弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五二年一二月一日控訴人に対してした懲戒免
職処分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審を通して、被控訴人の負担とする。」
との判決
二 被控訴人
「本件控訴を棄却する。」との判決
第二 当事者の主張
一 請求原因
l控訴人は、埼玉県北葛飾郡<地名略>に勤務する地方公務員であり、昭和五〇年
一二月当時、同町建設課長兼区画整備事務所長として、同町の施行する道路、橋梁
等の新設、維持等の工事の設計及び監督に関する事務並びに同町の施行する土地区
画整理事業に伴う街路、下水路、公園等の新設工事の設計、施行、管理等に関する
事務を掌理しており、また、昭和五一年一一月からは、同町区画整理課長として、
右と同一の事務を担当していた。
2 被控訴人は、昭和五二年一二月一日付で、控訴人に対し、控訴人が業者から現
金を受け取つた容疑で同年一一月二九日に逮捕、留置されたことを理由に、懲戒免
職処分(以下「本件処分」という。)を行つた。そこで、控訴人は、同年一二月一
三日、吉川町公平委員会に本件処分の取消しを求めて不服申立をしたが、同委員会
は、昭和五三年七月二四目、本件処分を承認する旨の裁決をした。
3 しかしながら、本件処分は、後記五において主張するとおり、手続的にみても
違法なものであり、また、その実体面においても裁量権を濫用してなされた違法な
ものである。
4 よつて、控訴人は、被控訴人に対し、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2の事実は認める。
三 本件処分の理由等に関する破控訴人の主張
1 控訴人は、「昭和五〇年一二月下旬ころ、請負工事業者である岡田土木有限会
社の代表取締役であるAから、控訴人の自宅において、当時控訴人が吉川町の建設
課長等として担当していた職務に関し、便宜ある取り計らいを受けたいとの依頼の
趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金三〇万円及び電気毛布
一枚(時価約七、〇〇〇円相当)を収受して、収賄した。」との被疑事実で、昭和
五二年一一月二九日に逮捕、留置された。
2 被控訴人は、翌三〇日、捜査機関に逮捕事実の内容等を問い合わせ、その結果
右のような逮捕事実の内容を知るとともに、右逮捕当日実施された家宅捜索の結
果、控訴人自宅から右の現金三〇万円と電気毛布が発見され、押収された事実を確
認し、更に担当捜査官に被控訴人の担当職員が面接して事情調査を行つた結果、控
訴人が右の収賄行為を行つたとの確信を得るに至り、控訴人の右行為は、地方公務
員法三〇条の服務の根本基準及び同法三三条の信用失墜行為の禁止規定に触れるた
め、同法二九条一項一号の懲戒事由は該当するとともに、また、全体の奉仕者たる
にふさわしくない非行があつた場合として同法二九条一項三号の懲戒事由にも該当
するものと考え、控訴人の右収賄行為を理由として、同年一二月一日付けで、控訴
人に対して本件処分を行つたものである。
3 仮に本件処分の時点において控訴人に交付された処分説明書に処分理由として
記載された事実が、控訴人が収賄の容疑で昭和五二年一一月二九日に逮捕、留置さ
れたとの事実に限られているため、その時点における処分の理由が右の事実に限ら
れるとしても、処分権者はその処分の取消しが求められている行政訴訟において、
その処分当時存在した全ての事実を処分理由として追加して主張することができる
から、被控訴人は、控訴人の右収賄行為自体が地方公務員法二九条一項一号及び三
号に該当することを本件処分の理由に追加する。
四 本件処分の理由等に関する被控訴人の主張に対する控訴人の認否
1 被控訴人の主張1の事実は認める。
2 同2の事実中、家宅捜索の結果控訴人の自宅から現金三〇万円と電気毛布が発
見され、押収されたことは認める。本件処分が控訴人の収賄行為を理由としてなさ
れたとの点は否認する。本件処分の理由は、処分説明書にも記載されているとお
り、控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたとの事実に限られていたものである。そ
の余の事実は知らない。
なお、控訴人は、Aから、電気毛布はともかく、現金三〇万円を収賄の意思で受領
したことはなく、約二年後の昭和五二年一一月二九日の控訴人宅の家宅捜索の結果
電気毛布入りの紙箱が発見された際、始めてその中に現金三〇万円が入つていたこ
とを知つたのである。すなわち、右の現金三〇万円は、紙箱をあけても直ちには発
見できないような状況で入つていたため、右電気毛布の入つた紙箱をAから受け取
つた際、控訴人の方では右現金の存在には気付かなかつたのである。控訴人は、右
現金三〇万円の収賄の容疑については、刑事事件の取調べに3いても終始これを否
認しており、現にその後右事件は不起訴処分となつて、控訴人の右容疑は否定され
ている。
3 同3の主張は争う。前記のとおり、本件処分の理由は、控訴人が収賄容疑で逮
捕、留置されたとの事実に限られていたものであり、本件行政訴訟の段階になつ
て、被控訴人の主張するような控訴人の収賄行為自体をその処分の理由として追加
して主張することは、許されないものというべきである。
五 本件処分の違法事由に関する控訴人の主張
1 本件処分は、前記のとおり、控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたことを理由
としてなされたものであるが、職員が刑事事件に関して起訴された場合であつて
も、まず休職処分とし、懲戒事由の存否について刑事事件の判決が出されるのを待
つて、これを決定するのが法律上の建前とされていることからすると、未だ起訴の
段階にも至つていない控訴人に対して、単に逮捕、留置がなされたことのみを理由
としてなされた本件処分は、この点において手続的にみて違法な処分というべきで
ある。
2 前記のとおり、控訴人は、Aから、電気毛布はともかく現金三〇万円を収賄し
た事実はないのであり、そうだとすると、本件処分は、社会観念上著しく妥当を欠
き、裁量権を濫用してなされた違法なものというべきである。
六 本件処分の違法事由に関する控訴人の主張に対する被控訴人の認否等
1 控訴人の主張1の事実は否認する。控訴人に対する本件処分は、前記のとお
り、単に控訴人が収賄容疑で逮捕、留置されたことのみを理由とするものではな
く、控訴人の収賄行為自体を理由とするものであり、また、懲戒事由の有無につい
ては、処分権者自らが独自の方法でこれを確認することができるのであり、本件に
おいては、前記のとおり、控訴人の逮捕後、捜査機関に容疑事実の有無を確認する
等の手続をとつているのであるから、本件処分に控訴人の主張するような違法事由
はない。
2 同2の事実は否認する。本件の当時、吉川町役場の区画整理課においては、控
訴人の部下職貝による一連の収賄事件が発覚し、何名かの職員が逮捕されるという
事態が生じており、控訴人の本件事件も新聞、テレビ等で大々的に報道され、町民
の行政への大きな不信感を招く結果となり、また、控訴人については、本件以外に
も、Aから、自宅の庭土を改良するための土の贈与を受ける等の行為もみられたの
であるから、これらの事情をも勘案すると、本件処分については、何ら載量権の濫
用があつたものとはいえない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 控訴人が吉川町に勤務する職員であつたところ、昭和五二年一二月一日付で、
被控訴人から懲戒免職処分を受け、これを不服として吉川町公平委員会に不服申立
をしたが、同委員会は右懲戒免職処分を承認する旨の裁決をしたことは、当事者間
に争いがない。
二 そこで、右懲戒免職処分の理由についで考えるに、控訴人が、昭和五〇年一二
月下旬ころAから控訴人が吉川町の建設課長等として担当していた職務に関して現
金三〇万円及び電気毛布一枚(時価約七、〇〇〇円相当)を収賄したとの被疑事実
で、昭和五二年一一月二九日に逮捕、留置されたことは、当事者間に争いがないと
ころ、原審における被控訴人及び控訴人の各本人尋問の結果によれば、被控訴人が
本件処分を行うに当つては、控訴人が右被疑事実どおりの収賄行為を行つたものと
考え、むしろその収賄行為自体を理由として本件処分を行う意思であつたこと、ま
た処分を受けた控訴人の方でも、処分権者たる被控訴人の意図が右のようなもので
あることを承知していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
もつとも、本件処分の理由としては、控訴人が右現金の収賄の容疑で逮捕、留置さ
れたことの事実しか掲げられていないことは、当事者間に争いのないところであ
り、公務員に対する懲戒処分の取消訴訟においては、処分権者は、処分理由説明書
に記載されていない事由は、処分の理由として主張することが許されないとの考え
方に立つときは、被控訴人は、本訴において控訴人の右収賄行為自体を本件処分の
理由として主張することはできないとする余地が生ずる。しかしながら、仮に右の
ような考え方を前提としても、少くとも、社会通念からして処分理由説明書に記載
された事実と基本的に同一の事実であると認められる事実であつて、処分の当時に
処分権者がその存在を認識し、処分の理由とする意思を有していた事実について
は、それが処分理由説明書に記載されているとはいえない場合であつても、処分権
者が、処分の取消訴訟の段階で、これを処分の理由として主張することは当然許さ
れるものというべきである。そして、本件の場合、控訴人が前記のような収賄容疑
で逮捕されたとの事実と右収賄の事実が社会通念上基本的に同一の事実と解される
ことは明らかであり、また、被控訴人が右被控訴人の収賄行為自体を本件処分の理
由とする意思を有していたと認められることは前記認定のとおりであるから、本件
においては、被控訴人は、控訴人の右収賄行為自体を本件処分の理由として主張す
ることが許されるものというべきである。
三 すすんで、控訴人が右収賄行為を行つたとの被控訴人の認定判断が、十分に合
理的な根拠に基づく適法なものといえるか否かについて判断するに、原本の存在及
びその成立について争いのない甲第二八号証、いずれも成立に争いのない甲第三〇
号証、乙第一号証及び同第二号証の一ないし六並びに原審における被控訴人本人尋
問の結果によれば、被控訴人が控訴人に対して本件処分を行うに至つた経緯は、お
おむね次のようなものであつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
1 昭和五二年一〇月ころ、吉川町において、同町の区画整理課の現職員や元職員
三名が相次いで公金横領や収賄の容疑で逮捕されるに至り、控訴人もこれらの職員
の直属の上司としての監督責任を問われて、同年一〇月三一日付で懲戒停職二〇日
の処分を受けるに至つた。
2 被控訴人は、右職員らの事件が発覚した際、控訴人に対しても問題とされるよ
うな不正行為がないかを質したところ、控訴人は、自分は潔白であり、そのような
不正行為は一切ない旨を答えていた。ところが、同年一一月二九日になつて、控訴
人は警察へ出頭を求められ、同日夕刻、「昭和五〇年一二月下旬ころ、土木工事の
請負業者Aから、その職務に関して、現金三〇万内及び電気毛布一枚(時価約七、
〇〇〇円相当)を収賄した。」との容疑で逮捕されるに至り、右事件については、
翌朝の各新聞等が、吉川町区画整理課の課ぐるみの汚職事件として大々的に報道す
るところとなつた。
3 控訴人は、右一一月二九日の朝、警察に出頭する前に、被控訴人に対し、警察
から出頭を求釣られた旨を伝えるとともに、辞表提出の可否について伺いをたてた
が、被控訴人から潔白であるのなら辞表提出の要はないといわれ、その時点では辞
表の提出をしなかつた。しかし、同日昼ごろ、控訴人は警察署から吉川町総務課の
職員を通じて、被控訴人あてにその前日の一一月二八日付の退職願いを提出してき
た。
4 右一一月二九日の夕刻、控訴人宅の家宅捜索が行われた結果、電気毛布と現金
三〇万円の入つた紙箱が発見され、この事実は警察から被控訴人にも知らされた。
翌三〇日、被控訴人は、総務課長を警察署に赴かせて警察署次長から事情を聴取さ
せ、警察が被控訴人宅から現金が発見されたこと等から収賄の容疑が裏付けられた
として控訴人を逮捕したものであるとの事実を確認した。同日夕刻、控訴人は右収
賄の容疑で留置されるに至つた。
5 被控訴人は、右のような経過からして、控訴人が収賄行為をしたことは間違い
ないと考えるに至り、埼玉県地方課にも問い合わせをしたうえで、控訴人を懲戒免
職にすることと決定し、翌一二月一日付で本件処分を行つた。以上のような経緯か
らすると、被控訴人のした控訴人が右の収賄行為を行つたとの認定判断は、十分な
根拠に基づく合理的なものであつたということができ、その認定判断の過程に懲戒
処分権者として法律上要求される義務に違反した違法な点は見当らないものという
べきである。
四 これに対し、控訴人は、右容疑事実のうちAから電気毛布の交付を受けた事実
は認めているものの、右電気毛布の入つた紙箱の中に現金三〇万円が入つているこ
とには、全く気がつかなかつたから、右の現金三〇万円については収賄は成立しな
いと主張しており、原本の存在及びその成立について争いのない乙第六号証並びに
原審及び当審(第一回及び第二回)にむける各控訴人本人尋問の結果が右控訴人の
主張にそうような内容のものとなつているのに加えて、更に前記当審における控訴
人本人尋問において、控訴人は、右の一二〇万円の入つたのし袋はAが右紙箱を車
で控訴人宅に運搬してくる途中で箱の中の電気毛布とシーツの間に入りこんでしま
つていたため、紙箱を開けてみただけではその存在に気がつかなかつたものと思わ
れるとの供述を行つている。そして、前掲の甲第三〇号証によつて、右現金入りの
紙箱がAから控訴人に交付された日から二年近くもの期間を経た後に行われた家宅
捜索の結果右の現金の入つたのし袋が依然として電気毛布を入れた右紙箱の中にあ
るのが発見された事実が認められることからすると、控訴人の前記供述には一見信
用性があるかに見えないでもない。
しかしながら、原本の存在及びその成立について争いのない乙第五号証、並びに証
人Aの原審及び当番における各供述によれば、Aとしては、吉川町の施行する土木
工事の受注先の決定について大きな権限を持つており、しかも当時特定の業者との
関係等についてとかくの噂のあつた控訴人に対し、自らが代表取締役を務める岡田
土木有限会社を右土木工事の受注先として指定してもらうために、右現金等の供与
を行おうと考えたというのであつて、電気毛布を入れた右紙箱の一番上にすぐ目に
つくような形で右現金入りののし袋を入れて、これを控訴人宅に届けたものであ
り、しかも、右ののし袋には、その下に半紙をつけてその上から水引きをかけ、こ
れを電気毛布の上に置いておいたとの事実が認められるのである。これらの事実か
らすると、右電気毛布入りの紙箱を受け取つた控訴人の方で右現金入りののし袋に
は全く気がつかなかつたとする前記控訴人の供述は甚だ不自然なものといわざるを
得ず、むしろ、前掲甲第三〇号証により、右家宅捜索の結果紙箱の中から発見され
たのし袋には、右Aがこれを紙箱の中に入れた時の状態とは違い、半紙も水引も付
いていなかつたことが認められることからすると、右の家宅捜索の時点で現金入り
ののし袋が右紙箱の中に残されていたのは、控訴人の方でその後収賄の罪を逃れる
ために一種の工作を行つたことによるものではないかとの疑いが濃いものといわな
ければならない。なお、前掲の甲第三〇号証並びにいずれも成立に争いのない同第
三一号証、同三二号証及び同第三三号証の一、二によれば、右家宅捜索の際に発見
された一万円札三〇枚は、いずれも前記のAの控訴人に対する贈賄行為があつたと
される昭和五〇年一二月より前に印刷され日本銀行に引き取られでいる紙幣である
ことが認められるが、このような事実のみから右の工作の疑いを否定することはで
きないものというべきである。
のみならず、本件処分の適否が争点となつている本件訴訟では、控訴人が右現金三
〇万円を現実に収賄した事実があるか否かが問題となるのではなく、前記認定のよ
うな事実関係に基づいて被控訴人のした控訴人が右現金三〇万円の収賄行為を行つ
たとの認定判断が、懲戒権者として遵守すべき法令上の義務に照らして適法といえ
るか否かの点のみが問題となるにすぎず、仮りに控訴人が右現金の収賄を行つてい
なかつたとしても、諸般の情況に照らして懲戒権者たる被控訴人のした右収賄行為
が認められるとの認定判断に十分に合理的な根拠が存在していると考えられる場合
には、なお被控訴人のした右認定判断を違法とすることはできないのである。そし
て、前記三において認定したような事実関係からすれば、右のような控訴人の本件
収賄行為の成立を裏付けるに足りるような事実が確認されている以上、当時被控訴
人に控訴人の主張するような希有の事態が存在するかも知れないことまでを慮つて
懲戒権の発動を差し控えるべき義務があつたものとすることは到底できないものと
いうべきであるから、いずれにしても被控訴人のした控訴人が右収賄行為を行つた
とする認定判断には、何ら違法な点はなかつたものと考えられる。
更に、右のような控訴人の収賄行為が、地方公務員法三〇条の服務の根本基準及び
同法三三条の信用失墜行為の禁止規定に触れ、同法二九条一項一号の懲戒事由に該
当するとともに、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があつた場合として同法
二九条一項三号の懲戒事由にも該当するとした被控訴人の判断にも、何らの過誤も
認められないことは明らかである。
他に右の各認定を覆すに足りるような証拠は存在しない。
五 また、控訴人は、職員が刑事事件に関して起訴された場合でも、まず休職処分
とし、刑事事件の判決が出されるのを待つて懲戒事由の存否を決定するのが法律上
の建前ないし慣行とされていることからして、未だ起訴の段階にも至つていない控
訴人に対してなされた本件処分は、手続的にみて違法であると主張するが、地方公
務員法上いわゆる起訴休職の制度が設けられているからといつて、刑事事件で起訴
された者に対して懲戒処分を行う場合に、まず右起訴休職の措置をとるべきことが
法律上要求されているものとすることはできないし、本件においては、被控訴人の
方で控訴人について前記懲戒事由の存在することを根拠づける事実を確認したうえ
で、本件処分を行つたものと認められることは前記認定のとおりであり、すでに被
控訴人からみれば右のような決定的な根拠事実が確認された上、当時控訴人が逮
捕、留置中であつて、直接その弁解等を聴取することは困難な状況にあつたのであ
るから、前記逮捕の日から三日後の一二月一日の時点で、それ以上の事実調査等を
行うことなく、直ちに本件処分を行うことに踏み切つた点についても、とくにこれ
を違法とまですることはできないものというべきである。したがつて、控訴人の右
主張は失当である。
更に、控訴人は本件処分は懲戒権を濫用してなされたものであるから違法であると
主張するが、前記認定のとおりの本件処分に至るまでの経緯、とくに本件処分の理
由が控訴人の職務に関する現金三〇万円等の収賄という涜職行為であること、当時
吉川町役場の区画整理課においては、控訴人の部下職員による一連の下正事件が次
々と発覚していた時期でもあり、控訴人の本件事件も新聞等で大々的に報道され、
町民の町政に対する大きな不信感を招く原因となつたことが推認できることなどの
事情からすると、被控訴人が控訴人に対する懲戒処分として懲戒免職処分を選択し
たことは、社会通念に照らして何ら相当性を欠くものでなく、本件処分に裁量権の
逸脱、濫用があつたものとはいえないことは明らかであるから、控訴人の右の主張
も理由がない。
六 以上の次第であつて、被控訴人のした本件処分は適法であり、その取消を求め
る控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、その取消
しを求める本件控訴は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担
について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中島 恒 塩谷 雄 涌井紀夫)

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