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裁判例


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       主   文
一 被告は、別紙当事者目録の原告番号1ないし69、71、72、74、75、
79、82、83、86、87、89、93ないし96、101、102、104
ないし107、110ないし115、117、118、121ないし124、12
8、129に記載の原告らに対し、別紙請求金額合計一覧表中右各原告の請求金額
欄にそれぞれ記載してある金員を支払え。
二 その余の原告ら(別紙当事者目録の原告番号70、73、76ないし78、8
0、81、84、85、88、97ないし100、108、109、116、11
9、120、125ないし127に記載の原告ら)の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第二項に記載の原告らと被告との間においては、被告に生じた費
用を七分し、その一を同原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、第一項に記
載の原告らと被告との間においては被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、かりに執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
 一 原告ら
 「1 被告は、原告らに対し、それぞれ別紙請求金額合計一覧表記載の金員を支
払え。2訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言。
二 被告
「1 原告らの請求をいずれも棄却する。2訴訟費用は原告らの負担とする。」と
の判決。第二 当事者の主張
一 請求の原因
(一) 被告は、船積貨物の積込みまたは陸揚げを行なうに際してする貨物の個数
の計算または受渡しの証明(検数業務)および輸入穀物等の重量検査、輸入木材の
材積算出(検量業務)を業とする社団法人である。
(二) 原告らのうち、原告番号70、73、76ないし78、80、81、8
4、85、88、97ないし100、108、109、116、119、120、
125ないし127に記載の原告らを除くその余の原告ら(以下第一群の原告らと
いう。)は、もと訴外協和検数株式会社(旧商号東都検数株式会社。以下単に協和
検数という。)の従業員であつたが、昭和四一年三月三一日協和検数が解散したの
で、同年四月一日被告の従業員として採用された者であり、第一群の原告らを除く
その余の原告ら(原告番号70、73、76ないし78、80、81、84、8
5、88、97ないし100、108、109、116、119、120、125
ないし127に記載の原告ら二二名。以下第二群の原告らという。)は、すべて昭
和四二年六月一日以降被告の従業員として雇用された者である。原告番号61のa
が事務員であり、その他の原告らはすべて検数員である。
(三) 原告らと被告との雇用契約は、原告らに遅刻、早退、欠勤(組合の用務に
よる欠勤《以下単に組合休という。》を含む。)があつても、欠勤が連続一か月以
上に及ばない限り、欠勤などにつき、その月の賃金を控除しない契約であつた。そ
して、このことは次の事実から明白である。
1(1) 被告においては、昭和四二年六月一日前は昭和三七年六月一日改正の就
業規則(以下単に旧就業規則という。)およびそれと一体をなす「給与ならびに旅
費規定」(以下単に給与規定という。)が施行されていたので、これが、第一群の
原告らと被告との雇用契約の内容となつているところ、右給与規定中には、遅刻、
早退、欠勤(組合休を含む。)を理由に賃金を差引く旨を定めた規定がない。
 すなわち第一群の原告らは前述のようにもと協和検数の従業員であつたところ、
昭和四一年三月三一日協和検数が解散したので、同年四月一日から被告の従業員と
なつた者であるが、原告ら所属の全日本港湾労働組合関東地方東京支部(以下単に
全港湾東京支部という。)は、後記覚書によつて約した基本条件にそつて協議をし
た結果、昭和四一年六月七日文書をもつて被告と給与組替えに関する協定を締結
し、原告ら組合員の給与について、同年四月一日に遡つて、当時存在していた旧就
業規則ならびに給与規定を適用する旨約した。そして、これによれば、給与は月ぎ
めでいわゆる月給制であるところ、旧就業規則ならびに給与規定には賃金控除条項
がないのである。
(2) また、第一群の原告らが被告の従業員となるに先立ち、昭和四一年二月、
被告と協和検数とは、「運輸省の行政指導による企業合同に関する覚え書」を締結
し、その覚書で企業合同に関する基本条件の一つとして「甲(被告協会)は乙(協
和検数)の全従業員を継承し、其の身分については乙に於ける地位を下らぬ処遇を
する」、「乙の役職員その他の従業員の諸給与については現給与額を下らぬものと
する」旨を約し、両社はその基本条件に基づき、昭和四一年三月三一日合併し、協
和検数は同日をもつて解散したので、同年四月一日第一群の原告らは被告の従業員
となつたのである。協和検数と全港湾東京支部との労働協約にも遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む)の場合に賃金を差引く旨を定めた規定がない。
2(1) 被告協会がその従業員に対し、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)に
ついて一方的に賃金控除を行なわず完全な月給制により賃金を支払うということ
は、昭和一七年被告協会設立以来、昭和四二年五月末日まで二五年間行なわれてき
た労使慣行であつた。そして、第一群の原告らに対しても、前記昭和四一年四月一
日以降翌四二年五月末日までの一年二カ月の間は、遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)につき一方的に賃金控除を行なうということは全くなく、完全な月給制度が
保障されていた。
 このような労使慣行が長期間続いてきた事実は、とりもなおさず、その慣行が被
告の労使関係の実態に適応した合理的な慣行であることを示すものである。
 すなわち、原告らの従事する労働は、著しい長時間労働が常態となつており、現
在一カ月実に二〇〇時間という殺人的な時間外労働が行なわれている。しかも、こ
の労働は、戸外作業であり、風雨、雪、寒冷、酷暑等の自然的悪条件にさらされる
中で、終始立つたまま行なわれる。このため、原告ら労働者は、胃腸病、痔疾、眼
病、風邪等の疾病にかかる度合が極めて多く、つねに生命、健康の危険におびやか
されているといつても過言ではない。
 このような苛酷な労働のために、その反面として、被告協会は労働者の遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)をゆるやかに取扱い、これに対する賃金控除は行なわ
ないという労使慣行が形成され存続してきたのである。
(2) また、協和検数でも、昭和二五年一月設立以来一七年間にわたり遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)について一方的に賃金控除を行なわないという労使慣
行が行なわれ、これが第一群の原告らと協和検数との労働契約の内容となつてい
た。そして、被告は、前記企業合同に関する覚書により右労働契約を承継したので
ある。
(四) 原告らが、昭和四二年六月以降昭和四四年九月までの間、別紙請求金額内
訳一覧表記載のとおり遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)をしたほかは、所定の
勤務をしたにもかかわらず、被告は、右遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)を理
由に、被告が昭和四二年六月一日から一方的に改訂、施行した就業規則、給与規定
を適用して、別紙請求金額内訳一覧表記載のとおり賃金控除を行なつた。
(五) よつて、原告らは被告に対し、前記雇用契約上、賃金控除がなければ支払
われる別紙請求金額合計一覧表記載の賃金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する被告の認否
(一) 請求の原因(一)は認める。
(二) 請求の原因(二)も認める。
(三) 請求の原因(三)について
 冒頭の事実は否認する。
1 請求の原因(三)1につき
(1) (1)は認める。
 しかし、第一群の原告らに遡及適用されることになつた被告の給与制度は、後記
の昭和二六年五月に被告と全日本港湾労働組合日検地方本部との間に締結された給
与ベースに関する協定からその後昭和四〇年五月二二日に被告と日本検数労働組合
(以下日検労という。)との間に締結された「時間外賃金改訂に関する協定書」お
よびその解釈に関する覚書に至るまでの歴史的事実とその間における労使の諒解を
前提として初めて理解さるべきものである。特に、被告は、昭和四一年六月七日付
の前記給与組替えに関する協定の締結に際し、原告ら所属の全港湾東京支部に対
し、被告と日検労との間の前記「時間外賃金改訂に関する協定書」の締結に至る協
議の過程において、右両者間に将来就業規則を改訂し欠勤等につき賃金控除を行な
う旨の諒解が成立していることを説明しているのである。したがつて、将来も遅
刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金控除をしないということは、原告
らの雇用契約の内容とはなつていない。
(2) (2)のうち、昭和四一年二月被告と協和検数とが企業合同に関する覚書
を締結し、原告ら主張の事項を約したこと、第一群の原告らが協和検数の従業員で
あつたところ、昭和四一年三月三一日協和検数が解散し、同年四月一日被告が右原
告らを雇用したことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 請求の原因(三)2につき
(1) (1)のうち、被告においては、昭和一七年以来昭和四二年五月まで遅
刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金控除をした実例がないこと、第一
群の原告らに対しても昭和四一年四月一日から昭和四二年五月末日まで遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)につき賃金控除を行なわなかつたことは認めるが、そ
の余の事実は否認する。
 賃金控除を行なわなかつた事情は、次に述べるとおりである。
 被告は、昭和二六年五月、当時の従業員によつて組織された全日本港湾労働組合
日検地方本部との間に従業員の給与ベースを一四、四二〇円と協定したが、その際
深夜を含む時間外賃金の計算基準については労働基準法の定めるところによること
なく、本人給、技能給を合計した額の五割を時間外賃金計算の基準額とすることに
した。その理由は、第一に労働者の生活安定のためには時間外賃金の基準となるべ
き固定給そのものの引上げが望ましいためである。第二に、検数業のように夜間作
業の占める割合が多い業種では時間外の割増分が賃金のうちの多くの部分を占める
ので、固定給を引上げると、これに伴つて大幅に時間外賃金の増加をきたすことは
必然であり、そうなると被告の経営を危殆に陥れることになるという見地から、日
検地方本部がこのような危険を避け、かつ原資の許す限り多くの固定収入を得るた
め自らもまた右協定のような提案をしたことによるものである。
 このように労働者に対し一応固定給の引上げをはかつたものの、労働基準法の定
める時間外賃金を完全に支給する余裕のない状況にあつた。そのため、被告として
は、労働者の遅刻、早退、欠勤等により作業の正常な運営に支障をきたす程度が僅
少である限り、敢て賃金控除をもつてその責任を追及することはしないということ
も、労使双方の諒解するところであつたのである。そして、前記協定とこれに関す
る右諒解事項は、その後日検労の是認するところとなつた。
(2) (2)は否認する。
(四) 請求原因(四)は認める。
(五) 請求原因(五)のうち、賃金控除、すなわち原告らに遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)がなかつたならば別紙請求金額合計一覧表記載の金額が原告ら
に支払わるべき金額であることは認める。
三 抗弁
 かりに、原告ら主張のように遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)につき賃金控
除をしないということが雇用契約の内容をなしていたとしても、原告らに対する賃
金支払いについての契約内容は、次のとおり変更された。
1 就業規則および賃金規定の改訂
(1) 被告は、就業規則改訂案とこれと一体をなす給与規定改訂案を作成し、こ
れについて、被告従業員所属の組合すなわち、日検労と全港湾東京支部との意見を
徴し、日検労からは昭和四二年四月五日付で、また、原告らの所属する全港湾東京
支部からは同月二〇日付でそれぞれ意見書の送付をうけた。被告は、さらに、経営
協議会での協議を経たうえ、昭和四二年六月一日より就業規則を改訂施行すると同
時に給与規定をも改訂施行した。
 もつとも、右改訂について原告ら個々の従業員ならびにその所属組合から同意は
得ていない。
(2) 右施行された改訂就業規則および給与規定によれば、遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)の場合の賃金の取扱いは左のとおりである。
(ⅰ) 欠勤の場合の減額の方法
 欠勤の場合の賃金減額については、無届欠勤の場合は一日につき本給の二五分の
一を、届出欠勤の場合は一日につき本給の五〇分の一を、それぞれ減額し、休務を
必要とする診断書を提出した場合は本給の五〇分の一を減額する反面、同額の病休
扶助を支給することとした(給与規定三五条)。
(ⅱ) 遅刻・早退の場合の減額の方法
 遅刻・早退については、改訂就業規則二八条に「遅刻・早退するときはその時間
を不就業として扱う。」とあり、また同時に改訂された給与規定三四条には、「遅
刻・早退は、その不就業時間に当たる本給を控除する。」とある。
 そして、給与の支給原則は月給制であるが、例外として日給制を建前とする者も
ある(給与規定三条)。前者のように月ぎめ賃金を支給されている者につき日割計
算の必要を生じたときは、当該賃金を二五で除した額をもつて日額とするのが定め
である(給与規定三〇条三項)。
 一日のうちの不就業時分に相当する賃金額算出の方法については、直接明記した
規定はないが、就業規則三三条で「勤務時間は休憩時間をのぞき一日八時間」とす
る旨規定しているので、不就業の時分に相当する当該賃金額は、前記日額算出の方
法が明定されている限り、次に述べるように、これを基礎として当然論理的に算出
できるので、敢て明文をおかなかつた。すなわち、月給制の者についていえば本給
月額の二〇〇分の一が一時間の本給額になり、その六分の一が一〇分間の本給額に
なるわけである。
 しかし、この原則に対して、被告は、実際には労働者に有利に緩和する方向にお
いて、大幅の修正を加えた方法により、本給を控除してきているのである。給与規
定三四条が、遅刻・早退は所定の方法によりその不就業時間に当たる本給を控除す
ると規定するのは、このことを意味する。
 右所定の方法とは、要約すれば、
(イ) まづ遅刻の取扱いについて、始業時(午前七時三〇分ー以下〇七三〇と表
示する。時間の表示は以下同じ要領による。)より一〇分間(〇七四〇まで)は遅
刻扱いとするが、賃金控除の対象としない。じ後の出勤は、次のようにして控除の
対象とする。
〇七四一ー〇七五〇の間に出勤した者(〇七三〇ー〇七四〇の間の一〇分を控除対
象とする。)
〇七五一ー〇八〇〇の間に出勤した者(〇七三〇ー〇七五〇の間の二〇分を控除対
象とする。)
〇八〇一ー〇八一〇の間に出勤した者(〇七三〇ー〇八〇〇の間の三〇分を控除対
象とする。)
〇八一一以降右要領に従つて行なう。
 以上の方法により日々記録した遅刻時分を賃金締切期に月間集計の後、三〇分単
位に賃金控除を行ない、端数は切捨てる(例、四〇分は三〇分に、八〇分は一時間
に。)。
(ロ) 早退による不就業時間の賃金控除は一時間当たりの単価を本給の四〇〇分
の一とする。
(ハ) 右にいう所定の方法は、被告は本件改訂就業規則および改訂給与規定を実
施すると同時に各事業場の見易い場所に掲示して、従業員に周知の方法を講じ現在
に至つている。
(ニ) 所定の方法により算出した時分給が、就業規則三三条、給与規程三〇条三
項の定める原則により算出した時分給に比べて、労働者に有利に修正されているこ
とは、所定の方法の内容自体から明らかであるが、若干補足する。
 遅刻についていえば、遅刻による賃金控除時間の捉え方ならびに集計方法におい
て、労働者に有利に修正していることがその特徴といえよう。早退についていえ
ば、就業規則、給与規定の定める原則からは、不就業時間の賃金控除は一時間当た
りの単価である本給月額二〇〇分の一となるべきところ、その半額の四〇〇分の一
となつていることは、労働者に有利に修正されているといえよう。このことは、給
与規定三五条二項所定の届出欠勤の場合の減額を本給の五〇分の一と定めたことと
同様の考え方に基づくものである。すなわち、不就業という点では欠勤も早退も同
様であるが、欠勤のうち届出欠勤は職場秩序をみだす度合において、無届欠勤ほど
大きいとはいえないのであるから、その賃金減額に当たり前者は後者に比べて労働
者側に有利に考慮する余地がある。そこで、無届欠勤に対しては、本来の原則に則
り、不就業時間に相当する本給を全部控除するにもかかわらず、届出欠勤に対して
はその半額にしたというのが給与規定三五条の趣旨である。また早退は、一旦勤務
についた後、自己の都合により管理者に届出て勤務を離れる行為であるから、無届
欠勤よりは有利に、届出欠勤とは同じように評価してよいという考え方である。
(ⅲ) 組合休に対する賃金不払
(イ) 就業時間内であるにかかわらず、組合の各種会合への参加その他組合活動
のため労働に従事しないことは、その所要時間、参加の時刻等の態様に照らし、前
記遅刻、早退、欠勤による影響と何ら異なるところがない。
 また、組合活動に基因する労務不提供の場合は、私用による労務不提供の場合と
は別個に考えなければならない。
すなわち、労働組合法は、労働組合の自主性を強調し、使用者の組合に対する資金
援助を禁止するのみならず、資金援助を受けた場合は組合としての資格を与えない
態度をとつている。そして、同法二条および七条においては、労働時間中に使用者
と協議または交渉する場合に限り、その時間の賃金を受けうると規定し、原則とし
て時間内の組合活動については賃金の支払いを禁じている。したがつて、労働時間
内の組合活動について賃金を支払うことは、同法の精神に反するもので、私用によ
る欠勤等とはその取扱いを異にする。
(ロ) 被告が従業員に対し組合休という事由によつて賃金を減額控除する場合
は、争議行為による不就労の場合と就業時間内の組合活動に基因する不就労の場合
とに大別できる。前者の場合は一日につき本給の二五分の一(時間の場合は本給の
二〇〇分の一)を控除することとし、その実施は第一群の原告らを協和検数から被
告に引継ぐ前から行なつており、右原告らを受入れるに当たり、この旨を被告から
原告らの所属する全港湾東京支部に念のため通知し、さらにその団体交渉の席上に
おいても説明ずみである。
 組合活動に基因する不就労の場合は、旧就業規則三一条一項で「従業員は就業時
間中に組合活動をしてはならない」旨規定し、その運用については、当初は就業時
間中の組合活動が被告の業務遂行に支障を与える程度も僅少であり、敢えて就業時
間中の不就労に対し賃金控除を行なわなかつた。しかるに、逐年組合活動による就
業時間中の不就労が増大して被告の業務遂行上看過しえない状況となり、かつ、今
次就業規則改訂に伴い私用による遅刻・早退・欠勤につき賃金控除を実施するにか
かわらず組合活動についてのみ従前の扱いのままでは、経理上の援助を禁止した労
働組合法七条三号の精神に反し、他面一般従業員に対しても差別扱いをする結果と
なることを考慮し、
① 団体交渉その他届出にかかる特定の重要会合につき特定の回数を限り賃金を保
障する。
② 届出にかかる特定の会合については一日につき本給の五〇分の一(時間の場合
は本給の四〇〇分の一)を控除する。
③ 右以外は組合用務による不就労としては取扱わない(結局、私用による欠勤と
して取扱われ、届出の有無により、賃金控除は本給の二五分の一と五〇分の一の二
種に区別される。)
というように場合を三つにわけて賃金を控除することとした。
 このような取扱いは、労働組合法二条、七条の精神および新旧就業規則三一条一
項の規定に照らし、被告が当然一方的になしうるところである。
 もつとも、被告はこの取扱いの円滑な実施を期待して原告らの所属する全港湾東
京支部に協定の締結を申入れたが、妥結をみるに至らず今日に至つている。
2 本件就業規則および給与規定改訂の合理性等
(1) 新規定は原告ら従業員にとつて不利益ではない。従来、遅刻、早退、欠勤
(組合休を含む。)について賃金を控除しなかつたのは、前述のように、昭和二六
年当時労働基準法の定める時間外賃金を完全に支給する余裕のない状況であつたの
で、法定の計算方法による時間外賃金を支払わないことの了承を得た反面、従業員
の遅刻・早退・欠勤(組合休を含む。)も、作業の正常な運営に支障をきたす程度
が僅少である限り、敢て賃金減額の対象としないという労使双方の諒解が成立し、
これによつて処理してきたためである。
 したがつて、被告が、従業員に対し、遅刻・早退・欠勤(組合休を含む。)の場
合無条件で賃金全額の支給を保障したものでもなく、あるいは将来にわたつても減
額しないことを約束したものでもなく、このような措置は周囲の事情の改善に伴つ
ていずれは解消されるという諒解にたつていたものである。しかも、被告と日検労
とは昭和四〇年五月に至り適正な労働には適正な賃金をとの双方の理解のもとに、
賃金を含む労働条件の改善を協定し、その反面就業規則改訂によつて遅刻・早退・
欠勤等について賃金控除をするという労使諒解に到達したのである。原告らは、こ
のような被告の給与制度に関する労使の協定ならびに諒解に達した後に被告の従業
員となつたばかりでなく、前述のように、原告らに適用すべき給与制度について
も、被告の従来から存した給与制度の適用をうける旨昭和四一年六月七日原告ら所
属の全港湾東京支部が文書により協定し、かつ、右協定にいたる協議の過程におい
て被告は被告と日検労との間に右諒解の存在することを説明しているのである。
 したがつて、本件新規定を目して労働者の既得権を侵害し、不利益な労働条件を
一方的に押しつけたものというは当たらない。
(2) 改訂就業規則等の合理性
(ⅰ) 論理的合理性
 本件賃金減額の方法が論理的合理性を有することについては前に述べた(三1
(2))ところから明らかである。
(ⅱ) わが国産業界の現状との比較
 わが国産業界においては、欠勤等について程度の差はあつても賃金控除をしてい
る企業が多く、被告の新規定のみが苛酷なものというに当たらない。
(ⅲ) 被告の業務の特殊性
 被告の業務の特殊性として、他動性と波動性があるので、従業員の欠勤等を防止
し、業務に支障を生じないよう配慮がなされなければならない。
① 検数作業の他動性
 被告の主幹業務たる検数作業は、専ら他動的な要因によつて支配されているのが
特徴である。
 港湾において船舶が発着し、これに伴い荷役が行なわれるわけであるが、検数作
業は、本船に積込むとき、本船から揚げるとき、はしけの積み卸しのとき、または
倉庫の入れ出しのときという時点に行なわれるのであつて、その時間、その場所、
その数量のいずれの面においても、専ら荷役を行なう業者の要請するままに行なわ
なければならない仕組みになつている。被告は、おおむね船舶業者の依頼を受けて
本船側(シツプサイド)の立場で検数を行なつている。そのため
(イ) 検数を行なう場所は一か所に固定することなく常に移動する。
(ロ) 検数開始の時刻も一定していない。おおむね国内各港とも荷役作業の開始
時刻は午前八時となつているが、船舶入港直後ということもあるので、その時刻ま
で検数要員を待機させておく必要が屡々存する。
(ハ) 検数の量も、また荷役の量、所要時間に比例して日々変化するので、検数
に必要な人員数も一定していない。
② 検数作業の波動性
 検数作業は、入出港の船舶の隻数、入出港に伴う荷役の開始時刻・終了時刻に支
配されるので一定することなく、つねに波動現象を呈する。
そのため、
(イ) 作業開始の時刻は船舶の入港とともに始まる荷役開始の時刻ということに
なり、その時刻まで検数員を実働のないまま拘束して待機させておかなければなら
ない。
(ロ) 荷役に必要な時間も区々であり、したがつて検数終了の時刻も船舶のスケ
ジユール、貨物の集荷状況、荷主の都合、天候等の影響で日中となり、あるいは半
夜(二二時)となり、あるいは徹夜となるのである。
(ハ) このような検数作業における波動現象は、一日毎の作業にみられるばかり
でなく、月間を通じても同様である。
最終港と中間港とによつて繁閑の時期に若干の相違はあるが、貿易業者、海運業者
および金融業者らが永年にわたつて依存してきた旧慣のため、おおむね月末・月初
に船舶の出入が集中し、したがつて、この時期に船積が集中する傾向がみられ、検
数業務もこの時期に繁忙を極めることになる。
 その結果、特定員数の検数員を擁していても、配船の少ない時期は待機者が多
く、配船の多い時期は、内勤者、役職者を総動員しても、検数に必要な員数を賄い
きれない場合を招来することになる。このようなときには、他の比較的ひまな港の
事業所から応援のために出張を命ずる必要が生ずるのでる。
(ⅳ) 新規定設定の必要性等
1 被告をめぐる内外の環境
(イ) 外部的事情
 日本経済の急速な発展に伴い、雇用労働力は産業界全般にわたつてその絶対数が
不足するに至つた。検数事業を含めて港湾運送事業も、その例外ではなかつた。す
なわち、労働力の不足は昭和三六年になると、一段と深刻化し、殊に港湾運送の部
門では、雇用需要が急増した反面、高い熟練度が要請されること、他産業に比べて
危険の多い作業内容等の関係もあつて労働力を吸収しうるような魅力に乏しいのみ
ならず、既存の労働力の他産業への流出による影響も少なくなかつたのである。
 そのうえ、港湾労働の波動性の要因がからんで昭和三六年には遂に船混み現象を
誘発し、業界は挙げて所要の人員を充足することに困難の度を加えるに至つた。
(ロ) 内部的事情
 被告もまた、所要検数員の急速な増員の必要に迫られたが、これを完全に充足す
ることができず、しかも相当の経験を有する検数員を主体とした従来の従業員構成
に較べて未熟な若年労働者の占める割合が増大したのである。
② 被告における労働管理上の問題
(イ) 就労状況の推移
 昭和三五、六年以降は従業員の構成上若年労働者の占める割合が増大した結果、
検数員にして責任感を欠くものが増加し、このような責任観念減退の傾向は漸次び
漫化し、遅刻・早退・欠勤は看過しえない状況となつた。
 他方、これと並行して労働組合用務による不就労も多発するに至り、これに対す
る合理的な規制も考慮せざるをえない仕儀となつた。
(ロ) 遅刻・早退・欠勤・組合休の被告業務に及ぼす影響
(a) 遅刻または欠勤の場合
 作業場(主に本船)が港湾の広域に分散しているので、被告の事務所から検数の
作業場である本船までの距離はかなり遠いところもあり、検数員がそこに到着する
までには相当の時間を見込んでおかなければならないこと、先方の荷役業者が通知
してくる作業単位(一口一五ないし二〇名)に応じた員数の検数員を派遣しなけれ
ばならないことから、前日のうちにグループを編成して配置を予定しておくわけで
ある。
 当日は、前日予定しておいた人員が揃つてから作業現場に向けて出発するわけで
あるが、もし一人でも遅れると、これを残して作業現場に到着することになる。不
参者があつても荷役はこれと関係なく進行するので、かりに同人が遅れて到着して
も、すでになされた荷役については検数を欠くことになり、同人の担当の検数は不
確定とならざるをえないのである。
 例えば、荷主側が、実際には百個の積荷を陸揚げしたにも拘わらず、九〇個しか
なかつたとして損害賠償を船舶業者に対して求めた場合、船舶業者の委嘱により検
数をなすべき被告が遅刻・欠勤によつてこれをしていなかつたならば船舶業者は員
数を証明する的確な方法がないことになり、これによる検数不確定の責任は被告の
負うところとなるのみならず、このような事態の頻発は船舶業者の被告に対する信
用を失墜することとなる。
(b) 早退の場合
早退が、右の遅刻や欠勤の場合と同様の不都合な結果を招来することはいうまでも
ない。
(c) 組合休の場合
 就業時間中であるにかかわらず、組合の各種会合への参加その他組合活動のため
労働に従事しないことは、その所要時間、参加の時刻等の態様に照らし、前記遅
刻・早退・欠勤による影響と異なるところはない。
(ハ) 遅刻・早退・欠勤および組合休の労務管理に及ぼす影響
(a) 出勤者が予定以上の労働を余儀なくされる事態も生じ、他方遅刻・早退・
欠勤者等も賃金控除制がなければ出勤者なみの賃金を得られることになり、労働者
のなかに悪平等に対する不平の観念を醸成し、
(b) 悪平等に対する不平感は労働者の勤労意欲を減退せしめ、
(c) ひいては、被告が労働者の定着を極めて必要としているのに、被告から労
働者が他に移動する危険を招来するし、
(d) 支払つた賃金は生産性に結びつかないという結果を招くことになる。
(ⅴ) 港湾労働情勢と被告が策定実施した労務対策
① 政府の態度
 政府の労働政策は、群小の荷役業者の整理統合と並行して労働者の就業の安定す
なわち常時雇用の促進と労働条件の向上に指向されていた。すなわち、港湾運送事
業の近代的な育成を窮極の目標とし、当面雇用の促進から常用労働者の定着すなわ
ち常用労働者を港湾に確保維持しつづけるという政策に重点をおくべきものとし、
そのため政府と地方公共団体は、緊密な協力の下に、港湾運送事業者、貿易業者、
金融業者等の自主的協力体制を確立した上で、この方向において従来の労務政策を
含めた旧慣を打破する抜本的対策を樹立するよう要請するに至つたのである。
② 被告の労務対策
 被告が策定実施した労務対策は、要約すれば検数労働力の確保とその効率的運用
をはかるための方策ということである。
その基本的な考え方としては
 第一には、従前からの月給制を維持し、さらにその内容を合理化すること
 第二には、労働者の労働環境と生活環境を改善すること
に主眼をおいた。
 これが実現のため被告がとつた措置を具体的に述べれば次のとおりである。
(a) 労働基準監督署の勧告を契機とする昭和四〇年五月二二日の「時間外賃金
改訂に関する協定書」による時間外労働に対する賃金の合理化
(b) 遅刻・早退・欠勤等の場合における賃金控除等について就業規則改定の提
案・協議とその実現
(c) これに先立ち昭和三八年四月九日週休制に関する協定締結
(d) 外部事情の許す限りの所要検数員の補充、整備
(e) 長時間労働の解消、交替制の実施と時間外労働の平準化による検数要員の
効率的な運用。ただし、これは昭和四四年四月三日検労に対し提案し、目下労使間
で審議中である。
(f) 時間外労働の最高限度を職場で規制することを約するとともに、就労時間
帯の変更、時間外割増等につき労使委員会を設置することおよび労働災害防止と健
康保持のため労使安全衛生委員会を設置することを協定したが、これは昭和四二年
八月提案し漸く昭和四四年五月二九日妥結をみた。
(g) 従業員の持家推進のための融資制度を昭和四〇年一月末日発足させた。
(h) 業務上災害の弔慰金に関する協定締結(昭和四三年六月提案、昭和四三年
七月六日妥結)
(i) 退職手当金支給に関する協定締結(昭和四二年六月二四日提案、昭和四三
年七月六日妥結)
(j) 安全靴貸与に関する協定締結(昭和四三年一〇月提案、昭和四三年一二月
二〇日および昭和四四年一〇月一六日の二回にわたり妥結)
(k) 組合員死亡の場合の遺族の生活補償のための団体生命保険締結に関する協
定締結(昭和四四年六月一日)
(l) 福利厚生資金に関する協定締結(昭和四四年五月二九日)
 以上のとおり、被告としては、そのおかれた労働環境のもとにおいて、検数労働
者をできるだけ確保する目的のもとに自力をもつてなしうる施策を年を追つて策定
実施してきたのであり、遅刻・早退・欠勤(組合休を含む。)について賃金を控
除・減額する旨の本件就業規則等の改訂も右施策の一環にほかならず、被告の業務
を誠実に運営すべき経営者の経営責任に立脚する合理的要請として是認さるべきで
ある。
四 抗弁に対する原告らの認否反論
 原告らに対する賃金支払いについての契約内容が被告主張のように変更されたこ
とは否認する。
(一) 1 について
(1) 1(1) について
認める。
(2) 1(2) について
(ⅰ) 欠勤の場合の減額の方法の項 認める。
(ⅱ) 遅刻、早退に関する減額の方法として、被告の主張する規定が、改訂就業
規則ならびに給与規定にあることは認める。
 しかし、被告は、不就業時間に相当する賃金額算出方法につき、当然論理的に本
給月額の二〇〇分の一が一時間の本給額になり、その六分の一が一〇分間の本給額
になると主張するが、これは月給制の賃金を日給月給制の賃金に一方的に変更する
ものであつて、二〇〇分の一という算出方法が、何を根拠として当然論理的に導き
出されるか明らかでない。
 なお、遅刻、早退に関して被告主張の所定の方法を掲示した事実は認めるが、そ
の考え方は不知。
(ⅲ) 組合休に関する被告の主張事実は、被告が従前就業時間中の不就労に対し
賃金控除を行なわなかつたことのみを認め、その余の事実は否認する。
 労働組合法の精神は、経費援助等により組合の実質的な自主性を阻害することを
防止することにある。本件のように遅刻、早退、欠勤につき賃金控除を全く行なわ
ず、組合休もそれと同等に扱つてきている場合には、賃金控除をしないことが同法
の精神に反するものではない。
 しかも、被告においては、昭和一七年以来、組合休をこれら遅刻、早退、欠勤と
同等に取扱う労使慣行が成立して今日に至つており、改訂就業規則、給与規定にお
いても組合休であることを理由とする賃金控除条項は全く存在しないのである。
(3) (ⅰ)労働契約の内容となつた就業規則およびこれと一体に作成された給
与規定等は、労働基準法九三条の趣旨に照らし、単に社会規範であるばかりでな
く、法的規範と解すべきである。さらに、このような就業規則は法例二条により、
慣習法として法的効力が認められると解すべきである。法的効力の認められる就業
規則等を、使用者が、労働組合ないし労働者の同意を得ることなく、一方的に労働
者の不利益に変更することは、労働基準法二条の定める労使対等決定の原則に違反
するうえ、さらに同法が労働者保護の原理にたつて同法九三条により就業規則に法
的効力を授権した根本趣旨に違反するので、許されない。
(ⅱ)就業規則に事実たる慣習説を採用しても、労働者がこの慣習に依る意思を有
するものと認められなければ、すなわち労働者が各個に或は労働組合を通して、と
くに異議を表明すれば、改訂された就業規則によるという事実たる慣習は成立せ
ず、改訂就業規則が雇用契約の内容を変更しない。原告らは、原告らの所属する組
合を通して改訂就業規則、給与規定に反対の意思を表明したのみならず、何度かの
ストライキ、時間外労働拒否により自ら反対の意思を示し続けている。
 したがつて、本件については、改訂就業規則、給与規定によるという事実たる慣
習の成立する余地なく、雇用契約の変更はありえない。
(二) 2 について
 当該就業規則条項が合理的なものである限り、使用者の一方的改訂により就業規
則の条項を変更できるとしても、その法律要件である合理的か否かは、第一にその
当該条項が、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課
することになるかどうかによつて決しなければならない。第二に、右の基準に照ら
してそれが不明確な場合ないしは右の点に加うるに、職場の実態に即応して発生し
た合理的な労使慣行に違反する場合、または、明白に労働基準法違反でないとして
もその保護法の精神に反する場合には、当該条項は合理的でないといわなければな
らない。
1 本件就業規則、給与規定の一方的改訂は既得の権利を奪い、不利益な労働条件
を一方的に課するものである。
(1) 被告においては、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)につき賃金控除を
せず完全な月給制によつて賃金を労働者に支払うことは、労働者にとつて既得の権
利であつた。なぜなら、被告がその設立当初から改訂に至るまで、遅刻、早退、欠
勤(組合休を含む。)につき賃金控除をしなかつたのは、単に就業規則等に賃金控
除についての定めがなかつたためではなく、積極的に検数人の社会的地位の向上の
ため、その一環として創立当時から給与を月給制度としてきたためであるから、そ
れは将来にわたり賃金控除制なき月給制度による賃金支払いを被告が保障したこと
を意味するのである。
 この事実は、昭和三九年の時間外賃金支払いのための団体交渉において、被告が
「検数事業については既に昭和一七年一一月従来の私的企業を集約し、検数事業の
近代化と検数員の社会的地位の向上が計画され、公益法人組織による検数機関とし
て当時の逓信省の認可を受け発足されたのである。斯くして小規模な営利企業では
到底不可能とされていた月給制度による完全雇用形態を実現させ、検数員の生活の
安定保障と退職金制度、社会保障制度等を考慮し、初めて統一せる賃金形態が確立
したのである。」とわざわざ確認し、時間外賃金の完全支給を行なうに当たつて
も、従来の完全な月給制を変更する意思のないことを明らかにしたことからも認め
られる。
(2) 賃金控除制なき完全な月給制による賃金支払形態から一〇分刻みに賃金控
除をする時間給月給制による賃金支払形態に変更することは、何人がみても、労働
者に不利益を課するものであることは明らかである。
2 就業規則、給与規定の一方的改訂は、労働者保護の保護法の精神に反し、強度
の不合理性を有する。
(1) 職場の実態に即応して発生した合理的な労使関係に違反している。
 賃金控除制なき完全な月給制度は、前述したような長時間労働、低賃金、過酷な
までの殺人的な労働実態を基盤に、昭和一七年の公益法人としての被告協会設立を
契機に必然的不可避的に形成された、まさに合理的根拠に基づく労使慣行である。
組合休についても、遅刻、早退、欠勤と同等に取扱うことは合理的である。
 本件就業規則ならびに給与規定の一方的改訂は、原告らの職場の実態に即応して
発生した合理的な労使慣行に違反している。
(2) 労働基準法二条の労使対等決定の原則に反する。
 被告は、昭和四二年四月一日、支部経営協議会において、原告らの所属する全港
湾東京支部検数分会を含め、全組合に事前に何の相談もなく、一方的に就業規則、
給与規定を改訂し、五月一日より実施する旨述べ、法的手段はすべて完了したと主
張した。被告は、その後組合の要求で四月二七日に経営協議会を開いたが、ただ五
月一日実施を主張するのみで何ら誠意を示さなかつたため、五月一日の二四時間ス
ト、五月二日以降残業拒否闘争となつた。その結果、五月二六日、やつと経営協議
会が開かれたが、六月一日実施を強行する旨明らかにし、被告内の全組合、全労働
者の強い反対を全く無視し、改訂就業規則、給与規定を六月一日より強行実施し
た。
 以上の経過から明らかなように、本件就業規則、給与規定の一方的改訂は、労働
基準法二条の労使対等決定の根本精神に反する。
(3) 労働基準法九〇条の根本精神に反する。
 前述の経過のとおり、被告は、最初から労働者の意見を尊重する態度など全くな
く、ただ、自らの賃金控除の既定方針を事前の相談もなく一方的に労働者に押しつ
けたものである。
 したがつて、本件就業規則、給与規定の改訂は、労働基準法九〇条の根本精神に
反している。
(4) 労働基準法二四条の精神に反する。
 本件就業規則、給与規定の一方的変更前においては、被告の一方的な意思によつ
て賃金控除を行なえば、労働基準法二四条違反となることは明らかであり、このこ
とを考えると、本件就業規則、給与規定の改訂は、被告の一方的意思によつて行な
われたものであつて、少なくとも同法二四条の精神に反している。
(5) 労働基準法三六条の脱法行為である。
 被告は、その自認するとおり、労働基準法三六条の脱法行為を賃金控除制という
形で行なつたものであるから、その脱法行為をやめることをもつて、昭和一七年以
来確立してきた完全な月給制を崩す合理的根拠とは到底いえない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告らと被告との雇用関係の成立等
 請求の原因(一)、(二)は当事者間に争いがない。
二 雇用契約の内容
A 第一群の原告らと被告との雇用契約の内容
(一) 昭和四二年六月一日前に成立した雇用契約の内容
1 第一群の原告らと被告との雇用関係成立の経緯
 被告と協和検数とは、昭和四一年二月ころ、両者の企業合同について、「運輸省
の行政指導による企業合同に関する覚書」と題する書面を作成し、その中で、合同
に関する基本条件の一つとして、「甲(被告)は乙(協和検数)の全従業員を継承
し、その身分については乙に於ける地位を下らぬ処遇をする。」、「乙の役職員そ
の他の従業員の諸給与については現給与額を下らぬものとする。」ことを約束し、
その基本条件の上に企業合同が進められ、同年三月三一日協和検数が解散し、その
従業員であつた第一群の原告らは同年四月一日被告に従業員として採用されたこ
と、その後、右原告らが所属していた全港湾東京支部と被告とは、右原告らの給与
組替えについて前記企業合同に関する基本条件の趣旨にそつて協議を重ね、同年六
月七日付「給与組替えに関する協定書」をもつて合意に達し、その中で、右原告ら
に対しても当時被告協会で施行されていた旧就業規則・給与規定を含む諸規定およ
び給与制度を適用する旨約したことは、当事者間に争いない。
2 遅刻・早退・欠勤(組合休を含む。)につき賃金を控除する旨定めた規定の有

(1) 被告
 被告においては、昭和四二年六月一日前は昭和三七年六月一日改正の旧就業規則
およびそれと一体をなす給与規定が施行されていたこと、これによれば給与は月ぎ
めで給与の支給原則は月給制であること、右給与規定中には遅刻、早退、欠勤(組
合休を含む。)を理由に賃金を差引く旨を定めた規定がないことは当事者間に争い
がない。
(2) 協和検数
 成立に争いのない甲第四五号証、同乙第三八号証と原告b本人尋問の結果(第
一、二回)をあわせると、協和検数でも従業員の給与は月ぎめでいわゆる月給制が
とられていたが、従業員の遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金を控
除する旨を定めた就業規則、給与規定ないし労働協約等はなかつたことが認められ
る。右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合の従来の給与支給取扱い
(1) 被告
 被告が設立された昭和一七年以来昭和四二年五月末日まで従業員の遅刻、早退、
欠勤(組合休を含む。)について賃金控除を行なつた実例がないこと、および、第
一群の原告らが被告の従業員となつた昭和四一年四月一日から昭和四二年六月一日
に改訂就業規則ならびに給与規定が施行されるまでは、遅刻、早退、欠勤(組合休
を含む。)について右の原告らに対し賃金控除が行なわれなかつたことは、当事者
間に争いがない。
(2) 協和検数
 原告b本人尋問の結果(第一、二回)によれば、協和検数においても、第一群の
原告らを含む従業員の遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金控除が行
なわれた事実のないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
4 右1ないし3記載の事実関係からの推論
 反覆される社会的事実は、事実たる慣習である。法律行為の当事者がある期間事
実たる慣習に依つて行為を繰り返している場合は、事実たる慣習は、その当事者間
の契約内容に転化する。右の事実によれば、協和検数には、遅刻、早退、欠勤(組
合休を含む。)の場合に賃金を控除する旨の就業規則等の定めがなく、現に第一群
の原告らは、その場合に賃金を控除されなかつたのであるから、協和検数には、遅
刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合に賃金控除を行なわないという事実たる
慣習があり、協和検数と第一群の原告らは、これに依る意思を有していたものと認
められる。そうするとその継続した行為の結果、右原告らに遅刻、早退、欠勤(組
合休を含む。)があつた場合も、協和検数は賃金控除を行なわないということが両
当事者間の雇用契約の内容となつたものとみられるのである。また被告が企業合同
に関する覚書で協和検数に対して約した「甲(被告)は乙(協和検数)の全従業員
を継承し、その身分については乙における地位を下らぬ処遇をする。」「乙の役職
員その他の従業員の諸給与については現給与額を下らぬものとする。」という条項
の趣旨は、実質的な給与の現状維持を目的としたものと解するのが合理的であるか
ら、単に名目上の給与額をそのまま承継することを約したものでなく、第一群の原
告らが有していた前記欠勤等の場合の賃金不控除の契約内容を被告がそのまま承継
することを約したものと解される。しかも、被告協会にも遅刻、早退、欠勤(組合
休を含む。)の場合に賃金を控除する旨の就業規則等の定めがなく、第一群の原告
らは、昭和四一年四月一日に雇用されてから昭和四二年五月末日まで、右遅刻等の
場合に賃金を控除されず、特別の留保をつけずに賃金全額の支払いを受けていたの
である。そうすると、被告協会にも協和検数と同様に遅刻、早退、欠勤(組合休を
含む。)の場合に賃金を控除しないという事実たる慣習があり、被告協会も第一群
の原告らも、これに依る意思を有していたものと認められる。これらの事情を総合
して考えると、被告協会と第一群の原告らの間には、遅くとも昭和四二年五月末日
までには、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合に賃金を控除しないという
合意が成立し、これが両者の雇用契約の内容となつたものと認めるのが相当であ
る。
5 右4の推論を覆す事情があるか。
(1) 被告は、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)につき賃金控除を行なわな
かつた理由として、被告の経営事情から労働基準法所定の計算方法によつた場合よ
り額が下回わる時間外賃金を支払う反面として従業員に右遅刻等があつても賃金控
除をしない旨の了解が労使間に成立していたのであつて、この取扱いを労使慣行と
か既得の労働条件とかいえない旨主張する。
 たしかに、成立に争いのない乙第二〇号証の一、同乙第二一号証、証人cの証言
(第一回)により成立の認められる乙第六号証、同乙第八号証の一ないし三、同乙
第二〇号証の二、三、証人cの証言(第一回)ならびに弁論の全趣旨をあわせる
と、昭和二六年五月被告は当時の従業員の代表組織である全日本港湾労働組合日検
東京支部との間に従業員の給与ベースを一四、四二〇円と認定したが、その際時間
外賃金の計算基準について労働基準法の定めるところ(同法三七条)によることな
く、本人給と技能給を合計した額の五割を基準額とすることにしたこと、その趣旨
は、検数表のように夜間作業が重要な部分を占める業務では時間外賃金が賃金の主
要な部分を占めるから、固定賃金を引上げると大幅な時間外賃金の増加をきたすの
で、同法所定の計算方法により算出した額を下回わる時間外賃金を支払うこととす
ることにより被告の経営が危殆に陥ることを避けることにあつたこと、そして、こ
のような取扱いをすることとした反面、従業員の遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)については賃金を控除しない、すなわち、厳密にいえばその分についても勤
務したものとして賃金を支払うという了解が労使双方に成立したこと、しかし、時
間外賃金の支払いについては労働基準監督署の是正勧告をうけたこともあつて昭和
四〇年五月下旬同法所定の計算方法により算出した時間外賃金を支払う取扱いに改
められたことが認められる。しかしながら、労働基準法所定の額を下回る時間外賃
金の支給はそれ自体違法であり、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合に賃
金控除を行なわないことによつて、その違法性が阻却されるわけではなく、したが
つて、同法所定の時間外賃金が支払われることになつたことにより、論理必然的に
右遅刻等の場合の賃金不控除の取扱いが廃止さるべきものではない。のみならず、
前記労使間に了解が成立した昭和二六年よりはるか前である昭和一七年の被告設立
当初から遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金を控除した実例がない
ことは前記のとおりである。また昭和四〇年五月下旬同法所定の時間外賃金を支払
う取扱いに改められた後も、昭和四二年五月末日まで右遅刻等の場合に賃金控除が
行われなかつたのである。してみれば、時間外賃金の計算方法が労働基準法所定の
とおりに改められれば、賃金控除をしないという取扱いも当然これとともに廃止さ
れることが予定されていたとみることは困難である。かえつて、成立に争いのない
甲第一七号証および原告b本人尋問の結果(第一回)ならびに弁論の全趣旨をあわ
せると、被告における月給制は被告の従業員の社会的地位の向上をはかる政策の一
環として被告の設立とともに採用された制度であり、一カ月を超える欠勤がない限
り賃金の控除をしないのがこの制度が採用された趣旨、目的に沿うものとして関係
者に理解され、このような理解のもとに運用されてきたこと、第一群の原告らが被
告に雇用された当時もその月給制の内容はそのようなものであると当事者間に理解
されていたことが認められるのであるから、被告の右主張は採用しない。
(2) 被告は、前記原告らの所属組合である全港湾東京支部との給与組替えに関
する協議の過程において、将来就業規則を改正して賃金控除をする旨日検労との間
に諒解が成立していると述べたと主張する。
 たしかに、証人cの証言(第一回)によれば、当時前記原告らと給与組替えの交
渉にあたつた被告の労務部次長cは、原告らを代表するbに対し「今のところは遅
刻、早退、欠勤等につき賃金カツトをしないけれども就業規則を改訂して遅刻、早
退、欠勤等について賃金を控除するようにする準備中である」旨告げたことが認め
られる。原告b本人尋問の結果(第一、二回)中、このことを否定している部分は
採用できない。
 しかし、賃金控除を前提とした給与組替えの合意が成立したと認めるに足りる証
拠はなく、被告の旧就業規則および給与規定(賃金控除規定がないもの)が昭和四
一年四月一日に遡つて適用されることになつたことは前に述べたとおりであるか
ら、賃金控除制度準備中という発言だけでは、前認定を覆すことはできない。
6 結論
 以上のとおり、昭和四二年六月一日前に被告に雇用された第一群の原告らと被告
との間に成立した雇用契約は、右原告らに遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)が
あつても、賃金控除をしない、換言すれば、その分についても勤務したものとして
賃金を支払うことを内容としていたのである。
(二) 右雇用契約の内容はその後変更されたか。
1 就業規則および給与規定の改訂
(1) 被告が、旧就業規則改訂案とこれと一体をなす給与規定改訂案を作成し、
これについて被告従業員所属の組合、すなわち、日検労と全港湾東京支部との意見
を徴し(日検労からは昭和四二年四月五日付で、また、原告らの所属する全港湾東
京支部からは同月二〇日付でそれぞれ意見書の送付をうけた。)、さらに、それぞ
れ経営協議会での協議を経たうえ、昭和四二年六月一日より就業規則を改訂施行す
ると同時に給与規定をも改訂施行したことは、当事者間に争いがない。
(2) また、欠勤の場合の減額方法についての被告主張の規定が改訂就業規則付
属の給与規定中に記載されていること、遅刻、早退についての被告主張の規定が改
訂就業規則ならびに給与規定中にあることは当事者間に争いがない。
2 就業規則と給与規定の改訂につき第一群の原告らの同意はない。
 右就業規則と給与規定の改訂につき前記原告ら個々の従業員ないし所属組合の同
意を得ていないことは、当事者間に争いがない。なお、証人cの証言(第一回)に
より成立の認められる乙第九号証の一、二、証人cの証言(第一回)をあわせる
と、被告の従業員が所属している労働組合としては日検労、全港湾東京支部検数分
会、全日本港湾労働組合東海地方名古屋支部日検分会(以下全港湾名古屋支部日検
分会という。)、京浜港検数員労働組合日検分会(以下浜検労日検分会という。)
の四組合があり、昭和四二年九月一日現在の組合員数は、日検労が二、三九四名、
全港湾東京支部検数分会が一四八名、全港湾名古屋支部日検分会が一四九名、浜検
労日検分会が一四三名で、従業員の過半数をはるかに上回わる圧倒的多数の従業員
が日検労に属し、昭和四二年六月一日当時もほとんど変りなかつたと認められるけ
れども、原告らの所属する全港湾東京支部検数分会のみならず、日検労等いずれの
組合も右就業規則ならびに給与規定の改訂施行について同意したことを認めるに足
りる証拠はない。
3 改訂就業規則の施行は、第一群の原告ら(昭和四二年六月一日前に雇用された
者)の雇用契約の内容に影響を及ぼすか。
(1) 一方的な就業規則の変更によつて既存の雇用契約の内容を変更できるか。
就業規則の作成者は、経営者としての使用者であるから、使用者が法定の手続を経
て作成した就業規則は、作成の時に当該事業場に使用される全労働者に適用される
という形式的効力を有する。その実質的効力に関しては、労働基準法九三条は、就
業規則に法規範的効力を認め、就業規則の変更が従来の労働条件の基準を引き上げ
るものであれば、労働者の同意なしに労働契約の内容を変更する効力を認めている
のである。
 問題は、使用者が一方的に作成する就業規則によつて既存の労働条件を一方的に
引き下げる実質的効力を認められるかである。雇用契約は、労働者が使用者に対し
労務に服することを約し、使用者がこれに対し報酬を支給することを約することに
よつて成立する諾成雙務契約である。賃金支払いの合意と労務提供の合意は、雇用
契約成立の要件であり、これがなければ雇用契約は成立しない。労働契約の成立に
おいても、この理は異ならない。右労働契約は、使用者に労務の自由な使用を委ね
るものであるから、必然的に使用者の労働者に対する指揮命令の権能を伴う。近代
企業においては、使用者は、多数の労働者を雇用して整然と事業を経営しなければ
ならないから、その指揮命令権は画一的、定型的なものとならざるを得ない。それ
は、多く就業規則に労働者の就業に当たつての行為準則として規定される。これら
の事項は、使用者が右指揮命令権に基づき就業規則を作成して、労働者に周知させ
たがために拘束力を有するのである。このような労働条件に関する事項は、本来使
用者の指揮命令権の範囲内のものであるから、その変更が合理的なものである限
り、使用者は、一方的に就業規則を変更して、その内容を改廃することができ、そ
の実質的効力は全労働者に及ぶ。これに反して、賃金支払いに関する事項が当事者
を拘束するのは、それが就業規則に規定され、労働者に周知させられたからではな
く、使用者と労働者が個別的労働契約の成立要件として合意したからである。使用
者の労働者に対する賃金支払義務の発生およびその内容は、当事者の合意を直接の
根拠とするものであつて、就業規則作成以前の問題である。本件のように遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)の場合に賃金を控除せずに全額を支払つて来たという
ことも、第一群の原告らと被告の合意を根拠とすることは、先にみたとおりであ
る。したがつて、賃金に関する事項のように労働契約の要素をなす基本的労働条件
については、それが一たん合意されて労働契約の内容となつた以上、使用者が一方
的に作成した就業規則によつて、その内容を労働者の不利益に変更することはでき
ないものと解すべきである。その変更には、就業規則とは別個に、個々の労働者の
同意を得なければならないのである。このことは、改訂就業規則の内容および改訂
の経緯が合理的であるかどうかにかかわらないことである。
 けだし、契約当事者の一方が、相手方の同意を要せず契約内容を変更できること
は、一般法理の認めないところである。また使用者のする就業規則の変更に個別的
労働契約の一方的不利益変更の効力を是認するとすれば、労働条件は労使対等の立
場で決すべきものとする法律(労働基準法二条一項)の精神に反し、かつ使用者は
就業規則の変更によつて労働条件を改悪し、間接的にその意に添わない労働者に退
職を余儀なくさせることによつて、解雇規制の諸規定を空文化させる結果をも招来
するからである。いわゆる秋北バス事件についての昭和四三年一二月二五日最高裁
判決は、定年制に関するものである。定年の定めは、本来当事者の合意を成立要件
とする労働契約の要素をなすものではないから(就業規則等に定年の定めがあつて
も、雇用契約は、定年までの期間の定めのあるものではなく、定年制とはかかわり
なく、期間の定めがないものとして成立するのが通例である。)、合意を根拠とし
て雇用契約の内容となる基本的労働条件には属さない。したがつて、本件のような
事案に適切な判例ではない。
(2) 本件就業規則および給与規定の改訂は労働者に不利益である。遅刻、早
退、欠勤(組合休を含む。)があつても賃金控除をしないという雇用契約の内容を
賃金控除を行なう旨改めることが労働者にとつて不利益であることは多言を要しな
い。
4 結論
 そうであるとすれば、改訂就業規則および給与規定は第一群の原告らに実質的効
力を及ぼさず、したがつて遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があつても賃金控
除をしないという第一群の原告らと被告との雇用契約の内容は依然として変更され
ていないわけである。
B 第二群の原告らと被告との雇用契約の内容
 わが国の実定法は、特別な合意のない限り、賃金についていわゆるノーワーク・
ノーペイを原則としている(例外民法五三六条参照)ところ、前記原告らと被告と
の雇用契約が、遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について賃金控除をしないこ
とを契約内容としていたと認めるに足りる証拠はない。かえつて、改訂就業規則お
よび給与規定が昭和四二年六月一日より施行され、遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)の場合には、賃金を控除するように改められたことは前記のとおりであり、
右原告らが同日より後に被告に雇用され、かつ被告が賃金控除の方法を定めた被告
主張の所定の方法を事業場に掲示し周知の方法を講じたことは当事者間に争いがな
い。そして、成立に争いのない乙第二二号証の一ないし三、同号証の六ないし一
三、同号証の一五ないし一八、同号証の二〇、証人cの証言(第二回)により成立
の認められる同号証の四、五、一四、一九および証人cの証言(第二回)ならびに
弁論の全趣旨をあわせると、被告は、第二群の原告らを雇用する際、改訂就業規則
ならびにこれと一体をなす給与規定等を示してこれに従うことの契約書をとつてい
たことが認められ、右認定に反する甲第四七号証の一ないし一七は、証人cの証言
(第二回)に照らし採用できない。
 原告らは、旧就業規則を労働者側の同意なしに変更してもその効力を生じないと
主張するが、就業規則の改訂後に雇用された従業員には改訂された就業規則が適用
されることは当然であるから、原告らの右主張は採用できない。その他、改訂就業
規則および給与規定を無効であるとみる根拠はない。また、不就労時間に相当する
賃金額の算出方法についての被告の主張は合理的なものとして是認できる。
 そうであるとすれば、前記原告らと被告との雇用契約の内容には、遅刻、早退、
欠勤(組合休を含む。)があつた場合は、改訂就業規則およびこれと一体をなす給
与規定ならびに被告主張の「所定の方法」に従いいわゆる賃金控除が行なわれる旨
の約束が含まれていたとみるのが相当である。
三 本訴において原告らが請求している金額と賃金控除との関係
 原告らが、昭和四二年六月から昭和四四年九月までの間、別紙請求金額内訳一覧
表記載のとおり遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)をしたほかは所定の勤務をし
たこと、被告が別紙請求金額内訳一覧表記載のとおり、原告らが右遅刻、早退、欠
勤(組合休を含む。)をしたことを理由に、改訂就業規則およびこれと一体をなす
給与規定を適用して、賃金控除をしたこと、その計算関係が原告ら主張のとおりで
あること、原告らに右遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)がなかつたならば、別
紙請求金額合計一覧表記載の金額が原告らに支払わるべき金額であることは当事者
間に争いがない。
 したがつて、原告らが、本訴において、請求している金額が賃金控除分と対応し
ていることも当事者間に争いがないわけである。
四 結論
 昭和四二年六月一日前に被告の従業員となつた第一群の原告らには、改訂就業規
則および給与規定の効力は及ばないのであるから、遅刻、早退、欠勤(組合休を含
む。)を理由に賃金控除をされるいわれなく、したがつて、右控除分相当額の未払
賃金の支払いを求める本訴請求はいずれも理由がある。しかし、昭和四二年六月一
日以後に被告の従業員となつた第二群の原告らは、右改訂就業規則および給与規定
等の適用を受け、その遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)について所定の賃金控
除を受けるべきは当然であるから、右控除分相当額を未払賃金であるとしてその支
払いを求める本訴請求はいずれも理由がないことになる。
 よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項
本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 岩村弘雄 小笠原昭夫 石井健吾)
(別紙当事者目録および請求金額合計一覧表省略)

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