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平成11年(行ケ)第398号 特許取消決定取消請求事件(平成14年4月3日
口頭弁論終結)
          判         決
   原      告   豊田合成株式会社
   原      告   株式会社豊田中央研究所
両名訴訟代理人弁護士大   場   正   成
同          尾   崎   英   男
同          嶋   末   和   秀
同          黒   田   健   二
同  弁理士平   田   忠   雄
同          藤   谷       修
      被      告   特許庁長官 及川耕造
      指定代理人   田   部   元   史
      同          平   井   良   憲
      同小   林   信   雄
      同          宮   川   久   成
   補助参加人   日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士   品   川   澄   雄
同          吉   利   靖   雄
      同          野   上   邦 五 郎
      同          杉   本   進   介
      同          冨   永   博   之
同    弁理士   青   山       葆
同          河   宮       治
同          石   井   久   夫
同          北   原   康   廣
          主         文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告ら
   特許庁が平成10年異議第71450号事件について平成11年10月1日
にした決定を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告らは、名称を「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」とする特許第2
658009号発明(以下「本件発明」といい、その特許を「本件特許」とい
う。)の特許権者である。本件特許は、平成4年7月23日に出願(国内優先権主
張日平成3年7月23日)され、願書に添付した明細書について平成8年2月1日
付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を経て、平成9年6月6
日に設定登録がされた。
   その後、本件特許に対する特許異議の申立てがされ、同申立ては、平成10
年異議第71450号事件として特許庁に係属したところ、原告は、同年9月7日
に明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求をし(以下、この訂正
請求に係る訂正を「本件訂正」という。)、平成11年4月28日に本件訂正請求
書の補正をした。特許庁は、同年10月1日、「特許第2658009号の請求項
1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)を
し、その謄本は、同年11月4日、原告らに送達された。
2 明細書の特許請求の範囲【請求項1】~【請求項3】の記載
  (1) 願書に添付した当初の明細書(甲第3号証、以下「当初明細書」とい
う。)のもの
   【請求項1】n型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含
む)から成るn層と、p型不純物を添加したi型の窒化ガリウム系化合物半導体(Al
XGa1-XN;X=0を含む)から成るi層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発
光素子において、
    少なくとも前記i層に対する電極であって前記i層に接合する層をNiとし
たことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
   【請求項2】請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におい
て、前記n層に対する電極であって前記n層に接合する層をNiとしたことを特徴と
する。
   【請求項3】請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におい
て、前記電極を前記i層との接合面から順に、厚さの薄い第1のNi層、第1のNi層
よりは厚さの厚い第2のNi層、Al層、Ti層、厚さの厚い第3のNi層の多層構造とし
たことを特徴とする。
  (2) 本件補正(甲第5号証)に係るもの(補正部分に下線を付す。)
   【請求項1】少なくともガリウム(Ga)と窒素(N)とを含むn型の窒化ガリウ
ム系化合物半導体から成る第1層と、p型不純物を添加した少なくともガリウ
ム(Ga)と窒素(N)とを含む窒化ガリウム系化合物半導体から成る第2層とを有する
窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
    少なくとも前記第2層に対する電極であって前記第2層に接合する層を
Niとしたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
   【請求項2】請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におい
て、前記第1層に対する電極であって前記第1層に接合する層をNiとしたことを特
徴とする。
   【請求項3】請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におい
て、前記電極を前記第2層との接合面から順に、厚さの薄い第1のNi層、第1の
Ni層よりは厚さの厚い第2のNi層、Al層、Ti層、厚さの厚い第3のNi層の多層構造
としたことを特徴とする。
  (3) 本件訂正に係るもの(甲第6号証添付。以下、この発明を「訂正発明」と
いう。)
   【請求項1】n型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含
む)から成る第1層と、p型不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1
-XN;X=0を含む)から成る第2層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素
子において、
    前記第1層の電極はAl、Ti又はそれを含む合金から成り、前記第2層の電
極はNi又はNiを含む合金から成ることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発
光素子。
   【請求項2】サファイア基板と、そのサファイア基板上に形成されたバッフ
ァ層を有し、そのバッファ層上に、前記第1層、前記第2層が形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
   【請求項3】前記第2層の前記電極は、Niの上に他の金属層を形成した複層
構造であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の窒化ガリウ
ム系化合物半導体発光素子。
 3 本件決定の理由
   本件決定は、別添決定書謄本写し記載のとおり、①本件訂正の適否につき、
訂正請求の補正は特許法120条の4第3項において準用する同法131条2項
に、訂正の目的等は同法120条の4第2項にそれぞれ適合し、また、本件補正が
明細書の要旨を変更するものであり、平成6年法律第116号附則6条1項、平成
5年法律第26号附則2条2項によりなお従前の例によるとされ、上記平成5年法
による改正前の特許法40条により、本件特許出願は、本件補正に係る補正書が提
出された平成8年2月1日にしたものとみなされるとした上、訂正発明は、第2層
がi型である場合は、特開平5-211347号公報(本件特許出願の公開公報)
に記載された発明と同一であり、特許法29条1項3号に規定する発明に該当する
から、特許出願の際独立して特許を受けることができず、本件訂正は、平成6年法
律第116号附則6条1項により、なお従前の例によるとされる同法による改正前
の特許法126条3項により、認められないとし、②本件発明の要旨を、当初明細
書の特許請求の範囲【請求項1】~【請求項3】記載のとおり認定した上、本件発
明は、第2層がi型である場合には、上記公報に記載された発明と同一
であり、特許法29条1項3号に規定する発明に該当するので、特許を受けること
ができず、本件特許は、同法113条1項2号に該当し、取り消されるべきである
とした。
第3 原告ら主張の決定取消事由
 1 決定の認否
   理由冒頭~4頁14行目(1.手続の経緯、2.1訂正請求の補正について、2.2
訂正の目的等について)は認める。4頁17行目~6頁末行((1)窒化ガリウム系化
合物半導体発光素子の技術的背景)中、5頁2行目~8行目、5頁末行~6頁4行
目は認め、5頁9行目~19行目、6頁5行目~14行目は否認し、6頁14行目
~末行については、「本件特許出願と前後して」を除いて認める。7頁1行目~1
5頁9行目((2)出願当初の明細書に記載された事項)は認める。15頁10行目~
17頁18行目((3)明細書の補正事項)中、「導電性の特定が削除された」(15
頁末行)、「二つの導電型を包含することとなった」(16頁5行目~6行目)、
「導電型の削除が行われた」(16頁11行目~12行目)、17頁13、14行
目の「出願当初の明細書」~18行目は否認し、その余は認める。17頁末行~2
1頁5行目((4)上記補正の適否について)中、19頁11行目の「i型の導電性
を」~13、14行目の「記載されている」、19頁17行目~18行目及び20
頁16行目~17行目の各「出願当初に自明であったとする根拠もない」、20頁
18行目~21頁5行目は否認し、その余は認める。21頁6行
目~25頁7行目((5)特許権者の主張について)中、25頁3行目の「補正によ
り」~7行目は否認し、その余は認める。25頁8行目~13行目((6)この項のむ
すび)は争う。25頁14行目~28頁末行(2.3.2本件訂正発明、2.3.3刊行物
記載の発明、2.3.4対比及び判断)は認める。29頁1行目~7行目(2.3.5この
項のむすび)は争う。29頁8行目~32頁11行目(3.本件発明、4.刊行物記載
の発明、5.対比及び判断)中、32頁9行目~11行目は争い、その余は認める。
32頁12行目~16行目(6.むすび)は争う。
 2 本件決定は、「i層」を「p型不純物を添加した層」とする本件補正が当初
明細書の要旨を変更するものであるとの誤った判断をした(取消事由)結果、本件
特許出願は本件補正の日にされたものとみなされる旨判断し、訂正発明、ひいて
は、本件発明が特許法29条1項3号に規定する発明に該当するとの誤った判断に
至ったものであるから、取り消されるべきである。
 3 取消事由(明細書の要旨変更に関する判断の誤り)
  (1) 本件決定は、「窒化ガリウム系化合物半導体においては・・・p型不純物
を添加しても直ちにはp型化せず、従来i型であったのであるから、導電性を削除
することにより、上記第2層はi型及びp型の二つの導電型を包含することとなっ
た」(決定書15頁末行~16頁6行目)と判断したが、以下のとおり、誤りであ
る。
   ア 本件補正は、当初明細書(甲第3号証)において、Ni電極層と接する
「p型不純物を添加したGaN系半導体層」を「i型の窒化ガリウム系の化合物半導
体・・・から成るi層」と表現していたのに対し、「i型」「i層」という表現に
よって生ずる限定を外したものである。当初明細書に記載されている、電極層の金
属としてのNiの選択は、p型不純物を添加したGaN系半導体とNiとの組合せによる
作用効果に基づくものであって、p型不純物を添加したGaN系半導体が、抵抗率の
大きな「i層」であるか、抵抗率が小さくなった「p層」であるかによって、本件
発明の成否が左右されるものではない。
     確かに、当初明細書には、GaN系半導体から成る「i層」とNi電極につ
いて記載され、GaN系半導体から成る「p層」については記載がないが、「i層」
と「p層」の相違は、p型不純物を添加したGaN系半導体の抵抗率の大小であるに
すぎない。他方、半導体発光素子の電極としてどのような金属が良好であるかにつ
いては、これまで、他の半導体発光素子の分野における知識の集積があり、基本的
に、半導体化合物の組成、添加する不純物の導電型及び金属の種類の組合せが電極
としての良、不良を大きく決定することが知られている。本件の場合は、「i層」
であっても「p層」であっても、半導体化合物の組成がGaN系化合物であり、添加
不純物の導電型がp型であり、金属はNiである。すなわち、GaN系半導体の「i
層」に適した電極金属としてNiが発見されれば、NiがGaN系半導体の「p層」に適
した電極であることも、当初明細書を見た当業者には自明となる。
   イ 導電型に関して、量子論上「i型」という導電型が定義される領域は存
在しない。すなわち、価電子帯と導電帯とその間に禁制帯を有するのが半導体の正
確な量子論上の定義であるところ、単結晶の絶縁体には、半導体と同じく、価電子
帯と導電帯とが理論上存在し、禁制帯幅が狭いか広いかを除いて、半導体と単結晶
絶縁体とを区別する概念はない。したがって、i型が絶縁体、半絶縁体とされてい
ても、量子論上、明確に定義された半導体の概念に属する。
     また、i型の導電率は10
-8
/Ω㎝であり、半導体の電気導電率は10
-12


/Ω㎝の範囲にあり、導電率の概略値が、導体において10

/Ω㎝以上、絶縁体に
おいて10
-12
/Ω㎝以下であるのと比較しても、i型は半導体の概念に属する。
     さらに、半導体中の電子濃度と正孔濃度との間には、両濃度の積が一定
であるという関係が存在し、このことは、半導体にごく微量な不純物、アクセプ
タ、ドナーを添加することによりいずれかの濃度を向上させた場合でも成立する。
正孔濃度が基準濃度より大であればp型半導体、正孔濃度が基準濃度より小さけれ
ばn型半導体であり、両濃度の等しいときがp型とn型を区別する基準点となり、
その濃度は真性キャリア濃度と呼ばれている。基準点における温度300KのGaNの真
性キャリア濃度を約10
10
/cm

と求めると、正孔濃度が10
-10
~10
21
/cm

で電子濃度が
-10
~10
-41
/cm

である半導体がp型半導体、逆に、電子濃度が10
-10
~10
21
/cm


正孔濃度が10
-10
~10
-41
/cm

である半導体がn型半導体であるから、量子論上「i
型」という導電型が定義される領域は存在しない。
   ウ 半導体に関する技術文献及び特許公報において、「i型」と「π型」と
は同一意義と認識されており、また、pn接合素子において、π型がpn接合を構成す
る一つの層に用いられるとされていることから、「i型」とは「p型」を意味し、
かつ、「i型」と「n型」との接合がpn接合である。技術文献において、「π」
は、キャリア濃度が10
16
/cm

より低い「p

」の意味でも用いられており、「i型」
は、「p型」と区別されるものではなく、「p型」にほかならない。
  被告は、正孔濃度10
16
/cm

以上であるものが「p型」である旨主張す
る。しかしながら、正孔濃度が10
16
/cm

以上であることは、発光効率を向上させる
ためには更なる正孔濃度の向上が必要であるという当然のことを意味するものであ
って、導電型の定義を左右するものではない。
     また、被告は、アニーリング前に正孔濃度8×10
10
/cm

、抵抗率2×10

Ω㎝のGaN層が記載された特許公報に、アニーリング前の正孔濃度8×10
10
/cm


GaN系半導体を用いたpn接合型発光素子が記載されていないことから、アニーリン
グ前のGaN層はpn接合型発光素子の「p型」層に該当しない旨主張する。しかしな
がら、アニーリング前の状態がp型である以上、このp型半導体とn型半導体との
接合がpn接合でないということは、「p及びn領域を有しこれらが接合を形成して
いる半導体結晶」というpn接合の定義に照らして失当である。
   さらに、被告は、アニーリング等の処理をすることなく正孔濃度10
16
/㎝

程度のp型が得られることを認める一方、pn接合型が実現可能との認識が当業者に
なかった旨主張する。しかしながら、当時、pn接合型発光素子の概念は周知であっ
て、正孔濃度10
16
/㎝

程度のp型半導体とn型半導体とを接合したpn接合型発光素
子は、当然に認識されていたから、被告の主張は失当である。
   エ 高抵抗「π層」の抵抗率は10

~10

Ω㎝であり、この抵抗率を移動度μ
を用いて正孔濃度を換算すると10
10
~10
12
/cm

となり、さらに、成長条件を変化さ
せることで、300Kにおけるn型からp型に至る電気特性を持つGaN層結晶の正孔濃
度は、2×10
16
/cm

となる。
  また、「低抵抗p型」の正孔濃度は10
16
~10
14
/cm

であるから、真性濃
度10
-10
/cm

を原点とし、キャリア濃度10
21
/cm

を1として正規化すると、その導電
型の程度は0.84~0.77となる。一方「i型」の正孔濃度10
12
/cm

の導電型の程度は
0.71であるから、i型及び低抵抗p型の導電型の程度の差は、低抵抗p型と完全に
飽和したp型の導電型の程度1との差よりも十分に小さい。そうすると、「i型」
は、導電型の程度から見ても「p型」であり、「低抵抗p型」と区別されるもので
はない。
 オ 低抵抗と高抵抗の概念は相対的であり、GaNは、抵抗率が10
28
~10
-3
Ω
㎝で変化するので、いずれに属するかを明確にすることは不可能である。「i型」
は「π型」ともいわれ、抵抗率300Ω㎝に対して「π」が用いられている。以上のこ
とから、「i型」及び「p型」として記載されたものの正孔濃度の範囲は重なって
いるので、抵抗率の概念で「i型」を定義することはできない。すなわち、「i
型」と「p型」は、ともに、量子論上明確に定義された「p導電型」なのである。
 
 カ 本件発明の発光機構は、発光素子の注入により電子と正孔の過剰状態、
すなわち、非平衡状態を実現して、電子がエネルギー準位の低い準位に遷移すると
きに光子を放出する注入型の発光機構である。すなわち、当初明細書に、GaN系の
化合物半導体は直接遷移であることから発光効率が高いと記載され、同記載から、
直接遷移による発光とは、導電帯の電子と価電子帯の正孔とがフォノン(格子振動
を量子化した量子)を介在させずに結合することで、その電子エネルギー準位に比
例した周波数の光子が放出されることをいうから、当初明細書においては、注入型
で電子と正孔の直接の遷移による発光機構が認識されている。このこと等か
ら、「in接合」であっても、「pn接合」による注入がある旨理解される。
     また、被告は、MIS型発光ダイオードとpn接合発光ダイオードでは発光メ
カニズムが相違する旨主張する。しかしながら、MIS型発光ダイオードにおいて、電
子は印加電圧によって縮小したn-i障壁を越えて注入され、pn接合素子においても、
電子は印加電圧によって縮小したpn接合の電位障壁を越えて注入されるものである
から、この点で、MIS型とpn接合で異なるところはない。
   キ Niは、p型GaN系化合物半導体と接合される電極として、Alより良好な
金属である。すなわち、当初明細書(甲第3号証)の作用効果の記載は、p型GaN
系化合物半導体と接合される金属として、Niの接触面における障壁高さがAlに比べ
て良好であることを示し、NiとAlの間の障壁高さの優劣関係は、p型不純物が添加
されているGaN系化合物半導体層が「i層」であると「p層」であるとによらない
ので、当初明細書には、GaN系化合物半導体の「p層」と接合する場合も、Niが
Alに比べて良好な電極材料であることが実質上記載されている。すなわち、接触抵
抗と障壁高さの関係は、キャリア濃度の大小や、半導体層が「i層」であるか「p
層」であるかに関係がない。
     被告は、ショットキー電極に適した金属がオーミック電極に適した金属
であることは自明ではない旨主張する。しかしながら、Ni又はNiを含む合金から成
る電極のAl電極に対する優位性は、「オーミック」か「ショットキー」かの問題で
はなく、p型半導体との接触抵抗が小さくなるということである。しかも、電極材
料の選択が素子内の発光機構に影響を与えることはない。
  (2) i型の定義が不明であること
    本件決定は、「i型」と「p型」とを峻別することができるとした結果、
本件補正が当初明細書の要旨変更に当たるとの結論に至ったにもかかわらず、「i
型」の定義がされていない。
   被告は、電子線照射、アニール等のポスト処理を行う前の状態を「i型」
としているが、ポスト処理を行うことなくp型GaNが得られた旨の技術文献(甲第
30号証)があり、成長条件を変化させることにより、n型及びp型それぞれの特
性を有するGaN層が得られ、また、p型AlGaNがポスト処理を行うことなく形成し
得るとした上、そのp型AlGaNを用いた発光素子が記載されている。また、Znドー
プp型InGaAlNがポスト処理を行うことなく形成され、そのp型AlGaNを用いた発
光素子が記載された特許公報がある(甲第34号証)。このように、本件出願当時
においても、電子線照射、アニール等のポスト処理をすることなくp型のGaN化合物
半導体が得られており、それを用いた発光素子も周知であった。
    したがって、p型不純物を添加したAlGaNにおいて、電子線照射、アニー
ル等のポスト処理を施した状態を「p型」と定義し、これを施す前の状態を「i
型」と定義することには合理性がない。
  (3) MIS型の定義がされていないこと
    本件決定は、「MIS型」と「pn接合型」とを峻別した結果、本件補正が当初
明細書の要旨変更に当たると判断したのであるから、両者の定義を要するところ、
その定義がされていない。
    すなわち、本件決定は、電子線照射、アニーリング等のポスト処理がされ
ることなく製造されたものが「MIS型」であり、ポスト処理され低抵抗化されたもの
が「pn接合型」であると定義しているように解されるが、これらの処理をすること
なく、正孔濃度10
17
~10
18
/cm

のp型が得られ「pn接合型」が存在したから、ポス
ト処理の有無は、「MIS型」と「pn接合型」とを峻別する根拠とはならない。
    また、MIS型の理想的バンド図は、本件発明のバンド図及びin接合バンド図
とも異なる。MIS型ダイオードは電流が流れない素子であるが、本件発光素子は指数
関数的に増加する注入電流が流れている。したがって、MIS型ダイオードのような金
属、絶縁体及び半導体の層構造として本件発明を認識するのは誤りである。
  (4) 技術的背景の認定誤り
  ア 本件決定は、GaN系化合物半導体の性質を利用して構成される発光素子
が、いわゆる「MIS構造」と「pn接合」とに大別されると認定したが、誤りである。
     すなわち、「MIS」とは、MISダイオードとの単なる配置の類似性から慣
用的に付された名称であって、本件発明のようにi層が薄い素子は、いわゆるpn接
合素子と何ら変わるところがない。本件決定は、「MIS」とは金属と半導体との間に
絶縁層を挟むものと認定しているが、その絶縁層は「p型」である。そうする
と、「MIS」の「I」は「p」と置換され、「S」は「n層」であるから、「MIS」
は「金属-p層-n層」、すなわち「Mpn型」と表記すべきものである。したがっ
て、「MIS型」及び「pn接合型」の発光素子において、いずれも金属は共通に存在
し、両者共に「pn接合型」発光素子というべきである。
   イ 本件決定は、MIS構造が絶縁層又は電極と絶縁層の界面近傍を発光させる
ものと認定するが、誤りである。発光するのは、n層とi層の界面である。
   ウ 本件決定は、pn接合が、p型半導体とn型半導体とを接合させ、順方向
電圧を印加して、p型半導体とn型半導体の界面近傍を発光させたものであると認
定するが、誤りである。この定義は、pn接合型に限らず、MIS型発光素子にも当ては
まる。すなわち、MIS型は、「I」が「p型」である以上、n型半導体とp型半導体
とを接合させ、順方向電圧を印加し、i層が接合する金属をn層に対して正電位と
して、その接合界面で発光させる発光素子である。
   エ 本件決定は、Znを添加してもi型がp型化しないと認定するが、Znを添
加することによりi型がp型化するのであり、誤りである。
   オ 本件決定は、Znを添加した層が、従来、MIS構造における絶縁層として使
用されてきたと認定するが、絶縁層といわれていた層は、正孔と電子の不平衡な過
剰状態を生じさせる「p型」として機能し、しかも、Znを添加した層がp層として
認識されている文献が多数存在するのであって、誤りである。
   カ 本件決定は、低速電子線照射法、アニール法等によりMgをドープした
GaN系化合物半導体がp型化し、これによりGaN系化合物半導体においてもpn接合
型発光素子が実現した経緯があると認定するが、誤りである。すなわち、ポスト処
理により工業製品としてのpn接合型発光素子が実現したのは事実であるが、ポスト
処理をしないpn接合発光素子及びp型AlGaNも知られており、その概念は公知であ
った。
第4 被告の反論
 1 「i層」を「p型不純物を添加した層」とする本件補正が当初明細書の要旨
を変更するものであるとの審決の判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由
がない。
 2 取消事由(明細書の要旨変更に関する判断の誤り)について
  (1) 原告らは、本件発明が本件補正により第2層にi型及びp型の二つの導電
型を包含することとなったとする本件決定の判断は誤りであると主張するが、以下
のとおり、失当である。
   ア 本件出願当時、GaN系化合物半導体において、Znを添加した層は、従
来、MIS構造における高抵抗層(i層)及び青色発光層として使用され、その抵抗率
は10

/Ω㎝以上の高抵抗率を示し、p型導電性を示さなかった。Mgを添加した高抵
抗なGaN系化合物半導体に低速電子線照射処理を行うことにより、初めて低抵抗の
p型導電性が得られたのである。
     当初明細書(甲第3号証)には、電極(Metal)と発光層(i層)とが直
接に接するMIS構造の発光素子では、i層の電極直下及びその近傍で発光するという
特徴が記載され、i層がMIS構造の発光ダイオードにおける発光にかかわる層であ
り、i層の電極の役割については全く論じられていないと記載されている。すなわ
ち、当初明細書の【0003】に記載された「i層」は、単なる「p型不純物を添加し
たGaN系半導体層」ではなく、電極を形成してMIS型発光素子の発光層として作用す
るi層を指している。このような記載から見ても、本件発明は、単なる「p型不純
物を添加したGaN系半導体層」ではなく、「p型不純物を添加したi型のGaN系半
導体から成るi層」のための電極に関するものである。
     GaN系半導体発光素子において電極に接する層が「i型」か「p型」か
は、本件発明の成否を左右する重大問題である。すなわち、電極に接する層が「i
型」であるか「p型」であるかは、発光素子の動作原理に重大な影響を与える。電
極に接する層が「i型」である場合には、MIS構造発光素子に分類され、金属と半導
体との間の絶縁層(i層)を高電界により発光層として機能させる構成となる。他
方、電極が接触する層が「p型」である場合は、pn接合発光素子に分類され、順方
向電圧によりn層からは電子が、p層からは正孔が互いに他の領域に拡散して、pn
接合界面の近傍で発光するものとなる。この両者は、GaN系化合物半導体の性質を
利用して構成される発光素子として二つに大別されている(乙第1、第2号証)。
また、当初明細書に記載される従来技術、発明の課題、構成及び作用効果は、すべ
てi層の電極についてのみ記載されており、p層に関する電極については全く記載
されていないのであるから、当業者にとって、MIS構造のi層に形成される電極を
pn接合のp層の電極として用いて同様の作用効果を奏するかどうかは、当初明細書
の記載内容からは自明ではない。また、半導体化合物の組成、添加す
る不純物の導電型及び金属の種類の組合せが電極としての良、不良を大きく決定す
ることを示す証拠もないから、MIS型発光素子の発光層であるi型GaNにNiが適した
電極であることが発見されたからといって、Niがすべてのp型GaN系半導体層に適
した電極であることが自明になったということはできない。
     当初明細書の要旨変更の有無は、Niがp層と呼ばれるGaN系半導体と接
合される電極として良好な金属であることが、当初明細書の記載に基づき当業者に
自明であるかどうかではなく、「i層」を「p型不純物添加層」とする本件補正に
より、当初明細書に記載のないpn接合構造の「p層」に接する電極としてNiを用い
ることが当業者に自明であったかどうかにより決定されるものである。
   イ 原告らは、導電型に関して、量子論上「i型」という導電型が定義され
る領域は存在しないと主張する。しかしながら、GaN系化合物半導体にp型不純物を
添加したものは、低速電子線照射法、アニール法等の処理を施したものと、そうで
ないものとの間に、抵抗率の著しい差があり、後者のものを「i型」と呼んでいた
のである。
   ウ 原告らは、「i型」とは「p型」を意味すると主張する。しかしなが
ら、原告らが挙げた半導体に関する技術文献のいずれにも、「i型」と「p型」が
同義であるとは記載されていないし、「i型」と「n型」の接合は、「pn接合」と
は呼ばれず、「in接合」と呼ばれ区別されているから、原告らの主張は失当であ
る。また、原告らの挙げる文献には、「i型」は「p

」を意味するなど、原告らが
主張する「i型」についての記載はない。
     原告らは、「i型」は「p型」であって、正孔濃度が10
10
~10
12
/㎝


在する旨主張する。しかしながら、GaN系化合物半導体発光素子のpn接合型の「p
層」は、正孔濃度が10
16
~10
17
/㎝

台であり、正孔濃度が10
10
~10
12
/㎝

程度存在
する半導体は、これに該当しない。
     原告らは、アニーリングなどの処理をすることなく10
16
~10
18
/㎝

程度
のp導電型が得られていると主張する。しかしながら、本件出願当時、pn接合型を
実現可能とするような「p型」が得られていたとの当業者の認識はなかった。
   エ 原告らは、「i型」は「低抵抗p型」と区別されるものではないと主張
する。しかしながら、「i型」か「p型」かは、それぞれの半導体が用いられる
MIS型発光素子とpn接合型発光素子との発光メカニズムに基づいて明確に区別され
る。すなわち、MIS型発光ダイオードでは、「i型」GaN層と「n型」GaN層の界面
において、トンネル効果や、界面付近の障壁を越えるような高エネルギー状態に分
布するわずかな電子が、障壁を乗り越えて「i型」層に注入されるが、このような
注入機構は、pn接合型発光ダイオードでは存在しないから、両者は発光メカニズム
が相違する。
   オ 原告らは、「i型」は抵抗率で区別することはできない旨主張する。し
かしながら、原告ら主張の根拠である「i型」キャリア濃度は失当であるから、
「i型」と「p型」で正孔濃度の範囲が重なっているとする原告らの主張もまた失
当である。
   カ 原告らは、「in接合」も「pn接合型」による注入型発光機構であると主
張する。しかしながら、MIS型発光ダイオードでは、「i型」層が高抵抗であるため
に、印加した電圧は、「i型」層のバンドを傾けるように作用し、肝心の「i
型」GaN層と「n型」GaN層の界面付近の電位障壁は解消されない。このような状
態でも、量子力学的なトンネル効果や、障壁を越えるような高エネルギー状態に分
布するわずかな電子が障壁を乗り越えて「i型」層に注入され、発光し得る。前者
による発光をトンネル注入発光、後者による発光をショットキー発光と呼ぶが、こ
のような注入機構は、pn接合型発光ダイオードでは全く存在しないものであり、in
接合とpn接合とで発光機構に何の相違も存在しないとする認識は、当業者にはな
い。
   キ 原告らは、Niが、「p層」と接合される電極としてAlより良好な金属で
あると主張する。しかしながら、キャリア濃度が高い場合には、接触抵抗はキャリ
ア濃度と障壁高さにより決定されるものであるから、キャリア濃度の大小や半導体
層が「i層」か「p層」かに関係なく成り立つとする原告らの主張は失当である。
     すなわち、Niが「i層」に接触する電極として障壁の高さの低い良好な
電極材料であっても、キャリア濃度の大きい「p層」において良好な電極材料とさ
れるには、オーミック接触である必要があり、「i層」に接触する電極とは要求さ
れている接触抵抗の程度が異なる。そして、キャリア濃度の大きい「p層」におい
ては、接触抵抗がキャリア濃度と障壁の高さの両方によるのであるから、Niが「p
層」に対してオーミック接触となり良好な電極材料であるとすることはできない。
     また、MIS型の「i層」には整流作用を有するショットキー電極が形成さ
れ、pn接合型の「p層」には非整流性の作用を有するオーミック電極が形成され、
これらの作用は正反対であることから、ショットキー電極に適した金属としてNiが
発見されたとしても、ショットキー電極とは正反対の性質を有するオーミック電極
に適した金属であることが自明ではない。
  (2) i型の定義が不明であるとの原告ら主張について
    原告らは、「i型の」定義が不明であると主張する。しかしながら、本件
発明における「i型」の意義については、当初明細書(甲第3号証)の【従来技
術】【発明が解決しようとする課題】に記載されるように、周知の事項である。す
なわち、GaN系化合物半導体にp型不純物を添加したものには、低速電子線照射法、
アニール法等の処理を施したものと、そうでないものとでは、抵抗率に著しい差が
あり、後者のものを「i型」と呼んでいたのであり、GaN系化合物半導体発光素子に
おける「i型」の定義は明確である。
  (3) MIS型の定義が不明であるとの原告ら主張について
    原告らは、本件決定がMIS型の定義を与えていない旨主張する。しかしなが
ら、「MIS型」の意義については、当初明細書(甲第3号証)の【従来技術】【発明
が解決しようとする課題】に記載されるように、周知の事項である。
  (4) 技術的背景の認定誤り
   ア 原告らは、MISの絶縁層は「p型」であって、MISもpn型の発光素子であ
る旨主張する(3(4)ア)。しかしながら、MISの絶縁層とは、「i型」のGaN系化
合物半導体として「p型」のものと明確に区別されていたものであり、しかも、Ga
N系化合物半導体において、pn接合LEDの発光特性はMIS型LEDに比較してはるかに高
いから、GaN系化合物半導体発光素子がMIS構造とpn接合とに大別されるとした本件
決定の認定に誤りはない。
   イ 原告らは、MIS型発光素子が絶縁層又は電極と絶縁層の界面近傍を発光さ
せるとする本件決定の認定が誤りであると主張する(同イ)。しかしながら、発光
の場所は、i層、すなわち、絶縁層であり、しかも、当初明細書(甲第3号証)の
【発明が解決しようとする課題】において、「発光領域がi層の電極の直下及びそ
の近傍に位置している」と記載されているように、本件決定の上記認定事実は、当
業者において周知の事項であった。
   ウ 原告らは、Znを添加してもi型がp型化しないとした本件決定の認定が
誤りである旨主張する(同エ)。しかしながら、GaN系化合物半導体にp型不純物を
添加したものにおいて、低速電子線照射法、アニール法等の処理を施したものと、
そうでないものとでは、抵抗率に著しい差があり、後者のものを「i型」と呼んで
いたものである。したがって、本件決定の上記認定は、当業者において周知の事項
であって、誤りはない。
   エ 原告らは、低速電子線照射法、アニール法等によりMgをドープしたGaN
系化合物半導体がp型化し、これによりGaN系化合物半導体においてもpn接合が実
現したとの本件決定の認定は誤りであると主張するが(同カ)、以下のとおり、失
当である。
     1975年当時、p型のGaN系化合物半導体については、発光素子への
応用が極めて難しく、p型GaNが結晶状態で得られたことについては確認が必要で
あるとされ、しかも、青色LEDの性能を更に向上させるため、GaN薄膜の導電性制御
を達成すること、特にp型GaN薄膜の開発が必要であって、今までにGaNのpn接合
LEDに関して報告されたことがないとされ、当業者において、pn接合が実現可能なp
型GaNが実現されていたとの認識はなかった。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(明細書の要旨変更に関する判断の誤り)について
  (1) 本件決定は、GaN型系化合物半導体においては、p型不純物を添加しても
直ちにはp型化せず、i型であったから、導電性を削除することにより、「上記第
2層にはi型及びp型の二つの導電型を包含することとなった」と判断するとこ
ろ、原告らは、この判断が誤りであると主張するので、この点について検討する。
   ア 特開昭61-56474号公報(甲第25号証)には、以下の記載があ
る。
    「GaNはイオン結合性の強い結晶で・・・また、このGaN結晶では、窒素
の空孔はドナーとして振舞うので、不純物を添加しなくても、低抵抗のn型半導体
となることが多い。そこで、アクセプタ不純物を添加しても、そのほとんどが電荷
補償で費やされ、せいぜい絶縁体になるか、あるいは高抵抗のp型(π型ともい
う)の半導体になる程度で、なかなか低抵抗のp型半導体が得られない。このた
め、GaNの青色発光素子は、完全なpn接合ではなく、概ね、i(π)n接合構造である
ことが多い。」(1頁右下欄9行目~2頁左上欄2行目)
   イ 平木昭夫監修「高輝度青色発光のための電子材料技術」(株式会社サイ
エンスフォーラム1991年12月30日発行、乙第1号証)には、以下の記載が
ある。
    「GaNの諸物性はこれまで不明な点が多く残されており,また伝導型およ
び伝導度など電気的特性の制御は困難であった。これは高品質単結晶が得られなか
ったことに主に起因している。最近,薄膜単結晶の成長技術の向上とともに高品質
単結晶の作製が可能となり,これまで不明であった特性の測定や物性の解明も行わ
れ,電気的特性制御の可能性も見いだされつつある。」(51頁左欄25行目~3
1行目)
    「3.2mis型LEDの作製と評価 図-8に,本実験で用いた発光素子の構造
を示す。Zn添加層は青色発光層として,同時にi層(高抵抗層)として用いられ
る。」(54頁右欄6行目~9行目)なお、図-8には、n型GaN上にZnが添加さ
れたi型GaNが設けられ、その上に電極が設けられた発光素子が示されている。
    「GaNはアクセプタ不純物と思われるZnを添加しても高抵抗化し,低抵抗
のp型伝導性を示す結晶は従来得られなかった。筆者らはMgを添加した高抵抗
GaN(GaN:Mg)に低速電子線照射(low-energyelectronbeamirradiation:LEEBI)
処理を施すことによりp型結晶が得られることを見いだした。」(55頁左欄2行
目~8行目)
    「室温でvanderPauw法によるホール測定を行った結果を,表-2に示
す。電子線照射処理を行ったすべてのMg添加GaNはp型伝導性を示した。成長した
ままの状態では,GaN:Mgは実験した範囲内ですべて10

Ω・㎝以上の高抵抗率を有
し伝導型の測定も困難であった。これらのGaN:Mgに電子線照射処理を行うと,低抵
抗化しp型伝導性を示すようになる。」(55頁右欄12行目~18行目)
    「上記伝導型変化(p型化)および青色発光強度の増大は,無添加GaNで
は現れない。従って、添加したMgが関与していることは明らかである。このことか
ら,電子線照射により例えば格子間Mgなど不活性MgがGaを置換して格子位置に入る
ことが推察されるが,機構の詳細は現在のところ明らかではない。」(56頁左欄
14行目~19行目)
   ウ 日経サイエンス24巻10号(日経サイエンス社1994年10月1日
発行、甲第16号証)には、以下の記載がある。
    「GaNのp型化 これまでのp型GaNはMg(マグネシウム)をドープした
GaNを成長させ,それに電子線を照射することで実現されていた。この理由として
は,電子線照射により結晶中のMgの位置が変化し,高抵抗でp型を示さないGaNか
ら,低抵抗のp型GaNに変化すると説明されてきた。ところが著者たちは,この変
化が実は単純な温度変化によることを突き止めた。赤い曲線が示すように,窒素雰
囲気中で400℃以上で熱アニーリングすると,高抵抗GaNから低抵抗p型GaNに変わ
ったのである。・・・さらに筆者たちは,このGaNのp型化を妨げている要因を考
え,アンモニアがp型化を妨げているのではないかとの仮説を立てた。これを検証
するために,逆に,できたp型GaNをアンモニア雰囲気中と窒素雰囲気中でアニー
リングしてみた。すると,窒素中では抵抗値の変化は生じないのに(薄い青色)、
アンモニア中では,もとの高抵抗GaNに戻ってしまったのである(濃い青色)。」
(49頁中欄及び右欄37行目~末行)
   エ これらの記載によれば、GaN半導体にp型不純物を添加したものであっ
ても、電子線照射、熱アニール等の処理をしたものは、高い輝度を有する半導体発
光素子の実用化に必要な低い抵抗率となり、他方、当該処理をしていないもの
は、10

㎝Ω以上の高抵抗率となること、高抵抗GaNから低抵抗のGaNに変わること
が「p型化」と呼ばれていたこと、MgがドープされたGaN半導体のうち、上記処理
により、高い輝度を有する半導体発光素子の実用化に必要な程度に低い抵抗率のも
のが「p型GaN」又は単に「p型」と呼ばれ、これと異なる高抵抗率のものが「i
型GaN」又は単に「i型」と呼ばれていたことが認められる。
   オ 次に、「i型GaN」及び「p型GaN」の概念の異同について検討する。
     上記アの記載によれば、GaNにp型不純物が添加された「p型GaN」及
び「i型GaN」は、その抵抗率の相違から、GaNの発光素子において、前者は「pn
接合」、後者は「i(π)n接合」と、異なる用語により区別されていたことが認め
られる。
     また、植村泰忠ほか「半導体の理論と応用(上)」(合名会社裳華房昭
和45年10月20日第7版発行、甲第11号証)には、「(ⅲ)ある温度より低
温の領域では半導体や絶縁体の抵抗率が試料によって大きく相違し,母体の結晶の
種類を定めても一定の値にならない.」(6頁8行目~9行目)、「(ⅲ)の特長
は半導体や絶縁体の伝導率が構造敏感な量であることを示している.構造敏感な性
質とは,試料の母体は一定でも,それに含まれる極めて微量な不純物(通常の化学
分析では検出できぬほどに微量)とか,あるいは熱および機械的処理の履歴によっ
ていちじるしく支配される物性のことである.半導体の諸現象にはこの構造敏感な
様相を示すものが多く,その点が研究の発展の上で幾多の困難となると同時に,一
方で多彩な応用への路をも開いているのである」(7頁2行目~7行目)との記載
がある。
     これらの記載によれば、p型不純物が添加されたGaNは、半導体であ
り、かつ、電子線照射、熱アニール等の処理の有無により、基本的な構造が同一で
あっても抵抗率が大きく相違するという構造敏感な性質を具備するものと認められ
る。また、このような構造敏感な性質は、p型不純物が添加されたGaNの「研究の
発展の上で幾多の困難となると同時に、一方で多彩な応用への路を開いてい」たと
いうのであるから、「i型GaN」と「p型GaN」は、当業者によって同一視され
ず、異なる物質として区別されていたことが明らかである。
   カ 当初明細書(甲第3号証)には、「【0003】【発明が解決しようとする
課題】ここで、上述の発光ダイオードの発光強度を向上させるには、その発光領域
がi層の電極の直下及びその近傍に位置していることから、i層の電極の電極面積
をなるべく大きくすれば良いことが知られている。・・・特に、MIS(Metal
InsulatorSemiconductor)構造の発光ダイオードにおけるi層の電極の層構造につ
いては、特公昭57-46669号公報にて開示された程度であり、発光に係わる
i層の電極の役割については全く論じられていないのが現状である。・・・ところ
が、上述のようなi層上に直接、Al電極を形成した場合の発光ダイオードの発光領
域における発光パターンは、図5(a)に示すように、粗い点であり、均一な面発光
とはならなかった。従って、発光ダイオードは発光面積を大きく形成したにも拘わ
らず発光強度があまり向上しないという問題があった・・・【0005】【課題を解決
するための手段】上記課題を解決するための発明の構成は、n型の窒化ガリウム系
化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含む)から成るn層と、p型不純物を添加した
i型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;X=0を含む)か
ら成るi層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において・・・同一面
側にn層の電極とi層の電極とを有し、n層の電極はAl又はAlを含む合金から成
り、i層の電極はNi,Ag,Ti又はそれらを含む合金から成る」(1欄44行目~2
欄49行目)との記載があり、「p型」に関する記載は一切認められない。
   キ したがって、上記のように、「i型」と「p型」とが同一視できないも
のであり、しかも、当初明細書には「p型GaN」に関する記載は認められないので
あるから、当初明細書において「i層」、すなわち「i型」GaN半導体であったも
のを「p型」GaN半導体をも含む用語である「p型不純物を添加した層」に補正す
ることは、当初明細書の特許請求の範囲に記載されていない事項を含みその範囲を
拡張するものとなるので、本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであるとし
た本件決定の判断に誤りはない。
  (2) 原告らの主張について
   ア 原告らは、本件補正は、当初明細書において、Ni電極層と接する「p型
不純物を添加したGaN系半導体層」を「i型のGaN系の化合物半導体から成るi
層」と表現していたのに対し、「i型」「i層」という表現によって生ずる限定を
外したものであると主張するが、上記のとおり、GaN系化合物半導体においては、
「p型不純物を添加したGaN系半導体」には、高抵抗の「i型」と低抵抗の「p
型」とがあり、当業者において両者を区別していたのであるから、「i層」という
限定を外したということは、これと異なるp型が含まれるようになったことを意味
するのであって、本件決定の認定に誤りはない。また、原告らは、GaN系半導体か
ら成る「i層」と「p層」の相違が抵抗率の大小にすぎず、GaN系半導体の「i
層」に適した電極金属としてNiが発見されれば、NiがGaN系半導体の「p層」に適
した電極であることも、当初明細書を見た当業者には自明となる旨主張するが、上
記抵抗率の大小により「i型」と「p型」とが当業者において区別されていた以
上、電極層の金属としてNiを選択することが本件発明において重要であったからと
いって、本件決定の上記認定は、何ら影響を受けるものではない。
     さらに、原告らは、半導体発光素子の電極としてどのような金属が良好
であるかの決定において、基本的に、半導体化合物の組成、添加する不純物の導電
型及び金属の種類の組合せが重要な要因であって、本件発明は、半導体層が「i
層」であるか「p層」であるかによらず成り立つものであると主張する。しかしな
がら、本件発明が「p層」について成り立つからといって、本件補正において「i
層」という限定を外したということによりこれと異なるp型が含まれるに至ったこ
とが否定されるわけではなく、したがって、本件補正により当初明細書の要旨が変
更されたことが否定されるわけでもない。
   イ 原告らは、量子論上「i型」は半導体の概念に属し、半導体の導電型に
はp型とn型の領域は存在するが、i型の領域は存在しないと主張する。
     しかしながら、上記のとおり、「p型不純物」とは、これが半導体に添
加されることにより半導体の導電性がp型化する性質を有する元素をいうこと、Ga
N系化合物半導体は、不純物を添加しない状態で通常n型導電性を示し、p型不純
物としてZnを添加しても、p型化せず抵抗率が増大する傾向が見られること、その
ため、ZnをドープしたGaN系化合物半導体の層は、従来、絶縁層として使用されて
おり、p型不純物としてMgを添加しても、Znの場合と同様に、GaN系化合物半導体
の導電性はp型を示さなかったこと、低速電子線照射法、アニール法等の処理によ
り、MgをドープしたGaN系化合物はp型化するようになり、これにより、GaN系化
合物半導体においてもpn接合型発光素子が実現できるようになったことが認められ
る。そうすると、当業者は、このようなGaN系化合物半導体については、「i型」
を高抵抗の「絶縁層」とし、低抵抗のp型と区別して、前者を絶縁層である「i
型」、後者を導電型の「p型」と呼んでいたと認められる。
   ウ 原告らは、「i型」と「π型」は同一意義として認識され、しかも、
「π型」は軽くドープした「p型」であるから、「i型」は「p型」を意味し、か
つ、「i型」と「n型」との接合がpn接合であると主張する。しかしながら、GaN
系化合物半導体において、「i型」と「p型」とは、GaN系化合物半導体にp型不
純物を添加したものを、その抵抗率の高低で区別する用語であること、その区別
が、量子論上のものではなく、構造敏感な性質等による伝導率の相違に基づくもの
であることは、上記のとおりである。
     原告らは、i型がπ型と同義であることの根拠として、G.JACOBほ
か「GaNELECTROLUMINESCENTDEVICES:PREPARATIONAND
STUDIES」(North-HollandPublishingCompany1978年発行、甲第17号証)
及び特開昭61-56474号公報(甲第25号証)を提出するが、上記文献及び
公報では、当該半導体がp型不純物のドープされたGaN半導体である上、GaN半導
体以外、不純物が添加された半導体を「i型」と表記したものは証拠上見当たらな
い。垂井康夫「[改訂版]半導体デバイス」(社団法人電気学会1999年12月
20日第2版第1刷発行、甲第24号証)には「i層」の表現が存在するが、「こ
の中間層を真性半導体の意味でi層と呼ぶものである」(59頁20行目)と記載
され、本件発明にいう「i型」とは意味が相違する。
     また、S.M.ジィー「半導体デバイス」(産業図書株式会社昭和62年
5月25日発行、甲第26号証)には、GaAs半導体が記載されているものの、p型
不純物が添加されたGaN半導体の記載はなく、特開昭61-56474号公報(甲
第25号証)には、「GaNはイオン結合性の強い結晶で、シリコン(Si)や砒化ガリ
ウム(GaAs)などの共有結晶に比較して、結晶が不完全で、窒素(N)の空孔などの結
晶欠陥を多く含んでいる」(1頁右下欄9行目~12行目)と記載され、GaAsと
GaNが性質上相違することが記載されていることに照らすと、GaAs半導体の性質か
らGaN半導体の性質も同一であると推認することは許されない。
   エ 原告らは、正孔濃度を用いた伝導型の程度から判断すれば、「i型」は
「p型」であり、「低抵抗p型」と区別されるものではないと主張する。
     しかしながら、原告らが主張する伝導型の程度は、R.MADARほか「HIGH
PRESSURESOLUTIONGROWTHOFGaN

」JournalofCrystalGrowth31
(1975)(North-HollandPublishingCompany発行、甲第30号証)の記載、すなわ
ち、電子線照射、アニール等のポスト処理をしていないp型GaN結晶は、抵抗率σ
=50Ω㎝、移動度μ=3㎝


-1

-1
との記載に基づいて正孔濃度に換算した2×10


/cm

の値と、低抵抗p型の正孔濃度の値とを、真性濃度10
-10
/cm

を原点とし、キ
ャリア濃度10
21
/cm

を1にして正規化した導電型の程度の差を根拠としているとこ
ろ、同証には、電子線照射、アニール等のポスト処理をしていないp型GaN結晶
は、抵抗率σ=50Ω㎝、移動度μ=3㎝


-1

-1
との記載に続けて、「しかしなが
ら、今までのところp型材料は多結晶の形態でしか得られていないことから、これ
らの最初の結果は確認が必要である」(202頁左欄23行目~25行目)と記載
されている。
     また、同証を参考文献として引用する、HiroshiAMANOほか「P-Type
ConductioninMg-DopedGaNTreatedwithLow-EnergyElectronBeam
Irradiation(LEEBI)」JAPANESEJOURNALOFAPPLIEDPHYSICSVol.28,
NO.12(1989)(甲第15号証)には、「しかしながら、青色LEDの性能をさらに向上
させるため、およびLDを実現するために、GaN薄膜の伝導性制御を達成すること、
特にp型GaN薄膜の開発が必要であろう。Madarなどはp型材料について報告(注、
甲第30号証)したけれども、高圧融液法によってつくられた彼らの結晶は多結晶
であり、その特性が詳細に記述されていない。今までにGaNpn接合LEDに関して
報告されたことがない。」(L2112頁左欄22行目~30行目)と記載されてい
る。、
     V.M.ANDREEVほか「LUMINESCENCEPROPERTIESOFi-n,i-n-iAND
n-i-nSTRUCTURESMADEOFEPITAXIALLAYERSGaN/α-Al203」Journalof
Luminescence35(1986)(ElsevierSciencePublishersB.V.(North-Holland
PhysicsPublishingDivision)発行、甲第22号証)は、「GaNLEDの製造と調査
に関する問題は多くの論文[1-10]及びレビュー[11-15]において議論されてい
る。」(9頁左欄5行目~7行目)と記載し、参考文献として、7年前の論文であ
るMichelBOULOUほか「RECOMBINATIONMECHANISMSINGaN:Zn」Journalof
Luminescence18/19(1979)(North-HollandPublishingCompany発行、甲第32
号証)を引用した上で、「しかしながら、GaNLEDはまだ広く使用されておらず、
これはアクセプタ、特にZnをGaNにドープするのが困難なためであろう[16~
23]。現在までの所、p型GaNの製造に関しての信頼性のあるデータがない。」
(9頁左欄7行目~12行目)と記載し、「実際、平衡状態下でGaN中にp-n接合を
つくるために利用できる方法は現在のところ存在しない。これが、Znで補償したi
層を有するi-n構造が最も普及している理由である。」(同21行目~24行目)と
記載
している。
     特開平3-218625号公報(甲第8号証)には、「p型伝導性を示
す結晶が得られたという報告は現在までにわずかに一件、R.Madar等が高圧融液法
により作製したものに限られる(JournalofCrystalGrowth、31巻、1975年、1
97~203頁)。R.Madar等が作製した結晶は多結晶であり、また高圧融液法を
用いているためp-n接合を用いた発光素子への応用は極めて難しい。」(2頁右上欄
4行目~11行目)と記載されている。
    これらの記載によれば、電子線照射、アニール等の処理をすることなく
pn接合型が可能なp型GaNの存在は、本件出願当時、当業者にとって周知の技術事
項であったということはできないだけでなく、上記(1)ウに掲げた各文献の記載及び
ShinjiNAKAMURAほか「ThermalAnnealingEffectsonP-TypeMg-DopedGaN
Films」JAPANESEJOURNALOFAPPLIEDPHYSICSVol.31(1992),NO.2B(甲第38号
証)図1(L140頁)に、p型不純物が添加されたGaN半導体でアニールなどの処理
がされていない「i型」の抵抗率は10

Ωcmと記載され、他方、p型不純物が添加さ
れたGaN半導体でアニール等の処理がされたものの抵抗率は10

Ωcmと記載されるよ
うに、「i型」は低抵抗でないから、原告らの主張は失当である。
   オ 原告らは、低抵抗と高抵抗の概念は相対的であり、GaNは、抵抗率でい
えば、10
28
~10
-3
Ω㎝で変化するので、「i型」と「p型」とは抵抗率で区別でき
ず、両者ともに、量子力論上明確に定義された「p型」であると主張するが、上記
のとおり、「i型」と「p型」は抵抗率により区別されているのであって、原告ら
の主張は失当である。
   カ 原告らは、in接合であっても、pn接合と同様、注入型による発光機構で
あるとした上、発光機構により「i型」と「p型」が区別されていると主張する
が、上記のとおり、「i型」と「p型」は、抵抗率により区別されているのであっ
て、発光機構により区別されているものではないから、原告らの主張は理由がな
い。むしろ、当初明細書(甲第3号証)第8図(5頁)、平木昭夫監修「高輝度青
色発光のための電子材料技術」(株式会社サイエンスフォーラム1991年12月
30日発行、乙第1号証)図-8(54頁右欄)に示されるように、i層、n型GaN
から成るMIS型発光ダイオードの発光機構の解析が理論的に確立していたとはいえな
いから、発光機構を上記区別の根拠とすることは、その前提においても理由がな
い。
   キ 原告らは、Niが「p層」と呼ばれるGaN系半導体と接合される電極とし
てAlより良好な金属であると主張する。しかしながら、上記のとおり、p型不純物
を添加したGaN系半導体における「i型」と「p型」に上記導電性の相違がある以
上、「i型」における電極としてAlよりNiの優れていることが実験的に見いだされ
たとしても、そのことから、直ちに、上記技術を「p型」に適用することまでも当
業者に周知であったとは認められないから、原告らの主張は失当である。
 (3) 原告らは、本件決定が「i型」と「p型」、「MIS型」と「pn接合型」を
峻別することができるとした結果、本件補正が当初明細書の要旨変更に当たるとの
結果に至ったにもかかわらず、「i型」及びMIS型の定義が不明であると主張する。
   そこで、検討すると、当初明細書(甲第3号証)には、「【0002】【従来
技術】従来、青色の発光ダイオードとしてGaN系の化合物半導体を用いたものが知
られている。・・・そのn層の上にp型不純物を添加してi型のGaN系の化合物半
導体から成るi層を成長させた構造をとっている(特開昭62-119196号公
報、特開昭63-188977号公報)」(1欄31行目~43行目)、
「【0003】【発明が解決しようとする課題】・・・特に、MIS(MetalInsulator
Semiconductor)構造の発光ダイオードにおけるi層の電極の層構造については、特
公昭57-46669号公報にて開示された程度であり、発光に係わるi層の電極
の役割については全く論じられていないのが現状である。」(1欄44行目~2欄
8行目)と記載され、「i型」及び「MIS型」の用語が格別の定義もされずに従来技
術として用いられている。また、平木昭夫監修「高輝度青色発光のための電子材料
技術」(株式会社サイエンスフォーラム1991年12月30日発行、乙第1号
証)の上記(1)イの記載によれば、本件出願当時、既に、i層から成る「MIS型」及
び「i型」の概念は、当業者にとって周知の技術事項であったというべきであり
、原告らの主張は失当である。
 (4) 原告らは、取消事由の主張に関連して、技術的背景に係る本件決定の認定
が誤りであると主張するので、この点について判断する。
   ア 本件決定は、GaN系化合物半導体の性質を利用して構成される発光素子
が「MIS構造」と「pn接合」とに大別されると認定する。原告らは、この認定が誤り
であると主張するが、上記(3)のとおり、両概念は、当業者にとって周知の技術事項
であったというべきであって、本件決定の上記認定は正当である。
   イ 本件決定は、MIS構造について、絶縁層又は電極と絶縁層の界面近傍を発
光させるものであると認定するところ、原告らは、この認定が誤りであると主張す
る。しかしながら、MIS型の発光箇所の問題は、「i層」を「p型不純物を添加した
層」とする本件補正が当初明細書の要旨を変更するかどうかとは関係がないから、
その当否について判断するまでもなく、原告らの上記主張は失当である。
   ウ 本件決定は、pn接合が、p型半導体とn型半導体とを接合させ、順方向
電圧を印加して、p型半導体とn型半導体の界面近傍を発光させたものであると認
定するところ、原告らは、この認定が誤りであると主張する。
     しかしながら、原告らも、pn接合がp型半導体とn型半導体の界面近傍
を発光させるものであることは認めており、これがMIS型にも該当することを主張す
るにすぎないから、本件決定の認定が誤りであることの理由とはならず、まして、
本件補正が当初明細書の要旨を変更するものであるかどうかの判断を左右するもの
ではない。
   エ 原告らは、GaN系化合物半導体において、Znを添加してもi型がp型化
しないとし、また、Znを添加した層が、従来、MIS構造における絶縁層として使用さ
れてきたとする本件決定の認定が誤りであるとも主張するが、いずれも、「i型」
が量子論上「p型」であることを前提とした主張であって、その前提が誤りである
ことは上記のとおりであるから、前提を欠き失当である。
   オ 本件決定は、低速電子線照射法、アニール法等によりMgをドープした
GaN系化合物半導体がp型化し、これによりGaN系化合物半導体においてもpn接合
型発光素子が実現した経緯があると認定するところ、原告らは、この認定が誤りで
あると主張するので、この点について判断する。
     上記(2)エのとおり、HiroshiAMANOほか「P-TypeConductionin
Mg-DopedGaNTreatedwithLow-EnergyElectronBeamIrradiation
(LEEBI)」JAPANESEJOURNALOFAPPLIEDPHYSICSVol.28,NO.12(1989)(甲第15
号証)には、それまでに、GaNpn接合LEDに関して報告されたことがない旨の記載
があり(L2112左欄29行目~30行目)、MichelBOULOUほか「RECOMBINATION
MECHANISMSINGaN:Zn」JournalofLuminescence18/19(1979)」(North-Holland
PublishingCompany発行、甲第32号証)には、その当時、GaNLEDはまだ広く
使用されておらず、これはアクセプタ、特にZnをGaNにドープするのが困難なため
であると考えられ、当時、p型GaNの製造に関して信頼性のあるデータはない旨の
記載がある。
     特開昭59-228776号公報(甲第33号証)には、「GaN材料
は、通常不純物未添加の状態ではNの空格子点のためにn型になり、ZnまたはMgな
どのアクセプター・ドーパントを添加しても、高抵抗になるだけでp型エピ膜を形
成することができない。従ってGaNの場合も通常は発光素子としてMIS構造をとる。
たとえば(S)層としてノンドープGaNを用い、(I)層として、Zn添加GaNを用い、
(M)としてInを用いてMISを形成するが、動作電圧が7.5~10Vと高くなる欠点があ
る。SiC材料は、通常アクセプターとしてAl、ドナーとしてNを添加してpn接合を
形成することができるが、結晶多形の制御が困難であるうえに、発光機構がバンド
間の間接遷移によるので、発光効率が低いという欠点がある。本発明はこれらの欠
点を解決するために、AlN,AlXGa1-XN(0<X<1)がp,n両型形成できるこ
と、およびこれらの材料がGaNとの格子整合性のよいことに注目して、GaNとAlX
Ga1-XN(0<X£1)でヘテロ接合素子を形成するようにしたもので、青色領域近
傍の可視光領域での高効率な発光素子を得ることを目的とする。」(1頁右下欄1
7行目~2頁左上欄17行目)と記載されており、「通常は発光
素子としてMIS型となる」との記載から、「AlXGa1-XN(0<X<1)がp,n両型
形成」するためには、何らかの処理が必要であることは明らかであるが、当該処理
に関する記載は認められず、他に当該処理手段が当業者に知られていたことを認め
るに足りる証拠もない。
     また、特開平2-229475号公報(甲第34号証)には、「今まで
に製作されているGaNを用いた発光素子の全てが、原理的に低発光効率であるMIS型
である」(2頁左上欄3行目~5行目)、「サファイアとGaNは結晶構造が似てい
るという理由のみで、常にサファイア上にGaNが成長されている。その結果とし
て、p形或いはn形層にZnを添加した高抵抗のGaNしか得られていない。その最も
大きな理由は、前述した大きな格子不整合によると考えられる。」(2頁左上欄7
行目~12行目)、「従って、本発明と従来技術との差異は、次の二点である。第
一の差異は、本発明では基板と基板上に成長した結晶の格子定数が整合しているの
に対して、従来のものは格子不整合であったことである。この格子不整合のため、
従来の結晶では、結晶中に転位等の多くの欠陥が生じ、伝導型制御ができなかった
り、あるいは注入したキャリアの寿命が発光再結合にかかる時間より短かったりし
た。そのため、従来は発光効率の極めて低いMIS型の発光素子しか作れなかった。」
(2頁左下欄末行~右下欄10行目)と記載され、実施例3に「Znドープp形
InGaAlNクラッド層20,Znドープp形InGaAlN埋め込み層21」(5頁右下
欄17行目~19行目)が示されている。他方、p型GaN系化合物半導体が格子整
合性を考慮することよって形成し得る旨の記載がある証拠はほかになく、上記公報
の記載により、直ちに、p型GaN系化合物半導体について、現実に実現の可能性が
あったとまで認めることはできない。
     以上の証拠を総合すれば、低速電子線照射法、アニール法等によりMgを
ドープしたGaN系化合物半導体がp型化し、これによりGaN系化合物半導体におい
てもpn接合型発光素子が実現した経緯があるとした本件決定の認定は正当というべ
きであり、原告らの主張は失当である。
 2 以上のとおり、原告ら主張の決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条、65条1項本文を適用して、
主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   長   沢   幸   男
            裁判官   宮   坂   昌   利

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