弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     本件を福岡地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意について。
 原判決は、第一審判決が認定した被告人の判示第一(1)の行為、すなわち昭和
四〇年一月二八日有印公文書である福岡県公安委員会作成名義の大型自動車運転免
許証一通を偽造した事実と、同判示第一(2)の各行為、すなわち昭和四二年一〇
月二二日から同年一二月一日までの間一九回にわたり、タクシー運転手として営業
用普通自動車を運転した際右偽造運転免許証を携帯行使した事実との中間に、昭和
四一年一月二六日宣告、同年二月一〇日確定の窃盗、有印私文書偽造、同行使罪に
よる懲役一年の確定裁判があるにもかかわらず、前記有印公文書偽造罪と各回行使
罪とを牽連犯として、最も重い昭和四二年一二月一日の偽造公文書行使罪の刑によ
り処断した第一審判決を是認して、牽連犯の中間に別罪の確定裁判が介在してもな
お科刑上一罪として処断すべきであると判断しているのであるから、右判断は所論
引用の各高等裁判所の判例と相反するものといわなければならない。
 しかしながら、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪とは、本来数
罪として広義の併合罪に包含されるが、科刑上の一罪として罪数上は本来の一罪と
同様に取り扱われ、刑法四五条の適用については数罪ではなく一罪であると解する
ことに文理上支障はない。そして、牽連犯はその数罪間に罪質上通例その一方が他
方の手段または結果となる関係があり、しかも具体的に犯人がかかる関係において
その数罪を実行した場合(昭和二三年(れ)第二〇六三号同二四年一二月二一日大
法廷判決、刑集三巻一二号二〇四八頁、二〇五三頁参照)に科刑上とくに一罪とし
て取り扱うこととしたものであるから、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果と
なる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の
適用があるものと解するのが相当である。これと同旨の原判決は正当であり、論旨
引用の各高等裁判所の判例はこれを変更すべきものと認める。
 ところで、職権をもつて調査するに、本件偽造公文書行使の各事実は、前記のよ
うに、被告人が自動車を運転した際に偽造にかかる運転免許証を携帯していたとい
うものであるところ、偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用か具体
的に侵害されることを防止しようとするものであるから、同罪にいう行使にあたる
ためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に
供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことを要するのであ
る。したがつて、たとい自動車を運転する際に運転免許証を携帯し、一定の場合に
これを提示すべき義務が法令上定められているとしても、自動車を運転する際に偽
造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、未だこれを他人の閲覧に
供しその内容を認識しうる状態においたものというには足りず、偽造公文書行使罪
にあたらないと解すべきである。
 したがつて、被告人が自動車運転に際し偽造運転免許証を携帯した事実を認定し
ただけで、ただちに偽造公文書行使罪にあたるものとした第一審判決およびこれを
是認した原判決は、法令の解釈適用を誤り、被告人の各行為が本件訴因の限度では
罪とならないのに、これを有罪とした違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすこ
とが明らかであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなけれ
ばならない。そして、記録によれば、被告人が昭和四二年一二月一日に本件偽造運
転免許証を警察官に提示した事実も窺われるので、これらの点につき更に審理を尽
くさせるため、原判決および第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所である福岡
地方裁判所に差し戻すこととする。
 よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官長部謹吾の牽連犯の成否の点に関する意見があるほか、裁判
官全員一致の意見によるものである。
 裁判官長部謹吾の意見は、次のとおりである。
 わたくしは、多数意見が職権調査のうえ、本件偽造運転免許証の携帯事実を認定
したのみで、ただちにこれを偽造公文書行使罪にあたるとした第一審判決およびこ
れを是認した原判決は、その訴因の限度においては違法であるとして、原判決およ
び第一審判決を破棄して本件を第一審に差し戻すとした結論には賛成である。しか
し、多数意見が、牽連犯の罪数に関し、原判決に判例違反があるという上告論旨に
ついて、原判決を正当とし、所論引用の各高等裁判所の判例はこれを変更すべきも
のであるとした法律の解釈には、賛成することはできない。以下、その理由を述べ
る。
 刑法は、第一編総則第九章として併合罪の題名のもとに四五条から五四条までの
規定を設けている。これらの規定の順序構成をみれば、刑法は犯人が数個の犯罪を
犯した場合には、これを併合罪として四六条以下の規定に従い処理すべきことを原
則としていることは明白である。犯罪の手段または結果となる行為にして他の罪名
に触れるときも、それぞれが犯罪を構成する数罪となり、四五条以下の併合罪とし
て処理されるべきものであるが、刑法は特にその数罪の主観的客観的な緊密性に着
目して、五四条により処断上の一罪として、併合罪処理の例外としたものと解すべ
きである。したがつて、もし牽連犯となる犯罪と結果となる犯罪との中間に他の犯
罪の確定裁判が介在する場合には、確定裁判前に犯された手となるべき手段となる
犯罪は、確定裁判の際に同時に審判さるべきものとして、四五条後段の適用を受け、
結果となる犯罪は、右確定裁判を受ける際同時に審判されることは不能であつたの
であるから、別個独立の刑を受けるべきものとなり、両者は牽連犯として一罪の取
扱を受ける利益を有しないものというべきである。このように解することこそ刑法
の文理解釈として正当てあると思う。
 更に、実質的に何故に刑法五四条一項後段が牽連犯を処断上一罪としたのかとい
う法の精神を探究してみる。
 本来牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪とは、複数の犯罪が競合
する実質的数罪であり、広義の併合罪に包含せられるものであつて、ただ刑法五四
条一項後段の規定により科刑上の一罪とされるものであることは、多数意見もこれ
を認めるところである。元来数罪であるべき牽連犯を科刑上一罪として取り扱うこ
とにした所以は、多数意見の引用する当裁判所昭和二四年一二月二一日大法廷判決
が判示するように、その数罪が客観的主観的に同一目的を指向する特性があること
に着目して、これを数罪として処罰すべき場合よりも悪性の弱いものとして、最も
重い罪の刑による処断をもつて他の軽い罪の処罰をも充足せしめる趣旨に出たもの
である。したがつて、その充足の認められないような場合は、もはや処断上一罪と
して取り扱う理由はなくなる。手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間において、
他の罪について一旦有罪の確定裁判を受け刑罰的評価を受けた場合に、国家は犯人
に対して新たな人格態度を期待するのは当然である。もし、確定裁判の犯人に対す
るいわゆる感銘力を否定すれば、国家自ら刑罰権行使の意義目的を否定することに
なり、刑事政策の目的を失うことになるであろう。そして、一旦犯人が他の罪につ
き確定裁判を受けた後に(特にその刑の執行を終了した後に)結果となる犯罪を敢
行するが如きは、もはや数罪として処罰を受ける場合よりも悪性の弱いものとは言
い得ず、むしろ悪性の強いものといわざるを得ず、一罪としての処断上の利益を受
けるに価しないものなのである。すなわち、牽連犯として取り扱う理由を失うこと
により、元来あるべき数罪として併合罪の取扱を受けるのが至当である。
 多数意見は、牽違犯が、実質的な数罪であり、本来一罪である常習犯や継続犯と
全く趣を異にするものであるその本質の解釈を誤まるものであり、これを混同する
原審の判断は謬論である。
 これを本件について見るに、第一審判決によれば、被告人は昭和四〇年一月二八
日有印公文書である運転免許証を偽造し、昭和四二年一〇月二二日から同年一二月
一日まで右偽造公文書を行使し、その間、昭和四一年二月一〇日本件と別個の窃盗、
有印私文書偽造同行使の罪により懲役一年の確定判決を受け同年一一月二六日その
執行を終つたというのである。したがつて、もし本件が差戻後の第一審の審理にお
いて訴因変更の手続により偽造公文書行使の罪が認定されるならば、右公文書偽造
と偽造公文書行使との間には、実に二年八ケ月余の期間があり、しかもその間他の
罪について有罪の確定判決を受けてその執行を終えていたことになり、かかる場合
に右の如き長期間を経て確定判決を受けた後に犯された罪をなお手段たる罪の結果
たる罪であるとして、牽連犯として一罪の処分をすることは、牽連犯の定型性にと
らわれた誠に不合理な結論といわざるを得ない。
 故に、わたくしは、本件の如き手段たる犯罪と結果たる犯罪との中間に他の罪の
確定裁判のある場合には、もはや牽連犯として一罪として処断すべきではなく、確
定裁判を経た罪とその裁判確定前に犯した罪とを刑法四五条後段の併合罪として処
断した上、確定判決後に犯された偽造公文書行使の罪が認定されるならば、これに
ついては別個の主文を言い渡すべきものと思料する。しかるに、原判決は、前記確
定判決が存するのにもかかわらず、本件公文書偽造罪と同行使罪との間には刑法五
四条一項後段の牽連関係があるものとして一罪として処断した第一審判決を是認し
ているのである。論旨引用の各高等裁判所の判例は、原判決に先だつて言い渡され
たものであるから、原判決は、右各高等裁判所の判例と相反する判断をしたことと
なり、刑訴法四〇五条三号後段に規定する最高裁判所の判例がない場合に、控訴裁
判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたことになるものといわなければな
らない。そして、既に説示したように、右各高等裁判所の判例は、なお維持すべき
ものであつて、これを変更する必要を認めない。そうすると、原判決には、この点
につき判例違反の違法がありこの違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら、論旨は理由がある。
 検察官平出禾 公判出席
  昭和四四年六月一八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛