弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人永井正恒の上告趣意は末尾添付別紙記載のとおりである。
 右上告趣意第一点について。
 新刑訴法の下においては、旧刑訴におけると異なり裁判所は公訴の提起があつた
ときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達すべく(刑訴二七一条一項)、第一
審の公判審理の開始にあたつては、検察官は、まず、起訴状を朗読しなければなら
ない(刑訴二九一条一項)と定められており、被告事件の要旨を陳述しただけでは
足りないことになつている。そして記録を調べて見ると、本件第一審第一回公判日
前に本件起訴状の謄本が被告人等に適法に送達されているばかりでなく、右公判期
日には検察官が起訴状を朗読していることがわかる。しかも、所論の問答は検察官
の起訴状朗読の直後になされたものであり、起訴状には所論犯行の日時場所が明記
されているのであるから、裁判長が重ねて起訴状を読み聞かせることなく、直ちに
所論の如く発問し、被告人が所論の如く答えたからとて、その内容に明確を欠くと
ころはない。従つて、原判決が刑訴四〇〇条但書により第一審判決を破棄し自判す
るにあたり、被告人の右供述を証拠としても何ら違法はない。(刑訴三九四条参照)。
 されば、所論判例違反の主張は、その前提を欠くものであつて理由がない。(な
お、論旨引用にかゝる当裁判所昭和二三年(れ)第一八二号事件の判決中、被告人
の供述を記載した第一審公判調書の証拠調の方法に関する部分は旧刑訴法に関する
ものであるから、本件には適切でない)。
 同第二点について。
 原判決は、被告人が所論の如き不法領得の意思を以つて、所論の犯行をなしたも
のと認定した趣旨であること明かであるから、何ら引用の判例と相反する判断をし
たものではない。従つて、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 所論は、原判決の認定した事実と異なる事実を前提として、原判決の判例違反を
主張するものであるから、適法な上告理由とならない。
 同第四点について。
 論旨は憲法違反を主張するけれども、その実質は単なる法令違反を主張するに帰
し、適法な上告理由とならない。
 なお、記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものと認められないから、同
四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見により主文の如く判決する。
  昭和二六年九月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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