弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月に処する。
     原審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、検察官検事林又平作成名義の控訴趣意書及び弁護人梨木作
次郎、同豊田誠共同作成名義の控訴趣意書(但し、本文(四)の記載中、六・三%
とあるのを四・一%と、五・九%とあるのを一四・四%と、八七・八%とあるのを
八一・五%と、八七%とあるのを約八〇%とそれぞれ訂正したもの)各記載のとお
りであるから、いずれもこれをここに引用する。
 各所論はいずれも原判決の量刑不当を主張するものであつて、被告人に対し禁錮
四月の実刑を科した原審の量刑について、検察官は軽きに失し不当であると言うの
であり、弁護人は重きに失し不当であると言うのである。
 よつて先ず職権を以て、原判決における法令適用の当否を検討するに、原判決書
には罪となるべき事実として、「被告人は自動車運転者であるが、第一、昭和三六
年一〇月七日午後八時頃、普通乗用自動車(○れ○×△□号)を運転して、七尾市
a町地内国鉄七尾線A工場引込線国道踏切を通過する際、その直前で停車しないで
進行し、第二、前同日同時刻頃、普通乗用自動車を運転して右踏切を通過する際、
自動車運転者として業務上要求される踏切前一旦停車並に左右の安全確認の注意義
務を怠り、漫然時速約一五粁の速度で進行したため、折柄同踏切右方から進行して
来た国鉄七尾線機関士B運転の第九八貨物列車の機関車の前部を自己の運転する普
通自動車の右側面部に激突せしめ、同自動車をその左斜前方約四・五米の同国道左
側の田圃内にはね飛ばされ、その衝激により、同自動車に乗車していた被告人の妻
C(当一九年)に対し、全治まで約一ケ月を要する頭蓋内出血、脳震盪症、顔面挫
創、胸部挫傷を(中略)負わせた外、同列車機関車前部ステツプに乗車していた国
鉄七尾駅操車係D(当四九年)を同機関車と同自動車との間に挾んで強圧し、その
ため同人に対し、右頬部鼻下部左後頭部挫創(中略)等の致命傷を負わせ、間もな
く同所において死亡するに至らしめ、たものである」旨起訴状記載の公訴事実と同
一事実を判示し、これに対する法令の適用として、「被告人の判示所為中、第一の
所為は道路交通法第一一九条第一項第二号第三三条第一項に、第二の各所為は刑法
第二一一条前段にそれぞれ該当するので、判示第一の罪につき懲役刑を、判示第二
の罪につきいずれも禁錮刑をそれぞれ選択するが、判示第二の各罪は刑法第五四条
第一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該るので、同法第一〇条
に従い、重い業務上過失致死の罪により処断することとし、以上は刑法第四五条前
段の併合罪であるから、同法第四七条第一〇条により、重い判示第二の罪の刑に法
定の加重をした刑期範囲内で被告人を禁錮四月に処し」云々と説示していて、結局
原審は原判示第一の所為と同第二の所為とを併合罪の関係にあるものとして、併合
罪に関する法条を適用処断していることが明らかである。そこで右解釈適条の当否
を検討して観るに、道路交通法第三三条第一項本文において、車輌等の運転者に対
し、踏切を通過しようとするときは、踏切の直前で一旦停車をした後でなければ、
進行してはならない義務を課した外、更に安全であることを確認した後でなけれ
ば、進行してはならない義務をも課していること同規定の趣旨に照らし明白であつ
て、一旦停車の義務のみを課した旧法すなわち道路交通取締法第一五条とは規定の
形式において異る<要旨第一>ものがあるのである。而して新法である道路交通法第
三三条のもとにおいては、車輌等の運転者が一旦停車をしないで踏切を
進行通過した行為も、安全確認をしないで踏切を進行通過した行為も、ともに同法
第一一九条により、処罰の対象となつているのであるが、その両者の義務違反が同
一の機会に発現する場合、すなわち踏切前一旦停車をせず、且つ安全確認をしない
で当該踏切を進行通過した場合においては、これを数罪たる併合罪又は想像的競合
若しくは牽連犯と解すべきでなく、単に同法第三三条第一項本文違反の一罪が成立
するものと解するのが相当である。而してかかる一罪の一部である一旦停車義務違
反の行為のみが形式上道路交通法違反の罪名のもとに起訴され、又形式上業務上過
失致死傷の公訴事実において、右の踏切前一旦停車並びに安全確認の義務違反を包
含している本件の如き場合においては、訴因の追加を要せずして、右の一旦停車義
務違反と安全確認義務違反の双方を包括した全部を道路交通法第三三条違反の一罪
として認定しても違法でないと解<要旨第二>すべきである。而して原審は被告人が
自動車を運転し本件踏切を通過するため踏切前一旦停車および安全確認
の義務に違反して進行したこと、および該違背の所為を業務上の過失とそれぞれ認
定判示していることは、前叙原判文に徴し明らかであつて、かかる場合には道路交
通法第三三条第一項本文違反の所為と業務上過失致死傷の所為とは、一個の行為が
数個の罪名に触れる場合に該当するものと解するを相当とすべく、従つて刑法第五
四条第一項前段第一〇条により、重い罪の刑により処断されるべきものである。然
るに原審がこれを併合罪と認定し、法定の加重をしたのは、判決に影響を及ぼすこ
と明らかな法令適用の誤を冒した(なお原審が業務上過失致死傷につき刑法第五四
条第一項前段第一〇条の適用をするに先だち、刑種の選択をしているのも適切では
ない)ものであり、原判決は破棄を免れない。
 よつて量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項第三
八〇条に基づき、原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所に
おいて自ら判決をする。
 (罪となるべき事実)
 被告人は貨物運輸会社に雇われ、自動車運転の業務に従事していたものである
が、右業務に従事中の昭和三六年一〇月七日午後八時頃、普通乗用自動車(○れ○
×△□号)を運転して、石川県七尾市a町地内国鉄七尾線A工場引込線国道踏切を
北方に向け通過するに当り、かかる場合においては、踏切直前で一旦停車をなし、
且つその踏切における安全を確認した後進行すべき道路交通法上の義務があり、特
に同踏切手前にはこれに接近して家屋が建在し、且つ稲束をかけたハサが設置され
ていて、踏切直前で一旦停車をしなければ、左右の見とおしが困難な状況にあつた
から、特に列車の進行等に注意を払いつつ右踏切を通過し、以て衝突等による事故
の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるに拘らず、この義務を怠り、列
車の進行に留意しなかつたため、前記踏切直前で一旦停車をなさず、且つその踏切
における安全を確認しないまま、漫然時速約一五粁の速度で該踏切に進入した過失
により折柄同踏切右方から同線路を進行して来た国鉄機関士B運転の第九八貨物列
車の機関車前部を自己の運転する前記自動車の右側面に激突せしめ、同自動車を左
前方約四・五米の国道左側の田圃内にはね飛ばされ、その衝激により、同自動車に
乗つていた被告人の妻C(当時一九年)に対し、全治まで約一ケ月を要する頭蓋内
出血、脳震盪症、額面及び胸部各挫創を、被告人の伯父E(当時四二年)に対し、
全治まで約二ケ月を要する脳震盪症、頭蓋内出血、顔面挫創を、被告人の従弟F
(当時二五年)に対し、全治まで約一週間を要する右前額擦過創、右頭部挫傷、右
肘関節部擦過創及び挫傷を、それぞれ負わせた外、同機関車前部ステツプに乗車し
ていた国鉄七尾駅操車係D(当時四九年)を右機関車と自動車との間に挟んで強圧
し、そのため同人に対し、右頬部、鼻下部、左後頭部の各挫創、右第四、五、六各
肋骨骨折、右側胸部、腹部、鼠蹊部の各擦過傷及び内出血、右骨盤骨折、両大腿粉
砕骨折、左下腿開放性骨折等の致命傷を負わせ、間もなく同所において死亡するに
至らしめたものである。
 (証拠)
 原判決挙示の証拠と同一であるから、ここにこれを引用する。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為中、踏切直前の一旦停車義務及び安全確認義務に違背した点
は、道路交通法第一一九条第一項第二号第三三条第一項に、業務上過失致死又は同
致傷の点は、刑法第二一一条前段罰金等臨時措置法第三条第一項第二条第一項に各
該当するところ、以上は一個の行為が数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第
五四条第一項前段第一〇条により、その内法定刑及び犯情において最も重いと認め
る業務上過失致死罪の刑に従い、本件各控訴趣意をも参酌したうえ、所定刑中禁錮
刑を選択し、その刑期範囲内において被告人を禁錮六月に処し、原審における訴訟
費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い、全部これを被告人の負担とする。
 以上の理由により、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山田義盛 判事 堀端弘士 判事 広瀬友信)

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