弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人吉仲敏夫、同島田三郎、同辻幸次郎の上告理由第一点について。
 列車連行のための専用軌道と道路との交差するところに設けられる踏切道は、本
来列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するものであるから、必
要な保安のための施設が設けられてはじめて踏切道の機能を果すことができるもの
というべく、したがつて、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわ
せ一体としてこれを考察すべきであり、もしあるべき保安設備を欠く場合には、土
地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるものとして、民法七一七条所定の帰責
原因となるものといわなければならない。この点の原審の判断に所論の法令違背は
なく、論旨は採用することができない。
 同第二、四点および結語について。
 踏切道における軌道施設に保安設備を欠くことをもつて、工作物としての軌道施
設の設置に瑕疵があるというべきか否かは、当該踏切道における見通しの良否、交
通量、列車回数等の具体的状況を基礎として、前示のような踏切道設置の趣旨をみ
たすに足りる状況にあるかどうかという観点から、判断されなければならない。そ
して、保安設備を欠くことにより、その踏切道における列車連行の確保と道路交通
の安全との調整が全うされず、列車と横断しようとする人車との接触による事故を
生ずる危険が少なくない状況にあるとすれば、踏切道における軌道施設として本来
備えるべき設備を欠き、踏切道としての機能が果されていないものというべきであ
るから、かかる軌道設備には、設置上の瑕疵があるものといわなければならない。
 これを本件について見るに、原審の適法に確定した諸事情、とくに、本件軌道の
東西の見通しが極めて悪く、本件踏切と交差する道路の中央部の軌道の南側レール
から約三・六五メートル南の地点から軌道上西方を見通しうる距離はわずか二〇メ
ートル前後にしかすぎず、右踏切を自動車を運転し南から北へ横断しようとすると
きは、自動車の前部を踏切内に乗り入れ、たまたま列車が通過する場合には、それ
と接触するおそれがある地点において、一旦停車し、軌道上の状況を確かめなけれ
ばならないこと、本件軌道は貨物列車専用の単線の軌道であつて、いずれの列車の
速度も時速二〇キロメートルを越えることはないが、a駅には蒸気機関車の方向を
転換させる転車台がないためa駅からb駅方面へ貨車を牽引する場合、機関車は炭
水車を先頭にして進むいわゆる逆行運転をせざるをえないし、その逆行運転のとき
は、機関士は機関士席に正常に腰かけたまま、上半身を捻じ曲げて、後向きになる
ようにし進行方向に注意しながら機関車の操作をしなければならないため、機関士
の前方注意力は正常運転の場合に比較して著しく阻害されること、上告人は経営合
理化のため昭和三六年四月一日それまで第一種(遮断機を設け警手を配置する)で
あつた本件踏切を第三種(警報機のみを設置する)に変更したが、本件事故後であ
る同年一一月から自動第一種踏切とし、警手の配置はしないが、列車が通過する度
に自動的に遮断機が閉じる設備を設置したこと、昭和三四年一〇月ごろ、上告人が
本件踏切の交通量について調査したところによると、歩行者を1、自転車を2、荷
車・牛馬車を3、小型自動車を10、それ以外の自動車を30として算出した総交
通換算量は三三、〇四八であり、自動車の一日の交通量は一、五二二台であり、本
件事故当時はこれを相当上廻わる交通量であつたこと、昭和三六年四月当時本件踏
切を通過する定時列車回数は一日一二回であつたが、a駅構内の貨車入替作業のた
め時を定めず度々機関車が通過すること、第三種踏切に変更された後、保安設備と
して設置された閃光式警報機は本件踏切の南側西端と北側東端にあり、南側の警報
機は高さが約五・八メートルあり、その上部に警報ベルが、また、地上約四メート
ルの個所に二個の閃光赤色灯がそれぞれ取り付けられていて、東行列車が踏切手前
一四五メートル、西行のそれが同じく一四八メートルの軌道上にさしかかると自動
的に警報ベルが鳴り始め、赤色灯が点滅し始める装置になつており、これらの作動
中は、正常な注意力を働かすならば警報機から三〇メートル手前の地点で警報ベル
の音を聴取でき、二〇メートル手前の地点で赤色灯の点滅を確認することはできる
が、南側閃光式警報機は電柱のやや陰になり、高さが高いため接近すると却つて多
少見えにくくなり、そのうえ、その警報ベルは旧式のものでその音は比較的弱く、
周囲の騒音が大きい場合は、聴きとり難い状況にあつたことに徴すると、本件踏切
はただ単に警報機を設置したのみでは保安設備として不十分であり、少なくとも自
動遮断機の設備をするのでなければ踏切道としての本来の機能を全うしうる状況に
あつたものとなしえないものと認め、本件踏切に自動遮断機の保安設備を欠いたこ
とをもつて、上告人所有の土地工作物の設置に瑕疵があり、本件事故はこの瑕疵に
より発生したものであるとした原審の判断は、正当ということができる(当裁判所
昭和四〇年(オ)第五三六号同四六年四月二三日第二小法廷判決参照)。原判決に
所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 所論の昭和二七年六月一八日輸保第一〇一号国鉄運輸総局長依命通達に定められ
た踏切の設置標準は、行政指導監督上の一応の標準として必要な最低限度を示した
ものであることが明らかであるから、本件踏切の設備が一応右基準に合致している
からといつて、本件踏切道の軌道施設の設置に瑕疵がなかつたものとして民法七一
七条による土地工作物所有者の賠償責任が否定さるべきことにはならない。この点
に関する原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は採用するこ
とができない。
 同第五点について。
 原判決は、本件事故は本件踏切の設置について瑕疵があつたため生じたものであ
ると認定判断したものであること前記のとおりであるから、被上告人Bに過失があ
り、同被上告人がDの死亡につき責任を負わなければならないかどうかとは別に、
本件事故の結果死亡したDの死亡の結果につき上告人が責に任じなければならない
ことは明らかである。したがつて、原判決に所論の違法はない。論旨は採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    関   根   小   郷

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