弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2文部科学大臣が,控訴人学校法人A学園に対し,平成25年2月20日付けで
行った公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に
関する法律施行規則1条1項2号ハの規定に基づく指定をしないとした処分を
取り消す。
3文部科学大臣は,控訴人学校法人A学園に対し,公立高等学校に係る授業料の
不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則1条1項2号ハ
の規定に基づく指定をせよ。
4被控訴人は,別紙当事者目録の別紙個人控訴人目録記載の控訴人番号1から1
10まで(103を除く。)の控訴人らに対し,それぞれ,別紙「請求金額一覧
表」の「請求合計」欄記載の金額及びこれに対する平成25年10月29日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6第4項につき仮執行宣言
第2事案の概要
1要旨
⑴本件は,B学校(以下「本件学校」という。)を設置,運営する学校法人で
ある控訴人学校法人A学園(以下「控訴人法人」という。)が,文部科学大臣
に対し,平成22年11月25日付けで,公立高等学校に係る授業料の不徴
収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成25年法律第90号
による改正前のもの。同号により法律の題名が「高等学校等就学支援金の支
給に関する法律」と改められた。以下「支給法」という。)2条1項5号,同
法施行規則(平成22年文部科学省令第13号。ただし,平成25年文部科学
省令第3号による改正前のもの。以下「本件省令」という。)1条1項2号ハ
の規定(以下「ハ規定」ともいう。)に基づく指定に関する規程(「公立高等学
校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行
規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程」。以下「本件規
程」という。)14条1項に基づいて,外国人学校の指定を受けるための申請
(以下「本件申請」という。)をしたところ,文部科学大臣から,平成25年
2月20日,当該指定をしない旨の処分(以下「本件不指定処分」という。)
を受けたことから,控訴人法人及び本件学校(高級部)に在籍し又は在籍して
いたとする別紙当事者目録の別紙個人控訴人目録記載の控訴人番号1から1
10まで(103を除く。)の控訴人ら(以下「控訴人個人ら」という。)が,
本件不指定処分の取消し及び当該指定の義務付けを求めるとともに,控訴人
個人らが,違法な本件不指定処分により,支給されるべき高等学校等就学支
援金(以下「就学支援金」という。)の支給を受けられず,学習権,幸福追求
権及び平等権を侵害され,精神的苦痛を被ったなどと主張して,被控訴人に
対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償とし
て別紙「請求金額一覧表」の「請求合計」欄記載の金額及びこれに対する違法
行為の後の日である訴状送達の日の翌日である平成25年10月29日から
支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年
5分の割合による金員の支払を求める事案である。
⑵原審は,文部科学大臣の控訴人法人に対するハ規定に基づく指定を求める控
訴人らの訴えをいずれも却下し,控訴人らのその余の各請求をいずれも棄却し
た。
⑶控訴人らは,これを不服として,本件各控訴を提起した。
2関係法令の定め及び支給法に基づく就学支援金制度の概要
⑴関係法令は,原判決別紙「関係法令の定め」(61頁~78頁)記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決71頁9行目末尾に改行の上,
次のとおり加える。
「1815条
文部科学大臣は,規則第1条第1項第2号ハの規定による指定を行おう
とするときは,あらかじめ,教育制度に関する専門家その他の学識経験者
で構成される会議で文部科学大臣が別に定めるものの意見を聴くものと
する。
1918条1項
文部科学大臣は,指定教育施設の設置者が留意すべき事項(次項におい
て「留意事項」という。)があると認めるときは,当該者に対し,当該事項
の内容を通知するものとする。
2018条2項
文部科学大臣は,留意事項の履行の状況を確認するため必要があると認
めるときは,指定教育施設の設置者に対し,その履行の状況について報告
を求めることができる。」
⑵支給法に基づく就学支援金制度の概要
ア支給法の目的等
支給法は,公立高等学校(地方公共団体の設置する中等教育学校の後期
課程及び特別支援学校の高等部を含む。以下同じ。)について授業料を徴
収しないこととするとともに,公立高等学校以外の高等学校等(以下「私
立高等学校等」という。)の生徒等が,その授業料に充てるために就学支援
金の支給を受けることができることとすることにより,高等学校等におけ
る教育に係る経済的負担の軽減を図り,もって,教育の機会均等に寄与す
ることを目的とするものである(支給法1条,2条2項及び同条3項参照)。
従来は,高等学校等の後期中等教育段階の学校における教育に係る費用
負担については,義務教育と異なり,憲法上無償であることが要求される
ものではなく(憲法26条2項参照),また,私立学校を含め一律に無償と
することは実際上困難であることなどから,受益者である生徒等に授業料
等の負担を求めることを原則としつつ,経済的理由により就学困難な者に
対する奨学金事業の実施,公立高校における授業料減免,私立高校が行う
授業料減免への補助等,主として低所得者層を対象として支援がされてき
た。
これに対し,支給法は,①高等学校等における教育を受けるには,授業
料のほかにも様々な費用がかかり,保護者には決して軽くない経済的負担
が生じている現状があり,特に,近年の経済情勢の悪化に伴ってその負担
が相対的に重くなっていることから,進学の意欲のある者が経済的理由で
就学が困難となることがないよう,一層の教育費負担軽減を図り,教育の
機会均等を確保することが喫緊の課題となっていること,②今日,高等学
校等は,その進学率が約98%(平成20年度学校基本調査)に達し,そ
の教育の効果は広く社会に還元されるものとなっていることに鑑みれば,
高等学校等の教育に係る費用については,社会全体で負担していくことが
適当であると考えられること,③諸外国では,多くの国で後期中等教育を
無償としており,国際人権A規約中の中等教育における無償化の漸進的導
入に関する規定について留保しているのは我が国を含む2か国のみであ
って,これを撤回するための施策を展開していくことが求められていたこ
と等の状況の変化に伴い,全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち
込めるよう,高等学校等の教育に係る費用負担のあり方を見直し,受益者
(個人)に応分の負担をさせるという考え方からこれを社会全体で負担す
るという考え方に重点を移して施策を進めることが国民的要請になって
いるとの前提に立って,このような国民的要請に応え,高等学校等の授業
料の実質無償化に向けた取組を進めるための施策の一環として,国が必要
な経費を負担すること等により,公立高等学校について授業料を徴収しな
いこととするとともに,私立高等学校等の生徒等が,その授業料に充てる
ため,就学支援金の支給を受けることができることとしたものである。(以
上につき,乙3・3頁)
イ就学支援金の額
私立高等学校等に在学する生徒に対する就学支援金は,都道府県知事等が,
国から交付される金銭を原資として,受給権者に対して,原則として月額9
900円(年額11万8800円)を限度として支給すべきものとされてい
る(支給法6条1項,公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就
学支援金の支給に関する法律施行令(平成26年政令第124号による改正
前のもの)3条1号)。
上記就学支援金の支給額に関しては,いわゆる低所得世帯の生徒の一部に
ついて,政令で定める金額が加算され(支給法6条2項),平成25年法律第
90号による改正後は,いわゆる高所得世帯の生徒等に対しては,就学支援
金が支給されないこととされた(同法による改正後の支給法3条2項3号)。
ウ支給法における就学支援金制度の仕組み等
支給法における授業料実質無償化の枠組み
a高等学校等(支給法2条1項)の授業料を実質的に無償化するための
具体的な制度設計として,公立高等学校(同条2項)については,生徒
が負担する授業料による収入相当額を国が地方公共団体に対して交付
することにより,生徒から授業料を徴収しないこととし(支給法3条),
私立高等学校などの公立高等学校以外の高等学校等(私立高等学校等。
支給法2条3項)については,在学する生徒等に対して就学支援金を支
給するものとしている(支給法4条1項)。
b支給法において前記aのような二本立ての制度とされたのは,以下の
とおり,設置者や学校種に応じて,支給法制定の趣旨を実現する上で,
最も合理的と思われる方法を採ったことによるものとされている。
すなわち,公立高等学校については,①高等学校等の生徒の約7割を
占め,我が国における高等学校教育の中核を担うものであるから,支給
法制定の趣旨を実現するため,授業料の無償化を確実に措置する必要性
が高いこと,②授業料の設定は,設置者である地方公共団体が権限を有
するものの,広く地域住民に高等学校教育を提供する教育機関として,
組織運営の実態やそれに関する経費に一定の共通性があり,実際にも,
ほとんどの地方公共団体において,地方交付税単価に準拠して授業料を
設定するなど,授業料の額には余り差がないため,国が標準的な授業料
額を設定して授業料の不徴収に必要な経費を措置することが比較的容
易であること,③就学支援金を個人に支給する場合に比べ,受給資格の
認定申請等の手続が不要となるなど,事務負担の軽減に資するとの理由
から,生徒が負担する授業料による収入相当額の資金を国が地方公共団
体に対して支給するとともに,地方公共団体が負担していた授業料減免
相当額については引き続き地方公共団体が負担することにより,公立高
等学校の授業料を不徴収とすることとされた。
他方,私立高等学校等については,在学する生徒等に対して就学支援
金を支給するものとされたのは,①建学の精神に基づいて特色ある教育
を行っており,授業料設定も含め,その自主性を尊重する必要があるこ
と,②平均授業料額が公立高等学校と比較して高く,国の支援により授
業料の無償化を実現すれば,多額の財政負担が生じることなどに鑑みる
と,公立高等学校と同様に授業料の不徴収を義務付けてこれに要する経
費を国が措置することによる授業料の無償化を図ることは現実的に困
難であったため,私立高等学校等の生徒等に公立高等学校の授業料の額
に相当する就学支援金(低所得世帯の生徒については加算した額)を一
律に支給することとし,学校設置者がこれを代理受領して授業料に係る
債権の弁済に充てることとすることにより,公立高等学校と同程度の負
担軽減を図る方法が採られたものとされている。
(乙3・4頁)
支給法における就学支援金制度の仕組み
a支給法は,①私立高等学校等に在学する生徒又は学生で日本国内に住
所を有する者に対し,当該私立高等学校等における就学について就学支
援金を支給するものとし(支給法4条1項),②上記の生徒等(同条2項
各号のいずれかに該当する者を除く。)は,就学支援金の支給を受けよ
うとするときは,本件省令で定めるところにより,その在学する私立高
等学校等の設置者を通じて,当該私立高等学校等の所在地の都道府県知
事に対し,就学支援金の支給を受ける資格を有することについての認定
を申請し,その認定を受けなければならないとし(支給法5条),③国が
就学支援金の支給に要する費用の全額に相当する金額を都道府県に交
付し(支給法15条1項),都道府県知事が受給権者である生徒等に対
して就学支援金を支給することとした上で(支給法7条1項),④支給
対象学校の設置者は,受給権者である生徒等に代わって就学支援金を受
領し,当該受給権者である生徒等の授業料に係る債権の弁済に充てるも
のとしている(支給法8条)。
b前記aのとおり,就学支援金制度が,学校設置者に対する機関助成と
せず,生徒個人に対する助成とするのは,学校設置会社等学校法人以外
のものが設置する高等学校や専修学校・各種学校に通う生徒を含め,そ
の在学する学校の設置者の種類や意向にかかわらず,より幅広く後期中
等教育段階において学ぶ生徒に対して確実な支援を行うことを可能と
するためであるとされている(乙3・4頁から5頁)。また,私立高等学
校等の設置者が受給権者に代わって就学支援金を受け取り,これを授業
料債権に充当する仕組みが採用された(支給法8条)のは,支給法の目
的を達するためには,受給権者である生徒等個人に支給した「高等学校
等就学支援金」が授業料以外に流用されることを防止する必要があるこ
と,地方公共団体等を通じて受給権者である生徒等個人に直接支給する
仕組みとする場合には事務的な負担が大きくなることから,極力これを
抑制する合理的な仕組みとする必要があるためである(乙3・11頁)。
支給対象外国人学校について
a支給法2条1項5号は,専修学校及び各種学校については,高等学校
の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限
り就学支援金制度の対象となる私立高等学校等に含まれるものと定め,
これを受けて,本件省令1条1項2号は,「各種学校であって,我が国に
居住する外国人を専ら対象とするもの(外国人学校)」のうち,①高等学
校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該
外国の学校教育制度において位置付けられたものであって,文部科学大
臣が指定したもの(同号イ),②同号イに掲げるもののほか,その教育活
動等について,文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであっ
て,文部科学大臣が指定したもの(同号ロ)及び③同号イ及びロに掲げ
るもののほか,文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に
類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指定し
たもの(同号ハ)を,就学支援金制度の対象となる私立高等学校等に含
まれる各種学校,すなわち,支給対象外国人学校としている。そして,
ハ規定による指定の基準及び手続等を定めるものとして,本件規程が定
められた。
b①本件省令1条1項2号イ(以下「イ規定」ともいう。)は,大使館等
を通じて日本の高等学校に対応する外国の学校と同等の課程を有する
ものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられていること
が確認できるもの(いわゆる民族系外国人学校)を,②同号ロ(以下「ロ
規定」ともいう。)は,国際的に実績のある学校評価団体の認証を受けて
いることが確認できるもの(いわゆるインターナショナルスクール)を,
それぞれ念頭に置いたものであり,大使館等の証明や国際的な評価機関
による認証によって,高等学校の課程に類する課程を置くものであるこ
とが担保されるものを対象としたものとされる。③他方,上記①及び②
のような制度的な担保のない外国人学校も存在し得るものと考えられ
たことから,ハ規定は,そのような外国人学校については,その適合性
の審査を文部科学大臣が個別に判断することとしたものとされる。(甲
84,乙4,弁論の全趣旨)
文部科学省において,支給法による就学支援金制度に関する事項は,初
等中等教育局財務課高校修学支援室(以下「支援室」という。)が所管して
いた。(甲22の1,甲167,168)
3前提事実
末尾に証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨によ
り認められる(以下,証拠について枝番号を全て挙げる場合には,枝番号の記載
を省略する。)。
⑴当事者等
ア控訴人法人は,本件学校を設置,運営する準学校法人であり,昭和41年
に学校法人設置認可を受けた。本件学校は,平成7年に広島県知事から学校
教育法134条2項,同法4条1項に規定する各種学校の設置認可を受け,
平成8年4月C学校,D学校,E学校が統合して開校したものである。本件
学校同様に,在日朝鮮人子弟等に対する初等中等教育を行う学校は全国各地
に所在する(以下,これらの学校について「朝鮮高級学校」,「朝鮮学校」と
総称する。)。(甲10)
イ控訴人個人らは,本件学校(高級部)に在籍し,又は在籍していた者であ
る。(甲B3,6ないし19,21,27,31,32,244)
⑵控訴人法人によるハ規定に基づく指定を受けるための申請をめぐる経緯等
ア支給法は,平成22年3月31日制定され,同年4月1日施行された。こ
れに伴い,当時の文部科学大臣は,同日付けで本件省令を定めた。(甲11
の1,甲78)
イ文部科学大臣は,平成22年11月5日付けで,同日を施行日として本件
省令1条1項第2号ハの規定(ハ規定)に基づき本件規程を定めた。本件規
程は,同月15日官報の官庁報告の項目に掲載された。(甲1,乙82)
ウ平成22年11月当時の菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理大臣」という。)
は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)が同月23日に大韓
民国領の延坪島に対する砲撃を行ったこと(以下「延坪島砲撃事件」ともい
う。)を契機に,同月24日,文部科学大臣に対し,本件学校を含むすべての
朝鮮高級学校について,ハ規定による支給対象外国人学校としての指定に関
する手続を停止するよう指示した。
エ控訴人法人は,平成22年11月25日本件申請を行った。(甲9,乙2)
オ菅総理大臣は,文部科学大臣に対し,平成23年8月29日,朝鮮高級学
校について,ハ規定による支給対象外国人学校としての指定に関する審査手
続を再開するように指示した。
カ文部科学大臣は,平成23年8月30日,Fインターナショナルスクール
に対し,同年12月2日,G国際学園に対し,それぞれハ規定に基づき就学
支援金の支給に係る指定をした。(甲12,13)
キ平成24年12月に実施された衆議院議員総選挙により,それまで与党で
あった当時の民主党を中心とした政権から,自由民主党(以下「自民党」と
いう。)を中心とする政権に交代した。
上記政権交代後の下村博文文部科学大臣(下村博文衆議院議員。以下,「下
村文部科学大臣」といい,就任前については「下村議員」という。)は,同月
28日の閣僚懇談会において,朝鮮高級学校については,拉致問題の進展が
ないこと,在日本朝鮮人総聯合会(以下「朝鮮総聯」という。)と密接な関係
にあり,教育内容,人事,財政にその影響が及んでいること等から,現時点
での指定には国民の理解が得られず,不指定の方向で手続を進めたいとして,
安倍晋三内閣総理大臣の了承を得た。
ク下村文部科学大臣は,平成25年2月20日付けでハ規定の削除を内容と
する「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給
に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(平成25年文部科学省令第
3号)を制定し,ハ規定を削除した(以下「本件省令改正」という。)。上記
改正に係る省令は,同日公布され,公布の日から施行されるとともに(同省
令附則1条),改正前のハ規定による指定を受けている各種学校については,
ハ規定は,当分の間,なおその効力を有することとされた(同省令附則2条)。
(甲11の2,甲88,乙40)
また,下村文部科学大臣は,同日付けで,本件学校を含む朝鮮高級学校に
ついて,ハ規定に基づく指定をしない旨の本件不指定処分をした。本件学校
の不指定の理由について通知書において,①本件省令1条1項2号ハを削除
したこと(以下「本件不指定理由①」ともいう。)及び②これまで本件規程に
基づき控訴人法人の本件規程に定める指定の基準への適合性を審査したが,
本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったこと(以下「本件不指定
理由②」ともいう。)である旨が記載された。(甲3,乙41)
⑶本件不指定処分後の経緯
ア控訴人法人は,平成25年4月15日付けで,本件不指定処分に対する異
議申立てを行った。(甲7)
イ控訴人らは,同年8月1日,本訴を提起した。(記録上顕著な事実)
ウ下村文部科学大臣は,同年10月31日付けで,控訴人法人の異議申立て
を棄却した。(甲8)
4争点及び争点に対する当事者の主張は,次の⑴ないし⑸のとおり改め,後記5
のとおり当審における控訴人らの補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び
理由」の「第2事案の概要」の4及び5(原判決4頁24行目から31頁26
行目)に記載のとおりであるから,これらを引用する。
⑴原判決4頁25行目の「⑴第1の1⑴の請求に関して」を「⑴本件不指
定処分の取消しを求める請求について」に改める。
⑵原判決4頁26行目及び6頁4行目の「本件規程13条は支給法の委任の範
囲外として無効か」を,いずれも「本件規程13条の法的性質,同条は支給法
の委任の範囲外か及びその解釈」に改める。
⑶原判決5頁2行目冒頭から3行目末尾までを次のとおり改める。
「ウ本件学校が,本件規程13条に適合するものと認めるに至らないとの文部
科学大臣の判断に裁量の逸脱,濫用が認められるか。」
⑷原判決5頁18行目の「⑵第1の1⑵の請求に関して」を「⑵控訴人法
人に対するハ規定に基づく指定をすべき旨の義務付けを求める訴えに関して」
に改める。
⑸原判決5頁22行目の「⑶第1の2の請求に関して」を「⑶控訴人個人
らの国賠法1条1項に基づく損害賠償請求に関して」に改める。
5当審における控訴人らの補充主張
⑴争点⑴ア(本件規程13条の法的性質,同条は支給法の委任の範囲外か及び
その解釈)について
ア法的性質
本件規程は,官報に「官庁報告」として掲載されたにすぎず,掲載日は,
施行日(平成22年11月5日)後の同月15日であり,公布手続を経てい
ない。定立の形式としても,法規範性が認められる政令,府令,省令,規則
及び告示のいずれの形式にもよっていない。省令から省令への委任はありえ
ず,省令より下位の行政立法はありえないので,ハ規定の「文部科学大臣が
定めるところ」との定めは再委任を意味するものではない。以上に照らして,
本件規程が法規命令ではないことは明らかである。
イ審査基準としての不合理性
上記アのとおり,本件規程は行政規則のうちの単なる審査基準にすぎず,
合理性を有するものでなければならない。支給法2条1項5号の「高等学校
の課程に類する課程を置く」学校か否かを判断するとき,学校教育法上の高
等学校であるか否かを判断するための基準である高等学校設置基準(平成1
6年文部科学省令第20号)や専修学校設置基準(昭和51年文部省令第2
号)が参考となるところ,これらに本件規程13条に相当する規定は存在せ
ず,学校運営の適正は,学校教育法や私立学校法などの諸規定により担保し,
都道府県知事によって監督する制度設計になっており,ハ規定適合性を判断
するに当たっても同様である。本件規程13条の定める財政の適正のような
見地からの規制を高等学校の課程に類するか否かの判断枠組みの中で行う
ことは想定されていない事項につき定めている点,生徒の教育を受ける権利,
教育の機会の保障を図ろうとする支給法の趣旨に適合せず,審査基準として
不合理である。
ウ支給法の委任の範囲を逸脱すること
本件規程13条に法規範性が認められたとしても,支給法2条1項5号所
定の「高等学校の課程に類する課程」との文言からしても,教育に関して構
築されたシステムとしての課程を意味するものと解するのが通常であり,そ
の運営体制にまつわる評価概念までを含めるのは,用語の通常の意味からか
け離れており,生徒の教育を受ける権利の保障という支給法の趣旨とも整合
しない。
また,支給法及び本件省令上,専修学校高等課程においては,学校運営の
適正を図る事前規制的な規定は設けられず,学校教育法や私立学校法上の規
制に委ねられ,各種学校にも上記学校運営の適正に関する学校教育法や私立
学校法上の規定が準用されているので,各種学校についても上記規定により
学校運営の適正は専修学校と同程度に図られており,各種学校について専修
学校以上に学校運営の適正について厳格に債権の確実な充当が要請される
理由はない。イ規定及びロ規定の対象学校については,本件規程13条のよ
うな学校運営の適正に関する審査は要求されていない。
さらに,その立法審議の過程をみても学校運営の適正の視点は一切なかっ
た。
このように,本件規程13条が支給法の委任の趣旨に反するものであるこ
とは明らかである。
エ本件規程13条の解釈
本件規程13条が支給法の委任の趣旨の範囲内であったとしても,その
解釈は法の趣旨に則って行われるべきである。本件規程13条は,「確実
な」,「適正に」などの不確定概念が用いられ,「行わなければならない」と
定めるなど,指定後の指針とされる表現であるなど,基準性を欠く条項が
含まれ,審査基準として不合理,不適切で,おおよそ審査基準足りえない
ものであるから,訓示規定と解されるべきである。
本件規程13条が訓示規定と解されないとしても,本件規程13条所定
の「法令」は,各種学校が学校教育法や私立学校法による規制を受けるこ
とやその文言に照らし,学校の一般的な財務会計,特に就学支援金の代理
受領とそれによる授業料への充当という学校の会計事務に係る法令に限
定されると解すべきである。教育基本法16条1項による「不当な支配」
禁止規範は,教育行政当局に向けられたものであり,教員が教育をする自
由に対する制約の場面で問題になるにすぎず,給付行政における支給要件
を検討する場面で持ち出されるべきではない。
本件規程13条所定の「法令」が上記のように解し得ないとしても,
本件規程13条が「行わなければならない」と規定していることや生徒の
教育を受ける権利の保障という支給法の趣旨からすれば,同要件を欠くと
判断されるのは,少なくとも就学支援金流用の具体的可能性が現に生じて
いる事実が認定できる場合に限るべきである。
⑵争点⑴イ(本件規程13条は憲法14条に違反して無効か。)について
イ規定及びロ規定の適用対象となる外国人学校は,規定上,就学支援金が授
業料に係る債務に確実に充当されることが担保されておらず,実際の学校経営
について問題がある場合や高額の授業料の納付を求めている場合においても,
その財政状況について問題にすることなく,就学支援金が支給されている。こ
のような状況の中,ハ規定の適用対象となる外国人学校のみに本件規程13条
の審査を課し,同条に適合しないとして就学支援金を不支給とするのは明らか
に不合理な差別で,憲法14条の平等権を侵害するものである。
⑶争点⑴ウ(本件学校が,本件規程13条に適合するものと認めるに至らない
との文部科学大臣の判断に裁量の逸脱,濫用が認められるか。)について
ア主張立証責任について
ハ規定に適合するかの判断において,以下の諸事情に鑑みれば,文部科学
大臣がその要件を欠くことについての主張立証責任を負うべきである。すな
わち,支給法は,国籍等関係なく全ての生徒の教育の機会均等を図ることを
目的とし,憲法26条の教育を受ける権利の内実を構成するものである。控
訴人個人らは,自己の責任によらず日本で在日朝鮮人として生まれたが,自
己の民族的なアイデンティティを確立するため本件学校での民族教育を選
択すると就学支援金の受給権を失うことになるとするのであれば,実質的に
は憲法14条1項後段の列挙事由である人種による差別的取扱いに当たる。
就学支援金は高等学校の課程に類する課程で学ぶ者という一定の属性が認
められれば,一律に支給されるものであるから,一般の給付請求における主
張立証責任の問題とは異なり,差別的取扱いに理由があるのかという観点か
ら考えられなければならない。本件学校は,直近5年間の広島県知事による
監査において指導・勧告等を受けたことはなく,十分に就学支援金が授業料
債権に充当されているか確認できる体制が整っていた。就学支援金が授業料
以外の用途に流用されるおそれがないこと,本件学校が外部機関から不当な
支配を受けておらず,反社会的活動を行う組織と密接に関連していないこと
などの「ないこと」の立証は悪魔の立証に他ならず,その主張立証責任を控
訴人らに負わせることは公平の観点から酷である。
イ判断基準
行政庁の裁量が許される場面におけるあるべき裁量の逸脱,濫用の判断基
準は,審査基準については,具体的審査基準に不合理な点があるか,考慮す
べき事実や評価については,侵害される権利の性質に相関し,重大な権利侵
害の場合は厳格な判断が求められ,審査会の判断の過程に看過し難い過誤,
欠落があり,これに依拠して行政処分がなされたか,判断要素の選択や判断
過程において重要な事実の基礎を欠くか,社会通念に照らし著しく妥当性を
欠くものと認められるか,考慮すべき事項を考慮したか,考慮すべきでない
事項を考慮に入れているのではないか,過大に評価すべきでない事柄を加重
に評価していないかといった観点から判断されなければならない。
ウ下村文部科学大臣には裁量逸脱があること
本件規程13条適合性について判断するにあたり,考慮すべき事実やその
評価の観点から下村文部科学大臣には裁量逸脱がある。
教育基本法16条1項の禁じる教育への不当な支配は,教員が教育をする
自由に対する制約を問題とするもので,給付行政における支給要件を検討す
る場面で持ち出すことは許されない。そして,朝鮮総聯は,朝鮮民族にとっ
ては,日本社会に残存する差別的な取扱いを是正し,差別そのほかの弾圧か
ら同胞を守る機能を持ち,朝鮮高級学校との関係では,学校運営及びそこに
通う生徒のために権利救済,手助け,寄付活動等を行っているにすぎず,支
配従属関係又はそれに類似する関係にはない。朝鮮高級学校と朝鮮総聯が協
力関係にあるため,朝鮮総聯の元役員が学園理事に就任したり,個別に協議
の上,学園理事長退任後に朝鮮総聯の役員になる場合はあるが,歴史的経過
から自然なものであり,朝鮮総聯幹部のあて職として朝鮮高級学校のポスト
が用意されているなどの支配性のある人事交流はない。朝鮮高級学校で使用
する教科書は,学校法人H学園の出版部門といえる学友書房が編纂している。
朝鮮総聯の傘下団体として教育会,在日本朝鮮人教職員同盟(教職同)及び
在日本朝鮮青年同盟(朝青)があるが,教育会は,教員,保護者代表,地域
同胞などで構成され,学校運営に対する支援活動を行う任意団体で,いわば
PTAの役割を果たしているにすぎず,本件学校の運営を実質的に担ってい
るわけではない。在日本朝鮮人教職員同盟(教職同)及び在日本朝鮮青年同
盟(朝青)も任意加入団体にすぎない。北朝鮮からは,昭和32年以降,朝
鮮総聯を通じて教育援助金と奨学金が送られているが,本件学校への援助は
100~200万円程度で年間予算の1~2%にすぎない。本件学校では,
金日成国家主席と金正日総書記の肖像画を掲げているが,だからといって北
朝鮮による不当な支配が及んでいるわけではない。広島地方裁判所平成19
年4月27日言渡しの判決(同裁判所平成16年(ワ)第905号。乙50),
その控訴審である広島高等裁判所平成20年12月26日言渡しの判決(同
裁判所平成19年(ネ)第223号。乙51)(以下,両判決を併せて「別件
判決」という。),は,本件学校が朝鮮総聯本部の強力な支配の下にあると認
定したが,事件になった融通金自体は本件不指定処分より20年以上前の出
来事であるし,別件判決の当事者は本件学校の元理事長の相続人であった。
同判決が,本件学校が朝鮮総聯の強力な指導の下にあると認定したのは,朝
鮮総聯が指導して学校を建設したという趣旨にすぎず,民族団体と民族学校
の関係上,民族団体として民族学校にアドバイスを与える類のものと位置づ
けるべきである。いずれにしても,控訴人法人は別件判決を重く受け止めて
おり,今後同様の事態が繰り返されることはない。このように,本件学校に
対する北朝鮮や朝鮮総聯の影響力は教育基本法16条1項所定の「不当な支
配」に当たらない。
文部科学大臣が,本件学校につき本件規程13条に定める基準に適合する
ものと認めるに至らなかったと判断した根拠は,朝鮮総聯のホームページ,
産経新聞の記事,公安調査庁の報告書などで,いずれも概括的ないし抽象的
なレベルの指摘であり,新聞記事等について厳密な意味での真実性はないと
自認しているとおり,不当な支配の事実につき,個別具体的な事実の立証は
なく,不適合の事実が立証されたとはいえない。また,朝鮮総聯のホームペ
ージの抽象的な記載,記載内容の真実性の立証はない産経新聞の記事,在日
本大韓民国民団発行「民団新聞」及び各種要請書など,特定の政治団体の主
観ないし意見を表明するにすぎないもの,教育行政上の専門機関としての見
地からではなく,かつ,その資料収集活動も証拠価値が確実とはいえない公
安調査庁の報告や公安調査庁長官の国会答弁,上記30年以上前の出来事に
関する別件判決などを考慮し,これらを過大に評価しているが,いずれも本
件不指定処分をするか否かの審査において考慮されるべきものではない。
控訴人法人に支給された就学支援金が授業料債権に充当されなかった場
合,広島県の監査により,そもそも生徒や保護者から不満の声が上がり,直
ちに発覚するはずであるから,就学支援金が授業料に係る債権に充当されな
いことはおおよそ想定できず,それにもかかわらず,不当な働きかけ等によ
り生徒又は保護者が,その旨を外部に明らかにできず,公にならない可能性
を指摘することは,被控訴人の偏見に満ちた憶測にすぎない。
本件不指定処分は,本件学校に通う生徒らの教育を受ける権利及び民族教
育を受ける権利を侵害し,脅かすもので,人種による差別に準ずる差別的取
扱いといえ,厳格な判断が求められる。そこで,不利益処分を回避するため
に,留保事項を付けて指定後の対応について確認する,対象となる生徒に直
接支給する制度設計を検討するという代替措置が考えられるが,一切なされ
ていない。
審査会では,本件学校を含む朝鮮高級学校をハ規定により指定することと
するのが多数意見であったが,文部科学大臣は,その結論を待つことなく本
件不指定処分をしており,このこと自体が裁量の逸脱,濫用をうかがわせる。
各種学校の認可権,監督権が都道府県知事にあり,その判断が尊重される
べきこと,広島県は昭和62年から民族学校に対する助成を開始し,平成4
年度からは経常費助成を行い,その間,本件学校の経理状況,学校運営につ
いての監査を実施していたが,平成6年1月には学校教育法上の一条校に準
ずる学校として本件学校の位置付けを明確にしており,このような運用や社
会的評価は重要な要素として判断の基礎に入れるべきであるのに,これを一
切無視している。判断過程において,下村文部科学大臣は,判断の基礎とす
るべきではない,本件学校における各教科等における個々の具体的な教育の
内容を問題視し,政治的判断を基に,本件不指定処分に及んでいる。下村文
部科学大臣による本件不指定処分こそが,本件学校を含む全国の朝鮮高級学
校に対する不当な支配である。
⑷争点⑴エ(本件規程13条に適合するものとは認めるに至らないことを理由
として指定しないことは違法か。)について
本件規程13条は,その文言等に照らし,学校運営の指針というべきものに
すぎず,ハ規定に基づく指定教育施設指定のための審査基準ではない。学校運
営が法令に則って適正に行われることは,学校教育法や私立学校法などの諸規
定によって担保され,本件規程13条が学校運営の適正について定めるのは,
これらの法令による規制が及ぶことの確認にすぎないと解するべきである。
すなわち,学校運営は都道府県知事によって監督される制度設計になってい
るから,本件規程13条についても,学校教育法とその附属法令を全体的に考
察すれば,学校の財政運営に関する事項につき,その当否を判断する権限を有
する都道府県知事の判断を無視して,文部科学大臣が介入し得る制度にはなっ
ていないとみるべきであるし,そのことは支給法制定当時の川端達夫文部科学
大臣(以下「川端文部科学大臣」という。)の発言からも明らかである。専修学
校の設置者について,学校教育法127条1号は,「専修学校を経営するため
に必要な経済的基礎を有すること」を要求しているが,同法において設置認可
に当たってそれ以外に財政的基盤の確保を求める規定はない。学校教育法12
7条1号と同様の規定である私立学校法25条1項(学校法人は,その設置す
る私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置す
る私立学校の経営に必要な財産を有しなければならない。)は,学校法人形態
の各種学校にも準用される(同法64条5項)。このように,専修学校は,各種
学校と同様に財政面での適正が十分担保されているものではないが,専修学校
の高等課程について,ほぼ自動的に高等学校の課程に類する課程に該当すると
の判断が「高等学校の課程に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準
等について(報告)」と題する報告書(甲2。以下「検討会議報告書」ともいう。)
で示されており,財政の適正のような見地からの規制を「高等学校の課程」に
類するか否かの判断枠組みの中で行うことは想定されていない。
本件規程13条は,「確実な」,「適正に」などの不確定・裁量概念が用いられ
ており,これが審査基準であれば,広範な行政裁量を許容するものとなり,ハ
規定の趣旨にそぐわず,ひいては,教育の機会均等を図るため,生徒に就学支
援金の受給権を認めた支給法4条の趣旨を蔑ろにすることになる。この点から
も,本件規程13条は審査基準足り得ない。
そもそも,就学支援金の代理受領という仕組みを採用する以上,就学支援金
の受給者である生徒が就学支援金を授業料以外に流用する事態は起こり得ず,
学校による不正は都道府県によるチェック,不正利得があった場合の返還,故
意に不正を行った場合の刑事罰の規定により対応すること,学校運営に不正が
ある場合などは,都道府県等の所轄庁による是正命令,解散命令等による対応
が想定されている。このことは,現にI中学校高等学校において,保護者から
集めた教材費などの剰余金の不正流用問題が生じた際も就学支援金が支給停
止とされなかったことからも明らかである。
⑸)について
文部科学大臣は,控訴人法人が申請してから2年3か月もの間,応答しない
ままであった。学校の性質上,申請した年度の年度末までに指定されることが
予定されており,長期間手続を遅延させたことは,行政手続法6条,7条に反
し,違法である。
行政手続法5条が審査基準の設定義務を行政に課したのは,行政の恣意的な
判断を排除し,審査の公平を担保するとともに,申請者に予見可能性を与える
ためである。審査中に基準を変更することは許されず,ハ規定を削除したこと
を理由としてなされた本件不指定処分は同条に違反する重大な違法行為であ
り,この点だけで本件不指定処分は取り消されるべきである。
⑹)について
本件規程13条は,客観的指標により明確な基準となるものではなく,特に
本件では,財務上の問題というより,朝鮮総聯との関係を問題視するもので,
同条の文言から了知することは不可能であるし,本件申請の審査の過程で具体
的な問題点の指摘もなかった。したがって,控訴人法人は,本件不指定処分の
通知書の記載をもってしても,どのような理由で本件不指定処分がされたのか
認識することができず,行政手続法8条に違反する。
⑺の審査の結論を待たなかったことにより違法となるか。)
について
本件では,審査会の意見が出されないまま,しかも多数決による決議もない
まま本件不指定処分がされており,本件規程15条が審査会を設けた趣旨に鑑
みれば,審査会の意見を聴くことなく判断を下すことは違法である。
⑻争点⑴カ(本件省令改正により本件不指定処分が違法となるか。)について
本件不指定処分の理由である,本件不指定理由①(ハ規定を削除したこと)
及び本件不指定理由②(本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったこ
と)は,両立し得ないものであるが,この2つが合わさって処分理由を構成す
るものとして本件不指定処分はなされており,論理的に矛盾する意味不明な処
分理由である。
本件省令改正の効力発生時は,公布がされた平成25年2月20日午前8時
30分であるが,本件不指定処分は,本件不指定処分の通知が控訴人法人に到
達した平成25年2月21日以降に効力が発生しており,その時点でハ規定は
存在しておらず,これを前提とする本件規程13条も存在しないのであるから,
本件不指定理由②は本件不指定処分の理由とはなり得ず,論理的に本件不指定
理由①が理由のあるものかの判断が,本件不指定理由②に先行してなされなけ
ればならない。この点を措くにしても,ハ規定を削除する本件省令改正と本件
不指定処分が同一日にされたことからすれば,同一目的達成のための一連の行
為であるといえ,本件省令改正に合理的な根拠がなく違法であることは,本件
学校が本件規程13条に適合しないとする判断に違法があることの重要な間
接事実であるといえる。
支給法の趣旨等からすれば,支給法2条1項5号所定の「高等学校の課程に
類する課程」を置く各種学校についてもれなく支給対象とすることが法の要請
するところであり,上記課程に該当するかの判断につき教育的専門的知見が必
要なため,その範囲につき下位の省令に委任し,これを受けて委任命令である
ハ規定が制定された。しかも,上記のとおり支給法2条1項5号が,「準ずる」
より緩やかな表現である「類する」という文言を採用したのは,中学校卒業程
度の学力を前提とした教育課程を置いている学校をなるべく広く対象とする
ことにあった。本件省令改正は,このような支給法の趣旨目的に反するもので
ある。
平成23年9月頃の自民党シャドウ・キャビネットの文部科学大臣であった
下村議員の発言や,平成24年11月頃自民党シャドウ・キャビネットの文部
科学大臣であった義家弘介議員がハ規定を削除する内容を含む支給法改正案
を参議院に提出したこと,平成24年12月の政権交代後,下村文部科学大臣
の閣僚懇談会や記者会見における発言,本件省令改正の際に経過措置が設けら
れ,ハ規定に基づき指定を受けたFインターナショナルスクール及びG国際学
園について引き続き就学支援金の支給対象とする極めて異例の措置が取られ
たこと等からも明らかなように,本件省令改正の目的は,朝鮮高級学校による
支給法に基づく指定の申請すら不可能にし,支給法適用の途を閉ざすことにあ
り,教育的見地とは関係のない政治的目的によりなされたもので,本件省令改
正は,支給法の趣旨に反し,違法無効である。本件省令改正が,朝鮮高級学校
に支給法適用の途を閉ざすことを目的としてなされたものであることは,文部
科学省の担当職員の証言からも明らかである。
本件省令改正は,憲法規範及び国際人権A規約・児童の権利に関する条約上
の規範である後退禁止原則にも違反するものであり,この点からも違法無効で
ある。
⑼争点⑴キ(控訴人個人らの権利を保障した憲法13条,26条に違反する
か。)について
憲法26条の教育を受ける権利は,外国人にも平等に保障され,その権利自
体が民族教育の権利を保障している。教育を受ける権利の自由権的側面として,
自らが受ける教育の内容について自主的・自律的な選択が保障され,自己の属
する民族の言語による民族的アイデンティティを保全するための教育を選択
する自由が保障されるし,そのような内容の教育を受けることにつき国家によ
る整備を求めることが,同権利の社会権的側面として保障される。憲法13条
は,民族的少数者が自己の文化を享有する権利を含むから,同条と結びついた
同法26条は,民族教育を受ける権利が国家によって妨害されない権利,及び
公費助成を受ける権利として保障される。したがって,就学支援金を受ける権
利は,憲法26条により保障される公費助成を受ける権利として保障されると
解される。控訴人個人らは,朝鮮高級学校以外で民族教育を受けることは困難
で,実質的に民族教育を受ける権利が侵害されており,本件不指定処分は憲法
13条,26条に反する。
憲法26条の解釈に当たっては,国際人権A規約を念頭に,その意義を正当
に踏まえ,児童の権利に関する条約に規定された教育に関する条項(マイノリ
ティの民族教育を受ける権利)に適合的な解釈をしなければならない。
⑽争点⑴キ(控訴人個人らの学習権及びマイノリティ教育を受ける権利を侵
害して違法か。)について
世界人権宣言26条1項及び2項,国際人権A規約前文,同規約13条1項,
国際人権B規約27条,児童の権利に関する条約28条,29条1項及び2項,
30条,マイノリティ権利宣言4条2項及び3項といった国際人権法の諸規定
により,朝鮮高級学校を含む外国人学校・民族学校が実施する母語・継承語教
育や出身国・地域の歴史や文化を学ぶ民族教育の権利は保障されている。そし
て,控訴人個人らの学習権及びマイノリティ教育を受ける権利は,マイノリテ
ィ権利宣言4条2項及び3項の文言からも明らかなとおり,積極的権利として
保障を定めており,これに反する本件不指定処分は違法である。
また,これらの国際人権法の諸規定は,自動執行力を有し,仮に自動執行力
がないとしても,憲法13条,14条及び26条などの解釈において,上記国
際人権法の諸規定を踏まえた解釈がなされるべきで,国際人権法が定める内容
が保障内容となっていると解するべきである。
⑾)を侵害して違法か。)に
ついて
憲法26条の保障する控訴人法人の教育の自由は,教育を受ける権利の前提
となるもので,控訴人個人らに憲法26条により就学支援金を受ける権利が保
障されている以上,控訴人法人にも就学支援金を受給できる学校として指定を
受ける権利が保障されていると解される。
⑿(憲法14条に違反するか。)について
憲法14条1項後段列挙事由(人種,信条,性別,社会的身分,門地)は,
原則として,不合理な差別であるとし,厳格度の高い審査基準が適用されるべ
きである。あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約1条1項,2条1
項柱書,6条も同旨を規定している。
本件不指定処分では,本件学校で民族教育を学びたい朝鮮半島出身者を両親
又は祖先とする生徒に対してのみ,授業料の実質的な減額措置がとられない取
扱いをするもので,憲法14条1項後段列挙事由の一つである人種(民族)に
よる区別であるから,厳格な合理性の基準により憲法14条に適合するかの審
査がなされなければならない。
専門家による検討会議によるハ規定に適合するか否かの審査基準に関する
検討会議報告書では,ハ規定に適合するかの判断に際しては,教育上の観点か
ら客観的に判断し,外交上の配慮などにより判断すべきではないとされたが,
本件学校に関しては,平成22年11月23日の北朝鮮による延坪島砲撃事件
という外交,政治的理由により審査が凍結され,その間にFインターナショナ
ルスクール及びG国際学園の審査が行われ,留意事項を付した上で指定がされ
た。本件学校については,本件規程12条までに定める要件を充足しているに
もかかわらず本件規程13条を理由に指定がされなかったのに対し,Fインタ
ーナショナルスクール及びG国際学園については,授業料への確実な充当に関
する留意事項を付した上で指定がされた。取扱いの差は,北朝鮮による不当な
支配がないことにつき確証が持てないというものにすぎず他のハ規定適合性
が認められた各種学校との合理的な理由のない差別的取扱いである。その他の
イ規定により指定された外国人学校14校のうち,少なくとも2校は日本と国
交のない台湾系の学校であるが,同校を含めて,学校調査や教科書及び財務諸
表の提出を求めることもなく,本件規程13条のような要件を検討することも
なく指定されている。同校がイ規定により指定されたのであれば,本件学校に
ついてもイ規定により指定することが可能であったがそのような検討はされ
ていない。このような取扱いは,合理的な理由のない差別的取扱いであり,違
憲,違法である。
日本の高等学校であれば,I高等学校のように会計処理上問題があった学校
でも支給法の対象とされており,いわば本件規程13条の要件を欠くような,
会計処理に不正があることが具体的に認定されるような学校に対しても,就学
支援金の充当処理の問題と学校全体の経理の適正さの問題を区別して就学支
援金を支給している。また,平成31年(令和元年)から令和2年にかけて大
阪の学校法人J学院では土地取引をめぐる横領事件が発覚しているが,現在で
も同校の生徒に対して就学支援金は支給されており,就学支援金の支給と学校
運営の適正は別であるとの対応をしている。これに対し,控訴人法人に対して
は,財政に懸念があるとの理由だけで就学支援金を支給しないのは,明らかに
不合理な差別である。
政府,下村文部科学大臣の一連の行動から,朝鮮高級学校のみを外交,政治
的な理由から不指定処分とし,控訴人らを排除する意図を有していたことは明
らかで,人種により差別するものに他ならない。
本件不指定処分は,外交的,政治的目的で北朝鮮への制裁の一環として行わ
れたものであり,就学支援金の流用防止目的と本件不指定処分との間に合理的
関連性はない。また,就学支援金の受給権者は生徒であるにもかかわらず,生
徒に責任がない学校に関する事柄を理由に就学支援金の支給・不支給が決定さ
れるのは背理である。学校の不正が問題であれば,学校に代理受領させずに生
徒個人に支給する途をとることも可能であるし,そもそも本件学校が生徒に気
づかれずに就学支援金を不正受給することは不可能である。就学支援金の流用
防止という目的と本件不指定処分の間には合理的関連性はなく,本件規程13
条に適合しないとして本件不指定処分をしたのは,憲法14条に反し違憲違法
である。
⒀(平等権を保障した国際人権法に違反するか。)について
本件では,国際人権A規約の前文,2条2項が定める無差別平等原則のうち,
とりわけ「教育への権利」を厳格に適用しなければならない。同規約13条は,
無償教育を始めとする教育条件整備の国際的公準となっており,同条には同規
約2条2項の定める無差別平等原則が適用され,無償教育を受ける権利が本件
学校の生徒に無差別平等に保障されるべきである。
本件不指定処分は,合理的な区別によるものとはいえない。そして,控訴人
ら指摘の国際人権法の諸規定は自動執行力を有する。
国際連合人種差別撤廃委員会は,日本政府に対し,上記諸規定を踏まえ,朝
鮮高級学校を不指定処分にしたことにつき5度にわたり,支給法の対象とする
ことその他勧告をしている。
⒁争点⑶ウ(控訴人個人らに生じた損害はいくらか。)について
控訴人個人らは,本件不指定処分により,一人当たり,支給されたであろう
月額9900円,年間11万8800円の就学支援金を受給することができな
かったので,同額の経済的損害を被った。その他にも,広島県が本件不指定処
分を受けて,控訴人法人に対する助成金の支給を打ち切ったことで,控訴人法
人は本件学校の学費を月額3000円増額せざるを得なくなり,加えて,支給
法の施行に伴う税制改正により特定扶養控除の金額が縮減されたことで,控訴
人個人らの保護者に増税の負担が生じている。支給法が,教育費負担の軽減,
教育の機会均等等を目的とした法律であったのに,支給法施行に伴う増税や本
件不指定処分を受けての上記助成金の打ち切りなどのため,支給法施行前より
も控訴人個人ら及びその保護者の教育費負担が増大し,日本の高等学校に在学
する生徒らとの経済的負担の格差はより拡大している。
また,控訴人個人らは,下村文部科学大臣の行為により,民族教育を受ける
権利を含めた学習権,平等権を著しく侵害され,自己の尊厳を傷つけられた。
控訴人個人らが被った精神的苦痛は,具体的には,支給法が適用されるとの期
待が裏切られたこと,外交,政治的理由という不合理な理由で無償化から本件
学校が排除され,朝鮮人として生きることに対する尊厳が傷つけられたこと,
下村文部科学大臣の本件学校に対して将来にわたり絶対に支給法の適用を受
けさせないために本件省令改正を行うという歴史的経緯を考慮しない行為に
より朝鮮人として生きることを否定されたこと,ハ規定に基づき指定を受けた
Fインターナショナルスクール及びG国際学園,そのほかイ規定及びロ規定に
より指定を受けた他の外国人学校や日本の高校との差別的取扱いを受けたこ
と,不当な支配の具体的事実の認定もなく支給法の対象から除外され,本件訴
訟でも被控訴人が同様の主張を続けていること,被控訴人が政治的理由で自治
体の補助金行政に圧力をかけたこと,被控訴人が国際人権法に反する行為を行
い,開き直る態度をとったことによる精神的苦痛である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原審と同様,本件不指定処分は違法なものとは認められず,控訴
人らの控訴人法人に対するハ規定に基づく指定の義務付けを求める訴えは不適
法であり,控訴人らのその余の請求はいずれも理由がないものと判断する。その
理由は,以下のとおりである。
2認定事実
前提事実,証拠(括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実が認められる。
⑴支給法の制定経緯等
ア平成21年夏の衆議院選挙により自民党から民主党への政権交代が生じ,
内閣総理大臣となった鳩山由紀夫は,第173回国会における所信表明演説
で高校の実質無償化を進める旨を述べた。これを受けて,支給法案が内閣提
出法案として国会に提出され,衆議院及び参議院による審議が行われた。(甲
20)
イ支給法の制定に至る国会審議等の経緯の概要は次のとおりである。
平成22年3月5日の衆議院文部科学委員会における質疑において,川
端文部科学大臣は,支給法案2条1項5号が定める「専修学校及び各種学
校」の中に朝鮮学校が含まれるのか,予算の積算根拠に朝鮮学校の生徒は
含まれているのかという質問(馳浩議員)に対し,「高等学校の課程に類す
る課程というものをこの法律の高校の対象として加えるということにし
ておりますので,高等専修学校,専修学校の高等課程とあわせて,各種学
校ではあるけれども,制度上,専修学校から適用除外されている外国人学
校の高等課程部門を算定の数字として入れました。」,「専修学校の高等課
程と,各種学校の中の外国人学校の高等課程に該当するものというのを入
れて4800名が積算されておりますが,ただ,これは実際に,どのいわ
ゆる外国人学校が対象になるかはこれからの議論でございますので,積算
に入れているということが自動的に対象になっているというものではご
ざいません。」と答弁し,また,拉致,ミサイル,核問題があるから朝鮮学
校を外交的に除外するという方針なのかという趣旨の質問(同議員)に対
し,「何度も申し上げますように,その学校が高等学校の課程に類する課
程であるかどうかということを普遍的,客観的に判断するという立場で決
めてまいりたいと思いますので,今御指摘のような問題は判断の対象では
ございません。」などと答弁した。(乙5の1・9頁,同10頁)
また,川端文部科学大臣は,支給法案は「高等学校の課程に類する課程
を置く」日本国内の外国人学校の全てに適用することになるのかという趣
旨の質問(宮本岳志議員)に対し,「文部科学省令において対象を定める際
の客観性を保持するために,高等学校の課程に類する課程として,その位
置づけが,学校教育法その他により制度的に担保されているということを
規定することと予定をいたしております。そういう意味から,自動的に外
国人学校の高等課程に類するものすべてが今の時点で対象になっている
ということではありません。」などと答弁した。(乙5の1・16頁)
さらに,川端文部科学大臣は,支給法案で朝鮮学校を除外すべきか否か
について現在どのような状況になっているかという趣旨の質問(松本龍議
員)に対し,「専修学校でどういうものが入れるのか,各種学校でどういう
ものが入れるのかという,要するに,まさに高等学校の課程に類する課程
というものをどういう物差しで評価するのかということにすべての議論
が集約されるのではないかというふうに思っております。その基準と確認
方法についていろいろ検討しているところであります。加えて,この国会
の審議も踏まえながら,最終的に省令として決めたいというふうに思って
おります。」などと答弁した。(乙5の1・20頁)
同委員会において,鈴木寛文部科学副大臣は,支給法案において,「各種
学校」(支給法2条1項5号)につき,省令でその定義を定めることとした
理由の説明を求めた質問(吉田統彦議員)に対し,「高等学校の課程に類す
るかどうかということがまさに省令で定める内容でございます。専修学校
あるいは各種学校というのは,その内容あるいは形態が非常に多種多様で
ございまして,これは極めて技術的,専門的事柄であるというふうに考え
ております」などと答弁した。(乙5の1・36頁)
平成22年3月10日の衆議院文部科学委員会における質疑において,
川端文部科学大臣は,朝鮮学校に対する対応を質す趣旨の質問(川口浩議
員)に対し,「今回,『省令で定める』の対象としては,基本的には,各種
学校というのは,高等学校の課程に類する課程とみなせるという制度的担
保がありませんので基本的には対象外としたいと思っているのですが,各
種学校の中の外国人学校だけは,制度上,専修学校の高等課程になれない
ということで適用を除外されているので,なれないということの中で置か
れているから,実質上,高等学校の課程に類する課程とみなせるかどうか
を判断基準をしっかりつくって判断をすることを省令で決めたいという
ふうにしておりますので,今お問いの部分のいろいろな議論が,この委員
会,あるいは御視察,あるいは参考人等々であったと思いますが,私の立
場で言えば,客観的にこの学校が高等学校の課程に類する課程を有すると
いうふうに判断するのに,どういう基準,方法でやるかということを今一
生懸命検討している」などと答弁した。(乙5の2・5頁)
また,川端文部科学大臣は,拉致,ミサイル,核等の外交上の問題を考
慮して,就学支援金の支給対象となる各種学校に関する省令に含めるかど
うかの判断基準とするのかという趣旨の質問(馳浩議員)に対し,「文部科
学省といたしましては,各種学校の対象範囲の議論については,先ほどあ
りましたような民族教育の有無という観点とか,外交上の配慮という観点,
国交があるかないかという観点で判断するものではない」などと答弁した。
(乙5の2・23頁)
平成22年3月12日の衆議院文部科学委員会における質疑において,
松野頼久内閣官房副長官から,「就学支援金の支給対象について,いわゆ
る高校実質無償化法案は,日本国内に住む高等学校等の段階の生徒が安心
して教育を受けることができるようにするものであります。このために,
外国人学校の取り扱いに関しましても,外交上の配慮などにより判断する
べきものではなく,教育上の観点から客観的に判断するべきものであり,
政府としては以下のように考えるものでございます。本法案においては,
外国人学校を含む専修学校等及び各種学校に係る就学支援金の支援の対
象範囲については,高等学校の課程に類する課程として位置づけられるも
のを文部科学省令で定めることとしております。これまでの各大臣の発言
につきましては,高等学校の課程に類する課程としての位置づけを判断す
る基準や方法についてはさまざまな論点があることを述べたものでござ
います。文部科学省令については,国会における審議も踏まえつつ,文部
科学大臣の責任において判断するものでございます。」などの説明がされ
た。(乙5の3・1頁)
そして,上記政府見解は従前の議論を踏まえたものになっていないとす
る下村議員の発言に対して,川端文部科学大臣は,「先ほどの松野官房副
長官の御発言は,当然ながらこの審議の経過,そして私の発言も踏まえた
政府の統一見解でございます。加えて,総理及び関係閣僚が発言をしてき
た経過も,政府として統一的に,これまでの各大臣の発言は,高等学校の
課程に類する課程としての位置づけを判断する基準や方法については,さ
まざまな論点があることを述べたものであるというまさに統一見解を出
したところでありまして,最終的に,政府統一見解として,文部科学省令
については,国会における審議も踏まえつつ,文部科学大臣の責任におい
て判断するものであるということを改めて政府として確認したところで
ございます。」と述べた。(乙5の3・2頁)
同日,川端文部科学大臣は,記者会見の場において,記者から,「無償化
によって学校に給付されるお金が授業料の無償化に使われるのかどうか
を確認するというのが,大臣がこれまで言われていたような高校課程に類
するかどうかの判断の一つの材料になるでしょうか」と問われたところ,
「ちょっと報道を詳しく知らないのであれですが,今の話と,高校課程に
類する課程と判断するものは,直接的に関係するものではないと思うんで
す。それは個人に支給するものを学校が代理受領することができるという
ことですので,その部分で,それが不適切に,例えば授業料は全部もらっ
て,なおかつそれをということは,基本的にはあり得ない想定なんですけ
れども,そういう適切な支給ということと,この学校に支給するかどうか
ということとは,別の問題だと,今聞いた範囲だと思います。」と回答し
た。(甲124・1頁)
平成22年3月19日の参議院文教科学委員会における質疑において,
川端文部科学大臣は,客観的に判断ができる機関を作って検討することに
は納得するが,早期な結論が出るよう要望する旨の質問(大島九州男議員)
に対し,「各種学校はまさに任意,自由な学校でありますので,基本的には
対象にならない。ただ,外国人学校だけは制度上専修学校になれない規定
になっておりますので,この学校に関してだけは高校の課程に類するもの
とみなせるかどうかを客観的に判断できるようにして判定すべきだとい
うふうに思っておりまして,国会でもいろんな御議論がありますが,その
部分で客観性を担保する仕組みを今議論をしているところ」などと答弁し
た。(甲95,乙5の4・4頁)
平成22年3月25日の参議院文教科学委員会における質疑において,
川端文部科学大臣は,支給法の成立後に定められることが予定されている
支給対象外国人学校の範囲についての省令の内容に関する質問(水岡俊一
議員)に対し,「外国人学校については,教育内容等について法令上特段の
定めがなく,本国における正規の課程と同等の教育活動や独自の教育課程
に基づく自由な教育活動を行っており,我が国の学校制度をそのまま当て
はめて判断することは適当ではないと考えられます。このため,外国人学
校について高等学校の課程に類する課程であることを制度的に担保する
ための要件として,一つは,我が国の高等学校に対応する本国の学校と同
等の課程であると公的に認められること,二番として,国際的に実績のあ
る評価機関による客観的な認定を受けていることとし,これらの要件を満
たすものを支給対象としたいと考えております。さらに,これらの二つの
方法以外にも,客観的に我が国の高等学校の課程に類する課程であること
が認められる基準や方法について,教育の専門家等による検討の場を設け,
関係者の意見も聞きながら検討していきたいと考えています。」,「いわゆ
る教育専門家による検討の場で基準と評価方法と判定の仕組みを御議論
いただいて,それに基づいて決めるという第三の道をつくろうと考えてお
ります。」などと答弁した。(乙5の5・3頁)
平成22年3月30日の参議院文教科学委員会における質疑において,
川端文部科学大臣は,朝鮮学校について教育内容を確認する手段があるの
かを問う質問(義家弘介議員)に対し,「何らかの評価基準を,文部科学省
が決めるという前に,客観的に,制度的,専門的に議論をいただいて,中
身をどう判断するのか,申し上げましたように,国交がない,国際の認証
機関の認証を受けていないという人たちを何かの基準と方法で判断でき
るかどうかを検討の場を通じて御議論いただいて,それを踏まえて私たち
としては判断をしたい」などと答弁した。(乙5の6・6頁)
また,鳩山由紀夫内閣総理大臣は,朝鮮学校が就学支援金の支給対象校
となるか否かを問う趣旨の質問(同議員)に対し,「最終的に,これは当然,
文部科学大臣が今お話をされたところが結論ではありますが,検討の場を
設けるということになったと。その検討の場でしっかりと検討するという
ことでありまして,決して丸投げをするということではなくて,むしろこ
のようなことをすべて文科省の中で決定をするというよりも,むしろ第三
者的な判断というものをしっかりと求めて,そこでより正しい判断という
ものがなされることが必要ではないかということで検討の場がつくられ
たと思っております。」などと答弁した。(乙5の6・6頁)
⑵本件規程の制定に至る経緯等
ア平成22年4月1日,支給法が施行されるとともに本件省令が公布され,
本件省令中のハ規定において,「文部科学大臣が定めるところにより,高等
学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣
が指定したもの」を支給対象校とする旨が定められた。このため,文部科学
大臣は,同年5月26日,就学支援金の円滑な支給に関する専門的な議論を
行うため諮問機関として「高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議」
(以下「検討会議」という。)を設置した。(乙1)
検討会議は,同日から同年8月19日までの間に5回にわたり会議を開催
し,文部科学大臣は検討結果等を受けて同年11月5日に本件規程を定めた。
本件規程の制定に至る検討会議の会議等の概要は次のとおりである。(乙6)
平成22年5月26日に開催された第1回の会議において,委員から
「情報公開・学校運営に関して,財務諸表を毎年徴収するなど各種学校に
課せられた義務に加え,上乗せして求めることが必要な事項もあるのでは
ないか。」といった発言があった。(乙6の1・2~3頁)
平成22年6月30日に開催された第2回の会議において,委員から
「判断の客観性を担保する仕組みを組み込んでおくというのであれば,大
学の設置認可などからすれば,第三者の意見を聴くというのが普通のやり
方だろう。」との発言があった。(乙6の1・5頁)
平成22年7月16日に開催された第3回の会議においては,委員から,
「就学支援金を代理受領する以上は,わが国の法令を遵守することはもち
ろんのこと,学校運営の体制がきちんとしているかどうかという観点が重
要」といった発言や,「文部科学省としては,就学支援金の支給を適正に行
うために必要な限りにおいて学校運営の適切さを確認する必要があるが,
学校運営を全体として見る立場にあるのは所轄庁である都道府県知事で
ある。」との発言があった。(乙6の1・6頁)
平成22年7月26日に開催された第4回の会議及び同年8月19日
に開催された第5回の会議においては,朝鮮高級学校の様子を撮影した映
像の視聴が行われた上で,検討会議のまとめとなる「高等学校の課程に類
する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について」の素案に関す
る討議が行われ,委員からは「教育活動を見ないというわけではない。全
体として見た上で個別の指導内容までは踏み込まないということ,どうい
うことを教育されているかという項目・主題は見るのだが,具体的な内容
については各校にまかされている,それは他の学校種についても同じだ」
との発言や,「教育活動について何も見ないという誤解を与えないように
すべき」との発言があった。(乙6の1・8,10頁)
イ検討会議報告書(甲2)
検討会議は,検討結果として平成22年8月30日付け「高等学校の課程
に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について(報告)」と
題する検討会議報告書を作成して文部科学大臣に対する報告をした。
同報告書は,①基準についての「法令に基づく適正な学校の運営について」
の項目において,就学支援金は,支給法において,生徒が在学する学校が生
徒に代理して受領し,生徒の授業料に係る債権の弁済に充てることとされて
いること,各種学校の運営については,学校教育法,私立学校法などにおい
て諸規定が設けられていることを挙げた上で,就学支援金に係る文部科学大
臣の指定を受ける各種学校については,各校が就学支援金の管理を適正に行
うとともに,これらの関係法令の諸規定を遵守していることは当然であり,
「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に求められる基準において,就
学支援金の管理その他の法令に基づく学校の運営が適正に行われることを
改めて求めることが適当であるとし(甲2・8頁),②留意事項についての
「就学支援金の授業料への確実な充当について」の項目において,就学支援
金は,学校への助成金ではなく,法令に定める学校へ就学する生徒の学習活
動を支援するため,受給権者である生徒個人に対して支給されるものであり,
学校は生徒の申請に基づき,就学支援金を代理受領し,生徒が支払うべき授
業料の一部に充当するものであるとした上で,各学校においては,就学支援
金が確実に生徒の授業料に充てられるようにするとともに,その原資が貴重
な税金であることを踏まえ,経理の透明化を図るよう求めるものとし(甲2・
14頁),③審査体制・手続等についての「体制・手続」の項目において,「外
国人学校の指定については,外交上の配慮などにより判断すべきものではな
く,教育上の観点から客観的に判断すべきものであるということが法案審議
の過程で明らかにされた政府の統一見解である。このため,審査は,教育制
度の専門家をはじめとする第三者が,専門的な見地から客観的に行い,対象
とするかどうかについて意見を取りまとめ,最終的には,文部科学大臣の権
限と責任において,外国人学校の指定がなされることが適当である」として
いる(甲2・15頁)。
ウ高木義明文部科学大臣(以下「高木文部科学大臣」という。)は,平成22
年11月5日付けで,決定の形式で本件規程を制定するとともに,これに関
する文部科学大臣談話を公表した。(前提事実⑵イ,乙4,弁論の全趣旨)
上記談話は,本件規程の就学支援金制度における位置付けについて,「各
種学校のうち,学校教育法第124条により専修学校になることができない
ことから各種学校となっている外国人学校でも,日本国籍を持つ生徒も含め
多くの生徒たちが,後期中等教育段階の学びを行っていることから,制度の
対象となって」おり,「後期中等教育の判断にあたっては,各種学校である外
国人学校について,制度的・客観的に『高等学校の課程に類する』かどうか
により判断する」こととし,まず,本件省令1条1項2号イ,ロに規定する
外国人学校については,同年4月1日から制度の対象とされているとした上
で,同号イ,ロに定める方法では確認することができない「後期中等教育に
相当する外国人学校が存在し得ると考えられること」から,同号ハにおいて
「文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する課程を置く
ものと認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの」も就学支援金
制度の対象としており,本件規程は,同号ハにある「高等学校の課程に類す
る課程を置くもの」として指定する際の基準,手続等を定めたものであると
している。(乙4)
⑶本件規程に基づく申請と審査の経過等
ア控訴人法人は,平成22年11月25日付けで,本件申請を行ったが,同
月23日,北朝鮮による延坪島砲撃事件が起きたため,高木文部科学大臣は,
菅総理大臣の指示に基づき,本件学校を含む朝鮮高級学校について本件規程
に基づく指定の可否を審査する手続を一旦停止した。(前提事実⑵ウ,エ)
高木文部科学大臣は,①平成23年2月9日の衆議院予算委員会において,
外交上の理由により手続を停止したのではないかとの質問(下村議員)に対
し,延坪島砲撃事件は「我が国の平和と安全,まさに国家の存立そのものを
脅かす,そういう事態であったのではないか」,「同時に,そういう事態の中
で,手続の審査をするという環境にあるのかどうか。やはり審査としては,
静ひつな状況の中でしっかり審査をしなきゃならぬ。しかし,そういう異常
な事態の中で,これは大変なことだろう,私はそのような思いをしたわけで
ございます。」との答弁を(甲31・13頁),②平成23年3月8日の参議
院予算委員会において,朝鮮学校に対する審査停止は本件省令や検討会議報
告を自ら否定することにならないかとの質問(又市征治議員)に対し,「国家
の安全にかかわる事態の中で,審査の手続があのような状況の中で正常に行
われるかどうか,これも懸念があったのでございます。なお,審査や指定に
当たっては,外交上の配慮などにより判断すべきものではなくて,教育上の
観点から客観的に判断すべきものとの考え方については変わっておりませ
ん。」との答弁を(乙42・37頁),③同月9日の衆議院文部科学委員会に
おいて,朝鮮高級学校に対する無償化手続を停止することが,どうして「不
測の事態に備え,万全の態勢を整えていく」ことになるのかとの質問(馳浩
議員)に対し,不測の事態というのは,国民の生命財産の安定が脅かされる
事態で,「ああいう状況の中で果たして正常な議論ができるのかということ
の懸念もございました。そういうことも一つの事態でございます。」との答
弁をした(甲39・23頁)。
また,枝野幸男内閣官房長官は,平成23年2月9日の衆議院予算委員会
において,外交上の配慮による手続停止ではないかとの質問(下村議員)に
対し,「外交的な配慮をしたのではなく」,「我が国国内において不測の事態
が生じないよう,それに備えて万全の体制を整えておく必要があるという見
地で,現時点において,指定の手続を一たん停止している」との答弁をした。
(甲31・15頁)
イ高木文部科学大臣は,平成23年7月1日,本件規程15条に基づき,教
育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される審査会(以下「審査
会」という。)を設置した。審査会は,本件規程に基づく指定等に関する意見
を検討事項とし,その庶務は支援室が所管することとされた。(甲22の1)
審査会は,同日から同年11月2日にかけて3回にわたる会議において,
ハ規定に基づく指定の申請があった学校法人K学園が設置するFインター
ナショナルスクール(高等部)及び学校法人G国際学園が設置するG国際学
園(高等部)について,本件規程の適合性を審査し,上記各学校法人におい
て,私立学校法に基づく,理事会の開催,財務諸表の作成等が行われている
こと,各学校を所管する都道府県への確認により,直近5年間において教育
基本法,学校教育法等の法令に違反していることを理由とする指導・勧告等
を受けたことがないことが判明したとして,上記各学校の本件規程13条適
合性を認めた。そして,この審査結果を受けて,文部科学大臣は,Fインタ
ーナショナルスクール(高等部)について同年8月30日,G国際学園(高
等部)について同年12月2日,それぞれハ規定に基づく指定をした。(前提
事実⑵カ,甲12,13,23~25)
ウ菅総理大臣は,北朝鮮が,延坪島砲撃後,当該砲撃に匹敵するような軍事
力を用いた行動をとっておらず,平成23年7月に南北間及び米朝間の対話
が行われるなど北朝鮮と各国との対話の動きが生じていることも踏まえれ
ば,事態は上記砲撃以前の状況に戻ったと総合的に判断できるとして,平成
23年8月29日,高木文部科学大臣に対し,朝鮮高級学校について,ハ規
定による支給対象外国人学校としての指定に関する審査手続を再開するよ
うに指示した。これを受けて,審査会は,同年11月2日実施の第4回審査
会から,朝鮮高級学校についての審査を実施した。(前提事実⑵オ,甲26,
乙7の1,乙46)
自民党は,上記審査手続再開を受けて,平成23年8月31日,「朝鮮学校
無償化手続き再開に強く抗議し即時撤回を求める決議」を発表して,朝鮮高
級学校に対する審査を再開することは,拉致問題について我が国が軟化した
との誤ったメッセージとなるなどとして審査の再開に反対し,下村議員も,
自民党のホームページのコラムにおいて同様の意見を述べていた。(甲32,
33)
エ審査会における朝鮮高級学校に関する会議の経過及び審査会の庶務を所
管する支援室による調査の状況等の概要は以下のとおりである。
第4回審査会(甲26,乙7の1,乙61)
平成23年11月2日に開催された第4回審査会において,資料2とし
て配布された「朝鮮高級学校の審査(ポイント)」と題する書面には,審査
事項に関し,「2.学校経理,就学支援金の適正な使用について」の項目に
おいて,校地等が仮差押を受けている愛知・九州(及び校地等に抵当権が
設定されている理由が確認できない場合,京都・広島)については,学校
運営の不適正を理由に指定しないこととするかが検討項目とされている。
また,「3.朝鮮総連との関係について」の項目において,朝鮮高級学校と
朝鮮総聯との関係が,教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たるか
どうか引き続き検討する必要があるとされ,過去の報道等に基づき,教育
内容への影響,人事への影響及び財政への影響を学校側に確認すべきとさ
れている。さらに,「4.法令に基づく適正な運営について」の項目におい
て,各学校の法令違反の有無は,基本的に設置認可を行う所轄庁が判断す
べきであるが,財務諸表の作成・備置など所轄庁でなくても外形的に確認
できる内容は審査の対象とすること,「法令違反」の考え方として,教育基
本法を始めとする学校に関係する法令に関する重大な違反が該当する旨
の指摘がされている。
第4回の会議において,資料6として配布された「各朝鮮高級学校の法
令に基づく適正な運営の確認」と題する書面には,本件学校について,本
件規程13条の法令に基づく学校の適正な運営の観点から,校地・校舎に
抵当権の設定を受けている点,校舎の所有権が不明である点,学則変更に
ついて所轄庁への認可申請(又は届出)を行っていない点が法令違反とな
るか整理が必要との指摘がされている。
第4回の会議においては,上記資料等に基づき朝鮮高級学校の審査のポ
イント,申請書類の内容等について検討がされ,審査のポイント等に関す
る議論の中で,「朝鮮高級学校の審査に当たっては,これまで審査を行っ
てきたケースと異なり,時間がかかる可能性がある。懸念される点が多く
指摘されていることもあり,いろいろな点を明らかにしていく必要がある
のではないか。」との意見が出された。また学校の校地・校舎に仮差押えが
されている学校について,学校運営ができなくなる可能性がある旨の意見
が出され,支援室から「朝鮮高級学校の校地・校舎が仮差押を受けている
ケースの債権者は株式会社Lであり,朝鮮学校については,教育機関であ
ることから,差押には慎重に対応するとの見解を示している」との説明が
あったのに対し,「どのような目的により債務が発生したのかについて,
学校の説明が不十分な場合は,学校運営の適正さが確認できないため,十
分な説明がなされるまで指定は行うことはできないのではないか」との意
見が出された。
第4回審査会後の支援室による照会等
a支援室は,第4回審査会の結果や朝鮮高級学校に関する報道の状況等
をふまえ,平成23年11月9日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校に
対し,①「教科書内容の変更には北朝鮮本国の決裁が必要である」旨の
報道は事実か,②教育内容について朝鮮総聯の指導を受けることがある
か,③朝鮮総聯の傘下と指摘される団体への生徒・教員の自動的加入の
有無,同団体の活動への参加の有無について,④朝鮮総聯が各朝鮮高級
学校に対して教職員への思想教育の強化を指示する旨の文書が配布さ
れたか,⑤役員に朝鮮総聯や関連団体の役職員がいるか,⑥「校長人事
は金正日総書記の決裁が必要である」旨の報道は事実か,⑦朝鮮総聯の
ホームページには「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,
教育会が責任をもって進めている。」などの記載があるが,教育会が学
校運営に関与しているかなどについて照会した。(乙8)
これに対し,控訴人法人は,①について,教科書内容の変更には北朝
鮮本国の決裁が必要であるとの報道は事実ではないこと,②について,
教育内容について朝鮮総聯の指導を受けることはなく,民族科目などに
ついては必要に応じて関連団体の協力を受けていること,③について,
朝鮮総聯の傘下団体である在日本朝鮮人教職員同盟(教職同)や在日本
朝鮮青年同盟(朝青)への教職員や生徒の加入は任意であり,自動的に
加入することはないこと,教職同に参加する教員は,質の向上,権利擁
護など民族教育発展のための活動や世界各国の教職員との交流,福利厚
生面の活動を行っていること,朝青に参加する生徒は,生徒自身の自発
的,自主的な学校生活の充実,改善,向上のための活動,クラブ活動や
ボランティア活動,地域交流等に参加しているが,学校活動とは別であ
ること,④について,配布された事実はないこと,⑤について,控訴人
法人の理事長が教育会会長を兼任しており,学校長が教職同の役員にな
っているが,関連団体の役職だから法人役員というわけではないこと,
⑥について,事実ではないこと,⑦について,教育会は日本の学校にお
けるPTAに該当する教育関係団体であり,教育会と理事会は別であり,
本件学校の意思決定は学園理事会が行っており,朝鮮総聯のホームペー
ジの記述は正確ではなく,記述を変更するよう朝鮮総聯に申し入れてい
ることなどを回答した。(乙9)
b支援室は,平成23年11月11日,控訴人法人に対し,①校地に設
定された抵当権の被担保債権となる借入れの使途は何か,②控訴人法人
が債務を承継したという建設委員会はどのような組織で,なぜ控訴人法
人ではなく建設委員会が校舎建設に関する借入れを行い,控訴人法人が
債務を承継したのか,③借入れに関する状況及び今後の見通し,④校舎
の所有権の帰属が不明確で登記もされていない経緯等について照会し
た。(乙10)
これに対し,控訴人法人は,①について,被担保債権となる借入れは
建設委員会が行ったものであり,控訴人法人の運営帳簿上に借入れ記載
がないため,その使途は判断しかねること,②について,建設委員会と
は,M商工会会長が委員長となり,控訴人法人理事長を含む数人で委員
会が構成された控訴人法人の外部組織であること,広島県内の大小様々
な民族学校を統合建設していく過程で各建設委員会が必然的に組織さ
れ,第1初級学校移転問題,本件学校への統廃合と連なったため,学校
法人ではなく建設委員会がその建設を担ったと理解していること,債務
の継承については,裁判の結果,旧建設委員会の債務は,控訴人法人の
債務であると判断されたため,継承という形になったものと理解してい
ること,③について,裁判記録を基に貸借対照表上の債務残高は10億
6394万7835円が計上されており,平成21年4月より旧建設委
員,教職員,同胞有志らのカンパを別口で毎月集め,約40万円平均で
元金返済を行うなどしていること,④について,移転統合された後にも
未払金があり,当時の建設会社との間で話し合った結果,校舎は登記が
されないまま現在に至っていると聞いていることなどを回答した。(乙
11)
c支援室は,平成23年12月2日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校
に対し,過去5年間における都道府県及び市町村からの補助金等の交付
の有無等を照会した。(乙12)
これに対し,控訴人法人は,広島県,広島市,呉市及び安芸郡府中町
から補助金の交付を受けるとともに生徒に対する助成を受けているこ
と,過去5年間に補助金について問題を指摘されたことはないことを回
答した。(乙13)
第5回審査会(甲27,乙7の2)
平成23年12月16日に開催された第5回審査会においては,上記
の書面審査の結果をまとめた資料が配布されたほか,資料3として「高校
無償化に係る朝鮮学校の審査状況(概要)」と題する書面が配布された。同
書面には「1.総連等との関係」の項目の冒頭に「審査の観点」として,
教育基本法16条1項の「不当な支配」に該当するかという点が挙げられ
ており,「『不当な支配』の考え方」として,「国民全体の意思を離れて一部
の勢力が教育に不当に介入する場合を指すもの」,「一般論としては,ある
団体が教育に対して影響を及ぼしていることのみをもって,直ちに『不当
な支配』があるとはいえない」,「これまでのところ,御指摘の『朝鮮学校』
の所轄庁である都道府県知事からは,それらの教育施設においてお尋ねの
点を含む法令違反による行政処分等を行った実績はないとの報告を受け
ている」とされていた。
第5回審査会においては,各朝鮮高級学校に対する実地調査の内容,主
たる教材の記述,各朝鮮高級学校に対する書面による確認結果等について
検討がされ,その中で,「実地調査の結果では,授業における生徒の様子な
ど特に懸念されるところは見当たらなかったようだが,朝鮮高級学校と朝
鮮総連との関係など学校運営に不透明なことがあれば,疑念がないようク
リアにしていく必要があるのではないか。」,「朝鮮高級学校を取り巻く状
況は非常に複雑になっており,学校に対する確認は,相当大変だろうが,
しっかりチェックして,その状況を審査会に報告してほしい。」との意見
が出された。
第5回審査会後の支援室による照会等
a支援室は,平成24年1月19日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校
に対し,①理事会・評議員会の開催が確認できる書類(出席者への旅費・
謝金,飲食代等の領収書や委任状等)の提出,②法人内での理事等の印
鑑の管理の有無,③財務諸表に記載されている以外の長期借入れの有無
について照会するとともに,控訴人法人に対し,④別件判決で認定され
た法人運営上の問題点(数十年の間正式な理事会が開かれたことがほと
んどなかったこと,数億円の債務負担を伴う土地購入や借入等の場合も
理事会が開催されていなかったこと,理事会に関与していない司法書士
が議事録を作成しており,必ずしも議事録に対応する正式な理事会が開
催されていたわけではなかったこと)の現状,⑤校舎の長期的な使用を
担保するための対応等を照会した。(乙14)
これに対し,控訴人法人は,①について,理事会・評議員会に関する
上記書類はないこと,②について,理事等の印鑑管理はしていないこと,
③について,長期借入れはないこと,④について,別件判決で認定され
た上記問題点は,平成8年4月の本件学校としての統合以後は整理され
ていること,⑤について,前回回答したとおりであるが,必要であれば
校舎の所有権を明確にする努力をしなければならないと認識している
などと回答した。(乙15)
b支援室は,平成24年2月6日,控訴人法人に対し,会計書類に関し,
平成21年度の消費収支計算書に関する不明な点について質問し,回答
を求めた。(乙16)
これに対し,控訴人法人は,同月7日,平成21年度消費支出超過額,
前年度繰越消費支出超過額,翌年度繰越消費支出超過額について,特に
なしと回答した。(乙17)
c支援室は,平成24年3月13日,控訴人法人に対し,①Lに対する
利息を含めた債務の総額は幾らか,②校舎の所有権者として建物表題登
記の義務を負わないのか等について照会した。(乙18)
これに対し,控訴人法人は,①について,正確な債務の総額は残務残
高証明書を申請する必要があるので,後日,証明書が到着次第連絡をす
ること,②について,校舎の建物表題登記をしていないことを理由に控
訴人法人が支給対象外国人学校から除外されるのであれば,弁護士と相
談の上,登記申請をしたいことなどを回答した。(乙19)
第6回審査会(甲28,乙7の3)
平成24年3月26日に開催された第6回審査会において,資料1とし
て支援室による調査等の状況をまとめた「高校無償化に係る朝鮮高級学校
の審査状況(概要)」と題する書面が配布された。同書面には,審査基準の
うち,裁量の余地のない外形的な基準(教員数,校地・校舎の面積等)に
ついては,全校がこれを満たしているとの記載や,報道内容のうち,審査
基準(法令に基づく学校の運営)に抵触し得る事項及び申請内容の重大な
虚偽となり得る事項については,重大な法令違反に該当する事実は確認で
きていないとの記載がある。ただし,教育基本法への適合性については別
途検討がされており,朝鮮総聯による教育基本法16条1項に該当する
「不当な支配」が認められれば重大な法令違反に該当することから必要な
確認を行ったとして,確認結果の概要が記載されているが,朝鮮総聯によ
る「不当な支配」が認められる旨の記載はない。また,同書面には,本件
学校について,学校運営に関する過去の問題として「Lとの訴訟で,旧朝
銀からの借入をめぐり,以下のような事実が認定された。なお,訴訟では,
総連地方本部の支出に係る借入についても,学園の債務と認定された。数
十年の間,正式な理事会はほとんど開催されず,数億円の債務負担を伴う
土地購入の場合も,開催されなかった。議事録が作成されている場合にも,
対応するような正式な理事会が開かれていたわけではない。」との記載が
ある。
また,資料4として配布された「朝鮮高級学校への留意事項(素案)」と
題する書面には,学校の自主的な運営等についての項目に「特定の団体に
よる『指導』の下に,学校運営が行われているとの誤解を招くことのない
よう,学校として自主的に運営を行う」,「学校運営に関する積極的な情報
提供に努めること」などの記載がある。
第6回審査会においては,朝鮮高級学校に係る審査状況,仮に支給対象
外国人学校として指定する場合の留意事項(素案)等につき検討がされた。
その中で,「総連関連団体からの寄付等の割合がわずかであるからといっ
て,直ちに影響力がないとは言えない。一方,外部からの支援を全て断て
というのも難しい。教育的な影響力が,どの程度生徒に対して及んでいる
かを把握しておく必要があるのではないか。」との指摘があり,支援室か
ら「法令に基づく学校運営が適正になされているかどうかという基準で,
問題になるのが,教育基本法第2条第5号の教育の目標と,第16条の不
当な支配の禁止に違反しないかどうか。学校と総連の間に一定の関係があ
るとしても,それが本当に教育基本法違反か否かが,審査における重要な
判断基準になる。」との説明がされた。また,「法令違反とまで判断しがた
い場合でも,適正に学校運営が行われているかどうかは慎重に判断すべき
ではないか。」,「いくら確認しても,すっきり指定することができるよう
にならない。留意事項の内容について検討すること自体はよいが,学校運
営などの面で適正かどうか判断しがたいとも思われる。」,「そもそも,こ
の審査会において,指定の可否を議論し,結論を出すのは限界があるので
はないか。」といった意見も出された。
第6回審査会後の支援室による照会等
a支援室は,平成24年3月30日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校
に対し,文部科学省としては,学校の運営が法令に基づき適正に行われ
ていることを確認する必要があり,朝鮮学校における教育活動が朝鮮総
聯により「不当な支配」(教育基本法16条)を受けているとの指摘もあ
ることを踏まえ,審査の判断材料の1つとするためである旨の趣旨説明
を付した上で,①「全国の朝鮮初中級学校から選抜された生徒約100
人が1~2月に北朝鮮を訪問し,故金正日氏,金正恩氏への忠誠を誓う
歌劇を披露していた」との報道の真偽等について,②金正恩氏の肖像画
を掲示しているかについて,③「故金正日氏の葬儀について,朝鮮学校
の施設が使用され,生徒の動員が行われた」との報道の真偽の有無につ
いてなどを照会した。(乙20)
これに対し,控訴人法人は,①について,「生徒が5人参加しました
が,高級部の生徒は含まれておりません。」,「学校行事ではありません。
祖国で旧正月を祝って,毎年行われる『新年を迎える子供たちの集い』
への参加を希望する生徒たちが自由意思で参加しております。」,「朝鮮
総連の協力のもと,専門家によるオーディション(書類とビデオ)を行
い,合格した生徒のみ祖国を訪問しております。」,「オーディションに
合格した当校生徒,保護者の要望があった場合,校長の承認のもと教職
員が引率として同行する事もあります。」,②について,掲示しておらず,
検討もしていない旨,③について,「当校の施設は使用されていません。」,
「生徒に出席の指示又は呼びかけ等は行っておりません。個々の生徒が
保護者と共に葬儀に参加する事に対して,当校がとやかく言うことは出
来ません。」などと回答した。(乙21)
b支援室は,平成24年8月24日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校
に対し,上記aと同様の趣旨説明を付した上で,同年6月18日付けの
新聞記事による,「今月5~7日に全国の朝鮮学校長を対象に開かれた
講習には,校長69人が出席。許議長が『金正恩指導体系が確立される
よう確実に教育せよ』と指示した。」との報道に関して,同年6月5日か
ら7日までの間に朝鮮総聯又は他の団体による講習会に高級学校の校
長その他の教員が参加した事実の有無,教育内容に関して特定の示唆を
受けた事実の有無についてなどを照会した。(乙22)
これに対し,控訴人法人は,全国朝鮮高級学校校長会が主催する全国
朝鮮学校校長講習会に校長が参加したこと,教育内容に関し,特定の示
唆を受けることはなかったことを回答した。(乙23)
第7回審査会(甲29,乙7の4)
平成24年9月10日に開催された第7回審査会においては,資料とし
て,上記の照会結果をまとめた書面及び上記と同様に「特定の団体に
よる支配の下に,学校運営が行われているとの誤解を招くことのないよう
努めること」などの記載がある「朝鮮高級学校への留意事項(素案)」等が
資料として配布され,審査状況及び上記留意事項(素案)等につき検討が
された。その中では,「本審査会として,結論として1つの方向性を示すこ
とが求められているのか。場合によっては,委員の間にいろいろな意見が
あってまとまらない,ということもありうるのか。」との質問に対し,支援
室から「最終的に,どちらかの方向性は示していただくことになるが,そ
の際に,少数意見を併記することも考えられる。」との回答がされており,
「本審査会でとりまとめたものを参考に,最終的には大臣が決定すること
になるということか。」との質問に対し,支援室から「そのとおり。」との
回答がされている。また,「N学園が,補助金不支給の取消しを求めて,大
阪府及び大阪市を提訴するという報道もあるが,仮に,指定に係る審査に
関して,訴訟が起こされた場合の文科省の対応はどうなるのか。」との質
問に対し,支援室から「仮に裁判になれば,これまでの経緯として厳正な
審査を行ってきたことを主張することになる。」との回答がされている。
さらに,「書面による学校への確認については,報道等で指摘される事実
に関して,学校側が一様に否定する結果になっている。こちらも捜査権が
あるわけではないので,真偽の確証を得ることについては限界がある側面
もあるが,審査基準に関わることについては,引き続きしっかり確認して
ほしい。」との意見も出された。
そして,支援室から,今後の予定等につき,「今回の議論を踏まえなが
ら,今後も審査作業を進めていく。」,「次回の審査会については,決まり次
第,連絡する。」との説明がされた。
第7回審査会後の支援室による照会等
a支援室は,平成24年10月5日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学校
に対し,「各朝鮮高級学校から2
~3人ずつ選ばれた生徒が在日本朝鮮青年同盟代表団として,教員や朝
鮮大学校生らと8月23日~9月1日に平壌を訪問し,金正恩第1書記
に忠誠を示す行事に参加した」との報道に関して,当該行事である「青
年節慶祝大会」への生徒,教員の参加の有無,参加した生徒による決議
文読み上げの有無,朝鮮総聯の関与の有無についてなどを照会した。(乙
24)
これに対し,控訴人法人は,「青年節慶祝大会」に生徒1名及び生活指
導教員1名が参加したこと,同行事について,金第1書記名による参加
指示はなかったこと,夏休みに在日本朝鮮青年同盟の募集にそって,希
望者が個人的に参加しているもので,学校の関与はなかったことなどを
回答した。(乙25)
b支援室は,平成24年10月19日,控訴人法人を含む各朝鮮高級学
校に対し,「朝鮮総連が故・金日成主席,金正日総書記の肖像画を新しい
肖像画「太陽像」に10月中に交換するように指示した」との新聞報道
に関して,朝鮮総聯等からの新たな肖像画の購入に関する案内又は指示
の有無等についてなどを照会した。(乙26)
これに対し,控訴人法人は,「上記のような指示はありません。また,
購入予定もありません。」と回答した。(乙27)
支援室内部においては,審査会における審議の経過や各朝鮮高級学校へ
の照会に対する回答結果等を踏まえると,ハ規定に基づく審査には限界が
あり,審査会を継続しても朝鮮高級学校について本件規程13条に適合す
るとの意見の一致を見ることは困難であるという見方が強くなっていた。
(甲165,167,乙148)
オ報道その他による情報等
朝鮮高級学校に関しては,次のような報道,文部科学大臣に対する申入れ,
公表されていた公安調査庁の見解等があり,これらも踏まえた上で,審査会
による審査等が行われた。(甲165,167,乙148)
国内の新聞報道等
a平成22年2月11日の産経新聞において,北朝鮮が過去半世紀以上
にわたり日本国内の「朝鮮学校」に対して合計460億円の資金提供を
し,平成21年にも約2億円の教育援助金を送金していたことが明らか
になった旨の報道がされた。(乙29の1)
b平成22年2月21日の産経新聞において,「朝鮮学校」で学費納入
時に朝鮮総聯傘下団体の活動費を同時に徴収していたこと,朝鮮総聯が
学校行事において寄付名目などで保護者らから多額の資金を吸い上げ
ていた実態が判明した旨が報道された。(乙38の2)
c平成22年3月11日の産経新聞において,政府が国会で審議中の支
給法案の対象に「朝鮮学校」を含める方向で検討を進めていることが分
かったとした上で,朝鮮労働党の対南工作部署に所属していた元幹部の
話として,「朝鮮学校」で使用されている教科書には金正日総書記の決
裁が必要であり,北朝鮮の政治的影響の強い教科書を使用する学校が無
償化の対象となる「高校の課程に類する課程を置くもの」にあたるか議
論が残りそうである旨が報道された。(乙29の2)
d平成22年8月5日の産経新聞において,朝鮮総聯関係者による話と
して,朝鮮高級学校に対する支給法適用を検討するために実施された文
部科学省の視察の前に,東京の朝鮮総聯中央本部に教育関連幹部や全国
の朝鮮学校の校長が集められて対策会議が開かれたこと,その後,朝鮮
総聯が,朝鮮高級学校に対して,故金日成主席及び金正日総書記を礼賛
する「現代朝鮮歴史」などの歴史授業を視察当日のカリキュラムから外
すこと並びに職員室や校長室から故金日成主席及び金正日総書記の肖
像画等を撤去して故金日成主席の業績を称える図書資料が収められた
部屋にしまい,その部屋を施錠するように命じたことなどが報道された。
(乙68)
なお,同月25日には,在日本大韓民国民団発行「民団新聞」にも同
様の内容の記事が掲載された。(乙69)
e平成22年9月26日のMSN産経ニュースにおいて,朝鮮高級学校
の生徒のうち,朝鮮総聯の幹部等の子供については,朝鮮総聯が学費と
同程度の額を教育手当として出すこととされており,同手当は,生徒や
保護者が受け取らず,学校側の会計上で学費と相殺する形で処理されて
おり,実質上,学費が免除されていること,このため朝鮮高級学校が支
給法の対象となった場合には免除者分も就学支援金が支給され,実質的
に朝鮮総聯側の利益になる可能性があることなどが報道された。(乙2
9の3)
f平成23年11月1日の産経新聞において,元朝鮮総聯関係者が「東
京都から理事会議事録の提出を求められた際,理事でもなかった同僚が
『上からの指示で過去までさかのぼって議事録を書き,提出した』と述
べた」などとして,朝鮮学校を運営する学校法人朝鮮学園の理事会が有
名無実化しており,実質的に朝鮮総聯直轄組織に運営されている疑いが
あること,理事会の存在は無償化にとどまらず,学校認可の前提となっ
ていることから,申請基準に抵触する可能性もでてきたことなどが報道
された。(乙29の5)
g平成23年11月18日の産経新聞において,朝鮮総聯直轄組織であ
る教育会の元幹部の話として,「朝鮮学校」への自治体からの補助金を
教育会が管理しており,朝鮮総聯が補助金を流用したり,補助金を担保
に在日朝鮮人系金融機関である朝銀信用組合から借入をすることもあ
った旨が報道された。(乙38の1)
h平成24年10月17日の東京新聞において,朝鮮総聯が傘下の団体
や朝鮮学校に対して,各施設に掲げる故金日成主席及び金正日総書記の
肖像画を,新しい肖像画に交換するよう指示し,同肖像画は朝鮮総聯中
央宣伝広報局が一括して準備し,費用は対象機関が負担するよう指示が
出た旨が報道された。(乙29の6)
上記以外の報道等
a在日本大韓民国民団発行の平成23年1月1日の「民団新聞」には,
NPO法人の代表が「総連の新たな内部文書」を公開し,「朝鮮学校は金
日成-金正日親子へ『忠誠の電文』を送るという思想・政治運動を学校
ぐるみで展開している」として自治体による朝鮮学校への補助金支出に
反対の姿勢を示した旨の記事が掲載されている。(乙30の1)
b在日本大韓民国民団発行の平成22年3月17日の「民団新聞」には,
朝鮮高級学校の「高校3年」では,「全科目週30時間のうち7時間が民
族教育に値しない思想教育もしくはそれに準じることに割り当てられ
ている」こと,そのような問題は「朝鮮学校の上部団体が朝鮮総連であ
り,人事や配置まで朝鮮総連の指示を受けるという「垂直支配」に起因
しているため」であるとの記載がされている。(乙30の2)
c北朝鮮の平成24年4月4日の「労働新聞」には,総聯は,我が共和
国の堂々たる海外同胞組織であり,在日朝鮮学校は総聯組織が運営する
合法的な民族教育機関である旨の記載がある。(乙30の3)
d在日本朝鮮人総聯合会中央常任委員会が平成3年2月1日に発行し
た冊子「朝鮮総聯」には,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の指導のも
とに,教育会が責任をもって進めている。」との記載がある。(乙30の
4)
各種団体からの申入書の記載
a北朝鮮による拉致被害者家族連絡会及び北朝鮮に拉致された日本人
を救出するための全国協議会の作成に係る,川端文部科学大臣宛ての平
成22年8月25日付け「朝鮮学校への国庫補助に反対する要請文」に
は,「朝鮮学校の生徒らは,学内で組織運営されている『在日本朝鮮青年
同盟(朝青)』という政治組織に全員加盟して,北朝鮮の金正日政権を支
える政治活動に参加しています。」,朝鮮総聯は,「世論喚起のデモや集
会に朝鮮学校生徒を『朝青』組織を通じて大々的に動員しています。朝
鮮学校は純粋な教育機関ではなく,拉致被害者をいまだに返さない朝鮮
労働党の日本での工作活動拠点なのです。」との記載がある。(乙31)
b在日本大韓民国民団中央本部の作成に係る,川端文部科学大臣宛ての
平成22年7月27日付け「朝鮮学校『高校無償化』に関する申し入れ
書」には,「問題は教育を受ける子供たちの側にあるのではなく,教育機
関たる朝鮮学校そのものにあるのです。」,「朝鮮学校は運営面において
も教科内容の面においても,また教育全般面においても朝鮮総連の指導
を通じ北朝鮮政府の完全なコントロール下にあり,日本社会一般の常識
をはるかに越えるような教育,指導が行われています。」,就学支援金が
「本来の趣旨から外れて実際には朝鮮総連への迂回支援に繋がること
を本団は憂慮する」との記載がある。(乙32の1)
また,在日本大韓民国民団中央本部の作成に係る,平野博文文部科学
大臣宛ての平成24年2月13日付け「朝鮮高級学校『高校授業料無償
化・就学支援金支給制度』についての申し入れ書」にも上記と同趣旨の
記載がある。(乙32の2)
公安調査庁による調査等
a公安調査庁は,平成16年12月2日の衆議院北朝鮮による拉致問題
等に関する特別委員会(乙84・7頁),平成17年2月16日の衆議院
予算委員会(乙83・30頁),平成26年6月13日の参議院北朝鮮に
よる拉致問題等に関する特別委員会(乙56・5頁),平成26年11月
18日の参議院内閣委員会(乙85・18頁)等において,繰り返し,
朝鮮総聯やその傘下団体について破壊活動防止法等に基づく調査の対
象としている旨を明らかにしている。
b公安調査庁は,「破壊活動防止法」や「無差別大量殺人行為を行った団
体の規制に関する法律」に基づき,オウム真理教に対する観察処分の実
施など,団体の規制及び規制のための調査を行うとともに,国際テロや
北朝鮮情勢など国内外の情報を収集・分析しており,毎年の国内外の公
安動向を回顧し,今後を展望する「内外情勢の回顧と展望」を作成し,
その内容を公安調査庁ウェブサイトで公開している。平成21年から平
成25年(各前年11月末現在)にかけての「内外情勢の回顧と展望」
には次の記載がある。(乙33~37)
平成21年(2009年)1月版(平成20年における国内外の公
安動向を回顧し(11月末現在),今後を展望したもの。)には,朝鮮
総聯は,「北朝鮮建国60周年に際しては,幹部活動家,若手活動家,
商工人など各階層別の代表団を総勢数百人規模で北朝鮮に派遣し,」,
「これら代表団の一部は,朝鮮労働党幹部から,思想教育の徹底など
を図るよう指導を受けた。」との記載がある。(乙37)
⒝平成22年(2010年)1月版には,朝鮮総聯は,「活動家・会員
に対する思想教育を強化するとの方針を改めて打ち出した。」,朝鮮総
聯は,「活動家1人が自己に割り当てられた在日朝鮮人5世帯に対す
る教育・宣伝普及の責任を負う『5戸担当宣伝員体系』の再整備に努
める」,「朝鮮総聯は,朝鮮人学校での民族教育を『愛族愛国運動』の
生命線と位置付けており,学年に応じた授業や課外活動を通して,北
朝鮮・朝鮮総聯に貢献し得る人材の育成に取り組んでいる。」,「朝鮮
人学校では,一律に朝鮮総聯傘下事業体『学友書房』が作成した教科
書を用いた朝鮮語での授業を行っている。例えば,高級部生徒用教科
書『現代朝鮮歴史』では,北朝鮮の発展ぶりや金正日総書記の『先軍
政治』の実績を称賛しているほか,朝鮮総聯の活動成果などを詳しく
紹介している。」,「朝鮮総聯は,このほか,教職員や初級部4年生以上
の生徒をそれぞれ朝鮮総聯の傘下団体である在日本朝鮮人教職員同
盟(教職同)や在日本朝鮮青年同盟(朝青)に所属させ,折に触れ金
総書記の『偉大性』を紹介する課外活動を行うなどの思想教育を行っ
ている。」との記載がある。(乙36)
⒞平成23年(2011年)1月版には,「朝鮮総聯は,2010年
(平成22年)初頭から,第22回全体大会(22全大会)に向け,
活動を活発化させた。」,「朝鮮人学校への生徒勧誘活動や会員に対す
る思想教養活動などの組織強化に向けた活動に集中的に取り組むな
どして大会への気運醸成に努めた。」,「朝鮮総聯は,我が国政府の『高
校無償化』措置に関し,朝鮮総聯中央に『対策委員会』を設置し(2
月),朝鮮人学校生徒への『無償化』適用実現に向けた活動に組織を挙
げて取り組んだ。これら活動では,主に,朝鮮人学校教職員・父兄・
生徒,日本人支援者らを前面に出して,『無償化』適用を求める世論の
幅広い喚起に努め,我が国政府や政界関係者への要請活動,記者会見,
集会・デモ,街頭署名運動などを継続的に実施するとともに,国連人
権理事会などの国際機関に対しても『適用除外は人権侵害・差別』な
どと訴えた。また,北朝鮮による延坪島砲撃事件を受けた我が国政府
の『無償化』手続停止に対しても,緊急記者会見(11月)で抗議声
明を出すなど,早期の適用を改めて求めた。」との記載がある。(乙3
5)
⒟平成24年(2012年)1月版には,「7月に開催された『総聯の
新たな全盛期を開くための中央熟誠者大会』では,『朝鮮人学校への生
徒勧誘活動に取り組み,来年度の学生数増加が確定した』」,「思想教
育においては,特に,権力の『世襲』に対する組織内の否定的な反応
に留意しつつ,段階的に学習・伝達の対象を拡大していくものとみら
れる。また,組織拡大に向けては,基層組織と並んで,卒業生や生徒
父兄なども含め多数の在日韓国・朝鮮人と関わりを有する朝鮮人学校
を『活動の拠点』と位置付け,『同胞再発掘運動』の活発化に努めてい
くものとみられる。」との記載がある。(乙34)
平成25年(2013年)1月版には,「朝鮮総聯は,我が国政府の
『高校無償化』措置に関し,かねて朝鮮人学校生徒への適用を実現す
べく諸活動に取り組んできたところ,2月から3月までの間,日本人
支援者らを前面に出して『無償化』適用を求める集会や街頭署名運動
などを集中的に実施した。また,7月から9月までを『無償化』適用
実現のための『3か月集中戦』期間に設定し,主として朝鮮人学校の
教職員,父兄,生徒らを動員して,各地で街頭宣伝活動を繰り広げた
ほか,我が国政府や政界関係者に対する要請活動などを行い,早期の
適用を改めて求めた。」との記載がある。(乙33)
c公安調査庁長官は,平成22年11月17日の参議院予算委員会にお
いて,朝鮮学校と朝鮮総聯の関係について,「朝鮮総連の影響は,朝鮮人
学校の教育内容,人事,財政に及んでいると,このように承知しており
ます。」との答弁をした。(乙39)
別件判決(乙50,51)
上記判決は,O信用組合の控訴人法人及び控訴人法人がその経営するC
学校を移転建設するために設立した組織である学校法人A学園移転建設
委員会,そのほか控訴人法人の元理事長の相続人等の連帯保証人らに対す
る貸金債権等を譲り受けたとする者が貸金の支払等を求めた事案につい
ての判決である。上記債権の譲受人は,O信用組合が,控訴人法人に対し,
平成9年から平成10年にかけて前後5回にわたり手形貸付けの方法に
より貸付けをし(以下「別件貸金1」という。),上記建設委員会に対し,
平成4年及び平成6年各1回の手形貸付けの方法により合計約2億70
00万円の貸付けをし(以下「別件貸金2」という。),これを控訴人法人
が連帯保証したと主張した。これに対し,控訴人法人は,別件貸金1の一
部は,控訴人法人の債務を旧債務とする借り換えであると誤信していたが,
朝鮮総聯の広島県本部会館建設費用の貸付けを付け替えたものであった,
別件貸金2のうち1億7000万円を超える借入金は朝鮮総聯に対する
「実質融資」であったなどと主張した。広島地方裁判所平成19年4月2
7日判決(乙50)では,①控訴人法人の実印が「朝鮮学校」の日常の管
理運営を行っていた「教育会」の金庫で保管されていたこと(27頁),②
控訴人法人において,平成9年から平成10年の間に3度にわたり手形貸
付けを受けたが,これについての理事会決議が行われたとは認められない
こと(45頁),③O信用組合と控訴人法人は,朝鮮総聯広島県本部の強力
な指導の下にある傘下組織のようになっており,両者一体となって学校移
転のためのプロジェクトを進めていたこと(46頁),④控訴人法人が学
校法人の形態をとったのは,日本社会において行政の補助や助成を受けら
れる地位を確保するためであり,学校の日常的な管理運営(学費や職員の
給与に関する出納も含む。)は学校単位で設けられている「教育会」が行っ
ていたものであると学園関係者が認識していたこと(46頁),⑤平成4
年4月及び同年5月に,本件学校が学校の移転・建設のために朝鮮総聯の
承諾の下で設立した組織名義の預金口座から,朝鮮総聯広島県本部への融
通金ないしその関連で合計5000万円が出金されたこと(58頁から5
9頁)などが認定され,広島高等裁判所平成20年12月26日判決(乙
51)においても同様の認定がされた。
朝鮮総聯のホームページの内容
朝鮮総聯のホームページ上には,平成23年11月当時,「朝鮮学校の
管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている。」
との記載があったが後に削除され,平成25年5月2日時点においては
「朝鮮総聯と在日同胞は,幼稚園から初級学校,中級学校,高級学校,大
学校にいたる120余校の各級学校を日本各地に設立して,在日同胞子女
に民主主義的民族教育を実施している。」との記載がされている。(乙8,
28)
カ政権交代後の経緯等
政権交代と文部科学大臣への説明
平成24年12月16日に実施された衆議院議員総選挙により,それま
で与党であった当時の民主党を中心とした政権から,自民党を中心とする
政権への政権交代が起こり,安倍晋三内閣が発足し,文部科学大臣として
下村文部科学大臣が就任することとなった。当時の文部科学省初等中等教
育局内の,支援室を含む「高校教育改革プロジェクトチーム」においては,
審査会の審議等によっても結論を得るに至らず,朝鮮高級学校について,
本件規程13条に適合すると認めるに至らない状況にあったことが省と
して残された大きな課題と認識されており,さまざまな情報がある中で具
体的な調査権がないために事実確認が困難であること,既にハ規定により
指定を受けた外国人学校のほかにはハ規定に基づく申請をしているのは
朝鮮高級学校のみであり,他にハ規定の対象となり得る外国人学校はない
ことから,審査に限界があるハ規定を廃止することもあり得るとして検討
が進められていた。このような検討を踏まえて,上記高校教育改革プロジ
ェクトチームの責任者ら文部科学省の事務方幹部は,新たに文部科学大臣
に就任することとなった下村文部科学大臣に対して,同月26日深夜から
翌日にかけて,状況説明を行うとともに,①引き続き審査を継続していく
案,②本件規程に適合するに至っているとの確証が得られないとして不指
定の処分をする案,③ハ規定そのものに限界があるため,不指定処分と同
時にハ規定を削除する省令改正の手立てを行う案の3案を提示し,下村文
部科学大臣から③案についての了承を得た。(甲165~168,乙14
8~150)
平成24年12月28日の記者会見における下村文部科学大臣の発言
下村文部科学大臣は,平成24年12月28日の記者会見において,「本
日の閣僚懇談会で,私から,朝鮮学校については拉致問題の進展がないこ
と,朝鮮総連と密接な関係にあり,教育内容,人事,財政にその影響が及
んでいること等から,現時点での指定には国民の理解が得られず,不指定
の方向で手続を進めたい旨を提案したところ,総理からもその方向でしっ
かり進めていただきたい旨の御指示がございました。このため,野党時代
に自民党の議員立法として国会に提出した朝鮮学校の指定の根拠を削除
する改正法案と同趣旨の改正を,省令改正により行うこととし,本日から
パブリック・コメントを実施することにいたします。なお,今後,朝鮮学
校が都道府県知事の認可を受け,学校教育法第1条に定める日本の高校と
なるか,又は北朝鮮との国交が回復すれば現行制度で対象と成り得ると考
えている」と述べるとともに,支給法に基づく審査につき,「外交上の配慮
などにより判断しないと,民主党政権時の政府統一見解として述べていた
ことについては,当然廃止をいたします」と述べた。(甲37,154,1
55)
文部科学省は,平成24年12月28日,本件省令改正に先立ち,改正
案の概要を公示し,同日から平成25年1月26日までの間,本件省令改
正に関する意見等を公募した。(乙74)
文部科学省は,平成25年2月20日,上記意見公募手続の結果を公示
し,上記意見公募手続において,合計3万0510件の意見が寄せられた
として,主な意見を別紙に挙げ,同意見に対する文部科学省の考え方を示
した。その中で,「外交上の配慮などにより判断しないと言っていたのに
方針を変えるのか。」との意見に対し,「『外交上の配慮などにより判断』し
ないとの民主党政権時の政府統一見解は廃止した上で,朝鮮学校について
は,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総連と密接な関係にあり教育内容,
人事,財政にその影響が及んでいることを踏まえると,現時点での指定に
は国民の理解が得られないと判断するものです。」との見解が,文部科学
省の考え方として示されている。(甲4,乙74)
支援室の担当者は,平成25年2月4日,本件省令改正に関する決裁文
書として,件名を「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就
学支援金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令について」と
する本件省令改正に係る「決裁・供覧」文書(文書番号・24文科初第1
127号)を起案し,平成25年2月15日決裁された。同文書では,改
正の概要としてハ規定を削除して就学支援金制度の対象となる外国人学
校を本件省令1条1項2号イ,ロの類型に限ること,施行日を公布の日(2
月中旬予定)とすることが記載されていた。(乙76)
支援室の担当者は,平成25年2月4日,本件不指定処分に関する決裁
文書として,件名を「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校就
学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定の削
除に伴う朝鮮高級学校の不指定について」とする本件不指定処分に係る
「決裁・供覧」文書(文書番号・24文科初第1130号)を起案し,平
成25年2月15日決裁された。同文書には,手書きで「施行日は官報の
掲載日に合わせるため,平成25年2月20日とした。」と記載がされ,控
訴人法人を含む朝鮮高級学校を設置・運営する各法人宛てに不指定処分を
通知する書面のひな形等が添付されていた。控訴人法人を含む学校法人P
学園以外の9法人宛ての通知書のひな形には,実際に控訴人法人に送付さ
れた通知書と同様,不指定処分の理由として,本件不指定理由①及び②が
記載されていた。(乙77)
下村文部科学大臣は,平成25年2月19日の記者会見において,「朝
鮮学校については,明日,20日付で改正省令を公布いたします。同時に
各朝鮮学校に不指定の通知を発出する予定です。」と述べ,パブリック・コ
メントについて「合計3万510件のパブリック・コメントが寄せられま
した。」,「内容を精査した結果,賛成が1万5846件,反対が1万416
4件,その他500件ありました。」などと発言した。(乙75,142)
下村文部科学大臣は,平成25年2月20日付けで本件省令改正と本件
不指定処分を行い(前提事実⑵ク),本件不指定処分に係る通知文書は,同
日付けで控訴人法人宛てに発送された。また,本件省令改正は,同日,官
報公告された。(乙40,73)
⑷本件不指定処分後の経過
ア広島県及び広島市は,本件不指定処分をうけて,平成24年度以降,国の
判断を尊重し,本件学校への補助金を支出しないこととした。(甲44,4
5,98,控訴人法人代表者,弁論の全趣旨)
イ本件学校(高級部)は,就学支援金の支給を受けられなかったことに加え,
広島県の補助金が打ち切られたことなどから,平成22年当時月額2万60
00円であった授業料を値上げした。平成28年4月の授業料は月額3万2
000円であった。(甲10の1,甲100,証人Q,控訴人法人代表者)
3争点⑴ア(本件規程13条の法的性質,同条は支給法の委任の範囲外か及びそ
の解釈)について
⑴本件規程の法的性質
ア法規命令は,行政機関が制定するところの,行政主体と私人の権利・義務
に関する一般的規律であり,法律の委任により私人との権利・義務内容を定
める委任命令と権利・義務の内容自体ではなく,その内容の実現のための手
続に関する執行命令がある。
本件規程は,支給法2条1項5号の委任に基づき,文部科学大臣が,決定
の形式で定めたものであり,第2章においてハ規定に基づく指定の基準が,
第3章においてハ規定に基づく指定の手続等についてそれぞれ定められて
おり,その内容は,国民の権利義務を一般的に規律するものであり,手続上
も官報掲載による公告がされている(前提事実⑵イ)。したがって,本件規程
は,法規命令たる委任命令及び執行命令としての性質を有するものというこ
とができる。
イ控訴人らは,本件規程の定立の方式が,政令,省令,規則及び告示の形式
によらないこと,本件規程が官報の官庁報告の項目に掲載され,官報掲載日
が施行日以降であることなどから,本件規程に法規範性はないと主張する。
しかし,上記アのとおり法規命令か否かは,それが国民の権利義務に直接
に関係するかとの観点から判断されるべきものであり,控訴人ら指摘の上記
各事情は,いずれも本件規程が法規命令としての性質を有することを否定す
る事情とは認められず,採用できない。
⑵本件規程13条は支給法の委任の範囲外か及びその解釈
ア支給法2条1項5号は,専修学校及び各種学校のうち「高等学校の課程に
類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」を就学支援金制度
の対象とし,同号を受けて定められたハ規定は,「文部科学大臣が定めると
ころにより,高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとし
て,文部科学大臣が指定したもの」を支給対象外国人学校に含まれるものと
している。これらの規定にいう高等学校の「課程」は,高等学校学習指導要
領に定める「教育課程」に限らず,広く教育内容,学校の組織及び運営体制
も含むものと解される。
すなわち,学校教育関係法令上,「教育課程」あるいは「課程」の定義規定
はないものの,学校教育法66条は「中等教育学校の課程は,これを前期3
年の前期課程及び後期3年の後期課程に区分する。」と定めており,同条の
「課程」とは,学校が提供し,生徒等が履修すべき体系化された教育そのも
のを指すものと解され,同法128条4号が「目的又は課程の種類に応じた
教育課程及び編制の大綱」と定めて「課程」と「教育課程」とを使い分けて
いるところ,支給法ないし本件省令において,学校教育法と異なる意味内容
のものとして「課程」の語を用いる合理的理由は見当たらないことなどを勘
案すれば,支給法2条1項5号及びハ規定の「高等学校の課程」とは,高等
学校学習指導要領の「教育課程」に限らず,広く教育内容,学校の組織及び
運営体制も含むものと解すべきである。
また,支給法は,高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り,
もって教育の機会均等に寄与することを目的とし(同法1条),私立高等学
校等に在学する生徒等で日本国内に住所を有する者を就学支援金の受給権
者とした上で(4条1項),支給対象学校の設置者は,受給権者である生徒等
に代わって就学支援金を受領し,当該受給権者である生徒等の授業料に係る
債権の弁済に充てるものとしている(支給法8条)。すなわち,支給法は,公
的な資金から支出される就学支援金が受給権者である生徒等に対する授業
料に係る債権に確実に充当されることを要請し,これを実現するための仕組
みを採用しているのであり,支給対象学校の設置者によって他に流用される
おそれが否定できない場合にも就学支援金を支給することを許容するもの
とは解されない。支給法上,就学支援金制度の対象とされる私立高等学校及
び専修学校(高等課程)については,財務関係を含む学校運営の適正が求め
られ(学校教育法14条,42条,43条,62条,133条,学校教育法
施行規則66条~68条,189条,私立学校法25条1項,47条参照),
各種学校についても,学校教育法134条2項,私立学校法64条5項の規
定により,適正な学校運営を求める趣旨,内容の学校教育法の規定や私立学
校法の規定が準用されているなど,就学支援金が授業料に係る債権の弁済と
して確実に充当が行われることが確認できる体制等が整っていることが当
然の要件になっているものといえる。
さらに,支給法の立法の過程を見ても,文部科学大臣において,支給法案
は「高等学校の課程に類する課程を置く」本邦内の外国人学校の全てに適用
するということになるのかという趣旨の質問に対し,「高等学校の課程に類
する課程」として,その位置づけが,学校教育法その他により制度的に担保
されているということを規定することを予定しており,自動的に外国人学校
の高等課程に類するものすべてが対象になるものではない旨を答弁してお
り文部科学副大臣において,就学支援金の支給対象とす
る各種学校の範囲を省令に委ねた趣旨について,各種学校の内容あるいは形
態が多種多様で,どのような各種学校を高等学校の課程に類する課程を置く
ものとして就学支援金支給の対象学校とするのが相当であるかを決めるに
当たり,技術的,専門的な検討を要するためである旨を答弁しており(認定
事実⑴イ),支給法やこれを受けて制定された本件省令においては,支給
対象外国人学校の指定に際して学校教育法その他の関係法令に基づく適正
な学校運営がされていることを考慮することやその具体的な基準について
は,専門的,技術的知見を有する文部科学大臣に委任することが前提とされ
ていたといえる。
イ控訴人らは,文部科学大臣が平成22年3月12日に就学支援金が授業料
に充当されるかは,高校課程に類する課程に関する判断と直接的に関係する
ものではないと思う旨の発言をしていること(認定事実⑴イ)を指摘する
が,同発言は国会審議での答弁ではないばかりか,「今聞いた範囲だと思い
ます。」との留保を付けているため,上記アの認定を左右するものとはいえ
ない。制定法の趣旨をその法律による行政事務を分担管理する国務大臣のあ
る局面での発言のみに基づいて解釈することは相当でない。
また,控訴人らは,支給法の文言,生徒の教育を受ける権利の保障という
支給法の趣旨,立法審議の過程において学校運営の適正という視点には言及
されていないこと,専修学校(高等課程)は,学校運営の適正に関しては学
校教育法や私立学校法(以下,併せて「学校教育法等」ともいう。)の規制に
服するにすぎず,各種学校にも上記各法が準用されているので,これらに加
えて学校運営の適正について審査する必要はなく,ハ規定の対象となる各種
学校についてイ規定及びロ規定の対象となる各種学校と異なる取扱いがさ
れる理由もないので,支給法上,「高校の課程に類する課程」とは,教育に関
して構築されたシステムとしての課程を意味し,その運営体制にまつわる評
価概念を含む本件規程13条は支給法等の委任の趣旨を逸脱する旨を主張
する。
しかしながら,支給法の文言,趣旨及びその立法過程に基づく上記主張は,
上記アに判示したところに照らし,採用することができない。そして,学校
教育法等は学校の設置等について組織や編成その他に関する設置基準に関
する規制であるのに対し,支給法,本件省令及び本件規程は,就学支援金の
制度趣旨から審査に必要な基準等を定めているのであり,文部科学大臣がそ
の専門的,技術的知見に基づき,上記アのとおり形態が多種多様な各種学校
について,専修学校(高等課程)と異なる審査基準を設けることや各種学校
の類型ごとに異なる基準を設けることを支給法は許容しているものと解さ
れ,控訴人らの上記主張も採用することができない。
ウ以上のとおり,本件規程13条は,支給法の趣旨を逸脱するものではない。
⑶本件規程13条の解釈
ア本件規程13条は,上記のような支給法の目的や仕組み,私立高等学校や
専修学校(高等課程)に適用される法令の規定並びに就学支援金が公的な資
金から支出されることをも踏まえ制定されたものであるところ,本件規程の
制定に当たっての検討会議における議論等では,第1回の会議から,情報公
開や学校運営が議題に上り,各種学校に課せられた義務に加え,上乗せして
求める必要性について発言がされ,第3回の会議におい
ても,学校運営がきちんとしているかの視点の重要性を指摘する発言がある
(認定事実⑵ア)など,適正な学校運営がされていることの検討の必要性
が指摘されていた。また,検討会議報告書でも,「高等学校の課程に類する
課程を置くもの」に求められる基準において,就学支援金の管理その他の法
令に基づく学校の運営が適正に行われることを改めて求めることが適当で
あるとされている(認定事実⑵イ)。このように,本件規程13条は,ハ規定
による指定を受けるための要件として,就学支援金の授業料に係る債権の弁
済への確実な充当が行われることや,高等学校の教育課程の履修を含む学校
運営が学校教育法等の法令に従った適正なものであると認められることを
要するとしたものと解される。そして,教育基本法が他の全ての教育関係法
規の基本法たる性質を有し,全ての教育関係法規は教育基本法に定められた
基本的理念を実施するための法律として解釈されるべきことなどからすれ
ば,本件規程13条の「法令」から教育基本法を排除すべき理由はなく,本
件規程13条の要件適合性の判断に当たっては,教育に対して教育基本法1
6条1項の「不当な支配」がないか等に係る事情についても,上記判断の要
素として考慮すべきである。
イ控訴人らは,①本件規程13条は,不確定概念が用いられ,指定後の指針
をいうような表現であるなど,基準性を欠く条項が含まれ,審査基準足り得
ないものであるので,訓示規定と解されるべきである,②本件規程13条の
文言や各種学校が学校教育法等の規制を受けることから所定の「法令」には,
学校の一般的な財務会計に係る法令に限定され,教育基本法16条1項は含
まれない,③本件規程13条の表現ぶりや生徒の教育を受ける権利の保障と
いう趣旨などに照らせば,同要件を欠くと判断されるのは,就学支援金流用
の具体的可能性が現に生じている事実が認定できる場合に限られると主張
する。
しかしながら,上記①について,上記⑵のとおり,学校運営の適正や就学
支援金が授業料債権に確実に充当されることは,支給法の要請するところで
あり,本件規程13条が,本件規程「第2章指定の基準」中にほかの規定
とは別個独立に設けられた規定であることなどに照らせば,訓示規定と解す
ることはできない。上記②について,上記⑵及び上記アにおいて述べたとお
り,支給法において学校教育法等とは異なる視点から審査制度が設けられて
いること,支給法も教育関係法令である以上,就学支援金支給対象外国人学
校として指定されるのに,教育基本法の基本原則や理念に反する運営がされ
る学校であってはならないのであって,控訴人らの上記主張は採用すること
ができない。上記③について,上記⑵アのとおり,支給法が,公的な資金か
ら支出される就学支援金が受給権者である生徒等に対する授業料に係る債
権に確実に充当されることを要請しており,法令に従った適正な学校運営が
されていると認めることができず,学校の設置者によって他に流用されるお
それが否定できない場合にも,就学支援金を支給することを許容するもので
はないことに照らせば,就学支援金流用の具体的可能性が生じている場合に
とどまらず,法令に従った適正な学校運営がされていると認めることができ
ず,流用のおそれを否定することができない場合,文部科学大臣において支
給対象外国人学校に指定しないと判断することは,上記のような支給法の要
請に沿うものであって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。
ウ以上のとおり,本件規程13条の要件適合性の判断に当たっては,教育に
対して教育基本法16条1項の「不当な支配」がされていないか等に係る事
情についても,上記判断の要素として考慮すべきものと解される。
4争点⑴イ(本件規程13条は憲法14条に違反して無効か。)について
⑴控訴人らは,イ規定及びロ規定の適用対象となる外国人学校についても,就
学支援金が授業料に係る債権に確実に充当されることが担保されているとは
いえないのに,ハ規定の適用対象となる学校のみに本件規程13条の審査を課
すのは不合理な差別で,憲法14条の平等権を侵害するものであると主張する。
⑵しかしながら,イ規定及びロ規定に係る外国人学校は,外国の大使館を通じ,
又は文部科学大臣の指定する団体の認定により,高等学校の課程に類する課程
を置くものであることが制度的に担保されているものといえる(前記第2の2
⑵ウ)。これに対し,ハ規定に係る外国人学校については,そのような制度的
な保障が全くなく,高等学校の課程に類する課程であるか否かを個別具体的に
判断せざるを得ない。イ規定及びロ規定に係る外国人学校は,高等学校の課程
に類する課程であることにつき制度的保障があるという点で,ハ規定に係る外
国人学校と前提を異にするものである。そして,イ規定及びロ規定に基づき文
部科学大臣による指定を受けた各種学校について実際の学校経営等に問題が
生じた学校があったとしても,そのことがイ規定やロ規定の適用対象となる各
種学校について,上記のような制度的保障がなされていることを理由とする取
扱いの合理性を失わせるものではない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は,教育の機会均等という原理の下に
おいても,その前提を欠くものであって,採用することができない。
5争点⑴ウ(本件学校が,本件規程13条に適合するものと認めるに至らないと
の文部科学大臣の判断に裁量の逸脱,濫用が認められるか。)について
⑴主張立証責任について
ア前記3のとおり,本件規程13条はハ規定に基づく教育施設として指定さ
れるための要件を定めたものであり,各種学校が同指定を受けると,その設
置者は当該各種学校の生徒等の授業料に係る債権に応じた就学支援金を収
受することができる地位を取得することとなる。このような同指定の性質に
照らすと,本件規程13条適合性の存在を基礎付ける事実については各種学
校の設置者が主張立証責任を負うというべきである。
イ控訴人らは,①支給法が憲法26条の教育を受ける権利の内実を構成する
ものであること,②控訴人個人らは,民族教育を受けることを選択したこと
で就学支援金の受給権を失うのであれば,実質的には人種による差別的取扱
いと同様であること,③就学支援金は一定の属性が認められれば一律に支給
されるものであり,一般の給付請求における主張立証責任と同様に考えるべ
きではないこと,④本件学校は,直近5年間の広島県知事による監査におい
て指導・勧告等を受けていないこと,⑤就学支援金が授業料以外の用途に流
用されるおそれがないことや外部機関からの不当な支配を受けていないこ
との立証は不可能であり,公平の観点から酷であることなどから,本件規程
13条適合性を基礎付ける事実については文部科学大臣が主張立証責任を
負うべきであると主張する。
しかしながら,上記①,③について,就学支援金は支給法によって付与さ
れるものであり,本件規程に基づく指定処分は,侵害処分ではなく,その要
件に該当する学校(高等学校の課程に類する課程を置く学校)に対する給付
処分であるから,控訴人らの上記主張は,前提を欠き採用することができな
い。上記②について,上記のとおり給付処分に際して支給対象学校に一定の
要件の具備を求めることをもって差別的取扱いということはできない。上記
④について,前記3⑵イのとおり,本件省令及び本件規程は,学校教育法等
と異なる観点からの審査を予定しているのであり,広島県知事からの指導・
勧告等を受けていないこともって,直ちに本件規程13条適合性を基礎付け
るものとはいえない。上記⑤について,一般に消極的事実の立証が困難であ
ることは所論のとおりであるとしても,それらが存在しないことを社会通念
上相当の蓋然性をもって立証することが不可能であるとまではいえず,控訴
人ら指摘の点は,上記判断を左右するものとはいえない。
したがって,控訴人らの上記主張は採用できず,本件規程13条適合性を
基礎付ける事実については各種学校の設置者が主張立証責任を負う。
⑵本件規程13条適合性の判断についての文部科学大臣の裁量について
前記3⑵のとおり,支給法2条1項5号が,各種学校につき高等学校の課程
に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限り就学支援金
の支給対象とするものと規定し,いかなる各種学校が支給対象となるかの定め
を文部科学大臣の定める文部科学省令に委任しているのは,外国人学校は,学
校教育法1条の規定する学校及び専修学校(同法124条)として認可を受け
ることができないという同法の体系(同法1条,124条,134条参照)の
下でも,後期中等教育を行っている外国人学校が存在し,支給法の目的からす
ると,そのような外国人学校についても就学支援金の支給対象とすることが望
ましいと考えられる一方,各種学校の実情は様々でその教育課程や形態につい
て制度的・客観的な基準が存在しないため,いかなる学校の生徒等に対して就
学支援金を支給すべきかは,その性質上,教育行政に通暁した文部科学大臣の
専門的,技術的な判断に委ねるほかないとの趣旨に基づくものである。そして,
本件規程13条は,支給対象外国人学校の指定の基準の1つとして,就学支援
金が授業料に係る債権に確実に充当される学校であることや,法令に基づく適
正な学校運営が行われている学校であることを定めているところ,かかる内容
の検討は,本件規程の定める他の指定の基準についてとは異なり,その性質及
び内容からして専門的,技術的検討を伴うものであることが明らかであって,
本件規程13条適合性の判断は,文部科学行政に通暁する文部科学大臣の専門
的,技術的判断に委ねられているものというべきである。
また,本件規程13条の要件適合性の判断に当たって,教育基本法16条1
項の「不当な支配」に係る事情を判断の一要素として考慮することが当然に許
容されているものというべきこともまた,前記3⑶において述べたとおりであ
るところ,上記のとおり本件規程13条適合性の判断が文部科学大臣に委ねら
れていることに加えて,教育基本法16条1項の「不当な支配」が存するかど
うかやその程度といった事項もまた,その性質及び内容に照らせば,専門的,
技術的検討が必要となることからすると,本件規程13条適合性の判断の中で
考慮される教育基本法16条1項の「不当な支配」に係る事情の判断について
もまた,文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ねられているものというべき
である。
もっとも,支給法の立法過程(認定事実⑴イ)や検討会議報告書においても,
本件規程適合性の判断に際しては,政治,外交上の配慮などにより判断すべき
ものではなく,教育上の観点から客観的に判断すべきものであるとされている
こと(認定事実⑵イ)などからすれば,文部科学大臣の上記の判断は,政策的
なものではなく,専門的,技術的な観点から本件規程13条の適合性を認定,
評価するものであるといえ,同大臣の裁量にはこのような観点からの一定の限
定があると解される。
以上のとおりであって,本件規程13条適合性の判断や,その中で考慮され
る教育基本法16条1項の「不当な支配」に係る事情の判断については,文部
科学大臣の上記のような一定の裁量に委ねられているものというべきである。
⑶検討
ア文部科学大臣が本件不指定処分をするまでの経緯,収集された資料,審査
会の検討の内容,その他報告された事項などは,認定事実
た。
このうち公安調査庁がその調査,収集した資料の分析に基づいて作成した
資料や,公安調査庁長官の国会における答弁の内容によれば,朝鮮総聯が朝
鮮高級学校と密接な関係にあり,その教育内容,人事,財政に影響を及ぼし
ているとされていたところ(認定事実⑶オ),公安調査庁が,法によって設
置された国家機関であり(平成30年法律第102号による改正前の法務省
設置法29条及び公安調査庁設置法参照),一定の調査,分析能力を備えた
組織であることに照らせば,文部科学大臣において,これらの資料や国会答
弁の内容に信を措くことが不合理とはいえない。また,北朝鮮や朝鮮総聯の
ホームページやその出版物にも,朝鮮総聯が朝鮮高級学校の教育内容及びそ
の実施,管理運営等に影響を及ぼしていることをうかがわせる記載が見られ
(認定事実⑶オc,d,),別件判決については,その貸付時期が平成4
年から平成10年までと本件申請の時期とは隔たりがあるものの,控訴人法
人も訴訟当事者として関与していたところ,控訴人法人は,借入金の使途の
一部が朝鮮総聯への「実質融資」であるなどと主張し,判決では,控訴人法
人が朝鮮総聯の地方本部の強力な指導の下にある傘下組織のようになって
おり,適正な学校運営がされていなかったことや朝鮮総聯の地方本部が朝鮮
学校を利用して資金を集めていることなどを疑わせる事情が指摘されてい
た(認定事実⑶オ)。この点に関し,審査会は控訴人法人に対し,その名義
でされた借入れの使途等について問い合わせところ,控訴人法人は,別件判
決に係る訴訟において,使途について上記のとおり主張していたが,審査会
に対して,その使途については判断しかねる旨を回答するにとどまり,控訴
人法人の過去の不適切な運営,控訴人法人外の団体との関わりにつき,その
真相,原因を究明し,対処,改善の道を示すといった対応はみせなかった(認
そして,朝鮮総聯等の朝鮮高級学校に対する支配関係を
指摘し,あるいは,朝鮮高級学校の資産や補助金が朝鮮総聯の資金に流用さ
れている疑いを指摘する報道や申入れ等が繰り返しなされており(認定事実
⑶オ),その中には朝鮮高級学校を就学支援金の支給対象外国人学校
として指定することに反対する立場からのものが存在することはうかがわ
れるが,上記のような一定の信頼を置くことのできる調査報告等と整合する
内容も含まれている。これらの事情を総合考慮すると,朝鮮高級学校につき,
就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行われることや,学
校運営が法令に従った適正なものであることについて合理的な疑いが生じ
る状況にあったといえる。他方,支援室が朝鮮高級学校に対して朝鮮総聯等
との関係について回答を求めたことに対する控訴人法人からの回答は,朝鮮
総聯等による影響を否定するようなものとはなっていたものの(認定事実⑶
エ,,,),その回答の内容は,朝鮮総聯が朝鮮高級学校の運営等に
関わっている旨の朝鮮総聯のホームページの記載等とも整合しないもので
あったり,教職員や生徒らが朝鮮総聯傘下の団体に加入している事実を認め
る内容とも見られるものであったりし,また上記のとおり,過去の不適切な
関係についてもその原因と対処等などを明確にするものではなく,上記の疑
念を払拭するに足りるものとはいい難い。審査会においても,第4回から第
7回までの審議を経ても結論を得るに至らず,その議論の内容を見ても,本
件規程13条適合性が認められるとの積極的意見が述べられたものとはう
かがわれず,むしろ,本件規程13条適合性についていくら確認をしてもす
っきり指定をすることができるようにならないという趣旨の意見や,審査会
における審査の限界を指摘する意見が述べられていたのであるから(認定事
実⑶エ,,,),文部科学大臣において,これらの状況等を踏まえ,
本件学校につき,就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行
われることや,学校運営が法令に従った適正なものであることについて,十
分な確証を得ることができず,本件規程13条に適合するものと認めるに至
らないと判断したことは,不合理なものということはできない。
したがって,文部科学大臣が,本件不指定理由②を理由として本件不指定
処分をしたことは,同大臣に与えられた一定の裁量を逸脱し又はそれを濫用
したものとは認められないというべきである。
イ控訴人らは,①文部科学大臣が,拉致問題の進展がないこと及び朝鮮総聯
との関係を重視して,政治的外交的判断から本件不指定処分を行ったこと,
②朝鮮総聯との関係が教育基本法16条1項の禁じる教育への不当な支配
には当たらないこと,③本件不指定処分の資料とされた朝鮮総聯のホームペ
ージ,新聞記事,特定の政治団体の意見表明,別件判決及び公安調査庁の報
告等は,本件規程13条適合性の審査において考慮されるべきでないこと,
④本件学校につき認可権,監督権を有する広島県の判断が尊重されるべきで
あること,⑤審査会では,第6回の時点で朝鮮学校全体が基準を満たしてお
り,本件規程13条に適合しないとの事実は確認されておらず,朝鮮高級学
校をハ規定に基づき指定するとするのが多数意見であり,これを尊重すべき
であったこと,⑥控訴人法人に支給された就学支援金が授業料債権に充当さ
れないことはおおよそ想定できず,その可能性を指摘することは偏見に満ち
た憶測であること,⑦本件不指定処分が本件学校に通う生徒らの教育を受け
る権利等を侵害するなどするものであることからすれば,不利益処分を回避
するために留保事項を付けて指定後の対応を確認する,就学支援金を生徒へ
直接支給するなどの代替措置が検討されるべきであるが,これがなされてい
ないことなどからすれば,本件不指定処分は,文部科学大臣の裁量を逸脱し
又はその濫用があるものとして違法である旨主張する。
しかしながら,上記①について,政権が自民党を中心とする政権に交代す
る以前に実施された第4回から第7回までの審査会においても,朝鮮高級学
校について本件規程13条に適合しているかについての結論を出すことが
できず,審査会の第6回の会議において本件学校を含む朝鮮高級学校の本件
規程13条適合性について明確な結論を出すことは困難である旨の意見が
出されており,第7回の会議においても,この点について真偽の確証を得る
ことについては限界がある側面もあるとの指摘がされるなどし,支援室内部
においても審査会を継続しても朝鮮高級学校について本件規程13条に適
合するとの意見の一致を見ることは困難であるという見方が強くなってい
たこと(認定事実⑶エ),下村文部科学大臣は,平成24年12月28日の記
者会見において,朝鮮高級学校について不指定処分とする方向で検討を進め
る理由について,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総聯との密接な関係にあ
ることを上げているが,併せて朝鮮学校には教育内容,人事,財政等に朝鮮
総聯の影響が及んでいることなど「適正な学校運営」の問題があることにも
言及するなど(認定事実⑶カ),本件規程13条の適合性(特に適正な学校
運営)の問題について述べていることなどを総合考慮すれば,本件不指定処
分が政治的外交的判断のみによってなされたものと認めることはできず,そ
のほか本件不指定処分が政治的外交的判断のみからなされたものであるこ
とを認めるに足りる的確な証拠はない。
上記②について,平成18年法律第120号による改正前の教育基本法1
0条1項は,「教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に
責任を負って行われるべきものである。」と規定していたところ,同項は,教
育が国民から信託されたものであり,国民に対して直接責任を負うべく,不
当な支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら
教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものである。その趣旨か
らすると,同項の「不当な支配」とは,教育が国民の信託に応えて自主的に
行われることをゆがめるような支配をいうものと解され(最高裁昭和51年
5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照),以上の理は教育基
本法16条1項についても当てはまるものである。同項は,教育が国民の信
託に応えて自主的に行われることをゆがめるような支配を排斥するもので
あって,そのような支配と認められる限り,その主体の如何は問うところで
ないと解するのが相当である。したがって,本件高校高級部の教育が北朝鮮
や朝鮮総聯から影響を受けていることもそれが教育の自主性をゆがめるよ
うなものであれば同項の「不当な支配」に当たり得るというべきであり,既
に述べたところからすれば,本件不指定処分は,朝鮮総聯等と本件学校を含
む朝鮮高級学校との間に本国又は関連する民族団体から外国人学校に対し
て通常行われる範疇の教育活動への支援がされていることをもって教育基
本法16条1項の「不当な支配」・被支配に該当する関係があるとの判断を
したものとはいえない。
上記③について,控訴人ら指摘の各資料の性質や,これらが相互にその内
容について支えあっていることなどからすれば,文部科学大臣が本件規程適
合性について判断するに当たり,控訴人ら指摘の各資料を基礎資料とするこ
とも妨げられないものと解されることは,上記アのとおりである。
上記④について,支給法,本件省令及び本件規程を見ても,本件規程13
条適合性に係る審査について,所轄庁を通じた調査・確認のみに限定すると
の定めはなく,既に述べたような就学支援金制度の仕組み,本件規程13条
の趣旨,同条適合性の判断についての文部科学大臣の裁量に照らしても,同
条適合性に係る審査について,所轄庁を通じた調査・確認のみが予定されて
いるものとは認め難い。
上記⑤について,上記のとおり,審査会において本件規程13条に適合す
るとの判断は困難であったといえ,朝鮮高級学校をハ規定に基づき指定する
こととするのが審査会における多数意見であったことを認めるに足りる的
確な証拠はなく,控訴人らの主張はその前提を欠く。Rは,陳述書(甲17
7)において,審査会においては,朝鮮学校を就学支援金の対象として指定
することを前提に議論が進んでいたとの陳述をしている。しかし,審査会で
る上記陳述書の内容は証拠(甲26ないし29,乙7の1ないし4)に照ら
して,採用することができない。
上記⑥について,本件学校につき,就学支援金が授業料に係る債権の弁済
へ確実に充当されること等について,十分な確証を得ることができないとす
る文部科学大臣の判断が,不合理なものであるといえないことは上記アのと
おりである。
上記⑦について,支給法が,教育の機会均等に寄与することを目的とする
ものである(同法1条)にしても,前記3のとおり学校運営の適正や就学支
援金が授業料債権に確実に充当されることは,支給法の要請するところであ
り,本件規程13条適合性が認められない場合に,支給法による仕組みによ
ることなく生徒個人への直接就学支援金を支給することが要求されている
ものとは認められない。
以上のとおり,控訴人らの上記各主張は,いずれも採用できない。
⑷したがって,文部科学大臣が,本件不指定理由②を理由として本件不指定処
分をしたことは,同大臣に与えられた一定の裁量を逸脱し又はそれを濫用した
ものとは認められない。
6争点⑴エ(本件規程13条に適合するものとは認めるに至らないことを理由と
して指定しないことは違法か。)について
⑴控訴人らは,本件規程13条は,その文言等に照らし,学校運営の指針とい
うべきものにすぎず,ハ規定に基づく指定教育施設指定のための審査基準では
なく,同条に適合しないことのみを理由に不指定処分を行うことは許されない
などと主張する。
⑵しかしながら,前記3のとおり,学校運営の適正や就学支援金が授業料債権
に確実に充当されることは,支給法の要請するところであり,本件規程13条
は本件規程「第2章指定の基準」中に他の規定とは別個独立に設けられた規
定であり,本件規程13条は,高等学校の課程に類する課程に該当するかの審
査基準であると認められる。
⑶したがって,本件規程13条に適合しない場合,他の基準を満たしていたと
しても不指定処分をされることが当然予定されているものといえ,控訴人らの
主張は採用できない。
7争点⑴(行政手続法5条ないし7条に違反するか。)について
⑴行政手続法6条,7条違反について
ア控訴人らは,ハ規定に関する審査基準の中に標準処理期間が設定されてい
ないこと,学校の性質上,申請した年度の年度末までに処分を行うことが予
定されていたにもかかわらず,本件申請がされてから本件不指定処分がされ
るまでに2年3か月を要するなど,文部科学大臣が長期間手続を遅延させた
ことにつき,行政手続法6条,7条に違反する重大な違法がある旨を主張す
る。
イしかしながら,行政手続法6条における標準処理期間の設定は努力義務
であり,本件申請を含むハ規定に基づく指定処分の求めについて標準処理
期間の定めがないことをもって違法であるとはいえず,支給法,本件省令
及び本件規程に,申請を受けた年度内に指定を行わなければならない旨の
明文の定めはなく,控訴人らの上記主張はその前提を欠く。
また,控訴人法人は,平成22年11月25日付けで本件申請を行い,
その頃,文部科学省に到達したことが推認されるところ,その直前の同月
24日には,内閣総理大臣の指示により,全ての朝鮮高級学校について,
ハ規定による支給対象外国人学校としての指定に関する手続が停止され
ており,平成23年8月29日の内閣総理大臣の指示により同手続が再開
されるまでの間に約9か月を要しているが(前提事実⑵ウ~オ,認定事実
⑶ア,ウ),上記手続停止は,延坪島砲撃事件を契機とするものである。同
事件は,我が国の平和と安全,国家の存立が脅かされるような事態であり,
本来静謐な環境の下で議論を行うべき審査会の審査が正常に行われるの
かについて懸念があったことから,上記指定手続を一旦停止したものであ
り(認定事実⑶ア),その後,菅総理大臣は,北朝鮮が上記事件の砲撃に匹
敵するような軍事力を用いた行動をとっていないことや北朝鮮と各国の
対話の動きが生じていることなども総合的に判断して上記指定手続を再
開するよう指示した(認定事実⑶ウ)。当時の情勢を踏まえれば,被控訴人
が指定の可否の審査手続を停止したことが,殊更に審査を引き延ばす目的
に基づくものであったとは認め難く,状況の変化に応じて審査手続が再開
されたことに鑑みると,上記手続の停止が行政手続法6条,7条に反する
ものとは認められない。
そして,審査手続が再開されてから平成25年2月20日に本件不指定
処分がされるまで,約1年6か月を要したが,第4回から第7回までの審
査会が実施されるとともに,支援室による各朝鮮高級学校に対する調査,
照会等が実施されたが,平成24年9月10日実施の第7回審査会に至っ
ても審査会としての結論を得るには至らなかった(認定事実⑶エ)。この
ように,各朝鮮高級学校についてその調査や検討が必要な状況にあったも
のであり,本件規程13条の要件適合性を判断するに当たって,教育基本
法16条1項違反の有無を検討する必要があることは前記3のとおりで
あるから,文部科学省(審査会)において,審査基準と関係のない事項に
ついての調査を行い,正当な理由もないにもかかわらず審査を遅延させた
とは認められず,審査に約1年6か月を要したことが,行政手続法6条,
7条に違反するとはいえない。
ウ以上のとおり,本件不指定処分について行政手続法6条,7条の違反があ
るとはいえない。
⑵行政手続法5条違反について
ア控訴人らは,行政手続法5条が,審査基準の設定義務を行政に課している
以上,審査中に基準を変更することは許されず,文部科学大臣が,本件省令
改正によりハ規定が削除されたことを理由に本件不指定処分をしたのは,同
条に違反する重大な違法がある旨を主張する。
イしかしながら,行政手続法5条は審査基準の設定に関する規定であり,省
令の改廃を規律するものではない。また,前記5のとおり,本件学校は本件
規程13条に適合するとは認められないとの文部科学大臣の判断には裁量
の逸脱又は濫用があるとは認められないのであるから,被控訴人が相当期間
内に処理すれば旧法を適用して許可すべき事情が存在したものということ
はできず,控訴人らの主張は前提を欠くというべきである。
ウしたがって,控訴人らの上記アの主張は採用できず,本件不指定処分につ
いて行政手続法5条の違反があるとはいえない。
8争点⑴オ(行政手続法8条に違反するか。)について
⑴控訴人らは,本件不指定処分の理由は,本件不指定理由①及び②という矛盾
した理由を挙げるものである上,本件規程13条は抽象的な規定で,同条の文
言からその理由を了知することは不可能であるから,本件不指定処分は,行政
手続法8条に違反する旨を主張する。
⑵行政手続法8条1項本文が,申請により求められた許認可等を拒否する処分
をする場合に,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならな
いとするのは,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制すると
ともに,処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨によ
るものである。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,
上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該
処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内
容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべき
である(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081
頁参照)。
本件不指定処分の通知書には本件規程が削除されたこと及び本件規程13
条適合性が認められないことが明示されている(前提事実⑵ク)。ハ規定に基
づく指定については,本件規程において審査基準が定められ,官報に掲載され
て公告されているが,審査基準として複雑なものとはいえないこと,上記指定
処分の性質は前記5⑴のとおり給付処分で,文部科学大臣に裁量が認められる
にしても,専門的,技術的観点からの一定の限度のある裁量であること,本件
不指定処分の原因となる事実関係としては,前記5⑶のとおり,就学支援金の
授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行われることや,学校運営が法令に
従った適正なものであることについて十分な確証を得ることができず,本件規
程13条に適合するものと認めるに至らなかったことにあるところ,同条は,
「前条に規定するもののほか,指定教育施設は,就学支援金の授業料に係る債
権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければ
ならない。」と規定しており,就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実
な充当という例示をした上で,法令に基づく学校の運営が適正に行われている
ことを要件としているのであるから,本件不指定処分においては,処分を受け
た申請者がその根拠を容易に推測,理解することが可能で,これに対する不服
申立てをするために必要な限度の理由は示されているものといえる。
控訴人らは,本件不指定処分の通知やその審査の過程を踏まえても,どのよ
うな理由で本件不指定処分がされたのか認識することができなかったとも主
張するが,上記のとおり,本件不指定処分につき,行政手続法8条1項本文の
定める理由提示の要件に欠けるところはないといえる上,本件申請について,
文部科学大臣が判断するに際し,審査会において検討がされ,その議事要旨は
文部科学省のホームページに掲載されていたこと(乙7の1ないし4),審査
会の庶務を所管する支援室は,本件学校を含む朝鮮学校に対して調査,照会を
行い,その中で,朝鮮総聯による不当な支配が指摘されていることも踏まえ実
施するものである旨を説明していること(認定事実⑶エ,)などからすれ
ば,控訴人法人は,前記通知書の記載等によって,朝鮮総聯との関係により適
正な学校運営や就学支援金が授業料に係る債権の弁済への確実な充当につい
て疑念が生じていることがその処分の根拠であることを認識し得たものとい
える。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は採用できず,本件不指定処分につい
て行政手続法8条の違反があるとはいえない。
9争点⑴オ(審査会の審査の結論を待たなかったことにより違法となるか。)
について
⑴控訴人らは,文部科学大臣が審査会の最終的な意見を待つことなくなされた
本件不指定処分は違法であるなどと主張する。
⑵しかしながら,支給法は,審査会を設置すること自体何ら規定していないの
であって,文部科学大臣がその判断に当たって審査会の意見を聴くことが支給
法上義務付けられているとはいえない。そして,検討会議報告書は,審査の体
制・手続に関して,「審査は,教育制度の専門家をはじめとする第三者が,専門
的な見地から客観的に行い,対象とするかどうかについて意見を取りまとめ,
最終的には,文部科学大臣の権限と責任において,外国人学校の指定がなされ
ることが適当である」とされたこと(認定事実⑵イ),本件規程15条が,「文
部科学大臣は,規則第1条第1項第2号ハの規定による指定を行おうとすると
きは,あらかじめ,教育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される
会議で文部科学大臣が別に定めるものの意見を聴くものとする。」と規定する
のみであって,文部科学大臣が審査会の「議により」判断するというような規
定となっていないこと,本件規程13条に定める要件を充足するか否かの検討
は,その性質及び内容からして専門的,技術的検討を伴うものであり,教育行
政に通暁する文部科学大臣の専門的,技術的判断に委ねられているものと解さ
れることを勘案すると,審査会の意見聴取について定めた本件規程15条は,
文部科学大臣においてハ規定による指定を行おうとするに際し,その判断の際
の考慮要素の1つとして,教育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成
される会議で同大臣が定めるものの意見を聞くことが判断に資すると考えら
れたことから設けられた規定であるものと解され,本件規程15条に定める審
査会の意見は,同大臣の上記裁量判断の際の考慮要素の1つにとどまるものと
いうべきである。
そして,審査会においては,第4回から第7回まで審議を重ねたが,結論を
出すに至らず,審査会を継続しても,朝鮮高級学校について本件規程13条に
適合するとの意見の一致を見るのが困難な状況にあり,文部科学大臣は,この
ような審査会の審査の状況等も踏まえ,本件不指定処分をしたものと認められ
るから,文部科学大臣において審査会の最終的な意見を聴かないで本件不指定
処分をしたことが,文部科学大臣に与えられた一定の裁量を逸脱又は濫用した
ものとはいえない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は採用できない。
10争点⑴カ(本件省令改正により本件不指定処分が違法となるか。)について
⑴控訴人らは,本件省令によりハ規定を削除することは,支給法2条1項5号
の委任の範囲を逸脱して無効である旨主張する。
たしかに,本件不指定処分においては,その理由として,本件規程13条に
適合すると認めるに至らなかったこと(本件不指定理由②)と併せて,本件省
令改正によりハ規定が削除されたこと(本件不指定理由①)も上げられている
が(前提事実⑵ク),本件不指定処分及び本件省令改正に至る経緯は,認定事実
⑶のとおり,文部科学大臣において,本件学校を含む朝鮮高級学校につき,本
件規程13条に適合すると認めるに至らず,ハ規定適合性についての審査に限
界があるとの判断の下,本件省令改正に至ったものと認められ,基本的には,
本件学校につき本件規程適合性があると認めるに至らないと判断された結果
である。そして,本件規程適合性について上記のとおり判断し,本件不指定処
分をしたことについて,違法がないことは前記3ないし6のとおりであるから,
本件不指定理由②は理由があるといえる。
そうすると,本件省令改正が支給法2条1項5号の委任の範囲を逸脱して違
法であるか否かは,本件不指定処分の適法性判断に影響を与えるものとはいえ
ず,この点については判断を要しない。
⑵控訴人らは,本件不指定処分がされた時点では,本件省令改正の効力が生じ
ておりハ規定に基づき制定された本件規程も存在しないのであるから,本件不
指定理由②は本件不指定処分の理由とはなり得ず,論理的に本件不指定理由①
が理由あるものかの判断が,本件不指定理由②の判断に先行して行われる必要
があるし,ハ規定を削除する本件省令改正と本件不指定処分は同一日に同一目
的達成のための一連の行為としてされたもので,本件省令改正が合理的根拠の
ない違法なものであることは,本件学校が本件規程13条に適合しないとする
判断が違法であることの重要な間接事実であると主張する。
しかしながら,本件不指定理由①がなければ本件不指定理由②が成り立ち得
ないという関係にはなく,本件省令改正と本件不指定処分は,その決定時期に
ついて関連させつつも,別途決裁手続がされている。したがって,上記⑴のと
おり本件不指定理由②に理由がある以上,本件省令改正が仮に違法なものであ
ったとしても,結論に影響を与えるものとはいえない。
また,本件省令改正がされた経緯は上記⑴のとおりであるから,本件省令改
正と本件不指定処分が同一の目的によるものとはいえず,控訴人らの主張はそ
の前提を欠く。本件省令改正がなされた当時,文部科学省内に置かれていた高
校教育改革プロジェクトチームの責任者であったSは,別件訴訟における証人
尋問(甲167,乙148)において,ハ規定については要件適合性に関する
調査等に限界があることが明らかになったため,行政の手当てとしてハ規定を
削除する本件省令改正を行うこととした,これにより朝鮮高級学校は,当時,
ハ規定に適合しないことで不指定となるが,将来的にもハ規定に基づく指定を
受けることができないことを確認する趣旨も含めて本件不指定理由①を本件
不指定処分の通知において理由として上げた旨を証言するが,その意味すると
ころは,朝鮮高級学校を支給法の対象から除外することを目的とする旨をいう
ものではなく,審査体制に照らせば,将来にわたり朝鮮学校がハ規定に適合し
ているかの判断が困難である旨を述べているにすぎず,むしろ,下村文部科学
大臣との間で本件不指定処分についてやり取りする中で拉致問題について言
及されたことはなく,本件省令改正に関し,拉致問題等の外交的,政治的観点
は考慮されていない旨を証言していることは明らかで,朝鮮高級学校について
支給法の対象としないために本件省令改正を行った旨の控訴人らの主張を裏
付けるものとはいえない。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
11争点⑴(控訴人個人らの権利を保障した憲法13条,26条に違反するか。)
について
⑴控訴人らは,本件不指定処分は,控訴人個人らの権利を保障した憲法13条,
26条に反する旨を主張する。
⑵しかしながら,本件不指定処分は,本件学校が民族教育を行うことを禁じる
ものではなく,生徒が同校に進学,通学し民族教育を受けることを制約するも
のでもない。同校の生徒らが就学支援金を受け取ることができないため,これ
を受け取る場合に比して就学費用の負担が重くはなるが,本件規程に基づく指
定を受けるための本件申請が法律上の要件を満たすものとはいえないのであ
るから,この負担があることをもって民族教育を受ける権利を侵害する違法な
処分であるとはいえない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張を採用することはできない。
12争点⑴キ(控訴人個人らの学習権及びマイノリティ教育を受ける権利を侵害
して違法か。)について
⑴控訴人らは,本件不指定処分は,憲法98条2項,世界人権宣言26条1項
及び2項,国際人権A規約前文,同規約13条1項,国際人権B規約27条,
児童の権利に関する条約28条,29条1項及び2項,30条,マイノリティ
権利宣言4条2項及び3項といった国際人権法の諸規定により保障された控
訴人個人らの学習権及びマイノリティ教育を受ける権利を侵害するものであ
り,憲法13条,14条,26条などの解釈において,上記国際人権法の諸規
定を踏まえた解釈がなされるべきで,国際人権法が定める内容が保障内容とな
っていると解され,これらを侵害する本件不指定処分は違法であると主張する。
⑵しかしながら,我が国において,ある条約を独立の裁判規範として用いるた
めには,条約の基本的性格,我が国における司法と行政・立法との権力分立及
び法的安定性等の観点から,①私人の権利義務を定め直接我が国裁判所で執行
可能な内容のものとするという条約締結国の意思が確認でき,②条約の規定に
おいて私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定められていて,その
内容を補完し,具体化する法令を待つまでもなく国内的に執行可能であること
(自動執行力)が必要であるところ,控訴人ら指摘の国際人権法の諸規定は,
その文理等に照らし上記②の要件を満たすものとはいえない。
そして,前記11のとおり,本件不指定処分が本件学校における民族教育を
行うことを禁じるものではなく,その生徒が同校に進学,通学し民族教育を受
けることを何ら制約するものではない。
本件では,本件学校につき,本件規程13条に適合すると認めるに至らず,
このため控訴人法人に就学支援金を支給することが支給法の趣旨に反する疑
いが生じるため本件不指定処分がされたものである。控訴人ら主張の上記国際
人権法等があることによって,支給法の趣旨に反しても就学支援金を支給する
義務が被控訴人に生じることになるものではない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は採用できない。
13争点⑴キ(控訴人法人の教育の自由(憲法26条)を侵害して違法か。)に
ついて
⑴控訴人らは,本件不指定処分により本件学校に入学しようとする者に経済的
負担が生じることになり,控訴人法人の教育の自由が侵害されると主張する。
⑵しかしながら,本件不指定処分によっても,控訴人法人の教育の自由は何ら
制限されるものではない。教育の自由は就学支援金を受ける権利を保障したも
のではなく,さらに,本件不指定処分は,前記11及び12のとおり,控訴人
個人らの有する権利の行使の自由を制限するものでもないから,控訴人らが主
張する憲法上の権利が侵害されているとは認められない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は採用できない。
14争点⑴キ(憲法14条に違反するか。)について
⑴控訴人らは,本件不指定処分が,本件学校において民族教育を学ぶことを希
望する朝鮮半島出身者を両親又は祖先とする生徒に対して,合理的な理由がな
いのに授業料の実質的な減額措置を取らない取扱いをするもので,人種による
区別であり憲法14条に違反する旨を主張する。
⑵憲法14条1項は,絶対的平等を保障したものではなく,合理的な理由のな
い差別を禁止する趣旨のものであって,法的取扱いにおける区別が合理的な根
拠に基づくものである限り,何らこの規定に違反するものではない(最高裁昭
和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁平成14年
11月22日第二小法廷判決・集民208号495頁参照)。
本件においては,前記のとおり,本件不指定処分の理由は,本件学校が支給
要件である本件規程13条の基準に適合していると認めるに至らなかったこ
とにあり,控訴人個人らの人種,信条や社会的身分を理由にしたものとは認め
られない。本件規程13条の適合性の審査が,本件学校について,本件規程1
4条に基づく申請を行った他の外国人学校に比べて入念になった経過は認め
られるが,それは本件学校を含む朝鮮高級学校について法令に基づく適正な学
校運営を行っているか否かについて疑義が生じ,調査が必要となったためであ
って,合理的な理由に基づくやむを得ない取扱いであったといえる。また,ハ
規定の対象となる各種学校について,本件規程13条を就学支援金支給要件と
することや各種学校のうちイ規定及びロ規定に基づき指定を受けた外国人学
校との取扱いの差異が,合理的な理由に基づくものであることは,前記3,4
及び6のとおりであり,日本の私立高等学校について,会計処理上の問題があ
った学校や横領事件が発覚した学校についても就学支援金の支給がされてい
るとしても,そのことが直ちに学校運営が適正になされていないことや就学支
援金が授業料債権に充当されない状態にあることを示すものとはいえず,支給
法における制度の合理性を揺るがすものとも認められない。さらに,本件不指
定処分が外交的,政治的な理由からなされたものとはいえないことは,前記5,
10のとおりである。
⑶したがって,本件不指定処分が控訴人個人らの平等権を侵害するものとは認
められない。
15争点⑴キ(平等権を保障した国際人権法に違反するか。)について
⑴控訴人らは,文部科学大臣が,本件学校について,合理的な理由がないのに
他の外国人学校と区別し,本件不指定処分をしたとして,平等権を保障する国
際人権法に反するものであり,国際連合人種差別撤廃委員会は,5度にわたり
被控訴人に対して,朝鮮高級学校を支給法の対象とすることなどを勧告してい
るなどと主張する。
⑵しかしながら,本件不指定処分の理由は既に述べたとおりであって,本件不
指定処分には合理的な理由があるものと認められ,平等権を侵害するものとは
いえないことは,前記14において判示したとおりである。
上記国際連合人種差別撤廃委員会の勧告は,締約国に対して法的拘束力を有
するものとは解されない上,支給法の仕組み等を踏まえたものではなく,証拠
上,朝鮮高級学校,北朝鮮及び朝鮮総聯に対する具体的な事実調査を行った上
でされたものとも認められないことからすれば,上記の勧告等をもって本件不
指定処分が控訴人ら指摘の国際人権諸規定に違反する違法なものということ
はできない。
⑶したがって,控訴人らの上記⑴の主張は採用できない。
16争点⑵ア(控訴人個人らの訴えにつき,行訴法37条の2又は37条の3の要
件を満たすか。)及びイ(控訴人法人の訴えにつき,行訴法37条の3の要件を
満たすか。)について
⑴控訴人らの文部科学大臣に控訴人法人に対してハ規定に基づく指定をすべ
き旨の義務付けを求める部分は,行訴法3条6項2号所定のいわゆる申請型の
処分の義務付けの訴えであるところ,同訴えは,法令に基づく申請を却下し又
は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において,当該処分又は裁決が取り
消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り,提起す
ることができるとされている(同法37条の3第1項2号)。しかし,既述のと
おり,本件不指定処分は違法とはいえないから,本件訴えのうち上記義務付け
を求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を欠き不適法である。
⑵控訴人個人らは,予備的に行訴法37条の2に基づき,文部科学大臣に控訴
人法人に対してハ規定に基づく指定をすべき旨の義務付けを求めるが,行訴法
3条6項1号所定の義務付けの訴えの訴訟要件については,一定の処分がされ
ないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要である(行訴
法37条の2第1項)ところ,この「重大な損害」を生ずるか否かを判断する
に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び
程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。
本件において控訴人個人らは,本件学校についてハ規定に基づく指定処分がな
されないことによって授業料の負担を余儀なくされるにしても,経済的損害に
ついて事後的に回復を受けることによる救済が可能なものであることからす
れば,上記「重大な損害を生ずるおそれ」があるとは認められず同要件を欠く。
控訴人らは,本件不指定処分がなされたことで広島県及び広島市からの補助
金の支給が打ち切られ(認定事実⑷ア),本件学校の運営は極めて厳しい状態
に陥り,その生徒らの民族教育を受ける権利そのものが奪われかねない事態と
なっているから,上記重大な損害を生ずるおそれがある旨を主張するが,広島
県や広島市による私学助成制度と支給法における就学支援金の制度は,その根
拠法規も要件も異にする別個のものにすぎないのであるから,これをもってハ
規定に基づく指定処分がなされないことによって生じる損害とは認められず,
上記主張は採用できない。
⑶したがって,控訴人らの文部科学大臣に控訴人法人に対してハ規定に基づく
指定をすべき旨の義務付けを求める訴えは,不適法として却下すべきである。
17争点⑶ア(文部科学大臣が,本件学校を支給対象外国人学校に指定するか否か
の判断をしなかったことや,本件省令改正及び本件不指定処分をした一連の行為
が,国賠法1条1項の適用上違法となるか。)について
⑴控訴人らは,文部科学大臣が,本件申請後,長期間にわたり控訴人法人を指
定しないためにあら捜しを続け,本件省令改正を行い,本件不指定処分をした
一連の行為が違法であり,違法な上記一連の行為は,控訴人個人らの学習権,
幸福追求権及び平等権等を侵害するもので,国賠法1条1項の適用上違法であ
ると主張する。
⑵控訴人個人らの国賠法に基づく損害賠償義務が認められるためには,文部科
学大臣による上記一連の行為により,控訴人個人らの権利又は法律上保護され
る利益が侵害されることを要するものと解される。
本件においては,前記3ないし15において判示のとおり,文部科学大臣に
よる控訴人法人に対する本件不指定処分が違法なものとは認められないので
あるから,控訴人個人らには,支給法に基づく就学支援金の受給権があるとは
認められず,上記権利又は法律上保護される利益が侵害されたものということ
はできない。仮に,本件省令改正が支給法による委任の範囲を超える違法なも
のであったとしても,そのことのみで本件不指定処分が違法になるものではな
い以上,上記判断を左右するものとはいえない。
⑶したがって,その余の点(争点⑶イないしエ)について検討するまでもなく,
控訴人個人らの,被控訴人に対する国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理
由がない。
18結論
よって,原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないから,これらを棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第2部
裁判長裁判官三木昌之
裁判官光岡弘志
裁判官冨田美奈
※別紙「当事者目録」,別紙「個人控訴人目録」及び別紙「請求金額一覧表」は省略。

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