弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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 主      文
1 交付金決定処分取消請求について
 (1) 原告の主位的請求の訴えを却下する。
  (2) 原告の予備的請求を棄却する。
 2 交付金請求について
   原告の交付金請求の訴えを却下する。
 3 訴訟費用の負担
   訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告(請求の趣旨)
  (1) 交付金決定処分取消請求
   ア 主位的請求
     被告が平成12年12月18日付けで原告に対してした交付金決定処分
のうち,5091万8890円を超え25億3856万3458円に達するまでの
金額についての却下処分を取り消す。
   イ 予備的請求
     被告が平成12年12月18日付けで原告に対してした交付金決定処分
のうち,5091万8890円を超え5億4610万9984円に達するまでの金
額についての却下処分を取り消す。
  (2) 交付金請求
    被告は,原告に対し,金25億3856万3458円,及びこれに対する
平成13年3月27日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告(請求の趣旨に対する答弁)
  (1) 本案前の答弁
  原告の訴えをいずれも却下する。
  (2) 本案の答弁
 原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
 1 事案の骨子
(1) 平成12年8月23日付け交付金請求
    原告は,平成12年8月23日,被告に対し,本州四国連絡橋の建設に伴
う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法(以下「法」という。)11条1号
交付金(以下「1号交付金」という。)として5億4610万9984円,法11
条3号交付金(以下「3号交付金」という。)として25億5865万4825円
を請求した(甲1,以下「平成12年8月23日付け交付金請求」という。)。
  (2) 本件交付金決定
    これに対し,被告は,平成12年12月18日,1号交付金として509
1万8890円のみを認め,3号交付金は1円も認めない旨の決定(以下「本件交
付金決定」という。)をした(甲2)。
(3) 本訴請求
    本件は,原告が,1号交付金として25億3856万3458円を請求す
ることができ,本件交付金決定処分は違法であると主張して,被告に対し,次の各
裁判を求めた事案である。
   ア 本件交付金決定処分取消請求
    (ア) 主位的請求
      本件交付金決定処分のうち,5091万8890円を超え25億38
56万3458円(原告が1号交付金の請求をできる金額)に達するまでの金額に
ついての却下処分を取り消す。
    (イ) 予備的請求
      本件交付金決定処分のうち,5091万8890円を超え5億461
0万9984円(原告が平成12年8月23日付け交付金請求で1号交付金として
請求した金額)に達するまでの金額についての却下処分を取り消す。
   イ 本件交付金請求
     被告は,原告に対し,1号交付金25億3856万3458円,及びこ
れに対する平成13年3月27日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年5分の割
合による遅延損害金を支払え。
2 前提事実
   (括弧に証拠の摘示のない事実は,争いのない事実である。)
  (1) 当事者
ア 原告は,一般自動車輸送事業,一般旅客の海上輸送及び海上運送業,倉
庫業等を目的とする株式会社であり,本州四国連絡橋(明石・鳴門ルート)の開通
により,A・B間の一般旅客定期航路事業を廃止した。
イ 被告は,本州と四国の連絡橋に係る有料の道路及び鉄道の建設及び管理
を総合的かつ効率的に行うことを目的とし,本州四国連絡橋公団法1,2条に基づ
き設立された特殊法人である。
  (2) A旧フェリー基地による営業
    原告は,昭和53年から,兵庫県A市a浜1丁目2番地をA側フェリー基
地とし,兵庫県B郡B町b島を淡路島側フェリー基地として,両基地間を往復す
る,A・B間の一般旅客定期航路事業(カーフェリーによる海上運送事業)を営ん
でいた。
  (3) A旧フェリー基地の移転計画
    昭和63年5月ころになると,港内の原告のフェリー運航基準経路とパー
ジ船(約100隻)の停泊位置が競合するようになった。また,同港に停泊してい
るプレジャーボート1200隻のうちの小型ヨットや浜を利用したウインドサーフ
ィンの利用範囲と,原告のフェリー運航基準経路とが競合し,フェリーの円滑な運
行に障害を来すようになってきた。さらに,フェリー乗り場に隣接して設置されて
いる駐車場は規模が小さく,盆暮れや観光シーズンには,終日約2キロメートルの
乗船待ち車両が道路にあふれ,一般車両の通行等の障害となっていた。
    このような事態を解決するために,原告は,兵庫県A市a浜2丁目21-
3番地外に接する兵庫県所有地先の公有水面を埋め立て,そこに従来のフェリー基
地を移転させる計画を立て,平成元年7月10日,兵庫県知事(港湾管理者)に対
し,公有水面埋立法2条1項に基づき公有水面埋立免許を出願し,同年12月5
日,その免許を受けた(甲4,乙7,乙8)。
  (4) A新フェリー基地建設工事の内容
   ア 原告は,その後,公有水面埋立工事等を行い,平成4年3月末,その工
事を完成させ,当該埋立の竣工認可を受け,免許条件により公共移管した土地を除
き,埋立地の所有権を取得した。そして,原告は,埋立地及びそれに隣接する兵庫
県所有の土地の払い下げを受け,従来のA側のフェリー基地をそこに移転し,A・
B間の一般旅客定期航路事業のA側のフェリー基地として使用を始めた(甲3,乙
7,8,9)。
   イ 原告が本件訴訟で交付金請求の対象としているのは,原告が,兵庫県知
事から公有水面の埋立免許を得るにあたり,工事を行うことが条件となっていた
(甲4)次の各工事費用について,税務上繰延資産として処理されているものであ
る。以下,次の①ないし⑩の工事を「本件各工事」又は工事①ないし⑩」といい,
次の①ないし⑩の工事により設置された施設等を「本件各施設」又は「施設①ない
し⑩」という。
    ① -2.2物揚場築造工事(別紙図面(1)の赤色部分)
                     -別表(1)の①・F欄の金額
    ② 防潮堤用地工事(別紙図面(1)の青色部分)-別表(1)の②・F欄の金

    ③ 防潮護岸復旧工事(別紙図面(2)(3)の緑色部分)
                     -別表(1)の③・F欄の金額
    ④ -5.5岸壁防潮堤築造(別紙図面(1)の桃色部分)
                     -別表(1)の④・F欄の金額
    ⑤ 防潮ゲート設置工事(別紙図面(1)の黄色部分)
                     -別表(1)の⑤・F欄の金額
    ⑥ 帰属植栽工事-別表(1)の⑥・F欄の金額
    ⑦ 基地外付帯道路植栽工事-別表(1)の⑦・F欄の金額
    ⑧ A.B護岸築造工事(別紙図面(1)(2)(3)の紫色部分)
                     -別表(1)の⑧・F欄の金額
    ⑨ 航路浚渫工事(別紙図面(3)の浚渫工部分)-別表(1)の⑨・F欄の金

    ⑩ 管理道路工事(別紙図面(1)の黄緑部分)-別表(1)の⑩・F欄の金額
⑪ 合 計-別表(1)の合計・F欄の金額
  (5) 兵庫県への無償移管と工事費用の繰延資産化
    原告は,平成4年4月11日,本件各施設等を兵庫県に贈与(無償移管)
し,その工事費用総額43億1639万6631円(別表(1)の合計・A欄)につい
て,税務上の繰延資産として処理し,原告の固定資産台帳に総額9億2832万0
337円(別表(1)の合計・B欄)と圧縮記帳した(乙10の1)。
    なお,本件各工事費用の内訳は,別表(1)の①ないし⑩・A欄記載のとおり
であり,圧縮記帳後の内訳は,別表(1)の①ないし⑩・B欄記載のとおりである。
  (6) A新フェリー基地の廃止
    平成10年4月5日に本州四国連絡橋(明石・鳴門ルート)が開通した。
それに伴い,原告は,同年9月1日,A・B間の一般旅客定期航路事業を廃止し,
A新フェリー基地を廃止した(この廃止された日を,以下「実施日」という。)。
 3 関係法令及びその内容
  (1) 関連法令
    本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法
(法),本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法
施行令(以下「法施行令」という。),及び本州四国連絡橋公団が交付する一般旅
客定期航路事業廃止等交付金に関する省令(以下「交付金省令」という。)が,本
件交付金に関係する法令である。
  (2) 交付金の請求及び交付手続等
   ア 航路指定
     運輸大臣は,本州四国連絡橋の供用に伴い影響を受ける航路について,
当該供用が開始される一般国道又は鉄道施設の区間ごとに,これに係る規模縮小等
航路等を指定する(法4条1項)。
   イ 実施計画
     指定された規模縮小等航路等において一般旅客定期航路事業を営む者
が,本州四国連絡橋の供用に伴い余儀なくされることとなる事業規模の縮小等を行
おうとするときは,それぞれ当該事業について,その実施に関する計画(以下「実
施計画」という。)を作成し,これを運輸大臣に提出して,その認定を受けること
ができる(法5条1項)。
   ウ 交付金の交付
     法5条1項によって認定を受けた者で,実施計画に従って事業規模の縮
小等を行ったものに対し,一般旅客定期航路事業廃止等交付金を交付することがで
きる(法10条)。
   エ 交付金の請求及び交付手続
     法10条の規定により交付金の交付を受けようとする者は,実施計画の
認定を受けた日から起算して6月を経過するまでに,交付金省令で定めるところに
より,被告に対し,交付の請求をしなければならない(法12条1項)。
     被告は,特にやむを得ない理由があると認めるときは,交付金省令で定
めるところにより,前項の請求の期限を延期することができる(法12条2項)。
     被告は,法12条1項の請求があったときは,これを審査し,交付金の
額の算定の基礎となる事実があったことを確認した上,その交付すべき交付金額を
決定し,これを当該交付の請求をした者に通知しなければならない(法12条3
項)。
  (3) 交付金の額
   ア 法11条
     法10条の規定による交付金の額は,実施計画に従って行われる事業規
模の縮小等に伴い必要となる次の各号に掲げる費用に相当する額として,政令で定
めるところにより算定した金額の合計額とする(法11条柱書)。
    (ア) 法11条1号
      船舶その他の事業の用に供する資産で政令で定めるものの減価をうめ
るために要する費用(以下「1号交付金」という。)。
    (イ) 法11条3号
      事業の円滑な転換又は残存する事業の適正な経営を計るために必要な
費用(以下「3号交付金」という)。
   イ 1号交付金の対象資産
    (ア) 法施行令3条
      法11条1号の政令で定める資産は,交付金の交付を受けようとする
者が,事業規模の縮小等の際に当該事業の用に供しており(供用要件の充足),か
つ,当該事業規模の縮小等により不要となる(不要要件の充足)船舶,建物,構築
物その他の固定資産で交付金省令で定めるもの(以下「特定事業用資産」とい
う。)とする。
    (イ) 交付金省令1条
     a 法施行令3条の交付金省令で定める固定資産は,船舶,建物,構築
物,車両,機械及び装置,工具,器具及び備品,建設仮勘定並びに無形固定資産と
する。
     b そして,被告の業務部長が,昭和58年5月23日付け・業業一第
6号・一般旅客定期航路事業廃止等交付金交付事務の取扱いについて(通知)で,
被告の各建設局長宛に,「岸壁,道路等の公共施設の設置等に要する費用の負担金
等について,税務上繰延資産として処理されている場合は,無形固定資産として取
り扱う。」旨を通知している(以下,同通知〔乙5〕を「業務部長通知」とい
う。)。
   ウ 1号交付金の算定基準
    (ア) 1号交付金の費用に相当する額は,特定事業用資産ごとに当該資産

     価額から交付金省令で定めるところにより算定した当該資産の処分価額
を控除した額を合計した金額とする(法施行令5条1項)。
    (イ) 法施行令5条1項の特定事業用資産の価額は,一般旅客定期航路事
業を営む者が法人である場合には,当該法人の事業規模の縮小等を行った日(実施
日)の属する事業年度の前事業年度の末日(以下「基準日」という。)以前に取得
した特定事業用資産については,当該特定事業用資産につき,基準日における帳簿
価額から同日後事業規模の縮小等を行った日(実施日)までの期間に対応する償却
額を控除した額とする(法施行令5条2項1号)。
   エ 3号交付金について
     3号交付金は,次の(ア)ないし(イ)と(ウ)の額を合計した金額とする
(法施行
    令7条1項1号及び2号)。
    (ア) 指定規模縮小等航路につき事業を廃止した場合には,当該事業に係

     営業収益の年額から営業収益の年額を控除した額に2を乗じて得た額
    (イ) 指定規模縮小等航路につき事業の廃止以外の事業規模の縮小等を行
った場合には,当該事業に係る営業収益の年額のうち,当該事業規模の縮小等を行
った部分に対応する年額として,輸送能力,運航状況等を勘案して被告が定めると
ころにより算定した額に2を乗じて得た額
    (ウ) 転換後の事業又は残存する事業の用に供する資産の確保のために必
要な費用の額のうち,事業規模の縮小等により不要となる資産をこれらの事業に転
用するための改造に要した費用の額,及びその他の特に必要な費用の額として交付
金省令で定める費用の額を合計した額
 4 原告の交付金請求,被告の交付金決定,原告の本訴請求
  (1) 原告の平成12年8月23日付け交付金請求
    次の事実は,当事者間に争いがない。
   ア 原告の平成12年8月23日付け交付金請求
     原告は,実施計画の認定(法5条1項)を受け,請求期限の延期(法1
2条2項)を3度にわたり受けたうえ,その期限内である平成12年8月23日,
被告に対し,1号交付金として5億4610万9984円,3号交付金として25
億5865万4825円,以上合計31億0476万4809円の交付金請求をし
た(甲1)。
   イ 1号交付金の請求額
     原告は,平成4年4月11日,本件各工事費用を税務上の繰延資産とし
て圧縮記帳したが,それが,無形固定資産に該当するとして,圧縮記帳後の価額9
億2832万0337円(別表(1)の合計・B欄)から,基準日(平成10年3月3
1日)までの期間の減価償却額を控除した5億7122万1067円(別表(1)の合
計・C欄)から,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1日)ま
での減価償却額2511万1083円(別表(1)の合計・D欄)を控除した価額5億
4610万9984円(別表(1)の合計・E欄)が1号交付金額になるとして,同額
を請求した。
   ウ 3号交付金の請求額
     原告は,圧縮記帳前の本件各工事費用総額43億1639万6631円
(別表(2)の合計・A欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成1
0年9月1日)における時価を31億0476万4809円(別表(2)の合計・G
欄)とし,そこから,1号交付金額である5億4610万9984円(別表(2)の合
計・E欄)を控除した25億5865万4825円(別表(2)の合計・H欄)が3号
交付金額になるとして,同額を請求した。
  (2) 被告の本件交付金決定
    被告は,原告の1号交付金請求のうち,税務上繰延資産化した工事⑨(航
路浚渫工事)の工事費用について,基準日(平成10年3月31日)における簿価
である5692万3108円(別表(1)の⑨・C欄)から,事業規模の縮小等を行っ
た日(実施日,平成10年9月1日)までの減価償却額600万4218円(別
表(1)の⑨・D欄)を控除した5091万8890円(別表(1)の⑨・E欄)を限度
として,これを認めた。
  (3) 原告の本訴請求
   ア 交付金決定処分取消請求
    (ア) 主位的請求
      原告は,本件各工事費用総額43億1639万6631円(別表(1)の
合計・A欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1
日)における簿価(圧縮記帳前)は25億3856万3458円(別表(1)の合計・
F欄)が妥当であり,1号交付金として25億3856万3458円を請求できる
として,被告に対し,本件交付金決定処分につき,被告が認めた5091万889
0円を超え25億3856万3458円に達するまでの金額について,却下処分を
取り消すことを求めている。
    (イ) 予備的請求
      原告は,本件各工事費用総額43億1639万6631円(別表(1)の
合計・A欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1
日)における簿価は25億3856万3458円(別表(1)の合計・F欄)が妥当で
あり,1号交付金として25億3856万3458円を請求できることを前提に,
被告に対し,本件交付金決定処分につき,被告が認めた5091万8890円を超
え,5億4610万9984円(原告が平成12年8月23日付け交付金請求中で
1号交付金として請求した金額)に達するまでの金額について,却下処分を取り消
すことを求めている。
   イ 交付金請求
     原告は,本件各工事費用総額43億1639万6631円(別表(1)の合
計・A欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1
日)における簿価は25億3856万3458円(別表(1)の合計・F欄)が妥当で
あり,1号交付金として25億3856万3458円を請求できるとして,被告に
対し,25億3856万3458円の支払を求めている。
 5 争 点
   本件の争点は,本件各訴えの適法性と,原告が被告に対し請求できる交付金
額であり,具体的には次の6点である。
  (1) 本件各訴えの適法性
   ア 争点(1)
     本件交付金決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか。
   イ 争点(2)
     本件交付金決定に処分性が認められるとしても,本件交付金決定処分取
消しの訴えは,取消しの対象となる行政処分が存在する適法な訴えか。
   ウ 争点(3)
     本件交付金請求の訴えは適法か。
  (2) 原告が被告に対し請求できる交付金額
   ア 争点(4)
     本件各施設等が法施行令3条所定の「事業供用要件」及び「不要要件」
    を充足するか。
イ 争点(5)
     法施行令5条2項1号の帳簿価額の意義
 ウ 争点(6)
   原告が被告に対し請求できる交付金額は幾らか。
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)(本件交付金決定の処分性の有無)
  (1) 被告の主張
    交付金決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。その理由
は,次のとおりである。
   ア 基本的視点
     交付金決定が行政処分に当たるか否かについては,その根拠法規の文
言,趣旨,支給通知の規定の有無,不服申立てに関する規定の有無及び内容等を検
討して判断すべきである。
   イ 法令の内容
     交付金の法的性格は,助成金ないし補助金であり,その交付をめぐる被
告と事業者たる原告との法律関係は,元来,非権力的な関係である。そして,交付
金の請求手続及び交付手続等に関する法,法施行令及び交付金省令のいずれにも,
交付金交付が行政処分であることを前提とした用語は使用されていないし,行政不
服審査規定も存在しない。
   ウ 被告の地位
     交付金決定をする被告は特殊法人であり,一般的に行政庁としての地位
を有するものではないから,例外的に行政庁としての立場で権力的な行政を行う場
合には,その旨の明文の根拠規定が置かれるのが一般的であるところ,法,法施行
令及び交付金省令のいずれにも,それをうかがわせる規定はない。
  (2) 原告の主張
    本件交付金決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。その理由
は,次のとおりである。
   ア 基本的視点
     交付金決定処分が行政処分と認められるか否かについては,本件交付金
決定に関係する法令の解釈により分析するほかなく,法令の解釈に際しては,交付
金決定の根拠規定の文言や趣旨,その通知や不服申立てに関する規定の有無,内容
等を総合的に検討すべきである。
   イ 実施計画と交付金交付の関係
     交付金の交付を受けられる事業者は,実施計画に従って一般旅客定期航
路事業の縮小等を行った者であり,この者に交付される交付金は,運輸大臣による
実施計画の認可という行政処分によって発生した法的利益を具体的な形に実現する
という意味があり,運輸大臣の認可と交付金の交付は一体的なものと捉えるべきで
あるから,交付金の交付は行政処分といえる。
   ウ 交付金規定の文言
     本州四国連絡橋公団一般旅客定期航路事業廃止等交付金規程(以下「交
付金規程」という。)30条,31条,35条等には,受理,審査,決定,通知及
び交付決定の取消しという文言が使われており,特に,交付決定の取消し等の規定
は,補助金適正化法17条及び18条と似た体裁となっていて,これらの規定は,
交付金の交付が行政処分であることを念頭においているといえる。
   エ 救済方法
     事業者の交付金交付請求は,実施計画認定の日から6月を経過するまで
にしなければならず(法12条1項),実施計画認定後短期間で交付金交付に関す
る法律関係を処理させようとしており,交付金交付にかかる紛争についても,同様
に早期決着を図ることが望ましいから,出訴期間の制限のある行政訴訟において交
付金に関する決定を争うことができるとすることが,立法者の意思に合致する。
 2 争点(2)(取消しの対象となる行政処分の存否)
  (1) 被告の主張
    仮に本件交付金決定に処分性が認められるとしても,本件交付金決定処分
取消しの訴えは,主位的請求,予備的請求ともに取消しの対象となる行政処分が存
在しないので,不適法な訴えである。その理由は,次のとおりである。
ア原告が本件交付金決定処分取消訴訟で主張する1号交付金25億385
6万3458円は,原告が平成12年8月23日付け交付金請求で主張した1号交
付金5億4610万9984円,3号交付金25億5865万4825円(合計3
1億0476万4809円)の交付金請求とは全く別個の請求である。
   イ それゆえ,被告は,原告が本訴で請求している1号交付金請求につい
て,却下処分をしていないので,原告は,結局,存在していない却下処分に対する
取消しを求めていることとなり,本件交付金決定処分取消しの訴えは,主位的請
求,予備的請求ともに不適法な訴えである。
  (2) 原告の主張
   ア 取消しの対象となる行政処分の存在
    (ア) 主位的請求
     a 原告は,平成12年8月23日付け交付金請求では,31億047
6万4809円の交付金請求(すなわち,1個の交付金請求)をした。上記交付金
請求書(甲1)の内訳欄に記載した1号交付金,3号交付金の記載は,上記交付金
請求に当たり,交付金申請の理由として,あえていずれかの各号に振り分けたもの
に過ぎない。
       これに対し,被告は,5091万8890円の限度で認め,その余
を却下する旨の本件交付金決定(すなわち,1個の交付金決定)をした。
b 原告は,被告に対し,1号交付金として25億3856万3458
円を請求することができる。
       そこで,原告は,本件交付金決定処分取消訴訟を提訴し,本件交付
金決定のうち,5091万8890円を超え25億3856万3458円に達する
までの金額についての却下処分の取り消しを求めているものである。
それゆえ,原告の主位的請求は,取消しの対象となる行政処分が存
在し,適法な訴えである。
(イ) 予備的請求
a 仮に,次のとおり,平成12年8月23日付け交付金請求は2個の
請求であり,本件交付金決定は2個の決定であったと仮定しよう。
(a) 原告は,本件各工事費用の無形固定資産に係る交付金として,
1号交付金として5億4610万9984円を請求し,3号交付金として25億5
865万4825円を請求をした(すなわち,2個の交付金請求をした)。
(b) これに対し,被告は,1号交付金請求については,一部認容
(5091万8890円分)し,その余(4億9519万1094円分)を却下
し,3号交付金請求については,全部(25億5865万4825円)を却下し
た。
b この場合でも,原告は,被告に対し,1号交付金25億3856万
3458円を請求することができるのであるから,1号交付金に関する交付金決定
のうち,5091万8890円を超え5億4610万9984円に達するまでの金
額(原告が1号交付金として請求していた金額)について,却下処分の取り消しを
求めることができる。
すなわち,本件交付金決定処分取消しの訴え(予備的請求)は,取
消しの対象となる行政処分が存在することが明らかであり,適法な訴えである。
イ 禁反言違反
    (ア) 被告の行政指導
      原告が,本件各工事費用の無形固定資産に係る交付金について,1号
交付金と3号交付金に振り分けて請求したのは,次の理由からである。
     a 原告の総務部次長であったCは,被告業務部業務企画課課長代理で
あったDから,1号交付金額は,交付金規程20条1号の書式の指示どおりに圧縮
記帳後の帳簿価額を記載すべきであり,これ以外の記載であれば,交付金交付請求
書自体を受理しないと言われた。
       そこで,原告は,1号交付金として,圧縮記帳後の帳簿価額に基づ
いた請求をすることとした。
     b さらに,Cは,Dから,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平
成10年9月1日)の時価額と圧縮記帳後の帳簿価格の差額については,3号交付
金として請求して欲しいと言われた。
       そこで,原告は,Dの指導のとおりに,事業規模の縮小等を行った
日(実施日,平成10年9月1日)の時価額と圧縮記帳後の帳簿価格の差額につい
ては,3号交付金の請求をした。
    (イ) 被告の行政指導に反する主張-禁反言違反
      ところが,被告は,本訴において,従前の行政指導と矛盾する主張を
行い,原告が,1号交付金について,5091万8890円を超えて25億385
6万3458円に達するまでの取消しを求めるのは,存在しない行政処分について
取消しを求めるものであり,不適法だと主張するに至った。このような,被告の主
張は,禁反言の法理に反し許されない。
 3 争点(3)(本件交付金請求の訴えの適法性)
  (1) 被告の主張
    本件交付金請求の訴えは,次のとおり不適法な訴えである。
   ア 関連請求に当たらない
     本件交付金請求は,行政事件訴訟法16条1項にいう取消訴訟の関連請
求には該当しないので,本件交付金決定処分取消しの訴えと併合・審理することは
できない。よって,本件交付金請求の訴えは不適法である。
   イ 交付金の請求手続を経ていない
     法12条1項は,交付金の交付を受けようとする者は,実施計画の認定
を受けた日から起算して6月を経過する日までに交付の請求をしなければならない
旨規定し,同条3項は,交付の請求があったときは,被告において,請求の審査及
び交付金の額の算定の基礎となる事実の確認を行ったうえで,交付金の額を決定
し,これを通知すべき旨規定している。
     そして,前記2(1)のとおり,原告が本訴で主張している交付金請求は,
原告が平成12年8月23日付け交付金請求で請求していた交付金とは異なるか
ら,原告は,改めて被告に交付金請求をし,その審査を経なければならないが,原
告は,その請求をしておらず,審査も経ていないから,本件交付金請求の訴えは不
適法である。
   ウ 請求期間の徒過
     仮に,上記ア,イの主張が認められなくても,本件交付金請求は,法1
2条2項の規定による請求期限を徒過しているので,本件交付金請求の訴えは不適
法である。
  (2) 原告の認否
  被告の上記(1)の主張は争う。
 4 争点(4)(事業供用要件,不要要件の充足の有無)
  (1) 被告の主張
    1号交付金の対象資産に該当するには,事業規模の縮小等の際に事業者に
より当該事業の用に供されていたこと(事業供用要件),及び当該事業規模の縮小
等により不要となること(不要要件)が必要である(法施行令3条)。ところが,
本件各施設は,次のとおり,施設⑨(航路浚渫)以外は,いずれも,事業供用要件
及び不要要件を充足しない。
   ア 施設①(ー2.2物揚場)
     小型作業船10隻程度を収容するための公共施設であり,これは,港内
の小型船船だまりの不足に対処するものであって,事業規模の縮小等を行った日
(実施日,平成10年9月1日)において,原告の一般旅客定期航路事業の用に供
されていたものではないから,事業供用要件を充たさず,また,不要要件も充たさ
ない。
   イ 施設②ないし⑤,⑧,⑩(防潮堤,防潮護岸,ー5.5岸壁防潮堤,防潮
ゲート,A.B護岸及び管理道路)
     防潮堤及びー5.5岸壁防潮堤は,異常気象時における高潮被害から埋立
地及び後背地を防護するための施設であり,防潮護岸は,異常気象時における高潮
被害から後背地等を防護するための施設であり,防潮ゲートは,防潮堤の一部をな
すものであり,A.B護岸は,民間企業等の立地する後背地を海水の浸食等から防護
するための公共施設であり,防潮堤の管理道路は,防潮堤の管理を遺漏なく行い,
防潮堤の有する防災機能を十全に発揮させるために設置されたものである。
     上記いずれの施設も,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10
年9月1日)において,原告の一般旅客定期航路事業の用に供されていたものでは
ないから,事業供用要件を充たさず,また,不要要件も充たさない。
   ウ 施設⑥,⑦(帰属植栽及び基地外付帯道路植栽)
     いずれも施工場所,施工内容及び施工の経緯が明確でなく,その目的は
環境整備のためと思料されるが,いずれにしても,事業規模の縮小等を行った日
(実施日,平成10年9月1日)において,原告の一般旅客船定期航路事業の用に
供されていたものではないから,事業供用要件を充たさず,また,不要要件も充た
さない。
  (2) 原告の主張
   ア 事業供用要件の解釈
     被告は,繰延資産については,事業供用要件を限定的に解釈している
が,法令その他通達によっても,そのように限定的に解釈すべき根拠はない。ま
た,公共施設がもっぱら事業者の事業のみに使用されるような事態はほとんど考え
られず,そのように限定的な解釈をすると,公共施設の設置のための費用を税務上
の繰延資産としても,それが,事業供用要件を充足することはなく,繰延資産を無
形固定資産とする意味がない。
   イ 埋立免許との関係
     原告は,本件各工事を行うことを条件に埋立免許を取得したのであり,
埋立免許を取得することは,原告がフェリー基地を移転させるのに必要不可欠であ
ったから,これらの工事費用(無形固定資産)は,原告がフェリー基地を移転し,
同所においてフェリー事業を営むために支出した費用と認められ,いずれも,事業
供用要件を充たしている。
     そして,原告は,フェリー事業を廃止し,冷凍倉庫事業に転業したので
あるから,不要要件も充足している。
   ウ まとめ
     したがって,本件各施設を設置するのに要した費用(無形固定資産)
は,いずれも事業供用要件,不要要件を充足する。
 5 争点(5)(帳簿価格の意義)
  (1) 被告の主張
    法施行令5条2項1号には,基準日における帳簿価額から事業規模の縮小
等を行った日(実施日)までの償却額を控除した額が1号交付金の額となると規定
しており,同条にいう帳簿価額とは,会計帳簿に記載された価額をいうものであ
る。したがって,本件においては,基準日における圧縮記帳後の価額から事業規模
の縮小等を行った日(実施日)までの償却額を控除した額が1号交付金の額とな
る。
  (2) 原告の主張
    1号交付金は,一般旅客定期航路事業者の投下資本の未回収部分を填補す
る目的で設けられたものであるから,投下資本の未回収部分を最もよく表している
のは,基準日における取得価額(投下資本)から事業規模の縮小等を行った日(実
施日)までの償却額を控除し,その残存した価額である。したがって,圧縮記帳前
の工事費用額が法施行令5条1項2号のいう帳簿価額であり,その価額から事業規
模の縮小等を行った日(実施日)までの償却額を控除した価額が1号交付金額とな
る。
 6 争点(6)(交付金額)
(1) 被告の主張
ア本件各施設のうち,事業供用要件,不要要件を充足するのは,施設⑨
(航路浚渫)のみである。
   イ したがって,原告が交付金請求をできるのは,工事⑨(航路浚渫工事)
の工事費用について,基準日(平成10年3月31日)における簿価である569
2万3108円(別表(1)の⑨・C欄)から,事業規模の縮小等を行った日(実施
日,平成10年9月1日)までの減価償却額600万4218円(別表(1)の⑨・D
欄)を控除した5091万8890円(別表(1)の⑨・E欄)のみである。
ウ よって,被告が,原告の平成12年8月23日付け交付金請求に対し,
5091万8890円のみを認める旨の決定(甲2,本件交付金決定)をしたのは
適法である。
(2) 原告の主張
ア 本件各施設の設置工事費用の全てが,事業供用要件,不要要件を充足す
る。
   イ 本件各工事費用総額43億1639万6631円(別表(1)の合計・A
欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1日)にお
ける簿価(圧縮記帳前)は,25億3856万3458円(別表(1)の合計・F欄)
が妥当であり,原告は,被告に対し,1号交付金として25億3856万3458
円を請求できる。
   ウ したがって,本件交付金決定処分のうち,被告が認めた5091万88
90円を超え25億3856万3458円に達するまでの金額についての却下処分
は違法である。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本件交付金決定の処分性の有無)の検討
  (1) 交付金の請求及び交付手続等
前記第2の3(2)(航路指定,実施計画,交付金の交付,交付金の請求及び
交付手続)記載のとおり。
  (2) 交付手続の意味
    このような,交付金に関する制度の仕組みにかんがみれば,一般旅客定期
航路事業を営む者が上記所定の交付要件を具備するときは,所定の交付金の交付を
受けることができるという抽象的な地位が与えられ,その者が具体的に交付金の交
付を受けるためには,被告に交付金の申請をし,所定の交付要件を具備しているこ
との確認を受けなければならず,被告の交付金決定によって初めて具体的な交付金
請求権を取得するものである。
  (3) 判 断
    そうすると,被告の行う交付金の交付又は不交付の決定は,法を根拠とす
る優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり,上記事業者の上記権利
に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであるから,抗告訴訟の対象となる行政
処分に当たるものと解するのが相当である。
    以上は,労働者災害補償保険法23条1項2号に基づく労働福祉事業であ
る労災就学援護費の支給に関して,労働基準監督署長が行う同援護費の支給又は不
支給の決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解した,最高裁平成15
年9月4日判決・裁判所時報1347号1頁の趣旨に徴して明らかというべきであ
る。
(4) まとめ
  よって,本件交付金決定には処分性が認められる。
 2 争点(2)(取消しの対象となる行政処分の存否)の検討
  (1) 主位的請求の検討
   ア 取消しの対象となる行政処分の存否の検討
    (ア) 原告の主張
  原告は,次のとおり主張する。
     a 原告の平成12年8月23日付け交付金請求は,31億0476万
4809円の交付金請求(すなわち,1個の交付金請求)をしたものであり,交付
金請求書(甲1)の内訳欄に記載した1号交付金,3号交付金の記載は,交付金請
求に当たり,交付金申請の理由として,あえていずれかの各号に振り分けたものに
過ぎない。
       そして,被告は,原告の平成12年8月23日付け交付金請求に対
し,5091万8890円の限度で認め,その余を却下する旨の本件交付金決定
(すなわち,1個の交付金決定)をした。
b 原告は,被告に対し,1号交付金として25億3856万3458
円を請求することができる。
       そこで,原告は,本件交付金決定取消訴訟(主位的請求)で,本件
交付金決定のうち,5091万8890円を超え25億3856万3458円に達
するまでの金額についての却下処分の取り消しを求めているものである。
それゆえ,原告の主位的請求は,取消しの対象となる行政処分が存
在し,適法な訴えである。
(イ) 検 討
a 1号交付金と3号交付金の相違
      (a) 1号交付金
        1号交付金は,「船舶その他の事業の用に供する資産で政令で定
めるものの減価をうめるために要する費用」に相当する額として算定される交付金
である(法11条1号)。
        1号交付金の対象は,事業規模の縮小等の際に当該事業の用に供
しており,かつ,当該事業規模の縮小等により不要となる船舶,建物,構築物,車
両,機械及び装置,工具,器具及び備品,建設仮勘定並びに無形固定資産である
(法施行令3条,交付金省令1条)。
        そして,業務部長通知(乙5)で,「岸壁,道路等の公共施設の
設置等に要する費用の負担金等について,税務上繰延資産として処理されている場
合は,無形固定資産として取り扱う。」旨を定めている。
      (b) 3号交付金
        3号交付金は,「事業の円滑な転換又は残存する事業の適正な経
営を図るために必要な費用」に相当する額として算定される交付金である(法11
条3号)。
        3号交付金は,①「従前の営業利益を基準とする額」(法施行令
7条1項1号)と,②「転換後の事業又は残存する事業の用に供する資産の確保の
ために必要な費用の額のうち,事業規模の縮小等により不要となる資産をこれらの
事業に転用するための改造に要した費用,及びその他の特に必要な費用」(法施行
令7条1項2号)を対象としているものである。
      (c) 1号交付金と3号交付金の相違  
        このように,1号交付金と3号交付金とでは,その交付金の目
的・対象を異にしており,繰延資産(本件各工事費用)はそもそも3号交付金の対
象とはならない。
     b 平成12年8月23日付け交付金請求,本件交付金決定の個数
       それゆえ,次のとおり,原告の平成12年8月23日付け交付金請
求は2個の請求であり,被告の本件交付金決定も2個の決定であるといえる。
 (a) 原告は,平成12年8月23日付け交付金請求で,1号交付金
として5億4610万9984円の請求,3号交付金として25億5865万48
25円の請求(すなわち,2個の交付金請求)をした。
 (b) これに対し,被告は,本件交付金決定で,1号交付金請求につ
いては,一部認容(5091万8890円分)し,その余(4億9519万109
4円分)を却下し,3号交付金請求については,全部(25億5865万4825
円)を却下した(すなわち,1号交付金請求に対する交付金決定と,3号交付金請
求に対する交付金決定の2個の交付金決定をした)。
c まとめ
       ところが,原告は,被告の交付金決定は1個の交付金決定であるこ
とを前提に(このような交付金決定は存在しない。),5091万8890円を超
え25億3856万3458円に達するまでの金額についての却下処分の取り消し
を求めているのであり,原告の主位的請求は,存在しない行政処分の取消しを求め
る訴えであるから,不適法であるといわざるを得ない。
イ 禁反言違反の検討
(ア) 原告の主張
   原告は,次のとおり主張する。
     a 被告の行政指導
       原告が,本件各工事費用の無形固定資産に係る交付金について,1
号交付金と3号交付金に振り分けて請求したのは,次の理由からである。
      (a) 原告の総務部次長であったCは,被告業務部業務企画課課長代
理であるDから,1号交付金額は,交付金規程20条1号の書式の指示どおりに圧
縮記帳後の帳簿価額を記載すべきであり,これ以外の記載であれば,交付金請求書
自体を受理しないと言われた。
        そこで,原告は,1号交付金として,圧縮記帳後の帳簿価額に基
づいた請求をすることとした。
      (b) さらに,Cは,Dから,事業規模の縮小等を行った日(実施
日,平成10年9月1日)の時価額と圧縮記帳後の帳簿価格の差額については,3
号交付金として請求して欲しいと言われた。
        そこで,原告は,Dの指導のとおりに,実施日の時価額と圧縮記
帳後の帳簿価格の差額については,3号交付金の請求した。
     b 被告の行政指導に反する主張-禁反言違反
       ところが,被告は,本訴において,従前の行政指導と矛盾する主張
を行い,原告が,1号交付金について,5091万8890円を超えて25億38
56万3458円に達するまでの取消しを求めるのは,存在しない処分について取
消しを求めるものであり,不適法だと主張するに至った。このような,被告の主張
は,禁反言の法理に反し許されない。
    (イ) 検 討
a 被告は原告主張の行政指導をしていない
証拠(乙38~40)によると,次の事実が認められ,被告は原告
主張の行政指導をしていない。
      (a) Dを含め,被告側の関係者が,Cを始めとする原告担当者に対
し,本件各工事費用(繰延資産)について,3号交付金の対象となると話したこと
はない。
      (b) まして,被告側の関係者が,原告担当者に対し,本件各工事費
用(繰延資産)の交付金を,あらかじめ1号交付金と3号交付金とに分けて請求す
るよう,指示あるいは指導したことは全くない。
b 上記認定の根拠
      (a) 法11条,法施行令3条,同7条及び交付金省令1条によれ
ば,1号交付金と3号交付金の対象となる資産は異なり,1号交付金の対象となる
無形固定資産は,3号交付金の対象資産にはならないから,DがCに対し,3号交
付金の対象資産とならない上記無形固定資産(本件各工事費用=繰延資産)中の時
価額と圧縮記帳後の帳簿価格との差額について,3号交付金の請求をするような行
政指導をすることなど,考えられないことである。
      (b) 原告は,平成12年8月23日付け交付金請求(甲1)を行う
前の平成12年3月17日付け要請書(乙11の1)の中で,業務部長通知(乙
5)を引用して,税務上の繰延資産が無形固定資産として1号交付金の対象となる
資産に該当するとしたうえで,圧縮記帳後の価額5億7100万円が基準日の簿価
になるとして,これをもとに1号交付金を請求すると記載している。
        そして,基準日の簿価である5億7100万円から実施日までの
減価償却額(2511万1083円)を控除した額は,原告が1号交付金額として
平成12年8月23日付け交付金請求書に記載した繰延資産の価額(5億4610
万9984円)とほぼ合致する。
        それゆえ,原告が,平成12年8月23日付け交付金請求(甲
1)を行う前に,1号交付金と3号交付金の合計額を圧縮記帳前の価額31億47
6万4809円として請求する意思を有していたなどということも,考えられない
ことである。
      (c) 以上のことからすれば,Dが,Cに対し,実施日の時価額と圧
縮記帳後の帳簿価格の差額については,3号交付金として請求するように行政指導
したなどということは,およそ考えられないことである。
c まとめ
       以上の次第で,被告が,原告に対し,原告主張の行政指導をしたも
のとは認められないので,原告主張の禁反言違反はその前提を欠き理由がない。
(2) 予備的請求の検討
   ア 原告の平成12年8月23日付け交付金請求
     原告は,平成12年8月23日付け交付金請求の中で,被告に対し,1
号交付金5億4610万9984円の請求をしている(甲1)。これを詳しく説明
すると,次のとおりである。
     原告は,平成4年4月11日,本件各工事費用を税務上の繰延資産とし
て圧縮記帳をしたが,それが無形固定資産に該当するとして,圧縮記帳後の価額9
億2832万0337円(別表(1)の合計・B欄)から基準日(平成10年3月31
日)までの期間の減価償却額を控除した5億7122万1067円(別表(1)の合
計・C欄)から,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1日)ま
での減価償却額2511万1083円(別表(1)の合計・D欄)を控除した価額5億
4610万9984円(別表(1)の合計・E欄)が1号交付金額になるとして,同額
を請求したものである(甲1)。
   イ 被告の本件交付金決定
     被告は,上記原告の1号交付金5億4610万9984円の請求に対
し,その一部(5091万8890円分)を認容し,残部(5091万8890円
を超え5億4610万9984円に達するまでの分)を却下している(交付金請求
を認めなかった。甲2)。これを詳しく説明すると,次のとおりである。
     被告は,原告の1号交付金請求のうち,税務上繰延資産化した工事⑨
(航路浚渫工事)の費用について,基準日(平成10年3月31日)における簿価
である5692万3108円(別表(1)の⑨・C欄)から,事業規模の縮小等を行っ
た日(実施日,平成10年9月1日)までの減価償却額600万4218円(別
表(1)の⑨・D欄)を控除した5091万8890円(別表(1)の⑨・E欄)を限度
として,交付金請求を認めたが,それ以外の工事費用の繰延資産(工事①ないし⑧
⑩の費用)については,交付金請求を認めなかった(甲1,2)。
   ウ 原告の本件交付金決定処分取消請求中の予備的請求
     そこで,原告は,本件交付金決定処分取消訴訟を提起し,その予備的請
求の中で,税務上繰延資産化した本件各工事費用総額43億1639万6631円
(別表(1)の合計・A欄)について,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成1
0年9月1日)における簿価は25億3856万3458円(別表(1)の合計・F
欄)が妥当であり,1号交付金として25億3856万3458円を請求できるこ
とを前提に,被告に対し,本件交付金決定処分につき,被告が認めた5091万8
890円を超え,5億4610万9984円(原告の平成12年8月23日付け交
付金請求中の1号交付金分)に達するまでの金額について,却下処分を取り消すこ
とを求めている。
エ まとめ
     以上によると,原告の平成12年8月23日付け交付金請求中の1号交
付金請求の対象と,原告の本件交付金決定処分取消請求中の予備的請求の対象と
は,いずれも税務上繰延資産化した本件各工事費用(無形固定資産)であり,同一
であることが認められるので,本件交付金決定処分取消訴訟中の予備的請求は,取
消しの対象となる行政処分が存在することが認められる。
     そして,原告は,被告が本件交付金決定の中で却下した処分(5091
万8890円を越え5億4610万9984円に達するまでの交付金を認めなかっ
た処分)の取消しを求めているのであるから,本件交付金決定処分取消しの訴え
(予備的請求)は適法な訴えである。
 3 争点(3)(交付金請求の適法性)の検討
(1) 前記1(争点(1)-本件交付金決定の処分性の有無の検討)で検討したと
おり,交付金の交付又は不交付の決定は行政処分であり,処分取消訴訟の対象とな
る。そのため,交付金の交付に係る争訟については,取消訴訟の排他的管轄に服す
ることになり,交付決定に無効となる瑕疵がある場合を除き,処分取消しの訴えに
よらずに,その処分の内容の実現(交付金の交付)を直接訴訟で求めることはでき
ない。具体的な交付金請求権は,被告の交付金交付決定ないしは交付金不交付決定
に対する取消訴訟の確定によって初めて発生するものである。
(2) したがって,原告の本件交付金請求訴訟は,取消訴訟の排他的管轄に反す
る不適法な訴えであり,却下を免れない。
 4 争点(4)(事業供用要件及び不要要件)の検討
  (1) はじめに
    原告は,公有水面の埋立免許を兵庫県知事から得るにあたり,本件各工事
を行うことが条件となっており,平成4年3月末までに本件各工事を完成させ,同
年4月11日,本件各工事によって完成させた本件各施設を兵庫県に贈与(無償移
管)し,本件各工事費用については,税務上の繰延資産として処理し,原告の固定
資産台帳等に圧縮記帳をした(前記第2の2(4)(5))。
    そして,法11条1号,法施行令3条,交付金省令1条,業務部長通知
(乙5)により,上記繰延資産が1号交付金の対象となる無形固定資産に該当する
ものとされている。
    この趣旨は,自らの事業の必要に基づき公共施設の設置等の費用を負担し
た一般旅客定期航路事業者が,その公共施設が上記事業者の所有でなくなっている
場合であっても,当該公共施設をもっぱら利用し,1年以上にわたり費用支出の効
果を受けている場合には,単に,その公共施設が事業者の固定資産に該当しないと
して,交付金交付の審査から除外せずに,1号交付金の対象資産に含め,例外的に
救済しようというものである。
    このように,税法上認められた繰延資産についても,政策的な配慮から,
業務部長通知(乙5)により,特定事業用資産となりうる資産(無形固定資産)と
して認めたとはいっても,業務部長通知はあくまでも法,法施行令,交付金省令の
範囲内における運用の方針である以上,無形固定資産として取り扱うことが認めら
れる繰延資産が本件交付金の対象となるためには,法施行令3条が定める事業供用
要件及び不要要件を充足しなければならないことは当然である。
    したがって,上記繰延資産(本件各施設)についても,法施行令3条が定
める事業供用要件及び不要要件を充足するか否かを検討することとなる。
  (2) 本件各工事の内容
    本件各工事の内容は,次のとおりである。
   ア 工事① -2.2物揚場築造工事(別紙図面(1)の赤色部分)
     埋立によってできたフェリー施設用地(別紙図面(1)の乙部分)と小型船
たまり(別紙図面(1)の丙部分)とが接するふ頭に,小型作業船10隻程度を対象と
した-2メートル物揚場を300メートルにわたって築造する工事である(乙7の
24,53頁,乙8の52頁)。 
   イ 工事② 防潮堤用地工事(別紙図面(1)の青色部分)
     埋立によってできたフェリー施設用地(別紙図面(1)の乙部分)の外周
に,防潮堤を整備する工事である(乙8の71頁)。
   ウ 工事③ 防潮護岸復旧工事(別紙図面(2)(3)の緑色部分)
     埋立地(別紙図面(3)の甲乙の埋立工部分)は防潮堤に囲まれた水面貯木
場内にできることから,埋立てに関する工事を施行するためには,まず,既設の防
潮堤の撤去が必要であり,埋立地が完成後にその撤去した既設の防潮護岸を復旧さ
せる工事である(乙8の47,52,72頁)。
   エ 工事④ -5.5岸壁防潮堤築造(別紙図面(1)の桃色部分)
     新設されるフェリーふ頭部分に設けられる防潮堤の築造工事である(乙
7の28頁)。
   オ 工事⑤ 防潮ゲート設置工事(別紙図面(1)の黄色部分)
     工事④によって築造された防潮堤の一角に,防潮堤の一部として可動す
る施設の設置工事である(乙8の55,64頁)。
   カ 工事⑥ 帰属植栽工事
   キ 工事⑦ 基地外付帯道路植栽工事
   ク 工事⑧ A.B護岸築造工事(別紙図面(1)(2)(3)の紫色部分)
     上記埋立が既設の防潮堤を一部撤去して行われることから,小型船船た
まり(別紙(1)(2)の丙部分)の一部について,後背地を海水の浸食等から防護する
ための護岸工事である(乙8の51,55頁)。 
   ケ 工事⑨ 航路浚渫工事(別紙図面(3)の浚渫工部分)
     フェリー入出港時に操船水域を確保するため必要となる-5.5メート
ル泊地浚渫工事である(乙8の64頁)。
   コ 工事⑩ 管理道路工事(別紙図面(1)の黄緑部分)
     防潮堤の管理を遺漏なく行うための道路設置工事である(弁論の全趣
旨)。
  (3) 事業供用要件及び不要要件の検討
   ア 施設①(ー2.2物揚場)の検討
     ー2.2物揚場(別紙図面(1)の赤色部分)は,港内は小型船船だまりが
不足していることから,港湾活動の円滑化,港内航行の安全に資するため,小型作
業船10隻程度を収容するための施設である(乙7の29頁)。
     そして,ー2.2物揚場は,事業規模の縮小等を行った日(実施日,平成
10年9月1日)において,原告の旅客船定期航路事業の用に供されていたもので
はないから,事業供用要件を充たさない。
     また,原告は,一般旅客定期航路事業廃止後も,当該埋立地において,
転換後の事業である冷蔵冷凍倉庫事業を営むことにしているが,原告にとって,ー
2.2物揚場の役割は,一般旅客定期航路事業廃止後も基本的に変化はなく,不要要
件も充たさない。
   イ 施設②ないし⑤,⑧,⑩(防潮堤,防潮護岸,ー5.5岸壁防潮堤,防潮
ゲート,A.B護岸及び管理道路)の検討
    (ア) 防潮堤(別紙図面(1)の青色部分)及びー5.5岸壁防潮堤(別紙図
面(1)の桃色部分)は,異常気象時における高潮被害から埋立地及び後背地を防護す
るための施設である(乙8の71・72頁)。
      防潮護岸(別紙図面(2)(3)の緑色部分)は,既設の防潮護岸を撤去し
た後それを復旧させたものであり,異常気象時における高潮被害から後背地等を防
護するための施設である(乙8の71・72頁)。
      防潮ゲート(別紙図面(1)の黄色部分)は,防潮堤の一部をなすもので
あり,防潮堤の一角に設けられた可動施設で,異常気象時に閉鎖し,防潮堤の一部
として,高潮被害から埋立地及び後背地を防護するための施設である(乙8の7
1・72頁)。
      A.B護岸(別紙図面(1)(2)(3)の紫色部分)は,小型船船だまりを囲
む護岸であり,民間企業等の立地する後背地を海水の浸食等から防護するための公
共施設である(乙7の53頁,乙9の1)。
      防潮堤の管理道路(別紙図面(1)の黄緑部分)は,防潮堤の管理を遺漏
なく行い,防潮堤の有する防災機能を十全に発揮させるために設置された道路であ
る(弁論の全趣旨)。
    (イ) 上記いずれの施設も,実施日(A新フェリー基地を廃止した日)に
おいて,原告の一般旅客船定期航路事業の用に供されていたものではなく,原告も
上記各施設が,原告の行っていた一般旅客定期航路事業とは何ら関係がないことを
自認している(乙11の2)から,事業供用要件を充たさない。
      また,原告は,一般旅客定期航路事業廃止後も,当該埋立地におい
て,転換後の事業である冷蔵冷凍倉庫事業を営むことにしているが,原告にとっ
て,上記施設の役割は,一般旅客定期航路事業廃止後も基本的に変化はなく,不要
要件も充たさない。
   ウ 施設⑥⑦(帰属植栽及び基地外付帯道路植栽)の検討
     施設⑥(帰属植栽)については,原告は,訴状でその場所を明確にせ
ず,本件口頭弁論終結時においても明確になっておらず,施設⑦(基地外付帯道路
植栽)については,訴状にその場所が記載されていたが,原告準備書面(6)には,そ
の場所は特定することができないと記載され,本件口頭弁論終結時においてもその
場所は明確になっていない。
     このように,施設⑥⑦は,植栽された場所が特定されていない以上,事
業規模の縮小等を行った日(実施日,平成10年9月1日)において,原告の一般
旅客定期航路事業の用に供されていたものと認めることはできず,事業供用要件を
充たさず,また,不要要件も充たさない。
   エ 施設⑨(航路浚渫)の検討
     施設⑨(航路浚渫,別紙図面(3)の浚渫工部分)が事業供用要件及び不要
要件を充たしていることは,当事者間に争いがない。
 5 争点(5)(帳簿価額の意義)の検討
  (1) はじめに
    法施行令5条2項1号は,基準日における帳簿価額から事業規模の縮小等
を行った日(実施日)までの償却額を控除した額が,1号交付金の額となると規定
している。そして,この帳簿価額の意義について,被告は,会計帳簿に記載された
価額をいうと主張するのに対し,原告は,圧縮記帳前の工事費用額をいうと主張す
る。
  (2) 立法趣旨
   ア この点につき,原告は,1号交付金は,一般旅客定期航路事業者の投下
資本の未回収部分を填補しようとするものであるから,これと最も適合するのは,
基準日における時価,すなわち,圧縮記帳前の工事費用額を帳簿価額とし,同価額
から実施日までの償却額を控除した額が,1号交付金額となると主張する。
   イ 確かに,本件交付金に関する法令の趣旨には,投下資本の未回収部分の
填補という側面もある。
     しかし,本州四国連絡橋の供用により,交通手段として競合する一般旅
客定期航路事業が大きな影響を受けるが,これは,公共事業のために土地が取得な
いし使用される場合とは異なり,交通手段の競合による事実上の影響とみるべきも
のであり,本来的には損失補償の対象とはならないものである。
     けれども,本州四国連絡橋の供用により,一般旅客定期航路事業者の中
には,事業の廃止や縮小を余儀なくされ,それに伴い離職者も相当数発生すること
が見込まれ,これらの広範かつ多大な影響を事業者のみの対応や地域経済社会の自
立的な調整によって解決することが困難であることや,これを放置すると社会的な
混乱を招くおそれがあること等の観点から,法によって特に助成措置として交付金
を交付することとしたものである(乙2の2,乙6)。
このように,本件交付金は,損失補償金ではなく,助成金ないしは補助
金に過ぎないのであり,一般旅客定期航路事業者が,一般旅客定期航路事業のため
に資本を投下したとしても,その投下資本のすべてを当然に被告が助成すべきであ
るということにはならず,その投下資本の未回収分のうち被告が交付金で助成する
範囲をどの程度と規定するかは,すぐれて立法政策上の問題である。
そして,それを規定したのが,法施行令3条,5条の規定であり,同3
条で対象資産の範囲を画し,同5条で費用の算定基準を設けて,助成の対象となる
資産の減価の範囲を規定したのである。
   ウ しかも,原告が本件各工事により設置した本件各施設(護岸等)は,前
記第2の2(4)(5)のとおり,公有水面埋立免許条件により,埋立竣工の際に兵庫県
に贈与(無償移管)され,原告には残されていない。
     すなわち,本件各施設は,そもそも基準日(平成10年3月31日)に
おいて,原告所有の資産ではなく,ましてや,本件各施設等が繰延資産となるもの
でもなく,原告が本件各施設を施工するために要した費用が,当然に繰延資産にな
るものでもない。あくまでも,上記費用を法人税法に定める償却方法に従って繰延
経理した場合においてのみ,法人税法上これらの繰延費用が繰延資産として認めら
れているのである。
     そして,このように税法上認められた繰延資産について,特に政策的な
配慮から,業務部長通知(乙5)により,特定事業用資産となりうる資産(無形固
定資産)として認められたにすぎないのである。
     それゆえ,本件で問題となっている本件各施設の工事費用の繰延資産に
ついては,圧縮記帳前の工事費用額を帳簿価額とし,同価額を基準とした完全な助
成をする必要性に乏しいといえる。
  (3) 帳簿価額の意義
    以上の立法趣旨からすると,法施行令5条2項1号のいう基準日における
帳簿価額は,文字どおりに会計帳簿に記載されている価額と解すべきであり,基準
日における会計帳簿に記載された価額(圧縮記帳後の価額)から実施日までの償却
額を控除した額が,1号交付金額になると解するのが相当である。
    法施行令5条2項1号が帳簿価額と規定したのは,帳簿価額は,公正な取
引慣行に従って会計帳簿に記載され,客観的で信頼できる価額であるからであり,
仮に実施日における時価を基準とすると,資産保有中の市場価額の変動によって交
付金額に多寡が生じ,不衡平な結果が生じるが,これを帳簿価額を基準とすると,
資産の時価評価を行うことに伴う手間や費用負担が不要になり,交付金算定の定型
的処理が可能となる結果,事務処理が簡易,迅速化され,費用の節減が図られ,当
事者双方の利益にもかなうのである。
 6 争点(6)(交付金額)の検討
   以上の4(争点(4)-事業供用要件及び不要要件の検討),5(争点(5)-帳
簿価額の意義の検討)によると,本件各施設のうち事業供用要件及び不要要件を充
足するのは,施設⑨(航路浚渫)のみである。そして,工事⑨の費用(浚渫工事費
用)については,基準日(平成10年3月31日)における圧縮記帳後の帳簿価額
である5692万3108円(別表(1)の⑨・C)から,事業規模の縮小等を行った
日(実施日,平成10年9月1日)までの償却額である600万4218円(別
表(1)の⑨・D)を控除した5091万8890円(別表(1)の⑨・E)をもって,
1号交付金額と認めるのが相当である。
   それゆえ,被告の本件交付金決定(原告の1号交付金5億4610万998
4円の請求に対し,5091万8890円のみを認め,その余は却下した交付金決
定)は適法であり,原告の本件交付金決定処分取消請求(予備的請求)は理由がな
い。
第5 結論
   以上の次第で,原告の交付金決定処分取消請求中,主位的請求の訴えは不適
法であるから却下し,予備的請求は理由がないので棄却し,原告の本件交付金請求
は不適法であるから却下し,主文のとおり判決する。
    神戸地方裁判所第2民事部
         
        裁判長裁判官  紙浦健二
          
 
      裁判官  今中秀雄
 
           裁判官  秋田志保

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