弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 昭和四八年三月八日執行の青森県五所川原市市長選挙の効力に関し原告らがし
た審査の申立てに対し、被告が昭和四九年一月一六日にした審査申立て棄却の裁決
を取り消す。
二 右選挙を無効とする。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 原告らの求める裁判
主文同旨の判決
二 被告の求める裁判
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
第二 主張
一 原告らの請求原因
1 原告らは、昭和四八年三月八日執行の青森県五所川原市市長選挙(以下本件選
挙という。)の選挙人である。原告Aは、同年三月二二日本件選挙の効力に関し青
森県五所川原市選挙管理委員会(以下市委員会という。)に対し異議の申出をな
し、市委員会から同年四月二五日異議申出棄却の決定書の交付を受けたので、原告
らは、同年五月一〇日被告に対し本件選挙の効力に関する審査の申立てをしたとこ
ろ、被告は、昭和四九年一月二二日原告らに対し右審査の申立てを棄却する旨の裁
決書を交付した(原告らは、同年二月一八日本件訴えを提起した。)。
2 しかし、本件選挙には、次のような選挙の規定の違反及び選挙の自由公正が著
しく阻害された事実があり、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあつて、本件選挙
を無効とすべきである。
(一) 本件選挙の開票管理者は、開票所を開いた後開票立会人三人中二人(B及
びC)が開票所から立去つたにもかかわらず、開票立会人を選任しないで開票事務
を行ない開票を終了した(公職選挙法(以下法という。)六二条八項違反)。
(二) 本件選挙においては、正規の投票用紙が市委員会の定めた枚数以上に印刷
(水増印刷)されて外部に流れ、これが不正な投票に使用された疑いが濃厚であ
る。これは、投票日の翌日正規の投票用紙とみられる多数の投票用紙が投棄せられ
ていた事実、投票用紙の印刷に立会つた市委員会の委員の供述の変転、審査申立て
に対する市委員会の弁明書のあいまいさ及び廃棄すべき用紙の処理方法の不自然等
の事実から明らかであつて、このような不正は、選挙の規定違反に該当し、選挙の
結果に異動を及ぼすおそれがある。
(三) 青森県五所川原市新町所在増田病院は公職選挙法施行令(以下令とい
う。)五五条二項二号により指定された病院であり、同病院の院長Dは同号により
不在者投票管理者であつたが、同人は、入院中の選挙人に対し自己が選挙責任者と
して記載してある本件選挙の候補者Eの選挙運動用通常葉書を交付して、法一三五
条二項に違反して業務上の地位を利用した選挙運動を行なつた。これは、選挙の規
定違反に該当する。かりにしからずとしても、市委員会は、不在者投票管理者たる
Dに対し違法な行為がないよう指導し、違法な行為があつたとぎは適切な措置をす
べき義務があるのに、これを怠つた。これは、法六条一項に違反するものである。
(四) F、G、H、I、J及びKは、本件選挙の投票管理者に選任され、昭和四
八年二月二五日その選任の告示がなされたものであるが、上記六名は、本件選挙の
候補者Eの選挙運動用通常葉書に推せん人として名前を連ね、法一三五条一項に違
反して、在職中、その関係区域において、選挙運動を行なつた。これは、選挙の規
定違反に該当する。かりにしからずとしても、市委員会は、前記六名の投票管理者
に対し違法な行為がないよう指導し、違法な行為があつたときは適切な措置をすべ
き義務があるのに、これを怠つた。これは、法六条一項に違反するものである。
(五) 本件選挙の梅沢第一投票所の選挙人名簿抄本上中下三冊のうち上三七五名
分及び下三五九名分並びに栄第一投票所の選挙人名簿抄本のうち七ツ舘三三九名分
及び広田四七二名分については、投票事務従事者が選挙人に投票用紙を交付する
際、右名簿抄本と対照して、確認印を押捺すべきであるのに、単に鉛筆で○印又は
●印を記しただけの処理をしている。これは、令三五条一項に違反するものであ
る。かりにしからずとしても、令三五条一項の確認が正規に行なわれず、○印又は
●印がされている選挙人が来場しなかつたのに、それと同数の投票がなされている
ものであつて、この不正事実を隠蔽するため、正規の確認印を押捺せずに○印又は
●印で処理したものである。
(六) 本件選挙の毘沙門第一投票所の投票管理者は、不在者投票に用いられた空
の不在者投票用外封筒及び内封筒一〇四人分を、本来選挙長に送付すべきであるの
に、投票当日右投票所内のストーブに投入し焼却した。このような行為は選挙に管
理執行に関する規定に違反しているのみならず不在者投票が正規の手続によつて選
挙人から送致されず、不正に個人が不在者投票をまとめて送付したので、これを受
理すべきでないのに、違法に受理した不正事実を隠蔽するためになされた疑いが濃
厚である。
(七) 本件選挙の候補者Eは、法一六三条に違反して市委員会に申出をせずに、
昭和四八年二月二七日公営施設である梅田公民館・中泉公民館及び広田公民館にお
いて個人演説会を開催した。市委員会は、右開催を知りながら、中止を勧告し、警
告する等の措置をとらなかつたものであり、これは市委員会が公明選挙の指導監督
の義務を懈怠したものである。
(八) 市委員会は、令五三条一項一号の規定に違反して、令五〇条一項の規定に
よつて交付の請求を受けた投票用紙及び投票用封筒を選挙人に直接に交付し又は郵
便をもつて発送せず、請求者数人分の投票用紙及び投票用封筒を一括してそのうち
の一人の請求者に送付した。このように一括して送付した分は、九九二名分であ
る。また、市委員会の一括送付分の中には、選挙人が交付の請求をしていないの
に、何者かが本人の意思に関係なく請求し、右投票用紙が本人に交付されず本人へ
の送付の通知もない例がある。以上のような違法な一括送付によつて、送付を受け
た者が自己の支持しない候補者を支持する請求者への投票用紙等の交付を遅らせて
投票の妨害をし、又は送付を受けた者が請求者になりすまして投票の偽造をする等
の弊害が発生した。本件選挙における当選人と次点者との間の得票差は、三五四票
であつて、前記のような一括送付の数からみると、その違法は、選挙の結果に異動
を及ぼすおそれがある。
3 よつて、第一、一記載の裁判を求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1 請求原因1の事実を認める。
2 (一)請求原因2(一)の事実を否認する。
(二) 同2(二)の事実を否認する。
(三) 同2(三)の事実中、原告主張の病院が令五五条二項二号により指定され
た病院で、院長Dが同号により不在者投票管理者であつたこと及び同人がE候補の
選挙運動用通常葉書に選挙責任者として氏名が記載されこれが選挙人に頒布されて
いることを認める。しかしそれだけでは、同人が不在者投票に関し、特にその者の
業務上の地位を利用して選挙運動をしたものと認めることはできないので、原告の
主張は理由がない。
(四) 同2(四)の事実中、原告挙示のF他五名が本件選挙の投票管理者であつ
たこと、及び同人らがE候補の選挙運動用通常葉書に名を連ねていることは認め
る。しかし、右事実をもつてしては、選挙の管理執行の規定違反とはいえず、又法
の基本理念に反する程度に選挙の自由公正が害れたとも認められない。
(五) 同2(五)の事実については、原告主張の処理が選挙の規定に違反するも
のではないし、原告主張の不正事実は否認する。
(六) 同2(六)の事実中、原告主張のとおり空の不在者投票用外封筒及び内封
筒一〇四人分が焼却された事実は認める。しかし、右不在者投票については所定の
審査が行なわれ適法に受理と決定されたもので、原告主張のような不正の事実は全
くない。
(七) 同2(七)の事実中、原告主張の公民館が法一六一条一項一号の公営施設
であることは認める。候補者Eが原告主張の日個人演説会を開催することについて
は、市委員会になんらの届出なく、従つて市委員会の全く関知しなかつたところで
ある。
(八) 同2(八)の事実中、原告主張のいわゆる一括送付があつたこと及びその
数を認め、その余の事実を否認する。市委員会が右のいわゆる一括送付をした理由
は、郵送料等の経費の節減と選管事務の省力にあつたもので、その方法において
も、同一居所に在る数人の請求者のうちから無作為に一人を選んで、この者に請求
者全員の名を連記した送付書を添付したうえ不在者投票用紙等を郵送したものであ
り、すべて事務的に処理し、その間なんらの作為も加えられていない。そして、原
告らは、選挙人本人の意思に関係なく不在者投票用紙等が請求されたとか、一括送
付を受けた者が他の者の投票を妨害したとかの事実があつたと主張するが、審査申
立てを受けた際被告が、原告らの提出したものはもちろんその他あらゆる資料を調
査したけれども、右のような事実の発生は全く発見できなかつた。また法四九条一
号の事由による不在者投票用紙交付数のうちの、いわゆる一括送付分中の投票者数
の割合(八三・七七パーセント)は、個別送付分中の投票者数の割合(八四・四九
パーセント)と殆んど差異がなく、原告らのいう一括送付を受けた者が他の投票を
妨害するおそれは、全くの杞憂にすぎないことが明らかである。結局、いわゆる一
括送付が選挙の管理執行の規定に違背するとしても、選挙の結果に異動を及ぼすお
それはなく、原告の主張は理由がない。
○ 理由
一 原告らの請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告らの請求原因2の各項目について判断する。1 請求原因2
(一)について
いずれも成立に争いのない乙第二号証の二から六まで(開票管理者L、市委員会委
員M、同N、市委員会事務局長心得O、開票立会人B及び同Pの各聴取書)によれ
ば、本件選挙の開票立会人は、原告主張のB及びCを含め全員開票事務終了まで参
会し立会つた事実を認めることができ、成立に争いのない乙第二号証の一(開票立
会人Cの聴取書)中の同人の供述部分は、その内容に照らし措信できないし、証人
Q及び同Rの各証言並びに成立に争いのない甲第九号証(新聞記事)も、右認定を
左右するものではない。よつて、この点に関する原告の主張は採用することができ
ない。
2 請求原因2(二)について
いずれも印刷された投票用紙の紙片であることに争いのない甲第一号証の一から六
一まで及び同第二号証の一から一〇七まで、証人S、同L、同M及び同Tの各証言
並びにいずれも成立に争いのない乙第二号証の二、四及び七から一一まで(市委員
会委員長L、市委員会委員M、市委員会事務局長心得O、陸奥印刷株式会社社長
U、同会社機械長S及び同会社製本長Vの各聴取書)によれば、市委員会は、本件
選挙の投票用紙として不在者投票用紙五〇〇〇枚、記号式投票用紙三万枚を印刷す
ることを決定したが、前者は昭和四八年二月一七日市委員会の委員全員立会の下
に、後者は同年三月一日委員長L、委員M及び同T立会の下に(委員Nは所用のた
め立会せず、また委員Tは長尾委員を待つていたため遅れて立会つた。)、いずれ
も訴外陸奥印刷株式会社において、前記枚数どおり印刷され、他に市委員会の決定
した枚数を超えて印刷(いわゆる水増印刷)された事実はないことが認められる。
原告らは、前掲甲第一号証の一から六一まで及び同第二号証の一から一〇七までな
どの投票用紙が紙屑として捨てられていたこと、投票用紙の印刷に立会つた委員の
供述の変転(甲第六号証((昭和四八年第一回五所川原市議会定例会会議録抄
本)))などを根拠に、いわゆる水増印刷がされた疑いが濃厚であると主張する
が、前掲証拠によれば、右紙屑として捨てられていた紙片は、印刷途中で生じた試
験刷り又は印刷の失敗による用紙を、立会つた委員の承諾の下に印刷会社機械長及
び製本長が破りすて又は機械で裁断して使用不能にしたものであることが認められ
るので、いわゆる水増印刷を疑うべき根拠とはならず、また委員の供述の変転など
も、前掲証拠によれば、一部の記憶違いあるいは説明の不十分によるものと認めら
れ、これまた不正事実を疑う理由とはならない。そして、古物商店に勤める証人W
は、同人が前記の紙片を発見したのは三月二日か三日頃である旨証言しており、更
に成立に争いのない甲第八号証に照らし、証人Rは、前記印刷会社で投票用紙が印
刷されたとする三月一日午後に出た紙屑等のごみは、三月五日にならなければ五所
川原市の収集車で集められて前記Wの勤務している古物商に届けられることがない
ことを根拠に、原告らのいう水増印刷は三月一日前になされた疑いがあると述べる
のであるが、前掲乙第二号証の二及び西によると、正規の投票用紙は市委員会の印
がなければ印刷できないものであるところ、右印八個は、市委員会の委員全員によ
る封印がなされた封筒に入れられて市委員会のキヤビネツト中に保管されており、
本件選挙の告示日である昭和四八年二月二六日(成立に争いのない乙第三号証の二
により認める。)以後は、委員Tが右キヤビネツトの鍵を持ち保管にあたつていた
こと、そして三月一日前記の印刷がされた際は、右印在中の封筒の封印は完全であ
つたこと以上の事実が認められるのであつて、これらの事実によれば、前記証人R
のいう疑いも根拠が薄弱で、Wの証言も記憶違いから出たものと考えられるのであ
つて、前記の認定を左右するに足りない。そして、他に原告ら主張の不正事実を疑
うべき証拠はないから、原告らのこの点に関する主張も採用するに由ないものであ
る。
3 請求原因2(三)及び(四)について
青森県五所川原市新町所在増田病院が令五五条二項二号により指定された病院で、
その院長Dは同号により不在者投票管理者であつたが、本件選挙の候補者Eの選挙
運動用通常葉書に選挙責任者としてその氏名が記載され、これが選挙人に頒布され
た事実及びF、G、H、I、J、Kの六名が本件選挙の投票管理者として選任され
ていたのに、右E候補の選挙運動用通常葉書に推せん人として名前を連ねていた事
実、以上については当事者間に争いがない。そして、右選挙運動用通常葉書が右F
ら六名の投票管理者の関係区域においても選挙人に頒布されたことは容易に推認さ
れ、右六名の投票管理者が法一三五条一項によつて禁止されている選挙運動をした
ことは認められるのであるが、本件の全証拠をもつてしても、不在者投票管理者た
るDが、同条二項によつて禁止される業務上の地位を利用した選挙運動をしたこと
を認めるに足りない。しかして、原告らは、右法一三五条の違反は、選挙無効の原
因である選挙の規定違反にあたると主張するのであるが、法二〇五条一項の選挙の
規定違反とは、選挙の管理執行に関する規定の違反を意味し、法一三五条のような
選挙運動の取締規定の違反を含まないと解すべきであるから、この点に関する原告
らの主張は採用できない。しかしながら、選挙無効の原因には、管理執行に関する
明文の規定に反しなくても、選挙執行機関が特定の候補者に対し偏頗な行為をし、
それが著しく選挙の自由公正を害するに至つた場合を含むものと解すべきであるか
ら、この点について検討を加える。投票管理者が投票に関する事務を担任し(法三
七条四項)、選挙執行機関の一部を構成すもものであることは疑いのないところで
ある。しかし、投票管理者は、投票区毎に選任され(成立に争いのない乙第一号証
によれば、本件選挙においては、三二の投票区が設けられている。)、その職権の
行使については制度上投票立会人によつてその恣意的な行使が阻まれる仕組となつ
ており(法四八条、五〇条等参照)、また選任の要件は選挙人であることのみであ
つて、その者の党派的な傾向等は選任の要件とはなつておらないのである(当庁昭
和三一年六月二一日判決行政裁判例集七巻一一号二五四五頁参照)。そうであると
すれば、投票管理者であることによる影響力は限られたものであり、その言動であ
るからといつて、一般の選挙人が投票意思の決定につき強く左右されるものとはい
いがたいものというべきであつて、これらの点については、不在者投票管理者もほ
ぼ同様であると判断される(原告Xは、Dの影響力は多大である旨供述するが、同
人の影響力は主として病院長であることによるのであつて、不在者投票管理者であ
ることは、選挙人の投票意思の決定には、さほど影響しないというべきであ
る。)。しかして、投票管理者等の選挙事務従事者は、一般に多数にのぼるのであ
つて、それぞれの偏頗な行為をすべて選挙無効の原因とすると、一部の者が選挙の
無効を期待してあえて偏頗な行為をすれば、その者の望むとおりの結果を産み、民
主制度そのものを破壊に導くおそれなしとしないのであつて、このような観点から
すると、偏頗な行為があつても著しく選挙の自由公正が害されない限り選挙を無効
とすべきではないのである。そして、本件においてみられる投票管理者らの行為
が、前記のとおり選挙運動用通常葉書に名を連ねる程度のものである以上、これを
もつて選挙の自由公正を著しく害するに至つたものとはいえず、選挙を無効とする
ことはできない。また、原告らは、市委員会が法六条一項に違反したと主張するけ
れども、そのような事実を認めるべき証拠はなく、この点についても、原告らの主
張は採用できない。
4 請求原因2(五)について
原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証の一から二一まで及び同第五号証の一
から二三まで(選挙人名簿抄本表紙及び内容)並びに弁論の全趣旨によれば、原告
ら主張の選挙人名簿抄本について、名簿対照の確印がなく、単に鉛筆で○印又は●
印を記しただけの処理がなされていることが認められる。しかし、いずれも成立に
争いのない乙第二号証の一四から一六まで(栄第一投票所の投票事務従事者Y、梅
沢第一投票所の同Z及び同P1の各聴取書)によれば、右○印又は●印で処理した
ものでも選挙人の名簿対照確認は、適式に行なわれていた事実を認めることがで
き、右認定を左右すべき証拠はない。しかして、名簿対照確認をしたものにつき確
認印を押捺することは、望ましいことではあるが、それがなく右のように処理した
としても、令三五条一項に違反するものとは解されないから、この点に関する原告
らの主張も採用できない。
5 請求原因2(ハ)について
原告主張の投票所において、不在者投票に用いられた空の不在者投票用外封筒及び
内封筒一〇四人分が、投票当日投票所内のストーブに投入され焼却された事実は、
当事者間に争いがない。原告らは、これは、不在者投票管理者から送致されたもの
でない不在者投票を不正に受理した事実を隠蔽するためになされたものである旨主
張するが、証人P2及び同P3の各証言及び乙第二号証の一七から二〇まで((毘
沙門第一投票所の記録係P3、同投票所の立会人P4、同投票所の投票管理者P2
及び同投票所の立会人P5の各聴取書)によれば、原告主張のような不正事実は認
められない。証人P6は、封筒に不在者投票管理者名の記載又はその封印のないも
のがありこれを指摘したのに投票管理者らがこれを無視して強引に焼却した旨証言
するが、反対尋問においては、被告による調査の際には、不在者投票管理者名の記
載のない封筒があつたことは述べなかつたと証言しており、同人の証言はそれ自体
信用性が薄く、前記の認定を左右するに足りないし、他に右認定を動かすべき証拠
はない。そして、右封筒の焼却は、令四五条に違反したものであるが、右認定の事
実からすると、選挙の結果に異動を生ずるおそれありと認定するに足りないものと
判断される。そうとすれば、この点に関する原告の主張も理由なきに帰する。
6 請求原因2(七)について
候補者が法一六三条に違反して公営施設で個人演説会を開催した事実を、選挙管理
委員会が知りながら、その中止を勧告し又は警告を発する措置をとらなかつたとし
ても、選挙の管理執行に関する規定に違反したものとはいえず、原告らの主張は採
用するに由ないものである。
7 請求原因2(八)について
市委員会が令五〇条一項の規定によつて交付の請求を受けた投票用紙及び不在投票
用封筒等を、数人分一括してそのうちの一人の請求者宛に送付したこと及びその数
が九九二名分であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一三号
証並びに証人O及び同P7(第一及び第二回)の各証言によると、送付の方法は、
右数人分の不在者投票用紙等に、それらの者の氏名住所を記入した送付書をそえ
て、そのうちの一人宛に郵送したものであり、その件数は三六九件、そのうち不在
者投票をしたものは、三一三件八三一名であつたことが認められる。令五三条一項
一号は、令五〇条一項の場合にあつては、選挙人に直接に交付し、又は郵便をもつ
て発送しなければならない旨を規定しているのであるから、右のような一括送付
は、この規定に違反していることが明らかである。しかして、証人R及び原告X
は、右のような一括送付が特定の候補者の支持者宛になされていると証言又は供述
するのであるが、成立に争いのない乙第二号証の四並びに証人O及び同P7(第一
回)の証言によれば、一括送付の宛先を決めるについて、抽選等の特別の方法がと
られたわけではないけれども、ほぼ無作為的になされたことが認められ、右の証言
又は供述どおりの事実を認めるべき証拠はない。
しかしながら、原告らは、右一括送付分の中には、選挙人が交付の請求をしていな
いのに、何者かが本人の意思に関係なく請求した等の例があると主張するので、不
在者投票用紙等の請求の受理手続について検討するに、前掲乙第二号証の四及び証
人Oの証言によれば、本件選挙においては、一人の者が選挙人の使者と称して一度
に四〇〇人から五〇〇人分(乙第二号証の四では、九百数十枚とか五百数十枚とか
の宣誓書及び請求書を持参したと述べている。)の請求をしてきたことがあり、そ
のような請求をしてきた者は二人であるが、それ以下の請求者数(枚数)のものは
さらに多数あつたものであるところ、市委員会では、宣誓書等の書類さえととのつ
ておれば、右の使者と称するものに対し、請求者本人からいつどのように請求を依
頼されたかについて個々具体的に確認することなく、これを受理していた事実を認
めることができる。証人P7は、その第一回及び第二回の尋問において、使者であ
ることの確認は、宣誓書の代理記載人氏名欄にその使者と称する者の署名(第一回
の証言では署名捺印)をさせて行なつていたと証言するのであるが、成立に争いの
ない甲第一二号証の一の一から四四の五まで(本件選挙における「不在者投票用紙
及び同封筒の送付について」と題する送付書、宣誓書及び請求書の一部)の中に
は、右証言どおり署名されたものではなく、うち二枚の宣誓書の代理記載人氏名欄
に請求者と異なる印影が認められるのみであるばかりでなく、本来右の代理記載人
とは宣誓者に代つて宣誓書を記載した者を意味することは明らかで、右証言どおり
とすれば、かえつて混乱を生じさせることとなり、そのような取り扱いが市委員会
でなされていたとは考え難いのであつて、右証言は、措信するに足りないというべ
きである。しかして、不在者投票用紙等の請求が使者と称する者からなされた場合
には、単に宣誓書等の書類がととのつていることを審査するのでは足りず、右使者
による請求が本人の意思に基づくことの十分な確認を必要とするのであつて(令五
〇条一項。仙台高等裁判所昭和四九年四月二四日判決高等裁判所判例集二七巻二号
一二四頁)、前記の受理手続は、この点において欠けるところがあつたといわねば
ならない。そして、証人Oの証言によれば、前記の一括送付は、個別に請求があつ
たものには行なわず、使者により一括して請求のあつたものについてのみ行なつた
ことが認められ、この認定を左右すべき証拠はない。
そこで、以上の管理執行に関する規定の違反が、本件選挙の結果に異動を及ぼすお
それがあつたかどうかについて検討する。原告らは、違法な一括送付によつて、投
票の妨害あるいは偽造の弊害が発生したと主張し、証人Rの証言及び原告Xの本人
尋問の中には、一部右主張にそう部分もあるが、その具体的な裏付けに欠け、右弊
害の発生の事実を個々具体的に認定するについては、不十分であるといわねばなら
ず、他方被告は、一括送付分中の投票者数の割合が、個別送付の場合のそれとほぼ
同数であること(前掲乙第一三号証により、被告の主張どおりであることが認めら
れる。)、その他の被告の調査によつて、原告らの主張する弊害が杞憂にすぎない
ものと主張するのであるが、これまた証人P7の証言(第一及び第二回)によれ
ば、被告又は市委員会において、一括送付分の個々の請求者等につき、具体的に調
査したものでないことが認められ、その他の立証によつても、被告の主張する如く
杞憂にすぎないものと認めるには不十分であるといわねばならない。そもそも、不
在者投票の手続について、令五〇条以下の厳格な規定が定められているのは、選挙
人本人の意思によつて投票されることを確保するためであり、些細な手続上の誤り
は別として、このような手続的な保証を欠く投票は、本人の意思によるものである
ことが他の手段で立証されない限り、有効な投票として候補者の得票に算入されて
はならないのである。前記のような受理手続及び投票用紙等の交付手続の規定違反
が、些細な手続上の誤りにすぎないものとはとうてい言えないばかりでなく、前記
5に記したように不在者投票に用いられた封筒の一部は焼却されていて、これに記
載されてある選挙人の署名等(令五六条一項及び五七条一項参照)により不正事実
の存否を調査することは不可能となつており、また前記の一括送付が法四九条一号
の事由による請求があつたものについてのみなされたことは前掲乙第一三号証によ
り認められ、この一括送付に係る不在者投票の大部分は、登録市町村以外の市町村
においてなされたものと考えられるのであるが、通常選挙人との面識のないその市
町村の不在者投票管理者及び立会人の面前では、不正が露見することはまれで、こ
の面においても、前記の一括送付に係る不在者投票については、選挙人本人の投票
であることの手続上の保証が十分でないと評価せざるを得ないのである。
そうであるとすれば、少なくとも前記の一括送付に係る不在者投票数八三一名分中
その送付の宛先である三一三人分を差し引いた残五一八名分は、候補者の得票に算
入することができないものであつたというべきである。
しかして、本件選挙における当選者と次点者の得票差が三六二票であることは、成
立に争いのない乙第三号証の二により認められるところであつて、前記の違法な一
括送付によつて故意又は不注意により不在者投票用紙等の本人への交付が遅れ投票
が不可能となつた可能性や、請求の受理手続において、使者につき実質的な審査が
行なわれていれば請求が受理されず、ひいては不在者投票ができなかつた者があり
うる可能性に言及するまでもなく、前記管理執行に関する規定の違反により、本件
選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあつたと認定することができるのであつて、こ
の認定を左右すべき証拠は発見できない。
三 以上認定判断したところによれば、原告らの本訴請求は理由がありこれを認容
すべきであるから、被告のした裁決は取り消し、本件選挙はこれを無効とすべきで
ある。
訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用する。
(裁判官 西村四郎 萩原昌三郎 浅生重機)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛