弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A及びBを除く其の他の被告人に対する検事の控訴竝びに各被告
人の申立てた控訴はいずれも之を棄却する。
     原判決中被告人A及びBに関する部分はいずれも之を破棄する。
     被告人A及びBを各懲役四月及び罰金二万五千円に処する。
     被告人A及びBに対し本裁判確定の日から二年間いずれも右懲役刑の執
行を猶予する。
     被告人A及びBにおいて右罰金を完納することができないときは金二百
円を一日に換算した期間其の被告人を労役場に留置する。
     押収に係る帆船E丸を被告人Aより、帆船F丸を被告人Bよりいずれも
之を没収する。
     原審における訴訟費用中被告人A及びBの負担部分は原審各被告人と平
等とし当審における訴訟費用は各被告人全部の連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴理由は末尾添付の各控訴趣意書の通りである。
 一、 被告人等の控訴理由。
 第一点について。
 被告人等は本件犯罪地は神奈川県下で被告人等の住居は夫々異なつており、船舶
も三隻でその間に共同関係がないから和歌山地方裁判所田辺支部の管轄に属しない
と主張するけれども、被告人等の原審公判における供述と記録添付の逮捕状によれ
ば被告人等は和歌山県西牟婁郡a港に碇泊滞在中その現地において西牟婁南地区警
察署及び串本町警察署の司法警察職員に逮捕せられたことが明らかである。而して
刑事訴訟法第二条によれば裁判所の土地管轄は被告人等の現在地によつても管轄す
ることができることに規定せられているのでたとえ所論の事実があつても右現在地
は原審裁判所の土地管轄に属するところであるから原審の措置に管轄権の違法はな
い。
 第二点について。
 被告人等は単に船長又は船員にすぎないので船主又は之に準ずる者の命により発
航したものであつて自己の意図の下に発航したものではない、またCやDと共謀し
た事実もないと主張するけれども、原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人等はいず
れもC、D等から直接又は間接に台湾渡航の勘誘相談を受けて之に応じ同地で働こ
うと決意し且つ台湾えの渡航には連合国最高司令官の発行する旅行証明書が必要で
あることを知りながら之を持たないで密航しようと企て各被告人等において原判示
のように帆船に分乗して台湾えの密航中逮捕せられた事実が認められる。論旨は採
用できない。
 第三点について。
 被告人等は本件には共謀がないから共同正犯ではないと主張するけれども、共謀
とは数人相互間に共同犯行の認識があることをいうのであつて原判決挙示の証拠を
綜合すると被告人等はC、D等が台湾密航を企てていることを知りながら之に応じ
夫々密航船に分乗して密航の途中発見せられたことが認められる。それ故に被告人
等とCD等との間に共同犯行の認識があつたことが認められるのみならず被告人等
は自ら本件犯行を実行しているのであるから従犯の成否を論ずる余地はない。論旨
は採用できない。
 第四点について。
 被告人等は若し台湾密航という大冒険を敢行するならば莫大な利得又はその約束
が必要であるのにかかる約束も利得もないから共謀でないと主張するけれども、か
ような事実の存否は本罪の成否に必ずしも関係のないことであるし、共謀のあつた
事実は第三点に説明の通りである。
 なお被告人等は原審の科刑は不当であると主張するけれども、所論を考慮に入れ
て記録に現われた諸般の情状を考察してみても原審の科刑中被告人A及びBに関す
る部分を除いて全て相当な量刑であつて不当な点はない。(被告人A及びBについ
ては後に説示する理由によつて当審で自判する)。
 第五点について。
 被告人等は単に船を発航しただけで日本領海を離れた事実もなく台湾に向つて航
行を持続した事実もない。台湾に向け出港したという原審の認定は不当であると主
張するけれども、原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人等は台湾密航を企てb港を
出て途中船体修理のためa港に寄港中本件犯行が発覚したことが認められる。従つ
てたとえ、被告人等が未だ台湾に到着せず、日本領海を離れた事実がなかつたにし
ても本罪の成否に関係はない。記録を精査しても原審の認定に不当な疑はない。而
してわが国民が正規の手続を経ないで台湾に密航することは原判決掲記の連合国最
高司令官の覚書に示された同司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反すること
は右覚書の内容に照して明らかであり、連合国最高司令官の日本国政府に対する指
令の趣旨に反する行為が連合国占領軍の占領目的に有害な行為であることは昭和二
十一年勅令第三百十一号第二条第三項に規定するところである。従つて原判決が判
示のごとき被告人の所為に対し同勅令を適用処断したのは正当である。
 所論は独自の見解にすぎない。
 第六点について
 被告人等は被告人等のいかなる行為が占領目的に有害な行為か具体的に指示しな
ければならないのに原判決は此の点を明らかにしていないと主張するけれども、被
告人等の密航の所為がわが国民の海外渡航に関する正規の手続を規定した連合国最
高司令官の日本政府に対する覚書の趣旨に違反するものであることは同覚書の記載
内容に照し極めて明瞭であり、連合国司令官の日本政府に対する覚書の趣旨に反す
る行為をなすことが則ち占領目的に有害な行為に該るのであるから原判決はその旨
判示しており何等違法の点はない。論旨は採用できない。
 一、 検察官の控訴理由。
 第二点について。
 検事は被告人等に対する原審の科刑はいずれも不当であると主張するけれども、
所論を考慮に入れて記録に現われた諸般の情状を考察してみても被告人A及びBを
除くその他の被告人全部については原審の科刑はいずも相当であつて不当な量刑で
はない。被告人A及びBに対する科刑については後に説明する如く当審で自判す
る。
 第一点について。
 検事は被告人A及びBが船舶を輸出したとの公訴事実に対し原審が船舶は関税法
にいわゆる貨物に該当しないとの理由で無罪の言渡をしたけれども右は事実を誤認
し法令の解釈を誤まつた違法があると主張する。
 <要旨>そこで船舶が関税法にいわゆる貨物であるかどうかについて考察するに、
たとえ船舶といえどもそれが輸出行為の客体となつたときは、船舶が本来動
産に属するものであることから考えて、一種の貨物に外ならないと解するのが相当
である。以下この解釈の現行法制上の根拠を示すに
 (イ) 関税法は第二章において船舶に関する規定を設け、第三章においで貨物
に関する規定を置いていることは原判決も説いている通りであるけれども、同法第
二章の規律する船舶即ち貨物を輸送する用具としての船舶は外国貿易船であること
は関税法の性質上当然の事理であり、同章第二十三条によれば本法において外国貿
易船とは外国貿易の為め外国に往来する船舶を謂うと定めているので同章が輸出の
目的たる船舶即ち外国に行き切つてしまう船舶について何等規定していないことが
明らかである。
 (ロ) 同法第三章第二節第三十一条によれば貨物の輸出若は輸入を為さんとす
る者は税関に申告し貨物の検査を経て其の免許を受くべし。但し左に掲ぐる場合に
おいては税関官吏に、税関官吏現場に在らざるときは収税吏に申告し其の検査を受
くることを得と規定し、その第三号において遭難船舶を輸入するときを掲げている
ので右規定の趣旨からみても船舶が少くとも輸入行為の目的となり、そのときは貨
物と解すべきであることを予定せるものと言わねばならない。従つて原判決が単に
関税法における条章の体裁のみから船舶は貨物にあらずと断じたのは関税法自体の
文理解釈を誤まつたものであるのみならず、更に他の関係法規等を考究するに
 (ハ) 関税定率法第一条によれば外国より輸入する物品については別表に依り
関税を課すと定め、その別表を見るに輸入税表第十六項五六八として船舶を掲げて
おり、関税法第一条によれば輸入貨物には関税定率法に依り関税を課すと規定して
いるから、船舶が輸入行為の目的となる場合には貨物として取扱われるものである
こと明瞭である。
 (ニ) 又外国為替及外国貿易管理法はわが国における輸出入行為全般を貿易行
政の面から管理する法律であるが同法第六条第一項第十五号によれば貨物とは貴金
属、支払手段及び証券その他債権を化体する証書以外の動産をいうと定義せられて
いる。而して民法第八十六条は土地及び其の定著物を不動産とし此の他の物は総て
之を動産とすると規定しているから船舶はいわゆる動産であることに異論がない。
従つて右にいわゆる貨物に該当すること論を待たない。
 (ホ) なお、外国為替及び外国貿易管理法第四十八条によれば特定の貨物を輸
出しようとする者又は特定の取引若しくは支払の方法により貨物を輸出しようとす
る者は政令で定めるところにより通商産業大臣の承認を受ける義務を課せられるこ
とがあると規定し、同法に基いて昭和二十四年十二月一日政令第三百七十八号輸出
貿易管理令が制定せられているのであるが同令第一条は貨物を輸出しようとする者
は左の各号の一に該当するときは通商産業省令で定める手続に従い通商産業大臣の
書面による承認を受けなければならないと規定し、その第一号で「別表第一に掲げ
る貨物を輸出しようとするとき」を掲げ別表には第一、二十二輸送用機械7、自航
能力ある船8、自航能力のない船が掲げられているのである。然らば右貨物が船舶
を包含すること明瞭である。
 (ヘ) わが国が貿易のため外国の注文によつて船舶を造りこれを外国に輸出し
ていることは公知の事実である。
 以上説明の通りであるから原判決が法令の解釈を誤まり船舶は貨物にあらずとし
て所論の事実に対し無罪の言渡をしたのは失当であり判決に影響のあることは勿論
であるから原判決は破棄を免れない。しかし当審において直ちに判決できるものと
認め刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書を適用して次の通り判決する。
 第一、 被告人A及びBは他人と共謀の上所定の海外旅行証明書を受くることな
くして密かに台湾え渡航しようと企て昭和二十五年八月十五日神奈川県三浦郡b港
において被告人A等は台湾に仕向けられた機帆船E丸に被告人B等は台湾に仕向け
られたキャッチャ―ボートF丸に夫々乗組み同日午後六時過頃より翌日午前三時半
頃までの間に台湾に向け同港を出帆し以て連合国最高司令官の日本政府に対する覚
書の趣旨に反し占領目的に有害な行為を為し、
 第二、 被告人Aは他人と共謀の上免許を受けずして機帆船E丸を台湾に輸出し
ようと企て昭和二十五年八月十五日神奈川県三浦郡b港に繋留中の同船に船長とし
て乗組みこれを運航して同日午後六時頃台湾に向け同港を出帆し以つて同船を輸出
し、
 第三、 被告人Bは他人と共謀の上、免許を受けずしてキャッチャーボートF丸
を台湾に輸出しようと企て昭和二十五年八月十五日神奈川県三浦郡b港に繋留中の
同船に船長として乗組みこれを運航して同日午後七時頃台湾に向け同港を出航し以
つて同船を輸出した、
 ものである。
 右事実は
 一、 被告人A及びB並びに原審各共同被告人の原審公判における供述と右各被
告人等に対する検察官の供述調書、
 一、 被告人Aに対する司法警察員の第一、二回供述調書、被告人G、H、I、
J、K、L、M、N、O、P、Q、Rに対する司法警察員の第二回供述調書、被告
人Sに対する司法警察員の第二、三回供述調書、被告人Tに対する司法警察員の供
述調書、
 一、 大蔵事務官の被告人A及びBに対する質問調書、
 一、 和歌山税関支署田辺出張所長の押収船舶保管書、
 を綜合して之を認める。
 法律に照すと被告人等の所為中第一の点は一九四七年四月十四日附連合国最高司
令官の日本政府に対する覚書「海外に旅行する日本人に対する旅行証明書に関する
覚書」の趣旨に違反し連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関す
る昭和二十一年勅令第二条第四条第一項刑法第六十条昭和二十五年政令第三百二十
五号占領目的阻害行為処罰令附則3項に該当するから所定刑中罰金刑を選択し第二
第三の点は関税法第七十六条第一項刑法第六十条に該当するから所定刑中懲役刑を
選択し処断すべきところ、右被告人両名の所為は刑法第四十五条前段の併合罪であ
るから同法第四十八条第一項により罰金及び懲役を併科することとし、その所定刑
の範囲内で被告人両名を各主文の懲役及び罰金に処し、情状に因り同法第二十五条
を適用して二年間右懲役刑の執行を猶予し、換刑処分について同法第十八条を適用
する。なお押収に係る本件船舶はいずれも判示第二、第三の犯罪に係る貨物であつ
て犯人の占有に係るものであるから関税法第八十三条第一項によりいずれも之を没
収し、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条を適
用する。
 (裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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