弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人両名をそれぞれ懲役10か月に処する。
この裁判確定の日から,被告人Aに対し4年間,被告人Bに対し3年間,それぞ
れその刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
第1被告人Aは,平成17年11月19日午前1時16分ころ,神戸市C区Da丁目b
番c号E4階通路において,騒音苦情の通報により同所に臨場した兵庫県F警察署地域第
1課所属の司法警察員巡査部長G(当時51歳)から静かにするよう注意を受けたことに
腹を立て,同巡査部長に対し「われ,帰らんかい。ポリ。落としたろか」などと怒鳴り,。
ながら両手で同人の胸部を押して,同人を約4.6メートル後退させる暴行を加え,もっ
て同巡査部長の職務の執行を妨害した。
第2被告人Bは,同日午前1時20分ころ,前同所において,騒音苦情の通報により臨
場していた前記G巡査部長に対して,同人の左側頭部を右手拳で1回殴りつける暴行を加
え,もって同巡査部長の職務の執行を妨害した。
(証拠)
括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
省略
(補足説明)
1本件公訴事実は,判示第1及び第2の事実につき,いずれも被告人両名が共謀の上行
ったというものであるところ,当裁判所は,各判示のとおり,いずれも各被告人の単独犯
行と認めたので補足して説明する。
(1)本件の経緯及び状況は次のとおりである。
騒音苦情の現場に向かうよう指示を受けたG巡査部長が通報現場である被告人A方
マンション4階に赴き,同階通路で酔って騒いでいた男女に注意をしたのに対し,被告人
A方で飲酒をしていた被告人BとHが同巡査部長に文句を言って口論となったところ,被
告人Aがいきなりそこに割り込んで怒鳴りながら同巡査部長を廊下端の階段踊場まで押し
ていった。被告人Aを知人らが制止すると,今度は被告人Aのあとをついてきていた被告
人BがG巡査部長の頭部をヘルメット越しに1回殴りつけたことから同巡査部長に現行犯
逮捕され,さらにこれを助けようとしたHが同巡査部長に暴行を加えたことからHも同巡
査部長に現行犯逮捕された。
(2)そこで検討するに,前記のとおり,被告人両名の警察官に対する暴行行為は,それ
ぞれ突発的かつ個別的に行われており,あらかじめ具体的な相談をしているものではなく
,また,双方が同時にないし代わる代わる暴行を加え続けるなどのそれ自体から共謀を推
認させるような態様のものでもない。
また,被告人Aは,被告人BとHが現行犯逮捕された後,その場に駆けつけたI巡
査部長に現行犯逮捕されたがその際全部わしがやったんや他の二人は関係ないやろ,,「,
がと述べ甲1勾留後の取調べにおいても警察官や検察官に対して一貫して被」(),,,,
告人Bが同巡査部長に暴力を振るったところを見ていない旨を述べており乙34こ(,),
うした供述からは,被告人Bと共同して警察官に暴行を加えたという認識を有していた様
子は見受けられない。
一方,被告人Aの検察官調書(乙4)においては,警察官に暴行を加える前に被告
人B及びHと目が合い軽くうなずき,両名が加勢をして逮捕されそうになったら助けてく
れるだろうと思った旨の記載があり,また,被告人Bの検察官調書(乙14)にも,被告
人Aと目を合わせて軽くうなずいた旨の記載がある。しかしながら,被告人両名は,公判
廷においては目を合わせてうなずいたような事実はない旨述べているところ,それぞれの
警察官調書においても目を合わせてうなずいた旨の記載はなく乙31112それ(,,),
ぞれの警察官調書と検察官調書の各記載内容を比較検討しても,検察官調書においてのみ
このような記載があるのは不自然さを否めない。
また,被告人Aは,公判廷において,前記のような検察官調書が作成された理由に
つき,目を合わせてうなずいたという事実はない旨述べて否定はしたが,重要なこととは
思わず,検察官が調書に記載したことに抵抗し切れなかったという趣旨の供述をし,被告
人Bは,同様に公判廷において,共謀の意味も分からず調書の記載を注意して見ていなか
った旨を述べているが,共謀による公務執行妨害ということで逮捕勾留されていた被告人
両名が,同じ場面でそれぞれ暴行を加えたことから一緒に犯行を行ったものとして共謀の
成否に特段の疑義を抱かないまま目を合わせてうなずいたという記載の持つ重要な意味に
気付かなかったとしても不自然とはいえず,検察官調書の記載に十分な信用性を認めるこ
とはできない。
その他の証拠に照らし検討しても,被告人Aにおいては,自ら警察官に暴行を加え
,あるいは被告人Bが警察官に暴行を加える際に,被告人Bと意思を通じていたと認める
に足る証拠はなく,したがって,被告人Bの意思内容のいかんにかかわらず,被告人両名
の間に共謀は成立しないものというべきである。
よって判示のとおり,各被告人の単独での公務執行妨害行為の限度で認定した次第
である。
2また被告人Aは落としたろかとは述べていない旨主張するがG巡査部長は一,「。」,
貫してそのような発言があった旨を述べており甲23469被告人Aが発し(,,,,),
たとするその発言内容は,その後の被告人Aの暴行態様からの勘違いや思い込みともいい
難いものであり,G巡査部長の供述には信用性が認められる一方,被告人Aの供述につい
ては,捜査段階でこれを認めていることはひとまず措くとしても,当時は飲酒の上,激高
していた状況であって,記憶の正確性にも疑問が残り得る状況であって,発言の有無につ
いての弁解内容については信用性は高くはなく,判示のとおり認定した。
(適用法令)
被告人Aについて第1の事実に関し,被告人Bについて第2の事実に関し,いずれも下
記のとおり。
罰条刑法95条1項
刑種の選択懲役刑
執行猶予刑法25条1項
(量刑事情)
被告人両名らは,被告人A方で飲酒をするなどし,騒音苦情を受けて駆けつけ注意をし
た警察官と被告人Bらが口論となったところ,被告人Aがいきなり警察官に対して怒鳴り
ながら胸を押して後退させ,さらに被告人Bが警察官の頭部をヘルメットごしに殴りつけ
たものであって,各被告人ともに短絡的に警察官の適正な職務の執行を妨害した責任は軽
いものではない。
また,被告人Aは,真っ先に警察官に対して暴行を加え,被告人Bらによる後続の犯行
を誘発した面もある上,平成13年には覚せい剤事犯により懲役1年6か月,執行猶予3
年の判決を受けていながら,その猶予期間経過後1年ほどで再びかかる犯行に及んだもの
で,規範意識の欠如にも軽視し難いものがあり,また,平成11年には暴行罪により罰金
刑に処せられた粗暴犯前科もあることも考慮すると,その軽率で短絡的な行動から再び同
様の行為に及ばないかという不安も残り得るところである。
しかしながら一方で,被告人両名ともに反省の意を表して,暴行を加えた警察官に対し
て謝罪の手紙を記していること,被告人らのそれぞれの暴行行為自体はいずれもさほど強
度のものではないこと,被告人Aについては粗暴犯での公判請求は今回が初めてであり,
前記の執行猶予前科も異なる罪種のもので,その猶予期間も経過していること,被告人B
についてはこれまで前科がないこと,被告人両名の雇主でもある被告人Bの父親が被告人
両名の監督を誓い,被告人Aと同居するその婚約者も同被告人の監督を誓っていることな
ど,各被告人のために酌むべきそれぞれの事情も考慮の上,被告人両名ともにそれぞれそ
の刑の執行を猶予することとし,主文のとおり量刑した。
平成18年3月2日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官小倉哲浩

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