弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
一 申立て
 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求
め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
二 請求の原因(被控訴人=原告)
 以下において、被控訴人を「原告」と表記し、控訴人を「被告」と表記する。
1 原告は、昭和四九年一〇月一四日に有限会社として設立。昭和五二年七月二一
日、株式会社への組織変更登記を経た。自動車用品の製造、販売を主な営業目的と
する。
2 原告は、自動車用車輪として、エイトスポーク、八本スポークといわれるアル
ミホイールを製造、販売している。その販売網は、北海道から沖縄まで日本全国に
及んでいる。原告製造、販売のアルミホイールは、「RSワタナベ」、「アールエ
スワタナベ」と呼称されていて、原判決別紙原告商品目録(本判決にも添付)記載
のとおりである。その形態(色彩を含む)は、次の(1)~(4)の点で、原告の
商品であることを示す特徴があり、他の業者の商品と識別されている。商品名とし
て、「RSワタナベF8F 14―6」と、「RSワタナベB 14―6」の二種
類あるが、空気穴の位置が少し相違するだけで、本質的には同一形態となってい
る。
 以下において、別紙原告商品目録記載の商品を「本件原告商品」と表記する。
(1) 素材がアルミニウム。
 従来のホイールは鋳鉄製だったが、アルミニウムは、より軽く強度があるので、
自動車燃料の節約になるという利点がある。
(2) 一体成型。
 一般にアルミホイールはいくつかの部分に分けて製造し、これを接合して製品化
される。原告の商品は、最初から鋳型にアルミニウムを流し込んで一体に成型して
製造されるので、更に軽量で強度も増し、外観もすっきりしている。
(3) カマボコ型のスポークタイプで、スポークが八本。
 アルミホイールには、スポークタイプ、メッシュタイプ、ホールタイプ等があ
る。原告の商品は、スポークタイプである。そのスポークは細いワイヤではなく、
カマボコ型といわれる太いもので、スポークの外形がほぼ均一。内側は空洞となっ
ていて、内側に向かって少し扇形に開いた形となっている。スポークは八本。
(4) 色彩が暗色系の黒。
 一般に暗色は派手さがなく、目立たないから落ち着いた感じを与えるが、さら
に、汚れが目立たないという特徴を有する。自動車の車輪には、ブレーキ等の作動
により細かい金属片等が付着し、汚れとなって表れるが、この汚れを目立たなくさ
せる。
3 本件原告商品の原形は、その優れたデザインと機能性により、人気商品となっ
た。
 本件原告商品は、原告設立前の昭和四七年、原告代表者【A】が個人営業として
卸し販売を始めた。原告は設立以来この形態のホイールを製造、販売し、昭和五〇
年ごろから日本全国で取引され、売上げが上昇し、原告が株式会社に組織変更とな
った昭和五二年ごろには、この形態の商品は原告の商品を示すものとして、自動車
用品取引業界及び自動車愛好家の間で周知となった。この形態の商品を長期間継続
的に販売する業者は原告以外になく、原告だけが、この形態の商品を、エイトスポ
ーク、八本スポークとして強力に広告、宣伝してきた。
 最近の原告の売上げは年間一〇億円を超え、この形態の商品が原告の商品を示す
ことは、現時点でも周知である。
4 被告は、昭和六二年末ごろから、別紙被告商品目録(原判決別紙被告商品目録
二)記載のアルミホイールを卸し販売している。
 以下において、別紙被告商品目録(原判決別紙被告商品目録二)記載の商品を
「本件被告商品」と表記する。
5 本件被告商品は、その形態上、(1) 素材がアルミニウムであること、
(2) 一体成型であること、(3) カマボコ型のスポークタイプで、スポーク
の内側が空洞となっていて、内側に向かって少し扇形に開いていて、スポークが八
本あること、(4) 色彩が暗色系の黒であること、において本件原告商品と同一
で、コピー商品である。
6 被告が本件被告商品を卸し販売し始めたため、自動車用品取引業者及び自動車
愛好家に、本件被告商品が原告の製造、販売する商品であると誤認、混同させてい
る。このため、原告は、アルミホイールの製造、販売につき、営業上の利益を害さ
れるおそれがある。
7 よって、原告は、不正競争防止法一条一項一号により、本件被告商品の販売の
差止めを求め、併せて、被告の本支店、営業所、倉庫に存するものの廃棄を求め
る。
三 被告の主張
1 認否
 請求の原因1~3は不知。同4のうち、被告が本件被告商品を卸し販売している
事実は認め、その余は否認。同5、6の事実は否認。
2 本件原告商品の形態の出所表示機能、周知性(否定)
 原判決認定によると、原告(その設立前は【A】個人)は、昭和四六年に本件原
告商品の形態による商品の製造販売を開始し、昭和五七年までに周知性を得たとい
うのであるが、その間は、次に示すとおり、八種類もの八本スポークのホイールが
入り乱れた期間であり、本件原告商品が商品の出所を示す独自の「出所指示力」を
持ち得るような状況にはなかった。
(1) 本件原告商品製造開始まで
① 英国ミニライト社のホイール「ミニライト」のデザインは、本件原告商品と同
一であり(丙第二一号証の二、第二三号証の二、第二七号証の四、第二九号証の
三、第三〇号証の三)、【A】は、このデザインを参考にして本件原告商品の形態
による商品を製造、販売した。したがって、本件原告商品のデザインの商品は、
【A】が日本で最初に製造、販売したものではない。
② (株)神戸製鋼所の製造、販売に係る「ニッサンレーシングチームのマグネシ
ウムホイール」が存在した。それは、右「ミニライト」とほぼ同じデザインで、ブ
ラックに似ているガンメタリック色であった。【A】は昭和四三年ないし四七年の
間に、それと同一デザインで色彩をゴールドに変えたものを発売し始め、その後、
右の色彩をゴールドから黒に変え発売したものが本件原告商品である(丙第七号
証、第九号証の二、第一〇号証の二)。
したがって、本件原告商品は結局「模倣の模倣」であり、独創性がない。
③ (株)ヤマコの「シルバースター」の存在(甲第七号証の二、丙第八号証の
二)。
(2) 昭和四六年から五七年まで
右①~③のほかに、
④ 原告商品、
⑤ (株)神戸製鋼所の「マグロード」(丙第七号証、第二六号証の二、
第二七号証の二ないし四、第三二号証の二、第三五号証の三、第三七号証の二、第
三九号証の二、第四一号証の二)、
⑥ (株)ユーピーの「FORMULA‐ONE」(丙第七号証、第三〇号証の
二、第三四号証の二、第三五号証の二、第三六号証の二、第四〇号証の二、第四二
号証の二)、
⑦ 遠州軽合金(株)の「ENKEI コンペ」(丙第二二号証の二、第二四号証
の二、第二七号証の三、第三八号証の二、第四〇号証の三、第四二号証の二)、
⑧ 米国製「タイナスター」(丙第一五号証の二)が相次いで登場した。いわば
「第一次戦国時代」である。
(3) 昭和五七年以降
 このように、海外で周知著名の「ミニライト」が輸入されて以来、約数十年にわ
たって、以上の②ないし⑧など、数多くの同一品又は類似品が日本市場に入り乱れ
た結果、八本スポークにも陰りが見え始め、各社の販売も急激に減少し(丙第七号
証)、原告は倒産にまで追い込まれた。しかし、昭和六一年ごろになって、再び八
本スポークの流行が現れ、「第二次戦国時代」が出現した。しかし、この第二次流
行は、原告の貢献によって形成されたのではなく、被告を含む数社が一斉に製造、
販売した結果のものである。
 以上のとおり、八本スポークのデザインは、【A】が創作したものではなく
(【A】自身、意匠登録出願ができなかった)、八本スポークのホイールは、自動
車ホイール業界の共有財産であるところ(丙第七号証)、本件原告商品は、前記①
ないし③などの模倣商品なのであるから、単に「出所指示力」がないにとどまら
ず、原告は、そもそも裁判所に対し法的救済を求め得る立場にもない。
3 他の類似品の存在
(一) 商品表示性を認めるに当たっては、形態が特異、新規なものであることは
要しないが、競合する同種の商品が存在する場合には、独自に開発されたものか、
他社製品と識別し得る程度の特異性を要する。しかるに、本件原告商品はそうでは
ない。
 不正競争防止法一条一項一号における「商品形態」については、「侵害判断にお
ける類似性」と、「周知商品表示性の発生を妨げるために必要な類似性」との間
で、判断基準に違いがある。前者は、外観が同一又は極めて酷似している場合にの
み類似性を肯定すれば足りるが、後者は、他の工業所有権特に意匠権との調整を考
慮する必要がある。そうでないと、その保護法益が、表示としての使用が記述的で
あるか否かを問わず、当該形態の製造一般にまで及んでしまうという、高度の競争
制限効果が与えられるところまで保護法益が確立される。そのために、唯一的存在
であることが必要で、ほかに類似商品が存在することによって、表示性の確立は妨
げられる。
 本件においては、原告の周知性が確立したとされる時期に、前記六種類のほか、
さらに、①ゴーグコーポレーションの「メイストームポロ」、②AMEコーポレー
ションの「AME Be―1ホイール」、③パスタスポーツの「パスタニューホイ
ール」、④共豊コーポレーションの「グラッツェ・エイト」、⑤(株)オートメカ
ニカの「フラッグ」、⑥トピー実業(株)の「ストラスストーム」、⑦(株)ユー
ピーの「パナスポーツ G7―2R」、⑧同社の「パナスポーツ C8R」、⑨同
社の「パナスポーツ C8S」、⑩イフコーポレーションの「スーパーブレイ
ズ」、⑪同社の「ブレイズ」、⑫(株)オートメカニカの「アタック」、⑬(株)
ブリジストンの「フォルテイル」、⑭モアプロフェショナル プロジェクトの「モ
ア エイト スポーク」、⑮ニッサンモータースポーツ インターナショナルの
「NISMO NEW‐8」、⑯(株)ミルボーンの「TRS ラリー」、⑰東洋
ゴム工業(株)の「トラッツアR8」など(甲第一三一号証の一ないし一二、第一
三二号証の各別紙写真)、少なくとも一七種類の類似品が市場に存在していた。し
たがって、本件原告商品について、原告主張の形態上の特徴について周知商品表示
性が成立する余地はない。
(二) 仮に、本件原告商品の形態が表示性を取得したことがあったとしても、そ
の後倒産などにより、表示性を主張し得ない少量販売となったりしたので、表示性
保持の継続性を欠くに至り、かつまた、被告の盛業並びに他の類似商品の存在によ
り、少なくとも現在においては、表示性を喪失している。すなわち、原告は、昭和
五六年半ばから資金繰りが悪化し、昭和五七年には事実上の倒産をし、宣伝どころ
ではない状態が約五年間続き、その間無印(メーカー不明)の八本スポークが散発
的に市場に流れ、昭和六一年ごろのレトロ感覚の流行を迎えた(丙第七号証)ので
ある。
 他方、本件原告商品の周知商品表示性の発生を妨げる類似品の形態は、同一、酷
似の必要はなく、特徴部分の他存在を示すのみで十分である。多数の類似商品が発
売されては短期で市場から姿を消すような場合においても、その周知商品表示性は
十分妨げられる(オレンジ戸車事件の大阪地判昭和四一年六月二九日・判例時報四
七七号三二頁参照)。
4 本件形態と模倣、クリーンハンドの原則
 本件原告商品の形態は、「ミニライト」の模倣である。そもそも、このように、
他人の形態を模倣して製造販売した者が、第三者に対して差止請求をするのは、ア
ン・クリーンハンドで許されない(仙台高判平成四年二月一二日・判例タイムズ七
九三号二三九頁参照)。「ミニライト」の形態は、原告ほか多くの者がこれを模倣
した結果、「慣用表示」となっていたものであり、この慣用の形態がはやらなくな
った後、リバイバルの波に乗って原告がたとえこの慣用の形態に重点をおいて再び
製造販売し始めても、もはや、このような慣用形態(慣用表示)の使用差止請求を
することはできない。
 また、原告は、本件原告商品が財団法人日本車両検査協会の検査に合格していな
いのに、この合格品にだけ付することが許される「JWLマーク」を、本件原告商
品の包装箱に付した。この行為は、不正競争防止法一条一項五号、不当景品類及び
不当表示防止法四条一号に違反するおそれが濃厚である。クリーンハンドの原則に
照らし、このような場合、原告が不正競争防止法に基づく差止請求をすることは許
されない(前掲仙台高判参照)。
5 本件被告商品と本件原告商品との非類似点
(一) ディスク板の接合の有無
 本件被告製品では、アルミホイールが自動車の走行に耐える強度を得るために、
その裏面にアルミ製のディスク板を接合させている。これは、ホイールの内側のド
ーナツ状の部分(スポークの付け根部)のことである。被告の原審主張での表現に
も問題があったが、「ディスク板」という独立の部品があるわけでなく、いわば
「ディスク面」のことである。本件被告商品は、ディスク面が塗装されておらず、
きれいに研磨されたアルミの地金が、黒に塗装されたほかのホイール部と美しいコ
ントラストをなしているのに対し、本件原告商品の内側は、ディスク面を含むすべ
てが塗装されていて、本件被告商品のようなコントラストの美しさがないので、裏
面ではあるが、外観上の相異が明らかである。
(二) スポークの湾曲の有無
 本件被告製品では、アルミホイールが自動車の走行に耐える強度を得るために、
スポークの湾曲を極端にせずに、直線的にした。
 本件原告商品には、その湾曲度のきついもの(別紙原告商品目録の(1))と、
ほぼ直線的なもの(同(2))とがある。本件被告商品は、前者ほど湾曲していな
いし、後者よりは湾曲している。原判決は、本件原告商品の二種類の違いを指摘し
ながら、これを「形態上の特徴に関係しない」としたが、それは、原告代表者自身
が甲第一三二号証の陳述書でいうところと矛盾する。原判決の論法だと、同証添付
写真の各併存商品の存在は、正に、「本件原告商品の周知商品表示性」不成立の根
拠となる。
(三) ハンプの有無
 ハンプとは、タイヤの空気が減少したとき、タイヤが内側に落ち込んで外れるこ
とがないようにする隆起であり、その有無は、商品選択上極めて重要な特徴であ
る。別紙ハンプ図面に示すように、本件被告商品には明瞭な二本のハンプが存する
が、本件原告商品には一本しかなく、それも不明瞭である。
(四) 車軸貫通孔(ホイール中央の穴)の径
 本件被告商品のものは、六〇ミリなのに対し、本件原告商品の「RSワタナベF
8F」のは六三ミリ、「RSワタナベB」のは七〇ミリである。そのため、被告の
キャップは本件原告商品に装着できないし、原告のキャップは本件被告商品に装着
できない(ホイールとキャップを相互に共通に使用できない)。これまた、商品選
択上重要な特徴である。
 このように、相違点があり、先行商品ミニライトの存在した本件においては、到
底両者の形態が同一又は酷似するものとはいえない。アルミのホイールを購入する
者は、一八~二五才くらいのマニアであって、商品知識が豊富である。各種の違い
には敏感なので、本件原告商品と本件被告商品とを混同して購入することはあり得
ない。原告は、本件被告商品が、広告記事などに「ワタナベタイプ」などとして掲
載されたことを問題とするが、それは、一時期本件原告商品の広告が多かったこ
ろ、販売業者が、他意なく便宜上用いていたにすぎず、被告自らがこれを使ってし
たことは一度もない。
6 本件原告商品と本件被告商品との誤認混同(否定)
(一) 販売方法の違い
 本件原告商品には「ワタナベ」と、本件被告商品には「ブラックレーシング」と
それぞれ明示した大きな値札(「ポップ」)が、各商品の直下に載置されている。
よって、購入者が両商品を混同することはない。
(二) キャップ
 小売り店の店頭では、ほとんどの場合、キャップを装着してホイールを販売して
いる。このキャップには各社のマークが記されている。被告のマークは、大きい
「Black Racing」の文字と小さい「Spirit of Circu
it」の文字にマトリックス(地)が黒であり、原告のは、三つの鶴のマークと小
さい「RACING」の文字にマトリックスが赤で、キャップの違いは明らかであ
る。購入者が両商品を混同することはない。
(三) 包装箱の違い
 被告の包装箱は、茶色の段ボールで、文字は黒一色。「Black Racin
g」の文言が箱の横四周に印刷されている。原告のは、白色の段ボールで、文字は
赤色と黒色が混在し、「レーシングサービス ワタナベ」との文言が横二面に印刷
されている。
(四) 刻印の違い
 本件被告商品に打ち込まれている刻印は、BRを楕円形で囲んだもの。本件原告
商品のは、三つの円形マーク(元々は鶴のマークのようだが、小さくかつ鋳物のた
め、単に円形に見える)と横一文字(元々は「Racing」の文字と思われる
が、小さくかつ鋳物のため、単に横一文字としかみえない)を真円で囲んでいる。
両者は全く異なっている。両者の刻印は、ホイール正面の目立つ箇所に存在するか
ら、購入者が両商品を混同する可能性はない。
四 原告の反論
1 被告は、本件原告商品販売の前後を問わず、類似の商品が存在したことをもっ
て、本件原告商品に周知性がないとし、商品の形態が周知表示たり得るためには、
独自に開発され、あるいは、他社製品と識別し得る格段の特異性を有するものに限
定すべきように主張する。この主張は、実定法の解釈として、商品形態表示と、ほ
かの商品表示との間で、商品表示性や周知性の存否について差異を設けること自体
に誤りがあるが、そもそも、被告挙示の先行商品をもって、本件原告商品の類似商
品であるとする主張自体も誤りである。すなわち、不正競争防止法一条一項一号に
いう「類似」とは、周知商品表示を、誤認混同による不利益から保護するという法
の目的からすれば、商品主体の誤認混同を生ずる程度に類似でなければならず、誤
認混同を生ずべき主体は、当該商品の取扱業者、需要者である。
 そして、アルミホイールにおける類似か否かは、そのどの部分について比較検討
すべきかが問題となる。すなわち、アルミホイールの場合、どの製品でも、① 外
周部は必ず真円形となる、② 中心部は、車軸を通すための穴が必ず開けられ、サ
イズは一定している、③ その穴の周辺にボルト用の小さな穴が開けられる、こと
までは、技術上、必ず同一形態となる。右部分には個性がないから、業者は、外周
部(タイヤ装着部)と中心部をつなぐ、中間部分に独自のデザインを凝らし、これ
をセールスポイントとする。本件において、それはスポークであり、スポークの形
状や配置を中心にして、全体的観察により、類否を判断しなければならない。
 以上の観点によると、被告挙示の他の八本スポークは、いずれも本件原告商品と
は別形態の八本スポークであって、現に取引界においても、別種系統のものと認識
されている(甲第七号証の二、三)。その相違点の詳細は、別紙他商品との相違一
覧のとおりであるが、更に敷衍すれば、(1)「ミニライト」は、【A】がデザイ
ンの参考にはしたけれども、真似たものではない。当時、アルミホイールを一般車
に取り付けること自体珍しいことで、【A】は、「ミニライト」のデザインを更に
改良して、独自の商品を完成させたもので、全く別種のものであり、その別種であ
ることは、ホイール関係者には、一見して明らかである(甲第七号証の二、三、丁
第七号証)。(2)「ニッサンマグネシウムホイール」は、その用途がレーシング
車専用であり、一般車には装着できない。サイズも異なり、本件原告商品と市場で
競合することは全くない。(3) また、右両商品とも、遅くとも昭和五〇年代前
半までに製造販売が中止されている。要するに、本件原告商品の形態は、被告を始
めとする他社の商品が本件原告商品の形態を真似て出回るまではほかに存在せず、
原告のみが、この形態の商品を一貫して製造販売してきたものである。
2 仮に、被告挙示の「ミニライト」等が、不正競争防止法一条一項一号の「類
似」形態となるとすれば、次のように主張する。
 被告の主張によれば、同一又は類似の形態を持つほかの商品が市場に出回った場
合、その商品形態が商品出所表示機能や周知性を獲得することはあり得ないことと
なるが、かような考え方は、法解釈として誤りであるばかりか、現実の取引界の実
情をも無視している。すなわち、不正競争防止法にいう「広ク認識セラルル」と
は、現実の取引界における認識の状態をいうものであるから、ほかに同様の商品が
存在したか否かが重要なのではなく、当該商品表示自体が、取引界で、どう認識さ
れているかが重要なのである。同一又は類似の形態を持つほかの商品が市場に出回
っていることは、その商品形態が商品出所表示機能や周知性を獲得することの困難
性ではあり得ても、その否定要素にはつながらない。
 ところで、前記のとおり、被告挙示の「ミニライト」等はそれぞれ本件原告商品
とは別形態の商品として認識されているが、仮にそうでないとしても、これら商品
は、次のとおり、その販売時期が、ある一定期間で、現在は販売されていないか、
現在は極めて少量で、広告宣伝もほとんどされていないものなどであって、本件原
告商品のように、昭和四〇年代後半から今日まで、一貫して製造し、全国規模で販
売を継続し、広告宣伝も長期にわたり、継続的かつ強力になしてきたものは皆無で
ある。
 以上によれば、被告挙示の「ミニライト」等の存在は、本件原告商品の形態が、
商品出所表示機能及び周知性を獲得することの障害となるものではない。
① ミニライト
 昭和四五年ごろから五一年ごろまでの販売で、一般車向けでなく、ラリー用であ
って、需要者層も限られ、極めて少数の販売にとどまり、宣伝広告も、原告に比
べ、単発的で、継続性がなく、はるかに劣っていた。
② シルバースター
 昭和四五年ごろ、極く短期間販売されただけである。
③ ニッサンマグネシウムホイール
 レース車専用であり、製造販売は昭和四五年ごろから五一年ごろまでで、広告宣
伝も単発的であった。
④ FORMULA‐ONE
 これは、当初は本件原告商品と全く同一形態で売り出されたことから争いとな
り、形態を変えることで和解が成立したもので、形態が全く違うし、販売実績、広
告宣伝において、本件原告商品がはるかに優勢であり、現在はほとんど売れていな
い。
⑤ ENKEI コンペ
 本件原告商品とスポークの形態が全く違っており、販売実績、広告宣伝において
も、④と同程度である。
⑥ マグロード
 前同様スポークの形態が全く違い、昭和五〇年代前半以降製造販売されておら
ず、販売実績、広告宣伝においても本件原告商品にはるかに劣る。
⑦ タイナスター
 その製造販売の事実は知らない。
3 本件原告商品と本件被告商品の非類似点の反論
 被告主張の、形態の違う理由は事実に反する。まず、本件被告商品のアルミ製の
ディスク板接合については、本件被告商品(検証物)に、そのようなディスク板は
接合されていない。次に、強度を得るためスポークを直線的にしたとの主張も誤り
である。本件被告商品は、本件原告商品と同様、湾曲している(強度は、直線より
湾曲の方が増す)。さらに、ハンプと呼ばれる隆起は、本件原告商品にも付いてお
り、本件被告商品に特有のものではない。本件被告商品は、明らかに本件原告商品
のコピー商品にほかならない。
       理   由
一 本件原告商品についての前提事実
証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
 証拠(省略)
(一) 原告は、昭和四九年一〇月一四日に有限会社として設立され、昭和五二年
七月二一日、株式会社への組織変更登記を経た会社であり、自動車用品の製造、販
売を主な営業目的としている。その主力商品は、アルミ製で内側を空洞にしたカマ
ボコ型の八本のスポークからできているエイトスポーク、八本スポークと称される
一体成型のアルミホイールである。
(二) 原告が製造、販売している八本スポークのアルミホイールは、原告代表者
の【A】が英国から輸入されたアルミホイール「ミニライト」を参考にして、個人
営業によって、昭和四六年に日本で初めて製造、販売を開始した。原告は、これを
昭和四九年以来、「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」等の商品名で日
本全国で販売してきた。これが本件原告商品ないし同じ形態を有する原告商品であ
る。
(三) 八本スポークタイプのホイールは、「ミニライト」以外にも、「ヤマコオ
リジナル」、「ENKEI コンペ」、「ダイマグ」、「サイクロン」、「FOR
MULA‐ONE」、「マグロード」、「トマホーク」などが他社から発売された
ことがある(ただし、本件原告商品との間には、例えば、別紙他商品との相違一覧
にみられるような相違が存する)が、いずれも【A】の製造、販売開始より後の発
売で、しかも周知性を獲得するに至らなかった。当初から現在まで一貫して継続的
に製造、販売されてきたのは、原告の「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイー
ル」(本件原告商品)以外にはなかった。
 【A】が前記アルミホイールを製造、販売し始める前には、ニッサンレーシング
チームが八本スポークのアルミホイールを使用したことがあり、また、昭和四五年
には、(株)ヤマコの「シルバースター」が八本スポークとして販売されていた
が、これらの形態は、別紙他商品との相違一覧に指摘されているように、本件原告
商品とは全体的な印象が異なっている。
(四)「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」の商品の形態は、別紙原告
商品目録記載のとおりであるが、その形態上の特徴は、(1) 素材がアルミニウ
ム、(2) 一体成型、(3) 内側が空洞で、内側に向かって少し扇形に開いた
形のカマボコ型のスポークタイプで、スポークが八本、(4) 色彩が暗色系の黒
(つや消しの黒)、というところにある。本件原告商品には、同目録記載のよう
に、商品名として、「RSワタナベF8F 14―6」と、「RSワタナベB 1
4―6」の二種類あるが、前者のスポークの撓みが顕著で、撓みがホイールの外側
面よりもやや突出しているのに対し、後者は、ホイールの外側面との関係でみれば
スポーク撓みがないという相違はみられるものの、この相違は、右の(1)~
(4)の形態上の特徴に影響を与えるものではない。
(五) 色彩を除けば、原告の八本スポークタイプのホイールは昭和四九年当時か
らほぼ別紙原告商品目録記載のとおりであった(ただし、甲第一号証に示されるよ
うに、原告の八本スポークの商品には、スポークの先端がフレームのフランジ(外
枠)近くまで届いていない形態のものもある)。色彩も含めて原告の商品が本件原
告商品のような特徴を全部備えたのは昭和五七年ごろのことであり、カマボコ型の
スポークをシンプルにあしらっているという、独特の統一的な形態上の印象を与え
るものとなった。このころから昭和六二年ごろに至るまでの間、右の形態上の印象
を備えたアルミホイールは、ほかから販売されていなかった。
(六) 原告は、昭和四九年から昭和五七年までほぼ継続的に、自動車用品雑誌
「オートスポーツ」に、「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」の広告を
掲載してきた。近年には、自動車用品雑誌「ヤングオート」、「ホリデーオー
ト」、「auto technic」などに、自動車用品販売業者の広告として原
告の商品が絶えず掲載されており、また、近年は、右の各雑誌に加え、「OPTI
ON」、「OPTION2」、「PicCARS」などの雑誌や隔日刊の「交通毎
日新聞」に、製造者である原告自身の広告が頻繁に掲載されるようになっている。
さらに、自動車用品販売店の店頭においても、商品の説明として「RSワタナ
ベ」、「RSオリジナルホイール」の表示がされてきている。
(七) 昭和六二年ごろから、原告の商品に酷似しているアルミホイールが他社か
ら販売されるようになり、これらの商品の表示として、「RSワタナベタイプ」、
「RSワタナベ風」と、自動車用品雑誌の広告に表記されていたことがある。
(八)「RSワタナベ」との名称のホイールは、昭和六二年、ある問屋で売上げナ
ンバーテン内に入ったこともあり、「PicCARS」という自動車趣味誌の平成
元年一〇月号には、一番欲しいアルミホイールの二番目として、「ワタナベ」ブラ
ンドが挙げられた。
二 周知性
1 右の事実によれば、本件原告商品の独特の形態上の特徴を有する商品は、日本
国内では、【A】が最初に製造、販売を始め、これを引き継いだ原告だけが、一貫
してこれを製造、販売を継続してきたものであり、昭和六二年には、前記の形態上
の特徴を備えたアルミホイールが原告の商品であることは、日本国内の自動車用品
取引業者及び自動車愛好家には周知となっていたものということができる。この形
態は、不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該
当する。
 丁第一二号証及び原審の相被告ユーピー(株)の代表者の供述中には、現在日本
国内で年間約三六〇〇億円ものホイールが販売されているので、仮に原告の販売高
が年間一〇億円としてもその三六〇分の一にすぎない、との部分がある。しかし、
本件はホイール全般の不正競争に関するものではなく、前記の特徴を有する形態の
八本スポークのアルミホイールの出所表示機能及び周知性が問題となっているの
で、右の販売高の多寡の点をもって、本件原告商品が有する形態の周知性について
の判断を左右することはできない。
 なお、原告代表者尋問の結果によると、原告は昭和五七年ごろ、資金難から一時
経営が行き詰まったことがあると認められるが、営業が中断されたことまでは認め
られず、同尋問の結果によれば、その後業績は回復し、現在に至るまで、本件原告
商品を継続的に製造、販売していることが認められるのであるから、周知性に関す
る前記判断は左右されない。
2 被告は、商品の形態による商品表示性が成立し得るためには、競合する同種商
品が存在しないことが要件であるかのように主張する。
 しかし、商品の形態そのものに、商品表示性を認めても、それによって、不正競
争防止法一条一項一号の禁止権を及ぼし得る対象は、その商品表示性が認められた
商品の形態の特徴と同一又は類似の形態を持つものに限られ、被告が危惧するよう
に、その同種商品の製造一般にまで及んでしまうことにはならないものと考えられ
る。確かに、被告の主張するように、当該商品が、いわゆるパイオニア商品ではな
く、その形態においても、相当に似通った商品が既に出回っている場合、当該商品
が、その形態における商品表示性を獲得し得ることは、相当に困難であり、裏から
いえば、その認定には、十分に慎重でなければならないことはそのとおりであるけ
れども、そうかといって、競合同種商品のあるときには、商品表示性の成立そのも
のを排除すべきであるかのようにいう被告の主張は、これを一般論として受け入れ
ることはできない。
 そしてこの点では、商品の形態が商品表示性を獲得するためには、同時に当該商
品の周知性の生成との関連もこれを無視することはできないものと考えられる。当
該商品が形態において顕著な特異性を有していれば、表示性の獲得は容易であると
ともに、周知性の生成もまた容易であろうが、形態の特異性の程度が極めて顕著と
いうまでに至らないものにおいても、広告宣伝その他の企業努力において当該商品
の形態表示性と周知性とが相補的に同時に醸成されていく現実は無視できないもの
であり、不正競争防止法は正に、そうして醸成された商品形態表示性と周知性を保
護法益としたものであって、新規で創作が容易でない形態を創造した者にその独占
権を付与しようとする工業所有権(意匠権)とは、その保護法益を異にするもので
あるから、両者の領域が事実上重なり合うことは多いとは思われるが、これが当然
に一致しなければならないとか、法の適用上前者を後者に合わせるように解釈すべ
き拘束を受けるべきものではない。
 被告も、競合する同種商品が存在する場合にも、他社製品と識別し得る程度の特
異性がある場合には、これに商品表示性を認めることに必ずしも異論はないようで
ある。そして、被告が、本件原告商品に右特異性がないとするのは、アルミホイー
ルにおいて、先行ミニライトが八本スポーク型の嚆矢であり、そして、八本スポー
ク型ということは、アルミホイールの形態における極めて大きな特徴であるから、
この八本スポークという枠の中で、各種商品が競い合っても、その形態上の特徴
は、その優れた特異性を有する八本スポークであるという点に吸収されてしまい、
商品表示性としての識別特異性を獲得し得るだけの特徴とはなり得ないというので
ある。しかし、スポークタイプのアルミホイールの外観上の特徴は、スポークの本
数もさることながら、スポークの型(その形状と配置)や色彩等の他の要素にも多
く依存するものであるところ、前認定のとおり、本件原告商品のの外観上の特徴
は、(1) 素材がアルミニウムで、(2) 一体成型で、(3) 内側を空洞に
し内側に向かって少し扇形に開いた形のカマボコ型のスポークタイプで、(4) 
色彩が暗色系の黒(つや消し)となっているのであり、カマボコ型のスポークをシ
ンプルにあしらっているという独特の統一的な形態上の印象を与えるのである。被
告挙示の昭和五七年ごろまでの八本スポーク型のものと比べてみても、本件原告商
品の有するスポークの型は、別紙他商品との相違一覧に示すような相違があり、ほ
かの商品は、右特徴を示していないことは原告主張のとおりであり、そのほか被告
の挙示する一七種類のものについても、同様と認められる。
 このように、同じ八本スポークタイプにおいても、スポークの型や色彩に、様々
なものが存し、各業者が、その外観上の特徴をカタログに示して宣伝しているとい
うことは、とりもなおさず、当業者並びに顧客が、その選択の幅を、単に八本スポ
ークの点だけに求めるのではなく、更にその下位基準たるスポークの型(その形状
と配置)、あるいはスポークの型とは別の、全体として受けるデザインのシンプル
性、重厚性(場合によってはこの逆の意味のデザイン性)や色彩にも求めているこ
とを物語るものにほかならない。したがって、本件原告商品の前記特徴も、確か
に、八本スポークタイプという点では、ほかの商品と同列であるけれども、顧客
が、八本スポークタイプの中からいずれかを選択しようとするときの重要な識別基
準となり得るのであり、さらには、前認定のような原告の販売努力によって、右特
徴において他を圧し、商品表示性並びに周知性を獲得したと認め得るのである。前
記一で認定したように、昭和六二年ごろから、本件原告商品に酷似しているアルミ
ホイールが他社から販売されるようになり、これらの商品の表示として、「RSワ
タナベタイプ」、「RSワタナベ風」と、自動車用品雑誌の広告に表記されたこと
があり、このことはとりもなおさず、本件原告商品の独特の形態が、自動車用品取
引業者及び自動車愛好家の間で周知性を獲得していたことを十分に裏付ける。
 被告の主張は採用できない。
3 被告は、本件原告商品の周知商品表示性の発生を妨げる類似品の形態は、同
一、酷似の必要はなく、特徴部分の他存在を示すのみで十分であると主張する。一
般論としてこのようにいうことに疑問なしとすることはできないが、要するに、商
品形態が周知のものであることの認定の間接事情を主張するものと理解することが
できる。しかし、本件原告商品には、さきにみたような独特の形態上の特徴が存
し、この形態が周知となった時期までに、この特徴を有する商品は存在しなかった
のであるから、被告の右主張も前提を欠く。丙第七号証によれば、昭和五七年以降
いったん八本スポークスの流行が廃れた後、昭和六〇年ごろから、再度の流行が見
られるに至ったことが認められ、したがって、本件原告商品が一貫して市場で受け
入れられていなかった事情はあるかもしれないが、反面において、本件原告商品
は、八本スポークの流行時には必ず製造、販売されていたのであり、また、現に製
造、販売されているのであるから、右のような事情があったところで、その周知性
を否定することはできない。
三 本件被告商品と誤認、混同
1 被告が本件被告商品の卸し販売をしていることは被告も認めるところであり、
原告代表者及び被告代表者の各供述によると、被告は昭和六二年八月ごろから本件
被告商品を販売していることが認められる。
2 甲第一三二号証、検甲第一、第二号証、第四号証、原告代表者並びに弁論の全
趣旨によると、本件被告商品は、いずれも、(1) 素材がアルミニウム、(2)
 一体成型、(3) 内側が空洞で、内側に向かって少し扇形に開いた形のカマボ
コ型のスポークタイプで、スポークが八本、(4) 色彩が暗色系の黒(つや消し
の黒)となっていて、その形態上の特徴において、本件原告商品のアルミホイール
と同一であるばかりでなく、カマボコ型のスポークをシンプルにあしらっていると
いう独特の統一的な形態上の印象も同一であって、両者は一見しただけでは、その
相違を識別することが困難な酷似商品であることが認められる。
3 もっとも、丙第五六号証、検丙第五号証の一、二、第六号証の一~四並びに弁
論の全趣旨によると、本件被告商品は、強度保持のため裏側にディスク面を接合
し、タイヤの破裂に備えてリムに顕著なハンプ(隆起)を設けている点で、本件原
告商品と形態上の相違があること、車軸貫通孔(ホイール中央の穴)の径が、本件
被告商品のものは、六〇ミリなのに対し、本件原告商品の「RSワタナベF8F」
のは六三ミリ、「RSワタナベB」のは七〇ミリであるという相違が認められる。
しかし、これらの差異は、裏側ないし横側面におけるものであり、正面からの観察
における、前記の共通する形態上の特徴に比べると微差にすぎない。これらの相違
をもってしても、2で認めた酷似商品であるとの認定を左右するものではない。
 被告は、本件原告商品には、その湾曲度のきついもの(別紙原告商品目録の
(1))と、ほぼ直線的なもの(同(2))とがある。本件被告商品は、前者ほど
湾曲していないし、後者よりは湾曲している、と主張する。しかし、被告の主張自
体によっても、本件被告商品のスポークの湾曲は、二種類の本件原告商品の湾曲度
の中間程度であるというのであるから、この相違は形態上の特徴に影響を与えるも
のでないことは明らかである。
4 したがって、本件被告商品は、その形態において、周知の本件原告商品と酷似
のもので、自動車用品取引業者及び自動車愛好家に、その間の誤認、混同を生じさ
せるものというべきである。
5 丙第一号証、検丙第一~三号証の各一~三、第七、第八号証の各一~三、丁第
一三、第一四号証の各一、二、原審相被告ユーピー(株)及び被告各代表者の供述
によると、八本スポークのホイールは中央の部分(車軸の先端部分)にキャップを
取り付ける仕組みになっていて、キャップには製造、販売会社のマークが記され、
また、自動車用品販売店におけるホイールの商品展示では、ホイールの商品名の表
示がされることも多いことが認められる。しかしながら、ホイールとキャップとは
別個のものであり、キャップによってホイールが識別されるものとは限らず、必ず
ホイールと同じ会社を示すキャップが取り付けられるとは限らない。また、すべて
の自動車用品販売店で商品名の表示がされるとは限らないし、その表示も明確かつ
適切にされるとは限らない。したがって、キャップの存在や商品名の表示がされる
ことのあることをもって、本件被告商品が本件原告商品と誤認され、混同されるの
が避けられるものということはできない。
 検丙第九~第一一号証(枝番を含む)によれば、本件被告製品の包装箱は、茶色
の段ボールで、文字は黒一色であること、本件原告商品は白色の段ボールで、文字
は赤色と黒色が混在し、当然ながら印刷されている商品名も異なっていること、本
件被告商品に打ち込まれている刻印は、BRを楕円形で囲んだものなのに対して、
本件原告商品のは、三つの円形マークと横一文字を真円で囲んでいるものであるこ
とが認められる。しかし、一般購入者が段ボール箱に詰めてアルミホイールを購入
することが多いとは限らないから(販売店が自動車に取り付けて段ボール箱は廃棄
される結果、購入者は段ボール箱を目にしないのが通例であろう)、取引業者にと
っては識別可能といえるかもしれないが、段ボール箱の相違があることから、一般
購入者及び使用者にとって、両商品の間の誤認、混同が避けられるとは認め難い。
また、刻印の相違は、果たして製造者の識別なのかは一般消費者にとって必ずしも
明らかでないといえるから(製造番号に類した標識のようにも見受けられるもので
ある)、これも、誤認、混同のあり得ることを左右するものではない。
四 不正競争防止法の請求権
1 以上に判断したところによると、原告は、本件被告商品の販売によって、営業
上の利益を害されるおそれがあるものと認められる。
2 被告は、本件原告商品の形態は、「ミニライト」の模倣で、原告の本訴差止請
求はアン・クリーンハンドだと主張する。
 なるほど、本件原告商品が「ミニライト」にヒントを得て開発されたことは想像
に難くない。しかし、前説示のとおり本件原告商品は、ミニライトに触発されて創
案されたにしても、スポークタイプホイールにおいて識別上重要な基準となるスポ
ークの型と色彩及び全体の印象において同商品にない特徴を備えたことにより、そ
の点において、独創的なものとなり、商品表示性と周知性を獲得したと認められる
のであるから、それに基づく本訴請求が、ミニライトの持つ特徴そのものに騎乗し
た不当なものということはできない。被告の主張は理由がない。
3 クリーンハンドの原則に関する被告の主張について判断する。
 検丙第一一号証の二、五、六、丙第五七号証、第六〇~第六二号証、第六五号証
の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、全国のアルミホイールの発売会社で組織さ
れた「ジャパン・ライトアロイ・ホイール・アソシエーション」が昭和五三年に制
定した「自動車軽合金鋳物製ディスクホイールの技術基準」(略称・JWL基準)
があり、社団法人日本車両検査協会の検査でこの技術基準を充足しているとされた
ホイールには、「JWLマーク」を付することが許されていること、本件原告商品
は昭和五四年、五六年、平成三年の試験で右基準に適合しないとの結果を得たの
に、原告は、本件原告商品の包装(段ボール箱)に「JWLマーク」をデザイン化
して付したことが認められる。
 しかし他方、丙第六四号証によれば、本件被告商品は右基準に適合していること
が認められるので、本件原告商品及び本件被告商品が共通して有する形態に技術的
欠陥があって右基準に適合することができないものではないことが明らかである。
現に、甲第三七九~第三九四号証によれば、平成四年には、本件原告商品も右基準
の適合試験に合格していることが認められる。そして、本訴請求は、商品形態が周
知であり、これと誤認、混同を生じさせる商品の販売の差止め等を求めるものであ
るところからすると、その品質表示に誤解を与えるものであったとしても、このこ
とだけから、原告の請求が許されないとすることはできないというべきである。も
ちろん、クリーンハンドの原則あるいは権利の濫用法理によって、請求権の行使が
許されないことのあり得ることは否定できないとしても、「JWLマーク」が私的
な取決めに基づくものであって、その意味が一般にどの程度知れ渡っているかは疑
問であり、また本件原告商品の表示が商品そのものに付されたのではなく、包装に
付されたにとどまること、本件原告商品の周知性が、JWLマークによって獲得さ
れたものと認めるべき証拠はなく、前記認定事実によれば、形態によって取得され
たものといえること(あるいは、本件原告商品の標章によるものとみる余地もあ
る)、他方、本件被告商品の形態は、本件原告商品の独特の形態に酷似しているこ
となどを総合勘案すると、原告の本訴請求権の行使が許されないとすることはでき
ない。
五 結論
 そうすると、本件被告商品による本件原告商品との誤認、混同を除去するには、
本件被告商品の販売を禁止するほか、違法行為を組成する本件被告商品を廃棄させ
る必要があり、不正競争防止法一条一項一号により、本訴請求は認容されるべきで
ある。これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する
こととし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 潮久郎 山崎杲 塩月秀平)
 別紙一覧
1 原告商品目録
2 原告商品図面(1)
3 原告商品図面(2)
4 原告商品写真(1)
5 原告商品写真(2)
6 被告商品目録
7 被告商品図面
8 被告商品写真
9 ハンプ図面(被告主張図面)(一)~(三)
10 他商品との相違一覧(原告主張)
 原告商品目録
軽合金製自動車専用車輪
 品名 アルミホイール
 商品名 (1) RSワタナベF8F 14―6
 (2) RSワタナベB 14―6
 色彩 黒
 形状及び構造
 別紙原告商品図面(1),(2)及び原告商品写真(1),(2)のとおり
<26783-001>
<26783-002>
<26783-003>
<26783-004>
<26783-005>
<26783-006>
<26783-007>
<26783-008>
被告商品目録
軽合金製自動車専用車輪
 品名 アルミホイール
 商品名 ブラックレーシング 14―6
 色彩 黒
 形状及び構造
 別紙被告商品図面及び被告商品写真のとおり
<26783-009>
<26783-010>
<26783-011>
<26783-012>
<26783-013>
<26783-014>
<26783-015>
<26783-016>
<26783-017>
<26783-018>
<26783-019>
<26783-020>
<26783-021>
<26783-022>

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お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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