弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する
         理    由
 弁護人坪野米男の控訴趣意は同弁護人名義の控訴趣意書記載のとおりであるから
茲にこれを引用する。
 まず事実誤認の論旨について判断するに、原判示第二の事実は原判決挙示の証拠
によつて優にこれを認めることができる。食糧緊急措置令第二条に、政府が主要食
糧を収用しようとする場合には、当該官吏をして収用しょうとする主要食糧につい
て、収用すべき主要食糧であることの表示をさせると同時に、当該主要食糧の所有
者に対して、収用令書を交付せしむべき旨を定めていることは、所論のとおりであ
るが、同令施行規則第二条には、農林大臣又は地方長官が主要食糧を収用しようと
する場合には、当該官吏をして収用しようとする主要食糧の所在の場所に臨検し、
当該主要食糧の包装の口縄、若は口縫紐の結止、又は之に準ずる箇所に、農林大臣
の定める様式に依る票箋を結附せしむべき旨を定め、同第四条に、収用令書に記載
すべき事項として「収用すべき主要食糧の種類、銘柄、等級、数量及び所在の場
所」を掲げ、臨検の結果を侯つて初めて明確にし得ろ事項を、記載要件としている
ばかりでなく、更に同第一一条第一項によると、当該官吏が収用しようとする主要
食糧票箋を結附する場合には、其の身分を示す証票を携帯すれば足る旨定められて
いるのであるから、以<要旨>上の規定並びに爾余の食糧緊急措置令同施行規則の文
意を対比検討するときは、主要食糧の収用手続は、対象物件の引渡による現
実の収用に先だつ準備行為として、収用官吏が所定の身分証票を携え物件所在の場
所に臨検することに開始するものと解すべきであるから、当該主要食糧の所有者に
対する収用令書の交付は収用手続開始の要件ではなくして、臨検によつて明確にし
得た収用の対象物件を特定し、その所有者に之を告知する法定の方式であると同時
に現実の収用の前提要件であるというべきである。従つて本件において、京都府食
糧課主事A等が所定の収用官たる身分証票を携帯して被告人方に赴き、臨検、俵装
等の収用手続を執行する際被告人においてA主事等に対し、「止めねば首がない
ぞ」等の威嚇的言辞を弄したことが認められる以上、該言辞が相手方の職務上の責
任問題となるべきことを意味するに止り、身体生命に危害を加えることの告知では
なく、且相手方を畏怖せしめるに足らないものであつたとしても、収用を拒否する
意思を表示した行為であること勿論であつて、未だ収用令書を交付する段階に至ら
ない以前であつても、茲に食糧緊急措置令第一三条所定の犯罪は直ちに成立するも
のといわねばならない。所論は主要食糧の所有者に対する収用令書の交付を、収用
手続開始の要件であるように誤解し、これが交付なき限り収用行為を拒否するにつ
き正当の事由があることを前提とするものであつて、論旨は理由がない。
 従つて又、所論の事実誤認を前提として、原判決に理由のくいちがいがあり、法
令適用の誤りがあるとする論旨も失当である。
 次に量刑不当の論旨について考慮するに、原審の認定に係る被告人の本件犯罪自
体、並びに記録の示すその動機、態様、及び爾余各般の情状を検討するときは、原
審の科刑は極めて寛大であつて、之を非議するの余地なく、論旨は全く理由がな
い。
 よつて刑事訴訟法第三九六条に則り主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 富田仲次郎 判事 棚木靱雄 判事 入江菊之助)

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