弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
         理    由
 本件控訴理由は末尾添付の控訴趣意書の通りである。
 第一点について。
 検事は、原判決は被告人の本件登録不申請罪をいわゆる即時犯と解し、時効完成
後の起訴に係るものとして免訴の言渡をしたけれども本件はいわゆる継続犯であつ
て、未だ時効完成しないこと明らかであるから、原判決は法令の解釈を誤まり延い
て事実を誤認した違法があると主張する。
 <要旨>当裁判所は本件登録不申請罪は検事主張の如く継続犯であると解するもの
であるが、説明の便宜上、原判決がいわゆる即時犯説の論拠としているとこ
ろを掲げて、これに対する当裁判所の見解を明かにして行くこととする。
 (一) 原判決は改正令(昭和二十四年政令第三百八十一号を指す、以下同じ)
附則第七項の規定の意味するところは、単に旧令(昭和二十二年勅令第二百七号を
指す、以下同じ)施行当時本邦に在留する外国人にして、その施行後三十日以内
(昭和二十二年五月三十一日まで)に第四条の規定に準じて所定の登録申請をしな
かつた者についてその限りにおいて、なお旧令を適用して処罰すると言うに止ま
り、この附則規定を以て進んで不申請の状態が改正令施行後に亘る者に対し、これ
を改正令施行後の違反であるとしてこれをも対象としたものとは到底解せられない
としている。しかし経過法に関する一般の立法形式からいえば原判決の説くところ
は全く逆である。即ち原判決の説く如く改正令施行前に既に完了している犯罪所為
だけを対象として経過法を設ける場合ならば「この政令施行前に何々の罪を犯した
者の処罰については、この政令施行後においてもなお従前の例によるものとし」と
の趣旨に規定せられるのが一般の立法形式である。然るに本件改正令附則第七項の
如くに特に改正令の施行の前後を区別しないで規定を設けている所以は、改正令施
行後も旧令附則第二項第三項の不申請罪が継続して存在することを前提としている
ものと解するのが相当である。これと同様の経過法の立法形式の例を他に求める
と、昭和二十五年法律第七十二号(法人税法の改正)の附則第二十項にこれを発見
することができる。即ち同項は「法人の昭和二十五年四月一日前に終了した事業年
度分の法人税に係る違反行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によ
る」と規定しており、右改正法律は昭和二十五年四月一日から施行せられるのであ
るから、同日前に終了した事業年度分の法人税の各種の申告などを右改正法施行後
においてする場合を予想して設けられ九規定と解すべきである。従つて改正法施行
後の所為に対して旧法を適用している立法形式であつて、本件改正令附則第七項の
立法形式はこれと同様であるから、これは寧ろいわゆる継続犯説の根拠となる規定
に外ならないのである。
 (二) 次ぎに、原判決の説くところによると、若し継続犯説に従えば、旧令施
行当時本邦に在留した外国人と旧令施行後本邦に入国した外国人が、共に登録申請
義務に違反し改正令施行後に及んだ場合に、前者については旧令第十二条第二号
が、後者については改正令第十三条第一号が適用せられ法定刑の権衡を失し不合理
であるというのであるが、この点も別に不合理はないのである。即ち、外国人が本
邦に入つたときは六十日以内に所要の事項の登録を申請しなければならない旨を規
定している旧令第四条第一項の規定自体は改正令においても何等変更を加えられて
いないのであつて、右第四条違反の罪自体は改正の前後で何等の変更もない。ただ
これに対する刑罰が第十二条以下の規定の改正で加重せられただけである。その加
重せられ九理由は、思うに、外国人登録令施行以後において本邦に入つてくる外国
人の数は不特定多数であつて、将来においても増加する一方であるから、これ等の
不特定多数の入国者の登録申請義務を将来一層完全に履行せしめるために罰則を強
化したものと解せられる。しかるに旧令施行当時本邦に在留していた外国人は客観
的には特定しているのであつて、しかもその中で改正令施行後においても、なお登
録申請の義務を尽さないような者は全体から見れば寧ろ比較的少数であると認めら
れるので、これ等の者に対する罰則は旧令の限度に止めたにすぎないものと解す
る。しかして旧令施行後本邦に入国した外国人で登録申請義務に違反し改正令施行
の後に及んだ者は改正令施行の後においても義務違反の不作為があるからこそ、改
正令第十三条の新罰則が適用せられるのであつて当然のことである。従つてこれも
亦、原判決の説くところとは全く逆に、いわゆる継続犯説の有力な論拠になるので
ある。
 (三) 更らに原判決は登録不申請罪が時効にかかつた後においては登録証明書
不携帯罪によつて処断することができると説明する。しかし、外国人登録令第十三
条第五号は同令第十条第一項所定の登録証明書携帯及び呈示義務の違反に対する制
裁を規定しているのであるが、これを同条(第十条)第二項と対比し、さらに同令
第四条において登録申請義務を規定しこれが義務違反を右不携帯等の場合と同列に
同令第十三条において罰則を設けている趣旨を考え合せてみると同令第十三条第五
号の罪が成立するのは登録証明書の交付を受けておりながらこれを携帯せずまたは
呈示を拒否した場合に限るのであつて、本来これが交付を受けていない場合は、右
第五号の犯罪として処罰する趣旨ではないものと解すのが相当である。(昭和二十
六年三月七日当裁判所第一刑事部判決)徒つて原判決の説く如く、登録をしない者
が公訴時効の完成により罪を免ぜられても、証明書不携帯罪で処罰できるというよ
うな解釈は成り立たないのである。以上三点に亘つて原判決が即時犯説の論拠とし
て説明しているところは全て失当であつて、それは即ち全て逆に継続犯説の論拠と
なるものに外ならないのである。また外国人登録令規定の趣旨から考えても日本に
在留する占領軍部隊に属さない外国人は全て登録申請の義務を負担し、その義務は
当該外国人が登録申請を終了するかわが国を退失するまで存続するものと解するの
が最も合理的である。以上の理由によつて本件登録不申請罪は外国人が所定の時期
に登録申請をしないことによつて既遂となり、その申請義務の消滅するまで犯罪が
継続して成立するものであつて、いわゆる継続犯であると解するのが相当である。
しかるに原審が本件登録申請罪が即時犯的性質を帯びるものと解したのは失当であ
る、といわざるを得ない。
 しかしながら本件起訴状をみるに検事は被告人が旧令施行の日から三十日以内に
所定の登録申請をしなかつた事実を訴因としているにすぎない。而して裁判におい
て当該事件が時効にかかつているか否かは起訴状に訴因として記載せられている事
実を対象として判断するのであつて、裁判所が審理した基礎事実についてするもの
ではない。若し検事所論のように本件被告人が原判決当時即ち改正令施行後もなお
本件登録申請義務を履行していなかつたのであり、しかもその後の不作為を裁判の
対象とする意思があれば、検事は訴因の手続によりその旨を主張し時効完成の判断
を免れる措置を採るべきであつて、これは原告官として当然しなければならないこ
とである。しかるに被告人の登録証明書不携帯の事実についてのみ予備的訴因の追
加をしたに止まり、継続犯の見解に基いた事実の主張は原審の訴訟手続の上に少し
もなされていないのである。右の事情から検事もまた原審と所見を同じくして即時
犯説に従つていたものと言わねばならない。しかも右の立場のいずれをとるにして
も本件起訴状に訴因として記載せられている事実そのものについては原判決説示の
通り時効が完成していること疑がない。従つて本件について免訴の言渡をした原判
決は結局に為いて正当である。
 第二点について。
 検事は本件登録不申請罪と登録証明書不携帯罪はその公訴事実について同一性が
あるから予備的訴因として追加した後者の罪について有罪の判決をしなかつた原判
決は違法であると主張する。
 しかし外国人登録令第四条違反の罪は被告人が所定の時期に登録申請の義務を履
行しなかつたという不作為の事実を犯罪の内容とするのに対して、同令第十条違反
の罪は被告人が同令第四条の義務を履行し市町村長より交付せられた登録証明書を
常時携帯すべき義務違反を犯罪の内容とするものである。従つてその両者の基本的
事実は全く別であるのみならず、検事は本件被告人が登録証明書の交付を受けた事
実を少しも主張していないのであるから右予備的訴因自体は罪とならない事実を訴
因として掲げているにすぎない。(前記(三)参照)論旨は全く理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条を適用して主文の通り判決する。
 (裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛