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平成19年7月5日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成19年(行ウ)第56号特許料納付書却下処分取消請求事件
(口頭弁論終結の日平成19年5月22日)
判決
アメリカ合衆国カリフォルニア州<以下略>
原告イミュネックス・コーポレーション
同訴訟代理人弁護士鈴木修
同末吉剛
同補佐人弁理士泉谷玲子
東京都千代田区<以下略>
被告国
処分行政庁特許庁長官中嶋誠
同指定代理人鈴木秀雄
同諏訪洋一
同山内孝夫
同五十嵐伸司
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3本件につき原告のために控訴の付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求の趣旨
特許第3122139号の特許権に係る第5年分特許料納付書に関し,特許
庁長官がした平成17年9月5日付け手続却下の処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告が後記特許権の第5年分の特許料納付期
限の追納期限の経過後に,第5年分の追納手続を行ったのに対し,特許庁長官
が前記納付書について手続却下処分を行ったことについて,前記追納期限の徒
過につき原告の責めに帰することができない理由があるとして,前記却下処分
の取消を求めた事案である。被告は,原告の責めに帰することができない理由
が認められないので,前記却下処分は適法であると主張して,これを争ってい
る。
(,。)1前提となる事実当事者間に争いがないか後掲各証拠によって認められる
()当事者1
原告は,アメリカ合衆国に本拠を有する法人である。
()原告が譲り受けた特許権(甲1,2)2
原告は,下記の特許権(以下「本件特許権」という)及びその対応外国。
特許権(以下,本件特許権と併せて「本件特許ファミリー」という)につ。
いて,平成16年(2004年)以前から特許料を支払っており,平成16
年に権利者であるA(以下「A」という)から,本件特許ファミリーを譲。
り受け,平成17年4月15日付けで譲渡証書(甲3)を作成した。
特許番号第3122139号
登録日平成12年10月20日
出願番号特願平5−507785
出願日平成4年10月14日
公表番号特表平7−500339
公表日平成7年1月12日
優先日平成3年10月15日
優先権主張国米国
発明の名称後期段階炎症反応の治療用組成物
特許権者A
()本件特許権の消滅3
本件特許権は,平成16年10月20日を期限とする第5年分特許料不納
を原因として,平成18年9月13日付けで,抹消登録された(甲2。)
()本件特許権に係る特許料の納付書についての手続却下処分4
ア特許法107条1項,108条2項によれば,本件特許権の第5年分の
特許料の納付期限は,平成16年10月20日であった。そして,特許法
112条1項によれば,この納付期限内に特許料を納付することができな
いときは,その期限が経過した後であっても,その期限の経過後6か月以
内は,特許料の納付が認められており,その追納期間は平成17年4月2
0日までであった。
原告及び特許登録原簿上の特許権者であるAは,前記追納期限である平
成17年4月20日までに,所定の特許料及び割増特許料(以下「本件特
許料等」という)を納付しなかった。。
イ弁理士B(以下「B」という)は,特許庁長官に対し,平成17年6。
月13日,本件特許権の第5年分の特許料等の納付書(以下「本件特許料
納付書」という)を提出した(甲4。。)
これに対し,特許庁長官は,平成17年6月23日付けで,本件特許権
は,第5年分の特許料等が追納期間内に納付されなかったため,特許法1
12条4項により,平成16年10月20日の経過時にさかのぼって消滅
したものとみなされたことから,本件特許料納付書による特許料等の納付
は,権利消滅後の年分に係わる納付であることを理由に却下すべきものと
認められる旨の却下理由通知をした(甲5。)
,,()Bは平成17年7月28日前記却下理由通知に対する弁明書甲6
を提出し,Bが本件特許権の譲受人である原告の依頼により本件特許料納
付書を提出したこと,期間内に特許料等の納付ができなかったのは,特許
法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」に
よるものであることを弁明した。これに対し,特許庁長官は,同年9月5
日付けで,前記却下理由通知書に記載の却下理由が解消されていないとし
て,本件特許料納付書を却下する処分(以下「本件却下処分」という)。
をした(甲7。)
ウAは,平成17年11月8日付けで,本件却下処分について,Bを代理
人として行政不服審査法に基づく異議申立てを行い,その後,原告が本件
特許権を譲り受けた旨の補正書を提出し,原告が異議申立人となった(甲
8の1ないし3。特許庁長官は,平成18年7月28日付けで,本件特)
許料納付書が特許料追納期間経過後に提出されたことについて,特許法1
12条の2第1項に規定する「その責めに帰することができない理由」は
認められないとして,前記異議申立てを棄却する旨の決定(甲9の1)を
行った。
2本件における争点
特許料等を追納期間内に納付しなかったことについて,特許法112条の2
第1項所定の「その責めに帰することができない理由」が認められるか。
3争点に関する当事者の主張
()原告の主張1
ア特許法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」
の意義について
「」a)特許法112条の2第1項のその責めに帰することができない理由
は,当事者が社会通念上相当の注意を払っても避けることができなかっ
た事情の存在と解釈すべきである。そして,特許権者側が,外部組織の
選任監督に社会通念上相当の注意を払っている場合には,仮に外部組織
の事情により事故が生じたとしても,特許権者側は社会通念上相当の注
意を払ったのであるから「その責めに帰することができない理由」が,
あるというべきである。
)一つの企業が世界各国に多数の特許を保有し,各国の制度の下で特許b
権を維持するためには,多大な労力が必要である。特許制度は国毎に異
なり,同じ特許ファミリーでも最初の年金開始日や特許期間が異なるな
ど,年金管理は非常に複雑かつ大変な作業である。さらに,知的財産権
の流動化及びそれによる権利の有効活用に向けた努力がなされ,権利の
移転が頻繁に行われるようになると,新たな権利者は,従前の権利者が
残したトラブルの種について十分な認識を持てないまま引き継ぐことも
生じ得る。
以上のように複雑化する特許管理の実情に照らすと,特許法112条
の2第1項の「その責めに帰することができない理由」は天変地異など
不可抗力に由来する事例に限定すべきではなく,特許権者がなすべきこ
とをなした場合,つまり,特許権者が社会通念上相当な注意を払った場
合には「その責めに帰することができない理由」があると解すべきで,
ある。
かかる解釈をしても,特許権の回復のための追納ができる期間は,最
長で通常の追納期間(特許法112条1項)の経過後6月と短期間に限
定されていること(特許法112条の2第1項,及び,回復された特)
許権の効力は,第三者保護のために制限されていること(特許法112
条の3)からして,特段の不都合は生じない。
)受託者である外部組織の事情を委託者である企業の単なる内部事情とc
みなすことは,企業活動を信頼できる外部組織へ委託することの利点を
無に帰すこととなる。年金管理会社の利用は,直接間接を問わず,広く
利用されており,その信頼性は一般に高いと認識されている。かかる実
情に照らし,特許権者が年金管理のために外部組織を利用し,その外部
組織の選任監督に社会通念上相当の注意を払った場合,特許権者には,
「」。その責めに帰することができない理由が存在するというべきである
)特許料の追納による特許権の回復を規定する特許法112条の2は,d
平成6年改正により新設された条項である。この条項が導入された理由
は,パリ条約5条の2第2項に「同盟国は,料金の不納により効力を失
った特許の回復について定めることができる」と規定され,諸外国で。
パリ条約5条の2第2項に沿った立法がなされていたため,我が国にお
いても同様の規定を新設することにあった(特許庁編「工業所有権法逐
条解説(発明協会,16版,2001年)294頁。」)
特許法の分野では,国際調和が強く求められている。我が国も実体特
許法条約(SPLT)の先進国サブグループ会合を主催するなど,特許
制度の国際調和に向けて先導的役割を果たしている。特許法112条の
2が国際調和の観点から設けられたこと,及び,特許制度の国際調和の
重要性に鑑みると,我が国のみ特許権の回復について特異な解釈を採る
ことは厳に慎むべきである。例えば,欧州特許条約122条()は「状1,
況によって必要とされる相当な注意をしたにもかかわらず欧州特許庁に
対し期間を遵守することができなかった」欧州特許出願人又は欧州特許
権者に対し権利の回復を認めているまた英国特許法28条も特,。,,「
許権者が所定の期間内に更新料が納付されるよう又は当該更新料及び所
定の割増料が前記期間の満了前後の6月以内に納付されるよう相当の注
意を怠らない」場合には,失効した特許権の回復を認めている。
したがって,国際調和の観点からも「その責めに帰することができ,
ない理由」は,諸外国同様に,当事者が社会通念上相当の注意を払って
も避けることができなかった事情の存在と解釈すべきである。
イ原告に「その責めに帰することができない理由」があることについて
原告は,以下に述べるとおり,社会通念上相当の注意を払って本件特許
,「」権を管理していたのであるからその責めに帰することができない理由
の存在は明白である。また,仮に「万全の注意」を払うことが必要であ,
,,「」。るとしても原告はかかる万全の注意を払ったことが明らかである
)原告は,現時点までに,世界各国において合計で2989件の特許出a
願及び特許権の所有者となっており,そのうち2079件が係属中であ
るか特許されている。これら多数の特許及び特許出願を抱える原告にお
いて,この数年間,年金納付に関しトラブルに見舞われたのは,本件特
許ファミリーの1件にすぎない。
この事実は,原告が,通常,数多くの特許及び特許出願を安全かつ円
滑に処理しており,その処理にあたって社会通念上相当な注意を払って
きたこと,本件特許権の事故はわずか1件の例外的事件であったことを
示している。
)原告は,本件特許ファミリーについて,C(以下「C」という)のb。
法律事務所(以下「C事務所」という)に委託していた(もっとも,。
Cは委託関係の存在を否定している。また,C事務所の担当アシスタン
トであったDが健康面その他の何らかのトラブルに見舞われていたこと
が窺える。しかし,原告は,通常の場合,年金管理及び特許出願に。)
関してはC事務所を利用していない。原告は,本件特許ファミリーに限
り,たまたま,C事務所に年金管理を委ねることとなったのである。そ
の理由は,原告がAから本件特許権等を譲り受けたという事情による。
,,,すなわちAはC事務所を利用して本件特許ファミリーの出願を行い
その後の管理も委ねていた。原告は,本件特許ファミリーを譲り受ける
際,Cが本件特許ファミリー及びその出願経過を熟知しており(本件特
許ファミリーの一部は未だ権利取得の途上にあった,様々な国で特。)
許を取得することに成功していたため,Aと同様に,C事務所を利用す
ることにした。
つまり,原告は,本件特許ファミリーを譲り受けるという特殊な事情
,,。により本件特許ファミリーに限りC事務所を利用することになった
原告は,本件特許ファミリーについてのみ,例外的に,通常とは異なる
経路による年金管理を余儀なくされたのである。
)原告は,年金管理のために外部組織を利用する場合,当該外部組織かc
ら送付されるリマインダーに基づき,年金支払の処理を行っている。リ
マインダーは,手紙又はファックスで送付される。原告は送付されてく
る手紙については,標準化された手続で処理し,ファックスについては
緊急を要する場合もあるので,手紙とは少し異なる取扱いをしている。
すなわち,原告の法務部に届くすべてのファックスは,ファックス記録
に記録され,担当の弁護士に配布される。弁護士はファックスレターを
見たことを示すためにレター上端にサインをする。次いで,レターは管
理部に送られ,ファイルと照合される。また,で来た手紙はすUSmail
,,。べて直接管理部に送られそこで管理部の事務員によって開封される
管理部の事務員はレターをファイルと照合させ,必要な期限をすべて記
録・管理し,レターをファイルとともに担当の弁護士に配布する。
以上のとおり,原告は,外部組織からのレター及びファックスの処理
について,十分な対応を採ってきた。このレター及びファックス処理を
利用したリマインダーのシステムの実績は信頼するに足るものであり,
年金管理のシステムは,平成15年(2003年)まで数年間,全く問
題なくミスすることなく機能してきた。
よって,原告は,社会通念上相当の注意を尽くし,リマインダーの管
理を行ってきたことが明らかである。
)本件特許ファミリーの納付は,C事務所及びCPA(コンピュータ・d
)。,パテント・アニュイティーズを介して行われてきたより具体的には
C事務所が,年金の期限を原告に知らせてくることになっていた。C事
務所は,CPAを利用して,年金期限の監視を行っていた。年金期限が
近づくと,C事務所は,原告に年金のリマインダーを送付し,CPAに
対する小切手の形式で前金による支払を要求していた。原告はCに小切
手を提供し,CはCPAへの支払に小切手を使用し,CPAは年金支払
を行っていた(以下,この一連の納付手続を「本件特許料の納付システ
ム」という。。)
CPAは,国際的に年金管理を行っている会社として著名であり,そ
の信頼性は十分なものであると広く認識されていた。
本件特許料の納付システムによる年金の支払は,当初,問題なく行わ
れていた。C及びCPAの実績も考慮すると,本件特許料の納付システ
ムの順調な運用が開始された時点で,原告がこのシステムを信頼する十
分に合理的な理由が生じたことは明らかである。
)上記のとおり,原告は,リマインダーを完璧に管理し,過去のリマイe
ンダーレターをすべて記録・管理していた。にもかかわらず,本件特許
権につき平成16年(2004年)に支払うべき第5年分特許料につい
ては,全く記録がない。
本件特許ファミリーにつき平成16年(2004年)に支払うべき年
金のリマインダーは,平成17年(2005年)になって,欧州特許に
ついてのみ,追納期限を知らせるリマインダーとして送付されてきた。
しかも,このリマインダーには,指定国の一つである英国について何ら
言及されていなかった。
このことは,原告が年金納付のリマインダーを完全に管理していたに
もかかわらず,平成16年(2004年)については必要なリマインダ
ーを受領しなかったことを意味する。
したがって,本件特許権の第5年分特許料の支払期限を徒過した理由
は,原告がリマインダーを見落としたためではなく,そもそもC事務所
からリマインダーが送付されてこなかったためである。
以上のとおり,原告は,相当な注意を払って本件特許料の納付システ
ムを構築していたものの,多数の特許を管理する中で,管理体制の唯一
の例外としての本件特許ファミリーについて,たまたま代理人からのリ
マインダーが到達しないという原告にとって予想外の事態により,本件
。,特許権の特許料納付期限を知ることができなかったかかる場合にまで
原告の責めに帰すべき事由があるとすることは不合理である。
)以上のとおりであるから,原告における特許管理全体を観察すると,f
原告が社会通念上相当な注意を払ってきたことは明らかであるし,原告
の努力が「万全の注意」に該当することも明らかである。
ウ原告は,本件特許権の特許料納付期限を平成17年4月25日に知った
ことについて
)原告は,平成17年(2005年)4月13日,ドイツ,フランス,a
スイス,オランダ,ベルギー及びスウェーデンにおける本件特許ファミ
リーの納付期限が平成17年4月30日であることを知らせる手紙を,
C事務所から受領した。この期限は,通常の納付期限ではなく追納期限
であり,対象となる年金は,本来平成16年に支払われるべきものであ
った。しかし,この手紙では,この点に触れられていなかった。原告が
本件特許ファミリーの平成16年の年金に関する知らせを受けたのは,
この手紙が初めてである。原告は,この時点において初めて,平成16
年中に,C事務所が原告に連絡することなく,年金管理にCPAを利用
するのを中止したことを知った。
,,b)原告はC事務所がCPAを利用中止したことを知らされた後すぐに
本件特許ファミリーの管理をCPAを利用した社内の年金管理サービス
に移すことを決定した。
原告は,受領するリマインダーに基づいて期限管理のデータベースを
作成していたところ,上記移行作業の際に,原告のパラリーガルである
Fが,上記平成17年4月13日付けの手紙では言及されていない数か
国(日本を含む)において,年金の期限が徒過し,あるいは,差し迫。
っていることを初めて発見した。
原告における本件特許ファミリーの担当弁護士であるFは,直ちにE
に依頼し,平成17年4月25日,本件特許権に関し至急の指示を,C
PAに出した。しかし,同日,年金の追納期限を徒過しており,特許が
消滅している旨の回答をCPAから受けた。
)このように,原告が納付期限を最初に知ることができたのは,平成1c
7年4月25日である。原告は,期間内に年金を納められなかったこと
につき,何ら落ち度がなく,そして,期限に気付いてからは非常に素早
く対応し,年金納付のための行動を起こしたのである。
エ本件特許ファミリーの回復について
本件特許ファミリーのうち,英国特許及びオーストラリア特許は,本件
特許権と同様の経緯によりいったん消滅した。しかし,特許の回復が認め
られた。
オ被告の主張に対する反論
)被告は,特許権回復の条件の解釈にあたり,拒絶査定不服審判及び再a
審の請求の追完条件との整合性を指摘する。
しかし,拒絶査定不服審判の請求期間を徒過した場合の「その責めに
帰することができない理由」は「天変その他避けられない不測の事故,
によるもののほか,同条の審判を請求する者又はその代理人が通常用い
ると期待される注意を尽くしてもなお請求期間の徒過を避けることがで
きない事由」であると解され(東京高等裁判所昭和57年10月28日
判決「万全の注意」が必要とされるわけではない。また,再審の請),
「」,求の期限を徒過した場合のその責めに帰することができない理由は
「通常人に一般に期待される注意を尽くしても,その結果を避けること
ができないと認められる理由」と解される。
さらに,平成8年改正前の商標法20条3項(現・商標法21条)に
よる商標権の存続期間の更新登録出願における「責めに帰することので
きない理由」についても「通常用い得ると期待される注意を尽くして,
も,なお出願期間の徒過を避けることができないと認められる事由」と
解されている(東京地方裁判所昭和51年6月28日判決。)
特許法においては,第1年から第3年までの3年分の特許料を一括し
て納付しなければならず(特許法108条1項,少なくとも3年以上)
権利が存続することが予定されている。さらに,同法112条の3によ
り,回復された特許権と第三者の権利との利害調整がなされていること
により,回復によって特許権と第三者の権利を不当に侵害することも避
けられる。商標法における前記昭和51年判決は,回復した商標権の効
力の制限を規定した商標法22条の制定前の事案であり,回復した権利
の制限規定がない場合ですら回復が認められ得ることを示している。
)被告は,特許法112条の2の解釈にあたり,①特許権の管理は特許b
権者の自己責任の下で行われるべきものであること,②失効した特許権
の回復を無制限で認めると第三者に過大な監視負担をかけることも指摘
する。
,「」,しかし①は責めに帰することができないを言い換えたにすぎず
その具体的な解釈の根拠となるものではない「自己責任」の内容は,。
通常人に一般に期待される注意を払うことであり「万全の注意」によ,
ってすべての事故の発生を防止することではない。②は,特許権の回復
手続の時期的制限に関するものであるし,特許権の回復の場合の第三者
との利害調整の規定(特許法112条の3)の存在を考慮しないもので
ある。
,。,,c)被告は属地主義の原則を指摘するしかし特許法の解釈において
諸外国における類似の制度の立法例,裁判例及び運用例を参考にするこ
とが禁じられるわけではない。原告主張の解釈は,我が国の規定に沿っ
たものであり,国際的調和の観点からも好ましいものである。
)被告は,C事務所に善管注意義務違反があると主張する。しかし,Cd
事務所は,委託関係を否定している。
カ結論
以上のとおり,本件却下処分には法律解釈の誤りがあるから,違法なも
のとして取り消されなければならない。
()被告の主張2
ア特許法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」
の意義について
)特許法107条1項は,特許料について,特許権の設定登録の日からa
特許権の存続期間の満了までの各年について納付されなければならない
とし,同法108条2項本文は,特許料の納付のうち,第4年以後の各
,。年分の特許料は前年以前にこれを納付しなければならないと規定する
さらに,同法112条1項及び2項の規定によれば,上記期限までに特
許料を納付することができない場合であっても,その期限の経過後6か
月以内の特許料追納期間内であれば,納付すべき特許料にこれと同額の
割増特許料を併せて追納することができると規定する。そして,特許料
等が追納期間内に納付されなかったときは,同法112条4項の規定に
より,同法108条2項本文所定の特許料納付期限を経過した時にさか
のぼって特許権が消滅したものとみなされる。
特許法112条の2は,同法112条4項の規定によって消滅したも
のとみなされた特許権についても,さらに「その責めに帰することが,
できない理由」により,特許料追納期間内に特許料等を納付することが
できなかったときは,その理由がなくなった日から14日(在外者にあ
っては2月)以内で,かつ,特許料追納期間の経過後6か月以内の期間
に限り,特許料等の追納を認めることにより,当該特許権が回復される
場合があることを規定している。
特許権の回復についてこのような条件が付された理由は,既に特許法
上設けられている拒絶査定不服審判や再審の請求期間を徒過した場合の
救済の条件及び他の法律との整合性を考慮するとともに,①そもそも特
許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきものであること,
及び,②失効した特許権の回復を無期限に認めると第三者に過大な監視
負担をかけることを踏まえたからである(特許庁編「工業所有権法逐条
解説」第16版295頁参照。)
以上に鑑みると,同法112条の2における「その責めに帰すること
ができない理由により・・・納付することができなかったとき」とは,
天災地変のような客観的な理由又は通常の注意力を有する当事者が万全
の注意を払ってもなお避けることのできなかった原因により納付をする
ことができなかった場合を意味するものと解するのが相当である。
)原告は,他国の立法例や運用例を指摘し,国際調和の観点からも特許b
法112条の2における「その責めに帰することができない理由」につ
いて,諸外国と同様に,当事者が社会通念上相当の注意を払っても避け
ることができなかった事情の存在と解釈すべきであるなどと主張する。
しかし,特許に関する法制度はあくまで各国が個別に定めるものであ
って,特許権は国単位で成立し,その国の領域内でのみ効力を生じ,ま
た保護されているのであるから(特許権独立の原則,属地主義,他国)
の立法例,裁判例及び運用例が,我が国の特許法の法源となり得ないこ
とはいうまでもないし,国際的調和を理由に,我が国の特許法の明文規
定に背反する解釈を採り得ないことも当然である。
イ原告に「その責めに帰することができない理由」が存しないことについ

C事務所は,原告から本件特許権の管理を受任していた者として,原告
に対し,本件特許権の第5年分の特許料等の納付期限を通知するリマイン
ダーの送付を遺漏なく行うための善管注意義務を有していたのであって,
同事務所には,当該リマインダーの送付を履行しなかったことにつき過失
があったことは明らかである。
そして,特許料の納付に関する管理は,特許権者が自ら行うか,外部に
委託するか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,すべて特許
権者の自己責任の下に行われるものであって,特許権者から委託を受けて
特許管理を行っていた代理人の過失は,特許権者の過失と同視されるべき
ものである。
したがって,原告の主張する事由は「その責めに帰することができな,
い理由」には該当しない。
ウ結論
以上のとおり,原告が,特許料追納期間内に本件特許権の第5年分の特
許料等の納付をしなかったことにつき,原告に「その責めに帰することが
できない理由」が存在しないのであるから,本件却下処分は適法であり,
原告の請求には理由がない。
第3当裁判所の判断
1原告の当事者適格について
本件特許権の登録原簿上の権利者はAである。しかし,原告は,従前から本
件特許権の特許料を負担しAから本件特許権を譲り受けた者であるから処,,「
分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(行政事件訴訟法9条1」
項)に該当することは明らかである。
2特許法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」の意
義について
「」()特許法112条の2第1項にいうその責めに帰することができない理由1
は,本来の特許料の納付期間の経過後,さらに6か月間の追納期間が経過し
た後(特許法112条1項参照)の特許料納付という例外的な取扱いを許容
するための要件であり,その文言の国語上の通常の意味,訴訟行為の追完を
定めた民事訴訟法97条1項の「その責めに帰することができない事由」の
解釈及び拒絶査定不服審判や再審の請求期間についての同種の規定(特許法
121条2項,173条2項)において一般に採用されている解釈に照らせ
ば,天災地変や本人の重篤のような客観的理由により手続をすることができ
ない場合のほか,通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお
追納期間内に納付をすることができなかった場合を意味すると解するのが相
当である。
()この点,原告は,同条項は,当事者が社会通念上相当の注意を払っても避2
けることができなかった事情の存在と解釈すべきであり,かかる解釈をして
も,特許権の回復のための追納ができる期間が制限されていること(特許法
112条の2第1項,及び,回復された特許権の効力は,第三者保護のた)
めに制限されていること(特許法112条の3)からして,特段の不都合は
生じないし,また,国際調和の観点にも合致すると主張する。
しかし,回復が可能な期間や回復された特許権の効力が制限されているか
らといって,上記文言の意味と乖離した解釈が許容されるものではない。そ
して「同盟国は,料金の不納により効力を失った特許の回復について定め,
ることができる」旨のパリ条約5条の2第2項の規定に照らせば,特許権。
の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかは各締結国の判断に
委ねられた立法政策の問題というべきであって,我が国の法規の文言を他国
の法規の文言と同一の意義に解釈すべきとはいえない。したがって,原告の
主張を採用することはできない。
3本件における「その責めに帰することができない理由(法112条の2第」
1項)の存否について
(,,),。()証拠甲10ないし131819によれば次の事実が認められる1
,,原告はAから本件特許ファミリーのライセンスを受けていたものであり
(),。,平成16年2004年の春本件特許ファミリーを譲り受けた原告は
通常はCPAに特許権の管理を委ねているものの,本件特許ファミリーにつ
いては,C事務所が出願段階から関与し,本件特許ファミリーのうち米国特
許出願については未だ審査中であったこと,前記ライセンスの後は,原告が
C事務所を介して年金を支払ってきたこと等から,そのままC事務所に年金
管理を委ねることにした。C事務所においては,年金の期限をモニターする
ためCPAを利用しており,年金の支払期限がくると原告に納付期限を知ら
せ,支払意思の有無を確認するためのリマインダーを送付することになって
いた。
原告は,平成17年(2005年)4月13日,C事務所から「A博士,
のための以下の年金は,2005年4月30日が期限です」と記載された。
ファックスを受信した。同書面には,ドイツ特許,フランス特許,スイス特
許オランダ特許ベルギー特許及びスウェーデン特許が記載されていた甲,,(
10。原告の管理記録では,平成15年(2003年)9月4日付けで,)
本件特許について同年10月14日に年金納付期限が到来する旨のレターを
受領して以降,C事務所から年金支払に関する通知を受けた記録は残されて
いない。
原告のパラリーガルのEは,平成17年4月25日,本件特許権,オース
トラリア特許及びカナダ特許につき緊急に年金を支払って欲しい旨をCPA
に指示した(甲11。しかし,同日,オーストラリア特許及び日本国の本)
件特許権の支払期間が徒過している旨をCPAから知らされた(甲12。)
また,原告は,同日,C事務所に対し,本件特許ファミリーの管理をC事
務所に委ねることを止めることを通知した(甲13。)
()上記認定事実によれば,原告は,本件特許権の年金管理をC事務所に委託2
していたものの,C事務所が特許料を支払うか否かについて原告の意思を確
認するリマインダーを所定の時期に原告に送付せず,追納期間の末日の約1
週間前に本件特許ファミリーの一部(本件特許権は含まれていなかった)。
についてリマインダーを送付したにとどまり,原告は追納期間内にも特許料
の納付ができなかったというものである。このように,C事務所は,本件特
許権の年金管理を善良な管理者としての注意義務を尽くして遂行すべきとこ
ろ,原告にかかる通知を行わなかったことについて過失があることは明らか
である。そして,本件特許権の実質的権利者である原告は,本来自らなすべ
き特許権の管理を,自らの判断と責任において第三者に委託したのであるか
ら,原告が本件特許権の管理を委任していたC事務所の過失は原告の過失と
同視でき,万全の注意を払っていても特許料等を納付できなかったとはいえ
ないことが明らかであり「その責めに帰することができない理由(法1,」
12条の2第1項)があるということはできない。なお,C事務所は,原告
との間の委託関係を否定していることが窺えるも,仮に,委託関係が存しな
いのであれば,本件特許権の管理委託を適正に行わなかった点において原告
,「」の過失があることが明らかでありその責めに帰することができない理由
がないことは明らかである。
()原告は,特許管理を信頼性の高い外部組織に委ねる趨勢に照らせば,外部3
組織の選任監督に社会通念上相当の注意を払っている場合には,仮に外部組
織の事情により事故が生じたとしても,特許権者側は社会通念上相当の注意
を払ったのであるから「その責めに帰することができない理由」があると,
主張する。しかし,たとえ信頼性の高い外部組織に特許管理を委ねた場合で
あっても,本来自らなすべき特許権の管理を,自らの責任と判断において,
当該外部組織に委託して行わせたのであるから,当該外部組織の過失は,特
許権者側の事情として,原告の過失と同視するのが相当であって,原告の主
張は採用できない。
また,原告は,極めて多くの特許を保有しているものの,特許料納付に関
する事故が発生したのは本件特許ファミリーのみであることを指摘して,原
告が社会通念上相当な注意を払って特許管理を行ってきたと主張する。しか
し,仮に,他の特許について適正な管理が行われていたとしても,本件特許
権の管理においては,原告自身の責任と判断において,C事務所に委託する
ことを選択し,委託を受けたC事務所において前記の過失が認められるので
あるから,万全の注意を払っていたといえないことは明らかであって,原告
の主張は採用できない。
4結論
したがって,本件特許権の第5年分の特許料の追納期間経過後になされた同
特許料等の納付は,原特許権者の「責めに帰することができない理由」に基づ
く追納期間の延長が認められないのであるから,これを不適法として却下した
処分行政庁の判断は適法である。
よって,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟費用の
負担について民事訴訟法61条を,控訴のための付加期間の付与について同法
96条2項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
設樂隆一裁判長裁判官
古庄研裁判官
裁判官古河謙一は,転補のため署名押印することができない。
設樂隆一裁判長裁判官

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