弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人が,A株式会社に対し,同社が納付すべき東京都江東区α×番及び
××番所在のマンション建設に関する公共施設整備協力金残金2億9923万
4000円の請求を怠ったことが違法であることを確認する。
第2事案の概要
1本件は,東京都江東区の住民である控訴人らが,東京都江東区α×番及び×
×番所在のマンション(以下「本件マンション」という)の建設事業者であ。
るA株式会社(以下「A」という)は,被控訴人との間で,江東区マンショ。
ン等建設指導要綱(平成14年4月15日14江都住第64号区長決定。以下
「本件指導要綱」という)10条に基づき,平成15年4月16日「マン。,
ション等の建設に関する覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という)を。
取り交わしたことにより,江東区に対し,本件指導要綱34条1項所定の算式
に従って算出される額である5億5500万円の公共施設整備協力金の支払を
約したにもかかわらず,Aは,このうち2億5576万6000円を支払った
のみで,残金2億9923万4000円を支払わないと主張し,地方自治法2
42条の2第1項3号に基づき,被控訴人がAに対して上記残金2億9923
万4000円の支払を請求しないことが違法であることの確認を求める住民訴
訟である。
原判決は,本件覚書を取り交わしたことによって,Aと江東区との間で,本
件指導要綱34条1項所定の算式に従って算出される額である5億5500万
円の支払約束が成立したと認める余地はないとして,控訴人らの請求を棄却し
たため,控訴人らが原審の上記認定判断を争って控訴した。
2事案の概要の詳細(前提事実,本件の争点及び当事者の主張)は,当審にお
,「」ける控訴人らの主張として3項のとおり加えるほかは原判決事実及び理由
欄の「第2事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用
する。
3当審における控訴人らの主張
(1)本件指導要綱34条1項所定の算式によって算出される額の公共施設整
備協力金の支払約束の成立
ア本件指導要綱34条1項には,江東区が事業者に対し,所定の算式によ
り導かれる金額の公共施設整備協力金を求める旨が規定されており,当該
算式から導かれる金額は,二義を許さない具体的なものであって,2項が
これを減額できる場合の例外を定めているものといえる。江東区における
運用の実際をみても,本件指導要綱34条1項所定の算式によって算出さ
れる額の公共施設整備協力金が納付される例が大半を占め,これを下回る
場合には,同条2項による減額処理(相殺処理)がされていることや,建
設省から各都道府県知事等に対して発せられた「宅地開発等指導要綱の『
見直しに関する指針』について(平成7年11月7日建設省経民発第4」
5号,建設省住街発第94号)に示された指針の趣旨とするところからみ
ても,本件指導要綱34条1項は,行政指導における公正の確保と透明性
の向上を図るため,江東区が事業者に対して求めるものとされる公共施設
整備協力金の額について標準的な内容を一義的に定めたものと解される。
イAが江東区との間で取り交わした本件覚書1条には「要綱等の規定を,
遵守し」と記載されており,本件覚書1条に基づく合意には,本件指導要
綱34条1項により江東区が求める公共施設整備協力金をAが納付する旨
の合意を含むものというべきである。
ウ江東区がAに交付した「公共施設整備協力金相殺額の決定について」と
題する書面も,江東区が,事業者であるAに対し,本件指導要綱34条1
項所定の算式によって算定される額の公共施設整備協力金の支払債権を有
していることを前提とするものと解するよりほかはない。
以上アないしウによれば,Aは,江東区との間で本件覚書を取り交わすこ
とによって,本件指導要綱34条1項所定の算式によって算出される額の公
共施設整備協力金の支払を約束したものというべきである。
(2)減額処理の違法性
被控訴人がAに対して「公共施設整備協力金相殺額の決定について」と題
する書面を交付して行った公共施設整備協力金の減額処理は,①減額分の
算定に当たった建設コンサルタントの報酬額を減額している点,②本来減額
が許されるのは,本件施行細目所定の用地又は施設の無償提供がある場合に
限られるにもかかわらず,公開空地及び緑地整備工事,レンガ遺構保存及び
設置工事等の工事費を減額している上,上記工事費の中には,区民に全く公
開されていない緑地に係る工事費や江東区の区分所有とならない集会室の整
備費用まで含まれ,レンガ遺構のようにAの責において設置することが本件
覚書で合意された工事について,異常に高額な工事費が計上されている点な
,,。ど被控訴人が行った減額処理はこれが適正に行われたとは到底認め難い
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人らの請求にかかる訴えは適法であるが,その請求は理由
。,,がないから棄却すべきものと判断するその理由は次のとおり原判決を改め
2項のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を加えるほかは,原判
決「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(1)原判決23頁17行目の「江東区が」から20行目末尾までを,「江,
東区が,事業者に対し,同条2項に基づき,その額を減ずる措置を執らない
限り,同条1項所定の算式によって算定される額の公共施設整備協力金の支
払を求める方針であることを定めたものと解される。そして,本件指導要綱
34条1項は,上記のように行政指導の公正の確保と透明性の向上を図るこ
とを目的とする内部基準にとどまる以上,同条1項それ自体によって,同条
2項に基づく減額措置が執られない場合においては,事業者が同条1項所定
の算式によって算定される額の公共施設整備協力金の支払を義務付けられる
と解する余地のないことは明らかである」と改める。。
(2)同24頁2行目の「特定されていない上」の次に「本件指導要綱34,
条1項は,事業者が遵守すべき行為基準を定めたものではないこと」を加,
える。
2当審における控訴人らの主張に対する判断
本件指導要綱34条1項は,江東区が,事業者に対し,同条2項に基づき,
その額を減ずる措置を執らない限り,同条1項所定の算式によって算定される
額の公共施設整備協力金の支払を求める方針である旨,同区の事業者に対する
行政指導に係る内部基準を定めたものと解されることは既に説示したところで
あり,その意味で,同条1項は,江東区が同条2項所定の減額措置を執らない
場合において,事業者に対して支払を求めることが予定された公共施設整備協
力金の額を定めるものであって,その額は,同条1項に所定の算式に従うこと
によって一義的に算定することが可能であることは明らかである。しかし,本
件覚書第1条の文言が前記引用に係る原判決説示のように抽象的かつ一般的な
ものであって,遵守すべきものとされる法令や要綱の規定は具体的に何ら特定
されていないことや,本件覚書には,公共施設整備協力金については具体的に
言及した条項はないこと,他方,本件指導要綱34条1項は,江東区の方針を
定めたものであり,事業者が遵守すべき行為基準を定めたものではないことか
らすれば,本件指導要綱34条1項所定の算式によって算定される額が一義的
に明らかであるからといって,江東区とAとの間で本件覚書を取り交わされた
ことによって,上記算式によって算定される額の公共施設整備協力金の支払が
合意されたと認めることはできない。そして,甲4号証によれば,江東区がA
に対して交付した「公共施設整備協力金相殺額の決定について」と題する書面
においては,本件指導要綱34条2項に基づき減額する額を「相殺額」と表記
しているにとどまり,上記書面の文言上も,同区が,Aに対して同条1項所定
の算式によって算定される額の公共施設整備協力金支払債権を有していること
を前提とするものであると解することはできず,その他,控訴人らが主張する
ところを勘案しても,江東区とAとの間で,上記算式によって算定される額で
ある5億5500万円の公共施設整備協力金の支払について合意が成立したと
認めるに足りる証拠はない。
控訴人らの主張は採用することができず,その余の点について判断するまで
もなく,控訴人らの請求は理由がないものというほかはない。
3以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄
却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官小林克已
裁判官綿引万里子
裁判官孝橋宏は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官小林克已

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