弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人中根宏の上告趣意第一、二点のうち、判例違反をいう点は、引用の各判例
が事案を異にし本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であり、同第
三点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも上告適法の理由にあ
たらない。
 しかし、所論にかんがみ職権によつて調査すると、原判決および第一審判決は、
後記のとおり刑訴法四一一条一号により破棄を免れないものと認められる。
 本件公訴事実について、原判決および第一審判決に示された事実関係とこれに対
する法律判断は、おおむね次のとおりである。被告人は、自動車運転の業務に従事
するものであるところ、昭和四一年一一月九日午前九時一〇分ごろ、軽四輪乗用自
動車を運転して、東京都練馬区a町から同区bc丁目に通ずる幅員七、三メートル
の簡易舗装道路を、bc丁目方面に向け、時速約二〇キロメートルで進行中、同区
de丁目f番地先にある、右道路と、g方面からh方面に通ずる幅員一〇、四メー
トルの簡易舗装道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ直角に交差する交差点
にさしかかり、これを通過しようとしたものである。ところで、右交差点は、東西
道路からの交差点への各入口の道路表面には、停止線が白色塗料でしるされており、
その停止線の内側左端には、一時停止の道路標識が設置されているのであるが、交
差点の交通整理は行なわれておらず、しかも左右の見とおしがきかないところであ
るから、被告人のように、自動車を運転して交差点にはいろうとする者は、そのは
いる前に徐行するか、状況によつては一時停止して、東西道路における交通の安全
を確認しなければならないわけである。被告人は、右交差点の入口側端線の一二、
三メートル手前で時速約一〇キロメートルに減速して進行し、自車運転席が右側端
線の一、六メートル手前にきたところで、東西道路における交通の安全を確認すべ
く右方を望見したところ、右道路の手前側に沿つて、前記停止線から約五、三メー
トル離れたところに自動車が一台駐車していたほかには、他に車両等の存在を認め
なかつたので、その後は右方を見ることなく、左側に注意しながらそのまま交差点
に進入し、前記側端線から三、一メートルのところに自車運転席がきたときに、右
方東西道路からh方面に向い、時速三〇キロメートル以上の速度で進行し、右交差
点にはいる前に徐行も一時停止もせず、そのままの速度で交差点を突破しようとし
てきたA運転の普通乗用自動車のバンパーを、自車の右側前部、運転席横のドア付
近に衝突させ、その影響により、自車を左斜前方一六、一メートルに逸走させ、同
所で作業中のB(四六年)に接触させて、同人に対して全治までに約一か月を要す
る腰部および両下肢挫傷等の傷害を負わせたものである。そして、被告人が右交差
点にはいるにあたつて右方を望見したところでは、仮に右駐車中の自動車を考慮外
におくとしても、交差点のかどにある建物により視界の一部をさえぎられ、右停止
線から道路の中心線上を一九、五メートルまで、もし、右駐車中の自動車を考慮に
いれると、同じく一八、五メートルまでしか現認し得ないことが明らかであり、他
方、実験則によると、制動装置に故障のない自動車が、路面が良好で乾燥した簡易
舗装道路を時速四〇キロメートルで進行中、運転者が停止の用意をしてから確実に
停止するまでに自動車が走行する広義の制動距離は、約二二、三メートルであるか
ら、被告人が、たとい右望見時に、その望見が可能であつた範囲内に車両等の存在
を認めなかつたとしても、また、前記のように一時停止の道路標識などが設置され
ていても、その後右方を見ることなく時速約一〇キロメートルで進行を継続すると、
自車が東西道路の中心線を通過するより前に、右望見時に望見が不能であつた車両
等が接近してきて、停止線に停止しきることができないまま交差点に進入し、自車
の右側面に衝突すること、ことに、右車両等が道路の左側に寄つて進行している場
合には、前記駐車中の自動車により前方に対する見とおしを妨げられ、自車の存在
を認め得ないことのあることをおもんぱかり、東西道路における交通の安全を確認
するため右方を望見するにあたつては、前記停止線から道路の中心線上を、少なく
とも二二、三メートル見とおし、その範囲内に車両等が存在しないことを確認しな
ければならないものといわなければならない。しかるに、被告人は、前記のとおり
道路の中心線上一八、五メートルないし一九、五メートルの範囲内に車両等が存在
しないことを認め、より遠くにある車両等は停止線に確実に停止するものと憶断し、
時速約一〇キロメートルで交差点に進入したのであるから、本件事故について被告
人に過失があることは明白である、というのである。
 たしかに、被告人が右判示のような注意をしておれば、本件事故は発生しなかつ
たか、少なくとも本件事故とは異なる事故になつていたであろうと思われる。問題
は、被告人にそのような注意義務があるかということである。そこで、以上の事実
関係を基礎にして、被告人の注意義務に関する右判示の当否について考えることと
する。
 東西道路からの本件交差点への入口には、前記のとおり一時停止の道路標識およ
び停止線の表示があるのであるから、Aはもとより、車両の運転者は、すべてここ
で一時停止をしなければならないのである(道路交通法四三条本文、一一九条一項
二号参照)。ところで、被告人が、前記のとおり右方を望見したときには、右停止
線付近には、交差点にはいろうとする車両等は存在しなかつたのであり、また、右
望見によつては現認することができなかつた車両等は、交差点にはいるに先だち、
右交通法規にしたがつて、一時停止し、その後で発進するのであるから、被告人が
そのまま交差点に進入すると、被告人の自動車は、右車両等が交差点の中心付近に
進入して来るまでの間に、交差点の中心線を通過しているはずである。また、仮に
中心線を過ぎていなかつたとしても、右車両等より先に交差点にはいつていること
はまちがいないから、右車両等は、被告人の自動車の進行を妨げてはならないので
ある(道路交通法三五条一項、一二〇条一項二号参照)。したがつて、被告人が、
一度右方を望見したうえ、前記のような交差点の状況から、現認することのできな
かつた車両等は一時停止するものと信じて、そのまま交差点に進入したことをもつ
て、不注意であるということはできない。
 もし、原判示のような注意をしなければならないとすれば、進路左側に対する注
意がおろそかになつてかえつて危険であるばかりでなく、一時停止などを定めた道
路交通法の趣旨は没却され、無理が通れば道理がひつこむという不合理を是認しな
ければならないことになる。その不当なことは多言を要しない。
 このようにみてくると、本件被告人のように、他方の道路の交差点の入口に一時
停止の道路標識および停止線の表示のある交差点に進入しようとする自動車運転者
としては、その停止線付近に交差点にはいろうとする車両等が存在しないことを確
かめた後、すみやかに交差点に進入すれば足り、本件Aのように、あえて交通法規
に違反して、高速度で、交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想
して、他方の道路に対する安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注
意義務はないものと解するのが相当である。
 そうすると、本件において、被告人に過失責任を認めた原判決および第一審判決
は、法令の解釈を誤り、被告事件が罪とならないのに、これを有罪としたものとい
うべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、刑訴法四一一条一号に
より、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
 よつて、同法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 川口光太郎公判出席
  昭和四三年一二月一七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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