弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人柴田健太郎の陳述した控訴の趣意は同弁護人提出の同趣意書記載の通りで
あるから茲に之を引用する。
 控訴趣意第一点(刑事訴訟法第三七八条第三号該当)について。
 本件記録により起訴状記載の公訴事実と、原判決認定の犯罪事実とを彼此対照す
ると、前者は「被告人はAが経営するB工業所のC出張所所員として、同工業所の
製品カーボン刷子の販売並に販売代金の集金の業務に従事し……云々」とあるに対
し、後者は「被告人は自己の妻の実弟Dの世話で、B工業所経営者Aとの間に右工
業所か製造するカーボン刷子を他に販売し、需要家より集金した販売代金の中から
一定の額を右工業所に集金後直ちに入金し、その残余は口銭として被告人の取得と
する旨の委託販売契約を結び、右委託販売の業務に従事中……云々」と認定し其の
間何等起訴状の訂正のなかつたことは所論指摘の通りであるが、その余の罪となる
べき事実、日時、場所、領得の態様等は総て両者は全く同一である。そこで斯る場
合に於て原審の措置の適否につき審判するに、
 論旨は斯る場合に於ては所謂罪体を変更し公訴事実の同一性を害するが故に原審
の措置は違法であると言うけれども、公訴事実の同一性は、其の基本たる事実が同
一であるか否によつて決定さるべきものであつて、本件に於てその基本的宏事実は
「被告人がB工業所のために販売したカーボン刷子代金を集金して保管中、これを
不法に領得した」と言う一点に存するのである。
 然らば両者の基本たる事実関係は全く同一であり、何等の変動をも認められない
から原審の右認定は公訴事実の同一性を害したものとは言い得ない。論旨は埋由な
く原判決の措置は適法である。
 <要旨>次に論旨は仮りに公訴事実の同一性を害さないとしても斯る場合は訴因変
更の手続を要するのに原審はこれを為さずして、突如として前示の如き異な
る認定をしたのは、被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめたものであるから違
法である旨主張するけれども、もともと訴因の記載を要求される所以は問題となつ
ておる事実を当事者に対して明かにし攻撃防禦の目標を知らしめるという点に存す
るのだから訴因の現実の具体的記載そのものの中に新しくあてはめようとする構成
要件的特徴が現われて為れば特に訴因の変更を要しないと解すべき処起訴状記載の
公訴事実と原判決認定との間にその基本的事実関係に移動がないことは前説示の通
りであり、業務上横領罪に於ける身分取得の原因は、それが雇傭契約に基くと、委
託契約に基くと、その原因の如何はこれを問はないのである。苟も他人の業務に従
事しいる事実があれば同罪の構成要件に該当する事実としては、こと足りるのであ
る。従つて業務に従事するに至つた原因は同罪の構成要件的要素又は特徴ではな
い。されば業務上横領罪に於ける身分取得の原因の変動はそれはとりも直さず、訴
因の枠内における移動であり、訴因の同一性を害するものではない。訴因の変らざ
るところに、訴因変更の手続を要する理由は存しないのみならず斯く解したからと
言つて、それは被告人の防禦に実質的な不利益を生するものとも思えない。即ち被
告人は原審に於て、雇傭契約に基く業務の存在を承認し、本件カーボン刷子は、自
己がB工業所(A経営)から直接買受けこれを第三者に販売したに過ぎない。従つ
て同工業所と自己との間に於ける法律関係は単なる売買であると主張し、その防禦
に努力し来たことは所論の通りであるから右主張は原判決認定の委託販売契約にも
共通した防禦の方法である。従つて被告人は原判決認定事実に対しても実質的に尽
すべき防禦は尽したと言い得るのである。故に原審が審理の経過に鑑み訴因変更の
手続をとらないで身分取得の原因を雇傭契約でなく委託販売契約であると認定した
ことは適法な措置であつて、所論のような違法は存しない。又その余の論旨は訴因
変更の手続を要することを前提として展開するものであるから既にその前提に於て
これを採用し得ないこと前説示の通りであるから論旨は全部理由がない。
 控訴趣意第二点(訴訟手続違反)について。
 然れども原審が身分取得の原因を雇傭契約ではなく委託販売契約であると認めた
からと言つて、それは前示のように被告人の防禦に著しい差異を生ずるものとは思
えない。従つてその差異を生ずることを前提とする所論も亦理由がない。
 控訴趣旨第三点(理由のくいちがい)及び同第四点(事実の誤認)について。
 然し原判決挙示の証拠を綜合すると、同判決摘示のような委託販売契約の成立し
たことを認め得るし又本件は転売を目的とする単なる売買ではなく前説示のように
被告人とB工業所経営者A間の法律関係はカーボノ刷子の委託販売契約であること
が明かであつて訴訟記録全般を精査検討するも原審の右認定か誤認であるとは思わ
れないそれ故原判決には所論のような理由のくいちがいや事実誤認の違法はなく論
旨は何れもこれを採用し得ない。
 次に職権をもつて調査するに諸般の犯情に照せば、原判決の科刑は些か重きに失
するものと思われるので此の点に於て原判決は破棄を免かれない。
 そこで刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に基
き次のように自判する。
 原審の認定した事実に対する法令の適用は次の通りてある。
 一、 判示第一の罪につき刑法第二百五十三条、昭和二十二年法律第百二十四号
附則第四項、行為当時の刑法第五十五条。
 二、 判示第二、第三の罪につき
 刑法第二百五十三条。
 三、 併合罪につき
 刑法第四十五条前段、第四十七条、第十条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に
併合加重)
 四、 訴訟費用につき
 刑事訴訟法第百八十一条第一項。
 以上の理由により主文の通り判決する。
 (裁判長判事 筒井義彦 判事 川井立夫 判事 櫻木繁次)

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