弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
原告の請求を棄却する6
訴訟費用は原告の負担とする、
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五六年四月九日付で原告に対してした厚生年金保険法による遺族年
金を支給しない旨の裁定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、厚生年金保険の被保険者であつたA(昭和五六年一月一二日死亡。以
下「亡A」という。)の内縁の妻としで、同五六年二月二七日被告に対し厚生年金
保険法(以下「法」という。)による遺族年金の支給裁定を請求したところ、被告
は同年四月九日付で、原告は右年金の受給権者に該当しないとして右年金を支給し
ない旨の裁定(以下「本件裁定」という。)をした。そこで原告はこれを不服とし
て、同年六月一七日神奈川県社会保険審査官に対し審査請求をしたところ、同年一
〇月三〇日付で棄却され、さらに同年一二月二八日社会保険審査会に対し再審査請
求をしたところ、同審査会は同五七年一二月二〇日付でこれを棄却した。
2 しかしながら、原告は以下のとおり、法による遺族年金の受給権者たる亡Aの
「配偶者」に該当するから、これを否定した本件裁定は違法である。
(一) 亡Aの父B(以下「亡B」という。)は、昭和八年一一月一五日Cと婚姻
し、同女との間に亡A、D及びEをもうけ、同二一年八月二八日Cが死亡したのち
婚姻したFとは、同二三年一月一四日協議離婚し、同二五年三月三〇日原告と婚姻
し、同年四月五日原告の子G(同二六年一一月三日死亡)及びHと養子縁組をし、
さらに原告との間にIをもうけたが、同二六年九月二五日死亡した。
(二) 原告は、亡B死亡後昭和三三年四月ころから亡Aと性釣関係をもつように
なつたが、同人との婚姻は民法七三五条の規定に違反するため婚姻届出を断念し
た。しかし、亡Aは右のころから原告及び前記H、Iと同居し、原告との間にJ
(昭和三四年七月三日出生)、K(同三五年七月二四日出生)及びL(同三七年八
月一〇日出生)の三子をもうけ、いずれも認知の届出(Jにつき同三四年一二月四
日、Kにつき同三五年八月九日、Lにつき同四四年一月二〇日)をし、
原告とともに右子らの養育に努める等その死亡時まで原告と家庭生活を営んでいた
のみならず、住民基本台帳上も原告らと世帯を共にし世帯主となつていた。
(三) 以上のとおり、原告が亡Aと内縁関係すなわち事実上の婚姻関係にあつた
ことは明らかであるところ、法による遺族年金の受給権者たる「配偶者」(法五九
条一項本文)には「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあ
る者」(法三条二項)が含まれるから、原告は亡Aの法上の「配偶者」に該当す
る。
よつて、本件裁定には原告が亡Aの法上の「配偶者」であることを否定した違法が
あるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める
2 同2について
(一) 冒頭部分の主張は争う。
(二) (一)の事実は認める。
(三) (二)のうち、亡Aが原告との間にJ、K及びLの三子をもうけ、原告主
張の日にそれぞれ認知の届出をしたことは認めるが、その余の事実は不知。
(四) (三)の主張は争う。
三 被告の主張
1 法三条二項にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情
にある者」には、いわゆる内縁関係にある者(社会的事実としては夫婦の実質を備
えながら、婚姻の届出を欠くために法律上の婚姻とは認められない男女の関係にあ
る者)すべてが包含されると解すべきではない。なぜならば、法による保険給付
は、主として、法律上加入を強制されている被保険者の掛金及び国庫負担金等をも
つてまかなわれる一種の公的給付の性質を有するものであり、かかる公的給付を受
けるには、自らそれにふさわしい者のみが給付対象者とされるべきは当然であり、
法はこのことを前提としていると解されるからである。したがつて、当該当事者が
夫婦としての継続的な両性関係をもつこと自体を正しくないとする社会一般の倫理
観に違反するような内縁関係にある者、すなわち、反倫理的な内縁関係にある者
は、法にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある
者」には含まれないものというべきである。
2 また法が、法による保険給付を受けることができる「配偶者」を法律上の婚姻
関係にある者に限定していたものを「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様
の事情にある者」をも含むとするに至つた経緯が、届出をすればいつでも法律上の
婚姻関係に入ることができる夫婦の実質を有する者が、婚姻の届出(手続)をして
いないという形式的な理由によつて、法の保護を与えられないという欠陥を補い実
情に即せしめようとしたことにあることにかんがみるならば、法に定める内縁関係
は、婚姻の届出をすれば、いつでも有効に婚姻関係に入ることができる関係に限定
されると解すべきである。このことは、法三条二項が「婚姻の届出をしていない
が、」との文言を用いて規定されているところからも明らかである。
3 そうすると、仮に原告と亡Aとが内縁関係にあつたとしても、原告は亡Aの父
亡Bの妻であつたから、原告と亡Aは直系姻族一親等に該当し、その内縁関係は民
法七三五条の規定の趣旨に違反する内縁関係であつて、反倫理的なものであり、婚
姻の届出を受理されず、有効に婚姻関係に入ることのできないものであるから、原
告は亡Aの法に定める配偶者には該当しない。したがつて、本件裁定には原告主張
の違法は存しない。
四 被告の主張に対する認否
被告の主張は争う。
五 原告の反論
1 婚姻に関する倫理観は時代・地域により異なり普遍的なものではないのであつ
て、婚姻自由の原則、配偶者選択自由の原則が強調され、公共の福祉に反しない限
り立法上最大の尊重を要求されている憲法の下では、直系姻族間の婚姻が右倫理観
に違反するものといえるか疑わしいから、右姻族間の内縁関係にあたる者であるこ
とのみをもつてこれを法に定める配偶者から除外すべきではない。
2 原告が亡Aと直系姻族の関係にあるとしでも、同人と内縁関係に入つたのは一
年半しか婚姻関係になかつた亡B死亡後七年も経過したのちであるうえ、亡Aと養
親子関係にあつたことはなく、右内縁関係発生前において両当事者間に扶養義務や
親子関係上の権利・義務はなかつたのみならず、両当事者間の子が出生しても優生
学上の問題は生じえない場合であるから、このような内縁関係は反倫理的なものと
はいえない。したがつて、原告が亡Aとの関係で法に定める配偶者に該当しないと
する合理的理由は存しない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 1 法による遺族年金は、被保険者又は被保険者であつた者が法五八条一項各
号の一に該当する場合に、その者の遺族に支給されるものであるところ、法五九条
一項において右遺族として「配偶者」が掲げられており、この「配偶者」には法三
条二項によつて「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある
者」を含む、とされている。そして右「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関
係と同様の事情にある者」には、内縁関係にある者のすべてが含まれるものではな
く、社会通念上夫婦としての共同生活と認められる事実関係を成立させようとする
合意が当事者間にあり、かつ、その事実関係が存在するいわゆる内縁関係にあるも
ののうち、反倫理的な内縁関係にある者を包含しないと解するのが相当である。け
だし、法による保険給付は主として法律上加入強制されている被保険者の掛金及び
国庫負担金等をもつてまかなわれる公的給付の性質を有するものであり、かかる公
的給付を受けるにはそれにふさわしい者のみが給付対象者とされるべきところ、社
会一般の倫理観に反するような内縁関係にある者は公的給付を受けるにふさわしい
者とは認められないからである。
これを本件についてみるに、原告が亡Aの父である亡Bの妻であつたことは当事者
間に争いがなく、右の事実によれば原告と亡Aとは直系姻族一親等にあたるから、
民法七三五条の規定により婚姻をすることができない関係にあることは明らかであ
る。そして同条は一たん適法に成立した婚姻により直系姻族としての生活感情を生
じた者の間に婚姻を認めることは社会の倫理をみだすとの観点から規定されたもの
であつて、同条に抵触する場合には婚姻の届出は受理されず、有効に婚姻関係に入
ることができないものである以上、仮に原告が亡Aと内縁関係にあつたとしても、
原告は法にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある
者」にはあたもないものというべきである。したがつて、本件裁定に原告主張の違
法は存しない。
2 これに対し原告は、婚姻自由の原則、配偶者選択自由の原則が強調され、公共
の福祉に反しない限り立法上最大の尊重を要求されている憲法の下で、直系姻族間
の婚姻が現在において反倫理的なものといえるか疑わしいから、右姻族間の内縁関
係にあたることのみをもつて、法に定める配偶者から除外すべきでない旨主張す
る。しかしながら、直系姻族関係にある者の間の内縁関係が前記のとおり反倫理的
なものであることは民法七三五条の規定から明らかであるから、原告の右主張は理
由がない。
また原告は、亡Aと内縁関係に入つたのは一年半しか婚姻関係になかつた亡B死亡
後七年も経過したのちであるうえ、亡Aと養親子関係にあつたことはなく、右内縁
関係発生前において両当事者間に扶養義務や親子関係上の権利・義務はなかつたの
みならず、両当事者間の子が出生しても優生学上の問題は生じえない場合であるか
ら、原告と亡Aとの内縁関係は反倫理的でない旨主張する。しかしながら、前記の
とおり原告と亡Aが直系姻族一親等にあたる以上両名の内縁関係は反倫理的なもの
であるといわざるをえず、原告主張の事実関係は民法七三五条の適用を排除するも
のではないから、原告の右主張は理由がない。
三 よつて、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することと已、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり
判決する。
(裁判官 時岡 泰 菊池 徹 大鷹一郎)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛