弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1 申立て
相手方が平成17年2月7日付け豊契発第568号をもってなした申立人に対
する指名競争入札等の指名を平成17年2月7日から同年5月6日まで停止する旨
の処分は,本案事件の判決があるまでこれを停止する。
第2 事案の概要
本件は,平成17年2月7日付けで指名競争入札等の指名を停止するとの通知
を受けた申立人が,同通知の理由には全く根拠がなく,豊田市職員らの違法行為を
告発したことの報復としてなされたものであるとして,その取消しを求める抗告訴
訟(本案)を提起した上で,行政事件訴訟法25条2項に基づき,同通知の執行を
本案事件の判決まで停止するように求めた事案である。
1 前提事実(疎明資料等により一応認められる事実)
(1) 豊田市による本件各契約の一部解除の意思表示
豊田市は,平成16年4月1日,申立人との間で,同日から平成17年3
月31日までの間の市役所及び美術館の清掃業務を委託する旨の各契約を締結した
ところ,同年2月2日,申立人に対し,清掃業務の一部に不履行があったとして,
豊田市契約規則43条に基づき,上記各契約の一部を解除するとの意思表示をした
(疎甲3ないし6)。
(2) 指名停止の通知
相手方は,平成17年2月7日付けで,申立人が本件各契約の一部を解除
されたことは,「豊田市指名停止要綱」別表5号ウの契約者の責めに帰する理由に
より契約を解除されたときに該当することを理由として,申立人について指名競争
入札等の指名を同日から同年5月6日までの期間停止する措置(以下「本件指名停
止」という。)を取ることとし,そのころ,申立人に対して通知した(疎甲2)。
(3) 本案の提起
申立人は,平成17年2月10日,本件指名停止の取消しを求める本案事
件を当裁判所に提起した(疎甲1)。
2 争点
(1) 本件指名停止の行政処分該当性の有無
(2) 回復の困難な損害の存否
3 争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 本件指名停止の行政処分該当性の有無
(申立人の主張の要旨)
抗告訴訟の対象となる公権力の行使とは,法が認めた優越的な地位に基づ
き,行政庁が法の執行としてする権力的な意思活動をいうとされているところ,指
名競争入札は,地方自治法234条2項,地方自治法施行令167条により定めら
れているものであり,指名停止をされれば指名競争入札に参加する資格を失う。そ
うすると,相手方のした本件指名停止は,申立人の意思にかかわらず一方的に申立
人に受忍を強制するものであり,また,裁判所によって取り消されなければその効
果を否定できないのであるから,行政事件訴訟法3条2項にいう行政処分に当た
る。
なお,相手方は,指名停止の通知は,あくまでも私人と同等の立場で行う
契約についての準備行為であると主張する。しかし,相手方の締結する契約は,一
般の民間の契約とは異なり,法に定められた方法でされるのであるから,相手方は
私人よりも優越的な地位にあり,しかも指名停止を受ければ落札の機会を一方的に
奪われるのであるから,相手方の主張は失当である。
(相手方の主張の要旨)
相手方の行う指名停止の通知は,あくまでも私人と同等の立場で行う契約
について,その準備的行為として行われる契約の当事者選択に係る普通地方公共団
体の内部的行為にすぎないものであり,法の認める優越的な意思の発動として行わ
れるものではない。
また,そもそも申立人は,相手方と契約を締結する権利又はその機会を与
えられる権利を当然に有しているものではなく,指名停止措置によって直接に個人
の権利又は法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果が生じるものではない。
そうすると,本件指名停止は,行政事件訴訟法3条2項に規定する「処
分」に該当せず,取消訴訟の対象にもならないから,本案は不適法であり,また,
本件申立ても直ちに棄却されるべきである。
(2) 回復の困難な損害の存否
(申立人の主張の要旨)
本件指名停止における指名停止期間は平成17年2月7日から同年5月6
日までの間とされているところ,豊田市の平成17年度の物品購入,建設工事,そ
の他一般廃棄物,産業廃棄物の収集運搬などの業務の指名競争入札は2月中旬から
3月末までに終了するから,本件指名停止は平成17年度のすべての指名競争入札
に申立人が参加できない効果をもたらすものであり,これにより申立人は回復の困
難な損害を被る。具体的にいえば,①申立人の総売上高約2億6114万円のう
ち,相手方から請け負う清掃契約に基づくものの割合は約17パーセントであり,
指名停止によりこれが失われる上,指名停止に伴う信用低下のために他の契約にも
悪影響が予想される,②清掃業務については相手方との間でしか契約していないた
め,同業務のために雇用した従業員を解雇せざるを得ない,③申立人の清掃業務用
資産が遊休資産化する一方,同資産の取得のためのローンの返済もしなければなら
ないので,申立人の経営状態は悪化し,最悪の場合には倒産という事態にもなりか
ねない,以上のような損害を被ることが予想される。
したがって,かような回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるの
で,本件指名停止の執行停止を求める。
(相手方の主張の要旨)
申立人は,「回復の困難な損害」として,本件指名停止により,申立人が
事実上平成17年度のすべての指名競争入札に参加できないことを主張する。
しかしながら,申立人主張の損害は,金銭賠償により十分回復を図ること
ができるものであり,「回復の困難な損害」には当たらない。そもそも,申立人が
指名停止を受けていないとしても,申立人が指名競争入札に参加できるとは限らな
いし,仮に申立人が指名競争入札に参加できたとしても,申立人が相手方から公共
工事等を受注できるとは限らないのであって,申立人の主張は「申立人の一方的な
期待」を述べているにとどまり,損害には当たらない。
したがって,申立人には回復の困難な損害がなく,執行停止の必要性がな
いことは明らかであり,この点でも本件申立ては直ちに棄却されるべきである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(行政処分性の有無)について
ア 行政処分性の判断基準
行政事件訴訟法3条2項所定の取消訴訟の対象となる行政庁の処分とは,
公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうちで,その行為により直接国民の
権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう
と解される(最高裁判所昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号21
7頁,最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号180
9頁)ところ,相手方のする指名停止措置が取消訴訟の対象となる行政処分に該当
するというためには,それが法の認める優越的な意思の発動として行われるもので
あり,その結果,個人の権利又は法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果を有
するものであることが必要である。
イ 本件指名停止の行政処分性
(ア) 指名競争入札制度の概要
指名競争入札は,あらかじめ特定多数(複数)の入札参加者を指名(選
定)して,これらの者をして入札させる方法によって競争をさせ,発注者にとって
最も有利な条件を提供する者との間で契約を締結する契約方法をいうところ,地方
自治法上,同方法は契約の性質又は目的上一般競争入札に適しないとき,契約の性
質又は目的上競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認めら
れる程度に少数であるとき,又は一般競争入札に付することが不利と認められると
きに行われるとされている(同法234条2項,同法施行令167条)。また,普
通地方公共団体の長は,指名競争入札に参加する者に必要な資格として,工事又は
製造の請負,物件の買入れその他当該普通地方公共団体の長が定める契約につい
て,あらかじめ,契約の種類及び金額に応じ,工事,製造又は販売等の実績,従業
員の数,資本の額その他の経営の規模及び状況を要件とする資格を定めなければな
らないとされ(同法施行令167条の11第2項)。これを受けて豊田市において
は,相手方が入札参加者の資格を定め,その資格を公示するとしている(豊田市契
約規則20条)ほか,契約担当者は,指名競争入札に参加しようとする者の参加資
格を審査し,その資格を有する者の名簿(以下「資格者名簿」という。)を作成し
なければならない旨定めている(同規則5条2項3項)。
そして,普通地方公共団体の長は,指名競争入札により契約を締結しよ
うとするときは,当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから,当
該入札に参加させようとする者を指名しなければならない(地方自治法施行令16
7条の12第1項)ところ,豊田市においては,相手方は資格者名簿に記載された
者の中から入札に参加する者を指名する基準(「豊田市工事等競争入札参加者の資
格審査及び指名等に関する要綱」)を定め,契約担当者は,当該契約についての入
札者を資格者名簿に記載された者の中からなるべく3名以上指名することとし(豊
田市契約規則21条,22条1項),この指名を受けなかった者は,入札に参加す
ることができない。
(イ) 指名停止の法的性質
ところで,いわゆる指名停止措置については,地方自治法及び同法施行
令には明文の規定がないところ,指名停止措置は,工事請負契約業務を統括する者
がその所属担当者に対し,一定の要件に該当するため,工事その他の契約を受注さ
せるのにふさわしくない有資格業者について,一定の期間,指名の対象外とするこ
とを指示する措置と解される。
そして,有資格業者のうちからある契約の入札参加者を指名することに
ついては法令上は何の制約もない上,「豊田市工事等競争入札参加者の資格審査及
び指名等に関する要綱」によっても,入札参加者を指名する場合の運用基準は別表
第5のとおりとされている(10条)ところ,その内容は,指名を不相当とする事
情や「勘案」ないし「考慮」されるべき事情を掲げているにすぎず,資格者名簿に
登載されたからといって,「常に」あるいは「一定の割合」でもって指名を受ける
ことを保障するものではなく,つまるところは,相手方が指名を相当と判断したと
きに指名を受け得るというものにすぎないことにかんがみると,そもそも申立人が
豊田市と契約を締結する権利ないしその機会を与えられている権利を当然に有して
いるとみることはできず,仮に申立人が豊田市の発注する契約に関する指名競争入
札のうちのいずれかの指定を受けることが通例であったとしても,それは単なる事
実上の期待にすぎないというべきである。
また,指名競争入札は,私人と対等な関係で締結する契約の当事者の選
定方法の一種であるから,いかなる有資格業者を指名するか,あるいは指名しない
かということは,あくまでも契約の相手方選定に係る普通地方公共団体内部におけ
る準備的行為にすぎないというべきである。そして,指名停止は,その期間中当該
業者を入札参加者として指名しないという包括的な措置という性質を有することか
らすると,これもまた契約の相手方選定に係る普通地方公共団体内部における契約
の準備的行為の性質を有するというほかない。
そうすると,相手方のした本件指名停止は,法の認める優越的な意思の
発動として行われるものとはいえないし,また,それによって直接に個人の権利又
は法律上の利益に直接の影響を及ぼす法的効果が生じるものともいえない(入札参
加資格の等級決定に関する東京地方裁判所平成12年3月22日判決・判例地方自
治214号25頁及びその控訴審である東京高等裁判所平成12年9月27日判決
参照)。
2 結論
したがって,本件申立ては,その余について判断するまでもなく不適法なも
のとしてこれを却下することとし,主文のとおり決定する。
  平成17年3月2日
    名古屋地方裁判所民事第9部
          裁判長裁判官   加藤幸雄
             裁判官   舟橋恭子
             裁判官   尾河吉久

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