弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     第一審判決中上告人敗訴部分を取り消す。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人上野国夫名義の上告理由一について。
 民法四一四条二項・民訴法七三三条一項による授権決定にもとづく代替執行は、
債務者のなすべき作為の内容を代つて行う者が、債権者自身であると、債権者の委
任しだ第三者であると、あるいは債権者の委任した執行吏であるとを問わず、ひと
しく債務者の意思を排除して国家の強制執行権を実現する行為であるから、国の公
権力の行使であるというべきである(民訴法五三六条・執行吏執行等手続規則五六
条参照)。そして、強制執行は執行吏が実施するのが原則である(民訴法五三一条
一項)から、本件の場合のように、強制執行の一である代替執行を、授権判定にも
とづいて債権者が執行吏に委任したときは、その執行行為は執行吏の職務内容に属
するものと解するのが相当である(執達吏手数料規則七条参照)。
 論旨は、代替執行は私人もなしうる行為であることを根拠にして、それは公権力
の行使でもなく、執行吏の職務権限でもないと主張するものであるが、前段説示の
とおり、この見解は採用することができない。
 同二、三について。
 原判決にならびにその引用する第一審判決の確定した事実によれば、被上告人は、
岐阜簡易裁判所において、Eに対し本件土地にをその地上に存する生立木を収去し
て明け渡すべき旨の判決をうけ、該判決は昭和三五年六月一二日確定したが、被上
告人は履行をしなかつたので、Eは、昭和三六年三月一六日、右収去の強制執行に
つき民法四一四条二項・民訴法七三三条一項により「債権者の委任する岐阜地方裁
判所執行吏は、債務者の費用をもつて生立木を収去することができる」旨の授権決
定ならびに代替執行費用一万三千円の前払決定をえて、同月二八日執行吏Fに対し、
右収去・明渡・費用前払の強制執行を委任したところ、同執行吏代理Gは、右委任
にもとづき、同年四月一日午前人夫六、七名を使役して執行をし、被上告人所有の
本件生立木一四四本をごぼう抜きにし、これを差押え、水をやらずに本件土地の一
隅に積み重ねておいたため、同月三日被上告人が差押の解除をえて移植したが及ば
ず、右生立木のうちサンゴ樹八本(時価一本千円)梅一本(時価二千円)柳七本(
時価一本千円)貝塚伊吹百本(時価一本千円)が枯死し、被上告人は十一万七千円
の損害を受けた、というのである。
 原判決および一審判決は、右事実関係のもとにおいて、執行吏は移植の適期であ
る雨期まで執行を延期すべきであり、また立木収去の方法としては適当な極所に仮
植する等立木保護のため特段の注意義務があるのに、これを尽さなかつた前記執行
行為は違法であると判断しているのである。
 しかし、前記判決が確定した昭和三五年六月二二日から被上告人が強制執行をう
けた翌三六年四月一日まで約十ヶ月の期間が存したのであるから、被上告人は任意
に適期を選び、自己の好む方法で移植することが可能であつたのに、判決で命じら
れた義務を履行しなかつたため本件損害を招いたものであるのみならず、債権者は、
確定判決にもとづき直ちに強制執行をすることができるし、したがつて委任を受け
た執行吏も速かに執行をなすべきであつて、債権者にも執行吏にも移植適期まで執
行を延期すべき義務は存しないも、のというべきである。また、生立木収去・差押
の方法として、執行吏が適当な土地を選んで仮植する等の手段をとることが好まし
いにしても、そうしなかつた本件執行行為を違法であるとはいえない。よつて、論
旨は理由があり、本件執行行為を違法と判断し被上告人を一部勝訴させた原判決お
よび第一審判決の各部分は破棄・取消を免れず、被上告人の本訴請求は全部棄却す
べきものである。
 よつて、民訴法四〇八条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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