弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余をとりけす。
     被控訴人の請求ならびに付帯控訴を棄却する。
     訴訟費用は付帯控訴の分も含めて第一、二審とも被控訴人の負担とす
る。
     この判決に対する上訴のための付加期間を九〇日とする。
         事    実
 控訴代理人は第一次的に「原判決をとりけす。被控訴人の訴を却下する。訴訟費
用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を、予備的に主文同旨の判決
を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、さらに付帯控訴として第一次的に
「原判決中被控訴人勝訴の部分を除きその余をとりけす。控訴人は被控訴人に対し
英貨四〇九一磅二志及び邦貨金一八万三六〇三円ならびにみぎ各金員に対する昭和
三一年七月一四日から支払いずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払うべ
し。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を、第二次的に
「原判決中被控訴人勝訴の部分を除きその余をとりけす。控訴人は被控訴人に対し
英貨三七〇五磅一二志八片及び邦貨金一八万三六〇三円ならびにみき各金員に対す
る昭和三一年七月一四日から支払いずみにいたるまで年六分の割合による金員を支
払うべし。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
(被控訴代理人提出の昭和三八年七月二二日付付帯控訴状訂正の申立と題する書面
中の付帯控訴の趣旨はみぎ記載のとおりと解する。)当事者双方の事実上の主張・
証拠の提出・援用・認否はつぎのとおり付加訂正するほか原判決事実らんにしるす
とおりであるからここにこれを引用する。
 (被控訴人の主張する事実)
 一、 本件取引はシ・アイ・エフ約款付取引であつた。
 二、 付帯控訴の理由としてつぎのとおり述べた。
 1 (イ) 積出をうけなかつた鋼材の値上りによる損害については、被控訴人
のなした本件契約解除の意思表示の効力発生時たる昭和三一年六月六日をその損害
額算定の基準日となすべきものである。
 一般に売主の債務の不履行によつて売買契約が解除された場合に買主のうくべき
履行に代る損害賠償の額は解除当時における目的物の時価を標準として定めるべき
である(昭和二五年(オ)第二七一号昭和二八年一二月一八日最高裁判所第二小法
廷判決参照)。このことは本件のように売買代金の支払は信用状による旨の特約の
ある所謂信用状取引による場合でも同様である。すなわち信用状取引においては買
主が売主にたいし目的物の給付義務の履行を請求するためには、信用状の設定およ
びその効力持続行為がなされていなければならないことは勿論であつて、本件にお
いても買主たる被控訴人は当初の契約期間の最終日(昭和三〇年二月二八日)の後
たる昭和三〇年五月三一日まで信用状による代金の提供をして売主たる控訴人に対
し本来の給付義務の履行を請求したのである。しかるに控訴人がこれに応じなかつ
たので、被控訴人において相当期間経過後本件契約解除の意思表示をしたのであつ
て、このような場合代金の提供を解除権の行使のときまで継続する必要のないこと
は異論のないところである。
 まして本件においては、昭和三〇年三月三一日付で控訴人代理人弁護士村山輝雄
から債務の履行を拒絶されているから、その後は催告の場合でも履行の提供の必要
はなかつたのである。
 つまり信用状取引において、買主に信用状の設定および存続の義務があるのは売
主をして履行遅滞に陥らしめるまでの期間であつて、一たん売主が履行遅滞に陥つ
た後は、売主が買主にたいし信用状による代金の提供を請求するためには売主本来
の目的物給付義務の外に、履行遅滞による遅延賠償をも併わせて提供しなければな
らない筈のものである。これを要するに、填補賠償額の算定の基準日は契約解除の
時であるとするわが民法上の原則は填補賠償の本質に由来するものであつて、本件
の如く信用状を用いたシ・アイ・エフ売買においても、元来信用状なるものは代金
支払または提供の便法として特約されたものに過ぎないのであるから、代金の支払
ないし提供が条件とならない状態の下において行われた契約解除という法律事実に
基づく効果たる填補賠償額の算定につき、みぎ解除行為に直接関係のない代金の支
払ないし提供に関する信用状が介入し、賠償額算定に関する民法上の原則を修正す
る程の威力を発揮しうるとはとうてい考えられない。
 しかして本件の如く売買の目的物引渡義務の履行遅滞を理由とする契約解除の填
補賠償額算定の基準となすべき場所は履行地であるから、本件においては契約上の
陸揚港たるケニヤのaまたはbがその基準となるべき場所である。
 みぎの見解に基づき被控訴人は積出をうけ得なかつた鋼材三四〇英トンにつき本
件売買契約の解除の効力発生時たる昭和三一年六月六日(一九五六年)における本
件鋼材の陸揚地たるケニヤのaおよびbの市価と契約価格との差額、すなわち、
 丸鋼については一英トン毎に二二磅二志四片五分ノ四 二二〇英トンで四八六六
磅八志
 平鋼については一英トン毎に二一磅三片五分ノ一 七〇英トンで一四七〇磅一八
志八片
 等辺山形鋼については一英トン毎に二五磅一八志四片五分ノ一 五〇英トンで一
二九五磅一七志六片
 以上未積出分三四〇英トン合計英貨七六三三磅四志二片の支払を求める。
 なおみぎ各市価の単価は丸鋼について一封度当り東アフリカ貨五一セント一英ト
ン(二二四〇封度)英貨五七磅二志四片五分の四、平鋼、等辺山彦鋼について一封
度当り、東アフリカ貨五四セント一英トン英貨六〇磅九志七片五分の一である。
 (ロ) かりに、填補賠償額算定の基準日に関する被控訴人のみぎ主張が理由が
ないとするならば、被控訴人は控訴人が商品を信用状の最終期限たる昭和三〇年五
月三一日に船積したならば通常陸揚港に到着すべかりし時期である昭和三〇年七月
中の陸揚港における平均市価を基準として算出した賠償額即ち昭和三〇年七月にお
ける鋼材のケニヤおよびタンガニカにおける市価と契約価格との差額すなわち、
 丸鋼については一英トンにつき二一磅、二二〇英トンで四六二〇磅
 平鋼については一英トンにつき一九磅一七志一〇片五分の二 七〇英トンで一三
八九磅一二志四片
 等辺山形鋼については一英トン二四磅一五志一一片五分の二 五〇英トンで一二
三八磅二志六片
 未積出分三四〇英トン合計英貨七二四七磅一四志一〇片を、損害額として請求す
る。
 みぎ単価は丸鋼一封度アフリカ貨五〇セント、一英トン二二四〇封度英貨五六
磅、平鋼、等辺山形鋼一封度アフリカ貨五三セソト一英トン英貨五九磅七志二片五
分の二
 2 旅費宿泊料の請求
 控訴人は昭和三〇年一月二〇日付電報による本件商品の値上げ要求を拒絶された
ため、じ後本件契約の全面的履行を渋ぶるにいたり、被控訴人からの度々の電報も
しくは書面による契約の完全履行の督促にも応答さえしないので、被控訴人は止む
を得ず、その使用人Aを昭和三〇年二月二七日から同年四月一日まで、またBを同
年一一月一〇日から二六日まで、それぞれ航空機で東京へ派遣し、いずれも旅館に
滞在させて控訴人側と契約の履行方を直接交渉させた。みぎ両名の派遣費として、
被控訴人は前者については航空旅費ナイロビー・東京間エコノミークラス往復分英
貨三五七磅一志東京における旅館滞在費邦貨一二万三五一九円(当時東京における
標準ホテル代一日当り室代二一七〇円食事代一五七七円計三七四七円の三三日分)
後者については航空旅費英貨三五七傍一志東京滞在費前者と同一標準で一六日分邦
貨五万九九五二円以上合計英貨七一四磅二志邦貨一八万三六〇三円を支出した。み
ぎは控訴人の債務不履行によつて被控訴人が蒙つた損害であるからこれが賠償を求
める。
 3 以上のしだいで、被控訴人は控訴人にたいし第一次的には英貨八三四七磅六
志二片と邦貨一八万三六〇三円、第二次的には英貨七九六一磅一六志一〇片と邦貨
一八万三六〇三円の損害賠償請求権を有するので、付帯控訴の趣旨記載のとおり、
これと原審で認容された金額との差額ならびにこれに対する本件契約解除の後で原
審における訴状訂正書の日付である昭和三一年七月一四日から支払いずみまで商事
法定利率年六分の割合による損害金の支払を求めるため本件付帯控訴に及んだ。
 (控訴人の主張する事実)
 一、 本件取引がシ・アイ・エフ約款付取引であることは認める。
 二、 被控訴人が付帯控訴理由として主張する損害額算定の基準日、算定方法に
関する主張は争う。被控訴人が援用する最高裁判所判決は本件に適切でない。けだ
し一回の取引をもつて終了する売買契約で、しかも、その代金の支払ならびに売買
物件の引渡しがたとえ隔地者間であるとしても、みぎ判例となつた事件におけるそ
れのように日本国内において行われる場合には、みぎ判例はそのままこれを判例と
して尊重して差支えないと考える。けれども本件取引はこれと異り、売主たる控訴
人は日本国内にあり、売買の目的物件を遠くアフリカのケニヤ植民地宛に輸出して
買主たる被控訴人に引渡すことを内容とした契約であり、かつ、被控訴人は本件物
件の代金の支払を貿易上の国際信用状を開設して決済することを明確に約定した案
件である。
 控訴人は本件係争契約が当初の約定出荷期限たる昭和三〇年二月二八日の経過に
よりおのずから消滅したものであり、被控訴人主張のように、その一方的な処置に
より同年五月三一日まで履行期が延長されたものでないことを主張するものである
が、かりに本件契約が被控訴人主張のように同年五月三一日までその履行期が延期
されていたとしても、つぎに述べる控訴人の見解の結論にはなんらの消長を来さな
い。海外貿易の信用状取引における売主の義務は売主がその対価の支払をうけるに
ついてなすべき、かつなしうるすべての行為(船積完了および船積関係書類の取引
銀行に対する呈示)を完了した際に、あくまでも直ちにその履行に対応する支払を
信用状によつてうけうるものでなければならないことを条件とする。もし信用状が
そのときまでに失効していたとするならば、売主は右の趣旨における同時履行的
(厳格な意味における同時履行てはないであろうが)な関係に立つ代金請求権を有
すべきにかかわらず、実際には、もし信用状が期間経過後、解約、取消指令その他
により失効している場合には、おのれひとり義務の履行を要求せられるにかかわら
ず、これに対する対価の支払を得るなんらの保証も失つてしまうことになる。これ
は海外貿易、取引において信用状による決済を合意した売買の当事者双方に公平妥
当な結論をもたらすものではない。してみれば本件において、純理の立場からいえ
ば、やはり原審判決摘示のとおり「契約の有効期間内であつて、かつ信用状の有効
期間内」を限度として売主に履行行為をなすべき義務があるに過ぎない。従つてか
りに控訴人に債務不履行の責任ありとされる場合においても、被控訴人に生じたこ
とあるべき損害額算定の基準日は履行期限内であつて、信用状の有効期限内の、お
そらくはその最終日でなければならない。この点に関しみぎ昭和二八年の最高裁判
所判例を引用する被控訴人の見解は本件に適切でない。
 三、 被控訴人主張の旅費滞在費について。かりに被控訴人が現実にその主張の
旅費、滞在費を支出した事実があるとしても、民法第四一五条・第四一六条の原則
に従い債務不履行による損害賠償を考慮する場合客観的因果関係の存在を肯定し得
ない支出に過ぎないと考える。のみならず被控訴人主張のこの支出は、その支出が
特に本件における被控訴人の不履行のためその履行を促すに他に相当な手段がな
く、客観的に観察して何人もその支出を肯定したであろうと認められるような合理
的な支出であるか、否か、大いに疑問とされる支出である。かりに被控訴人主張の
ような代表者又は支配人もしくは従業員がその主張の日時、航空便で来日し、かつ
その主張の期間ホテルで滞在したとしても、その来日の目的が専ら本件控訴人の債
務不履行を督促するにあつたとする被控訴人の主張は全く事実に反する。その来日
の際、これらの被控訴人の代表者支配人又は使用人は、同時に他の多くの取引に関
しても控訴人以外の商社と交渉し、或は契約を締結したに相違ない。その際かりに
本件取引に関しても控訴人の側における被控訴人主張のような遅滞を解消し、履行
を促すための交渉をした事実があつたとしても、それらの者の旅行及び滞在に必要
であつた経費の全額を控訴人に請求することはあきらかに不当である。
 四、 被控訴人提出の書証によれば、他の商社が本件約定履行時期とほぼ同じ時
期に、同一地向け、同一又は類似の商品を船積出荷していることを窺いうる如くで
あるが、このことから直ちに控訴人が船腹確保に関しなしうる最善の努力をしなか
つたと断定することはできない。控訴人は本件契約締結後間もなく関係船会社に対
し所要の船腹確保の申入をし、適式に受理されながら現実にはきわめて一部分の船
積をなすだけの船腹しか与えられなかつたのである。船腹確保が困難なとき、これ
を確保しうるか否かは、船腹申込の時期、荷主と船会社との従前からの取引の実績
等に左右されることが大であると思われるから、同一時期に相当量の船積したもの
があるからといつて一がいに控訴人が船腹獲得に最善の努力をしなかつたと断ずる
ことはできない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 <要旨第一、第二>第一、 控訴人の本案前の抗弁について、(被控訴人の当事者
能力について)
 作成名義・方式等からみていずれも真正に成立したと認められる甲第二号証の一
ないし五、第三、第四号証、成立に争いのない同第二二号証の各記載によると、被
控訴人はケニヤに施行されているパートナーシツプ令(一九三四年七月一日付パー
トナーシツプ法を宣言する律令)に基づいて設立され、かつケニヤの事業名登記令
に則りフアーム(商会)として登記されている「パートナーシツプ」であつて、C
およびDの両名を構成員としてc市d・e通に本店を有しているものであることが
認められ、みぎ「パートナーシツプ」はケニヤの法令上法人格を認められているも
のではないが、訴訟上の当事者能力を与えられているものであることはあきらかで
あつて、この認定をうごかすにたりる証拠はない。
 かような外国の法令により設立された「パートナーシツプ」がわが国において民
事訴訟を遂行するにつき当事者能力を有するか否かは一の国際民事訴訟法上の問題
である。わが国際民事訴訟法上当事者能力については外国人の訴訟能力に関する民
事訴訟法第五一条のような規定がないから条理に従つて決すべきである。おもう
に、司法作用は国家権力の発動であるから、民事訴訟については原則として訴訟の
行われる地の法律すなわち法廷地法を適用すべきであり、当事者能力も一の民事訴
訟上の概念であるから法廷地法によるべきである。したがつて本件における当事者
能力の準拠法は法廷地法たるわが民事訴訟法であると解するのを相当とする。
 そこで、被控訴人がわが民事訴訟法上当事者能力を有するかどうかを検討する
に、前顕各証拠および日本国領事の認証部分の成立について争いがないので全部真
正に成立したと認める甲第五号証の記載をあわせると、被控訴人は前認定の構成員
個人と別個の財産を有し、規約上代表権を持つ各構成員によつて代表されて商業活
動を行つている商会であることが認められ、これと前段認定の事実をあわせると、
被控訴人は代表権の定めのある人格なき社団であると解せられるから、わが民事訴
訟法第四六条によつて当事者能力を有するものということができる。したがつて控
訴人の本案前の抗弁は理由がない。
 第二、本案の請求にたいする判断
 一、 当裁判所もまた、被控訴人がシ・アイ・ラーナーエンドカンパニーという
外国会社と本件売買契約をしたことを前提とする被控訴人の請求は全部失当として
棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は原判決理由のしめすところと
同一であるから原判決理由中当がい部分(原判決書原本二四枚目おもて三行目から
二五枚目うら八行目まで)を引用する。
 二、 そこで被控訴人と控訴人との間に本件売買契約が成立したことを前提とす
る被控訴人の予備的主張について判断する。
 1 被控訴人主張の日に、その主張の品目・単価・数量・価格の信用状取引によ
るシ・アイ・エフ約款付のa向鋼材の売買契約が控訴人を売主として成立したこと
は当事者間に争いがない。
 控訴人はみぎ契約における相手方は被控訴人ではなく、バグワンジ・エンド・カ
ンパニーことEであると主張するので案ずるに、いずれもその成立に争いのない甲
第一号証、乙第一号証、前記甲第二号証の一および弁論の全趣旨により真正に成立
したと認める甲第一五号証の各記載を綜合すると、Eは被控訴人の支配人として被
控訴人のために控訴人とみぎ売買契約を締結したことが認められ、この認定に反す
る証拠はないから、この点に関する控訴人の主張は失当で、本件売買契約は被控訴
人と控訴人間に成立したことはあきらかである。
 2 前記認定の事実ならびに本件弁論の全趣旨によると、本件売買契約は東京に
おいて外国人相互間に成立したものであることあきらかであるから、その準拠法に
ついて考えるに、本件においては当事者のいずれかの国の法律によるべきかについ
てこれを推測すべき特別事情につきなんらの主張も立証もないから、法例第七条第
二項により行為地法たる日本法を適用すべきものと考える。
 3 つぎに船積期間ならびに船積に関する特約について判断する。
 本件売買契約における当初の船積期間が昭和二九年一一月から翌三〇年二月二八
日までであつたことは当事者間に争いのないところであるが、被控訴人は控訴人が
毎月一〇〇英トンずつ船積してみぎ期間内に約定の四〇〇英トン全部の積出を完了
する定めであつたと主張し、控訴人は当時a向けの船腹が非常に窮屈だつたので本
契約は船舶の入手が可能であることを条件とするものであつて、船積期間として定
められた昭和三〇年二月二八日までに船腹の獲得ができなかつた場合には、本契約
はみぎ期間の経過によつて失効する約であつたと主張するので案ずるに、各その成
立について争いのない甲第一号証、乙第二号証の各記載、原審におけるF本人尋問
の結果、当審における証人Fの証言をあわせると、本件契約締結当時a向船腹の獲
得はきわめて困難である(このことは当事者間に争いがない)ことが判明したの
で、控訴人は船腹が入手できないために約定どおりの荷送りができない場合に備え
て、特に被控訴人にたいし契約条項中に
 “Shipment within the time stipulated
 shall be subject to freight being av
ailable”
 なる条項の挿入を要求し、被控訴人の同意を得てみぎ条項を契約書中に明記した
こと、他方控訴人は被控訴人に荷送りすべき鉄鋼を国内の生産者上野半兵衛商店か
ら買受けるにあたり、その買入注文は船腹獲得が可能であることを条件とする旨を
特約した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。
 みぎ認定の事実によると、本件契約には被控訴人主張のように毎月の船積量を一
〇〇英トンとする旨の定めがなかつたことはあきらかであるとともに、控訴人主張
のように本件契約には船舶獲得が可能であることを条件とする旨の直接の文言がな
いこともまたあきらかであるが、みぎ認定の条項挿入の経緯、すなわち本件契約締
結当時控訴人としては売渡物件を被控訴人指定地向けに輸送するための唯一の手段
たる船腹の確保ができるかどうかはなはだ不安の状態であつたので、前記条項をも
つて船腹入手不能の場合における危険負担を回避しようとしたものであることを考
慮し、契約全体の趣旨を考えると、控訴人は約定の期間内の船積の履行を船腹獲得
を条件として受諾したものと解するのを相当とし、控訴人において所定の期間内に
は必ず全部の船積をなすべきことを約したものとはとろてい解しがたい。
 以上のしだいで本件売買契約は船腹獲得が可能であることを条件として成立した
ものと認められる。甲第一五、第一六号証の各記載中みぎ認定に反する部分は前記
認定に引用の各証拠にてらし採用しない、他にみぎ認定をうごかすにたりる証拠は
ない。
 4 被控訴人は当初の船積期間はその後被控訴人において信用状の有効期間を昭
和三〇年二月二八日から同年五月三一日まで延長したので、これに伴い船積期間も
同年五月三一日まで延長されたものであるというけれども、みぎ船積期間の延長に
つき当事者間に合意が成立したこと、もしくは信用状の期間の延長に伴い当然に船
積期間が延長される商慣習があることなどの点についてなんらの立証もないから被
控訴人のみぎ主張は採用できない。したがつて本件契約における船積期間は当初約
定されたとおり、昭和二九年一一月から同三〇年二月二八日までであるというべ
く、本訴請求のうち、昭和三〇年五月三一日当時における債務不履行を原因とする
被控訴人の請求はその他の点について判断するまでもなく失当で棄却を免がれな
い。
 三、 ところで、被控訴人は本訴において船積期間が昭和三〇年五月三一日まで
延長せられたことを前提とし、このときにおける債務不履行を原因とする損害賠償
の請求をしているが、もしこの請求が認められないときは、船積期間が昭和二九年
一一月から同三〇年二月二八日であることを前提として前同様の損害賠償の請求を
しているものと解されるので、この点に関する被控訴人の請求について判断をすす
める。
 1 控訴人が本件契約に基づく債務の履行として昭和三〇年二月一二日までに丸
鋼合計六〇英トンを船積したに止まり、残余の鋼材三四〇英トンを前記船積期間を
経過するも船積しなかつたこと、その結果被控訴人は控訴人にたいし再三に亘つて
みぎ残余鋼材の船積を催告したが、これに応じなかつたので昭和三一年六月六日到
達の書面で本件売買契約中未履行の部分につき契約を解除する旨の意思表示をなし
たことは当事者間に争いがない。
 2 控訴人は本件売買契約は昭和三〇年二月二八日限り失効した旨主張するので
この点について判断する。
 本件売買契約が船腹獲得が可能であることを条件とするものであることは前段説
示のとおりである。
 もし、控訴人が取引上相当とする努力をしたにもかかわらず前記期間中履行ずみ
の六〇英トンの船腹の獲得しかなし得なかつたとするならば、前認定の特約により
控訴人に債務の不履行の責なく、船積期間の経過と共に契約は当然終了したことと
なるわけである。
 3 そこで果して控訴人において本件契約成立後取引上相当の努力を払つたにも
かかわらず六〇英トンの船腹しか得られなかつたかどうかを検討する。
 本件契約当時仕向地であるa港向船腹がきわめて窮屈でその獲得が非常に困難な
状況にあつたことは前認定のとおりであり、成立に争いのない乙第八号証、原審に
おけるF本人の供述により各その成立を認める乙第六号証、同第一一号証の一、二
の各記載、原審における証人G、同H、当審における証人I、同Fの各証言、原審
におけるF本人尋問の結果をあわせると本件契約当時わが国からのaおよびb港
(被控訴人により仕向地として追加指定され控訴人も受諾した港)向配船はバン
ク・ラインおよびロイヤル・インターオーシヤン・ライン(略称リオ・ライン)の
両社に独占されていたこと、控訴人は本件契約成立日である昭和二九年一〇月一日
バンク・ラインの代理店ドツドウエル・アンド・カンパニーリミテツドに対して同
年一一月から翌三〇年二月末にかけて鉄鋼四〇〇英トン(本件契約により荷送りす
べき全数量)のa向積出方を依頼し、また、昭和二九年一一月二七日リオ・ライン
にたいし同年一二月から翌三〇年一月にかけて同じくa向鉄鋼六〇英トンの船積方
を依頼したが、船腹不足のため結局バンク・ラインから昭和二九年一二月と翌三〇
年一月および二月に合計六〇英トンの船腹の割当をうけ得たにすぎなかつたこと、
前記a向船腹獲得の困難な事情にかんがみ被控訴人により仕向港としてbが追加さ
れた(この事実は当事者間に争いがない)ので、昭和三〇年一月始ころ控訴人はバ
ンク・ラインからb港向五〇英トンの船腹獲得に成功したが被控訴人からb港向け
船荷はリォ・ラインのみによるべしとの指示があり、控訴人の要求にかかわらずみ
ぎ指示が撤回されなかつたので、控訴人はみぎバンク・ラインによるb向五〇英ト
ンの船腹を放棄せざるを得なかつたことを認めることができる。甲第一五号証の記
載ならびに当審証人Jの証言中みぎ認定に反する部分は採用しない。他にみぎ認定
をうごかすに足りる証拠はない。ところで当審証人Jの証言によりその成立を認め
る甲第一七号証の二、三および五、六、同第二〇号証の一ないし一一、弁論の全趣
旨によりその成立を認める甲第一七号証の一、四および七の各記載、みぎJ証人の
証言によれば、本件契約と略ぼ同時期に成立した契約に基づいて本件船積期間と略
ぼ同時期である昭和二九年一〇月から同三〇年五月までの間に、aもしくはbに向
け同種の鋼材を相当多量に船積していることが認められる。すなわち訴外大野興業
株式会社は二回にわたつて約一四一英トン、訴外東京貿易株式会社は一三回にわた
つて約四一二英トンを船積している事実を認めることができるけれども、原審証人
H、当審証人Iの証言によれば当時a、b向の船腹事情は大変ひつぱくしており、
一商社宛には非常にすくない船腹があたえられるだけであつたこと、リオ・ライン
では従来から取引のあつた東京貿易株式会社、大野興業株式会社等の日本商社にた
いしてはケニヤ向船腹を比較的多く与えていたが、控訴人のような外国商会には船
腹の割当をしなかつたことをうかがうことができるから、みぎ事実は未だ前記認定
の妨げとならない。
 さらにまた、控訴人が被控訴人にたいし、昭和二九年一〇月八日「a行貨物船腹
手配済、積出可能時期早くて一一月、信用状至急必要」との電信を寄せ、翌三〇年
一月二〇日「製造所は価格を引き上げなければ二月分出荷を承諾しない。新価格は
丸鋼一英トン当り四一磅九志である。平鋼、山形鋼は入手不能。承諾乞う」との電
信を寄せたことは当事者間に争いがないが、前者は前段認定のとおり控訴人が契約
成立の日にバンク・ラインの代理店にたいし契約に係る全量の鉄鋼を約定の船積期
間内に荷送りすべきことを依頼した後、被控訴人にたいしその旨を告げて信用状の
交付方を督促したものと認められるし、また後者については原審におけるF本人尋
問の結果ならびにこれによりその成立を認める乙第一一号証の一、二の記載によれ
ば、控訴人は鋼材の仕入先訴外上野半兵衛商店から値上げの要求をされたため前記
のように昭和三〇年一月二〇日付で被控訴人にたいし値上げの承認方を求めたので
あるが、その承認を得ることができなかつたので、その後同年二月中に約定どおり
の値段で鋼材二五英トンを荷送りした事実を認めることができ、この認定に反する
証拠はなく、この事実に鑑みれば控訴人においてみぎ書面により鋼材の値上りを理
由として全面的に船積を拒絶したとまでは認めることはできないから、これまた前
記認定の支障となすにたりない。
 4 前記認定の事実に徴すれば、控訴人は本件契約成立後船積期間終了の日まで
本件積荷の船腹獲得のため取引上相当とする努力をしたものと認めるを相当とす
る。そして船積期間の延長がなされなかつたことは前段説示のとおりであるから、
控訴人主張どおり本件売買契約中未履行の部分は船積期間終了の日である昭和三〇
年二月二八日かぎり効力を失つたものというべく、これにつき控訴人にはなんら債
務不履行の責はないといわねばならない。
 されば、控訴人に債務不履行があつたことを前提とする被控訴人の本訴請求はそ
の余の点を判断するまでもなく失当として棄却すべきもので、本件控訴は理由があ
ると共に、付帯控訴はその理由がないことおのずからあきらかである。
 よつて、みぎと異なる原判決は取りけすべく、訴訟費用の負担について民事訴訟
法第八九条・第九六条・付加期間の定めにつき同三九六条・第三六六条・第一五八
条第二項を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 満田文彦 判事 高津環 判事 弓削孟)

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