弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件控訴を棄却する。
     当審および原審における訴訟費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人佐々木敬勝の上告理由第一点について。
 原審の確定した事実によれば、上告人は、訴外D株式会社が第三債務者である被
上告会社に対して有する二五万円の売掛代金債権について差押取立命令を得、右命
令はD株式会社および被上告会社に送達された。ところが、訴外E株式会社は、こ
れより先、D株式会社を相手どつて、同一の債権について仮差押をし、さらに前記
差押取立命令の送達後、右債権について自ら差押転付命令を得、右命令はD株式会
社および被上告会社に送達された。そして、被上告会社はE株式会社に対して二五
万円の支払をした、というのである。
 このように同一債権の差押が競合する場合に発せられた転付命令は、転付債権者
が優先権を有するときのほかは、無効であり、転付債権者は当該債権を取得できな
い(大審院民事連合部明治四四年五月四日言渡判決、民録一七輯二五三頁、大審院
大正二年四月一二日言渡判決、民録一九輯二二四頁参照)。しかし、転付債権者は、
転付命令に権利者として表示された者であるから、右命令に基づき第三債務者に債
務の履行を請求するときは、これを民法四七八条にいう債権の準占有者というべき
であり、したがつて、第三債務者が右転付債権者に対し善意無過失でなした弁済は、
自己の債権者に対する関係においては有効であるとしなければならない。しかし、
右弁済の効力を他の差押債権者に対しても主張することができるか否かは別個に考
察することを要する。そして、第三債務者が転付債権者に対してなした弁済は、民
法四八一条一項にいう「支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者カ自己ノ債権者ニ弁済ヲ
為シタルトキ」と同視すべきであり、したがつて、第三債務者は他の差押債権者に
対し、被差押債権の消滅を主張することができないものと解するのが相当である(
大審院昭和一二年一〇月一八日言渡判決、民集一六巻一五二五頁参照)。けだし、
(い)民法四七八条の目的は債権者らしい外観の保護に尽きるものであり、したが
つて、同条の要件を充たしてなされた弁済は真実の債権者に対してその効力を生ず
ると解すれば足りる。民法四七八条が、進んで、民法四八一条の保障する差押債権
者の利益を否定する趣旨をも含むと解することは、四七八条の立法趣旨を逸脱し、
かつ、四八一条一項の規定の意義を没却するものといわなければならない。(ろ)
第三債務者が自己の債権者に対してなした弁済であつても、差押債権者に対し効力
を有しないのであるから、債権者の権利を行使するにすぎない準占有者に対してな
した弁済についても同様に解することが衡平に適合する。(は)第三債務者は、準
占有者に弁済をする場合においては、当然、該弁済が差押債権者の権利を阻害する
ことを予見し、または予見すべかりしものであつた。この点において、右の弁済は、
第三債務者が自己の債権者に弁済した場合と同視すべきであり、彼此区別して取り
扱う合理的な理由がない。
 叙上説示したところによれば、被上告会社がE株式会社に対してなした弁済が債
権の準占有者に対する弁済として有効であるという一事により、当然他の差押債権
者たる上告人に債権の消滅を対抗することができると判断した原判決は、民法四八
一条一項の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。論旨は理由
があり、原判決は、この点において破棄を免れない。そして、原判決の確定した事
実によれば、被上告人に対し売掛代金二五万円およびこれに対する昭和三五年五月
二三日以降支払済みにいたるまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める上
告人の本訴請求を認容した第一審判決は相当であつて、本件控訴は棄却すべきであ
る。
 よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇八条、三八四条、九五条、
八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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