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裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     昭和二十七年四月二十一日、平簡易裁判所がAに対してした刑の執行猶
予の言渡、及び同年七月一日、千葉簡易裁判所が同人に対してした刑の執行猶予の
言渡は、いずれも、これを取り消す。 ○理由
     本件即時抗告の要旨は、「千葉県山武郡a村bB方Aは、
     (一) 昭和二十七年四月二十一日、平簡易裁判所において、窃盗罪に
より、懲役一年、三年間刑の執行猶予の言渡を受けて、そのころ確定し、更に、同
年同月二十八日政令第百十八号減刑令により、右刑を懲役九月、二年三月間の執行
猶予に変更されたものであつて、その猶予期間中、更に罪を犯したため、
     (二) 同年七月一日、千葉簡易裁判所において、窃盗罪により、懲役
一年、三年間刑の執行猶予の言渡を受けて、そのころ確定したものであるが、その
確定後に至つて、同人が前示(一)のように平簡易裁判所において、懲役刑に処せ
られた事実が発覚したので、抗告人は、前掲(一)の執行猶予の言渡は、刑法第二
十六条第一項第一号により、同(二)の執行猶予の言渡は、同条第一項第三号(刑
執行猶予取消請求書に第二号とあるは第三号の誤記と認める)により、いずれも、
これを取消すベきものと認め、刑事訴訟法第三百四十九条に則り、管轄裁判所たる
東金簡易裁判所に対し、これが取消の請求をしたところ、同裁判所は、昭和二十七
年十一月十三日、管轄違を現由として、右請求を却下する旨の決定をしたが、該決
定は相当でないと思料するにより、原判決を取り消した上、前記二回にわたる執行
猶予の言渡を取り消す旨の裁判を求めるため、本件即時抗告に及んだ次第であ
る。」という趣旨に解される。
     よつて、記録を調査するに、千葉県山武郡a村bB方Aが、(一)昭和
二十七年四月二十一日平簡易裁判所において、窃盗罪により、懲役一年、三年間刑
の執行猶予の言渡を受けて、そのころ確定し、更に同年同月二十八日政令第百十八
号減刑令により、右刑を懲役九月、二年三月間刑の執行猶予に変更されたものであ
ること、及び、その猶予期間中更に罪を犯したため、(二)同年七月一日、千葉簡
易裁判所において、窃盗罪により、懲役一年、三年間刑の執行猶予の言渡を受け
て、そのころ確定したものであること、並びに、右(二)の判決が確定した後に至
つて同人が前掲(一)の裁判を受けた事実が発覚したものであることは、いずれ
も、本件記録に徴して明瞭であるから、前示(一)の執行猶予の言渡は、刑法第二
十六条第一項第一号により、同(二)の執行猶予の言渡は、同条第一項第三号によ
り、それぞれ、これを取り消すべきものといわなければたらない。然るに、原裁判
所は、検察官たる本件抗告人から、右各執行猶予の取消請求があつたのに対し、右
Aに対する、求意見の手続を経た上、右請求については管轄権がないとの理由でこ
れを却下する旨の決定をしているので、この点について按ずるに、刑事訴訟法第三
百四十九条第一項には「刑の執行猶予の言渡を取り消すべき場合には、検察官は、
刑の言渡を受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所
又は簡易裁判所に対しその請求をしなければならない。」と規定されているのであ
つて、検察官たる本件抗告人は、右Aの現在地又は最後の住所地が原裁判所の管轄
内である千葉県山武郡a村にあるものとして、原裁判所に対し、前示取消請求をし
たものであるところ、原決定は、右Bの司法警察員に対する供述調書を援用し、こ
れによれば、Aは、本年七月初旬ごろ、二、三日間千葉県山武郡a村bの右B方に
居つただけで、間もなく飛び出し、目下所在不明なることが認められ、従つて、B
方がAの現在地でないことは勿論、最後の住所であつたとも認め得ないから、原裁
判所には、右請求について審判する権限がない<要旨>といわねばならぬ旨を説示し
ているのであるが、しかし、住所とは、各人の生活の本拠をいうものであるか 旨>ら、ある者が、自ら、そこを生活の本拠とする意思を以て、その意思を実現すべ
き行為に出ていたことの認め得られる以上、たとえ、二、三日間しかそこにいなか
つたとしても、そこに居住していた期間内は、そこを以てその者の住所と認めるこ
とができるものというべきととろ、前示Bの司法警察員に対する供述調書中同人の
供述記載によれば、同人は、右Aの実父であつて、右Aが、昭和二十七年七月一
日、千葉簡易裁判所において、前掲(二)の裁判言渡を受けた際、弁護人の奨めに
応じて、同裁判所に出頭し、執行猶予によつて釈放されたAの身柄を引き受けて自
宅に連れ帰つた上、同人が、魚の行商をして真面目に働きたいとの考えを持つてい
たので、自宅に同居させて、右行商をさせることとなり、同人に対し、資本金二千
円を与え、且つ、自転車一台を買つてやつたところ同人は、右実父方に同居して五
日目ごろより仕事を始め、銚子から魚を仕入れて来ては、附近の町村を行商し、
二、三日間は、これを継続して生活していた事実が認められるのであるから、たと
え、その後間もなく、右B方を出たまま行方不明になつたとしても、前示B方に居
住していた間は、右Aの生活の本拠即ち同人の住所は、同所にあつたものと認める
のが相当であるというべく、従つて、同所以外には、同人の住所の所在を記録上認
め得られない本件においては、同所を以て、同人の最後の住所と認めるの外はない
ものといわなければならない。而して、原裁判所が、右最後の住所地たる千葉県山
武郡a村を管轄する簡易裁判所に該当することは、当裁判所に顕著なところである
から、検察官たる抗告人が、原裁判所に対して、前掲二回にわたる刑の執行猶予取
消の請求をしたのは、適法且つ相当であるというべく、従つて、管轄違を理由とし
て該請求を却下した原決定は失当であつて、本件即時抗告は現由があるので刑事訴
訟法第四百二十六条第二項、第三百四十九条第二項、刑法第二十六条第一項第一号
第三号に則り、原決定を取り消した上、昭和二十七年四月二十一日、平簡易裁判所
がAに対してした刑の執行猶予の言渡、及び、同年七月一日、千葉簡易裁判所が同
人に対してした刑の執行猶予の言渡は、いずれも、これを取り消すこととして、主
文のとおり決定する。
     (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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