弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金二千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、金沢区検察庁上席検察官検事山崎金之介作成名義の控訴趣意
書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 控訴趣意第一点について
 所論は要するに、本件公訴事実は、被告人は法定の除外事由がないのに起訴状記
載の日時場所において第二種原動機付自転車を運転して交差点に入るに際し、前方
の道路標識の表示に注意し一時停止すべき場所ではないことを確認して運転すべき
義務を怠り同所が一時停止すべき場所であることに気付かないで一時停止しなかつ
たものであるというのであり、結局被告人が過失によつて一時停止の標識に気付か
ず交差点へ進入前の一時停止をしなかつた点を問題としていることは起訴状の記載
自体から明らかであるにも拘らず、原判決は被告人が本件交差点、即ち二つの道路
の交わる部分である地域内で一時停止した旨を認定したにとどまり、起訴事実たる
該交差点の地域に入る以前にその手前で一時停止したか否かについて何らの判断を
しなかつたのは、明らかに審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判
の請求を受けない事件について判決をした違法があるというのである。
 なるほど、原判決は被告人が本件交差点において一時停止した事実を証拠により
確定したにとどまり、該交差点に入る以前にその手前で一時停止したか否かの点に
ついて何ら判示していないことは所論指摘のとおりであるけれども、原判決の趣旨
とするところは、結局被告人が起訴状記載の日時に本件交差点において一時停止し
安全を確かめたことにより道路交通法第四十三条所定の義務を果したものと認め、
被告人に何らの刑責がないと判断したものであることが明らかであるから、同法条
の解釈適用に関する当否の点は暫く措き、少なくとも、同法条所定の一時停止義務
に過失によつて違反した事実を内容とする本件公訴事実に対し審判したものという
に何ら妨げなく、従つて原判決には所論の如く審判の請求を受けた事件について判
決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をした違法は存しないもの
といわなければならない。それ故論旨は理由がない。
 控訴趣意第二点について。
 所論は要するに、原判決が「証拠により確定される事実」として判示した「被告
人は第二種原動機付自転車を運転して起訴状記載の日時に本件交差点において一時
停止したものである」との説示が道路交通法第四十三条に規定した「交差点に入ろ
うとする車両等」の交差点手前での一時停止を認定した趣旨であるとするならば、
前掲「証拠により確定される事実」欄に挙示の証拠にその余の証拠を総合しても本
件交差点手前での一時停止の事実を認めることはできないのであるから、結局原判
決は「交差点内での一時停止の事実」を裏付ける証拠をもつて漫然「交差点手前で
の一時停止の事実」を認定したか、または、交差点に入ろうとする車両等の「交差
点手前での一時停止の事実」を認定するにあたり判決に理由を付さなかつたかのい
ずれかであつて、理由不備ないし理由のくいちがいの違法を冒したものであるとい
うのである。なるほど、原判決は被告人が第二種原動機付自転車を運転して原判示
日時に本件交差点において一時停止し安全を確かめたものであるとの事実を認定し
たうえ、被告人には何らの刑責がないとして刑事訴訟法第三百三十六条前段に則り
被告人に対し無罪の言渡をなすべき旨を説示していることは原判文上明らかであ
り、従つて、本件交差点における一時停止の事実をもつて直ちに、原判示の如く道
路交通法第四十三条所定り一時停止義務を果したものと認め被告人に刑責なしと断
定することができるか否かは別に検討の余地があるにしても、ともかくも、無罪判
決の理由としては刑事訴訟法第三百三十五条のような規定はなく、同法第三百三十
六条に従い罪とならないものとして無罪とするか、又は犯罪の証明がないものとし
て無罪とするかを示せば足るものと解すべきであるから、原判決の無罪理由は同法
条所定の要件を十分に具備しているものというべく、原判決に所論の如き違法があ
るものということはできない。それ故論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点について。
 所論は要するに、原判決は被告人が本件交差点の直前においては一時停止をしな
かつたが、そのほぼ中心部まで進出して一時停止し、そこで安全確認の措置を講じ
たのであるから道路交通法第四十三条の規定する交差点における一時停止の義務を
果したものであつて刑責がないと判断して被告人に無罪を言い渡したとすれば、右
は明らかに同法条の解釈適用を誤つたものというべきであり、もともと同法条の法
意は、交差点に入ろうとする車両等に対しあらかじめ一時停止すべきことを義務ず
けたものと解すべきであつて、交差点たる区域に入ろうとするときは、その手前少
なくとも直前で停止すべきことを要求しているものであることは殆ど疑問の余地は
ないというのである。
 よつて考察するに、原判決は被告人が第二種原動機付自転車を運転して原判示日
時に本件交差点において一時停止し安全を確かめたのであるから被告人には何らの
刑責はないものとして被告人に対し無罪の言渡をなすべき旨を説示していることは
所論指摘のとおりである。そして、右判文の措辞はやや正確を欠く嫌がないではな
いけれども、これを本件現場並びに証拠に現われた具体的事実関係にてらしてみる
と、原判決の趣旨とするところは、結局石川郡a町中心部から国鉄北陸本線A駅方
面に向う道路が国道八号線道路と相交わつてつくる四辺形の広がり、即ち本件の交
差点のほぼ中心部(原審検証調書及び当審受命裁判官の検証調書添付見取図参照)
において被告人が一時停止して安全を確認した以上、該交差点の手前で一時停止を
行わなくとも、道路交通法第四十三条所定の義務を果したものとして被告人には何
らの刑責はないと判断して被告人に無罪を言<要旨>い渡したものと解することかで
きのである。そこで、道路交道法第四十三条の指定場所における一時停止をな 旨>すべき地点について検討してみると、同法条の立法趣旨が同法第一条に規定する
道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る目的にでたものである
ことは言を俟たないところであり、とくに、同法第四十三条は交差点に入ろうとす
る車両等に対し公安委員会が指定した場所において一時停止をなすべき義務を定め
たものであるから、車両等の一時停止は交差点の手前、少なくともその直前におい
てなすべきものと解するのが前記立法趣旨にてらし相当であり、さればこそ、一時
停止の規制標識についても道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(昭和三十
五年十二月十七日総理府、建設省令第三号)第二条の別表第一により「車両及び路
面電車を一時停止させる交差点の手前の左側の路端」にその前方から見やすいよう
に設置すべき旨(道路交通法第九条第二項同法施行令第七条第二項参照)を義務ず
けているのである。もつとも、かように解すると、前記道路標識の設置場所が当該
交差点並びに附近の地形的状況により必ずしも左右の見通し等により他の交通の安
全を確認しうる地点と合致しない場合の生ずることは容易に考えられるところであ
り、通常の場合には交差点の直前であつて左右の見通しが可能な地点で一時停止す
べきものと解して何ら差支ないけれども、交差点に幾分進入しなければ左右の見通
しかできない地形の場合には、道路標識が交差点の手前にあつても、なお見通しの
可能な地点で一時停止をなすべきかは議論の余地はあろうが、本条による指定が単
なる危険防止の措置にとどまらず、幹線道路に対する優先通行権の保護の確保とい
う意味をも有することを考え併せると、通常の場合と同様、交差点の直前において
一時停止すべきものと解するのが相当である。以上要するに、道路交通法第四十三
条の指定場所における一時停止は当該交差点の直前においてなすべきものと解する
のが相当であり、原判示の如く本件交差点内に一旦進入したのち、同所において一
時停止して安全を確認したとしても、そのために交差点の直前において尽すべかり
し一時停止の義務を免れることはできない筋合であるから、これと異なる見解にた
つて被告人に刑責はないものと判断した原判決には道路交通法第四十三条の解釈適
用を誤つた違法があるものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明ら
かであるから結局論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り原判決を破棄し、同法第四
百条但書に従い当裁判所において更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十六年二月二十五日午後一時十分頃石
川県公安委員会が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定した石川県石川郡a
町b町c番地のd先道路において第二種原動機付自転卑を運転して交差点に入るに
際し、前方の道路標識の表示に注意し一時停止すべき場所ではないことを確認して
運転すべき義務を怠り同所で右一時停止すべき場所であることに気付かないで一時
停止しなかつたものである。
 (証拠の標目)
 一、 原審第一回公判調書中被告人の供述記載
 一、 被告人の当審公判廷における供述
 一、 被告人の司法巡査に対する供述調書
 一、 原裁判所の証人B、同Cに対する各尋問調書
 一、 原裁判所の検証調書
 一、 当審受命裁判官の検証調書
 一、 松任警察署長より金沢区検察庁検察官宛の「告示の写等送付について」と
題する書類綴
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は道路交通法第四十三条第九条第二項第百二十条第二項第一項
第三号同法施行令第七条に該当するからその所定罰金額の範囲内で被告人を罰金二
千円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金四百円
を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、原審及び当審における訴訟費用は
刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部被告人に負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山田義盛 判事 堀端弘士 判事 内藤丈夫)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛