弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄印する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人A代理人森西隆恒の上告理由第一点について。
 自作農創設特別措置法第七条は同法第六条による農地買収計畫に定められた農地
につき市町村農地委員会のした処分に関する行政上の救済方法を定めた規定である。
右救済を求めうる者は「農地につき所有権を有する者」即ち同法第三条にいう「農
地の所有者」である。右農地の所有者は所論のように農地買収計畫に買収すべき農
地の所有者として記載された者に限るべき理由がなく、それに記載されていなくと
も農地の所有権を主張する者も亦同法第七条第一項にいう「農地計畫に定められた
農地につき所有権を有する者」と解するのを相当とする。けだし農地買収計畫に買
収すべき農地の所有者として記載された者と否とについて等しく農地の所有者であ
る以上その間にその救済の方法に差別をなすべき理由がなく、同法にいう農地の所
有者に対する行政上並に裁判上の救済はすべて同法所定の手続によるべきことは右
救済の趣旨に鑑みて明である。従て「上告人ノ為シタル本件異議並訴願ノ申立ハ其
ノ実質ハ同法第七条ニ所謂異議並訴願ニアラズ從テ上告人ノ訴願ニ対スル本件被上
告人ノ裁決ハ同法第四七条ノ二ニ所謂行政庁ノ処分ニ該当セス」との上告人の所論
はそれ自体が矛盾するものであつて、上告人のした本件異議の申立及び訴願並に被
上告人のなした本件裁決が自作農創設特別措置法の規定に基く農地に関するもので
ある以上、同法第七条による異議であり訴願であり又行政庁の処分である以外の何
物でもなく、從て被上告人の行政処分の取消を求める本訴の提起期間については同
法第四七条の二か又は同法附則第七条が適用され民訴応急措置法第八条の適用がな
いことは明であるから論旨は採用の限りでない。
 同第二点について。
 しかし、刑罰法規については憲法第三九条によつて事後法の制定は禁止されてい
るけれども、民事法規については憲法は法律がその効果を遡及せしめることを禁じ
てはいないのである。従て民事訴訟上の救済方法の如き公共の福祉が要請する限り
従前の例によらず遡及して之を変更することができると解すべきである。出訴期間
も民事訴訟上の救済方法に関するものであるから、新法を以て遡及して短縮しうる
ものと解すべきであつて、改正前の法律による出訴期間が既得権として当事者の権
利となるものではない。そして新法を以て遡及して出訴期間を短縮することができ
る以上は、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合で
ない限り憲法第三二条に違反するということはできない。
 本件について見るに、昭和二一年一二月自作農創設特別措置法制定当時は、行政
処分について訴訟を提起することはできなかつたのであつたが、日本国憲法施行後
は一般的に行政処分について訴訟を提起しうることになつて、その出訴期間は民訴
応急措置法第八条により六ケ月と定められたのである。然るに自作農創設特別措置
法による農地買収の如き問題はなるべく早く解決せしめることが公共の福祉に適合
するものであるから、昭和二二年一二月二六日前記特別措置法の改正施行と共に、
新に第四七条の二が加えられて出訴期間を一ケ月に短縮したのである。しかし同改
正法施行前に行われた処分について同条をそのまま適用すると出訴する機会を与え
られない者もありうるので、(即ち実質上裁判を拒否されることになる。)経過的
規定として附則第六条によつて同改正法施行前にその処分のあつたことを知つた者
にあつては、同法施行の日から一ケ月以内に出訴しうることにしたのである。これ
等の立法の経過と規定の内容とを前段説明したところと併せ考えると、前記改正法
第四七条の二及び同法附則第七条は何れも憲法第三二条に違反したということはで
きないから論旨は採用することができない。
 以上のように、本件上告はいずれも理由がないから、民事訴訟法第四〇一条に則
り本件上告を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担については同法第九五条第八九
条を適用し、主文のとおり判決する。この判決は裁判官全員の一致した意見による
ものである。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    澤   田   竹 次 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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