弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中220日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1A及びBと共謀の上,知人のC(当時16歳)から現金を強取しようと企
て,平成25年4月14日午後11時30分頃から同月15日午前零時頃ま
での間,鳥取県米子市a町b番地所在のD北側駐車スペースにおいて,前記
Cに対し,被告人ら3名がこもごもその顔面,腹部及び背部等を多数回拳で
殴るとともに足で蹴り,いずれか1名がその首を腕で絞めるなどの暴行を加
え,現金を持参するよう要求した上,同日午後1時頃から同日午後1時15
分頃までの間,同市c町d丁目e番地fEg号室において,同所に呼び出し
た前記Cに対し,被告人がその頭部及び腕部を金属バットで小突き,前記A
がその顔面及び腹部を数回拳で殴り,その身体にカッターナイフを突き付け,
その手首にたばこの火を押しつけるなどの暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧
した上,同日午後4時30分頃から同日午後5時30分頃までの間,前記E
g号室において,前記Cに持参させるなどした現金合計6万5000円を強
取し,その際,前記一連の暴行により,同人に加療約3週間を要する顔面打
撲,口腔内挫創,左側腹部打撲,左前腕潰瘍等の傷害を負わせた
第2F,G,A,H,I及びJと共謀の上,
1同年6月28日午前4時10分頃,広島市h区i町j番k号所在の医院東
側駐車場において,同所に駐車中の普通乗用自動車3列目後部座席にKを乗
車させ,被告人及び前記6名が前記Kの両脇等に乗車して同車を発進させ,
その頃から同日午前5時40分頃までの間,広島県呉市l町所在のLの北東
約750メートル付近市道上に至るまで,同人を前記3列目後部座席に乗車
させたまま同車を疾走させるなどし,その間,同人が同車内から脱出するこ
とを不能にし,もって同人を不法に監禁した
2同日午前4時10分頃から同日午前5時頃までの間,同県内を走行中の前
記自動車内において,前記Kに対し,その顔面及び腹部等を多数回殴打し,
その顔面等にたばこの火を数回押し付け,その身体に馬乗りになって押さえ
付けるなどの暴行を加え,その後,同人の手提げバッグ内に現金及びキャッ
シュカードが在中していることを認めるや,前記1記載の犯行及び前記暴行
により反抗を抑圧されている同人から現金等を強取するなどしようと企て,
同日午前5時頃,同県内を走行中の同車内において,同人に対し,その身体
を押さえ付ける暴行を継続したまま,どうせ死ぬのだから財布などはもうい
らないんだろう,キャッシュカードの暗証番号を言ったら許してやるから,
早く言えなどのように言い,キャッシュカードの暗証番号を教えなければ更
なる暴行を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人から,同人所有又は管理
の現金約4万4000円及び同人名義のキャッシュカード等在中の前記バッ
グ1個(時価合計不詳)を強取するとともに,同キャッシュカードの暗証番
号を聞き出し,同人名義の預金口座から預金の払戻しを受け得る地位を取得
し,もって財物を強取するとともに財産上不法の利益を得た上,その頃から
同日午前5時40分頃までの間,同県内を走行中の同車内において,同人に
対し,その身体を押さえ付ける暴行を継続し,さらに,同日午前5時40分
頃,前記1記載の市道上において,同車から降車させた同人に対し,多数回
にわたり,その顔面及び腹部等を拳で殴り,足で蹴るなどの暴行を加え,引
き続き,同市道の南方約27メートル付近山道上に同人を連行し,同日午前
6時頃,同所において,前記F及び前記Gが,殺意をもって,順次,前記K
の頸部を両手で強く絞め付け,よって,その頃,同所において,同人を頸部
圧迫による窒息により死亡させて殺害したが,被告人には殺意がなかった
3前記2記載の犯行に引き続き,前記2記載の山道上において,前記Kの死
体を同山道東側斜面に投棄した上,同死体をそのまま放置して立ち去り,も
って死体を遺棄した
第3前記A及び前記Hと共謀の上,同年7月1日午前7時2分頃,広島市h区
m町n番o号所在のMにおいて,前記第2の2記載の犯行により強取した前
記キャッシュカードを使用し,同店に設置された現金自動預払機から,株式
会社N銀行本店営業部業務課課長代理管理の現金2000円を引き出して窃
取した
ものである。
(証拠の標目)

(争点に対する判断)
第1判示第1の事実について
1争点の所在
被告人らが判示の日時・場所において,被害者に対して暴行を加え金銭を
強取したことには争いがないが,次の点について争いがある。
被害者に金銭を要求することを提案したのが被告人であるか
被告人が判示の駐車スペースにおいて被害者の首を腕で強く絞め付ける
という暴行をしたか
被告人が判示のマンションの1室において被害者の頭部を金属バットで
小突くという暴行をしたか
被害者の負った傷害の全てが被告人らの暴行によるものであるか

Aは,被害者の女性問題を被告人に伝えた際,被告人が「金取れば良く
ね。」と言い,金銭を要求することを提案したと証言している。実際に被告
人が被害者に対して電話で迷惑料を払うよう要求しており,この時期までに
金銭を要求することの合意が成立していることからすると,被告人が金取れ
ば良くねなどと発言したとのA証言は信用できる。
しかし,Aは,本件犯行に至る経緯において中心的な立場にあり,被告人
に連絡を取る前に被害者との電話で慰謝料という言葉を出しており,被告人
に金取れば良くねと言われる前から被害者に金銭を要求することを考えてい
た疑いが強い。
そうすると,被告人は,既に金銭を要求することを考えているAに賛同し
たに過ぎない可能性があり,被告人が被害者に金銭を要求することを提案し
たとは認められない。

首を強く絞め付けたという点につき,被害者は,被告人が背後から両手を
のど元に回し,前腕で首を絞めてきたと供述する一方,Aは,むしろ自らが
被害者の背後から首を絞めたと供述し,被告人は,被害者の頭付近に腕を回
して絞めたことはあったが,首は絞めていないと供述している。
被告人らによって背後から腕で,頭ではなくて首を絞められたという被害
者の供述は信用できるものの,被害者の供述は事件から約5か月経過した後
のものであり,その記憶が正確に保たれているか疑問が残る。また,被害者
は被告人らから立て続けに暴行を加えられ,意識が朦朧としていたこともう
かがわれ,しかも,背後からの暴行であったことからすると,誰によって首
を絞められたかについての被害者の供述部分は正確性に疑問が残る。
よって,被告人ら3名のいずれかが被害者の首を絞めたことは認められる
ものの,被告人が首を絞めたとは認定することはできない(なお,被害者が
首を「強く」締め「付け」られたとの証拠はない。)。

被告人が被害者の腕を金属バットで小突いたことに関しては争いがなく,
被害者は,被告人に頭も小突かれたと供述しているところ,金属バットで頭
を小突かれること自体が通常恐怖を感じる印象的な出来事であると同時に,
被害者は,金属バットで頭を小突かれた際,前の日に頭を殴られていたので
痛かったと供述しており,それが痛みとして記憶されていることからすると,
頭を小突かれたという供述の信用性は高い。
したがって,被告人が金属バットで被害者の頭部を小突いたとの事実が認
められる。

被告人は,現金を持参して戻ってきた被害者の顔が腫れていたため,被害
者に対して少し腫れていないかと聞くと,親父に殴られたと言っていたと供
述するが,既に顔面等に大きなけがを負っていたはずの被害者を父親が殴る
ことや自らが暴行を加えてけがを負わせた被害者に対して被告人が腫れてい
ないかと尋ねたことは不自然かつ不合理なものであり,かかる被告人の供述
は信用できない。
よって,被害者がその父親に殴られたという事実はなく,被害者の負った
傷害は全て被告人らの暴行によるものと認められる。
第2監禁の故意及び共謀の有無(判示第2の1の事実について)
1監禁とは,一定の区域外に出ることを不可能又は著しく困難にすることを
いうところ,本件においては,3列目の座席からは2列目の座席の横のドア
を通じてでなければ降車できないという構造の自動車内で,被害者を3列目
の座席に座らせ,かつ,F,H,A,I及びJの5名が被害者を取り囲むよ
うに被害者の両脇と2列目の座席に位置し,Fが乗車とともに被害者の胸倉
をつかんだり殴ったりしている中で自動車が発進したのであるから,それ以
降,被害者が自己の意思で自動車外に出ることは不可能な状況に置かれてお
り,これが監禁にあたることは明らかである。
2その上で,被告人の監禁の故意,共謀の有無について検討するに,被告人
は,Hから,被害者を「イワしに行く」又は「シバきに行く」と言われて自
動車の運転をしており,被害者を乗車させる前の車内でも,Fらから被害者
に危害を加えたいという話が盛んに出ており,被告人もそれを聞いていたと
認められる。そうすると,被告人も,被害者を自動車に乗車させる前から共
犯者らが被害者に対して危害を加えるであろうことを認識していたと認めら
れる。
また,Fらは,IとJが被害者の味方の振りをして被害者を誘い出すとい
う計画を話し合っていたものであるが,被告人は,判示第2の1記載の医院
東側駐車場でIとJが被害者を自動車に乗せる際に,Hから,被告人の顔を
被害者が知っているから被告人も隠れたほうがいいと言われ,F,Hらとと
もに物陰に隠れている。このことからすると,被告人は,Fらが待ちかまえ
ていると知れば被害者が自動車に乗り込もうとはしない可能性があることを
認識しつつ,それでも被害者の意思を無視して自動車に乗せるべく行動して
いたものと認められる。
被告人は,その上で,被害者が3列目の座席に座り,その両脇と2列目の
座席にFら共犯者5名が乗り込み,かつ,Fが乗車後すぐに被害者に暴力を
振るっているという状況を見て,自動車を発進させたのであるから,被害者
が自動車外に出ることを不可能とするとの認識があったというほかなく,実
際に,その後被害者が料金所で「助けて」と叫んだ際も,そのまま自動車を
発進させている。
3以上によれば,被告人は被害者を自動車内に監禁することを認識し,かつ,
共犯者らとの間で意思を通じ合って共謀していたことが認められ,監禁の故
意及び共謀が認められる。
第3強盗の故意及び共謀の有無(判示第2の2の事実について)
1暴行の共謀
まず,自動車内でのFらによる暴行について,被告人に共謀があったと
いえるか検討する。
前述のとおり,被告人は,被害者を乗車させる前から,共犯者らが被害
者に対して危害を加えるであろうことを認識していたといえ,被告人と共
犯者6名は,被害者に危害を加えることにつき,事前に意思を通じ合って
いたといえる。
そして,乗車後にFらが被害者を殴打するなどの暴行を開始した後も,
これを制止する者はおらず,被告人においても,1回目の料金所で被害者
が「助けて」と叫んだ際に,音楽のボリュームを上げてそのまま自動車を
発進させ,また,Fが火の点いたたばこを被害者に押し付ける,いわゆる
「根性焼き」をした際も,他の共犯者らと同様に,Fに言われて火の点い
たたばこを渡しており,これらの被告人の行動からして,被害者に暴行を
加えることについて共犯者らと意思を通じ合っていたと認めることができ
る。
これに対し,被告人は,たばこを渡したときは何のために使われるか分
からなかったと供述するが,本件犯行現場が自動車内という狭い空間であ
り,状況を十分に把握することが可能であった上,火の点いた状態でたば
こを渡していることからすると,Fが被害者にたばこを押し付ける目的を
有していたことは十分に認識していたと考えられ,被告人の供述は信用す
ることができない。
よって,自動車内での暴行につき,被告人と共犯者らとの間に共謀があ
ったことが認められる。
2金品を奪うことについての共謀
Fらによる殴打,たばこの火の押し付けなどの暴行によって既に抵抗で
きない状態となっていた被害者から金品を奪うことにつき,被告人と共犯
者らとの間に共謀があったといえるかを検討する。
共犯者らが被害者にたばこの火を押し付けるなどしているという車内の
状況を被告人も把握していたということは前記1のとおりであり,共犯者
らからの暴行によって被害者が既に抵抗できない状態にあることについて
も,被告人は認識していたものと認められる。
その上で,Hが被害者の財布の中身を見て,現金がたくさん入っている
旨伝え,これを皆で分配するという話になったときに,被告人は「ガソリ
ン代になる」と発言しており,他の共犯者らとともに分配に賛同したこと
が認められる。このことは,本件犯行後に被告人も何ら抵抗なく共犯者ら
とほぼ均等な分け前を受け取っていることからも推認することができる。
また,Fが被害者からキャッシュカードの暗証番号を聞き出した際に,
被告人は,その様子を評して「バリエス」などと発言しており,Fが強い
て暗証番号を聞き出したことを認識していたことが明らかである。
これらの事実からすると,被告人は被害者から金品を奪うことについて
も,共犯者らと意思を通じ合わせたといえ,共謀が成立するといえる。
弁護人は,被告人がそもそも「ガソリン代になる」と発言したことにつ
いては疑問が残り,仮に発言していたとしても自分がお金を分けてもらえ
るとした場合の感想をつぶやいただけであると主張する。
この点につき,被告人が前記発言をしたことについては,F,A,Hの
供述が一致しているとともに,実際に自動車を運転している被告人が前記
発言をすることは極めて自然であることからすると,被告人が前記発言を
したことが認められる。また,かかる発言は,被害者の現金を分配すると
いう話になったときに,他の共犯者らが「金欠」などと言い,現金を貰え
ることを口々に喜んでいるという時機に出たものである。そうすると,被
告人も被害者から金品を奪うことについて積極的に賛同していたというべ
きであり,弁護人の主張は採用することができない。
3以上によれば,被告人は,自動車内で被害者に暴行を加えることを共犯者
らと共謀し,それによって被害者が反抗抑圧状態になっていることを認識し
ながら,金品を奪うことについても共謀したといえることから,被告人には,
強盗の故意及び他の共犯者らとの間で共謀があったと認められる。
第4被害者の殺害行為が強盗の機会に生じたものといえるか(判示第2の2の
事実について)
1まず,客観的にみれば,被告人らによる金品の強取から被害者の殺害まで
の時間は約1時間と時間的に接着しており,その間も被害者への監禁状態及
びその身体を押さえつけるという暴行が継続しており,pの市道(判示第2
の1記載の市道)に着いてからの暴行,さらには,殺害行為も,車内での暴
行による被害者の無抵抗状態を利用したものということができる。
車内での殴打,たばこの押し付けなどの主な暴行は,高速道路を下りて接
触事故を起こすまでには終わっていたものの,なお被告人らは,一貫して被
害者に暴力を加えるという目的でpに向かって走行していたのであり,pの
山中に向かう途中でも,Fが他の共犯者らと被害者を埋めることを話題にす
るなどしていたのであるから,この点を強調して,被害者に対するp到着後
の暴行が車内における暴行と異質であるとみるのは相当でない。
2次に,Fが被害者の殺害を決意するに至った動機につき,検察官は,強盗
を含む一連の犯行発覚を防ぐことなどであると主張するが,この点について,
被害者にたばこを押し付けた際に,痕が残るので引くに引けないと思ったと
いうFの供述をもって,犯行発覚を防ぐ目的の殺害であったと認めるのはや
や無理がある。すなわち,Fの供述によっても,実際にp山道で被害者の首
を絞めるに至るまでには他の共犯者らの反応やGの言動など様々な切っ掛け
があったこと,犯行発覚を防ぐために被害者を殺害する旨の話し合いがされ
たわけでもないことなどからすると,殺害の主な目的が犯行発覚を防ぐこと
であったとは認められない。
しかしながら,Fの殺意が被害者に対する個人的な心情やFの性格によっ
て生じたものであるという側面があるとしても,Fらの被害者に対する暴行
が車内で単に殴打するというところから殺害行為にまで発展したのは,車内
においてFの暴行が激化するのを誰も反対したり制止したりすることなく,
むしろ,被害者から金品を奪う際には,被告人を含む共犯者らの誰もが賛同
し,車内が高揚した雰囲気となったことが影響しており,Fの証言において
も,周囲の反応から殺害を決意するに至った過程が詳細に述べられている。
そうすると,Fの暴行が激化し,被害者を殺害するに至ったことについて
も,車内における強盗を含む一連の犯行が影響を及ぼしているということが
できる。
3これらに加え,被告人を含む共犯者らは,Fらによる殺害行為からそれほ
ど時間が経過しない間に,奪い取った金銭を分配しており,被害者が死亡す
ることによって強盗で得た金銭の分配が確実となったという側面もある。
4以上の点を総合的に考慮すると,F及びGによる被害者の殺害行為は,強
盗の機会において生じたものと認められ,被告人に強盗致死罪が成立する。
第5被告人らが被害者を投棄した時点で被害者が既に死亡しており,かつ,被
告人がそのことを認識していたといえるか(判示事実第2の3について)
1O医師の証言によれば,被害者の死因について,被害者の頭蓋骨の前頭洞,
篩骨洞及び錐体内に出血と見られる黒い変色があること,歯がピンク調を呈
しているということから,頭部に強い鬱血があったことが明らかであり,頸
部圧迫による窒息により死亡したものと考えて矛盾しないことが認められ,
当時の状況からして,Fらによる頸部圧迫以外に頭部の鬱血の原因は考えら
れないから,被害者の死因は,Fらによって首を絞められた際の頸部圧迫に
よる窒息であると認められる。
2さらに,同証言によれば,一般に,頸部圧迫による窒息の際の症状として,
前駆期,呼吸困難期,無呼吸期,終末呼吸期の4期に分けることが可能であ
り,呼吸困難期にはけいれんが生じ,無呼吸期にはそれが止まり,筋肉が完
全に弛緩するということ,この状態になると心臓の自律的な拍動と自発呼吸
が停止し,一般的に蘇生は不可能な状態に達することなどが認められる。
本件をこれに当てはめると,被害者は,Fから首を絞められた後にはけい
れんしていたが,Gから首を絞められた際にけいれんが止まっていたこと,
Gが手を離した後は,被害者が呼吸したり拍動したりする様子はみられず,
被害者の口に巻かれていたタオルを外そうとGが揺さぶった際にも被害者が
動くことはなかったことからすると,被害者を斜面に投棄する際には,被害
者は既に無呼吸期の終盤又は終末呼吸期に達していたと考えられ,心臓の自
律的な拍動及び自発呼吸は停止していたと認められる。
なお,斜面に投棄された被害者を見たHやJが,被害者の胸が上下してい
るという発言をしたことが認められるが,Hらが被害者が横たわってる姿を
目撃したのは斜面の上からであること,それまでの出来事を見ていなかった
Hらが冷静に被害者の姿を見ることができたかについては疑問が残るし,前
記のとおり,被害者の死因は窒息死であって,歯のピンク調が残存している
ことからみて投棄後に心臓の自律的な拍動が復活したとは考えられないこと
からすれば,実際に被害者の胸が上下していたとは考えられない。
3以上によれば,被害者は,被告人らによって投棄されるまでには,心臓の
自律的な拍動と自発呼吸が停止し,蘇生が不可能な状態となっていたと認め
られる。
O医師によれば,その後も,終末呼吸期がしばらく続き,心臓の細動や終
末呼吸(筋肉の弛緩によって胸郭等が自然に動くことによって,空気が口を
通って排出されるというもの)が生じていたという余地があると認められる
が,被害者に救急医療等が施される可能性がない当時の状況も勘案すれば,
前記の被害者の状態をもって,被害者が既に死亡していたものと解するべき
である。
よって,被害者は,被告人らが斜面に投棄する時点で既に死亡していたと
認められる。
4被告人は,当公判廷において,被害者を投棄した時点で被害者が生きてい
るか死んでいるか分からなかったと供述しているものの,Gが被害者が死ん
だと言った後に,被告人がGとともに被害者を斜面に投棄しており,Hらが
被害者が動いていると言った際も,被害者は既に死んでいるということで皆
納得し,被告人も異論を差し挟んでいないのであるから,この点については,
被害者は既に死亡していると認識していたとの捜査段階の被告人の供述を信
用すべきである。
したがって,被害者が死亡していることを被告人が認識していたことが認
められ,被告人には死体遺棄の故意が認められる。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,240条前段に,判示第2の1の所為
は同法60条,220条に,判示第2の2の所為は同法60条,240条後段に,
判示第2の3の所為は同法60条,190条に,判示第3の所為は同法60条,
235条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については有期懲
役刑を,判示第2の2の罪については無期懲役刑を,判示第3の罪については懲
役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,判示第2の2
の罪について無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科
さず,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条2号,14条1項を適用
して酌量減軽をした刑期の範囲内で,被告人を懲役14年に処し,同法21条を
適用して未決勾留日数中220日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法1
81条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑上特に考慮した事由)
甲の事件(判示第2,第3)についてみると,被告人らは,無抵抗の被害者に
対して多数人で長時間にわたる暴行を加え,特に,自動車内で被害者の耳の穴な
どに火の点いたたばこを押し付けたという暴行や自動車を降りてからの被告人を
含む複数人での暴行は,極めて悪質かつ残酷なものである。被害者は,一連の犯
行の被害を受けた末,共犯者らによって殺害されており,被害者遺族らが被告人
の厳罰を望むのも無理からぬところである。
被告人の役割についてみると,一連の犯行には被告人による自動車の提供と運
転が不可欠であり,被告人はpに到着してからの暴行に積極的に参加し,被害者
の遺体の遺棄も実行している。被告人において,共犯者間でのその立場が強いも
のではなく,共犯者らの言動に追随した面があるとはいえ,犯行全体における被
告人の関与の度合いは,殺害を実行した2名を除く5名の中では最も強いといっ
てよい。
もっとも,被害者からの金品の奪取等は計画的なものではなく,強盗の手段と
しての暴行及び脅迫と被害者の死亡との結びつきの程度が強いとまでもいえない。
一連の犯行が悪質で残酷なものであることは前述のとおりであるが,強盗目的を
有するために傷害致死罪等よりも格段に重く処罰され,強盗についての計画性が
あることの多い強盗致死罪の事案一般の中では,相対的に犯情の軽い事案といわ
ざるを得ない。
これに加え,乙の事件(判示第1)においても,被告人らは,2日間にわたり
被害者に執拗に暴行を加えて金銭を強取しており,被告人も共犯者らとともに自
ら積極的に暴行に参加するなどした点で悪質である。
以上の犯情と併せて,乙の事件について被害弁償がされ,示談が成立している
こと,被告人は,若年であり,本件各犯行においてもその未熟さが影響している
点が存することなど被告人に有利な事情を考慮した上で,被告人の犯行に見合っ
た刑事責任としては,酌量減軽をした上で,主文の刑期とするのが相当であると
判断した。
(検察官の求刑)
懲役18年
平成26年9月24日
広島地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官伊藤寿
裁判官三芳純平
裁判官細田裕司

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