演料の配分等,球団の方針,規定をお知ら
せいたします。」と記載され,上記文書と同内容の出演料の選手,球団
の分配率が記載されている(乙76)。
球団から選手に対しては,平成6年ないし平成7年ころ,上記文書に
よる説明をしている。
(エ)野球協約及び選手契約についての説明
被控訴人巨人軍においては,野球協約の冊子を以前から選手に対し配
布している。さらに,球団は,「【選手編】わかる野球協約(選手の身
分,権利と義務について)」と題する書面を作成し,これも選手に配布
している。上記書面は,平成12年〔2000年〕1月28日に作成さ
れ,「野球協約」のほか,「統一契約書書式」,「日米間選手契約に関
する協定」,「終身招待証発行規定」,「年金規定」について簡明で分
かりやすい説明がなされている。「統一契約書書式」のところには,統
一契約書16条1項の要旨が記載されている(乙76)。
(オ)球団と球団選手会との交渉等
平成13年〔2001年〕2月20日の球団と球団選手会との交渉に
おいては,肖像権問題がとりあげられ,その際の球団からの説明の要旨
は下記のとおりである。

「選手会と機構との間で肖像権の管理が問題になっている。肖像権につ
いては統一契約書16条に決められていて,現状では,簡単に言えば
ユニフォーム姿の選手の肖像については,球団が権利を持っていて,
宣伝などに使ってもいいことになっている。もちろん利益は選手にも
分配することになっている。選手は球団の承諾を得ないで広告などに
出演できない。
ジャイアンツの場合,分配は以下の通り。
・テレビなどのCM出演の場合
出演料の取り分は選手80%,球団20%…
・選手の写真などを使っているグッズ
…ロイヤリティとして業者から受け取り,これを選手…球団…で分
ける。

選手分の収入は経理部から各人の口座に振り込まれている。選手会
からは肖像権管理のルールを見直して,透明性を高めて欲しいという
希望があるようだ。球団としては,公明正大にやっているが,これか
らも選手の誤解を招くことがないよう透明度を高めてやっていきた
い。もし,疑問があれば,遠慮なく企画部に確認して欲しい。」
(カ)選手らの認識
これに対し,控訴人高橋由伸は,平成10年〔1998年〕2月から
被控訴人巨人軍所属選手となり,平成15年〔2003年〕からは巨人
軍選手会長をしているところ,入団当初から球団グッズ等に選手の肖像
を使用したものが販売されており,その金銭の分配も受けていることは
知っていたが,それが本件契約条項に定められたことによるという認識
はなく,またそのような説明が,契約更改等の際に球団側から説明を受
けたこともないとし,球団側が「わかる野球協約」等の書類を配布して
説明しているとする点についても,そうした書類の内容について具体的
な説明を受けたこともないとする(甲73)。
また,控訴人阿部慎之助は,平成13年〔2001年〕2月から被控
訴人巨人軍所属選手となったところ,同旨を述べる(甲74)。
下記G(元巨人軍投手)陳述書(乙107)に対しても,巨人軍所属
のC選手は,平成19年に入団した新人選手であるところ,入団に当た
り統一契約書により選手契約を締結した際,球団から本件契約条項に基
づき肖像権を球団が管理しているとの説明はなかったが,平成19年1
月に行われた球団による新人研修会において,本件契約条項についての
説明等があり,また平成19年2月には選手会事務局等からの説明を受
け,選手会に対する委任状,陳述書(甲53の55)を提出するに至っ
たとする(甲106)。また。平成8年〔1996年〕から平成18年
〔2006年〕まで被控訴人巨人軍に所属し,その後被控訴人ベイス
ターズに所属しているF選手も上記Gから,入団2年目の契約更改時に
統一契約書を読もうとしたところ,「不利なことは書いていないから読
まなくていい」と言われたとする(甲107)。
(キ)球団関係者の認識
被控訴人巨人軍の元選手(投手。昭和40年から昭和51年まで在
籍)であり,球団の編成部長,球団代表付参与等を務めるGは,新人選
手の教育を担当し,平成18年1月13日,平成19年1月12日に行
われた新人研修会においては,2006年1月13日付け,2007年
1月12日付けの各「新入団選手用の野球協約とアグリーメント(セ・
リーグ)の抜粋《野球協約に定められた選手の身分,権利,義務につい
て》」と題する書面を配布して説明した。同書面には,統一契約書の抜
粋として,本件契約条項も記載されており,これを選手に音読させたと
している。この研修会には,K],L],C選手らが参加している(乙
107,108の1,2)。
(ク)選手OBの認識
被控訴人巨人軍に所属していたS)元選手は,昭和53年に通算80
0号ホームランを記録した際に記念メダルを無許諾で販売した業者に対
し,読売興業株式会社(東京読売巨人軍)と共同申立人となって裁判上
の係争をしたところ(乙99の15),それ以前から,統一契約書に選
手肖像等に関する条項があったことをよく知っており,これによれば選
手の指名,肖像の取扱いについては球団に一任し,その利益については
選手も相応の分配を受けることが出来るとするものであり,選手時代に
はそのとおり実践され問題がなかったとする(乙87)。
昭和51年から平成元年まで被控訴人巨人軍に在籍したE]元選手
は,①野球協約の冊子については,球団から入団当初より毎年もらって
いた,②入団4年目のころ,オロナミンCドリンクのコマーシャルへの
出演の声がかかり,これをきっかけとして,球団が広告やグッズなどに
氏名,肖像を使用することが統一契約書によることを実感するようにな
った,③練習中や試合中の写真については,読売系のカメラマンが撮影
していることは知っており,そのようにして撮影された試合中の写真
が,広告やグッズに使用されることは当然だと思い具体的に使用する写
真についても球団に任せていたが問題を感じたことはなかった,④選手
会長としても,肖像権の管理については,当然球団が管理するものと認
識しており,肖像権の管理については,統一契約書にあることを認識し
ながら,契約更改のたびごとに,契約書にサインしていたなどとする
(乙92)。
P)元選手は,昭和55年〔1980年〕から被控訴人巨人軍に,平
成6年〔1994年〕から平成12年〔2000年〕までは被控訴人ベ
イスターズで選手として在籍したところ,選手会長時代については前述
のほか,①被控訴人巨人軍に在籍していた際には,テレビコマーシャル
に出演し,本件野球カード1,2,ゲームソフトにも氏名や肖像が使用
されていたところ,試合中に撮影された写真がこれらに使用されていた
ことは当然知っており,またこれら使用料の分配金も受け取り,給与の
明細書にもこれが書かれていた,②選手時代に統一契約書により肖像権
は球団が持っており,球団が許諾した会社が自分の氏名や肖像を使用し
た商品を販売するのは当然と思っていたとしている(乙100)。
被控訴人巨人軍に昭和60年から平成9年まで選手として在籍した
(R元選手は,①入団時において,ドラフト指名後の仮契約のころに球
団のスカウト関係者から統一契約書について説明を受けた,②最初の契
約更改の際も,球団の担当者から統一契約書について,説明を受け,契
約書のコピーももらった,③その後も,契約更改時に統一契約書にサイ
ンするに当たり,当時球団の編成部長をしていた上記Gから,「サイン
する前に分からないことはちゃんと聞いとけよ」,「もう分かっている
だろうけど,もう一度,よく読め」などと言われ,これらにより統一契
約書に球団が肖像権を管理すること,出演料の分配などのことが書かれ
ていたことは記憶していた,さらに,野球協約も,毎年,キャンプから
遅くとも開幕前に球団からもらっており,たいていルールブックと一緒
にもらっていたことからよく覚えている。④カードなどの写真について
も見本を5枚,10枚ともらったが,別に問題を感じたこともなく,プ
レー中の写真や練習中の写真もどの球場のいつごろの登板の写真と分か
るが,これら写真が野球カードなど使われるとしても,見本をもらうの
で撮影された写真が何に使われるかを知ることはできる。⑤テレビゲー
ムについて,実名ではなく勝手に「ミヤモモ」などのモジリでゲームに
使われていたことを知人から聞いたが一種のシャレだと思い,球団がき
ちんと対処してくれると思っていたとする(乙93)。
(ケ)選手氏名,肖像の無断使用に対する対応等
被控訴人巨人軍に関しては,前述のS)選手が800号ホームランを
達成した際の事件のほかは,広告業界等でも選手の氏名・肖像等を球団
に無断で使用してはならないことが現在では常識となっており,そうし
た問題が起こることはほとんどないが,選手名鑑まがいのものを無断で
作成した出版社に対し球団が警告した例がある(乙106)。
また,最近において練習中ないし試合中の選手の写真を撮影したファ
ンが,これをネットオークションで有償販売した例があり,球団が主催
者に連絡をして出品をやめさせた例があり,そうした問題に対して被控
訴人巨人軍では球団で担当者3名を決めて常時監視している(証人
B)。
イ被控訴人ヤクルト
(ア)氏名・肖像の使用許諾に関する球団見解の伝達
被控訴人ヤクルトにおいては,遅くとも平成5年〔1993年〕から
入団時に,統一選手契約書全文をコピーして球団所属選手に渡し,契約
更改時にも同様にコピーを球団所属選手に渡している(乙77,11
7)。
また球団,選手,第三者との間で,コマーシャル契約,マネジメント
契約等を結ぶ際には,選手にはその都度契約書の内容を説明し,選手の
氏名・肖像使用に対する対価を球団が受けてその中から選手に対して分
配金が支払われることを説明している。
(イ)所属選手の写真・動画の調達先
球団所属選手の写真は大部分が球団の指定業者である株式会社フィー
ルドライフから提供されている。
ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)について
は,ベースボールマガジン社が球団の許可を得て撮影した写真が用いら
れている。
一部のゲームソフトについては,日刊スポーツ新聞社が球団の許可を
得て報道用に撮影した試合中の写真を使用している。
平成18年〔2006年〕4月6日に株式会社バンダイナムコゲーム
スから発売された「プロ野球熱スタ2006」等において使用されて
いる動画については,株式会社フジテレビジョンが球団の許可を得て試
合中継用などに撮影したものが,ゲームソフトメーカーに対して提供さ
れている。
(ウ)球団の指示
被控訴人ヤクルトにおいては,球団所属選手の着帽正面写真について
は春季キャンプインの際に「選手名鑑」用写真として,全選手分株式会
社フィールドライフが撮影している。この撮影に際しては,球団から選
手に対して,キャンプ時に「選手名鑑用などに写真を撮ります」という
指示がされ,チーム用のキャンプ日程予定表などでも「名鑑写真撮影予
定」と明記されている。
また試合中,練習中のプレー写真は,キャンプ中ないしゴールデンウ
ィーク頃までに株式会社フィールドライフがまとめ撮りしており,主と
してそれらがゲームソフトや野球カードに使用されている。ベースボー
ルマガジン社が選手の試合中写真を撮影する場合も,球団の許可を得た
上で行っている。
動画については,試合の模様をフジテレビがテレビ中継用等に撮影し
たものの中から,ゲームソフトメーカーが選択し,これがそのまま提供
されている。ただし,動画素材として問題がないか,事前に球団による
チェックが行われる。
(エ)球団における選手の氏名・肖像使用に対する管理
被控訴人ヤクルトにおいては,平成17年〔2005年〕に控訴人古
田敦也が「スカイパーフェクTV」のコマーシャルに出演したのが,無
断出演の初めての例となった。そこで球団から控訴人古田敦也に対し球
団を通す形で契約を締結するように働きかけ,最終的に控訴人古田敦也
は,球団の意向に応じ,改めて球団を通す形で広告出演契約を締結し
た。球団が正式に関与する形で締結された広告出演契約は,球団,控訴
人古田敦也及び広告会社が契約当事者となった。
(オ)選手の認識
また,控訴人古田敦也は,平成2年〔1990年〕に被控訴人ヤクル
トに入団し,平成17年〔2005年〕2月からは監督としても契約を
締結するとともに,平成10年〔1998年〕12月から平成16年
〔2004年〕11月まで選手会の会長も務めたところ,①球団やNP
B・野球機構は,プロ野球選手関連商品を自ら発売したり,その製造に
関するライセンスをメーカーなどの第三者にライセンスしたりするなど
してビジネスを行ってきたが,選手に対しては,事前に具体的な商品の
確認をするといったこともなく,事後的に,選手年俸が支払われる際に
当該選手が使用された商品名と当該選手への分配金額が記載された明細
書が渡されるだけで,球団がメーカーなどに対してどのような条件でラ
イセンスを行っているかの説明や,球団と選手がどれくらいの割合で分
配を受けているかなどの説明がなされることもなかった,②自分も含め
選手には統一契約書に基づいて球団が肖像権等を管理しているという認
識はなく,球団からそのようなことを言われたこともなかった,③選手
会としても,確かに平成12年〔2000年〕あたりまでは,事実上行
われていた球団による肖像等の管理をやめて,選手自らこれを管理しよ
うという意識にまではいたっていなかったが,少なくとも選手会の活動
を通じて把握できる範囲で,選手に対する分配の比率を変えることなど
を意識していた,④野球ゲームに関しての当初の状況は,野球機構らは
ゲーム会社から対価を受領しておりながら,選手は使用料を受領できな
いというもので,数年間続いたが,交渉の結果,非常に小額ながら分配
金の支払いが始まり,その後の交渉でこの比率は引き上げられた,⑤平
成11年〔1999年〕終わりころ,選手会が弁護士を雇うという流れ
になり,選手の肖像等の管理に関して正式な調査を始め,法律の専門家
を交えての調査の結果,選手が球団との間で締結している合意は,統一
契約書16条の定めだけであり,そしてその統一契約書16条を素直に
読んでも,その文言は,あくまで球団の宣伝に関する選手の肖像等の使
用の局面に限定された記述であって,商品化に関しての部分や,球団以
外の第三者の宣伝のための利用などの商業的利用については記載されて
いないと認識した,⑥このころプロ野球選手の長期の拘束(移籍の制
限)についての保留制度・FA制度を修正する上でも,選手会の活動強
化,資金体制の強化が必須であると考えており,そのためには,大リー
グ選手会が3人以上の選手の肖像等を使用する際の使用料を一括管理し
てその労使交渉のための強固な活動資金に充てていることを参考にした
いと考えていた,⑥コナミ株式会社に対するプロ野球ゲームに関する独
占ライセンス付与という事件があり,その独占期間である平成12年
〔2000年〕4月に入ってから,例年であればプロ野球開幕の時期ゆ
え多種多様なゲームソフトが販売される時期であるにもかかわらず,約
半年にもわたってコナミ以外の会社製品である家庭用プロ野球ゲームソ
フトが販売されないという事態が生じ,このようなプロ野球界及び選手
側の権利に重大な影響を及ぼす独占契約の締結は,多種多様なゲームソ
フトに対してライセンスが行われていた状況を前提としていた,以前か
らの球団側の事実上の管理委託の範囲を超えるものであると考え,選手
側は異議を唱えた,⑦その後,選手会長として,選手会の弁護士を通じ
るなどして,円滑なライセンス体制を確立することを第一に考えて,約
1年半の間NPBらと話合いを重ね,独占契約の解消や,大リーグと同
様の管理方式を採用すること,球団側と選手会の暫定的な共同管理の方
式をもって協力していくことなどについても提案したが,NPB側は以
前の姿勢と同様,分配金額を多少引き上げることを提案するだけで(選
手側が拒否),誠実な対応を見せなかった,⑧選手会はその後,一部の
ゲーム会社に選手の肖像等の使用を許諾するライセンスを付与したが,
選手の肖像等について選手会からライセンスをもらうのであれば球団の
商標についてのライセンスも出さないとの妨害を受けて,選手会のライ
センスは受けないことになるということもあった,⑨契約更改後の話合
いにおいても代理人である弁護士を通じて,選手側の主張する統一契約
書16条第1項の解釈内容をはっきりさせるよう球団と話合いを持った
が,統一契約書16条のうち,第3項の選手の広告関与に関する部分に
ついては話合いに応じ,球団の手数料の金額の減額等に関する合意をす
ることができたが,第1項に関する解釈の明確化については,一切話合
いに応じてくれず,特約条項の挿入など無理である,などという認識で
あった(甲65,控訴人古田敦也本人)。
控訴人宮本慎也は,平成8年〔1996年〕から被控訴人ヤクルトに
所属し,平成16年〔2004年〕からは球団の選手会長,平成17年
〔2005年〕からは選手会の会長を務めているところ,控訴人古田敦
也とほぼ上記同旨を述べるほか,①自分としても入団時にも統一契約書
にサインしただけで金額以外の内容について球団から説明を受けたこと
もなく,統一契約書で球団側に肖像等の管理を委ねたという意識もなか
った,②自分たち選手は,選手会を通じた管理開始通知や本件訴訟で主
張しているように,本件契約条項には,商品化に関しての部分や球団以
外の第三者の宣伝のための利用などの商業的利用については記載されて
いないとの認識を有している,③そして,球団単位の肖像等の使用につ
いては依然として事実上の管理を球団に対して委任しているが,複数球
団にまたがる使用に関する部分については,球団に対しては管理を委任
していないという前提で選手契約を締結している,という認識はあった
(甲66,93,控訴人宮本慎也本人)。なお,被控訴人ヤクルト
(甲),控訴人宮本慎也(乙),株式会社ローソン(丙)が平成19年
3月19日に締結した「覚書」には,「甲および乙が,丙の推進する『
マイ箸運動みどりのかけ箸』の事業活動に賛同し,その広告宣伝…に
乙が出演し,また本件広告に丙が乙の肖像を使用することについて,次
のとおり覚書を締結する。」と記載され,「第1条(広告内容)丙の
事業内容:『マイ箸運動みどりのかけ箸』推進事業本件広告への乙
の出演,乙の肖像使用:1.…事業発表記者会見への乙の出席2.次
の広告制作物への乙の肖像および氏名の使用…」「第2条(対価)1.
丙は,前条の対価として,広告掲出料…を甲に支払うものとする。2.
甲は,甲・乙間で,前項により受領した広告掲出料の分配を行う。」と
されている(乙115)。
被控訴人ヤクルト所属のI選手は,平成7年〔1995年〕から平成
9年〔1997年〕までは被控訴人ファイターズに,平成10年〔19
98年〕からは被控訴人ヤクルトに所属し,平成18年〔2006年〕
からは被控訴人ヤクルトの選手会長をしているところ,被控訴人ヤクル
トから統一契約書16条に基づいて,球団側が選手の肖像権を管理して
いるというような説明を受けたこともないし,契約更改の際にも,その
ような説明がされたことはない,そもそも6,7年前までは,統一契約
書のコピーさえももらっておらず,これをもらい始めたのはおそらく平
成12年〔2000年〕からだと思う,球団が,平成13年と平成16
年に,特定の所属選手との間で,統一契約書16条について記載した覚
書や契約を交わしたとしているが,そのような記載があるとしても,そ
れは広告出演の際に球団の承諾が必要とされている,統一契約書16条
3項についてのみであろうと認識している(甲75)。
(カ)選手OBの認識
L元選手は,昭和47年に被控訴人ヤクルトの前身であるヤクルトア
トムズに入団し,昭和56年に引退するまで被控訴人ヤクルトに在籍
し,現在は同球団の編成部長を務めているところ,選手時代に自動車の
コマーシャルのほか,新聞,雑誌等にも出演等していた。その際の肖像
・氏名の管理については球団に任せ,分配金についてもきちんと受け取
っており,明細書も郵便で受け取っていた,球団が選手の氏名・肖像を
管理しておりそのことは選手契約書に記載されているものと思っていた
と認識している(乙90)。
ウ被控訴人ベイスターズ
(ア)被控訴人ベイスターズは,球団選手会との間で,平成4年〔199
2年〕から毎年「覚書」を締結しているが,その「覚書」(乙78添付
資料1)には,被控訴人ベイスターズの前身である株式会社大洋球団を
「甲」とし,横浜大洋ホエールズ選手会を「乙」とし,「横浜大洋ホ
エールズの繁栄の為,以下の様に相互協力をする事を確認し覚書を取り
かわすものとする。」として,次のとおりの記載がある。
「1.目的横浜大洋ホエールズ繁栄の為,甲主催,乙主催の行事に相
互協力をする。
2.協力乙は統一契約書,第15条,第16条の精神を尊重し甲主
催行事に協力する。又,甲は乙の主催行事運営費として協力金を支払
う。
3.(1)協力金年間300万円とし,選手全員に均等配分されるもの
として,甲は甲乙間において協議決定する時期に乙に支払う。

(3)選手出演料
①甲主催行事として開催する,GOGOホエールズ,ファン
感謝デー,球場でのファンサービス,ゴルフコンペ,納会,
激励会,沖縄キャンプ時の野球教室等は無料とする。なお,
試合中のインタビュー等についても,これに準ずるものとす
る。
②毎年実施の甲主催,横浜市16区野球教室,友の会野球教
室は1人5万円
③甲主催行事のサイン会,野球教室等は1人5万円
…」
また平成15年〔2003年〕にベースボールマガジン社から球団所
属選手を取り上げた直筆サイン入り「BBM2003横浜ベイスターズ
カード」が発売された際,同社から球団に対して支払われた肖像権料の
うち,その20パーセントに当たる28万8000円(税込で30万2
400円)が選手会に対し支払われた(乙118)。
一方,平成12年11月1日に球団と広告会社との間で締結された広
告出演契約には,「丙(球団)は,丁(選手)の肖像権がセントラル野
球協約連盟通用選手契約(日本プロフェッショナル野球組織統一様式)
第16条に基づき丙に属することを保証する。」(第1条2項)とした
上で,選手の出演料等に関しては「乙は丙に,出演料として…円也(源
泉課税を含み,消費税及び地方消費税別)を平成12年12月31日ま
でに丙の指定する銀行口座に振込み支払う。」(乙78,添付資料3)
として,その中から選手の配分を支払っている。このような広告出演契
約書については,写しを選手自身にも渡している。
(イ)写真・動画等の調達元
球団所属選手の肖像がゲームソフトや野球カードに使用される場合,
その調達元は,おおむね以下のとおりであるが,どの調達元から提供さ
れた場合でも,球団は,どの会社がどのような用途で使用するために写
真・動画を借りたかを記録している。
すなわち,球団が調達元のときは,球団が依頼する個人のカメラマン
が撮影を行った写真を提供している。また,ベースボールマガジン社の
BBMベースボールカード等については,ベースボールマガジン社カメ
ラマンが,球団の許可を得て撮影した写真を主として使用している。
ゲームソフトにおいて利用されている動画においては,試合中継・放映
及び記録用に株式会社テレビ神奈川が球団の許可を得て撮影した録画画
像が利用されている。
(ウ)写真・動画撮影時の球団の指示
毎年,2月1日のキャンプイン当日朝に,監督以下,チーム全員の顔
写真を撮影している。前日1月31日の宿舎でのミーティング時に球団
の広報担当から「選手名鑑などに使用する顔写真を翌日撮影します。」
と口頭で説明している。プレー写真については,球団が撮影する場合で
あってもベースボールマガジン社が撮影する場合であっても,その性質
上この日に撮影したものをゲームソフトやカードに使用するなどとの説
明は行っていない。また試合中・プレー中の動画については,株式会社
テレビ神奈川が球団の許可を得て,試合中継・放映及び記録用に撮影し
た画像を,ゲームソフトメーカーに対して提供している。
(エ)球団における選手の氏名・肖像の管理
球団では,球団所属選手の氏名・肖像が適切に使用されるように,以
下の方法で管理している。すなわち,所属選手が選手個人のインターネ
ットホームページにおいてユニフォーム写真を使用する場合,選手のマ
ネジメント会社又は運営会社から球団の企画・広報部に依頼があり,球
団から写真を提供している。また,様々な会社が,球団所属選手の写真
を使用する場合は,必ず球団メディア部に対して「写真使用申請書」を
提出して許可を得る扱いとなっている。写真を使用する際には,可能な
限り「C横浜ベイスターズ」や「写真提供横浜ベイスターズ」と標記す
ることとし,転用を防止している。
(オ)現役選手の認識
控訴人鈴木尚典は,平成3年〔1991年〕から被控訴人ベイスター
ズに所属し,平成16年〔2004年〕からは球団選手会長を務めてい
るところ,入団した当初から,球団グッズ等選手の肖像等を使用したも
のが販売されておりグッズ等に関する金銭が支払われていることも認識
していたが,そのことが統一契約書によって定められているものだとは
思っておらず,球団から,統一契約書16条に基づいて,球団側が選手
の肖像権を管理しているというような説明を受けたこともなく,契約更
改の際にも,そのような説明がされたことはない,という認識であった
(甲76)。控訴人相川亮二も前記鈴木と同様の認識であった(甲7
8)。
控訴人三浦大輔は,上記鈴木と同旨を述べるほか,平成17年〔20
05年〕以降,野球カードについて分配金を受け取ることになったが,
これが平成17年〔2005年〕までなされなかったのは不当なことで
あり,またその分配率も球団8・選手2であり,また野球ゲームについ
ても球団6・選手4の割合であり,分配率についても疑問であるという
認識であった(甲77)。
また,H選手は,グローブに家族の名前の刺繍を入れて使用していた
ところ,球団がH選手に事前の断りなしに球団のグッズとして「Hモデ
ル」としてH選手の家族の名前の刺繍も入った状態で販売していること
を知って球団に抗議したところ,販売が中止されたことがあり,これら
のことからして肖像権管理に関し選手の意思が十分反映される体制にし
てほしい旨の認識を持っている(甲108)。
(カ)選手OBの認識
昭和58年〔1983年〕から被控訴人ベイスターズの前身球団であ
る大洋ホエールズに,平成9年〔1997年〕から平成11年〔199
9年〕までは被控訴人マリーンズに所属した高橋雅裕元選手は,①テレ
ビコマーシャルに出演し,またポストカード等のグッズが販売されまた
野球用具のアドバイザリー契約も締結していたところ,これら契約は球
団を通し,その契約金の一部を受領し給与明細にその旨が記載されてい
た,②球団担当者から,コマーシャル出演,用具の契約の際に,球団が
選手の肖像権を持つことについて「統一契約書のここに書いてあるから
な」と統一契約書を見せられ説明を受けた,③選手時代の途中からは統
一契約書の写しを必ず受け取り,どんなことが書いてあるか見ており,
契約更改時にも球団から肖像権について説明を受けており,球団が肖像
権を持つことをあたりまえと考えていた,④野球カードなどにプレー中
の写真が使われていたことも知っていた,との認識であった(乙10
1)。
エ被控訴人ドラゴンズ
(ア)球団からの使用許諾
被控訴人ドラゴンズにおいては,平成10年〔1998年〕ころ当時
の企画事業部において《肖像権配分率企画事業部》という一覧表を作
成し,また球団所属選手に対し,選手肖像の管理及び分配について詳し
く説明した文書も契約更改時に配布した(乙79)。
上記《肖像権配分率企画事業部》によれば,肖像権使用区分毎の内
容,分配率として記載されている内容は以下のとおりである。
「野球カード総売上の6%がロイヤリティー。このうち50%が配
分額で,使用プレイヤー数(使用種類数)で割り,各プレイヤー毎
に配分される。集合体は人数で割る。球団50%:選手50%
カードゲーム総売上の8%がロイヤリティー。このうち50%が
配分額で,使用プレイヤー数(使用種類数)で割り,各プレイヤー
毎に配分される。集合体は人数で割る。球団50%:選手50%
コンピューターゲームソフト総収入の40%のうち,各選手毎に
算出し,配分する(配分明細がビーピーエスから届く)。球団80
%:選手20%」
(イ)球団からの写真,動画等の提供,使用許諾等
球団が,球団所属選手の写真や動画をゲームソフト・カード用等に
メーカーに対して提供する場合,その調達元等は以下のとおりである。
すなわち,平成18年〔2006年〕3月1日にサービス提供が開始
された株式会社スポーツレイティングスの「ドリームベースボール」に
ついては,着帽正面写真を,球団からゲームソフトメーカーに対して提
供している。そのほか,日刊スポーツ新聞社もホーム・ビジターを含む
試合中に撮影したプレー写真を提供している。
また平成17年〔2005年〕7月28日に発売されたプレイステー
ション2用ソフトの「プロ野球チームをつくろう!3」については,日
刊スポーツ出版社が撮影したプレー写真を提供している。同ゲームにつ
いて,選手の着帽写真については球団が提供している。これらの撮影に
ついては,球団が許可を行っている。
ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)について
は,ベースボールマガジン社が撮影した試合中の選手写真を使用してい
る。また,平成18年〔2006年〕4月6日発売のプレイステーショ
ン2用ゲームソフト「プロ野球スピリッツ3」については,ゲームソフ
ト会社の指定した主力選手15~16人の顔写真及び試合中のプレー写
真について,ベースボールマガジン社撮影の写真を提供している。
平成18年〔2006年〕4月6日発売のプレイステーション2用
ゲームソフト「プロ野球熱スタ2006」に使用されている動画は,東
海テレビ放送株式会社が試合中継用に撮影したもの及び取材用の録画を
提供し,できたサンプルを球団でチェックしている。
(ウ)写真・動画撮影時における球団から選手への指示
選手の顔写真(着帽正面写真)については,キャンプ初日の練習に出
発する前に,キャンプ地の宿泊ホテル内で,球団の許可を得たカメラマ
ンが撮影している。球団が撮影する選手全体写真や着帽正面写真につい
ては,球団全選手が参加するキャンプ前日の全体会議において,広報部
から選手に対して,撮影する旨の説明を行っている。
日刊スポーツ出版社・新聞社やベースボールマガジン社が撮影する,
プレー中の選手写真については,プレー中に撮影するということもある
ため,球団から特別に選手に対していつ写真を撮影するか等について指
定することはない。
動画については,公式試合のテレビ中継用及び取材用の録画画像を提
供し,サンプルを球団がチェックしている(以上,乙79)。
(エ)選手の認識
O選手は,昭和63年〔1988年〕にドラゴンズに入団し,平成1
1年〔1999年〕から平成15年〔2003年〕まで被控訴人ドラゴ
ンズの選手会長を務め,また選手会の副会長,理事長等も務めたことが
あり,ドラゴンズ選手会長時代の平成13年〔2001年〕に,球団か
ら選手会に支払われていた分配金につき個別の選手に直接振り込まれる
ようになったが,その際にも本件契約条項について話をしたことはな
く,また球団担当者から本件契約条項について説明された文書を受け取
ったり,本件契約条項に基づき球団が選手の肖像権を管理している旨の
説明を受けたこともない,また上記肖像権配分率に関する一覧表の配布
を受けたこともないと認識している(甲79,109)。
また,控訴人井端弘和も,入団時から自らの肖像を使用した球団グッ
ズ等が販売されており,それに関する金銭の支払も受けていたが,これ
が統一契約書によって定められているとは思っておらず,また球団から
そのような説明を受けたこともないとの認識である(甲80)。
N選手も,選手の肖像権について本件契約条項に基づいて球団が管理
している旨の説明を球団から受けたことはないとの認識である(甲8
1)。
平成4年〔1992年〕から平成18年〔2006年〕まで在籍した
G]元選手は,自分の氏名や肖像等を使用した球団グッズ,野球カー
ド,野球ゲームが在籍当時から販売されており,統一契約書の何条かに
球団が選手の肖像を管理する旨の規定がありこれに基づくこと,キャン
プや試合中に撮影された写真,動画などがこれに用いられており,球団
が得た収入については金銭の分配を受けていたとの認識であった(乙1
03)。
(オ)上記に対する球団の説明は,被控訴人ドラゴンズにおいては,選手
に対して,遅くとも平成13年からは,毎年,選手契約締結後に統一契
約書のコピーを手渡しており,新人選手との選手契約締結時も同様に統
一契約書のコピーを選手又は親権者に手渡していた,また,遅くとも昭
和53年から,毎年,選手に,「日本プロフェッショナル野球協約」の
冊子をマネージャーらを通じて配布し,この冊子には,野球協約のほ
か,統一契約書様式も掲載されており,選手は,選手の肖像権が球団に
帰属していることを知っていたはずである,また,コンピューターゲー
ムソフトの肖像権等使用料は,当初,球団では,個々の選手に対してで
はなく球団選手会に一括して支払をしていたところ,選手会ではこれを
個々の選手に支払うことはせず,選手会としての費用支出に充ててい
た,ところが,肖像権料の選手側配分の残高が多額になるなどしたた
め,球団代表が,当時の選手会長であるO選手と話合い,コンピュー
ターゲームソフトの肖像権等使用料のうち選手側取り分については,球
団選手会に対してではなく,個々の選手に直接支払うことにした,なお
球団が,個々の選手に直接肖像権使用料を支払うようになったのは,平
成13年6月27日に業者から振り込まれてきたものからであるとこ
ろ,球団の内部事情により,実際の選手への支払い時期は平成14年2
月28日となった,というものである(乙119)。
オ被控訴人タイガース
(ア)選手の氏名・肖像の使用許諾に関する球団見解
被控訴人タイガースでは,既に昭和41年に,選手所得税確定申告の
ために税務署あてに提出した選手収入内訳を記載した書類「芸能関係所
得者の事業概況書兼調査書」において複数の選手に対して肖像権料を支
払っている。
また,球団では,球団による選手の氏名・肖像の使用許諾業務に関し
て,昭和53年に「商標・肖像に関する使用許諾基準」を作成し,昭和
61年4月に改訂している。その改訂版では,商標・肖像権契約につい
て規定し,商標・肖像権料及び球団と選手との分配金割合について規定
している。また,その他にも,コマーシャル関係の契約・アドバイザー
契約・球団及び選手を対象とした出版物・レコードへの出演使用契約に
ついて,契約金額と球団の分配金を明記している。この基準は,率や金
額は当時と異なるものの,原則については現在も生きている。
また,球団においては,上記のとおり使用許諾基準を作成した上で,
さらに昭和56年度には,肖像権について選手に説明するため,「肖像
権のしおり」と称する小冊子を球団名義で発行し,球団所属選手に配布
した。その2頁には,「皆様が選手契約をされた時点で,下記の通り,
プロ野球選手統一契約書第16条の規定により,肖像権等を球団に拘束
される事になります。」として,統一契約書第16条の規定を抜粋のう
え,同条に基づき,球団所属選手の肖像等に関する権利処理が行われて
いることを明確に伝えているとする。そして商標・肖像権契約の項目に
おいては,球団と選手との分配の割合を含めた商標・肖像権料を明記
し,その他にも,肖像権使用許諾基準同様,コマーシャル関係の契約・
アドバイザー契約・球団及び選手を対象とした出版物・レコードへの出
演使用契約について,契約金額と球団の分配金を明記している。
さらに球団では,野球協約については選手に交付していたところ,少
なくとも平成11年のシーズンオフからは契約当事者の印影がある統一
選手契約書写しを選手に手渡しており,同一内容が掲載されている野球
協約の配布と併せることにより,統一契約書の内容について選手に対し
周知徹底をはかっているとする。
(イ)球団所属選手の氏名・肖像を第三者が使用する場合における素材調
達元
メーカーから球団に対して写真・動画素材についての問合せがあり,
その素材を使用した商品を許諾する場合,球団では原則として株式会社
阪神コンテンツリンクを紹介のうえ,写真ポジ・動画の選定・購入をし
ている。なお,同社は,平成11年〔1999年〕から他のマスコミ同
様撮影に加わり,平成15年〔2003年〕から,球団による委託を受
け,選手肖像の撮影・映像の管理を一括して取りまとめている。
動画が使用されているゲームソフト(「プロ野球熱スタ200
6」)については,球団から指示してゲームソフトメーカーから朝日放
送株式会社に依頼し,入手してもらっている。
BBMベースボールカードに使用される写真については,球団の承認
に基づきベースボールマガジン社のカメラマンが撮影した試合中の写真
が使用されている。
(ウ)写真・動画の撮影時の状況
商品化用の写真・動画は,その撮影を包括的に管理している球団にお
いて著作権を持つ写真を,使用者に販売するとともに,使用者が第三者
から調達した写真についても,具体的な撮影方法に関しては次のとおり
各社の裁量に委ねたうえで,商品化の段階で球団が事後的に写真や映像
の内容を審査している。
すなわち,名鑑等に使われるユニフォーム・帽子を着用した正面上半
身写真,監督・コーチ・選手による全体の集合写真は,キャンプが始ま
れば速やかに株式会社阪神コンテンツリンクが撮影している。その際,
球団からは,選手に対して,選手名鑑等に使用する写真を撮影する旨を
伝えている。プレー写真でないガッツポーズや立ち姿のような一般的な
写真撮影については,撮影意図の確認・選手のスケジュール調整等,球
団が管理窓口となっている。
試合中及び練習中の選手プレー写真については,その性質上,特に写
真撮影に際して個別の指示は行っておらず,試合中及び練習中のプレー
の様子をスタンド又はグラウンドから随時,阪神コンテンツリンクのカ
メラマンやベースボールマガジン社のカメラマンが撮影している。
一部のゲームソフトに使用されている動画については,朝日放送株式
会社が録画した試合のテレビ中継用又はニュース用の動画を使用してい
る。これら動画についても,試合中・練習中に撮影されるというその性
質上,いちいち,いつどの時点で撮影された画像がゲームソフトに使用
されるということを伝えているわけではないが,ゲームソフトに使用さ
れる動画については,球団が審査を行っている。
(エ)選手氏名・肖像についての球団の管理
平成18年〔2006年〕12月10日に,球団とは全く関係のない
第三者が,球団所属選手の肖像を使用したシルエットワッペン(球団名
・球団ロゴは不使用)を無断で販売していることについて,球団一軍主
力選手から,球団に連絡があった。
同選手からの報告を受けたことを機に球団は調査を開始し,球団所属
選手肖像の無断使用について,第三者に対して直接クレームをつけ,商
品販売を止めさせた。このような,球団の人気に便乗した第三者による
選手の氏名・肖像無断使用は頻繁に行われており,球団ではそのような
無断使用を見つける度に,随時警告を行い,販売を止めさせている。球
団所属選手も,このような場合には球団が当然に警告を行うものとし,
上記のように,球団に対して選手の氏名・肖像の無断使用商品を連絡す
る取扱いとなっている。
同じく平成18年〔2006年〕に,球団主力選手のマネジメント会
社が,選手の背番号とニックネームのみを使用したグッズ(シャツ・ト
レーナー・帽子・タオル等。ユニフォーム姿や球団商標は不使用)を球
団に無断で販売していた。これに対して球団は,当該マネジメント会社
に対して,肖像権料(商標使用料は除く。)の支払と,球団に無断での
商品化を中止するように申し入れ,同社もそれを受け入れることとなっ
た。
さらに,球団所属選手が管理・運営するホームページについて,球団
では,個人ホームページを有する選手に対して,ユニフォームを着用し
た自己の肖像の使用,特定の商品についての広告宣伝,後援会費の徴
収,物品販売等については球団の了解が必要である旨を事前に選手に説
明しており,選手からも了解しているとする。そして,ホームページに
おいて,選手が特定商品の広告を行うような場合,球団は選手から事前
に連絡を受けて承諾を行っており,選手が球団に無断で,第三者に対し
氏名・肖像を利用した広告を許諾することは現在ではないとしている
(以上乙80)。
(オ)選手個人との関係
昭和54年から平成7年まで被控訴人タイガースに所属したR選手
は,昭和59年から自動車用品専門店のテレビコマーシャルに出演する
などしていたところ,昭和63年からは肖像権管理に関する分配金につ
き,個人的な企画会社と球団との間の契約を締結するに至った(乙9
4)。具体的には,被控訴人タイガースを甲,R選手を乙,R選手の企
画会社であるオフィスRを丙とし,「乙の写真出演等に関する肖像権,
著作権等についてつぎのとおり契約を締結する。」として,以下のとお
りの内容となっていた(乙98)。
「第1条甲,乙及び丙は,甲が,セントラル野球連盟通用野球選手
契約に規定のとおり,乙の写真出演等に関する肖像権,著作権等
のすべてを保有することを確認する。
第2条甲と乙は,乙の肖像権,著作権等に関して,丙が企画・紹
介業務を行うことを承諾する。
但し,丙は第三者との契約にあたっては甲の事前の承諾を得た
上で,乙の了解を得ることとし,また乙は,丙の企画紹介するテ
レビ・ラジオ出演,サイン会等へ出席するについては,甲の主催
行事等への参加・出席を最優先とし,甲の催事に支障をきたさな
いものとする。
尚,丙は,甲及び乙の名誉と信用を傷つける事のないようまた
社会的・教育的に悪影響を及ぼすようなことのないように細心の
注意を払うものとする。
第3条甲は乙の肖像権・著作権等に関する契約を第三者と締結す
るにあたっては,甲の内規に基づく分配金を丙に支払うものとす
る。
また,丙は,乙の肖像権・著作権等に関する業務を遂行した場
合,契約金の20%を肖像権・著作権の使用料として甲に支払う
こととする。また,テレビコマーシャル契約,アドバイザー契約
等の特別企画については,甲及び丙が協議の上決定するものとす
る。」
(カ)選手の認識
被控訴人タイガースにかつて所属したS元選手,T元選手,U元選手
らは,球団が選手の氏名,肖像等を管理していることを球団から説明を
受け,それが統一選手契約書に基づくものであることを認識していた
(乙95~97)。
昭和54年から平成7年まで被控訴人タイガースに所属したR元選手
も,上記と同内容を述べるほか,昭和63年以降,球団と相談し,肖像
権使用の分配金について,個人的な企画会社に対し払うようにしてもら
っていた(甲94)。
(キ)選手の認識
なお,現役選手である控訴人赤星憲広は,入団した平成13年〔20
01年〕以降に研修会や球団の顧問弁護士による肖像権の説明を受けた
ことはなく,肖像権に関する説明をした冊子をもらったこともないとの
認識であり,同じく控訴人今岡誠,V元選手もほぼ同様である(甲8
2,83,110,118)。
カ被控訴人カープ
(ア)分配金の支払
被控訴人カープでは,平成7年から選手との間で話合いを行い,選手
の肖像使用に対する対価支払いを行ってきた。その支払方法は,平成1
2年までは現金で行っており,四半期ごとの入金月,地元での試合前又
は練習日に支払をした。その際には,ゲームソフト等の肖像使用対価で
あることを選手に説明し,明細書に選手の署名を求めた。例えば平成1
2年12月22日のO選手への「出演料明細書兼受取書」には,「O
殿」とし,「受入先」として「㈱バップ」,「内訳」として「ファミコ
ンソフト」と記載され,支払額,源泉税,差引支払額の記載があり,サ
インとしてO選手の署名がある(乙81,添付資料1)。
現在は銀行振り込みで分配金を支払い,明細書を選手に渡しており,
その明細書には,ゲームソフトについてどれだけの額の分配金が振り込
まれるか等が記載されている(乙81)。
(イ)写真・動画撮影における指示
株式会社スポーツレイティングスの「ドリームベースボール」に使用
されている選手の着帽正面写真は,球団からメーカーに対して提供され
ている。
株式会社セガから発売されている「プロ野球チームを作ろう3」に使
用されている写真や,上記「ドリームベースボール」に使用されている
選手のプレー写真には,日刊スポーツ出版社のカメラマンが球団の許可
を得て撮影した写真が提供されている。
株式会社コナミデジタルエンタテイメントから発売される予定の,
「プロ野球スピリッツ4」やベースボールマガジン社のベースボール
カード(本件野球カード2)に使用される写真については,ベースボー
ルマガジン社カメラマンが球団の許可を得て撮影した写真を使用してい
る。
また,いくつかのゲームソフトにおいて使用されている試合中の動画
については,中国放送やテレビ新広島が球団の許可を得て試合中継・報
道用に撮影したものが提供されている
(ウ)写真撮影時における球団の指示
選手の個人正面写真については,春季キャンプ初旬に「球団の宣伝用
と選手名鑑用に使用する」旨の説明を球団担当者から所属選手に対して
説明した上で,球団依頼業者によって撮影を行っている。撮影された個
人正面写真はテレビ局や新聞社等に配布され,野球ゲームやカードに使
用される着帽正面写真は原則として全て球団から提供されている。
選手のプレー中写真は,全て日刊スポーツ出版社やベースボールマガ
ジン社等,球団以外の会社が撮影したものを球団がチェックした上で調
達・提供している。キャンプ中や公式試合中のプレー写真は,改めてい
つ写真を撮影するかということについて個別に指示はしていない。ゲー
ム・カード等への使用については,商品サンプルが出来上がった時点で
各選手に説明の上,配布されている。
プレー写真が掲載されたカードについて,過去には「選手の顔が良く
見えない」「ポーズが良くない」等の球団の判断で,写真を差し替えた
例もある。
一部ゲームソフトに使用されている動画については,中国放送・テレ
ビ新広島が試合中継のために撮影したものの中から,球団がチェックを
行った上でゲーム会社に提供している。球団から,特に選手に対して個
別にどの試合で撮影した画像が提供されるかといった事実については伝
えていない。
(エ)球団における選手の氏名・肖像の管理と肖像権使用料の支払
シーズン中・シーズンオフにおける選手のイベントへの出演,又は企
業アドバイザー・コマーシャル出演等に関し,直接球団所属選手に対し
て依頼がなされた場合には,必ず選手が依頼者に対して球団を通すよう
伝えた上,球団と依頼者との間で交渉が行われている。支払に関して
も,一旦球団で受け,選手へ振り込んでいる(以上,乙81)。
そして被控訴人カープにおいては,業者から商品化申請があり許可し
ているものについての選手分ロイヤリティは,金銭で選手に支払ってい
るところ,球団が独自に企画・制作・販売している商品については一定
割合で商品を現物支給していた。その理由は,球団が独自に製作する選
手グッズは,商品製作ロットの問題や,ユニホーム変更・選手成績に左
右される等で不良在庫を抱えてしまうリスクが高く,商品の一部を現物
支給という形で選手に利用してもらうことにより,リスクを避け商品化
を容易にするという面があった。しかし,その後の状況の変化により,
平成17年〔2005年〕度の販売商品について,金銭でロイヤリティ
を支払うことが決められ,平成17年1月から11月分を同年12月末
に全選手に対し支払をした(乙81,121,131)。
なお,控訴人新井貴浩は,入団以来,契約更改の際に,球団から本件
契約条項についての説明はなかったとしている(甲84,111)
また,かつて被控訴人カープに昭和53年〔1978年〕から平成4
年〔1992年〕まで所属したX元選手は,①昭和58年〔1983
年〕にカルビー株式会社の選手カードに肖像等が使用されたが,その際
に球団側から契約内容の説明を受け,契約金を受領したこと,②被控訴
人カープにおいては,選手が契約金等を受領する際には,会社名,内容
及び契約料が記載された明細書が契約料と一緒に選手に渡されていたこ
と,③写真等については,球団からポスター用の等撮影について指示さ
れ参加したほか,プレー中等の写真についてもポスター,カード等に使
用されることも知っていたが,球団に任せていたとの認識である(乙8
9)。
キ被控訴人ファイターズ
(ア)被控訴人ファイターズにおいては,昭和49年〔1974年〕の球
団創立以来,例年,選手との間で契約更改が成立した場合に統一契約書
のコピー(選手がサイン済みのもののコピー)を球団から選手に対して
手渡している(乙82)。控訴人金子誠も,平成5年〔1993年〕の
ドラフト会議で指名されて入団し,平成6年〔1994年〕のシーズン
から被控訴人ファイターズ所属選手となり,平成18年〔2006年〕
からは球団選手会の会長を務めているところ,被控訴人ファイターズに
おいては,金子選手の入団時から現在に至るまで,署名した契約書の写
しをその場で渡される運用となっていることを認めている(甲85)。
その上で,同控訴人は,契約交渉の場では年俸(参稼報酬額)以外は話
題にならず,球団が統一契約書の内容を説明したこともないとする(甲
85)。
(イ)肖像権使用料の分配
肖像権使用料を選手に分配する際には,平成8年〔1996年〕頃か
ら明細書を選手に対して渡している。その明細書のなかには平成12年
〔2000年〕11月のものとして,「2000年度野球ゲーム肖像
権」として支払金額が記載され,受領者名として「P」の署名押印のあ
るものがある(乙46)。
(ウ)選手のコマーシャル出演
選手がテレビコマーシャル等に出演する際には,球団から契約書のコ
ピーを選手に渡している。平成16年1月1日付けで締結された「広告
出演契約書」には「…と株式会社北海道日本ハムファイターズ(以下
「日本ハム」という)と…は,日本ハムに所属する野球選手…が…の広
告に出演することについて次のとおり取り決める。」とし,以下の条項
が記載されている。
「第4条(広告の使用承諾・用途)
日本ハムは,本契約期間中,…の出演した広告および…の肖像
(日本ハムが了解した似顔絵を含む),音声,氏名(サインを含
む),略歴等を,…が媒体の種類・数・使用頻度を制約されずに次
の各用途に使用することを承諾する。…
第8条(対価)
1.…
2.…は本契約の契約料より自らの手数料を差し引いた…万円
を…,平成16年4月末日までに日本ハムの指定する銀行口座
に現金にて振り込み支払う。
第12条(契約の保証)
日本ハムは,日本ハムおよび…間の所属契約に基づき,本契約の
締結および履行に必要な権限を有していることを保証する。」
球団は,上記第12条により,統一契約書に基づき選手の肖像に対し
て球団が権限を有することを確認し,これに基づき選手も契約対価の分
配を受け取っているとしている(乙82)。なお,平成12年より以前
に,春季キャンプ期間中に氏名・肖像等の使用許諾分配金について,球
団担当役員と選手会役員との協議において話し合い,分配割合を決定し
たこともある。
(エ)動画・写真撮影の調達元
球団所属選手の写真・動画等が野球カードやゲームソフトに使用され
る場合,球団からメーカー等に対して写真・動画を提供していることが
多い。ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)につ
いては,選手のプレー中写真をベースボールマガジン社が球団の許可を
得て撮影したものの中から使用している。
(オ)写真・動画撮影の際における球団の指示
着帽正面写真の撮影については,例年,春季キャンプの開始前(1月
末頃,ファーム施設内において)あるいは,開始時(2月初旬,キャン
プ施設内)に,球団公式カメラマン及び報道カメラマンによって行われ
る。これは,選手名鑑作成及び報道用(メディアへの配布)を目的とし
て撮影が行われるものであり,球団スタッフを通して選手にもその旨が
伝えられている。
練習中・試合中の選手プレー写真については,球団公式カメラマンや
ベースボールマガジン社カメラマンが撮影したものの中から,各企業側
で選択したものをゲームソフトや野球カード等に使用している。これら
の写真については,プレー中写真という写真の性質上,いちいち選手に
対して,どの試合・練習で撮影する写真を商品にするかといったことを
予め細かく伝えてはいない。
一部のゲームソフトで使用されている動画については,球団において
記録用等に撮影したものの中からゲームにふさわしいものを提供してい
る。動画については,一々いつどの日に撮影する画像をゲームソフトに
するかといった事項を事前に選手に対して伝えてはいない。
(カ)球団による肖像権の取扱いに対する選手に対する説明
球団側では,1年目の選手に対して,個々に入団時に球団における肖
像権の取扱いを説明している。また,2年目以降の選手に対しても,契
約書コピーを毎年手渡している(乙82,122)。
控訴人金子誠は,上記のとおり,契約更改の場等で球団から選手の肖
像権管理が統一契約書に基づくものだとの説明はなかったとするが,球
団グッズ等選手の肖像を使用した商品が販売されていることは知ってお
り,その金銭の支払も受けていた,球団単位の選手の肖像を使用した商
品に関しては球団による管理に任せ,その管理体制もしっかりしてきて
おり問題がある状況ではないとしている(甲85,117)。
一方,控訴人ファイターズに昭和61年〔1986年〕に入団し,平
成10年〔1998年〕まで所属したZ元選手は,選手の氏名・肖像等
を使用した商品が発売され,その分配金を受け取っていたところ,統一
契約書の何条とまでは言えないもののその規定によるものだということ
は認識しており,また商品に使われていた写真等が試合中に撮影されて
いたものが使われていることも当然認識していたとする(乙91)。
ク被控訴人ライオンズ
(ア)被控訴人ライオンズでは,統一選手契約書を含む野球協約を必ず球
団所属選手に配布し,選手に対してその内容を理解するように伝えてい
る。そして,平成12年〔2000年〕以前から,球団所属選手に対し
て確定申告必要書類として「肖像権使用料明細書」を渡している。例え
ば「肖像使用料明細書(99.1.1~99.12.31)」では選手
名が記載され,「適要」として「ファミコンソフト許諾使用料(99.
1.1~99.12.31)」と記載されて振込額・振込日が記載され
ている(乙47,83)。また平成14年〔2002年〕の契約更改時
から統一契約書のサイン入り原本コピーを選手に渡しており,同時期か
ら新入団選手に対しても新入団発表時に統一契約書のサイン入り原本の
コピーを渡している。さらに,平成19年〔2007年〕の契約更改時
からは,球団代表から選手に対して直接口頭で,統一選手契約書16条
の内容を説明している。
(イ)写真・動画撮影の調達元
野球ゲームソフトに使用されている,着帽写真やプレー写真の多く
は,球団のグループ会社から委託を受けたカメラマンが撮影し管理して
いるものを,球団による内容確認を経て提供している。
ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)や一部の
ゲームソフトについては,ベースボールマガジン社所属カメラマンが球
団の許可のもと撮影した写真を提供している。
ゲームソフトで使用されている動画については,株式会社J・スポー
ツブロードキャスティングが球団の許可を得て撮影したものを提供して
いる。
(ウ)球団による指示
着帽正面写真については,毎年1月末(キャンプ出発直前)に西武
ドームにおいて,チーム全体写真と選手名鑑用の個人写真を,委託カメ
ラマンと各マスコミが撮影している。選手に対しては事前に選手名鑑等
に使用する写真を撮る旨を口頭で伝えている。
また,練習中・試合中のプレー写真がゲームソフトやカードに使用さ
れていること自体は選手も認識しているものの,具体的にどの試合のど
の写真がゲームやカードに使用されるかについては,特に事前に伝えら
れてはいない。球団では,選手の氏名・肖像を使用したカード等につい
て,販売と同時期ころにサンプルを渡して選手の意見を聞いているが,
特に選手から苦情が出たことはない。
動画については,素材を提供している株式会社J・スポーツブロード
キャスティングが野球放送用に撮影したものからメーカーが案を作成
し,球団によるチェックを経た上でゲームソフトメーカーに対して球団
が許諾している。
なお,D)選手は,平成13年〔2001年〕から被控訴人ライオン
ズに所属しているところ,入団以来平成18年〔2006年〕の契約更
改に至るまで,球団からは統一契約書16条に関する説明は一切なかっ
たとする(甲86,112)。
ケ被控訴人マリーンズ
(ア)被控訴人マリーンズでは,以下の資料に基づき,平成12年〔20
00年〕以前から選手に説明している(乙84)。
①「肖像権,著作権の取り扱い内規」
これは,平成7年以前に球団の内規として,選手の肖像権・著作権
の取扱いについて,統一契約書16条に則り作成したものであるが,
この内規では,「1.肖像権,著作権の帰属について」「契約者の肖
像権及び著作権は全て当球団に帰属する。」として選手の肖像権が当
球団に所属することを確認した上,「3.対価の配分について」「出
演等した契約者への対価については,球団が取得した対価の90%か
ら源泉徴収税を差し引いた額を分配金として該当の契約者に支払うこ
ととする。」として,対価配分に対する球団の考え方を示している。
この内規は,球団の肖像権事務担当者から,選手に対し口頭で内容が
伝えられており,現在も取扱い基準となっている。
②「球団・選手の肖像権使用料に対する分配比率の件」
これは,上記内規に基づいて,平成7年2月6日に球団内部で決裁
されたものであり,選手氏名・肖像使用商品ごとに球団・選手間の配
分比率を定めたものである。これによれば,「1グッズのロイヤリ
ティ(6%)」については球団3%,選手3%とすること,「2用
具メーカーとのアドバイザリー契約」については球団10%,選手9
0%(4月1日より球団20%,選手80%),「3野球カード類
・他」については球団20%,選手80%,「4カレンダー・ファ
ンブックの販売収入」「5映像の二次使用料(好プレー・珍プレー
等)」「6選手名鑑の承諾料(プロ野球手帳等)」「7ゲームソ
フトの許諾料」については球団100%,選手0となっている。
そしてそこに「’946月8日12球団肖像権会議を踏まえて設
定致しました。1,2は従来通り,3以下が今回明文化したもので
す。」との記載がある。被控訴人マリーンズでは,当時からこの基準
に従って,選手の氏名・肖像の使用料分配を行っていた。
③「平成7年度球団・選手肖像権使用料配分表」(平成7年12月2
6日付け)
これには,株式会社タカラのプロ野球ゲームカード(30人)とし
て,カルビー株式会社のカード入りスナック(10人),東京スナッ
クのカード入りポップコーン(5人)について,それぞれ球団分・選
手分の金額が記載されている。
(イ)動画・写真の調達元について
素材は球団が委託したカメラマン撮影にかかるものが使用されてい
る。写真・ポジフィルムは球団事務所にあり,現在は事業部にて管理し
ているものを,球団がゲームソフト・カード制作会社に提供している。
ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)について
は,ベースボールマガジン社所有の写真を使用している。ベースボール
マガジン社による試合等撮影については球団も許可済みである。
「プロ野球熱スタ2006」等の一部ゲームソフトに使用されている
動画は,株式会社千葉マリンスタジアムビジョンが球団の許可のもと中
継用に制作した映像の中から抜粋して提供している。
(ウ)写真撮影時の球団の指示
キャンプイン初日に,球団に所属する監督・コーチ・選手全員に対し
て着帽証明用写真の撮影を行っている。その際,球団広報から選手に対
し,選手名鑑等に写真を使用する旨を伝えている。
試合・練習中のプレー写真は,カード化・ゲーム化だけを目的として
撮影されているわけではないため,試合・練習中の写真については,特
別に改めて指示を行うことはない。球団から,スポーツレイティングス
の「ドリームベースボール」に提供した写真は,球団のオフィシャルカ
メラマンが試合全体を撮影したものの中から,メーカーが選択したもの
であり,実際にどの写真が提供されているかについては,球団において
把握し管理している。また,他のメーカーに提供している写真も,同様
に球団としてどの写真を使用しているか把握,管理している。
動画は,株式会社千葉マリンスタジアムビジョンが試合中継用に撮影
した動画の中からメーカーが希望する映像を貸し出し,提供している。
貸し出す映像はマスターテープからダビングしたもので,球団が映像マ
スターを管理すると共に,どの映像を貸し出したかを把握して管理して
いる。
なお,G)選手は,平成12年〔2000年〕から被控訴人マリーン
ズに所属しているところ,球団から選手の肖像を統一契約書16条に基
づいて管理している旨の説明を受けたことはなく,また球団の内規につ
いても詳しい説明を受けたことはないとしている(甲87,116)。
コ被控訴人オリックス
(ア)平成7年1月1日に被控訴人オリックス(甲),I)選手(丙)及
び株式会社アシックス(乙)の3者が署名捺印等して締結されたI)選
手によるシューズ類アドバイザリー契約においては,以下の記載がある
(乙85)。
「第1条甲は乙に対し,甲丙間に締結されたパシフィック野球連盟
野球選手契約(以下野球選手契約という)により,甲の支配下選手
である丙を,乙の製造販売するベースボールスパイク等シューズ類
の宣伝および商品開発のためのアドバイザーとして委嘱することを
承諾する。

第4条前2条により甲が乙から受領した金額については,野球選
手契約第16条により,甲丙間において別途その分配につき協議決
定する。

第8条乙は本契約の履行に当たって,甲が丙を球団及び球界を代
表する選手に育成しようとしている方針を認識・尊重し,甲丙のイ
メージを損なうような行為は絶対に行わないものとする。」
そして,I)選手に関し,平成6年〔1994年〕に同選手から球
団における選手の氏名・肖像使用料分配についての説明を求められた
際に作成された資料には以下の記載がある。
「Ⅰ.オリックス・ブルーウエーブにおける肖像権分配方法」には①
アドバイザリー契約,②CM出演契約,③グッズ上代の3%につい
て,各々選手配分80%・球団配分20%と,④野球カードについ
て,選手75%・球団25%との記載がある。また「Ⅱ.オフィス・
トゥー・ワンとの契約による肖像権分配方法」には,CM契約料とし
て「I)選手」として70%,「オリックス,オフィス・トゥー・ワ
ン」として30%,放送出演料として,それぞれ80%,20%と記
載されている。また「※放送出演料については,オリックス球団では
いただいておりません。」との記載がある。さらに「Ⅲ.肖像権分配
の根拠」として,「統一契約書様式」「第16条」として本件契約条
項が記載されている。
(イ)肖像権使用許諾明細・分配金割合表
被控訴人オリックスにおいては,遅くとも平成4年〔1992年〕か
ら選手に対して「肖像権使用許諾明細」を交付しているが,Q]選手に
交付された「1996年度肖像権使用許諾明細」には,「1996年
1月1日より1996年10月31日までに使用された肖像権使用料を
…お振り込み致します。」と記載され,「契約先(メーカー名)」「内
容」として,それぞれ,「㈱ベースボールマガジン社」「’96BBM
野球カード」「㈱バップ」「コンピューターゲーム’96/1~’96
/3」などと記載され,配分額・支払額等も記載されている(乙4
9)。また,分配金割合について「分配マニュアル」として,希望する
球団所属選手に対して配布しており,R]・S]ほか数名の選手に対して
これを配布したことがある。
(ウ)写真・動画撮影の際における球団の指示
球団所属選手の写真がゲームソフト等において使用される場合は,基
本的に全て球団所属カメラマンが撮影した写真を,ゲームソフトメー
カーに提供している。動画については,球団において自社でCS放送用
の野球中継番組を制作しており,そのために録画された試合の動画を
メーカーに提供している。
ベースボールマガジン社の野球カード(本件野球カード2)について
は,ベースボールマガジン社カメラマンが「週刊ベースボール」編集用
に球団の許可を得て撮影した写真を使用している。
ゲームソフトについては,一部ベースボールマガジン社が提供したも
のを利用する場合がある。
また選手の正面写真について,球団では例年キャンプイン前の1月末
に撮影を行う。写真の撮影方法については,平成19年〔2007年〕
の場合,各選手に対して写真撮影の案内を球団マネージャーから文書で
通知し,選手着帽及び脱帽時の2種類を,球団が手配したカメラマンに
より撮影した。
練習・試合中のプレー写真は,球団の発注するカメラマンが,プレー
中に球団広報誌,日程告知ポスター等に使用するため撮影したものの中
から提供している。ベースボールマガジン社カメラマンによるプレー中
写真の撮影は,同社カメラマンが球団の許可を得た上で行われている。
動画については,球団において球団主催試合を放映用・記録用目的で
全て撮影し保存したものの中から,ゲームソフトメーカーに対して貸し
出しを行なっている。
(エ)球団による統一契約書等に関する説明
被控訴人オリックスにおいては,選手契約に関する契約交渉におい
て,毎年統一契約書の写しを所属選手に交付しているとする(乙12
6)。
これに対し控訴人川越英隆は,平成11年〔1999年〕のシーズン
に被控訴人オリックスに入団し,平成16年〔2004年〕から平成1
8年〔2006年〕までは球団の選手会の会長を務めていたところ,契
約交渉等の席で球団から統一契約書について説明を受けたこともなく,
また球団から統一契約書の写しを交付されるようになったのは,平成1
3年〔2001年〕のシーズンの契約からであり,それ以前は写しをも
らっていなかったとする(甲89,113)。また,入団当初から球団
グッズ等に肖像等を使用され,それによる金銭の支払も受けていたが,
それが統一契約書によるものだという認識はなく,球団単位の選手の肖
像等に関する管理についてはこれまで同様球団による管理に任せたまま
であるとする(甲89)。
昭和59年〔1984年〕から平成6年〔1994年〕まで近鉄バッ
ファローズに,平成7年〔1995年〕から平成9年〔1997年〕ま
では被控訴人ヤクルトに,平成10年〔1998年〕から平成14年
〔2002年〕まで米国メジャーリーグで選手契約を締結し,その後平
成15年〔2003年〕から被控訴人オリックスと選手契約を締結して
いるH)は,日本の球団に所属していた時には球団グッズ等に肖像等を
使用したものが販売され,その金銭の分配も受けていたが,これが統一
契約書に定められていたものだとは思っておらず,契約交渉等の席でそ
のような説明がされたこともなかった,米国においてはメジャーリーグ
選手会が3人以上の選手の包括使用については管理しており,選手の権
利についても配慮されたライセンスが可能となっているとする(甲9
0)。
(11)プロ野球と同じプロスポーツであるプロサッカーについてのリーグ規約
であるJリーグ規約は,本件野球協約が締結された後約50年を経過した1
990年代前半に制定されたが,選手の肖像等の使用に関し,下記のとおり
定めている(甲9)。
「Jリーグ規約
第1章総則
第1条〔Jリーグの目的〕
社団法人日本プロサッカーリーグ(以下「Jリーグ」という)は,
日本のサッカーの水準の向上およびサッカーの普及を図ることによ
り,豊かなスポーツ文化の振興および国民の心身の健全な発達に寄与
するとともに,国際社会における交流および親善に貢献することを目
的とする.
第2条〔本規約の趣旨〕
本規約は,「社団法人日本プロサッカーリーグ定款」(以下「定
款」という)に基づき,Jリーグの組織および運営に関する基本原則
を定めることにより,Jリーグの安定的発展を図ることを目的とす
る.
第3条〔遵守義務〕
①Jリーグの会員およびその役職員ならびにJリーグに所属する選
手,監督,コーチ,審判その他の関係者は,Jリーグの構成員とし
て,本規約および財団法人日本サッカー協会(以下「協会」とい
う)の寄附行為ならびにこれらに付随する諸規程を遵守する義務を
負う.
②Jリーグの会員およびその役職員ならびにJリーグに所属する選
手,監督,コーチ,審判その他の関係者は,第1条のJリーグの目
的達成を妨げる行為および公序良俗に反する行為等を行ってはなら
ない.

第88条〔履行義務〕
選手は,次の各事項を履行する義務を負う.
(1)Jクラブの指定するすべての試合への出場
(2)Jクラブの指定するトレーニング,合宿および研修への参加
(3)Jクラブの指定するミーティング,試合の準備に必要な行事へ
の参加
(4)Jクラブより支給されたユニフォーム一式およびトレーニング
ウェアの使用
(5)Jクラブの指定する医学的検診,予防処置および治療処置への
参加
(6)Jクラブの指定する広報活動,ファンサービス活動および社会
貢献活動への参加
(7)協会から,各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のト
レーニング,合宿および試合への参加
(8)協会,Jリーグ等が指定するドーピングテストの受検
(9)合宿,遠征等に際してのJクラブの指定する交通機関および宿
泊施設の利用
(10)居住場所に関する事前のJクラブの同意の取得
(11)副業に関する事前のJクラブの同意の取得
(12)その他Jクラブが必要と認めた事項

第97条〔選手の肖像等の使用〕
①選手は,第88条の義務履行に関する選手の肖像,映像,氏名等
(以下「選手の肖像等」という)が報道,放送されることおよび当
該報道,放送に関する選手の肖像等につき何ら権利を有するもので
ない.
②選手は,Jクラブから指名を受けた場合,Jクラブ,協会および
Jリーグの広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下広告宣伝
等)に原則として無償で協力しなければならない.
③選手は,次の各号について事前にJクラブの書面による承諾を得
なければならない.
(1)テレビ・ラジオ番組への出演
(2)イベントへの出演
(3)新聞・雑誌取材への応諾
(4)第三者の広告宣伝等への関与
④前項の出演または関与に際しての対価の分配は,Jクラブと選手
が協議して定める.

第136条〔肖像等〕
①Jリーグは,Jクラブ所属の選手,監督,コーチ等(以下「選手
等」という)の肖像,氏名,略歴等(以下「肖像等」という)を包
括的に用いる場合に限り,これを無償で使用することができるもの
とする.ただし,特定の選手等の肖像等のみを使用する場合には,
その都度,事前にJクラブと協議し,その承認を得るものとする.
②Jリーグは,前項の権利を第三者に許諾することができる.
〈以下略〉」
(12)また日本オリンピック委員会(JOC)は,昭和54年(1979年)
ころから選手や指導者の動画や写真といった肖像権を専属的に一括管理して
スポンサーを募るマーケティング活動をしてきたが,選手の権利意識が高ま
り法律的に無理がある等の判断から,アテネ五輪が開かれる平成16年〔2
004年〕を最後にこれを断念し,以後は選手が自らの責任と権限において
管理することとなった(甲26)。
(13)韓国プロ野球においても,日本と同旨の選手契約が締結されており,そ
の要部は次のとおりである(甲119訳文)。
「野球選手契約書
△△△は,プロフェッショナル球団として他の球団とともに韓国野球
規約とこれに基づく他の諸規定に合意署名した。
これら野球規約と規定の目的は球団と選手,球団と球団間の関係を明
確にすることで韓国野球の無限の発展を企図し,更に全国民の健全な余
暇善用と国民総和に貢献することを契約者双方が固く誓うことにある。
第1条〔契約当事者〕
△△△(以下”球団”とする)と△△△(以下”選手”とする)を本
契約の当事者として以下の各条項を含む△△△年度野球選手契約を締
結する。
第2条〔目的〕
選手がプロ野球選手として特殊技能による活動を,球団のために行う
ことを本契約の目的とし,これに球団は契約を申請して選手はこの申
請を承諾する。
第3条〔参稼報酬〕
球団は選手に対し,選手の2月1日から11月30日までの参稼に対
する報酬として金△△△△ウォンを次の方法で支払う。
契約が2月1日以後に締結された場合,2月1日から契約締結の前
日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1を減額する。入団
ボーナスは2回に分割し,1回は契約と同時に支払い,残りは参稼の
シーズン終了後に支給する。ただし,自由契約,任意脱退,永久失格
選手は支給しない。
入団ボーナス金△△△△ウォン也(2回分割支払)
参稼報酬金△△△△ウォン也(10回分割支払)
支払日…日
第4条〔野球活動〕
選手は年度の球団のトレーニング,非公式試合,年度選手権大会
ならびに球団が指定する試合に参稼し,球団がポストシーズン試合に
進出したときはポストシーズン試合に参稼し,また選手がオールス
ター戦に選抜されたときはそれに参稼することを承諾する。
第5条〔非公式試合の報酬〕
選手が年度選手権大会終了の日から本契約満了の日までの期間に球団
の非公式試合に参稼するとき,球団はその試合による純利益金の40
%を超過しない報酬を参稼人員に割り当て,選手はこの分配金を受け
取る。
〈中略〉
第15条〔振興事業〕
選手は野球本来の参稼のほか,球団および韓国野球委員会が行う振興
活動に協力することを承諾する。
第16条〔写真と出演〕
球団が指示する場合,選手は写真,映画,TVに撮影されることを承
諾する。またこのような写真出演などに関する肖像権,著作権等など
のすべてが球団に属し,球団が宣伝目的などいかなる方法で利用して
も異議を申し立てないことを承認する。なおこれによって球団が金銭
上の利益を受ける場合,選手は適切な分配金を受けることができる。
また選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,TVプロ
グラムに参加し,写真撮影を許容し,新聞,雑誌の記事を書き,これ
を後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。
〈以下略〉」
選手の肖像の使用に関しても,上記のとおり,日本プロ野球の統一契約書
16条と同旨の定めがあるが,この同旨の定めの解釈に関し韓国のソウル中
央地方裁判所は,平成18年〔2006年〕4月19日,韓国プロ野球選手
のパブリシティ権が球団に属することを選手が承諾したと認めることはでき
ない旨の判示をした(甲36)。
(14)欧州サッカー連盟(UEFA)と国際プロサッカー選手協会(FIFP
ro)ヨーロッパ支部間の覚書」2.7には,「選手契約につき,UEFA
とFIFProヨーロッパ支部は,特に団体協約を持たない協会において,
『ヨーロッパ・プロサッカー選手契約の最低必要条件』(別紙1)に基づ
く,契約最低条件の実現に合意する。」とする。別紙1「ヨーロッパ・プロ
サッカー選手契約の最低必要条件」の要部は次のとおりである(甲115訳
文)。
「別紙1
ヨーロッパ・プロサッカー選手契約の最低必要条件
前文
UEFA,リーグ,及びFIFProの研究グループは,クラブと選手
などの両者が協議し確定する必要のあるプロサッカー選手契約内容につ
き,以下の最低必要条件を詳細に作成した。
両者は,各契約の確定につき,以下につき考慮しなければならない:
(a)国内法及び,特に強行法規
(b)団体協約(適用がある場合)
(c)FIFA,UEFA,国内協会及びプロリーグ(適用がある場
合)等の組織の規則,規定,及び決定であるそれぞれのサッカー規
定(特に,選手の地位と移籍に関するFIFA規約を含む)
契約及び当事者

肖像権
クラブと選手は,選手の肖像権の利用方法につき,合意することを要す
る。これについて推奨される態様及び原則的な態様として,個々の選手
は,(クラブのスポンサーやパートナーと競合しない限り,)自己の肖
像権を自ら行使することができるものとする。ただし,クラブは,チー
ムの一員として利用する場合,選手の肖像権を利用できるものとする。
レンタル移籍
…」
3本件契約条項の解釈について
(1)本件訴訟の対象は,本件記録によれば,一審被告である各球団が一審原
告である各選手との間で,「プロ野球ゲームソフト及びプロ野球カードにつ
いて球団が選手の氏名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないこと」の確
認を求める訴訟であるところ,その消極的確認訴訟としての適否はともか
く,本件記録によれば,一審原告たる各選手が各球団に最初に入団しその後
毎年更新してきた各選手契約のうち平成17年12月から平成18年1月に
かけて更新された平成18年度の各選手契約16条(その内容は,各選手・
各球団・各年度とも同じであり,かつ統一契約書16条とも同じ)に基づく
契約上の義務として,球団が上記使用許諾権限を有しないことの確認を求め
るものと解される。
そして,本件のように契約書が作成された場合の具体的契約条項の解釈に
当たっては,最も重視されるべきはその契約文言であり,そのほか,そのよ
うな契約条項が作成されるに至った背景事情,契約締結後における契約当事
者の行動等を総合的に判断して,その文言の正確な意味を判断すべきもので
ある。
また,人は,生命・身体・名誉のほか,承諾なしに自らの氏名や肖像を撮
影されたり使用されたりしない人格的利益ないし人格権を固有に有すると解
されるが,氏名や肖像については,自己と第三者との契約により,自己の氏
名や肖像を広告宣伝に利用することを許諾することにより対価を得る権利
(いわゆるパブリシティ権。以下「肖像権」ということがある。)として処
分することも許されると解される。
(2)そこで,以上の見地に立って,本件契約条項の意味について判断する。
ア各選手・各球団・各年度に共通の本件契約条項は,昭和26年に制定さ
れた統一契約書第l6条と同じく,前記のとおり,
「第16条(写真と出演)球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレ
ビジョンに撮影されることを承諾する。なお,選手はこのような写真
出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団
が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し
立てないことを承認する。※(加入)(1項)
なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な分配金
を受けることができる。※(2項)
さらに選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,テレビジ
ョンのプログラムに参加し,写真の撮影を認め,新聞雑誌の記事を書
き,これを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。※
(3項)」
(ただし,(1項)(2項)(3項)は説明の便のため付したもの)
というものである。
イまた前記2(6),(7)認定のとおり,統一契約書が初めて作成された昭和
26年当時の本件契約条項に相当する規定は,米国メジャーリーグの大
リーグ契約条項を参考にして起草されたものであった。なお,当時,我が
国においては,「パブリシティ」(選手の氏名及び肖像が有する顧客吸引
力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利)という概念及びその
用語になじみがなく,大リーグ契約条項を参考に本件契約条項に相当する
規定を起草するに際し,英語の「」を「宣伝目的」とpublicitypurposes
翻訳したものである。
そして,前記2(5)認定のとおり,統一契約書が制定される以前から,
球団ないし日本野球連盟が他社に所属選手の氏名及び肖像を商品に使用す
ること(商業的使用ないし商品化型使用)を許諾することが行われてお
り,本件契約条項に相当する当初の規定も,かかる実務慣行のあることを
前提にして起草されたものである。したがって,統一契約書が制定された
昭和26年当時,選手の氏名及び肖像の利用の方法について,専ら宣伝の
ために用いる方法と,商品に付して顧客吸引に利用する方法とを明確に峻
別されていたとは考え難く,「宣伝目的」から選手の氏名及び肖像の商業
的使用ないし商品化型使用の目的を除外したとする事情を認めることはで
きない。
また前記2(8)認定のとおり,各球団においては,本件契約条項に基づ
いて,各球団が所属選手の氏名及び肖像の使用を第三者に許諾し得るとの
理解の下に,長期間にわたり,野球ゲームソフト及び野球カードを始めと
する種々の商品につき,所属選手の氏名及び肖像の使用許諾を行ってきた
ものである。このように,野球ゲームソフト及び野球カードについては,
長きにわたり選手において自らの氏名及び肖像が使用されることを明示又
は黙示に許容してきたのであり,同時に,これらの商品は消費者の定番商
品として長らく親しまれ,プロ野球の知名度の向上に役立ってきたもので
ある。
そして,前記2(10)(11)認定のとおり,各球団は,許諾先から受領した
使用料の全部又は一部を氏名及び肖像の使用がされた選手に対して分配し
てきたが,選手会ないし選手らのうちの一部の者が各球団による氏名及び
肖像の管理について異論を唱えるようになるまでは,選手側から明示的な
異議はなかったものである。
このような事情からして,本件契約条項1項に「球団が宣伝目的のため
にいかなる方法でそれらを利用しても」とあって利用の態様に限定が付さ
れていないことにもかんがみると,同項にいう「宣伝目的」は広く球団な
いしプロ野球の知名度の向上に資する目的をいい,「宣伝目的のためにい
かなる方法でそれらを利用しても」とは,球団が自己ないしプロ野球の知
名度の向上に資する目的でする利用行為を意味するものと解される。そし
て,選手の氏名及び肖像の商業的使用ないし商品化型使用は,球団ないし
プロ野球の知名度の向上に役立ち,顧客吸引と同時に広告宣伝としての効
果を発揮している側面があるから,選手の氏名及び肖像の商業的使用ない
し商品化型使用も,本件契約条項の解釈として「宣伝目的」に含まれると
いうべきである。
のみならず,本件契約条項が選手の肖像の利用に関する,球団と所属選
手との間に存する唯一の定めであり,前記認定の統一契約書制定前に販売
された玩具の例をみても明らかなように,選手の肖像を広告宣伝に利用す
る場合でも,販売する商品に商業化目的で利用する場合でも,肖像に当該
選手の氏名を付して利用する形態が多く存在することにかんがみると,本
件契約条項1項の「肖像権,著作権等」のうちには,氏名を利用する権利
も含まれると解すべきである。
ウ以上によれば,本件契約条項により,商業的使用及び商品化型使用の
場合を含め,選手が球団に対し,その氏名及び肖像の使用を,プロ野球
選手としての行動に関し(したがって,純然たる私人としての行動は含
まれない),独占的に許諾したものと解するのが相当である(なお,上
記のとおり純然たる私人としての行動についての権利は選手個人に留保
されているから,選手から球団に上記権利が譲渡されたとまで解するこ
とはできない)。
(3)控訴人らの主張に対する判断
ア控訴人らは,本件訴訟の対象とする平成17年12月から平成18年1
月にかけて更新された選手契約について,控訴人を含む選手らは,平成1
2年以降,様々な形で統一契約書に根拠を有するとする球団の肖像権管理
に異議を唱え,またその態度を明示しているにもかかわらず,こうした選
手の内心的効果意思を適切に認定,考慮せずに判断した原判決は誤りであ
ると主張する。
しかしながら,裁判所は,判決をするに当たり,口頭弁論の全趣旨及び
証拠調べの結果を斟酌して,自由な心証により,事実についての主張を真
実と認めるべきか否かを判断できる(民訴法247条,自由心証主義)の
みならず,前記のとおり,①平成11年当時までの選手会の認識は,ゲー
ムソフト等の商品に関するものも含め,肖像権に関しては,統一契約書に
根拠を置くことを前提とし,肖像権使用料の分配を球団と選手でどのよう
な比率で行うかにあったということができること,②その前提として,
ゲームソフトに関する氏名・肖像等の使用許諾の実務が,昭和63年の株
式会社バップが各球団から受けた使用許諾後も,もじり名(「もじる」と
は風刺や滑稽化などのためにもとの文句を言いかえること-広辞苑)を使
用するなどしていた状況について改善がみられなかったところ,専ら野球
機構ないしその委任を受けた株式会社バップ,株式会社ピービーエスらに
おいて,ゲームソフトメーカー等に指導ないし働きかけをする形で徐々に
使用許諾契約を締結し,ゲームソフトメーカー等から肖像権等使用料の収
入が得られるようになったこと,③選手ないし選手会において,これら
ゲームソフト等に関し,使用許諾契約の締結を求めるよう働きかけたこと
を認めるに足りる証拠はないこと(かえって,被控訴人巨人軍の元選手で
ある(Rは,「ミヤモモ」などともじった名前がゲームソフトで使用され
ているのは知っていたが,「一種のシャレ」であり球団が適切に対処して
くれると思い問題にしなかったとしている〔乙93〕),④選手らはその
後も分配金を受領してきており,損害賠償金の一部としてこれを受領する
と表明した後もこの点に何ら変わりはないこと,等の事情もあり,これら
によれば,選手らの上記異議についても,それまで選手(ないし選手会)
と球団(ないし野球機構)とが前提としてきた本件契約条項についての解
釈について,これを自己に有利な解釈としたいとの一方的な表明にすぎな
いということができ,これにより直ちに本件契約条項の解釈が控訴人らの
主張する内容で締結されたとするのには飛躍があるというほかない。
控訴人らの上記主張は採用することができない。
イまた控訴人らは,それぞれの球団との関係で,商品化目的での選手の肖
像・氏名の使用については,本件契約条項に含まれない旨を明らかにして
選手契約を締結している,また各球団から本件契約条項に基づき肖像権の
管理していることの説明を受けたこともなく,共通の認識を欠くとも主張
する。
このうち,控訴人らについて,本件契約条項に商品化目的での肖像等の
使用が含まれないとの意思を明示したとする点についても,前記認定のと
おりであって採用することができないほか,控訴人らが,球団から本件契
約条項により選手の肖像権等についての管理が本件契約条項によるとの説
明を受けていないとする点についても,前記認定のとおり,統一契約書様
式に基づく選手契約の内容は,野球選手としての活動の根本を定めたもの
であって,そこに規定された内容について,具体的な説明を受けていない
との理由だけで契約の効力ないしそれまで当事者間で前提とされてきた契
約解釈を否定するには飛躍があるというべきである。
控訴人らの上記主張は採用することができない。
ウまた控訴人らは,本件契約条項の文言によれば,商品化使用は含まれ
ず,氏名についても明示されていないから含まれないとするが,これにつ
いては既に前記(2)において判断したとおりである。
エ加えて控訴人らは,本件契約条項の「球団が指示する場合」については
具体的な指示を要するところ,野球カード,ゲームソフトについての肖像
等の使用についてはこれら具体的な指示を欠くから該当しないと主張す
る。
しかし,既に検討したとおり,本件契約条項には「球団が指示する場
合,選手は写真,映画,テレビジョンに撮影されることを承諾する。」と
されており,球団の指示は「写真,映画,テレビジョン撮影」に必要とさ
れるものである。そして,野球選手は野球の試合を行うことを活動の本旨
としており(統一契約書様式第4条参照),そのテレビジョン撮影がされ
るのは当然の前提となっているところ,そこで撮影された映像は当然に
「球団が指示する場合」に含まれるというべきである。また写真について
も,上記で認定のとおり,球団の指示により撮影されているものと認めら
れるから,控訴人らの上記主張は採用することができない。
オまた控訴人らは,米国の大リーグ契約条項においては「宣伝目的」につ
いて「商品化目的」は含まないとする解釈が確立していると当審において
も主張し,当審において米国大リーグの選手会の商務・ライセンス部門の
責任者(Z])の陳述書(甲94)を提出する。
しかし,大リーグ契約条項には「そのような写真に関するすべての権
利」と記載され,本件契約条項と条文の規定が異なっており,しかも本件
契約条項を定めるに当たって大リーグ契約条項を参考にしつつこれと異な
る規定となっているところからすれば,米国の状況が本件契約条項の解釈
にそのまま当てはまるということはできない。
控訴人らの上記主張は採用することができない。
また,Jリーグ規約についても,条文の規定,背景事情等が異なるもの
であり,本件契約条項の解釈にそのまま当てはめることもできない。
カまた控訴人らは,当審において韓国における「野球選手契約書契約書
(監督,コーチ)外国人選手契約書」を提出するところ,そこには前記
のとおり,「第16条〔写真と出演〕球団が指示する場合,選手は写真,
映画,TVに撮影されることを承諾する。またこのような写真出演などに
関する肖像権,著作権などのすべてが球団に属し,球団が宣伝目的などい
かなる方法で利用しても異議を申し立てないことを承認する。なおこれに
よって球団が金銭上の利益を受ける場合,選手は適切な分配金を受け取る
ことができる。また選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジ
オ,TVプログラムに参加し,写真撮影を許可し,新聞,雑誌の記事を書
き,これを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。」との
規定がある(甲119)。そして控訴人らは,これと原審提出の甲36の
韓国判決(ソウル中央地方裁判所平成18年〔2006年〕4月19日判
決)をあわせると,本件契約条項と全く同じ文言である韓国統一契約書1
6条について,「宣伝目的」との文言に商品化目的が含まれないことが明
らかであり,そうすると本件契約条項の解釈に関しても,これと同じく商
品化目的は入らないと解釈すべきとも主張する。
しかし,韓国における上記判決は韓国における当事者双方が提出した主
張立証に基づき個別具体的になされた判断であるのみならず,上記韓国で
の当該選手契約に関する制定前後の具体的状況や韓国における具体的運用
状況,選手らと球団との関係等は本件訴訟において主張立証がなされてい
ないから,上記韓国での判決が控訴人らの主張を直接に根拠付けることに
ならないというべきである。
控訴人らは,JOCにおける近時の取扱いや欧州プロサッカー選手契約
においても選手が自ら肖像権を行使できることとされていることなどを挙
げて,スポーツ選手において肖像権は選手個人のものであるという解釈は
世界的な傾向であり,本件契約条項の解釈もそれに沿うべきであるとも主
張するが,これらはいずれも契約条項の内容や背景事情等を異にするもの
であり,本件契約条項の解釈に当たりこれらを参酌すべきとする根拠とは
ならないというべきである。控訴人らの主張は採用することができない。
キまた控訴人らは,昭和26年当時に選手の肖像等を使用した商品は存在
したが,球団は肖像権使用料を徴収しておらず,何ら肖像権管理を行って
いなかった可能性があるとして,それに沿う証拠として甲121を提出す
る。
なるほど甲121(「常識を破壊!これが正しいスポーツカードの集め
方」報知新聞社平成10年3月20日初版発行)には,1950年代後
半から,それまでイラスト中心であったメンコにつき,(T選手の入団の
影響もあって,写真メンコがブームとなったが,1960年代半ば(昭和
40年頃)から急速に発行量が少なくなった旨が記載され,その理由とし
て「写真メンコを発行する際に肖像権の承認を球団から取る必要が生じた
ためではないかといわれています。それまでは雑誌などから写真をコピー
して着色して商品化したものも多数発行されていたのですが,承認料を支
払えないメーカーは次々に市場から撤退していったのでしょう。」と記載
されている。
しかし,上記文献は写真メンコの盛衰について述べた文献にすぎず,球
団による許諾について述べたものではなく,これにより球団による肖像権
管理ないし使用許諾料徴収が昭和40年ころから初めて行われたものと認
めることはできない。
ク(ア)また控訴人らは,早稲田大学K)教授の意見書を証拠として提出す
るところ,同意見書においては,「パブリシティ権の本質の理解につい
ては,プライバシー権とパブリシティ権を人格権の中で一体的に考える
立場と,人格権に属するプライバシー権と対立的に名称・肖像等の持つ
顧客吸引力という財産的価値に着目してパブリシティを独立的に理解す
る立場がある」とし,「プライバシー権とパブリシティ権は等しく人の
人格権から派生するものであって人格権の2つの側面として不即不離の
関係にあり,後者は人格権の商品化から生じた人格権の持つ財産的利益
の排他的支配権と解するのが相当である」としたうえで,「独占的使用
権を他者に与えるとしても,本人の支配がまったく失われるような形で
商業的使用・商品化型使用を含めて包括的に氏名・肖像の有する経済的
利益の排他的支配権であるパブリシティ権の独占的使用を他者へ許諾す
る契約(契約条項)は,原則的に認められない」とし,「このような包
括的な独占的使用権の許諾を認める場合には,派生権であるパブリシテ
ィ権の実現(使用)の場で,母権である本人の人格権と派生権であるパ
ブリシティ権が相互対立する現象が生じることになる」とする。そし
て,本件契約条項の内容とするパブリシティ権の球団への使用許諾を認
めるとしてもその範囲は制限的に解釈されるべきであり,選手が自らの
意思で自己の人格的アイデンティティを商業的利用に供することを制限
・禁止する内容を含まないと解する」とする。また本件契約条項を含む
選手契約についても約款による契約であって,制限的に解釈されるべき
で,本件契約条項をパブリシティ権の本質と相容れない,また約款作成
者に有利な拡大解釈はとるべきではないとする(甲72,意見書)。
これに対し被控訴人らは,慶應義塾大学のU]教授の「鑑定書」と題
する書面を提出し,これによれば,本件契約条項の「すべてが球団に属
し」との文言からすれば肖像等に関する使用許諾よりも譲渡になじみや
すく,その内容も「写真・撮影フィルムに具体化されたところの肖像,
容姿についての経済的利用に関する処分権限の全面的な委譲と,氏名に
関する商標的・装飾的利用権限の委譲にすぎず」,このようなパブリシ
ティの一部の譲渡については認めて差し支えなく,また解釈として独占
許諾と解することも可能である,選手による相手方選択の可能性の制
限,肖像等の利用に係る規定の変更を求める余地が少ないことからすれ
ば附合契約的な要素もあるが,①球団が管理し分配金を選手に支払うと
いうシステムは合理的であり,②上記のとおり本件契約条項の対象が限
定され,③球団の管理にも長い歴史・実績があることから,本件契約条
項は十分に合理的かつ有効であるとする(乙104)。
さらに被控訴人らは,専修大学V]教授の「鑑定意見書」と題する書
面を提出し,これによれば,肖像や氏名の使用を決定することができる
のはその本人のみであり,これは人格権から導きだされるところ,その
商業的利用に関しては,その使用が同意された後は,本人の人格権を不
当に害するような使用態様がない限り,人格権の法理に服することな
く,人格権からは独立した財産的権利として,譲渡等,財産法の枠内で
扱われるから,本件契約条項により球団は選手の氏名,肖像に関する権
利の独占的な使用許諾を受けている,また金銭の支払いを受けているこ
と等の現実の運用にも照らし条項が無効ともいえない,宣伝目的には,
選手の肖像等が野球カード等に使用されてもこれが公衆の関心をつなぎ
止める機能を果たすことに変わりはないから,商品化型利用も含まれる
とする(乙127)。
(イ)しかし,U]教授及びV]教授の上記意見書は当裁判所の前記判断と
矛盾するものでなく,また控訴人らの提出するT]教授の意見書も一般
論としては同様であって,本件契約条項の解釈に関する前記認定を左右
するものではない。
4本件契約条項による契約は不合理な附合契約であり民法90条に違反し無効
であるかについて
(1)当裁判所も本件契約条項が不合理な附合契約として民法90条により無
効となるものではないと解するものであり,その理由は,原判決99頁1
7行~109頁16行記載のとおりである。なお,当審における控訴人ら
の主張にかんがみ,以下のとおり付加する。
(2)ア本件契約条項に相当する規定は,統一契約書様式の一部であるとこ
ろ,前記2(4)イで認定したとおり,統一契約書様式について,第11条
(傷害補償)の規定に関し,昭和50年,昭和55年,昭和60年,平成
3年,平成7年,平成8年と改訂され,順次選手らに対する補償金額が見
直されているほか,第31条(契約の更新)についても,平成5年度〔1
993年度〕の選手契約からは,「次年度契約における参稼報酬の金額
は,選手の同意がない限り,本契約書第三条の参稼報酬の金額から25
パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。」との条項
(甲96の4。古田敦也の1993年度選手契約)がおかれ,これは後に
平成10年度〔1998年度〕に「次年度契約における参稼報酬の金額
は,選手の同意がない限り,本契約書第3条の参稼報酬の金額から,同参
稼報酬の金額が1億円を超えている場合は30パーセント,同参稼報酬の
金額が1億円以下の場合は25パーセントに相当する金額を超えて減額さ
れることはない。」(甲96の9。古田敦也の1998年度選手契約)と
改められるなどの改正がされている。
イ上記のほか,統一契約書様式中の第31条(契約の更新)に関しては,
昭和47年,昭和48年,昭和50年,平成3年にも改正がされている。
その他にも,第24条(移転費)に関して昭和50年,昭和54年2月
8日,昭和54年9月4日,昭和60年に改正がされている。
さらに,平成10年には,第35条(任意引退選手)として,参稼期間
中または契約保留期間中であっても,選手が引退を希望した場合に,任意
引退選手として公示されるための手続きに関する規定が追加された(平成
10年11月18日追加)。任意引退選手となりリストに入れられると,
平成10年12月15日に調印発効となった「日米間選手契約に関する協
定」により米国大リーグ球団と契約可能となる場合もある(乙51)。
ウさらに,野球協約中の規定には,前記のとおり,第13条(実行委員会
の構成),第17条(審議事項),第18条(専門委員会),第19条
(特別委員会)の各規定がある。
エ上記アの傷害補償額の引き上げについては,平成7年〔1995年〕の
第2回選手関係委員会・日本プロ野球選手会会合(甲18),平成8年
〔1996年〕の第1回選手関係委員会(甲19)等で採り上げられ,選
手の希望する方向での補償の充実が実現している。参稼報酬の金額の減額
制限についても,平成6年〔1996年〕の第2回選手関係委員会等で選
手側と野球機構側との間で規定の内容,改正の方向等についてそれぞれが
意見を出した上での話合いがされている(甲20)。
オ上記認定の事実及び前記2で認定した各事実によれば,①本件契約条項
は,2項における分配金の定めとともに,写真出演等に関する選手の肖像
権等が球団に属し,宣伝目的のためこれを球団において使用することがで
きることを定めるにすぎず,その規定自体から不合理かつ不公正で公序良
俗に反する内容であるとは言い難いこと,②本件契約条項に相当する規定
の置かれている統一選手契約様式についても,毎年選手との間で契約が締
結ないし更新されることを前提として,上記ア,イのとおり,傷害補償・
移転費等,選手に必要な補償,費用等について選手にとって有利な形で何
回も改正されてきているほか,参稼報酬減額の場合の制限,選手が希望し
た場合の任意引退の規定など,選手契約の根本に係る部分についても規定
が追加されてきていること,③上記エで認定したとおり,選手会と野球機
構らとの間で選手関係委員会等の会合が継続的に開かれ,そこにおいて選
手契約と係わる部分についても話合いがされ,統一契約書様式の改訂に実
現したものもあること,④被控訴人タイガースとR元選手との間の肖像権
等についての契約によれば,契約に当たって球団の事前の承認は要求され
ているものの,R選手の企画会社に同選手の肖像権,著作権等に関しての
企画紹介業務を行うことを許容していること(乙94,98,126),
等の事情もあり,これらに照らせば,本件契約条項を前提とすると選手が
肖像権管理に関し全く関与することができないと認めることもできない。
以上によれば,本件契約条項が民法90条により無効であるとは到底い
うことができない。
(3)控訴人らの主張に対する判断
ア控訴人らは,選手において氏名及び肖像の利用に関する特約を締結する
ことが不可能であり,そうした事例がないとしながら特約の締結も不可能
ではないとした点に原判決の誤りがあると主張する。
確かに,選手契約において,選手の氏名ないし肖像の利用に関する特約
が締結された事例は証拠上見当たらず,また野球協約47条2項には,野
球協約の規定及び統一契約書の条項に反しない範囲での特約の記入が認め
られているにすぎないとはいえる。
しかし,そもそも氏名及び肖像の選手の使用に関する特約について,何
らの形でも特約の締結が不可能であるとは統一契約書様式,野球協約の規
定から認めることはできない。控訴人らの主張する氏名及び肖像に関する
特約が,あくまで控訴人らの主張し要求している内容,すなわち複数球団
にまたがる選手肖像の利用について選手会にその権限の委任を可能とする
内容,すなわち本件契約条項の内容に反することを前提とするものであれ
ば,そうした内容での特約の締結は,個々の選手契約を前提として可能と
いえないのは,上記野球協約の規定からすればむしろ当然ということにな
るが,これは,上記のとおり統一契約書様式が数度にわたり改訂されてい
ることによると,その改訂等に関する問題というほかなく,特約の締結可
能性の問題とはいえない。
控訴人らの主張は採用することができない。
イまた,控訴人らは,金銭(分配金)が支払われたとしても,選手の意思
が反映されない点で依然として問題が残るとも主張する。
しかし,控訴人らが問題とするゲームソフト,野球カードについての肖
像権等の使用許諾は,商業的利用に関するもので,それ自体金銭の受領が
本質的な問題であるから,選手に対して分配金が支払われていることを本
件契約条項の有効性の判断についての補強理由の一部とした原判決の認定
に何ら問題はない。
控訴人らの主張は採用することができない。
ウさらに控訴人らは,球団が肖像権を管理すべき合理性はないとして原判
決を論難する。
しかし,選手が商業的利用も含め自らの肖像権を生来的に有することは
所論のとおりであるが,これを自らの判断で契約により球団等の第三者に
その管理を委ねることも許されるのであり,本件は,前記のとおり,その
ような意味における肖像権が選手から球団に対し契約により独占的利用を
許諾したと認めることができるのである。そして,選手の肖像ないし氏名
の宣伝目的での使用を球団が一括管理することを前提とした本件契約条項
の内容が,それ自体として不合理といえないことも前記のとおりである。
したがって,控訴人らの主張は採用することができない。
5本件契約条項は独占禁止法違反として無効となるかについて
(1)当裁判所も本件契約条項が独占禁止法の観点からして民法90条により
無効となるものではないと解するものであり,その理由は原判決109頁1
7行~112頁18行のとおりである。
(2)なお,当審における控訴人らの主張にかんがみ,以下のとおり付加的に
判断する。
ア独占禁止法19条に違反した契約の私法上の効力については,原判決も
指摘するように,その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別
として,同条に反するからとの理由で直ちに無効となると解すべきではな
い。けだし,独占禁止法は,公正かつ自由な競争経済秩序を維持していく
ことによって一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で
健全な発達を促進することを目的とするものであり,同法20条は,専門
的機関である公正取引委員会をして,取引行為につき同法19条違反の事
実の有無及びその違法性の程度を判定し,その違法状態の具体的かつ妥当
な収拾,排除を図るに適した内容の勧告,差止命令を出すなど弾力的な措
置をとらしめることによって,同法の目的を達成することを予定している
のであるから,同法条の趣旨にかんがみると,同法19条に違反する不公
正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とする
ことは同法の目的に合致するとはいい難いからである(最高裁昭和48年
(オ)第1113号同52年6月20日第二小法廷判決・民集第31巻4号
449頁参照)。
そして,本件契約条項が公序良俗に反するとはいえないことは前記4の
とおりであり,そうすると,当審における控訴人らの共同の取引拒絶に該
当するとの主張も含め,控訴人らの独占禁止法違反の主張については採用
の限りではない。
イ加えて,被控訴人らが選手会に対して肖像権等のライセンスを行うこと
を拒絶させているとの点についても,前記のとおり,本件契約条項が不当
なものとはいえず,これに基づくものであって共同の取引拒絶等には当た
るものではないから,控訴人の主張は採用できない。
ウさらに,控訴人らの独占禁止法違反の主張に関連し,以下の事実が認め
られる。
(ア)前記2(9)で認定したとおり,選手会と野球機構とは複数回にわた
り選手の待遇や野球をめぐる環境の改善等に関して話合いを行ってきて
いるところ,その内容,野球協約の変更等の内容に関しては,既に認定
した事実以外に,以下のものがある。
a平成7年〔1995年〕の第1回選手関係委員会・日本プロ野球選
手会会合において,フリーエジェント(FA)資格緩和のための「特
例条件」について,試合出場数による緩和措置を要望してきた選手会
が,初めて具体的な提案をしてきたものの,(1)野手は800試合,
(2)投手は200試合…などとの提案があり,検討が促されたのに対
し,野球機構選手関係委員長は,出場数となると,ポジションによっ
て難しい問題が出てくる,むしろ連続して1500日登録のような緩
和条件を考えた方がよいのではないかとの提案をし,具体的な成果は
なかった(乙73)。
b当初10年間,年間150日の稼働が要件とされていたFA資格取
得のための要件につき,平成10年〔1998年〕にFA資格取得の
ための稼働年間につき9年に緩和された(甲33)。
c現在の野球協約では,FA資格の取得条件については,野球協約1
97条(1)により,年間145日の出場選手登録日数が必要とされる
ことになっており,この197条(1)についても平成13年〔200
1年〕9月,平成15年〔2003年〕7月,平成16年〔2004
年〕7月にもそれぞれ改正されているほか(乙51),平成16年7
月26日の改正後の197条(資格取得条件)(2)の内容は下記のと
おりであり,出場選手登録日数についても選手側に配慮した規定が置
かれるに至っている(乙51)。

「出場選手登録日数が同年度中に145日に満たないシーズンがある
場合は,それらのシーズンの出場選手登録日数をすべて合算し,14
5日に達したものを1シーズンとして計算する。」
(イ)選手会は,複数球団選手を含む肖像等の使用についてこれを「包括
的使用」とし,これに関しては選手会に委任したことにより球団には使
用許諾権がないことを前提とし,野球機構に対し,選手のパブリシティ
権を選手会が暫定的にライセンスを行う等の提案をしている(甲10
1)。
しかし,それまで球団が行ってきた選手の肖像・氏名に関する管理
は,こうしたゲームソフト等の商品に関する使用許諾実務以外にも幅広
い業務があり,これをそれまで行ってきた球団に代わって,その一部で
も選手ないし選手会において行うとすることについて,選手ないし選手
会と球団ないし野球機構とで真摯な話合いがされてきたと認められるか
については疑義がある。
エ(ア)さらに控訴人らは,選手会は肖像権使用料を10%としているのに
対し,野球機構の委託する株式会社ピービーエスらはこれを20%とし
ているから,公正な競争が阻害されているとも主張する。しかし,この
点に関しては以下の事実が認められる。
a選手会は,平成13年3月から,野球ゲーム(ファンタジーベース
ボール)に関し,これを運営するファンタジー・スポーツジャパン
社,スポーツナビゲーション社に選手の肖像権ライセンスを行い,こ
れに関し,選手会は,平成13年7月21日の選手会臨時大会におい
て,ライセンス料を10%とする旨を決議した(甲105)。
bまた選手会は,家庭用テレビゲーム機向けの野球ゲームソフトに関
して,スクウェア社が平成14年〔2002年〕に発売した「日米間
プロ野球ファイナルリーグ」に,また平成14年にメディアカイト社
のパソコンゲームソフト「野球道21」にも選手の肖像に関するライ
センスを行った(甲93)。
c選手会が得た肖像使用料は,選手会大会の決議に基づき,一部を選
手会の活動資金に充てた後,各選手に分配している。使用料徴収・分
配に関する事務は,選手会事務局とTWIインタラクティブ・インク
社とが共同で行っている(甲93,95)。現在のライセンス先は,
1社のみとなっている(甲95)。
(イ)しかし,上記2(9)で認定したとおり,野球機構の委託した株式会
社バップ及び株式会社ピービーエスの行っている業務内容には,ゲーム
ソフトメーカーと球団との間での映像等のやりとり,ゲーム内容の確認
業務等多様なものを含んでおり,これを単純に実施料率の点だけから比
較して公正か否かを判断することはできない。したがって,控訴人らの
主張は採用することができない。
オなお控訴人らは,当審において,早稲田大学法学学術院L)教授の意見
書を提出し,これによれば,共同の取引拒絶該当性につき,球団は,選手
をしてプロ野球選手会ないし他の管理会社等にパブリシティ権のライセン
スをさせないようにしており共同の取引拒絶に該当し,目的の正当性等に
ついても疑問があるとする(甲91)。また,控訴人らは,同じく慶應義
塾大学産業研究所M)准教授の意見書を提出し,これには,①相手方たる
所属のプロ野球選手との取引において拘束する条件を付して取引した結
果,少なくともプロ野球選手のパブリシティ権の管理受託業務及び第三者
への使用許諾(ライセンス)業務においてプロ野球球団と競合関係に立つ
日本プロ野球選手会の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易
に見出すことができなくなるおそれが生じたものと評価することができる
から不当な拘束条件付き取引に該当する,②本件契約条項のように,独占
的なパブリシティの使用許諾を求めることを内容とする条件を付す契約
は,球団が優越的地位にあったからこそ課すことができる条件であって優
越的地位の濫用に該当する,③正当な理由があるかについても,球団の投
資の回収及び球団にとって好ましくない態様での肖像等の使用の防止は,
各球団にとっての必要性・合理性であって,1条に定める独禁法の目的か
ら正当な目的と是認されるものとはいえないなどとする(甲92)。
しかし,独占禁止法違反の控訴人らの主張については既に検討したとお
りであって,本件契約条項を無効と解することはできない。
6結論
以上のとおりであるから,控訴人らの請求はいずれも理由がない。
よってこれと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一
(別紙)
当事者目録
控訴人高橋由伸
控訴人上原浩治
控訴人二岡智宏
控訴人阿部慎之助
控訴人宮本慎也
控訴人度会博文
控訴人五十嵐亮太
控訴人古田敦也
控訴人鈴木尚典
控訴人三浦大輔
控訴人相川亮二
控訴人井端弘和
控訴人岩瀬仁紀
控訴人福留孝介
控訴人森野将彦
控訴人今岡誠
控訴人赤星憲広
控訴人福原忍
控訴人濱中治
控訴人黒田博樹
控訴人新井貴浩
控訴人小山田保裕
控訴人小笠原道大
控訴人金子誠
控訴人金村曉
控訴人木元邦之
控訴人星野智樹
控訴人小林雅英
控訴人福浦和也
控訴人渡辺俊介
控訴人川越英隆
控訴人阿部真宏
控訴人高木康成
上記控訴人ら訴訟代理人弁護士
冨島照男
同山崎卓也
同石渡進介
同辻哲哉
同鎌田真理雄
同金沢淳
同松本泰介
同訴訟復代理人弁護士高田伸一
被控訴人株式会社読売巨人軍
被控訴人株式会社ヤクルト球団
被控訴人株式会社横浜ベイスターズ
被控訴人株式会社中日ドラゴンズ
被控訴人株式会社阪神タイガース
被控訴人株式会社広島東洋カープ
被控訴人株式会社北海道
日本ハムファイターズ
被控訴人株式会社西武ライオンズ
被控訴人株式会社千葉ロッテマリーンズ
被控訴人オリックス野球クラブ株式会社
上記被控訴人ら訴訟代理人弁護士
中村稔
同富岡英次
同吉田和彦
同相良由里子
同奥村直樹
被控訴人株式会社読売巨人軍訴訟代理人弁護士
竹田稔
同川田篤
(別紙)
関係目録
1控訴人高橋由伸と被控訴人株式会社読売巨人軍
2控訴人上原浩治と被控訴人株式会社読売巨人軍
3控訴人二岡智宏と被控訴人株式会社読売巨人軍
4控訴人阿部慎之助と被控訴人株式会社読売巨人軍
5控訴人宮本慎也と被控訴人株式会社ヤクルト球団
6控訴人度会博文と被控訴人株式会社ヤクルト球団
7控訴人五十嵐亮太と被控訴人株式会社ヤクルト球団
8控訴人古田敦也と被控訴人株式会社ヤクルト球団
9控訴人鈴木尚典と被控訴人株式会社横浜ベイスターズ
10控訴人三浦大輔と被控訴人株式会社横浜ベイスターズ
11控訴人相川亮二と被控訴人株式会社横浜ベイスターズ
12控訴人井端弘和と被控訴人株式会社中日ドラゴンズ
13控訴人岩瀬仁紀と被控訴人株式会社中日ドラゴンズ
14控訴人福留孝介と被控訴人株式会社中日ドラゴンズ
15控訴人森野将彦と被控訴人株式会社中日ドラゴンズ
16控訴人今岡誠と被控訴人株式会社阪神タイガース
17控訴人赤星憲広と被控訴人株式会社阪神タイガース
18控訴人福原忍と被控訴人株式会社阪神タイガース
19控訴人濱中治と被控訴人株式会社阪神タイガース
20控訴人黒田博樹と被控訴人株式会社広島東洋カープ
21控訴人新井貴浩と被控訴人株式会社広島東洋カープ
22控訴人小山田保裕と被控訴人株式会社広島東洋カープ
23控訴人小笠原道大と被控訴人株式会社北海道日本ハムファイターズ
24控訴人金子誠と被控訴人株式会社北海道日本ハムファイターズ
25控訴人金村曉と被控訴人株式会社北海道日本ハムファイターズ
26控訴人木元邦之と被控訴人株式会社北海道日本ハムファイターズ
27控訴人星野智樹と被控訴人株式会社西武ライオンズ
28控訴人小林雅英と被控訴人株式会社千葉ロッテマリーンズ
29控訴人福浦和也と被控訴人株式会社千葉ロッテマリーンズ
30控訴人渡辺俊介と被控訴人株式会社千葉ロッテマリーンズ
31控訴人川越英隆と被控訴人オリックス野球クラブ株式会社
32控訴人阿部真宏と被控訴人オリックス野球クラブ株式会社
33控訴人高木康成と被控訴人オリックス野球クラブ株式会社

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