弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴趣意は弁護人大橋茹、同加藤茂樹の夫々提出した控訴趣意書記載のとお
りであるから、これらを引用する。
 原判示第三(兇器準備結集罪)に対する事実誤認の論旨について
 原判決は罪となるべき事実の冒頭において、被告人は昭和二十年頃からてき屋の
仲間に入つて露店商をし乍ら諸所を歩き廻り、昭和二十九年終頃から肩書住居地に
定住するようになり(中略)博徒として福井市のA組一家(親分B)と誼を通じ、
武生市内において勢力を張るようになつたものであるが、もと武生市内の博徒とし
て勢力をもち且つA組身内の者との乱闘事件(いわゆるC乱闘事件)により服役し
ていたDが昭和三十二年十月頃出獄し、その後名古屋市在住の博徒Eの援助を得て
武生市内で賭場を開くようになつて、被告人とDとの間で賭場の勢力を争うように
なり次第に相反目するに至つた旨認定し、原判示第三事実において昭和三十四年五
月以後右両者の間は一層不穏の空気に包まれるに至つた経緯を判示した上「被告人
はDがその身内の者と共に自己方に殴り込みをかけるものと考え、身内輩下の考を
自己の傘下に糾合し同人等と共同してD一派の者による殴り込みを迎撃し、その身
体に害を加える等して之を撃退しようと企て同日(昭和三十四年六月二十一日)午
後四時頃より翌二十二日午前三時頃までの間被告人肩書住居地及び其の附近道路上
において兇器゛ある木刀八本(証第一、二号)等を準備しF、G、H、I、J等十
数名を集合させたものである」旨認定し、刑法第二百八条の二第二項(兇器準備結
集罪)を適用処断したことは記録上明らかであり、原判決挙示の証拠を綜合すれば
原判示事実を認めることができる。
 弁護人は先づ「原判決は被告人一派とD一派との間の対立紛争は既に解消されて
いたのであるから右両者間で険悪な空気に包まれていた旨の原判示認定は誤認であ
る」旨主張する。併し乍ら所論は単に犯罪の動機に対する誤認の主張にすぎないば
かりでなく、記録に徴すれば所論両者間の対立紛争は決して円満に解決したもので
はなく、漸次険悪の一途をたどつていた事が明らかであるから、論旨は採用できな
い。
 次に弁護人は「原判示木刀等は被告人が兇器として準備したものではなく被告人
輩下の若い衆が遊堕に流れ<要旨第一>るのを防ぎ身体を鍛練するためのものであ
る」旨主張する。案ずるに刑法第二百八条の二の規定にいう兇器の「準
備」とは兇器が必要に応じいつでも同条所定の加害行為に使用し得る状態に置くこ
とをいい、又兇器を「準備シ」とは兇器を右のような意味で犯人が自ら準備する場
合或は他人に指示ないし命令し若しくは他人と共同して準備する場合等犯人が兇器
の準備行為に自ら関与することをいうものと解すべきところ、原判決挙示の証拠殊
にGの検察官に対する供述調書中「Dの方からの殴り込み或はDの方との喧嘩出入
りにそなえてK方で用意しであつたのは木刀八本、空気銃一丁、竹刀二本であつ
た」「これらの木刀空気銃竹刀は(昭和三十四年)六月中旬頃Kの家の奥の間より
店の方へ出し、玄関の次の二畳位の部屋の整理ダンスの上へ並べて立てかけておく
様になつた。それはKとDとの対立関係が険悪になつて来て何時殴り込みをかけら
れるか何時喧嘩沙汰になるか判らんという情勢になつて来たのでKの兄貴から私等
若い者に対し、”Dの方から何時殴り込みに来るかも判らんから何時でも殴り込み
に応じられるよう用意して用心しておれ”と云われたので何時でも殴り込みに応じ
持ち出せるようにしたのである」「木刀や竹刀は相手を殴りつけるのに便利で且つ
ききめがあり、空気銃はいたんでいなかつたから弾が飛び出すし、又之で相手を殴
ることもできるので弾を百五十発くらい箱に入れて右整理ダンスの上に空気銃と一
緒に置いておいた」旨の供述記載(記録五七三丁以下)被告人の検察官に対する供
述調書中「昭和三十四年四月頃Gか木刀を買つて来た際木刀は若い者の鍛練にもよ
いし、それに自分のようなやくざ渡世の稼業をしている者には何か事があつた時に
用心にもなると思つて其の代金を支払つてやつた」旨の供述記載(記録一三四二
丁)等に徴すれば、被告人はDとの間の不穏な空気にそなえて右D及び其の一派の
者の身体に害を加える目的をもつて、自己の輩下のG等に指示して必要に応じ何時
でも本件木刀等を使用し得る状態に置いたものであると認められると共に押収にか
かる木刀八本(証第一、二号)によれば本件木刀等が其の用法上人を殺傷するに足
る器具即ち兇器であることが明らかであるから前記説示に照し、被告人はD及びそ
の一派の者に対する加害目的を以て兇器たる本件木刀等を準備したものであると謂
うことができる。当審における証人G同I及び被告人はいずれも身体を鍛練するた
めに本件木刀等を買い入れたものである旨供述するところであるか、右は原判決挙
示の証拠に照し、本件木刀を買い入れた目的の一端を述べているにすぎず、之がた
めに、前記認定を覆えすに至らないものである。所論は「本件木刀を被告人が被告
人方のタンスの上に並べておいたのは被告人方において賭博を開張した場合もし其
の賭博に詐欺手段を用いる者があれば容赦なく懲らせしめる必要があるので、その
ような事の起らないように予め客人に対して相当の備えあることを示すためのもの
であつてD一派に対する報仇を容易ならしめる手段のために並べたものではない」
旨主張するけれども所論の事実を確認するに足る証拠はない。論旨は採用できな
い。
 更らに弁護人は「原判示日時頃被告人方に原判示F、G、H、I、J等十数名が
居合せたことは争はないが、被告人は原判示の目的を以つてこれらの者を集合させ
たものではない。即ち(一)被告人は大阪の友人Lの依頼により同人に代つて同人
方の輩下の者の面倒をみることとなり其の結果同人の輩下たるF、G、H、M、
N、Oは昭和三十四年二月頃より六月中旬頃にかけて大阪より被告人方に来たもの
であり(二)原判示Iは従前より武生市内に居住し被告人の友人として被告人方に
出入していたものであり(三)その他A組の輩下の者が福井市より武生市内の被告
人方へ来た理由は、D方では被告人に対し何か含むところがあつて福井及び名古屋
方面から若いものを糾合しているとの風評を伝え聞き、被告人の身を案じて来たに
すぎず被告人が呼び寄せたものではなく右(一)ないし(三)の場合のいずれも被
告人が加害目的をもつて集合させたものではないから原判決は事実誤認である」旨
主張する。
 <要旨第二>案ずるに一般に「集合」とは二人以上の者が共同の目的で時及び場所
を同じくする状態を形成する行為をいうのであるから「集合セシメ」る
ということも二人以上の者に対し共同の目的で右の状態を形成せしめる行為をいう
わけであつて、必ずしも二人以上の者に対し時及び場所を同事くする状態を形成せ
しめる前提として人の場所的移動を必要とするものではないと解すべきである。従
つて刑法第二百八条の二第二項にいう「人ヲ集合セシメ」るとは二人以上の者に対
し同条所定の「害ヲ加フル目的」をもつて、場所的移動をなした上新たに時及び場
所を同じくさせる場合(第一形態)は勿論、二人以上の者が平素より起居ないし行
動を共同にしている場合の如く、既に時及び場所を同じくする二人以上の者が居る
場合にこれらの者に対し同条所定の「他人ノ身体ニ害ヲ加フル目的」を付与して其
の目的を共通にさせる場合(第二形態)をも含むものと解すべきであり、かく解す
るのが同条の立法趣旨にも適合するものと思料する。本件について之をみるに、記
録によれば(一)F、Gは昭和三十四年二月頃、H、西村ことMは同年三月頃、吉
村ことN、Oは同年六月十八日頃いずれも大阪市内より被告人を頼つて武生市内の
被告人方に来たものであるが、これは被告人の友人Lが刑務所に服役することとな
り同人の輩下の者達の面倒をみることができなくなつたので、被告人はやくざ渡世
の義理として同人輩下の右六名の者達の面倒をみることとなり、被告人方に寄宿さ
せていたこと(二)Iは被告人の身内として平常より被告人方に出入りしていた者
であること、以上の七名はいずれも本件犯行当日被告人方にあつて被告人と行動を
共にしD一派より殴り込みを受ける際には之を迎撃するため結束を固めていたこと
(三)本件犯行の二日前(六月十九日)被告人は同人方のH等若い者に対し「今晩
福井からAの者が大勢来るからお前達も出て挨拶しろ」と申し向けていること、と
ころがA組の者達は警察官に其の動静を察知されて抑制されたので被告人の予期に
反し武生市へ来なかつたこと、そこで被告人は更らに福井市内のA組へ電話をかけ
A組の若い者達が武生市へ来ない事情を問い合せていること、翌二十日夜被告人は
再び輩下の若い者に対し「明日福井のAの方から大勢来るから明日は皆外へ出ない
で家に居れ、皆が来たらお前達は御苦労さんですと挨拶しろ」と申し向けているこ
と、(記録五四三丁以下)翌二十一日午前九時頃A組の身内であるP、Qが被告人
方に来て被告人及びIと会談した上一旦A組に帰つたこと、同日午後三時頃PらA
組の若い者六、七名が自動車に分乗して被告人方に来たこと、更らに同日夕刻Jら
A組の若い者約十名位が自動車で被告人方に集つたことを夫々認めることができ
る。以上認定事実に本件犯罪の動機たる被告人とD一派との対立紛争の点並びに前
段説示の兇器準備の点を綜合すれば所論(一)のF、G、H、M、N、Oの六名及
び所論(二)のIは平常被告人と起居行動を共にしていた者であるが、被告人より
D一派の攻撃を受けた場合には、これらの者の身体に害を加える目的を以て之を迎
撃すべく指示されて其の結束を固め団結していたものであること即ち被告人はこれ
らの者に対し右の加害目的を以てD一派を迎撃すべく指示して団結させたものであ
ると認め得られるが故に、前記「集合セシメ」る形態の第二に該当し、所論(三)
のA組の者達が福井市より武生市内の被告人方へ来た点は、被告人がA組(殊に其
の幹部)と連絡交渉してD一派の殴り込みに対し其の応援を求めD一派を迎撃して
其の身体に害を加える目的を以て被告人方へ呼び寄せたものと認め得られるから、
右は前記説示するところに照し「集合セシメ」る形態の第一に属するものと謂うこ
とができる。原判決の説示は右の如き二種の形態に分類するところはないが、畢竟
するに被告人がD一派に対する加害目的を以て、これらの者を集合せしめた旨認定
しているのであつて原判決の認定は正当である。右認定に抵触する原審第一回公判
調書中被告人の供述記載、当審における証拠調期日調書中証人G、同Iの各供述記
載、当審第二回公判調書中証人Rの供述部分はたやすく措信し難く、他に右認定を
覆えすに足る有力な証拠はない。
 原判示第三に対する事実誤認の論旨はいずれも採用しない。
 量刑不当の論旨について。
 記録を精査し、被告人の性行、経歴、前科、本件各犯行に共通する暴力事犯性と
被告人の地位役割等量刑に影響する諸般の事情を綜合すれば被告人に対し徴役一年
の実刑を科した原審の科刑は重きに失するものとは認められない。所論の諸点につ
いては十分に検討を加え、之を考慮に容れたが未だ以て原判決の科刑を変更すべき
事由とするに至らない。論旨は採用できない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り本件控訴を棄却し、当審における訴訟費
用は同法第百八十一条第一項本文に従い被告人に負担させることとし主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 山田義盛 裁判官 辻三雄 裁判官 内藤丈夫)

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