弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人宮城実の上告趣意第一点、第二点並びに第五点について。
 原判決は「罪となるべき事実及証拠は……罪となるべき事実中……「犯意を継続
して」と追加する外総べて原判決と同様であるから茲にこれを引用する」と説明し
ているだけで、その追加された犯意継続の点につき何等の証拠説明をもしていない
ことは所論第一点のとおりである。そして、第一審判決の挙示せる証拠は「一、被
告人の当公廷における自白一、A作成の配給証明書中……配給数量の記載」である。
されば、原審が引用した第一審の公判廷における被告人の自白とあるのは被告人の
自白そのものではなく第一審公廷における被告人の供述記載であると理解するを相
当とする。ところが、第一審公判調書によれば同調書には「判事は公判請求書記載
の公訴事実を読み聞かせ、この事実はどうかとの問に対して、被告人はその通り間
違ありませんと答えた旨」の記載が存するのみであるから、原審がこれを証拠に供
するには第一審公判調書の外公判請求書をも読みきけ、これが証拠調をしなければ
ならないものといわねばならぬ。しかるに原審においては第一審公判調書について
は証拠調がなされているが、公判請求書についてはこれを読み聞かせた形跡を記録
上発見することができないのである。されば第一審公廷における被告人の供述記載
を証拠とした原判決には、所論第二点のように証拠理由の不備あるものといわなけ
ればならぬ。次に原判決はその法律適用において旧刑法五五條を適用していること、
竝びに、同條は刑法の一部を改正する法律によつて昭和二二年一一月一五日から廃
止されたものであること、及び判示不正受配の所爲は同年九月二六日より同二三年
三月二三日迄になされたものであることは、いずれも所論第五点のとおりである。
しかるに、原判決は右所爲が犯意を継続してなされたことについては何等の証拠説
明をもしていないから、原判決には所論第一点のような証拠上の理由不備があるば
かりでなく、仮りに犯意を継続してなされたものであるとしても、判示所爲はこれ
を、右五五條が廃止されその適用がなくなつた日の前になされたものと、後になさ
れたものとに区別し、前の所為には旧法五五條を適用して一罪とするは格別前の行
為と後の行爲、竝びに後の各所爲を一括して連続一罪として旧刑法五五條を適用す
べきものでないことはいうまでもないところである。されば原判決には所論第五点
のような法令適用上の違法もあるものといわなければならぬ。論旨各点はいずれも
その理由があつて、原判決は破棄を免れない。
 よつて爾余の論旨に対する判断を省略し、旧刑訴四四七條、四四八條ノ二に從い
裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。
 検察官松本武裕関與昭和二六年一月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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