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平成14年3月6日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成7年(ワ)第698号、平成8年(ワ)第300号 小松基地戦闘機離着陸差止等請求事
件(以下「第3次訴訟」、「第4次訴訟」という。)
(平成13年6月29日口頭弁論終結)
判        決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主        文
 1 原告A1の訴えを却下する。
 2 被告は、別紙損害賠償額一覧表掲記の原告らのうち同表中に「期間B」欄のある
原告らに対し、それぞれ、次の(1)ないし(3)の各金  員を支払え。
  (1) 同表「賠償額」欄に「賠償額合計」として記載した額の金員。
  (2) (1)の金員のうち、同表「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員に対
する、第3次訴訟原告についてはいずれも平成    8年1月19日から、第4次訴訟原
告についてはいずれも平成8年6月25日から各支払済みまで年5分の割合による金
員。
  (3) (1)の金員のうち、同表「期間B」欄記載の期間に発生した「慰謝料月額」欄記載
の各金員に対する、各発生月の翌月1日から各    支払済みまで年5分の割合によ
る金員。
 3 被告は、別紙損害賠償額一覧表掲記の原告らのうち同表中に「期間B」欄のない
原告らに対し、それぞれ、同表「賠償額」欄に「A   期間総額」として記載した額の金員
及びこれに対する、第3次訴訟原告についてはいずれも平成8年1月19日から、第4次
訴訟原告  については平成8年6月25日から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 4 上記2及び3の原告らの平成13年6月29日までに生じたとする損害の賠償請求
中、その余の部分をいずれも棄却する。
 5 上記1ないし3の原告らを除くその余の原告らの平成13年6月29日までに生じた
とする損害の賠償請求をいずれも棄却する。
 6 原告A1を除くその余の原告らの訴えのうち、平成13年6月30日以降に生じるとす
る将来の損害の賠償請求に係る部分をいずれも却下する。
 7 原告A1を除くその余の原告らの、自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊の軍用機の離着
陸等の差止め及びその発する騒音の音量規制に係る請求をいずれも棄却する。
 8 訴訟費用の負担は、第3、4次訴訟を通じて、次のとおりとする。
  (1) 別紙損害賠償額一覧表掲記の原告らに生じた訴訟費用は、その3分の1を 同
原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。  (2) 原告A1に生じた訴訟費用は、
原告訴訟代理人らの負担とする。
  (3) その余の原告らに生じた訴訟費用は、同原告らの負担とする。
  (4) 被告に生じた訴訟費用は、その5分の1を原告A1を除く原告らの負担とし、その
余を被告の負担とする。
 9 この判決は、第2項のうち別紙損害賠償額一覧表の「賠償額」欄に「賠償額合計」と
して記載した額の金員の支払を命ずる部分、及  び第3項のうち別紙損害賠償額一覧
表の「賠償額」欄に「A期間総額」として記載した額の金員の支払を命ずる部分に限り、
仮に執行  することができる。
            事        実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1)(差止請求)
   ア 被告は、自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして、小松飛行場において、毎日午後
零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午     前7時までの間、一切の軍用機
を離着陸させたり、そのエンジンを作動させたりしてはならない。
イ 被告は、自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして、小松飛行場の使用により、毎日
午前7時から午後零時まで及び午後2時から午  後6時までの間、原告らの各居
住地に対し70ホン(A)を超える一切の軍用機の発する騒音を到達させてはならな
い。   
 (2)(慰謝料等請求)
ア 被告は、原告らに対し、それぞれ、金120万円及びこれに対する第3次訴訟原
告らについては平成8年1月19日から、第4次 訴訟原告らについては平成8年6
月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 被告は、原告ら各自に対し、第3次訴訟原告らについては平成8年1月19日か
ら、第4次訴訟原告らについては平成8年6月2 5日から、被告が自ら又はアメリ
カ合衆国軍隊をして前記(1)のア及びイの各措置をなし又はなさしめるまでの間、毎
月末日限り金 5万円及びこれに対する各発生月の翌月1日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
 (3) 訴訟費用は被告の負担とする。
 (4) 仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
  (1) 原告A1の訴えを却下する。
 (2) 上記(1)の原告を除くその余の原告らの訴えのうち、自衛隊が使用する航空機の
離着陸及びエンジンの作動の差止め並びに同  航空機が発する騒音の音量 規制
を請求する部分並びに将来の損害の賠償を請求する部分を、いずれも却下する。
 (3) 上記(2)の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 (4) 訴訟費用は原告らの負担とする。
 (5) 仮執行免脱宣言及び仮執行の開始時期猶予宣言
第2 当事者の主張
   原告らの主張は別冊「原告ら最終準備書面」記載のとおりであり、被告の主張は別
冊「被告最終準備書面」記載のとおりであるが、  その要旨は次のとおりである。
 1 原告らの請求原因の要旨
 (1) 原告らの居住地等
原告らの居住地ないし職場所在地は、石川県小松市、同県加賀市、同県能美郡
根上町等であり、日本海と加賀平野の豊かな自 然に恵まれ、太古のいにしえ
より静かで平和な生活と生業を営むのに適した地域であった。
ところが、後述するとおり上記地域の中心に小松飛行場(本件飛行場)が設置さ
れ、ここに離着陸するすべての軍用機は、日々 すさまじい激痛音を発しながら原
告らの居住地域上空を飛行するなどしており、これにより原告らの諸権利は著しく侵
害されてい  る。
ちなみに、原告らが各自の居住地においてそれぞれ居住を開始した時期は、別
表1「居住状況一覧」における「居住期間」欄中 の「原告主張」欄記載のとおりで
ある(なお、原告ら訴訟代理人は、この点に関する主張の趣旨について、原告らが
上記居住開始 時期以降同表記載の居住地に居住し現在も居住を続けている旨主
張するものであると釈明し、前後に転居歴を有する原告らにあ っても、上記居住地
に転入するまでの被害及び同所から転出した後の被害については、本訴において
これを主張しない趣旨であ  ることを明らかにした。)。
(2)本件飛行場の概況
  本件飛行場は、石川県小松市向本折町に所在し、被告が航空自衛隊基地とし
て設置し、内部的には航空自衛隊小松基地司令 が管理する飛行場であるが、昭
和36年7月同基地に第6航空団が編成されて以来現在に至るまで、同航空団は、
航空総隊隷   下、中部航空方面隊直轄部隊の航空団として、戦闘機による防空
行動、陸上及び海上の行動に対する支援並びに領空侵犯に対 する措置を主要任
務とし、日本海側における中心的な自衛隊航空基地としての機能を果たしている。
  また、本件飛行場の一部は、昭和57年、地位協定(日本国とアメリカ合衆国と
の間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づ く施設及び区域並びに日本国に
おける合衆国軍隊の地位に関する協定)により日米共同訓練等の実施のためにア
メリカ合衆国軍 隊(米軍)に新規提供され、航空自衛隊と米軍との共同使用が認め
られており、毎年数回共同訓練が行われている。
  なお、本件飛行場は、昭和36年公共用飛行場として告示され、自衛隊と民間航
空との共用飛行場となっている。
 (3) 原告らに対する侵害行為
  ア 軍用機による騒音暴露
     本件飛行場に離着陸するすべての軍用機は、激痛音を発しながら原告らの居
住地域上空を低空飛行のまま上昇、旋回及び下    降しており、また、同飛行場でな
される軍用機のエンジン整備等に伴うごう音も原告らの居住地域に直接到達している。
軍用機に    よる騒音暴露は、騒音測定が始められた昭和42年以降現在まですさま
じい実態をもって推移してきており、原告らは永年にわた    ってこの激痛音に暴露さ
れ続けている。
イ 軍用機の墜落等の危険性
  本件飛行場はこれまで軍用機基地として拡張強化されてきたが、この間 軍用
機墜落等の事故がしばしば起きている。本件飛 行場を離着陸する軍用 機は、
多数の住民が居住する広範な地域の上空を多数回にわたって飛んで おり、原告ら
が訴えている ように、周辺住民は日常的に軍用機の墜落等に よる大惨事の恐
怖におびやかされ、かつ生命の危険にさらされている。
  これまでの研究結果によれば、戦闘機の事故発生確率は民間機のそれの10
0倍とされており、本件飛行場を離着陸する軍用     機の戦闘飛行訓練が年々激しく
実戦さながらの様相を呈していることも併せ考えると、原告ら周辺住民がまことに憂慮すべ
き危険     にさらされていることは明らかである。
ウ 平和的生存権に対する侵害
  原告らは、憲法前文、9条及び13条に基づき、軍事的手段を一切排除して恐怖
と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利、す     なわち平和的生存権を有して
いる。しかるに、自衛隊及び在日米軍は憲法9条で保持を禁止された戦力に当たることは
明白であ      り、本件飛行場を拠点とする航空自衛隊及び在日米軍の存在・活動は、
いかなる意味においても憲法上許されないものであると      ともに、戦争発生の危険
を惹起、誘発するものであって、原告らの有する上記平和的生存権を侵害するものである。
 (4) 原告らの被害
 原告らは、上記のとおり平和的生存権を著しく侵害されているだけでなく、 軍用
機の騒音に暴露されるという環境の破壊を被り、かつ、それにとどまら ず、以下に
述べるとおり、各種の人格権に対する侵害を受けている。その被 害の特質は、第
一に被害の範囲が極めて広い領域にわたっていることであり、 第二に被害の態
様が多種多様に現れていることであり、第三に被害の程度が 深刻かつ重大であ
ることである。そして、これらの被害はすべての原告に共 通して重層的に出現し、
相乗的に被害を増大させているものであり、この重 層的相乗的な被害の総体が
まさに総体として把握されなければならないし、 かつ、原告ら個々人がひとしくか
かる被害の総体を被っているものである。
 ア 身体的被害(健康被害)
軍用ジェット戦闘機騒音による身体的被害のうち最も顕著なのは聴力に対する
侵害である。すなわち、軍用機の飛来直後にお  いてはその激痛音によりすべて
の者が一時的聴力損失の被害を受け、その状態を繰り返されるとやがて騒音性難聴
となる。現に  原告らの中にも耳鳴り、難聴を訴える者が多い。
 また、騒音は自律神経、特に交感神経を刺激し、身体各部に種々の生理的被
害を生じさせる。頭痛、めまい、肩こり、疲労感、血圧異常、心悸昂進、食欲不
振、胃腸障害等を訴える原告が少なくないのはこのためである。
 さらに、激甚な軍用機騒音下に病臥している病気療養中の者にとっては、その
精神的苦痛は特に甚だしく、治療が長引き回復が困難となり、経済的負担の増大
と共に病状が悪化することとなる。
イ 精神的被害
     軍用機騒音は日常生活上他に類を見ないほど強大であり、かつ、金属性激痛
音であって、かかる騒音に日夜さらされている原   告らはいずれも強い不快感、い
らだちや疲労感を訴えている。そして、日常的に墜落の恐怖や不安におびえている。
     これまで永年にわたって頻繁に襲いかかる騒音や危険の下での生活を強いら
れてきた原告らの日々の苦痛はまことに耐え難    いものとなっている。
ウ 睡眠妨害
原告らは、強大な軍用機騒音により深刻な睡眠妨害を受けており、その苦痛を
強く訴えている。睡眠への影響は単に日常生活の支障となるだけでなく、疲労回
復を妨げ、病気療養の妨げとなり、あるいは睡眠不足による疲労や精神的不快
感等がストレス要因となって他の疾病を誘発する一契機となるなど、健康に対す
る重大な影響につながるものである。
エ 日常生活の妨害
     騒音による被害は広くかつ深く日常生活全般に及んでいるが、その最たるもの
は家庭の団らんの破壊である。すなわち、原告ら   の家庭においては強烈な騒音
のため家族の会話、電話による通話、ラジオ・テレビの視聴が著しく妨げられ、一家団ら
んでくつろぐ   ことが著しく妨げられる状況にある。また、注意が散漫となり思考が中
断され、新聞雑誌を読み手紙を書くなどの日常行為も妨げ    られ、家事、労働、学
習、営業の能率低下も著しく、その被害はまことにゆゆしきものである。
オ 教育保育環境の破壊
     子供は、学校でも家庭でも軍用機騒音のため落ち着いて勉強することができな
い。大切な成長期にあるだけにその受ける被害   は甚大であり、人格形成上取り返
しのつかない損失である。
  また、軍用機の発する雷鳴のごときごう音は、乳幼児の柔らかな心身に 深く衝
撃的に突き刺さる。えい児はわなわなと震えて  狂ったように泣き出し、2、3歳児
は母親に強くしがみついて容易に離れようとしない。園児は保母の話も聞かずやか
ましいと騒ぎ  立て、保育のリズムも中身も失われ る。成育に必要な午睡と休息
は絶えず寸断され、持続性を維持することができない。
乳幼児に及ぼす軍用機騒音の悪影響はまことに多大である。
カ 交通事故の危険
  本件飛行場周辺においては、軍用機騒音により車のクラクションやエンジン音
が聞こえない、あるいは運転者及び歩行者の注  意力が妨げられるといった事態
がしばしば生じており、原告らは常に交通事故の危険にさらされている。
キ 職業生活の妨害
  本件飛行場周辺で職業生活を営む原告らは、軍用機騒音のため、顧客や職場
の同僚との会話及び電話に支障を来すことによ る営業上の損失、連絡 ミスによ
る作業進行の停滞、労災事故の危険にさらされるとともに、作業能率の低下、知的
作業の停滞等 の被害を受け、生活基盤が脅かされている。
(5) 差止請求
  原告らの差止請求は、以下の根拠に基づくものである。
  また、それは、本件飛行場の全面的使用停止を求めるものではなく、後記「10・4協
定」等を勘案した上、当面の部分的措置として、  午睡、家庭団らん及び就寝等の時間
帯である毎日午後零時から午後2時まで及び午後6時から翌日午前7時までの間に限
って飛行  差止めを、その余の生活時間帯である毎日午前7時から午後零時まで及び
午後2時から午後6時までの間については、騒音を70ホ  ン(A)以下とする音量規制
を求めるものである。原告らの請求は、平和、静穏、健康にして快適な環境・生活を維
持・保全する上で、  まことにささやかな請求にすぎず、当然に認められるべきもので
ある。
  ア 平和的生存権
  前述したように、本件飛行場を離着陸する自衛隊及び在日米軍の軍用機 は憲
法9条が保持を禁じている戦力そのものであっ て、原告らが憲法前文、 9条及
び13条に基づき有している平和的生存権を著しく侵害している。
      よって、原告らは、こうした憲法違反の状態を是正し、平和的生存権を回復する
ため、本件飛行場におけるすべての軍用機の離     着陸等の差止めを求めることがで
きる。
    イ 人格権・環境権
  原告らは、憲法13条及び25条に基づき、人間としての生存にとって 基本的か
つ不可欠な利益の総体としての人格権、並び   に、健康で快適な生 活を維
持し得る外的条件であるところの良好な環境を享受し、かつ支配し得る権利として
の環境権を有して  いる。
     ところが、前述したように、軍用機の飛行等による爆音等によって原告らは上記
各権利を著しく侵害されている。
     よって、原告らは、被告に対し、こうした権利侵害行為の差止めを請求すること
ができる。
  ウ 10・4協定
    昭和50年10月4日、石川県知事及び小松市長、加賀市長を含む本件飛行場周
辺の関係8市町村長は、防衛施設庁長官との   間で「小松基地周辺の騒音対策に関
する基本協定書」を締結し、また、小松市長は、名古屋防衛施設局長との間で飛行経路
等に  関する「協定書」を締結した(「10・4協定」)。
    これにより、早朝、夜間及び昼休み時間帯には緊急発進その他特にやむを得な
い場合を除き離着陸及び試運転を中止するこ    と、昭和58年までに小松市の騒音
環境を屋内外を問わずWECPNL値70ないし75以下にすること等が合意された。
    しかるに、被告は、今日に至るも上記協定の完全履行を怠っている。
    よって、上記自治体の住民である原告らは、上記協定に基づき本件差止めを求
めることができる。
  エ 憲法違反
  前記のとおり自衛隊及び在日米軍の存在・活動は憲法9条に違反するものであ
り、かかる憲法違反の行為は許されず、当然停 止されなければならない。原告
らは、上記憲法違反の行為により前記のとおり具体的な被害を直接に被っているの
であるから、   かかる行為の差止めを実現し、原告らの権利を救済しなければな
らない。
  もし、憲法以下の法律等によっても上記違憲状態ないし憲法上の権利の侵害状
態に対する法的救済が明確に規定されていない 場合は、憲法に基づく直接的な
請求も可とされなければならない。
(1) 損害賠償請求
 ア 被告の損害賠償責任
   本件飛行場は被告が設置、管理する公の営造物であるところ、同飛行場にお
いては、軍用機が離着陸するに際し、また、そ   のエンジン調整等の作業がなさ
れるに際し、激甚な騒音が発せられるため、原告らの居住地ないし職場所在地は
極めて劣悪な  環境状態にさらされている。
   この結果、原告らは、肉体的にも精神的にも多様かつ深刻な被害を受けてい
るのであるから、そうした被害を発生させる本件  飛行場は、営造物が通常備え
るべき安全性を著しく欠くものというべきであって、その設置、管理に瑕疵が存する
ことは明らか   である。
      よって、被告は、国家賠償法2条1項に基づき、原告らの被っている損害を賠
償する義務がある。
イ 原告らの賠償請求の基本的観点
  原告らはその個々人が前記のとおりの重層的相乗的な被害を被っており、そ
の被害の総体が損害として把握され賠償されな ければならないし、かかる被害
の総体は基本的には原告ら全員に等しい被害実態を有するものとして賠償され
なければならな い。それは、本来、請求の趣旨で求める金額をはるかに超える
ものであり、軍用機騒音の適正な評価に基づく数段階の地域的 な区分が許さ
れるにすぎないものである。
  仮に、上記のような総体的・一律的な賠償請求が許されないとしても、原告ら
は、第二次的には、大阪空港訴訟最高裁判決  が判示するところの、「原告ら
に共通する最小限度の被害」として前記の被害を主張し、賠償請求するもので
ある。
 ウ 過去(訴状送達日まで)の慰謝料請求
   原告らは、これまで永年にわたって軍用機のエンジン調整及び整備作業並び
に離着陸等による騒音暴露や軍用機墜落の危  険に対する不安に苦しめられて
きており、本件各訴状送達の日(第3次訴訟については平成8年1月18日、第4次
訴訟につい   ては平成8年6月24日)までに被った肉体的、精神的損害を慰藉
するには少なくとも各自金100万円が必要である。
   よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、上記慰謝料金100万円及びこれに
対する本件各訴状送達の日の翌日(第3次訴訟  については平成8年1月19
日、第4次訴訟については平成8年6月25日)から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅  延損害金の支払を求める。
 エ 弁護士費用
   原告らは、本件訴訟につき各自金20万円の弁護士費用を支払うことを約した
が、本件訴訟の複雑性、高度の専門性等から  して上記費用の支払は最小限度
のものであり、かつ、前記侵害行為による損害の一部をなすものである。
   よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、上記金20万円及びこれに対する本
件各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民   法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
 オ 将来(訴状送達日の翌日以降)の慰謝料請求
     被告は、過去長期間にわたって原告ら本件飛行場周辺住民に対し広範かつ重
大な被害を与え続けてきたものであるが、その      加害行為を中止するどころか、
かえって本件飛行場を在日米軍にも使用させて本件飛行場の軍事基地としての機能を
一段と拡     大強化し、もって著しい侵害行為を継続してきている。
     また、当庁昭和50年(ワ)第288号、昭和58年(ワ)第80号事件(第1、2次訴
訟)判決(平成3年3月13日言渡)及びその控      訴審である名古屋高等裁判所
金沢支部平成3年(ネ)第59号事件判決(平成6年12月26日言渡)により、飛行実態の
違法性      が明らかにされたにもかかわらず、被告は今日に至るもその改善策を
講じていない。
      したがって、違法な侵害行為が将来にわたり継続されることは容易に推認さ
れるのであって、将来(訴状送達日の翌日以降)     の損害についても、あらかじめ
賠償請求をなす必要がある。
よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、将来の肉体的、精神的損害に対す
る慰謝料として、本件各訴状送達の日の翌日から前記差止請求に係る各措置
がなされるまでの間、毎月末日限り金5万円及びこれに対する各発 生月の翌
月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める。
 2 被告の主張(本案前の主張、請求原因に対する認否・反論及び抗弁)の要旨
(1) 本件飛行場の概況について
本件飛行場は、自衛隊法107条5項に基づく「飛行場及び航空保安施設の
設置及び管理の基準に関する訓令」2条により防衛庁長官が航空自衛隊の基
地として設置し、同訓令13条により航空自衛隊第6航空団司令(小松基地司
令)が管理する飛行場である。その所在地は、石川県小松市向本折町であり、
その規模は、長さ2700メートル、幅45メートルの滑走路、長さ600メートル、幅
45メートルのオーバーラン、延長4870メートル、幅23メートルの誘導路、面積
約9万3000平方メートルのエプロンを有し、総面積は約440万8200平方メー
トル(土地面積約48万5000平方メートルの運輸省行政財産を含む。)である。
第6航空団は、昭和36年7月15日小松基地に発足して以来現在に至るまで
の間、航空総隊隷下、中部航空方面隊直轄部隊の航空団として活動しており、
その主要任務は、戦闘機をもってする防空行動、陸上又は海上の行動に対する
支援及び領空侵犯に対する措置である。小松基地は、開設以来、日本海側にお
ける中心的な自衛隊航空基地として、日本の政治及び経済の中枢部である首
都圏、中京及び阪神地区を防衛する重要な任務と機能を果たす拠点となってい
る。
なお、本件飛行場のうち滑走路、誘導路及び隊舎等の一部の施設(土地約1
60万平方メートル)は、昭和57年11月15日、日米合同委員会において、地位
協定2条1項(a)に基づき、同協定2条4項(b)の適用のある施設及び区域として
アメリカ合衆国(米国)に提供することが合意され、我が国と在日米軍との共同
使用が許されたものである。
また、本件飛行場のうち滑走路、誘導路及び照明装置等の施設は、昭和36
年12月18日、航空法56条の5に基づく「公共の用に供すべき施設」(公共用飛
行場)として告示された(運輸省告示第437号)。ここに本件飛行場は航空自衛
隊と民間航空の共用飛行場となり、同月20日から共同使用が開始された。
(2) 侵害行為について
 ア 米軍機の運航について
米軍機は、ほぼ日米共同訓練の際に限って本件飛行場を使用している
が、その実績は、昭和57年度から平成10年度までのうち、昭和59年及び平
成6、7、8、9年を除いて概ね年1回実施されているにすぎず、演習期間も1
回当たり1週間程度であるから、そもそも、米軍機の運航は侵害行為として問
題になるものではない。
 イ 自衛隊機の運航について
自衛隊機は、訓練飛行、対領空侵犯措置、救難活動、輸送等のために本
件飛行場を使用しているが、平日における平均離発着回数(自衛隊機管制回
数)は、平成4年度約111回、平成5年度約112回、平成6年度約109回、
平成8年度約113回、平成9年度約127回、平成10年度約101回で、その
大部分は飛行訓練によるものである。本件飛行場においては、土曜日、日曜
日及び祝日には、対領空侵犯措置及び救難活動の場合は別として、自衛隊
機の飛行はほとんどない。対領空侵犯措置及び救難活動のための飛行は、
その性質上、昼夜を問わず行われるが、その頻度は少ない。
訓練飛行は、通常午前8時から午後5時30分までの時間帯に行われてい
る。1週間に2日間は夜間訓練が実施されているが、その時間帯は午後6時3
0分から午後8時までである。
自衛隊機が本件飛行場を使用するのは、日本海上の訓練空域における戦
闘訓練実施のために訓練機が本件飛行場を離着陸する場合が大部分である
が、訓練が集団的に実施されることから、離着陸も一定の時間帯に集中して
ある程度連続的に実施される。したがって、本件飛行場における騒音の発生
状況は、基地から上記訓練空域に出発する場合の離陸音及び一定時間帯の
訓練を終えた後基地に帰還する場合の着陸音が特定の時間帯に集中的に発
生し、その余の時間帯は比較的静穏な状態であることが特徴的である。すな
わち、通常訓練は、1日4単位(うち1単位は夜間訓練である。)の時間帯が設
定され、この時間帯が更に2区分あることから、本件飛行場周辺の1地点にお
ける集中的騒音の発生は1日6回以内程度、夜間訓練が実施される週2日間
については1日8回程度であるが、訓練空域の天候いかんによっては、これ
が更に減少する。
このように、本件飛行場における騒音の発生は、短時間に集中的に発生す
る間欠的形態であること、後記のとおり被告による騒音軽減のための各種運
航対策が可能な限り実施されていることから、本件飛行場における自衛隊機
の運航による騒音は、周辺住民に対して受忍限度を超える程度には達してい
ないというべきである。
(3) 被侵害利益について
本件飛行場における航空機騒音がある程度は周辺住民の生活の快適さを低
下させることはあり得るが、その程度は、決して全体として社会生活上受忍でき
ないほどに重大かつ深刻なもの、すなわち、国家賠償法上違法とされるまでの
レベルに達しているものではない。航空機騒音障害は結局うるささの問題であ
り、現在の本件飛行場周辺の騒音レベルでは周辺住民のほとんどの人々に対
して直接的な身体的被害を与えていないことは明らかである。
ア 健康及び身体に対する被害について
航空機騒音は全くうるささの問題であり、それは騒音を受けている人々の
大多数に対して直接的な健康被害を与えてはいない。通常のジェット機の離
着陸に伴う航空機騒音のレベル及び頻度の程度では、聴力損失等の健康及
び身体被害が生じる可能性はほとんどないとするのが、今日の医学上の定説
である。
また、身体的被害については、個別具体的に主張・立証しなければならな
いところ、原告らはその健康及び身体に対する被害を個別具体的に主張して
おらず、原告らがこのような特異な主張方法をとっていること自体、原告ら自
身が航空機騒音により健康及び身体に対する被害を受けていないことを自認
しているに等しいと解すべきである。
イ 精神的被害について
本件では、自衛隊の存在それ自体を憲法違反であるとする原告らの独自
の見解が訴訟提起の重要な契機となっており、うるささの原因となっている自
衛隊等の活動に対するこのような原告らの意見と評価が、うるささの程度を決
定する大きな要素となっているであろうことは容易に推測できる。
本件飛行場周辺の航空機騒音の発生は1日の生活時間帯の極めて限定
された部分にすぎないのであり、しかも、それらは、住民の社会生活への妨害
を極力少なくするように十分に配慮されているから、これによるある程度の精
神的不快感はあるとしても、社会生活上受忍限度の範囲内のものである。
ウ 睡眠妨害について
本件飛行場では、夜間の訓練飛行が週2回行われているが、午後8時まで
には終了し、深夜に及ぶことはなく、人々が睡眠のために特に静穏を必要と
する午後10時から翌日午前7時までの間の騒音の発生は極めて少ない。ま
た、被告の助成による住宅防音工事は、夜間における睡眠妨害を解消又は
軽減するものである。
このように、本件飛行場における夜間飛行は制限されており、住民に対し
て社会生活上受忍できないほどの頻度、内容の睡眠妨害を発生させているも
のではない。
エ 日常生活の妨害について
航空機騒音により、会話妨害、ラジオ・テレビの視聴妨害、思考・読書等の
知的作業の妨害が発生することは、一般論としてはあり得ることである。
しかし、既に述べたような本件飛行場における航空機騒音の発生状況から
すれば、上記のような生活妨害が仮に発生したとしても、1日のうちのごく限ら
れた時間帯のみに生ずるものであり、一時的かつ間欠的にすぎないものであ
る。また、その妨害の程度は、地域によって異なるであろうが、住宅防音工事
の施工された部屋においては、事実上解消又は大幅に軽減されているものと
推認できるものである。
オ 教育環境の悪化について
原告らは、学校、家庭における子供の学習が重大な影響を受けている旨主
張しているが、そのような被害を受けている原告らを特定しておらず、主張自
体失当である。
本件飛行場周辺で子供が家庭又は学校で学習する際、航空機の飛行によ
る学習妨害があるとしても、学習が困難又は不可能となるほどのものではな
く、学校防音工事により教室内の騒音レベルは相当大幅に低下しているし、
家庭における学習も住宅防音工事の施工された部屋では相当の遮音効果が
あり、障害は解消又は大幅に低減しているはずであって、社会生活上受忍で
きる範囲内のものである。
カ 軍用機墜落等の危険について
航空機の墜落事故は極めてまれな偶発的なものである。航空機に対する
恐怖感は個人の主観的条件により全く異なり得るものであるが、一般的には
航空機の墜落の危険は極めて少ないものである。
キ 平和的環境の破壊について
原告らは、自衛隊機及び米軍機の行動が基地周辺の原告らの平和なうち
に生きる権利を日々著しく侵害している旨主張するが、上記主張は独自の立
場に立つ特異な見解であり、失当であることは明らかである。
(4) 本件飛行場の公共性
本件飛行場は、我が国が自由な独立国としての平和と安全を維持し、その存
立を全うするについて必要不可欠のものとして、政治部門の高度の政治性を有
する判断、決定に基づいて配置され、かつ、自衛隊及び米軍によって使用され
ているものであって、その公共性ないし公益上の必要性が我が国の存立の基本
にかかわるものであって、極めて重要かつ高度のものであることは自明の理で
ある。
ア 本件飛行場の重要性
航空自衛隊は、空からの侵攻に対する我が国の防衛と領空侵犯に対する
措置をその主たる任務としている。本件飛行場は、日本海側唯一の防空作戦
を担う航空作戦基地として、また、中部防衛区域において東京、名古屋、大阪
の政治経済の中枢都市を底辺とした三角形の区域の頂点に位置し、その戦
略的価値は極めて高い。さらに、北海道、九州間のほぼ中間にあって、機動
展開や輸送のための中継基地としても重要な基地である。
第6航空団を主体とする部隊は、本件飛行場を使用して、領空侵犯に対す
る措置、災害派遣等民生協力活動、練成訓練等の重要な任務を遂行してい
る。特に、本件飛行場の離着陸の大部分を占める練成訓練のための飛行
は、領空侵犯に対する措置のための態勢を維持しつつ、有事に即応し得る部
隊を練成するため、隊員個々の練度を向上させるとともに、組織としての任務
遂行能力を向上させることを目的として行われるもので、日ごろの訓練成果が
直ちに有事における能力の発揮につながる防衛組織においては、必要不可
欠であり、極めて重要なものである。
イ 立地条件の適性
本件飛行場は、飛行場としての一般的に良好な立地条件を備えているの
みならず、本州日本海側のほぼ中央に位置し、しかも、日本海に1ないし2キ
ロメートルで接し、さらに、広範囲な小松沖訓練空域(G訓練空域)にも極めて
近いという絶好の地理的条件に恵まれている。このように、本件飛行場は、航
空自衛隊の飛行場として最適であり、現在我が国においてこれと同等に良好
な立地条件を有する大規模な航空基地を新たに取得することは、現実問題と
してほとんど不可能である。
(5) 本件飛行場における騒音防止対策
本件飛行場においては、航空機騒音防止のために諸種の運航対策が実施さ
れているとともに、それによっても避けられない不可避的な騒音障害について
は、更にこれを軽減するための屋内環境対策及び補償的措置を含む総合的な
防衛施設周辺環境対策ともいうべき大規模な周辺対策が実施されてきている。
ア 運航対策
本件飛行場の自衛隊機による使用は、国家の存立を維持するための高度
の社会的効用のあるものであるが、他方、被告は、航空機の運航による周辺
住民の騒音障害にも配慮し、これをできるだけ軽減するため、諸種の工夫を
凝らした騒音軽減運航方式を実施している。
さらに、被告は、昭和50年10月4日、石川県知事及び小松市長を含む周
辺8市町村長との間で、小松市周辺の騒音対策に関する基本的事項につい
て協定(10・4協定)を締結し、防衛施設の機能と周辺住民の生活が調和を
保つものになるよう騒音対策に積極的に努力している。
イ 周辺対策
被告は、本件飛行場の周辺住民が被る騒音等による障害を防止、軽減す
るために、諸種の補償的措置を行ってきた。このような周辺対策は、当初は個
別の事例ごとに行政措置に基づき実施していたものであるが、昭和41年に
は「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(周辺整備法)が施行され、防災工
事及び道路の整備等の助成、学校、病院等の公的施設に対する防音工事の
助成、住宅の移転補償等について法制化され、市町村が行う民生安定施設
に対する助成等についても規定が置かれた。そして、昭和49年には「防衛施
設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(生活環境整備法)が施行され、
以後、主として同法に基づいて、個人住宅の防音、緑地帯整備等を加えた、
抜本的に強化された防衛施設周辺の生活環境整備等の諸施策が実施され、
今日に至っており、原告らを含む本件飛行場周辺の住民らが受けている騒音
障害等は、相当程度防止され、あるいは軽減されている。
なお、原告らのうち相当数の者は、住宅防音工事の実施によって騒音暴露
の程度が軽減されているのであるから、受忍限度を超えているか否かの判断
に当たっては、十分にこれを斟酌すべきである。
(6) 差止請求について
ア 自衛隊機の飛行等の差止請求について
自衛隊機の飛行等の差止請求は、その請求内容自体から、防衛庁長官に
ゆだねられた自衛隊機の運航に関する諸権限の行使の取消変更ないしその
発動を求める請求を包含するものであることが明らかである。しかしながら、
防衛庁長官の上記権限の行使は、自衛隊法上の実体法規に基づき実施され
ている公権力の行使そのものであるから、民事上の請求としては許されず、
不適法であることは明らかである。
イ 米軍機の飛行等の差止請求について
米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を理由として直接の加害者では
ない被告に対し米軍機の離着陸等の差止めを請求するためには、被告が米
軍機の運航等を規制し、制限することのできる立場にあることが必要である。
しかるに、本件飛行場に係る被告と米軍との関係は条約に基づくものである
から、条約及びこれに基づく国内法令に特段の定めがない限り、被告は米軍
の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限することはなし得
ないが、関係条約及び国内法令に上記のような特段の定めは存在しない。そ
うすると、提供国たる被告において、一方的に米軍の使用を禁止したり制限し
たりすることは許されないから、米軍機の飛行等の差止請求は、被告の支配
の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものというほかなく、主張自体失
当として棄却を免れない。
(7) 過去分の損害賠償請求について(本件飛行場の違法性の判断について)
既に述べたような本件飛行場における平日の自衛隊機の運行回数及び飛行
騒音の発生形態のほか、航空自衛隊は、航空機騒音が住民に与える影響をで
きるだけ軽減するために、各種の騒音軽減運航対策を実施するなどして、住民
の騒音障害の減少に最大限の配慮を尽くしていること、航空機騒音の障害は、
身体的被害ではなく、騒音による種々の生活妨害及びうるささによる心理的不
快感であり、本件飛行場においては、全体として重大かつ深刻な程度に至って
いるとは到底認められないこと、しかも、本件飛行場周辺で比較的騒音レベルの
高い第2種区域(生活環境整備法5条に基づく第2種区域)については、住民の
希望により移転補償措置が実施されることとされており、騒音障害を抜本的に解
決する方策が提供されていること、また、その他の一定の地域においても、概ね
うるささを半減させる効果を有する住宅防音工事の助成措置のほか、各種地域
全体に対する、また個々人に対する補償措置をきめ細かく実施しており、これら
は、住民の騒音障害を直接又は間接に軽減し、住民生活の安定と福祉の向上
に寄与していること、さらに、自衛隊機等による本件飛行場の使用は、我が国の
存立と安全を守り、国民各自が基本的人権を享受する上で必要不可欠な高度
の社会的価値を有するものであって、その公共性は極めて本質的かつ重要なも
のであることなど、違法性判断の諸要素を総合すれば、本件飛行場周辺住民の
騒音障害は、全体として受忍できる範囲内のものというべきであり、自衛隊機等
による本件飛行場の使用が違法とされる余地は存在しないといわなければなら
ない。
(8) 危険への接近について
本件飛行場は、昭和33年米軍から我が国に返還され、昭和36年2月1日航
空自衛隊小松基地として開設され、同年5月15日基地建設工事が完成し、同年
7月15日第6航空団が編成され、ジェット戦闘機基地として発足することとなり、
昭和40年3月31日第205飛行隊の新編に伴い、主要装備がF―104Jに更新
された。
したがって、本件飛行場周辺地域は、遅くともF―104Jが配備された昭和40
年の年末ころまでには、現在と同様に、ジェット戦闘機による航空機騒音に暴露
される地域であることについて、広く社会的な承認が形成されるに至ったものと
認められる。
人々が住居を選定するに当たり、あらかじめ周辺地域の住居に及ぼす影響を
調査することが通常であることからすれば、原告らのうち、昭和41年1月1日(基
準日)以降に本件飛行場周辺において居住を開始した者らについては、本件飛
行場周辺の一定程度の航空機騒音の存在を認識しながら、相当期間にわたる
住居として敢えてその住居を選定したのであるから、自己が認識した程度ないし
これと格段に相違のない程度の騒音障害は、これをやむを得ないものとして容
認して居住を開始したものと推認すべきであり、「免責の法理としての危険への
接近」の法理が適用されるべきである。
また、仮に基準日以降に本件飛行場周辺地域に転入したという事実のみでは
被害の容認を推認するには不十分であるとしても、基準日以降において本件飛
行場周辺地域に居住を開始するに際し、本件飛行場の騒音を認識していたこと
が明らかな者、すなわち、基準日以降において本件飛行場周辺に居住した経験
を有しながら、その後、いったん本件飛行場周辺地域外に転居したにもかかわ
らず、再び本件飛行場周辺地域に居住を開始するに至った者、より騒音レベル
の高い区域に転居した者、及び何度もコンター内で転居を繰り返した者について
は、「免責の法理としての危険への接近」の法理が適用されるべきである。
さらに、原告らのうち相当数の者は公的資料上基準日時点の居住地が不明
であるが、その中でも一部の者(具体的には別冊「被告最終準備書面」参照)に
ついては危険への接近の法理が適用されるべきである。
なお、以上につき、「免責の法理としての危険への接近」の法理の適用が認
められないとしても、少なくとも「減額の法理としての危険への接近」の法理の適
用があることは明らかであって、損害賠償額の算定に当たっては相当額の減額
がされてしかるべきである。
(9) 昼間騒音の控除(個別W値論)について
我が国において航空機騒音を評価するには、WECPNL値を利用することと
されているが、WECPNLの考え方は、騒音が多量かつ定常的に発生している
という条件の下で、発生した時間帯により騒音に対する心理的、生理的反応が
異なることから、騒音の時間帯に応じて重みを付けるというものであるが、WEC
PNLは騒音暴露を受ける者が特定地点に1日中とどまっていることを当然の前
提にしている評価方法であり、被暴露者の通勤、通学等の個別的な生活実態を
全く考慮していない。したがって、コンター外に通勤又は通学等し、主として夜
間、休日のみ騒音暴露を受ける者が現実に受ける騒音の影響を評価する上で
は、WECPNLは一定の限界がある。
そこで、生活実態ごとに原告らを分類し、それぞれの騒音暴露の内容・程度を
明らかにすることが必要であり、通勤や通学等で昼間航空機騒音の暴露を受け
ていないか、あるいは、住居地より騒音暴露の程度の低い原告らについては、
被っているとされる損害の程度が昼夜を通じて同一コンター内に生活する原告
らとは異なるはずであり、これを適正に評価しなければならない。
具体的には、コンター外の勤務先に通勤していることが明らかな原告ら(別冊
「被告最終準備書面」添付の別表Ⅱ―2の「個別W値論適用の有無」欄に◎印
のある原告ら)については、各人の住所地のWECPNL値から4ないし5減少さ
せた数値をもって当該原告らの損害の有無・程度を判断すべきであり、就労可
能な年齢である15歳から65歳までの原告らのうち勤務先が明らかでない原告
ら(別冊「被告最終準備書面」添付の別表Ⅱ―2の「個別W値論適用の有無」欄
に○印のある原告ら)についても、衡平の見地から同様の扱いをすべきである。
(10) 同一の損害につき賠償を求めることができない原告らについて
別冊「被告最終準備書面」添付の別表Ⅱ―5の「前訴訟・参加有無」欄に○印
を付した原告らは、第1、2次訴訟の原告として、同訴訟控訴審の口頭弁論が終
結した平成6年3月23日までの期間について、既に騒音被害による損害の賠償
を受けているか、又は、損害賠償請求権のないことが確定している。
これらの原告は、いずれも上記期間について本訴訟において再び同一の損
害につき賠償を求めることは許されない。
(11) 消滅時効の抗弁
日々新たに生じる航空機騒音の性質にかんがみると、航空機騒音を伴う本件
飛行場の供用行為を瑕疵とみた場合、これに対応する損害賠償請求権もまた
日々新たに発生し、それぞれ別個に消滅時効にかかるものと解される。
そして、昭和50年9月16日に第1次訴訟が提起された事実に照らせば、同
日ころに、原告らが、本件飛行場周辺において航空機騒音等による被害が受忍
限度を超えるものであると認識していたこと、上記騒音等が国の営造物である本
件飛行場を自衛隊等の航空機の運航の用に供したことによって発生しているこ
とを認識していたことは明らかである。よって、同日以降の損害については、そ
の日ごとに消滅時効が進行していたことになる。
以上から、本件第3次訴訟の原告らについては、その訴訟提起の日である平
成7年12月25日から、本件第4次訴訟の原告らについては、その訴訟提起の
日である平成8年5月21日から、それぞれ3年前の日より前に発生した被害に
ついての原告らの損害賠償請求権は、民法724条所定の3年の期間の経過に
より時効消滅している。
そこで、被告は原告らに対し、平成9年5月15日の本件第6回口頭弁論期日
において、上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(12) 将来分の損害賠償請求について
民事訴訟法135条は、あらかじめ請求する必要があることを条件として将来
の給付の訴えを許容しているが、本件においては、将来の航空機騒音等による
侵害行為が違法性を帯びるか否か及び上記侵害行為による原告らの損害の有
無、内容、程度は、今後の本件飛行場の使用状況の変化、被告によってされる
被害の防止、軽減のための諸方策の内容とその実施状況、個々の原告らに生
じ得べき種々の生活事情の変動等の複雑多様な諸因子によって左右されるも
のであり、現在ではそれを容易に予測できないことを考慮すると、原告らが将来
取得すると主張する損害賠償請求権の成否及び内容を現時点であらかじめ認
定することは困難であり、かつ、相当ではなく、かかる損害賠償請求権は、それ
が具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成否及び内容を判
断すべきものである。
したがって、将来分(本件口頭弁論終結の日の翌日以降)の損害賠償を求め
る部分は、権利保護の要件を欠き不適法として却下を免れないことは明らかで
ある。
(13) 仮執行開始時期猶予宣言について
判決裁判所は、そもそも仮執行宣言を付すかどうかの裁量権限を有するので
あるから、仮執行の効力発生時期を即時とするか、それともこれに期限を付す
かの裁量権限を当然有しているものと解される。
仮執行開始時期猶予宣言を行う実際上の必要性としては、仮執行のために
郵便局等国民の生活に密接な関係のある国の施設の現金が執行の対象となる
と一般国民に迷惑をかけることになり、このような事態を避けるために国が執行
の対象となる現金を準備する期間の猶予を与えるため、仮執行につき執行開始
時期を定めるのが相当であるということである。
理        由
第1 本件飛行場の概況及び当事者の地位等
 1 本件飛行場の概況等
(1) 現況
  以下の判示において括弧書きで掲記する各証拠に、甲E第78号証及び弁論
の全趣旨を総合すると、本件飛行場の現況は概 ね次のとおりであると認められ
る。
ア 自衛隊施設としての現況
本件飛行場は、航空自衛隊中部航空方面隊所属の第6航空団が所在する
小松基地に防衛庁長官が設置し、同基地司令が管理する陸上飛行場であ
り、自衛隊法107条5項に基づく訓令(飛行場及び航空保安施設の設置及び
管理の基準に関する訓令)により防衛庁長官が告示した事項の概要は次のと
おりであり、その区域は別冊「被告最終準備書面」添付の第2図記載のとおり
である(乙第1号証の1ないし7)。
名 称  小松飛行場
所在地  石川県小松市向本折町
等 級  a級
滑走路  長さ2700メートル
幅45メートル
誘導路  延長4870メートル
幅23メートル
エプロン 面積約9万3000平方メートル
第6航空団は、第303飛行隊及び第306飛行隊の2個飛行群等から編成
され、主要な装備としてF―15イーグル型ジェット戦闘機38機を擁するほか、
練習機(T4)8機、救難捜索機(U―125)2機、救難ヘリコプター(UH―60)
3機等を保有している(乙第9号証の1及び証人Bの証言)。
イ 米軍への施設提供
本件飛行場の滑走路等は、日米共同訓練実施のため、地位協定(日本国
とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及
び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定)第2条によ
り、同条第4項(b)の適用のある施設及び区域、すなわち米軍が一定の期間を
限って使用すべき施設及び区域として提供され、その限度で米国の使用が許
されている(乙第2、3号証)。
ウ 民間航空との共用
本件飛行場は、その滑走路等が運輸大臣(現在の国土交通大臣)により航
空法56条の5に基づく「公共の用に供すべき施設」として指定された共用飛
行場であり、小松空港として民間航空の旅客便(国内線及び国際線)、国際貨
物定期便等の利用に供されている。
(2) 沿革等
    甲E第78号証等の前掲各証拠に、以下に掲記する各証拠、甲C第1、2号証、乙
第6号証、原告A2本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件飛行
場の沿革、同飛行場の騒音等に係る訴訟の歴史的経緯等は次のとおりである
と認められる。
ア 小松基地の開設と本件飛行場の使用開始
  戦時中旧海軍が管理していた本件飛行場の前身である小松海軍航空基地 
は、終戦後米軍に接収されて、補助レーダー基地として使用されるように なり、
昭和27年の日米安全保障条約発効後も「FAC4017小松補助 飛行場」として
引き続き米国に提供されたが(乙第4号証、第10号証)、 昭和33年には米軍
による使用ないし接収が解除されて(乙第5号証の1 ないし4)、我が国に返還
された。防衛庁は、昭和34年大蔵省より民間 航空との併用を条件に本件飛行
場の使用を許されたことから、昭和35年 4月航空自衛隊小松基地新規建設工
事に着手し、同年11月には臨時小松 基地を設置した。
こうして、小松基地は、臨時小松派遣隊を所在部隊とする航空自衛隊の基
地として昭和36年2月1日開設され、同年6月29日には防衛庁長官により本
件飛行場の使用開始が告示され、同年7月15日には、F―86F昼間ジェット
戦闘機、T―33Aジェット練習機等を主要な装備とする第6航空団への改編
が完了した。
また、同年12月には運輸大臣により本件飛行場の滑走路等が「公共の用
に供すべき施設」として告示され、民間航空との正式な共同使用が開始した。
イ ジェット戦闘機の本格配備
小松基地では、昭和39年より本格的な新型ジェット戦闘機であるF―104
J全天候ジェット戦闘機の新規配備に向けた滑走路延長等の工事が行われ、
昭和40年3月31日には第6航空団に同機20機を主要装備とする第205飛
行隊が新たに編成された。
ウ 周辺対策に係る法整備等の進展
ところで、被告は、他の大規模防衛施設と同様、本件飛行場に関しても行
政措置として助成、補償等一定の周辺対策を実施してきていたが、昭和41年
に「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(周辺整備法)が公布、施行され
て、上記施策が法制化されるに至った。
さらに、昭和48年12月27日環境庁は、各種調査研究結果と専門家の検
討報告に基づいて、公害対策基本法9条に基づく「航空機騒音に係る環境基
準」を告示したが(甲E第89号証、乙第19号証、第72、73号証、第74号証
の1ないし4)、そこでは、飛行場の周辺地域において、「生活環境を保全し、
人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい」基準値が、WECP
NLを単位として、類型Ⅰの地域(専ら住居の用に供される地域)で70以下、
類型Ⅱの地域(Ⅰ以外の地域で通常の生活を保全する必要がある地域)で7
5以下とされ、上記各類型を当てはめる地域は都道府県知事が指定すること
とされた。
そして、昭和49年6月27日には「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関
する法律」(生活環境整備法)が公布、施行されて、住宅防音工事の助成制度
等が拡充整備された。
エ ファントム機配備と10・4協定
防衛庁では、前記F―104J機の配備に続き、更に高い性能を有する新型
機種である全天候ジェット戦闘機F―4EJファントム機の小松基地配備が計
画されるようになり、本件飛行場の滑走路増強工事を経て、昭和49年8月こ
ろ名古屋防衛施設局長から小松市に対し同機配備の申入れがあり、同年12
月には正式に防衛施設庁長官から小松市に対し同機配備のための附帯工事
着工の申入れがなされた。
その後、若干の曲折はあったものの、上記工事の即時着工は見送られるこ
ととなり、小松市等の関係地方公共団体と防衛庁との間でファントム機配備に
関する条件整備についての交渉が重ねられた結果、昭和50年10月4日、防
衛施設庁長官と石川県知事及び小松市長等関係8市町村長(小松市長、加
賀市長、松任市長、根上町長、寺井町長、辰口町長、川北村長、美川町長)と
の間で「小松基地周辺の騒音対策に関する基本協定書」が取り交わされ、同
日、名古屋防衛施設局長と小松市長との間で小松基地の運用に関し、小松
市における良好な生活環境を保全するための協定が交わされた(10・4協
定。甲E第90号証、乙第7号証)。その内容は概略次のとおりであり、前記
「航空機騒音に係る環境基準」の本件飛行場における達成方途のほか、生活
環境整備法に基づく住宅防音工事助成及び移転補償等の措置を被告が実施
するに当たっての基本方針等が協定されたものである。
(ア) 「航空機騒音に係る環境基準」に従って、公共用飛行場の区分第2種
 Bについて定められている期間内(昭和58年12月27日まで)に速やかに
環境基準(WECPNL75以下)の達成を期する。
(イ) 生活環境整備法に規定する住宅防音工事及び移転補償については、第
1種区域及び第2種区域について、昭和53年度 を完了予定とする。
(ウ) 基地周辺における騒音の測定は常時実施する。その管理は国、県及び
市町村共同で行う。
(エ) 上記調査結果に基づいて少なくとも年1回騒音コンターの見直しを行
 う。
(オ) 障害防止工事は、国が原因者であるとの認識のもとに実施するものとす
る。
(カ) 安全対策として、努めて市街地上空を飛ばないよう飛行経路を選定す
る。
(キ) 騒音源対策として、・騒音を発生源で防止するため、器材の改良を心掛
け、並びに離着陸方式、飛行経路等運航方式  を改善する、・早朝、夜間及
び昼休み時間には、緊急発進その他、特にやむを得ない場合を除き、離着陸
及び試運転を中 止する、・高校入試、お旅まつりその他小松市の主要行事
で小松市が要請する場合は、できる限り飛行を制限し、又は中  止する、・エ
ンジン調整は、すべてサイレンサーを使用する。
(ク) 公的施設の防音工事、第1種区域内住宅の防音工事、第2種区域内の
移転補償その他の周辺対策を実施する。
オ 周辺対策の進展
そして、上記協定の趣旨を踏まえ、被告は、生活環境整備法上の正式な区
域指定の告示を待たずに昭和50年度より住宅防音工事助成事業を開始した
ほか、昭和51年4月には騒音の常時測定実施のための被告、石川県及び関
係市町村の協議機関として小松基地騒音防止対策協議会が発足した。
その後、更なる曲折を経ながらも、結局、昭和51年10月26日にはファント
ム機16機を主要装備とする第303飛行隊が第6航空団に編成されて、同機
の配備が完了した。また、昭和53年12月28日には防衛施設庁長官より生
活環境整備法4条ないし6条に基づく本件飛行場に係る第1種ないし第3種の
各区域指定が告示され(乙第24号証の2。なお、同区域指定の詳細について
は、その後の経過も含めて後記(1)で触れる。)、これに先立ち、昭和52年5月
からは被告、石川県、小松市等共同による継続的な騒音測定調査が開始さ
れた。
カ 第1次訴訟の提起
この間、昭和50年9月16日には、本件飛行場周辺住民が被告に対し本件
とほぼ同旨の自衛隊機離着陸等の差止め及び慰謝料等支払のほか、ファン
トム機配備自体の禁止を求めた第1次訴訟(当庁昭和50年(ワ)第288号事
件)が提起された。
キ 日米共同訓練開始
その後、小松基地では、昭和56年6月30日第205飛行隊が解散し、翌
日、新たにファントム機18機を主要装備とする第306飛行隊が第6航空団に
編成されて、第6航空団は現行の飛行群と同様の編成となった。
ところで、防衛庁では、日米共同訓練の実施に際し小松基地を使用するた
め、昭和57年8月小松市に対し同基地使用に係る申入れを行い、同年9月2
4日には名古屋防衛施設局長と小松市長との間で「日米共同訓練に関する協
定書」が取り交わされた。そして、同年11月15日、日米合同委員会におい
て、地位協定第2条に基づき本件飛行場の滑走路等を米国に一時提供する
ことが合意され、対象施設を米軍と自衛隊が共同で使用することが法的にも
可能となった。こうして、同年11月30日、初めて本件飛行場を使用しての日
米共同訓練が実施された。
ク 第2次訴訟の提起
かかる状況を受けて、第1次訴訟係属中の昭和58年3月4日、新たに本件
飛行場周辺住民らが被告に対し本件同旨の自衛隊機及び米軍機離着陸等
差止め並びに慰謝料等支払を求めた第2次訴訟(当庁昭和58年(ワ)第80号
事件)が提起された。
ケ イーグル機配備
小松基地では、昭和61年より第303飛行隊の主要装備をF―4EJファント
ム機から更に新型の機種である全天候ジェット戦闘機F―15Jイーグル機に
順次切り替えていくこととされ、昭和62年12月1日同機18機への改編が完
了した(乙第8号証)。
コ 第1、2次訴訟の帰すう
ところで、第1、2次訴訟は、併合審理の上、平成3年3月13日原告らの慰
謝料等請求を一部認容する一審判決が、平成6年12月26日には一審認容
額等を一部変更した控訴審判決が言い渡され、上告の提起はなく、同判決は
確定した。
サ その後の経過
その後、小松基地では、平成7年から平成9年ころにかけて、第303飛行
隊の主要装備であるF―15Jイーグル機の定数を18機から20機に増やすと
ともに、第306飛行隊の主要装備をF―15J、DJイーグル機18機に改編し
(乙第12号証の1、2)、これにより、第6航空団は現在のイーグル型戦闘機3
8機を擁する態勢となった。
(3) 生活環境整備法上の区域指定(コンター区分)
生活環境整備法は、防衛施設周辺の「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等の
ひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい」と認められる地域を
第1種区域として住宅防音工事の助成措置の対象区域とし(4条)、第1種区域
のうち「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障
害が特に著しい」と認められる地域を第2種区域として移転補償等の対象区域と
し(5条1項)、第2種区域のうち「航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により
生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し、あわせてその周辺
における生活環境の改善に資する必要がある」と認められる地域を第3種区域
として緑地帯整備等の対象区域とし(6条1項)、各種区域指定は政令で定める
ところにより防衛施設庁長官が行うこととした。そして、同法施行令8条及び同法
施行規則1条、2条は、「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施に
より生ずる音響」の影響度の算定方法を、基本的には前記「航空機騒音に係る
環境基準」が採用したWECPNLと同様の値(W値)によることとした上、第3種
区域はW値95以上、第2種区域はW値90以上の区域を基準として指定を行う
こととした。そして、第1種区域は、当初W値85以上の区域を基準として指定を
行うこととされたが(乙第24号証の1)、その後、上記規則の改正により、昭和5
4年9月にはW値80以上の区域に、昭和56年12月にはW値75以上の区域に
順次拡張して指定を行うこととされた(乙第24号証の3、5)。
以上のような法令の定めに従い、本件飛行場に係る各種区域指定の告示は
次のとおりなされた(各区域は当該告示のあった日における行政区画によって
表示されたものとするとされ、また、区域指定が町の一部にとどまる場合は金沢
防衛施設事務所に該当部分を示した図面を備え置き縦覧に供することとされ
た。なお、第2種区域については、周辺整備法5条1項の規定により既に指定済
みの区域は除いて告示された。)。なお、後記エの告示後は区域指定の追加変
更は今のところ一切なされていない(弁論の全趣旨)。
ア 昭和53年防衛施設庁告示第19号(同年12月28日告示。乙第24号証の
2)
第3種区域(95コンター)
小松市上牧町、下牧町、浮柳町、鶴ヶ島町、向本折町、佐美町、浜佐
美町及び日末町の一部
第2種区域(第3種区域の指定を受けた区域を除き90コンター)
小松市上牧町、下牧町、丸内町鹿小屋、城南町、安宅新町、浮柳町、
鶴ヶ島町、坊丸町、向本折町、佐美町、浜佐美町及び日末町の一部
加賀市新保町の一部
第1種区域(第2種区域の指定を受けた区域を除き85コンター)
小松市丸内町大手、丸内町中島、丸内町鹿小屋、丸内町土形、丸の
内町二丁目、城南町、向野地方及び鶴ヶ島町の全部
小松市泉町、浮城町、大川町二丁目、上牧町、古城町、小馬出町、下
牧町、天神町、浜田町、丸の内町一丁目、丸内町本丸、育成町、桜木
町、末広町、安宅町、安宅新町、浮柳町、草野町、小島町、長崎町、坊
丸町、向本折町、佐美町、浜佐美町、日末町及び拓栄町の一部
加賀市篠原町、伊切町及び新保町の一部
イ 昭和55年防衛施設庁告示第12号(同年9月10日告示。乙第24号証の4)
第1種区域(80コンター)
小松市梅田町、大川町一丁目、大川町三丁目、新大工町、鷹匠町、
地子町、茶屋町、殿町一丁目、殿町二丁目、中町地方東、丸の内公園
町、丸内町三ノ丸、丸内町竹島、美原町、芦田町一丁目、芦田町二丁
目、大文字町西、古河町、本町一丁目、本町二丁目、本町三丁目、本町
四丁目、本町五丁目、浜佐美本町、犬丸町、御館町及び梯町の全部
小松市泉町、浮城町、大川町二丁目、上小松町、上牧町、京町、古城
町、小寺町、小馬出町、下牧町、新町、新鍛冶町、園町、天神町、中町、
浜田町、松任町、丸の内町一丁目、丸内町本丸、育成町、桜木町、末広
町、大文字町、寺町、西町、本大工町二丁目、安宅町、安宅新町、浮柳
町、草野町、小島町、長崎町、坊丸町、大島町、島田町、城北町、蛭川
町、松梨町、長田町、向本折町、佐美町、拓栄町、浜佐美町、日末町及
び湖東町の一部
加賀市美岬町、宮地町、塩浜町、篠原町、伊切町、手塚町、新保町及
び柴山町の一部
石川県能美郡根上町高坂町、下ノ江町、道林町及び山口町の一部
ウ 昭和57年防衛施設庁告示第10号(同年6月28日告示。乙第24号  証の
6)
第1種区域(75コンター)
小松市細工町、材木町、相生町、旭町、飴屋町、上寺町、栄町、清水
町、錦町、西本折町、白山町、東町、日吉町、本鍛冶町、本大工町、本
大工町一丁目、三日市町、本折町、大和町、八日市町、龍助町、問屋
町、須天町一丁目、村松町及び松崎町の全部
石川県能美郡根上町中町及び浜町の全部
小松市御宮町、上小松町、京町、小寺町、新町、新鍛冶町、園町、中
町、松任町、上本折町、末広町、大文字町、寺町、土居原町、西町、本
大工町二丁目、三日市町地方、八日市町地方、安宅町、長崎町、大島
町、島田町、城北町、蛭川町、松梨町、荒屋町、長田町、平面町、向本
折町、今江町、今江町一丁目、串町、佐美町、拓栄町、日末町及び湖東
町の一部
加賀市小塩(1)町、美岬町、宮地町、野田町、潮津町、塩浜町、篠原
町、伊切町、手塚町、新保町、柴山町、干拓町、田尻町、小塩町、深田
町、宮町、黒崎町、高尾町及び豊町の一部
石川県能美郡根上町中ノ江町、高坂町、下ノ江町、浜開発町、大成
町、大浜町、道林町及び山口町の一部
エ 昭和59年防衛施設庁告示第18号(同年12月20日告示。乙第24  号証
の7)
第3種区域(95コンター)
小松市浮柳町、鶴ヶ島町、向本折町及び日末町の一部
第2種区域(90コンター)
小松市安宅新町、浮柳町、草野町、向本折町、工業団地一丁目、佐
美町及び日末町の一部
第1種区域(75コンター)
石川県能美郡寺井町字三道山の全部
小松市御宮町、上小松町、園町、上本折町、土居原町、日の出町一
丁目、三日市町地方、八幡町、八日市町地方、島田町、蛭川町、あけぼ
の町、荒屋町、高堂町、長田町、野田町、平面町、須天町二丁目、大領
中町、向本折町、今江町、今江町一丁目、今江町二丁目、今江町七丁
目、今江町八丁目、串町、串茶屋町、拓栄町、湖東町及び額見町の一

加賀市潮津町、野田町、宮地町、小塩(1)町、美岬町、塩浜町、篠原
町、柴山町、片野町、黒崎町、深田町、橋立町、小塩町、田尻町、豊町
及び干拓町の一部
石川県能美郡根上町浜開発町、中ノ江町、大成町、大浜町、西二口
町及び五間堂町の一部
石川県能美郡寺井町字寺井、字小長野、字粟生、字新保、字秋常、
字末寺、字吉光及び字東任田の一部
石川県能美郡辰口町字出口、字下清水、字上清水の一部
石川県能美郡川北町字土室、字壱ツ屋、字与九郎島、字田子島及び
字舟場島の一部
 2 原告らの居住地等
(1) 原告らの居住地及び居住期間
甲E第71号証、同第75号証、乙L第1、2号証及び弁論の全趣旨を総合する
と、後記(1)に挙げた者を除く原告らの居住地及びそのコンター区分はそれぞれ
別表1「居住状況一覧」中の「居住地」欄及び「W値」欄各記載のとおりであり
(「W値」欄が空欄の者はコンター外居住者である。)、上記各居住地における居
住期間はそれぞれ同別表「居住期間」欄中の「裁判所の認定」欄記載のとおりで
あることが認められる。
(2) 公的資料上居住期間等が不明確な原告らについて
居住地ないし居住期間に関する住民票等の公的資料上の記載と本人の申告
内容との間にそごがあるなどの事情で、上記別表中に示した事実認定につき若
干の補足説明を要する原告らは以下のとおりである(なお、下記原告らのうち申
告居住地における居住期間等が不明であるとした原告らは、被告から原告らの
申告内容と公的資料上の記載との不一致等を指摘され、居住事実に疑義があ
るとされていたにもかかわらず、これまで何らの釈明等もなされてこなかった者ら
である。)。
ア 原告A3及び原告A4
  同原告らの申告居住地は小松市「a町b番地」とされているが、各居住開始時
期として主張された平成元年4月(原告A3)、昭和63年3月(原告A4)以降、
公的資料上はいずれも「a町c番地」に居住しているものとされており、原告A5
作成の陳述書(甲A第0030号証)上も、原告A4は「a町c番地」で原告A5ら
と同居しているものとされている(原告A3は、上記陳述書作成当時既に死亡
していたものとみられる。)。かといって、上記原告両名が当初「a町b番地」を
申告居住地としたことが単なる誤記であるとはにわかに解し難いことからする
と、申告居住地における居住期間は証拠上不明であると判断せざるを得な
い。
イ 原告A6、原告A7及び原告A8
同原告らにあっては、共通の申告居住地における居住事実を裏付ける公
的資料上の記載が一切なく、居住開始時期の主張もないことからすると、申
告居住地における居住期間は証拠上不明であると判断するほかない。
ウ 原告A9
  同原告の申告居住地は小松市「d町e番地」とされ、原告A10作成の陳述書
(甲A第0171号証)上も上記居住地で同人らと同居しているものとして記載さ
れているが、その居住開始時期として主張された昭和63年7月以降の居住
地が公的資料上は「d町f番地」とされており、かかるそごが生じたことにつき
合理的な説明もないことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不
明と判断せざるを得ない。
エ 原告A11
  同原告(訴えを取り下げたが、被告の同意を得られず、取下げの効力が生じ
なかった。)にあっては、その申告居住地における居住事実を裏付ける公的資
料上の記載が一切ない上、陳述書の提出もなく、居住開始時期の主張も全く
ないことからして、申告居住地における居住事実でさえ必ずしも明らかでなく、
いわんや同所における居住期間は証拠上全く不明と判断するほかない。
オ 原告A12、原告A13、原告A14及び原告A15
同原告らについては、共通の申告居住地である小松市g町h番地における
各人の居住期間に関する申告ないし主張のうち公的資料上の記載と相違す
る部分は、これを認めるに足る具体的な証拠あるいは合理的根拠がないこと
から、それぞれ公的資料上の裏付けがある限度で居住期間を認定した。
 カ 原告A16及び原告A17
   同原告ら共通の申告居住地である小松市i町j番地における居住事実は、公的
資料上平成元年4月中のわずか数日間についてのみ裏付けが存するにとど
まり、実際の居住期間は証拠上不明と判断するほかない。
 キ 原告A18
同原告にあっては、その申告居住地である小松市k町l番地における居住
事実は公的資料上も平成4年7月24日の居住開始時から平成11年8月19
日の転出時まで裏付けられており、その後、同所に再転入し平成12年12月
25日に再度転出したことが公的資料上うかがわれるものの、再転入時期が
証拠上明らかでないため、公的資料上特定が可能な上記限度で居住期間を
認定した。
ク 原告A19、原告A20及び原告A21
被告の主張では、同原告ら共通の申告居住地である小松市m町n丁目o番
地における公的資料上の居住開始時期は平成9年7月30日以降とされてい
るが、現証拠上かかる事実を示す公的資料は存せず、住民票上の記載及び
弁論の全趣旨を総合すると、同原告らはいずれも昭和41年1月1日前から上
記申告居住地に居住していたものと認めるのが相当である。
 ケ 原告A22及び原告A23
同原告らにあっては、共通の申告居住地である小松市p町q丁目r番地にお
ける居住事実を裏付ける公的資料上の記載が一切なく、同所における居住期
間を特定して認定するに足る証拠がないことから、居住期間不明と判断する
ほかない。
 コ 原告A24及び原告A25
同原告らにあっては、申告居住地は小松市「s町t番地」とされ、原告A26の
陳述書(甲A第0944号証)上も、原告A24らと上記居住地で同居しているも
のとして記載されているが、他方、公的資料上は昭和63年7月19日以降「s
町u番地」に居住しているものとされており、かかる不一致の理由について合
理的な説明もないことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明
と判断せざるを得ない。
 サ 原告A27及び原告A28
同原告らにあっては、各申告居住地である小松市「v町w番地」における居
住事実を裏付ける公的資料上の記載がなく、居住開始時期として主張された
平成5年8月以降の居住地は公的資料上「v町x番地」とされているところ、か
かるそごが生じたことについて合理的な説明はなく、単純な誤記ともにわかに
解し難いことから、上記申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せ
ざるを得ない。
 シ 原告A29
同原告にあっては、その申告居住地は加賀市「a町b番地」とされているが、
他方、公的資料上は昭和41年1月1日前から「a町c番地」に居住しているも
のとされ、また、本人作成の陳述書(甲A第1157号証)記載の肩書住所地も
公的資料上の記載と同様であるものの、それだけで当初の申告居住地が単
純な誤記であったとはにわかに断じ難く、上記申告居住地における居住期間
は証拠上不明と判断せざるを得ない。
ス 原告A30
同原告にあっては、申告居住地が加賀市「d町e番地」とされ、原告A31作
成の陳述書(甲A第1477号証)上も原告A31らと上記居住地で同居している
ものとして記載されているが、他方、居住開始時期として主張された昭和46
年8月以降、公的資料上は「d町f番地」に居住しているものとされており、かか
るそごが生じたことについて合理的な説明はなく、単純な誤記ともにわかに解
し難いことから、申告居住地における居住期間は証拠上不明と判断せざるを
得ない。
セ 原告A32
  同原告にあっては、その申告居住地であるg町h番地における居住事実を裏
付ける公的資料上の記載はないものの、甲E第66号証及び同原告本人尋問
の結果によれば、転出入の届出をなすことなく平成7年6月某日から平成8年
4月某日までの間、上記申告居住地に居住していたものと認められる。
3 提訴前死亡原告について
 原告A1にあっては、別表1に摘示したとおり第3次訴訟提起前の平成7年12月
3日既に死亡していたことが認められる(甲A第1095号証、乙L第2号証)ところ、
提訴後訴訟代理人らにおいて時機を失することなく当事者の表示をAの相続人に
改めるなどの処置もなしていないことからすると、同原告の名でなされた訴えは死
者を原告とする不適法なものといわざるを得ず、却下を免れない。
第2 侵害行為(本件飛行場の使用状況等)
 1 自衛隊機による使用状況と騒音
(1) 近時の一般的な使用状況
    以下に掲記する各証拠に、証人Bの証言及び弁論の全趣旨を総合すると、近時
の自衛隊機による本件飛行場の一般的使用状況は次のとおりであると認めら
れる。
ア 飛行訓練
小松基地では、約3年間の教育課程を修了して既に技能証明を与えられ、
その後更に約2年間の訓練期間を経た者が戦闘機操縦者として配属されて
おり、これらの者を対象とした飛行訓練が行われている。
飛行訓練には、本件飛行場から約70キロメートル離れた日本海上空の訓
練空域(G空域。乙第27号証の3)で行う訓練のほか、本件飛行場の滑走路
を使用して行う計器飛行方式での進入訓練や有視界飛行方式でのタッチアン
ドゴー訓練、さらに、本件飛行場周辺の高度上空で行う模擬射爆撃訓練(模
擬射爆撃のための降下訓練)等がある。
通常の訓練は、平日午前8時ころから午後5時30分ころまでの間に、昼休
みの時間帯(正午ころから午後1時ころまで)を除いて1日6回実施することと
されており、1回当たりの訓練時間は1時間程度、訓練機数は6機ないし10
機程度である。このほか、平日週2回は夜間飛行訓練を1日2回行うこととさ
れており、その終了時刻は通常午後8時ころであるが、夏場は午後9時ころに
なることがある。
訓練機がG空域で訓練を行う場合、離着陸の際に本件飛行場を使用する
こととなるが、1回の訓練で6ないし10機の訓練機の一団が1機ずつ又は2機
編隊で数分間隔で離陸、着陸するとされているので、それぞれ要する時間
は、通常10分程度となる。なお、離陸の際には、約20分前から最小回転数
でエンジンを始動しておき、離陸の約10秒前に数秒間エンジンを最大回転数
に上げてエンジン調整を行うのが通例である。
イ 緊急発進
領空侵犯に対する措置(自衛隊法84条)としての緊急発進(スクランブル)
は、通常、ジェット戦闘機2機の編隊で行われており、国籍不明機等による領
空侵犯の危険がある限り、休日であろうと深夜であろうと行われる。
ただし、本件飛行場を使用しての緊急発進の回数は、昭和55年度から平
成元年度までの10年間は毎年100回を超えていたが、平成2年度から100
回を切るようになり(平成2年度85回、平成3年度58回)、以後、平成4年度
49回、平成5年度21回、平成6年度24回、平成7年度6回、平成8年度19
回、平成9年度7回、平成10年度21回、平成11年度15回と、平成元年以前
に比べて顕著に減少した(乙第37号証、同第47号証、同第61号証)。
ウ 演習
航空自衛隊が参加する主要な演習には、統合幕僚会議が実施する自衛隊
統合演習、航空自衛隊が実施する航空自衛隊総合演習(空自総演)、航空総
隊が実施する航空総隊総合演習(総隊総演)があり、例年秋にこれらのうち1
つが2週間ないし3週間程度実施されているが(甲J第2号証、乙第29号証の
1ないし13、同第30号証、同第49号証)、演習期間中、防空戦闘訓練が実
施される1週間程度は本件飛行場も演習参加機の離着陸等に使用される。
演習期間中の訓練は、通常の訓練と異なり、土曜日、日曜日に行われるこ
ともあるし、開始時刻が早朝午前6時ころであったり、終了時刻が夜間午後8
時ないし9時ころであったりすることも少なくない。また、通常の訓練時と比べ
て飛行する機数が増えることもある。
エ 日米共同訓練
平成10年までの間に日米共同訓練で本件飛行場が実際に訓練参加機の
離着陸等に使用されたのは、昭和57年、昭和58年、昭和60年、昭和61
年、昭和62年、昭和63年、平成元年(2回)、平成2年、平成3年、平成4年、
平成5年、平成10年の計13回であり、概ね年1回、1ないし2週間程度使用
されてきている(乙第64号証)。
日米共同訓練の実施期間中は、通常の訓練時と比べて飛行する機種や機
数が増えることがあり、また、土曜日、日曜日に訓練が行われることもある(甲
E第47号証)。
オ 災害派遣(乙第44号証、同第63号証)
災害派遣(自衛隊法83条)の主なものとしては、急患輸送や海難事故、山
岳遭難事故があった場合の捜索救難等があり、小松基地では、主として小松
救難隊がこれに当たっており、派遣時には救難機等の離着陸のために昼夜
を問わず本件飛行場が使用される。
近年小松基地から上記目的で派遣された航空機の延べ機数は、平成7年
度28機、平成8年度58機、平成9年度14機、平成10年度1機、平成11年
度0機、平成12年度4機となっており、このうち平成8年度が特に多いのはタ
ンカー沈没による大規模重油流出事故(派遣期間平成9年1月から同年3月
初旬まで)があったためである。
カ 航空祭
小松基地では、例年5月ないし9月の休日(従来は日曜日一日が多かった
が、近年、例えば平成11年度は土曜日、日曜日の二日にわたった。)に航空
祭が開催されており、開催日には、午前9時ころから午後1時30分ころまで本
件飛行場を使用していわゆる展示飛行が行われる(甲E第76ないし第78号
証)。
キ その他の飛行及びエンジン試運転等
  上記各飛行の他、飛行訓練が可能かどうか訓練空域の天候状態を調査する
ために、朝一番の訓練開始の前に天候偵察機(ジェット戦闘機)を飛行させて
おり、また、他の基地等からの業務飛行や輸送機の飛来等が随時見られる。
  本件飛行場においては随時戦闘機等のエンジン調整・整備に伴う試運転等
も行っているが、原則として、平日の午前7時から午後10時までの間に行うも
のとされている。
(2) 近年の離着陸等及び騒音発生の回数ないし頻度
ア 管制航空交通量の集計結果からみた自衛隊機の離着陸等の回数
以下に掲記する各証拠に、証人Bの証言及び弁論の全趣旨を総合すると、
次のとおり認められる。
本件飛行場に係る飛行場管制業務、進入管制業務、ターミナル・レーダー
管制業務及び着陸誘導管制業務は、航空自衛隊小松管制隊が行うこととさ
れており(航空法施行令7条の2、昭和41年運輸省告示第149号、同第349
号)、本件飛行場内での離着陸のほか、本件飛行場に係る航空交通管制圏
(小松管制圏。昭和37年運輸省告示第140号)内の航行等については、自
衛隊機のみならず民間機、米軍機を含めて航空自衛隊がこれを管制している
(乙第17号証の1ないし4)。したがって、小松管制隊が把握している本件飛
行場の管制航空交通量は、自衛隊機の離着陸等の回数を知るための重要な
手がかりとなると解されるが、証人Bの証言によれば、複数機編隊で離陸等
することもあり、そのような場合には管制回数は1回として計上されるので、管
制回数は離着陸等をした実機数に比べてある程度低い数値となることは免れ
ない。そこで、この点の制約を念頭に置きつつ、以下検討する。
被告において集計した結果(乙第67号証)によれば、昭和45年度から平
成12年度まで31年間の本件飛行場における自衛隊機の管制航空交通量
(出発、到着のほか、進入復行、模擬計器進入、通過、タッチアンドゴー及び
ローアプローチを含む。)は、次のとおりとなっている。
すなわち、平成3年度までの年間管制航空交通量(管制回数)は、例外的
に少なかった昭和48、50、51年度を除けば、約1万8900回から約2万76
00回の範囲で推移しており、1年の暦日数(365日又は366日)で除した1
日平均管制回数で見ると、おおむね52回ないし76回の範囲で推移してきた
(ただし、年間2万6000回(1日平均70回)を超えたのは、例外的事情のあ
った昭和61、63年度及び平成元年度だけである。)。近年も、平成4年度が
年間2万0016回、1日平均約55回、平成5年度が年間2万0181回、1日平
均約55回、平成6年度が年間1万9695回、1日平均約54回、平成7年度が
年間2万0459回、1日平均約56回、平成8年度が年間2万0293回、1日平
均約56回、平成9年度が年間2万2896回、1日平均約63回、平成10年度
が年間1万8124回、1日平均約50回、平成11年度が年間1万7731回、1
日平均約48回、平成12年度が年間1万7891回、1日平均約48回と(1日
平均管制回数が軒並み60回を超えていた昭和57年度から平成2年度まで
の時期に比べればやや低めながら)ほぼ横ばいの状態が続いている。
また、被告が、平成7年度から平成12年度までの6年間について、月別の
管制日数、管制回数を集計した結果(前掲乙第67号証のほか乙第38号証、
同第53号証)によれば、例年冬場(12月、1月ないし3月)は管制回数がかな
り少なく(1000回を切る月もある。)、管制日数も比較的少ないという傾向を
看取することができ、その反面、その余の季節には、年間の平均回数よりは
管制回数が多くなっている。
さらに、被告が、同じく平成7年度から平成12年度までの6年間について、
月ごとに土曜日、日曜日、平日別の管制回数と時間帯別の管制回数を集計し
た結果(集計対象は出発及び到着に限る。)(上記各乙号証)によれば、ま
ず、土曜日と日曜日は、年間の管制日数が29日ないし40日であって、年間
の土日総日数の約3分の1程度であり、自衛隊機の離着陸しない日が年間の
約3分の2に達しているとはいえ、土日には原則的に離着陸しないというには
ほど遠い状況にある。もっとも、管制回数で見ると、平日に比べて顕著に少な
いということができる(土曜日、日曜日とも10回未満ないし多くても20回程度
までの月が多く、1か月50回を超えたのは平成7年9月の日曜日、平成8年9
月の日曜日、平成9年5月の土曜日、同年9月の土曜日、平成10年10月の
土曜日、平成11年5月の土曜日、同年8月の日曜日、同年9月の日曜日だけ
である。)。
次に、上記集計結果を基礎に、飛行訓練日1日当たりの管制回数を検討す
ると、平成7年度の管制日数278日のうち飛行訓練日は180日であり、その
余は悪天候のため天候偵察機のみが飛行した日等ということである(証人B
の証言)ので、概算、同年度の総管制回数2万0459回を上記180日で除す
ると、同年度の飛行訓練日1日当たりの管制回数は約114回となる。同様
に、平成10年度の管制日数276日のうち飛行訓練日は178日とのことであ
る(弁論の全趣旨)ので、概算、同年度の総管制回数1万8124回を上記17
8日で除すると、同年度の飛行訓練日1日当たりの管制回数は約102回とな
る。その他の年度も、飛行訓練日数に大差はないものと推認されるので、飛
行訓練日1日当たりの管制回数は上記平成7年度、10年度とほぼ同様ない
しは近似した水準であるものと推認される。
また、時間帯別で見ると、昼休みの時間帯である正午から午後1時までの
管制回数は顕著に少なく、10回未満ないし多くても20回程度までの月がほと
んどである。しかしながら、1年を通算してみると、平成7年度は173回、平成
8年度は208回、平成9年度は116回、平成10年度は75回、平成11年度
は77回、平成12年度は93回の管制が行われており、その頻度は多くはな
いけれども、些少な回数ではなく、やむを得ない場合以外は離着陸しないとい
う前記10・4協定に定める程度の管制交通量であるとは到底いえない。夜間
及び早朝の時間帯である午後7時から翌朝午前7時までの管制回数をみる
と、午後7時から午後8時までは、1年を通算すると毎年400回を超えており、
相当多数回に及んでいる。午後8時以降の時間帯の管制回数は、それ以前
の時間帯の回数と比べると顕著に少なく、10回未満の月がほとんどで、20
回を超える月は6年間で3月だけである。しかしながら、1年を通算してみる
と、午後8時から9時までの時間帯で、平成7年度には31回、平成8年度には
19回、平成9年度には24回、平成10年度には20回、平成11年度には62
回、平成12年度には14回の管制が行われており、さらに、それ以降午前7
時までの時間帯においても、平成7年度には22回、平成8年度には15回、平
成9年度には22回、平成10年度には8回、平成11年度には25回、平成12
年度には35回の管制が行われており、早朝・夜間にはやむを得ない場合以
外は離着陸しないという前記10・4協定に定めている程度の管制交通量とは
いい難い状況にある。
なお、以上の集計結果のうち、土曜日、日曜日、平日別及び時間帯別の集
計結果に現れた年間総管制回数と年度別及び月別の各集計結果に現れた
年間総管制回数との間の差(毎年5000回ないし7000回程度)は、前者の
集計対象とならなかった管制回数、すなわち模擬計器進入やタッチアンドゴー
等の本件飛行場の滑走路を使用した訓練の回数を示していると解される。
イ 被告及び関係地方公共団体の共同調査結果(常時測定点騒音発生回数)
甲E第76ないし78号証、乙第20号証、同第22号証、同第45号証、同第
57号証の1ないし6及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
前記第1の1(1)オで触れたように、本件飛行場周辺では被告(金沢防衛施
設事務所)のほか、石川県、小松市、加賀市、根上町等の関係地方公共団体
が共同して航空機騒音の測定調査を継続的に実施してきており、年度ごとの
調査結果が、石川県からは「小松基地周辺の騒音対策」に、小松市からは
「基地と小松」にそれぞれ掲載されて公表されている。
上記調査では、常時測定点が設けられた小松市小島町(小島町公民館)及
び加賀市伊切町(伊切町公民館)で測定された民間機を含む航空機騒音(70
dB(A)以上で7秒間以上継続した騒音)の発生回数に基づき、上記各測定点
における月別、曜日別、時間帯別の1日平均騒音発生回数がそれぞれ折れ
線グラフの形で公表されているが、平成6年度から平成10年度まで5年間の
この点に関する集計結果は、概ね次のとおりである(なお、各グラフ上に平均
騒音発生回数が具体的な数値で示されているのは平成9年度及び平成10年
度だけであって、平成8年度までのグラフからは平均騒音発生回数を明確に
特定するのは困難である。)。
まず、年間を通じた1日平均騒音発生回数を(具体的な数値的データの得
られる)平成9年度及び平成10年度についてみると、小松市小島町は平成9
年度、平成10年度とも約43回、加賀市伊切町は平成9年度が約38回、平
成10年度が約37回であり、月別でみると、冬場(12月、1月、3月)の回数が
年間平均回数を下回る傾向がみられる。これらとの対比で平成8年度以前の
調査結果をみても、平成7年度の小松市小島町における年間を通じてみた1
日平均騒音発生回数の多さが目立つ程度であり、平成9年度及び平成10年
度の各数値との間に大きな隔たりは見られない。そして、本件飛行場周辺地
域では、小松市小島町が滑走路からみて北東方向、加賀市伊切町が南西方
向に位置するそれぞれ代表的な騒音激甚地区であることからすると、本件飛
行場周辺地域全体の民間機を含めた航空機騒音の1日平均発生回数は、上
記各測定点で得られた数値の合計である80回ないし90回程度とみて大きな
誤りはない。
次に、曜日別の1日平均騒音発生回数をみると、小松市小島町では平日
(月曜日から金曜日まで)の平均が平成9年度約56回、平成10年度約55回
であるのに対し、土曜日、日曜日はいずれも10回前後で、加賀市伊切町でも
同じく平日の平均が平成9年度約46回、平成10年度約44回であるのに対
し、土曜日、日曜日はいずれも20回前後となっており、平成8年以前の調査
結果からも概ねこれらと同様の傾向が見られる(なお、平成7年度は、小松市
小島町では月曜日から木曜日まで軒並み70回を超えており、特に平日の回
数の多さが目立っている。)。
さらに、時間帯別の1日平均騒音発生回数をみると、上記両測定点とも昼
休み時間帯である午後零時台は平均1回前後であり、これを除いた日中に騒
音の発生が集中し、午前8時台から午後4時台が、それぞれ概ね平均約3回
ないし約6回程度である。夕方は午後5時台から午後7時台が、それぞれ平
均2回前後ないし3回弱であり、夜間は午後9時台以降は上記騒音の発生は
ほとんどなく、小松市小島町では午後8時台も騒音発生が激減し、また、早朝
は午前6時台までは騒音発生がほとんどなく、7時台が概ね1回弱程度である
ことを看取することができる。
以上の調査結果は、民間航空機(民間機)の離着陸等による騒音を対象か
ら除いているわけではないため、自衛隊機(とりわけ騒音の激しいジェット戦
闘機)の離着陸等の回数ないし頻度を直ちに示すものではないが、後述する
とおり、本件飛行場では民間機の離着陸便数が平成8年ころまでは漸次増加
してきて、管制回数でみると昭和63年度に一日平均約20回、平成4年度に
約30回、平成8年度には約40回に達し、平成9年、10年度はいずれも約44
回、11年度は約41回、12年度は約43回となっていること、民間機は定期便
が中心であり、離着陸機数が年間を通じてほぼ一定していること等を考慮す
れば、前記調査結果から自衛隊機騒音のおおまかな発生状況を推知するこ
とは可能であり、そのような観点からみると、上記各データとさきにみた管制
航空交通量集計結果から得られたデータとの間には格別の矛盾はないもの
とみて差し支えない。
ウ 原告らの調査結果(奥村報告)
  以下に掲記する各証拠、並びに甲E第46号証、同第48号証の1、2、証人
Cの証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次の   事実が認められる。
第1、2次訴訟の原告ら及びその支援者ら(原告団)は、かねて小松市丸の
内町a丁目b番地先路上(丸の内定点)等本件飛行場周辺地域で断続的に騒
音調査を行っていたが、その後、同訴訟第一審での検証実施に合わせて、調
査をより系統的に行うとともに調査データの信頼性を高めるべく原告ら訴訟代
理人あるいは復代理人弁護士ら(原告弁護団)が調査に関与することとなり、
平成元年4月から同年7月にかけて上記丸の内定点及び加賀市伊切町a番
地先路上(伊切定点)等で原告弁護団が関与した騒音調査が実施された。そ
して、このときの調査結果を原告弁護団弁護士奥村回らが報告書にまとめ
(甲E第44号証)、同訴訟でも証拠とされた。
原告団及び原告弁護団による調査は平成2年4月以降も年1、2回実施さ
れ、第1、2次訴訟第一審判決言渡後の平成3年10月以降は75コンター内
にある安宅海浜公園(小松市安宅第4区所在)でも上記定点調査に準じた調
査が行われるようになった。そして、同訴訟が控訴審に係属していた平成5年
8月までの調査結果は奥村弁護士らが報告書にまとめて(甲E第47号証)、
同控訴審でも証拠とされ、さらに、同控訴審の口頭弁論終結後である平成6
年10月から平成10年6月までの調査(今次調査)結果もやはり奥村弁護士
が報告書にまとめ(甲E第49号証)、上記各報告書と共に本件訴訟に証拠と
して提出された。
これら報告書に現れた原告らの調査結果中には、被告が指摘しているとお
り、データの記載上の不備や集計上の誤りが少なからず含まれており、調査
自体の精度にも懸念すべき点がないわけではないものの、原告弁護団の指
導関与のもとで系統的・継続的に実施されてきており、下記のとおり生の調査
データも開示されているというだけでなく、騒音測定の技量は後記の本件訴訟
における検証時にも実証されていることからすれば、大筋では信頼に値する
データが得られているものとみることができる。しかも、上記各報告書では、先
にみた被告の管制航空交通量の集計結果や関係地方公共団体と共同しての
騒音調査結果と異なり、各調査日ごとの生の調査データ(基礎データ)がほぼ
明らかにされており、これらデータは、本件飛行場周辺地域における具体的な
航空機騒音の発生状況を把握する上で貴重なものと評価すべきである。
ところで、平成6年10月以降の今次調査は、平成6年10月に5日間(10月
24日(月)から同月28日(金)まで)、平成7年10月に5日間(10月16日
(月)から同月20日(金)まで)、平成8年6月に5日間(6月10日(月)から同
月14日(金)まで)、平成9年6月に4日間(6月9日(月)から同月12日(木)ま
で)、同年9月から10月に4日間(9月29日(月)から10月2日(木)まで)、平
成10年6月に5日間(6月22日(月)から同月26日(金)まで)と合計6回、延
べ28日間行われたが、このうち、前記報告書の中で調査日ごとのデータが集
計、整理されている丸の内定点での調査結果を中心にみると、概ね次のよう
な事実が認められる。
まず、丸の内定点における調査日ごとの航空機騒音の発生回数をみると、
ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の騒音発生回数が50回を超えたのは、平
成6年が5日中3日、平成7年が5日中4日、平成8年が5日中2日、平成9年
が8日中7日、平成10年が5日中4日とかなり多く、そのうち平成7年の1日
(10月18日)、平成9年の4日(6月10日、同月11日、9月29日、10月1日)
は100回を超えたとされている(なお、平成9年9月ないし10月の調査時期に
は航空総隊総合演習が実施されていた。)。一方、回数が少ない日は30回を
下回ることもあり(平成6年、平成7年、平成9年、平成10年ではそれぞれ1
日、平成8年では2日がそれに当たる。)、1日ごとの騒音発生回数にはかな
りのばらつきがみられる。これらの調査結果を平成元年から平成5年までの
調査結果と比べてみても、回数が特に多い日は少なくなった感があるものの
(平成元年から平成5年までは毎年少なくとも1日以上は100回を超える日が
あったとされている。)、全般的にみて顕著な減少傾向までは見受けられな
い。
次に、時間帯別の騒音発生状況を各調査日ごとの丸の内、伊切両定点に
おける基礎データに照らして概観すると、昼休みの時間帯である正午から午
後1時前(午後零時59分)までの間にピーク騒音レベルdB(A)値70以上の自
衛隊機(特にジェット戦闘機)騒音が発生したのは、調査日の約4分の1であ
り、発生日の1日平均発生数は約3回であった。そして、昼休み時間帯を除い
た日中の騒音発生状況の基本的な傾向としては、10分前後の短い時間内に
6機ないし10機程度のジェット戦闘機が連続して離陸あるいは着陸すること
に伴い、飛行騒音が集中的に発生する傾向が恒常的に見受けられるが、そ
れ以外にジェット戦闘機が本件飛行場周辺を通過することに伴う騒音や練習
機等の飛行騒音が散発的に発生することも少なくない。なお、午後7時台まで
の調査データが残されている日(平成8年6月13日、平成9年6月10日、11
日及び平成10年6月24日)の騒音発生状況からは、訓練が夜間に及ぶ場合
には夕刻午後5時以降も日中と大差のない頻度で自衛隊機騒音が発生して
いることを看取することができる。
以上のほか、演習期間中に調査が行われた平成9年9月29日から同年1
0月2日までの騒音発生状況を基礎データに照らしてみておくと、早朝午前6
時台から練習機の離着陸に伴う騒音が発生し、午前8時台に訓練が始まる
と、通常の訓練時を上回る機数のジェット戦闘機等の連続的な離陸ないし着
陸に伴う騒音が集中的ないし断続的に発生することがあり、夕刻以降もこうし
た状況のまま午後8時過ぎまで着陸に伴う騒音が続くというおおまかな傾向
が認められる。
エ 検証の結果
当裁判所は、平成11年9月7日、8日の2日間にわたり、本件飛行場周辺
地域関係十数箇所に対する検証を実施したが、そのほとんどの箇所で原、被
告双方が騒音測定を行い、それぞれの測定結果が検証結果の一部とされて
いる。これらの測定結果は、各地点ごとの計測が限られた時間内に行われた
こともあって、本件飛行場周辺地域の騒音発生状況の全容を知るにはもとよ
り十分なものではないが、相応のデータが採取されたことにより日々の騒音
発生状況の一端をうかがい知ることのできる客観的な資料が得られた点で、
その意義は少なくない。なお、後日、被告は、検証実施日両日における訓練
時間帯(第1ピリオドないし第6ピリオド)ごとの飛行機数を明らかにしたが(乙
第54号証)、そこでは、平成11年9月7日には練習機を含めて延べ49機、翌
8日には練習機を含めて延べ58機をそれぞれ飛行訓練に使用した旨が報告
されている(平成11年9月7日の第3ピリオド(午前10時50分ころから午前1
1時50分ころまで)は悪天候のため飛行訓練を中止したとされている(乙第5
5号証)。)。
そこで、これら測定データからみた各検証現場における自衛隊機の飛来状
況を具体的にみていくと、概ね次のような事実が認められる(なお、原、被告
双方の測定データは大筋で一致しており、いずれに依拠しても格別問題はな
いが、ここでは、被告も自認している限度での騒音状況を確認する趣旨から
も、被告の測定結果を基にみていくこととする。)。
第1日目(平成11年9月7日)は、まず、小松市立日末小学校(同市日末町
所在)運動場で午前10時30分から午前11時20分まで騒音測定が実施され
たが、前述した(飛行訓練中止という)事情により自衛隊機の飛来は観測され
なかった。
次に、原告A33宅(小松市佐美町所在)では午後零時50分から午後2時2
0分まで騒音測定(屋内外)が実施された。屋外では、午後1時2分まず練習
機(T4)1機が離陸していったのを皮切りに、午後1時4分から午後1時10分
まで10分足らずの間にF―15イーグル型ジェット戦闘機10機が立て続けに
離陸していく状況が確認された。その後、午後1時48分にはイーグル機3機、
午後1時57分にも同機4機の離陸がそれぞれ確認されたほか、練習機がタッ
チアンドゴー訓練等で飛来する状況もしばしば確認された。
続く本件飛行場滑走路南端付近ないし浜佐美集団移転跡地付近での騒音
測定実施時(午後2時34分から午後3時8分まで)には、測定の対象となるよ
うな航空機の飛来は認められず、前述した伊切定点での騒音測定実施時(午
後3時13分から午後3時35分まで)も、ピーク騒音レベルdB(A)値70以上の
騒音が計測されたのは民間機1機だけであった。
最後に、安宅海浜公園(小松市安宅第4区内)で短時間ながら午後4時38
分から午後4時52分まで騒音測定が実施された際には、午後4時49分と午
後4時51分にそれぞれイーグル機2機が上空を通過する状況が確認された。
第2日目(平成11年9月8日)は、まず訴外D宅(小松市長田町所在)で騒
音測定(屋内外)が実施された際は、午前10時から午前10時24分までの間
に輸送機(YS―11)1機の飛来が確認されただけであったが、次に小松市民
センター(同市大島町所在)で午前10時30分から午前11時25分まで騒音
測定(屋内外)が実施された際には、午前10時41分から午前10時43分ま
での間にイーグル機4機が続けて着陸していく状況が確認され、午前10時5
0分から午前11時1分までの間にも同機延べ10機が上空を通過し、さらに、
同機4機が着陸していく状況がそれぞれ確認された(その他、練習機等の飛
来状況もしばしば確認された。)。続く訴外E宅(小松市大島町所在)では、午
後零時27分から午後1時15分までの騒音測定(屋内外)実施中ピーク騒音
レベルdB(A)値70以上の航空機騒音は屋外でも計測されなかった。
続いて、原告A34宅(小松市上牧町所在)では午後1時29分から午後3時
24分まで騒音測定(屋内外)が実施された。屋外では、まず、午後1時48分
にイーグル機1機が着陸していったのに続き、午後1時49分から午後1時57
分までの間に同機延べ15機が上空を通過する状況が確認された。さらに、午
後2時27分に同機1機、午後2時44分に同機2機、午後2時50分から午後2
時52分までの間に同機3機がそれぞれ上空を通過する状況が確認された。
その他、輸送機や練習機等の飛来状況もしばしば確認された。
その後、鶴ヶ島集団移転跡地付近での騒音測定実施時(午後3時40分か
ら午後3時50分まで)にはイーグル機1機が着陸していく状況が確認され、最
後に、前述した丸の内定点での騒音測定実施時(午後4時43分から午後5時
10分まで)には、午後4時43分にイーグル機2機、午後4時57分に同機3
機、午後5時6分に同機1機がそれぞれ着陸していく状況が確認された。
オ まとめ
以上の各種データ等から近年における自衛隊機の離着陸等及び騒音発生
の回数ないし頻度に関して特徴的な点をまとめると、次のとおりである。
まず、年次別の傾向をみると、離着陸等の年間総数が近年若干減少したこ
と(換言すれば、本件飛行場における民間機を含めた離着陸等の総数の中で
自衛隊機の占める割合が相対的に若干低下したこと)は見受けられるもの
の、通常どおり訓練が行われた日における訓練機数や飛行頻度等には格別
の変化はなく、通常訓練の規模が近年に至って縮小されたことを直接うかが
わせる証拠も特に存しないことからすれば、訓練日とされる平日における平均
的な離着陸等の回数ないし頻度は、近年においても第1、2次訴訟当時とほと
んど変わらない横ばい傾向が続いているとみるのが相当であって、年間総数
に若干の減少傾向がみられるとすれば、前記(1)イで指摘した緊急発進回数
の顕著な減少傾向等が影響していると考えるほかない。
なお、平日の訓練時間帯における飛行騒音の具体的な発生状況をみると、
10分程度の時間内に離着陸に伴う騒音が集中的に発生する特徴的な傾向
は見て取れるけれども、騒音発生は必ずしもそれだけに限られるものではな
く、訓練時間帯においては訓練機等が本件飛行場周辺でかなり頻繁に飛行を
繰り返している状況がうかがわれる。
その他、季節別の傾向としては、冬場は離着陸等の回数が比較的少ない
こと、曜日別の傾向としては、土曜、日曜の離着陸等の回数は通常顕著に少
ないことが認められ、一方、時間帯別の傾向としては、昼休みに当たる正午
から午後1時前まで及び深夜から早朝にかけては離着陸等の回数は顕著に
少ないけれども、いずれも些少とは言えず、10・4協定の定めには遠く及ばな
いことが認められる。
(3) 近年の騒音の程度
ア 被告及び関係地方公共団体の共同調査結果(日WECPNL年平均値)
被告及び関係地方公共団体が共同で行う騒音測定調査の結果として毎年
公表されているのは、前述した常時測定点をはじめとする測定地点ごとのW
ECPNLに関する数値であるが、そのうち測定地点ごとの日WECPNLの年
平均値(パワー平均)の推移を昭和60年度から平成10年度までのデータ(前
掲甲E第76ないし78号証、乙第20号証、同第45号証、同第57号証の1な
いし6)でみると、おおむね次のとおりである。
まず、常時測定点のうち小松市小島町では、昭和60年度が77、昭和61
年度が76とやや低かったものの、昭和62年度以降は一貫して80前後(79
ないし82)の数値で推移している。一方、加賀市伊切町では、平成2年度まで
は84あるいは85と高めの数値で推移していたが、平成3年度以降は80前
後(78ないし82)となっている。
次に、他の測定地点の主なデータをみると、小松市下牧町(平成5年度ま
では下牧町公民館、平成6年度以降は牧農協)では、昭和63年度まで81以
上83以下の範囲にとどまっていたが、平成元年度以降は85前後(83ないし
87)の数値で推移し、平成6年度には88という最高値が記録された。小松市
日末町(日末地区学習等供用施設)では、昭和63年度まで80前後(78ない
し82)の数値で推移していたが、平成元年度以降は76以上79以下の範囲
内の数値となっている。また、75コンター地域である小松市高堂町では、昭
和60年度から63年度までは75ないし78で、平成元年度以降は71ないし7
4で推移している。加賀市片野町(片野町公民館)では、平成4年度まで75前
後(74ないし76)の数値で推移していたが、平成5年度以降の4年間は72あ
るいは73にとどまった上、平成9年度は65、平成10年度も67と数値がかな
り減少した。川北町壱ツ屋(川北小学校)でも、平成7年度まで71以上75以
下の範囲内の数値であったが、平成8年度は69、平成9年度は66、平成10
年度は64と数値が減少している。
このように、日WECPNLの年平均値でみると、測定地点によっては近年若
干の減少傾向がみられるものの、一方ではむしろ高めの水準を維持し、又
は、増加している地点もあり(小松市小島町、同市下牧町)、本件飛行場周辺
地域全般の傾向として航空機騒音によるうるささの程度が下がってきていると
まではいい難い。ちなみに、平成6年度から平成10年度まで5年間の騒音レ
ベルdB(A)年平均値(パワー平均)でみれば(上記甲、乙各号証)、加賀市片
野町で80以上、川北町壱ツ屋でも80前後(78以上)と相当高水準に達して
いる。
イ 原告らの調査結果
奥村弁護士作成の前出報告書(甲E第49号証)に現れた原告らの今次調
査結果を、丸の内定点における調査日ごとの騒音測定時の状況を中心にみ
ると、概ね次のとおりである。
まず、丸の内定点上空付近に飛来する航空機が着陸機に偏った日(平成7
年10月16日、平成9年6月10日、11日、平成10年6月26日等)は、ジェッ
ト戦闘機騒音を含めてピーク騒音レベルdB(A)値が70台、80台にとどまる率
が高いが、それ以外の日はジェット戦闘機の離陸時に90台の数値が計測さ
れることがかなり多く、時に100を超えることもある。
次に、伊切定点における騒音測定時の状況を基礎データに照らして概観し
てみても、丸の内定点における上述した状況と近似した傾向を看取すること
ができるが、ピーク騒音レベルは丸の内定点に比べて全般的にやや低い。
また、75コンター地域である安宅海浜公園での騒音測定データを丸の内
定点と比べて概観してみると、安宅海浜公園での測定値は、丸の内定点での
それをかなり下回る傾向があることは否めない(例えば、ピーク騒音レベルの
最大値、中央値は、いずれも丸の内定点と比べて概ね10前後、時に15前後
の差が見られる。)ものの、70台、80台の数値が計測される頻度は決して低
くなく(例えば、70以上の騒音の発生回数が50回を超えた日数は、平成6年
が5日中3日で丸の内定点と同一、平成7年が5日中3日で1日の差、平成8
年が5日中1日で1日の差、平成9年の6月が4日中1日で3日の差、平成10
年が5日中3日で1日の差であったし、70以上の騒音の概ね3割ないし7割が
80以上であった。)、特にジェット戦闘機の飛来時には90を超えることもあ
る。
こうした基本的傾向は、平成5年までの調査結果(前掲甲E第44号証、同
第47号証)からも概ね同様に看取されるところであって、実際のピーク騒音レ
ベルdB(A)測定値からみると、近年の自衛隊機の離着陸等に伴う騒音の大き
さの程度には格別の変化はみられないものということができる。
ウ 検証の結果
検証時に計測されたジェット戦闘機等の離着陸等に伴う騒音の大きさを被
告の測定データに照らして具体的にみておくと、概ね次のとおりである。
まず、多数の離陸機の飛来が確認された原告A33宅では、F―15イーグ
ル機(延べ17機)の離陸に伴い、ピーク騒音レベルdB(A)値で84が1回、85
が3回、86が1回、87が2回、88が1回、89が5回、90が3回計測された(1
機は計測不能とされた。)。他の航空機騒音としては、タッチアンドゴー訓練中
の練習機が一度だけ78を記録したのが最大であった。
安宅海浜公園では、民間機の離陸時に計測された76が最大値で、イーグ
ル機が2回2機ずつ上空を通過したときの数値はそれぞれ75、60にとどまっ
た。
小松市民センターでは、イーグル機、練習機ともに着陸時には概ね70台
の数値が計測され(その中でイーグル機1機だけが95という飛び抜けた値を
記録した。)、イーグル機は上空通過時もほとんどが70台を記録した。
原告A34宅では、多数のイーグル機(延べ22機)が本件飛行場方面に向
かい着陸あるいは通過していく状況が確認されたが、ピーク騒音レベルが60
台にとどまったのは1回(2機通過時の66)だけであり、その他は70台が計5
回(70が2回、71が1回、77が1回、78が1回)、80台が計11回(80が1
回、84が2回、86が2回、88が3回、89が3回)、90台も計2回(90が1回、
91が1回)計測された。ちなみに、同原告宅では、他の自衛隊機や民間機の
飛来時に80台が計測されることも少なくなく(計5回)、検証時の最大値として
は、自衛隊機(C―1)と民間機(B―747)の着陸時にそれぞれ96という数値
が計測された。
鶴ヶ島集団移転跡地付近では、イーグル機の着陸時に83という数値が計
測され、最後に、丸の内定点では、同機(延べ6機)の着陸に伴い75、80、8
1、83、84、85という数値がそれぞれ1回ずつ計測された。
エ まとめ
以上の各種データから自衛隊機の飛行騒音の程度に関し近年の特徴的な
点をまとめると、本件飛行場周辺地域では近年においても第1、2次訴訟当時
と同様ジェット戦闘機の飛来(通過、離陸、着陸)時、特に離陸時における騒
音の大きさが顕著であり、小松基地(第6航空団)の主要装備に関しファントム
機からイーグル機への機種変更があったことの影響は格別見受けられないと
いうべきである。そして、先に(2)で検討したところと併せ考えると、近年の本件
飛行場周辺地域における自衛隊機の離着陸等に伴う騒音暴露の状況は、平
日の訓練時間帯に関する限り、依然として第1、2次訴訟当時の状況と特に
変わりはないものとみるのが相当である。
 2 米軍機による使用状況等
前記1(1)エで触れたとおり、昭和57年以来日米共同訓練実施時に米軍機が本
件飛行場を離着陸等に使用するようになったが、近年の(本件飛行場を使用して
の)日米共同訓練実施状況を平成5年以降に限ってみれば、平成5年5月17日か
ら同月28日まで及び平成10年11月2日から同月13日までの2回、延べ24日間
に限られており(前掲乙第64号証)、米軍機が本件飛行場に離着陸しあるいはそ
の関連で飛行するのは、現状ではごく短い期間に限られている。
 3 民間航空機による使用状況等
   本件飛行場使用による騒音の発生・暴露の中で自衛隊機及び米軍機によるものの
比重を把握するために、以下民間機による本  件飛行場の使用状況等について検
討する。
民間機による本件飛行場の使用状況の推移を管制航空交通量集計結果(昭和
43年度から平成12年度まで。乙第71号証)からみると、昭和43年度は年間360
5回、1日平均約10回にとどまっていたが、その10年後の昭和53年度には年間5
902回、1日平均約16回となり、更にその10年後の昭和63年度には年間7597
回、1日平均約20回となった。そして、平成4年度には年間1万1285回、1日平
均約30回に到達し、平成8年度には年間1万4981回、1日平均約40回、平成9
年度には年間1万6513回、1日平均約44回に到達し、その後は平成10年度が
年間1万6263回、1日平均約44回、平成11年度が年間1万5226回、1日平均
約41回、平成12年度が年間1万5962回、1日平均約43回で推移しており、本
件飛行場における民間機の離着陸回数は、平成9年ころまで顕著な増加傾向を続
け、その後ほぼ横ばいで推移している。
運航路線からみると、平成11年度末現在、国内線では東京便1日9往復をはじ
め、札幌、福岡、仙台、那覇、広島等との間に1日少なくとも7往復便があり、国際
線は週2往復のソウル定期旅客便、週3往復のルクセンブルク定期貨物便のほ
か、例年相当数のチャーター便が就航している(前掲甲E第78号証)。
民間機の場合、このような国内線定期旅客便中心の運航状況のため、平成11
年度、平成12年度の各管制航空交通量集計結果(上記乙第71号証)からみても
月別の管制回数にさほどの変動は生じておらず、年間を通じてほぼ一定の離着陸
回数が保たれている。
民間機の離着陸に伴う騒音の程度を前述した検証時の測定データ等からみる
と、伊切定点ではB―777機の離陸時にピーク騒音レベルdB(A)値で70を計測
し、一方、丸の内定点ではB―737機の着陸時に82が計測されており、その他、
日末小学校ではB―777離陸時に78、原告A33宅ではA―300離陸時に77、
安宅海浜公園ではB―737離陸時に76、原告A34宅ではB―777着陸時に8
9、B―737着陸時に86、B―747着陸時には96がそれぞれ計測された(いずれ
も被告測定値)。奥村弁護士作成の前記報告書に現れた原告らの今次調査結果
をみても、民間機の離着陸時に測定された数値は丸の内、伊切両定点とも70台、
80台が多く、民間機が90を超える数値を記録することは少ない。
4 墜落等の危険について
証人Bの証言及び弁論の全趣旨によれば、本件飛行場においては、昭和37年
から平成2年までの間に、自衛隊機に関し、墜落・着陸失敗・暴走・ターゲット落下
等の事故が33回起こっており、近年でも、平成3年12月に着陸態勢下のF―15J
イーグル機が日本海上で墜落し、平成7年10月6日にF―15Jイーグル機が離陸
に失敗して炎上し、平成7年11月22日にF―15Jイーグル機が輪島沖で僚機に
誤射・撃墜されるという事故が発生していることが認められる。
また、後に第4の2(1)で判示するように、原告らの相当数の者は、陳述書におい
て、自衛隊機の飛行・離着陸に際して、墜落等の事故の危険を感じ、恐怖感・不安
感に襲われる旨述べている。
しかしながら、上記判示の事実関係では、本件飛行場周辺に自衛隊機の墜落
等の現実的危険性が存在し、周辺に居住等している原告らの権利・利益に対する
侵害が発生しているとか、その発生の具体的蓋然性があるとか断ずることは困難
であるし、他に、本件飛行場がかかる危険性を惹起するような欠陥・不備を有して
いるものと認めるに足りる証拠もない。
第3 騒音障害の防止軽減策
 1 被告の周辺対策の概要
前記第1の1(2)ウで触れたように、被告は、かねて行政措置として防衛施設周
辺対策に取り組んでいたが、昭和41年に周辺整備法が、昭和49年に生活環境整
備法がそれぞれ公布、施行され、現在では、主として生活環境整備法に基づく周
辺対策が実施されている。甲E第76ないし78号証、乙第24号証の1ないし7、乙
第33号証、乙S第1号各証及び弁論の全趣旨を総合すると、上記周辺対策の概
要は、後述する住宅防音工事の助成措置を除けば、次のとおりであると認められ
る。
(1) 障害防止工事の助成等(生活環境整備法3条)
 ア 障害防止工事の助成(同条1項)
被告は、生活環境整備法3条1項に基づき、本件飛行場周辺の障害防止
対策事業に対する補助金として、昭和52年度から昭和60年度までの間小松
基地周辺の用排水路改修工事に合計金4億1285万5000円を支出したほ
か、小松市、加賀市、根上町が昭和51年度以降それぞれ順次実施してきて
いるテレビ共同受信施設設置事業に対しても、平成12年度末現在で合計金
5億5629万6000円を支出している。
イ 学校、病院等の防音工事の助成(同条2項)
被告は、生活環境整備法3条2項に基づき、本件飛行場の周辺(小松市、
加賀市、根上町、寺井町、辰口町、美川町、川北町、松任市)に所在する小中
学校、高等学校、幼稚園、保育所、病院等の施設に対する防音工事の助成
措置を実施してきており、行政措置としてあるいは周辺整備法に基づき実施さ
れていた時期を含め、昭和35年度から平成12年度までの事業実績は、対象
施設数が小中学校、高等学校、幼稚園、保育所を中心に合計157、補助額
は総額金268億7553万6000円に上っている。
上記防音工事は、1級から4級までの工事種別に区分され、1級工事は35
デシベル以上の音響軽減効果があるとされ、以下級毎に音響軽減量が5デシ
ベル宛低下するものとされており、工事の方法としては、木造等施設を鉄筋コ
ンクリート造に改築し併せて防音工事を施す場合(改築)、既存の鉄筋コンクリ
ート造施設に防音工事を施す場合(改造)、建物を新築又は増築するのに併
せて防音工事を施す場合(併行)等がある。
なお、被告は、防音事業の関連維持費として、上記防音工事に関連する換
気設備等の使用に要した電気料金等の費用の一部を補助する行政措置を講
じてきており、平成12年度は、対象施設数が131、補助額が合計金4936万
1000円となっている。
(2) 移転の補償等(生活環境整備法5条)
被告は、昭和39年度の予算措置で小松市鶴ヶ島地区の8戸を対象に実施し
て以来、行政措置として、さらにその後は周辺整備法、生活環境整備法に基づ
き本件飛行場周辺地域で移転補償の措置を実施してきており、現在でも生活環
境整備法5条に基づく措置が続けられている。
上記措置の対象区域には、前記第1の1(1)ア及びエに挙げた第2種区域の
ほか、周辺整備法5条1項の規定に基づき既に指定済みであった「みなし第2種
区域(生活環境整備法附則4項により第2種区域とみなすこととされた区域)」が
含まれ、対象家屋は合計771戸であったところ、被告の措置を受けて、平成4年
度までにそのうち411戸が移転し、さらに、平成5年度から平成12年度までに8
7戸が移転したことで、移転済み戸数は498戸に達し、土地の買入れを含む補
償に要した費用は総額金171億8722万1000円に上っている。
なお、移転先地の公共施設整備事業に係る助成措置(生活環境整備法5条3
項)としては、近年では、小松市が平成8年度から平成11年度にかけて実施し
た事業に対し、合計金5億8576万7000円を支出している。
(3) 緑地帯の整備(生活環境整備法6条)
被告は、昭和46年度以降、前記措置による移転跡地に樹木の植栽を行うな
どして緩衝緑地帯の整備事業を始め、生活環境整備法の施行後も同法6条及
びその趣旨に基づき同事業を進めてきた。この結果、平成12年度までに総額金
3億5500万円をかけて51.65ヘクタールの緩衝緑地帯が整備された。
(4) 民生安定施設の助成(生活環境整備法8条)
ア 防音工事の助成
被告は、前述した学校等の施設以外にも、生活環境整備法8条に基づき、
本件飛行場周辺地域(小松市、加賀市、根上町、辰口町、寺井町、美川町、
川北町、松任市)の公民館、庁舎、学習等供用施設等に対する防音工事の助
成措置を実施してきており、周辺整備法に基づき実施されていた時期を含め
た昭和41年度から平成12年度までの事業実績は、施設数が学習等供用施
設(130施設)を中心に合計163施設、補助額は総額金69億3814万300
0円に上っている。
なお、当裁判所が検証を実施した小松市民センターは、この助成制度によ
り整備された施設(特別集会施設、コミュニティ供用施設及び老人福祉センタ
ーからなる複合施設)であり、検証時の測定結果では、ピーク騒音レベル
dB(A)の屋内外の測定値に27ないし32のレベル差が記録された(被告測定
値。原告らの測定値もほぼ同様のレベル差である。)。
イ 一般助成
生活環境整備法8条に基づく上記防音工事以外の助成措置は、道路改修
事業を含めて一般助成措置とされており、被告は、行政措置として、あるいは
周辺整備法に基づき実施していた時期を含め、昭和35年度から平成12年度
までに小松市をはじめ関係地方公共団体の道路改修、有線放送施設設置等
合計103件の事業に対し、総額で金143億7166万8000円の補助金を支
出している。
(5) 特定防衛施設周辺整備調整交付金(生活環境整備法9条)
本件飛行場は、生活環境整備法9条1項の特定防衛施設に指定され、特定
防衛施設関連市町村として小松市及び加賀市が指定を受けていることから、被
告は、同条2項に基づき、特定防衛施設周辺整備調整交付金として、昭和50年
度から平成12年度までに小松市に対し総額金60億1543万3000円、加賀市
に対し総額金16億4575万2000円を支出している。
(6) 損失の補償(生活環境整備法13条)
被告は、生活環境整備法13条に基づき農耕阻害に係る損失の補償を毎年
実施してきており、平成12年度は170名の対象者に総額金141万1000円の
補償金が支払われた。
(7) その他
ア テレビ受信料の助成
被告は、行政措置として、昭和45年度から本件飛行場周辺住民の日本放
送協会(NHK)テレビ放送の受信料に係る助成措置を講じてきており、平成1
2年度までの実績は、延べ31万6941件(平成12年度は1万2211件)につ
き総額金18億1612万3000円(平成12年度は金9280万7000円)の補
助金を支出している。
イ 騒音用電話機の設置
被告は、行政措置として、昭和46年度から小松市等で騒音用電話機の設
置に対する補助を行ってきたが、昭和53年度以降は設置の申請がなく実施
されていない。
ウ 国有提供施設等所在市町村助成交付金
小松市は、国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律に基づく
総務省所管のいわゆる基地交付金制度の適用も受けており、昭和32年度か
ら平成12年度までに総額で金71億1648万8000円の交付を受けている。
 2 住宅防音工事の助成措置(生活環境整備法4条)
(1) 住宅防音工事助成措置の概況
甲E第78号証、乙第33号証、乙S第1号各証及び弁論の全趣旨によれば、
住宅防音工事助成措置の概況は次のとおりであ     ると認められる。
ア 制度概要
住宅防音工事の助成策は、生活環境整備法により新たに採用された周辺
対策であり、同法4条は、防衛庁長官が指定する第1種区域に当該指定の際
現に所在する住宅につきその所有者等が防音工事を行うときは、被告がその
工事に関し助成措置を採ることとし、本件飛行場周辺地域においても、前記
第1の1(3)アないしエに示したとおり同区域指定が告示され、被告の防音工
事助成措置が実施されている。なお、前述したとおり第1種区域の指定を受け
る地域は80コンター、75コンターに順次拡大されていったが、上記助成措置
は当該地域が区域指定を受けた際に現に存在する住宅を対象としているた
め、指定区域が拡大された際に既に指定済みのより高いコンター内に存在し
ていた住宅が法律上助成措置の対象とならないという矛盾した事態(ドーナツ
現象)が生じ、問題視されたのを受けて、被告は、平成8年度から行政措置と
してかかる住宅を対象とした特定住宅防音工事助成措置を講じている。
上述した生活環境整備法上の助成措置の対象となる防音工事は、まず、
新規工事を2居室以内の範囲(平成10年度までは家族数が4人以下の場合
1室、5人以上の場合2室とされていた。)で行い、さらに、新規工事を実施し
た住宅を対象とした残室の追加工事を、世帯人員に応じて5室を限度に行う
こととされてきている。
なお、防音工事実施後の助成措置としては、空調機器の機能復旧工事が
平成元年度から、建替防音工事、防音建具の機能復旧工事、防音区画改善
工事等が平成11年度からそれぞれ実施されており、また、生活保護法に基
づく被保護世帯に対しては、平成元年度から空調機器稼働費助成措置が行
政措置として講じられている。
イ 事業実績
生活環境整備法に基づく住宅防音工事助成事業は、前記第1の1(2)オで
触れたように正式な区域指定の告示を待たずに昭和50年度から前倒しで実
施され、さらに、昭和54年度からは追加工事も実施されるようになり、平成1
2年度までに1万5905世帯につき新規工事が完了し、1万1370世帯につき
追加工事が完了しており、被告の支出額は総額金586億2328万3000円
に上っている。小松市での具体的な進ちょく状況をみると、新規工事について
は、昭和62年度までに工事を終えた世帯数が1万世帯を超えていたが、その
時期に追加工事まで終えていたのはわずか1500世帯余りにすぎなかった。
しかし、その後追加工事の実施も進み、平成5年度には追加工事まで終えた
世帯数が5000世帯を超え、結局、平成12年度末現在では、助成対象となる
1万1000余りの世帯のうち1万0616世帯について新規工事を終え、7467
世帯については追加工事まで完了したという状況にある。
このほか、前述した特定住宅に係る防音工事助成事業は、平成12年度ま
でに総額金17億6310万円をかけて307世帯について新規工事が、229世
帯について追加工事がそれぞれ完了しており、平成11年度から実施されて
いる建替防音工事助成事業は、平成12年度までに68世帯の新規工事が総
額金3億8177万6000円をかけて完了している。また、平成元年度から実施
されている空調機器機能復旧工事は平成12年度までに6614世帯について
工事を完了しており(支出総額金20億2920万円)、防音建具機能復旧工事
は平成11、12年度に計10世帯に対して実施されている(支出総額金215
万9000円)。
ウ 工法及び防音効果
被告は、助成措置を講ずる防音工事の標準的な工法を、W値80以上の区
域に所在する住宅について行う第Ⅰ工法とW値75以上80未満の区域(75
コンター)に所在する住宅について行う第Ⅱ工法とに区分している。
木造住宅でいえば、第Ⅰ工法は、外部開口部に第Ⅰ工法用アルミニウム
合金製気密建具(防音サッシ)を取り付け、内部開口部に防音ガラス戸や防
音ふすま等の防音建具を取り付けるほか、壁を防音壁に改造し、天井も防音
天井に改造するが、第Ⅱ工法は、原則として外部開口部に第Ⅱ工法用防音
サッシを取り付け、内部開口部に防音建具を取り付けるだけで、壁や天井に
ついては必要に応じて補修工事を行うにとどめるものとされている。
防音効果の目標値である計画防音量は第Ⅰ工法で25デシベル以上、第
Ⅱ工法で20デシベル以上とされているが、かかる目標値に達する効果を上
げるためには室内を密閉する必要があることから、工事を施した室内に冷暖
房機及び換気扇を設置することも助成措置の一環として行われている。
(2) 原告らの居宅に関する工事実施状況等
ア 実施状況全般
乙S各号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らの居宅に関する防音工事
助成措置の平成12年度末現在における実施状況は、別冊「被告最終準備書
面」引用図表第1表のとおりであり、そのうち前記第1の2(1)及び(2)で認定し
た原告らの各居住地(別表1「居住状況一覧」中の「居住地」欄に各記載のも
の)に係る部分のみを示せば、別表2「住宅防音工事及び陳述書要旨一覧」
中の「住宅防音工事」欄にそれぞれ記載したとおりであると認められる。
これによると、原告らの居宅は既に追加工事も終えて4室ないし5室の防音
室を備えているものが多く、中には平成11年度から実施されている建替防音
工事の助成措置を受けた世帯もわずかながら存するところである。
イ 検証結果からみた防音工事の効果
  当裁判所が検証を行った住宅にあっても、75コンターに所在する訴外D宅で
は第Ⅱ工法による防音工事が計5室(新規工事2室、追加工事3室)に施され
ており、80コンターに所在する訴外E宅では第Ⅰ工法による防音工事が計5
室(新規工事1室、追加工事4室)に施されている。
 また、原告A34宅は85コンター内に所在することから、第Ⅰ工法による防音
工事が計5室に施されている。
検証時にこれら居宅の屋内外で騒音測定をしたところ、訴外E宅では前述
したとおり有効なデータが得られなかったが、訴外D宅ではわずか一例ながら
輸送機(YS―11)飛来時にピーク騒音レベルdB(A)で屋外値81、屋内値52
が計測されており、屋内外のレベル差29を記録している(被告測定値。原告
らの測定値もこれに近いレベル差である。)。原告A34宅では、屋内の防音室
2室での各測定時に外部及び内部の開口部すべてが密閉されていたわけで
ないこともあって、屋内外のピーク騒音レベルdB(A)値レベル差は20未満にと
どまることが多かったものの、原告らの測定値をみる限り、防音室によっては
上述した条件の下でも20以上のレベル差に達することが皆無でなく、その中
には25以上のレベル差が記録されたものもあった(原告A34自身も、計数上
20デシベル程度の防音効果があることは本人尋問の際に肯定している。)。
なお、同じく検証を行った原告A33宅は新家屋への建替時に旧家屋の防
音設備を同原告自ら再利用したものであり、被告の施工基準に基づく防音仕
様ではない(同原告本人尋問の結果)ものの、被告の測定値では、F―15イ
ーグル機10機が離陸した際の屋内ピーク騒音レベルdB(A)値はいずれも70
以下にとどまり、屋内外で20前後のレベル差が認められた。
 3 音源対策について
乙第23号証、同第34号証、証人Bの証言及び弁論の全趣旨によれば、被告
は、軍用機にあっては民間機と異なり、ジェット戦闘機としての性能を保持しつつそ
の飛行騒音自体の低減を図るエンジン改修等の方策は現在の技術水準をもってし
ても期し難いとの認識に立ち、本件飛行場における音源対策としては、飛行場内で
のエンジンの整備や調整に伴う地上音の低減を図るために、消音装置(サイレン
サー。F―15J用、F―4EJ用各1台。その性能は500メートル離れた地点で70
dB(A)以下とされる。)を設置しているほか、(昭和51年のファントム機配備に向け
た当時の諸施策の一環として)本件飛行場の周囲の一部に高さ5メートルの防音
堤及び高さ3ないし5メートルの防音壁を築造しただけで、その余の方策は何ら講
じていないことが認められる。
4 運航対策等について
以下に掲記する各証拠に、乙第27号証の1ないし3、証人Bの証言及び弁論の
全趣旨を総合すると、被告は、音源対策に準ずるものとして、次のような運航対策
等を基地司令の通達(騒音自主規制要領。乙第27号証の1)により定めて、これを
次のとおり実施していること、こうした運航対策は、昭和49年ころから第6航空団
内部の自主規制として定められるようになり、近年に至るまで各種規定の整備、拡
充が図られてきていること、なお、これら自主規制は、「対領空侵犯措置任務時」や
「上級部隊計画による演習時」等を除いて適用すべきものとされており、基本的に
通常の訓練時を念頭に置いたものと解されることが認められる。
(1) 訓練時間帯の制限
ア 夜間及び早朝の時間帯における訓練の制限
現行の自主規制要領では、4月1日から4月30日までは午後9時過ぎ以
降、5月1日から8月12日までは午後9時30分過ぎ以降、その余の期間は午
後8時過ぎ以降、いずれも翌朝午前7時前までの夜間及び早朝の時間帯に
は一切訓練を行わないこととしている。
イ 昼休みの時間帯における訓練の制限
現行の自主規制要領は、正午から午後1時までの昼休み時間帯における
訓練について、着陸を行うのは気象の急変や訓練、要務の都合等で必要な
場合に限り、離陸、ローアプローチ及びタッチアンドゴー訓練を行うのはやむ
を得ない場合に限ることとし、飛行場周辺への各種進入訓練は一切行わない
としている。
 ウ 各規制の遵守状況
前記第2の1で検討したところによれば、夜間・早朝及び昼休み時間帯の
自衛隊機の離着陸は顕著に少なく、上記各規制はほぼ遵守されていると認め
られるけれども、年間を通じてみると、夜間・早朝や昼休み時間帯に自衛隊機
の離着陸のあった日が相当日数認められ、上記規制ひいては前記10・4協
定の定めはいまだ十全に履践されているわけではないといわなければならな
い。
(2) 飛行方式の規制
ア 標準場周経路の工夫(中島方式)
本件飛行場では、小松基地司令の定める小松飛行場運用規則(乙第27
号証の2)が、有視界方式で離着陸をする際に住宅密集地上空を飛行するこ
とをできる限り避けるための工夫がされた標準場周経路を定めているが、こ
の飛行経路は、それが実質的に設定された昭和49年当時の基地司令の名
を取って中島方式に基づく飛行コース(中島コース)と呼ばれている(乙第48
号証)。
中島方式は、現行の自主規制要領にも盛り込まれており、同要領の中で離
陸時の飛行経路につき離陸後は可能な限り人家を避けて海側に離脱するこ
ととしている点と、着陸時の飛行方式につきイニシャルポイントからの着陸進
入経路を滑走路より海側の北陸自動車道沿いに設定することとしている点
が、その趣旨を示している。
被告は、第6航空団に属する航空機操縦者らに対し、中島方式に基づく飛
行経路をなるべく遵守するよう周知徹底を図っているとするが、これに対し、
原告らは、実際には中島方式の遵守率は低い旨強く主張しており、これを裏
付けるべく、先にみた原告団及び原告弁護団による騒音調査に際し、実際に
飛来する航空機の飛行経路を観測し、それが計器飛行コース、中島コース又
は両者の中間に想定した「ニセ中島コース」のいずれに当たるかを分類、整理
する調査を続けている。調査日ごとの集計結果は前出各報告書(甲E第44、
45、49号証等)にまとめられており、今次調査結果においても、調査日全体
を集計すると、丸の内定点からみた飛行経路としては、中島コースの飛行機
数は全体の3割に満たず、「ニセ中島コース」の飛行機数がこれを上回るとさ
れている。
上記各調査結果は、中島コースに分類される飛行経路が被告の定めた標
準場周経路に厳密に沿うものであるかが必ずしも定かでない上、調査の方法
も目印を定めての目視によるものであるなど、その信頼性に疑問の余地がな
いわけではないが、本件訴訟において丸の内定点で検証を行った際にも、原
告らの説明に沿う3通りの飛行経路でジェット戦闘機(イーグル機)が飛来す
る状況が確認されていること、また、被告も、「ニセ中島コース」なる飛行経路
が定型的に存在することについてはこれを強く否定するものの、気象条件等
により実際の飛行経路にある程度のぶれが生ずること自体は否定していない
こと等をも併せ考えると、中島方式に基づく被告の自主規制には自ずから一
定の限界があるといわざるを得ず、上述した原告らの調査結果は、そのことを
裏付けるに十分なものと評価するのが相当である。
イ その他の規制
現行の自主規制要領では、飛行方式に関し、上述したほか、小松市街地
方面への配慮として、滑走路北東方向への離陸時には編隊離陸を行わない
こと、安宅地区方面への配慮として、タッチアンドゴー訓練の際には安宅地区
上空を飛行することとなる短場周経路での旋回飛行を行わないことが定めら
れ、概ね遵守されてきている。
(3) 各種行事に伴う制限
現行の自主規制要領は、本件「飛行場の近傍において高校入学試験及び各
種の催し等実施のため関係機関等からの特別の要望があり、航空機の騒音に
ついて一層の配慮が必要な場合」には、更に訓練の実施を制限することとし、飛
行場周辺全域が騒音規制が必要となる場合には原則として飛行訓練を実施し
ないこととするとともに、飛行場周辺の一部地域がその対象となる場合における
追加規制の要領を具体的に定めているが、十分に履践されていると確認し得る
証拠はない。
(4) 航空機エンジンの試運転に関する規制
航空機エンジンの調整・整備等に伴う試運転による地上音に関しては、前述
したとおりサイレンサーを設置するなどの対策が講じられているほか、現行の自
主規制要領では、原則として午後10時から午前7時までは行わないこととし、昼
休み時間帯や高校入試期間中にはサイレンサーでの試運転のみとするとの規
制が定められ、概ね遵守されてきている(但し、それでもなお前記10・4協定の
定めに十分適うものとはいえない。)。
第4 原告らの被害状況
 1 航空機騒音の特質
甲D第2、第3号証、甲E第74号証の1、2、検証の結果及び弁論の全趣旨によ
れば、次のとおり認められる。
航空機騒音の特質としては、音響出力・音量が大きく、騒音の及ぶ範囲が広大
であり、建物や建造物等によっては遮音、回避が困難であること、騒音の発生が間
欠的で、1機1回の飛行による騒音の持続時間は長くはないこと、殊にジェット機の
場合、高周波成分を含む金属的な音質であることが挙げられる。また、本訴請求
の原因となっている騒音は、ジェット戦闘機の離着陸時の騒音が中心であるが、そ
の騒音は、民間機より音の立ち上がりが鋭く、突発的に襲来し、通常のジェット機よ
り一層不快な金属音・衝撃音を伴っている。
 2 被害立証の概要
(1) 原告らの訴え等
原告らの被害の実情に関しては、第3次訴訟原告ら合計12名、すなわち85
コンター居住者では計7名、80コンター居住者では計2名、75コンター居住者で
は計2名(ただし、うち1名は提訴後コンター外に転出している。)、コンター外居
住者では1名の各本人尋問の結果並びにそのうち一部の者については尋問に
先立って提出された各人作成の陳述書(甲C第1号証、甲E第66ないし70号
証)が存するほか、定型用紙に被害の実情等を記載した多数の原告ら作成の陳
述書(第3次訴訟原告ら作成に係るものは甲A各号証、第4次訴訟原告ら作成
に係るものは甲B各号証)が概ね同居家族ごとに1通ずつ提出されている(ただ
し、後述するとおり未提出の者も少なくない。)。このうち甲A、甲B各号証として
提出された各陳述書(以下これらを指して単に「陳述書」という。)の具体的内容
の要旨は、別表2「住宅防音工事及び陳述書要旨一覧」中の「被害の訴え(陳述
書要旨)」欄にそれぞれ記載したとおりであり、作成者の内訳をコンター別にみる
と、80コンター居住者(既に転居した者を含む。以下同じ。)からは計200通を
超える最も多くの陳述書が、また、85コンター居住者からも計100通を超える陳
述書が、75コンター居住者からも計90通を超える陳述書がそれぞれ提出され
ている(他方、90コンター居住者では1通のみ、コンター外居住者からも計10通
足らずの提出があったにすぎない。)。
これら数多くの証拠から原告らの訴える被害の実情に関して特徴的な点を整
理すると、概ね以下のとおりである。
ア 騒音暴露の実態(騒音の激甚さとそれによる精神的被害・苦痛)
原告らから提出された陳述書の多くは、後述するように定型的な表現を用
いた記述が目立つものの、その中には、以下のとおりジェット戦闘機の飛行実
態やそれに伴う騒音の特質、さらに、激甚な騒音がもたらす種々の精神的被
害・苦痛等について、日常的にそれを体験している者にしか語り得ない迫真
性のある叙述をしたものも少なくない。
(ア) 日常的な騒音暴露の激しさ等
まず、各人の居住地における日常的な騒音暴露の実態や騒音のうるさ
さ、激しさ等に関する具体的な訴えを挙げれば枚挙にいとまがないほどで
あるが、代表的なものは以下のとおりである。
「上空通過時の爆音は当然耐え難いものであるが、我が家の場合地上
音にも悩まされている。暖気運転と思われるエンジン音が家に共鳴し振動
を起こす(85コンター)。」「戦闘機の騒音は抜き打ちで次から次へといつ鳴
り止むか分からず、またもう一機来るんじゃないかという不安感が続く(85
コンター)。」「天気の良い日に外で洗濯物を干しているときにジェット機の音
がすると我慢できず両手で耳をふさぐ。上を見ていると次々と続けざまに5
機、6機とジェット機が自分に迫ってくるようで、とても不安になる(90コンタ
ー)。」「飛行コースの真下に家があり、基地からの距離は多少あるが、騒
音は最大級である。離着陸時に大きく旋回するようになっており、また編隊
での着陸等により騒音の継続時間も長い(80コンター)。」「自衛隊機は編
隊で来るので本当にやかましい。春になり天気が良くなると毎日やかましく
なるので大変である(80コンター)。」「飛行中の衝撃波で障子やガラス戸
がガタガタと振動し、地震かと思ったことがある(85コンター)。」「我が家の
方に離陸上昇する時は地中からわき上がるようなごう音がしてくる。後尾を
こちらに向けた時は乾いたような爆音で家中が振動する(85コンター)。」
「発進上昇時のあの爆音はこの地域に住んでいる者でないと分かってもら
えないと思う。腹の底まで響く。2機ごとに3、4回続けて飛ぶ時はまるで生
き地獄である(85コンター)。」「さわやかな日に窓を開けていると、ジェット
機が編隊を組んで10分も20分も飛ぶときがあり、やむを得ず窓を閉めた
ことが何回もある(85コンター)。」「ジェット戦闘機が小松基地を北方向に
離陸し急上昇していく時の爆音は特に強烈であり、騒音などというものでな
く、強烈な圧力が瞬間にぐわっと住居の中に押し込んでくる。3機、4機と間
隔を置いて繰り返されると家中のすべてが中断されてしまう(75コンタ
ー)。」「ジェット機は我が家の真上を低空飛行する。近づくにつれゴーという
音がだんだん大きくなり、最高潮の時は部屋の壁や窓がびりびりと振動し、
まるで地震のようである(85コンター)。」「突然ゴーというジェット機の爆音
と空気を揺るがす振動で家具や建具が悲鳴を上げる。テレビも話し声も聞
こえなくなる。日曜祭日以外は大体このようなものである(80コンター)。」
「長男の嫁はドーンという地響きのような地震のような音に悲鳴を上げてい
た。身重なのに驚きや不安で流産のおそれが出てきたのでしばらく実家に
帰らせた(80コンター)。」「我が家はジェット機がちょうど屋根の真上辺りを
通るので地響きがする(80コンター)。」「飛行音は五臓六腑を揺るがす感
じがし、エンジンを吹かす音も非常にうるさい(80コンター)。」「ジェット機が
飛ぶときの金属音がたまらなく嫌で、時々どうしようもなく悲しくなることがあ
る(80コンター)。」「爆音は頭の芯にまでズーンとくる。精神的にも何かに
圧迫されるような感じがする(80コンター)。」「音の大小よりもキーンという
金属音の音質にイライラしてしまう。神経にひびく(80コンター)。」「旅客機
と違いキーンとかヴォーなどという腹まで響く音がうるさくてイライラする。ま
た、早朝のエンジン調整音は戸が震えるほどの振動で、一度体験するとひ
どさがよく分かる。自衛隊の人は来てみるとよい(75コンター)。」「キーンと
いう旋盤で削るような音には耳が痛くなる。複数で飛行しているときは特に
ひどく、何かに圧迫されるような気持ちになる。また、突然ドカーンと音がし
て家及び窓ガラスがガタガタと響くと、何事が起こったのかと思い、心臓がド
キドキする(75コンター)。」「爆音が近いと耳をつんざく音がして馬鹿野郎と
怒鳴りたくなる。爆音が遠くても地震のように家が揺れ、本当に地震じゃな
いかと思うことがあり、心臓に悪い(80コンター)。」「私の町は着陸態勢の
コースにあり、低空で飛ぶので爆音がものすごくひどい(80コンター)。」「ジ
ェット機の爆音が一番ひどい時は耳に手をやっても心臓が締め付けられる
ような感じがし、腹の中もガタガタと揺さぶられるようで何かに圧迫されるよ
うな気持ちになる(80コンター)。」「私の住んでいる所はちょうどジェット機
が着陸に入ろうとする地点だと思うが、かなりの爆音と低空飛行で通過して
いく。石でも投げたら当たりそうなくらいに低く飛ぶ(75コンター)。」「被害の
実情は離陸時が特にひどく、テレビやラジオはもちろんのこと会話の声もほ
とんど聞こえず、家族の団らんが途絶え、イライラする毎日である(80コン
ター)。」「静かな朝を迎え、朝の連続テレビ小説を見ている時間にあのキー
ンというごう音に音声が消され、イライラする。ジェット機が飛ばない時は誠
に静かな環境である。飛ぶのは止めて欲しい(75コンター)。」「朝8時から
遅い時には夜8時頃まで飛ぶことがあり、連続して飛んだり編成して飛んだ
りすると騒音のひどさにイライラし、怒りも出てきてつい空をにらんでしまう
(75コンター)。」「ジェット機が飛び去る時の音は、ごう音というか爆音とい
うか何とも形容し難い音である。過ぎ去ったかなと思うと次が来る。次々と
飛来する。2機、3機編隊の時は背筋が寒くなる(75コンター)。」「ジェット
機の音は民間機のそれと違い金属音に近い音質で、イライラする(75コン
ター)。」「寺井町では、離着陸のキーンというすさまじい金属音はないが、
編隊で上空を通過した時にはすさまじい音がある(75コンター)。」「自宅が
ジェット戦闘機の発着コースのほぼ真下にあるため,屋外に居るときに発
進飛行があると両手で耳をふさがずには我慢ができない(80コンター)。」
「住所地は小松基地を発進したジェット機が海に向かってカーブを切り方向
を転換する所なので、エンジン音がより大きくなって聞こえる(80コンタ
ー)。」
(イ) 恐怖感・不安感
 精神的被害・苦痛の一態様として、ジェット戦闘機飛来時の恐怖感や不
安感について具体的に触れたものも次のとおり少なくない。
「外で洗濯物を干していた時突然低空飛行のものすごい音がしてとても
恐い思いをした(75コンター)。」「家が計器飛行コースのすぐ近くにあり、夕
方や夜間に着陸灯をつけて着陸コースに入ってくる時ずっと向こうの方から
真っ直ぐ家の方へ向かってくるのが見えるため、もしかするとそのまま家に
突っ込んでくるのでは、という不安がいつもある(80コンター)。」「早朝や夜
にジェット機が飛んでいくと何か良くないことが起こったのかという不安と恐
怖に襲われ、安眠できなくなる(80コンター)。」「夜8時過ぎに次々と基地に
戻ってくる戦闘機のごう音とライトで3歳の頃空襲警報で避難した時の恐さ
がよみがえる(75コンター)。」「頻繁にジェット機が飛ぶと一体何があるの
だろうと不安になる。夜中にスクランブルがあると、もしや戦闘が始まるので
は、とまで考えてしまう(85コンター)。」「私の家はジェット機の離着陸コー
スの下なので離着陸の際もし事故で墜落でもしたら自分の家、自分の命は
もう助からないだろうと思い、ぞっとしてしまう。」「犬の散歩をしている時に
ジェット機が真上を何機も飛んでいくと、ものすごい爆音で思わずしゃがん
でしまうほどの恐怖を感じる。」「ガーッとものすごい爆音をたてて家の屋根
の真上を飛ぶ音を聞くと、落ちてきたらひとたまりもないなと心配になる(85
コンター)。」「私の家の上空をジェット機が通過していくとき墜落したら一体
どういうことになるのかと思うと、大惨事間違いなしであり、いつもいたたま
れない気持ちになる(85コンター)。」「洗濯物を干している時パイロットの顔
が見えるほど低く飛んでいくのを見ると、あのまま落ちてきそうでゾッとする
(85コンター)。」
 (ウ) 夜間訓練等
 次に、精神的苦痛を特に感じる時間帯をみると、以下のとおり夕食時 を
中心とした夜間訓練の時間帯に関する具体的な訴えが目立って多い。
「夏の暑いとき、まして夕方6時ころガーッと爆音をたてていると腹が立つ
(80コンター)。」「夕食時に飛行されると食欲がなくなり、気分が悪くなる。」
「朝夕の食事をしているときに飛ばれると特にやかましく感じる(80コンタ
ー)。」「夕食時に飛んでいることがあるので非常に不快な気持ちになる。」
「昼はともかく夕飯をみんなで楽しく食べている時にものすごい爆音がする
と本当に腹が立って仕方がない。」「晩8時頃静かに眠れると思っていると
また飛行機が連続で来ていやになる。戦場にいるようなものだ(85コンタ
ー)。」「夜間練習の時は夜遅くまでやかましく、イライラして家にいるのがつ
らくなり、他の場所へ行って一時を過ごすこともある(85コンター)。」「夜間
訓練などで夕食時に連続して飛ばれると食事がのどを通らなくなる(80コン
ター)。」「夕食時など一家団らんの時によく飛ぶ。非常にうるさい(80コンタ
ー)。」「特に夕方(夕食時)の爆音がひどい。食欲がなくなる(80コンタ
ー)。」「夜間訓練はちょうど団らんの時間であり、楽しく食事などをしている
時の爆音は団らんの妨げになる。」「夕食を食べている時によく飛ぶが嫌に
なる。食事中くらいは飛んで欲しくない(80コンター)。」「日が暮れても訓練
をやめないためイライラして何度も基地へ電話しようとしたが結局泣き寝入
りしている(85コンター)。」「勤務を終え疲れて帰宅し、夕食の準備を済ま
せほっとして一家団らんの夕食をとっているときに突然大きな爆音に見舞
われることがしばしばあり、非常に腹立たしい(80コンター)。」「夕方一家
団らんで楽しく食事をしているときジェット機の音で会話が中断しテレビの音
も消されてしまうと、今頃何故?とイライラする。回数は多くないが、家族の
大事な時間を邪魔しないで欲しい。」「夕方の4時頃や6時半頃などは特に
うるさい。夕方のニュースの時間にテレビの音が聞き取れなくなる(80コン
ター)。」「1日の仕事が終わって夕食後部屋でくつろごうとしてもジェット機
の音がうるさく、イライラしてくつろげない(75コンター)。」「夕方や夜8時頃
まで訓練などが実施される場合は大変で、ゆっくりと体を休めることが困難
である(80コンター)。」「私たちの住んでいる所は飛行コースの上昇部に当
たり、特に夕方以降の夜間訓練には我慢ができない(75コンター)。」「夕食
時に決まってジェット機が爆音をたてて我が家の真上を飛んでいき、テレビ
の音声はもちろんのこと家族の会話も聞こえず、家族団らんの雰囲気が壊
されている(85コンター)。」「夕方の一番大切な家庭のコミュニケーション時
に飛ばれると家庭不和の大きな原因になってしまう(85コンター)。」
(エ) 季節
 また、季節でいえば、「エアコンがなく、夏は開けっ放しなので爆音がうる
さい(80コンター)」、「爆音によるイライラは常であり、夏場がひどい。子供は
2歳前後の頃ほとんど毎日昼は親戚の家に避難していた(80コンター)」、「特
に夏場窓を開けているときなど、家でテレビを見ていても音声が全然聞こえな
くなるほどでイライラする(80コンター)」、「真夏に夕食の用意をしているとき
ジェット機のすごい音がするとイライラして食事の支度ができない(80コンタ
ー)」、「戸を開け ている夏の夜などは特にひどい。テレビの音はかき消され
るし、家族の会話もままならない」など、特に夏場のうるささに苦痛を感じると
する訴えが見受けられる。
(オ) 体調不良時
 以上のほか、「体調が悪くて家で休んでいたら日頃以上に爆音がうる さ
かった」との定型的な表現で体調不良時には特にうるささが苦痛とな る旨訴
える者も多く、その中には、例えば、「妻は妊娠中つわりで爆音 に耐えられ
ず、イライラしたり頭痛がしたり精神的に気が滅入ることが 多かった(85コン
ター)」などの具体的な叙述もみられる。
 (カ) 航空祭、演習及び日米共同訓練について
 ところで、原告らの陳述書の中には、以上のような通常の訓練等で日頃
から体験する騒音暴露被害のほかにも、航空祭 や演習、日米共同訓練 等
が実施される特別の日には更に大きな精神的苦痛を受けているとして、これ
らの実態について  具体的に触れたものも以下のとおり少なくない。
 特に航空祭に関しては、「航空ショーの練習飛行の爆音はすさまじく、苦
痛で苦痛で仕方がない」、「普段でもうるさくてたまらないのに航空祭がある
と輪をかけて被害がすごく、言葉にできない(80コンター)」、「航空祭が近
づくと、朝の7時からうるさくて仕方がない(80コンター)」、「航空祭の前日
などは何度も家の上を飛ばれる。気持ちが落ち着かない(75コンター)」、
「航空祭の時は非常に低空かつ高速で飛行練習があり、その並外れた今
にも飛び込んでくるような激しい爆音に心臓が締め付けられるようになり、
激しく動悸がする(80コンター)」、「航空祭の1週間位前から低空飛行や編
隊飛行で住民が被害を受けている。大変迷惑である」、「航空祭のブルーイ
ンパルスの練習時は我が物顔に通常の飛行コースを大きく外れ、我が家
の上空よりも更に市役所寄りを飛行し、まるで暴走族のように大きな爆音を
響かせて飛び去っていく。その時の接近音は心臓に負担をかけ、恐怖心を
あおる」、「航空祭が近くなると特にうるさくて、すごく低く飛んでいるような気
がする(80コンター)」、「飛行機ショーの時は特にうるさい。地元の迷惑を
考えて欲しい(85コンター)」、「航空祭の時はうるさくて家に居られる状態で
ない(85コンター)」、「航空ショー当日までの練習時の騒音はひどいもので
あり、通常の倍近く感じられる。地域住民としては毎年その日が来るたびに
憤りを感じる(80コンター)」といった深刻な訴えが多数みられるところであ
り、また、演習や日米共同訓練に関しても、実際に演習のあった「平成9年
9月13日から10月6日にかけては連続するごう音で家に居られない状態
が続いた(80コンター)」とする具体的な訴えのほか、「演習がある時は特
に飛行数がものすごく、日々イライラする」、「日米合同訓練の夜間飛行は
今までの海上への航路を外れて市街地の上空を通過するが、その時の不
安と騒音は従来の倍以上で、私たちはただただ耐えている(80コンタ
ー)」、「日米合同訓練など特別な訓練の時は、早朝や夜になっても爆音が
まき散らされ、テレビの映りが悪くなったり家族の会話が中断したりする。時
として吐き気を感じることもある(75コンター)」など、数は少ないながらもや
はり被害の深刻さをうかがわせる叙述が見受けられる。
 (キ) 乳幼児ら
 原告らの中には現在も乳幼児期にある者や最近までかかる時期にあった
者が少なからず含まれており、以下のとおり、  原告らの陳述書の中に は
同居の家族であるこれら年少者がジェット戦闘機の飛来時に味わう恐 怖感
について具体的に  触れたものが相当数見受けられる。
 「子供はとにかく怖がり、ひどいときは親にしがみつき泣き続けている(80
コンター)。」「子供が昼寝中びっくりして起きてしまいなかなか寝付いてくれ
ない。外で遊んでいる時はびっくりして泣き出し、家の中に閉じこもってしま
う(80コンター)。」「二人の子供がいるが、長女は恐い、恐いと泣きじゃくる
(85コンター)。」「子供が乳児の時はジェット機の音で突然泣き出したり、
昼寝の最中泣きながら飛び起きてしまったり、散歩に出た時に驚いてしが
みつき、帰ると言い出したりしたこともしばしばあった(85コンター)。」「長男
はジェット機が飛ぶとミルクを飲まなくなり、苦労した。歩けるようになってか
らもジェット機が飛ぶたびに恐い、恐いと親にしがみついたり泣いたりする
ようになった。いまだにジェット機が飛ぶと耳をふさいでこわがる。」「子ども
たち3人とも小さい頃は外で遊んでいる時に飛行機が飛んでくると泣きなが
らしがみついてきた(85コンター)。」「子供が外で遊んでいてもジェット機が
来ると耳をふさいで泣き出したり、家へ駆け込んで外へ出ないことがしばし
ばある(80コンター)。」「子供は生まれた時からジェット機の音がすると全
身をビクッとさせて泣き出した。今でも耳を押さえて親の所へ飛んできたり、
その場にしゃがみ込んでおびえる。」「孫が幼児の頃は飛び上がって親にし
がみついた。家の中を走って逃げたり、こわいと言ってよく泣いた(80コンタ
ー)。」「子供が0歳から2歳の頃はジェット機が家の上空を通ると爆音の激
しさに震え、飛び上がって親に抱きついた(75コンター)。」「孫は、楽しく遊
んでいても爆音を怖がりしがみついて泣き出し、聞こえなくなるまで泣くので
困った。乳児の頃は寝ていてもびっくりして泣き出す毎日だった(80コンタ
ー)。」「孫は日中遊んでいる時に爆音が聞こえると怖がってしがみつき、そ
ばから離れない(75コンター)。」「現在3歳の長男は、1歳頃からジェット機
が飛んでくると身動きができないほど怖がって泣き出し、親にしがみつく状
態が続いている。」
 (ク) 高齢者
 他方、各人の居住地で老後を過ごす者など高齢者にとっても騒音被害 
は切実であるとする次のような訴えも目を引く。
 「退職して24時間家にいるようになり、耳鳴りがするようになった。毎日家
に居ると騒音は耐えられない(85コンター)」「母はジェット機が多く飛んだ
日はイライラするようで、夜機嫌が悪い時が多い。老人にとってあの爆音は
頭や心臓に良くないと思う。」「定年になって以前より家にいる時間が多くな
り、こんなにジェット機の爆音がうるさいものかと驚いている(85コンタ
ー)。」「スクランブルを組み飛び立つ爆音の何とも言いようのない響きは、
我ら年老いた者には頭に強く感じる(80コンター)。」「私も定年になり、また
独り住まいとなってジェット機騒音がこれほどすごいのかと思い知らされ
た。ジェット機が家の上空を通る時は電話、テレビ、人との会話など聞こえ
るものではなく、イライラが治まるまでに2、3時間かかる。専業主婦として1
日中家に居た亡き妻の苦痛が今になってやっと分かってきた(80コンタ
ー)。」「明治42年生まれの母は、ジェット機の爆音を異常なほど嫌がるの
で、今は老人ホームに入っている。」「亡母が5年間闘病生活を送ったが、う
るさい時は目をつぶって非常にこわがり、看病する者も大変だった(80コン
ター)。」
イ 日常生活妨害
原告らが各人の居住地において日常生活を営む上でジェット戦闘機等の
飛行騒音が種々の不都合をもたらしていることは、前記各原告本人尋問の結
果にもよく現れているところであるが、原告ら作成の陳述書もこの点について
具体的に触れたものがきわめて多い。
最も典型的な訴えは、会話の妨害、電話による通話の妨害及びテレビ、ラ
ジオ等の視聴妨害の三つであり、会話の妨害は、「一家団らんで楽しく食事を
している時に突然の爆音で会話が中断し、食事もまずくなり、団らんの雰囲気
が壊される」という表現で、電話による通話の妨害は、「電話の向こうの声が
聞こえなくなり、電話を中断して待っているしか方法がない」という表現で、テ
レビの視聴妨害は、「テレビの音声が聞こえなくなる。見たい番組の時は本当
にイライラし腹が立つ」という表現で定型的にこれを記載したものがきわめて
多数に上っている(なお、テレビの視聴妨害に関しては、直接的な音声聴取の
妨害だけでなく画像の乱れを伴うことを指摘する者も少なくない。)。その中で
も、例えば「騒音による日常生活の様々な障害は慢性化しているように思わ
れる。会話の中断や電話、テレビの音が聞こえにくいなど日常茶飯事であっ
て、いつの間にかそれが当然のこととなっているのが恐ろしい(85コンター)」
という述懐には、これらの被害が騒音暴露地域の住民にとっていかに恒常的
なものとなっているかが端的に示されている。
また、このうち会話妨害に関しては、「一家団らんでテレビを見ている時や
夕食時に連続して爆音にさらされると、会話が途切れてイライラした気分にな
り、団らんの雰囲気もぶち壊しになる」、「1日の中で唯一子供と触れ合うこと
のできる時間帯に爆音がすると何もかもぶち壊されたような気がする」、「夕食
時に家族で話をしていても突然の爆音で話が中断し、『うるさい、いつまで飛
んでる』の一声で団らんの雰囲気が急変してしまう(80コンター)」など、家族
団らんの破壊という側面を強く訴える者が目立っており、こうした傾向は前記
ア(1)に挙げた多くの訴えの中にも随所に見受けられるところである。
このほか、聴覚に頼る活動ではないものの、日常生活における読書等の知
的な営みに関しても、騒音に気が散り集中力が減退するためこれが阻害され
るとする訴えが多く、「読書が中断され、どこまで読んだか分からなくなる」、
「文章を書いている時に次の言葉が浮かばなくなる」といった定型的な表現が
多くの陳述書に記されている。
なお、以上のような主として屋内における諸活動のほか、戸外における活
動の妨害についても、例えば、「外に出ると我慢できないほどうるさい。耳をふ
さがないで歩けるようになりたい」、「近所の人と立ち話をしている時突然ガー
ッと爆音がすると話は通じなくなり爆音がなくなるのを待つしかない(85コンタ
ー)」、「外で庭仕事をしている時ジェット機の音がやかましくて仕事が中断す
る」、「退社後夕方6時頃自宅近くの畑で農作業をしている時に3、4機の連続
発進飛行があると、その騒音が生理的に我慢できず、両手で耳をふさぎ飛び
去るのを待つことがたびたびある」、「外にいる時ジェット機が低空を次々と飛
んでいくと誰かと話していても中断される(80コンター)」などと具体的に触れ
たものが見受けられる。
ウ 家庭学習妨害
原告らの中には中学生、高校生で近年受験期を迎えた者らが少なからず
含まれており、以下のとおり受験期等に家庭での学習が妨げられたり強いい
らだちを感じたりしたことについて特に触れた陳述書も少なくない。
「娘が受験勉強の時はジェット機が通った後ため息をついており、特にイラ
イラしていた(85コンター)。」「中3の時は受験のことで頭が一杯でストレスも
かなりたまっていたのに、そこへジェット機が飛んできてすごい音がすると頭
痛もし、自分を抑えるのが大変だった(85コンター)。」「子供が受験勉強や宿
題をしている時飛んでくるとかわいそうになってくる(80コンター)」「子供はうる
さくて家で勉強できないと言う(80コンター)。」「子どもたちはうるさくて勉強が
進まないと言っている(80コンター)。」「子供が受験勉強の頃ジェット機の音
が邪魔だとイライラしていたことがあった(75コンター)。」「子供は受験の頃勉
強が手に付かないと言っていた(75コンター)。」「子供が受験の頃勉強に集
中できないと悩んでいた(75コンター)。」「子どもたちが学校の宿題や受験勉
強の時などジェット機の爆音でイライラすることがあり、集中できない。」「子供
が受験勉強の時はジェット機の音がうるさくて勉強に支障を来した。」「子供が
学校の宿題をしている時イライラして考えがまとまらなくなる。受験勉強の時
は特に困った。」
エ 睡眠妨害
飛行騒音による睡眠妨害に関しては、確かに、深夜から早朝にかけての通
常の就寝時間帯における睡眠妨害を訴える者が少なくないが、具体的な訴え
の内容をみると、早朝の睡眠妨害については「早朝の一番眠い時に爆音がす
るともう安眠できない」という表現で、深夜の睡眠妨害については「夜中のスク
ランブルにびっくりして飛び起きたことがある」という表現で、いずれも簡単に
触れたものが大多数であり、この点に関する被害の深刻さを特に強調した具
体的叙述はほとんど見受けられず、前記各原告本人尋問の結果をみても、む
しろ深夜から早朝にかけての騒音発生頻度が近年に至って著しく減少したこ
とを肯定するものが目立っている。ただ、陳述書の中には、例えば「早朝に日
米合同練習で爆音を浴び、安眠を妨げられたことがある」、「早朝の飛行はビ
ックリして目を覚ます。夜中のスクランブルはその日一日中体調が悪い(85コ
ンター)」、「時々だが早朝からのジェット機の音はたまらない(85コンター)」、
「夜中のスクランブルは年に何度もないことであるが、飛び起きる」といった訴
えも存するなど、深夜早朝の被害が依然として皆無でないことは十分にうか
がわれる。
一方で、陳述書の中には、夜勤等で不規則な生活を強いられている者や
朝早く農作業に従事する者らから昼間の睡眠あるいは午睡を妨げられるとい
った訴えがかなり多いのも目を引くところである。「夜勤明けの睡眠が妨害さ
れる」という定型的な表現を用いたものが多いが、3交替制勤務であることや
変則的勤務体制であること、当直勤務があること等を具体的に明示したもの
も少なくない。
オ 身体的な異状ないし不調
原告らの陳述書の中には、難聴、耳鳴り等の聴覚器系の異状をはじめとす
る種々の身体的な異状ないし不調に関する訴えがきわめて多くみられるとこ
ろであるが、以下に述べるとおり、各人の訴えを直接裏付ける診断書等の客
観的な資料が全く存しないこと等からして、これらを医学的な見地から正しく把
握することは困難である。
すなわち、まず、聴覚器系の異状のうち難聴に関しては、「自分では意識し
ていないが、家族や友人から少し耳が遠くなったのではないかと言われる」と
いう程度の定型的な訴えが多いほか、「検査を受けて難聴と言われた」、「検
査の結果高音域に聴力低下が認められた」などとしながらも、当該検査結果
が客観的資料により明らかにされておらず、また、補聴器を用いているとか、
身体障害者の認定を受けたなどとしながらも、具体的な診断病名や症状の程
度、原因等が客観的資料により明らかにされていないなど、騒音性の難聴に
罹患していることを証拠上確認し得る原告は皆無である。耳鳴りに関しても、
「ジーンと耳鳴りがすることがある」という定型的な訴えだけを簡単に記した者
ばかりでなく、騒音暴露の直後に一時的な耳鳴りがすることや近年これが慢
性化していること等を具体的に訴える者も少なくないが、そうした自覚的な異
状が医学的にみて疾患あるいは障害と認めるに足るものかどうか、さらに、そ
れが聴覚機能に及ぼす影響の有無や程度等を判断するには、上述したよう
な訴えのみでは十分でなく、他にこの点の判断資料とすべき客観的な証拠も
ない。
その他、身体諸所の異状ないし不調についても、例えば循環器系に関して
は「医者から少し血圧が高いから気を付けるよう言われた」、「心臓がどきどき
する」、「心臓が締め付けられるような感じのすることがある」、消化器系に関
しては「胃腸があまり丈夫でない」、中枢神経系に関しては「頭痛がすることが
ある」、「めまいがすることがある」、さらに、呼吸器系に関しても「せきがよく出
る」などのように、定型的な訴えを単純に列挙した陳述書が多く、その中には
「高血圧症」、「狭心症」、「胃かいよう」、「メニエル」、「末梢前庭性めまい」、
「ぜん息」等の具体的な病名を記したものもあるが、いずれも裏付けとなる診
断書等は提出されておらず、症状の程度、原因等も明らかでない。また、原告
らの中には「脳腫瘍」、「胃がん」、「肺がん」、「脳内出血」、「脳血栓」等の重病
に罹患したことがうかがわれる者もあるが、これら疾病と騒音暴露被害との関
係についても格別の立証はない。
カ 住宅防音工事の問題点
原告らが作成した陳述書の定型用紙には被害の実情に関する記載箇所の
ほかに住宅防音工事の問題点に関する記載箇所が設けられており、多くの原
告らはそこで防音効果の乏しさを訴えるとともに同工事の抱える種々の問題
点についても具体的に触れている。
原告らの指摘の中で最も目に付くのは、防音建具類の使い勝手の悪さに
関するもの及び防音室内の空調機器使用に伴う経済的負担の重さに関する
ものの二つであり、前者は「戸が重くて開け閉めがしにくい」との表現で、後者
は「電気料が自己負担のためエアコンはなるべく使わないようにしている」との
表現でそれぞれ定型的に記したものが多い。また、室内を密閉することによる
閉そく感や不健康さについて、「一日中戸を閉め切っておくことはできない」、
「ジェット戦闘機の飛行時に窓戸を開けられない。一種の自由束縛である」、
「自然の風を入れられないのは残念である」、「夏は網戸で風を通して身体に
優しい生活をしたいし、エアコンはリウマチの妻には最悪なのだが、サポータ
ーをして痛みを我慢している姿は哀れである」、「騒音がなければ窓を開けて
自然の風を満喫したい」、「せっかく風通しの良い所に住んでいるので春から
秋まで天気の良い日は窓を全開にしている。騒音のため身体に良くないエア
コンを使わなければならないことに納得がいかない」、「夏にエアコンを使うと
電気料が高くつくので、うるさいのを我慢して窓を開けている。自然の風の方
が身体にも良い」などといった実感のこもった訴えが多いのも目を引くところで
ある。
(2) 本件飛行場周辺住民に対する調査結果
以下に掲記する各証拠に、甲E第1ないし4号証、第18号証、証人F、同Gの
各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
ア 第1次訴訟の提起後、第2次訴訟の提起前の昭和55年に金沢医科大学H
教授らが小松市の委託を受けて、W値90以上のコンター、85コンター、80コ
ンターの各地域と非騒音地域の各地域から無作為で各50世帯を選び、世帯
主の妻か主婦を対象としてアンケート調査を行い、その報告書(甲E第5号
証)が出されており、次いで、昭和58年3月の第2次訴訟提起後、同訴訟原
告で医師のI(原告A35)を責任者とする騒音被害医学調査班が組織され、I
医師が中心となって本件飛行場周辺住民を対象としたアンケート調査をはじ
めとする各種の騒音影響調査を行っており、昭和58年から昭和62年までに
実施した調査(第1次調査)の結果をまとめた報告書(甲E第13号証の1ない
し3)が第一審に、平成4年から平成5年までに実施した調査(第2次調査)の
結果をまとめた報告書(甲E第17号証)が控訴審にそれぞれ提出された。
上記Hらのアンケート調査結果では、騒音地域においては、生活妨害、聴
取妨害、睡眠妨害に加えて、耳鳴りや動悸等の身体的影響が非騒音地域に
比べて有意に多いことが示されたとされている。
上記Iらの第1次調査では、昭和59、60年に騒音地域(80コンター)及び
非騒音地域の住民にアンケート調査を実施したところ、騒音地域住民に「イラ
イラして腹立たしい」「ゆっくりとくつろげない」との訴えの回答割合が高率であ
り、THI法(東大ヘルスインデックス法)による健康度調査によると、騒音地域
女性で、多愁訴性、直情径行、心身症傾向等で、同男子で多愁訴性、心身症
傾向、神経症傾向等で頻度が高かったとされたが、その調査報告自体におい
て、「比較した標準集団は比較的若い労働者集団のため、基地周辺で社会構
造が類似する非騒音地域の住民集団との比較が必要であった」としている。
同第1次調査で、昭和61、62年に第1、2次訴訟の原告ら及びその家族1
25名を対象にして、一般健康診断・聴力健診と併せて問診・アンケート調査
等を行ったところ、聴力検査結果では、60歳以下で騒音職歴・耳疾患のない
者において、1耳の6分式法による平均純音聴力損失値(MAA)が20デシベ
ル以上の者が約31%であり、1耳の4000ヘルツの聴力損失値が30デシベ
ル以上のC5Dipのパターンを示す者が約13%で、いずれも非騒音地域のそ
れに比して推計学上有意に高率であった。また、85コンターの住民117名に
ついても同様に聴力検査を行ったところ、60歳以下で騒音職歴・耳疾患のな
い者において、1耳のMAAが20デシベル以上の者が約31%、1耳に30デ
シベル以上のC5Dipを示す者は約22%おり、非騒音地域のそれに比して有
意に高率であったとされている。しかし、上記各聴力検査結果は、その調査報
告自体において、「検査場所・検査機器・検査員等を含め必ずしも研究室内の
ような厳密な条件は満たされず検査精度のうえで様々な問題を持っていた」こ
とが自認されていた。原告家族及び騒音地域住民の健康診断では、頭痛等
の訴えが多く、高血圧罹患率及び血圧平均値は非騒音地域に比較して有意
に高かった。さらに、アンケート調査結果では、難聴又は耳鳴りを訴える者は
約35%おり、そのうち約70%の者に実際に30デシベル以上の聴力損失を
認めたとされ、いらいらするというような神経症状の訴えが多く、THI法による
健康度調査では多愁訴性、心身症傾向が多かったとされたが、この調査は、
調査対象が原告ら及びその家族ということで一定の偏りが生じていた面があ
ったことは否めない。
さらに、同第1次調査で、上記59、60年調査資料に、昭和62年に85コン
ター住民及び非騒音地域住民を対象に行ったTHI法による健康度調査による
資料を併せて、性・年齢を一致させたペア構成により騒音地域と非騒音地域
とを比較検討したところ、騒音地域の方が男女とも多愁訴性、心身症傾向の
項目で有意に多く、女子では情緒不安定の項目も有意に多かったとされた。
次に、上記Iらの第2次調査では、85コンター居住の地区労組合員23名及
び同コンター住民66名と、75コンター居住の地区労組合員297名にアンケ
ート調査をし、対照集団(非騒音地域住民)は上記第1次の昭和59、60年調
査結果を用いて分析検討したところ、騒音地域住民は、両コンターとも、生活
妨害や精神的・心理的訴えとともに、「胸がドキドキする」「頭が痛い」「耳鳴り
がする」「食欲がなくなる」「疲れやすい」等の身体的訴えの回答割合が、非騒
音地域より有意に高く、また騒音地域内では75コンター地域より85コンター
地域の回答割合が高いとの結果を得られた。しかし、この調査は、対照集団
である非騒音地域住民とその構成・調査時期等が異なっているとの欠点が拭
えない面があった。
イ 本件第3、4次訴訟でも、平成10年に新たな騒音影響調査がアンケート形式
で実施され、その調査結果と統計学的な分析の結果が医師F作成の論文(甲
E第50、63号証)等にまとめられている。F医師は、上記アの各調査等では、
主婦層に限定されていたり、無作為でない抽出調査で、地域により回収率に
差がある等の批判があったので、今次調査では、調査対象地区の成人男女
全体の傾向を正確に反映すべく、対象とした地区の全世帯を調査員が戸別訪
問して各世帯から任意に1名ずつ調査票に記入するよう依頼し、後日これを
回収するという方法を採用したとしており、結果として、W値75以上のコンタ
ー内で調査対象とした463世帯から89パーセントに当たる合計412名(内訳
は、85コンター内の小松市上牧町45世帯及び同市天神町55世帯から合計
91名、80コンター内の同市大川町129世帯から119名、75コンター内の同
市長田町130世帯及び同市城北町104世帯から合計202名)の回答を得、
また、コンター外(非騒音地区)で調査対象とした226世帯(内訳は、小松市
埴田町122世帯及び寺井町小杉町104世帯)からも90パーセントに近い合
計203名の回答を得たことで、統計学的な分析検討をするのに十分なデータ
が得られたとしている。
 今次調査での具体的な調査項目は、性別、年齢、職場、居住期間、航空 
機騒音以外の騒音暴露歴の有無、聴力障害に  係る既往症の有無等の背景
事 情のほか、ジェット戦闘機の騒音(うるささ)をどう感じるか、ジェット 戦闘機
騒音の影響をど の程度受けているか、最近1か月間の体調はどうか の3
つに分けられており(甲E第53号証)、これらに対する回答の集計  結果は概
ね次のとおりであったとされている。
 (ア) ジェット戦闘機騒音のうるささについて
 ジェット戦闘機の騒音をうるさく感じますかとの問いに対し、「非常にうるさ
く感じる」又は「かなりうるさく感じる」と答えた者  は、コンター外では20パー
セントに満たないのに対し、75コンターでおよそ70パーセントに上り、80コン
ターで80パーセン トを超え、85コンターでは90パーセント近い。ただ、「非
常にうるさく感じる」と答えた者の割合に限ってみれば、80コンターと 85コン
ターで過半数に届いているのに対し、75コンターでは30パーセント強程度に
とどまっている(コンター外では10パー セントにも満たない。)。
 なお、ジェット戦闘機騒音のうるささに関しては、5年前と比較しての質問
もなされているが、各コンターとも「ほとんど変わらない」と答えた者の割合
が最も多い(ただし、F医師は、前よりうるさく感じるようになったと答えた者
の割合がコンター外と比べてコンター内で高い点に着目している。)。ちな
みに、今次調査では、時間帯別に分けて午前7時以前、午前7時から午後
5時まで、午後5時から午後7時まで、午後7時以降のうるささを順次尋ね
た項目もあるが、この点の調査結果は明らかにされていない。
 (イ) ジェット戦闘機騒音の影響について
 ジェット戦闘機騒音の影響に関する質問項目は15項目(ただし、そのうち
「胸がドキドキする」は、後述する最近1か月間の体調に関する質問項目と
重複しており、ここではそれ以外の14項目をみていく。)に上り、日常生活
への影響から睡眠への影響、精神面への影響、身体的な影響まで多岐に
わたるが、各質問項目について影響が「ひどくある」又は「かなりある」と答
えた者の人数及び割合を集計した結果をみると、コンター外は、すべての
項目で該当者が5パーセント(10名)に満たなかったのに対し、コンター内
では、該当者が10パーセント未満にとどまった項目は少ない(75コンター
では「テレビの画像がゆがむ」、「家が振動する」、「しばらく耳がおかしくな
る」、「胸が苦しくなる」、「頭がボーとする」の5つ、80コンターと85コンター
ではそのうち「胸が苦しくなる」のみである。)。
コンター内で特に該当者が多かった項目としては、第一に「電話が聞き
取りにくい」、「テレビやラジオが聞こえない」、「会話が妨げられる」、「ゆっく
りくつろげない」といった日常生活への影響、続いて「ジェット機の音にドキッ
とする」、「イライラして腹が立つ」といった精神面への影響が挙げられ、そ
の中でも電話とテレビ、ラジオに関しては、75コンターで50パーセント、80
コンターで60パーセント、85コンターで70パーセントを超える該当者が存
在し、会話に関しては、それぞれ約40パーセント、約60パーセント、60パ
ーセント強の該当者が存在する。また、イライラして腹が立つと回答した者
は、それぞれ20パーセント強、40パーセント弱、約60パーセント存在す
る。
これに対し、睡眠への影響を尋ねた項目(「睡眠が妨げられる」)では、該
当者が75コンターで10パーセント台、80コンターと85コンターも20パー
セント台にとどまり、聴覚への影響を尋ねた項目(「しばらく耳がおかしくな
る」)でも、該当者が75コンターで10パーセント未満、80コンターで10パ
ーセント台、85コンターで約20パーセントにとどまるなど、これらの項目に
関しては、顕著な影響を感じている者の数はさほど多くない。
 (ウ) 最近1か月間の体調について
 最近1か月間の体調に関する質問項目は、睡眠の状態、聴覚系の状態 
のほか、全般的な疲労感、肩や腰の状態、食  欲や便通の状態等計15項 
目に上り、ここでもやはり各項目ごとに不具合が「ひどくある」又は 「かなりあ
る」と答えた者の 人数及び割合を集計した結果をみていくと、コンター外で
は、該当者が5パーセント(10名)を超えた項目が「疲れやすい」、 「肩がこ
る」、「腰が痛い」の3つにとどまったのに対し、コンター内では、該当者が5パ
ーセント未満の項目は少なく(75コン  ターと80コンターでは「めまいがす
る」、「胃腸の調子が悪い」の2つ、85コンターではそのうち「胃腸の調子が悪
い」のみで  ある。)、疲れやすさや肩こり、腰痛の3項目は概ね15パーセン
トないし25パーセントで、それ以外にも「寝つきが悪い」、   「寝ている途中
で目を覚ます」といった睡眠の状態に関する項目と「耳鳴りがする」、「耳が遠
くなった」という聴覚系の状態に 関する項目で各コンターとも該当者が10パ
ーセントを超えたが、いずれも20パーセント未満であった。その他は、「便秘
が  ちである」を除き概ね5パーセントないし10パーセントであった。
ただし、こうした身体面ないし健康面の不具合は、先に(ア)、(イ)でみたジェ
ット戦闘機騒音のうるささの感じ方や日常生活への影響、精神面への影響
と比べると、その存在を肯定した者の割合がコンター内でもさほど高いわけ
でなく、また、コンター区分との対応関係をみても、該当者の多寡がコンタ
ー(W値)の高低と一部逆転していたり(「寝つきが悪い」、「耳鳴りがする」、
「耳が遠くなった」、「腰が痛い」)、あるいは該当者の比率が75コンターか
ら85コンターまでほぼ横ばいであったりする(「イライラする」、「めまいがす
る」、「胃腸の調子が悪い」、「食欲がない」)項目が約半数存在する。
 3 騒音暴露地域居住原告の被害
(1) 共通被害
前記1に判示した航空機騒音の特質及び前記第2に判示した本件飛行場に
おける侵害行為・騒音暴露の客観的状況に照らすと、本件飛行場周辺の騒音
暴露地域に居住する住民は、あまねく自衛隊機・米軍機騒音の暴露を免れない
のであり、その結果、その騒音暴露に起因し、かつ、騒音暴露の程度に応じて、
年齢・身体条件・職業・生活環境・生活形態等のいかんを問わず、後に判示する
ような一定種類の日常生活利益について少なくとも一定範囲においてひとしくそ
の享受を妨げられ、かつ、少なくとも一定範囲における精神的被害をひとしく受
け、その意味で人格権侵害による被害を共通に受けるものであることが容易に
推認されるところである。
したがって、騒音暴露地域の居住者である原告らにおいて、かかる類型の法
的利益侵害に関して、共通被害を主張し、その限度で損害賠償を請求する場合
には、原告ら各自が受けている被害を個別具体的に主張立証するまでもなく、
上記の趣旨での共通被害の内容・程度を主張し、その被害を各原告が共通に
被っていることにつき確信を得られる程度に一般的・代表的な立証をすることを
もって足りるものというべきであり、このことは、大阪国際空港公害訴訟における
最高裁判所の判決(最高裁判所昭和51年(オ)第395号・同56年12月16日
大法廷判決・民集35巻10号1369頁)以来、航空機騒音に係る数多くの訴訟
において確立されているところであるというべきである。
原告らが本訴損害賠償請求の根拠とする被害も、後に4以下において検討す
る各主張を除けば、上記趣旨の共通被害を主張しているものと理解される。
(2) 平穏な生活の妨害及び精神的被害
ア そこで、上記の観点から検討するに、前記2に掲記した各証拠資料から認め
られる被害の実情に、前記第2において実証的 なデータに基づき検討 した侵
害行為の客観的状況等を総合勘案すると、原告らの多くが訴えているように、本
件飛行場周辺 の騒音暴露地域に居住する住民は、ジェット戦闘機をはじめと
する自衛隊機及び米軍機が本件飛行場を使用して離着陸、飛  行等すること
に伴い、それがもたらす前記のような騒音のうるささ、激しさのために、日常生活
の種々の活動、すなわち、原告ら の訴えにあるとおり、会話、電話による通話、
テレビ・ラジオ等の視聴、読書等の知的営み、家庭学習、休息等の日常生活の
  様々な活動を妨害され、皆一様に多大な精神的苦痛を受けているものと認
められ、かつ、それが最も顕著なのは、各人・各家 庭での休息・団らんの時間
帯、通常の家庭にあっては夕刻午後5時ころ以降9時ころまでの時間帯におけ
る日常生活活動の  妨害であることが推認される。通常の時間帯には休息・団
らんを取らない(あるいは取れない)生活サイクルの者にあっても、先 に認定し
た自衛隊機離着陸・騒音発生等の状況に照らすと、本件飛行場周辺の騒音暴
露地域に居住している限り、それぞれ の生活サイクルの中で上記のような日常
生活の種々の活動が妨害され、多大な精神的苦痛を受け、それが最も顕著な
のは各 人にとって休息・団らんすべき時間帯における日常生活活動の妨害で
あることに変わりはないものと認めるのが相当である。
イ 加えて、前記被害の実情に、侵害行為の客観的状況及び戦闘機騒音の特
質を総合すると、本件飛行場周辺の騒音暴露地 域に居住している住民は、原
告らの多くが訴えているように、上記のような日常生活活動を妨げられる場面で
あると否とを問  わず、皆一様に、自衛隊機・米軍機の騒音によって不快感・圧
迫感・恐怖感・不安感等を覚え、イライラする、怒りっぽくなる等 の精神的・情緒
的被害を受けているものと認められる。
ウ しかして、本件にあっては、上記ア、イに判示した平穏な日常生活の妨害と
これによる精神的苦痛及び精神的・情緒的被害  の総体が、老若男女を問わ
ず騒音暴露地域住民にひとしく認められる共通被害というべきである。
エ なお、睡眠妨害については、さきに管制交通量、騒音発生・暴露状況、原告
らの訴え及びF報告において触れたとおり、近年における緊急発進回数の顕
著な減少傾向に伴い、深夜から早朝にかけての通常の睡眠時間帯において
は自衛隊機の離着陸・飛行により安眠を妨げられる頻度も大幅に減少してい
るものと認められることからすると、少なくとも、後に判示する損害賠償対象期
間である平成4年12月以降の状況に関する限り、騒音暴露地域住民に共通
する別個独立の恒常的被害としてこれを認めるのは困難であり、航空祭や演
習、日米共同訓練等実施時における被害と同様、これも、上述した居住地に
おける平穏な生活の妨害という総体的な被害の一断面として把握するにとど
めるのが相当である。
(3) 75コンター居住原告の被害
前記第1の1(3)に判示したとおり、昭和57年以降75コンター地域も生活環境
整備法上「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる音
響に起因する障害が著しい」第1種区域に指定されているところ、前記第3の
2(1)ウに判示したとおり、同じ第1種区域として指定を受けている騒音コンターの
中で、75コンター地域だけは被告が助成措置を講ずる住宅防音工事に関しW
値80以上の他のコンターと異なる工法(第Ⅱ工法)が採用されているが、75コ
ンター居住者を含む原告らの訴えに現れた主な被害が、先に2(1)で挙げた多く
の具体例に示されているように騒音暴露地域であるコンター内全域に広く及ん
でおり、その中で、75コンター居住原告らが90通を超える陳述書及び2名の本
人尋問で訴える被害・精神的苦痛の態様・程度には、80コンター以上の地域の
原告らが訴えるところと比べて、質的に異なるものと評価すべきほどの顕著な差
異は見られないことに照らしてみれば、75コンター内に居住地を有する原告ら
の被害も80コンター以上の地域に居住する原告らのそれと本質的に異なるもの
ではないというべきである。そして、前記F報告にまとめられたアンケート調査の
結果も、75コンター地域と80コンター及び85コンター地域との被害状況の差異
がコンター外と対比してみれば相対的なものにすぎないことを裏付ける内容とな
っていることを併せ考えると、75コンター居住原告も、程度の差こそあれW値80
以上のコンター内居住原告と同様に、上述した生活妨害と精神的苦痛及び精神
的被害をひとしく被っており、その被害の程度には看過し難いものがあると認め
るのが相当であるし、前記第2において検討した自衛隊機の離着陸や騒音発
生・暴露状況等に関する各種実証的データ等に照らしても、上記のとおり認定判
断するのが相当である。
(4) コンター外勤務者について
原告A36らの本人尋問の結果等に現れているように、原告らのかなりの部分
を占める有職者の中には、日中は居住地を離れて職場におり、日中の騒音に暴
露される機会の少ない者が相当数に上るとみられるところ、これらの者と日中の
在宅時間の長い主婦層、高齢者層、若年(特に未就学の乳幼児)層との間には
自ずから被害の程度に差異が存するであろうことは容易に推認されるところであ
る。しかしながら、上記(2)に判示したとおり、騒音暴露地域に生活の本拠を置く
住民がひとしく被る日常生活妨害の最も顕著な部分は各人・各家庭の休息・団
らんの時間帯における生活妨害というべきであり、職場の勤めを終えて夕刻帰
宅し、休息・団らんし、夕食等を家族と過ごす大多数の有職者がそうした意味で
の被害を受けていることを疑う余地はなく、また、上記の大多数の有職者とは異
なる生活サイクルの有職者にあっては、夕刻以外の騒音暴露時間帯内におい
て上記同様の(あるいは上記を超える)被害を受けているものであり、原告らの
中でかかる被害を被っていることすら疑うべき事情のある者は証拠上皆無であ
る。加えて、生活の本拠であり多くの者にとっては一生涯安住の地となるはずの
住居地の平穏を害されることがもたらす精神的苦痛の大きさは、単純に、直接
騒音に暴露されている時間の長短のみでは計り得ないものがあるというべきで
あり、例えば「たまたま週の半ばに休暇を取って在宅している時、頭の真上を上
がっていくジェット機の離陸音を聞いたが、これが本当に人間が心安らかに住め
る所なのかと疑ってしまう。地面や空気や建物をビリビリと震わし、耳がつぶれる
かと思うほどの爆音である。この騒音の中で毎日あきらめのような何事もないよ
うな顔で暮らしている年老いた両親を哀れに思う(80コンター)」等の述懐は、そ
うした事情を伝えて余りあるものがあるというべきである。
(5) 陳述書未提出者について
原告らの中には、同居家族中の誰一人として陳述書を提出していない者や既
に結婚、独立等で当該世帯から離脱したなどの理由により陳述書作成者の同居
家族に名前が上がっていない者が相当数に上っており、被告はこれらの者の被
害が現に存在するのかについて疑念を呈しているが、騒音暴露地域に生活の
本拠を置く住民らにひとしく認められる共通被害を観念し得ることは、多数の原
告らの訴えをはじめとする関係各証拠等から先に判示したとおりであり、航空機
騒音が離着陸経路を中心とした飛行場周辺地域にあまねく及ぶ特質を有するこ
とに照らしてみても、騒音暴露地域であるコンター内に居住していること(あるい
は居住している期間のあったこと)が認められる者につき、その者の被害状況に
直接触れた証拠がないという理由だけでその被害の存在自体を疑問視すること
はできず、これらの者の被害も、上記共通被害の範囲においては、先に示した
多くの原告らの訴えによっていわば代弁されているものとみて差し支えないとい
うべきである。
 4 身体的被害(健康被害)について
(1) 前記のとおり、原告らの数多くの者が、陳述書において聴覚器系の異状をはじ
めとする身体的な異状ないし不調を訴えている けれども、これらはいずれも診断
書等による客観的裏付けを欠くもので、騒音暴露に起因する疾患ないし身体各部
の障害として  認定し得るものでないことは先にみたとおりである。
(2) また、前記F報告にまとめられたアンケート調査結果等を参酌してみても、以下
に述べるとおり、本件飛行場周辺住民の相当割合の者が騒音暴露に直接起因
する疾患・障害等を現に有しているとか、現に罹患発症の危険性の高い状態に
あるとかの事実までは、未だ十分に立証されているとはなし難いといわざるを得
ない。
すなわち、F報告は、前記平成10年のアンケート調査の結果を統計学的に分
析したところ、ジェット戦闘機騒音による日常生活への影響や精神面への影響
の項目だけでなく、身体的な影響に関する項目や最近1か月間の体調に関する
項目についても、訴え・症状ありの回答割合には、コンターの内外で、あるいは
コンター区分に応じて、推計学的に有意な差異が認められたとし、F医師は、そ
の証言の中で、かかる分析結果をもとに、まず聴覚系の異状に関する部分につ
いては、騒音暴露地域の住民の中で「現実に聴覚障害が起こっているのではな
いかということを自覚症状のレベルで反映してきているのではないか」という推論
を、その他の身体的な異状に関する部分についても「騒音が有害な刺激となっ
てストレスが加わることで体のあちこちに影響が出てきているのではないか」とい
う推論をそれぞれ導いており、公衆衛生学の専門家である証人Gも、F報告にま
とめられた疫学調査及び統計学的分析の手法と結論は学問的にも適切、妥当
であるとし、自らの予防医学者としての立場から本件飛行場の周辺住民には
「種々の被害、症状が出ていることが十分に考えられるとみて予防的な対策処
置を講じるべきである」とする見解を述べている。そして、上記推論の前提となる
平成10年アンケート調査の信頼性は前記判示のとおりであるし、また、F医師
の行った統計学的分析と有意な差異があるとの評価自体については、その合理
性に疑問を差し挟むべき事情も見当たらない。しかしながら、以上の分析、検討
の基礎資料となったアンケート調査における質問項目は、先にみたとおりジェッ
ト戦闘機騒音の影響として「しばらく耳がおかしくなる」とか、最近1か月間の体
調として「耳鳴りがする」、「耳が遠くなった」等といった主観的訴えに係る簡潔な
事項であり、しかも、先に判示したとおり、こうした質問項目につき悪影響あるい
は不具合が顕著にある(「ひどくある」又は「かなりある」)とした回答者の割合
は、(疲れやすい、肩がこる、腰が痛いの3項目を除くと)コンター内居住者にお
いても20パーセント未満で、決して高くはなく、同じアンケート調査の中で、ジェ
ット戦闘機のうるささの感じ方や日常生活への影響、精神面への影響について
の回答と比べて相当低いものであり、また、コンター区分との対応関係が必ずし
も整合的でない項目もあること、さらには、上記のように有意に高率に示されて
いる身体的影響や体調に係る主観的訴えに関して、その主観的訴えの内容・程
度・裏付け・原因等を検証、確認するような検査・診断等はその後もなされてい
ないことも併せ考えると、上記調査・分析の結果から直ちに、本件飛行場の騒音
暴露地域の住民の相当割合に、騒音暴露に起因する聴覚障害等の身体的疾
患・障害が現実に生じているとは到底認められないし、現に聴覚障害等の身体
疾患・障害の発症の危険性の高い状態にあるとも認め難いといわざるを得な
い。
(3) また、前記のH調査並びにI第1次調査や第2次調査の結果も、前記判示した
ところからすれば、上記F報告と同様に、本件飛行場の騒音暴露地域の住民の
相当割合に身体的疾患・障害が発症しているとか、その発症危険性の高い状態
が生起しているとかの事実を肯認させ得るものではないといわなければならな
い。
さらに、本訴において証拠として提出されている、本件飛行場以外の飛行場
に関する騒音影響調査等の結果及び騒音の身体的影響等に関する各種研究
結果(甲E第24ないし39号証、第57ないし60号証、第74号証、乙第72ないし
78号証等)を併せ検討しても、本件飛行場周辺住民の相当割合に航空機の騒
音に起因する身体的疾患・障害が発症しているとか又はその発症危険性の高い
状態が生起しているとか認めるのは困難であるといわなければならない。
(4) してみれば、原告らがひとしく受けている共通被害としては、身体的疾患・障害
の発症も、あるいはその罹患・発症の危険性の高い状態を惹起されたことも肯
認することはできないものといわざるを得ない。
(5) もっとも、これまで検討してきたところから明らかなように、原告らの中に騒音
暴露の影響による耳鳴りを経験したことのある者が少なくないことは十分認めら
れるところであり、また、その他種々の身体的な異状ないし不調の訴えについて
も、例えば「テレビやラジオ、電話は中断されるし、読書や思考なども大いに妨害
され、甚大なストレスを感じている。ストレスが万病のもとになり得ることは医学
の常識と聞いている(85コンター)」との指摘に示されるとおり、これらが騒音暴
露の影響と決して無縁なものでないことは容易に想像し得るけれども、前記(1)な
いし(3)に判示したところに照らすと、上記の点は、むしろ、「耳鳴り、ドキドキ、頭
痛は軽いがしょっちゅうのことで、その結果のイライラの方が家族に迷惑を掛け
ている」、「私も妻も長年にわたり耳鳴り、肩こり、めまい、高血圧に悩まされ続け
ているが、それ以上にジェット機の飛行によりイライラと恐怖にさらされている(8
5コンター)」といった叙述に表現されているように、ジェット戦闘機騒音の激甚さ
とそれがもたらす精神的被害・苦痛の多大さを示すものとして把握するのが相当
であると解される。
 5 その他の被害について
  (1) 職業活動上の被害について
原告らのうち一部の者は、自らの住居がコンター外にあるとした上で、当該居
住地における被害と併せて、あるいは当該居住  地における被害は抜きにして、
コンター内に存する職場での職業活動上の被害を訴えており、また、コンター内に
居住する原告ら の中にも、自宅居住地で事業を自営しているな ど仕事場をコン
ター内に併せ持つことから、やはり仕事を行う上での支障等 職 業活動上の被害
について言及している者が少なくないが、前述したとおり、原告らの共通被害として
認められるのは各人の居住  地における日常生活妨害及び精神的被害であるこ
とからすれば、原告らの一部の者が訴える職業活動上の被害とかかる共通被 害
とを一体的に把握するのは困難であるといわざるを得ず、さりとて職業活動上の被
害のみを別個独立の被害として認めるに足 るほどの個別具体的な立証はなされ
ていないことからすると、この点に関する原告らの主張は失当というほかない。
(2) 教育・保育環境の破壊について
前記のとおり、原告らの中には、乳幼児への悪影響、教育・保育環境の阻害
を訴える者も相当数いるけれども、事柄の性質上、これ自体は原告らのひとしく
受ける共通被害とはなり得ず、前記判示の日常生活妨害・精神的被害として把
握される共通被害の一態様として評価し得る限度を超えて、独立に損害賠償請
求の根拠となる被害とすることはできない。
(3) 交通事故の危険について
本件の自衛隊機・米軍機の騒音のために本件飛行場周辺において交通事故
発生の具体的危険が生じているものと認めるに足りる証拠はなく(原告本人の
陳述書の中には、ジェット機の騒音のため自動車事故を起こしそうになったこと
がある旨の陳述書が何通か見られるけれども、これだけでは事故発生の具体的
危険が生じていると認めるには足りない。)、まして、本訴における損害賠償請求
の根拠とし得るような共通性ある被害と認めることはできない。
(4) 家屋等の振動・損傷・地価の低下について
原告A37本人の供述及びその他原告本人の陳述書の中には、不動産の価
格の低下や家屋の振動・損傷等を訴えるものも見られるけれども、これらについ
ても、客観的な資料の提出はなく、独立の被害として認定することは困難であ
り、まして、原告らに共通性ある被害と認めることはできない。
6 平和的生存権侵害の主張について
原告らの主張する平和的生存権とは、軍事的手段を一切排除して平和のうちに
生存する権利というのであるが、その主張する権利内容は抽象的なものにとどま
り、これを根拠として一定の給付を求めたり、その侵害に対して損害賠償を求め得
るような具体的な権利ないし法的利益ということはできない。
 7 環境権侵害又は環境破壊の主張について
原告らの主張する環境権とは、良好な環境を享受し支配し得る権利というので
あるが、その主張する権利内容は抽象的なものにとどまり、かつ、要件・効果も不
明確であって、これを根拠として一定の給付を求めたり、その侵害に対して独立に
損害賠償を求め得るような具体的な権利ないし法的利益としては成熟していないと
いわざるを得ない。また、自衛隊機及び米軍機の騒音に暴露されること自体を環
境破壊というのであれば、前記のとおりその暴露による日常生活妨害及び精神的
被害という人格権侵害として把握し、評価することをもって足りるものと解される。
第5 被告の損害賠償責任
以上検討したところを踏まえて、まず、過去の損害に係る被告の賠償責任の有
無について判断する(なお、原告らが将来の損害賠償請求と位置づけている請求
のうち口頭弁論終結日までの損害に係る部分は当然に現在請求となったことか
ら、これを含めてここで判断する。)。
 1 侵害行為の違法性(受忍限度)
(1) 前記判示のとおり、本件における侵害行為は航空機による騒音であり、これに
よる共通被害として肯認し得るのは平穏な生活 の妨害及び精神的被害であっ
て、身体的被害は肯認し得ないのであるから、その侵害行為が損害賠償請求を認
めるべき程の  違法性を備えているか否かは、上記被害が社会生活上受忍する
のを相当とする限度を超えているか否かによって決せられるも のというべきであ
る。
(2) そこで、本件の侵害行為の態様・程度(前記第2)、原告らの被侵害利益及び
被害の性質・内容・程度(前記第4)、本件の侵害行為が継続している経過・状況
(前記第1)、被告の採った対策の内容・程度・効果(前記第3)並びに本件飛行
場に付与されている役割等を総合考慮した上で、原告らのうちいかなる範囲の
者に受忍限度を超える被害が生じているとみるべきかを判断する。
  前記第4の3に判示したとおり、生活環境整備法上の第1種区域(同区域のう
ち、騒音に起因する障害がより高度であるとされる第2種区域を含む。以下同
様)として指定を受けた騒音コンター内に住居を有する原告らが、各人の居住地
においてひとしく被っている被害は、75コンターに居住する者のそれを含めて、
看過し難い程度に達しているものと認められるのであり、このことは被告自らが
当該区域内を「自衛隊等の航空機の離陸、着陸等のひん繁な実施により生ずる
音響に起因する障害が著しい」地域、つまりは騒音被害が著しい地域と認めて
いることともよく符合している。本件飛行場に係る第1種区域は、前記第1の1(1)
に示したとおり第1、2次訴訟係属中に順次その指定領域を拡張してきたが、昭
和59年12月20日の告示後は同指定領域に一切変動は生じておらず、現行の
騒音コンター内を本件飛行場周辺地域において騒音被害の著しい地域とみる被
告の認識は、もはや確立したものになっているといっても過言ではない。
  また、生活環境整備法の運用上第1種区域指定の基準値とされているW値75
以上という数値は、前記「航空機騒音に係る環境基準」が「生活環境を保全し、
人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい」として示した基準値
が、専ら住居の用に供される地域(類型Ⅰの地域)でWECPNL70以下、その
他の通常の生活を保全する必要がある地域(類型Ⅱの地域)で同75以下とされ
ていることにも裏打ちされているところ、同環境基準は、平成5年に新たな環境
基本法が公布、施行された後の今日の環境行政においてもなおそのままの形で
維持されている。
  しかも、本件飛行場に関しては、既に昭和50年時点において防衛施設庁長官
等と関係自治体首長との間で同環境基準の達成を期することとその方途が協定
されていたのであり(前記10・4協定)、さらに、その後第1、2次訴訟においては
本件飛行場周辺住民に対する関係で被告の損害賠償責任を肯定する判決が
一、二審を通じて言い渡され、これが確定したことは争いないところである。それ
にもかかわらず、被告は、今もなおジェット戦闘機の飛行騒音そのものを低減さ
せるのは技術的に困難であるとの理解の下に、屋外騒音値の軽減、ひいては環
境基準値の達成につながるような騒音抑制のための抜本的改善策を何ら講じて
おらず、結局、上記10・4協定の定めは25年以上経過した今日に至っても、十
分には履践されず、達成されていない(前記第3の3及び4で判示した自主規制
としての各種音源対策・運航対策も基本的には格別目新しいものでなく、騒音被
害を顕著に軽減するものでもないし、十分に実行されてもいない。)。
  また、生活環境整備法に基づき、あるいは行政措置として被告が実施している
種々の周辺対策をみても、各人の居住地における日常生活上の騒音被害軽減
に直接寄与するものは現時点では住宅防音工事の助成措置を除いて見当たら
ない。そして、住宅防音工事の助成措置が被害軽減に一定の役割を果たしてい
ることは後記3で改めて述べるが、同助成措置に関しても、前記第3の2(1)で判
示したとおり、対象家屋を区域指定時点で現存するものに限定した法律上の制
約があるため、原告らの中には長年コンター内に居住していながら現住家屋で
は助成措置を受けることができずにいる者も存するところであり(近年に至って
特定住宅防音工事や建替防音工事など助成範囲を徐々に拡充しつつあるもの
の、上述した問題がすべて解消されたわけではない。)、また、その防音工事に
は、後記3に判示するとおりの制約と二次的負担・マイナス面を有しており、な
お、根本的解決策というにはほど遠いものである。
 ところで、本件飛行場は、我が国の国防政策上、日本海側随一の航空自衛隊
基地施設として枢要な役割を付与されているところであるけれども、こうした国防
政策上の役割は本件飛行場の周辺住民らにより多くの福利・便益(例えば、より
よく守られているという安心感等)をもたらすものでは決してなく、かえって、基地
が存在することで外部からの攻撃対象にされるのではないかという不安感を周
辺住民らに与える面を有しているのであって、このことも考慮すれば、本件飛行
場の基地施設としての機能はひとえに原告らを含む多数の周辺住民の負担と
犠牲の上に成り立っているものといわざるを得ない。したがって、少なくとも過去
の損害に係る被告の賠償責任の有無を判断するに際しては、本件飛行場に上
述のような公共的役割が付与されていることを重視するのは相当でないというべ
きである。
(3) 以上によれば、原告らのうち第1種区域内に居住する者すなわちコンター内居
住原告については、自衛隊機及び米軍機の本  件飛行場使用に伴う騒音によ
り、皆ひとしく受忍限度を超える被害が生じているものと認めるのが相当であり、こ
れらの原告との 関係で、被告の本件飛行場の使用ないし供用に基づく前記侵害
行為には違法性があるものというべきである。
(4) 他方、前記第4に認定判示したところからすれば、コンター内での居住が肯認
されない原告らに関しては、受忍限度を検討す  べき共通被害も、個別具体的な
被害も主張立証されていないといわなければならないから、同原告ら との関係で
は、被告が損 害賠償責任を負うことはないし、コンター内居住歴がある原告らに
ついても、その主張するコンター内居住が肯認されない期間に 関しては、同様
に、被告が損害賠償責任を負うことはないものというべきである。
 2 本件飛行場の設置・管理の瑕疵
以上判示してきたとおり、被告が本件飛行場を使用、供用することにより自衛隊機
及び米軍機が本件飛行場を使用して離着陸、    飛行し、その結果上記のとおり違法
な侵害行為が継続され、周辺に居住する原告ら住民に受忍限度を超える被害が生じてきて
いる    ところ、被告はこれを十分認識しながら、その違法な侵害行為の抑止あるいは被
害の防止に足る措置を講じないまま、上記のような    本件飛行場の使用、供用を継続
してきたのであるから、被告の設置、管理する公の営造物である本件飛行場につき、その
設置・管     理に瑕疵があるというべきである。
 したがって、被告は、国家賠償法2条1項に基づき原告らの被った損害を賠償す
る責任を負うものというべきである。
 3 住宅防音工事について
被告が助成措置を講じている住宅防音工事のもたらす室内防音効果は、前記第3
の2でみたとおり、室内を密閉した状態にすれ ば被告が目標値とする計画防音量
(第Ⅰ工法で25デシベル、75コンター地域を対象とした第Ⅱ工法で20デシベル)に達
するであろ うことが本件検証時に得られた若干のデータからも推認されるところであ
り、現に原告らの多くが1、2室の新規工事だけにとどめず、 更に自ら望んで追加工
事の助成を受けていると認められること(前記第3の2(2)の事実及び弁論の全趣旨)
からみても、同工事の施 された家屋に居住する者らの日常生活妨害ないし精神的被
害がある程度軽減されていることは推認するに難くない。
 しかしながら、前述のとおり、上記防音効果は、室内を密閉するという条件下でし
か十分発揮されないものであるし、本来安らぎの 場であることが最も強く望まれる個
人の住居については、誰しも騒音と無縁の高度の静けさを求めるのが自然な感情であ
るというべ きであり、これまでみてきたとおりの本件飛行場周辺の騒音暴露地域にお
けるジェット戦闘機騒音(特に離陸時のそれ)のうるささ、  激しさの程度に照らしてみ
れば、上述した程度の防音効果をもって十分に被害の軽減が図られるとみることは到
底できない。しかも、 防音工事の施された家屋に居住することが新たに二次的な心
理的、物理的、経済的負担とマイナス面を伴うものであることもまた、  前記第4の
2(1)カに示した原告らの訴えから推認されるところであり、こうした事情を併せ考慮する
と、防音工事がせいぜい「気休め 程度」の効果しかないとする多くの原告らの主観的
評価も、理解し得ないものではないものというべきである。
 したがって、被告の助成に係る防音工事の施された家屋に居住する原告らについ
ても、その被害が受忍限度内に収まるとみるこ とは到底できず、せいぜいその慰謝
料額を算定するに際し防音室数に応じた一定割合の減額を施す程度のしん酌をする
にとどめる のが相当である。
第6 危険への接近の法理
 1 適用の要件及び効果
前記第5の1に判示したところ及び第1の1(2)に判示した本件飛行場の沿革等を
勘案すると、本件においても、第1、2次訴訟等と 同様、衡平の見地からいわゆる危
険への接近の法理の適用を一定限度の範囲内で考慮すべきであると解されるところ、
本件飛行場 周辺地域において同法理の適用を考慮すべき状況が生じたとみられる
基準日は、被告が主張するとおり、第1、2次訴訟と同様本件 飛行場がジェット戦闘
機本格配備基地施設であることがよく知られることとなった昭和41年1月1日とするの
が、本件飛行場の歴史  的経過等に照らしてみても相当である。そして、前述したと
おり現行の騒音コンターをもって受忍限度を画する基準とし、また、後述す るとおり慰
謝料基準月額の算定に際しても同コンター区分を基本要素としてしん酌したことからす
れば、危険への接近の有無を判定 するに当たっても、現行の騒音コンター及び同コ
ンター区分に従うのが唯一考えられる現実的かつ合理的な方法というべきである。
(1) 要件
まず、同法理の具体的な適用要件については、コンター内に居住する原告ら
のうち、以下の要件をいずれも充たす者を同法理の適用対象者とするのが相当
である。
ア 危険への接近
同法理を適用するためには、第一に、基準日である昭和41年1月1日以降
にコンター外居住地からコンター内居住地へ転居した(コンター外からの接
近)か、又はコンター内のある居住地からより騒音レベルの高いコンター(高
次コンター)内居住地へ転居したこと(コンター内での接近)が必要である(た
だし、コンター内で一旦危険への接近があったとしても、その後もと居たレベ
ル以下のコンター内に復帰し、現居住地のコンターも復帰後のレベル以下に
とどまる場合は除く。)。したがって、いかに多数回転居を繰り返したとしても、
それが同一コンター内にとどまる限り、「危険への接近」の要素を欠くことか
ら、適用対象には含まれないというべきである。
イ 居住前歴の不存在
後記2で触れる原告らの具体的な居住歴をみれば明らかなとおり、本件飛
行場のある小松市のような地方都市ないしその周辺部においては、一旦離れ
た親元や郷里(出身地)に戻ってくるといういわば復帰型の転居歴がよくみら
れるところであり、かかる転居歴をたどった者も、外形上は過去に居住歴のあ
る「危険」地域へ再度「接近」することになるけれども、このような者を初めて危
険に接近した者と同列に扱うのは衡平の見地からして相当ではないというべ
きである。そうしてみると、危険への接近の法理を適用するためには、第二
に、基準日以降新たに危険に接近したものであること、すなわち、上記アに挙
げた各「危険への接近」事由に当たる転居の日以前には、転居先と同じレベ
ル以上のコンター内での居住歴を有しないことが必要であり、この要件を充た
さない者は、単純な再転入者に限らず、コンター内外の異動(転出、転入)を
繰り返した者も含めて同法理を適用しないのが相当である。
(2) 効果
危険への接近の法理が衡平の原理を基礎とするものである以上、同法理の
具体的な効果は、以上の要件を充たした者とそうでない者との取扱いにどの程
度の差異をつけるのが衡平にかなうか、という見地からこれを決すべきであると
ころ、原告らの中で上記(1)に判示した適用要件を充たす者の転居の経緯をみる
と、婚姻を契機とした配偶者方ないしその実家への転居(いわゆる嫁入りあるい
は婿入り)をはじめとして、私生活や職業上の都合等による必要に迫られての転
居が「危険への接近」事由に当たる場合が多いとみられるのであり(甲A、B各号
証、乙L各号証及び弁論の全趣旨)、かかる場合の転居先が選択の余地の乏し
いものであることは容易に推知し得るところであって、大都市部であればともか
く、本件飛行場周辺地域における原告らの実例をみる限り、全くの自由な選択
の結果としての転居などはむしろまれであると解するのが相当というべきである
ところ、かかる事例であることをうかがわせる個別的な事情は何ら示されていな
い。このほか、本件飛行場周辺地域の騒音暴露被害が既に相当長期間に及ん
でおり、前記基準日時点はもはや遠い過去となりつつあること、被告や関係自治
体において「危険への接近」を抑制するような手だてを講じていると認め得る証
拠は何もないこと等の事情を併せ考えれば、上記要件該当原告にあっても、転
居先を自由に選択し得る状況にありながら本件の騒音に暴露されることを容認
して敢えて転居先を選定したものとは認め難く、結局のところ、同法理適用の効
果はせいぜい該当者の慰謝料額算定に際し若干の減額を施す程度にとどめる
のが相当であって、同法理を免責の法理とする被告の主張は到底採用すること
ができない。
 2 原告らに対する具体的な適用状況
乙L各号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らの居住歴は別冊「被告最終準備
書面」添付別表Ⅱ―1(1)及び(2)中の「移動内容(公的資料による)」欄に記載され
たところに概ね網羅されていることが認められるのであって、このほか甲E第64、6
5号証に現れた原告各人の申告内容(上記別表(2)中の「原告申告」欄にまとめら
れている。)等を総合すると、原告らのうち危険への接近の法理適用対象者及びそ
の具体的な「危険への接近」該当事由は、別表3「危険接近法理適用の有無及び
前訴原告一覧」中の「危険接近法理の適用」欄に示したとおりである。
第7 消滅時効
前述したとおりコンター内に居住する原告らが被告に対して有する損害賠償請
求権は、同原告らの被害の特質に照らして、基本的にコンター内居住開始以降日
々継続的に発生しているものと認められるところ、後記第8に挙げた原告らを除く
と、上記損害賠償請求権のうち本件各訴訟提起日の3年前の日(すなわち、第3次
訴訟にあっては平成4年12月25日、第4次訴訟にあっては平成5年5月21日)の
前日以前の被害に係る部分は、原告ら又はその法定代理人らが損害及び加害者
を知りながら3年間これを行使しなかったことにより時効消滅したものというべきで
ある。
第8 前訴原告
乙第35号証及び弁論の全趣旨によれば、本件第3、4次訴訟原告らの中には、
被告に対し本件と同一の事由に基づき同旨の損害賠償(慰謝料等支払)を求めた
第1、2次訴訟(前訴)の原告となっていたため、同訴訟の控訴審口頭弁論終結日
である平成6年3月23日までの被害に係る損害賠償請求権の存否について確定
判決が存する者がおり、その内訳及び同確定判決における一部認容と全部棄却
の別は、別表3「危険接近法理適用の有無及び前訴原告一覧」中の当該原告の
「前訴結果」欄に記載したとおりであることが認められる。
したがって、これらの者の本件損害賠償請求のうち平成6年3月23日以前の被
害に係る請求は、前訴における請求と同一請求を再度提起したものというべきであ
り、そのうち、前訴確定判決で請求権を肯認し得ないとして棄却された部分につい
ては、既判力により、これと抵触する主張をすることを遮断され、当裁判所もこれを
前提として判断すべく拘束されるのであり、他方、前訴確定判決で認容された部分
については、前訴判決後に認容額の支払を受けて既に満足を得ていることが弁論
の全趣旨により認められることから、これらの請求部分はいずれも失当である。
第9 損害賠償額の算定
 1 共通被害に対応する慰謝料
原告らの受けている被害は前記判示のとおりの共通被害であって、この被害は
航空機騒音の暴露量の程度に応じて被害の程度が増大するものであり、かつ、居
住地における航空機騒音の程度は前記第1の1(3)に判示した区域指定における
W値を基に判断するのが相当であり、したがって、原告らの受けている被害に対す
る慰謝料は、上記区域指定におけるW値を基準とするのが合理的であると解され
る。
 2 慰謝料の基準月額
そうすると、原告らの慰謝料額を算定するに当たっては、まず、前記区域指定の
各コンター区分に応じた慰謝料の基準月額を設定するのが相当というべきところ、
第1、2次訴訟における賠償額の算定水準を参酌しつつ、前記第4及び第5の1に
判示した事情をはじめこれまで検討してきた諸般の事情並びに後記第11に判示
する諸事情及び同所に判示するとおり本件の差止め等請求は認容できず、実現さ
れないことを総合考慮すると、第1、2次訴訟の第一、二審において住民ら一部勝
訴の判決が続き、これが確定したにもかかわらず、一向に抜本的な改善のみられ
ないまま騒音暴露とこれによる被害が継続している状況の中で、原告らの精神的
苦痛と被害感情はいよいよ厳しさを増しているというべきであり、かかる事情が特
に顕著なのは本件第3、4次訴訟においても中心的存在である80コンター及び85
コンター地域居住の多数の原告らであることからすると、両地域に居住する原告ら
については、第1、2次訴訟の賠償額の水準から更に一定の増額を考慮するのが
相当である。
そこで、コンター別の慰謝料基準月額は次のとおり定めることとする。
(1) 75コンター  3,000円
(2) 80コンター  6,000円
(3) 85コンター  9,000円
(4) 90コンター 12,000円
 3 減額事由及び減額割合
(1) 危険への接近の法理適用対象者
前記第6の1で検討したところに照らしてみれば、危険への接近の法理の適
用がある原告らに対しては、上記基準月額から20パーセントの減額をするにと
どめるのが相当である。
(2) 防音工事施工済み家屋の居住者
防音工事の施された家屋に居住する原告らに対する上記基準月額からの減
額割合については、前記第5の3で検討したところに加え、各家庭で防音室が1
室増えるごとに居住者各人の被害軽減度が倍加していくとまでは通常考え難い
ことにも照らして、工事室数が1室のみの場合10パーセントの減額とし、更に1
室増えるごとに5パーセントずつ減額率を上げていくこととする(したがって、計2
室の場合15パーセント、計3室の場合20パーセント、計4室の場合25パーセン
ト、計5室の場合30パーセントの減額とする)のが相当である。
 4 損害賠償対象期間
本件において慰謝料総額算定の基礎となる期間(損害賠償対象期間)の最長限
度は、前記第8に判示した前訴原告でもある原告らにあっては始期が平成6年3月
24日、その他の原告のうち第3次訴訟原告にあっては始期が平成4年12月25
日、第4次訴訟原告にあっては始期が平成5年5月21日、終期はいずれも本件口
頭弁論終結日である平成13年6月29日である。減額事由の有無に応じて基準月
額に一定の減額を施して算出される各人ごとの慰謝料月額(10円単位で四捨五
入)に上述した最長限度期間内に認められる各人の居住月数を乗じて慰謝料総額
を算出することになるが、居住月数の計算は、便宜上、当該計算対象期間に属す
る最初の月は暦月1日を含まない限り計上せず、逆に最後の月はすべて丸1月と
して計上することとする。なお、本件各訴状送達日(第3次訴訟が平成8年1月18
日、第4次訴訟が平成8年6月24日であることが一件記録上明らかである。)まで
の被害に係る請求とそれぞれその翌日以降の被害に係る請求とでは原告らの求
める遅延損害金の起算日を異にすることから、前者を期間A、後者を期間Bに区分
して、各期間ごとの慰謝料総額を算出することとする。
 5 弁護士費用
   弁護士費用は、本件訴訟の経過、困難さ等を考慮し、以上の計算を経て算出され
る各人の慰謝料総額(A期間慰謝料とB期間慰  謝料の合計額)の15パーセント相当
額(10円単位で四捨五入)をもって、賠償を求め得る損害と認めることとする。
 6 具体的な算定結果
以上により原告らに認められる各人の損害賠償額は、別紙損害賠償額一覧表
記載のとおりである。
第10 将来の損害賠償請求について
原告らの請求のうち本件口頭弁論終結の日の翌日以降に生ずべき損害の賠償
を求める部分に係る訴えの適否を判断するに、確かに、従前の経過に照らしてみ
れば、本件飛行場周辺の騒音暴露地域住民らの被害状況が本件口頭弁論終結
日以降も当分の間は基本的に変わらないであろうことは想像に難くないところであ
るが、原告らの損害賠償請求権の存否を判断し、かつ、それぞれの賠償額を算定
するためには、これまで検討してきたとおり、幅広い諸要素を総合考慮する必要が
あるほか、各人の居住状況、各人の居住家屋に対する住宅防音工事の実施状況
等の個別具体的な認定が不可欠であって、そのうち居住関係一つとってみても将
来的な変動の余地が多分にあり、軽々に予断を許さないものがあることからすれ
ば、原告らの将来的な被害は、具体的な損害賠償請求権の発生原因として把握し
得るほどに確実なものとは認め難いといわざるを得ない。
したがって、原告らの将来請求に係る訴えは、権利保護の要件を欠くもので不
適法であり、却下を免れない。
第11 自衛隊機及び米軍機の離着陸差止め等請求について
 1 自衛隊機の離着陸差止め等請求について
(1) 差止め等請求に係る訴えの適法性
原告らの本件訴えのうち、一定の時間帯における自衛隊機の離着陸等の差
止め及びその余の時間帯における自衛隊機の発する騒音の音量規制を請求す
る部分(自衛隊機の離着陸差止め等請求)に係る訴えの適法性について判断す
るに、原告らの上記請求が必然的に行政庁の公権力の行使に当たる行為の取
消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるとすれば、民事上の
訴えとして不適法といわざるを得ないこととなるから、この点につき検討する。
一般に、ここにいう民事上の訴えとしてその行為の取消変更ないし発動を求
めることが許されない公権力の行使とは、「公権力の主体たる国または公共団
体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその
範囲を確定することが法律上認められているもの」を意味するとされ、このこと
は、昭和39年10月29日の最高裁判所判決(昭和37年(オ)第296号事件第1
小法廷判決・民集18巻8号1809頁)以来多数の最高裁判決等により確立され
定着してきたところであると解される。
しかるところ、本件にあっては、民事訴訟の手続により本件飛行場における自
衛隊機の離着陸の差止め等がなされたとしても、そのことで必然的に取消変更
ないし発動を求められることとなる公権力の行使又はこれに擬すべき公権力主
体の行為は見出し難いといわざるを得ない。
すなわち、本件飛行場における自衛隊機の運航は、被告の主張するとおり自
衛隊の隊務を統括する権限を有する防衛庁長官に統括されるものであり、ま
た、自衛隊機の運航はその性質上必然的に騒音の発生を伴い、その影響は飛
行場周辺に広く及ぶことが不可避であることは自明のところであり、したがって、
防衛庁長官は上記騒音等による周辺住民への影響に配慮して自衛隊機の運航
を統括すべきことは行政庁としての当然の責務というべきであるけれども、それ
にもかかわらず、自衛隊法上、防衛庁長官が上記影響に配慮してその運航統
括権限を行使すべきことを定めた規定は設けられておらず、まして、それに当た
り周辺住民等国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定し得ること、たとえ
ば周辺住民に騒音等の受忍義務を課し得ることを定めた規定も、その要件、内
容、効果、手続、補償措置、不服申立手続等を定めた規定も何ら設けられてい
ない。先に言及した生活環境整備法においても、飛行場周辺の生活環境等の整
備について必要な措置を講じること、つまり周辺対策等が定められているだけ
で、上記判示のような公権力性のある行為ないし権限は何ら定められていない
し、他に、防衛庁長官に上記のような行為ないし権限を認める旨の法律の規定
も、そのように明確かつ一義的に理解し得る関係規定も見当たらない。自衛隊
機の運航が必然的に騒音の発生を伴いその影響が広範であることは上記のと
おりであり、また、防衛庁長官は騒音等による周辺住民への影響に配慮して自
衛隊機の運航を統括すべきことも上記判示のとおりであるけれども、法治主義、
法律による行政の原則に照らし、上記のように広範性のある騒音の発生が必然
的であるという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生すると
か、周辺住民への配慮責務が行政庁に課せられていることから、法律上の明確
な根拠なくして周辺住民に騒音受忍義務その他の義務を課し得るとするのは困
難であるといわざるを得ない。加えて、本件飛行場で自衛隊機の運航に関し周
辺住民への配慮から現に実施されているのは、前記第3でみたとおり、消音装
置・防音壁・防音堤の設置及び飛行場周辺の生活環境等の整備措置(周辺対
策等)以外には、第6航空団内部の自主規制としての運航対策のみであって、こ
れらの措置・対策を実施するにつき防衛庁長官が何らかの公権力性ある行為・
権限を行使した形跡は被告の主張によっても見当たらない。
してみれば、自衛隊機の運航に伴う騒音等による人格権の侵害等を理由に
自衛隊機の離着陸差止め等を求める原告らの訴えは、行政庁の公権力の行使
に当たる行為の取消変更ないし発動を求める請求を包含することになるとはい
えず、民事上の訴えとして不適法ということはできない。
(2) 差止め等請求の当否
そこで、更に進んで原告らによる自衛隊機の離着陸差止め等請求の当否を
判断する。
ア これまで判示してきたとおり、本件飛行場周辺の騒音暴露地域に居住する
原告らに生じていると認められる被害は、日常生 活妨害ないしこれと密接に関
連する精神的被害にとどまるのであって、騒音暴露に起因する身体的疾患ない
し障害が生じてい ると認められる者は証拠上見当たらないし、また、本件飛行
場周辺住民の相当割合の者にあるいは多数の者に、身体的疾   患・障害の
発症又は発症の危険性の高い状態が惹起されているとは認め難く、まして、軽
微とはいえない身体的疾患・障害の 発症ないしその発症の高度危険性状態が
惹起されているとは認められず、したがってまた、原告らにそのような身体的疾
患・  障害の発症の高度危険性状態が惹起されているとも認め難いこと、一
方、本件飛行場は、前述したとおり日本海側随一の航  空自衛隊基地施設とし
て国防政策上枢要な役割を付与されており、これに代替し得る施設の早急な確
保は望み難い現状にお いて、また、ジェット戦闘機の飛行騒音自体の大幅な
低減を図ることは技術的には困難であるとされている状況の下で、原告ら の請
求に係る自衛隊機の離着陸等差止め及び自衛隊機の発する騒音の音量規制
措置は、現時点においては本件飛 行場  におけるジェット戦闘機の使用をす
べて禁じるにひとしいものとならざるを得ないこと、加えて、被告が永年にわたり
実施してき  た住宅防音工事の助成措置をはじめとする各種周辺対策は、個
々の住民に十分な効用と満足をもたらすものではないとして  も、多額の国費
を投じて相当の努力をしたものであり、本件飛行場周辺地域の生活条件等の維
持・向上にとって決して軽くない 意義を有しているものと推認されること、また、
被告が行ってきている運航対策が少なくとも深夜、早朝等の被害の抑制ないし 
 軽減に多少なりとも寄与してきていることは評価されるべきであることなど、諸
般の事情を総合して考慮すると、上記のような多 大な影響をもたらしかねない
差止め等請求を肯認すべきほどの被害の深刻重大性、侵害行為の悪質性は、
本件の証拠上は  未だ肯認し難いといわざるを得ない。
イ また、原告らの主張する平和的生存権及び環境権をもっては、差止め等請
求の根拠となし得ないことは、先に第4の6及び7 で判示したとおりで ある。
ウ 次に、前記10・4協定は、先に判示したその成立経過、具体的内容及び締
結当事者に照らして、防衛施設庁長官ないし名  古屋防衛施設局長が小松市
長等関係市町村長に対して「環境基準を達成することを期する」こと等前記第
1、1(2)エの(ア)ない し(ク)の事項を行政上の責務として約したものに止まり、こ
れを根拠として当該地方公共団体の住民が直接被告に対して私法 上の具体
的請求をなし得るような法的性格は有しないものといわざるを得ず、甲C第1、2
号証、第7ないし9号証及び原告A3 8本人尋問の結果ではこの判断を左右す
るに足りないし、他に、原告らが10・4協定によって被告に対して何らかの請求
をなし 得る根拠は見当たらない。
エ さらに、憲法違反の点を差止め等請求の直接の根拠とする原告らの主張に
ついては、仮に、立法―行政機構によって設置、 運営されている一定の組織
の存在ないし活動が日本国憲法に違反する面を有していたとしても、そのこと自
体から、国民が被 告に対して私法上の具体的請求をなし得るものではなく、当
該組織の活動等により具体的な権利ないし法的利益が侵害された 場合に、こ
れを根拠として侵害の態様・程度等に応じた請求がなし得るにすぎないのであっ
て、この観点から、前記のとおり、原 告らの主張する権利・利益の侵害の有無・
態様・程度等を検討し、具体的請求の可否について既に判断してきたところであ
る。  したがって、原告らの上記主張も採用できない。
 2 米軍機の離着陸差止め等請求について
原告らは、被告に対し、米軍機についても自衛隊機と同様その離着陸差止め等
を求めるが、かかる請求をすることができるためには、被告が米軍機の運航等を
規制し制限することのできる立場にあることを要するところ、前記のとおり、日米共
同訓練時において米軍機が本件飛行場を離着陸等使用するのは、我が国とアメリ
カ合衆国との間の安全保障条約及び地位協定に基づくものであるが、上記各条約
及び関係国内法令には、米軍の本件飛行場の管理運営を制約し、活動を制限で
きる定めは何もないから、被告は本件飛行場における米軍機の運航等を規制、制
限できるものではない。
したがって、原告の上記請求は主張自体失当として棄却を免れない。
第12 結論
 1 原告A1の訴えは、提訴前に既に死亡していた者の名でなされた不適法な訴えで
あるから、これを却下する。
   2 原告A1を除くその余の原告らの損害賠償請求のうち、本件口頭弁論終結の日(平
成13年6月29日)までに生じた損害の賠償及  び民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める部分については、別紙損害賠償額一覧表掲記の原告らに
おいて被告 に対しそれぞれ主文第2項又は第3項掲記の金員の支払を求める限度
で理由があるからこれを認容し、同原告らのその余の請求及 びその余の原告らの請
求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
   3 原告A1を除くその余の原告らの損害賠償請求のうち、本件口頭弁論終結の日の
翌日(平成13年6月30日)以降に生ずべきとす る将来の損害の賠償を求める部分
に係る訴えはいずれも権利保護の要件を欠く不適法な訴えであるから、これを却下す
る。
   4 原告A1を除くその余の原告らの被告に対する自衛隊機及び米軍機の離着陸差止
め等請求はいずれも理由がないから、これを棄 却する。
   5 第3、4次訴訟を通じた訴訟費用中、原告A1を除く当事者に生じた訴訟費用の負
担については民事訴訟法61条、64条、65条を 適用し、また,原告A1に生じた訴訟
費用の負担については同法70条を類推適用して、それぞれ主文第8項のとおりとす
る。
 6 仮執行宣言については、民事訴訟法259条1項を適用して、主文第9項の限度で
相当と認めてこれを付すこととし、仮執行免脱宣  言ないし仮執行開始時期猶予宣言
の申立ては相当でないから、付さないこととする。
金沢地方裁判所第2部
          裁判長裁判官    渡  辺   修  明
裁判官小  川   賢  司
裁判官上  田   賀  代
(別紙当事者目録,別冊原告ら最終準備書面,別冊被告最終準備書面,別表1「居住状
況一覧」,別表2「住宅防音工事及び陳述書要旨一覧」,別表3「危険接近法理適用の
有無及び前訴原告一覧」省略)
別紙損害賠償額一覧表
(前 注)
 1 番号欄及び氏名欄
   当事者目録記載の原告番号及び氏名表示(ただし、かっこ書き部分は省略)に従う。
 2 W欄
   別表1「居住状況一覧」のW値欄と同趣旨であり、同表「居住地」欄記載住所のコンター区分を指す。
 3 基準月額欄
W欄記載の各コンター区分に応じた慰謝料基準月額(本文理由中に判示したとおり75コンターが金300
0円、80コンターが金6000円、85コンターが金9000円、90コンターが金1万2000円)を記載した。
 4 賠償期間欄
 本文理由中に判示したとおり、損害賠償対象期間を期間A(本件各訴状送達日までの被害に係る請求部
分)と期間B(それぞれその翌日以降の被害に係る請求部分)に区分したことから、期間A、期間B欄にはそ
れぞれの期間における慰謝料算定の基礎となる居住月数を本文理由中に判示した計算法に従い最初の
暦月と最後の暦月で特定して示し(最初の暦月の1日から最後の暦月の末日までを慰謝料算定の基礎と
する趣旨である。慰謝料算定の基礎となる居住月数が1か月のみの場合は当該暦月のみを示した。なお、
当該期間内に住宅防音工事室数の増減に伴う減額割合の変動が生じた場合には変動の前後で更に細区
分してそれぞれの居住月数を示した。この場合の期間細区分の方法は、上述した居住月数の計算法に準
じて、原則として変動日の属する暦月の翌月1日から変動が生じたものとして扱うこととした。)、併せてそれ
ぞれの合計月数を「月数」欄に示した。
 5 危険接近欄
別表3「危険接近法理適用の有無及び前訴原告一覧」中の危険接近法理の適用欄に示したところに従
い、危険への接近の法理の適用がある原告につき慰謝料基準月額の減額割合を2割とする趣旨で「20%」
と記載し、同法理の適用がない原告については「0%」と記載した。
 6 住宅防音欄
前記4で示した期間区分ごとの対象期間内における住宅防音工事の累積工事室数(別表2「住宅防音工
事及び陳述書要旨一覧」中の住宅防音工事欄に示したとおりである。ただし、建替防音工事がなされた場
合における同工事完成後の減額は同工事に係る工事室数のみによることから当該工事室数)を「工事室
数」欄に示した上、当該工事室数に応じた減額割合(本文理由中に判示したとおり1室で10パーセント、2
室で15パーセント、3室で20パーセント、4室で25パーセント、5室で30パーセント)を「減額割合」欄に示
した(住宅防音工事がなされていない場合は「0室」、「0%」と記載した。)。
 7 慰謝料欄
 慰謝料基準月額(前記3)に危険への接近の法理適用による減額(前記5)及び住宅防音工事室数に応じ
た減額(前記6)を施して算出される慰謝料月額(本文理由中に判示したとおり10円単位で四捨五入する。
例えば、基準月額金3000円、危険への接近法理適用による減額2割、住宅防音工事室数に応じた減額3
0パーセントの場合は、3,000×0.8×0.7≒1,700)を前記4に示した要領で区分(ないし細区分)した期間
ごとに「月額」欄に記載した上、これに当該期間の合計月数(前記4)を乗じて算出される各期間ごとの慰謝
料総額を期間Aと期間Bの区分に従いそれぞれ「慰謝料A」、「慰謝料B」として各該当欄に記載した。
 8 弁護士費用欄
   前記期間Aの損害賠償額に加算すべき弁護士費用(本文理由中に判示したとおり各期間ごとの慰謝料総
額を合算した総合計慰謝料額の15パーセント相当額を10円単  位で四捨五入した額)を記載した。
 9 賠償額欄
   前記期間Aの損害賠償額である「慰謝料A」の総額と弁護士費用(「C」)とを合算した額を、「A期間総額」と
して期間Aの段の該当欄(同期間が細区分されている場合は   同期間中最下段の該当欄)に記載し、これに
「慰謝料B」の総額を加えた損害賠償額の総合計額を、「賠償額合計」として期間Bの段の該当欄(同期間が細
区分されている  場合は同期間中最下段の該当欄)に記載した。
損害賠償額一覧表―第3次訴訟原告
番号  氏 名W基準月額      賠償期間危険接近 住宅防音  慰
期間A月数減額割合
 
工事
室数
減額
割合
月 額
期間B月数月 額
原告A3880  6,000A 平成6年4月~平成8年1月22月  0%4室25%4,500
B 平成8年2月~平成13年6月65月  0%4室25%4,500
原告A3980 6,000A 平成6年4月~平成8年1月22月  20%0室0%4,800
B 平成8年2月~平成13年6月65月  20%0室0%4,800
原告A4080 6,000A 平成6年4月~平成8年1月22月  20%0室0%4,800
B 平成8年2月~平成13年6月65月  20%0室0%4,800
原告A4180 6,000A 平成5年1月~平成8年1月37月  0%5室30%4,200
B 平成8年2月~平成10年3月
 平成10年7月~平成13年6月62月
  
0%5室30%4,200
原告A4280 6,000A 平成6年4月~平成8年1月22月  0%5室30%4,200
B 平成8年2月~平成13年6月65月  0%5室30%4,200
原告A4380 6,000A 平成5年1月~平成8年1月37月  20%1室10%4,300
B 平成8年2月~平成9年5月16月20%1室10%4,300
原告A4480 6,000A 平成5年1月~平成8年1月37月  20%1室10%4,300
B 平成8年2月~平成9年5月16月20%1室10%4,300
原告A4580 6,000A 平成5年1月~平成8年1月37月  0%1室10%5,400
B 平成8年2月~平成9年5月16月0%1室10%5,400
原告A46806,000A 平成7年6月~平成8年1月8月  0%1室10%5,400
B 平成8年2月~平成9年5月16月  0%1室10%5,400

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