弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1A事件
(1)被告が,原告に対し,平成16年6月25日付けでした行政文書不開示
決定処分(東局総総第×××号)(ただし,原告が提出した文書に係る部分
を除く。)を取り消す。
(2)被告が,原告に対し,平成16年6月25日付けでした行政文書不開示
決定処分(東局総総第×××号)(ただし,原告が提出した文書に係る部分
を除く。)を取り消す。
2B事件
処分行政庁が,原告に対し,平成17年2月16日付けでした行政文書不開
示決定処分(東局総総第×××号)(ただし,原告が提出した文書に係る部分
を除く。)を取り消す。
第2事案の概要
本件は,租税特別措置法66条の4に基づき東京国税局から移転価格に関す
る税務調査を受け,法人税の更正処分等を受けた原告が,平成16年6月1日
及び平成17年1月19日,A事件被告兼B事件処分行政庁東京国税局長(以
下,単に「被告東京国税局長」といい,B事件被告国と併せて「被告ら」とい
う。)に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開
法」という。)に基づいて,当該税務調査及び更正処分等において取得・作成
された行政文書の開示を請求したところ,被告東京国税局長が,平成16年6
月25日付け及び平成17年2月16日付けで,いずれも全部不開示の決定を
したことから,これらを不服とする原告が,その取消しを求めている事案であ
る。
なお,原告が上記開示請求の対象とした文書には,原告自身が前記税務調査
の過程で東京国税局に提出した文書が含まれていたところ,原告は,本訴提起
後,上記各不開示決定の取消請求のうち,原告が提出した文書に係る部分を取
り下げ,その余の文書に係る部分の取消しのみを求めている。
1前提事実(争いのない事実及び顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる事実)
(1)原告は,図書,雑誌,教科書その他印刷物,映画,スライド,レコード,
録音済みテープ,シート,英語学習用機器の開発,輸入,買付け,販売,割
賦販売及び貸付け等を目的とする株式会社である。
(2)ア原告は,東京国税局から,租税特別措置法66条の4に基づく移転価
格に関する税務調査を受け(以下「本件調査」という。),新宿税務署長
から,平成16年11月24日付けで,平成9年9月1日から平成10年
8月31日までの事業年度及びこれに連続した5事業年度に係る法人税の
各更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)を受けた(甲5の1
∼6)。
イ本件各更正処分等は,原告がした,訪問販売に用いる子ども向け英語教
材の輸入取引について,国外関連者に支払った対価が,租税特別措置法6
6条の4第1項に規定する独立企業間価格を超えていると認定し,その差
額を国外関連者への所得移転金額として,原告の所得金額に加算したこと
を理由としてされたものである(甲5の1∼6)。
ウ原告は,平成17年1月20日,本件各更正処分等に対する異議の申立
てをした。
(3)原告は,被告東京国税局長に対し,情報公開法に基づき,以下のとおり,
請求対象を特定した上で,行政文書の開示請求を行った(甲1,2,12)。
ア平成16年6月1日付け請求(東局公開××××−×)
東京国税局調査第一部国際情報第1部門(以下「本件担当部門」とい
う。)国際税務専門官及び国税調査官作成に係る平成16年1月19日付
け「移転価格調査の中間報告について」と題する書面及び同書面添付別紙
において,独立企業間価格算定の比較対象取引として抽出した訪問販売会
社11社に関する,以下の情報を含む行政文書
(ア)各事業年度ごとの,上記書面添付別紙の①に記載されている訪問販
売会社11社平均売上総利益率の算定に際して用いられた,当該訪問販
売会社11社各社(以下「11社各社」という。)の売上総利益率と売
上営業利益(販売費及び一般管理費)率の情報
(イ)各事業年度ごとの11社平均売上総利益率の算定に際し,11社各
社ごとの,営業経費(販売費及び一般管理費)から売上原価へ振り替え
た費目,売上原価から営業経費(販売費及び一般管理費)へ振り替えた
費目,及び振り替えた金額の費目ごとの対売上比率に関する情報
(ウ)各事業年度ごとの11社平均売上総利益率の算定に際し,セグメン
ト情報を使用している場合の営業経費の配賦の基準に関する情報。
(エ)11社各社ごとの売上げの規模(年商)のカテゴリー区分に関する
情報
(オ)11社各社ごとの商品の種類に関する情報
(カ)11社各社ごとの比較対象商品の平均販売単価に関する情報
(キ)11社各社ごとの,抽出された比較対象取引に無体財産が用いられ,
ロイヤリティーやライセンス料を支払っている場合には,そのロイヤリ
ティーレート又はライセンス料率に関する情報
(ク)11社各社ごとの比較対象取引(現金販売又は割賦販売等)の売上
げの認識基準に関する情報
(ケ)11社各社ごとの,比較対象取引の販売代金の支払条件(月末締め
又は日後払い等の別)及び商品保証の有無に関する情報
(コ)11社各社ごとの,事業活動に必要とされる資金を潜在的に依存し
ている関係会社間取引の有無に関する情報
(サ)11社各社ごとの訪問販売以外の販売方法による,比較対象商品の
販売の有無に関する情報
(シ)11社各社ごとの販売方法(社員から顧客へ直接販売する方法,外
部の販売員が購入して顧客に販売する方法等の別)に関する情報
イ平成16年6月1日付け請求(東局公開××××−×)
本件担当部門作成に係る平成16年5月17日付け「比較対象企業3社
の調整後売上総利益率(3社平均)」と題する書面において,独立企業間
価格算定の比較対象取引として抽出した比較対象企業3社に関する,以下
の情報を含む行政文書
(ア)各事業年度ごとの,上記書面に記載されている調整後売上総利益率
の算定に際して用いられた,当該比較対象企業3社各社(以下「3社各
社」という。)の売上総利益率と売上営業利益(販売費及び一般管理
費)率の情報
(イ)各事業年度ごとの調整後売上総利益率の算定に際し,3社各社ごと
の,営業経費から売上原価へ振り替えた費目,及び振り替えた金額の費
目ごとの対売上比率に関する情報
(ウ)各事業年度ごとの調整後売上総利益率の算定に際し,セグメント情
報を使用している場合の営業経費の配賦の基準に関する情報。
(エ)3社各社ごとの売上げの規模(年商)のカテゴリー区分に関する情

(オ)3社各社ごとの商品の種類に関する情報
(カ)3社各社ごとの比較対象商品の平均販売単価に関する情報
(キ)3社各社ごとの,抽出された比較対象取引に無体財産が用いられ,
ロイヤリティーやライセンス料を支払っている場合には,そのロイヤリ
ティーレート又はライセンス料率に関する情報
(ク)3社各社ごとの比較対象取引(現金販売又は割賦販売等)の売上げ
の認識基準に関する情報
(ケ)3社各社ごとの,比較対象取引の販売代金の支払条件(月末締め又
は日後払い等の別)及び商品保証の有無に関する情報
(コ)3社各社ごとの,事業活動に必要とされる資金を潜在的に依存して
いる関係会社間取引の有無に関する情報
(サ)3社各社ごとの訪問販売以外の販売方法による,比較対象商品の販
売の有無に関する情報
(シ)3社各社ごとの販売方法(社員から顧客へ直接販売する方法,外部
の販売員が購入して顧客に販売する方法等の別)に関する情報
(ス)本件担当部門国際税務専門官及び国税調査官作成に係る平成16年
1月19日付け「移転価格調査の中間報告について」と題する書面にお
いて独立企業間価格算定の比較対象取引として抽出した訪問販売会社1
1社の中から,前記「比較対象企業3社の調整後売上総利益率(3社平
均)」と題する書面において独立企業間価格算定の比較対象取引として
3社を抽出した理由・根拠に関する情報
ウ平成17年1月19日付け請求(東局公開××××−××)
(ア)本件各更正処分等に関して,平成13年6月1日査調7−1ほか
「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(以下「事
務運営指針」という。)2−5(推定規定又は同業者に対する質問検査
規定の適用に当たっての留意事項)(3)に基づき納税者に行った説明の
内容及びその記録
(イ)上記説明に先立ち東京国税局が検討した,租税特別措置法通達66
の4(2)−3「比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素」に掲
げられた12の項目に係る比較対象取引の選定等に関する資料
(4)不開示決定と本訴の提起
ア本件各不開示決定
(ア)被告東京国税局長は,前記(3)ア及びイの各開示請求に対しては,
平成16年6月25日付けで,同ウの開示請求に対しては,平成17年
2月16日付けで,いずれも請求対象文書を「実地調査事案つづり」と
特定した上で,その全部を不開示とする決定をした(以下「本件各不開
示決定」という。)。
(イ)被告東京国税局長は,本件各不開示決定において,①調査対象者及
び同業他社の取引に係る具体的かつ詳細な内容が記載されており,当該
法人等の経営の機微に属するもので,公にすることにより,当該法人等
の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため,情
報公開法5条2号イに該当すること,②特定の法人に関する税務調査の
資料であり,公にすることにより,調査の端緒,非違の着眼点,調査書
類等について具体的な実例を明らかにすることとなり,税務当局をして
正確な事実の把握を困難にさせるおそれ又は違法若しくは不当な行為の
発見を困難にさせるおそれがあるとともに,特定の調査先及び同業者と
して選定した企業の内部情報を明らかにすることとなり,納税者等の税
務当局に対する信頼を失墜させ,納税者等の理解と協力が得られない事
態を招くなど,税務行政の円滑な執行に支障を及ぼすおそれがあるため,
情報公開法5条6号に該当することを,不開示の理由とした。
(以上につき,甲3,4,13)
イ本訴の提起及び請求の減縮
(ア)原告は,本件各不開示決定全部の取消しを求めて,本訴を提起した。
(イ)被告らは,本訴において,本件各不開示決定において請求対象文書
として特定した「実地調査事案つづり」が,別紙記載の各文書により構
成されている旨を明らかにしたところ,原告は,本件各不開示決定のう
ち,原告が東京国税局に提出した各文書(別紙の網掛け部分)に係る部
分の取消請求を取り下げた(以下,別紙記載の各文書のうち,網掛け部
分以外のものを「本件各文書」という。)。
2主な争点(摘示すべき当事者の主張は後記第3「争点に対する判断」に記載
するとおりである。)
(1)本件各文書に記載された情報は,情報公開法5条2号イの規定する不開
示情報に該当するか。これに該当するとして,同号柱書ただし書の規定する
「人の財産を保護するため公にすることが必要であると認められる情報」に
該当するか。
(2)本件各文書に記載された情報は,情報公開法5条6号イの規定する不開
示情報に該当するか。
(3)本件各文書に記載された情報が,上記(1)又は(2)に規定する不開示情報
に該当するとして,本件各文書は,情報公開法6条1項の規定により部分開
示すべきものか。
第3争点に対する判断
1本件各文書の分類,記載されている情報
(1)被告らの主張
被告らは,原告が本訴において開示を求めている本件各文書は,別紙の
「文書名」欄記載の名称の各文書(ただし,網掛け部分を除く。)に分類す
ることができるとし,それぞれの文書の内容,そこに記載されている情報に
ついて,以下のとおり主張している。
ア別紙1(番号1から6(別紙記載の番号(No)を指す。以下同じ。)ま
で)記載の各文書
上記の各文書は,本件調査を始めるに当たり,既に東京国税局が所持し
ていた資料であって,本件調査の対象の選定及びその準備の際に収集され
たものである。
こうした資料は,本件調査対象法人(原告を指す。以下同じ。)及びそ
の国内関連会社(以下,本件調査対象法人と併せて「本件調査対象法人
等」という。)作成の法人税確定申告書(番号1),本件調査対象法人等
が税務申告の際に税務当局に提出した,事業内容を記載した書類(番号
2),税務当局作成の本件調査対象法人の課税実績を記載した書類(番号
3),税務当局作成の本件調査対象法人に対する調査記録の写し(番号
4),税務当局作成の本件調査対象法人の関連会社に対する調査記録の写
し(番号5),東京国税局部内で収集した本件調査対象法人に係る情報が
記載されている文書(番号6)から成る。
上記の各文書のうち,法人税確定申告書(番号1)には,本件調査対象
法人等の特定の事業年度における所得金額及び税額,株主情報,財務情報,
取引金融機関の口座番号及び期末預金残高,特定の事業年度における資産
及び負債の期末取引残高が記載されている。事業内容を記載した書類(番
号2)には,本件調査対象法人等の事業の特色,売上げの額,売上原価の
額,売上総利益の額,営業利益の額,所得金額及び売上構成比が記載され
ている。課税実績を記載した書類(番号3)には,本件調査対象法人の各
事業年度ごとの申告実績及び同法人に係る税務当局が行った税務調査結果
が記載されている。本件調査対象法人に対する調査記録の写し(番号4)
には,同法人の申告所得金額,調査後所得金額,当時の調査担当者が調査
において指摘した事項,調査に係る課税上の問題点として当時の調査担当
者が掲げた意見が記載されている。本件調査対象法人の関連会社に対する
調査記録の写し(番号5)には,本件調査対象法人,国外関連者及び国内
関連会社を含めたグループ法人間の出資比率,その取引内容及び取引金額,
当該調査に係る調査結果,当時の調査担当者の意見として記載された,調
査に係る留意すべき課税上の問題点が記載されている。部内で収集した情
報が記載されている文書(番号6)には,本件調査対象法人の国外関連者
が行った取引についての取引科目,取引金額及び取引数量が記載されてい
る。
イ別紙2(番号7から9まで及び61)記載の各文書
上記の各文書は,本件調査対象法人に対する臨場調査において東京国税
局職員が作成した文書である。
こうした文書は,本件調査対象法人に当てた資料提出依頼書(番号7),
同質問書(番号8),これらの資料提出依頼書及び質問書に対する回答を
整理した表(番号9),本件調査対象法人の担当者との応答内容を記録し
た応接録(番号61)から成る。
上記の各文書のうち,資料提出依頼書(番号7)には,本件調査対象法
人の資本関係及び事業内容を記載した書類,本件調査対象法人が独立企業
間価格の算定に使用した書類又は国外関連取引の内容を記載した書類に関
する,具体的な文書名が記載されており,文書名が明らかではない場合は,
本件調査対象法人固有の取引実態を記載するとともに,提出を依頼する書
類の詳細な説明文が記載されている。質問書(番号8)には,本件調査対
象法人の資本関係及び事業内容,本件調査対象法人の独立企業間価格の算
定又は国外関連取引の内容に関する具体的な質問事項が記載されている。
資料提出依頼・質問書に対する回答を整理した表(番号9)には,資料提
出依頼又は質問に対する応答として,本件調査対象法人から提出された文
書又は回答の有無及びその内容並びに提出された文書又は回答が依頼又は
質問にそうものか否かの判定及びその理由が記載されている。応接録(番
号61)には,応接の相手方の氏名及び役職,応接の相手方から聴取した
本件調査対象法人の資本関係及び事業内容,本件調査対象法人の独立企業
間価格の算定若しくは国外関連取引の内容又は本件調査対象法人から提出
された文書について東京国税局職員が移転価格調査上更なる事実確認が必
要であると考えた事項に関する発問とそれに対する応答内容が記載されて
いる。
ウ別紙3(番号62から83まで)記載の各文書
上記の各文書は,同業他社(本件調査対象法人についての同業他社を指
す。以下同じ。)からの情報収集の際に収集・作成された文書である。
こうした文書は,東京国税局職員が作成した同業他社当ての資料提出依
頼書(番号62),同質問書(番号63),これらに対する同業他社作成
の回答書(番号64),同業他社作成の組織図(番号65),同業他社作
成の業務の流れ図(番号66),同業他社作成の会社概要・商品説明資料
(番号67),同業他社作成の販売価格表(番号68),同業他社作成の
製造(仕入)価格表(番号69),同業他社とその取引先との間の契約書
(番号70),同業他社作成の取引先名簿(番号71),同業他社作成の
取引先管理表(番号72),同業他社の提出した法人税確定申告書(番号
73),同業他社が商法(会社法)に規定する計算書類として作成した営
業報告書(番号74),同業他社作成の総勘定元帳(番号75),同業他
社作成の勘定科目ごとの明細を整理した補助簿(番号76),同業他社作
成の損益計算書及び貸借対照表(番号77),同業他社作成の販売費及び
一般管理費の内訳が記載された文書(番号78),同業他社作成の事業部
別損益が記載された表(番号79),同業他社作成の商品別損益が記載さ
れた表(番号80),同業他社作成の仕入先別の売上げが記載された表
(番号81),同業他社作成の商品受払表(番号82),同業他社作成の
商品販売報酬規定(番号83)から成る。
上記の各文書のうち,資料提出依頼書(番号62)には,同業他社の事
業内容,組織の構成並びに資本関係及び財務内容を踏まえた上で,同業他
社の契約に関して,提出を依頼する契約書の具体的な説明文が記載されて
いる。質問書(番号63)には,同業他社の事業内容,組織の構成,資本
関係及び財務内容を踏まえた上で,同業他社の仕入又は販売形態に関して,
主な取引先の名称とともに,具体的な質問事項が記載されている。回答書
(番号64)には,同業他社の取引先の名称及び同業他社の特定の事業に
係る取引金額が記載されている。組織図(番号65)には,同業他社に関
して,代表取締役の下に,本部,部門又は事業部課名が記載され,それぞ
れの関係が線で結ばれているほか,支社,支店及び営業所名並びに各部及
び課に所属する社員名が記載されているものや,東京国税局職員が同社に
臨場し事情を聴取した際に書き留めた,各部課の事業における具体的役割
がメモとして記載されているものもある。業務の流れ図(番号66)には,
同業他社が顧客に商品を販売するまでの,同業他社の内部組織の構成と役
割,社外組織の構成と役割が記載されているほか,東京国税局職員が同社
に臨場して事情を聴取した際に書き留めた,販売促進に係る組織の構成及
び役割,販売担当者数,コミッションの率,報酬の金額がメモとして記載
されているものもある。会社概要・商品説明資料(番号67)には,同業
他社の事業内容及び特色,商品の内容及び特徴が記載されている。また,
東京国税局職員が同社に臨場した際に書き留めた,同業他社の商品の売上
構成比率,仕入先の名称及び出資関係の有無がメモとして記載されている
ものもある。販売価格表(番号68)には,同業他社の,商品ごとの特定
時期の販売価格,当該販売価格に対応する仕入価格や利益率,東京国税局
職員が同社に臨場した際に,メモとして書き留めた粗利が記載されている。
製造(仕入)価格表(番号69)には,同業他社の材料の発注先の名称及び
発注単価,仕入先の名称及び仕入単価,東京国税局職員が同社に臨場し事
情を聴取した際に,メモとして書き留めた売上先の名称が記載されている。
同業他社とその取引先との間の契約書(番号70)には,契約の当事者で
ある,同業他社及びその取引先の名称及び所在地,契約の対価等,契約の
内容が記載されている。取引先名簿(番号71)には,同業他社の得意先
又は仕入先である法人の名称,所在地及び電話番号のほか,各取引先に係
る原価掛率又は年間仕入金額が記載されている。取引先管理表(番号7
2)には,同業他社の年別又は月別の得意先別(得意先業種別を含む。)の
売上金額又は仕入先別の仕入金額のほか,売掛金の前期間残高,当期間計
上高,当期間決済高又は当期間残高が記載されている。法人税確定申告書
(番号73)には,同業他社の特定の事業年度における所得金額及び税額
のほか,株主情報,財務情報,取引金融機関の口座番号及び期末預金残高,
取引先の名称及び所在地並びに特定の事業年度における資産及び負債の期
末現在取引残高が記載されている。営業報告書(番号74)には,同業他
社(いずれも非公開会社である。)の営業の概況として営業の経過及び成
果,資金調達の状況並びに営業成績及び財産の状況の推移が記載されてい
る。総勘定元帳(番号75)には,同業他社の特定の勘定科目に係る日々
の取引について,取引年月日,取引の相手方,取引内容及び取引金額が記
載されている。補助簿(番号76)には,同業他社の特定の勘定科目につ
いて,取引の相手方及びその内訳を必要に応じて明細化してあり,売上高
に係る明細にあっては,売上先の名称,契約番号及び売上金額,未払金に
係る明細にあっては,相手先の名称,前月繰越高,当月計上高,当月決済
高及び当月残高が記載されている。損益計算書及び貸借対照表(番号7
7)には,同業他社(24社中20社は非公開会社である。)の特定の事
業年度に係る貸借対照表上の資産,負債,資本の各勘定科目の科目名及び
期末残高,損益計算書上の売上高,売上原価,販売費及び一般管理費の各
勘定科目の科目名及び金額が記載されている。販売費及び一般管理費の内
訳が記載された文書(番号78)には,同業他社の販売費及び一般管理費
中の特定の勘定科目について,同業他社の事業部門別,商品別,月別又は
年度別の当該科目の費用の金額が記載されている。事業部別損益が記載さ
れた表(番号79)には,同業他社内部の事業別の売上げの額,売上原価
の額,販売費の額,一般管理費の額又は事業部別の損益が記載されている。
商品別損益が記載された表(番号80)には,同業他社が扱う商品全体の
中から,特定の商品について区分して算出した損益,同業他社が扱う商品
名,商品ごとの売上げの額又は売上原価の額が記載されている。仕入先別
の売上げが記載された表(番号81)には,同業他社の仕入先の名称及び
仕入先ごとの売上げの額が記載されている。商品受払表(番号82)には,
同業他社の商品名,製造単価又は仕入単価,月別の前月末在庫数量及び金
額,当月受入数量及び金額,当月払出数量及び金額並びに当月末在庫数量
及び金額,東京国税局職員が臨場して事情を聴取した際にメモとしてして
書き留めた,商品ごとの売上げの額及び売上原価の額が記載されている。
商品販売報酬規定(番号83)には,同業他社の販売員に係る報酬金額の
算定方法及び支給基準や販売員が取り扱う商品名が記載されている。
エ別紙4(番号84及び85)記載の各文書
上記の各文書は,本件調査対象法人と取引関係のある法人(以下「取引
関連者」という。)から収集した文書である。
こうした文書は,取引関連者作成の取引先別元帳(番号84),取引関
連者作成の本件調査対象法人との取引別残高(債権債務残高)明細書(番
号85)から成る。
上記の各文書のうち,取引先別元帳(番号84)には,取引関連者の取
引先の名称,取引先との取引経過及び取引残高が記載されている。取引別
残高明細書(番号85)には,取引関連者の社内決裁の状況,本件調査対
象法人に対する取引種別ごとの債権債務の残高が記載されている。
オ別紙5(番号86及び87)記載の各文書
上記の各文書は,東京国税局職員が同業他社に臨場した際にその担当者
との応接内容を記録した応接録(番号86),同じく取引関連者に臨場し
た際にその担当者との応接内容を記録した応接録(番号87)である。
上記の各文書のうち,同業他社との応接録(番号86)には,同業他社
の応接の相手方の氏名,役職,応接の相手方から聴取した同業他社の事業
内容,同業他社の組織の構成,資本関係及び財務内容に関する具体的な情
報,提出された文書について,東京国税局職員が,移転価格調査上更なる
事実確認が必要であると考えた事項についての発問とそれに対する応答内
容が記載されている。取引関連者との応接録(番号87)には,取引関連
者の応接の相手方の氏名,役職,応接の相手方から聴取した本件調査対象
法人の財務内容に関する具体的な情報,提出された文書について,東京国
税局職員が,移転価格調査上更なる事実確認が必要であると考えた事項に
ついての発問とそれに対する応答内容が記載されている。
カ別紙6(番号88から93まで)記載の各文書
上記の各文書は,東京国税局職員が,どのような同業他社及び取引関連
者に対して税務調査を行う必要性があるのかを判断するために収集した資
料である。
こうした資料は,同業他社及び取引関連者が税務当局に提出した確定申
告書(番号88),税務申告の際に同業他社が作成し税務当局に提出した
事業内容を記載した書類(番号89),税務当局作成の同業他社の課税実
績を記載した書類(番号90),税務当局作成の同業他社に対する税務調
査記録の写し(番号91),税務当局作成の取引関連者に対する税務調査
記録の写し(番号92),情報提供会社作成の取引関連者に関する企業調
査報告書(番号93)から成る。
上記の各文書のうち,確定申告書(番号88)には,同業他社及び取引
関連者の特定の事業年度における所得金額,課税標準額及び税額,株主情
報,財務情報,取引金融機関の口座番号及び期末預金残高,特定の事業年
度における資産及び負債の期末現在取引残高が記載されている。事業内容
を記載した書類(番号89)には,同業他社の事業の特色,主要役員の状
況,売上げの額,売上原価の額,売上総利益の額,営業利益の額,所得金
額又は売上構成比が記載されている。課税実績を記載した書類(番号9
0)には,同業他社の各事業年度ごとの申告実績(法人税額,売上げの額,
売上原価の額,消費税額)と税務当局が行った当該同業他社に係る税務調
査結果が記載されている。同業他社の調査記録の写し(番号91)には,
同業他社の申告所得金額,調査後所得金額,取引内容,調査担当者が調査
において指摘した事項,調査に係る課税上の問題点として調査担当者が掲
げた意見が記載されている。取引関連者の調査記録の写し(番号92)に
は,取引関連者の申告所得金額,調査後所得金額,取引内容,調査担当者
が調査において指摘した事項,調査に係る課税上の問題点として調査担当
者が掲げた意見,取引関連者がその取引先との間で締結した契約内容が記
載されている。企業調査報告書(番号93)には,取引関連者の事務所の
状況,株主の状況,授権資本,株式発行価額又は取引銀行が記載されてい
る。
キ別紙7(番号94から101まで)記載の各文書
上記の各文書は,東京国税局職員が同業他社の比較可能性の是非を判断
するために作成した文書である。
こうした文書は,比較対象取引の選定過程を示す文書(番号94),同
業他社の売上総利益率及び営業利益率を記載した表(番号95),比較対
象取引の比較可能性を検討した表(番号96),比較対象取引の売上総
利益率及び営業利益率計算過程を記載した文書(番号97),差異調整検
討資料(番号98),本件移転価格調査の総合的な内容に係る部内説明資
料(番号99),本件調査における本件調査対象法人と東京国税局職員の
主張及び反論を整理した主張整理表(番号100),本件調査対象法人に
係る国外移転所得金額計算資料(番号101)から成る。
上記の各文書のうち,比較対象取引の選定過程を示す文書(番号94)
(117通中,公刊物又はインターネットにより収集したものが75通存
在する。)には,同業他社の資本金,売上高,主力商品名,商品の主な販
売先,販売組織の形態及び販売エリア,売上順位又は売上高の対前年比と
いった事業内容に関する事項,いずれの法人の取引を比較対象取引として
選定するか,又は選定しないかについての個々の同業他社に係る東京国税
局職員の評価が記載されている。同業他社の売上総利益率及び営業利益率
を記載した表(番号95)には,同業他社の取扱商品並びに事業年度別又
は事業部門別の売上総利益率又は営業利益率が記載されている。比較対象
取引の比較可能性を検討した表(番号96)には,比較対象取引に該当す
るか否かの判断に際し,租税特別措置法通達66の4(2)−3が例示する
考慮要素である,(1)棚卸資産の種類,役務の内容等,(2)取引段階,(3)
取引数量,(4)契約条件,(5)取引時期,(6)売手又は買手の果たす機能,
(7)売手又は買手の負担するリスク,(8)売手又は買手の使用する無形資産,
(9)売手又は買手の事業戦略,(10)売手又は買手の市場参入時期,(11)政
府の規制,(12)市場の状況の各項目について,比較対象取引及び本件調査
対象法人の取引実態の有無及び内容が記載されている。比較対象取引の売
上総利益率又は営業利益率計算過程を記載した文書(番号97)には,比
較対象法人の売上げの額,各種経費の明細,取扱商品の名称,事業年度別
の売上総利益率又は営業利益率が記載されている。差異調整検討資料(番
号98)には,比較対象取引の売上げの額,比較対象法人の仕入れの額,
比較対象法人及び同業他社の特定の経費が売上高に占める比率又は本件調
査対象法人の調達金利が記載されている。部内説明資料(番号99)には,
本件調査対象法人の資本系列図,国外関連取引の取引図,独立企業間価格
の算定方法,差異調整の内容,国外移転所得金額,本件調査対象法人及び
比較対象法人を含む同業他社の財務内容,本件調査に係る東京国税局職員
の意見が記載されている。主張整理表(番号100)には,本件調査にお
いて,東京国税局職員が指摘した移転価格税制の問題点に係る主張内容及
びこれに対する本件調査対象法人の主張内容,本件調査対象法人の販売取
引に係る決済方法,本件調査対象法人の事業別の売上げの額,比較対象法
人の販売形態又は比較対象法人の売上げの額が記載されている。国外移転
所得金額計算資料(番号101)には,本件調査対象法人及び比較対象法
人の売上げの額,売上原価の額,経費の額,売上総利益率及び国外移転所
得金額が記載されている。
ク別紙8から10まで(番号102,105,106,109,110)
記載の各文書
上記の各文書は,東京国税局職員が本件移転価格調査の結果を受けて作
成した,本件調査対象法人に提示するための中間意見書(番号102),
これに対する意見及び反論等についての本件調査対象法人担当者との応接
録(番号105),本件調査対象法人に提示するための最終意見書(番号
106),これに対する意見及び反論等についての本件調査対象法人担当
者との応接録(番号109),本件各更正処分等の手続に関する更正処分
関係資料(番号110)から成る。
上記の各文書のうち,中間意見書(番号102)には,本件調査の中間
意見として,移転価格上の問題点,独立企業間価格の算定方法及び算定結
果,国外移転所得金額,本件調査対象法人及び比較対象取引の売上総利益
率が記載されている。応接録(番号105)には,東京国税局職員が本件
調査対象法人に対して提示した,本件移転価格調査における移転価格上の
問題点,独立企業間価格の算定方法及び算定結果,所得移転金額を踏まえ
た東京国税局職員と本件調査対象法人の担当者とのやり取りが記載されて
いる。最終意見書(番号106)には,本件調査の結果として,移転価格
上の問題点,独立企業間価格の算定方法及び算定結果,国外移転所得金額,
本件調査対象法人及び比較対象取引の売上総利益率並びに差異調整の内容
が記載されている。応接録(番号109)には,東京国税局職員が本件調
査対象法人に対して提示した本件移転価格調査における移転価格上の問題
点,独立企業間価格の算定方法及び算定結果,国外関連者に対する所得移
転金額を踏まえた東京国税局職員と本件調査対象法人の担当者とのやり取
りが記載されている。更正処分関係資料(番号110)には,本件調査対
象法人の申告所得金額,調査後所得金額,納付すべき税額,本件調査対象
法人及び比較対象法人の売上げの額,売上原価の額,売上総利益率,特定
の経費の額,差異調整した項目及びその率,国外関連者に対する所得移転
金額が記載されている。
(2)検討
本件各更正処分等の内容は,前記前提事実(第2の1)(2)ア,イ記載の
とおりであるところ,当該各更正通知書(甲5の1∼6)に記載された更正
の理由によれば,原告の国外関連取引に係る独立企業間価格は,租税特別措
置法66条の4第2項1号ロに規定する再販売価格基準法を採用して算定さ
れていること,その採用に当たって,租税特別措置法施行令39条の12第
6項に規定する比較対象取引として,原告と類似の,幼児向け教材を非関連
者から購入し,非関連者である一般消費者に訪問販売している同業者3社の
取引を選定したものとしていること,さらに,租税特別措置法66条の4第
2項1号ロに規定する通常の利益率を算定するに当たっては,①訪問販売に
関連する外交員報酬,広告宣伝費及び販売促進費の支出状況,②訪問販売に
関連するロイヤリティーの支出状況,③仕入代金の支払猶予期間の各点にお
いて,原告と比較対象取引との間で差異があることから,比較対象取引の売
上総利益率より,①及び③に関しては減算を,②に関しては加算を,それぞ
れ行っていることが認められる。
そして,租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特
例)の規定が,企業が国外にある親会社,子会社といった関連企業との間の
取引の価格を操作することによってする所得の海外移転に対処し,適正・公
平な課税を実現するために設けられたものであって,同規定を適用する場合
の税務当局の事務運営についての指針を定めた事務運営指針(乙1)1−2
では,法人の国外関連取引に付された価格が非関連者間の取引において通常
付された価格となっているかどうかを十分に検討し,問題があると認められ
る取引を把握した場合には,市場の状況及び業界情報等の幅広い事実の把握
に努め,算定方法・比較対象取引の選定や差異調整等について的確な調査を
実施することが定められており,また,同2−4において,調査時に検査を
行う書類等の例((1)法人及び国外関連者ごとの資本関係及び事業内容を記
載した書類等,(2)法人が独立企業間価格の算定に使用した書類等,(3)国外
関連取引の内容を記載した書類等,(4)その他の書類等に分類し,各分類ご
とに更に細かな文書の種類を例示している。)を挙げ,これらの書類等から
移転価格税制の観点からの問題の有無を判断する旨が定められている。さら
に,租税特別措置法66条の4第9項では,法人が,独立企業間価格を算定
するために必要と認められる帳簿書類を,税務当局職員の求めに対し遅滞な
く提出等しなかった場合には,税務当局職員は,推定課税を行うか否かにか
かわらず,独立企業間価格を算定するために必要と認められる範囲内で,当
該法人の当該国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む者に対して質問検
査権を行使することができる旨規定しており,事務運営指針2−5でも,上
記規定を適用して把握した非関連者取引を比較対象取引として選定した場合
には,当該選定のために用いた条件,当該比較対象取引の内容,差異の調整
方法等を法人に対し説明する旨定め,当該説明の際には,法人税法163条
(職員の守秘義務規定)の規定に留意する旨定めている。
以上のように,本件調査及び本件各更正処分等が,原告に対する租税特別
措置法66条の4の規定の適用及びその可否の検討を目的として行われたも
のであるところ,同規定を適用する上で一般的に予定されている調査の対象
・内容や比較検討の過程が上記のようなものであることからすると,本件調
査及び本件各更正処分等に関して東京国税局において作成された「本件調査
事案つづり」は,本件各文書を含む別紙記載の各文書によって構成されてお
り,本件各文書には,被告らの主張する内容(前記1)が記載されているも
のと認めることができる。
2本件各文書に記載されている情報の不開示情報該当性
(1)被告らの主張
被告らは,本件各文書に記載されている情報は,次のような不開示情報の
いずれかに該当すると主張している。
ア当該情報を公にすると,法人等の詳細な取引状況や経営状況等の経営上
の秘密事項が明らかとなり,かかる情報を取得した競争企業が営業上の対
抗措置を講じたり,取引相手となる企業が取引交渉に利用して有利な立場
に立つなど,法人等の経済的な権利利益,競争上の地位を害するおそれが
ある(情報公開法5条2号イ該当。被告らは,別紙の「不開示情報該当理
由」欄に「A」と記載してある文書に,当該情報が記載されていると主張
している。)。
イ当該情報を公にすると,国税局から税務調査を受けた納税者として,法
人等が社会的信用を失い,取引中止等の措置を講じる取引先が現れるなど,
法人等の経済的な権利利益を害するおそれがある。同業他社の場合には,
税務当局に協力したことが明らかになることにより,当該同業他社が他社
から偏見を持って見られ,社会的信用を失うなど,法人等の経済的な権利
利益を害するおそれがある(情報公開法5条2号イ該当。被告らは,別紙
の「不開示情報該当理由」欄に「B」と記載してある文書に,当該情報が
記載されていると主張している。)。
ウ当該情報を公にすると,税務当局職員が移転価格税制上の問題点を検討
する際に,どの部分に関心を持ち,問題点を検討するのかが明らかとなる。
また,どの法人を比較対象法人として選考したかを明らかにした場合には,
調査に当たってどのような点に着目しているかについても明らかになる。
そうした場合,当該情報の分析の結果,自社が税務調査(移転価格調査)の
選定理由等に該当すると判断した納税者の中には,税務調査(移転価格調
査)対策として,国税局職員が調査対象法人について問題視することが予
想される資料等を隠ぺいしたり,破棄したりする可能性がある。そうなる
と,税務当局において正確な事実の把握が困難となる結果,違法若しくは
不当な行為の発見が困難となり,税務当局の行う税務調査(移転価格調
査)事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある(情報公開法5条6号
イ該当。被告らは,別紙の「不開示情報該当理由」欄に「C」と記載して
ある文書に,当該情報が記載されていると主張している。)。
エ法人の具体的な事業内容等に関する情報であって,法人の契約内容,取
引内容,財務内容等経営上の秘密事項が明らかになるものであるから,こ
れらを公にすると,特定の法人が税務調査の対象となっている事実が明ら
かになって当該法人の社会的信用の低下を招くおそれや,当該法人の財務
内容等経営上の秘密事項が明らかになるおそれがある。そうなると,調査
対象法人や国外関連者ばかりではなく,今後調査の対象となる可能性があ
る,又は同業他社として資料・情報提供を得なければならない法人を含む
納税者の税務当局に対する信頼を大きく損なう可能性がある。その結果,
調査対象法人等から任意の調査協力が得られず,移転価格調査に不可欠な
事実を正確に把握することが事実上不可能となるおそれがある(情報公開
法5条6号イ該当。被告らは,別紙の「不開示情報該当理由」欄に「D」
と記載してある文書に,当該情報が記載されていると主張している。)。
オ本件調査において東京国税局職員と応対した,本件調査対象法人,同業
他社及び取引関連者の各担当者の氏名及び役職については,個人識別情報
に該当する(情報公開法5条1号本文該当。被告らは,番号61,86,
87の各文書に当該情報が記載されていると主張している。)。
カ情報提供会社から提供を受けた取引関連者の取引状況,経営状況に関す
る情報であって,内部資料としてのみ利用することが提供を受ける際の条
件とされていることから,これらを公にすると,情報提供会社との間で紛
議が生じ,税務調査事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある(情報公
開法5条6号イ該当。被告らは,番号93の文書に当該情報が記載されて
いると主張している。)。
(2)検討
アまず,本件各文書に記載された情報(前記(1)アからクまでで列挙した
もの。以下「本件各情報」という。)のうち,番号61,86,87の各
文書に記載された本件調査対象法人,同業他社及び取引関連者の各担当者
の氏名及び役職については,いずれも情報公開法5条1号本文の規定する
個人識別情報に該当するものと認めることができる。
イ次に,本件各情報のうち,上記個人識別情報に該当するもの以外のもの
は,いずれも法人の取引状況や経営状況を個別具体的に,あるいは,その
詳細を明らかにするものであって,かつ,一般に公にされていないものと
認められる(後記ウ,エの番号77及び94の各文書の一部を除く。)。
こうした情報を公にした場合には,これらを取得した当該法人の競争企業
において対抗措置を講じたり,取引相手となる企業において交渉に利用し
て有利な立場に立つなど,当該法人の経済的な利益や競争上の地位を害す
るおそれがあることから,いずれも情報公開法5条2号イに該当するもの
と認められる。
なお,これらの情報の中には,被告らが,東京国税局職員又は調査担当
者による指摘事項,意見,判定,発問(と応答内容),主張又は問題点
(の指摘)を記載したものであると主張しているものも含まれており(番
号4,5,9,86,87,92,93,94,99,100,102,
105,106,109の各文書),その名称・分類のみからみれば,法
人の取引状況や経営状況に関するものか否かが必ずしも明らかではないと
ころがある。しかし,これらの情報が記載されている文書名及び当該文書
に記載されている他の情報(法人の取引状況や経営状況に関するものであ
る。)をも勘案すれば,それ自体も法人の取引状況や経営状況に関するも
のであることが推認できるのであって,これらの情報を公にした場合に,
当該法人の経済的な利益や競争上の地位を害するおそれがあると認められ
る。
ウこれに対して,損益計算書及び貸借対照表(番号77)のうち,被告ら
の主張によれば,4通については,公開会社の計算書類であって,一般に
公にされていないものには当たらない。しかし,被告らは,これらの文書
が,東京国税局から依頼を受けて当該公開会社が任意に提供したと主張し,
本件調査の目的並びに当該文書の内容及び性質からすれば,その旨認めら
れる。そして,当該文書が開示されるならば,同業他社が本件調査に協力
したことが明らかになるところ,その結果,本件調査対象法人から好まし
からざる感情を持たれるおそれがあることから,ひいては,一般的な税務
調査への協力についても支障が生じる可能性があることは否定できないの
であって,その結果,税務当局において正確な事実の把握が困難になるな
ど,移転価格調査に関する事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあるこ
とから,情報公開法5条6号イに該当するものということができる。
エまた,比較対象取引の選定過程を示す文書(番号94)のうち,被告ら
の主張によれば,75通については,公刊物又はインターネットから収集
したものであり,一般に公にされていないものには当たらない。しかし,
これらの文書に記載された情報,すなわち,同業他社の資本金,売上高,
主力商品名,商品の主な販売先,販売組織の形態及び販売エリア,売上順
位又は売上高の対前年比といった事業内容に関する事項につき,いずれの
法人の取引を比較対象取引として選定するか,又は選定しないかに関する
個々の同業他社に係る東京国税局職員の評価は,これらを公にすれば,東
京国税局において,いずれの法人の取引を比較対象取引とするかという,
その抽出過程及び比較対象法人が明らかになるものである。こうした情報
が明らかになれば,移転価格税制上の問題を検討する際の税務当局の関心
事項が明らかとなるため,納税者の中には,税務調査の対策として,関係
する資料を隠ぺい・破棄する可能性も存し,その結果,税務当局において
正確な事実の把握が困難になるなど,移転価格調査に関する事務の適正な
遂行に支障を来すおそれがあることから,情報公開法5条6号イに該当す
るものと認められる。
3原告の主張についての検討
(1)情報公開法5条2号イ該当性(同号柱書ただし書,部分開示の当否を含
む。)について
ア原告は,本件各情報がたとえ法人の経営上の秘密事項に該当するとして
も,法人の名称部分を不開示にすること(その余の部分を部分開示するこ
と)によって,いずれの法人に関する情報であるかを特定できなくするこ
とが可能であるから,本件各情報を全部不開示にする理由にはならないと
主張している。
しかし,法人の名称部分のみを不開示にしたとしても,公刊物やウエブ
サイト,その他の方法により一般に入手可能な情報と照らし合わせて法人
の特定が不可能とはいえない場合もあると考えられる。この点はさておい
ても,本件各文書に記載されている情報については,本件調査対象法人,
その国内関連会社,同業他社及び取引関連者という,特定の会社の取引状
況や経営状況に係る個別具体的な,又は詳細にわたる事項が,独立した一
体的な情報を成すものとみるべきである。すなわち,例えば,売上げの額,
売上原価の額,売上総利益の額,営業総利益の額といった財務情報の数値
についてみても,「特定の会社の売上げの額がいくらであるか」というこ
とが一個の情報を成すのであって,「特定の会社」という要素を捨象した
残りの部分だけでは,通常それ自体が意味を有する情報とはいえず,一個
の情報を殊更に分断したものになるといわざるを得ない。
ところで,情報公開法6条1項は,行政文書の一部に不開示情報がある
場合において,それが記録されている部分を他と容易に区分できるときは,
不開示情報が記録されている部分を除いた部分につき開示すべきこと(部
分開示)を規定しているが,同規定は,独立した一体的な情報を更に細分
化した上で,その一部を開示すべきことを行政機関の長に義務付けたもの
とは解されない。行政文書に個人識別情報が記録されている場合について
規定した同条2項は,その文言にかんがみて,個人識別情報を除くことに
より,公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められると
きは,その除いた後の部分が,たとえ独立した一体的な情報の一部を成す
にすぎないときでも,特別に部分開示を義務付けたものであるが,それ以
外の場合については,ここで問題になっている法人等を特定できる情報が
記録されている場合も含めて,一個の情報を殊更に分断した上で部分開示
すべきことを義務付けた規定は情報公開法には存在しない。
そうであるならば,法人の名称部分を不開示にすることによって,法人
等の正当な利益を害するおそれが回避できるとの原告の主張は失当であっ
て採用できない。
イ原告は,「法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそ
れ」とは,不開示を根拠づける,国民の「知る権利」を制約するための要
件であることから,限定的に解釈すべきであり,ノウハウ,事業活動上の
機密,生産技術上の秘密等,法人が多額の投資によって独自に開発したも
のなど,特に重要な情報に限定されるべきであると主張している。
さらに,原告は,本件各更正処分等の適否を争うためには,比較対象取
引の選定過程の適否や原告の独立企業間価格を算定する上で行った差異調
整の適否を検証することが必要不可欠であり,そのためには,比較対象企
業の取扱商品,課税年度ごとの売上高・売上総利益率・営業利益率・販売
費及び一般管理費比率(売上高に対する比率。以下同じ。)・宣伝広告費
及び販売促進費比率・ロイヤリティーの金額及びその比率の開示が最低限
必要であり(逆に,企業(法人)名やブランド名の開示は必要でなく),
租税法律主義及び適正手続保障の観点からしても,その開示は認められな
ければならないとも主張している。
しかしながら,情報公開法による行政文書の開示請求との関係で,どの
ような情報が不開示情報に当たるかについては,同法5条各号がこれを具
体的に規定しているところであるから,いかなる情報及び文書を開示すべ
きかは,原則として,当該規定の解釈それ自体によって決せられるべき事
柄というべきである。これを同条2号イについてみても,不開示情報につ
きその文言に加えて何らかの限定を付すべき根拠は存しないのであって,
その具体的な内容が実定法上規定されているわけではない「知る権利」を
もって,原告主張のような限定を付すべき根拠とするのは相当でないとい
わざるを得ない。
また,情報公開法による行政文書の開示は,何人も同法の定める手続に
おいて請求することが認められており,不開示情報に該当しないなどの所
定の要件を満たしていれば,当該請求をした主体が誰であるかによって取
扱いに区別を設けることなく,一律に実施することが予定されているもの
である。したがって,入手した情報をどのように用いるかなどの開示を請
求した者の個別的事情に基づいて不開示情報の範囲を定めるべきことはお
よそ予定されていないのであって,原告が本件各更正処分等の適否を争う
ために,本件各文書の開示を求めているという事情があったとしても,そ
のことが不開示情報の範囲に画定に影響を及ぼすことはないというべきで
ある。
ウ原告は,本件各情報のうち,原告(本件調査対象法人)に関する情報に
ついては,原告自身が開示を請求しており,これを秘匿する利益を放棄し
ているから,これを公にしたとしても,当該法人等の権利,競争上の地位
その他正当な利益を害するおそれはないと主張している。
しかしながら,情報公開法による行政文書の開示は,何人も請求するこ
とができ,請求主体による区別なく,一律に実施することが予定されてい
るものであることは,上記イのとおりであって,請求対象とされた行政文
書に,情報公開法5条1号又は2号に規定する不開示情報が記録されてい
れば,それだけで開示の対象からは除外されることになる。同条1号に規
定する特定の個人や同条2号に規定する法人等から開示請求がされたかど
うかによって結論に差異をもたらすものではないし,当該請求をした主体
がこれらの規定により保護される利益を放棄したとしても同様である。し
たがって,この点に関する原告の主張も理由がないものである。
エ原告は,本件各情報は,納税者の財産権の侵害たり得る更正処分の適否
を検証する上で必要不可欠な情報であること,さらには,これを公にする
ことで,納税者一般に対する手続保障に資するとともに,移転価格税制に
関する予見可能性・法的安定性を高める結果をもたらすという意味から,
情報公開法5条2号ただし書の規定する「人の財産を保護するため,公に
することが必要であると認められる情報」に該当すると主張している。
しかしながら,そもそも情報公開法5条2号ただし書に規定する情報は,
それを開示することにより,法人等の権利,競争上の地位,その他正当な
利益を害するおそれがあると認められるものであっても,それに優越する
法益を保護する上で必要と認められる場合に限り,開示に伴う不利益を当
該法人等に甘受させた上で,例外的にその開示を認めようとするものであ
るから,そうした例外的な開示が認められるためには,その開示により人
の生命,健康,生活又は財産等の保護に資することが相当程度具体的に見
込まれる場合であって,法人等に不利益を強いることもやむを得ないと評
価するに足りるような事情が存することを要すると解するべきである。
この点に関して,原告が本件各更正処分等の適否を検証する必要性をい
う点は,本来,課税手続(更正の理由附記,不服申立て,取消訴訟等)を
通じて実現されるべき事柄であって,上記イのとおり,何人にも請求が認
められている行政文書の開示手続において,法人等の正当な利益を犠牲に
してまで,開示を実現しなければならない優越する法益が存するものとは
認めるに足りない。納税者一般の手続保障や移転価格税制に関する予見可
能性・法的安定性をいう点も,一般的抽象的利益をいうにとどまるもので
同様である。なお,原告は,本件各情報を開示する必要性があると主張す
るに当たり,課税手続において情報の開示が受けられないことをも,その
根拠としているように見受けられる。もとより,課税処分の適法性を基礎
づける事実を明らかにする責任は課税庁が負っているのであって,原告が
検証を加える上で必要であると主張する情報についても,それが課税処分
の適法性を基礎づける上で真に必要なものであれば,課税庁はそれを明ら
かにしなければならず,それをしなければ課税処分を維持することはでき
ないものである。すなわち,行政文書の開示手続で情報の開示が受けられ
なかったとしても,その結果として,不当な課税処分を強いられ,それが
争えなくなるなどの事情があるわけではないから,この意味からも,情報
公開法5条2号ただし書には該当しないというべきである。
(2)情報公開法5条6号イ該当性について
原告は,本件では,独立企業間価格の算定に係る調査資料の開示が求めら
れており,原告の売上げ,費用及び利益という確定した事実を前提に,その
事実をどう評価するか,同業他社との比較対象により独立企業間価格の算定
が適正か否かという規範的評価が問題となっているのであって,売上除外や
架空経費の計上といった所得隠しが問題となっているわけではなく,税務調
査対策として資料を隠ぺいしたり,破棄したりする可能性はなく,租税の賦
課との関係で正確な事実の把握を困難にするなどのおそれはないから,情報
公開法5条6号イの不開示事由には当たらないと主張している。
しかしながら,上記不開示事由該当性が認められる,比較対象取引の選定
過程を示す文書(番号94)のうち,公刊物又はインターネットから収集し
た75通に記載された情報は,前記2(2)エのとおり,同業他社の資本金,
売上高,主力商品名,商品の主な販売先,販売組織の形態及び販売エリア,
売上順位又は売上高の対前年比といった事業内容に関する事項につき,いず
れの法人の取引を比較対象取引として選定するか,又は選定しないかに関す
る個々の同業他社に係る東京国税局職員の評価であって,独立企業間価格を
算定する際の税務当局の着目点・関心事項を具体的に推測させるものである。
このことからすれば,国外関連者との取引を有し,当該取引に係る課税の特
例の適用の可能性のある法人にあっては,関係資料を隠ぺい・破棄をするお
それが存在するということができる。原告においては,原告自身において帳
簿資料等の隠ぺい・破棄に及ぶおそれはないと主張する趣旨と解されるが,
既に繰り返し述べたとおり,情報公開法による行政文書の開示は,何人も請
求することができ,請求主体による区別なく,一律に実施することが予定さ
れているものであるから,仮に原告自身にそうしたおそれがない場合であっ
ても,前記課税の特例の適用の可能性のある法人一般に隠ぺい・破棄に及ぶ
おそれがあれば,原告のした開示請求との関係でも,不開示情報該当性を認
めることができるものである。
したがって,この点に関する原告の主張にも理由がない。
4結論
以上のとおり,本件各情報は,情報公開法5条1号,2号イ又は6号イに規
定する不開示情報に該当し,かつ,2号イに該当する情報については,同号柱
書ただし書に該当しないものと認められ,また,本件各文書を部分開示しなけ
ればならないものとは認められないから,本件不開示決定には,いずれも違法
はない。
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
田徹裁判官吉
倉澤守春裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛