弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2本件附帯控訴に基づき,原判決主文第1項を取り消す。
3控訴人は,被控訴人を地方自治法に定める地縁による町内会として認可
せよ。
4訴訟費用は第1,第2審を通じて控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
第2附帯控訴の趣旨
主文第2,第3項と同旨
第3被控訴人の請求
1被控訴人の地縁による団体認可申請に対し,旧津名町長が平成17年2月2
(「」。)。5日付けでなした不認可処分以下本件不認可処分というを取り消す
2主文第3項と同旨
第4事案の概要
1事案の骨子
()原判決1頁25行目から2頁4行目記載のとおりである。1
()原審は,本件不認可処分の取消を求めた部分を認容し義務付けを求めた2
部分を却下したので,控訴人が本件控訴に及び,被控訴人が本件附帯控訴に
及んだ。
2前提事実(争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定でき
る事実)
()被控訴人は,遅くとも大正7年ころまでには,α部落の町民を構成員と1
するいわゆる町内会として存在していた住民組織であり,平成14年3月以
前には,原判決別紙α町内会保有資産目録記載の財産(以下「本件財産」と
いう)を単独で所有し,規約(甲1,以下被控訴人の規約を「本件規約」。
という)を有し,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団。
。(,)体そのものが存続していた権利能力なき社団であった甲17の1・2
()被控訴人は,平成15年8月5日,旧津名町長A(以下「旧津名町長」2
という)に対して,地方自治法(以下「法」という)260条の2に定。。
める地縁による団体の認可申請(以下「本件申請」という)をした。これ。
に対し,旧津名町長は,平成17年2月25日これを不認可とする旨の本件
不認可処分をした。
()本件規約には別紙α町内会規約記載の,津名町行政手続条例(以下「本3
件条例」という)には別紙津名町行政手続条例記載の,各規定がある(甲。。
1,6の1)
()本件規約には,()のほか,名称,事務所の所在地,構成員の資格に関す43
る事項,代表者に関する事項,会議に関する事項及び資産に関する事項等に
ついての規定がある(甲1)。
()被控訴人の会員であった訴外Bら約27名は,平成14年3月15日こ5
ろ被控訴人を脱会(以下「本件脱会」という)し,新たに「α町内会」と。
称する団体(以下「訴外町内会」という)を結成した(甲3,4の1,。。
5)
3当事者の主張
【控訴人】
()本件不認可処分は,以下の理由により,正当である。1
ア被控訴人は,本件脱会により分裂に至り,本件申請に当たり,本件財産
が被控訴人の会員と訴外町内会の会員の総有に属することを知りながら,
これが単独所有である旨の虚偽の主張をした。これは,法260条の2第
14項所定の認可取消事由に該当する。
そもそも被控訴人は,本件脱会による分裂により,単独で不動産を所有
していない団体になったから,地縁による団体として認可されるべき実益
がない。
,,イ被控訴人は訴外町内会やその会員を被告にした訴訟を多数提起する等
好戦的な団体であり,その区域の住民相互の連絡等,良好な地域社会の維
持及び形成に資する地域的な共同活動を目的としている団体ではない。被
控訴人において,同条2項1号所定の要件を充足していない。
ウ被控訴人が区域としている地域には,被控訴人の会員のほか訴外町内会
の会員等多数の非会員が混在して居住している。被控訴人において,同項
2号所定の要件を充足していない。
エ本件脱会により,被控訴人が区域としている地域には多数の被控訴人の
会員以外の者が居住することになった。被控訴人において,同項3号後段
の要件を充足していない。
オ被控訴人は,本件脱会に際し,訴外町内会を結成した会員を告知聴聞の
機会を与えることなく除名した。このことは,被控訴人において同号前段
の要件を充足していないことを示すものである。
()旧津名町は本件条例6条に違反し審査基準を公開していなかったが,こ2
のことを理由に,同町の全ての行政処分が違法となるわけではない。本件不
認可処分は,本件条例に,少なくとも実質的に違反するものではない。
()本件申請には種々の問題があるから,控訴人において,これに対する認3
可処分をすべきことが明らかである場合とはいえない。本件は,行政事件訴
訟法37条の3第5項により,義務付けを認容すべき場合に該当しない。
【被控訴人】
()被控訴人は,法260条の2第2項各号所定の要件を具備した団体であ1
るから,控訴人は,本件申請に対し,認可処分をすべきであるにもかかわら
ず,本件不認可処分に及んだものである。控訴人の主張()アないしオは,1
以下のとおり,いずれも理由がない。
ア被控訴人は,本件脱会により分裂したのではなく,本件脱会後も従前と
同一性を維持している団体であり,本件財産は,依然として被控訴人の単
。,,。独所有に属する被控訴人は本件申請に際し虚偽の主張等していない
また被控訴人の単独所有にかかる本件財産の中には,不動産も含まれて
いるから,被控訴人が地縁による団体として認可されるべき実益がある。
イ被控訴人は,同項1号所定の「目的」をもって設立され,現にその目的
に沿った活動をしている。被控訴人において,同号所定の要件を充足して
いる。
ウ被控訴人の区域は,客観的に明らかな地域に限定されている。この地域
の中に非会員が居住していることは,同項2号に抵触するものではない。
エ被控訴人の本件申請時の会員数は112名である。これは,被控訴人の
区域とされる全住民のうちの同項3号後段所定の「相当数」に該当する。
オ被控訴人は,本件脱会に際し,脱会者を除名処分にしたこと等なく,こ
れらの者は,被控訴人を自発的に脱会して訴外町内会を結成したものであ
る。
()旧津名町長は,本件申請に対して,本件条例5条1項所定の審査基準を2
秘匿し,本件条例1条所定の目的を無視し,本件不認可処分に及んだ。また
,,旧津名町長は本件条例6条所定の標準処理期間についての規定を公にせず
本件申請に対して,当該審査をなかなか開始しなかった。
このように,本件不認可処分には,本件条例の1条及び5条ないし7条に
違反するという手続上の瑕疵がある。
()本訴請求のうち義務付けを求める部分については,改正された行政事件3
訴訟法37条の3が適用されるところ,この部分について同条所定の要件に
欠けるところはないから,この部分も認容されるべきである。
4本件の主な争点は以下のとおりである。
()本件申請に際し,被控訴人が本件財産を単独で所有していると主張した1
ことは,偽りの申請をしたといえるかどうか。
()被控訴人が法260条の2第2項1号所定の「目的」に則して活動して2
いる団体であるかどうか。
。()被控訴人の区域が住民にとって客観的に明らかなものといえるかどうか3
()被控訴人の区域に住所を有する住民の「相当数」が被控訴人の会員にな4
っているかどうか。
()被控訴人において,その区域の全ての住民が構成員となることができる5
団体であるかどうか。
()本件不認可処分は,手続面において旧津名町行政手続条例等の法令に違6
反した処分であったかどうか。
()本訴請求のうち義務付けを求める部分の適否。7
第5当裁判所の判断
1前提事実で摘示したとおり,旧津名町長は,本件申請に対し,平成17年2
。,,月25日本件不認可処分に及んだものである第4の34で摘示したとおり
控訴人は本件不認可処分が正当である旨主張し,被控訴人はこれを争うので,
まず争点()ないし()につき検討する。15
()争点()(本件申請の虚偽性)について11
ア法260条の2第14項の趣旨によると,市町村長は,認可要件の判断
に重大な影響を与えるような虚偽の主張を伴った地縁団体としての認可を
求める申請に対しては,例え当該団体が同条2項各号に該当する団体であ
,。,ってもこれを認可することができないと解するのが相当であるそして
弁論の全趣旨によると,被控訴人は,本件申請に際して本件財産は被控訴
人の単独所有に属する旨主張したことが認められ,前提事実で摘示したと
おり,被控訴人は,平成14年3月の本件脱会以前には本件財産を単独所
有していたところ,当時の被控訴人の会員のうち約27名が本件脱会に及
んだというのである。
イ控訴人は,本件脱会により被控訴人は分裂し,本件財産につき無権利に
なったにもかかわらず,被控訴人が本件申請に際しこれらの財産を単独で
所有している旨主張した点を捉えて,虚偽の主張に及んだ旨主張する。
,(,,,,しかしながら証拠甲29ないし111314の1ないし40
15の1ないし26,16の1ないし40)及び弁論の全趣旨によると,
被控訴人は,本件脱会後も,112名の会員により構成され,本件規約を
維持し,本件脱会以前と同一名称を名乗り,本件申請を被控訴人の一部の
会員の意思ではなく多数者の意思により行う等,依然として多数決の原則
が行われ,さらに,後に()アで認定するとおり,以前と同一の町内会活2
動を引き続き行っていることが認められ,このような事実によると,被控
訴人は,本件脱会の以前と以後とで団体としての同一性を維持していると
評価できるのであって,被控訴人が本件脱会により自己分解に及び分裂し
たと評価することは困難である。したがって,被控訴人は以前と同様に不
動産を含む本件財産を単独で所有しているから,本件申請が虚偽の主張を
伴っていたとはいえないし,被控訴人において,不動産登記法上,地縁に
よる団体として認可を受ける実益があるというべきである。
控訴人のここでの主張は失当である。
ウ控訴人は,本件申請が本件財産を被控訴人の会員により独占するという
悪しき意図のもとになされた旨主張するが,本件記録を精査しても,この
ような事実を認めるに足りる証拠はなく,かえってイでの認定説示による
と,このような事実はないというべきである。
()争点()(被控訴人の目的)について22
アこれまでに認定したとおり,被控訴人は,遅くとも大正時代ころまでに
は町内会として存在していた住民組織で,本件規約を有し,多数決の原則
が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続する権利能力
なき社団であるうえ,本件規約には,被控訴人が良好な地域社会の維持及
び形成に資することを目的として設立されたことが明記されているのみな
らず,証拠(甲13,16の1ないし40)及び弁論の全趣旨によると,
被控訴人において,春祭り,秋祭り等の行事を主催する等,各種の町内会
活動を行い,それについての1年ごとの会計報告がなされていること,被
控訴人の会員は,毎年3600円の年会費を支払っていることが認められ
る。
前段で認定した事実によると,被控訴人は良好な地域社会の維持及び形
成に資することを目的として設立され,現にそのための活動を行っている
といえるから,被控訴人において法260条の2第2項1号所定の要件に
欠けるところはないというべきである。
イところで証拠(甲13,乙5の1ないし3,6及び7の各1・2,8,
9の1ないし4,10ないし14,15の1・2)及び弁論の全趣旨によ
ると,本件脱会後,被控訴人と被控訴人の区域内に居住する会員を抱える
訴外町内会の間で各種の紛争が勃発し,これまでにこれらの町内会やその
会員等の間で各種の訴訟が提起されたこと,その多くは被控訴人及びその
会員が原告として訴訟を提起したものであることが認められるが,被控訴
人及びその会員においても裁判を受ける権利が保障されている等の事情に
鑑みると,前記の認定事実から被控訴人が同号所定の目的のための活動を
していないと即断できるものではない。
前段で認定した事情は,アにおける判断を左右するに足りない。
ウ控訴人は,本件申請は,被控訴人の会員のごく一部の意思で行われた旨
主張するが,本件記録を精査しても,このような事実を認めるに足りる証
拠はなく,かえって()イで認定したとおり,本件申請は,被控訴人の会1
員の多数意思に基づいてなされたことが認められる。
控訴人のここでの主張は失当である。
()争点()(被控訴人の区域)について33
ア当裁判所も,被控訴人において法260条の2第2項2号所定の要件を
充足していると判断するが,その理由は,原判決「第3争点に対する判
断」の「1争点1及び争点2について」の「()争点2について」記3
載のとおりである。
イ控訴人は,被控訴人が区域と定める地域内には被控訴人と対立関係にあ
る訴外町内会の会員が混在しているから,被控訴人において同号所定の要
件を具備していない等と当審において主張する。
なるほど既に認定したとおり,被控訴人の区域内には被控訴人と対立関
係にある訴外町内会の会員が混在しているが,アで説示したとおり,地縁
による団体に権利能力を与える趣旨が当該団体の地域的な共同活動の便宜
を図ることにあり,そうだとすると,当該団体が区域と定めた地域内にそ
の団体の非会員が混在している場合にも,それだけの理由で当該団体の共
同活動の必要性は否定されるものではないから,当該区域内に対立関係に
ある町内会の会員が居住しているかどうかは,ここでの判断基準とはなら
ないというべきである。
ここでの控訴人の主張は採用しない。
()争点()(被控訴人の区域における被控訴人の会員の割合)について44
証拠(甲9ないし11,乙22)によると,通称町名αの平成15年8月
末の住民基本台帳における人口・世帯数は194人・80世帯であるのに対
し,当時の被控訴人の構成員の人数・世帯数は112人・46世帯であり,
人口・世帯数のいずれにおいても過半数に達していたことが認められる。
法260条の2第2項3号所定の「相当数」の概念は,既に説示したとお
り,法が地縁による団体に権利能力を付与するのは当該団体の共同活動に便
宜を与えることにあるという趣旨等に鑑みると,過半数かどうかが一応の判
断基準になると解すべきである。そして前記認定事実によると,本件申請時
において,被控訴人の区域に住所を有する住民のうち,同号所定の「相当数
の者」が現に被控訴人の構成員になっていたと認められる(なお,ここでの
過半数に達した団体で,なお認可してはならない団体とは,その地域性等に
よる特段の事情がある場合に限られると解されるところ,本件記録を精査し
ても,被控訴人について前記の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。。)
被控訴人において,同号後段所定の要件を具備していると認められる。
()争点()(被控訴人における加入拒否)について55
控訴人は「被控訴人において,被控訴人の区域の住民の一部に対し,告知
と聴聞の機会等を与えることなく除名の意思表示をしたから,被控訴人は,
法260条の2第2項3号所定の『その区域に住所を有する全ての個人が構
成員になることができる』という要件を充足しない団体である」等と主張。
する。
なるほど甲5によると,被控訴人は,平成14年3月ころ,本件脱会に際
し元被控訴人の会員で現在訴外町内会の会員になっている27名に対し除名
の意思表示をした(以下「本件除名」という)ことが認められる。しかし。
ながら,本件除名が告知と聴聞の機会を欠いたものであったかどうかはとも
かく,甲5及び弁論の全趣旨によると,被控訴人における本件除名は,加入
申請に対するものではなく,元被控訴人の会員が被控訴人を脱会する旨の意
思表示をしたことに対するものであったことが認められるから,被控訴人が
本件除名に及んだことをもって,被控訴人において法260条の2第2項3
号所定の要件を充足していないと即断できない。そして,前提事実で摘示し
た本件規約の五条,七条によると,被控訴人は,被控訴人の区域の住民から
の所定の入会申し込みを正当な理由なく拒否できないことになっているし,
本件記録を精査しても,他に被控訴人が本件規約五条,七条に反する運用を
していることを認めるに足りる証拠はないから,被控訴人において,同号前
段所定の要件に欠けるところはない。
控訴人のここでの主張は失当である。
()法260条の2第2項1号ないし4号は,地縁による団体の認可要件を6
規定し,同条5項は,地縁による団体が前記各号の要件に該当しているとき
は,市町村長は認可をしなければならない旨定めているところ,これまでの
認定判断によると,被控訴人において同条2項各号所定の要件にいずれも該
当しているにもかかわらず,旧津名町長は本件不認可処分に及んだというの
であるから,本件不認可処分は違法であり取消を免れない。
被控訴人の本訴請求のうち取消を求める部分は理由がある。
2争点()(義務付けの適否)について7
()これまでに認定説示したとおり,本件不認可処分は取り消されるべきも1
のであるところ,行政事件訴訟法附則3条によると,本件においては平成1
6年法律第84号により追加された同法37条の3が適用される。
そして,同条5項は「義務付けの訴えに係る処分…につき,行政庁がその
処分…をすべきであることがその処分…の根拠となる法令の規定から明らか
であると認められ…るときは,裁判所は,その義務付けの訴えに係る処分…
をすべき旨を命ずる判決をする」と規定しているところ,法260条の2。
第5項は,既に摘示したとおり,市町村長は地縁による団体が同条2項各号
の要件に該当していると認めるときは,同条1項の認可をしなければならな
い旨規定しているから,旧津名町長の地位を承継した控訴人において被控訴
人を地縁による団体として認可しなければならないことになる。
()控訴人は「①被控訴人が法260条の2第2項各号所定の要件を充足し2
ていることが明らかであるとはいえないから,本件は行政事件訴訟法37条
の3第5項所定の要件を欠いている,②本訴請求のうち義務付けに係る部分
は原審で却下されたから,その効力は,当審においても妨げられない,③民
事訴訟法307条により,当審において,原審の義務付けに係る部分の判断
を取り消して自判することはできない」等と主張する。。
しかしながら,①の何をもって行政事件訴訟法37条の3第5項所定の法
令上明らかであるのかという問題については,同項の文言から,行政庁が当
該処分をすべきことが法令上明らかであることを意味していると解され,そ
の前提となる要件を具備していることが明らかであることを指していると解
することは困難である。次に②については,原判決の却下の判断は確定した
ものではないから,行政事件訴訟法附則3条但書き所定の「旧法によって生
じた効力」には該当しない。さらに③については,これまでの本件の審理経
過から,義務付けに係る部分につき,民事訴訟法307条但書き所定の「更
に弁論をする必要がないとき」に該当する。
控訴人の①ないし③の主張はいずれも失当である。
()()及び()によると,被控訴人の本訴請求のうち義務付けを求める部分312
も理由がある。
3以上の次第で,被控訴人の本訴請求はいずれも理由があるから,本件控訴を
棄却し,本件附帯控訴に基づき,これと異なる限度で原判決を変更する。
よって,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第7民事部
裁判長裁判官永井ユタカ
裁判官楠本新
裁判官鹿島久義
(別紙)α町内会規約
第一条被控訴人は,良好な地域社会の維持及び形成に資することを目的とし,
その目的達成のため,回覧板の回付等区域内の住民相互の連絡,美化・清
掃等区域内の環境整備,集会場,だんじり小屋等の維持管理等の事業を行
う。
第三条(略)
第五条被控訴人の会員は,第三条に定める区域に住所を有する個人とする。
第七条1(省略)
2被控訴人は,本件規約(第七条1項)に定める入会申込みがなされた
場合,正当な理由なくこれを拒んではならない。
(別紙)津名町行政手続条例
(目的等)
第1条この条例は…もって町民の権利利益の保護に資することを目的とする。
(審査基準)
第5条行政庁は,申請により求められた許認可等をするかどうかをその条例等の
(「」。)定めに従って判断するために必要とされる基準以下審査基準という
を定めるものとする。
2(省略)
3行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,条例等により当該申請の
提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により
審査基準を公にしておかなければならない。
(標準処理期間)
第6条行政庁は,申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をする
までに通常要すべき標準的な期間…を定めるよう努めるとともに,これを定
めたときは,これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における
備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
(申請に対する審査及び応答)
第7条行政庁は,申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を
開始しなければならず…(以下省略)
(原裁判等の表示)
主文
1本件訴えのうち,認可処分の義務付けを求める部分については却下する。
2原告の地縁による団体認可申請に対し,旧津名町長が平成17年2月25日
付けでなした不認可処分を取り消す。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告を地方自治法に定める地縁による町内会として認可せよ。
2主文第2項に同じ。
第2事案の概要
本件は,原告が,旧津名町長に対して地方自治法260条の2に定める地縁
による団体の認可を申請したところ,旧津名町長は不認可処分をしたため,原
告が,不認可処分の取消を求めると共に,認可処分の義務付けを求めた事案で
ある。
なお,旧津名町は,平成17年4月1日,旧津名郡5町合併により淡路市と
なった。
1争いのない事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣
旨により,容易に認定することが出来る。
()原告は,遅くとも町村合併により兵庫県旧津名町が成立した昭和30年1
までには,同町内α部落の町民を構成員とするいわゆる町内会として存在し
ていた住民組織であり,会員資格,入会方法,退会事由,役員,総会等の機
関並びに資産等団体としての主要な点につき定める規約を有し,多数決の原
則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続する権利能力
なき社団である(甲1,弁論の全趣旨。)
原告は,平成13年9月30日,総会において,地方自治法(以下「法」
という)260条の2に定める地縁による団体の認可を取得することを,。
出席者の全員一致で決議した(甲1,以下「本件決議」という。。)
()原告は,平成15年8月5日,旧津名町長A(以下「旧津名町長」とい2
う)に対して,法260条の2に定める地縁による団体の認可申請(以下。
「本件認可申請」という)を行った。。
()旧津名町長は,平成17年2月25日,本件認可申請に対して,不認可3
処分(以下「本件不認可処分」という)をした。。
()ア原告は,良好な地域社会の維持及び形成に資することを目的とし,そ4
の目的達成のため,回覧板の回付等区域内の住民相互の連絡,美化・清掃
等区域内の環境整備,集会場,だんじり小屋等の維持管理等の事業を行っ
ている(甲1,弁論の全趣旨。)
,,イ原告の規約に定める区域に住所を有する個人は原告の入会資格を有し
入会資格のある個人から入会申込みがなされた場合,原告は,正当な理由
なくこれを拒むことはできない旨規約に定められている(甲1。)
ウ平成14年当初時点で,かつてのα部落の区域内には,約80世帯の住
民が居住し,うち約70世帯が原告に入会していたが,同年3月以降,約
27名が原告に脱会届を提出し,これらの者が新たに「α町内会」と称す
る団体(以下「訴外町内会」という)を結成した(甲3,4の1,5。。)
その後,原告の会員数が大きく減少した形跡はない(弁論の全趣旨。)
エ原告の規約には,目的,名称,区域,事務所の所在地,構成員の資格に
関する事項,代表者に関する事項,会議に関する事項及び資産に関する事
項についての定めがある(甲1。)
2争点
()以下の事由の存否及び存在する場合不認可事由として認められるか。1
ア原告が保有する財産は共有であるのに単独所有であると偽りの申請をし
たこと(争点1)
イ原告の区域が,住民にとって客観的に明らかなものとして定められてい
ないこと(争点2)
()()本件不認可処分は旧津名町行政手続条例等の法令に違反するか争点32
()本件認可申請に対する認可処分の義務付けの許否について(争点4)3
3争点に対する当事者の主張
()争点1について1
(被告の主張)
旧β地区内の通称α地区には,古くから同地区住民で構成された「α町内
会」という自治組織が存在し,平成14年初めには,同地区にある約80世
帯の内,約70世帯をその構成員として別紙α町内会保有資産目録記載の財
産(以下「本件財産」という)を管理し,これを使用して町内会活動を行。
っていた。
ところが,平成14年3月19日に「α町内会」が分裂し,構成員中の半
数近い31世帯の住民は「α町内会」に脱会届を出して,直ちに新しく訴外
町内会を設立した。淡路市は,訴外町内会会長C(現在は町内会長Bとなっ
ている)から新町内会設立の届け出を受けて新たな自治組織として認知し。
ている。
したがって,本件財産は,従前の「α町内会」会員又はα地区住民の総有
に属していたものであることから,同一構成員によって新しく設立された町
内会の会員のこれら財産に対する権限が失われているものではなく,新たに
設立された訴外町内会もこれら財産を管理する権限を有し,その構成員もこ
れらを使用ないし利用して自治会活動を行い得るものである。
しかるに,原告は,本件申請の際に,本件財産は原告のみが保有するとは
言えない状況であるにもかかわらず,本件財産を単独で保有するという偽り
の主張をしており,これは地縁による団体の不認可事由に当たる。
(原告の主張)
訴外町内会は,規約もなければ,会員集合の事務所もなく,会としての財
産もなく,何の町内活動もせず,町内会連合会にも存在を認められていない
のであって,町内会の実体がないと言うべきである。
()争点2について2
(被告の主張)
前記のとおり,平成14年3月以降,βα地区には「α町内会」という自
治組織が2つ存在し,何れも同様の自治会活動を行っている。
そして,両町内会の何れの構成員もβα地区に混在しており,両町内会は
地域的に分別されていないから,住民ないし構成員にとって容易に認識でき
ないのが現状である。
このように,両町内会の地区が特定されていないので,原告α町内会の区
域が住民にとって客観的に明らかなものという要件を欠いている。
(原告の主張)
争う。
原告は,旧βα地区という明治以前の時代から続いている地域で,集落住
民にとって客観的に明らかな区域に存在している。
()争点3について3
(原告の主張)
旧津名町は,平成8年12月26日,津名町行政手続条例(以下「本件条
例」という)を定めた。。
そして,旧津名町長は,本件条例5条が定める,申請により求められた許
認可等を判断する審査基準を秘匿したうえ,行政運営における公正の確保と
透明性の向上を図り,もって町民の権利利益の保護に資することを目的とす
る本件条例1条を無視して,本件申請の際に,適正な審査を経由せず,不認
可処分の決定をした。
また,旧津名町長は,許認可申請の可否処分決定に係る「標準処理期間」
を公に規定しておらず,標準処理期間を定めるように努め,これを定めたと
きは公にする旨規定している本件条例6条に反する。
さらに,本件申請に対する旧津名町長の処理は,申請がその事務所に到達
したときは遅滞なく当該審査を開始しなければならないとする本件条例7条
に反する。
(被告の主張)
争う。
()争点4について4
(原告の主張)
旧津名町長は,本件決議の後,町内会会員相互間の不信感を醸成させ,会
員の脱会問題を騒動化させて,脱会会員の一団に原告と同名の町内会を名乗
らせ,これにより同一地域に2つの町内会があるとして,原告の町内会を地
縁による団体として認可できないとする理由作りをした。
そして,本件認可申請後,旧津名町長は,併存する2つの町内会の間の名
称使用禁止請求訴訟の高裁判決が出た段階で,本件認可申請について判断す
る旨言明したにもかかわらず,高裁の初回弁論期日において,本件不認可処
分の通知書を提出した。
このように,原告が,本件不認可処分を受けたことから,平成14年に脱
会届を出し,原告から除名処分されたBの親睦団体(訴外町内会)は,原告
と同名の町内会名を法人認可さすべきであるとして,認可を求める行動,認
可されたことを前提とする行動を活発化しているほか,裁判を利用して自ら
の意図を実現せんとして,原告の町内会規則,保有財産目録を盗用する等し
て,平成17年2月26日,神戸地方裁判所に,原告を被告として,原告が
所有管理する町内会施設の使用妨害排除等請求事件を提起した(同事件は,
その後神戸地方裁判所洲本支部に回付されている。。)
以上のように,本件の政治的環境が一変したごとき状態となっており,旧
津名町長がした不認可処分の効力を現状のままとすると,町内会の実情は一
変するので,認可処分の義務付けを求める。
(被告の主張)
争う。
第3争点に対する判断
1争点1及び争点2について
()地縁による団体の認可要件について1
ア法260条の2第2項1号ないし4号は,地縁による団体の認可要件を
定めており,同条5項は,地縁による団体が前記各号の要件に該当してい
ると認めるときは,市町村長は認可をしなければならないと定めている。
そして,前記「争いのない事実等」によれば,原告は,法260条の2
第2項1号,3号及び4号の各要件に該当するものと認められる。本件不
認可処分において問題とされている不認可事由は争点1及び争点2記載の
2点であるから,以下,これらについて検討する。
()争点1について2
ア市町村長は,認可を受けた地縁による団体が不正な手段により認可を受
,()けたときはその認可を取り消すことができる法260条の2第14項
から,認可申請に虚偽があり,それが認可前に判明した場合は,市町村長
は,不認可処分をすることも考えられるが,不認可処分は地縁による団体
が活動に使用する不動産等の権利義務の主体になりえないという重大な効
果を導くものであるから,認可要件の判断に重大な影響を与えない虚偽に
より不認可処分をすることは許されないというべきである。
イそして,法が,市町村長の認可により地縁による団体に権利能力の取得
を認めたのは,当該団体が地域的な共同活動のための「不動産又は不動産
に関する権利等(法260条の2第1項,以下「不動産等」という)」。
を保有することにより,当該団体が活動をしやすくするためである。
そうすると,地縁による団体が,不動産等を保有しておらず,かつ,今
後保有する予定がないときは,認可することはできないというべきである
が,不動産等の保有とは,当該団体が活動する際に支障が生じることなく
使用できるような権利等を持っていれば足り,不動産を保有する場合,そ
の所有権については,単独所有に限定されないと解すべきである。
ウ証拠(甲4の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件財産は,従前,原告
の財産であったことが認められる。ところで,一般に,権利能力なき社団
の財産は,構成員に総有的に帰属し,構成員の資格を喪失した者は,その
財産に対する権利を失う。前記「争いのない事実等」によれば,平成14
年3月ころ以降,原告の構成員のうち約7分の3が原告に脱退届を提出し
た上,訴外町内会を結成し,これに加入したが,これを「会員の脱退と脱
退会員による新町内会の結成・加入」とみれば,脱退会員は,本件財産に
対する権利を失うと解すべきである。これに対し,前記の事態を原告の分
裂と評価するなら,脱退会員も依然として残存会員とともに本件財産を総
有すると解する余地があるが,原告が分裂したと断定し得る証拠はない。
仮に,原告が分裂したとしても,分裂後の原告(の会員)が,本件財産に
つき無権利となるわけではない。
また,本件では,本件財産が従前から原告の町内会活動で使用されてき
た経緯や,原告が,本件財産に関して,使用妨害排除等請求事件の被告と
されていること(甲5,乙2,3)からすると,原告は,本件財産を使用
できる状態にあると思われる。
,,,したがって仮に訴外町内会の構成員も本件財産に関して権利を持ち
原告の残存会員が総有権者の一部にすぎない場合であっても,原告が財産
の所有形態について作為的に虚偽の申請をしたとまでは認められないし,
共有を単独所有とする偽りがあったとしても,法で求められる不動産等の
保有という点では差異はない。
以上のとおり,①そもそも,原告の構成員以外に財産を総有的に所有す
(「」),る者がいる被告のいう原告の単独保有ではないことの証明はなく
仮に,他に総有権者がいるとしても,②そのことは一義的に明白な事実で
あるとはいえないから,原告が,作為的に虚偽の申請をしたとは直ちにい
えないし,③また,前記のとおり,地縁による団体の認可要件と解される
「財産保有」は,単独所有に限定されないと解すべきであるから,この点
について申請事項と事実との食い違いは,認可要件の判断に重大な影響を
与えないものであるので,かかる食い違いがあったとしても,不認可事由
には当たらないと解すべきである。
()争点2について3
ア法260条の2第2項2号は,認可要件として「その区域が,住民に,
とって客観的に明らかなものとして定められていること」を定めている。
そして,地縁による団体に権利能力を与える趣旨が,前記のとおり,当
該団体の地域的な共同活動の便宜を図る点にあることからすると,認可要
件に定める「区域」は,住民にとって,地域的にみて,客観的に明らかな
ものであればよく,その地域に構成員とそうではない者が混在して居住し
ていても「区域」であることは否定されないと解するのが相当である。
イ本件では前記のとおり規約において区域が明定されており証拠甲,,,(
1,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,旧β地区の旧α地区とい
う地域的に見て客観的に明らかな一定の場所に居住する者で構成されてい
ると認められるから「区域」の要件を満たしているというべきである。,
よって,かかる「区域」に原告の構成員,訴外町内会の構成員及びいず
れの構成員でもない者が混在して居住していても,これは不認可事由には
該当しないというべきである。
()小括4
これまで検討してきたように,被告が主張する事由は,いずれも不認可事
由として認められるものではない。
,,,,そうすると前述のとおり法260条の2第5項によれば市町村長は
地縁による団体が同条第2項各号に掲げる要件に該当していると認めるとき
は,同条第1項の認可をしなければならないのであるから,争点3について
検討するまでもなく,本件不認可処分は違法なものと言わざるを得ない。
2争点4について
()本件に適用される平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟1
法では,行政庁に処分を義務付ける訴訟類型を定めていない。
しかし,このような義務付け訴訟が一般的に認められていない趣旨は,行
政についての第一次判断権は行政庁に留保されるべき点にあると思われるか
ら,救済の必要性が高く,行政庁の第一次判断権を侵害しない場合において
は,義務付け訴訟が許容されうるというべきである。
その義務付け訴訟が許容されるためには,①行政庁に第一次判断権を行使
させるまでもないほど,処分要件が一義的に決まっていること,②損害が差
し迫っていて,事前に救済しなければ回復しがたい損害が生ずること,③ほ
かに救済手段がないことといった要件を充たす必要があると解するのが相当
である。
()本件では,原告が被るおそれのある損害について縷々述べるが,それら2
は,本件決議後,本件不認可処分に至るまでの経緯に関して,旧津名町長や
訴外町内会に対する不信感や不満にすぎず,ほかに事前に救済しなければ回
復しがたい損害が生ずるとの主張,立証はない。
したがって,前記②の要件を満たさないことは明らかであるから,本件に
ついて,義務付け訴訟は許容されない。
よって,本件訴えのうち,認可処分の義務付けを求める部分については許
容されず,不適法である。
第4結語
以上より,本件訴えのうち,認可処分の義務付けを求める部分については不
適法であるからこれを却下し,かかる却下部分を除いた原告の請求には理由が
あるのでこれを認容して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官佐藤明
裁判官今中秀雄
裁判官藤井秀樹

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