弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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(見出し)
 消費者金融業者からの多額の借金の返済などに窮し,知人である独り暮らしの女性
宅に侵入した上,同女を殺害して現金やキャッシュカードを強取するなどした住居侵入・
強盗殺人等の事案において,被告人に無期懲役刑が言い渡された事例
平成14年(わ)第219号,第249号,第290号 窃盗,住居侵入,強盗殺人,窃盗未
遂被告事件
判決
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,消費者金融業者からの多額の借金の返済などに窮し,
第1平成14年6月12日午後8時27分ころ,石川県河北郡a町bc丁目d番地A信用金
庫B支店において,不正に入手したC名義のキャッシュカードを使用し,同所に設置
された現金自動預払機に暗証番号を入力するなどして,同現金自動預払機から,
同支店支店長D管理の現金を窃取しようとしたが,同キャッシュカードによる取引が
停止されていたため,その目的を遂げなかった
第2知人のE(当時59歳)から金品を強取することを企てるとともに,その際自己が犯
人であることを覚知された場合には,犯行の発覚を免れるため,同女を殺害して金
品を強取しようと企て,タオルで覆面した上,同月14日午前2時30分ころ,同町ef
丁目g番地同女方に,施錠された玄関引き戸を携行した合鍵で開けて侵入し,同女
方1階6畳和室において,サイドボードの上に置いてあったショルダーバッグを物色
しようとしたところ,隣接する奥の寝室のベッドに寝ていて物音で目を覚ました同女
に気付かれ,「誰。」などと声を掛けられたことから,同ベッドに横になっていた同女
の口を左手で押さえ,その右肩部付近を右手で抱え込むなどしてうつ伏せにし,背
後からその頸部を両手で絞め付け,携行した細長く切ったタオル片でその両手・両
足を緊縛し,口の中に同様のタオル片を丸めて押し込むなどの暴行を加えたが,そ
の後,被告人が目を離した隙に,両足のタオル片を外した同女が上記6畳和室に
出て玄関方向に向かって小走りで横切っていくのを認め,約1.5メートルの至近距
離に迫った同女の顔が自己の方を向いた際,覆面に用いていた前記タオルが外れ
て自己の顔が完全に露出していたことに気付き,自己が犯人であることを覚知され
たと思うに及んで,同女を殺害しようと決意し,上記6畳和室において,背後から同
女の両肩部付近をつかんでうつ伏せに押し倒し,同女に馬乗りになって背後からそ
の頸部を両手で力一杯絞め付け,同女の口の中から引っ張り出した上記タオル片
で猿ぐつわをかませるようにして後頸部で強く縛り,更に覆面に用いていた前記タ
オルを同女の顔面に巻き付けて後頸部で縛るなどの暴行を加え,よって,そのこ
ろ,同所において,同女を外頸部圧迫(扼頸及び絞頸)並びに鼻口部閉塞に基づく
窒息により死亡させて殺害した上,同女所有又は管理の現金約1万2000円及び
キャッシュカード3枚を強取した
第3 同日午前8時49分ころ,同県金沢市h町i番地F信用金庫G支店において,前記強
取にかかるE名義のキャッシュカードを使用し,同所に設置された現金自動預払機
から,同支店支店長H管理の現金22万円を引き出して窃取した
第4同日午前8時53分ころ,同市jk丁目l番地株式会社I銀行J支店において,前記強
取にかかるE名義のキャッシュカードを使用し,同所に設置された現金自動預払機
から,同支店支店長K管理の現金1万8000円を引き出して窃取した
第5同日午前9時24分ころ,同県河北郡m町no丁目p番地のqL郵便局において,前
記強取にかかるE名義のキャッシュカードを使用し,同所に設置された現金自動預
払機に暗証番号を入力するなどして,同現金自動預払機から,同郵便局局長M管
理の現金を窃取しようとしたが,入力操作を誤ったため,その目的を遂げなかった
ものである。
(量刑の事情)
1 事案の概要
  本件は,消費者金融業者からの多額の借金の返済などに窮した被告人が,裕福そう
にみえた知人のE(以下「被害者」という。)方から持ち出したキャッシュカードを使用し
て現金を引き出そうとした窃盗未遂(判示第1),更に金品を強取しようとして被害者
方に侵入し,被害者を殺害して現金やキャッシュカードを強取した住居侵入・強盗殺
人(判示第2),強取したキャッシュカードを使用して現金を引き出した窃盗既遂2件
(判示第3,第4)と未遂に終わった1件(判示第5)の事案である。
2 犯行に至る経緯(略)
3 特に考慮した事情
・ 消費者金融業者等からの多額の借金の返済や家出後の自己の生活費に窮し,そ
れらの金銭欲しさに本件各犯行に及んだという利欲的で自己中心的な動機に酌量
の余地は全くない。借金を負うに至った前記経緯にも酌量の余地はない上,借金
返済について真摯に適切な対処をせず,金銭を得るために,何の落ち度もない被
害者の生命を犠牲にしたことは,まことに短絡的で身勝手との厳しい非難を免れな
い。
・ 被告人は,金を持っていそうだからという理由で,親しくしていた被害者の留守中
に被害者方に勝手に入って金目のものを探したり,被害者の留守中では多額の金
品を入手できないことが分かると,被害者に対する強盗を企てるとともに,自己が
犯人であることを気付かれた場合には被害者を殺害して金品を強取するほかない
とまで考え,本件強盗殺人に及んだ。そして,被害者を殺害後,その遺体のある屋
内で物色を続けて現金やキャッシュカードを強取し,3回にわたり,各金融機関の
現金自動預払機から金を引き出し,あるいは引き出そうとしたものである。このよう
に,本件は,背信的で,何としてでも被害者から金品を奪い取ろうという金銭に対す
る強い執着心に基づく極めて悪質な犯行である。本件住居侵入・強盗殺人に先立
ち,借金申込みを装って被害者方を訪れ,被害者が一人で在宅しているのを確認
した上,一旦引き上げ,自己が犯人であると気付かれないよう,作業服に着替えて
タオルで覆面をし,指紋を残さないように軍手をはめ,被害者を緊縛したりするため
のタオル片を用意するなど,用意周到で極めて計画性にも富んでいる。被害者方
に侵入した後,物音で目を覚ました被害者に判示の暴行を加え,両手足を緊縛し
ていたところ,被告人の隙をみて足の緊縛を解き逃げようとした被害者に対し,重
ねて判示の暴行を加え,確定的殺意をもって,頸部を両手で力一杯1分間ほども
絞め続け,被害者の体から力が抜け,死んだようになった後も,息を吹き返して逃
げたりしないよう再度強く緊縛するなどして被害者を殺害するなど,殺害行為の態
様も冷酷かつ残虐である。さらに,被害者を殺害後,犯行の発覚を遅らせるため,
被害者の勤務先に身内の者を装って,被害者が病気で欠勤する旨の電話をするな
ど,犯行後の情状も悪い。
・ 被害者は,決して楽ではない生活の中で,一人で働きながら懸命に二人の子を育
て上げるなど,苦労の多い人生を送ってきた。そして,退職後の生活に備えて自動
車学校に通ったり,新しい習い事をしようと計画するなど,ようやく自己の人生を謳
歌しようとしていた矢先,被告人に突然命を奪われたのであって,結果は極めて重
大である。何ら落ち度のない被害者が受けた驚愕や無念さは,計り知れない。遺族
は,その余りに理不尽な現実に直面して,深い悲しみに沈むとともに激しい憤りを
覚え,特に被害者の二人の子は,いずれも当公判廷において,被告人の極刑を強
く望むと述べるなど,遺族の処罰感情は当然のことながら極めて厳しい。また,本
件各犯行による財産的被害は合計約25万円であり,決して少なくない。しかるに,
遺族に対し,何ら慰謝の措置は講じられておらず,被害弁償もされていない。
・ 本件住居侵入・強盗殺人が,閑静な住宅街で発生した凶悪事件として,近隣住民・
地域社会に与えた恐怖感・衝撃は極めて大きい。
・ 被告人には,昭和60年7月業務上横領罪等で懲役1年6月・4年間刑執行猶予
(昭和63年6月猶予取消し)に,その執行猶予期間中に犯した窃盗罪により昭和6
3年6月懲役1年2月に,平成4年9月窃盗罪等で懲役1年2月に,各処せられた前
科があるなど,規範意識の低下も著しい。
・ 他方,被告人は,被害者や遺族に対して謝罪し,極刑に処せられることが自己の
なし得る唯一の償いであると述べるなど,反省悔悟の情を示している。
・ 以上の諸事情を総合して考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大であり,何
ものにも代え難い尊い人命を奪った被告人に対しては,その事実を厳粛に受け止
めさせ,一生をかけて贖罪の日々を送らせるのが相当であると判断し,無期懲役
刑に処することとした。
(検察官 児嶋隆司)
(求 刑 無期懲役)
平成15年2月17日
金沢地方裁判所第三部
裁判長裁判官   伊  東  一  廣
裁判官   髙  橋     裕
裁判官   平  手  一  男

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